JP2019052995A - 糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法およびキット - Google Patents
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Abstract
【課題】糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定可能な新規な方法を提供する。【解決手段】本発明の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法は、糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と、糖タンパク質において糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と、液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と、質量分析機器を用いた質量検出により、糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と、蛍光分析データと質量分析データとを比較して、蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と、を含むものである。【選択図】図1
Description
本発明は、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法およびキットに関する。
これまで糖タンパク質の質量分析方法について様々な検討がなされてきた。この種の技術としては、例えば特許文献1に記載の技術が挙げられる。特許文献1には、特殊な多孔質材料を使用して、糖ペプチド断片を分析する方法が記載されている。
また糖ペプチド断片の標識としては、上記のイオン化を制御する標識以外に、非特許文献1に記載の蛍光標識が挙げられる。同文献によれば、当該蛍光試薬を用いることにより、O−GlcNAcタンパク質について、ゲル内検出や細胞内イメージングを行うことができるとされる。
Peter M.Clark, Jessica F.Dweck, Daniel E.Mason, Courtenay R.Hart, Suzanne B.Buck, Eric C.Peters, Brian J.Agnew, and Linda C.Hsieh−Wilson,「Direct In−Gel Fluorescence Detection and Cellular Imaging of O−GlcNAc−Modified Proteins」J Am Chem Soc. 2008 September 3; 130(35): 11576−11577.
本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の方法においては、糖タンパク質の糖鎖の分子量が小さい場合には、十分に糖タンパクを分離することが困難であることが判明した。
本発明者はさらに検討したところ、糖ペプチド断片の糖鎖に蛍光標識した後、液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出を行うことにより、糖ペプチド断片由来のピークを容易に且つ選択的検出できる事を見出した。このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、当該糖ペプチド断片に対して質量分析機器を用いた質量検出により得られた質量分析データと上記蛍光分析データと比較することにより、質量分析データの中から、蛍光強度のピークに対応するデータ(質量対電荷比(m/z))を抽出することができ、抽出したデータに基づいて糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明によれば、
糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と、
前記糖タンパク質において前記糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、前記糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と、
液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、前記糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と、
質量分析機器を用いた質量検出により、前記糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と、
前記蛍光分析データと前記質量分析データとを比較して、前記蛍光強度のピークに対応する前記質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と、
を含む、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法が提供される。
糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と、
前記糖タンパク質において前記糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、前記糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と、
液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、前記糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と、
質量分析機器を用いた質量検出により、前記糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と、
前記蛍光分析データと前記質量分析データとを比較して、前記蛍光強度のピークに対応する前記質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と、
を含む、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法が提供される。
また本発明によれば、上記糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法を実施するための書面によるプロトコルを含む、キットが提供される。
本発明によれば、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定可能な新規な方法およびそれに用いるキットが提供される。
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
本実施形態の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法の概要を説明する。
本実施形態の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法(以下、糖鎖結合領域同定法という)は、糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と(蛍光標識工程)、糖タンパク質において糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と(断片化工程)、液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と(蛍光検出工程)、質量分析機器を用いた質量検出により、糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と(質量検出工程)、蛍光分析データと質量分析データとを比較して、蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と(同定工程)、を含むことができる。
本実施形態の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法(以下、糖鎖結合領域同定法という)は、糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と(蛍光標識工程)、糖タンパク質において糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と(断片化工程)、液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と(蛍光検出工程)、質量分析機器を用いた質量検出により、糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と(質量検出工程)、蛍光分析データと質量分析データとを比較して、蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と(同定工程)、を含むことができる。
本実施形態の糖鎖結合領域同定法によれば、蛍光分析データと質量分析データとを比較することにより、クロマトグラムの中から、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光強度ピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピークを抽出することが可能である。抽出された質量対電荷比(m/z)から、糖ペプチド断片におけるアミノ酸配列を特定することにより、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定することができる。
本実施形態の糖鎖結合領域同定法において、蛍光分析データと質量分析データとの具体的な比較手順の一例としては次の通りである。
まず、糖鎖を蛍光標識可能な標識試薬を用いて糖タンパク質の糖鎖を標識する(蛍光標識工程)。続いて、糖タンパク質を断片化することにより、標識された糖ペプチド断片と標識されていない糖鎖を有しないペプチド断片で構成される複数の糖ペプチド断片およびペプチド断片を得る(断片化工程)。標識工程と断片化工程は前後しても良い。
続いて、複数の糖ペプチド断片あるいはペプチド断片に対して液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出を行うことにより、標識された糖ペプチド断片(標識由来のペプチド断片ともいう)に対応する蛍光強度ピークが得られる(蛍光検出工程)。この蛍光強度ピークは、縦軸が蛍光強度、横軸が溶出時間(保持時間)である蛍光分析データにおいて示される。続いて、複数の糖ペプチド断片およびペプチド断片に対して質量分析機器を用いた質量検出を行うことにより、縦軸がイオン強度、横軸が質量対電荷比(m/z)である(質量分析データが得られる(質量検出工程)。
得られた蛍光分析データと質量分析データとを比較分析し、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光分析データをマーカーとして活用することにより、膨大なデータの中から、糖ペプチド断片に由来するデータを絞ることができ、糖ペプチド断片に対応する質量対電荷比(m/z)のピークを容易に抽出することが可能である(同定工程)。したがって、本実施形態の糖鎖結合領域同定法によれば、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定難易度を低減させることができる。
まず、糖鎖を蛍光標識可能な標識試薬を用いて糖タンパク質の糖鎖を標識する(蛍光標識工程)。続いて、糖タンパク質を断片化することにより、標識された糖ペプチド断片と標識されていない糖鎖を有しないペプチド断片で構成される複数の糖ペプチド断片およびペプチド断片を得る(断片化工程)。標識工程と断片化工程は前後しても良い。
続いて、複数の糖ペプチド断片あるいはペプチド断片に対して液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出を行うことにより、標識された糖ペプチド断片(標識由来のペプチド断片ともいう)に対応する蛍光強度ピークが得られる(蛍光検出工程)。この蛍光強度ピークは、縦軸が蛍光強度、横軸が溶出時間(保持時間)である蛍光分析データにおいて示される。続いて、複数の糖ペプチド断片およびペプチド断片に対して質量分析機器を用いた質量検出を行うことにより、縦軸がイオン強度、横軸が質量対電荷比(m/z)である(質量分析データが得られる(質量検出工程)。
得られた蛍光分析データと質量分析データとを比較分析し、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光分析データをマーカーとして活用することにより、膨大なデータの中から、糖ペプチド断片に由来するデータを絞ることができ、糖ペプチド断片に対応する質量対電荷比(m/z)のピークを容易に抽出することが可能である(同定工程)。したがって、本実施形態の糖鎖結合領域同定法によれば、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定難易度を低減させることができる。
従来の糖タンパク質の分析方法としては、糖タンパク質を切断し、LC/MS分析により、糖ペプチド断片を特定する手法を用いていた。
しかしながら、糖鎖が結合した糖ペプチド断片と、糖鎖が結合していないペプチド断片の溶出時間を分離するのは難しく、糖ペプチド断片の特定が困難であった。そのため、糖ペプチド断片の測定難易度も高い。また、上記特許文献1に記載の多孔質材料を使用して溶出時間を分離する方法もあるが、特に糖鎖の分子量が小さい場合は糖ペプチド断片とペプチド断片を完全に分離することは難しい。
しかしながら、糖鎖が結合した糖ペプチド断片と、糖鎖が結合していないペプチド断片の溶出時間を分離するのは難しく、糖ペプチド断片の特定が困難であった。そのため、糖ペプチド断片の測定難易度も高い。また、上記特許文献1に記載の多孔質材料を使用して溶出時間を分離する方法もあるが、特に糖鎖の分子量が小さい場合は糖ペプチド断片とペプチド断片を完全に分離することは難しい。
これに対して、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、単糖などの低分子量の糖鎖を用いても、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光分析データをマーカーとして活用することができるため、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を簡単に同定することが可能である。
また、O−結合型糖鎖は、タンパク質中のセリンまたはスレオニンに糖鎖が結合するものであるが、N−結合型糖鎖と比べて、一般的に糖鎖の分子量が小さいことが知られている。
これに対して、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、糖鎖の分子量が小さくても蛍光標識することで糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定の難易度を低くすることが可能である。すなわち、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、測定難易度が高いO−結合型糖鎖を有する糖タンパク質に対しても有効な手段である。
これに対して、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、糖鎖の分子量が小さくても蛍光標識することで糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定の難易度を低くすることが可能である。すなわち、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、測定難易度が高いO−結合型糖鎖を有する糖タンパク質に対しても有効な手段である。
以下、本実施形態の糖鎖結合領域同定法について図1を用いて詳述する。
図1は、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法の手順を説明するための図である。
図1は、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法の手順を説明するための図である。
本実施形態の糖鎖結合領域同定法の一例は、蛍光標識工程、断片化工程、蛍光検出工程、質量検出工程および同定工程を含むことができる。なお、本実施形態の糖鎖結合領域同定法における各工程の順番は内容的に支障のない範囲で変更することができる。一例として、蛍光標識工程と断片化工程との順番を入れ替えて実施してもよい。
まず、図1(a)に示すように、糖鎖20を有する糖タンパク質10を準備する。
糖タンパク質10は、1つのタンパク質30に対して1個または2個以上の複数の糖鎖20を有していてもよい。タンパク質30は、ペプチド結合を介して複数のアミノ酸が重合した構造を有するものである。
糖タンパク質10は、1つのタンパク質30に対して1個または2個以上の複数の糖鎖20を有していてもよい。タンパク質30は、ペプチド結合を介して複数のアミノ酸が重合した構造を有するものである。
上記糖タンパク質は、少なくとも糖鎖を複合成分として含むタンパク質であればよい。糖タンパク質の糖鎖部分は、N−結合型であってもよく、O−結合型であってもよい。本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、糖タンパク質の糖鎖が小さくても糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定の難易度を低くすることが可能である。
上記糖タンパク質の糖鎖は、低分子量のものを使用することができ、例えば、単糖が3個以下または2個以下のオリゴ糖類で構成されてもよいが、好ましくは単糖類で構成されることが好ましい。単糖で構成されたO型結合糖鎖の一例としては、例えば、O−GlcNAc(O−結合型N−アセチルグルコサミン)が挙げられる。
本発明者が検討した結果、糖ペプチド断片の糖鎖が単糖類で構成される場合、あらかじめその糖ペプチド断片を濃縮することは技術的に困難であり、また、液体クロマトグラフィー分析においても糖ペプチド断片とペプチド断片での溶出時間を分離することも困難であるため、測定難易度が高くなることが判明した。
これに対して、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、単糖などの低分子量の糖鎖を用いても、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光分析データをマーカーとして活用することができるため、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を簡単に同定することが可能である。
これに対して、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、単糖などの低分子量の糖鎖を用いても、標識由来の糖ペプチド断片の蛍光分析データをマーカーとして活用することができるため、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を簡単に同定することが可能である。
また、上記糖タンパク質の糖鎖部分は、天然の構造を有していてもよいし、人工的に改変されていてもよい。また、糖鎖部分は、中性糖鎖であってもよいし、酸性糖鎖であってもよい。また、糖タンパク質における糖鎖結合部位は、天然物と同じ部位であってもよいし、天然物では糖鎖が結合していない部位であってもよい。
上記糖タンパク質のタンパク質部分は、変性前の状態において、糖鎖部分をその内部に取り込むようにフォールディングしていてもよい。このようなタンパク質部分の分子量は、例えば1kDa以上であってもよく、10kDa以上であってもよい。タンパク質部分の分子量範囲内の上限は特に限定されず、例えば1000kDaであってもよい。
本実施形態において、糖タンパク質は、公知の方法に基づいて前処理されていてもよい。前処理としては、例えば、洗浄、精製、脱脂、脱塩等が挙げられる。
(蛍光標識工程)
続いて、図1(b)に示すように、糖タンパク質10における糖鎖20を蛍光標識40(蛍光試薬)で標識する上記蛍光標識工程を実施する。
続いて、図1(b)に示すように、糖タンパク質10における糖鎖20を蛍光標識40(蛍光試薬)で標識する上記蛍光標識工程を実施する。
上記蛍光標識工程に用いる蛍光標識としては、糖鎖に応じて公知の蛍光試薬を用いることができる。例えば、過ヨウ素酸酸化により糖鎖を酸化させてアルデヒド基を導入しアミノ基を有する蛍光試薬と結合させる方法がある。具体的には、糖鎖試料にアミノ基を有する蛍光試薬を加え、糖鎖還元末端に形成されるアルデヒド基と蛍光試薬のアミノ基とを反応させ、形成されたシッフ塩基を還元剤により還元する事で糖鎖の還元末端に蛍光標識を導入できる。
また、糖鎖を蛍光試薬で標識する方法として、例えば、UDP−GalNAz(アジド修飾ガラクトース基質)等を適切な酵素を使用して、糖鎖をアジド修飾することによって、糖鎖にアジド基というタグを導入し、かかるアジド基に対して、TAMRA標識またはDapoxyl(登録商標)アルキン標識等の蛍光標識クリックプローブ(蛍光試薬)を使用してラベル化する方法を用いることができる。具体例としては、O−GlcNacをY289L GalTにより糖鎖をアジド修飾して上記標識試薬によりラベル化することが挙げられる。
また、糖鎖を蛍光試薬で標識する方法として、例えば、UDP−GalNAz(アジド修飾ガラクトース基質)等を適切な酵素を使用して、糖鎖をアジド修飾することによって、糖鎖にアジド基というタグを導入し、かかるアジド基に対して、TAMRA標識またはDapoxyl(登録商標)アルキン標識等の蛍光標識クリックプローブ(蛍光試薬)を使用してラベル化する方法を用いることができる。具体例としては、O−GlcNacをY289L GalTにより糖鎖をアジド修飾して上記標識試薬によりラベル化することが挙げられる。
上記蛍光標識工程で用いる蛍光試薬は、トリプトファン、チロシン、およびフェニルアラニンのいずれの蛍光(発光)波長と異なる蛍光波長を有するものを用いることができる。このとき、蛍光試薬の蛍光波長としては、例えば、350nm〜800nmであり、好ましくは400nm〜700nmである。これにより、糖タンパク質を構成するアミノ酸に、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンからなる群から選択される一種以上が含まれる場合においても、蛍光検出において正確な蛍光分析データを取得することができる。
本実施形態において、上記蛍光標識工程の後、標識化後の糖タンパク質に対して、変性処理、還元処理、アルキル化処理などの、タンパク質分析における公知の調製方法を使用することができる。
本実施形態において、上記蛍光標識工程の後、標識化後の糖タンパク質に対して、変性処理、還元処理、アルキル化処理などの、タンパク質分析における公知の調製方法を使用することができる。
(断片化工程)
続いて、図1(c)に示すように、糖タンパク質10において糖鎖20を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、糖タンパク質10を断片化することにより、糖ペプチド断片50およびペプチド断片52を取得する断片化工程を行う。図1(c)中、糖ペプチド断片50は、糖鎖20に蛍光標識40で標識され標識由来のペプチド断片を示し、ペプチド断片52は、タンパク質30が糖鎖20を有しないため標識されていないペプチド断片を示す。また上記断片化工程において、複数の糖ペプチド断片50および複数のペプチド断片52が得られる。
続いて、図1(c)に示すように、糖タンパク質10において糖鎖20を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、糖タンパク質10を断片化することにより、糖ペプチド断片50およびペプチド断片52を取得する断片化工程を行う。図1(c)中、糖ペプチド断片50は、糖鎖20に蛍光標識40で標識され標識由来のペプチド断片を示し、ペプチド断片52は、タンパク質30が糖鎖20を有しないため標識されていないペプチド断片を示す。また上記断片化工程において、複数の糖ペプチド断片50および複数のペプチド断片52が得られる。
上記断片化工程に用いる酵素としては、糖タンパク質を構成するタンパク質の種類(アミノ酸配列とアミノ酸残基数)に応じて適切に選択することが可能であり、また公知の酵素を使用することができる。具体的には、例えば、5残基以上100残基以下の間、好ましくは5残基以上50残基以下の間、より好ましくは5残基以上30残基以下の間で、糖タンパク質を切断可能な酵素を用いることができる。切断後の糖タンパク質である糖ペプチド断片あるいはペプチド断片のアミノ酸残基数を上記下限値以上とすることにより、質量分析における分解能を高めることができる。一方で、上記アミノ酸残基数を上記上限値以下とすることにより、糖鎖の結合位置の同定精度を高めることができる。
上記酵素の一例としては、例えば、キモトリプシン、トリプシン、ペプシン、パパイン、フィシン、ブロメライン、Lys−C、Asp−N、Arg−C、プロテイナーゼK、リシルエンドペプチダーゼ、V8等が挙げられる。
上記酵素の選択方法としては、検出対象となるタンパク質におけるアミノ酸配列について所定のタンパク質データベースや公知のタンパク質同定法を用いて確認し、得られたアミノ酸配列の切断位置や糖ペプチド断片あるいはペプチド断片の残基数が適切となるようにシュミレーションした結果を踏まえて、酵素(プロテアーゼ)を選択する。
(蛍光検出工程)
続いて、図1(d)に示すように、液体クロマトグラフィーを用いて分離した糖ペプチド断片50,ペプチド断片52に対して蛍光検出器を用いて蛍光検出することにより、糖ペプチド断片50における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データ(横軸:溶出時間、縦軸:蛍光強度)を取得する上記蛍光検出工程を行う。これにより、図1(d)に示すように、上記蛍光分析データにおいて、それぞれの糖ペプチド断片50に対応した複数の蛍光強度のピークを有する蛍光ピークプロファイルが得られる。
続いて、図1(d)に示すように、液体クロマトグラフィーを用いて分離した糖ペプチド断片50,ペプチド断片52に対して蛍光検出器を用いて蛍光検出することにより、糖ペプチド断片50における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データ(横軸:溶出時間、縦軸:蛍光強度)を取得する上記蛍光検出工程を行う。これにより、図1(d)に示すように、上記蛍光分析データにおいて、それぞれの糖ペプチド断片50に対応した複数の蛍光強度のピークを有する蛍光ピークプロファイルが得られる。
上記液体クロマトグラフィー(LC)としては、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、超高速高分離液体クロマトグラフィー(UHPLC、UPLC、またはUFLC)、またはナノスケールの分離が可能なナノフロー液体クロマトグラフィー(ナノLC)を用いることができる。試料の量に応じて適切な装置を選択する必要がある。使用するカラムは、試料(糖ペプチド断片あるいはペプチド断片)の各成分の、固定相と移動相に対する親和力(保持力)の差によって、当該成分を分離できるものであれば特に限定されないが、例えば逆相カラム、順相カラム、HILICカラムなどを用いることができる。液体クロマトグラフィーにおいては、試料の分離度を高めるための適切な条件を採用することができる。
(質量検出工程)
一方、図1(e)に示すように、上記液体クロマトグラフィーを用いて分離した糖ペプチド断片50,ペプチド断片52について、所定の質量分析法に基づいて試料(糖ペプチド断片50,ペプチド断片52)をイオン化し、その質量対電荷比(m/z)を、所定の分析装置を用いた質量検出により、糖ペプチド断片50,ペプチド断片52におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する上記質量検出工程を行う。これにより、上記質量分析データとして、図1(e)に示すような、マススペクトル(横軸:質量対電荷比(m/z)、縦軸:イオン強度)が得られる。
なお、図1(e)中のアミノ酸配列は、説明するための一例であり、これに限定されない。
一方、図1(e)に示すように、上記液体クロマトグラフィーを用いて分離した糖ペプチド断片50,ペプチド断片52について、所定の質量分析法に基づいて試料(糖ペプチド断片50,ペプチド断片52)をイオン化し、その質量対電荷比(m/z)を、所定の分析装置を用いた質量検出により、糖ペプチド断片50,ペプチド断片52におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する上記質量検出工程を行う。これにより、上記質量分析データとして、図1(e)に示すような、マススペクトル(横軸:質量対電荷比(m/z)、縦軸:イオン強度)が得られる。
なお、図1(e)中のアミノ酸配列は、説明するための一例であり、これに限定されない。
上記質量検出工程において、例えば、エレクトロスプレーイオン化(ESI:ElectroSpray Ionization)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)法、電子イオン化(EI:Electron Ionization)法、化学イオン化(CI:Chemical Ionization)法、電界脱離(FD:Field Desorption)法、高速原子衝撃(FAB:Fast Atom Bombardment)法、大気圧化学イオン化(APCI:Atomospheric Pressure Cheimcal Ionization、)法、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)法からなる群から選択される一種以上の質量分析法を用いることができる。
上記質量検出工程において、イオントラップ型(IT:Ion Trap)、飛行時間型(TOF:Time−of−Flight)、磁場セクター型(MS:Magnetic Sector)、四重極型(Q:Quadrupole)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT−ICR:Fourier−Transform Ion Cyclotron Resonance)、加速器質量分析型(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)、タンデム型からなる群から選択される一種以上の質量分析装置を用いることができる。
(同定工程)
続いて、上記同定工程は、上記蛍光検出工程で得られた蛍光分析データ(図1(d))と上記質量検出工程で得られた質量分析データとを比較し、糖ペプチド断片50の蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピーク(図1(e))を抽出する工程を含むことができる。抽出された質量対電荷比(m/z)から、糖ペプチド断片50におけるアミノ酸配列を特定することにより、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定することができる。
続いて、上記同定工程は、上記蛍光検出工程で得られた蛍光分析データ(図1(d))と上記質量検出工程で得られた質量分析データとを比較し、糖ペプチド断片50の蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)のピーク(図1(e))を抽出する工程を含むことができる。抽出された質量対電荷比(m/z)から、糖ペプチド断片50におけるアミノ酸配列を特定することにより、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定することができる。
上記同定工程は、蛍光標識した後の糖タンパク質を酵素で切断して得られた糖ペプチド断片における、アミノ酸配列と質量対電荷比(m/z)の理論値を予め計算する工程と、抽出する工程において抽出された蛍光強度のピークに対応する質量対電荷比(m/z)の実測値と、質量対電荷比(m/z)の前記理論値を比較することにより、糖鎖が結合するアミノ酸配列を特定する工程を含むことができる。
具体的な手順の一例は次の通りである。
まず、糖タンパク質を構成するタンパク質のアミノ酸配列を取得する。酵素により切断されてなるペプチド断片のそれぞれについて、アミノ酸配列、残基数、m/zの理論値をシミュレートする。そして、糖鎖が結合する部位を有するペプチド断片については、標識分の質量を考慮して、m/zの理論値を補正する。標識が結合する部位が複数個存在する場合は、標識が1個、2個、3個などの場合を想定して、複数のm/zの理論値の補正値を準備する。続いて、抽出された質量対電荷比(m/z)の実測値と、事前に準備したm/zの理論値(補正値を含む)とを比較し、対応するm/zの理論値を取得する。そのm/zの理論値に基づいて、糖鎖が結合するアミノ酸配列、その糖鎖数等を特定することができる。これにより、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定できる。
具体的な手順の一例は次の通りである。
まず、糖タンパク質を構成するタンパク質のアミノ酸配列を取得する。酵素により切断されてなるペプチド断片のそれぞれについて、アミノ酸配列、残基数、m/zの理論値をシミュレートする。そして、糖鎖が結合する部位を有するペプチド断片については、標識分の質量を考慮して、m/zの理論値を補正する。標識が結合する部位が複数個存在する場合は、標識が1個、2個、3個などの場合を想定して、複数のm/zの理論値の補正値を準備する。続いて、抽出された質量対電荷比(m/z)の実測値と、事前に準備したm/zの理論値(補正値を含む)とを比較し、対応するm/zの理論値を取得する。そのm/zの理論値に基づいて、糖鎖が結合するアミノ酸配列、その糖鎖数等を特定することができる。これにより、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定できる。
また、MS解析で抽出したピーク部分に対応する糖ペプチド断片に対して、さらにエネルギーを照射して得られたフラグメントイオンを解析することで、糖鎖の結合部位をより詳細に同定することが可能である。
以上により、本実施形態の糖鎖結合領域同定法は、簡便に、糖タンパク質における糖鎖の結合領域を同定可能な方法を実現することができる。
本実施形態のキットは、上記糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法を実施するための書面によるプロトコルを含むものである。このプロトコルには、例えば、同定手順や同定に必要な情報が含まれる。
上記キットは、上記糖鎖結合領域同定法に用いる試薬をさらに含んでいてもよい。この試薬としては、例えば、酵素、標識試薬、バッファなどが挙げられる。
上記キットは、上記糖鎖結合領域同定法に用いる試薬をさらに含んでいてもよい。この試薬としては、例えば、酵素、標識試薬、バッファなどが挙げられる。
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
(1)糖タンパク質の精製
未標識の糖タンパク質(Nup62:O−GlcNAcによって糖修飾を受ける主要な核膜孔蛋白質、OriGene社製)20μgにメタノール(400μL)、クロロホルム(100μL)、超純水(300μL)を加えて良く混合した後、遠心(15000rpm、5min)によりタンパク質を沈殿させた。上澄み溶液を除去後、再度メタノール(400μL)を加え、遠心(15000rpm、1min)によりタンパク質を沈殿させた。上澄みを除去後、沈殿したタンパク質を乾燥させた。タンパク質を1%SDS in 20mM HEPES pH7.9(40μL)に再溶解し、90℃で5分加熱し、タンパク質を完全に溶解させた。
未標識の糖タンパク質(Nup62:O−GlcNAcによって糖修飾を受ける主要な核膜孔蛋白質、OriGene社製)20μgにメタノール(400μL)、クロロホルム(100μL)、超純水(300μL)を加えて良く混合した後、遠心(15000rpm、5min)によりタンパク質を沈殿させた。上澄み溶液を除去後、再度メタノール(400μL)を加え、遠心(15000rpm、1min)によりタンパク質を沈殿させた。上澄みを除去後、沈殿したタンパク質を乾燥させた。タンパク質を1%SDS in 20mM HEPES pH7.9(40μL)に再溶解し、90℃で5分加熱し、タンパク質を完全に溶解させた。
(2)糖鎖の蛍光標識
続いてClick−iTTM O−GlcNAc Enzymatic Labeling System (ThermoFisher Scientific社製)及びClick−iTTM TAMRA Protein Analysis Detection Kit(ThermoFisher Scientific社製)を用いて、(1)の工程で得られたNup62の糖鎖(O−GlcNAc)にTAMRA標識を導入した。
具体的なTAMRA標識導入方法は以下の通りである。
タンパク質溶液に、超純水(49μL)、Labeling Buffer(80μL)、100mM MnCl2溶液(11μL)の順に加えて混合した。0.5mM solution of UDP−GalNAz(10μL)、Gal−T1(Y289L)enzyme(10μL)を加え、4℃で一晩反応させ、タンパク質のO−GlcNAcにGalNAzを導入した。メタノール/クロロホルム/超純水を用いて再度タンパク質を沈殿させ、遠心後上澄みを除去し、得られたタンパク質を乾燥させた。1%SDS in 50mM Tris−HCl,pH8.0(50μL)に再溶解し、TAMRA alkyne含有Click−iTTM Reaction Buffer(100μL)、及び超純水(10μL)を加えて混合した。CuSO4溶液(10μL)を加えて混合後、Click−iTTM Reaction Buffer Additive 1(10μL)を加えて数分間静置した。Click−iTTM Reaction Buffer Additive 2(20μL)を加え、サンプルの入った溶液を遮光して20分間攪拌した。メタノール/クロロホルム/超純水を用いて再度タンパク質を沈殿させ、遠心後上澄みを除去し、得られたタンパク質を乾燥させ、TAMRA標識Nup62を得た。
続いてClick−iTTM O−GlcNAc Enzymatic Labeling System (ThermoFisher Scientific社製)及びClick−iTTM TAMRA Protein Analysis Detection Kit(ThermoFisher Scientific社製)を用いて、(1)の工程で得られたNup62の糖鎖(O−GlcNAc)にTAMRA標識を導入した。
具体的なTAMRA標識導入方法は以下の通りである。
タンパク質溶液に、超純水(49μL)、Labeling Buffer(80μL)、100mM MnCl2溶液(11μL)の順に加えて混合した。0.5mM solution of UDP−GalNAz(10μL)、Gal−T1(Y289L)enzyme(10μL)を加え、4℃で一晩反応させ、タンパク質のO−GlcNAcにGalNAzを導入した。メタノール/クロロホルム/超純水を用いて再度タンパク質を沈殿させ、遠心後上澄みを除去し、得られたタンパク質を乾燥させた。1%SDS in 50mM Tris−HCl,pH8.0(50μL)に再溶解し、TAMRA alkyne含有Click−iTTM Reaction Buffer(100μL)、及び超純水(10μL)を加えて混合した。CuSO4溶液(10μL)を加えて混合後、Click−iTTM Reaction Buffer Additive 1(10μL)を加えて数分間静置した。Click−iTTM Reaction Buffer Additive 2(20μL)を加え、サンプルの入った溶液を遮光して20分間攪拌した。メタノール/クロロホルム/超純水を用いて再度タンパク質を沈殿させ、遠心後上澄みを除去し、得られたタンパク質を乾燥させ、TAMRA標識Nup62を得た。
(3)糖タンパク質のペプチド断片化
(2)の工程で得られたTAMRA標識Nup62、及び(1)の工程で得られた((2)の工程を実施していない)未標識Nup62の各々に、1M重炭酸アンモニウム溶液(0.5μL)、120mMジチオスレイトール溶液(0.5μL)、超純水(10μL)を加え混合し、60℃、30分間反応させた。続いて123mMヨードアセトアミド溶液(1μL)を加えて、斜光下で室温1時間反応させた。その後、キモトリプシン0.2μgを加え、26℃で一晩反応させ糖タンパク質をペプチド断片化させた。反応終了後、95℃で10分間反応し、キモトリプシンを失活させた。
以下、TAMRA標識Nup62の糖ペプチド断片を含むタンパク質溶液を溶液A、未標識Nup62のペプチド断片を含むタンパク質溶液を溶液Bと呼称する。
(2)の工程で得られたTAMRA標識Nup62、及び(1)の工程で得られた((2)の工程を実施していない)未標識Nup62の各々に、1M重炭酸アンモニウム溶液(0.5μL)、120mMジチオスレイトール溶液(0.5μL)、超純水(10μL)を加え混合し、60℃、30分間反応させた。続いて123mMヨードアセトアミド溶液(1μL)を加えて、斜光下で室温1時間反応させた。その後、キモトリプシン0.2μgを加え、26℃で一晩反応させ糖タンパク質をペプチド断片化させた。反応終了後、95℃で10分間反応し、キモトリプシンを失活させた。
以下、TAMRA標識Nup62の糖ペプチド断片を含むタンパク質溶液を溶液A、未標識Nup62のペプチド断片を含むタンパク質溶液を溶液Bと呼称する。
(4)LC−MS測定
(3)の工程で得られた溶液A,Bのそれぞれ1μLを、下記のLC−MS測定条件で測定したところ、図2に示すLC結果が得られた。UV検出の場合は、TAMRA標識処理の有無にかかわらず同程度の強さのシグナルが得られた。一方、蛍光検出の場合は、TAMRA標識処理を施したサンプル(溶液A)でのみ強いシグナルが得られ、TAMRA標識処理を施していないサンプル(溶液B)ではシグナルは得られなかった。蛍光検出における蛍光強度ピークはTAMRA標識由来、すなわち、O−GlcNAcを有する糖ペプチド断片由来であると考えられる。
続いて蛍光検出された蛍光強度ピークの一部において、MSシグナルを確認した。その結果を図3に示す。ピークNo.17,18,22,23,および30において、それぞれのNup62のペプチド断片にGlcNAcおよびTAMRA標識群が結合した値(理論値:calcd m/z)に一致したm/z(実測値:obsd m/z)が得られている事が確認できた。
さらに、MS解析の結果、O−GlcNAcを有する糖ペプチド断片である事が同定されたペプチド配列:(F)SLATQTPATQTTGF(T)について(ピークNo.18)、TAMRA標識の有無における詳細な比較を実施した。それぞれのサンプル(溶液A,B)のMS結果において、m/z:712.36(ペプチド断片のみ、2価)、m/z:813.90(ペプチド断片+GlcNAc、2価)、m/z:780.02(ペプチド断片+GlcNAc+TAMRA標識群、3価)のMSクロマトグラムを表示させた(図4)。TAMRA標識処理を施したサンプル(溶液A)でのみ、m/z:780.02(ペプチド断片+GlcNAc+TAMRA標識群、3価)由来のピークが得られる事を確認した。
(3)の工程で得られた溶液A,Bのそれぞれ1μLを、下記のLC−MS測定条件で測定したところ、図2に示すLC結果が得られた。UV検出の場合は、TAMRA標識処理の有無にかかわらず同程度の強さのシグナルが得られた。一方、蛍光検出の場合は、TAMRA標識処理を施したサンプル(溶液A)でのみ強いシグナルが得られ、TAMRA標識処理を施していないサンプル(溶液B)ではシグナルは得られなかった。蛍光検出における蛍光強度ピークはTAMRA標識由来、すなわち、O−GlcNAcを有する糖ペプチド断片由来であると考えられる。
続いて蛍光検出された蛍光強度ピークの一部において、MSシグナルを確認した。その結果を図3に示す。ピークNo.17,18,22,23,および30において、それぞれのNup62のペプチド断片にGlcNAcおよびTAMRA標識群が結合した値(理論値:calcd m/z)に一致したm/z(実測値:obsd m/z)が得られている事が確認できた。
さらに、MS解析の結果、O−GlcNAcを有する糖ペプチド断片である事が同定されたペプチド配列:(F)SLATQTPATQTTGF(T)について(ピークNo.18)、TAMRA標識の有無における詳細な比較を実施した。それぞれのサンプル(溶液A,B)のMS結果において、m/z:712.36(ペプチド断片のみ、2価)、m/z:813.90(ペプチド断片+GlcNAc、2価)、m/z:780.02(ペプチド断片+GlcNAc+TAMRA標識群、3価)のMSクロマトグラムを表示させた(図4)。TAMRA標識処理を施したサンプル(溶液A)でのみ、m/z:780.02(ペプチド断片+GlcNAc+TAMRA標識群、3価)由来のピークが得られる事を確認した。
(LC−MS測定条件)
LC装置 :Nexera(島津製作所社製)
LC分析条件
カラム :TSKgel Super−ODS 2.3μm(2.0mmI.D.×100mmL.)
カラム温度 :40℃
移動相A :0.05%ギ酢酸水溶液
移動相B :0.05%ギ酢酸含有95%アセトニトリル水溶液
濃度勾配条件:表1に示す
流速 :0.2mL/min
注入量 :1μL
検出器 :RF−20Axs(励起波長:555nm、蛍光波長:580nm)
SPD−20Axs(UV:215nm)
質量分析計 :LCMS−IT−TOF(島津製作所社製)
質量分析条件
イオン化モード :ESIポジティブイオンモード
LC装置 :Nexera(島津製作所社製)
LC分析条件
カラム :TSKgel Super−ODS 2.3μm(2.0mmI.D.×100mmL.)
カラム温度 :40℃
移動相A :0.05%ギ酢酸水溶液
移動相B :0.05%ギ酢酸含有95%アセトニトリル水溶液
濃度勾配条件:表1に示す
流速 :0.2mL/min
注入量 :1μL
検出器 :RF−20Axs(励起波長:555nm、蛍光波長:580nm)
SPD−20Axs(UV:215nm)
質量分析計 :LCMS−IT−TOF(島津製作所社製)
質量分析条件
イオン化モード :ESIポジティブイオンモード
上記のように糖鎖を蛍光に導入する事で、多数あるピークの中から、糖ペプチド断片由来のピークを容易に同定することができるため、特別なソフトを使用することなく、解析に要する時間を大幅に減らすことが期待できる。
10 糖タンパク質
20 糖鎖
30 タンパク質
40 蛍光標識
50 糖ペプチド断片
52 ペプチド断片
20 糖鎖
30 タンパク質
40 蛍光標識
50 糖ペプチド断片
52 ペプチド断片
Claims (11)
- 糖鎖を有する糖タンパク質における前記糖鎖を蛍光標識する工程と、
前記糖タンパク質において前記糖鎖を切り出さずにペプチド結合を切断する酵素を用いて、前記糖タンパク質を断片化することにより、糖ペプチド断片を取得する工程と、
液体クロマトグラフィーを用いた蛍光検出により、前記糖ペプチド断片における時間と蛍光強度との関係を示す蛍光分析データを取得する工程と、
質量分析機器を用いた質量検出により、前記糖ペプチド断片におけるイオン強度および質量対電荷比(m/z)の関係を示す質量分析データを取得する工程と、
前記蛍光分析データと前記質量分析データとを比較して、前記蛍光強度のピークに対応する前記質量対電荷比(m/z)のピークを抽出する工程と、
を含む、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記糖鎖が単糖である、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1または2に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記糖鎖が、O−結合型糖鎖である、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から3のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記糖タンパク質が複数の前記糖鎖を有する、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記糖タンパク質を断片化する前記酵素として、前記糖タンパク質を5残基以上100残基以下の間で切断可能なものを用いる、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から5のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記蛍光標識する工程は、蛍光試薬を用いて前記糖鎖を蛍光標識する工程を含み、
前記蛍光試薬の蛍光波長は、トリプトファン、チロシンおよびフェニルアラニンのいずれの蛍光波長と異なる、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から6のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記液体クロマトグラフィーが、高速液体クロマトグラフィー、超高速高分離液体クロマトグラフィーまたはナノフロー液体クロマトグラフィーである、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から7のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記質量検出において、エレクトロスプレーイオン化(ESI:ElectroSpray Ionization)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI:Matrix Assisted Laser Desorption Ionization)法、電子イオン化(EI:Electron Ionization)法、化学イオン化(CI:Chemical Ionization)法、電界脱離(FD:Field Desorption)法、高速原子衝撃(FAB:Fast Atom Bombardment)法、大気圧化学イオン化(APCI:Atomospheric Pressure Cheimcal Ionization、)法、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)法からなる群から選択される一種以上の質量分析法を用いる、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から8のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
前記質量検出において、イオントラップ型(IT:Ion Trap)、飛行時間型(TOF:Time−of−Flight)、磁場セクター型(MS:Magnetic Sector)、四重極型(Q:Quadrupole)、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型(FT−ICR:Fourier−Transform Ion Cyclotron Resonance)、加速器質量分析型(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)、タンデム型からなる群から選択される一種以上の質量分析装置を用いる、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法であって、
蛍光標識した後の前記糖タンパク質を前記酵素で切断して得られた前記糖ペプチド断片における、アミノ酸配列と質量対電荷比(m/z)の理論値を予め計算する工程と、
前記抽出する工程において抽出された前記蛍光強度のピークに対応する前記質量対電荷比(m/z)の実測値と、質量対電荷比(m/z)の前記理論値を比較することにより、前記糖鎖が結合する前記アミノ酸配列を特定する工程を含む、糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法。 - 請求項1から10のいずれか1項に記載の糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法を実施するための書面によるプロトコルを含む、キット。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2017178703A JP2019052995A (ja) | 2017-09-19 | 2017-09-19 | 糖タンパク質における糖鎖の結合領域の同定方法およびキット |
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Publications (1)
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ID=66014007
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JP (1) | JP2019052995A (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2023132338A1 (ja) * | 2022-01-06 | 2023-07-13 | 富士フイルム株式会社 | タンパク質における糖が結合したアミノ酸部位を同定する方法、及びキット |
-
2017
- 2017-09-19 JP JP2017178703A patent/JP2019052995A/ja active Pending
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2023132338A1 (ja) * | 2022-01-06 | 2023-07-13 | 富士フイルム株式会社 | タンパク質における糖が結合したアミノ酸部位を同定する方法、及びキット |
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