JP2015160931A - インク組成物及び記録装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】定着性及び耐擦性に優れ、かつ、目詰まり回復性に優れ吐出安定性が向上したインク組成物及び記録装置を提供する。【解決手段】本発明の一態様は、色材と水とポリマー粒子とを含むインク組成物であって、ポリマー粒子はコアポリマーとシェルポリマーとを有するコア−シェル構造を有し、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmであり、コアポリマーのガラス転移温度は60℃未満であり、シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であり、コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む、インク組成物である。【選択図】図1

Description

本発明は、インク組成物及び記録装置に関する。
従来の樹脂エマルジョンはコアシェル型として、記録画像の保存性に優れ、必要時その記録画像を被記録媒体から容易に消去でき、被記録媒体を繰り返し使用するのに適するようにするため、コア部に熱可塑性樹脂、シェル部に3次元架橋構造を有する樹脂を用いた検討がされていた(特許文献1)。また、吐出安定性、保存安定性に優れ、耐マーカー性、耐擦過性などの画像堅牢性に優れるインクを得るため、アクリル系樹脂をコアとし、ポリカーボネート系ウレタン樹脂シェルで被覆した構造を用いた検討がされている(特許文献2)。あるいは、プラスチックや金属等のインク非吸収性材料にも印刷可能で、密着性、成膜性、耐薬品性に優れたインクとするため、エマルジョン樹脂として、外層がウレタン樹脂、内層がアクリル樹脂からなるコア−シェル構造のエマルジョン樹脂の検討などがなされていた(特許文献3)。さらに、コアシェル型とは違うが、保存安定性及び吐出安定性、画像の耐擦過性が高いインクジェット用水性インクを提供するためトリブロックポリマーとする検討もなされている(特許文献4)。
特開2002−12802号公報 特開2012−25947号公報 特開2012−92224号公報 特開2012−72354号公報
しかしながら、特許文献1に開示されたインクではシェル部が架橋構造であるため定着性が得られず、特許文献2に開示されたインクではシェル部がポリカーボネート系ウレタン樹脂であり、定着性は向上するものの目詰まり回復性が得られにくい。特許文献3に開示されたインクもシェル部がウレタンであり定着性は向上するものの目詰まり回復性が得られにくい。さらに、特許文献4に開示されたインクはトリブロック構造であり、選択によっては、吐出安定性は得られるが、目詰まり回復性が得られにくい。
本発明の一態様は、定着性及び耐擦性に優れ、かつ、目詰まり回復性に優れ吐出安定性が向上したインク組成物及び記録装置を提供するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、モノマーやコアシェルの粒子径を規定することにより上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。
本発明の一態様は、色材と水とポリマー粒子とを含むインク組成物であって、ポリマー粒子はコアポリマーとシェルポリマーとを有するコア−シェル構造を有し、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmであり、コアポリマーのガラス転移温度は60℃未満であり、シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であり、コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む、インク組成物である。
上記構成の本発明の一態様によれば、凝集しても大きな塊ができにくいことから、ノズルの目詰まりを抑制することができる。
また、コアポリマーのガラス転移温度が60℃未満であることにより、シェルポリマーが軟化した後、容易にコアポリマーが流出できるため、密着性により優れる傾向にある。
また、シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であることにより、高温環境下でインク組成物が吐出される場合に、コアシェル型の構造を崩壊させずに重合体粒子を記録ヘッドから吐出することが可能となり、ノズル内における重合体粒子の溶着をより抑制できるため、ノズルの目詰まりを防止でき、間欠印刷の安定性により優れる傾向にある。記録媒体上に成膜する場合には、シェルポリマーのガラス転位温度よりも高い温度に被記録媒体上のインク組成物を加熱することにより、軟化したシェルポリマーからコアポリマーが流出し、コアポリマー及びシェルポリマーによる被膜が記録媒体上に形成される。このとき、軟化状態のコアポリマーが被記録媒体上に広がりつつ密着することにより、定着性に優れた被膜が形成される。
さらに、コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含むことにより、コアポリマーが疎水性の被膜を形成できることから、記録画像の耐擦性、より具体的には耐水摩擦性が向上する。
好ましくは、本発明のインク組成物は加熱された記録媒体に記録される。特に、加熱した状態で記録が行なわれる場合であっても、吐出安定性を向上させつつ、記録画像の定着性及び耐刷性を向上できる。
好ましくは、シェルポリマーは構成単位として芳香族モノマーを含み、シェルポリマーは酸価を有し、コアポリマーは酸価を有しない。シェルポリマーが構成単位として芳香族モノマーを含むことにより、詳細な作用機序は不明なものの、吐出曲がりが防止される。特に、小ドットのときにインク液滴が曲がりやすいことから、本発明の一態様によればこの吐出曲がりが抑制される。
好ましくは、ポリマー粒子は、乳化剤を実質的に用いずに合成されたものである。ここでいう「乳化剤」とは、合成で使用される界面活性剤という意味である。このような乳化剤を用いて合成したポリマー粒子を含むインク組成物は、泡立ちやすく、画像の光沢が出にくく、異物が発生しやすいという問題があった。本発明の一態様によれば、このような問題の発生を抑制したインク組成物が得られる。
好ましくは、インク組成物は環状窒素化合物又は非プロトン性極性溶媒を含み、記録媒体はポリ塩化ビニルである。インク組成物は環状窒素化合物又は非プロトン性極性溶媒を含むことにより、ポリマー粒子の見かけのガラス転位温度を低温側に移行させることができ、本来よりもコアポリマー及びシェルポリマーを低い温度で軟化させることができることから、被記録媒体へのインク組成物の定着性を向上させることができる。これにより、特に、被記録媒体がポリ塩化ビニルからなる場合に、被記録媒体へのインク組成物の定着性を向上させることができる。
例えば、コアポリマーは窒素含有モノマーを含み、記録媒体はポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレンである。コアポリマーが窒素含有モノマーを含むことにより、コアポリマーの極性を上げることができ、特に被記録媒体がポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレンの場合に、コアポリマーの被膜の定着性を向上できる。
例えば、シェルポリマーは構成単位として(メタ)アクリル酸を含む。これにより、重合により親水性のシェルポリマーが形成される。
好ましくは、シェルポリマーの酸価は20mgKOH/g〜120mgKOH/gである。この数値範囲の酸価を有することにより、シェルポリマーとして必要十分な親水性が確保される。
また、本発明の一態様は、上述したインク組成物と、当該インク組成物を吐出する吐出ヘッドと、を備えた記録装置である。
例えば、吐出ヘッドは、インク組成物を吐出するノズルを備え、一つのノズルからインク組成物のドットをマルチサイズに吐出出来るものである。
本実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を示す模式図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[インク組成物]
本実施形態に係るインク組成物は、色材と水とポリマー粒子とを含むインク組成物であって、ポリマー粒子はコアポリマーとシェルポリマーとを有するコア−シェル構造を有し、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmであり、コアポリマーのガラス転移温度は60℃未満であり、シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であり、コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む、インク組成物である。
〔色材〕
上記色材は、顔料及び染料から選択される。
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、酸化鉄、酸化チタン、及び酸化シリカが挙げられる。無機顔料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、キナクリドン系顔料、キナクリドンキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、フタロシアニン系顔料、アントラピリミジン系顔料、アンサンスロン系顔料、インダンスロン系顔料、フラバンスロン系顔料、ペリレン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ペリノン系顔料、キノフタロン系顔料、アントラキノン系顔料、チオインジゴ系顔料、ベンツイミダゾロン系顔料、イソインドリノン系顔料、アゾメチン系顔料、及びアゾ系顔料が挙げられる。有機顔料の具体例としては、下記のものが挙げられる。
ブラックインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックとしては、特に限定されないが、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、及びチャンネルブラック(C.I.ピグメントブラック7)が挙げられる。また、カーボンブラックの市販品として、特に限定されないが、例えば、No.2300、900、MCF88、No.20B、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B(以上全て商品名、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、カラーブラックFW1、FW2、FW2V、FW18、FW200、S150、S160、S170、プリテックス35、U、V、140U、スペシャルブラック6、5、4A、4、250(以上全て商品名、デグサ社(Degussa AG)製)、コンダクテックスSC、ラーベン1255、5750、5250、5000、3500、1255、700(以上全て商品名、コロンビアカーボン社(Columbian Carbon Japan Ltd)製)、リガール400R、330R、660R、モグルL、モナーク700、800、880、900、1000、1100、1300、1400、エルフテックス12(以上全て商品名、キャボット社(Cabot Corporation)製)等が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、15:34、16、18、22、60、65、66、C.I.バットブルー4、60が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブルー15:3及び15:4のうち少なくともいずれかが好ましい。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48:2、48:4、57、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、254、264、C.I.ピグメントバイオレット19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド202、及びC.I.ピグメントバイオレット19からなる群から選択される一種以上が好ましい。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、155、167、172、180、185、213が挙げられる。中でもC.I.ピグメントイエロー74、155、及び213からなる群から選択される一種以上が好ましい。
ホワイトインクに使用される顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、白色の中空樹脂粒子及び高分子粒子が挙げられる。
なお、グリーンインクやオレンジインク等、上記以外の色のインクに用いられる顔料としては、従来公知のものが挙げられる。
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。
色材の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対して、0.4〜12質量%であると好ましく、2〜5質量%であるとより好ましい。
〔水〕
本実施形態のインク組成物は、水を含む。水としては、例えば、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のような、イオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射又は過酸化水素の添加などによって滅菌した水を用いると、顔料分散液及びこれを用いたインクを長期保存する場合にカビやバクテリアの発生を防止することができる。
水の含有量は特に制限されず、必要に応じて適宜決定すればよい。
〔ポリマー粒子〕
上記ポリマー粒子は、上述したように、コアポリマーとシェルポリマーとを有するコア−シェル構造を有し、ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmであり、コアポリマーのガラス転移温度は50℃未満であり、シェルポリマーのガラス転移温度は50℃以上であり、コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む。
コア−シェル構造とは、シェルポリマーの空隙内部にコアポリマーが形成されている構造をいう。したがって、コアポリマーの表面をシェルポリマーが覆う構造のみならず、シェルポリマーによる3次元網目構造の空隙内部の一部にコアポリマーが充填されている構造も含まれる。したがって、本明細書におけるコアシェル構造とは、コア部とシェル部との境界が厳密に明確でない重合体粒子も含まれる。
コアポリマーのガラス転移温度は60℃未満であり、好ましくは、0℃以上60℃未満である。コアポリマーのガラス転移温度が60℃未満であることにより、シェルポリマーが軟化した後、容易にコアポリマーが流出できるため、密着性に優れる。また、コアポリマーのガラス転移温度が0℃以上であることにより、インク組成物の保存安定性に優れる。
シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であり、好ましくは、60℃以上150度以下である。シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であることにより、高温の環境下でインク組成物を吐出する場合に、コアシェル型の構造を崩壊させずに重合体粒子を記録ヘッドから吐出することが可能となり、ノズル内における重合体粒子の付着をより抑制できるため、ノズルの目詰まりを防止でき、間欠印刷の安定性により優れる傾向にある。記録媒体上に成膜する場合には、シェルポリマーのガラス転位温度よりも高い温度に被記録媒体上のインク組成物を加熱することにより、軟化したシェルポリマーからコアポリマーが流出し、コアポリマー及びシェルポリマーによる被膜が記録媒体上に形成される。このとき、軟化状態のコアポリマーが被記録媒体上に広がりつつ密着することにより、定着性に優れた被膜が形成される。また、シェルポリマーのガラス転移温度が150℃以下であることにより、被記録媒体上でシェルポリマーが軟化しやすいため、密着性により優れる傾向にある。一方、シェルポリマーのガラス転移温度が150℃を越えると、エマルジョン型樹脂の熱変形性が悪くなり、系の増粘等の悪影響を及ぼすおそれがある。
ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmと比較的小さいことにより、記録画像の光沢を出しやすいこと、成膜性に優れるという特徴がある。また、ポリマー粒子の平均粒子径が比較的小さいことにより、凝集しても大きな塊ができにくいことから、ノズルの目詰まりを抑制することができる。さらに、ポリマー粒子の平均粒子径が小さいことにより、インク組成物の粘度を比較的高めることができ、記録ヘッド内においてインク組成物の温度が上昇しても、インク吐出性が不安定になる程に粘度が低下してしまうことを防止することができる。なお、本明細書における平均粒子径は、特に明示がない限り体積基準のものである。測定方法としては、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、日機装社(Nikkiso Co., Ltd.)製のマイクロトラックUPA)が挙げられる。
ガラス転移点(以下、Tgという)は、粘弾性測定、熱分析等の解析手法を用いて、あるいは公知である重合性単量体の単独重合体のTgから計算式を用いて算出する。コアポリマー及び後述するシェルポリマーに含まれる樹脂が共重合体である場合、共重合体のガラス転位温度(Tg)は、各種単独重合体のTg(単位:K)と、単量体の質量分率(W)とから下記FOX式によって算出することができる。

ここで W ;各単量体の質量分率
Tg;各単量体のホモポリマーのTg(単位:K)
Tg ;共重合体のTg(単位:K)
換言すれば、コアポリマー又はシェルポリマーのガラス転移点は、ポリマーが単独重合体である場合にはその単独重合体を選択することにより制御できる。また、ポリマーが共重合体である場合には上記単独重合体のTgと上記FOX式とを考慮することにより制御することができる。
(コアポリマー)
コアポリマーは、疎水性の高いポリマーとなるように設計される。このため、コアポリマーは酸価を有しないことが好ましい。また、コアポリマーは、構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む。これにより、コアポリマーは疎水性となり、疎水性の被膜を形成できる。この結果、記録画像の耐擦性の1つである、耐水摩擦性を向上することができる。
ビニル基を有する芳香族モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジビニルベンゼンが挙げられる。
また、コアポリマーは、構成単位として窒素含有モノマーを含むことが好ましい。コアポリマーが窒素含有モノマーを含むことにより、コアポリマーの極性を上げることができ、特に被記録媒体がポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレンの場合に、コアポリマーの被膜の定着性を向上できる。
窒素含有モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、N−アルコキシメチル(メタ)アクリルアミド、アルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
(シェルポリマー)
シェルポリマーは、ガラス転移温度が60℃未満であればその材料に特に限定されないが、好ましくは、その構成単位として芳香族モノマーを含む。シェルポリマーが構成単位として芳香族モノマーを含むことにより、詳細な作用機序は不明なものの、吐出曲がりが防止される。特に、小ドットのときにインク液滴が曲がりやすいことから、本発明の一態様によればこの吐出曲がりが抑制される。したがって、本発明の一態様は、特に一つのノズルからインクドットをマルチサイズに吐出出来るヘッドに適している。
芳香族モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、ビニル基を有する芳香族モノマーである、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、ジビニルベンゼンが挙げられる。なお、ビニル基を有しない芳香族モノマーであってもよい。
シェルポリマーは、好ましくは、構成単位として、(メタ)アクリル酸を含む。これにより、親水性が高くなり重合体粒子の分散安定性がより向上するとともに、インク組成物の粘度が比較的低くなるため、吐出安定性がより向上する傾向にある。また、後述するように本実施形態に係るポリマー粒子は、乳化剤を実質的に用いずに合成される。シェルポリマーが構成単位として、(メタ)アクリル酸を含むことにより、空隙を有する親水性のシェルポリマーを形成することができ、この空隙部に疎水性のコアポリマーを形成することができる。
シェルポリマーは、親水性であることから酸価を有し、好ましくはシェルポリマーの酸価は20mgKOH/g〜120mgKOH/gである。この数値範囲の酸価を有することにより、シェルポリマーとして必要十分な親水性を確保することができる。
シェルポリマーの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば1万以上10万以下である。
コアポリマー及びシェルポリマーは、構成単位として、1種単独のポリマーを用いても、2種以上を併用してもよい。
上記重合体粒子のコアポリマーの質量とシェルポリマーの質量との比率は、コアシェルポリマーの質量≦シェルポリマーの質量であるが好ましく、より好ましくはコアシェルポリマーの質量<シェルポリマーの質量である。さらに好ましくはシェルポリマーの質量を100%とした場合、コアポリマーの質量は40〜80%が好ましい。これによりコアポリマーの質量とシェルポリマーの質量とのバランスが良好となるため、インク組成物の定着性が良好であり、吐出安定性に優れ、縦アライメント不良が発生しにくい傾向にある。縦アライメント不良とはインクの連続吐出において、長時間吐出することによってノズル周辺でインクが部分的に固化し、吐出方向が曲がりきれいな縦線が印刷できなくなる現象である。
(ポリマー粒子の製造方法)
上述したポリマー粒子の製造方法に限定はないが、好ましくは、ポリマー粒子は乳化剤を実質的に用いないソープフリー重合により形成される。ソープフリー重合とは、乳化剤を実質的に用いずにコア−シェルポリマーを製造する重合方法をいう。ここでいう「乳化剤」とは、合成で使用される界面活性剤という意味である。また、ソープフリー重合としては、例えば、溶液中における乳化剤の含有量が1質量%以下の存在下でポリマー粒子を重合すること、が挙げられる。従来、このような乳化剤を用いて合成したポリマー粒子を含むインク組成物は、泡立ちやすく、画像の光沢が出にくく、異物が発生しやすいという問題があった。本発明の一態様によれば、このような問題の発生を抑制したインク組成物が得られる。ソープフリー重合では、例えば、(メタ)アクリル酸を構成単位に含むシェルポリマーを形成し、そのシェルポリマーの中にコアを形成する。また、ソープフリー重合を用いてポリマー粒子を製造した場合、平均粒子径が非常に小さくなり、インク組成物の吐出安定性や光沢性が向上する。
合成で使用される界面活性剤とは、特に限定されないが、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤が好適である。アニオン系界面活性剤としては、ドデシルベンザンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェートのアンモニウム塩等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が挙げられる。本実施形態に用いるコアシェルポリマーは、これらの界面活性剤を用いずに製造される。
上記ソープフリー重合で用いられる重合開始剤としては、特に限定されないが、親水性開始剤が用いられ、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等が挙げられる。
ソープフリー重合の方法の一例について説明するが合成方法は以下に制限されない。例えば、ジャケット付重合反応槽内にイオン交換水、重合開始剤を入れ、重合槽内部を減圧して酸素除去を行った後、窒素にて大気圧に圧戻しを行った窒素雰囲気下において、まず重合槽内を所定の温度にした後、シェルポリマーの構成要素となるモノマーを含むプレエマルジョン溶液を一定量ずつ滴下することにより、重合反応させてシェルポリマーを合成する。次に、得られたシェルポリマーの空隙を重合場として、コアポリマーを重合し、本実施形態に係るポリマー粒子を合成する。具体的には、シェルポリマーを含有する水系分散媒体中に上述の疎水性モノマーを含むモノマー混合物を滴下し、コアポリマーを重合し、ポリマー粒子とする。このように、シェルポリマーをコアポリマーの重合場とする場合、モノマー混合物には乳化剤を用いる必要がなくなる。
かかるソープフリー重合によれば、インク組成物中の乳化剤の含有量を容易に0.01質量%以下とすることができ、ポリマー粒子の平均粒子径も微小にすることができる。
〔環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶媒〕
本実施形態のインク組成物は、環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶媒の少なくともいずれかをさらに含むことが好ましい。インク組成物は環状窒素化合物又は非プロトン性極性溶媒を含むことにより、ポリマー粒子の見かけのガラス転位温度を低温側に移行させることができ、本来よりもコアポリマー及びシェルポリマーを低い温度で軟化させることができることから、被記録媒体へのインク組成物の定着性を向上させることができる。これにより、特に、被記録媒体がポリ塩化ビニルからなる場合に、被記録媒体へのインク組成物の定着性を向上させることができる。
非プロトン性極性溶媒としては、特に限定されないが、環状ケトン化合物、鎖状ケトン化合物、鎖状窒素化合物が挙げられる。また、環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶媒としては、ピロリドン系、イミダゾリジノン系、スルホキシド系、ラクトン系、アミドエーテル系が代表例として挙げられる。なかでも2−ピロリドン、N−アルキル−2−ピロリドン、1−アルキル−2−ピロリドン、γ‐ブチロラクトン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、イミダゾール、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾールが好ましい。
環状窒素化合物及び非プロトン性極性溶媒の含有量は、特に限定はないが、インク組成物の総量に対して、好ましくは5.0〜35質量%であり、より好ましくは8〜30質量%である。
〔その他の溶剤〕
本実施形態におけるインクは、上記以外のその他の溶剤をさらに含んでもよい。上記以外のその他の溶剤としては、特に限定されないが、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、n−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、iso−ブタノール、n−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、及びtert−ペンタノール等のアルコール類又はグリコール類が挙げられる。その他の溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他の溶剤の沸点は、好ましくは140〜280℃であり、より好ましくは160〜260℃であり、さらに好ましくは180〜240℃である。その他の溶剤の沸点が上記範囲内であることにより、間欠特性がより向上する傾向にある。
その他の溶剤の含有量は、インクの総量に対して、好ましくは5.0〜25質量%であり、より好ましくは10〜20質量%である。
〔界面活性剤〕
本実施形態で用いるインク組成物は、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。インク組成物がこれらの界面活性剤を含むことにより、記録媒体に付着したインク組成物の乾燥性が一層良好となり、かつ、高速印刷が可能となる。
これらの中でも、インク組成物への溶解度が大きくなりインク組成物中に異物が一層発生し難くなるため、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール及び2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4−ジメチル−5−デシン−4−オール及び2,4−ジメチル−5−デシン−4−オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、オルフィン104シリーズやオルフィンE1010等のEシリーズ(エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製商品名)、サーフィノール465やサーフィノール61(日信化学工業社(Nissin Chemical Industry CO.,Ltd.)製商品名)などが挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、S−144、S−145(旭硝子株式会社製);FC−170C、FC−430、フロラード−FC4430(住友スリーエム株式会社製);FSO、FSO−100、FSN、FSN−100、FS−300(Dupont社製);FT−250、251(株式会社ネオス製)などが挙げられる。フッ素系界面活性剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、特に限定されないが、具体的には、具体的には、BYK−306、BYK−307、BYK−333、BYK−341、BYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、BYK−349(以上商品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)、KF−351A、KF−352A、KF−353、KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−945、KF−640、KF−642、KF−643、KF−6020、X−22−4515、KF−6011、KF−6012、KF−6015、KF−6017(以上商品名、信越化学株式会社製)等が挙げられる。
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対し、好ましくは0.1〜5質量%であり、より好ましくは0.1〜3.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、被記録媒体に付着したインク組成物の濡れ性がより向上する傾向にある。
〔標準沸点280℃以上のアルキルポリオール〕
本実施形態のインク組成物は、標準沸点280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含まないことが好ましい。標準沸点280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含まないことにより、記録媒体上におけるインク組成物の速乾性がより向上する。一方、吐出ヘッド内におけるインクの保存安定性については、本実施形態にコア−シェル構造を有するポリマー粒子を用いることによって、十分に確保出来る。標準沸点280℃以上のアルキルポリオールとしては、特に限定されないが、例えば、グリセリンが挙げられる。なお、「標準沸点280℃以上のアルキルポリオールを実質的に含まない」とは、標準沸点280℃以上のアルキルポリオールの含有量が、インク組成物の総量に対し、好ましくは0〜0.50質量%であることをいい、好ましくは0質量%であることをいう。
〔その他の成分〕
本実施形態のインクは、上記の成分に加えて、溶解助剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、消泡剤、腐食防止剤などの、種々の添加剤を適宜添加することもできる。
本実施形態のインク組成物は、加熱された被記録媒体に記録されるものであることが好ましい。上述したように加熱された状態の被記録媒体に適用することにより、耐擦性に優れた画像を形成することができる。また、被記録媒体が加熱されている場合には、その輻射熱によりヘッドが加温される。本実施形態に係るインク組成物によれば、ヘッドが加温されるような場合においてもノズル目詰まりを抑制することができ、吐出安定性を向上させることができる。加熱温度は、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは40℃以上110℃以下であり、さらに好ましくは45℃以上120℃以下である。
被記録媒体を加熱するには、例えば、プラテンヒーターや赤外線放射が用いられる。また、本実施形態のインク組成物は、本発明の作用効果をより有効かつ確実に発揮する点から、インクジェット記録方法に用いられるインク組成物であることが好ましい。
〔インクの製造方法〕
本実施形態のインクは、上述の成分(材料)を任意の順序で混合し、必要に応じて濾過などを行い、不純物を除去することにより得ることができる。ここで、顔料は、あらかじめ溶媒中に均一に分散させた状態に調製してから混合することが、取り扱いが簡便になるため好ましい。
各材料の混合方法としては、メカニカルスターラーやマグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。濾過方法として、例えば、遠心濾過やフィルター濾過などを必要に応じて行うことができる。
〔被記録媒体〕
被記録媒体としては、例えば、吸収性又は非吸収性の被記録媒体が挙げられる。特に、インクジェット記録方法では、水性インク組成物の浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、インク組成物の浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ被記録媒体に幅広く適用できる。ただし、被記録媒体は、インク吐出時において、加熱されている媒体であることが好ましい。
吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、特に布帛のような高い吸収性の被記録媒体であることが好ましい。布帛としては、以下に限定されないが、例えば、絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、及びレーヨン等の天然繊維又は合成繊維が挙げられる。
非吸収性被記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルムやプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート等が挙げられる。また、非吸収性被記録媒体としては、シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層が形成されていないものが好ましい。
〔記録装置〕
本実施形態に係る記録装置は、上記インク組成物を、被記録媒体に対し吐出する吐出ヘッドと、被記録媒体を加熱する加熱手段と、前記被記録媒体に付着した前記インクジェット用インク組成物を、乾燥する乾燥手段と、を有する。この記録装置は、上述のインクジェット用インク組成物を更に有していてもよい。
図1に、本実施形態に係る記録装置の概略断面図を示す。図1に示すように、記録装置1は、吐出ヘッド2と、IRヒーター3と、プラテンヒーター4と、硬化ヒーター5と、冷却ファン6と、プレヒーター7と、通気ファン8と、を備えている。
吐出ヘッド2は被記録媒体に対しインク組成物を吐出するものである。吐出ヘッド2としては、従来公知の方式を使用できる。公知の方式の一例としては、例えば、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出するもの、即ち電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するヘッドが挙げられる。
被記録媒体加熱手段は、吐出ヘッド2からのインク組成物吐出時において、被記録媒体を加熱しているものである。被記録媒体加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、温風やIRヒーター3により吐出ヘッド2を直接加熱する手段や、プラテンヒーター4により加熱した被記録媒体を介して吐出ヘッド2を加熱する手段が挙げられる。
なお、IRヒーター3を用いると、吐出ヘッド2側から被記録媒体を加熱することができる。これにより、吐出ヘッド2も同時に加熱されやすいが、プラテンヒーター4など被記録媒体の裏面から加熱される場合と比べて、被記録媒体の厚みの影響を受けずに昇温することができる。また、プラテンヒーター4を用いると、吐出ヘッド2側と反対側から被記録媒体を加熱することができる。これにより、吐出ヘッド2が比較的加熱されにくくなる。
記録装置1は、被記録媒体に対しインク組成物が吐出される際に、被記録媒体の表面温度は35℃以上となるように加熱する被記録媒体加熱手段をさらに備えることが好ましい。より好ましい温度は35℃以上60℃以下である。被記録媒体加熱手段としては、特に限定されないが、例えば、IRヒーター3、プラテンヒーター4が挙げられる。被記録媒体加熱手段を有することにより、被記録媒体に付着したインク組成物をより速やかに乾燥し、ブリードを一層抑制することができる。
乾燥手段は、インクジェット用インク組成物が付着した被記録媒体を、加熱して乾燥するものである。乾燥手段としては、特に限定されないが、例えば、硬化ヒーター5、温風機構(不図示)、及び恒温槽(不図示)などの手段が挙げられる。乾燥手段が、画像が記録された被記録媒体を加熱することにより、インク組成物中に含まれる水分などがより速やかに蒸発飛散して、インク組成物中に含まれるポリマー粒子によって皮膜が形成される。このようにして、被記録媒体上においてインク乾燥物が強固に定着(接着)して、耐擦性に優れた高画質な画像を短時間で得ることができる。乾燥手段は、被記録媒体加熱手段よりも高い温度であることが好ましく、より好ましくは70℃以上であり、さらに好ましくは70℃以上110℃以下である。
なお、上記の「被記録媒体を加熱」するとは、被記録媒体の温度を所望の温度まで上昇させることを言い、被記録媒体を直接加熱することに限られない。
記録装置1は、冷却ファン6を有していてもよい。乾燥後、冷却ファン6により被記録媒体上のインク組成物を冷却することにより、被記録媒体上に密着性よく被膜を形成することができる傾向にある。
また、記録装置1は、被記録媒体に対しインク組成物が吐出される前に、被記録媒体を予め加熱する(プレ加熱する)プレヒーター7を備えていてもよい。さらに、記録装置1は、被記録媒体に付着したインク組成物がより効率的に乾燥するように通気ファン8を備えていてもよい。
以下、上述した本発明に係るインク組成物の実施例を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
(コアシェル型ポリマー粒子水分散液の作製)
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過硫酸アンモニウムを0.2部添加しておき、スチレン20部、メチルアクリレート17部、メチルメタクリレート30部およびアクリル酸5を入れたモノマー溶液を、反応容器に滴下して反応させてシェルポリマーを重合し作製した。その後、過硫酸カリウム0.2部、スチレン50部およびn−ブチルアクリレート22部混合液を滴下して70℃で攪拌しながら重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8〜8.5に調整して0.3μmのフィルターでろ過することによりコアシェル型ポリマー粒子分散液を作製した。
上記で得られたコアシェル型ポリマー粒子について、JIS K7121に準拠した示差走査熱量測定(DSC)を行い、コアポリマーを構成するポリマーおよびシェルポリマーを構成するポリマーのガラス転移温度Tg(℃)をそれぞれ求めた。示差走査熱量計には、セイコー電子株式会社製、型式「DSC6220」を使用した。
また、上記で得られたコアシェル型ポリマー粒子をマイクロトラックUPA(日機装株式会社)により測定して、コアシェル型ポリマー粒子の粒子径φ(nm)を求めた。
(インク組成物の調製)
(1)顔料分散液の調製
まず、攪拌機、温度計、還流管および滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルメタクリレート20部、2−エチルヘキシルメタクリレート5部、ブチルメタクリレート15部、ラウリルメタクリレート10部、メタクリル酸2部、t―ドデシルメルカプタン0.3部を入れて70℃に加熱し、別に用意したベンジルメタクリレート150部、アクリル酸15部、ブチルメタクリレート50部、t−ドデシルメルカプタン1部、メチルエチルケトン20部およびアゾビスイソブチロニトリル1部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の分散ポリマー溶液を作製した。
上記分散ポリマーの一部を取り、株式会社日立製作所製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をTHFとして測定したときのスチレン換算分子量は50000であった。また、分子量の分散(Mw/Mn)の値は3.1であった。
また、上記分散ポリマー溶液40部とシアン顔料としてクロモファインブルー C.I.Pigment Blue15:3(大日精化工業株式会社製、商品名)30部、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液100部、メチルエチルケトン30部を混合し、アルティマイザー25005(スギノマシン株式会社製)で8パスの分散処理を行った。その後、イオン交換水を300部添加して、ロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンの全量と水の一部を留去して、0.1mol/Lの水酸化ナトリウムで中和してpH9に調整した。シアン顔料の体積平均粒径を粒度分布計で測定しながら、体積平均粒径が100nmとなるまで分散してから、3μmのメンブレンフィルターでろ過して固形分(分散ポリマーと顔料)が20%である顔料分散液を得た。
(2)インク組成物の調製
容器に、上記で得られた顔料分散液を顔料濃度が2質量部となるように添加し、上記で得られたコアシェル型ポリマー粒子分散液を固形分濃度が1質量部となるように添加し、さらに1,2−ヘキサンジオール6質量部、2−ピロリドン19質量部、プロピレングリコール10質量部、界面活性剤(ビックケミー株式会社製、商品名「BYK−348」)1質量部、純水を合計100質量部となるように添加して、マグネチックスターラーで2時間混合撹拌した後、孔径5μmのPTFE製メンブランフィルターを用いてろ過することによりインク組成物を得た。
(実施例2〜9、比較例1〜4)
コアシェル型ポリマー粒子を作製する際の、コアポリマーおよびシェルポリマーのモノマー組成を表1に記載の通りに変更した以外は、上記実施例1と同様にしてコアシェル型ポリマー粒子を作製し、上記実施例1と同様にして評価した。
(評価結果)
各実施例および各比較例で作製したコアポリマーおよびシェルポリマーのモノマー組成、重合体粒子の物性(粒子径φ、コアポリマーおよびシェルポリマーの量(%)、コアポリマーおよびシェルポリマーのTg、シェルポリマーの酸価、コアポリマーのTgとシェルポリマーのTgの差、コアポリマーおよびシェルポリマーの質量比)を表1に示した。
(評価方法)
(1)耐擦性試験
プリンターPX−G930(セイコーエプソン株式会社製)の一部を改造して、インクジェット記録時に記録媒体を加熱調節できるプリンターとした。このプリンターのインクカートリッジに上記で得られたインク組成物を充填した。そして、縦720dpi×横720dpiの解像度で、A4判塩ビコート紙上にインクを吐出し、乾燥することにより、シアンフルベタの印刷サンプルを作製した。なお、インクジェット記録時に100℃で記録媒体を加熱することにより乾燥させた。その後、この印刷サンプルを16時間室温で放置した。
次いで、得られた印刷サンプルについて、学振型摩擦堅牢度試験機AB−301(テスター産業株式会社製)を用いて、500gの荷重で50往復の試験(JIS P 8136)を行った。金巾3号布を用い、乾摩擦試験と湿摩擦試験の両方を行った。試験サンプル幅2cm、ストローク12cmの試験において、試験を0〜10の11段階で評価した。なお、評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に併せて示す。
(評価基準)
10:傷または剥離がないもの。
9:ストローク面積の1%以下の傷または剥離があるもの。
8:ストローク面積の1%以上3%未満の傷または剥離があるもの。
7:ストローク面積の3%以上5%未満の傷または剥離があるもの。
6:ストローク面積の5%以上10%未満の傷または剥離があるもの。
5:ストローク面積の10%以上20%未満の傷または剥離があるもの。
4:ストローク面積の20%以上40%未満の傷または剥離があるもの。
3:ストローク面積の40%以上60%未満の傷または剥離があるもの。
2:ストローク面積の60%以上80%未満の傷または剥離があるもの。
1:ストローク面積の80%以上100%未満の傷または剥離があるもの。
0:ストローク面積の全体が剥離したもの。
(2)吐出安定性試験1
上記の印刷サンプルの作製と同様にして、温度40℃相対湿度20%の環境下で連続印字を行い、吐出安定性の試験を行った。「吐出安定性」とは、ノズルの目詰まりがなく常に安定したインクの液滴がノズルから吐出される性質をいう。評価基準は以下の通りである。評価結果を表1に併せて示す。
(評価基準)
A:8時間の連続吐出試験中に1度も不吐出や吐出乱れ等が観察されない。
B:8時間の連続吐出試験中に2時間以上8時間未満不吐出や吐出乱れ等が観察されない。
C:8時間の連続吐出試験中に1時間以上2時間未満不吐出や吐出乱れ等が観察されない。
C:8時間の連続吐出試験中に1時間未満で不吐出や吐出乱れ等が観察される。
(3)吐出安定性試験2
実施例1で使用したプリンターを用いて、温度40%相対湿度20%の環境下で間欠印刷時における吐出安定性の評価を行った。まず、すべてのノズルから正常にインクが吐出されることを確認した。そして、温度40%相対湿度20%の環境下で2分間の休止時間を設け、その後の1滴目の吐出において、狙い値からのドットの位置ずれを光学顕微鏡で測定した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に併せて示す。
(評価基準)
A:ドットの位置ずれが10μm以下
B:ドットの位置ずれが10μmを越え20μm以下
C:ドットの位置ずれが20μmを超え30μm以下
D:ドットの位置ずれが30μmを超える
実施例1〜9のインクジェット記録用インク組成物は、記録ヘッドのノズルからの吐出安定性が良好となり、かつ記録媒体上に記録された画像の耐擦性が良好となる結果が得られた。なお、実施例のインク組成物において耐擦性が向上した事実は、同時に定着性をも向上したことを示している。
比較例1のインクジェット記録用インク組成物は、実施例1と異なり、実施例1の材料に乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を1部添加して重合を行う既知の方法による乳化重合を用いているので粒子径が150nmと大きく、このポリマー粒子では十分な耐擦性および吐出安定性が得られない。
比較例2のインクジェット記録用インク組成物は、ソープフリー重合であるが、開始剤の量を5分の1に減らして、重合時間を3倍にして重合を行ったので、粒子径が大きく85nmであるので、十分な耐擦性および吐出安定性が得られない。
比較例3のインクジェット記録用インク組成物は、開始剤の量を10倍増やしてって重合時間を5分の1と短くして重合を行ったので、粒子径が9nmと小さく、十分な耐擦性および吐出安定性が得られない。
比較例4のインクジェット記録用インク組成物は、コアポリマーに酸価を有しているので特に十分な耐擦性が得られず、吐出安定性も悪い。
比較例5のインクジェット記録用インク組成物は、コアポリマーおよびシェルポリマーいずれのTgも60℃以上であるので、耐擦性は良好であるが十分な吐出安定性は得られない。
比較例6のインクジェット記録用インク組成物は、コアポリマーおよびシェルポリマーいずれのTgも60℃未満であるので、十分な耐擦性が得られず、吐出安定性も悪い。

Claims (10)

  1. 色材と水とポリマー粒子とを含むインク組成物であって、
    前記ポリマー粒子はコアポリマーとシェルポリマーとを有するコア−シェル構造を有し、
    前記ポリマー粒子の平均粒子径が10nm〜80nmであり、
    前記コアポリマーのガラス転移温度は60℃未満であり、前記シェルポリマーのガラス転移温度は60℃以上であり、
    前記コアポリマーは構成単位として少なくともビニル基を有する芳香族モノマーを含む、
    インク組成物。
  2. 加熱された記録媒体に記録される、
    請求項1記載のインク組成物。
  3. 前記シェルポリマーは構成単位として芳香族モノマーを含み、前記シェルポリマーは酸価を有し、前記コアポリマーは酸価を有しない
    請求項1又は2に記載のインク組成物。
  4. 前記ポリマー粒子は、乳化剤を実質的に用いずに合成されたものである、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載のインク組成物。
  5. 環状窒素化合物又は非プロトン性極性溶媒を含み、前記記録媒体はポリ塩化ビニルである、
    請求項1〜4のいずれか一項に記載のインク組成物。
  6. 前記コアポリマーは窒素含有モノマーを含み、前記記録媒体はポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレンである、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク組成物。
  7. 前記シェルポリマーは構成単位として(メタ)アクリル酸を含む、
    請求項1〜6のいずれか一項に記載のインク組成物。
  8. 前記シェルポリマーの酸価は20mgKOH/g〜120mgKOH/gである、
    請求項1〜7のいずれか一項に記載のインク組成物。
  9. 請求項1〜8のいずれかに一項に記載のインク組成物と、前記インク組成物を吐出する吐出ヘッドと、を備えた記録装置。
  10. 前記吐出ヘッドは、インク組成物を吐出するノズルを備え、一つの前記ノズルから前記インク組成物のドットをマルチサイズに吐出出来るものである、請求項9に記載の記録装置。
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