JP2015134402A - ラッピング用樹脂定盤及びそれを用いたラッピング方法 - Google Patents

ラッピング用樹脂定盤及びそれを用いたラッピング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ラッピングレートが高く、しかも被研磨物表面へのスクラッチの発生を抑制できるラッピング用の樹脂定盤および該定盤を用いたラッピング方法を提供する。【解決手段】熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、開孔率が10〜50%であり、かつヤング率が7.0?107〜5.0?108N/m2である樹脂シート110を備える、ラッピング用樹脂定盤100を提供する。【選択図】図1

Description

本発明は、ラッピング用樹脂定盤及びそれを用いたラッピング方法に関する。
近年、次世代パワー半導体素子材料として、ワイドバンドギャップ半導体である炭化珪素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド、サファイア(Al23)及び窒化アルミニウム(AlN)などの材料が注目されている。例えば、炭化珪素(SiC)はSi半導体と比べてバンドギャップが3倍であり、絶縁破壊電界強度が約7倍である等優れた物性値を有しており、現在のシリコン半導体に比べ高温動作性に優れ、小型で省エネ効果も高いといった点で優れている。また、サファイアウエハについては、その化学的安定性、光学的特性(透明性)、機械的強度、熱的特性(熱伝導性良)等から、光学的要素を持った電子機器、例えば高性能オーバーヘッドプロジェクター用部品としての重要性が高まりつつある。これらの次世代パワーデバイスの本格的普及に向けて、基板の大口径化・量産化が進められ、それに伴い、基板加工技術の重要性も増している。その加工プロセスでは、Siと同様に、ウエハに用いる円柱状単結晶(インゴット)をスライスすることで円盤状に切り出す。次に、スライスした円盤状単結晶の表面を平坦化するが、まずは、その表面の粗さを大まかに取り除くための、ラッピング定盤を用いてラッピング加工を行う。その後、円盤状単結晶の表面の平坦性を更に向上させ、かつ、表面の微細な傷を除去して鏡面化するためのポリシング加工を行う。したがって、ラッピング加工により円盤状単結晶表面の平坦性を高め、かつ微細な傷を少なくすることは、その後のポリシング加工に影響を与えるために重要である。
従来、SiCはSiに比べて遙かに硬質であって、しかも化学的・熱的にも安定な材質であるため、Siのラッピング加工に用いられる一般的な砥粒や、Siを対象とした場合にダメージ層の除去に用いられるウェットエッチングをSiCの加工に採用するのは困難である。そのため、化学機械研磨(CMP)に頼らざるを得ず、その結果、SiCの加工には長時間を要し、生産性が低下することになる。また、サファイアも、ダイヤモンド、炭化珪素に次ぐ修正モース硬度を有しており、薬品に対する耐性が高く、加工が極めて難しい。
そこで、SiC等の高硬度・脆性・難削材料のラッピング加工には、鋳鉄及びセラミック基板等の硬度の高いラッピング定盤が用いられている。また、近年では、円盤状単結晶表面の平坦性を高め、かつ微細な傷を少なくするために、銅、樹脂銅及び錫等の金属系定盤を用い、その定盤とダイヤモンド砥粒とを組み合わせたラッピング加工(以下、「ダイヤモンドラッピング」ともいう。)が採用されている。銅、樹脂銅及び錫等などの定盤は、鋳鉄等よりも軟質であり、ダイヤモンド砥粒を遊離砥粒の状態で用いても、その砥粒が定盤表面に埋め込まれるため、固定砥粒と同様の作用効果を発揮する(例えば、特許文献1参照)。さらに、砥粒を定盤表面に埋め込む時間を短縮するために、押圧部材に超音波振動を付与して砥粒を定盤表面に埋め込む手段が開示されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
特開2007−61961号公報 特開2008−238398号公報 特開2013−52455号公報
しかしながら、特許文献2及び3に記載の手段においては、押圧部材と定盤との間に挟まれる砥粒を、定盤表面に短時間で埋め込むことは可能であるものの、それらの間に挟まれていない砥粒を埋め込むことはできない。これでは、定盤全体に砥粒が均一に分散するのが困難となり、ラッピングレートが低下したり、SiCなどの被研磨物表面にスクラッチが生じやすくなったりする。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ラッピングレートが高く、しかも被研磨物表面へのスクラッチの発生を抑制できるラッピング用の定盤、及び、その定盤を用いたラッピング方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、金属系定盤よりも軟質であり、所定の弾性を有し、かつ所定の表面状態を有する特定の樹脂定盤を用いて、被研磨物にラッピング加工を施すことにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、開孔率が10〜50%であり、かつヤング率が7.0×107〜5.0×108N/m2である樹脂シートを備える、ラッピング用樹脂定盤を提供する。かかる樹脂定盤は、金属系定盤よりも軟質であり、適度な弾性を有するため、微粒子状のダイヤモンド砥粒を、容易にその研磨面に埋め込むことができる。そのため、ダイヤモンド砥粒の転動、及び、定盤の研磨面に埋め込まれたダイヤモンド砥粒の一部が大きく突出することを抑制できるので、被研磨物のスクラッチ発生を抑制できる。また、定盤の研磨面に埋め込まれたダイヤモンド砥粒をラッピングに有効に関与できる程度に突出させるので、高いラッピングレートを確保することができる。また、ダイヤモンド砥粒を含む研磨スラリを多く保持することができ、有効な研磨面の面積も確保できるので、ラッピングレートを高くすることが可能となる。本発明の樹脂定盤において、樹脂シートは研磨面を有し、研磨面に溝が形成されていると好ましい。
本発明は、ダイヤモンド砥粒の存在下、請求項1〜4のいずれか1項に記載のラッピング用樹脂定盤により被研磨物にラッピング加工を施すラッピング方法を提供する。被研磨物は、炭化珪素、サファイア、窒化珪素、又は、窒化ガリウム基板であると好ましく、ダイヤモンド砥粒は、研磨スラリに含まれた状態で、ラッピング用樹脂定盤と被研磨物との間に供給されると好ましく、ダイヤモンド砥粒の少なくとも一部は、ラッピング用樹脂定盤に、その研磨面側から埋め込まれていると好ましく、ダイヤモンド砥粒の平均粒径が1.0〜10μmであるとより好ましい。
本発明によれば、ラッピングレートが高く、しかも被研磨物表面へのスクラッチの発生を抑制できるラッピング用の定盤、及び、その定盤を用いたラッピング方法を提供することができる。
本発明のラッピング用樹脂定盤の一例を模式的に示す断面図である。 実施例に係る樹脂シートの研磨面を示すSEM画像である。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
本実施形態のラッピング用樹脂定盤(以下、単に「樹脂定盤」という。)は、熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、開孔率が10〜50%であり、かつヤング率が7.0×107〜5.0×108N/m2である樹脂シートを備える。図1は、本実施形態の樹脂定盤を模式的に示す断面図である。本実施形態の樹脂定盤100は、樹脂シート110を備える。樹脂定盤100の研磨面Sには溝130が形成されており、樹脂シート110には、ラッピング加工の前及び/又はラッピング加工時に、研磨面S側からダイヤモンド砥粒120が埋め込まれてもよい。なお、本明細書において「ラッピング」とは、遊離砥粒を分散させた研磨剤を工作物(被研磨物)と工具(ラップ;樹脂定盤)との間に介在させた状態で、両者を擦り合わせる運動を行う研磨法を意味する。
樹脂シート110は、弾性を示すものであり、研磨面Sを有する。樹脂シート110は熱硬化性ポリウレタン樹脂を含むものであり、その含有割合は、樹脂シート110を構成する樹脂の全体量に対して、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。樹脂シート110は、熱硬化性ポリウレタン樹脂以外の熱硬化性樹脂やその他の樹脂を、本発明の目的達成を阻害しない範囲で含んでもよい。
熱硬化性ポリウレタン樹脂としては、例えば、熱硬化性の、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
熱硬化性ポリウレタン樹脂は、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。
樹脂シート110は、好ましくは、イソシアネート基含有化合物を主成分としており、ラッピング加工時に被研磨物の被研磨面(加工面)に当接し得る研磨面Sを有している。樹脂シート110は、イソシアネート基含有化合物と活性水素化合物とを混合した混合液から形成された熱硬化性ポリウレタン樹脂成形体にスライス処理やバフ等の表面研削処理を施すことで形成される。
本実施形態に係る樹脂シート110の厚さは特に限定されないが、0.5〜20.0mmであると好ましい。厚さが上記下限値以上であることにより、樹脂定盤の寿命が長くなる効果をより有効かつ確実に奏することができ、上記上限値以下であることにより、より有効かつ確実に取り扱いやすくなる。
本実施形態に係る樹脂シート110の開孔率は、10〜50%であり、10〜45%であると好ましく、15〜40%であるとより好ましい。開孔率が10%以上であることにより、樹脂シート110がダイヤモンド砥粒を含む研磨スラリ(以下、単に「スラリ」ともいう。)を保持する量を高めることができるので、ラッピングレートを向上させることが可能となる。一方、開孔率が50%以下であることにより、樹脂シート110の研磨面Sにおいて開孔の占める割合を抑制できるので、研磨面Sの研磨に寄与する部分(樹脂が存在する部分)の面積を大きくすることができる結果、ラッピングレートを高めることが可能となる。樹脂シート110の開孔率は、特にラッピングレートを更に向上させる観点から、20%以上であると好ましく、25%以上であるとより好ましい。
樹脂シート110の開孔率は、例えば、開孔を形成するもの(発泡剤、分散液、微小中空球体など)の種類や量を調整することにより制御することができる。また、樹脂シート110の開孔率は、下記のようにして測定される。すなわち、まず、樹脂シート110の研磨面Sの任意に選択した1.0mm×1.4mmの矩形領域を、レーザー顕微鏡(例えばKEYENCE社製商品名「VK−X105」)で200倍に拡大して観察し、その画像を得る。次いで、得られた画像を画像解析ソフト(例えば三谷商事株式会社製商品名「WinRoof」)により二値化処理することで、開孔とそれ以外の部分とを区別する。そして、区別した開孔部分の面積の総和を観察した面積範囲で除し100を乗じたものを開孔率(%)とする。
本実施形態に係る樹脂シート110の平均開孔径は、10〜80μmであると好ましく、15〜55μmであるとより好ましく、20〜55μmであると更に好ましく、20〜50μmであると特に好ましい。平均開孔径が15μm以上であることにより、樹脂シート110がダイヤモンド砥粒を含むスラリを保持する量を高めやすくなるので、ラッピングレートを向上させることが可能となる。一方、平均開孔径が55μm以下であることにより、樹脂シート110の研磨面Sにおいて大きな開孔が存在し難くなるので、被研磨物表面の平坦性を向上させたり研磨ムラを低減させるなど、研磨品質をより高めることができる。さらに、上記範囲の平均開孔径を有することで、被研磨物に対しスラリをより十分に供給することができるため、ラッピング中にスラリの不足などにより発熱が生じて、樹脂シート110の研磨面(ラッピング面)Sが変色し、組織・構造・材料特性が変化するラップ焼けを抑制することができ、被研磨物の表面粗さを向上させることができる。樹脂シート110の平均開孔径は、特にラッピングレートを一層向上させる観点から、50〜80μmであると好ましく、55〜70μmであるとより好ましい。樹脂シート110の平均開孔径は、例えば、後述の反応(架橋硬化)時の撹拌の程度(例えば撹拌回転数)や温度を調整することにより制御することができる。また、樹脂シート110の平均開孔径は、下記のようにして測定される。すなわち、まず、開孔率を導き出す場合と同様にして、樹脂シート110の研磨面Sの画像を得て、開孔とそれ以外の部分とを区別する。そして、区別した各々の開孔の面積から円相当径、すなわち開孔が真円であると仮定して開孔径を算出する。そして、各々の開孔の開孔径(10μm未満の開孔径は除外する。)を相加平均して平均開孔径(μm)とする。
本実施形態に係る樹脂シート110のヤング率は、7.0×107〜5.0×108N/m2である。ヤング率が7.0×107N/m2以上であることにより、樹脂シート110がダイヤモンド砥粒を完全に埋没させるのを抑制し、適度にダイヤモンド砥粒を部分的に樹脂シート110の研磨面から突出させることができるため、ラッピングを良好に行うことが可能となり、ラッピングレートを高めることができる。一方、ヤング率が5.0×108N/m2以下であることにより、ダイヤモンド砥粒が研磨面から過剰に突出するのを防ぐことができるため、一部の過剰に突出したダイヤモンド砥粒による被研磨物におけるスクラッチの発生を抑制することができる。また、ダイヤモンド砥粒を良好に保持することができるため、ダイヤモンド砥粒の転動に伴う被研磨物におけるスクラッチの発生も抑制することが可能となる。樹脂シート110のヤング率は、特に被研磨物におけるスクラッチの発生を一層抑制する観点から、7.0×107〜3.0×108N/m2であると好ましく、8.5×107〜2.5×108N/m2であるとより好ましく、1.0×108〜2.0×108N/m2であると更に好ましく、1.1×108〜1.8×108N/m2であると特に好ましい。また、樹脂シート110のヤング率は、特にラッピングレートを更に高める観点から、2.5×108〜5.0×108N/m2であると好ましく、3.0×108〜5.0×108N/m2であるとより好ましく、3.3×108〜4.8×108N/m2であると更に好ましく、3.5×108〜4.5×108N/m2であると特に好ましい。
樹脂シート110のヤング率は、例えば、使用する樹脂の当量(イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量など)や樹脂シート110の密度を調整することにより制御することができる。また、樹脂シート110のヤング率は、下記のようにして測定される。すなわち、まず、樹脂シート110の一部(10mm×30mm。厚さは樹脂シート110の厚さと同じ。)を試験片として準備して、微小強度評価試験機(例えば株式会社島津製作所製商品名「マイクロオートグラフMST−I」)の所定位置に設置する。続いて、室温にて、試験速度1.5mm/分の条件で測定を行い、歪みを求める。この際、10gf〜100gfの範囲の引張荷重について、それぞれの変位を求め、最小二乗法により直線近似した際の係数から、ヤング率(N/m2)を求める。
本実施形態に係る樹脂シート110は、ショアD硬度が40〜70であると好ましく、45〜60であるとより好ましい。ショアD硬度が40以上であることにより、ラッピングレートをより高めることができ、また、ラッピング加工により被研磨物にロールオフ(外周ダレ)が生じるのを有効かつ確実に防止することができる。一方、ショアD硬度が70以下であることにより、スクラッチの発生をより有効に抑制することができる。樹脂シート110のショアD硬度は、例えば、樹脂の当量(イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量)を調整することにより制御することができる。ショアD硬度は、JIS−K6253(2012)に準拠して測定される。樹脂シート110のショアD硬度は、特にスクラッチの発生をより抑制する観点から、65以下であると好ましく、58以下であるとより好ましく、53以下であると更に好ましい。また、樹脂シート110のショアD硬度は、特にラッピングレートを一層高める観点から、57以上であると好ましく、62以上であるとより好ましい。
本実施形態に係る樹脂シート110の圧縮率は、1.5%以下であると好ましく、1.2%以下であるとより好ましい。圧縮率が上記上限値以下であることにより、ラッピングレートをより高めることができ、また、ロールオフをより有効かつ確実に低減することができる。樹脂シート110の圧縮率は、特にラッピングレートを更に向上させる観点から、0.5%以上であると好ましく、0.8%以上であるとより好ましく、0.9%以上であると更に好ましい。樹脂シート110の圧縮率は、例えば、イソシアネート末端ウレタンプレポリマのNCO当量及び/又は空隙率を調整することにより制御することができる。
本実施形態に係る樹脂シート110の密度(かさ密度)は、0.50〜1.15g/cm3であると好ましく、0.65〜1.05g/cm3であるとより好ましく、0.70〜1.00g/cm3であると更に好ましい。密度が0.55g/cm3以上であることにより、樹脂シート110がダイヤモンド砥粒を完全に埋没させるのをより抑制し、更に樹脂シート110の研磨面からの突出高さを揃えることができるため、ラッピングをより良好に行うことが可能となり、ラッピングレートを更に高めることができる。一方、密度が1.15g/cm3以下であることにより、ダイヤモンド砥粒が研磨面から過剰に突出するのをより有効に防ぐことができるため、一部の過剰に突出したダイヤモンド砥粒による被研磨物におけるスクラッチや加工変質層の発生を更に抑制することができる。また、ダイヤモンド砥粒をより良好に固定化、保持することができるため、ダイヤモンド砥粒の転動に伴う被研磨物におけるスクラッチの発生を更に抑制することが可能となる。樹脂シート110の密度は、所定の寸法に切り出した樹脂シート110を試験片として、その試験片の質量と寸法(体積)から求めることができる。
研磨面Sには、溝130が形成されている。この溝130は、ダイヤモンド砥粒をより有効かつ確実に研磨面S上に留めたり、ラッピング加工時に発生する研磨屑をより確実に排出したりするために設けられる。溝130の平面形状(図1の上側から見た形状)としては、例えば、螺旋状、同心円状、放射状及び格子状が挙げられ、これらのうち2種以上を組み合わせたものであってもよい。これらの中では、供給されたダイヤモンド砥粒をより効率的に樹脂定盤100の研磨面S全体に分散させる観点、及び、研磨屑をより速やかに系外に排出する観点から、平面形状は螺旋状であると好ましい。また、溝130の断面形状は、図1に示すようにV字状であってもよく、あるいは、矩形状、U字状又は半円状であってもよい。
溝130の深さは、樹脂シート110の厚さの50〜80%であると好ましく、60〜80%であるとより好ましい。溝130の深さが上記下限値以上であることにより、研磨スラリの循環性を向上することができると共に樹脂定盤の寿命をも向上することが可能となり、上記上限値以下であることにより、強度維持の効果をより有効かつ確実に奏することができる。また、溝130の幅は、0.3〜3.0mmであると好ましく、0.5〜2.0mmであるとより好ましい。さらには、溝130のピッチ(隣り合う溝の幅方向中央同士の距離)は、0.6〜6.0mmであると好ましく、1.0〜4.0mmであるとより好ましい。これら、溝130の深さ、幅及びピッチは、同じ研磨定盤100内において一定であってもよく、部分的に異なっていてもよい。
樹脂シート110が樹脂製であるため、溝130は、通常の切削加工などにより、所望のパターン及び形状に容易に形成することができる。
ダイヤモンド砥粒120は、研磨面S側から樹脂シート110に埋め込まれ、その少なくとも一部は研磨面Sから露出している。ダイヤモンド砥粒120は、通常のダイヤモンドラッピング加工に用いられるものであれば特に限定されず、天然又は人造の単結晶ダイヤモンド又は多結晶ダイヤモンドなどが挙げられる。ダイヤモンド砥粒120の形状は特に限定されず、ダイヤモンド砥粒120の平均粒径も特に限定されないが、1.0〜10.0μmであると好ましく、1.5〜5.0μmであるとより好ましい。ダイヤモンド砥粒120の平均粒径が上記下限値以上であることにより、ダイヤモンド砥粒120の埋没をより抑制しつつ研磨レートの向上と表面品質とを両立させることができ、上記上限値以下であることにより、ダイヤモンド砥粒120の突き出し量が過剰にならないので、被研磨物の表面にスクラッチ等が発生して、その表面の品質が低下するのをより抑制することができる。なお、ダイヤモンド砥粒120の樹脂定盤100への埋め込み量は、被研磨物の材質や必要とされる研磨の程度によって適宜調整すればよい。
本実施形態の樹脂定盤100は、例えば下記のようにして製造される。すなわち、本実施形態の樹脂定盤100の製造方法の一例は、イソシアネート基含有化合物と、活性水素化合物とをそれぞれ準備する原料準備工程と、イソシアネート基含有化合物と活性水素化合物とを混合した混合液を調製する混合工程と、混合液を型枠に注型する注型工程と、型枠内で熱硬化性ポリウレタン成形体を形成する硬化成型工程と、熱硬化性ポリウレタン成形体にスライス処理及び/又は表面研削処理を施す表面処理工程と、表面処理後の熱硬化性ポリウレタン成形体に溝を形成する溝形成工程とを有する。
(原料準備工程)
原料準備工程においては、熱硬化性ポリウレタン樹脂の原料であるイソシアネート基含有化合物及び活性水素化合物をそれぞれ準備する。イソシアネート基含有化合物としては、分子内に2つ以上の水酸基を有するポリオール化合物と、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物とを反応させることで生成したイソシアネート末端ウレタンプレポリマ(以下、単に、「プレポリマ」と略記する。)が好ましい。ポリオール化合物とジイソシアネート化合物とを反応させる際に、イソシアネート基のモル量を水酸基のモル量よりも大きくすることで、プレポリマを得ることができる。
プレポリマの生成に用いられるジイソシアネート化合物としては、例えば、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(2,6−TDI)、2,4−トリレンジイソシアネート(2,4−TDI)、ナフタレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、3,3’−ジメチルジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、キシリレン−1,4−ジイソシアネート、4,4’−ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、プロピレン−1,2−ジイソシアネート、ブチレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,2−ジイソシアネート、シクロヘキシレン−1,4−ジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(水添MDI)、p−フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン−1,4−ジイソチオシアネート及びエチリジンジイソチオシアネートが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
一方、プレポリマの生成に用いられるポリオール化合物としては、ジオール化合物及びトリオール化合物等の水酸基を複数有する化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール及びトリメチロールプロパン等の低分子量のポリオール化合物、並びに、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)等の(ポリ)エーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物及びブチレングリコールとアジピン酸との反応物等の(ポリ)エステルポリオール化合物、(ポリ)カーボネートポリオール化合物及び(ポリ)カプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
プレポリマのNCO当量(イソシアネート当量)は、190〜500であると好ましく、300〜500であるとより好ましい。NCO当量をこの範囲に調整することにより、樹脂シート110に適度な弾性を付与することができるので、ダイヤモンド砥粒120の埋め込みが更に容易になると共に、その遊離がより抑制される。
活性水素化合物としては、プレポリマの末端イソシアネート基と反応する活性水素基を有していればよく、例えば、ポリアミン化合物及びポリオール化合物が挙げられる。活性水素化合物は、プレポリマのイソシアネート基と反応することでハードセグメント(高融点で剛直性を付与するウレタン結合部)を形成する。ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(以下、「MOCA」と略記する。)及びMOCAと同様の構造を有するポリアミン化合物が挙げられる。また、ポリアミン化合物が水酸基を有していてもよく、そのような化合物として、例えば、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン及びジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミンが挙げられる。
一方、ポリオール化合物としては、ジオール化合物及びトリオール化合物等の水酸基を複数有する化合物であればよく、例えば、エチレングリコール、ブチレングリコール及びヘキサンジオール等の低分子量のポリオール化合物、並びに、ポリプロピレングリコール等の(ポリ)エーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物及びブチレングリコールとアジピン酸との反応物等の(ポリ)エステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物及びポリカプロラクトンポリオール化合物等の高分子量のポリオール化合物が挙げられる。活性水素化合物としては、ポリアミン化合物及びポリオール化合物の少なくとも一方を用いればよく、ポリアミン化合物及びポリオール化合物の2種以上を併用してもよい。
これらの活性水素化合物の中では、本発明の目的をより有効かつ確実に奏する観点から、MOCAが好ましい。ここで、MOCAとしては、固形MOCAと粗製MOCAとが知られている。固形MOCAは、室温で固体形状の純粋なMOCAを意味する。粗製MOCAは、MOCAのモノマー(単量体)とMOCAの多量体との混合物であり、好ましくは多量体の比率が15質量%以上のものが用いられる。多量体の比率は10〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることが更に好ましい。多量体の例としては、MOCAの二量体、三量体及び四量体が挙げられる。粗製MOCAは反応速度の制御が容易であり、結果として、発泡体全体の物性(例えば、密度及び硬度など)の均一性を得やすい。
本明細書において、「固形MOCA」及び「粗製MOCA」という用語を用いた場合には、上記の固形MOCA及び粗製MOCAをそれぞれ意味するものする。
また、必要に応じて、原料として分散液を準備してもよい。分散液は、樹脂シート110内の発泡状態を調整するためのものであり、樹脂シート110に存在する発泡(例えば、研磨面Sの開孔や樹脂シート110内部に存在する気泡)の発泡径や発泡均一性の制御のために用いられる。したがって、そのような目的を達成できるようなものであれば、分散液は特に限定されない。例えば、分散液は、水と、触媒と、界面活性剤とを含有するものであってもよく、必要に応じて更に上記の活性水素化合物、難燃剤、着色剤、可塑剤等を含有してもよい。
水分散液に含まれる水は、不純物の混入を防止する観点から蒸留水が好ましい。水の使用量は、プレポリマ1000質量部に対して0.1〜6質量部であると好ましく、0.5〜5質量部であるとより好ましく、1〜3質量部であると更に好ましい。
触媒としては、ウレタン化反応を促進するものであれば特に限定されず、公知のものであってもよく、例えば、3級アミン、アルコールアミン及びエーテルアミンなどのアミン系触媒、酢酸塩(カリウム、カルシウム)、並びに有機金属触媒が挙げられる。触媒の使用量は、プレポリマ1000質量部に対して0.01〜5質量部であると好ましく、0.5〜3質量部であるとより好ましい。
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、両イオン系及びノニオン系の界面活性剤のいずれであってもよく、フッ素系又はシリコーン系の界面活性剤であってもよい。より具体的には、ポリエーテル変性シリコーンが挙げられる。界面活性剤の使用量は、プレポリマ1000質量部に対して0.1〜10質量部であると好ましく、0.5〜7質量部であるとより好ましい。
また、必要に応じて、原料として微小中空球体を準備してもよい。微小中空球体を用いることによっても、樹脂シート110の研磨面Sに微小中空球体由来の開孔が形成され、ラッピング加工時に供給されるスラリが開孔内に保持されつつ、被研磨物の被研磨面を略均一に移動することでラッピング加工に寄与することができる。すなわち、スラリの分散供給が均一化されるため、ラッピング効率や精度等のラッピング特性を安定化させることができる。また、樹脂シート110における独泡率を高め、これによりスラリや研磨屑のパッド内部への浸透が抑えられ、砥粒や研磨屑の凝集、固化によるスクラッチの発生を防止することができる。
微小中空球体とは、熱可塑性樹脂からなる外殻(ポリマー殻)と、外殻に内包される低沸点炭化水素とからなる未発泡の加熱膨張性微小球状体を、加熱膨張させたものをいう。ポリマー殻としては、特開昭57−137323号公報等に開示されているように、例えば、アクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル−メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル−エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂が挙げられる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテルが挙げられる。より具体的には、ポリマー殻部分がアクリロニトリル−塩化ビニリデン共重合体からなり、該殻内にイソブタンガスが内包されたもの(エクスパンセル社製商品名「EXPANCEL461DE」(粒径:20〜40μm)、商品名「EXPANCEL551DE」(粒径:30〜50μm)が挙げられる。微小中空球体の粒径に特に制限はなく、樹脂シート110が上記各物性を有するように、適宜調整すればよい。
また、微小中空球体の使用量は、樹脂シート110の硬度及び弾性率を所定の範囲内に収める観点から、全原料100質量%に対して1〜10質量%であると好ましく、2〜4質量%であるとより好ましい。
さらに、上記の各原料以外に、本発明による目的の達成を阻害しない範囲において、従来の研磨パッドにおける樹脂シートに用いられている発泡剤を用いてもよい。発泡剤としては、例えば、水や、炭素数5又は6の炭化水素を主成分とする発泡剤が挙げられる。該炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、n−ヘキサンなどの鎖状炭化水素や、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素が挙げられる。
(混合工程、注型工程、硬化成型工程)
混合工程では、準備工程で準備したイソシアネート基含有化合物と活性水素化合物と、必要に応じて、分散液、微小中空球体及び発泡剤等とを混合して混合液を調製する。このとき、活性水素化合物、例えばMOCA、を予め有機溶媒に溶解した状態でイソシアネート基含有化合物と混合することが好ましい。活性水素化合物を予め有機溶媒に溶解した状態で混合することで、加温せずとも、流動性が高まるので混合ムラを一層抑制できる。有機溶媒としては、MOCAなどの良溶媒であれば特に限定されないが、例えば、(ポリ)エーテルポリオール化合物、エチレングリコールとアジピン酸との反応物及びブチレングリコールとアジピン酸との反応物等の(ポリ)エステルポリオール化合物、ポリカーボネートポリオール化合物及びポリカプロラクトンポリオール化合物等のジオール化合物が挙げられる。ジオール化合物を用いると、プレポリマとの結合が、比較的分子結合の弱い(例えばウレア結合よりも弱い)ウレタン結合になりやすくなり、ダイヤモンド砥粒120が、樹脂シート110に埋め込まれやすくなるので好ましい。中でも特に好ましい例として、ポリプロピレングリコールが挙げられる。また、有機溶媒と活性水素化合物との配合比は、有機溶媒:活性水素化合物の質量比で40:60〜60:40が好ましく、45:55〜55:45がより好ましい。また、混合工程において、上記各原料に対して非反応性の気体(例えば空気)を吹き込んでもよい。
注型工程では、混合工程で調製された混合液を型枠に注型する。さらに、硬化成型工程では、型枠内で、混合液中のイソシアネート基含有化合物と活性水素化合物とを反応及び硬化させて、ブロック状の熱硬化性ポリウレタン成形体を成型する。このとき、イソシアネート基含有化合物が活性水素化合物との反応により架橋硬化する。このときの温度は、例えば、所望の平均開孔径になるよう適宜制御すればよく、50〜120℃であってもよい。
混合液中のイソシアネート基含有化合物の含有割合は、特に限定されないが、本発明による効果をより有効かつ確実に奏する観点から、また、混合ムラを更に抑制する観点から、イソシアネート基含有化合物と活性水素化合物との合計量に対して、20.0〜60.0質量%であると好ましく、25.0〜50.0質量%であるとより好ましい。
これら混合工程、注型工程及び硬化成型工程は、ポリウレタン成形体を成型するための従来知られている装置を用いて、連続的に行われてもよい。
(表面処理工程)
表面処理工程では、硬化成型工程を経て得られた熱硬化性ポリウレタン成形体にスライス処理、及び/又は、バフ処理等の表面研削処理を施す。スライス処理では、一般的なスライス機を用いることができる。スライス処理では、例えば、直方体形状の熱硬化性ポリウレタン成形体を、その一面側で保持し、その一面に対向する面側から順に所定厚さにスライスする。スライスする厚さは、好ましくは樹脂シート110と同じ厚さである。樹脂シート110の厚さ精度を向上させるために、熱硬化性ポリウレタン成形体又はスライス処理後の熱硬化性ポリウレタン成形体にバフ処理等の表面研削処理を施してもよい。バフ処理では、一般的なバフ機を用いることができる。
(溝形成工程)
溝形成工程では、表面処理工程の後の熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に、溝130を形成する。溝130を形成する際に用いる加工方法としては、熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に溝を形成する加工方法として通常知られているものであってもよく、例えば、切削加工が挙げられる。例えば、切削加工を施す場合、ドリル刃を熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に対して平行に相対的に回転させながら、所望の平面形状になるように移動させて切削加工を施してもよく、円板刃を熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に対して垂直に相対的に回転させながら、所望の平面形状になるように移動させて切削加工を施してもよい。あるいは、切削バイトを熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に対して相対的に移動させて切削加工を施してもよい。これらの場合は、ドリル刃や円板刃の形状を適宜選択することにより、所望の断面形状を得ることができる。あるいは、レーザーを用いて、熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に所望の平面形状及び断面形状を有する溝を形成することもできる。
これらにより、熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に溝130が形成された本実施形態の樹脂定盤100が得られる。樹脂シート110は、上記溝形成工程の前又は後に、所望の平面形状を有するように裁断されてもよい。なお、樹脂定盤100を用いて被研磨物にラッピング加工を施す前に、樹脂定盤100の研磨面Sとは反対側の面に両面テープを貼り合わせて粘着層を設けたり、又は、接着剤を塗布して接着層を設けたりしてもよい。これらの粘着層や接着層は、樹脂定盤100をラッピング装置に装着するためのものである。
次に、本実施形態の樹脂定盤100を用いたラッピング方法の一例について説明する。そのラッピング方法は、ダイヤモンド砥粒120の存在下、樹脂定盤100により被研磨物にラッピング加工を施す方法である。
ラッピング方法は、ラッピング加工前に、樹脂定盤100にダイヤモンド砥粒120を埋め込む、砥粒埋め込み工程を有することが好ましい。砥粒埋め込み工程では、ダイヤモンド砥粒120を、樹脂定盤100の溝130を形成した側の表面、すなわち研磨面Sとなる面側から、樹脂定盤100に埋め込む。埋め込む方法としては、例えば、樹脂定盤100の上記表面にダイヤモンド砥粒120を所望の量となるように散布した後、樹脂定盤100の上記表面上に載置されたダイヤモンド砥粒120を樹脂定盤100の方に向けて所定の圧力で押圧して、砥粒を埋め込む(チャージングする)方法が挙げられ、例えば特開2007−61961号公報に記載されている方法であってもよい。押圧するのに用いられる手段としては、例えば、リテーナリングが挙げられる。ダイヤモンド砥粒120の散布は、ダイヤモンド砥粒120を単独で散布してもよいが、複数のダイヤモンド砥粒120同士が凝集するのを防ぐ観点から、ダイヤモンド砥粒120を分散剤に分散させた状態で塗布することで散布するのが好ましい。分散剤としては、通常のダイヤモンド砥粒分散液やダイヤモンド砥粒を含む研磨スラリに用いられる液であればよく、例えばグリセリンと水との混合液が挙げられる。
また、砥粒埋め込み工程は、樹脂定盤100を用いて被研磨物にラッピング加工を施す前に設けてもよいが、上記ラッピング加工の工程の際に設けてもよい。砥粒の埋め込みをラッピング加工と共に行う場合、ダイヤモンド砥粒120を含む研磨スラリを樹脂定盤100上に供給しながら、被研磨物によって樹脂定盤100上のダイヤモンド砥粒120を樹脂定盤100の方に押圧することによって埋め込むことができる。
ダイヤモンド砥粒120は、予め樹脂定盤100の研磨面Sに埋め込まれているが、それに加えて、ラッピング加工の際に新たに供給され、樹脂定盤100の研磨面Sに埋め込まれたものであってもよく、遊離しているもの(樹脂定盤100の研磨面に埋め込まれることなく遊離しているもの、及び/又は、一旦研磨面Sに埋め込まれていたが、その後遊離したもの)であってもよい。これらの結果、樹脂内部にダイヤモンド砥粒が内添される固定砥粒タイプの定盤と比べ、研磨表面のみに研削力の高い状態でダイヤモンド砥粒を密に固定化することができ、研磨レートを上げつつ、被研磨物の表面品質も上げることができる。
ラッピング方法では、まず、ラッピング装置の所定位置に樹脂定盤100を装着する。この装着の際には、上述の粘着層又は接着層を介して、樹脂定盤100がラッピング装置に固定されるよう装着される。そして、ラッピング定盤としての樹脂定盤100と対向するように配置された保持定盤に保持させた被研磨物を研磨面S側へ押し付けると共に、外部からダイヤモンド砥粒を含む研磨スラリを供給しながら、樹脂定盤100及び/又は保持定盤を回転させる。これにより、樹脂定盤100と被研磨物との間に供給され、樹脂定盤100の樹脂シート110に埋め込まれたダイヤモンド砥粒120の作用で、被研磨物の加工面(被研磨面)にラッピング加工を施す。この際、遊離したダイヤモンド砥粒120が樹脂定盤100の樹脂シート110上を摺動することにより、その樹脂シート110の研磨面Sに溝130よりは深さの浅い溝が形成されてもよい。
研磨スラリは、ダイヤモンド砥粒と、それを分散する分散剤とを含む。研磨スラリにおけるダイヤモンド砥粒の含有割合は特に限定されないが、ラッピング加工をより有効に行うと共に、被研磨物における加工変質層が厚くなるのを抑制する観点から、研磨スラリの全体量に対して0.01〜1.0質量%であると好ましい。
分散剤としては、例えば、水及び有機溶媒が挙げられ、被研磨物の変質をより抑制する観点から、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、炭化水素が好ましく、高沸点を有する炭化水素がより好ましい。炭化水素としては、例えば、パラフィン系炭化水素、オレフィン系炭化水素、芳香族系炭化水素及び脂環式炭化水素が挙げられる。高沸点を有する炭化水素としては、例えば、初留点220℃以上の石油系炭化水素が挙げられる。溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。また、溶媒には、本発明の目的の達成を阻害しない範囲で、その他の添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、例えば極性化合物が挙げられ、具体的には、非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、カルボン酸エステル、カルボン酸アミド及びカルボン酸が挙げられる。
なお、ラッピング加工時に樹脂定盤100と被研磨物との間の摩擦に伴う温度上昇を抑制する観点から、砥粒を含まず、添加剤を含んでもよい溶媒を樹脂定盤100の研磨面Sに適宜供給してもよい。その溶媒及び添加剤の例としては上記のものが挙げられる。
被研磨物は、従来、ラッピング加工を施されるものであれば特に限定されず、例えば、半導体ウエハ、磁気ディスク及び光学ガラスが挙げられる。これらの中では、本実施形態の樹脂定盤100による作用効果をより有効に活用できる観点から、半導体ウエハが好ましく、SiC基板又はGaN基板が好ましい。その材質としては、SiC単結晶及びGaN単結晶等の難削材が好ましいが、サファイア、窒化珪素の単結晶などであってもよい。
本実施形態によると、ラッピング定盤である樹脂定盤100は、金属系定盤よりも軟質であるため、ダイヤモンド砥粒120を容易に短時間でその研磨面S側から埋め込むことができ、また金属系定盤よりも弾性に富んでいるため、埋め込んだダイヤモンド砥粒120をその弾性により強力に保持することができる。さらには、遊離したダイヤモンド砥粒120は、樹脂シート110に埋め込まれていないものであっても、樹脂シート110の弾性により、被研磨物側よりも樹脂シート110側に押し込まれる。そのため、遊離したダイヤモンド砥粒120の転動、及び、樹脂定盤100の研磨面S側から樹脂シート110に埋め込まれたダイヤモンド砥粒120の一部が高く突出することを抑制できる。さらには、部分的に樹脂定盤100の被研磨物への押圧力が高くなって不均等になっても、樹脂シート110は、その弾性により被研磨物への追従性が良好となるため、不均等の程度を弱めることができる。それらの結果、被研磨物に対してダイヤモンド砥粒120を全体的に均等に当接することが可能になるので、ラッピングレートが高くなると共に、被研磨物におけるスクラッチの発生を低減することが可能となる。特に、被研磨物表面の凹凸に対する追従性が良好であるため、凸部だけでなく凹部に対しても樹脂シート110の研磨面Sが適度な圧力で当接する。その結果、凸部のラッピングと共に凹部のラッピングも(凸部に比べてラッピングレートは遅くなるものの)進行するので、凸部だけを選択的にラッピングした場合に生じ得る凸部の欠けも抑制可能となる。
また、ダイヤモンド砥粒120の転動を抑制でき、樹脂定盤100自体の摩耗性により研磨表面が常に砥粒を固定した状態に更新され、その結果、樹脂定盤100の加工能率を更に良好に維持することも可能となる。さらに、樹脂シート110に埋め込まれたダイヤモンド砥粒の突出部分はそれほど高くならないため、いわゆる加工変質層の発生を抑制することもできる。
また、本実施形態によると、樹脂定盤100は、従来ラッピング加工に用いられている金属系定盤よりも軽量である。金属の比重(真比重)は、例えば、鉄の比重が7.87、銅の比重が8.96、錫の比重が7.29であるのに対して、熱硬化性ポリウレタン樹脂の比重は、例えば、1.0〜1.3程度と非常の軽量である。そのため、定盤の取扱いが極めて容易である。例えば、樹脂定盤100をラッピング装置の所定位置に載置して下側から固定するだけでなく、樹脂定盤100を上側から固定することもできる。これにより、被研磨物に対して下側だけからラッピング加工を施すだけでなく、それに代えて、又は、それに加えて、被研磨物に対して上側からラッピング加工を施すことも可能である。また、金属系定盤は、ラッピング装置にネジ止め等により装着する必要があるが、樹脂定盤100は、上述のように両面テープや接着剤により装着することができ、この点でも取扱いが容易である。
さらには、銅や錫の定盤は金属系定盤の中では軟質であるものの、ラッピング加工時のラッピング定盤と被研磨物との摩擦により、40℃以上に加熱された場合に、容易に変形してしまう。一方、本実施形態の樹脂定盤100は、金属よりも耐熱性の高い熱硬化性ポリウレタン樹脂であるため、ラッピング加工時の上記摩擦により加熱されても、変形し難いものである。
また、本実施形態の樹脂定盤100を用いたラッピング加工では、ラッピング加工の間に適宜ダイヤモンド砥粒120を樹脂定盤100に供給することができる。そのため、ダイヤモンド砥粒120がラッピング加工に用いられることで被研磨物とともに加工屑として排出されても、新たなダイヤモンド砥粒120を樹脂定盤100に供給することが可能となり、被研磨物の被研磨面の均一な平坦性を、特にラッピング加工を中止することなく、更に高めることができる。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、密度は上述のようにして測定し、それ以外の各種物性の測定及びラッピング加工性能の評価は下記のようにして行った。
(圧縮率及び圧縮弾性率の測定)
圧縮率及び圧縮弾性率はJIS−L1021に準拠して、ショッパー型厚さ測定器(加圧面:直径1cmの円形)を用いて求めた。具体的には、室温において、無荷重の状態から初荷重を30秒間かけた後の厚さt0を測定し、次に厚さt0の状態から最終圧力をかけて、そのまま1分間放置後の厚さt1を測定した。更に厚さt1の状態から全ての荷重を除き、1分間放置後、再び初荷重を30秒間かけた後の厚さt0’を測定した。これらから、圧縮率及び圧縮弾性率を下記式:
圧縮率(%)=(t0−t1)/t0×100
圧縮弾性率(%)=(t0’−t2)/(t0−t2)×100
により算出した。このとき、初荷重は300g/cm2、最終圧力は1800g/cm2とした。
(ショアD硬度の測定)
硬度計(商品名「GS−702N」、テクロック社製)を用いて、JIS−K6253(2012)に準拠して、樹脂シートのショアD硬度を測定した。なお、試験片として、総厚さ4.5mm以上となるように必要に応じ樹脂シートを重ねたものを用いた。
(開孔率の測定)
まず、樹脂シートの研磨面の任意に選択した1.0mm×1.4mmの矩形領域を、レーザー顕微鏡(KEYENCE社製商品名「VK−X105」)で200倍に拡大して観察し、その画像を得た。次いで、得られた画像を画像解析ソフト(三谷商事株式会社製商品名「WinRoof」)により二値化処理することで、開孔とそれ以外の部分とを区別した。そして、区別した開孔とそれ以外の部分の各々の面積の比率から、開孔の割合を算出し、開孔率(%)とした。
(平均開孔径の測定)
開孔率を導き出す場合と同様にして、樹脂シートの研磨面の画像を得て、開孔とそれ以外の部分とを区別した。そして、区別した各々の開孔の面積から、開孔が真円であると仮定して開孔径を算出した。そして、各々の開孔の開孔径を相加平均して平均開孔径(μm)とした(ただし、画像処理時のノイズカットのために「カットオフ値」を10μmに設定したときの数値である)。
(ヤング率の測定)
まず、樹脂シートの一部を10mm×60mmの短冊型とした試験片を準備して、微小強度評価試験機(株式会社島津製作所製商品名「マイクロオートグラフMST−I」)の所定位置(クランプ間距離30mm)に設置した。続いて、室温にて、試験速度1.5mm/分の条件で引張試験を行い、歪みを求めた。この際、10gf〜100gfの範囲の複数の試験力について、それぞれの歪みを求め、最小二乗法により直線近似した際の係数から、ヤング率(N/m2)を求めた。
<ラッピング加工試験>
樹脂定盤をラッピング装置の所定位置にアクリル系接着剤を介して設置し、被研磨物としての2”の6H−SiC n型ウエハに対して、下記条件にてラッピング加工を施すラッピング加工試験を行った。なお、ラッピング加工試験の際には、まず、ダイヤモンド砥粒(平均粒径:3μm)0.1質量%と水及びグリセリンの混合液(分散剤)とからなる分散液を、樹脂定盤の表面に塗布しながら、セラミック製リング(リテーナリング)で所定時間押圧しダイヤモンド砥粒を樹脂定盤に埋め込んでから、ラッピング加工を実施した。リングの押圧時間(チャージング時間)は、比較例3において1時間、他の実施例及び比較例では10分間とした。
(ラッピング条件)
使用したラッピング装置機の定盤サイズ:直径380mm
溝:幅3mm、深さ0.8mm、ピッチ30mm、格子状の平面形状、U字状の断面形状
定盤回転数:80rpm
加工圧力:245g/cm2
ラッピング加工時間:1時間
(スクラッチ)
上記ラッピング加工試験後の被研磨物5枚の被研磨面のスクラッチを目視にて確認し、相対的に少ない場合から、相対的に多い場合まで、順に「◎」、「○」、「△」、「×」と評価した。
(ラッピングレート)
ラッピングレート(単位:μm/hr)は、上記ラッピング加工前後の被研磨物の質量減少から求めた研磨量、被研磨物の研磨面積及び比重から、ラッピングにより除去された厚さを算出し、時間当たりの除去された厚さとして評価した。
(表面粗さ)
上記ラッピング加工試験後の被研磨物を洗浄した後に、スピン乾燥した。次に、被研磨物の被研磨面について、うねりを補正した表面粗さRaを、非接触粗さ測定機(ザイゴ株式会社製商品名「NewView 5022」)を用いて測定した。
(プレポリマの準備)
イソシアネート基含有化合物として3種類のプレポリマを準備した。
(プレポリマ1)
ポリオール化合物として数平均分子量が約1000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール556質量部、ジエチレングリコール54質量部、トリメチロールプロパン2質量部を用い、ジイソシアネート化合物として2,4−トリレンジイソシアネート388質量部を用い、それらを反応させることによって、NCO当量が440である末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマを合成した。これを45℃に加熱して減圧下で脱泡した。
(プレポリマ2)
ポリオール化合物として数平均分子量が約1000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール284質量部、ジエチレングリコール64質量部を用い、ジイソシアネート化合物として、2,4−トリレンジイソシアネート279質量部を用い、それらを反応させることによって、NCO当量が440である末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマを合成した。これを45℃に加熱して減圧下で脱泡した。
(プレポリマ3)
ポリオール化合物として数平均分子量が約1000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール675質量部を用い、ジイソシアネート化合物として、2,4−トリレンジイソシアネート325質量部を用い、それらを反応させることによって、NCO当量が420である末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマを合成した。これを80℃に加熱して減圧下で脱泡した。
(実施例1)
活性水素化合物として固形MOCAを用い、その固形MOCAを120℃で加熱溶融させ、更に減圧脱泡して固形MOCA溶融液を得た。また、数平均分子量が約3000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール50質量部と、水0.5質量部と、触媒(東ソー株式会社製商品名「トヨキャットET」)0.7質量部と、シリコーン系界面活性剤(ダウコーニング社製商品名「SH 193」)5質量部とを撹拌混合して分散液を得た。次に、プレポリマ1と固形MOCA溶融液と分散液とを、それらの質量比がプレポリマ1:固形MOCA溶融液:分散液=100:20:6となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して混合液を得た。この際、撹拌条件を剪断回数:2815回、剪断速度:15708/秒の条件にし、混合槽内に空気を10L/分の流量で連続的に供給した。
得られた混合液を、内部空間が直方体である型枠(サイズ:1200mm×1200mm×20mm)に注型して、80℃にて硬化させた。形成された熱硬化性ポリウレタン成形体を型枠から抜き出し、厚さ1.3mmになるようスライス処理を施した。次に、スライス処理後の熱硬化性ポリウレタン成形体を、直径380mmの円状の平面形状に切り出した、そして、切り出した後の熱硬化性ポリウレタン成形体の表面に、切削バイトを用いて、上記<ラッピング加工試験>に記載した溝を形成して、樹脂定盤を得た。
(実施例2)
混合液を、プレポリマ1と固形MOCA溶融液と分散液とを、それらの質量比がプレポリマ1:固形MOCA溶融液:分散液=100:20:5となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して得られた混合液に代えた。それ以外は実施例1と同様にして樹脂定盤を得た。
(実施例3)
分散液に代えて、微小中空球体(エクスパンセル社製商品名「EXPANCEL551DE」)を用い、混合液を、プレポリマ1と固形MOCA溶融液と微小中空球体とを、それらの質量比がプレポリマ1:固形MOCA溶融液:微小中空球体=100:25:2.3となる割合で十分に混合して得られた混合液に代えた。それら以外は実施例1と同様にして樹脂定盤を得た。
(実施例4)
活性水素化合物として液状MOCAを用い、液状MOCA100質量部と、水0.01質量部と、触媒(東ソー株式会社製商品名「トヨキャットET」)0.3質量部と、シリコーン系界面活性剤(ダウコーニング社製商品名「SH 193」)0.3質量部とを撹拌混合して分散液を得た。次に、プレポリマ1と分散液とを、それらの質量比がプレポリマ1:分散液=100:62となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して混合液を得た。この際、撹拌条件を剪断回数:2815回、剪断速度:15708/秒の条件にし、混合槽内に空気を30L/分の流量で連続的に供給した。混合液を、上記のようにして得られた混合液に代え、樹脂定盤の厚さを1.3mmから2.28mmに代えた以外は実施例1と同様にして、樹脂定盤を得た。
(実施例5)
活性水素化合物として液状MOCAを用い、液状MOCA100質量部と、水0.01質量部と、触媒(東ソー株式会社製商品名「トヨキャットET」)0.02質量部と、シリコーン系界面活性剤(ダウコーニング社製商品名「SH 193」)0.02質量部と、珪酸ジルコニウム(ハクスイテック社製商品名「SP−Z」)65質量部とを撹拌混合して分散液を得た。次に、プレポリマ1と分散液とを、それらの質量比がプレポリマ1:分散液=100:102となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して混合液を得た。この際、撹拌条件を剪断回数:2815回、剪断速度:15708/秒の条件にし、混合槽内に空気を35L/分の流量で連続的に供給した。混合液を、上記のようにして得られた混合液に代え、樹脂定盤の厚さを1.3mmから2.48mmに代えた以外は実施例1と同様にして、樹脂定盤を得た。
(比較例1)
活性水素化合物として固形MOCAを用い、その固形MOCAを120℃で加熱溶融させ、更に減圧脱泡して固形MOCA溶融液を得た。また、数平均分子量が約2000であるポリテトラメチレンエーテルグリコール50質量部と、水2質量部と、触媒(東ソー株式会社製商品名「トヨキャットET」)1質量部と、シリコーン系界面活性剤(ダウコーニング社製商品名「SH 193」)5質量部とを撹拌混合して分散液を得た。次に、プレポリマ2と固形MOCA溶融液とを、それらの質量比がプレポリマ2:固形MOCA溶融液:分散液=100:10:5となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して混合液を得た。この際、撹拌条件を剪断回数:1689回、剪断速度:15708/秒の条件にし、混合槽内に空気を80L/分の流量で連続的に供給した。得られた混合液を、実施例1と同様に注型、硬化及び加工して、樹脂定盤を得た。
(比較例2)
活性水素化合物として固形MOCAを用い、その固形MOCAを120℃で加熱溶融させ、更に減圧脱泡して固形MOCA溶融液を得た。次に、プレポリマ3と固形MOCA溶融液とを、それらの質量比がプレポリマ3:固形MOCA溶融液=1:1となる割合で、混合槽中で十分に撹拌混合して混合液を得た。この際、撹拌条件を剪断回数:1689回、剪断速度:9425/秒の条件にした。得られた混合液を、実施例1と同様に注型、硬化及び加工して、樹脂定盤を得た。
(比較例3)
汎用されている錫定盤を用いた。
実施例1〜3及び比較例1〜3の定盤について、上記各種物性の測定及びラッピング加工性能の評価結果を表1に示す。また、実施例1の樹脂定盤における樹脂シートの研磨面を、SEM(日本電子株式会社製商品名「JSM−5500LV」)で撮影した画像を、図2に示す。
樹脂シートのヤング率が低く、開孔率の大きい比較例1ではスクラッチの発生は抑制されたものの、ラッピングレートが低かった。また、樹脂シートのヤング率が高く、研磨面に開孔が認められなかった比較例2では、スクラッチの発生を抑制するのが困難であり、スラリの保持性が良好でない結果、ラッピングレートが低かった。さらに、金属定盤の中でも軟らかい部類である錫定盤を用いた比較例3では、ラッピング加工前のダイヤモンド砥粒のチャージングにおいて、他の例と同程度にまでダイヤモンド砥粒を定盤に埋め込むのに1時間を要した(他の例では10分間)。さらに、スクラッチの発生を抑制するのが困難であり、ラッピングレートも低かった。一方、実施例では、スクラッチの発生を抑制すると共に、高いラッピングレートを実現することができ、さらに被研磨物の被研磨面の表面粗さRaも低く抑えることができた。
また、実施例1及び比較例1において、ラッピング加工圧力を245g/cm2から400g/cm2に高める以外は上記「ラッピング加工試験」と同様にしてラッピング加工を行った。その結果、比較例1ではラッピングレートが2.7μm/10分であったのに対して、実施例1ではラッピングレートが8μm/10分となり、実施例1の方が約3倍高くなった。
さらに、実施例1、実施例4及び実施例5の樹脂シートを用いて、被研磨物を2インチのサファイア基板のC面に代えた以外は、上記「ラッピング加工試験」と同様にしてラッピング加工を行った。その結果、実施例1ではラッピングレートが2.1μm/hr、実施例4ではラッピングレートが3.3μm/hr、実施例5ではラッピングレートが2.6μm/hrとなり、ヤング率及び開孔率が共に大きな実施例5が、サファイア基板に対して特に高いラッピングレートを示すことが分かった。
本発明の樹脂定盤は、半導体ウエハ、磁気ディスク、光学ガラス等のラッピング加工、特に、炭化珪素、サファイア、窒化珪素、又は、窒化ガリウム単結晶からなる基板のラッピング加工に産業上の利用可能性がある。
100…ラッピング用樹脂定盤、110…樹脂シート、120…ダイヤモンド砥粒、130…溝、S…研磨面。

Claims (6)

  1. 熱硬化性ポリウレタン樹脂を含み、開孔率が10〜50%であり、かつヤング率が7.0×107〜5.0×108N/m2である樹脂シートを備える、ラッピング用樹脂定盤。
  2. 前記樹脂シートは研磨面を有し、前記研磨面に溝が形成されている、請求項1に記載のラッピング用樹脂定盤。
  3. ダイヤモンド砥粒の存在下、請求項1又は2に記載のラッピング用樹脂定盤により被研磨物にラッピング加工を施す、ラッピング方法。
  4. 前記ダイヤモンド砥粒の平均粒径が1.0〜10μmである、請求項3に記載のラッピング方法。
  5. 前記被研磨物は、炭化珪素、サファイア、窒化珪素、又は、窒化ガリウムの基板である、請求項3又は4に記載のラッピング方法。
  6. 前記ダイヤモンド砥粒は、研磨スラリに含まれた状態で、前記ラッピング用樹脂定盤と前記被研磨物との間に供給される、請求項3〜5のいずれか1項に記載のラッピング方法。
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