JP4710774B2 - 研磨定盤の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、磁気ディスク装置に用いられる磁気ヘッドや光ファイバ接続に用いる光コネクタフェルール等の異種材料で構成された基板表面の研磨に用いる研磨定盤及びその製造方法に関する。
磁気ディスク装置においては面記録密度の向上が望まれており、そのためには磁気ヘッドの磁気記録媒体に対する浮上量を現在の約10nmからさらに低減させることが必要である。そして、この浮上量の低減を実現するためには、回転する磁気記録媒体に対面させて配置する磁気ヘッドのスライダ面(浮上面)をより一層高精度に超平滑表面加工することが不可欠である。
一般に、磁気ヘッドは次のように作製されていた。即ち、Al−TiC(アルミナチタンカーバイト)等の硬質基板上に、絶縁膜としてAl(アルミナ、膜厚2〜10μm)を形成し、シールド層、ギャップ膜、磁気抵抗効果膜等からなる磁気素子部、下部磁極、上部磁極、保護膜(アルミナ層)を順次積層する。上記した構造体はリソグラフィーを用いた薄膜プロセスにより5インチサイズの基板上に形成される。
その後、この基板をダイヤモンド砥石を用いて2インチの長さを有する短冊片に切断する。そして、切断後の歪みを両面ラップ等の方法を用いて除去した後、基板上に積層した構造体に対して直交する面を高精度に研磨加工を施して、磁気記録媒体に対面する磁気ヘッドのスライダ面(浮上面)を形成し、短冊片から個々の磁気素子部を含む小片を切り出して磁気ヘッドが完成する。
この短冊片の研磨方法は、一般的には図1に示すように回転するダイヤモンド粒子からなる砥粒(固定砥粒)11を保持した軟質金属製の研磨定盤12上に炭化水素系潤滑液13を滴下しながら、研磨治具に接着した短冊片14を押圧摺動させることで、実際の切込み量の小さい加工が行われ、平滑な面を得るための加工が行われている。
図2には研磨定盤12と機械的な圧力によって押し込み固定されたダイヤモンド粒子からなる砥粒(固定砥粒)11を示しており、研磨定盤12の表面から突き出ている砥粒(固定砥粒)11の高さを切刃高さ21と呼んでいる。
研磨条件は、回転する定盤に対して短冊片を張り付けた研磨治具を自公転式に回転させる場合、定盤の回転方向に対して直交する方向あるいは回転方向と平行に短冊片を揺動させる場合等があり、その詳細は特許文献1に記載されている。
特開平7−132456号公報
しかしながら、このような磁気ヘッドや光コネクタフェルールをはじめとする電子・光デバイスは、いわゆる複数の材料からなる複合材料である。磁気ヘッドでは、上記で述べた短冊片を構成する部材、即ち、基板、絶縁膜、磁気素子部、保護膜等の機械的硬度がそれぞれ異なるため、上記した技術を用いてこれらを一様に研磨することが極めて難しい。具体的には、異種金属間において機械的な硬度が異なる場合、固定砥粒が大きいと研磨量が異なり研磨加工により段差(加工段差)が発生してしまう。また、固定砥粒が脱落して発生する転動砥粒によって研磨の傷(加工痕)が発生してしまう。
このような加工痕、加工段差(ダメージ)は、図2に示すような研磨定盤12に保持された固定砥粒11が脱落して転動砥粒となることが原因で発生する。
また、より平滑な研磨面を得るためには、より小さな砥粒を用いるが、図3に示すように固定砥粒径を小さくしていくと、砥粒の定盤への保持力が急激に低下、固定化が困難になり脱落して転動砥粒が増加、さらにスクラッチの発生が多発することになる。
そして、これら従来技術を用いた場合、砥粒定盤の保持力、研磨能率、被処理表面粗さの観点からは、平均固定砥粒径(切刃径)約125nm、切刃平均高さ約50nm程度のものが最も微細な表面加工を行う場合において、実質的な限界となる研磨定盤の仕様であった。
本発明の目的は、上述したような複合材料である磁気ヘッドや光コネクタフェルールをはじめとする電子・光デバイス全般の製造方法において、研磨部位に発生する表面粗さを低減し加工によるダメージの少ない研磨方法を提供することにある。そして、上記電子・光デバイスからなる部品を搭載する電子機器の性能向上を可能にすることにある。
加工痕、加工段差(ダメージ)は、図1に示すような研磨定盤に保持された固定砥粒11が脱落して発生する転動砥粒によって研磨の傷(加工痕)が発生してしまう。また、より平滑な研磨面を得るためには、より小さな砥粒を用いるが、砥粒径を小さくしていくと、固定砥粒11の定盤12への固定化が困難になり転動砥粒が増加し、さらにスクラッチの発生が多発することになる。
この問題は、固定砥粒11が軟質金属からなる定盤12表面上に、金属の塑性変形により機械的に保持されているに過ぎないために発生する。ここで、弾性変形率の高い(ヤング率Eの低い)軟質金属からなる研磨定盤12には、錫(Sn)が一般的に用いられている。Snのヤング率Eは41.4GPaであり弾性変形しやすい。Snが用いられる理由としては、研磨加工時において、この弾性変形の特性を利用した被処理物表面の凹凸への“ならい性”が挙げられる。即ち、被処理物への一定の押しつけ荷重時に、被処理物表面の凹凸各面に応じた表面平滑化処理が可能になるためと考えられている。
この状態を接触点の変形度合いを示す塑性指数で表すと、下記の(数1)となる。
Figure 0004710774
ここで、E/Hが大きいと塑性変形しやすいことになる。従って、軟質金属からなる定盤12上に、硬いダイヤモンドの固定砥粒11を埋め込んだ状態というのは、Eが小さく、Hが大きい状態、即ちE/Hが小さい状態であり、塑性変形しにくい状態ということになる。そして、この状態が“ならい性”的に優れているわけである。
従って、より平滑な研磨面を得るための理想的な定盤とは、被処理物へのダメージレス化を図るために、“ならい性”に優れたSn定盤上に、定盤から脱落せず、かつ、より微細なダイヤモンド砥粒を用いてことが必要となる。
本発明では、より微細で、かつ、転動砥粒化しないダイヤモンド砥粒をもつ研磨定盤を実現するために、研磨定盤の製造方法において、研磨定盤表面に砥粒を機械的な圧力によって押し込み固定した後、研磨定盤を真空チャンバ内においてプラズマ処理を施すことにより固定砥粒と定盤との密着性を向上させ、より微細な砥粒を用いて、かつ、転動砥粒を減少させることを実現した。
具体的には研磨定盤表面に埋め込まれるダイヤモンド砥粒の平均直径が100nm以下の研磨定盤を一定研磨条件下において使用した場合、プラズマ処理を施していない従来型研磨定盤の脱落砥粒率が40%程度であるのに対して、本発明の研磨定盤を用いれば、プラズマプロセス条件の最適化により脱落砥粒率を5%未満とすることができた。そして、その研磨効率も脱落砥粒率減少とともに向上し、かつ、砥粒径の小径化とともに、得られた被加工物表面の粗さも、より小さくなることが可能となった。ここで、脱落砥粒率とは予め定盤に埋め込まれたダイヤモンド砥粒が脱落する割合を意味し、この脱落砥粒は転動砥粒となる。
本効果は、プラズマから定盤へのイオン照射により定盤表面が硬化することが定盤最表面の硬度評価により明らかになった。その原因としてアルゴンイオンの打ち込みによる格子歪みと考えられる。
また適度な加速電圧を与えプラズマ照射を行うと研磨定盤表面はアルゴンイオンによりエッチングされる。このとき研磨定盤の表面に露出しているものは前述した機械的手段で埋め込んだダイヤモンド砥粒と定盤母材である。
この2つの部材へのアルゴンイオンのエッチング能率は異なり、定盤のバイアス電位−100V〜−300Vにかけて特に定盤母材である錫合金が多くエッチングされる。従って、定盤表面はダイヤ砥粒がエッチング量の差分だけ突出する事になる。この定盤を用いて被処理物を研磨すると、被処理物に作用する砥粒数が増大し研磨能率が向上する。特に研磨荷重を増やすことでその効果は顕著となり、従来の定盤では定盤母材に阻まれて被処理物に接触することが出来なかった砥粒も研磨に寄与することが出来るようになるためである。
本発明により複合材料である磁気ヘッドや光コネクタフェルールをはじめとする電子・光デバイス全般の製造方法において、研磨部位に発生する表面粗さを低減し加工によるダメージの少なく、かつ、研磨能率を向上させた研磨方法を提供することが可能となる。
以下、本発明の実施例について、図面を用いて詳細に説明する。
図4に研磨定盤作成方法のフロー図を示す。具体的には15インチサイズ(約380mm)の錫系軟質定盤41を用意し、錫系材質の表面(以下錫面と略す)にダイヤモンドバイトを用いて切削し形状修正を行った。修正に用いるダイヤモンドバイトには、先端径が4mmRのものを使用して、錫面の粗さを100nm Rmax以下にした。さらに錫面全体の粗さを平滑にするためロデールニッタ製研磨クロス(Supreme)と平均粒径50nmのアルミナ粒子をオイルに分散させた研磨スラリーを用いて平均表面粗さを10nm Raに平滑処理42を行い、その後、洗浄処理を行った。
次に、定盤表面41に、平均砥粒径約80nmのダイヤモンド砥粒43を機械的に埋め込み処理を行った。埋め込まれるダイヤモンド固定砥粒密度は10〜40個/μmであり、ダイヤモンド砥粒高さ(切れ刃としての突起部)の高さは、ほぼ同一面内にあって、かつ40nm以下の範囲内にした。その理由は、切刃高さは固定砥粒径の40%以下であることが埋め込み技術として望ましいからである。
ところで、平滑な研磨面を得る基本原理は、高さの揃った切刃を高密度に配置して、研磨荷重を各切刃に分散させて切り込みを微小化することである。従って、従来技術の研磨定盤では困難な平均固定砥粒径(切刃径)約100nm以下の微細固定砥粒において、本発明では詳細な検討を行っている。
図6には、固定砥粒径(切刃径)と砥粒密度の相関を示すが、砥粒径dを微小化すると、砥粒密度が増大し、固定砥粒径の微細化によって、砥粒径10〜100nm、砥粒密度10〜100個/μm程度の範囲で制御可能であることを確認した。そして、この時の切刃高さは、固定砥粒径の40%以下であるためには4〜40nmとなる。
上記した図4中の機械的砥粒埋込処理に続いて、ダイヤモンド砥粒が機械的に埋め込まれている錫系軟質研磨定盤41を真空チャンバ内においてプラズマ処理44を施すことによりダイヤモンド砥粒43と研磨定盤41との密着性を向上させ、かつ、二次的効果として砥粒表面を含む研磨定盤表面の酸化物除去処理が施された本発明の研磨定盤(プラズマ処理研磨定盤)45を得る。
プラズマ処理44について一例を説明する。真空チャンバ内を一旦、1E−04(Pa)以下に真空引きし、その後、アルゴンガスを100sccmの流量で導入し、プロセスガス圧20mTとした。チャンバ容器内部に設置した研磨定盤は、カソード電極とみなして高周波電源をマッチングボックス経由で接続した。従って、チャンバ容器は接地電極(アノード)とした。
次に、研磨定盤に高周波電力約200Wを印加し、定盤の表面には自己バイアス約−100Vが印加するようにした。この時、研磨定盤表面に発生した自己バイアスによってプラズマ中のアルゴン正イオン(Ar)は研磨定盤表面に侵入する。特に格子振動により熱伝導性の高いダイヤモンド粒子は、イオンより与えられた熱エネルギーを直接ダイヤモンド砥粒と錫面との界面(機械的に埋め込まれた界面)に与え、界面の化学的な結合を与えることになり、密着性を増加させることになる。なお、上記プラズマ処理条件は研磨定盤の大きさ、形状等により最適化されるべき内容であり、この限りではない。
図5には、研磨定盤へ機械的に埋め込まれたダイヤモンド砥粒43がプラズマ処理を施すことによって、ダイヤモンド砥粒43と錫系軟質定盤41との界面の保持力が増加した見取り図を示している。
さらに、プラズマ処理の二次的効果として砥粒表面を含む研磨定盤表面の酸化物除去効果がある。具体的は自己バイアス−100Vによってアルゴンイオンは約1nm程度錫定盤表面に侵入してエッチング効果を発揮する。但し、研磨定盤表面酸化膜は約3nm程度であり、それ以上のアルゴンイオンの侵入は逆に錫面構造を破壊し軟質定盤としての特性に悪影響を及ぼしてしまう。
入射イオンのエネルギーと被処理基板への侵入深さの関係は、一般的な文献、例えば、Japan Journal of Applied Physics vol.22, No.7, p.1112-1118 (1983)で詳細に記載されている。
以下、その簡潔に説明すると、被処理基材に入射したイオンが減速過程で固体(基材)を構成する原子にエネルギーを与えるモデルを用いることで計算できる。即ち、この減速過程における遮蔽クーロンポテンシャルを、トーマス・フェルミポテンシャルとすれば、固体(基材)に入射するイオンの阻止能(入射イオンから炭素系薄膜へ付与される平均エネルギー)と侵入深さは以下のようになる。
Figure 0004710774
(数2)を用いるとアルゴンイオンは700eVのエネルギーで質量密度約6.0g・cm−3である錫面に入射すると約3nm程度侵入する。従って、自己バイアス0〜−700Vの範囲でアルゴンイオンを加速することが、錫面構造を破壊せずに悪影響を及ぼさず、酸化物除去効果があるプロセス条件となる。この場合、ダイヤモンド砥粒にはアルゴンイオンは100eVで0.1nm程度、700eVで0.4nm程度侵入するのみであり、錫定盤へのエッチング効果ほどは見込めない。
また、プラズマ処理全般に関して注意すべきことはプラズマ輻射加熱による研磨定盤そのもののメルトダウンである。研磨定盤を構成する錫の融点は約230℃であり、これ以上の温度による研磨定盤の加熱は避けなければならない。 従って、研磨定盤のプラズマ処理装置に用いるプラズマ源、チャンバ構造には注意が必要である。
このようにして作製されたプラズマ処理研磨定盤を研磨装置に取り付け、磁気ヘッド浮上面の研磨試験を行った。具体的な研磨方法は、研磨試料となる磁気ヘッドをポリウレタン系の弾性体を介して治具に保持させ、各研磨定盤に一定荷重(荷重範囲:20〜100g)で押しつけながら加工した。最低加工量は約30nmとし、研磨時に使用する潤滑剤(仕上げ液)としては、炭化水素系のオイルを使用した。
そして、プラズマ処理の導入による研磨定盤の性能向上評価をするため、定盤表面に埋込んだ砥粒の保持能力(脱落砥粒率)、加工した磁気ヘッド浮上面の表面粗さの評価(表面粗さ)、さらに研磨能率の推移(定盤寿命)を行った。
図7には、平均砥粒径約80nmのダイヤモンド砥粒を上述した機械的に埋め込み処理と本発明の特徴であるプラズマ処理を行い、そのプラズマ処理時間(Tp)を変更した場合の研磨定盤の脱落砥粒率に関して検討を行った結果を示す。脱落砥粒率は、プラズマ処理研磨定盤の表面に埋込まれた砥粒について、各磁気ヘッドを順次加工し定盤を使用した積算時間を約100分とした研磨加工試験前後に、電子顕微鏡を用いて観察した。観察は、日立製作所製電子顕微鏡S800を使用し、2次電子像で測定倍率を2万倍とした。定盤内の数箇所を観察し視野の範囲内で、確認可能なダイヤモンド砥粒数をカウントし、研磨加工試験前後で評価した。同一箇所の評価は困難なため、研磨前後で数箇所測定した砥粒数の平均値を用いて砥粒の脱落率を算出した。
その結果、プラズマ処理を行わなかった場合、脱落砥粒率は約30〜50%になるが、プラズマ処理を行うことにより大幅脱落砥粒の減少が確認された。特にTp=720secのプラズマ処理を施した場合、脱落砥粒率は約0〜7%程度になることが確認できた。これは、プラズマ処理時間が増加することにより砥粒-錫面界面の化学結合強度が増加することが原因と考えられている。また、プラズマ処理時間を増加させることで、脱落砥粒率のばらつきも減少傾向であることが確認できる。
次に、加工した磁気ヘッド浮上面の表面粗さの評価について行った。表面粗さの測定には、米国Veeco社製原子間力顕微鏡(AFM:NanoscopeIIIa、D3100)を用い、先端径10nmのシリコン単結晶プローブとした。図8にはプラズマ処理時間を0sec、180sec、360sec、720secの範囲で変化させて行ったプラズマ処理後の研磨定盤を用いて同様の研磨処理を行った被加工物であるAl−TiCの表面粗さを観察した結果を示す。
本結果によれば、プラズマ処理時間(Tp)の増加に伴って表面粗さは減少している。これは、脱落砥粒(転動砥粒)が減少することが要因と考えられ、加えて、表面粗さのバラツキもプラズマ処理時間が480sec以上の領域においては±0.5nmまで減少する効果が確認できた。
次に、研磨能率の推移評価(定盤寿命)試験結果を図9に示す。この試験は、磁気ヘッドを一定時間ずつ加工し、その際の研磨能率を算出した。各磁気ヘッドを順次加工し、定盤を使用した全体の積算時間を約100minとした。研磨能率の評価は、磁気ヘッドの加工量をいわゆる磁気特性評価装置(日立コンピュータ機器製4端子デルタV−H測定器)等で素子部の抵抗値を測定し、素子の加工量を求め、それを磁気ヘッド全体の加工量として用いた。これにより単位時間当たりの加工量を研磨能率と定義した。
図9には、研磨時間と研磨能率に関して実験を行った結果を示す。本結果によれば、本発明であるプラズマ処理研磨定盤のプラズマ処理時間(Tp)が増加するに伴い研磨能率が増加することが確認できる。特に、プラズマ処理時間Tp=720secであるプラズマ処理研磨定盤は従来品に比較し約1.5倍以上の研磨能率が確認できた。
図10には、プラズマ処理時間Tp=720secの研磨定盤を用いて磁気ヘッドの基材であるAl−TiCを研磨した場合の、基材表面のRmaxをAFMで測定した結果を示す。本実験では、埋め込むダイヤモンド砥粒径を変更した場合のデータである。本結果によれば研磨後の表面粗さはダイヤモンド砥粒の小径化に伴って、大幅な減少が確認できた。これは、ダイヤモンド砥粒が小径化されてもプラズマ処理が有効であることを意味し、脱落砥粒が減少していることを裏付ける結果となる。
図11は同様に磁気ヘッドの一部材であるNiFe膜の表面粗さを同様に測定した結果であるが、同じく研磨後の表面粗さはダイヤモンド砥粒の小径化に伴って、大幅減少が確認できた。
以上、プラズマ処理を施した研磨定盤は、従来研磨定盤に比較し研磨能率と砥粒保持能力が同時に向上し、研磨精度として平均値、ばらつきともに改善されたことを確認できた。
最後に、今回発明したプラズマ処理済みの研磨定盤におけるダイヤモンド砥粒の保持力121を従来技術研磨定盤砥粒径100nmの保持力を基準値として図12に示すが、図からわかるように砥粒小径化に伴う、保持力低下を防止することが可能となる明らかに優位性のある結果を得ることができ、複合材料である磁気ヘッドや光コネクタフェルールをはじめとする電子・光デバイス全般の製造方法において、研磨部位に発生する表面粗さを低減し加工によるダメージの少ない研磨方法を提供することが可能となった。
保持力向上効果の要因として図13に示すプラズマ処理による定盤母材表面硬度の向上が考えられる。この結果は砥粒を埋め込んでいない定盤にプラズマ照射を行い照射後の定盤最表面の硬度をナノインデンテーションテスタにより測定したもので、プラズマ照射時間の増加に従い硬度が増加することが判明した。これは定盤母材最表面へのアルゴンイオンの打ち込みにより、その量の増加とともに格子歪みが増加することが原因と考えられる。
図14に砥粒の成分であるダイヤモンドと、定盤母材である錫合金のプラズマ照射によるエッチング速度を示す。このように−100V〜−200Vの範囲に於いて両者のエッチング速度の差は約2.5倍錫合金の方が大きく、この条件でプラズマ照射することでダイヤモンド砥粒は定盤表面からの突出量を処理時間に応じ増やすことが出来る。但し、この結果はベース圧力2×10−4Pa以下の条件で測定を行ったもので、図15に示すように、ベース圧力が悪い状態、特に5×10−4Pa以上では急激に錫合金のエッチレートが低下し、1.5×10−3Pa以上ではダイヤモンド砥粒の方のエッチング量が増えてしまう。これは錫表面が酸化し錫酸化物のエッチングイールドが低いためであり、逆にダイヤモンドは酸化によりエッチング速度が増加する。本処理を行うためにはベース圧力を5×10−4Pa以下にし酸化の影響を避ける必要がある。
図16に平均粒径80nmの砥粒を埋め込んだ定盤に対して定盤のバイアス電位−125VにてArプラズマ照射処理を行い、時間を制御して砥粒の突出量の増加量としたときの、砥粒の突出量とその定盤の研磨能率との関係を評価した。プラズマ照射による砥粒突出を増加することで研磨能率を増加させることが出来、10nmの突出量増加により約5倍の能率向上を実現した。突出量の最適値は砥粒の径に依存すると考えており、突出量を増やしすぎても脱落しやすくなるため効果は上がらず、本実施例の場合には10nm程度が最適であった。
図17に研磨荷重と研磨能率との関係を示す。研磨中に被加工物にかける荷重(定盤接触面の面圧)を増加することでプラズマ照射処理を行った定盤の研磨能率は最大8倍以上と飛躍的に向上するのにくらべ、プラズマ処理を行わない通常の定盤では研磨能率向上はたかだか2倍程度である。この効果の差は、被処理物に作用する砥粒数の差と考えている。
モデルとして定盤に埋め込まれた個々の砥粒の定盤表面からの突出量にはバラツキがあり、研磨荷重が低い場合には被加工物表面に接触し研磨作用に寄与する砥粒は突出量の大きいものしか無く、従って研磨能率が低い。研磨荷重を増加することにより突出量の大きい砥粒は押し下げられ、被加工物の加工面は定盤表面に近づき、突出量の少ない砥粒と接触することで研磨に作用する砥粒が増え研磨能率が向上する。
プラズマによるエッチング処理を行わない通常の定盤では砥粒全体の平均突出量が少なく、荷重を増やした場合すぐに定盤母材接近してしまい砥粒数を増大させることが出来なかった。本発明によるプラズマ処理により定盤母材表面のエッチングにより砥粒突出量を適度に増加させることによりこれまで研磨に用いられなかった深く埋め込まれた砥粒も利用することが出来るようになり、研磨能率の向上が可能となった。
本原理に基づく研磨能率向上は本実施例に示したArプラズマ処理によるドライエッチング方法による事のみならず、Ar以外の希ガスによるドライエッチングも同様に有効である。更に酸またはアルカリ溶液によるウエットエッチング法や機械的処理による方法も砥粒の突出量を増加させる方法として原理的には利用可能である。
しかし本発明によるプラズマ処理による手法ではプラズマを照射することによる砥粒の脱落低減効果と相まって砥粒の突出量を増大させても砥粒の脱落発生が起こらない高品質な研磨定盤を提供できる。更に他の手法にくらべプラズマ処理法を用いる方が均一性、再現性があり、工業用途に応用可能である。
研磨方法を説明するための説明図である。 従来の研磨定盤の断面を表す説明図である。 従来の研磨定盤における砥粒径と砥粒保持力との関係を説明するための説明図である。 本発明であるプラズマ処理を施した研磨定盤の形成行程を説明するための概略図である。 本発明の砥粒径と砥粒密度との関係を説明するための相関図である。 本発明のプラズマ処理を施した研磨定盤の断面を説明するための説明図である。 プラズマ処理時間Tpと砥粒脱落率との関係を表す相関図である。 プラズマ処理時間Tpと被加工物(Al−TiC)の表面粗さとの関係を表す相関図である。 研磨積算時間と研磨能率との関係を表す相関図である。 平均砥粒径と被加工物(Al−TiC)の表面粗さとの関係を表す相関図である。 平均砥粒径と被加工物(NiFe)の表面粗さとの関係を表す相関図である。 本発明のプラズマ処理を施した研磨定盤の砥粒径と砥粒保持力との関係を説明するための説明図である。 本発明による研磨定盤のプラズマ処理時間と表面硬度の関係を説明するための説明図である。 プラズマ照射による研磨定盤上のダイヤ砥粒と定盤母材のエッチングレートとの関係を説明するための説明図である。 プラズマ照射による研磨定盤上のダイヤ砥粒と定盤母材のエッチングレートの処理ベース圧力との関係を説明するための説明図である。 プラズマ処理における研磨定盤上の砥粒突出量と研磨能率との関係を説明するための説明図である。 研磨荷重と研磨能率との関係を説明するための説明図である。
符号の説明
11…砥粒、12…定盤、3…炭化水素系潤滑剤、14…短冊片(被処理加工物)、21…切刃高さ、41…錫系定盤、42…定盤面平滑処理、43…ダイヤモンド砥粒、44…プラズマ、45…本発明であるプラズマ処理研磨定盤、61…砥粒と定盤の界面変質部、121…本発明であるプラズマ処理研磨定盤の保持力推移

Claims (7)

  1. 基板表面の研磨に用いる研磨定盤の製造方法であって、該研磨定盤の表面に砥粒を機械的な圧力によって押し込み固定した後、真空チャンバ容器内に配置された前記砥粒を含む前記研磨定盤の表面に対してプラズマ処理を施すことを特徴とした研磨定盤の製造方法。
  2. 請求項1において、前記研磨定盤の表面に埋め込まれる前記砥粒の平均粒径が10〜100nmのダイヤモンド微粒子であることを特徴とする研磨定盤の製造方法。
  3. 請求項1において、前記研磨定盤の表面に埋め込まれる前記砥粒の密度は10〜100個/μm2であり、前記研磨定盤の表面から突出する前記砥粒の突起部が切刃として作用する作用点もしくは作用面の高さがほぼ同一面内にあって、前記研磨定盤の表面から4〜40nmであることを特徴とする研磨定盤の製造方法。
  4. 請求項1において、前記チャンバ容器の内部にガスを導入し、該チャンバ容器の内部に配置した前記研磨定盤と前記チャンバ容器との間に電流または電圧を印加して前記研磨定盤の表面上にプラズマを生成し、該プラズマ中のイオンを前記研磨定盤の表面に輸送してプラズマ処理を行うことを特徴とする研磨定盤の製造方法。
  5. 請求項1において、前記チャンバ容器の内部にアルゴンガスを導入してプラズマを発生させ、前記研磨定盤の表面に発生した自己バイアスを用いて前記プラズマ中のアルゴンイオンを前記研磨定盤の表面に輸送して該研磨定盤の表面のプラズマ処理を行うことを特徴とする研磨定盤の製造方法。
  6. 請求項1において、前記チャンバ容器の内部にアルゴンガスを導入してプラズマを発生させ、前記研磨定盤の表面に発生した自己バイアス値を−700〜0Vの範囲で調整した後、前記プラズマ中のアルゴンイオンを前記研磨定盤の表面に輸送して該研磨定盤の表面のプラズマ処理を行うことを特徴とする研磨定盤の製造方法。
  7. 請求項1において、前記研磨定盤の表面に輸送した前記プラズマ中のアルゴンイオンが前記研磨定盤に押し込まれた砥粒に比較して前記研磨定盤の母材を選択的にエッチングすることによって、前記砥粒の前記研磨定盤表面からの突出量を砥粒径の5〜30%の範囲に制御することを特徴とする研磨定盤の製造方法。
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