JP4408334B2 - 磁気ヘッド素子の研磨装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気ディスク等の磁気媒体に対して相対移動しながら情報の記録、再生を行う磁気ヘッドとその研磨方法、及びその磁気ヘッドを用いた磁気ディスク装置に関わるものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気ディスク装置においては、その記録密度が飛躍的に向上を続けており、それに伴い、磁気ヘッドの磁気記録媒体に対する浮上量は極限まで低減することが要求されている。
磁気ディスク装置は図7に示すように、支持バネ74に固定した磁気ヘッド70と記録媒体である磁気ディスク73を組み合わせて完成される。回転する磁気ディスク73に対して駆動装置75により移動する磁気ヘッド70により磁気記録の書き込みおよび読み込みが行われる。
【0003】
このような低浮上量を実現する磁気ヘッドの浮上面の形成には、一般に研磨加工が用いられる。研磨方法としては、軟質金属系の定盤上で研磨を行うラッピングが用いられる。具体的には、図8に示すように回転する軟質金属製の研磨定盤上に主にダイヤモンド等の硬質な砥粒を含んだラップ液(スラリー80)を、スラリー供給チューブ81を介して滴下しながら、研磨治具に接着したヘッド(図示せず)を押圧摺動させることにより、前記研磨定盤8に埋め込まれた砥粒または該定盤とヘッドとの間で転動する転動砥粒により加工を行うものである。修正リング9は研磨加工中における軟質金属製の研磨定盤8の平面度を維持するために用いられている。
【0004】
ところで、信号の読み取りに磁気抵抗効果型(Magneto-Resistive:MR)あるいは巨大磁気抵抗効果型(Giant-Magneto-Resistive:GMR)ヘッドを用いた磁気ヘッドにおいては、再生特性に重要なMRまたはGMR素子の素子高さを高精度に加工する必要がある。現在、この素子高さの制御加工には特開平2−95572号公報に記されている方法が用いられている。即ち、研磨中における研磨加工量を加工量検知素子を用いて逐一モニタしつつ、その結果を研磨装置にフィードバックして、ローバー内の素子の曲りや傾きを制御しながら加工を行う方法である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記した従来技術の研磨方法では約15μmの加工を行なう必要があるため、スループットに対する加工能率を上げるためには遊離砥粒を含むスラリーの継続的な滴下が必須である。具体的には、加工開始から目標寸法の約1μm手前までは遊離砥粒滴下を続けることにより約1μm/minの加工速度で研磨加工を進める。そこで、一旦遊離砥粒の滴下を止めて、潤滑油のみの滴下に切り替える。次にワークと定盤の相対速度をそれまでの数分の一程度に低減させ、0.1μm/min以下の低加工速度で仕上げ加工を行う。
【0006】
この場合、遊離砥粒を用いた粗加工から潤滑油のみを用いた仕上げ加工に移行する直前に、定盤上に残っている遊離砥粒を拭き取る等の工夫もなされている。しかしながら、同一定盤で続けて加工する場合には遊離砥粒を完全に排除して仕上げ加工に移ることは難しい。従って、上記した方法では仕上げ加工の段階においても遊離砥粒の影響を受け易く、加工段差の低減に限界がある。また、研磨加工により形成される素子面の表面粗さやスクラッチ等の発生を極力低減させると言う観点から、決して十分な加工方法ではない。
【0007】
図9に、磁気ヘッドスライダの断面図を示す。現在、磁気ヘッドの浮上量として約10nm以下が要求されている。素子部の窪み=加工段差(磁気ヘッドの浮上面側における、シールド90,91の面とセラミック基板94の面の高さの差)が大きいことは、媒体(図示せず)から磁気抵抗効果素子92までの距離が遠くなることを意味する。従って、この加工段差がわずか数nmといえども、浮上量低減という要求に対して大きな障害となる。
【0008】
このため、上記研磨加工後に、浮上面の仕上げ研磨を別工程で行うこともある。
尚、製造効率向上の要請から、この仕上げ工程(後工程)も、磁気ヘッドスライダー製造仕掛品であるロウ・バーの状態(図11)で行うため、この工程をバータッチラップと称する。
【0009】
ところで、上記したように仕上げ研磨を別工程で行う方法は特開2000−158335号公報に開示されている。こうした方法では、ロウ・バーを装着したワーク保持治具を、定盤に対してバーがランダムな方向に摺動させることで加工面全体の表面粗さの低減を図ることが多い。これを実現させる研磨装置において、ワーク保持治具がその支持機構に対して自在に首振り可能にさせている。そして、その治具を定盤に載せ、ワーク被加工面と定盤研磨面との平行度を合わせてから前記ワーク保持治具を上方より押さえつける。しかる後に、前記ワーク保持治具に定盤半径方向の揺動を加えることで、それに定盤の回転運動とを合わせた相対摺動運動による研磨加工が行われる。
この場合、ワーク保持治具に押しつけ荷重を加える支持機構は、前記自在首振り機構により、ワークと定盤を接触させる前の段階で、支持機構の長軸と定盤研磨面の法線軸の方位がずれていても、そこで自然自己調整させることによりワーク被加工面と定盤研磨面の平行度を保つことを意図して設計がなされている。
【0010】
しかしながら、上記のようにランダム方向に動かして加工を行った場合、図12(a)に示すように、上部シールド90と下部シールド91と間を横切るスクラッチ傷、場合によってはGMR素子膜そのものを横切るスクラッチ傷が形成され、上下シールド間またはGMR素子膜での電気的な短絡路が形成され、磁気ヘッドとしての機能が失われる。
【0011】
また、上記のように、ワーク保持治具とその支持機構が自在首振りの機構で連結されている場合、ワーク揺動の反転時にワークの被研磨面にかかるせん断方向の摩擦力も反転する。これによって、加工中にワークにかかる研磨荷重の分布がバー内で不均一になり、バー内に整列させた素子毎の加工量も不均一になってしまう。
【0012】
一般に、ワークはゴム状の弾性体を介してワーク保持治具に取り付けられ、定盤に対して均一な接触を保持するように作用する.しかしながら、上記自在首振り機構部におけるガタツキや支持機構の弾性変形、ワーク自体の反りやねじれ等によって、ワークに印加される加工荷重は必ずしも均一及び一定にはならない。
【0013】
また、上記した自在首振り機構によって、ワークの被加工面と定盤研磨面との位置合わせを実際のワークを用いて行う場合、加工を始める前に両者が相対的に静止した状態で荷重を掛けることによって接触面の密着性を確認した後、研磨加工に移ることになる。この時、定盤上に突き出した砥粒が研磨面に押し付けられることによって、ワークの被加工面に砥粒の形状が転写された窪みが残される。
【0014】
一般に使用されている砥粒の寸法は公称値で1/8μm(125nm)であるが、定盤上に固定砥粒として把持されている砥粒の突き出し部分の高さは数10nmと見積もられる。そして、この高さは仕上げ加工で取り除く加工量とほぼ同程度であるため、ワークの研磨面に対する砥粒の押し込み、更にはそれに続く摺動運動によって形成されるスクラッチ傷は除去しきれずに残存することになる。
【0015】
更に、ワーク保持治具が自在首振り機構によって自由に動ける状態で支持されているため、加工終了時にはワークと定盤の相対摺動運動を停止させてから両者を引き離す必要がある。しかし、この時にも荷重が掛かったままであるので、定盤上の突き出し砥粒がそのままワーク被加工面に転写し、研磨面の平滑度を悪化させることになる。
【0016】
本発明の解決しようとする課題は、定盤研磨面の表面から遊離砥粒を完全に排除した固定砥粒定盤を用いた研磨加工を用いることによって、ランダム方向の摺動加工によるスクラッチ傷の発生を防止することである。また、ワークであるバー内に整列させた素子の加工量ばらつきを低減させ、かつ砥粒形状の転写のない平滑な研磨面を実現することである。そして上記した研磨加工を実現させる研磨装置および研磨加工方法を提供することである。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明はワークを研磨定盤上で研磨する研磨装置であって、この研磨定盤をまたぐ形で設置されたブリッジと、スライダーテーブルを有する往復運動駆動装置と、ワークを保持するためのワーク保持装置と、ワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面との相対方位を調節する角度調節装置と、往復運動駆動装置の運動方向に対してほぼ直交する方向に可動するロック機構付きスライドガイドを有するL型スライド板とを備えている。そして、上記したワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面とのなす角度が略一定に、または略平行に保持されるように、スライドガイド上にワーク保持装置を装着したL型スライド板が角度調節装置に堅持され、かつスライダーテーブル上に角度調節装置を装着した往復運動駆動装置がブリッジ上に堅持されるように構成した。
【0018】
そして、設定したワークの被研磨面と前記研磨定盤の研磨面とのなす角度または平行度が上記のワークが研磨されている間保持されるように、即ち、少なくとも往復運動駆動装置の往復運動方向または研磨定盤の回転方向に対するワーク保持装置の剛性が0.2N/μm以上なるように、ロック機構を用いて固定するようにした。
【0019】
本発明では、ワークがゴム状弾性体を介在させて、また更には脱着可能なワーク保持冶具を介してワーク保持装置に装着されるようにした。
【0020】
また、角度調節装置は互いに直交する方向に円弧駆動する一対の角度調整部からなり、ワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面との相対位置を3次元的に調整可能であって、より具体的には、角度調節機構の回転軸が定盤研磨面に平行で、かつ二つの回転軸どうしのなす角が90度となるように二段重ねに配置された二つのゴニオステージからなり、研磨定盤の研磨面に対する鉛直方向から±約15度の範囲でワークの被研磨面の法線方位を3次元的に調整し、かつロック機構によりワークの研磨定盤の研磨面に対する相対方位を固定させるように構成した。
【0021】
また本発明は、磁気ヘッドを複数有するワークを研磨定盤上で研磨する磁気ヘッドの製造方法であって、少なくともワークの往復運動または研磨定盤の回転運動を用いてワークの被研磨面が研磨加工される研磨ステップを備えており、研磨ステップが行われている間、ワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面とのなす角度を略一定に、または両者の研磨面が略平行に保持して上記したワークを研磨するようにした磁気ヘッドの製造方法である。
そして、砥粒の一部が研磨定盤内に埋没し、かつ残りの部分が研磨定盤上に露出した固定砥粒を用いてワークを研磨するようにした。
また本発明は、ワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面との相対位置を予め調整し、かつワークの研磨が行われている間、相対位置を保持しながらワークを研磨する方法であり、上記の研磨ステップの終了後に、更に研磨定盤の回転速度を所定の範囲に低減させて、かつワークの往復運動を用いてワークを研磨するようにした。
【0022】
そして、ワークを研磨定盤の研磨面に近づけて接触させる際、加工に先立って研磨定盤を回転させ、かつ/またはワークを往復運動させ、しかる後にワークと研磨定盤とを接触させることで両者の摺動による研磨加工を行い、加工終了時にはワークの往復運動を維持しながらワークを研磨定盤から引き離すようにした。上記した研磨装置を用いてワークを研磨することにより、ワークに取り付けられた磁気ヘッドの浮上面において、シールド部または磁気抵抗効果素子の長手方向に対して所定の範囲の角度を有する加工痕を有し、またはシールド部または磁気抵抗効果素子を横切る研磨加工痕の形成を低減させた磁気ヘッドを実現させることが出来る。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1〜図6は、本発明に関わる研磨装置の一実施形態を示すものである。図1には本実施の形態における研磨装置の全体概略図を示す。図1において、架台6には円盤状の研磨定盤8が設けられ、この定盤8をまたぐ形で架台6の上にブリッジ5が設置されている。ブリッジ5の上にはリニアアクチュエータからなる往復運動駆動装置7が取り付けられ、往復運動駆動装置7のスライダーテーブル15上に角度調節機構4が装着されている。そしてL型スライド板4の一端が上記の角度調節機構4に装着され、他端には直動スライドガイド10を介してワーク保持装置3が取り付けられている。更に、ワーク保持装置3には脱着可能なワーク保持冶具2が取り付けられ、このワーク保持治具2にワーク1が取り付けられる。
【0024】
ワーク保持冶具2に取り付けられたワーク1の被研磨面と研磨定盤8の研磨面との相対方位の調節は角度調節機構4を用いて行われ、2つのゴニオステージ4a、4bを夫々直交する方向に可動するように配置されている。尚、相対方位の角度調整を行う場合、ワーク1の実際の方位を研磨中に計測することが困難であるので、実際には研磨定盤8の研磨面とワーク保持冶具2のワークを保持する下面との間の相対方位を調整する方法が採られている。また、ブリッジ5と架台6とを一体構造物とすることは本発明の範囲内である。
【0025】
研磨定盤8は、架台6の内部に設けられたモータ(図示せず)などを利用して、架台6に対して水平に回転するようになっている。研磨面となる定盤8の上面は、巨視的には平面となるように機械加工されている一方で、微視的には幅数10μm、深さ数μmのレコード溝状の溝が同様の機械加工により形成されている。この溝は定盤8の上における潤滑液の排出を促す役割を有し、これによってワーク1と研磨定盤8の摺動状態が安定化される。
【0026】
また、溝の凸部には後述の手順によって半ば埋め込まれた直径100nm程度のダイヤモンド砥粒が密に配置されており、この砥粒を用いてワーク1の表面が研磨される。また、図示してないが、架台6の上には潤滑液容器と潤滑液供給機構が設けられ、供給チューブを介して潤滑液が定盤研磨8の面上に滴下される。そして、セラミック製の修正リング9が定盤8の上に配置され、回転自在のプーリで支持することによって研磨定盤8の回転に伴って定盤8上で自転する。これによって、定盤8の研磨面における平面度が保たれると同時に、定盤上に滴下された潤滑液が均一に広げられる。
【0027】
ところで、図2は研磨装置の上面図であり、図3はその正面図である。これらの図から明らかのように、架台6上には研磨定盤8をまたぐ形で剛性の高いブリッジ5が設置され、このブリッジ5の上にボールねじ式のリニア・アクチュエータを有する往復駆動装置7が固定されている。ボールねじは回転モータに直結しており、このモータが正回転、逆回転を繰り返すことによって、このボールねじに取り付けられたスライダテーブル15がブリッジ5の上で往復直線運動を行うようになっている。
【0028】
また、図2から明らかのように、スライダテーブル15上に設置した角度調節装置4及びL型スライド板14を介して装着したワーク保持装置3は研磨定盤8の直径上を、研磨定盤8の研磨面と等間隔を保って往復運動するように配慮されている。
【0029】
図5は角度調整の可能なワーク保持装置3の組み立て図を表わしたものである。スライダテーブル15には2つのゴニオステージ(円筒座)4a及び4bがそれぞれのゴニオステージの回転軸が定盤8の研磨面に平行で、かつ2つの回転軸同士のなす角が90度となるように上下二段に重ねて設置される。これらのゴニオステージ4a及び4bはそれぞれ±約15度以内の範囲で回転方位を変化させる機能を持っている。従って、ワーク1の被研磨面の法線方位を3次元的に調整することが可能であり、ワーク1の被研磨面と定盤8の研磨面との法線軸合わせ(平行調整作業)を容易に行うことができる。
【0030】
また、ゴニオステージ4a及び4bにはロック装置(図示せず)が装着されており、ワーク1の研磨面を定盤8の研磨面に対して任意の相対方位に設定した後、その状態を保持するためにゴニオステージ4a及び4bの回転軸を固定することができる。例えばワーク1の研磨面と定盤8の研磨面とを略平行に設定した場合、研磨中においても両者の平行関係を維持することができる。
【0031】
これら二段重ねのゴニオステージ4a及び4bの上には連結部材であるL型スライド板14が取り付けられ、このL字の他方の面に直動ベアリングである直動スライドガイド10が取り付けられる。この直動スライドガイド10は、溝の付いた梁状の部材である直動スライドガイドのガイド部10aとそれを抱え込む形のコの字型のスライド部10bとが、上記の溝に沿って配置された複数のベアリングボールを介して組み合わされている。これによって、直動スライドガイド10の滑らかな直線運動を実現すると同時に、それ以外の方向への動きを確実に抑制することが可能である。
【0032】
上記直動スライドガイド10を研磨定盤8に対して鉛直に配置することにより、ワーク1の研磨面に対して鉛直方向のみの付加研磨荷重を加え、かつ定盤8の回転およびワーク1の往復運動に伴って発生するワーク1の鉛直方向における位置変化を吸収することができる。従って、ワーク1の被研磨面と研磨定盤8の研磨面とをワーク1の研磨中においても平行に保つことができるばかりでなく、更には両者の平行関係を維持することが極めて難しいワーク1の往復運動が行われているときにおいても、両者の平行関係を保つことができる。
【0033】
尚、本実施の形態において両者の平行関係を維持するということは、ワーク1の移動方向を反転させる前後において、研磨定盤8の垂直方向に対するワ−ク1の姿勢が0°以上0.006°以下の範囲に押さえることを意味する。具体的には、ワーク1の長手方向の長さ50mmに対して、5μm以下のブレ量に押さえることができ、ブレの角度α=tan−1(5μm/50mm)=0.00573°以下の範囲を維持することができた。
尚、ワーク1が直線運動を行っている場合、ワーク1の被研磨面又はワーク保持冶具2の下面と研磨定盤8の研磨面との相対方位は略平行(0°)である。
【0034】
上記直動ベアリングの可動部となる上記コの字型の直動スライドガイドのガイド部10bには、ワーク保持装置3が取り付けられており、ワーク保持治具2の取り外しが容易な構造になっている。図6はワーク保持装置3の詳細図であって、ワーク保持装置3の下部には溝が切られており、そこへワーク保持治具2が差し込まれイモネジで固定される。このように、実際にワーク1を直接保持する部材を小さな別部品として取り外し可能にすることにより、ワークの治具への取り付けが極めて容易になるとともに、複数のワーク保持治具2を用意しておくことによって研磨作業効率の大幅な改善が可能である。
【0035】
ワーク保持治具2の下面(定盤8と向かい合う面)はラッピングにより鏡面に仕上げられており、その平面度は1μm以下である。そして、この下面に厚さ2mm程度の粘着性のゴム状弾性体である粘着性弾性体13を貼付し、さらにワーク1となる磁気ヘッドスライダバーを貼り付ける。このようなゴム状弾性体を介在させることにより、スライダバーの長手方向に周期の大きな変位(うねり成分)が発生していても、スライダバーそのものの弾性変形とゴムの変形とによりその変位が吸収される。その結果、スライダバーの被研磨面が定盤研磨面に平均的に密着する効果がある。
【0036】
尚、ゴム状弾性体は必ずしも粘着性である必要はなく、ワーク1を一次的に固定出来れば良い。また、ワークであるスライダバーに長手方向の変形等が存在しなければ、必ずしもゴム状弾性体を介在させる必要はなく、何れの実施形態であっても本発明の範囲内である。
【0037】
また、上記のワーク保持装置3には加工荷重を調整するためのおもり32も別途取り付けられるようになっている。図示したように、おもり32も取り外し可能にしておくことで、加工荷重の条件を容易に変更することが出来、最適な加工条件を用いてワークの研磨加工が実施することが出来る。
【0038】
以上で説明した研磨装置を用いてワークであるスライダバーを加工する場合、ワークの被研磨面と研磨定盤の研磨面の平行度を高精度に調整すること及び構成部材のがたが無く、かつワークの被研磨面における剛性が高く、かつその剛性が研磨中も保持されることが重要である。
【0039】
先ず、上記の平行度を高精度に調整するひとつの例を述べる。ワークの長手方向における平行度の調整は、研磨を行う前にシート状の圧力センサ(図示せず)をワーク1と研磨定盤8との間に挟み込み、長手方向の圧力分布をリアルタイムで測定しながら、ゴニオステージ4bの角度調節つまみ(図示せず)を廻すことによって行われる。ワーク1の短手方向の調整についても同様に圧力センサを用いてゴニオステージ4aの角度調節つまみ(図示せず)を廻すことによって行われる。また、上記した方法の代わりに、ワーク保持冶具2の下面と研磨定盤8の研磨面との間で両者の平行度を同様に調整しても良い。
【0040】
次に、ワークの被研磨面における剛性と加工精度との関係について説明する。図17(a)は剛性の測定方法を表わしている。実際に加工されるワークの被研磨面における剛性を確保することが重要であるので、荷重の付加点(図17(a)のFx及びFy)及び剛性の測定点(図17(a)のX方向変位測定点及びY方向変位測定転)はワーク保持治具2の部分とした。また、Z軸方向の位置は実際の加工時と同じ位置とした。加圧力Fx及びFyは例えばバネばかり等を用いて行い、そのときの変位量の測定には電気マイクロメータやレーザ変位計等の変位計を用いた。ワークの被研磨面における剛性は加圧力と測定された変位量との関係、即ち、剛性(N/μm)=加圧力(N)/変位量(μm)を用いて計算した。
【0041】
図17(b)はワークの被研磨面における剛性と加工量バラツキとの関係を、そして図17(c)は加工段差との関係を示している。これらの結果から明らかのように、X方向(往復運動方向)及びY方向(定盤回転方向)の剛性が低いと加工量ばらつきや加工段差が増大する。これは、剛性が低いと加工中に発生する研磨抵抗により被加工面と研磨定盤との平行度が低下し、加工面を均一に加工することが困難になるためと考えられる。
【0042】
そこで、本実施例では加工点に最も近い位置であるワーク保持治具2におけるX方向及びY方向の剛性が0.2N/μm以上になるようにワーク保持装置3、L型スライダ板14、角度調節装置4、往復運動駆動装置7等のガタが発生しないように組み立て、それらの構造体をブリッジに堅持するようにした。そして更に、例えばL形スライド板14の厚肉(厚さ10mm以上)寸法にしたり、剛性の高いセラミックスで形成した。また、LMガイド10のスライド部の予圧を向上させること、ゴニオメータ4から加工点までの距離を極力小さくすること等の工夫を行った。上記したように、研磨面における剛性を高めることによって、ローバー内の加工量ばらつき及び加工段差を低減することが可能になり、その結果として磁気ヘッドの低浮上化に対応可能な浮上面における加工段差の小さい磁気ヘッドを作製することが出来る。
【0043】
ところで、磁気ヘッドの浮上面における加工段差の低減は上記で述べた加工装置の工夫に加えて、研磨定盤の材質や面精度、研磨砥粒にも配慮することが必要である。即ち、研磨定盤の材質として錫系合金等からなる比較的軟質な金属が用いられる。またその表面の面精度は機械加工によって極めて高精度に仕上げられていなければならない。そして、研磨加工中に生じるスラッジや研磨液、潤滑液等の排出を促すため、研磨定盤の表面には、例えばアナログレコード盤状の微細な溝加工(幅数10μm、深さ数μm)が施されている。
【0044】
こうして得られた研磨定盤8の表面にダイヤモンド砥粒等の固定砥粒を設ける方法を図8及び図10を用いて説明する。図8において、100nm程度の粒径のダイヤモンド砥粒を含むスラリー液80をスラリー供給チューブ81を介して滴下しながら、質量10kg程度のおもり82を有するセラミックリング(修正リング9)を自公転させる。
【0045】
研磨定盤8の上にスラリー液80を供給した様子を図10(a)に示す。そして、修正リング9によってダイヤモンド砥粒等の固定砥粒101が定盤内に押し込まれる。このとき、定盤の材料は柔らかいのでその塑性変形によって押し込まれた砥粒はそのままその場に保持される(図10(b))。定盤表面に埋め込まれたダイヤモンド砥粒等の固定砥粒101はその一部が表面に露出した状態で固定されている。そして、遊離砥粒100あるいは埋め込みの不十分な状態にある遊離砥粒100は界面活性剤を含む洗浄液等を用いて完全に排除される(図10(c))。
【0046】
上記した工程を経て固定砥粒101を有する仕上げ加工専用定盤8が完成する。本実施の形態では、定盤表面上に残る砥粒のうち、定盤に十分食い込んで固定されている砥粒以外を十分に洗い流してから前記定盤を研磨加工に供するため、これを完全固定砥粒定盤と称する。この仕上げ加工専用定盤を用いて、30nm程度あるいはそれ以下のわずかな加工量の仕上げ研磨が行われることになる。
【0047】
こうして準備した完全固定砥粒定盤を用いて前述したワークの研磨面と定盤の研磨面との角度調整(平行)を行った後、ワークを接触させ加工を行う。本実施の形態では、ワーク1を定盤8の研磨面に近づけて接触させる際、加工に先立って先ず定盤8を回転させ、かつワーク1をブリッジ5上の往復運動機構7(リニアアクチュエータ)により揺動させ、しかる後にワーク1と定盤8とを接触させて両者の摺動による研磨加工を実施する。このように、ワーク1の接触前に完全固定砥粒定盤を回転させ、かつリニアアクチュエータを揺動させておくことにより、静摩擦状態を経ずに加工が開始されることになる。こうした手順を用いることによって、定盤上の砥粒がワークに深く食い込み、その結果スクラッチ傷が発生することを有効に低減することができる。
【0048】
以上で説明したように、研磨定盤8の回転とブリッジ5に沿った揺動(往復運動)を組み合わせた研磨加工を行なうことによって、ワークの被研磨面上に残留していた最表面層を取り除き、磁気抵抗効果素子の周辺部における加工段差やスクラッチ傷をほぼ完全に消滅または低減させることが出来る。
【0049】
そして、本実施の形態ではさらに、図12(a)に示すように上部シールド膜90と下部シールド膜91とを横切るような加工痕、あるいは磁気抵抗効果素子92に形成された加工痕を取り除くため、研磨定盤8の回転を止めてから短時間の間、往復運動駆動装置のみ稼動させて極微小量の最終仕上げ加工を行う。従って、研磨終了時にはシールド膜及び磁気抵抗効果膜に所定の角度を有する加工痕、ここではほぼ平行な加工痕が痕跡として残ることになる。
【0050】
また、本発明の別の実施形態として、上記した磁気抵抗効果膜92を横切るような加工痕(スクラッチ傷)を取り除くために、通常の仕上げ加工時よりも定盤の回転速度を落とした状態で、往復運動駆動装置7(リニアアクチュエータ)による揺動運動を併用してワーク1の最終研磨加工を行っても良い。
【0051】
上記の方法について、図12(b)を用いて説明する。図12(b)は磁気抵抗効果素子92の拡大図を表わしている。ここで、ワーク1の加工終了時に素子を横切るような形で加工痕が残るとGMR多層膜92を挟む上下のシールド間にショートパスが発生する。従って、加工終了時の加工痕の角度は図12(b)に示したように、角度θ以下であれば素子92を横切ることにならない。
【0052】
従って、最終工程時における研磨定盤8の回転速度は、磁気抵抗効果素子92の素子膜厚D及びリードトラック幅Twrによって定まる角度θ以下の加工痕を残すような速度に調整する必要がある。例えば、磁気抵抗効果素子92の素子膜厚Dが24nm、リードトラック幅Twrが300nmである場合、θ=4.57°となる。また、種々の実験の結果、素子膜厚Dとリードトラック幅Twrの5倍の長さで決まる角度(約θ/5)の加工痕であれば、ショートパスが形成されることはなかった。しかるに、加工痕の角度θは0°より大きくθ/5以下の範囲内に収まるように研磨定盤8の回転速度及びワーク1の往復運動速度を調整することが望ましい。
【0053】
一方、研磨加工が終了した時、定盤8に対するワーク1の往復運動を行っている状態でワーク1を研磨定盤8の研磨面から引き離すようにする。こうした操作によって、ワーク1の被研磨面における同一箇所への砥粒の押し込み、その結果として発生するワーク1の表面平滑度が悪化することを回避することが出来る。
【0054】
図13は、以上で説明した研磨装置を用いて薄膜磁気ヘッドの浮上面を研磨加工した場合の一例である。この電子顕微鏡写真(二次電子像)からも明らかのように、従来技術で良く観察されたシールド膜を横切るようなスクラッチ傷や磁気ヘッドの構成材料が残留する現象は認められず、極めて平滑な浮上面を実現することが出来た。尚、図13の写真では判別しにくいが、シールド膜や磁気抵抗効果膜に平行な縞状の加工痕を観察することができる。また、図13に示した浮上面の表面粗さRmax(シールド部)は7.9±6.1nmであって、従来技術で研磨した場合の14.4±9.7nmに比較して遥かに小さい。
【0055】
図14は加工面の磁気抵抗効果素子周辺部をAFM(原子間力顕微鏡)を用いて評価した結果である。本実施例で得られた結果を(a)AFM像、(b)その断面プロファイルに示した。そして比較例として従来技術を用いた場合を(c)AFM像、(d)その断面プロファイルに示した。
従来技術において、図14(c)の右半分はスライダのセラミック基板94(AlTiC)であり、左半分の濃い2本の筋がそれぞれ左から上部シールド90、下部シールド91を表わし、また、それ以外の部分がアルミナ絶縁膜93である。図14(d)の断面プロファイルからもわかるように、相対的に柔らかい金属で構成される上/下シールド部は遊離砥粒の影響を受けて、セラミック基板部94及びアルミナ絶縁膜部93より深く研磨されている(段差8.5nm)。また、アルミナ絶縁膜部93もセラミック基板94に比較して砥粒の浸食を受けやすく、セラミック基板94に比較して相対的な研磨加工量が大きくなっている。
【0056】
一方、本実施例において、図14(a)(b)から明らかのように浮上面の加工状態は従来技術に比較して極めて良好である。即ち、磁気ヘッドを構成する材料の違いによる段差は極めて小さい。セラミック基板94とシールド部90,91との段差は、1nm以下である。
【0057】
ところで、磁気ヘッドの浮上面の加工は研磨効率を考慮して、複数の磁気ヘッドが連なった状態であるローバーの形態で行われることが多い。従って、浮上面の研磨加工を行なうに当たり、ローバー内の加工量を所望の量に揃えることが必須である。
【0058】
図15は、従来技術による前加工後の素子高さ分布(分布A)、前述の研磨装置を用いて研磨加工した時の加工後の素子高さ分布(分布B)、仕上げ加工前後の素子高さ分布の差より求めた各スライダごとの局所加工量(分布C)について、ローバー上の各スライダの位置に対応させてプロットした一例である。この図から明らかのように、前加工後の素子高さ分布は図中の表に示したように素子高さ平均=331.9nm、標準偏差=34.7nmであるため、仕上げ加工終了時の素子高さ平均値が300nmになるように、換言すれば仕上げ研磨加工における加工量を平均30nmに設定して可能を行なった。
【0059】
その結果、本実施例による加工量の分布は平均=30.7nm、標準偏差=2.9nmであり、その結果として得られたローバー内の素子高さ平均=301.2nm、標準偏差=37nmを達成することが出来た。尚、素子高さ分布のばらつきは標準偏差で約6%程度増加しているが、許容範囲内であると判断した。この理由は、本実施例を用いて行なわれるスライダ浮上面における平滑度の改善によって研磨歩留りが向上し、かつ磁気ヘッドとして最も重要な磁気特性性能を一様に揃えることが可能になるからである。
【0060】
図16は、前加工工程(粗加工工程)が終了した段階で、ローバー内の素子高さ分布が比較的小さい場合の一例である。上記した研磨装置を用いて磁気ヘッドスライダの浮上面を研磨した場合、図15で示した場合と同様にローバー内で略一定の研磨加工量(分布C)を実現することが可能になった。尚、前加工工程(粗加工)が終了した段階では、ローバーの長手方向に多少の形状変位(うねり成分)が存在しているが、上述したワーク保持機構を用いることによってほぼ一定の加工量を達成することが出来る。
【0061】
【発明の効果】
以上に説明したように、ワークを取り付けたワーク保持装置をL型スライダ板及び角度調整装置を介して往復運動駆動装置に堅持し、かつそれを研磨定盤をまたぐ形で配置したブリッジ上に堅持することによって、ワークの研磨面における剛性を従来技術に比較して高めることが可能になった。
上記した研磨装置を用いて薄膜磁気ヘッドの浮上面を研磨した場合、基板とシールド膜または磁気抵抗効果膜との加工段差を極めて小さく抑えることが出来、また磁気ヘッドの特性を損なわしめるスクラッチ傷を除去することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本実施例である研磨装置の概略図である。
【図2】図2は本実施例である研磨装置の上面図である。
【図3】図3は本実施例である研磨装置の正面図である。
【図4】図4は本実施例である研磨装置の側面図である。
【図5】図5は角度調節装置に取り付けるワーク保持装置の組み立て図である。
【図6】図6はワーク保持装置の組み立て図である。
【図7】図7は磁気ディスク記憶装置及びそこに装着されている磁気ヘッドの概略図である。
【図8】図8は回転式の研磨定盤を用いた研磨方法を説明するための図である。
【図9】図9は記録媒体に対向させて配置した磁気ヘッドの浮上面における段差を説明するための図である。
【図10】図10は研磨定盤の表面に砥粒を固定する手順を表わす概略図である。
【図11】図11はバー状の磁気ヘッドスライダを説明する図である。
【図12】図12は磁気ヘッドの浮上面側の概略図と研磨傷との関係を説明するための図である。
【図13】図13は本実施例における研磨加工の一例である。
【図14】図14は磁気ヘッドの浮上面における加工段差を説明するための図である。
【図15】図15はローバーにおける研磨加工前後の素子高さ分布と加工量分布の一例である。
【図16】図16はローバーにおける研磨加工前後の素子高さ分布と加工量分布の一例である。
【図17】図17はワーク取り付け部分における剛性と磁気ヘッドの浮上面における研磨加工の程度との関係を説明するための図である。
【符号の説明】
1…ワーク、2…ワーク保持冶具、3…ワーク保持装置、4(4a,4b)…角度調節装置、5…ブリッジ、6…架台、7…往復運動駆動装置、8…研磨定盤、9…修正リング、10…直動スライドガイド、10a…直動スライドガイドのガイド部、10b…直動スライドガイドのスライド部、11…おもり、12…取っ手、13…粘着性弾性体、14…L形スライド板、15…スライダテーブル、32…おもり、70…磁気ヘッド、71…浮上面、72…素子、73…磁気ディスク、74…支持バネ、75…駆動装置、80…スラリー、81…スラリー供給チューブ、90…上部シールド膜、91…下部シールド膜、92…磁気抵抗効果膜、93…アルミナ絶縁膜、94…セラミック基板、95…記録用コイル、100…遊離砥粒、101…固定砥粒

Claims (3)

  1. 複数の磁気ヘッド素子を直線状に整列させたロウ・バーからなるワークを回転する研磨定盤上で研磨する研磨装置であって、前記研磨定盤をまたぐ形で設置されたブリッジと、スライダーテーブルを有する往復運動駆動装置と、ワークを保持するためのワーク保持装置と、前記ワークの被研磨面と前記研磨定盤の研磨面との相対方位を調節する角度調節装置と、前記往復運動駆動装置の運動方向に対してほぼ直交する方向に可動するロック機構付きスライドガイドを有するL型スライド板とを備え、前記ワークの長手方向が前記研磨定盤の回転半径方向に対して略平行になるようにしてシート状粘着性弾性体を介して前記ワークを前記ワーク保持装置に配置し、前記研磨定盤に対して前記ワークの研磨面に作用する剛性を高めるために前記スライドガイド上に前記ワーク保持装置を装着したL型スライド板をロック装置を用いて前記角度調節装置に堅持され、前記スライダーテーブル上に前記角度調節装置を装着した前記往復運動駆動装置が前記ブリッジ上に堅持されてなることを特徴とする磁気ヘッド素子の研磨装置。
  2. 前記角度調節装置は互いに直交する方向に円弧駆動する一対の角度調整部からなり、前記ワークの被研磨面と前記研磨定盤の研磨面との相対方位を3次元的に調整可能ならしめることを特徴とする請求項1に記載の磁気ヘッド素子の研磨装置。
  3. 前記角度調節機構が、その回転軸が前記定盤研磨面に平行で、かつ二つの回転軸同士のなす角が90度となるように二段重ねに配置された二つのゴニオステージからなり、前記研磨定盤の研磨面に対する鉛直方向から±約15度の範囲で前記ワークの被研磨面の法線方位を3次元的に調整し、かつロック機構により前記ワークの研磨定盤の研磨面に対する相対方位を固定することを特徴とする請求項1に記載の磁気ヘッド素子の研磨装置。
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