以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態の半導体装置および電気ヒューズの抵抗値の増加方法を説明する。
(実施の形態1)
本発明の実施の形態の電気ヒューズは、従来のようなゲート電極と同一層に設けられた電気ヒューズではない。本実施の形態の電気ヒューズは、半導体装置内のファイン層、セミグローバル層、およびグローバル層として規定される多数層構造のうちのファイン層に設けられている。そのため、半導体基板が損傷することが防止されている。
また、本実施の形態の半導体装置の構造によれば、半導体基板から電気ヒューズまでの間のスペースにヒューズの抵抗値を増加させるための電流の流れを制御するトランジスタ等の他の素子が配置され得るため、半導体装置の半導体基板の主表面に平行な方向における素子の占有面積を小さくすることができる。
また、本実施の形態の電気ヒューズの抵抗値の増加は、エレクトロマイグレーション現象ではなく、毛細管現象によって実現されている。そのため、比較的小さな電流を電気ヒューズに流すだけで、電気ヒューズの抵抗値の増加が図られている。その結果、電気ヒューズの周囲の構造が損傷することが防止される。また、電気ヒューズの抵抗値の増加のために要する時間を大幅に短縮することが可能になる。
本実施の形態においては、電気ヒューズは、冗長回路と他の回路とを電気的に分離するためのものである。しかしながら、本発明の電気ヒューズの用途は、それに限定されない。本発明の電気ヒューズは、電流の供給によって抵抗値の増加が実現され得るものであれば、いかなる用途に適用されてもよい。なお、電気ヒューズの材料としては金属または金属化合物が適しているが、本発明の電気ヒューズの材料は、以下に説明する抵抗値の増加方法が適用され得るものであれば、それらに限定されるものではない。
まず、本実施の形態の電気ヒューズ構造体を具体的に説明する。
本実施の形態の電気ヒューズ10は、図1に示すように、半導体装置内に設けられ、電源電極VDDと接地電極VSSとの間に接続されている。なお、電気ヒューズ10の端子10aと電源電極VDDとの間には抵抗器60が設けられており、電気ヒューズ10の端子10bと接地電極VSSとの間には抵抗器70が設けられている。また、抵抗器70と端子10bとの間の配線にはトランジスタ40および判定回路50が接続されている。判定回路50は、電気ヒューズ10の抵抗値が所定値以上になっているか否かを検出し得るものである。また、トランジスタ40のゲート電極にはインバータ回路30が接続されており、インバータ回路30からトランジスタ40へ与えられる電気信号によって、電流が電源電極VDDから電気ヒューズ10を通じて接地電極VSSへ流れる。したがって、本実施の形態の電気ヒューズ10の抵抗値の増加方法においては、外部からトランジスタ40へ与えられる電気信号によって、電気ヒューズの抵抗値を増加させるか否かを制御することができる。また、電気ヒューズ10の抵抗値が所望の値を超えているか否かは、判定回路50によって判定される。
次に、本実施の形態の半導体装置の構造が図2を用いて説明される。
本実施の形態の半導体装置は、積み重ねられた複数の金属配線層を有している。複数の金属配線層は、半導体基板SC側から順に、M1,M2,…M8,M9と名付けられている。また、金属配線層同士は、ビアによって接続されている。複数のビアは、半導体基板SC側から順に、V1,V2,…V7,およびV8と名付けられている。
金属配線層M1,M2,…M8,およびM9ならびにビアV1,V2,…V7,およびV8を含む複数の層のうち下側に位置する層はファイン層100と呼ばれる。また、金属配線層M1、M2、…M9およびビアV1,V2,…V7,およびV8を含む複数の層のうち上側に位置する層はグローバル層300と呼ばれる。また、ファイン層100とグローバル層300との間に位置する層はセミグローバル層200と呼ばれる。
ファイン層100内の金属配線層は、半導体装置を構成する金属配線層のうち最も小さな幅および厚さを有する。セミグローバル層200内の金属配線層は、ファイン層100内の金属配線層の幅および厚さより大きな幅および厚さを有する。グローバル層300内の金属配線層は、セミグローバル層200内の金属配線層よりも大きな幅および厚さを有する。ファイン層100、セミグローバル層200、およびグローバル層300の寸法の例が表1に示されている。
なお、ファイン層100、セミグローバル層200、およびグローバル層300の寸法は、半導体装置の種類および配線の材質によって異なるものである。したがって、表1は単に3つの層の寸法関係の一例を示している。
従来の半導体装置においては、図2に示す層間絶縁層(TEOS:Tetra-Ethyl Ortho Silicate Glass)CAに覆われたゲート電極層GAと同一の配線層の一部が電気ヒューズ10として用いられている。そのため、電気ヒューズ10の所定部分の抵抗値が十分に高くなるように電気ヒューズ10に大きな電流が供給されれば、電気ヒューズ10が発する熱の影響によって、半導体基板SCおよびその周辺部が損傷してしまうおそれがある。そのため、本実施の形態においては、ファイン層100中の金属配線層M1,M2,M3,M4,およびM5の近傍に電気ヒューズ10が設けられている。
また、ファイン層100を構成する金属配線層M1,M2,M3,M4,およびM5は、セミグローバル層200を構成する金属配線層M6およびM7ならびにグローバル層300を構成する金属配線層M8およびM9とは異なり、複数層(一般には4層〜6層程度)にわたって同一ルールに従って形成されている。そのため、ファイン層100中のいずれの層にも電気ヒューズ10を設けることが可能である。たとえば、半導体基板SCから最も遠く離れた位置に設けられた金属配線層M5の近傍に電気ヒューズ10を設けることが可能である。
したがって、電気ヒューズ10に電流が供給されたときに、電気ヒューズ10の発熱によって半導体基板SCに悪影響が及ぼされてしまうことが防止される。なお、電気ヒューズ10は、セミグローバル層200またはグローバル層300に設けられていても、電気ヒューズ10が半導体基板SCへ悪影響を及ぼすことを防止することは可能である。つまり、電気ヒューズ10が、ファイン層100、セミグローバル層200およびグローバル層300のうちのいずれ1の層に設けられていても、それらの層のうちのいずれか2層に設けられていれも、または、それらの層のうちの全てに設けられていても、電気ヒューズ10が半導体基板SCへ悪影響を及ぼすことは防止される。
また、本実施の形態の半導体装置においては、抵抗値が低い金属配線層が電気ヒューズ10として用いられる。そのため、電気ヒューズ10に供給される電流の値が小さくても、電気ヒューズ10の抵抗値を増加させることができる。
図3および図4は、それぞれ、本実施の形態の電気ヒューズ10およびその周辺部の上面図および断面図である。本実施の形態の電気ヒューズ10は、直線部10dと折れ曲がり部10cとからなる蛇行形状を有している。なお、本実施の形態の電気ヒューズ構造体は、図5および図6に示すような直線形状のみからなる電気ヒューズ10を有していてもよい。ただし、電気ヒューズ10の全体の長さが同一であれば、蛇行形状を有する電気ヒューズ10は、直線形状のみからなる電気ヒューズとの比較において、それに供給される電流の値が小さくても、その抵抗値を増加させることができるという利点を有している。
また、本実施の形態の電気ヒューズ構造体においては、図3〜図6に示すように、電気ヒューズ10が導電性材料としての金属配線層M1〜M5およびビアV1〜V4によって囲まれている。図3〜図6に示す金属配線層M1〜M5およびビアV1〜V4は、他の導電層から絶縁された電気的に浮遊な導電層である。したがって、溶融した電気ヒューズ10が周囲の絶縁層中に漏れ出しても、他の電子回路に悪影響が及ぼされることが金属配線層M1〜M5およびビアV1〜V4によって防止される。
また、本実施の形態の電気ヒューズ10は、図7に示すような構造であってもよい。つまり、折れ曲がり部10cおよび直線部10dの数は、特定の数に限定されない。
また、図8は、前述の電気ヒューズ10の一例が実際に切断された状態を示す写真である。図8から、蛇行する電気ヒューズ10が切断されると隣接する部分同士が接触して、リークが発生するとともに、固溶体化した部分の体積膨張によって電気ヒューズ10の下側部分にクラックが生じることが分かる。つまり、電気ヒューズ10を蛇行させるというアイデアだけでは、電気ヒューズ10の周辺の構造に悪影響を及ぼすことを防止しながら電気ヒューズ10の抵抗値を増加させることはできないことが分かる。
そのため、電気ヒューズ10の周辺の構造に悪影響を及ぼすことを防止しながら電気ヒューズの抵抗値を増加させるために、本実施の形態の電気ヒューズ10は、図9に示す構造を有している。
図9に示すように、電気ヒューズ10は、主配線1と主配線1の下面および両側面を覆うバリア膜3とからなっている。電気ヒューズ10は、絶縁層2に形成されたトレンチ2a内において半導体基板SCの主表面と平行に延びている。また、電気ヒューズ10および絶縁層2は絶縁層4によって覆われている。絶縁層4上には、絶縁層5が形成されている。
また、主配線1は、金属層または金属化合物層からなっており、絶縁層2、絶縁層4、および絶縁層5の融点よりも低い融点を有する。また、バリア膜3は、金属層、金属化合物層、またはそれらの層が複数重ねられた構造からなっている。また、バリア膜3の融点は、主配線1の融点よりも高く、かつ、絶縁層2および絶縁層4の融点よりも低い。さらに、主配線1の線膨張係数は、バリア膜3の線膨張係数よりも大きい。バリア膜3の線膨張係数は、絶縁層2、絶縁層4および絶縁層5のそれぞれの線膨張係数と同等であるかまたはそれよりも大きい。
本実施の形態の半導体装置においては、主配線1が銅膜からなり、バリア膜3がタンタル膜からなり、絶縁層2および絶縁層5が3以下の誘電率を有するLow-k膜であるSiOC膜からなり、絶縁層4がSiCN膜からなっている。しかしながら、前述の線膨張係数および融点の関係が成立しているのであれば、主配線1、絶縁層2、バリア膜3、絶縁層4、および絶縁層5の材料は、前述の物質に限定されない。たとえば、絶縁層4は、シリコン窒化膜(SiN膜)からなっていてもよい。また、主配線1の材料は、表2に示されるように、Al、Cu、Ta、Ti、またはWであってもよい。
なお、本発明の電気ヒューズ構造体は、図9に示す構造に限定されず、図10〜図20Bに示す構造であってもよい。なお、図10〜図20Bに示す電気ヒューズ構造体は、図9に示す電気ヒューズ構造体と基本的に同様の構造を有しているため、それらの構造体のいずれにも共通している部位には同一の参照符号が付され、その説明は繰り返されない。なお、図11A、図12A、図14A、図16A、図18A、および図20Aは、それぞれ、図11B、図12B、図14B、図16B、図18B、および図20Bに対応している。たとえば、図11Aに示される構造、および、図11Bに示される構造のいずれかが形成されるかは、製造プロセスに依存している。そのため、1つのデバイスにおいても、図11A、図12A、図14A、図16A、図18A、および図20Aのいずれかに示される構造、ならびに、図11B、図12B、図14B、図16B、図18B、および図20Bのうちのそれに対応する構造の双方が形成される場合がある。
図10に示す構造においては、絶縁層4が絶縁層4aと絶縁層4bとからなっている。絶縁層4aはSiCO層であり、絶縁層4bはSiCN層である。
また、図11A、図11B、図12Aおよび図12Bに示す構造においては、バリア膜3が3層構造を有している。3層構造は、トレンチ2aの側面上に形成されたTa膜3aと、Ta膜3aの内側の側面上に形成されたTaN膜3bと、TaN膜3bの内側の側面上およびトレンチ2aの底面上に形成されたTa膜3cとからなっている。
また、図13〜図20Bに示された構造おいては、主配線1上にCoW膜、CoWP膜、CoP膜、またはCoPB膜からなるメタルキャップ膜9が形成されている。メタルキャップ膜9の電気抵抗は、主配線1の電気抵抗よりも高い。そのため、メタルキャップ膜9が主配線1上に形成されていれば、主配線1のみの発熱よりも大きな発熱を生じさせることが可能になる。つまり、より短時間で電気ヒューズ10の抵抗値を増加させることが可能になる。なお、メタルキャップ膜9はバリア膜3上に形成されていてもよい。また、メタルキャップ膜9は、主配線1の全ての上面上に形成されており、主配線1のエレクトロマイグレーションの発生を防止する機能を有している。また、本実施の形態においては、本発明のキャップ膜の一例としてCoW膜、CoWP膜、CoP膜、またはCoPB膜からなるメタルキャップ膜9が示されているが、主配線1の電気抵抗よりも高い電気抵抗を有している膜であれば、いかなる膜が主配線1上に形成されてもよい。
また、図17〜図20Bに示された構造おいては、絶縁層4が形成されていない。この場合、クラック6は、絶縁層5に形成される。
次に、本実施の形態の電気ヒューズの抵抗値が増加するときに生じる作用、特に、電気ヒューズが切断されるときに生じる作用を説明する。まず、表3を用いて、本実施の形態の主配線1を構成する金属が液体したときの体積膨張率を説明する。
表3から、液化した後の金属の密度は、液化する前の金属の密度に比較して小さいことが分かる。このことから、液化した後の金属の体積は液化する前の金属の体積よりも増加していることが分かる。液化に起因する金属の体積膨張率に関しては、表3に示されているように、アルミニウムが8%(2.69/2.5=1.08)であり、銅が14%(8.93/7.8=1.14)であり、鉄が11%(7.86/7.1=1.11)である。したがって、アルミニウム、銅、および鉄のうち、銅の体積膨張率が最も高いことが分かる。
以上のことを考慮して、図21および図22を用いて、電気ヒューズ10の抵抗値が増加するときに生じる作用、特に、電気ヒューズ10が切断されるときに生じる作用を説明する。
図21に示す電気ヒューズ10においては、紙面に対して垂直な方向に沿って、すなわち、主配線1が延びる方向に沿って、電流が流れる。それにより、主配線1にはジュール熱が生じる。そのため、主配線1の温度が上昇し始める。その結果、線膨張係数の相違に起因して主配線1、バリア膜3、および絶縁層2,4,5のそれぞれに熱応力が発生する。
本実施の形態の電気ヒューズ構造体においては、絶縁層4の線膨張係数は、主配線1の線膨張係数よりもかなり低い。そのため、絶縁層4の膨張の度合いは主配線1の膨張の度合いよりも小さい。絶縁層4は主配線1に接触している。したがって、主配線1は膨張しようとしても、絶縁層4がその膨張を抑制する。その結果、図21に示すように、主配線1の上部には引張力が生じ、絶縁層4の下部には圧縮力が生じる。したがって、図21に示した丸印部分に応力集中が発生する。
主配線1の温度がさらに上昇すると、主配線1を構成する金属が固体から液体に変化する。すなわち、金属の相変化が生じる。これにより、主配線1の体積がさらに増加する。このとき、主配線1の膨張はバリア膜3によって制限される。そのため、図22において白抜き矢印で示されるように、主配線1は、上方にのみ膨張する。これにより、絶縁層4が上方に押し上げられる。
したがって、主配線1が液化する前に主配線1の上部の両端の位置に応力集中が発生していたことおよび絶縁層4が上方に押し上げられることの相乗効果によって、この応力集中が発生している部分を始点として絶縁層4および5にクラック6が生じる。
クラック6が発生したことによって、絶縁層4に空隙が生じる。この空隙の幅は、非常に小さい。また、主配線1が液化している。そのため、クラック6内に毛細管現象によって液化した主配線1が吸い込まれる。その結果、クラック6が発生している位置とは異なる位置で主配線1に不連続部分が形成される。
図23〜図32には、前述の一連の電気ヒューズ10の切断経過が、時系列的に示されている。図番号が大きい図に示される状態は、図番号が小さい図に示される状態よりも後に現れる。図23、図25、図27、図29、および図31のそれぞれは、上面図であり、図24、図26、図28、図30、および図32のそれぞれは、断面図である。
図31および図32に示すように、所定量の液化した主配線1が毛細管現象によってクラック6内に込まれたときに、主配線1およびバリア膜3が切断される。なお、バリア膜3は主配線1が吸い込まれるときに生じる力によって切断される。このとき、たとえ、バリア膜3の残渣がわずかに残存していたとしても、主配線1に微小な電流を継続して流しておけば、バリア膜3を確実に切断することができる。図33および図34には、実際の切断部1000を有する電気ヒューズ10が示されている。
前述のような毛細管現象を利用して電気ヒューズ10を切断すれば、主配線1の下側の絶縁層2にクラックが発生することはない。また、主配線1の融点よりもわずかに高い温度で電気ヒューズ10を加熱すれば、電気ヒューズ10を切断することができる。そのため、電気ヒューズ10の周辺部に熱的な悪影響を与えたり、トランジスタ等の素子が形成された半導体基板SCを損傷させたりすることが防止される。
(実施の形態2)
次に、図35〜図44を用いて、実施の形態2の電気ヒューズの抵抗値の増加方法を説明する。なお、本実施の形態の電気ヒューズ構造体は、実施の形態1のそれと同一である。
本実施の形態においては、実施の形態1において説明した電気ヒューズ10をより確実に切断する方法が説明される。より具体的には、電気ヒューズ10を確実に切断するためには、電気ヒューズ10に流す電流パルスの立上がりの時間を調整することが必要であることが説明される。
電気ヒューズが切断されるときには、主配線1の温度が融点以上の温度に達していることが必要である。ただし、主配線1の温度が上昇し始めてから主配線1の温度が融点以上の温度になるまでの時間によって電気ヒューズ10が切断されるときに生じる現象が異なる。そのため、主配線1の温度が上昇し始めてから主配線1の温度が融点以上の温度になるまでの時間を調整しなければ、電気ヒューズ10の周辺部を損傷させることなく電気ヒューズを切断することができない。
図35には、電気ヒューズ10に流れる電流値は同一であるが、立上がり時間および立下がり時間が異なる2種類の電流パルスが示されている。図35に示されるように、適正パルスとして示される電流パルスは、不適正パルスとして示される電流パルスに比較して、電流が供給の開始の時点から一定値の電流が供給され始める時点までの時間、すなわち、立上がり時間が非常に短い。
また、図36には、図35に示された不適正パルスとしての電流パルスが供給されることによって切断された電気ヒューズ10の状態と図35に示された適正パルスとしての電流パルスが供給されることによって切断された電気ヒューズ10の状態とが示されている。
前述のように、実施の形態1の電気ヒューズ10の抵抗値の増加方法、特に、電気ヒューズ10の切断方法は、絶縁層4にクラック6を発生させ、クラック6内に液化した主配線1を吸い込ませて、主配線1を切断するものである。ただし、主配線1のジュール熱によって絶縁層4が軟化してしまうと、クラック6が絶縁層4に生じないため、電気ヒューズ10を短時間で切断できない場合がある。この場合には、電気ヒューズ10長時間電流が流され、電気ヒューズ10の発熱が長時間にわたって継続すると、電気ヒューズ10の周辺の構造に損傷が生じてしまうおそれがある。
そのため、絶縁層4にクラック6を発生させて、電気ヒューズ10を短時間で切断するための電流パルスの形状について考える。
まず、電気ヒューズ10の体積と同一の体積を有する金属の立方体が断熱状態で均一に熱せられたときの温度上昇を考える。このような考え方が採用された理由は、電気ヒューズ10は、絶縁層2および4によって囲まれているため、断熱状態と等価な状態中に存在するものと考えられるためである。なお、表4には電気ヒューズ10の材料として用いられ得る金属の熱的物性値および電気的物性値が示されている。
ここでは、立ち上がり時間が0μsである15mAおよび30mAの電流パルスのそれぞれを金属の立方体に供給した場合を考える。この電流パルスは理論上のパルスである。このときに各金属が液化するまでに要する時間が表4に示されている。
表4に示された各金属の融点到達時間は、金属の立方体が液化するまでの最短時間tsである。たとえば、Cuの立方体に供給される電流の値が15mAである場合には、立方体が液化するまでの最短時間tsは約0.5μsであり、Cuの立方体に供給される電流の値が30mAである場合には、立方体が液化するまでの最短時間tsは約0.1μsである。
なお、前述の最短時間tsは、金属の立方体が融点に到達するまでの時間であるため、細長い線である電気ヒューズ10の温度上昇に要する時間を正確に表わしているわけではない。また、立方体に与えられている電流パルスは、立ち上がり時間が0μsである理論上のパルスであるため、立上がり時間を有する実際の実際の電流パルスとは異なっている。
また、図37には、電流パルス(2μs)の立上がり時間と電気ヒューズ10の切断部の抵抗値の切断される前の抵抗値に対する比との関係が示されている。図37から分かるように、電流パルスの電流値が15mAであり、立上がり時間が0.5μsである場合には、電気ヒューズ10は切断されているが、電流パルスの電流値が15mAであっても、立上がり時間が0.5μs以上になると、電気ヒューズ10がほとんど抵抗値が増加していない。なお、図37は、実際の電気ヒューズ10に電流パルスを与えた実験の結果を示している。
図37に示す実験結果と表4に示す値を用いた理論的な推測値との対比から、前述の最短時間tsが電流パルスの実際の細長い電気ヒューズ10に供給される実際の電流パルスの立上がり時間を決定するための指標として採用され得ることが分かる。つまり、実際の電気ヒューズ10に与えられる電流パルスの立上がり時間が、理論的に推測された最短時間tsよりも短ければ、電気ヒューズ10を適切に切断することができると考えられる。
上記のことを考慮した上で、立上がり時間、一定電流を流す時間、および立下がり時間のすべてが同一(tm)であると仮定すると、電気ヒューズ10の切断時間は、次の式によって表わされ得る。
切断時間=(立上がり時間)+(一定電流を流す時間)+(立下がり時間)=3×最短時間ts
この式から、電気ヒューズ10に15mAの電流を流す場合には、1.5μs以下の時間で、電気ヒューズ10を切断することができることが分かる。
実際に、立上がり時間がさらに短い場合には、主配線1の幅および厚さのばらつきを考慮しても、融点以上の一定値の電流を流す時間が調整されれば、1μs未満の時間で電気ヒューズ10を切断することが可能であることが確認されている。
本実施の形態の電気ヒューズの切断方法によれば、数μs前後の時間で電気ヒューズ10を切断することが可能である。つまり、本実施の電気ヒューズ10の切断方法によれば、前述の従来の電気ヒューズの切断方法において電気ヒューズ10の切断のために要する時間の1/133(=1.5μs/200μs)という非常に短い時間で電気ヒューズ10を切断することが可能である。
ただし、図5および図6に示される直線形状のみを有する電気ヒューズ10を上記の方法によって切断すれば、毛細管現象が生じる部位の両側のいずれかの部位が切断されるが、切断部1000の位置を特定することができない。図38および図39には、直線形状のみからなる電気ヒューズ10を切断するときに生じるクラック6の位置および切断部1000の位置の例が示されている。
理論的には、電気ヒューズ10の長さが12μmである場合には、クラック6は電気ヒューズ10の端部から6.6μmだけ離れた位置に生じ、切断部1000は電気ヒューズ10の端部から5.1μmだけ離れた位置に形成されることが分かっている。
また、図39から、切断部1000の位置は、ほとんど、クラック6の位置よりも上流側にあるが、長丸印で囲まれた測定結果に関しては、他の測定結果と異なり、切断部1000の位置がクラック6の位置よりも下流側にあることが分かる。なお、電気ヒューズ10の長さによらず、前述の傾向が表れるものと考えられる。このように、直線形状のみを有する電気ヒューズ10が用いられると、切断部1000の位置を特定することが困難であるという問題が生じる。
前述の問題を解決する方法として、クラック6を2箇所で発生させ、その2箇所のそれのそれぞれにおいて溶融した主配線1を吸い込ませ、その2箇所の間の位置で電気ヒューズ10を切断する方法が考えられる。これには、折れ曲がり部10cと直線部10dとを有する電気ヒューズ10、すなわち、図3および図4に示すような蛇行形状を有する電気ヒューズ10を用いることが効果的である。
蛇行形状を有する電気ヒューズ10によれば、図40および図41に示す電気ヒューズ10の折れ曲がり部10cの近傍の位置2000に応力集中を発生させることができる。そのため、切断部1000の位置を特定することができる。つまり、2つの折れ曲がり部10c同士の間の位置に切断部1000を形成することができる。
ただし、図42に示す直線部10d同士の間の距離Sが小さい場合には、切断片が飛び散り、図43に示すように、切断された電気ヒューズ10の直線部10d同士が短絡するおそれがある。
切断された電気ヒューズ10の直線部10d同士が短絡するか否かは、切断部1000のバリア膜3の外側への拡散を考慮すると、基本的には、切断部1000の大きさに依存している。切断部1000の大きさがほぼ0.3μm未満であるため、蛇行形状を有する電気ヒューズ10の直線部10d同士の間の距離Sは0.3μm以上であることが望ましい。つまり、切断部1000の大きさよりも切断部1000の近傍の直線部10d同士の間の距離Sが大きいことが望ましい。なお、図44に示すように、距離Sは0.3μm以上であるが、応力集中の発生を生じ易くするため、折れ曲がり部10cの近傍の部位同士の間の距離S0が、直線部10d同士の間の距離Sより小さいことが望ましい。
(実施の形態3)
次に、図45〜図47を用いて、実施の形態3の電気ヒューズ構造体および電気ヒューズの抵抗値の増加方法を説明する。本実施の形態のヒューズ構造体は、実施の形態1のそれと同一である。
実施の形態1および2の電気ヒューズの抵抗値の増加方法を用いる場合には、クラック6が絶縁層4中において即座に延びないことがある。これは、たとえば、回路構造に起因する問題のためにあまり大きな電流を電気ヒューズ10に流すことができず、電気ヒューズ構造体に生じる熱応力がクラック6を発生させ得る程度に十分に大きくないことに起因すると考えられる。そのため、実施の形態1および2において説明した切断方法によっては電気ヒューズ10を切断することができない場合がある。したがって、次に、この場合に電気ヒューズ10を確実に切断する方法を述べる。
電気ヒューズ10に電流を流せば、電気ヒューズ10の温度が上昇するにつれて、主配線1が固体から液体へ変化する。クラック6が絶縁層4に生じない場合には、液体の状態の主配線1に電流が流れる。このとき、108A/m2以上の電流を主配線1に流すと、電磁力が主配線1の中心方向に生じる。これは、ピンチ効果と呼ばれる。そのため、主配線1のうち液化した部分は、表面張力およびピンチ効果によって縮まろうとする。以下、このピンチ効果を説明する。
ここで、説明の簡便のために、主配線1は円柱形状を有していると仮定される。また、主配線1に電流が流れることによって、磁場が形成され、電流の流れる向きに対して垂直な方向にローレンツ力Fが生じる。このとき、磁場Bは次の(式1)によって表わされる。
また、前述の円柱の半径がr(m)であるとすると、磁場B(A/m)と電流密度j(A/m2)とを用いて、単位体積当りの主配線1に生じるローレンツ力F(N/m3)は、次の(式2)によって表わされる。
(式1)においては、電流密度Jは一様であると仮定されている。また、(式1)において、μ0は誘磁率であり、Sは任意の閉曲面であり、Iは主配線1に与えられる電流値であり、Rは主配線1を構成する部分の円柱中心からの距離である。主配線1を構成する物質の密度をρ(kg/m3)とすると、ローレンツ力Fによって主配線1に生じる単位体積当りの加速度aはF/ρ(m/s2)に等しい。
したがって、加速度aを用いて、距離R=0となる時刻t(s)、すなわち、理論上電気ヒューズ10が最も細くなると考えられる時刻は、t=√(2r/a)と表わされる。
また、主配線1の半径rが0.075(μm)であり、印加電流Iが15(mA)であり、密度ρが8780(kg/m3)であり、誘磁率μ0が1.256637×10-6(H/m)であると仮定すると、次のように、ローレンツ力F、加速度a、および時刻tが算出される。
F=3.3953×1010(N/m3)
a=3.8671×106(m/s2)
t=197(ns)
上記のことから、ピンチ効果を用いれば、主配線1を最も細くするために必要な時間(t)は極めて短いと考えられる。すなわち、電流パルスの幅が小さくても、ピンチ効果によって電気ヒューズ10の径が極めて小さくなることが予想される。なお、電流密度jは、8.49×1011(A/m2)である。
また、ピンチ効果を利用して電気ヒューズ10を切断するために、電気ヒューズ10の液化した部分が最も細くなった時点で、すなわち、上記の距離R=0となる時刻tで、電気ヒューズ10に電流(パルス)を流すことを停止する。この時点から主配線1の固化が開始される。また、電気ヒューズ10に電流(パルス)を流すことが停止されれば、電気ヒューズ10の収縮力の方向とは反対方向に復元力が作用する。その結果、電気ヒューズ10が膨張し始める。
再度、主配線1に電流パルスを与えると、前述した収縮力と復元力とが交互に電気ヒューズ10に生じる現象が繰り返され、主配線1のローレンツ力Fが作用した部位の径がさらに小さくなる。したがって、最終的には、主配線1の液化した部分は切断される。図45には、電流パルスのオン/オフの繰り返しによって、電気ヒューズ10に切断部1000が形成される過程が示されている。
本実施の形態の電気ヒューズの切断方法においては、ピンチ効果によって、電流オンによって生じる収縮力(ローレンツ力)と電流オフによって生じる膨張方向の力(復元力)とが交互に繰り返して電気ヒューズ10に作用する。また、ピンチ効果が生じている位置では、主配線1は液体になっているため、ローレンツ力Fとともに表面張力も生じている。このとき、電気ヒューズ10の周囲の絶縁層2、4、および5が電気ヒューズ10が発した熱によって軟化している。そのため、電気ヒューズ10が外側へ膨らむ。その結果、電気ヒューズ10の中心部が徐々に空洞化し、最終的には電気ヒューズ10が切断される。なお、重力の影響によって液化した電気ヒューズ10は下側に溜まり易い。そのため、電気ヒューズ10の上部から切断が開始される。
前述のように、本実施の形態の電気ヒューズの切断方法においては、所定の電流パルスが繰り返して電気ヒューズ10に与えられ、それにより、ピンチ効果が繰り返して生じる。その結果、図46に示すように、電気ヒューズ10が切断部1000で切断される。
なお、本実施の形態の電気ヒューズ10の切断方法によっても、主配線1が液化するまでの時間および主配線1に電流(パルス)を流す時間が非常に短いため、電気ヒューズ10の周辺部に生じる熱的な損傷が抑制される。
たとえば、本実施の形態の電気ヒューズの切断方法においては、電気ヒューズ10の温度が5μs間だけ1200℃に保持される。この場合には、電気ヒューズ10の周囲に設けられた絶縁層2、4、および5のうち温度が600℃以上となる部位は、図47に示すように、電気ヒューズ10からの距離が0.4μm未満の部位である。そのため、電気ヒューズ10の発熱に起因した悪影響は、電気ヒューズ10の周囲に設けられた素子にはほとんど与えられない。
また、ピンチ効果によって電気ヒューズ10が切断される場合には、理論的にも実験結果からも、電気ヒューズ10の両端から等しい距離にある中央部が切断されることが判明している。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。