従来から、自動車等に配索されるワイヤハーネスの構成部品として、被覆電線の被覆を取り除いて露呈させた芯線に対して、端子金具を固着させた端子付電線が知られている。このような端子付電線では、被覆電線の芯線が固着される端子金具の芯線固着部が外部に露呈されていることから、例えば、特開2012−94340号公報(特許文献1)に記載のように、芯線固着部を熱収縮チューブで覆い、熱収縮により熱収縮チューブを芯線固着部に密着させることで、芯線固着部の防食性を確保することが行われている。
ところが、このような従来の端子付金具の防食構造では、熱収縮チューブの内周面に被着された接着剤や別途芯線固着部に付与した接着剤が、熱収縮チューブの加熱工程により溶融し、さらに熱収縮チューブの収縮により、熱収縮チューブの開口部から押し出される。その結果、端子金具の接続部側に接着剤が流れ出てしまい、端子金具の相手側への接続に支障を来たすという問題があった。
これに対して、特開平10−289745号公報(特許文献2)に記載の如く、端子金具の芯線固着部と接続部との間に接着剤の流入防止壁を突設させることも考えられるが、端子金具の設計変更が必要となり、端子金具の汎用性低下やコスト高を招くおそれがあった。
加えて、特許文献1や2のように端子金具の芯線固着部の全体を熱収縮チューブで覆ってしまうと、その後に芯線が芯線固着部に確実に固着されているか否かの確認が困難となり、製品の信頼性向上に支障を来たすおそれもあった。
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、端子金具に特別な加工を施すことなく熱収縮チューブからの接着剤の流れ出しによる不具合を解消しつつ、防食性と接続信頼性の向上を図ることができる、新規な構造の端子付電線を提供することにある。
本発明の第一の態様は、被覆電線と、該被覆電線の端末に露呈された芯線に固着された端子金具とを含む端子付電線であって、前記端子金具が、前記被覆電線の絶縁被覆に圧着された被覆圧着部と、前記絶縁被覆の端部から延出する前記芯線が固着された芯線固着部と、該芯線固着部から延出して相手側に接続される接続部を含んでおり、前記芯線固着部の少なくとも前記接続部側の端部が、半田層によって覆われている一方、前記芯線固着部に外装されて被着された熱収縮チューブの前記接続部側の開口部から、前記半田層によって覆われた前記芯線固着部の少なくとも前記端部が露呈している、ことを特徴とする。
本態様によれば、芯線が固着された芯線固着部の少なくとも接続部側の端部が、半田層によって覆われており、かかる半田層により防食性が確保されている。従って、芯線固着部における少なくとも半田層で覆われた領域を、熱収縮チューブで覆う必要が無くなるのである。それ故、熱収縮チューブの接続部側の開口部から、かかる半田層に覆われた芯線固着部の少なくとも端部を外部に露呈した状態で、熱収縮チューブを芯線固着部に外装固着させることが可能となるのである。
また、仮に熱収縮チューブの熱収縮により内部の接着剤が熱収縮チューブの接続部側の開口部から流出したとしても、かかる開口部から露呈した芯線固着部の端部に接着剤が広がって被着されることから、溶融した接着剤が端子金具の接続部まで至ることが回避される。要するに、熱収縮チューブで芯線固着部全体を覆う必要がないことから、熱収縮チューブの接続部側の開口部から露呈させた芯線固着部の少なくとも端部に接着剤を被着させることで、接着剤が接続部に至るまでに接着剤の広がりを抑えることができる。これにより、端子金具に従来の如き流入防止壁等の特別な構造を設けることなく、接着剤の広がりを抑制し接続不良の発生等を未然に防止することが可能となったのである。
しかも、熱収縮チューブの接続部側の開口部から露呈する芯線固着部は、半田層で覆われていることから、要求される防食性を安定して確保できるのである。加えて、熱収縮チューブから芯線固着部の少なくとも端部が露呈していることから、熱収縮チューブを装着した後であっても、芯線固着部に対する芯線の固着状況を確認することができる。これにより、熱収縮チューブの装着後であっても固着不良の検出が可能となって、端子付電線の接続信頼性の向上を図ることができる。
なお、芯線固着部への芯線の固着方法は、超音波溶着や抵抗溶接、加締め片による圧着等、公知の任意の手法が何れも採用可能である。また、芯線固着部への半田層の被着は、半田浴に芯線固着部の少なくとも端部或いは全体を浸漬する方法や、溶融半田を芯線固着部の必要箇所に付着させること等によって実現できる。
本発明の第二の態様は、前記第一の態様に記載のものにおいて、前記熱収縮チューブと前記芯線固着部の間に追加接着剤が付加されているものである。
本態様によれば、熱収縮チューブと芯線固着部の間に追加接着剤が付加されていることから、熱収縮チューブの熱収縮に際して、接続部側の開口部から流出する接着剤の量が多くなる。従って、熱収縮チューブの開口部から流出する接着剤を積極的に利用して、芯線固着部の露呈端部に被着させることで、芯線固着部の露呈端部の防食性を一層有利に向上させることができるのである。
本発明の第三の態様は、前記第一又は第二の態様に記載のものにおいて、前記芯線固着部の全体が前記半田層に覆われているものである。
本態様によれば、芯線固着部の全体が半田層によって覆われていることから、芯線固着部が熱収縮チューブから外部に露呈されていても、芯線固着部の防食性が一層有利に確保される。また、芯線固着部の全体を半田層で覆うことにより、熱収縮チューブの開口部からの露呈寸法にばらつきが生じても、防食性を安定して確保することができ、作業性や品質安定性を向上させることができる。なお、芯線固着部の全体への半田層の被着は、半田浴に芯線固着部を浸漬する簡単な方法により容易に実現できる。
本発明によれば、芯線が固着された芯線固着部の少なくとも接続部側の端部が半田層によって覆われており、かかる半田層により防食性が確保されているので、熱収縮チューブの接続部側の開口部から、かかる半田層に覆われた芯線固着部の少なくとも端部を外部に露呈できる。これにより、仮に熱収縮チューブの熱収縮により内部の接着剤が熱収縮チューブの接続部側の開口部から流出したとしても、露呈させた芯線固着部の少なくとも端部に接着剤を被着させることで、接着剤が接続部に至るのを防止し接続不良の発生等を未然に防止できる。加えて、熱収縮チューブを装着した後であっても、芯線固着部に対する芯線の固着状況を確認することができるので、端子付電線の接続信頼性を向上できる。
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
先ず、図1には、本発明の一実施形態としての端子付電線10の後述する熱収縮チューブ40による被覆前の状態が示されている。端子付電線10は、被覆電線14と、被覆電線14の端末16に露呈された芯線18に固着された端子金具20とを含んで構成されている。なお、被覆電線14は、導体である銅やアルミニウムその他の金属線の複数を束ね合わせた芯線18が、エチレン系樹脂やスチレン系樹脂等の電気絶縁性を有する絶縁被覆22で覆われた構造とされている。
端子金具20は、被覆電線14の絶縁被覆22に対して圧着された被覆圧着部24と、絶縁被覆22の端部から延出する芯線18が固着された芯線固着部26と、芯線固着部26から延出して相手側の電気的接続対象に対して導通可能に接続される接続部28を含んで構成されている。なお、端子金具20は、導電性を有し且つプレス加工や打抜き加工等が可能な種々の金属材料、例えば真鍮や銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等を用いて一体的に形成されている。また、本実施形態では、端子金具20の厚さ寸法は全体に亘って略一定とされている。
被覆圧着部24は、略矩形平板形状を有し且つ被覆電線14の絶縁被覆22が載置される載置部30と、この載置部30の幅方向の両側縁部に設けられた一対の被覆電線加締め部32,32を含んで構成されている。一方、芯線固着部26は、長手状の略矩形平板形状を有し且つ被覆電線14の芯線18が載置される載置部34を含んで構成されている。
接続部28は、平面が略円形の平板形状を有していると共に、中央部分に貫通孔36が貫設されている。この貫通孔36は、例えば相手側の電気的接続対象に対して螺着される端子ボルトを挿通するために利用される。
加えて、端子金具20には、長手方向の被覆圧着部24側の端部から接続部28の略中央部に亘って、幅方向の両側縁部から被覆電線14の載置される側に向って垂直に突出する一対の側壁38,38が設けられている。これにより、端子金具20の強度が向上されていると共に端子金具20への被覆電線14及び被覆電線14から延出する芯線18の安定的な載置が可能となっている。
次に、本実施形態の端子付電線10の製造方法について説明する。先ず、被覆電線14の端末16側の絶縁被覆22を剥いで芯線18を露出させる。続いて、この被覆電線14の外周側に熱収縮チューブ40を遊挿して、端末16よりも後方(図1中、下側)に移動させておく。そして、芯線18が露出された被覆電線14の端末16を、端子金具20の被覆圧着部24の載置部30に絶縁被覆22が載置され、且つ芯線固着部26の載置部34に芯線18が載置されるように、位置決めして配設する。
かかる状態下で、例えば特許文献(実開平5−23389)に示されるような公知の加締め装置を用いて、被覆電線加締め部32,32に加締め加工を施す。これにより、被覆電線加締め部32,32を備えた被覆圧着部24が塑性変形して、被覆電線14を外周面から包み込むようにして圧着される。
次に、芯線固着部26の載置部34に載置された芯線18を、例えば超音波溶接を用いて芯線固着部26に固着する。なお、芯線固着部26への芯線18の固着方法は、超音波溶接の他に、抵抗溶接や加締め片による圧着等、公知の任意の手法が何れも採用可能である。この結果、芯線18すなわち被覆電線14が端子金具20に対して電気的に接続される。なお、この状態では、まだ、芯線18は外部に露出した状態のままである。
続いて、被覆電線14が接続された端子金具20を、例えば接続部28側から接続部28と芯線固着部26を半田浴に浸漬する。これにより、接続部28に加えて、芯線固着部26に固着された芯線18を含む芯線固着部26の全体を半田層42によって覆うことができる。
次に、熱収縮チューブ40を被覆電線14に沿ってスライドさせ、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から、半田層42によって覆われた芯線固着部26の接続部28側の端部46が露呈するように熱収縮チューブ40の位置決めを行う。併せて、熱収縮チューブ40と芯線固着部26の間に略矩形板状の追加接着剤48を付加する。なお、追加接着剤48としては、熱収縮チューブ40で通常使われるホットメルトすなわちエチレン酢酸ビニル(EVA)のような熱可塑性樹脂の他、公知の各種熱可塑性樹脂が採用可能である。この状態で、電熱器などの加熱手段を用いて熱収縮チューブ40を加熱する。
これにより、図2に示されているように、熱収縮チューブ40は熱収縮され、被覆電線14の端末16を載置部30,34とともに締め付ける。これに伴って溶融したホットメルト50は、図3に示されているように、熱収縮チューブ40の収縮力によって、芯線固着部26と、被覆圧着部24と、絶縁被覆22に亘って広がってそれらと熱収縮チューブ40の間を密着する。しかも、加熱により溶融したホットメルト50は、粘度が低下して流動化しているので、上述した各部材との間に大きな隙間を空けることなく満遍なく埋めることができ、上述した各部材を液密状態で密着させることができる。
溶融したホットメルト50の一部は、熱収縮チューブ40の長手方向の両側の開口部44,52から熱収縮チューブ40の長手方向外方に向かって流れ出る。図2及び図3に示されているように、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から流れ出るホットメルト54aの流出量は、熱収縮チューブ40のもう一方の側の開口部52から流れ出るホットメルト54bの流出量に比べて、追加接着剤48が付加された分だけ多くなっている。従って、この多く流出したホットメルト54aを利用して、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から露呈している芯線18を含む芯線固着部26の端部46を、ホットメルト54aを被着してカバーすることにより、露呈している芯線固着部26の端部46の防食性を向上させることができるのである。そして、ホットメルト50を冷却固化することにより、本実施形態の端子付電線10が完成する。
このような構造とされた本実施形態の端子付電線10によれば、芯線18を含む芯線固着部26の全体が半田層42によって覆われていることから、かかる半田層42によって芯線固着部26の防食性が確保されている。これにより、半田層42に覆われた芯線固着部26を熱収縮チューブ40で覆う必要が無くなることから、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44はかかる半田層42に覆われた芯線固着部26上にあればよい。それ故、端子付電線10に対する熱収縮チューブ40の位置決めを容易に行うことができるのである。
以上のように、熱収縮チューブ40を、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から芯線固着部26の接続部28側の端部46が外部に露呈した状態で、芯線固着部26に対して外装固着することができるのである。従って、従来の如き芯線固着部26が熱収縮チューブ40によって完全に覆われている場合に比して、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44と接続部28間の離隔距離を少なくとも芯線固着部26の熱収縮チューブ40からの露呈距離分だけ長くとることができる。それ故、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から流れ出るホットメルト54aが接続部28まで至ることが回避され得るので、従来の如き端子金具に流入防止壁等の特別な構造を設けることなく、接続部28へののホットメルト54aの流れ込みを抑制し、接続部28にホットメルト54aが付着することによる接続不良の発生等を未然に防止することできるのである。
加えて、熱収縮チューブ40の開口部44から芯線固着部26の端部46が外部に露呈した状態で熱収縮チューブ40が芯線固着部26に外装固着されていることから、熱収縮チューブ40の装着後であっても芯線固着部26に対する芯線18の固着状況を確認でき固着不良を検出することができるので、端子付電線10の接続信頼性の向上を図ることができる。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、かかる実施形態における具体的な記載によって、本発明は、何等限定されるものでない。例えば、本実施形態では、芯線18を含む芯線固着部26への半田層42の被着は、半田浴に接続部28側から接続部28と芯線固着部26を浸漬することにより行われていたが、芯線固着部26の接続部28側の端部46を含む領域を半田ごて等で加熱して溶融半田を付着させること等によっても実現できる。また、上記実施形態では、芯線18を含む芯線固着部26の全体が半田層42によって覆われていたが、熱収縮チューブ40の接続部28側の開口部44から露呈する芯線固着部26の端部46が少なくとも半田層42によって覆われていればよい。