JP2015098055A - 回転ツール - Google Patents

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Abstract

【課題】耐酸化性および耐塑性変形性に優れた摩擦攪拌接合用ツールを提供する。【解決手段】本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、摩擦攪拌接合加工に使用するものであって、基材を含み、該基材は、硬質相と、結合相とを含み、該硬質相は、WC粒子、および/または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体からなり、結合相は、Coを含み、Coは、基材に対し、5質量%未満含まれることを特徴とする。【選択図】図1

Description

本発明は、摩擦攪拌接合用ツールに関する。
1991年の英国において、アルミニウム合金などの金属材料同士を接合する摩擦攪拌接合技術が確立された。本技術は、接合を目的とする金属材料同士の接合面において、先端に小径突起部が形成された円柱状の摩擦攪拌接合用ツールを押圧しながら回転させることにより、摩擦熱を発生させて、当該摩擦熱により接合部分の金属材料を軟化させて塑性流動させることにより、金属材料同士を接合するという技術である(特許文献3)。
ここで、「接合部分」とは、金属材料を突き合わせたり、金属材料を重ねて設置させたりすることにより、それらの金属材料の接合が所望される接合界面部分をいう。摩擦攪拌接合では、この接合界面付近における金属材料が軟化されて塑性流動が起こり、その金属材料が攪拌されることによってその接合界面が消滅し、接合が行なわれる。さらに、同時にその金属材料に動的再結晶が起こるので、この動的再結晶により接合界面付近の金属材料が微粒化することとなり、金属材料同士を高強度に接合することができる。
このような金属材料としてアルミニウム合金を用いる場合、500℃程度の比較的低温で塑性流動が生じるため、安価な工具鋼からなる摩擦攪拌接合用ツールを用いても、その傷みが少なく頻繁にツールを交換しなくてもよい。このため摩擦攪拌接合技術は、アルミニウム合金を接合するのに要するコストが低廉であることから、アルミニウム合金を溶融させて接合する抵抗溶接法に代わる接合方法として、鉄道車両や自動車、飛行機の構造部品の接合技術として既に様々な用途で実用化されている。
現在のところ、摩擦攪拌接合技術は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、銅合金等のような比較的低温で塑性流動が生じる非鉄金属に主として適用されている。このような摩擦攪拌接合技術は、接合に要するコストおよび時間、接合部分の強度等の面で、抵抗溶接法に比して優れている。このため、低温で塑性流動が生じる材料だけに摩擦攪拌接合技術を適用するに留まらず、1000℃以上の高温で塑性流動が生じるような鉄鋼材料の接合にも摩擦攪拌接合技術を適用したいというニーズがある。なお、以下において、摩擦攪拌接合技術を用いた種々の加工を摩擦攪拌接合というものとする。
しかしながら、高温下での摩擦攪拌接合においては、攪拌部の温度が被接合材の融点近くまで上昇することにより、接合時に被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの基材とが反応し、基材の合金化が進んだり、被接合材に基材の成分が溶解したりして、摩耗が進みやすくなる。さらに、摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部に欠けが生じたり、折れたりしやすくなり、ツールの短寿命化が大きな問題となっている。
特許文献1には、摩擦攪拌接合用ツールの表面のうち被接合材と接触する部分にダイヤモンド膜を被覆することにより、その表面硬度を高める技術が開示されている。また、特許文献2には、被接合材の硬度よりも高い硬度の超硬合金等が摩擦攪拌接合用ツールを構成する材料として用いられている。
特開2003−326372号公報 特開2001−314983号公報 特許第2712838号公報
しかしながら、特許文献1に開示されるダイヤモンド膜、および特許文献2に開示される超硬合金はいずれも、材料強度が高いとはいえ、摩擦攪拌接合技術を鉄鋼材料に適用した場合、摩擦攪拌接合用ツール自体も接合時に高温に晒され、摩擦攪拌接合用ツールに塑性変形が起こる。しかも、摩擦攪拌接合用ツールの被接合材に接触する部分、特にショルダー部が容易に酸化されて膨張する。このように酸化されて膨張した状態で摩擦攪拌接合を続けると、接合部分にバリが生じて接合品質が悪くなるという問題や、酸化された部分が高温となって剥がれ落ちて、ショルダー部の摩耗が進行しやすくなるという問題が生じる。
ところで、摩擦攪拌接合加工には、大きく線接合(FSW:Friction Stir Welding)と点接合(スポットFSW)とがある。線接合では、摩擦攪拌接合用ツールを被接合材に挿入して摩擦熱を発生させた状態のまま連続的に接合するのに対し、点接合では、摩擦攪拌接合用ツールを2〜3秒ごとに被接合材から離して断続的に接合する。このため、点接合では、接合を行なう度に摩擦攪拌接合用ツールが空気に接触し、その表面が酸化環境に曝されて酸化されやすくなり、ツール寿命の短縮が顕著となる。
しかも、点接合においては、摩擦攪拌接合用ツールを被接合材から離したときに、摩擦攪拌接合用ツールから空気中に放熱されるため、摩擦攪拌接合用ツールの表面温度が一時的に低下する。摩擦攪拌接合用ツールの表面温度が低いと被接合材に塑性流動が生じにくくなるため、被接合材に摩擦攪拌接合用ツールを押しあてるときには、たとえば摩擦攪拌接合用ツールの回転速度を上昇させたり、押圧力を上昇させたりというように、一層過酷な条件下で摩擦攪拌する必要がある。このような過酷な条件下での使用によって、摩擦攪拌接合用ツールに損傷が生じやすくなることは言うまでもない。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、耐酸化性および耐塑性変形性に優れた摩擦攪拌接合用ツールを提供することである。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、摩擦攪拌接合加工に使用するものであって、該摩擦攪拌接合用ツールは、基材を含み、該基材は、硬質相と、結合相とを含み、該硬質相は、WC粒子、および/または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体からなり、結合相は、Coを含み、Coは、基材に対し、5質量%未満含まれることを特徴とする。
上記のCoは、基材に対し、3質量%以上5質量%未満含まれ、かつ結合相はNiを含まないことが好ましい。上記のCoは、基材に対し、3質量%未満含まれることが好ましい。
結合相は、さらにCrまたはNiのいずれか一方もしくは両方を含み、該Crは、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.01以上0.15未満含まれることが好ましい。Niは、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.5以下含まれることが好ましく、より好ましくは0.35以下含まれることである。
硬質相は、WC粒子を主体として含むか、または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体を主体として含むことが好ましい。
摩擦攪拌接合用ツールは、基材と、該基材上に形成された被覆層とを備えることが好ましい。摩擦攪拌接合用ツールを用いた摩擦攪拌接合加工が、点接合であることが好ましい。上記の摩擦攪拌接合加工が鋼を接合するものであることが好ましい。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、上記のような構成を有することにより、耐酸化性および耐塑性変形性に優れたものとすることができる。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの概略断面図である。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<摩擦攪拌接合用ツール>
本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、摩擦攪拌接合加工に使用するものであって、基材を含み、該基材は、硬質相と、結合相とを含み、該硬質相は、WC粒子、および/または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体からなり、結合相は、Coを含み、Coは、基材に対し、5質量%未満含まれることを特徴とする。なお、基材は、硬質相および結合相以外の組成として、他の成分および不可避不純物を含んでいてもよい。
このような本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、たとえば線接合(FSW:Friction Stir Welding)用途、点接合(スポットFSW)用途等に有用に用いることができる。特に、上記の構成を有することにより、基材が耐酸化性に優れることから、スポットFSW用途に極めて有用に用いることができる。
図1は、本発明の摩擦攪拌接合用ツールの概略断面図である。本発明の摩擦攪拌接合用ツール1は、図1に示されるように、小径(たとえば直径2mm以上8mm以下)のプローブ部2と、大径(たとえば直径4mm以上30mm以下)の円柱部3とを備えた形状を有する。これを接合に用いる場合、プローブ部2が被接合材の接合部分に挿入または押圧された状態で回転されることにより、被接合材が接合されることとなる。なお、接合加工時に被接合材と接する部分のことをショルダー部という。
この場合、線接合用途では、積層状もしくは線接触状に突き合わされた2つの被接合材にプローブ部2を押圧もしくは挿入させ、回転するプローブ部2を当該積層した部分もしくは突き合わされた部分に対して直線状に移動させることにより被接合材同士を接合する。一方、点接合用途では、上下に積層、もしくは突き合わされた2つの被接合材の所望の接合箇所に回転するプローブ部2を押圧し、その場所でプローブ部2を引き続き回転させることにより、被接合材同士を接合する。
本発明は、摩擦攪拌接合用ツールを用いて被接合材を接合する場合、接合は、融点が1000℃以上の被接合材に対して行なうことができる。本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、従来摩擦攪拌接合用ツールによる接合が困難と考えられていた融点が1000℃以上の被接合材に対しても接合を行なうことができ、しかもこのような材料を点接合する場合にも用いることができ、極めて優れた産業上の利用性を有するものである。
このように本発明の摩擦攪拌接合用ツール1は、各種用途に用いることができるものであるが、とりわけ従来において抵抗溶接法が主として用いられていた高張力鋼の接合に好適に用いることができる。すなわち、本発明の摩擦攪拌接合用ツール1は、高張力鋼の接合用途において、従来の抵抗溶接法に代替する手段を提供するものである。摩擦攪拌接合は、固相状態で被接合材が接合される上に、接合部分に動的再結晶が生じることから、組織が微細化し、以って接合中に被接合材が液相となる従来の抵抗溶接法に比し、接合部分の強度を向上させることができる。したがって、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、高比強度の高張力鋼、特に980MPa以上の超高張力鋼の接合に極めて有効に使用し得るものである。しかも、このような超高張力鋼を点接合する場合にも、摩擦攪拌接合用ツールに欠損が生じにくい。以上のような本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、高融点の材料からなる被接合材の接合に好適に用いることができる。また、本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、摩擦攪拌プロセスとしても使用可能である。
<基材>
本発明の摩擦攪拌接合用ツールに用いられる基材は、硬質相と、結合相とを含み、該硬質相は、WC粒子、および/または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体からなり、結合相は、Coを含み、該Coは、基材に対し、5質量%未満含まれることを特徴とする。Coが5質量%未満である基材は、耐欠損性が低下する傾向にあるが、鋼の摩擦攪拌接合に用いたときに、耐酸化性および耐塑性変形性を高度に両立したものとなる。ここで、アルミニウムを摩擦攪拌接合するときには、接合時の被接合材の温度が400〜600℃に達するが、鋼を摩擦攪拌接合するときには、接合時の被接合材の温度が1000〜1200℃に達する。このため、鋼を接合するときは、アルミニウムなどの低融点金属を接合するときに比して、格段に基材の耐酸化性および耐塑性変形性を向上させる必要がある。したがって、上記のようなCoの含有量として、摩擦攪拌接合用ツールの耐酸化性および耐塑性変形性を向上させる効果は極めて大きい。
上記の結合相に含まれるCoは、硬質相よりも耐酸化性が低いため、Coを5質量%以上含むと、基材の耐酸化性および耐塑性変形性が低下する。また、基材に対し、3質量%未満のCoが含まれることが好ましい。これにより基材の耐酸化性および耐塑性変形性を高度に両立させることができる。
本発明の摩擦攪拌接合用ツールの基材は、その組織中に遊離炭素やη相と呼ばれる異常相を含んでいてもよい。
<結合相>
本発明において、結合相は、硬質相同士を結合するために基材に含まれるものである。このような結合相は、基材に対し、5質量%未満のCoが含まれるものであるが、特に上述のように3質量%未満のCoを含むか、または3質量%以上5質量%未満のCoが含まれ、かつ結合相はNiを含まないことが好ましい。Coが基材に対し、3質量%以上5質量%未満含まれるときに、さらに結合相がNiを含むと、耐塑性変形性が低下するため好ましくない。また、上記のCoは、基材に対し、1質量%以上を含むことが好ましい。基材が1質量%未満のCoを含む場合は、耐欠損性が低下するため好ましくない。
上記の基材に対し、3質量%未満のCoが含まれる場合、結合相は、さらにCrまたはNiのいずれか一方もしくは両方を含み、かつCrは、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.01以上0.15未満含まれることが好ましい。このような質量比でCrを含むことにより、結合相にCrが固溶するため、基材の耐熱亀裂性を向上させることができる。すなわち、鋼の摩擦攪拌接合を行なった場合に、加熱冷却に伴う熱衝撃に対する耐熱亀裂性を向上し、もって熱亀裂の発生および進展を抑制するとともに、耐チッピング性および耐欠損性を向上させることができる。
上記のCrがCoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.01未満であると、耐熱亀裂性を十分に向上させることができず、摩擦攪拌接合用ツールにチッピングが生じやすくなったり、欠損が生じやすくなったりする。一方、質量比で0.15以上であると、Crの炭化物が組織中に析出しやすくなって基材の強度が低下するため好ましくない。
上記のCoおよびNiの合計質量に対するCrの質量比は、質量比で0.03以上0.1以下含まれることが好ましく、より好ましくは0.05以上0.1以下である。このような質量比でCrを含むことにより、Crを結合相に固溶しやすくするとともに、組織中へのCr炭化物の析出を抑制し、もって基材の耐熱亀裂性および強度のバランスがさらに良好なものとなる。
また、上記のNiは、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.5以下含まれることが好ましく、より好ましくは0.35以下含まれることである。このような質量比でNiを含むことにより、Coの質量比が向上して焼結性が高められるため、基材の強度を高めることができる。一方、上記のNiの質量比が0.5を超えると、基材の焼結性が低下して、強度が低下することになるため好ましくない。
<硬質相>
本発明において、硬質相は、WC粒子を主体として含むか、またはTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体を主体として含むことが好ましい。
硬質相がWC粒子を主体として含むことにより、基材の熱伝導率を向上し、もって基材の耐熱衝撃性を向上させることができる。これにより、鋼の摩擦攪拌接合を行なったときに、基材が接合前後の熱衝撃に耐え得るものとなり、特に基材の耐欠損性を向上させることができる。ここで、上記の「WC粒子を主体として含む」とは、硬質相中のWC粒子が、硬質相の合計体積に対し、体積比で0.5を超えて含むことをいう。以下において「主体として含む」と記す場合は、これと同様に解釈するものとする。
また、硬質相が、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体を主体として含むことにより、耐酸化性を向上させるとともに、ショルダーの外径部を酸化しにくくすることができ、もってバリが形成されにくくなる。しかも、プローブ部において、基材の酸化による摩耗が起こりにくくすることができるため、基材の摩耗を抑制し、ツール寿命を長寿命化することができる。
<被覆層>
本発明の摩擦攪拌接合用ツール1の基材上に、被覆層を備えていてもよい。ここでの被覆層とは、単一組成の1層のみから構成されていてもよいし、互いに組成の異なる2以上の層によって構成されていてもよい。このような被覆層を備えることにより、耐摩耗性、耐酸化性、靭性、使用済みプローブの識別のための色付性等の諸特性を向上させる作用を付与することができる。また、被覆層は、基材の全面を覆うようにして形成されていることが好ましいが、基材の一部が被覆層により覆われていなかったり、基材上のいずれかの部分において被覆層の構成が異なっていてもよい。また、酸化が最も著しい、ショルダー部のみを被覆してもよい。
被覆層を構成する材料としては、熱膨張係数が7×10-6以上9×10-6以下の熱膨張係数を有するものを用いることが好ましく、Ti、Al、Cr、Si、Hf、Zr、Mo、Nb、Ta、V、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属の窒化物からなることがより好ましい。
さらに、上記の被覆層は、1000℃以上の耐酸化性を有することが好ましい。ここで、「1000℃以上の耐酸化性を有する」とは、被覆層を熱分析−示差熱熱重量同時測定(TG/DTA:Thermogravimetry/Differential Thermal Analysis)装置により、大気中で評価を行ない、重量増加が生じた温度が1000℃以上であることを意味する。このような耐酸化性を有する被覆層を構成する組成の好適な例としては、AlTiSiN、AlCrN、TiZrSiN、CrTaN、HfWSiN、CrAlN等を挙げることができる。
本発明の被覆層は、物理蒸着法(PVD法)により形成されることが好ましい。これは、本発明の被覆層を基材表面に成膜するためには結晶性の高い化合物を形成することができる成膜プロセスであることが好ましく、種々の成膜方法を検討した結果、物理蒸着法であると成膜後の被覆層が緻密で、被覆層中に亀裂が生じにくいため、基材の酸化抑制に最適であることが見出されたからである。物理蒸着法には、たとえばスパッタリング法、イオンプレーティング法などがあるが、特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法を用いると、被覆層を形成する前に基材表面に対して金属またはガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被覆層と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1〜23、比較例1〜4>
まず、硬質相を構成する材料と、結合相を構成する材料とを、下記の表1に示す質量比率で混合することにより混合粉末を得た。ここで、WC粒子としては、平均粒子径が2μmのものを用いた。
Figure 2015098055
上記混合粉末にエタノールを添加し、アトライターを用いて7時間攪拌することにより、硬質相の材料と結合相の材料とを混合したスラリーを得た。そして、このスラリーに含まれるエタノールを揮発させることにより、焼結体原料を得た。
この焼結体原料を、超硬合金製の金型に充填して100MPaの圧力で単軸加圧することにより加圧成型体を得た。この加圧成型体を真空において1450℃の温度で1時間焼結した。その後、1400℃で1000atmの条件で1時間の熱間静水圧成形(HIP:Hot Isostatic Pressing)処理を行なうことにより、各実施例および各比較例の摩擦攪拌接合用ツールを作製した。
以上のようにして作製した摩擦攪拌接合用ツールは、図1のような形状を有し、直径8mmで高さが30mmの略円柱形状の円柱部3と、該円柱部3の先端中央部に円柱部3と同心に突設されたプローブ部2とを有しており、当該プローブ部2は、直径4mmで高さが1mmの略円柱形状を有するものである。
上記で得られた各実施例および各比較例の摩擦攪拌接合用ツールを鏡面研磨し、任意の領域の摩擦攪拌接合用ツールを構成する結晶組織を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて10000倍で写真撮影し、それに付属の波長分散型X線分析(EPMA:Electron Probe Micro-Analysis)を用いて摩擦攪拌接合用ツールの断面(プローブ部の先端方向に対し垂直な面)中におけるWC粒子と硬質相、および結合相の成分のマッピングを行なった。そして、上記で撮影された10000倍の写真に対し、成分を確認しながら画像処理ソフトを用いてWC粒子、硬質相中に含まれる化合物、および結合相に含まれるCr、Ni、ならびにCoを識別し、同写真のWC粒子、硬質相中に含まれる化合物、および結合相に含まれるCr、Ni、ならびにCoのそれぞれの合計面積を算出し、その写真中の摩擦攪拌接合用ツールに占めるWC粒子、硬質相に含まれる化合物、および結合相に含まれるCr、Ni、ならびにCoのそれぞれの割合の百分率を算出した。その結果、上記の各原材料の配合比と、最終的に得られる摩擦攪拌接合用ツールを構成する各組成の質量比と同一とみなし得た。
<摩擦攪拌接合用ツールの評価>
上記で作製した各実施例および各比較例の摩擦攪拌接合用ツールのそれぞれについて、下記の表2に示す条件による点接合(スポットFSW)を4500スポット行なった。ただし、4500スポットの接合を行なう前に、摩擦攪拌接合用ツールの表面に亀裂が入ったときや、摩擦攪拌接合用ツールに欠損が生じたときは、その時点で試験を中止した。また、各比較例の摩擦攪拌接合用ツールは、ショルダー部が極度に酸化しやすかったため、バリの高さが大きいものとなった。このため、バリの高さが2.5mmを超えた時点で試験を中止した。
Figure 2015098055
上記において、4500スポットの点接合を行なった後、摩擦攪拌接合用ツールを塩酸に浸して10分間加熱しながら、その表面に付着した凝着物を除去し、ノギスを用いて摩擦攪拌接合用ツールのショルダー部およびプローブ部の内径を測定した。このようにして点接合を行なう前後のショルダー部およびプローブ部の内径の差を摩耗量として評価し、表3の「摩耗量(mm)」の欄に示した。摩耗量が少ないものほど、耐摩耗性が優れることを示している。
Figure 2015098055
また、表3の「バリの高さ」の欄には、接合後に被接合材の表面から最も突出しているバリの高さを示した。バリの高さが小さいほど、接合品質が優れることを示している。
表3から明らかなように、実施例1〜23の本発明に係る摩擦攪拌接合用ツールは、比較例1〜4の摩擦攪拌接合用ツールに比し、プローブ部およびショルダー部の摩耗量が少ないため、摩擦攪拌接合用ツールの耐摩耗性を向上していることが明らかとなった。また、実施例1〜23の本発明に係る摩擦攪拌接合用ツールは、比較例1〜4の摩擦攪拌接合用ツールに比し、バリの高さが低いため、摩擦攪拌接合用ツールの接合品質を向上していることが明らかとなった。
実施例1〜3の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例4の摩擦攪拌接合用ツールに比して、バリの高さが低い。このため、実施例1〜3の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例4のそれに比して耐塑性変形性が向上していることが明らかである。これは、実施例1〜3の摩擦攪拌接合用ツールは、基材に対し、3質量%以上5質量%未満のCoが含まれ、かつ結合相がNiを含まないものであるのに対し、実施例4の摩擦攪拌接合用ツールは、基材に対し、3質量%以上5質量%未満のCoが含まれ、かつ結合相がNiを含むものであるため、実施例1〜3の摩擦攪拌接合用ツールは、耐塑性変形性が向上し、バリの高さが抑えられたと考えられる。
実施例5〜7の摩擦攪拌接合用ツールは、プローブ部およびショルダー部の摩耗量が少なくなっているため、耐酸化性が向上していることが明らかである。これは、実施例5〜7の摩擦攪拌接合用ツールが、基材に対し、3質量%未満のCoが含まれ、かつ結合相がNiを含むものであることによるものと考えられる。
実施例9および10の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例8、11および12の摩擦攪拌接合用ツールに比して、スポット数が多い。このため、実施例9および10の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例8、11および12のそれに比して耐熱亀裂性が向上していることが明らかである。これは、実施例9および10の摩擦攪拌接合用ツールにおいて、結合相に含まれるCrが、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.01以上0.15未満含むものである。一方、実施例8の摩擦攪拌接合用ツールは、結合相に含まれるCrが、質量比でCoおよびNiの合計質量に対し、0.01未満であり、実施例11および12の摩擦攪拌接合用ツールは、結合相に含まれるCrがCoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.15以上であるためと考えられる。
実施例14および15の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例13の摩擦攪拌接合用ツールに比して、スポット数が多く、かつプローブ部の摩耗量が小さい。このため、実施例14および15の摩擦攪拌接合用ツールは、実施例13のそれに比して強度が向上していることが明らかである。これは、実施例14および15の摩擦攪拌接合用ツールが、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.5以下のNiが含まれるが、実施例13の摩擦攪拌接合用ツールが、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.5を超えてNiが含まれることによるものと考えられる。
実施例16〜19の摩擦攪拌接合用ツールは、スポット数が多く、かつプローブ部の摩耗量が少なくなっているため、強度が向上していることが明らかである。これは、実施例16〜19の摩擦攪拌接合用ツールが、CoおよびNiの合計質量に対し、質量比で0.35以下のNiを含むことによるものと考えられる。
実施例20および21の摩擦攪拌接合用ツールは、WC粒子を主体として含む硬質相からなる基材であるため、スポット数が多く、かつプローブ部の摩耗量が少ないことから、耐欠損性および耐熱衝撃性に優れたものである。これに対し、実施例22および23の摩擦攪拌接合用ツールは、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)、または該化合物の固溶体を主体として含むものであるため、ショルダー部の摩耗量が少なく、かつバリの高さが低いため、耐酸化性に優れ、かつ加工品位に優れたものである。
<実施例24>
実施例17の摩擦攪拌接合用ツールの基材に対し、Al0.6Ti0.35Si0.05Nからなる被覆層を3μmの厚みで物理的蒸着法を用いて被覆することにより、本実施例の摩擦攪拌接合用ツールを作製した。ここで、Al0.6Ti0.35Si0.05Nからなる被覆層は、酸化開始温度が1130℃のものである。
<実施例25>
実施例24における被覆層の組成をTi0.5Al0.5Nに代えたことが異なる他は、実施例24と同様の方法によって、本実施例の摩擦攪拌接合用ツールを作製した。ここで、Ti0.5Al0.5Nからなる被覆層は、酸化開始温度が970℃のものである。
上記で作製した実施例24および25の摩擦攪拌接合用ツールに対し、表4に示す条件で点接合を8000スポット行なった。その結果を表5に示す。
Figure 2015098055
Figure 2015098055
表5に示される結果から明らかなように、実施例24、25のように被覆層によって被覆した摩擦攪拌接合用ツールは、実施例17よりも優れた耐摩耗性、耐酸化性を示し、バリの高さも抑えることができた。
また、実施例24の被覆層は、実施例25の被覆層の酸化開始温度よりも高く、酸化開始温度が1000℃を超えるものであるため、実施例24のツールは実施例25のツールよりも優れた耐摩耗性を示した。一方、実施例25の被覆層の酸化開始温度は1000℃よりも低いため、実施例25は実施例24の摩擦攪拌接合用ツールに比して、耐摩耗性が劣る結果となった。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 摩擦攪拌接合用ツール、2 プローブ部、3 円柱部。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例4〜18および20〜25は参考例である。

Claims (2)

  1. 摩擦攪拌接合加工に使用する摩擦攪拌接合用ツールであって、
    前記摩擦攪拌接合用ツールは、基材を含み、
    前記基材は、硬質相と、結合相とを含み、
    前記硬質相は、WC粒子、または、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、およびWからなる群より選ばれた一種以上の金属と、窒素、炭素、硼素、および酸素からなる群より選ばれる一種以上の元素とからなる化合物(ただし、WCを除く)または該化合物の固溶体とWC粒子とからなり、
    前記硬質相は、前記硬質相の合計体積に対し、体積比で0.5を超える前記WC粒子を含み、
    前記結合相は、Coを含み、
    前記Coは、前記基材に対し、3質量%以上5質量%未満含まれ、かつ前記結合相は、Niを含まない、摩擦攪拌接合用ツール。
  2. 前記摩擦攪拌接合用ツールは、前記基材と、該基材上に形成された被覆層とを備える、請求項1に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
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