本発明の熱変色性固形筆記体は、第1に、前記木軸の外表面に、色、文字、記号若しくは図形又はこれらの組み合わせによる表示が存在する加飾部を設けるとともに、前記加飾部を、可撓性を有するフィルムによって設けることが特徴である。
第1の構成によれば、前記木軸の外表面に、商品名や色等の文字や模様を付した加飾部を設けることで、使用者の購買意欲を高めることができる。また、本発明では、前記加飾部を、可撓性を有するフィルムによって設けるため、固形芯及び木軸の体積変化が生じても加飾部のひび割れ発生を抑制し、且つ木軸の経時劣化を防止することができる。
本発明に用いるフィルムには、ポリエチレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリスチレンフィルム、エチレンビニルアルコール共重合体フィルム等が例示でき、可撓性や熱による寸法安定性を考慮してポリエチレンテレフタレートフィルムとすることが好ましい。
また、加飾部を設ける方法は、可撓性を有するフィルムを転写印刷することが最も好ましい。これは、フィルムによる転写印刷を施すことで、印刷剥がれを抑制し、木軸への水分吸収等、外気との接触を抑制することができ、経時的に安定した寸法を得ることが出来るためである。
また、温度変化にともなう固形芯の膨張・収縮に伴う体積変化及び木軸の体積変化に対応するため、木軸と固形芯間に中間層を設け、前記した木軸及び固形芯の体積変化を吸収することが好ましい。
前記した中間層には、ポリビニルアルコール、スチレン樹脂、スチレン・アクリル樹脂や、固体状態である時に弾性を有する、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、塩ビ系エラストマー、フッ素系エラストマーなどのエラストマー類、天然ゴム、シリコンゴムなどの合成ゴム類、アイオノマー樹脂などの弾性体樹脂が挙げられる。この中でも温度変化にともなう固形芯の膨張・収縮に伴う体積変化の際にも好適に変形して追従し、固形芯との親和性、成形性にも優れ、強度の高い熱変色性固形筆記体を得るため、固体状態である時に弾性を有する弾性体樹脂を含有することが好ましく、中でも不飽和結合を有するモノマーを付加重合させたことにより得られる重合体が好ましい。
不飽和結合を有するモノマーとしては、具体的には、(i)エチレン、プロピレン、ブチレン、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、シクロヘキセンなどのオレフィン化合物、(ii)酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、および酪酸ビニルなどの、ビニルアルコールとカルボン酸とのエステル、(iii)アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルおよびメタクリル酸ブチルなどの、アクリル酸またはメタクリル酸とアルコールとのエステル、(iv)アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和結合を有するカルボン酸、などが挙げられる。このような不飽和結合を有するモノマーは、2種類以上組み合わせて用いることができる。特に、(i)オレフィン化合物と、(ii)ビニルアルコールとカルボン酸とのエステル、または(iii)アクリル酸またはメタクリル酸とアルコールとのエステルとを重合させた共重合体が好ましく、最も好ましいのは、エチレン酢酸ビニル共重合体とその誘導体またはエチレンメチルアクリレート共重合体、エチレンエチルアクリレート共重合体、エチレンブチルアクリレート共重合体などのエチレン・アクリレート共重合体である。
また、弾性体樹脂は種々の構造を有するものがあるが、構造とは独立に、硬度が高いものが好ましい。ここで、物質の硬度は種々の基準で表すことができるが、本発明においては、デュロメーター硬度により弾性体樹脂の硬度を表す。ここで、デュロメーター硬度とは、押針を試料の加圧面に押し付け、そのときの試料の変形量による決まる硬度である。具体的には、JIS−K7215に準じて測定することができる。本発明において弾性体樹脂のデュロメーター硬度(デュロメーターA硬度)は、30以上100以下であることが好ましく、60以上95以下であることがより好ましい。従来、固形筆記体に一般的に用いられていた樹脂であるポリビニルアルコールや、弾性体樹脂には包含されないスチレンアクリレート樹脂は、本発明による弾性体樹脂に比較して硬度が高く、デュロメーター硬度Aは100を超えるのが一般的であり、これらの樹脂を用いた場合には本発明の効果を達成することが困難である。
本発明に用いられる弾性体樹脂の分子量は特に限定されず、弾性体樹脂の種類によって適当な分子量の樹脂を用いることができる。例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体を用いる場合には、数平均分子量が10,000〜50,000であることが好ましく、25,000〜35,000であることがより好ましい。ここで数平均分子量は、浸透圧法によって測定することができる。なお、分子量の異なった種々の樹脂の数平均分子量を測定する場合には、メルトフローレートと浸透圧法により測定した数平均分子量との検量線を作製しておき、メルトフローレートから数平均分子量を求めることもできる。
また、前記中間層には、フィラーを含む構成とすることが好ましい。これは、筆跡の変色性もしくは消色性を良好に保つことができ、固形芯の耐光性が向上するためである。これは、固形芯にフィラーを配合することで、成形性や固形筆記体の強度を向上することができるが、マイクロカプセル顔料を着色剤として用いた固形芯においては、用いるフィラーによっては、マイクロカプセル顔料に作用し、筆跡の変色や消色などの、変色性もしくは消色性に影響を及ぼすことがある。そのため、固形芯には、フィラーを少量含有又は含有せずに、中間層にフィラーを含有することで、当該フィラーが、固形芯のマイクロカプセル顔料に直接作用することがなくなり、変色性もしくは消色性を良好に保つことが可能となるのである。
また、従来の固形芯は、着色剤が固形芯全体に分散された構成になっていたため、長時間光にさらされることで、固形芯が退色してしまうことがあったが、本願発明では、中間層を設けるとともに、そこにフィラーを含むことにより、着色剤に影響を与える紫外線が、着色剤を含む固形芯に直接当たることを防ぐことが可能となるため、筆記可能な固形芯の耐光性が向上することができるので好ましい。さらに、中間層にフィラーを含むことで、成形性も向上し、固形芯の強度低下を抑制するとともに、熱反射性も向上するため、断熱効果も高まる効果を奏する。
前記フィラーとしては、体質剤などに用いられる炭酸カルシウム、粘土、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイト、タルク、二酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、マイカ、チタン酸カリウムウィスカー、マグネシウムオキシサルフェートウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、ワラストナイト、アタパルジャイト、セピオライト、シリカなど、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化ホウ素、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス類、天然黒鉛、人造黒鉛、キッシュ黒鉛、膨張黒鉛、膨張化黒鉛などの黒鉛類、オイルファーネスブラック、ガスファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどのカーボンブラック類などが挙げられる。
前記フィラーの配合割合としては、中間層全質量に対して、10質量%以上が好ましく、90質量%以下であると好ましい。フィラーの配合割合が10質量%より小さいと、固形芯の耐光性や成形性、固形芯の強度が劣る傾向にある。フィラーの配合割合が90質量%より大きいと、中間層の成形性が悪くなる傾向が有る。より好ましくは、フィラーの配合割合が10質量%〜80質量%であり、さらに好ましくは、60質量%〜80質量%である。この範囲にあると、熱変色性固形筆記体の耐光性、成形性、熱変色性固形筆記体の強度の全てが向上するのでより好ましい。
本発明の中間層には、フィラーと共に賦形材を配合することができる。賦形材としては、例えばワックス、ゲル化剤などを用いることが出来る。ワックスとしては、従来公知のものであればいずれを用いてもよく、具体的にはカルナバワックス、木ろう、蜜ろう、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、スチレン変性ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、ステアリン酸などが挙げられる。ゲル化剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば12ヒドロキシステアリン酸、ジベンジリデンソルビトール類、トリベンジリデンソルビトール類、アミノ酸系油、高級脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。賦形材としては、ポリオレフィンワックス、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、αオレフィン重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等のワックスなどが挙げられ、固形芯に用いることができる賦形材を用いることができる。さらに、固形芯に用いた賦形材と同じ材料を用いると、固形芯と中間層の界面が適度に融合し、無用な界面剥離を起こさないため好ましい。中間層に用いる賦形材の配合割合としては、中間層全質量に対して、10質量%〜90質量%であることが好ましく、さらに好ましくは20質量%〜70質量%である。
本発明の中間層に、フィラー、賦形材と共に樹脂を配合しても良い。中間層に樹脂を用いると、固形筆記体の成形性と強度が向上することができる。樹脂の配合割合としては、フィラーと賦形材の配合割合から決まるが、中間層全質量に対して、1質量%〜10質量%であると前記の通り、固形筆記体の性能が向上するため、好ましい。
本発明による固形筆記体に用いる中間層は、各種機能を付与する目的などで、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、着色剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、吸熱材、滑剤、香料などが挙げられる。これらの添加剤は、任意のものを用いることができる。また、単一の添加剤が複数の機能を有していてもよい。たとえば、ステアリン酸のように滑り剤として機能すると同時に、賦形材としても機能するものもある。このように滑剤の機能を有する添加剤を添加した場合には、成形性を向上することができるなど、さらなる効果が得られる。また、紫外線吸収剤は単に紫外線を吸収するにとどまらず、中間層に含まれる各種材料が紫外線によって退色などすることを防ぐので、光安定性や保存性を改良する機能を併せ持つことがある。
また前記木軸の外表面に、フィルムを転写印刷によって施す場合には、転写工程等によって熱を発生することが一般的であるため、前記した中間層は、固形芯に比べ伝導、対流や放射による熱移動を少なくする断熱層や、熱を吸収し、固形芯への熱の移動を抑制する吸熱層とすることが好ましい。尚、前記熱の移動を抑制する断熱層又は吸熱層とは、固形芯まで熱が伝わらないように熱の移動を抑制する層のことであり、伝導、対流や放射による熱移動を少なくする断熱層や、熱を吸収し、固形芯への熱の移動を抑制する吸熱層などを例示することができる。
また、本発明の熱変色性固形筆記体の固形芯は、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈することができる。本発明で言う、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈するとは、有色(1)と有色(2)の二つの発色した状態、発色状態と消色状態または消色状態と発色状態を互変的に呈することを意味する。即ち、第1の発色状態から温度が上昇して第2の発色状態へ変化する場合、有色(1)から有色(2)への変化、発色状態から消色状態への変化、即ち、加熱消色型の変化を含んでいる。
本発明の固形筆記体で筆記した際の筆跡の変色挙動について、加熱消色型を例に、図5と共に説明する。図5において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t4(以下、完全消色温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t3(以下、消色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t2(以下、発色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t1(以下、完全発色温度ということがある)における濃度を示す点である。変色温度域は前記t1とt4間の温度域であり、発色状態と消色状態の両状態が共存でき、t2とt3の間の温度域において完全発色状態と完全消色状態を選択的に呈することができる温度域となる。また、線分EFの長さが変色の割合を示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ΔHと言うことがある)である。本発明において、このΔH値を有することで、一定の温度域で第1の発色状態と第2の発色状態が選択的に保持されるヒステリシス特性を示すこととなる。
本発明の固形筆記体の筆記可能な固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)成分としては、通常、感熱紙などの感熱材料に用いられる、所謂ロイコ染料を用いることができる。具体的には、ジフェニルメタンフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類などが挙げられる。
更には、蛍光性の黄色乃至赤色の発色を発現させるのに有効な、ピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を挙げることができる。
本発明の固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(ロ)成分の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群などがある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール−アルデヒド縮合樹脂などが挙げられる。また、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩を用いることもできる。
また、前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2〜5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3−トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物なども用いることができる。
さらに、電子受容性化合物として炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物(特開平11−129623号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステル(特開2001−105732号公報)、没食子酸エステル(特開2003−253149号公報)等を用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を適用することもできる
前記固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分としては、具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類を挙げることができる。
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度−温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点−曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリンなどを用いることができる。
また、炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、n−ペンチルアルコール又はn−ヘプチルアルコールと炭素数10〜16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17〜23の脂肪酸エステル化合物を用いてもよい。
また、固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)、(ロ)、(ハ)の3成分の配合比としては、濃度、変色温度変色形態や各成分の種類により決まるが、一般的に所望の特性が得られる配合比は、質量比で、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.1〜50:1〜800であり、好ましくは、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.5〜20:5〜200である。これらの各成分は、各々二種類以上を混合して用いてもよい。
固形芯に用いるマイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤などの各種添加剤を添加することができる。
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、内包物と壁膜の質量比が、内包物:壁膜=1:1〜7:1であることが好ましい。この範囲より内包物の比率が大きくなると、壁膜の厚みが薄くなり、圧力や熱に対して弱くなりマイクロカプセルが破壊される傾向があり、この範囲より小さいと、発色状態での濃度や視認性が低下する傾向がある。より好ましくは、内包物:壁膜=1:1〜6:1であり、この範囲にあると、発色状態での濃度や視認性が高く、マイクロカプセルが破壊されることがない。
固形芯に用いるマイクロカプセル顔料の大きさは、特に限定されないが平均粒子径が0.1〜50μmであることが好ましい。この範囲より小さいと、発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体の筆記可能な固形芯に用いる際に、分散安定性や加工性が劣る傾向が見られる。より好ましくは、0.3〜30μmである。この範囲にあると、発色状態も良好で、分散安定性や加工性がよくなる。
本発明でいうマイクロカプセル顔料の平均粒子径とは、粒子径を測定したときの体積基準で表わしたD50の値で表される。測定の一例としては、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製作所製;LA−300)を用いて測定してその数値を基に平均粒子径(メジアン径)を算出した値を用いる。
また、固形芯に用いるマイクロカプセル顔料の配合割合としては、前記固形筆記体の筆記可能な固形芯全質量に対し、1〜70質量%が好ましい。この範囲より小さいと発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度が低下する傾向が見られる。好ましくは、5〜50質量%、さらに好ましくは、10〜40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の強度と筆跡濃度を両立することができる。
前記マイクロカプセル顔料は、製造方法としては、例えば、非特許文献1(近藤保、小石真純共著、「マイクロカプセル−その製法・性質・応用−」三共出版(株)、1977年)に記載されているような一般的に知られている方法を用いることができる。具体的には、コアセルベート法、界面重合法、界面重縮合法、in−situ重合法、液中乾燥法、液中硬化法、懸濁重合法、乳化重合法、気中懸濁被覆法、スプレードライ法などが挙げられ、適宜選択される。
また、固形芯は、例えば、前記したマイクロカプセル顔料を賦形材中に分散して固めることで、固形芯とすることができる。用いる賦形材としては、例えばワックス、ゲル化剤、粘土などを用いることが出来る。ワックスとしては、従来公知のものであればいずれを用いてもよく、具体的にはカルナバワックス、木ろう、蜜ろう、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、スチレン変性ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどが挙げられる。ゲル化剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば12ヒドロキシステアリン酸、ジベンジリデンソルビトール類、トリベンジリデンソルビトール類、アミノ酸系油、高級脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。粘土鉱物としては、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイトなどが挙げられる。賦形材としては、ポリオレフィンワックス、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、αオレフィン重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体等のワックスなどが挙げられる。
特に、前記ポリオレフィンワックスの軟化点が100℃〜130℃の範囲にあるとともに、針入度が10以下であるものは、筆記感が高いために、好ましく用いられる。針入度が10を越えると、固形筆記体の筆記可能な固形芯が柔らかすぎて筆記し難くなる傾向が見られ、しかも、擦過消去時に筆跡が紙面上で伸びてしまう(ワックスが薄層化される)ために筆記面の空白部分を汚染したり、他の紙への色移りや汚れを生じる。
尚、前記ポリオレフィンワックスの軟化点、針入度の測定方法は、JIS K2207に規格化されており、針入度の値は、0.1mmを針入度1と表す。従って、数字が小さいほど硬く、大きいほど柔らかい固形筆記体の筆記可能な固形芯である。
具体的には、ネオワックスシリーズ(ヤスハラケミカル(株)製 ポリエチレン)、サンワックスシリーズ(三洋化成工業(株)製 ポリエチレン)、ハイワックスシリーズ(三井化学(株)製 ポリオレフィン)、A−Cポリエチレン(Honeywell社製 ポリエチレン)等が挙げられる。
前記した固形芯の賦形材として、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していると、筆跡濃度の向上を図ることが出来るため好ましく用いられる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、特にC12〜C22の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好ましく、より好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、三菱化学フーズ(株)製:リョートーシュガーエステルシリーズ、第一工業製薬(株)製:シュガーワックスシリーズ等が挙げられる。
また、デキストリン脂肪酸エステルとしては、特にC14〜C18の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好適であり、より好ましくは、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、千葉製粉(株)製:レオパールシリーズ等が挙げられる。
さらにまた、賦形材の配合割合としては、筆記可能な固形芯全質量に対し0.2〜70質量%、が好ましい。この範囲より小さいと固形筆記体の筆記可能な固形芯としての形状を得られ難くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと十分な筆記濃度が得られにくくなる傾向が見られる。好ましくは、0.5〜40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の筆記可能な固形芯の形状と筆跡濃度を両立することができる。
本発明の固形芯には、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、樹脂、フィラー、粘度調整剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線防止剤、光安定材、吸熱材、香料などが挙げられる。前記樹脂としては、固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度などを向上する目的で配合されるが、天然樹脂、合成樹脂を用いることができる。具体的には、オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ピロリドン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、アミド系樹脂、塩基性基含有樹脂などが挙げられる。前記フィラーとしては、例えばタルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、窒化硼素、チタン酸カリウム、ガラスフレークなどが挙げられ、特にマイクロカプセル顔料に対する変色性能への影響などや成形性の点からタルク、炭酸カルシウムが好ましい。フィラーは、本発明の固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度の向上や書き味を調整する目的で配合される。また、フィラーの配合割合としては、筆記可能な固形芯全質量に対し、20〜55質量%が好ましい。この範囲より小さいと筆記可能な固形芯の強度が低下する傾向がみられ、55質量%より大きいと、発色性が低下したり、書き味が劣る傾向がみられる。
本発明の熱変色性固形筆記体は、第1の発色状態と第2の発色状態が、有色(1)と有色(2)の変化をする場合、固形芯に染料や顔料などの非熱変色性の着色剤を配合することで達成できる。
尚、本発明の熱変色性固形筆記体としては、固形芯、中間層、木軸の長手方向の長さを共通にすることが典型的であるが、固形芯の後端が、木軸の後端よりも長手方向で前方に位置することで、木軸の外表面に加飾部を設ける際に生じる熱が、木軸の後端と固形芯の後端間の空間部によって、固形芯の後端に移動し難くなるので好ましい。
また、本発明の熱変色性固形筆記体は、各種被筆記面に対して、筆記することが可能である。さらに、その筆跡は、擦過や加熱具又は冷熱具の適用により変色させることができる。
前記加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤー等、前記冷熱具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片などの冷媒を充填した冷熱変色具や保冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用などが挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。
前記摩擦部材は、弾性感に富み、摩擦時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好ましく用いられる。また、前記摩擦部材は、例えば、筆記用紙(JIS P 3201)に固形筆記体の固形芯(外径φ3.0mm×全長60mm)終了まで筆跡が重ならないように筆記し、外径φ7mm×全長14mmの摩擦部材を用いて前記筆跡を熱変色(例えば、消色の場合、目視にて変色前の筆跡を確認できない状態)した際、前記摩擦部材の体積減少率が10%未満、好ましくは5%未満となる材質とすることが摩擦による熱の発生効率等を考慮すると好ましい。前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂などを好適に用いることができる。
尚、前記摩擦部材は熱変色性固形筆記体と別体であってもよいが、外軸に、摩擦部材を直接、又は連結部材を介して設けること、或いは外軸自体を摩擦部材とすることにより、携帯性に優れたものとなる。また、外軸に前記した摩擦部材を付設する場合には、前記した摩擦部材の体積減少率が10%未満、好ましくは5%未満の材質とすることで、固形筆記体の使用終了まで、摩擦時における感覚が変化することなく摩擦を行うことができるので好ましい。また、体積減少率が少ない材質を選定し、摩擦部材を着脱自在に付設することで、他の固形筆記体の摩擦部材として使用することができるので好ましい。
実施例1
図1〜図4に示す熱変色性固形筆記体1は、木材からなる丸形の木軸2(外軸)内に、固形芯3と、該固形芯3と木軸2間に中間層4を配してある。また、固形芯3の後端3bが、木軸2の後端2bよりも長手方向で前方に位置している。さらに、木軸2の後端部には、連結部材7を介してSEBS樹脂からなる摩擦部材6を付設してある。さらにまた、木軸2の外表面全周には文字、模様などからなる加飾部5を、フィルムによる転写印刷によって設けてある。
具体的には、固形芯3、中間層4は、固形芯3の混練物の外周面に、中間層4となる混練物を巻き付け、プレスにて圧縮成形を行い、外径φ3mm、長さ60mm(筆記可能な固形芯3がφ2mmであり、中間層4の厚さが0.5mm)に成形し、筆記可能な固形芯3の外周面に中間層4を被覆して設けている。その後、予め製作してあった外径8mmの木軸2内に、固形芯3と中間層4からなら芯体を保持し、接着剤によって固着保持する。この時、固形芯3の後端3bは、木軸2の後端2bよりも長手方向で前方に位置し、固形芯3の後端に空間部Kを設けている。
その後、木軸2の外表面に、240℃にて、予め文字、模様を付したピンク色のポリエチレンテレフタレートフィルムによる転写印刷を行って、木軸2の外表面に加飾部5を設けている。
さらに、その後、木軸2の後端部に連結部材7の先端部を被せ、木軸2に対向する部分7aの周方向の異なる3箇所を、外方から押圧加工することで、木軸2に連結部材7を固設し、さらに、連結部材7の後端部に摩擦部材6の先端部を挿入し、摩擦部材6に対向する部分7bの周方向の異なる3箇所を、外方から押圧加工することで、連結部材7に摩擦部材6を固設してある。また、図3に示す状態から木軸2の先端部2aを削り取ることで、固形芯3を、筆記可能に外部に露出させた筆記部3aを設け、実施例1の熱変色性固形筆記体1を得ている。
以下に、マイクロカプセル顔料、固形芯、中間層の配合などを示す。
マイクロカプセル顔料Aの製造
(イ)成分として2−(ジブチルアミノ)−8−(ジペンチルアミノ)−4−メチル−スピロ[5H−[1]ベンゾピラノ[2,3−g]ピリミジン−5,1′(3′H)−イソベンゾフラン]−3−オン1.0部、(ロ)成分として4,4′−(2−エチルヘキサン−1、1−ジイル)ジフェノール3.0部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン5.0部、(ハ)成分としてカプリン酸−4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0質量部からなる感温変色性色彩記憶組成物を加温溶解し、壁膜材料として芳香族イソシアネートプレポリマー30.0質量部、助溶剤40.0質量部を混合した溶液を、8%ポリビニルアルコール水溶液中で乳化分散し、加温しながら攪拌を続けた後、水溶性脂肪族変性アミン2.5質量部を加え、更に攪拌を続けて熱変色マイクロカプセル懸濁液を得た。前記懸濁液を遠心分離して熱変色マイクロカプセルを単離した。なお、前記マイクロカプセルの平均粒子径は2.3μmであり、t1:−20℃、t2:−10℃、t3:48℃、t4:58℃、ΔH:68℃、感温変色性色彩記憶組成物:壁膜=2.6:1.0のヒステリシス特性を有する挙動を示し、ピンク色から無色、無色からピンク色へ可逆的に色変化した。
固形芯の製造
マイクロカプセル顔料A 40質量部
ポリオレフィンワックス 10質量部
(三洋化成工業(株)製 サンワックス131−P 軟化点110℃ 針入度3.5)
ショ糖脂肪酸エステル 10質量部
(三菱化学フーズ(株)製 リョートーシュガーエステルP−170)
ポリビニルアルコール 2質量部
タルク 38質量部
上記配合物をニーダーにて混練し、筆記可能な固形芯の混練物を得た。
中間層の製造
タルク(フィラー) 70質量部
ポリオレフィンワックス 10質量部
(三洋化成工業(株)製 サンワックス131−P 軟化点110℃ 針入度3.5)
ショ糖脂肪酸エステル 10質量部
(三菱化学フーズ(株)製 リョートーシュガーエステルP−170)
エチレン酢酸ビニル共重合体(弾性体樹脂) 10質量部
(三井・デュポンポリケミカル(株)製エバフレックスEV150(商品名)、デュロメーターA硬度68)
上記配合物をニーダーにて混練し、中間層の混練物を得た。
また、固形芯径、中間層及び木軸の厚さは、特に限定されるものではないが、固形芯径は線幅などを考慮し、2〜5mmが好ましく、2.5〜3.5mmがより好ましい。また、中間層は、用いる材質によっても異なるが、厚くすることで移動する熱を抑制効果が高めるため好ましい反面、厚すぎると、成形性や筆跡への影響も出やすくなるため、0.1〜1.0mmが好ましく、0.3〜0.7mmがより好ましい。さらに、木軸は、熱変色性固形筆記体の外径と、固形芯径、中間層の肉厚によって決定されるが、木軸外径は、15mmを超えると、径が太く、幼児など、手の小さい使用者が把持しにくく、また、ケースなどに収納し難くなり、木軸外径が5mmより小さいと、強度が低下するため、木軸外径は5mm〜15mmとすることが好ましく、厚さは削り性を考慮して、1mm〜5mmとすることが好ましく、2mm〜4mmがより好ましい。さらにフィルムの厚さは、耐久性及び可撓性を鑑みて1μm〜200μmが好ましく、10μm〜100μmがより好ましい。
尚、本実施例では便宜上、木軸内に固形芯を1本、保持してなる熱変色性固形筆記体を例示しているが、例えば、色の異なる固形芯を2本、直列的に配し、2色鉛筆のような両頭式とすることもできる。
また、本実施例では便宜上、木軸と固形芯を接着や溶着によって固着しているが、固着方法は特に限定されない。また、実施例1では、木軸、固形芯と中間層を例示しているが、中間層は一層のみならず、二層以上の多層構造とすることもできる。例えば、固形芯と中間層との間に、硬度や熱膨張係数などが適当な他の層を設けることにより、固形芯と中間層との親和性をさらに高めることができる。このような他の層は、固形芯と同様の可逆熱変色性組成物を含む成分からなるものであってもよく、また筆記不可能なものであってもよい。また、そのような他の層を二層以上具備してもよい。さらには他の層に別の被覆成分からなる被覆層を積層してもよい。また、加飾部もフィルムによる転写層のみならず、難空気透過層、接着剤層等、多層構造とすることもできる。