本発明の熱変色性固形筆記体は、木軸の外表面にプライマー層と転写層を設け、転写層が発泡部と白色層をと着色層を有し、プライマー層が着色層と同色または近似色であることが、ひとつの特徴である。
本発明の熱変色性固形筆記体の構成の一例を、図1と共に説明する。図1において、固形筆記体(1)は、熱変色性の筆跡が筆記可能な固形芯(2)とそれを保持する木軸(3)の外表面に、プライマー層(4)が形成され、その外側に転写層(5)が、発泡部(5a)、白色層(5b)、着色層(5c)の順に積層された構成となっている。
本発明の固形筆記体は、前記の通り、プライマー層と転写層を木軸の外表面に設けてなるが、木軸の外表面にプライマー層を設けることで、木軸に直接転写層を設けるよりも密着性が向上し、剥がれにくくなる。また、プライマー層と転写層の着色層を同色または近似色とすることで、転写層の発色が、木軸の色の影響を受けることなく、発色が可能となる。
本発明に用いるプライマー層としては、木軸に密着し、さらに、木軸に直接転写層を設けるよりも転写層と高い密着性を有すれば、特に限定はない。プライマー層は、前記の通り、転写層と木軸の密着性を高める働きの他、木軸表面からのヤニ止めや木軸表面の凹凸をなくす働きも併せ持つ。プライマー層を設けることで、木軸外表面に凹凸がなくなることも、転写層の密着性を上げることとなる。
前記プライマー層としては、着色剤とバインダー樹脂などを用いることで、設けることができる。着色剤としては、転写層の色に合わせた色を着色できれば良く、染料や顔料が用いられる。また、バインダー樹脂として好ましい樹脂は、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
プライマー層を設ける方法としては、木軸に直接刷毛などで塗布をする方法や、プライマー層の液にディップする方法、スプレーする方法、塗工機でコーティングする方法などがあげられる。
本発明に用いるプライマー層は、後述する着色層と同色または近似色である。また、木軸の色を完全に隠蔽できると好ましい。
プライマー層に着色する方法としては、プライマー層の液に、染料や顔料等を溶解、または分散することなどにより得られる。
プライマー層が着色層と異なる色であると、転写層が剥がれた際に、外部から剥がれていない部分(転写層)と、剥がれた部分(プライマー層)との色が大きく異なることとなり、外観上、剥がれた部分が目立ち、美観を損い、意匠性が劣ることとなってしまう。しかしながら、同色または近似色とすることで、転写層が剥がれた際にも、着色層とプライマー層の色目の違いがほとんどないため、意匠性が劣ることがない。
本発明による転写層は、発泡部と、白色層と、着色層を少なくとも有しているものである。
前記発泡部は、転写層の少なくとも一部として、プライマー層の外側に直接または接着層を介して設けることができる。前記発泡部は、固形筆記体の一部に設けても良く、固形筆記体の外周面全体に設けても良い。少なくとも一部に設ける際には、プライマー層の外側に、白色層、着色層を設けその外側に設けても良く、白色層と着色層の間に設けても良い。さらには、発泡部が白色層、着色層と層をなさずにプライマー層から直接最外面に突出した状体であっても良い。前記発泡部としては、後述する転写フィルムに、熱発泡剤を含有して加熱により発泡させて設けることもできる。熱発泡剤としては、化学発泡剤、熱膨張性マイクロカプセルなどが使用できる。化学発泡剤としては、アゾジカルボアミド、アゾビスイソブチロニトリル、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p-トルエンスルホニルヒドラジド、p,p‘-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、オキザロ酢酸、マロン酸、タートニック酸、アセトンジカルボン酸、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。また、熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えば、n-ブタン、i-ブタン、ペンタン、ネオペンタンのような低沸点の炭化水素を内包し、マイクロカプセルの壁膜材として、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物などを主成分とする熱可塑性樹脂を用いたものがあり、アドバンセルEMシリーズ(積水化学(株)製)、マツモトマイクロスフェアーM,S,F,FN,MFLシリーズ(以上、松本油脂製薬(株)製)、クレハマイクロスフェアーM,Hシリーズ((株)クレハ製)、エクスパンセルDUシリーズ(日本フィライト(株)製)などが挙げられる。熱膨張性マイクロカプセルを発泡部として用いると、発泡部の発泡する程度をコントロールしやすくなるため好ましい。
本発明による固形筆記体は、転写層に発泡部を設けてなるが、発泡部は、立体的な加飾を施すことができ、固形筆記体の美観を高め、意匠性の高いものとすることができる。さらに、発泡部は空気層を有していることから、断熱効果を有しており、固形芯が意図しない変色や、消色を防ぐことができ、熱変色性固形筆記体特有の課題を解決することができる。
一方、発泡部は、プライマー層との接触面積が小さくなってしまい、プライマー層との密着性が若干劣ることとなってしまう。さらに、立体的であるため、固形筆記体の表面を擦過された際に発泡部とプライマー層の界面で剥離してしまうことがあるが、剥離した際にも、前記の通り、プライマー層が着色層と同色または近似色であるために色目の違いがほとんどなく、外観上、美観を損ねることがない。
さらに、発泡部が立体的で空気層を有していることから、筆記する際や、筆跡を消色する際に、適度な弾力性と滑り止め効果を併せ持つこととなり、使用感が向上する。
前記白色層は、転写層の少なくとも一部に設けられた発泡部を覆う状態で設けることができるが、白色層を設けずに、単にプライマー層と着色層を同色または近似色として設けた際には、それぞれの層の混色となり、プライマー層に色のばらつきと着色層の色のばらつきを併せたものとなってしまうため、目的とする色目と異なってしまうことがあったが、白色層を設けることで、プライマー層の色に影響されることなく、目的の色を得ることができ、さらに、白色層により、着色層の発色性が良好なものとなり、より一層、意匠性を高めることができる。
白色層は、プライマー層の発色が着色層に影響を及ぼさなければ特に限定されないが、白色顔料とバインダー樹脂により、設けることができる。白色顔料としては、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カオリンなどの体質材、酸化チタン、酸化亜鉛等の白色顔料、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等の樹脂粒子(プラスチックピグメント)などが挙げられる。バインダー樹脂としては、前記白色顔料が白色層として転写層に設けられれば、いずれの樹脂を用いてもよく、好ましい樹脂としては、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
前記着色層は、白色層の外側に設けられる。着色層としては、着色剤とバインダー樹脂により設けることができる。着色層としては、発色性が高く、白色層との密着性が高いことが好ましい。前記着色剤としては、目的の色を発色することができれば特に限定されない。前記着色剤としては、顔料、染料であればいずれも用いることができるが、耐光性の観点から、顔料を用いることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、さらには、アルミ顔料、パール顔料、マイクロカプセル顔料等が挙げられる。
前記の通り、本発明の構成とすることで、固形筆記体が意図しない変色や消色をおこすこと無く、外観上、美観を損ねることなく、発色性も良好で、意匠性が高く、使用感の優れたものとなる。
本発明による転写層を固形筆記体に設ける方法の一例としては、予め、基材となるフィルムに、着色層、白色層、熱により発泡する部分を順次積層した積層フィルムを、熱転写などにより、プライマー層の上に設けることにより形成することができる。その際、転写する際の熱により、発泡する部分を発泡させながら発泡部と白色層、着色層から少なくともなる転写層を形成しても良く、転写後に、固形筆記体を加熱することにより、発泡部を設けても良い。さらに、予め発泡させた発泡部と白色層、着色層を転写して設ける方法でも良い。好ましくは、転写する際の熱により、発泡する部分を発泡させながら発泡部と白色層、着色層から少なくともなる転写層を形成する方法であり、プライマー層の上に綺麗に転写層を設けることができる。
転写層を形成可能な、着色層、白色層、熱により発泡する部分を順次積層した積層フィルムを作製する方法の一例としては、基材となるフィルムに、着色剤とバインダーを溶剤などに溶解、分散して塗工液を作製し塗工した後、溶剤を除去して着色層を形成し、着色層の上に、白色顔料とバインダー樹脂を溶剤に溶解、分散して塗工液を作製し塗工した後、溶剤を除去して白色層を形成、その上に、加熱により発泡する材料とバインダー樹脂を溶剤に溶解、分散して塗工液を作製し塗工した後、溶剤を除去して加熱により発泡する部分を順次積層することによって積層フィルムを得ることができる。
本発明の固形筆記体で筆記した際の筆跡の変色挙動について、加熱消色型を例に、図2と共に説明する。図2において、縦軸に色濃度、横軸に温度が表されている。温度変化による色濃度の変化は矢印に沿って進行する。ここで、Aは完全消色状態に達する温度t4(以下、完全消色温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Bは消色を開始する温度t3(以下、消色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Cは発色を開始する温度t2(以下、発色開始温度と言うことがある)における濃度を示す点であり、Dは完全発色状態に達する温度t1(以下、完全発色温度ということがある)における濃度を示す点である。変色温度域は前記t1とt4間の温度域であり、発色状態と消色状態の両状態が共存でき、t2とt3の間の温度域において完全発色状態と完全消色状態を選択的に呈することができる温度域となる。また、線分EFの長さが変色の割合を示す尺度であり、線分EFの中点を通る線分HGの長さがヒステリシスの程度を示す温度幅(以下、ΔHと言うことがある)である。本発明において、このΔH値を有することで、一定の温度域で第1の発色状態と第2の発色状態が選択的に保持されるヒステリシス特性を示すこととなる。
本発明の固形筆記体の筆記可能な固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)成分としては、通常、感熱紙などの感熱材料に用いられる、所謂ロイコ染料を用いることができる。具体的には、ジフェニルメタンフタリド類、インドリルフタリド類、ジフェニルメタンアザフタリド類、フェニルインドリルアザフタリド類、フルオラン類、スチリノキノリン類、ジアザローダミンラクトン類などが挙げられる。
更には、蛍光性の黄色乃至赤色の発色を発現させるのに有効な、ピリジン系、キナゾリン系、ビスキナゾリン系化合物等を挙げることができる。
本発明の固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(ロ)成分の電子受容性化合物としては、活性プロトンを有する化合物群、偽酸性化合物群(酸ではないが、組成物中で酸として作用して成分(イ)を発色させる化合物群)、電子空孔を有する化合物群などがある。活性プロトンを有する化合物を例示すると、フェノール性水酸基を有する化合物としては、モノフェノール類からポリフェノール類があり、さらにその置換基としてアルキル基、アリール基、アシル基、アルコキシカルボニル基、カルボキシ基及びそのエステル又はアミド基、ハロゲン基等を有するもの、及びビス型、トリス型フェノール等、フェノール-アルデヒド縮合樹脂などが挙げられる。また、前記フェノール性水酸基を有する化合物の金属塩を用いることもできる。
また、前記フェノール性水酸基を有する化合物が最も有効な熱変色特性を発現させることができるが、芳香族カルボン酸及び炭素数2~5の脂肪族カルボン酸、カルボン酸金属塩、酸性リン酸エステル及びそれらの金属塩、1、2、3-トリアゾール及びその誘導体から選ばれる化合物なども用いることができる。
さらに、電子受容性化合物として炭素数3乃至18の直鎖又は側鎖アルキル基を有する特定のアルコキシフェノール化合物(特開平11-129623号公報)、特定のヒドロキシ安息香酸エステル(特開2001-105732号公報)、没食子酸エステル(特開2003-253149号公報)等を用いた加熱発色型の可逆熱変色性組成物を適用することもできる
前記固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する前記(イ)、(ロ)成分による電子授受反応を特定温度域において可逆的に生起させる反応媒体の(ハ)成分としては、具体的には、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類を挙げることができる。
前記(ハ)成分として好ましくは、色濃度-温度曲線に関し、大きなヒステリシス特性(温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線が、温度を低温側から高温側へ変化させる場合と、高温側から低温側へ変化させる場合で異なる)を示して変色する、色彩記憶性を示す可逆熱変色性組成物を形成できる5℃以上50℃未満のΔT値(融点-曇点)を示すカルボン酸エステル化合物、例えば、分子中に置換芳香族環を含むカルボン酸エステル、無置換芳香族環を含むカルボン酸と炭素数10以上の脂肪族アルコールのエステル、分子中にシクロヘキシル基を含むカルボン酸エステル、炭素数6以上の脂肪酸と無置換芳香族アルコール又はフェノールのエステル、炭素数8以上の脂肪酸と分岐脂肪族アルコール又はエステル、ジカルボン酸と芳香族アルコール又は分岐脂肪族アルコールのエステル、ケイ皮酸ジベンジル、ステアリン酸ヘプチル、アジピン酸ジデシル、アジピン酸ジラウリル、アジピン酸ジミリスチル、アジピン酸ジセチル、アジピン酸ジステアリル、トリラウリン、トリミリスチン、トリステアリン、ジミリスチン、ジステアリンなどを用いることができる。
また、炭素数9以上の奇数の脂肪族一価アルコールと炭素数が偶数の脂肪族カルボン酸から得られる脂肪酸エステル化合物、n-ペンチルアルコール又はn-ヘプチルアルコールと炭素数10~16の偶数の脂肪族カルボン酸より得られる総炭素数17~23の脂肪酸エステル化合物を用いてもよい。
また、固形芯に用いるマイクロカプセル顔料に内包する(イ)、(ロ)、(ハ)の3成分の配合比としては、濃度、変色温度変色形態や各成分の種類により決まるが、一般的に所望の特性が得られる配合比は、質量比で、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.1~50:1~800であり、好ましくは、(イ)成分:(ロ)成分:(ハ)成分=1:0.5~20:5~200である。これらの各成分は、各々二種類以上を混合して用いてもよい。
固形芯に用いるマイクロカプセル顔料には、その機能に影響を及ぼさない範囲で、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、溶解助剤、防腐・防黴剤などの各種添加剤を添加することができる。
本発明に用いるマイクロカプセル顔料は、内包物と壁膜の質量比が、内包物:壁膜=1:1~7:1であることが好ましい。この範囲より内包物の比率が大きくなると、壁膜の厚みが薄くなり、圧力や熱に対して弱くなりマイクロカプセルが破壊される傾向があり、この範囲より小さいと、発色状態での濃度や視認性が低下する傾向がある。より好ましくは、内包物:壁膜=1:1~6:1であり、この範囲にあると、発色状態での濃度や視認性が高く、マイクロカプセルが破壊されることがない。
固形芯に用いるマイクロカプセル顔料の大きさは、特に限定されないが平均粒子径が0.1~50μmであることが好ましい。この範囲より小さいと、発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体の筆記可能な固形芯に用いる際に、分散安定性や加工性が劣る傾向が見られる。より好ましくは、0.3~30μmである。この範囲にあると、発色状態も良好で、分散安定性や加工性がよくなる。
なお、平均粒径の測定は、マウンテック社製の画像解析式粒度分布測定ソフトウェア「マックビュー」を用いて粒子の領域を判定し、粒子の領域の面積から投影面積円相当径(Heywood径)を算出し、その値による等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定した値である。また、全ての粒子或いは大部分の粒子の粒子径が0.2μmを超える場合は、粒度分布測定装置(ベックマン・コールター株式会社製、製品名:Multisizer 4e)を用いてコールター法により等体積球相当の粒子の平均粒子径として測定することも可能である。
また、固形芯に用いるマイクロカプセル顔料の配合割合としては、前記固形筆記体の筆記可能な固形芯全質量に対し、1~70質量%が好ましい。この範囲より小さいと発色濃度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度が低下する傾向が見られる。好ましくは、5~50質量%、さらに好ましくは、10~40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の強度と筆跡濃度を両立することができる。
前記マイクロカプセル顔料は、製造方法としては、例えば、非特許文献1(近藤保、小石真純共著、「マイクロカプセル-その製法・性質・応用-」三共出版(株)、1977年)に記載されているような一般的に知られている方法を用いることができる。具体的には、コアセルベート法、界面重合法、界面重縮合法、in-situ重合法、液中乾燥法、液中硬化法、懸濁重合法、乳化重合法、気中懸濁被覆法、スプレードライ法などが挙げられ、適宜選択される。
また、固形芯は、例えば、前記したマイクロカプセル顔料を賦形材中に分散して固めることで、固形芯とすることができる。用いる賦形材としては、例えばワックス、ゲル化剤、粘土などを用いることが出来る。ワックスとしては、従来公知のものであればいずれを用いてもよく、具体的にはカルナバワックス、木ろう、蜜ろう、マイクロクリスタリンワックス、モンタンワックス、キャンデリラワックス、ショ糖脂肪酸エステル、デキストリン脂肪酸エステル、ポリオレフィンワックス、スチレン変性ポリオレフィンワックス、パラフィンワックスなどが挙げられる。ゲル化剤としては従来公知のものを用いることができ、例えば12ヒドロキシステアリン酸、ジベンジリデンソルビトール類、トリベンジリデンソルビトール類、アミノ酸系油、高級脂肪酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。粘土鉱物としては、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイトなどが挙げられる。賦形材としては、ポリオレフィンワックス、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していることが好ましい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、αオレフィン重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体等のワックスなどが挙げられる。
特に、前記ポリオレフィンワックスの軟化点が100℃~130℃の範囲にあるとともに、針入度が10以下であるものは、筆記感が高いために、好ましく用いられる。針入度が10を越えると、固形筆記体の筆記可能な固形芯が柔らかすぎて筆記し難くなる傾向が見られ、しかも、擦過消去時に筆跡が紙面上で伸びてしまう(ワックスが薄層化される)ために筆記面の空白部分を汚染したり、他の紙への色移りや汚れを生じる。
尚、前記ポリオレフィンワックスの軟化点、針入度の測定方法は、JIS K2207に規格化されており、針入度の値は、0.1mmを針入度1と表す。従って、数字が小さいほど硬く、大きいほど柔らかい固形筆記体の筆記可能な固形芯である。
具体的には、ネオワックスシリーズ(ヤスハラケミカル(株)製 ポリエチレン)、サンワックスシリーズ(三洋化成工業(株)製 ポリエチレン)、ハイワックスシリーズ(三井化学(株)製 ポリオレフィン)、A-Cポリエチレン(Honeywell社製 ポリエチレン)等が挙げられる。
前記した固形芯の賦形材として、ショ糖脂肪酸エステルまたはデキストリン脂肪酸エステルの少なくとも一種を含有していると、筆跡濃度の向上を図ることが出来るため好ましく用いられる。
ショ糖脂肪酸エステルとしては、特にC12~C22の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好ましく、より好ましくは、パルミチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、三菱化学フーズ(株)製:リョートーシュガーエステルシリーズ、第一工業製薬(株)製:シュガーワックスシリーズ等が挙げられる。
また、デキストリン脂肪酸エステルとしては、特にC14~C18の脂肪酸を構成脂肪酸とするエステルが好適であり、より好ましくは、パルミチン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸が有用である。具体的には、千葉製粉(株)製:レオパールシリーズ等が挙げられる。
さらにまた、賦形材の配合割合としては、筆記可能な固形芯全質量に対し0.2~70質量%、が好ましい。この範囲より小さいと固形筆記体の筆記可能な固形芯としての形状を得られ難くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと十分な筆記濃度が得られにくくなる傾向が見られる。好ましくは、0.5~40質量%であり、この範囲にあると、固形筆記体の筆記可能な固形芯の形状と筆跡濃度を両立することができる。
本発明の固形芯には、必要に応じて、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、樹脂、フィラー、粘度調整剤、防かび剤、防腐剤、抗菌剤、紫外線防止剤、光安定材、吸熱材、香料などが挙げられる。前記樹脂としては、固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度などを向上する目的で配合されるが、天然樹脂、合成樹脂を用いることができる。具体的には、オレフィン系樹脂、セルロース系樹脂、ビニルアルコール系樹脂、ピロリドン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、アミド系樹脂、塩基性基含有樹脂などが挙げられる。前記フィラーとしては、例えばタルク、クレー、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、アルミナ、マイカ、窒化硼素、チタン酸カリウム、ガラスフレークなどが挙げられ、特にマイクロカプセル顔料に対する変色性能への影響などや成形性の点からタルク、炭酸カルシウムが好ましい。フィラーは、本発明の固形筆記体の筆記可能な固形芯の強度の向上や書き味を調整する目的で配合される。また、フィラーの配合割合としては、筆記可能な固形芯全質量に対し、20~55質量%が好ましい。この範囲より小さいと筆記可能な固形芯の強度が低下する傾向がみられ、55質量%より大きいと、発色性が低下したり、書き味が劣る傾向がみられる。
本発明の熱変色性固形筆記体の固形芯は、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈することができる。本発明で言う、第1の発色状態と第2の発色状態を互変的に呈するとは、有色(1)と有色(2)の二つの発色した状態、発色状態と消色状態または消色状態と発色状態を互変的に呈することを意味する。即ち、第1の発色状態から温度が上昇して第2の発色状態へ変化する場合、有色(1)から有色(2)への変化、発色状態から消色状態への変化、即ち、加熱消色型の変化を含んでいる。
本発明の熱変色性固形筆記体は、第1の発色状態と第2の発色状態が、有色(1)と有色(2)の変化をする場合、固形芯に染料や顔料などの非熱変色性の着色剤を配合することで達成できる。
また、本発明の熱変色性固形筆記体は、各種被筆記面に対して、筆記することが可能である。さらに、その筆跡は、擦過や加熱具又は冷熱具の適用により変色させることができる。
前記加熱具としては、抵抗発熱体を装備した通電加熱変色具、温水等を充填した加熱変色具、ヘアドライヤー等、前記冷熱具としては、ペルチエ素子を利用した冷熱変色具、冷水、氷片などの冷媒を充填した冷熱変色具や保冷剤、冷蔵庫や冷凍庫の適用などが挙げられるが、好ましくは、簡便な方法により変色可能な手段として摩擦部材が用いられる。
前記摩擦部材は、弾性感に富み、摩擦時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー等の弾性体が好ましく用いられる。また、前記摩擦部材は、例えば、筆記用紙(JIS P 3201)に固形筆記体の固形芯(外径φ3.0mm×全長60mm)終了まで筆跡が重ならないように筆記し、外径φ7mm×全長14mmの摩擦部材を用いて前記筆跡を熱変色(例えば、消色の場合、目視にて変色前の筆跡を確認できない状態)した際、前記摩擦部材の体積減少率が10%未満、好ましくは5%未満となる材質とすることが摩擦による熱の発生効率等を考慮すると好ましい。前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体)、ポリエステル系樹脂などを好適に用いることができる。
尚、前記摩擦部材は熱変色性固形筆記体と別体であってもよいが、外軸に、摩擦部材を直接、又は連結部材を介して設けることにより、携帯性に優れたものとなる。また、外軸に前記した摩擦部材を付設する場合には、前記した摩擦部材の体積減少率が10%未満、好ましくは5%未満の材質とすることで、固形筆記体の使用終了まで、摩擦時における感覚が変化することなく摩擦を行うことができるので好ましい。また、体積減少率が少ない材質を選定し、摩擦部材を着脱自在に付設することで、他の固形筆記体の摩擦部材として使用することができるので好ましい。
本発明による熱変色性固形筆記体は、筆記具ケースに収容するなどして筆記具セットとすることができる。前記筆記具ケースは、前記熱変色性固形筆記体を収容可能な収容部と、収容部を閉塞する蓋体を有し、前記蓋体を開けることで前記固形筆記体が取り出し可能であり、固形筆記体の収容部と前記蓋体の間に発泡シートが設けられ、さらには、蓋体に白色層を設けた構成となっている。前記筆記具ケースは、蓋体が収容部にかぶせる別体でも良く、蓋体と収容部がヒンジによって接続された一体であっても良い。さらに、前記筆記具ケースは、金属製の筆記具ケースであると、外からの衝撃に対して、中を保護することができるために好ましい。前記発泡シートとしては、発泡ポリエチレンシート、発泡ポリプロピレンシート、発泡ポリウレタンシート、発泡シリコーンシートなどが挙げられる。発泡ポリエチレンシートは、固形芯が発泡シートに触れた際にも、変色や消色を起こすことがないため、好ましい。
本発明による筆記具セットは、前記筆記具ケースに前記熱変色性固形筆記体収容してなるが、前記筆記具セットとすることで、蓋体の白色層、発泡シート、固形筆記体の発泡部により、ケース内の温度上昇を防ぐことができ、固形芯に対しても断熱効果を有することから芯自体の温度上昇を防ぐことができるため、固形芯への高い断熱効果により、意図しない変色、消色を防ぐことができる。さらに、発泡シートが固形筆記体に対して、緩衝材として働くため、固形筆記体が直接上蓋と接することがないため、固形筆記体の発泡部が擦過されにくくなり、転写層のはがれを押さえることができる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
(実施例1)
(固形筆記体の製造)
木軸として長さ150mmの丸形木軸用い、木軸の中心部に、前後方向に延びるφ3mmの貫通孔を形成した。前記貫通孔に、外径3mm、長さ150mmの熱変色性マイクロカプセル顔料を有する筆記可能な固形芯を収納した。固形芯を収納した木軸の外表面に青色に着色したプライマー層を刷毛塗りにより設けた。プライマー層の外側に、青色顔料を含む着色層、酸化チタンを含む白色層、熱膨張性マイクロカプセルを発泡剤として含む発泡部を基材フィルムに順次積層した熱転写フィルムを用い、転写する際の熱により、熱膨張マイクロカプセルを発泡させて、発泡部、白色層、着色層からなる転写層をプライマー層の外側に設けることにより、熱変色性固形筆記体を得た。
(比較例1)
白色層を設けなかった以外は、実施例1と同じ方法で固形筆記体を得た。
(比較例2)
プライマー層を白色とした以外は、実施例1と同じ方法で固形筆記体を得た。
実施例1、比較例1、2で得た固形筆記体について、目視により、その外観を評価した。その結果、実施例1と比較例2については、目的とする青色の発色と発泡部が立体的になり美観に優れ、高い意匠性がみられていたが、比較例1の固形筆記体は、発泡部は立体的になっていたが、プライマー層の色と着色層の色が混ざった状態になり、木定期とした色よりも濃い色となっており、美観に劣っていた。
さらに、前記実施例1、比較例1、2で得た固形筆記体の外表面を学振型摩擦試験機により、100g荷重によりガーゼにより、500往復した際の外観を確認した。その結果、転写層の一部に剥がれがみられたが、実施例1の固形筆記体は、外表面と転写層が剥がれて露出したプライマー層との色の違いが分からず、高い意匠性を保っていた。一方、比較例1の固形筆記体は、外表面と転写層が剥がれて露出したプライマー層の色が若干異なっていた。さらに、比較例2の固形筆記体においては、転写層が剥がれて露出したプライマー層の白色が目立ち、意匠性の劣るものとなっていた。以上の通り、本発明の固形筆記体は、比較例の固形筆記体と比較して、優れたもので有った。