本発明は、電子写真感光体の下引き層が、電子輸送膜であり、かつ、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を有する有機酸金属塩(有機酸金属)を含有することを特徴とする。
上記電子写真感光体が、初期のポジゴーストを抑制する理由について、本発明者らは、以下のように推測している。
下引き層が電子輸送膜であることにより、電子の輸送を促進し、電子の滞留を抑制する作用を有する。さらに、下引き層にFe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を有する有機酸金属塩を用いることで、下引き層中の電子の流れを促進し、より電子を輸送しやすい下引き層を形成することができると考えている。電子の流れが促進されることで、下引き層中の電子の滞留が抑制され、初期のポジゴーストが抑制されると考えている。
特許文献3に開示された技術として、電子輸送膜である下引き層に含有させる有機金属化合物の金属元素として、Zr、Ti、Snなどが用いられている。ここで、Chemical Reviews,63(3),221−234(1963)には、脂肪酸金属塩(有機酸金属塩の1種)の双極子モーメントの値について記載されている。この文献から、元素周期表の周期番号が小さいほど、また、遷移元素においては族番号が大きいほど金属元素自身の極性は小さくなる傾向があると考えられる。なお、遷移元素は、Dブロック元素(第4周期元素):第3族元素から第12族元素までのことである。したがって、上述の金属元素(Zr、Ti、Snなど)を有する有機金属化合物では、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの金属元素を有する有機酸金属塩と比べると極性が大きいと考えられる。極性が大きい金属元素を有する有機酸金属塩を下引き層に含有させると、極性が大きい有機酸金属塩の金属元素に電子が捕捉され、下引き層中の電子の流れが低下しやすくなると考えている。これにより、初期のポジゴーストを抑制していると考えられる。
本発明の電子写真感光体は、支持体、支持体上に形成された下引き層および該下引き層上に形成された感光層を有する電子写真感光体である。該感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と正孔輸送物質を含有する正孔輸送層とに分離した積層型(機能分離型)感光層であることが好ましい。
図4の(a)および(b)は、電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。図4の(a)および(b)中、101は支持体であり、102は下引き層であり、103は感光層であり、104は電荷発生層、105は正孔輸送層である。
一般的な電子写真感光体として、円筒状支持体上に感光層(電荷発生層、正孔輸送層)を形成してなる円筒状の電子写真感光体が広く用いられるが、ベルト状、シート状などの形状とすることも可能である。
〔下引き層〕
支持体または導電層と、感光層との間に下引き層が設けられる。
下引き層としての電子輸送膜は、電子を感光層側から支持体側へと流す役割を果たす膜である。具体的には、電子輸送性化合物または電子輸送性化合物を含む組成物を硬化させて得られた硬化膜、電子輸送性化合物を含有する膜であることが好ましい。電子輸送性化合物を含有する膜である場合、該電子輸送性化合物が顔料であってもよい。
前記硬化膜は、前記組成物中に、さらに、樹脂および架橋剤を含有し、この組成物を硬化させて得られた硬化膜であることがより好ましい。硬化膜の場合、電子輸送性化合物および樹脂は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物、重合性官能基を有する樹脂であることが好ましい。上述の重合性官能基としては、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基、メトキシ基が挙げられる。
電子輸送性化合物(電子輸送性顔料)としては、例えば、キノン化合物、イミド化合物、ベンゾイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物などが挙げられる。
以下に、電子輸送性化合物、重合性官能基を有する電子輸送性化合物の具体例を示すが、これらに限定されるものではない。下記式(A1)〜(A9)のいずれかで示される化合物が挙げられる。
式(A1)〜(A9)中、R101〜R106、R201〜R210、R301〜R308、R401〜R408、R501〜R510、R601〜R606、R701〜R708、R801〜R810、R901〜R908は、それぞれ独立に、下記式(A)で示される1価の基、水素原子、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アルコキシカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキル基、置換もしくは無置換のアリール基または複素環を示す。該アルキル基の主鎖中の炭素原子の1つは、O、S、NH、またはNR1(R1はアルキル基である。)で置き換わっていてもよい。該置換のアルキル基の置換基は、アルキル基、アリール基、アルコキシカルボニル基およびハロゲン原子からなる群より選択される基である。該置換のアリール基の置換基、該置換の複素環基の置換基は、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基、アルコキシ基およびカルボニル基からなる群より選択される基である。Z201、Z301、Z401およびZ501は、それぞれ独立に、炭素原子、窒素原子、または酸素原子を示す。Z201が酸素原子である場合はR209およびR210は存在せず、Z201が窒素原子である場合はR210は存在しない。Z301が酸素原子である場合はR307およびR308は存在せず、Z301が窒素原子である場合はR308は存在しない。Z401が酸素原子である場合はR407およびR408は存在せず、Z401が窒素原子である場合はR408は存在しない。Z501が酸素原子である場合はR509およびR510は存在せず、Z501が窒素原子である場合はR510は存在しない。
式(A)中、α、βおよびγの少なくとも1つは置換基を有する基であり、該置換基は、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基およびメトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基である。lおよびmは、それぞれ独立に、0または1であり、lとmの和は、0以上2以下である。
αは、主鎖の原子数が1〜6のアルキレン基、炭素数1〜6のアルキル基で置換された主鎖の原子数が1〜6のアルキレン基、ベンジル基で置換された主鎖の原子数が1〜6のアルキレン基、アルコシキカルボニル基で置換された主鎖の原子数1〜6のアルキレン基、またはフェニル基で置換された主鎖の原子数が1〜6のアルキレン基を示す。これらの基は、置換基として、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基およびメトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。該アルキレン基の主鎖中の炭素原子の1つは、O、S、NH、またはNR2(R2はアルキル基である。)で置き換わっていてもよい。
βは、フェニレン基、炭素数1〜6のアルキル置換フェニレン基、ニトロ置換フェニレン基、ハロゲン置換フェニレン基、またはアルコキシ基置換フェニレン基を示す。これらの基は、置換基として、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基およびメトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。
γは、水素原子、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のアルキル基で置換された主鎖の原子数が1〜6のアルキル基を示す。これらの基は、置換基として、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基およびメトキシ基からなる群より選択される少なくとも1種の基を有してもよい。該アルキル基の主鎖中の炭素原子の1つがNR3(R3はアルキル基である。)で置き換わっていてもよい
また、これら式(A1)〜(A9)は多量体、重合体および共重合体を形成していてもよい。
表1に、上記式(A1)で示される化合物の具体例を示す。表1中、A1−1〜A1−6、A1−9〜A1−14は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表2に、上記式(A2)で示される化合物の具体例を示す。表2中、A2−1〜A2−2、A2−4〜A2−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表3に、上記式(A3)で示される化合物の具体例を示す。表3中、A3−1〜A3−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表4に、上記式(A4)で示される化合物の具体例を示す。表4中、A4−2〜A4−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表5に、上記式(A5)で示される化合物の具体例を示す。表5中、A5−1〜A5−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表6に、上記式(A6)で示される化合物の具体例を示す。表6中、A6−1、A6−3〜A6−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表7に、上記式(A7)で示される化合物の具体例を示す。表7中、A7−1、A7−3〜A7−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表8に、上記式(A8)で示される化合物の具体例を示す。表8中、A8−1〜A8−2、A8−4〜A8−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
表9に、上記式(A9)で示される化合物の具体例を示す。表9中、A9−1〜A9−5は、重合性官能基を有する電子輸送性化合物である。
(A1)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、米国特許第4442193号公報、米国特許第4992349号公報、米国特許第5468583号公報、Chemistry of materials,Vol.19,No.11,pp.2703−2705(2007)に記載の公知の合成方法を用いて合成することが可能である。また、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能なナフタレンテトラカルボン酸二無水物とモノアミン誘導体との反応で合成する事ができる。
(A2)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。また、フェナントレン誘導体またはフェナントロリン誘導体を基に、Chem.Educator No.6,pp.227−234(2001)、有機合成化学協会誌,vol.15,29−32(1957)、有機合成化学協会誌,vol.15,32−34(1957)に記載の合成方法で合成することもできる。マロノニトリルとの反応によりジシアノメチレン基を導入することもできる。
(A3)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。また、フェナントレン誘導体またはフェナントロリン誘導体を基に、Bull.Chem.Soc.Jpn.,Vol.65,pp.1006−1011(1992)に記載の合成方法で合成することもできる。マロノニトリルとの反応によりジシアノメチレン基を導入することもできる。
(A4)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。また、アセナフテンキノン誘導体を基にTetrahedron Letters,43(16),pp.2991−2994(2002)、Tetrahedron Letters,44(10),pp.2087−2091(2003)に記載の合成方法で合成することもできる。マロノニトリルとの反応により、ジシアノメチレン基を導入することもできる。
(A5)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。また、フルオレノン誘導体とマロノニトリルを用い、米国特許第4562132号公報に記載の合成方法を用いて合成することができる。また、フルオレノン誘導体およびアニリン誘導体を用い、特開平5−279582号公報、特開平7−70038号公報に記載の合成方法を用いて合成することもできる。
(A6)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えばChemistry Letters,37(3),pp.360−361(2008)、特開平9−151157号公報に記載の合成方法を用いて合成することができる。また、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。
(A7)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、特開平1−206349号公報、PPCI/Japan Hard Copy’98 予稿集p.207(1998)に記載の合成方法を用いて合成することができる。また、東京化成工業(株)またはシグマアルドリッチジャパン(株)から購入可能なフェノール誘導体を原料として合成することができる。
(A8)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、Journal of the American chemical society,Vol.129,No.49,pp.15259−15278(2007)に記載の公知の合成方法を用いて合成することができる。また、東京化成工業(株)やシグマアルドリッチジャパン(株)やジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能なペリレンテトラカルボン酸二無水物とモノアミン誘導体との反応で合成する事ができる。
(A9)の構造を有する誘導体(電子輸送性化合物の誘導体)は、例えば、東京化成工業(株)、シグマアルドリッチジャパン(株)またはジョンソン・マッセイ・ジャパン・インコーポレイテッド社から購入可能である。
下引き層には、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる群より選択される少なくとも1種の金属元素を有する有機酸金属塩を含有する。上記有機酸金属塩は、有機酸金属複合体(有機酸金属錯体)であってもよい。上記有機酸金属塩の金属元素の中でも好ましくは、NiとZnである。NiとZnの有機酸金属塩のバンドギャップ(紫外・可視吸収スペクトルの吸収端の波長をX(nm)としたとき、バンドギャップは1239/X(eV)で求められる。)は、Fe、CoおよびCuの有機酸金属塩と比べて広い。従って、NiとZnは、下引き層中を流れる電子を捕捉することがさらに低減され、よりポジゴーストを抑制するものと考えられる。
また、上記有機酸金属塩の有機酸については、一価カルボン酸であることが好ましく、より好ましくは脂肪酸である。一価カルボン酸が、鎖状構造と比べて剛直な環状構造を持たない脂肪酸であることで、金属元素周りの嵩高さは小さくなる。よって、金属元素周りの有機酸の立体配置を考慮することで、下引き層中での電子の流れがより促進されると考えられる。脂肪酸は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、飽和でも不飽和でもよい。
さらには、脂肪酸は炭素数が4以上8以下であることがより好ましい。これによって、電子輸送膜中の電子の流れを助ける効果が十分に得ることができると考えられる。炭素数が4以上8以下の脂肪酸としては、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、オクチル酸などが挙げられる。
具体的な有機酸金属塩としては、オクチル酸亜鉛(II)、酪酸亜鉛(II)、ヘキサン酸亜鉛(II)、オクタン酸亜鉛(II)、オクチル酸ニッケル(II)、オクタン酸ニッケル(II)、蟻酸亜鉛(II)、プロピオン酸亜鉛(II)、ラウリン酸亜鉛(II)、オクチル酸鉄(III)、オクチル酸コバルト(II)、オクチル酸銅(II)、ナフテン酸鉄(III)、ナフテン酸コバルト(II)、ナフテン酸銅(II)、ナフテン酸亜鉛(II)、安息香酸亜鉛(II)、シュウ酸亜鉛(II)、クエン酸亜鉛(II)、酒石酸亜鉛(II)、p−トルエンスルホン酸亜鉛(II)が挙げられる。
有機酸金属塩の含有量は、下引き層の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましい。この範囲であると、有機酸金属塩が上述の電子の流れを助ける効果を十分に得ることができると考えられる。
下引き層における有機酸金属塩の含有量は、金属元素を含有することから、例えば、下引き層を蛍光X線による元素分析法(XRF)により測定し、求めることができる。この測定法の場合、感光層もしくは正孔輸送層と電荷発生層を剥離した後に、下引き層を剥離、収集する必要がある。感光層もしくは正孔輸送層と電荷発生層の剥離方法としては、これらの層を溶解し下引き層が難溶な溶媒を用いて浸漬、剥離する方法と、研磨によって剥離する方法などが挙げられる。これらの方法を組み合わせて剥離してもよい。
〔樹脂〕
次に樹脂について説明する。下引き層に用いられる樹脂としては、例えば、ブチラール樹脂、アルキッド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。下引き層(電子輸送膜)が、重合性官能基を有する電子輸送性化合物、樹脂および架橋剤を含む組成物を硬化させて得られた硬化膜であるときは、該樹脂は、重合性官能基を有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。
重合性官能基を有する熱可塑性樹脂としては、下記式(D)で示される構造単位をする熱可塑性樹脂が好ましい。
式(D)中、R61は、水素原子またはアルキル基を示す。Y1は、単結合、アルキレン基またはフェニレン基を示す。W1は、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基またはメトキシ基を示す。
式(D)で示される構造単位を有する樹脂(以下「樹脂D」とも称する。)は、例えばシグマアルドリッチジャパン(株)や東京化成工業(株)から購入可能な、重合性官能基を有するモノマーを重合させることで得られる。重合性官能基としては、ヒドロキシ基、チオール基、アミノ基、カルボキシル基およびメトキシ基が挙げられる。
また、樹脂として、一般的に購入することも可能である。購入可能な樹脂としては、例えば、日本ポリウレタン工業(株)製AQD−457、AQD−473、三洋化成工業(株)製サンニックスGP−400、GP−700などのポリエーテルポリオール系樹脂、日立化成工業(株)製フタルキッドW2343、DIC(株)製ウォーターゾールS−118、CD−520、ベッコライトM−6402−50、M−6201−40IM、ハリマ化成(株)製ハリディップWH−1188、日本ユピカ(株)製ES3604、ES6538などのポリエステルポリオール系樹脂、DIC(株)製、バーノックWE−300、WE−304などのポリアクリルポリオール系樹脂、(株)クラレ製クラレポバールPVA−203などのようなポリビニルアルコール系樹脂、積水化学工業(株)製BX−1、BM−1、KS−1、KS−5などのポリビニルアセタール系樹脂、ナガセケムテックス(株)製トレジンFS−350などのポリアミド系樹脂、日本触媒(株)製アクアリック、鉛市(株)製ファインレックスSG2000などのカルボキシル基含有樹脂、DIC(株)製ラッカマイドなどのポリアミン樹脂、東レ(株)製QE−340Mなどのポリチオール樹脂などが挙げられる。これらの中でもポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルポリオール系樹脂などが重合性、電子輸送層の均一性の観点からより好ましい。
樹脂Dの重量平均分子量は、5,000〜400,000の範囲であることがより好ましい。より好ましくは、5,000〜300,000である。
〔架橋剤〕
次に架橋剤について説明する。
架橋剤としては、重合性官能基を有する電子輸送性化合物および重合性官能基を有する熱可塑性樹脂と重合(硬化)または架橋する化合物を用いることができる。具体的には、山下晋三,金子東助編「架橋剤ハンドブック」大成社刊(1981年)などに記載されている化合物等を用いることができる。
下引き層に用いる架橋剤は、好ましくは、イソシアネート化合物、アミン化合物(メラミン、グアナミン、尿素の誘導体)であり、より好ましくは、イソシアネート化合物である。
イソシアネート化合物は、分子量が200〜1,300の範囲であるイソシアネート化合物を用いることが好ましい。さらに、イソシアネート基またはブロックイソシアネート基が3〜6個有しているイソシアネート化合物が好ましい。例えば、トリイソシアネートベンゼン、トリイソシアネートメチルベンゼン、トリフェニルメタントリイソシアネート、リジントリイソシアネートの他、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチル−2,6−ジイソシアネートヘキサノエート、ノルボルナンジイソシアネートなどのジイソシアネートのイソシアヌレート変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、トリメチロールプロパンやペンタエリストールとのアダクト変性体が挙げられる。これらの中でも、イソシアヌレート変性体がより好ましい。
上記のイソシアネート化合物は、イソシアネート基がブロック化されたブロックイソシアネート基を有する化合物であってもよい。
アミン化合物は、メチロール基などのアルキチロール基を有しており、分子量が150〜1,000の範囲であるアミン化合物を用いることが好ましい。より好ましくは、分子量が180〜560の範囲であるアミン化合物である。例えば、ヘキサメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、テトラメチロールメラミンなどのメラミン誘導体、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラメチロールシクロヘキシルグアナミンなどのグアナミン誘導体、ジメチロールジヒドロキシエチレン尿素、テトラメチロールアセチレン二尿素、テトラメチロール尿素などの尿素誘導体が挙げられる。これらの中でも、メラミン誘導体がより好ましい。
上記のアミン化合物は、全て、または一部のアルキロール基がアルキルエーテル化された化合物であってもよい。
下引き層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、スルホキシド系溶剤、または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
本発明の下引き層においては、上記化合物以外にも、下引き層の成膜性や電気的特性を高めるために、有機物粒子、無機物粒子、レベリング剤、などを含有してもよい。ただし、下引き層におけるそれらの含有量は、下引き層の全質量に対して50質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
なお、金属酸化物粒子の場合、本発明の効果であるポジゴーストの抑制(低減)という観点においては含有してもよい。しかしながら、導電性支持体側からの正孔の注入が多くなって電子輸送膜としての機能が低下しやすく、画像への黒ポチが発生しやすくなるという観点から、金属酸化物粒子は含有しない方がより好ましい。
支持体と上記下引き層との間や、上記下引き層と感光層との間に、本発明の下引き層とは異なる第二の下引き層など、別の層を設けてもよい。
〔支持体〕
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金などの金属または合金製の支持体を用いることができる。ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリイミド樹脂、ガラスなどの絶縁性支持体上にアルミニウム、クロム、銀、金などの金属の薄膜を形成した支持体、または酸化インジウム、酸化スズなどの導電性材料の薄膜を形成した支持体が挙げられる。
支持体の表面には、電気的特性の改善や干渉縞の抑制のため、陽極酸化などの電気化学的な処理や、湿式ホーニング処理、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
支持体と、後述の下引き層との間には、導電層を設けてもよい。導電層は、導電性粒子を樹脂に分散させた導電層用塗布液の塗膜を支持体上に形成し、乾燥させることで得られる。導電性粒子としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラックや、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、銀のような金属粉や、導電性酸化亜鉛、酸化スズ、ITOのような金属酸化物粉体が挙げられる。
また、樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂およびアルキッド樹脂が挙げられる。
導電層用塗布液の溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤および芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
〔感光層〕
下引き層上には、感光層が設けられる。
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、アントラキノン誘導体、アントアントロン誘導体、ジベンズピレンキノン誘導体、ピラントロン誘導体、ビオラントロン誘導体、イソビオラントロン誘導体、インジゴ誘導体、チオインジゴ誘導体、金属フタロシアニン、無金属フタロシアニンなどのフタロシアニン顔料や、ビスベンズイミダゾール誘導体などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、またはフタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニンが好ましい。
感光層が積層型感光層である場合、電荷発生層に用いられる結着樹脂としては、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、フッ化ビニリデン、トリフルオロエチレンなどのビニル化合物の重合体および共重合体や、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂が好ましく、特に、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
電荷発生層において、電荷発生物質と結着樹脂との質量比率(電荷発生物質/結着樹脂)は、10/1〜1/10の範囲であることが好ましく、5/1〜1/5の範囲であることがより好ましい。電荷発生層の膜厚は、0.05μm以上5μm以下であることが好ましい。電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
正孔輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物、トリフェニルアミンなどが挙げられる。また、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマーも挙げられる。
正孔輸送層に用いられる結着樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。結着樹脂の重量平均分子量は、10,000〜300,000の範囲であることが好ましい。
正孔輸送層において、正孔輸送物質と結着樹脂との比率(正孔輸送物質/結着樹脂)は、10/5〜5/10の範囲であることが好ましく、10/8〜6/10の範囲であることがより好ましい。正孔輸送層の膜厚は、5μm以上40μm以下であることが好ましい。
正孔輸送層用塗布液に用いられる溶剤は、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤または芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。
また、感光層(正孔輸送層)上には、導電性粒子または正孔輸送物質と結着樹脂とを含有する保護層(表面保護層)を設けてもよい。該保護層には、潤滑剤などの添加剤をさらに含有させてもよい。また、保護層の結着樹脂自体に導電性や正孔輸送性を有させてもよく、その場合、保護層には、当該樹脂以外の導電性粒子や正孔輸送物質を含有させなくてもよい。また、保護層の結着樹脂は、熱可塑性樹脂でもよいし、熱、光、放射線(電子線など)などにより硬化させてなる硬化性樹脂であってもよい。
電子写真感光体の各層を形成する方法としては、各層を構成する材料を溶剤に溶解および/または分散させて得られた塗布液を塗布し、得られた塗膜を乾燥および/または硬化させることによって形成する方法が好ましい。塗布液を塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、カーテンコーティング法、スピンコーティング法、リング法などが挙げられる。これらの中でも、効率性および生産性の観点から、浸漬塗布法が好ましい。
〔プロセスカートリッジおよび電子写真装置〕
図1に、本発明の電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
図1において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面(周面)は、帯電手段3(一次帯電手段:帯電ローラーなど)により、正または負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)からの露光(画像露光)4を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、次いで現像手段5の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段(転写ローラーなど)6からの転写バイアスによって、転写材(紙など)Pに順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて給送される。
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へ排出される。
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段(クリーニングブレードなど)7によって転写残りの現像剤(トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
上記の電子写真感光体1、帯電手段3、現像手段5、転写手段6およびクリーニング手段7などの構成要素のうち、複数のものを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成する。そして、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5およびクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
(実施例1)
長さ260.5mm、直径30mmのアルミニウムシリンダー(JIS−A3003、アルミニウム合金)を支持体(導電性支持体)とした。
次に、酸素欠損型酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子(粉体抵抗率:120Ω・cm、酸化スズの被覆率:40質量%。)50部、フェノール樹脂(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分:60%。)40部、溶剤(分散媒)としてのメトキシプロパノール50部を、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、3時間分散処理することによって、分散液を調製した。分散後、この分散液にシリコーンオイルSH28PA(東レダウコーニングシリコーン社製)0.01部、有機樹脂粒子としてシリコーン微粒子(トスパール120CA)を添加して攪拌し、導電層用塗布液を調製した。このシリコーン微粒子の含有量は、固形分に対し(酸化チタン粒子、フェノール樹脂の合計質量)、5質量%加えた。この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間150℃で乾燥・熱重合させることによって、膜厚が16μmの導電層を形成した。
この導電層用塗布液における酸素欠損型酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子の平均粒径を、(株)堀場製作所製の粒度分布計(商品名:CAPA700)を用い、テトラヒドロフランを分散媒とし、回転数5,000rpmにて遠心沈降法で測定した。その結果、平均粒径は0.33μmであった。
次に、電子輸送性化合物(A1−1)10部、オクチル酸亜鉛(II)0.15部、架橋剤として下記式(1)で示されるブロック化されたイソシアネート化合物23部とブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製。)3部を、テトラヒドロフラン250部とシクロヘキサノン250部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間160℃で加熱し、乾燥させ、硬化させることによって、膜厚が0.7μmの硬化膜である下引き層を形成した。下記の評価終了後、上述に記載の測定方法でこの下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量を測定したところ、0.54質量%であった。
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角(2θ±0.2°)の7.5°、9.9°、12.5°、16.3°、18.6°、25.1°および28.3°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質)10部、ブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)5部およびシクロヘキサノン260部を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、1.5時間分散処理した。次に、これに酢酸エチル240部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を10分間95℃で乾燥させることによって、膜厚が0.18μmの電荷発生層を形成した。
次に、ポリアリレート樹脂C(下記式(3−1)で示される構造単位と、下記式(3−2)で示される構造単位を5/5の割合で有し、重量平均分子量が100,000である。)10部、および下記式(2)で示されるアミン化合物(正孔輸送物質)7部を、ジメトキシメタン30部およびクロロベンゼン70部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を60分間120℃で乾燥させることによって、膜厚が15μmの電荷輸送層を形成した。
以上のようにして、支持体上に導電層、下引き層、電荷発生層および電荷輸送層を有する電子写真感光体を製造した。
(ポジゴーストの評価)
製造した電子写真感光体を、温度15℃、湿度10%RHの環境下にて、キヤノン(株)製のレーザービームプリンター(商品名:LBP−2510)の改造機に装着して、表面電位の測定および出力画像の評価を行った。詳しくは以下の通りである。
表面電位評価の測定は、上記レーザービームプリンターのシアン色用のプロセスカートリッジを改造し、現像位置に電位プローブ(model6000B−8:トレック・ジャパン(株)製)を装着した。そして、電子写真感光体の中央部の電位を表面電位計(model344:トレック・ジャパン(株)製)を使用して測定した。ドラムの表面電位は、初期暗部電位(Vd)が−500V、初期明部電位(Vl)が−100Vになるよう、画像露光の光量を設定した。
続いて、上記レーザービームプリンターのシアン色用のプロセスカートリッジに、製造した電子写真感光体を装着して、そのプロセスカートリッジをシアンのプロセスカートリッジのステーションに装着し、画像を出力した。その後、ベタ白画像1枚、ゴースト評価用画像5枚、ベタ黒画像1枚、ゴースト評価用画像5枚の順に連続して画像出力を行った。
ゴースト評価用画像は、図2に示すように、画像の先頭部に「白画像」中に四角の「ベタ画像」を出した後、図3に示す「1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像」を作成したものである。なお、図2中の「ゴースト」部は、「ベタ画像」に起因するゴーストが出現し得る部分である。
ポジゴーストの評価は、1ドット桂馬パターンのハーフトーン画像の画像濃度と、ゴースト部の画像濃度との濃度差を測定することで行った。分光濃度計(商品名:X−Rite504/508、X−Rite(株)製)で、1枚のゴースト評価用画像中で濃度差を10点測定した。この操作をゴースト評価用画像10枚全てで行い、合計100点の平均を算出し、初期画像出力時のマクベス濃度差を評価した。結果を表10に示す。
ゴースト部の濃度が大きいほど、ポジゴーストが強く生じていることになり、マクベス濃度差が小さいほど、ポジゴーストが抑制(低減)されていることを意味する。マクベス濃度差が0.05以上であると見た目に明らかな差があるレベルであり、0.05未満であれば見た目に明らかな差は無いレベルであった。
(実施例2〜31)
実施例1の電子輸送性化合物と有機酸金属塩を、表10に示す電子輸送性化合物と有機酸金属塩に変更した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
(実施例32、33)
実施例1のオクチル酸亜鉛(II)の質量部を、0.15部から0.07部(実施例32)、0.30部(実施例33)に変更した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
(実施例34〜36)
実施例21のオクチル酸コバルト(II)の質量部を、0.15部から0.02部(実施例34)、0.04部(実施例35)、0.07部(実施例36)に変更した以外は実施例21と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
(実施例37〜39)
実施例7のオクチル酸亜鉛(II)0.15部を、オクチル酸亜鉛(II)0.075部とオクチル酸ニッケル(II)0.075部(実施例37)、オクチル酸亜鉛(II)0.075部とオクチル酸銅(II)0.075部(実施例38)、酪酸亜鉛(II)0.075部とヘキサン酸亜鉛(II)0.075部(実施例39)に変更した以外は実施例7と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
(実施例40〜45)
実施例7のオクチル酸亜鉛(II)の質量部を、0.15部から0.02部(実施例40)、0.04部(実施例41)、0.07部(実施例42)、0.30部(実施例43)、1.5部(実施例44)、3.0部(実施例45)に変更した以外は実施例7と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
(実施例46)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10に示す。
電子輸送性化合物(A1−1)12部、オクチル酸亜鉛(II)0.14部、架橋剤として下記式(4)で示されるブチルエーテル化されたメラミン化合物11部とアルキッド樹脂(商品名:M−6405−50、DIC(株)製)10部を、テトラヒドロフラン230部とシクロヘキサノン230部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間160℃で加熱硬化させることによって、膜厚が0.7μmの硬化膜である下引き層を形成した。下記の評価終了後、上述に記載の測定方法で下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量を測定したところ、0.52質量%であった。
(実施例47〜61)
実施例46の電子輸送性化合物と有機酸金属塩を、表10、11に示す電子輸送性化合物と有機酸金属塩に変更した以外は実施例46と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表10、11に示す。
(実施例62)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
電子輸送性化合物(A1−1)9部、オクチル酸亜鉛(II)0.13部、架橋剤として下記式(1)で示されるブロック化されたイソシアネート化合物25部を、テトラヒドロフラン240部とシクロヘキサノン240部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間160℃で加熱硬化させることによって、膜厚が0.7μmの硬化膜である下引き層を形成した。
(実施例63)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
以下の方法で、電子輸送性化合物の重合物(硬化物)を得た。
100ml三つ口フラスコに乾燥窒素ガスを送りながら、電子輸送性化合物(A1−11)1gとN,Nジメチルアセトアミド10gを加えた。これを25℃で激しく攪拌し、重合開始剤AIBN5mgを加えた。引き続き、窒素を送りながら50時間65℃で重合反応を行った。反応終了後、500mlのメタノール中に激しく攪拌しながら滴下し、析出した析出物を濾取した。この析出物を10gのN,Nジメチルアセトアミドに溶解、濾過を行った後、濾液をメタノール500ml中に滴下し、重合物を析出させた。析出した重合物を濾取し、メタノール1lで分散洗浄した後に乾燥を行い、重合物0.89gを得た。得られた重合物の分子量をGPC(クロロホルム移動層)により測定したところ、その重量平均分子量は84,000だった。
得られた電子輸送性化合物の重合物6部、オクチル酸亜鉛(II)0.03部、クロロベンゼン10部、テトラヒドロフラン90部からなる下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間120℃で加熱硬化させることによって、膜厚が0.7μmの硬化膜である下引き層を形成した。
(実施例64)
導電層、下引き層および電荷輸送層を以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
酸素欠損型酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子214部、フェノール樹脂(商品名:プライオーフェンJ−325、大日本インキ化学工業(株)製、樹脂固形分:60質量%。)132部、溶剤としての1−メトキシ−2−プロパノール98部を、直径0.8mmのガラスビーズ450部を用いたサンドミルに入れ、回転数2000rpm、分散処理時間4.5時間、冷却水の設定温度18℃の条件で分散処理を行い、分散液を調製した。分散後、この分散液からメッシュ(目開き:150μm)でガラスビーズを取り除いた。ガラスビーズを取り除いた後の分散液中の金属酸化物粒子と結着樹脂の合計質量に対して10質量%になるように、シリコーン樹脂粒子(商品名:トスパール120)を分散液に添加した。また、分散液中の金属酸化物粒子と結着樹脂の合計質量に対して0.01質量%になるように、レベリング剤としてのシリコーンオイル(SH28PA)を分散液に添加して撹拌することによって、導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間150℃で乾燥・熱硬化させることによって、膜厚が30μmの導電層を形成した。
電子輸送性化合物(A1−13)10部、オクチル酸亜鉛(II)0.15部、下記式(1)で示されるブロック化されたイソシアネート化合物23部とアセタール樹脂(商品名:エスレックKS−5、積水化学工業(株)製)3部を、テトラヒドロフラン250部とシクロヘキサノン250部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間160℃で加熱し、乾燥させ、硬化させることによって、膜厚が0.7μmの硬化膜である下引き層を形成した。下記の評価終了後、上述に記載の測定方法でこの下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量を測定したところ、0.54質量%であった。
式(2)で示されるアミン化合物9部、下記式(8)で示されるアミン化合物1部、ポリカーボネート樹脂A10部と、ポリカーボネート樹脂B0.3部(重量平均分子量が40,000である。)を、ジメトキシメタン30部およびオルトキシレン50部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。ポリカーボネート樹脂Aは、式(9−1)で示される構造単位を有し、重量平均分子量が70,000である。ポリカーボネート樹脂Bは、式(9−1)で示される構造単位、式(9−2)で示される構造単位、および末端の少なくとも一方が式(9−3)で示される構造を有する。さらに、ポリカーボネート樹脂B全質量に対して、式(9−2)と(9−3)の合計含有量が30質量%である。
この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を60分120℃で乾燥させることによって、膜厚が16μmの電荷輸送層を形成した。
(実施例65)
実施例64のポリカーボネート樹脂Aを、ポリアリレート樹脂Cに変更した以外は実施例64と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。ポリアリレート樹脂Cは、式(3−1)で示される構造単位と、式(3−2)で示される構造単位を5/5の割合で有し、重量平均分子量が120,000である。
(実施例66)
電荷輸送層を以下のように形成した以外は実施例64と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
式(2)で示されるアミン化合物9部、式(8)で示されるアミン化合物1部、ポリエステル樹脂D3部、およびポリアリレート樹脂C7部を、ジメトキシメタン30部およびオルトキシレン50部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。ポリエステル樹脂Dは、下記式(7−1)で示される構造単位、下記式(7−2)で示される構造単位および下記式(7−3)で示される構造単位を有する。ポリエステル樹脂Dにおいて、式(7−2)で示される構造単位と式(7−3)で示される構造単位は、3/7の比で有する。さらに、ポリエステル樹脂D全体の質量に対して、式(7−1)で示される構造単位の含有量が10質量%、式(7−2)で示される構造単位と式(7−3)で示される構造単位の含有量が90質量%である。
この電荷輸送層用塗布液を、電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を60分120℃で乾燥させることによって、膜厚が16μmの電荷輸送層を形成した。形成された電荷輸送層には、正孔輸送物質とポリアリレート樹脂を含むマトリックス中に、ポリエステル樹脂Dを含むドメイン構造が含有されていることが確認された。
(実施例67)
実施例64の電子輸送性化合物(A1−13)を、電子輸送性化合物(A1−14)に変更した以外は実施例64と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
(実施例68〜71)
導電層を以下のように形成した以外は実施例64〜67と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
金属酸化物粒子としてのリンドープ酸化スズが被覆されている酸化チタン粒子207部、フェノール樹脂(プライオーフェンJ−325)144部、1−メトキシ−2−プロパノール98部を、直径0.8mmのガラスビーズ450部を用いたサンドミルに入れ、回転数2000rpm、分散処理時間4.5時間、冷却水の設定温度18℃の条件で分散処理を行い、分散液を調製した。分散後、この分散液からメッシュ(目開き:150μm)でガラスビーズを取り除いた。ガラスビーズを取り除いた後の分散液中の金属酸化物粒子と結着樹脂の合計質量に対して15質量%になるようにシリコーン樹脂粒子(トスパール120)を分散液に添加した。また、分散液中の金属酸化物粒子と結着樹脂の合計質量に対して0.01質量%になるように、シリコーンオイル(SH28PA)を分散液に添加して撹拌することによって、導電層用塗布液を調製した。この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間150℃で乾燥・熱硬化させることによって、膜厚が30μmの導電層を形成した。
(比較例1〜3)
実施例1の電子輸送性化合物と有機酸金属塩を、表11に示す有機金属化合物に変更した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
(比較例4)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
電子輸送性化合物(A7−2)5部とブチラール樹脂(エスレックBX−1)3部をトルエン10部に溶解し、その溶液にジルコニウムテトラブチレートのトルエン50質量%溶液40部を滴下して攪拌混合し、濾過により下引き層用塗布液を得た。この下引き層用塗布液を導電層上にリング塗布により塗布し、室温で5分間の風乾を行った後に10分間170℃で加熱することによって、膜厚が1.0μmの下引き層を形成した。
(比較例5)
実施例62のオクチル酸亜鉛(II)をジオクチルスズジラウレートに変更した以外は実施例62と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
(比較例6)
オクチル酸亜鉛(II)を含有させなかったこと以外は実施例63と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表11に示す。
(実施例72)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
電子輸送性化合物(A1−8)9部、オクチル酸亜鉛(II)0.1部とポリアミド樹脂(商品名:トレジンEF30T、ナガセケムテックス(株)製)11部、メタノール200部と1−ブタノール200部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液(電子輸送膜用塗布液)を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間100℃で加熱することによって、膜厚が0.7μmの下引き層を形成した。上述の測定方法により、この下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量は、0.50質量%である。
(実施例73)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
電子輸送性化合物(A1−8)10部、オクチル酸亜鉛(II)0.15部、架橋剤として上記式(1)で示されるブロック化されたイソシアネート化合物23部とブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1、積水化学工業(株)製)3部を、テトラヒドロフラン250部とシクロヘキサノン250部の混合溶媒に溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液(電子輸送膜用塗布液)を導電層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を30分間160℃で加熱することによって、膜厚が0.7μmの下引き層を形成した。上述の測定方法により、この下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量は、0.54質量%である。
(実施例74)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
以下の方法で、ポリオレフィン樹脂分散液を得た。
攪拌機を備えたヒーター付きで密閉できる耐圧1l用ガラス容器に、ポリオレフィン樹脂(商品名:ボンダインHX−8290、住友化学工業(株)製。)、2−プロパノール90部、樹脂中の無水マレイン酸のカルボキシル基に対して1.2倍当量のトリエチルアミンおよび200部の蒸留水を仕込み、攪拌翼の回転速度を300rpmとして攪拌した。その結果、容器底部に樹脂粒状物の沈殿は認められず、浮遊状態となっていることが確認された。そこで、この状態を保ちつつ、15分後にヒーターの電源を入れて加熱した後、系内温度を145℃に保って、さらに60分間攪拌した。その後、水浴につけて回転速度300rpmのまま攪拌しつつ室温(温度約25℃)まで冷却した。次に、300メッシュのステンレス製フィルター(線径0.035mm、平織)で加熱濾過(空気圧0.2MPa)し、固形分濃度が20質量%の乳白色の均一なポリオレフィン樹脂の水性分散体を得た。このポリオレフィン樹脂の構成は、下記式(5−1)/(5−2)/(5−3)=80/2/18(質量%)であった。
電子輸送性化合物(A1−7)20部、オクチル酸亜鉛(II)0.4部、作製したポリオレフィン樹脂分散液50部と、2−プロパノール250部と蒸留水150部を加え、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間処理した。次に、2−プロパノール250部で希釈し、電子輸送性化合物を溶解し、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を20分間90℃で加熱することによって、膜厚が0.7μmの下引き層を形成した。上述の測定方法により、この下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量は、0.57質量%である。
(比較例7)
オクチル酸亜鉛(II)を含有していないこと以外は実施例72と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
(比較例8)
実施例73のオクチル酸亜鉛(II)をアルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレートに変更した以外は実施例73と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
(比較例9)
オクチル酸亜鉛(II)を含有させなかったこと以外は実施例74と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表12に示す。
(実施例75)
下引き層を、以下のように形成した以外は実施例1と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表13に示す。
電子輸送顔料として、下記式(6−1)と(6−2)の共重合体を用いた。この共重合体の比率は、式(6−1)/(6−2)=5/1(モル比)であり、重量平均分子量は10,000である。上記電子輸送性顔料20部、オクチル酸亜鉛(II)0.01部に、蒸留水150部、メタノール250部およびトリエチルアミン4部を加え、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で2時間分散処理を行い、下引き層用塗布液を調製した。この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布して塗膜を形成し、得られた塗膜を10分間120℃で加熱し、電子輸送性顔料を融解若しくは凝集、乾燥させることによって、膜厚が0.7μmの下引き層を形成した。上述の測定方法により、この下引き層中のオクチル酸亜鉛(II)の含有量は、0.50質量%である。
また、この下引き層用塗布液調製前後での電子輸送性顔料の粒系測定を、(株)堀場製作所製の粒度分布計(商品名:CAPA700)を用いてメタノールを分散媒とし、回転数7,000rpmにて遠心沈降法で行った。結果は、調製前が3.5μmであり、調製後が0.3μmであった。
(比較例10)
オクチル酸亜鉛(II)を含有していないこと以外は実施例75と同様に電子写真感光体を製造し、同様にポジゴーストの評価を行った。結果を表13に示す。