以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
本発明の静電潜像現像用トナー(以下単にトナーともいう)に含まれるトナー粒子は、少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、トナーコア粒子を被覆するシェル層と、からなる。シェル層は、トナーコア粒子を被覆する内層と、当該内層を被覆する外層とからなる。内層は、樹脂からなり、平均粒子径が100nm以上300nm以下である球状の第一微粒子を用いて形成される。外層は、樹脂からなり、平均粒子径が50nm以下である球状の第二微粒子を用いて形成される。本発明のトナーに含まれるトナー粒子の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する場合、粒子径が6μm以上8μm以下のトナー粒子について、シェル層の表面に球状の第二微粒子に由来する構造が観察されない。トナーに含まれるトナー粒子の断面を、透過型電子顕微鏡を用いて観察する場合、シェル層に含まれる内層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向の、第一微粒子同士の界面に由来するクラックが観察される。以下、トナーの構造と、トナーの材料とについて説明する。
[トナーの構造]
本発明のトナーに含まれるトナー粒子では、トナーコア粒子がその全表面をシェル層で被覆されている。トナー粒子の表面であるシェル層の状態は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認できる。シェル層の平滑化の程度と、トナーに含まれるトナー粒子が備えるシェル層の内部の構造とは、トナー粒子の断面を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することで確認できる。本発明のトナーに含まれるトナー粒子の好適な一態様について、TEMを用いて観察されるトナーの断面の模式図を図1に示す。
図1に示されるように、トナー粒子101では、シェル層103が、トナーコア粒子102の全表面を被覆している。シェル層103は、内層104と外層105とからなる。図2に示されるように、シェル層103は、トナーコア粒子102に、第一微粒子201を付着させた後、さらに第一微粒子201の表面を第二微粒子202で被覆した後、第二樹脂微粒子202と共に第一微粒子201を外力で変形させて、第二微粒子202からなる層の外表面を平滑化して形成される。
このように、本発明に係るトナーは、有機溶剤を使用しない簡易なプロセスで製造することができる。
図2(c)に示されるように、シェル層103は、通常、第一微粒子201がトナーコア粒子102の表面に対して垂直方向に重なることなく並んだ第一微粒子層と、第二微粒子202が第一微粒子層の表面に対して垂直方向に重なることなく並んだ第二微粒子層とが、それぞれ外力により変形することで形成される。このため、通常、シェル層103の厚さは、第一微粒子201の粒子径と、第二微粒子202の粒子径とから定まる。シェル層の厚さは、100nm以上350nm以下が好ましく、100nm以上250nm以下がより好ましく、120nm以上200nm以下が特に好ましい。後述するように、シェル層103が凸部106を有する場合、シェル層103の厚さが不均一である場合がある。このようにシェル層103の厚さが不均一な場合について、本出願の、特許請求の範囲、及び明細書では、シェル層103の最も厚い部分の厚さを、「シェル層の厚さ」とする。
厚過ぎるシェル層を備えるトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、トナー粒子を被記録媒体へ定着させる際にトナー粒子に圧力が印加されても、シェル層が破壊されにくい。この場合、トナーコア粒子に含まれる結着樹脂や離型剤の軟化又は溶融が速やかに進行せず、低温域でトナー粒子を被記録媒体上に定着させにくい。一方、薄過ぎるシェル層は、強度が低い。シェル層の強度が低いと、輸送時のような状況で加わる衝撃でシェル層が破壊される場合がある。高温でトナーを保存する場合、トナー中の、シェル層の少なくとも一部が破壊されたトナー粒子は、他のトナー粒子と共に凝集することがある。高温条件下では、シェル層が破壊された個所を通じて離型剤のような成分がトナー粒子の表面に染み出することがあるためである。
シェル層103の厚さは、トナー粒子101断面のTEM撮影像を市販の画像解析ソフトウェアを用いて解析することで、計測できる。市販の画像解析ソフトウェアとしては、WinROOF(三谷商事株式会社製)のようなソフトウェアを用いることができる。
図1に示されるように、シェル層103は、トナーコア粒子102とシェル層103との界面上、且つ、内層104中に存在する2つのクラック107間に、凸部106を有するのが好ましい。シェル層103がこのような凸部106を有する場合、シェル層103が凸部107を有していない場合に比べて、トナーコア粒子102とシェル層103との接触面積が大きい。このため、シェル層103が凸部106を有する場合、トナーコア粒子102とシェル層103とが良好に密着し、シェル層103がトナーコア粒子102から剥離しにくい。このため、凸部106を有するシェル層103を備えるトナー粒子101を含むトナーは、耐熱保存性に優れる。
球状の第一微粒子を用いて形成される内層と、球状の第二微粒子を用いて形成される外層とからなるシェル層は、好ましくは、
I)球状の第一微粒子を、トナーコア粒子の表面に対して垂直方向に重ならないように、トナーコア粒子の表面に付着させて、トナーコア粒子の全表面を被覆する第一微粒子層を形成する工程、
II)球状の第二微粒子を、第一微粒子層の表面に対して垂直方向に重ならないように、第一微粒子層の表面に付着させて、第一微粒子層の全表面を被覆する第二微粒子層を形成する工程、及び
III)第一微粒子層及び第二微粒子層に対して、第二微粒子層の外表面から外力を印加し、第一微粒子層と第二微粒子層とに含まれる樹脂からなる球状の微粒子を変形させて、所定の形状の内層と、均一化及び平滑化された外層とからなるシェル層を形成する工程、
を含む方法を用いて形成される。
以下の工程1)及び2):
1)球状の第一微粒子を、トナーコア粒子の表面に対して垂直方向に重ならないように、トナーコア粒子の表面に付着させて、トナーコア粒子の全表面を被覆する第一微粒子層を形成する工程、及び
2)第一微粒子層の外表面に外力を印加して、第一微粒子に含まれる樹脂からなる球状の微粒子を変形させる工程、
を含む方法によって、外表面が平滑であり、内部に第一微粒子の界面に由来するクラックが観察されるシェル層を備えるトナーコア粒子を含むトナーを調製することもできる。
このような方法で調製されるトナー粒子は、本発明に係るトナーに含まれるトナー粒子が備えるシェル層と類似する構造のシェル層を備える。このため、上記の工程1)及び2)を含む方法で製造されるトナーは、本発明に係るトナーと同様に低温定着性と耐熱保存性とに優れる。
しかし、第一微粒子のみを用いて、本発明に係るトナーに含まれるトナー粒子が備えるシェル層と類似する構造のシェル層を形成する場合、トナーコア粒子の表面の第一微粒子層を所望する形状に変形させるのに非常に長い時間を要する問題がある。
シェル層の平滑化の程度は、トナー粒子の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察する場合に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子のシェル層の外表面に、シェル層の形成に用いる球状の第二微粒子に由来する構造が観察されない程度であればよい。粒子径6μm以上8μm以下のトナーのシェル層の状態がこのような状態であれば、トナーに含まれるトナー粒子の殆どで、所望する状態でトナーコア粒子を被覆するシェル層が形成されている。シェル層の外表面の状態を、走査型電子顕微鏡を用いて確認する場合の、トナー粒子の粒子径とは、電子顕微鏡画像上のトナーの投影面積から算出される円相当径である。
図1に示されるシェル層103の好適な態様では、トナーコア粒子102の全表面がシェル層103で被覆されている。シェル層103が、トナーコア粒子102の表面を被覆する内層104と、内層104の表面を被覆し、その外表面が平滑である外層105とで構成されているため、トナー粒子101を高温で保存する際に、離型剤のような成分のトナー粒子101表面への染み出しが生じにくい。
シェル層103中の内層104の内部には、空隙(クラック)107が存在する。このため、トナー粒子を被記録媒体上に定着させる際にトナー粒子に圧力が印加されると、内層104中のクラック107を基点としてシェル層103が破壊されやすい。シェル層103が速やかに破壊されると、トナーコア粒子102に含まれる結着樹脂や離型剤のような成分の軟化又は溶融が速やかに進行するため、低温域で、トナー粒子101を被記録媒体上に定着させやすい。
[トナー材料]
トナーは、少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、内層と外層とからなり、トナーコア粒子の全表面を被覆するシェル層と、からなる。トナーコア粒子は、結着樹脂中に、必要に応じ、離型剤、電荷制御剤、着色剤、及び磁性粉のような成分を含んでいてもよい。トナーに含まれるトナー粒子は所望によりその表面が、外添剤を用いて処理されたものであってもよい。トナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。
以下、トナーに含まれるトナー粒子を構成する必須、又は任意の成分である、結着樹脂、離型剤、電荷制御剤、着色剤、磁性粉、シェル層を形成する樹脂微粒子、外添剤、及びトナーを2成分現像剤として使用する場合に用いるキャリアと、トナーの製造方法とについて順に説明する。
〔結着樹脂〕
トナーコア粒子は、結着樹脂を含む。トナーコア粒子に含まれる結着樹脂は、従来からトナー用の結着樹脂として用いられている樹脂であれば特に制限されない。結着樹脂の具体例としては、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ビニルエーテル系樹脂、N−ビニル系樹脂、及びスチレン−ブタジエン樹脂のような熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂の中でも、結着樹脂中の着色剤の分散性、トナーの帯電性、用紙に対する定着性の面から、ポリスチレン系樹脂、及びポリエステル樹脂が好ましい。以下、ポリスチレン系樹脂、及びポリエステル樹脂について説明する。
ポリスチレン系樹脂は、スチレンの単独重合体でもよく、スチレンと、スチレンと共重合可能な他の共重合モノマーとの共重合体でもよい。スチレンと共重合可能な他の共重合モノマーの具体例としては、p−クロルスチレン;ビニルナフタレン;エチレン、プロピレン、ブチレン、及びイソブチレンのようなエチレン不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、臭化ビニル、及び弗化ビニルのようなハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル、及び酪酸ビニルのようなビニルエステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル、α−クロルアクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、及びメタアクリル酸ブチルのような(メタ)アクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、及びアクリルアミドのような他のアクリル酸誘導体;ビニルメチルエーテル、及びビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、及びメチルイソプロペニルケトンのようなビニルケトン類;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、及びN−ビニルピロリデンのようなN−ビニル化合物が挙げられる。これらの共重合モノマーは、2種以上を組み合わせてスチレン単量体と共重合できる。
ポリエステル樹脂は、2価又は3価以上のアルコール成分と2価又は3価以上のカルボン酸成分とを縮重合や共縮重合して得られるものを使用できる。ポリエステル樹脂を合成する際に用いられる成分としては、以下のアルコール成分やカルボン酸成分が挙げられる。
2価又は3価以上のアルコール成分の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレングリコールのようなジオール類;ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ポリオキシエチレン化ビスフェノールA、及びポリオキシプロピレン化ビスフェノールAのようなビスフェノール類;ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、及び1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンのような3価以上のアルコール類が挙げられる。
2価又は3価以上のカルボン酸成分の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、マロン酸、或いはn−ブチルコハク酸、n−ブテニルコハク酸、イソブチルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、イソドデシルコハク酸、及びイソドデセニルコハク酸のようなアルキル又はアルケニルコハク酸のような2価カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、1,2,5−ベンゼントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、及びエンポール三量体酸のような3価以上のカルボン酸が挙げられる。これらの2価又は3価以上のカルボン酸成分は、酸ハライド、酸無水物、及び低級アルキルエステルのようなエステル形成性の誘導体として用いてもよい。ここで、「低級アルキル」とは、炭素原子数1から6のアルキル基を意味する。
結着樹脂がポリエステル樹脂である場合、ポリエステル樹脂の軟化点は、70℃以上130℃以下が好ましく、80℃以上120℃以下がより好ましい。
トナーが、磁性1成分トナーとして用いられる場合、結着樹脂として、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基、及びエポキシ基(グリシジル基)からなる群より選択される1以上の官能基を分子内に有する樹脂を使用するのが好ましい。これらの官能基を分子内に有する結着樹脂を用いることで、結着樹脂中での磁性粉、及び電荷制御剤のような成分の分散性を向上させることができる。これらの官能基の有無は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて確認できる。樹脂中のこれらの官能基の量は、滴定のような公知の方法を用いて測定できる。
結着樹脂としては、用紙に対する定着性が良好なトナーを得やすいことから熱可塑性樹脂が好ましいが、熱可塑性樹脂は、架橋剤や熱硬化性樹脂と共に使用されてもよい。架橋剤や熱硬化性樹脂を添加して、結着樹脂内に、一部架橋構造を導入することで、トナーの定着性を低下させることなく、トナーの耐熱保存性、及び耐久性を向上させることができる。熱可塑性樹脂と共に熱硬化性樹脂を用いる場合、ソックスレー抽出器を用いて抽出される結着樹脂の架橋部分量(ゲル量)は、結着樹脂の質量に対して、10質量%以下が好ましく、0.1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
熱可塑性樹脂と共に使用できる熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やシアネート系樹脂が好ましい。好適な熱硬化性樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ポリアルキレンエーテル型エポキシ樹脂、環状脂肪族型エポキシ樹脂、及びシアネート樹脂が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、2種以上を組み合わせて使用できる。
結着樹脂のガラス転移点(Tg)は、40℃以上70℃以下が好ましい。ガラス転移点が高すぎる結着樹脂を含むトナーコア粒子を用いて製造されるトナーは、低温定着性が低い傾向がある。ガラス転移点が低すぎる結着樹脂を含むトナーコア粒子を用いて製造されるトナーは、耐熱保存性が低い傾向がある。
結着樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、結着樹脂の比熱の変化点から求めることができる。より具体的には、測定装置としてセイコーインスツルメンツ株式会社製示差走査熱量計DSC−6200を用い、結着樹脂の吸熱曲線を測定することで結着樹脂のガラス転移点を求めることができる。測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用する。測定温度範囲25℃以上200℃以下、昇温速度10℃/分という測定条件で常温常湿下において測定して得られた結着樹脂の吸熱曲線から結着樹脂のガラス転移点を求めることができる。
結着樹脂の質量平均分子量(Mw)は、20,000以上300,000以下が好ましく、30,000以上2,000,000以下がより好ましい。結着樹脂の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、標準ポリスチレン樹脂を用いて予め作成しておいた検量線を用いて求めることができる。
結着樹脂がポリスチレン系樹脂である場合、結着樹脂は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーのような手段で測定される分子量分布上で、低分子量領域と、高分子量領域とにそれぞれピークを有するのが好ましい。具体的には、低分子量領域のピークを分子量3,000以上20,000以下の範囲に有するのが好ましく、高分子量領域のピークを分子量300,000以上1,500,000以下の範囲に有するのが好ましい。このような分子量分布のポリスチレン系樹脂について、数平均分子量(Mn)と質量平均分子量(Mw)との比(Mw/Mn)は、10以上が好ましい。分子量分布中の低分子量領域と高分子量領域とにそれぞれピークを有する結着樹脂を用いることで、低温定着性に優れ、高温オフセットを抑制できるトナーを得ることができる。
〔離型剤〕
トナーコア粒子は、定着性や耐オフセット性を向上させる目的で、離型剤を含むのが好ましい。離型剤としては、ワックスが好ましい。ワックスの例としては、カルナウバワックス、合成エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、フッ素樹脂系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス、モンタンワックス、及びライスワックスが挙げられる。これらの離型剤は2種以上を組み合わせて使用できる。このような離型剤を含むトナーコア粒子を用いてトナーを調製することで、オフセットや像スミアリング(画像をこすった際の画像周囲の汚れ)の発生をより効率的に抑制できる。
結着樹脂としてポリエステル樹脂が用いられる場合、結着樹脂と離型剤との相溶性の観点から、カルナバワックス、合成エステルワックス、及びポリエチレンワックスからなる群より選択される1以上の離型剤が好適に用いられる。結着樹脂としてポリスチレン系樹脂が用いられる場合は、同じく結着樹脂と離型剤との相溶性の観点から、フィッシャートロプシュワックス、及び/又はパラフィンワックスが好適に用いられる。
フィッシャートロプシュワックスは、一酸化炭素の接触水素化反応であるフィッシャートロプシュ反応を利用して製造される、イソ(iso)構造分子や側鎖の含有量が少ない、直鎖炭化水素化合物である。
フィッシャートロプシュワックスの中でも、質量平均分子量が1,000以上であり、且つDSC測定することで観測される吸熱ピークのボトム温度が、100℃以上120℃以下の範囲内であるものがより好ましい。このようなフィッシャートロプシュワックスとしては、サゾール社から入手できるサゾールワックスC1(吸熱ピークのボトム温度:106.5℃)、サゾールワックスC105(吸熱ピークのボトム温度:102.1℃)、サゾールワックスSPRAY(吸熱ピークのボトム温度:102.1℃)のようなワックスが挙げられる。
離型剤の使用量は、トナーコア粒子の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましい。過少量の離型剤を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、形成された画像におけるオフセットや像スミアリングの発生の抑制について所望の効果が得られない場合がある。過剰量の離型剤を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーは、トナー粒子同士が融着しやすく、耐熱保存性が低い場合がある。
〔電荷制御剤〕
トナーコア粒子は、トナーの、帯電レベルや、所定の帯電レベルに短時間で帯電可能か否かの指標となる帯電立ち上がり特性を向上させ、耐久性や安定性に優れたトナーを得る目的で、電荷制御剤を含むのが好ましい。トナーを正帯電させて現像を行う場合、正帯電性の電荷制御剤が使用され、トナーを負帯電させて現像を行う場合、負帯電性の電荷制御剤が使用される。
電荷制御剤としては、従来からトナーに使用されている電荷制御剤から適宜選択できる。正帯電性の電荷制御剤の具体例としては、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、オルトオキサジン、メタオキサジン、パラオキサジン、オルトチアジン、メタチアジン、パラチアジン、1,2,3−トリアジン、1,2,4−トリアジン、1,3,5−トリアジン、1,2,4−オキサジアジン、1,3,4−オキサジアジン、1,2,6−オキサジアジン、1,3,4−チアジアジン、1,3,5−チアジアジン、1,2,3,4−テトラジン、1,2,4,5−テトラジン、1,2,3,5−テトラジン、1,2,4,6−オキサトリアジン、1,3,4,5−オキサトリアジン、フタラジン、キナゾリン、及びキノキサリンのようなアジン化合物;アジンファストレッドFC、アジンファストレッド12BK、アジンバイオレットBO、アジンブラウン3G、アジンライトブラウンGR、アジンダークグリ−ンBH/C、アジンディ−プブラックEW、及びアジンディープブラック3RLのようなアジン化合物からなる直接染料;ニグロシン、ニグロシン塩、及びニグロシン誘導体のようなニグロシン化合物;ニグロシンBK、ニグロシンNB、及びニグロシンZのようなニグロシン化合物からなる酸性染料;ナフテン酸又は高級脂肪酸の金属塩類;アルコキシル化アミン;アルキルアミド;ベンジルメチルヘキシルデシルアンモニウム、及びデシルトリメチルアンモニウムクロライドのような4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの正帯電性の電荷制御剤の中では、より迅速な帯電立ち上がり性が得られる点で、ニグロシン化合物が特に好ましい。これらの正帯電性の電荷制御剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
官能基として4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、又はカルボキシル基を有する樹脂も正帯電性の電荷制御剤として使用できる。より具体的には、4級アンモニウム塩を有するスチレン系樹脂、4級アンモニウム塩を有するアクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するスチレン−アクリル系樹脂、4級アンモニウム塩を有するポリエステル樹脂、カルボン酸塩を有するスチレン系樹脂、カルボン酸塩を有するアクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するスチレン−アクリル系樹脂、カルボン酸塩を有するポリエステル樹脂、カルボキシル基を有するスチレン系樹脂、カルボキシル基を有するアクリル系樹脂、カルボキシル基を有するスチレン−アクリル系樹脂、及びカルボキシル基を有するポリエステル樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、オリゴマーであってもポリマーであってもよい。
正帯電性の電荷制御剤として使用できる樹脂の中では、帯電量を所望の範囲内の値に容易に調節できる点から、4級アンモニウム塩を官能基として有するスチレン−アクリル系樹脂がより好ましい。4級アンモニウム塩を官能基として有するスチレン−アクリル系樹脂において、スチレン単位と共重合させる好ましいアクリル系コモノマーの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸n−ブチル、及びメタアクリル酸iso−ブチルのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
4級アンモニウム塩としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジアルキル(メタ)アクリルアミド、又はジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドから第4級化の工程を経て誘導される単位が用いられる。ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの具体例としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられ、ジアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としてはジメチルメタクリルアミドが挙げられ、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミドの具体例としては、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミドが挙げられる。また、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及びN−メチロール(メタ)アクリルアミドのようなヒドロキシ基含有重合性モノマーを重合時に併用することもできる。
負帯電性の電荷制御剤の具体例としては、有機金属錯体、キレート化合物、モノアゾ金属錯体、アセチルアセトン金属錯体、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸系の金属錯体、芳香族モノカルボン酸、及び芳香族ポリカルボン酸、及びその金属塩、無水物、エステル類、並びにビスフェノールのようなフェノール誘導体類が挙げられる。これらの中でも有機金属錯体、キレート化合物が好ましい。有機金属錯体、及びキレート化合物としては、アルミニウムアセチルアセトナートや鉄(II)アセチルアセトナートのようなアセチルアセトン金属錯体、及び、3,5−ジ−tert−ブチルサリチル酸クロムのようなサリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩がより好ましく、サリチル酸系金属錯体又はサリチル酸系金属塩が特に好ましい。これらの負帯電性の電荷制御剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
正帯電性又は負帯電性の電荷制御剤の使用量は、トナーコア粒子の全質量に対し、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。電荷制御剤の含有量が過少であるトナーを用いる場合、トナーを所定の極性に安定して帯電させにくいため、形成画像の画像濃度が所望する値を下回ったり、形成画像の画像濃度を長期にわたって維持することが困難であったりすることがある。また、トナーコア粒子中の電荷制御剤の含有量が過少であると、電荷制御剤が結着樹脂中に均一に分散しにくい。このため、過少量の電荷制御剤を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、形成される画像にかぶりが生じやすかったり、トナー成分に起因する潜像担持部の汚染が起こりやすかったりする。過剰量の電荷制御剤を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、トナー成分に起因する潜像担持部の汚染や、トナーの耐環境性の悪化にともなう、高温高湿下での帯電不良に起因する形成画像における画像不良が起こりやすい。
〔着色剤〕
トナーコア粒子は、必要に応じて着色剤を含んでいてもよい。トナーの色に合わせて、公知の顔料や染料を着色剤として用いることができる。着色剤の具体例としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、及びアニリンブラックのような黒色顔料;黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネープルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキ、モノアゾイエロー、及びジアゾイエローのような黄色顔料;赤口黄鉛、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、及びインダスレンブリリアントオレンジGKのような橙色顔料;ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B、及びモノアゾレッドのような赤色顔料;マンガン紫、ファストバイオレットB、及びメチルバイオレットレーキのような紫色顔料;紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC、及びフタロシアニンブルーのような青色顔料;クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、及びファイナルイエローグリーンGのような緑色顔料;亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、及び硫化亜鉛のような白色顔料;バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、及びアルミナホワイトのような体質顔料が挙げられる。これらの着色剤は、トナーを所望の色相に調整する目的で2種以上を組み合わせて用いることもできる。
着色剤の使用量は、トナーコア粒子の全質量に対して、1質量%以上10質量%以下が好ましく、2質量%以上7質量%以下がより好ましい。
熱可塑性樹脂のような樹脂材料中に予め着色剤が分散されたマスターバッチとして、着色剤を用いることもできる。着色剤をマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチに含まれる樹脂は、結着樹脂と同種の樹脂であるのが好ましい。
〔磁性粉〕
トナーコア粒子は、必要に応じて、磁性粉を含んでいてもよい。結着樹脂中に磁性粉を含むトナーは、磁性1成分現像剤として使用することができる。磁性粉としては、フェライト、及びマグネタイトのような鉄;コバルト、及びニッケルのような強磁性金属;鉄、及び/又は強磁性金属を含む合金;鉄、及び/又は強磁性金属を含む化合物;熱処理のような強磁性化処理を施された強磁性合金;二酸化クロムが挙げられる。
磁性粉の粒子径は、0.1μm以上1.0μm以下が好ましく、0.1μm以上0.5μm以下がより好ましい。このような範囲の粒子径の磁性粉を用いてトナーを調製する場合、結着樹脂中に磁性粉を均一に分散させやすい。
磁性粉は、結着樹脂中での分散性を改良する目的で、チタン系カップリング剤やシラン系カップリング剤のような表面処理剤を用いて表面処理されたものを用いることができる。
磁性粉の使用量は、トナーコア粒子の全質量に対して、35質量%以上65質量%以下が好ましく、35質量%以上55質量%以下がより好ましい。過剰量の磁性粉を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーを用いる場合、長期間連続して画像を形成する場合に所望する画像濃度の画像を形成しにくかったり、トナーの定着性が極度に低下したりする場合がある。過少量の磁性粉を含むトナーコア粒子を用いて製造されたトナー粒子を含むトナーを用いて画像を形成する場合、形成画像にかぶりが発生しやすかったり、長期間にわたり印刷する場合に形成される画像の画像濃度が低下しやすかったりする場合がある。
〔第一微粒子及び第二微粒子〕
シェル層は、内層と外層とからなる。内層は、平均粒子径が100nm以上300nm以下の樹脂微粒子である第一微粒子を用いて形成される。外層は、平均粒子径が50nm以下である第二微粒子を用いて形成される。第一微粒子及び第二微粒子として使用される樹脂微粒子は、所定の構造のシェル層を形成できることから、不飽和結合を有するモノマーの重合体からなる微粒子が好ましい。不飽和結合を有するモノマーは、臨界ミセル濃度(CMC)以上の界面活性剤の存在下で重合されても、CMC未満の濃度の界面活性剤の存在下又は界面活性剤の不在下で重合されてもよい。不飽和結合を有するモノマーを重合する方法としては、CMC未満の濃度の界面活性剤の存在下又は界面活性剤の不在下で重合を行うソープフリー乳化重合法が、好ましい。ソープフリー乳化重合法で樹脂微粒子を製造すれば、粒子径が揃っており、界面活性剤を含まないか、殆ど含まない樹脂微粒子を調製できるからである。
不飽和結合を有するモノマーの種類は、シェル層として十分な物理的性質を有する樹脂を合成可能であれば特に限定されない。不飽和結合を有するモノマーとしては、ビニル系単量体が好ましい。ビニル系単量体に含まれるビニル基は、α位をアルキル基で置換されていてもよい。また、ビニル系単量体に含まれるビニル基は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ビニル基が有していてもよいアルキル基は、炭素数1以上6以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。ビニル基が有していてもよいハロゲン原子は、塩素原子、又は臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
ビニル系単量体は、含窒素極性官能基を有するものであってもよく、フッ素置換された炭化水素基を有するものであってもよい。樹脂を製造する際に、含窒素極性官能基を有するビニル系単量体を用いる場合、得られる樹脂に正帯電性を付与できる。樹脂を製造する際に、フッ素置換された炭化水素基を有するビニル系単量体を用いる場合、得られる樹脂に負帯電性を付与できる。シェル層の材質として、上記の正帯電性の樹脂、又は負帯電性の樹脂を用いる場合、トナーコア粒子中に電荷制御剤を配合しないか、トナーコア粒子中への電荷制御剤の配合量を減らしても、所望する帯電量に帯電可能なトナーを得ることができる。
ビニル系単量体のうち、含窒素極性官能基、及びフッ素置換された炭化水素基を持たない単量体の具体例としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、及び3,4−ジクロロスチレンのようなスチレン類;エチレン、プロピレン、ブチレン、及びイソブチレンのようなエチレン性不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、及びフッ化ビニルのようなハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、及び酪酸ビニルのようなビニルエステル類;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2−クロロエチル、(メタ)アクリル酸フェニル、及びα−クロロアクリル酸メチルのような(メタ)アクリル酸エステル類;アクリロニトリルのような(メタ)アクリル酸誘導体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、及びビニルイソブチルエーテルのようなビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、及びメチルイソプロペニルケトンのようなビニルケトン類;ビニルナフタリン類が挙げられる。これらの中でも、スチレン類が好ましく、スチレンがより好ましい。これらのモノマーは2種以上を組み合わせて使用できる。
含窒素極性官能基を持つビニル系単量体の例としては、N−ビニル化合物や、アミノ(メタ)アクリル系単量体や、メタクリロニトリル、及び(メタ)アクリルアミドが挙げられる。N−ビニル化合物の具体例としては、N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、及びN−ビニルピロリドンが挙げられる。アミノ(メタ)アクリル系単量体の好適な例としては、下式で表される化合物が挙げられる。
CH2=C(R1)−(CO)−X−N(R2)(R3)
(式中、R1は水素又はメチル基を示す。R2及びR3は、それぞれ水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基を示す。Xは−O−、−O−Q−又は−NHを示す。Qは炭素数1以上10以下のアルキレン基、フェニレン基、又はこれらの基の組合せを示す。)
上記式中、R2及びR3の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−ペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基(ラウリル基)、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基(ステアリル基)、n−ノナデシル基、及びn−イコシル基が挙げられる。
上記式中、Qの具体例としては、メチレン基、1,2−エタン−ジイル基、1,1−エチレン基、プロパン−1,3−ジイル基、プロパン−2,2−ジイル基、プロパン−1,1−ジイル基、プロパン−1,2−ジイル基、ブタン−1,4−ジイル基、ペンタン−1,5−ジイル基、ヘキサン−1,6−ジイル基、ヘプタン−1,7−ジイル基、オクタン−1,8−ジイル基、ノナン−1,9−ジイル基、デカン−1,10−ジイル基、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、及びベンジル基に含まれるフェニル基の4位から水素を除いた二価基が挙げられる。
上記式で表されるアミノ(メタ)アクリル系単量体の具体例としては、N,N−ジメチルアミノ(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノメチル(メタ)アクリレート、2−(N,N−メチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリレート、4−(N,N−ジメチルアミノ)ブチル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジプロピルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N,N−ジ−n−ブチルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリレート、(p−N,N−ジメチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p−N,N−ジエチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p−N,N−ジ−n−プロピルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p−N,N−ジ−n−ブチルアミノフェニル)メチルベンジル(メタ)アクリレート、(p−N−ラウリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、(p−N−ステアリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジメチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジエチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジ−n−プロピルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N,N−ジ−n−ブチルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ラウリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、p−N−ステアリルアミノフェニル(メタ)アクリルアミド、(p−N,N−ジメチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p−N,N−ジエチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p−N,N−ジ−n−プロピルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p−N,N−ジ−n−ブチルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、(p−N−ラウリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミド、及び(p−N−ステアリルアミノフェニル)メチル(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
フッ素置換された炭化水素基を持つビニル系単量体は、含フッ素樹脂の製造に使用されるものであれば特に限定されない。フッ素置換された炭化水素基を有するビニル系単量体の具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロアミルアクリレート、及び1H,1H,2H,2H−ヘプタデカフルオロデシルアクリレートのようなフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;トリフルオロクロルエチレン、フッ化ビニリデン、三フッ化エチレン、四フッ化エチレン、トリフルオロプロピレン、ヘキサフルオロプロペン、及びヘキサフルオロプロピレンのようなフルオロオレフィン類が挙げられる。これらの中でも、フルオロアルキル(メタ)アクリレート類が好ましい。
不飽和結合を有するモノマーの付加重合方法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、及び懸濁重合のような任意の方法を選択できる。これらの製造方法の中では、粒子径のそろった樹脂微粒子を得やすいことから、乳化重合法が好ましい。
以上説明したビニル系単量体の重合には、過硫酸カリウム、過酸化アセチル、過酸化デカノイル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、及び2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリルのような公知の重合開始剤を使用できる。これらの重合開始剤の使用量は、モノマーの総質量に対して0.1質量%以上15質量%以下が好ましい。
樹脂微粒子を乳化重合法で製造する方法としては、CMC未満の濃度の界面活性剤の存在下又は界面活性剤の不在下で重合を行うソープフリー乳化重合法が好ましい。ソープフリー乳化重合法では、水相で発生した開始剤のラジカルが、水相にわずかに溶けているモノマーを重合させる。重合が進むにつれて、不溶化した樹脂微粒子の粒子核が形成される。ソープフリー乳化重合法を用いると、粒子径分布の幅が狭い樹脂微粒子が得られ、樹脂微粒子の平均粒子径を0.03μm以上1μm以下の範囲に制御することができる。ソープフリー乳化重合を行う場合、反応系内にカチオン界面活性剤(例えば、ドデシルアンモニウムクロライド)のような界面活性剤を少量添加し、その添加量を増減することで、生成する樹脂微粒子の平均粒子径をコントロールすることができる。具体的には、界面活性剤の使用量を増加させることで、得られる樹脂微粒子の平均粒子径が小さくなる。このように、ソープフリー乳化重合法を用いると、生成する樹脂微粒子の平均粒子径のコントロールが容易であり、粒子径が均一な樹脂微粒子が得られる。
ソープフリー乳化重合法で得られる粒子径の均一な樹脂微粒子を第一微粒子又は第二微粒子として用いることで、トナーコア粒子に対する第一微粒子の付着力や、トナーコア粒子表面に形成される第一微粒子層の表面に対する第二微粒子の付着力のバラツキを減らせるので、厚さが均一であり均質な内層と外層とを形成できる。その結果として、厚さが均一であり均質なシェル層が形成される。ソープフリー乳化重合法ではCMC未満の濃度の界面活性剤の存在下又は界面活性剤の不在下で重合を行って樹脂微粒子が製造される。つまり、ソープフリー乳化重合法では、界面活性剤を用いないか、少量しか用いない。このため、ソープフリー乳化重合法で得られる樹脂微粒子を用いてシェル層を形成することで、湿気の影響を受けにくいシェル層を形成できる。
第一微粒子又は第二微粒子として使用される樹脂微粒子は、必要に応じて、前述の着色剤、及び電荷制御樹脂のような成分を含有していてもよい。第一微粒子又は第二微粒子の何れか又は双方が十分な量の電荷制御剤を含有する場合には、トナーコア粒子に電荷制御剤を含有させなくてもよい。
第一微粒子又は第二微粒子として使用される樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移点は、45℃以上90℃以下が好ましく、50℃以上80℃以下がより好ましい。
このような範囲内のガラス転移点を有する樹脂からなる第一微粒子又は第二微粒子を用いることで、内層の内部に、トナーコア粒子に対して略垂直方向のクラックを形成しやすく、厚さが均一な内層及び外層を形成することができる。
第一微粒子又は第二微粒子として使用される樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移点は、示差走査熱量計(DSC)を用いて、樹脂微粒子を構成する樹脂の比熱の変化点から求めることができる。以下、示差走査熱量計(DSC)を用いるガラス転移点の測定方法について説明する。
<ガラス転移点測定方法>
測定装置としてセイコーインスツルメンツ株式会社製示差走査熱量計DSC−200を用い、JIS K 7121−1987に準拠した方法で、樹脂微粒子を構成する樹脂の吸熱曲線を測定することで樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移点を求めることができる。測定試料10mgをアルミパン中に入れ、リファレンスとして空のアルミパンを使用する。測定温度範囲25℃以上200℃以下、昇温速度10℃/分という条件で、常温常湿下において測定して得られた樹脂微粒子を構成する樹脂の吸熱曲線から樹脂微粒子を構成する樹脂のガラス転移点を求めることができる。
樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、100℃以上250℃以下が好ましく、110℃以上240℃以下がより好ましい。樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、トナーコア粒子に含まれる結着樹脂の軟化点よりも高いのが好ましく、結着樹脂の軟化点よりも10〜140℃高いのがより好ましい。このような範囲の軟化点を有する樹脂からなる樹脂微粒子を用いてシェル層を形成すると、樹脂微粒子がトナーコア粒子に埋め込まれる際に、樹脂微粒子のトナーコア粒子と接触する部分が変形しにくい。そうすると、シェル層の内表面に、シェル層に変化する前の樹脂微粒子の形状に由来する凸部が形成されやすい。
樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点は、フローテスターを用いて測定できる。以下、フローテスターを用いる樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点の測定方法について説明する。
<軟化点測定方法>
高架式フローテスター(CFT−500D(株式会社島津製作所製))を用いて樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点(F1/2)の測定を行う。測定試料作成用の成形型に樹脂微粒子を構成する樹脂約1.8gを充填し、4MPaの圧力を印加して、直径1cm高さ2cmの円柱状の樹脂微粒子のペレットを作成する。得られたペレットをフローテスターにセットし、プランジャー荷重:30kg、ダイ穴直径:1mm、ダイ長さ:1mm、昇温速度4℃/分、測定温度範囲70〜160℃の条件で樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点(Tm)を測定する。フローテスターの測定で得られる、温度(℃)とストローク(mm)とに関するS字カーブから、樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点(F1/2)を読み取る。
樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点(F1/2)の読み取り方を、図3を用いて説明する。ストロークの最大値をS1とし、低温側のベースラインのストローク値をS2とする。S字カーブ上で、ストロークの値が(S1+S2)/2となる温度を、樹脂微粒子を構成する樹脂の軟化点(F1/2)とする。
第一微粒子の平均粒子径は、100nm以上300nm以下であり、100nm以上250nm以下が好ましく、100nm以上200nm以下がより好ましい。このような粒子径の第一微粒子を用いてトナーコア粒子の表面を内層で被覆する場合、短時間で、第一微粒子を所望する状態に変形させることができる。つまり、このような粒子径の第一微粒子を用いて内層を形成することで、低温定着性及び耐熱保存性に優れるトナーを短時間で製造できる。
第二微粒子の平均粒子径は、50nm以下であり、20nm以上50nm以下が好ましく、30nm以上50nm以下がより好ましい。このような粒子径の第二微粒子を用いて、内層の表面を被覆する外層を形成することで、第二微粒子を短時間で変形させて、粒子径が6μm以上8μm以下のトナー粒子の表面を電子顕微鏡で観察する場合に、その表面に第二微粒子に由来する粒状の構造が観察されないような外層を短時間で形成できる。また、このような粒子径の第二微粒子を用いて形成される薄い外層は、トナー粒子を定着させる際に、容易に破壊される。これらより、このような粒子径の第二微粒子を用いて外層を形成することで、低温定着性及び耐熱保存性に優れるトナーを短時間で製造できる。
第一微粒子又は第二微粒子として使用される樹脂微粒子の平均粒子径は、前述のような重合条件を調整する方法の他、公知の粉砕方法、及び分級方法のような方法を用いて調整できる。樹脂微粒子の平均粒子径については、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(例えば、JSM−6700F(日本電子株式会社製))を用いて撮影した電子顕微鏡写真から、50個以上の樹脂微粒子の粒子径を測定して、個数平均粒径として算出できる。
樹脂微粒子を構成する樹脂の質量平均分子量(Mw)は、20,000以上1,500,000以下が好ましい。樹脂微粒子を構成する樹脂の質量平均分子量(Mw)は、従来知られる方法に従って、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定できる。
第一微粒子及び第二微粒子の使用量は、トナーコア粒子の表面を、第一微粒子が垂直方向に重なることなく単層に並んだ第一微粒子層で被覆でき、且つ、第一微粒子層の表面を、第二微粒子が垂直方向に重なることなく単層に並んだ第二微粒子層で被覆できるように、トナーコア粒子の粒子径と、第一微粒子及び第二微粒子の粒子径とを勘案して、適宜定められる。典型的には、第一微粒子の使用量は、トナーコア粒子100質量部に対して、5質量部以上20質量部以下が好ましい。また、第二微粒子の使用量は、トナーコア粒子100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下が好ましい。
〔外添剤〕
トナーコア粒子と、トナーコア粒子の表面を被覆するシェル層とからなるトナー粒子は、所望によりその表面を、外添剤を用いて処理されてもよい。以下、外添剤を用いて処理される粒子を、「トナー母粒子」とも記載する。
外添剤としては、シリカや、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、及びチタン酸バリウムのような金属酸化物が挙げられる。これらの外添剤は、2種以上を組み合わせて使用できる。
外添剤の粒子径は、0.01μm以上1.0μm以下が好ましい。
外添剤の使用量は、トナー母粒子の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましい。過少量の外添剤で処理されたトナー粒子は、疎水性が低い。疎水性の低いトナー粒子を含むトナーは、高温高湿環境下で空気中の水分子の影響を受けやすい。過少量の外添剤で処理されたトナー粒子を含むトナーを用いる場合、トナー粒子の帯電量の極端な低下に起因した形成画像の画像濃度の低下、及びトナー粒子の流動性の低下のような問題が起こりやすい。過剰量の外添剤で処理されたトナーを用いると、トナーの過度のチャージアップに起因して形成画像の画像濃度の低下を招くおそれがある。
〔キャリア〕
トナーは、所望のキャリアと混合して2成分現像剤として使用することもできる。2成分現像剤を調製する場合、キャリアとして磁性キャリアを用いるのが好ましい。
トナーを2成分現像剤とする場合の好適なキャリアとしては、キャリア芯材が樹脂で被覆されたものが挙げられる。キャリア芯材の具体例としては、鉄、酸化処理鉄、還元鉄、マグネタイト、銅、ケイ素鋼、フェライト、ニッケル、及びコバルトのような金属の粒子や、これらの材料とマンガン、亜鉛、及びアルミニウムのような金属との合金の粒子、鉄−ニッケル合金、及び鉄−コバルト合金のような合金の粒子、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム、炭化ケイ素、チタン酸マグネシウム、チタン酸バリウム、チタン酸リチウム、チタン酸鉛、ジルコン酸鉛、及びニオブ酸リチウムのようなセラミックスの粒子、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、及びロッシェル塩のような高誘電率物質の粒子、並びに樹脂中に上記磁性粒子を分散させた樹脂キャリアが挙げられる。
キャリア芯材を被覆する樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル系重合体、スチレン系重合体、スチレン−(メタ)アクリル系共重合体、オレフィン系重合体(ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、及びポリプロピレン)、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボネート、セルロース樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びポリフッ化ビニリデン)、フェノール樹脂、キシレン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、及びアミノ樹脂が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて使用できる。
電子顕微鏡を用いて測定されるキャリアの粒子径は、20μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上150μm以下がより好ましい。
キャリアの見掛け密度は、キャリアの組成や表面構造で異なるが、典型的には、2400kg/m3以上3000kg/m3以下が好ましい。
トナーを2成分現像剤として用いる場合、トナーの含有量は、2成分現像剤の質量に対して、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下が好ましい。2成分現像剤におけるトナーの含有量をこのような範囲とすることで、適度な画像濃度の画像を継続して形成でき、現像装置からのトナー飛散が抑制されることで、画像形成装置内部の汚染や転写紙へのトナーの付着を抑制できる。
[静電潜像現像用トナーの製造方法]
本発明のトナーの製造方法は、トナーコア粒子と所定の構造のシェル層とからなるトナー粒子を含むトナーを製造できれば特に限定されない。必要に応じて、シェル層で被覆されたトナーコア粒子をトナー母粒子として用いて、トナー母粒子の表面に、外添剤を付着させる外添処理を施してもよい。本発明のトナーの好適な製造方法について、トナーコア粒子の製造方法と、シェル層の形成方法と、外添処理方法とを、以下、順に説明する。
〔トナーコア粒子の製造方法〕
トナーコア粒子を製造する方法は、結着樹脂中に着色剤、離型剤、電荷制御剤、磁性粉のような任意の成分を良好に分散できる限り特に限定されない。トナーコア粒子の好適な製造方法の具体例としては、結着樹脂と、着色剤、離型剤、電荷制御剤、及び磁性粉のようなトナーの構成成分とを混合機を用いて混合した後、一軸又は二軸押出機のような混練機を用いて結着樹脂と結着樹脂に配合される成分とを溶融混練し、冷却された混練物を粉砕・分級する方法が挙げられる。トナーコア粒子の平均粒子径は、一般的には5μm以上10μm以下が好ましい。
〔シェル層の形成方法〕
シェル層は、球状の樹脂微粒子を用いて形成される。そして、より具体的には、
I)球状の第一微粒子を、トナーコア粒子の表面に対して垂直方向に重ならないように、トナーコア粒子の表面に付着させて、トナーコア粒子の全表面を被覆する第一微粒子層を形成する工程、
II)球状の第二微粒子を、第一微粒子層の表面に対して垂直方向に重ならないように、第一微粒子層の表面に付着させて、第一微粒子層の全表面を被覆する第二微粒子層を形成する工程、及び
III)第一微粒子層及び第二微粒子層に対して、第二微粒子層の外表面から外力を印加し、第一微粒子層と第二微粒子層とに含まれる樹脂からなる球状の微粒子を変形させて、所定の形状の内層と、均一化及び平滑化された外層とからなるシェル層を形成する工程、
を含む方法を用いてシェル層が形成される。
樹脂微粒子を用いてシェル層を形成させる方法としては、乾式条件でトナーコア粒子と第一微粒子及び第二微粒子とを混合できる混合装置を用いる方法が好ましい。具体的な方法としては、トナーコア粒子、又はトナーコア粒子を被覆する第一微粒子層の表面に、第一微粒子又は第二微粒子を付着させつつ、トナーコア粒子の表面の第一微粒子層又は第二微粒子層に対して機械的外力を与えることができる混合装置を用いて、トナーコア粒子の表面にシェル層を形成させる方法が挙げられる。機械的外力としては、混合装置内の狭小な空間をトナーコア粒子が高速で移動する際に、トナーコア粒子同士のずりや、トナーコア粒子と、装置内壁、ローター、又はステーターとの間に生じるずりに起因して、トナーコア粒子に与えられる剪断力や、トナーコア粒子同士の衝突又はトナーコア粒子と装置内壁との衝突に起因して、トナーコア粒子に与えられる撃力が挙げられる。
より具体的な方法について図2を参照しつつ説明する。まず、混合装置内で、トナーコア粒子102と、第一微粒子201とを混合することで、図2(a)に示されるようにトナーコア粒子102の表面に対して垂直方向に第一微粒子201が重ならないように、トナーコア粒子の表面に第一微粒子201を均一に付着させる。粒子径の大きなトナーコア粒子102と、粒子径の小さな第一微粒子201とが接触する場合、微視的には平面とみなせるトナーコア粒子102の表面と、第一微粒子201の表面との間で、面と面との接触が起こる。このため、第一微粒子201はトナーコア粒子102に付着することができる。他方、第一微粒子201同士が接触する場合、二つの第一微粒子201の曲面である表面が接触するため、点と点との接触が起こる。このため、トナーコア粒子102に第一微粒子201を付着させる過程で、トナーコア粒子102の表面に付着する第一微粒子201にさらに第一微粒子201が付着しても、混合装置が、第一微粒子201が付着したトナーコア粒子102に与える機械的外力で、第一微粒子201に付着する第一微粒子201が、トナーコア粒子102に付着する第一微粒子201から容易に剥離する。このような理由から、以下に説明する方法では、トナーコア粒子102の表面に対して垂直方向に第一微粒子201が重ならないように、トナーコア粒子102が第一微粒子201で被覆される。
第一微粒子201をトナーコア粒子201に付着させる際、トナーコア粒子102表面の第一微粒子層に、前述の機械的外力が加えられる。そうすると、図2(b)機械的外力の作用で、第一微粒子201がトナーコア粒子102に埋め込まれつつ変形し、第一微粒子201間の空隙がふさがれてゆく。トナーコア粒子102と第一微粒子201とを混合して、トナーコア粒子102の表面に第一微粒子層を形成する工程の所要時間は、所望する状態の第一微粒子層を形成できれば特に限定されないが、1分以上20分以下が好ましく、2分以上15分以下がより好ましく、3分以上10分以下が特に好ましい。
次いで、混合装置内の、図2(b)に示される状態の、第一微粒子層で被覆されるトナーコア粒子102に対して、第二微粒子202が加えられる。第一微粒子層で被覆されるトナーコア粒子102と、第二微粒子202を、混合装置内で混合することで、第一微粒子層と同様にして、図2(c)に示されるように、第一微粒子層の表面に対して垂直方向に第二微粒子202が重ならないように、第一微粒子層を被覆する第二微粒子層が形成される。
トナーコア粒子102の表面に第一微粒子層と第二微粒子層が形成された後に、混合装置が与える外力で、第二微粒子層中の第二微粒子202が第二微粒子202同士の界面が不明りょうになる程度まで変形して、第二微粒子層の表面が平滑化される。この時、第二微粒子層では平滑化が進行するのに対し、第一微粒子層の内部では、第一微粒子201間の境界面が残されたまま、第一微粒子201間の空隙がなくなるように第一微粒子201が変形する。そうすることで、図2(d)に示されるように、トナーコア粒子102の表面には、その内部に第一微粒子201同士の界面に由来する、トナーコア粒子102の表面に対して略垂直方向のクラック107を備える内層104と、内層104の表面を被覆する薄く均一な外層105とからなるシェル層103が形成される。
第一微粒子層を備えるトナーコア粒子102と、第二微粒子202とを混合して、トナーコア粒子102を内層104と外層105とからなるシェル層103で被覆する工程の所要時間は、所望する状態のシェル層103を形成できれば特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、8分以上25分以下がより好ましく、10分以上20分以下が特に好ましい。
シェル層103を形成する際、トナーコア粒子102の材質が第一微粒子201と同等の硬さか、やや硬い材質である場合、内層104の内表面(トナーコア粒子102側の表面)が平滑になる場合がある。他方、トナーコア粒子102の材質が第一微粒子201よりも柔らかい材質である場合、第一微粒子201がトナーコア粒子102に埋め込まれる際に、第一微粒子201のトナーコア粒子102と接触する部分が変形しにくいため、内層104の内表面に、内層104に変化する前の第一微粒子201の形状に由来する凸部106が形成されやすい。この場合、凸部106は、内層104がその内部に備える2つのクラック107間に形成される。
上記方法では、機械的外力が弱いと、所望する程度の第一微粒子201及び第二微粒子202の変形が起こらず、所定の形状のシェル層103を形成できない場合がある。シェル層103の形成に用いる装置の種類に応じて、所定の形状のシェル層103を形成するための条件は異なるが、第一微粒子層及第二微粒子層で被覆されたトナーコア粒子102に与えられる機械的外力が強くなるように、段階的に運転条件を変更して、各条件で得られるトナー粒子101が備えるシェル層103の構造を確認することで、種々の装置についての、所定のシェル層103を形成するための好適な条件を定めることができる。しかし、機械的外力が強すぎる場合、第一微粒子201及び第二微粒子202が激しく変形しすぎ、内層104の内部にトナーコア粒子102に対して略垂直方向のクラック107が形成されなかったり、機械的外力が熱に変換されることで、トナーコア粒子102や、第一微粒子201及び第二微粒子202の溶融が生じたりするような不具合が生じる場合がある。
第一微粒子201及び第二微粒子202を用いてトナーコア粒子102を被覆しつつ、第一微粒子層と第二微粒子層とで被覆されたトナーコア粒子102に対して機械的外力を与えることができる装置としては、ハイブリダイザーNHS−1(株式会社奈良機械製作所製)、コスモスシステム(川崎重工業株式会社製)、ヘンシェルミキサー(日本コークス工業株式会社製)、マルチパーパスミキサー(日本コークス工業株式会社製)、コンポジ(日本コークス工業株式会社製)、メカノフュージョン装置(ホソカワミクロン株式会社製)、メカノミル(岡田精工株式会社製)、及びノビルタ(ホソカワミクロン株式会社製)が挙げられる。
〔外添処理方法〕
外添剤を用いるトナー母粒子の処理方法は特に限定されず、従来知られている方法に従ってトナー母粒子を処理できる。具体的には、外添剤の粒子がトナー母粒子中に埋没しないように処理条件を調整し、ヘンシェルミキサーやナウターミキサーのような混合機を用いて、外添剤を用いるトナー母粒子の処理が行われる。
以上説明した、本発明の静電潜像現像用トナーは、定着性、及び耐熱保存性に優れているので、種々の画像形成装置において好適に使用できる。
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は実施例の範囲に何ら限定されるものではない。
[製造例1]
(ポリエステル樹脂の製造)
ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物1960g、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物780g、ドデセニル無水コハク酸257g、テレフタル酸770g、及び酸化ジブチル錫4gを反応容器に仕込んだ。次に、反応容器内を窒素雰囲気とし、撹拌しながら反応容器内部の温度を235℃まで上昇させた。次いで、同温度で8時間反応を行った後、反応容器内を8.3kPaに減圧して1時間反応を行った。その後、反応混合物を180℃に冷却し、反応混合物の酸価が所望の値となるようにトリメリット酸無水物を反応容器に添加した。次いで、10℃/時間の速度で反応混合物の温度を210℃まで上昇させて、同温度で反応を行った。反応終了後、反応容器の内容物を取り出し、冷却してポリエステル樹脂を得た。
[製造例2]
(トナーコア粒子の製造)
結着樹脂(製造例1で得たポリエステル樹脂)89質量部、離型剤(ポリプロピレンワックス 660P(三洋化成株式会社製))5質量部、電荷制御剤(P−51(オリヱント化学工業株式会社製))1質量部、及び着色剤(カーボンブラック MA100(三菱化学株式会社製))5質量部を、混合機を用いて混合し、混合物を得た。次に、混合物を、2軸押出機を用いて溶融混練して混練物を得た。混練物を、粉砕機(ロートプレックス(株式会社東亜機械製作所製))を用いて粗粉砕して粗粉砕物を得た。粗粉砕物を、機械式粉砕機(ターボミル(ターボ工業株式会社製))を用いて微粉砕して微粉砕物を得た。分級機(エルボージェット(日鉄鉱業株式会社製))を用いて微粉砕物を分級して、体積平均粒子径(D50)が7.0μmのトナーコア粒子を得た。トナーコア粒子の体積平均粒子径は、コールターカウンターマルチサイザー3(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。
[製造例3]
(樹脂微粒子A〜Hの製造)
撹拌装置、温度計、冷却管、及び窒素導入装置を備えた1000mLの反応容器に、蒸留水450mLと、表1に記載の量のドデシルアンモニウムクロライドとを仕込んだ。反応容器の内容物を、窒素雰囲気下で撹拌しながら、反応容器内部の温度を80℃まで上昇させた。昇温後、反応容器に、濃度1質量%の過硫酸カリウム(重合開始剤)水溶液120gとイオン交換水200gとを加えた。次いで、アクリル酸ブチル15g、メタクリル酸メチル165g、及びn−オクチルメルカプタン(連鎖移動剤)3.6gからなる混合物を1.5時間かけて反応容器に滴下した後、さらに2時間かけて重合を行い、樹脂微粒子の水性分散液を得た。得られた樹脂微粒子の水性分散液を、フリーズドライによって乾燥して、表1に記載の個数平均粒子径の樹脂微粒子A〜Hを得た。樹脂微粒子の個数平均粒子径は、下記の手順に従って測定した。樹脂微粒子のガラス転移点(Tg)は49.6℃であり、軟化点は、188℃であった。
(個数平均粒子径の測定方法)
樹脂微粒子の個数平均粒子径を測定するため、まず、フィールドエミッション走査電子顕微鏡(JSM−7700F(日本電子株式会社製))を用いて、倍率100,000倍の樹脂微粒子の写真を撮影した。撮影した電子顕微鏡写真を必要に応じてさらに拡大し、50個以上の樹脂微粒子の粒子径を定規、及びノギスのような測定機器を用いて測定した。得られた測定値から、樹脂微粒子の個数平均粒子径を算出した。
[実施例1〜6、及び比較例1〜6]
〔トナー母粒子の調製〕
・第一微粒子層の形成工程
シェル層形成の第一段階として、以下の手順に従って、トナーコア粒子の表面を被覆する第一微粒子層を形成した。
まず、製造例2で得られたトナーコア粒子100gに対して、表2及び3に記載の種類、個数平均粒子径、及び質量の樹脂微粒子(第一微粒子)を、トナーコア粒子の表面に付着させて、第一微粒子層を形成した。第一微粒子層の形成には、粉体処理装置(マルチパーパスミキサー MP型(日本コークス工業株式会社製))を用いた。具体的には、粉体処理装置の処理槽内にトナーコア粒子と樹脂微粒子とを投入した後、表1に記載の回転数、及び処理時間で粉体処理装置を運転して、その表面に第一微粒子層を備えるトナーコア粒子を得た。表面処理中、粉体処理装置の槽内温度は、50℃以上60℃以下に制御された。
・内層及び外層からなるシェル層の形成工程
シェル層形成の第二段階として、以下の手順に従って、第一微粒子層の表面を第二微粒子層で被覆した後、第一微粒子層及び第二微粒子層を、それぞれ内層及び外層に変化させて、トナーコア粒子の表面に内層と外層とからなるシェル層を形成させた。
その表面に第一微粒子層を備えるトナーコア粒子と、第一微粒子層が形成されていない状態の質量として100gのトナーコア粒子に対して、表2及び3に記載の種類、個数平均粒子径、及び質量の第二微粒子を、第一微粒子層の表面に付着させて、第二微粒子層を形成した。第二微粒子層が形成された後、粉体処理装置の運転をそのまま継続し、第一微粒子層及び第二微粒子層を、それぞれ内層及び外層に変化させて、トナーコア粒子の表面にシェル層を形成した。シェル層の形成には、第一微粒子層の形成に用いた粉体処理装置と同じものを用いた。具体的には、粉体処理装置に第二微粒子を追加した後、表2及び3に記載の回転数及び処理時間で粉体処理装置を運転して、トナーコア粒子がシェル層で被覆されたトナー母粒子を得た。処理中、粉体処理装置の槽内温度は、50℃以上60℃以下に制御された。
(外添処理)
得られたトナー母粒子を、トナー母粒子の質量に対して、2.0質量%の酸化チタン(EC−100(チタン工業株式会社製))と、1.0質量%の疎水性シリカ(RA−200H(日本アエロジル株式会社製))とで処理した。トナー母粒子と、酸化チタンと、疎水性シリカとを、ヘンシェルミキサー(三井鉱山株式会社製)を用いて、回転周速30m/秒で5分間、撹拌・混合して、トナーを得た。
[比較例7]
トナーコア粒子100gと、表2に記載の種類、個数平均粒子径、及び質量の第一微粒子とを、実施例1で用いた粉体処理装置と同じ装置を用いて、表2に記載の回転数及び処理時間で処理してトナー母粒子を得ることの他は、実施例1と同様にして、比較例7のトナーを得た。
[比較例8]
シェル層の形成に以下の表面改質装置を用いることと、表2に記載の種類、個数平均粒子径、及び質量の樹脂微粒子を用いて、トナーコア粒子に、一回の工程でシェル層を形成させることとの他は、実施例1と同様にして、比較例8のトナーを得た。具体的なシェル層の形成方法は以下の通りである。
シェル層の形成には表面改質装置(微粒子コーティング装置 SFP−01型(株式会社パウレック製))を用いた。まず、トナーコア粒子を、表面改質装置の流動層中に、給気温度80℃で循環させた。製造例3で得られた樹脂微粒子の水性分散液の樹脂微粒子の濃度を調整して得た、樹脂微粒子10gを含む水性分散液300gを、スプレー速度5g/分で、60分間、表面改質装置の流動層中に噴霧してトナーコア粒子の表面にシェル層を形成した。
≪シェル層の構造の確認≫
下記方法に従って、実施例1〜6、及び比較例1〜8のトナーに含まれるトナー粒子の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察し、トナーコア粒子を被覆するシェル層の表面の状態を確認した。下記方法に従って、実施例1〜6、及び比較例1〜8のトナーに含まれるトナー粒子の断面の写真を、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影した。得られたTEM写真を用いて、シェル層の表面状態と、シェル層の内部の状態と、シェル層の内表面の形状とを確認した。実施例1のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を図4に示し、比較例8のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真を図5に示す。
<トナーの表面の観察方法>
走査型電子顕微鏡(JSM−6700F(日本電子株式会社製))を用いて、トナー粒子表面を、倍率10,000倍で観察した。
<トナーの断面の撮影方法>
トナーを樹脂に包埋した試料を作成した。ミクロトーム(EM UC6(ライカ株式会社製))を用いて、得られた試料から厚さ200nmのトナー粒子の断面観察用の薄片試料を作成した。得られた薄片試料を、透過型電子顕微鏡(TEM、JSM−6700F(日本電子株式会社製))を用いて倍率50,000倍で観察し、任意のトナー粒子の断面の画像を撮影した。
実施例1〜6、比較例1、比較例2、及び比較例7のトナーに含まれるトナー粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてその表面を観察した際に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子について、シェル層の表面に、球状の第二微粒子に由来する構造が観察されなかった。図3に示す実施例1のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真から、トナー粒子のシェル層の外表面が平滑であることと、トナー粒子のシェル層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが存在することと、トナー粒子のシェル層が、その内表面側、且つ、2つのクラック間に凸部を有することが確認された。実施例2〜6、比較例1、比較例2、及び比較例7のトナーの断面を、TEMを用いて観察した際に、実施例2〜6、比較例1、比較例2、及び比較例7のトナーに含まれるトナー粒子のシェル層の構造が、実施例1のトナーに含まれるトナー粒子のシェル層の構造と同様であったため、実施例2〜6、比較例1、比較例2、及び比較例7のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真は撮影しなかった。
比較例3のトナーに含まれるトナー粒子は、SEMを用いてその表面を観察した際に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子について、シェル層の表面に、球状の第二微粒子に由来する構造が観察されなかった。しかし、比較例3のトナーに含まれるトナー粒子の断面を、TEMを用いて観察した際に、トナーコア粒子に第一微粒子が埋没し、所望の構造の内層が形成されていないことが確認された。
比較例4及び6のトナーに含まれるトナー粒子は、SEMを用いてその表面を観察した際に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子について、トナーコア粒子の表面が球状の粒子状態のままの第二微粒子で被覆されていることが確認された。比較例4及び6のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真から、比較例4及び6のトナーに含まれるトナー粒子では、実施例1のトナーに含まれるトナー粒子が備える内層と同様の内層が、粒子状態のままの第二微粒子で被覆されていることが確認された。
比較例5のトナーに含まれるトナー粒子は、SEMを用いてその表面を観察した際に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子について、シェル層に球状の樹脂微粒子に由来する略球状の粒子が観察されず、シェル層の外表面が平滑であることが確認された。比較例5のトナーに含まれるトナー粒子の断面を、TEMを用いて観察した際に、比較例5のトナーに含まれるトナー粒子のシェル層の外表面が平滑であることが確認されたが、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが存在しないことが確認された。
比較例8のトナーに含まれるトナー粒子は、SEMを用いてその表面を観察した際に、粒子径6μm以上8μm以下のトナー粒子について、シェル層に球状の樹脂微粒子に由来する略球状の粒子が観察されず、シェル層の外表面が平滑であることが確認された。図5に示す比較例8のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真から、比較例8のトナーに含まれるトナー粒子のシェル層の外表面が平滑であることが確認された。しかし、比較例7のトナーに含まれるトナー粒子の断面のTEM写真から、比較例8のトナーに含まれるトナー粒子のシェル層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが存在しないことが確認された。
≪評価≫
下記方法に従って、実施例1〜6、及び比較例1〜8のトナーの定着性と、耐熱保存性と、を評価した。各トナーの評価結果を表2及び3に記す。定着温度を調節できるように改造されたページプリンター(FS−C5016N(京セラドキュメントソリューションズ製))を評価機として用いた。評価機は、電源を切った状態で10分間静置した後、電源を入れて用いた。定着性、及び所定環境下での画像濃度及びトナー帯電量の評価には下記製造例4に記載の方法に従って得られた、2成分現像剤を用いた。
[製造例4]
(2成分現像剤の調製)
キャリア(フェライトキャリア(パウダーテック株式会社製))と、フェライトキャリアの質量に対して10質量%のトナーとを、ボールミルを用いて30分間混合して2成分現像剤を調製した。
<定着性>
定着温度を180℃に設定して、直径30mm、線速100mm/秒の定着用熱ローラーを用いて定着を行った。常温常湿(20℃、65%RH)環境下で、評価機を用いて評価用画像を得た。得られた評価用画像の、摩擦前の画像濃度を、グレタグマクベススペクトロアイ(グレタグマクベス社製)を用いて測定した。
次いで、布帛で覆った1kgの分銅を用いて、評価用画像を摩擦した。具体的には、分銅の自重のみが画像にかかるように、分銅を評価用画像上で10往復させて評価用画像を摩擦した。摩擦後の評価用画像の画像濃度をグレタグマクベススペクトロアイ(グレタグマクベス社製)を用いて測定した。下式に従って、摩擦前後の画像濃度から定着率を算出した。算出された定着率から、下記基準に従って定着性を評価した。○評価を合格とした。
定着率(%)=(摩擦後画像濃度/摩擦前画像濃度)×100
○:定着率が95%以上。
△:定着率が90%以上95%未満。
×:定着率が90%未満。
<耐熱保存性>
トナーを、50℃で100時間保存した。次いで、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)のマニュアルに従い、レオスタッド目盛り5、時間30秒の条件で、140メッシュ(目開き105μm)の篩を用いてトナーを篩別した。篩別後に、篩上に残留したトナーの質量を測定した。篩別前のトナーの質量と、篩別後に篩上に残留したトナーの質量とから、下式に従って凝集度(%)を求めた。算出された凝集度から、下記基準に従って耐熱保存性を評価した。○評価を合格とした。
(凝集度算出式)
凝集度(%)=篩上に残留したトナー質量/篩別前のトナーの質量×100
○:凝集度が20%以下。
△:凝集度が20%超、50%以下。
×:凝集度が50%超。
実施例1〜6から、
・少なくとも結着樹脂を含むトナーコア粒子と、トナーコア粒子の全表面を被覆する所定の構造のシェル層と、からなるトナー粒子を含むトナーであって、
・シェル層が、トナーコア粒子を被覆する内層と、内層を被覆する外層とからなり
・内層が、球状の第一微粒子を用いて形成され、
・外層が、球状の第二微粒子を用いて形成され、
・第一微粒子及び第二微粒子の材料が樹脂であり、
・第一微粒子の平均粒子径が100nm以上300nm以下であり、
・第二微粒子の平均粒子径が50nm以下であり、
・走査型電子顕微鏡を用いて観察する場合に、特定の範囲の粒子径のトナー粒子についてシェル層の表面に球状の前記第二微粒子に由来する構造が見られず、
・透過型電子顕微鏡を用いてその断面を観察する場合に、シェル層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが多数観察される、
トナー粒子を含むトナーが、定着性、及び耐熱保存性に優れることが分かる。
実施例1〜6と、比較例7との比較から、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックをその内部に有するシェル層を、平均粒子径が異なる二種類の微粒子を用いて二段階で形成することで、一種類の微粒子のみを用いて同様の構造のシェル層を備えるトナー粒子を含むトナーを製造するよりも、短時間で効率的にトナーを製造できることが分かる。
比較例1及び2から、第一微粒子として平均粒子径が300nm超である樹脂微粒子を用いて内層が形成されたトナー粒子を含むトナーは、定着性に劣ることが分かる。これは、粒子径が大きすぎる第一微粒子を用いて内層を形成するとシェル層が厚くなり過ぎ、定着時にトナー粒子に熱と圧力とが加えられても、シェル層が容易に破壊されないためと考えられる。シェル層が破壊されない場合、離型剤のようなトナーコア粒子に含まれる成分がトナー粒子の表面に溶出せず、トナー粒子が被記録媒体に速やかに定着されにくい。
比較例3から、第一微粒子として平均粒子径が100nm未満である樹脂微粒子を用いて内層が形成されたトナー粒子を含むトナーは、耐熱保存性に劣ることが分かる。これは、粒子径が小さすぎる第一微粒子をも用いて内層を形成すると、第一微粒子がトナーコア粒子中に埋め込まれてしまい、極薄いシェル層が形成されるためと考えられる。
比較例4及び6のトナーに含まれるトナー粒子は、粒子径が大きすぎる第二微粒子を用いて外層を形成したり、外層を形成するための処理時間が極端に短かったりする方法で製造されているために、所定の範囲内の粒子径のトナー粒子を、SEMを用いて観察する場合に、トナー粒子の表面に粒子状のままの第二微粒子が観察される。このようなトナーに含まれるトナー粒子では、内層の内部のクラックと、外層に含まれる粒子状の第二微粒子の隙間とを通じて、離型剤のようなトナーコア粒子に含まれる成分がトナー粒子の表面に染み出すことがある。このような理由から、比較例4及び6のトナーは、耐熱保存性に劣ると考えられる。
実施例1のトナーに含まれるトナー粒子と、比較例6のトナーに含まれるトナー粒子のSEM観察の比較から、第二微粒子を用いて外層を形成する際の粉体処理装置の回転数を上昇させ、処理時間を延長することで、トナー粒子の表面に第二微粒子に由来する略球状の粒子が観察されなくなることが分かった。つまり、外層を形成する際に、粉体処理装置の回転数を上昇させ、処理時間を延長することで、第二微粒子の変形が進み、シェル層の外表面の平滑度が増すことが分かる。
比較例5及び8のトナーに含まれるトナー粒子は、内層を形成する際に、粉体処理装置を用いて、高回転数、且つ長時間の処理を行ったり、実施例とは全く異なる方法でシェル層が形成されているために、シェル層の内部に、トナーコア粒子の表面に対して略垂直方向のクラックが存在しない。このようなクラックを含まないシェル層を備えるトナー粒子を被記録媒体に定着させる場合、定着時にトナー粒子が加熱、加圧されても、シェル層が容易に破壊されない。シェル層が破壊されない場合、離型剤のようなトナーコア粒子に含まれる成分がトナーコトナー粒子の表面に溶出せず、トナー粒子が被記録媒体に速やかに定着されにくい。