以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
≪車両・車両用制動装置≫
まず、本実施形態に係る車両用制動装置1を備える車両100について図1を用いて説明する。図1は、本実施形態に係る車両用制動装置1が搭載された車両100の要部系統図である。なお、車両100に搭載される車両用制動装置1は、モータ・ジェネレータ(回生ブレーキ装置)4による回生制動力と、車両用ブレーキ装置(液圧ブレーキ装置)10による摩擦制動力と、により、車両100を制動することができるようになっている。
車両100は、例えば、電気自動車であり、車両100の前側に設けられた左右一対の前輪2aR、2aLと、車両100の後側に設けられた左右一対の後輪2bR、2bLと、を有する。左右の前輪2aR、2aLに連結された前輪車軸3には、電動機となるモータ・ジェネレータ4がトルク伝達機構で連結されている。なお、前輪車軸3に設けられる差動機構は図示省略する。
なお、本実施形態に係る車両用制動装置1を備える車両100は、図1に示すように、前輪駆動車であるものとして説明するが、これに限られるものではなく、4輪駆動車、後輪駆動車としてもよい。また、車両100は、電気自動車に限られるものではなく、モータ・ジェネレータ4を備えるハイブリッド車、燃料電池車等として構成してもよい。
モータ・ジェネレータ4は、車両駆動用の電動機と回生用の発電機とを兼ねたものである。二次電池であるバッテリ5は、モータ・ジェネレータ4の電源としてインバータ6によってモータ・ジェネレータ4に電力供給を行う。また、減速の際には減速エネルギをモータ・ジェネレータ4が電力に変換して回生し、バッテリ5が、この回生した発電電力を蓄電する。そして、この回生の際には、モータ・ジェネレータ4が回生制動力を発生する。
また、車両100は、右側前輪2aRに設けられるディスクブレーキ機構30aと、左側後輪2bLに設けられるディスクブレーキ機構30bと、右側後輪2bRに設けられるディスクブレーキ機構30cと、左側前輪2aLに設けられるディスクブレーキ機構30dと、ディスクブレーキ機構30a〜30dに液圧を供給する車両用ブレーキ装置10と、を備えている。車両用ブレーキ装置10がディスクブレーキ機構30a〜30dに液圧を供給することにより、ディスクブレーキ機構30a〜30dに摩擦制動力が発生する。なお、車両用ブレーキ装置10についての詳細は、図2を用いて後述する。
制御装置7(ECU:Electronic Control Unit)は、マイクロコンピュータを中心に構成され、モータ・ジェネレータ4による車両100の力行、回生を制御する。また、制御装置7は、車両用ブレーキ装置10を制御する。即ち、制御装置7は、車両用制動装置1を制御する。なお、制御装置7についての詳細は、図3から図6を用いて後述する。
≪車両用ブレーキ装置10≫
次に、車両用ブレーキ装置10について図2を用いて説明する。図2は、車両用ブレーキ装置10の概略構成図である。
まず、液圧路について説明する。図2中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、車両挙動安定化装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
図2中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、車両挙動安定化装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
車両挙動安定化装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪2aRに設けられたディスクブレーキ機構30aのホイールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪2bLに設けられたディスクブレーキ機構30bのホイールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪2bRに設けられたディスクブレーキ機構30cのホイールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪2aLに設けられたディスクブレーキ機構30dのホイールシリンダ32FLと接続される。
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液(ブレーキフルード)がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪2aR、左側後輪2bL、右側後輪2bR、左側前輪2aL)に対して摩擦制動力が付与される。
入力装置14は、運転者によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する第2ピストン40a及び第1ピストン40bが摺動自在に配設される。第2ピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結される。また、第1ピストン40bは、第2ピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
また、入力装置14には、プッシュロッド42のストローク量を検出することにより、運転者によるブレーキペダル12の操作量を検出するブレーキペダルストロークセンサS1が設けられている。ブレーキペダルストロークセンサS1で検出された検出信号は、制御装置7(図1参照)に入力される。
この第2ピストン40a及び第1ピストン40bの外周面には、環状段部を介して一対のカップシール44a、44bがそれぞれ装着される。一対のカップシール44a、44bの間には、それぞれ、後述するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、第2ピストン40aと第1ピストン40bとの間には、ばね部材50aが配設され、第1ピストン40bとシリンダチューブ38の前端部との間には、他のばね部材50bが配設される。
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と通じるように設けられる。
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第2圧力室56a及び第1圧力室56bが設けられる。第2圧力室56aは、第2液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第1圧力室56bは、第1液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第2液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第2液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第2液圧路58a上において、第2遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側の上流の液圧を検知するものである。なお、圧力センサPmで検出された検出信号は、制御装置7(図1参照)に入力される。
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第1液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60bが設けられると共に、第1液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第1液圧路58b上において、第1遮断弁60bよりもホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側の下流側の液圧を検知するものである。なお、圧力センサPpで検出された検出信号は、制御装置7(図1参照)に入力される。
この第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図2において、第2遮断弁60a及び第1遮断弁60bは励磁時の状態を示す(後記する第3遮断弁62も同様)。
マスタシリンダ34と第1遮断弁60bとの間の第1液圧路58bには、前記第1液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(消磁(非通電)時の弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。
このストロークシミュレータ64は、第1液圧路58b上であって、第1遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第1圧力室56bから導出されるブレーキ液が吸収可能に設けられる。
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第2圧力室56aと複数のホイールシリンダ32FR、32RLとを接続する第2液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第1圧力室56bと複数のホイールシリンダ32RR、32FLとを接続する第1液圧系統70bとから構成される。
第2液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第2液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと車両挙動安定化装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、車両挙動安定化装置18の導出ポート28a、28bと各ホイールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
第1液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第1液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bと車両挙動安定化装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、車両挙動安定化装置18の導出ポート28c、28dと各ホイールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
モータシリンダ装置16は、電動式のモータ72の駆動力によって第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを軸方向に駆動することによりブレーキ液圧を発生する電動ブレーキ装置である。なお、モータシリンダ装置16において、ブレーキ液圧を発生させる(上昇させる)ときの第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bの移動方向(図2中矢印X1方向)を「前」とし、その反対方向(図2中矢印X2方向)を「後」とする。
モータシリンダ装置16は、軸方向に移動可能な第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを内蔵するシリンダ部76と、第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bを駆動するためのモータ72と、モータ72の駆動力を第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bに伝達するための駆動力伝達部73とを備えている。
また、第2スレーブピストン88aは、その外周に沿って第2スレーブピストン88aの前後方向に第2円筒部材88a1が固定され、それらが一体となって形成されている。そして、シリンダ部76内部を第2円筒部材88a1が摺動することで、第2スレーブピストン88aが前後方向に駆動される。また、第1スレーブピストン88bも、その外周に沿って第1スレーブピストン88bの前方向に第1円筒部材88b1が固定され、それらが一体となって形成されている。そして、シリンダ部76内部を第1円筒部材88b1が摺動することで、第1スレーブピストン88bが前後方向に駆動される。
駆動力伝達部73は、モータ72の回転駆動力を伝達するギア機構(減速機構)78と、この回転駆動力をボールねじ軸(スクリュー)80aの直線方向駆動力に変換するボールねじ構造体80と、を含む駆動力伝達機構74を有している。
また、モータシリンダ装置16には、ボールねじ軸(スクリュー)80aのストローク量を検出するスレーブシリンダストロークセンサS2が設けられている。スレーブシリンダストロークセンサS2で検出された検出信号は、制御装置7(図1参照)に入力される。
シリンダ部76は、略円筒状のシリンダ本体82と、シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
シリンダ本体82内には、前記のように、シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第2スレーブピストン88a及び第1スレーブピストン88bが駆動自在に設けられている第2スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、ボールねじ軸80aの前端に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第1スレーブピストン88bは、第2スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
第2スレーブピストン88aに固定されている第2円筒部材88a1の外周面と駆動力伝達機構74との間を液密にシールする、スレーブカップシール90a(シール部材)がシリンダ部76側に設けられる。また、スレーブカップシール90aと離間して、スレーブカップシール90b(シール部材)もシリンダ部76側に設けられ、スレーブカップシール90aとスレーブカップシール90bとの間には、後記するリザーバポート92aと連通する流路口が設けられる。そして、第2スレーブピストン88aと第1スレーブピストン88bとの間には、第2リターンスプリング96aが設けられる。さらに、スレーブカップシール90aにおけるスレーブカップシール90bの反対側には、スレーブカップシール90e(シール部材)及び液溜まり91がシリンダ部76側に設けられている。スレーブカップシール90e及び液溜まり91が設けられることにより、より液密にシールすることができる。
一方、第1スレーブピストン88bに固定されている第1円筒部材88b1の外周面と後記する第1液圧室98bとの間を液密にシールする、スレーブカップシール90c(シール部材)がシリンダ部76側に配設される。また、スレーブカップシール90bとスレーブカップシール90cとにより、後記する第2液圧室98aが液密にシールされる。
また、スレーブカップシール90cと離間して、第1液圧室98bを液密にシールするスレーブカップシール90d(シール部材)がシリンダ部76側に配設される。さらに、スレーブカップシール90cとスレーブカップシール90dとの間には、後記するリザーバポート92bと連通する流路口が設けられる。そして、第1スレーブピストン88bとシリンダ本体82の開口(つまりシリンダ部76の前端に備えられる開口)を閉塞する蓋部材82cと間には、第1リターンスプリング96bが配設される。
シリンダ部76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内のリザーバ室と通じるように設けられる。
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホイールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第2液圧室98aと、他の出力ポート24bからホイールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を発生させる第1液圧室98bとが設けられる。
さらに、第1スレーブピストン88bとシリンダ部76の開口を閉塞する蓋部材82cとの間には、第1スレーブピストン88bの摺動範囲を規制する規制手段102が設けられる。これにより、第1スレーブピストン88bの第2スレーブピストン88a側へのオーバーリターンが阻止され、特にマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するバックアップ時において、一系統の失陥時に他の系統の失陥が防止される。さらに、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aとの間にも、第1スレーブピストン88bと第2スレーブピストン88aの最大離間距離と最小離間距離とを規制する規制手段103が設けられる。
規制手段102は、シリンダ本体82と蓋部材82cとの間にフランジ部102b1を介して固定された筒状部材102bと、筒状部材102bの内部を摺動し、第1スレーブピストン88bと接続部材102a1によって接続されている第1規制ピストン102aと、により構成される。つまり、規制手段102を構成するフランジ部102b1は、シリンダ本体82(つまりシリンダ部76)と蓋部材82cとの間に、図示しないネジ止め等で挟持固定される。そして、第1規制ピストン102aが筒状部材102b内を摺動することで、第1規制ピストン102aに接続される第1スレーブピストン88bの摺動範囲が規制される。
また、規制手段103は、第1スレーブピストン88bに接続されて固定されている筒状部材103bと、筒状部材103bの内部を摺動し、第2スレーブピストン88aと接続部材103a1によって接続されている第2規制ピストン103aと、により構成される。そして、第2規制ピストン103aが筒状部材103b内を摺動することで、第2規制ピストン103aに接続される第2スレーブピストン88aの摺動範囲が規制される。
車両挙動安定化装置18は、右側前輪2aR及び左側後輪2bLのディスクブレーキ機構30a、30b(ホイールシリンダ32FR、ホイールシリンダ32RL)に接続された第2液圧系統70aを制御する第2ブレーキ系110aと、右側後輪2bR及び左側前輪2aLのディスクブレーキ機構30c、30d(ホイールシリンダ32RR、ホイールシリンダ32FL)に接続された第1液圧系統70bを制御する第1ブレーキ系110bとを有する。
なお、第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bと、各ディスクブレーキ機構30a、30b、30c、30dとの接続の組み合わせは、前記した組み合わせに限定されず、互いに独立した2系統が担保されれば、次のような組み合わせとすることができる。つまり、図示はしないが、第2ブレーキ系110aは、左側前輪2aL及び右側前輪2aRに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、左側後輪2bL及び右側後輪2bRに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第2ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪2aR及び右側後輪2bRに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪2aL及び左側後輪2bLに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。また、第2ブレーキ系110aは、右側前輪2aR及び左側前輪2aLに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第1ブレーキ系110bは、右側後輪2bR及び左側後輪2bLに設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
この第2ブレーキ系110a及び第1ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第2ブレーキ系110aと第1ブレーキ系110bとで対応するものには同一の参照符号を付すと共に、第2ブレーキ系110aの説明を中心にして、第1ブレーキ系110bの説明を括弧書きで適宜付記する。
第2ブレーキ系110a(第1ブレーキ系110b)は、ホイールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。車両挙動安定化装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126と、を備える。
さらに、車両挙動安定化装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなるサクションバルブ142とを備える。
なお、第2ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第2液圧室98aで発生したブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。なお、圧力センサPhで検出された検出信号は、制御装置7(図1参照)に入力される。
≪制御装置7≫
次に、制御装置7について図3を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る車両用制動装置1の制御装置7の電気的な接続を示すブロック図である。
制御装置7には、図示しないインターフェイスを介して、運転者によるブレーキペダル12の操作状態(操作量)を検出するブレーキペダルストロークセンサS1と、モータシリンダ装置16のボールねじ軸(スクリュー)80aのストローク量を検出するスレーブシリンダストロークセンサS2と、圧力センサPmと、圧力センサPpと、圧力センサPhと、各種センサ200(例えば、車速センサ、車輪速センサ、ヨーレート/横Gセンサ等)と、が接続されている。また、制御装置7は、モータ・ジェネレータ4、バッテリ5、インバータ6、が備える制御装置(例えば、バッテリECU等)や、センサ(例えば、電流センサ、電圧センサ等)と接続されており、車両100の力行、回生のための様々な制御、バッテリ5の充電制御等を行う。
さらに、制御装置7は、車両用ブレーキ装置10と接続され、遮断弁(第2遮断弁60a、第1遮断弁60b、第3遮断弁62)、モータ72、車両挙動安定化装置18(図2に示す各種バルブ(レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130、サクションバルブ142)、ポンプ136)の制御を行うことにより、ディスクブレーキ機構30a〜30dのホイールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに供給する液圧を制御して、対応する車輪(右側前輪2aR、左側後輪2bL、右側後輪2bR、左側前輪2aL)に対して摩擦制動力を付与する。
制御装置7は、目標ブレーキ圧算出部210と、車両挙動安定化制御部220と、モータ駆動電圧生成部230と、を備えている。
目標ブレーキ圧算出部210は、運転者によるブレーキペダルの操作量に基づいて、目標ブレーキ圧Pp_tを算出して出力する。
車両挙動安定化制御部220は、車両用ブレーキ装置10の車両挙動安定化装置18を制御して車両100の挙動を安定化させる。例えば、各種センサ200のヨーレート/横Gセンサが車両100の横滑りを検知すると、各種バルブ(レギュレータバルブ116、第1インバルブ120、第2インバルブ124、第1アウトバルブ128、第2アウトバルブ130、サクションバルブ142)を制御して、各車輪(右側前輪2aR、左側後輪2bL、右側後輪2bR、左側前輪2aL)ごとに独立して制動力を付与することにより、車両100の挙動を安定化させることができるようになっている。また、車輪速センサによりタイヤの空転のおそれを検知すると、その車輪に対応するシリンダへの油圧を低減させて空転を防止することにより、好適な制動力が得られるようになっている。
モータ駆動電圧生成部230は、モータ72を制御するための駆動電圧Vdriを生成し、モータコントローラ240に出力することにより、モータコントローラ240を介して、モータ72を制御する。
次に、モータ駆動電圧生成部230について図4を用いて更に説明する。図4は、モータ駆動電圧生成部230のブロック図である。
モータ駆動電圧生成部230は、最小保障駆動電圧算出部231と、ブレーキ圧制御器232と、最大値演算部233と、を有している。
最小保障駆動電圧算出部231は、目標ブレーキ圧算出部210(図3参照)が算出した目標ブレーキ圧Pp_tに基づいて、最小保障駆動電圧Vdri_minを算出し、算出した最小保障駆動電圧Vdri_minを最大値演算部233に出力する。なお、最小保障駆動電圧Vdri_minの算出は、目標ブレーキ圧Pp_tと最小保障駆動電圧Vdri_minとの対応関係を示すマップ231aに基づいて算出する。
マップ231aは、図4に示すように、目標ブレーキ圧Pp_tが大きくなるほど最小保障駆動電圧Vdri_minも大きくなるように設定されている。そして、目標ブレーキ圧Pp_tが所定値以上となると、最小保障駆動電圧Vdri_minは一定となる。
ブレーキ圧制御器232は、圧力センサPp(図2参照)で検出した実ブレーキ圧Pp_rと、目標ブレーキ圧算出部210(図3参照)が算出した目標ブレーキ圧Pp_tと、が入力され、その差分に基づいて、モータ72の制御信号であるモータ駆動指示電圧Vdri_indを生成し、最大値演算部233に出力する。これにより、実ブレーキ圧Pp_rを目標ブレーキ圧Pp_tに近づけるようにフィードバック制御する。
最大値演算部233は、最小保障駆動電圧算出部231の最小保障駆動電圧Vdri_minと、ブレーキ圧制御器232のモータ駆動指示電圧Vdri_indと、が入力され、最大値(大きい方の値)を駆動電圧Vdriとしてモータコントローラ240に出力する。即ち、最小保障駆動電圧算出部231および最大値演算部233により、駆動電圧Vdriは、最小値が保障されている。
ここで、駆動電圧Vdri(モータ駆動指示電圧Vdri_ind、最小保障駆動電圧Vdri_min)は、モータ72の出力の大きさを指示する制御信号であり、駆動電圧Vdriが大きいほど、出力が大きくなるようにモータ72が制御される。また、駆動電圧Vdriがプラス(Vdri>0)の場合、ブレーキ圧(液圧)を加圧する方向にモータ72を動作させ、駆動電圧Vdriがマイナス(Vdri<0)の場合、ブレーキ圧(液圧)を減圧する方向にモータ72を動作させる。
モータコントローラ240は、駆動電圧Vdriに基づいて、PWM(Pulse Width Modulation)信号Pu,Pv,Pwを生成する。また、モータコントローラ240は、PWM信号Pu,Pv,Pwでモータ用インバータ(図示せず)のゲートドライブ回路(図示せず)を制御して、モータ72の各相(u相,v相,w相)に駆動電流(iu,iv,iw)を供給して、モータ72を回転駆動させる。
≪作用・効果≫
本実施形態に係る車両用制動装置1の作用・効果について、図5を用いて図6と対比しつつ説明する。図5は、本実施形態に係る車両用制動装置1の動作例であり、(a)はモータ駆動DUTYであり、(b)はモータ電流実行値であり、(c)は実ブレーキ圧Pp_r(太実線で示す)および目標ブレーキ圧Pp_t(細実線で示す)であり、(d)はモータ回転速度であり、(e)は左側後輪のキャリパ圧である。図6は、比較例に係る車両用制動装置の動作例であり、(a)はモータ駆動DUTYであり、(b)はモータ電流実行値であり、(c)は実ブレーキ圧Pp_r(太実線で示す)および目標ブレーキ圧Pp_t(細実線で示す)であり、(d)はモータ回転速度であり、(e)は左側後輪のキャリパ圧である。なお、いずれも、最大ブレーキ圧キープ状態において、ABSが作動した状態を示している。
なお、比較例に係る車両用制動装置は、モータ駆動電圧生成部の構成が異なっている。具体的には、比較例のモータ駆動電圧生成部は、最小保障駆動電圧算出部231および最大値演算部233を有しておらず、ブレーキ圧制御器232の出力であるモータ駆動指示電圧Vdri_indをそのまま駆動電圧Vdriとしてモータコントローラ240に出力する点で異なっている。その他の点は同様であり、説明を省略する。
比較例に係る車両用制動装置は、例えば、図6(c)の点61cのように、実ブレーキ圧Pp_rが目標ブレーキ圧Pp_tを上回っている状態において、図6(a)の点61aのように、駆動DUTYが大きく減圧指示を出している。また、例えば、図6(e)の点62eのように、ABSが作動してキックバック圧が発生することにより、モータに反力トルクが発生し、図6(c)の点62cのように、実ブレーキ圧Pp_rが大きく落ち込む(アンダーシュート)ことがある。
これに対し、本実施形態に係る車両用制動装置1は、例えば、図5(c)の点51cのように、実ブレーキ圧Pp_rが目標ブレーキ圧Pp_tを上回っている状態においても、最小保障駆動電圧算出部231および最大値演算部233により、駆動電圧Vdriの最小値が保障されているため、図5(a)の点51aのように、駆動DUTYが所定の値より小さくなることを防止することができる。また、例えば、図5(e)の点52eのように、ABS作動中でも、図5(c)の点52cのように、実ブレーキ圧Pp_rが落ち込む(アンダーシュート)ことを防止することができる。
このように、本実施形態に係る車両用制動装置1は、最小保障駆動電圧算出部231および最大値演算部233で駆動電圧Vdriの最小値が保障されることにより、ブレーキ圧(モータ72の反力トルク)に対して、ブレーキ圧制御性能を確保するために最低限必要なモータ出力を確保する。これにより、高いブレーキ圧からの急減圧時に、ブレーキ圧のアンダーシュートを防止することができる。また、ABSのキックバック圧などの大きな外乱に対して、実ブレーキ圧が目標ブレーキ圧から落とされ難くすることができる。
また、結果として、例えば、図8に示すような特性を有する最大出力の低いモータを用いることができる。これにより、モータ72を小型化、軽量化、低コスト化することができる。
なお、本実施形態に係る車両用制動装置1は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
本実施形態に係る車両用制動装置1は、駆動電圧Vdriの最小値が保障されるものとして説明したが、これに限られるものではない、例えば、モータコントローラ240のモータ駆動DUTYの最小値が保障される構成としてもよい。
また、駆動電圧Vdriの最小値(最小保障駆動電圧Vdri_min)は、実ブレーキ圧Pp_rを入力するマップに基づいて保障される構成としてもよい。