JP2014211993A - 電気化学素子用セパレータ及びその製造方法、並びに、電気化学素子 - Google Patents
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Abstract
【課題】セパレータとしての性能に優れ、且つ、安価な電気化学素子用のセパレータを簡易な手法で提供すること。【解決手段】疎水化セルロース繊維及び有機溶媒を少なくとも含むスラリーを基材上に塗布する工程、前記スラリーを乾燥させて前記基材上にシートを形成する工程、及び、前記シートを前記基材から剥離して該シートからなるセパレータを得る工程を経て電気化学素子用セパレータを製造する。【選択図】なし
Description
本発明は、電気化学素子用セパレータ及びその製造方法に関し、並びに、当該電気化学素子用セパレータを備えた電気化学素子に関する。
本明細書において、電気化学素子とは、正極及び負極とセパレータとを備えた電気化学素子であり、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム電池等の各種二次電池、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の各種キャパシタ等が挙げられる。
近年、化石資源の枯渇、及び、CO2削減等に関する環境問題に対応するためのエネルギー源としての電気の利用が高まりつつある。そこで、例えば、自動車業界では二次電池を利用した電気自動車の開発が盛んに行われている。また、太陽光、風力等の自然エネルギーの有効利用の観点からも二次電池は注目を浴びている。
電気自動車の駆動用の二次電池としては、一般に、出力とエネルギー密度の関係から現時点ではリチウムイオン二次電池が採用されている。一方で、より高いエネルギー密度、出力、安全性等の観点から次世代電池の開発に各社力を注いでおり、大きな市場が期待される分野である。
一方、リチウムイオン二次電池に限らず、他の二次電池、一次電池、キャパシタ(コンデンサ)等には、紙、不織布、微多孔フィルム等からなるセパレータが使用されている。一般的にセパレータに要求される性能は、正負極間の短絡防止、電解液に対する化学的安定性、低い内部抵抗等である。これらの要求性能はデバイス間によって求められる程度に差があるが、種類によらずセパレータに共通して求められる特性でもある。
ほとんどのリチウムイオン二次電池のセパレータには、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子有機化合物で作られた微多孔膜が採用されている。これらの微多孔膜は、リチウムイオン二次電池に適した幾つかの特徴を有する。例えば、
1)電解液に対して化学的に安定であり、セパレータにより致命的な欠陥を起こさない。
2)セパレータの厚みを自由に設計することができるため、様々な要求に対応したセパレータの提供が可能である。
3)細孔径のサイズを小さく設計することができるため、リチウム遮断特性が優れ、リチウムデンドライトによる短絡が発生し難い。
4)リチウムイオン二次電池が熱暴走を起こした際に、ポリプロピレンやポリエチレンが溶融することで細孔が狭くなり初期の熱暴走を抑制することが可能である。
といった点である。
1)電解液に対して化学的に安定であり、セパレータにより致命的な欠陥を起こさない。
2)セパレータの厚みを自由に設計することができるため、様々な要求に対応したセパレータの提供が可能である。
3)細孔径のサイズを小さく設計することができるため、リチウム遮断特性が優れ、リチウムデンドライトによる短絡が発生し難い。
4)リチウムイオン二次電池が熱暴走を起こした際に、ポリプロピレンやポリエチレンが溶融することで細孔が狭くなり初期の熱暴走を抑制することが可能である。
といった点である。
しかしながら、これまでのリチウムイオン二次電池の研究では、熱暴走を起こす根本的な原因は解明されておらず、二次電池に用いられる各種素材は熱暴走のリスクを回避するための手段を経験的な手法で各社検討し提案しているのが現状である。熱暴走の原理の解明から統一した評価法も含めて今後明らかになることによって、より安全性の高い自動車用途に適した材料開発が進むと考えられ、安全性に関する課題も解決されることが期待される。
一方、自動車用途における二次電池への2つめの課題はコストである。コストの中でもセパレータは、電池コストの2割を占める材料であり今以上のコストダウンが求められているのが現状である。
ところで、例えば、電気自動車等の充電式の輸送機器の分野、及び、携帯電話等の携帯電子端末の分野では、小さな体積でも長時間稼動するように単位体積当たりの貯蔵電気エネルギーが大きい電気エネルギー貯蔵デバイスが求められているが、かかる電気エネルギー貯蔵デバイスとしては、例えば、電解液に溶解している電解質が電極に吸着され、電解質と電極との間に形成される界面(電気二重層)に電気エネルギーを貯蔵する電気二重層キャパシタがある。
電気二重層キャパシタにおけるセパレータの主な役割は、電極の短絡防止(セパレート性)、電解液中のイオンの移動を妨げないこと(低い内部抵抗)等である。しかし、上記のような微多孔膜は密度が高いため、内部抵抗が高くなる傾向にある。一方、不織布をキャパシタのセパレータに用いることも知られているが、セパレート性を保持するために繊維径を小さくしたり、繊維密度を高めると内部抵抗が高くなるという問題があった。そのため、内部抵抗の低いセパレータの開発が望まれている。
ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子微多孔膜の製造方法は大きく分けて、湿式法と乾式法に分けられる。それぞれの製造法には特徴があり、湿式法はポリエチレン等の高分子に可塑剤を添加しフィルム成形した後、二軸延伸し、溶剤で可塑剤を洗うことによって微多孔を設ける方法を取っている。この方法では細孔のサイズや膜厚の調整に優れており、電池のタイプ毎の様々な要求に対応できることがメリットだが製造プロセスが複雑なためコストが高いことが課題である。一方、乾式法はポリオレフィン等の高分子を溶解し、フィルム上に押出し、アニーリングしたものを低温で延伸して初期段階の空孔を形成した後、高温で延伸し多孔質化している。この方法では融点の異なる高分子を積層することができることと、プロセスが簡易であるためコストが安いことがメリットであるが、細孔の調整や膜厚の調整の精度に欠ける点が課題である。
高分子微多孔フィルム以外に合成繊維、無機繊維等からなる不織布を用いたセパレータも提案されている。従来不織布は、乾式不織布と湿式不織布がありどちらもセパレータとして利用されてきたが、リチウムイオン二次電池用途においては繊維分布の均一性が得られない乾式不織布は電極隔離効果が低いため使用することができないといわれている。一方、湿式不織布は乾式不織布と比べると繊維分布が均一であることが特徴で、製法上の特徴から微多孔フィルムより空孔率を高く調整することができるため、インピーダンスの低いシートを作ることが可能である。しかしながら、現在広くリチウムイオン二次電池に採用されているグラファイト負極を用いた電池には使用することは実質困難である。これはリチウムイオン二次電池が負極側にリチウムデンドライトを生成するという特徴があるためで、このリチウムデンドライトはセパレータ内のリチウムイオンが多く通る負極表面に生成しやすい特性がある。このため数十μmオーダーの範囲でシートそのものに粗密ができる不織布では、リチウムデンドライトが発生しやすい箇所は粗であるため、リチウムデンドライトが生成した際にショートを抑制する遮断特性はフィルムタイプと比較して低いとされている。
これらの課題を解決するために特許文献1(特開平11−040130号公報)に代表されるように、細孔サイズをある一定の範囲内に規定することが行われている。しかしながら、孔のサイズは繊維径に左右されるため、細孔サイズを小さくコントロールするには繊維径を細くすることが必要となるが、現在の技術では、安価にナノオーダーのサイズの繊維を作るのは難しいため、極細と呼ばれているような合成繊維を使用したとしてもリチウムイオン二次電池に適した孔のサイズにコントロールすることは実質不可能であり、リチウム遮断特性を向上することはできない。
更に、特許文献2(特許第4425576号公報)に代表されるような静電紡糸法を用いて不織布を製造する方式が提案されている。しかしながら、静電紡糸法のみで数十μmの厚みのシートを作るのは現在考案されている生産設備では実質困難あることと、生産効率を考えると現実的な手法とは言えない。
一方、セルロースタイプのセパレータも数多く提案されている。例えば、特許文献3(特許第4201308号公報)には、セルロースの水酸基が電気化学的に安定ではないためアセチル化処理をすることで安定化させリチウムイオン二次電池の適性を持たせるとの記載があるが、セルロースを主体としたセパレータが一部のリチウムイオン二次電池で試験的に使われてきている実績があるため、セルロース自体のリチウムイオン二次電池における電気化学的安定性は問題とはならない。
特許文献4(特許第4628764号公報)では、セルロースナノファイバーを使ったセパレータも提案されている。特許文献4に記載されている1000nm以下のセルロース繊維のみを得るには、特許文献4等に記載されているようにバクテリアセルロースを利用する方法が確実である。しかしながら、バクテリアセルロースを使用して工業的にセルロース繊維を得る方法は確立されておらず、生産コストの面で不明瞭な点があり、安価なシートを作るのに有効な手段であるとはいえない。また、特許文献4には天然セルロースを利用する手段も記載されているが、天然セルロースを1000nm以下に均一に処理するとフィブリル化が進むことで保水性が高くなり、抄紙するための原料としては粘度が非常に高く、脱水効率が悪いためこれも有効的な手段とは言えない。更に、キャスト法を用いて製造することもできるとの記載があるが、抄紙法とは細孔のできるプロセスが異なるにも関わらず、その手段については明記されておらず十分な説明がなされていない。
また、シート化工程において濾布やメッシュ等を使用して抄紙を行っているが、この手法では脱水時に濾布面が転写されるため、転写面側に数μmの凹凸ができる。したがって、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に電極との密着が不十分となり電池の性能を落とす可能性があるため好ましくない。
特許文献5(特開2010−090486公報)では、微細なセルロース繊維を用いて油性化合物をエマルジョン化し、透気抵抗度を一定の範囲内に制御したシートが提案されている。この方法では、油性化合物をエマルジョン化して開孔する手法が取られているが、乾燥工程の水分が揮発する際にエマルジョンが壊れてしまい、シート中に1μm以上の大きな孔が不均一にできる。その結果、リチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生しやすくなるので、リチウムイオン二次電池に使用することはできない。
本発明は上述の状況に鑑みて為されたものであり、セパレータとしての性能に優れ、且つ、安価な電気化学素子用のセパレータを簡易な手法で提供することを目的とする。
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、疎水化セルロース繊維を用い、且つ、抄紙法を採用することによって、セパレータとしての性能に優れ、且つ、安価な電気化学素子用のセパレータを簡易な手法で製造可能なことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、及び
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
を備える、電気化学素子用セパレータの製造方法である。
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、及び
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
を備える、電気化学素子用セパレータの製造方法である。
本発明の製造方法は、前記シート又はセパレータを洗浄する工程を更に備えることができる。
前記疎水化セルロース繊維には、1μm以上の太さの繊維が疎水化セルロース繊維の全重量を基準として5重量%以上含まれていることが好ましい。
前記疎水化セルロース繊維はアセチル化されていることが好ましい。
前記水系分散液中の前記疎水化セルロース繊維の濃度は1重量%以上であってもよい。
前記バインダーは高分子バインダーであることが好ましい。
前記バインダーは架橋性であってもよい。
前記水系分散液は界面活性剤を含むことが好ましい。
本発明は、上記製造方法により得られる電気化学素子用セパレータにも関する。
本発明の電気化学素子用セパレータの空孔率は30〜70%が好ましい。
本発明は、前記電気化学素子用セパレータを備える、電池、キャパシタ等の電気化学素子にも関する。
本発明では電気化学素子用セパレータの細孔径及び細孔量を自由に設計することが可能であるため、例えば、不織布、紙等では困難であった高いリチウム遮断特性を有しつつ、且つ、十分な強度と低体積抵抗率を有する、優れた特性を有する電気化学素子用セパレータを得ることが可能であり、更に、そのような電気化学素子用セパレータを低コストで製造することが可能となる。
本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
を少なくとも含む。本発明の電気化学素子用セパレータはセルロース繊維からなる微多孔性シート又は微多孔性膜の形態であることが好ましい。
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
を少なくとも含む。本発明の電気化学素子用セパレータはセルロース繊維からなる微多孔性シート又は微多孔性膜の形態であることが好ましい。
本発明で使用されるセルロース繊維は特に限定されるものではなく、例えば、セルロースI型、セルロースII型等の任意の型のセルロースの繊維を使用することができるが、コットン、コットンリンター、木材パルプに代表されるような、セルロースI型の天然繊維が好ましい。再生セルロースに代表されるセルロースII型の繊維はセルロースI型の繊維に比べ結晶化度が低くフィブリル化処理を行う際に、短繊維化しやすい傾向があるので好ましくない。
本発明においては、セルロース繊維をミクロフィブリル化してもよい。セルロース繊維をミクロフィブリル化処理する装置は特に限定されるものではないが、例えば、高圧ホモジナイザー処理(マントン・ゴーリン型分散機による高圧分散処理)、ラニエタイプ圧力式ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー処理(アルテマイザーTM(スギノマシーン株式会社製)、ビーズミルや流星ミル等の分散装置、マスコロイダー(粒度16〜120番の砥粒を備える砥粒板を複数枚擦合せ配置した砥粒板擦合装置、増幸産業株式会社製)等のホモジナイザー等が挙げられる。また、ミクロフィブリル化処理する前にダブルディスクリファイナー、ビーター等製紙用で使用している叩解機を前処理に使用することも可能である。また、添加量は限られてくるが、TEMPO酸化触媒によってナノファイバー化されたセルロースナノファイバーを用いることも可能である。特に、本発明においては、本発明で使用されるセルロース繊維が、粒度16〜120番の砥粒を備える砥粒板を複数枚擦合せ配置した砥粒板擦合装置の擦合せ部に予め叩解処理したパルプスラリーを通過させる微細化処理、又は予め叩解処理したパルプスラリーを高圧ホモジナイザー処理する微細化処理を受けていることが好ましい。
セルロース繊維はセルロース分子の持つ水酸基により、水に均一に分散することが可能であるが、その水系分散液(水性スラリー)の粘度は、セルロース繊維の繊維長と表面積に依存する。セルロース繊維が細くなることは、それだけセルロースの表面積が増えるため、スラリーの粘度も必然的に上昇することになる。またその繊維長が長くなるほど繊維間の相互作用が増えることによってこれも粘度上昇に繋がる要因として考えられる。これらの相互作用による粘度上昇は、高濃度におけるシート化を阻害する要因となっており、ナノセルロースを取り扱うには濃度を下げる手段が一般的にとられている。
更に、セルロース繊維はその水酸基により、脱水工程において繊維同士が水素結合を行う性質を持っており、再生セルロース以外の合成繊維で作った不織布にはない特徴が見られる。この水素結合形成の工程において強度が発現する一方で、繊維間が相互作用により乾燥工程における収縮が合成繊維を使った不織布よりも大きいことも特徴として挙げられる。特に繊維径が細くなるに従い繊維の剛度が下がるため、この収縮が顕著に見られる。また極度にフィブリル化が進んだ繊維を用いて作成したシートは繊維間が完全に密着するために透明化することが知られている。つまり、繊維径を細くすることのみでは孔径をコントロールするどころか、多孔質化シートを作ることは困難である。このため、多孔質化されたシートを製造するには乾燥時の収縮を抑えることと繊維間の水素結合を阻害させることが必要となる。これまでに提案されている具体的な手法は、抄紙法やキャスト法でシート化した原料をアセトンのような親水性の溶媒に置換した後、更にトルエンとアセトンの混合溶媒といったより疎水性の高い溶媒に置換して乾燥させる等の方法が提案されている。しかしながらこの手法は2つの問題点がある。まず一つは分散溶媒の水からアセトンに溶媒置換する作業である。セルロース繊維は、繊維径が細くなるに従い保水性が高くなるため、水から溶媒への置換は非常に時間のかかる作業となっており実生産の面で生産性を下げる要因となっている。更に、細孔径は繊維の太さに依存されるため、細孔径はあくまで繊維の太さによってコントロールされることになり、均一化された繊維を利用しなければ目的の細孔径をえることが出来ず、セルロース繊維の処理工程にも時間とコストが必要となっている。
本発明の製造方法では少なくとも疎水化セルロース繊維を使用する。ここで、疎水化セルロース繊維とは、疎水化処理を受けたセルロース繊維を意味しており、当該疎水化処理とは、疎水化剤を用いてセルロースの水酸基を疎水性基に置換する任意の処理を意味する。疎水化処理としては、例えば、エステル化(アシル化)、アルキル化、トシル化、エポキシ化等が挙げられるが、セルロースの水酸基と反応性の高いアシル化が好ましい。アシル化は当該技術分野で周知・慣用であり、エステル化に使用される疎水化剤の種類は特に限定されるものではないが、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸、又は、そのハロゲン化物、特に塩化物が好ましい。エステル化されたセルロースでは、通常、セルロースの水酸基がアシル化されてRCOO基(Rは1〜20の炭素原子を有する炭化水素基を表す)等の疎水性基に置換されている。疎水化効率を向上させるために、硫酸等の触媒を使用することもできる。
前記エステル(アシル)化としてはアセチル化が好ましい。アセチル化された疎水化セルロース繊維は元々の水酸基がCH3COO基に置換されている。
疎水化処理としては、例えば、セルロース繊維に液体の疎水化剤を接触させる方法が挙げられ、例えば、その手法としては、疎水化剤中へのセルロース繊維の含浸、或いは、疎水化剤のセルロース繊維上へのスプレー、塗布、噴霧等の操作が挙げられる。
疎水化処理の温度は特に限定されるものではないが、25〜200℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。また、疎水化処理の時間も特に限定されるものではないが、10分〜4時間が好ましく、30分〜2時間がより好ましい。更に、疎水化圧力も特に限定されるものではないが、1〜10気圧が好ましく、1〜5気圧がより好ましい。
疎水化セルロース繊維は、その水酸基の少なくとも一部が疎水化されていればよいが、疎水化セルロースの多糖繰り返し単位当たりの疎水性基の置換度は、0.01〜3が好ましく、0.1〜2がより好ましく、0.2〜1がより好ましい。疎水化セルロース繊維は、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルプロピオネート、プロピレンカーボネート等の二次電池の非水電解質の溶媒として使用される有機溶媒に溶解しないことが好ましい。
本発明で使用される疎水化セルロース繊維の量は特に限定されるものではないが、水系分散液の全重量の0.5重量%以上が好ましく、1重量%以上がより好ましく、2重量%以上が更により好ましい。また、疎水化セルロース繊維の量は、水系分散液の全重量の20重量%以下が好ましく、10重量%以下がより好ましく、5重量%以下が更により好ましい。
本発明においては、使用される疎水化セルロース繊維の全重量に対して1μm以上の径を有する繊維が5重量%以上含まれていることが好ましく、10重量%以上含まれていることがより好ましい。特に、後述する本発明の製造方法では水系分散液を用いる抄紙を行うため、水系分散液の粘度が極端に高くなるような繊維径が1μm未満の細い疎水化セルロース繊維のみを用いて水系分散液を調製して使用することが困難である。また、これを抄紙可能とするためには水系分散液の低濃度化が必要となり、そのために使用する水、溶媒等の乾燥コストが増えるため経済的ではない。また一般的手法でセルロース繊維にせん断力を与えて繊維径の細いセルロース繊維を製造すると繊維長もあわせて短くなる傾向があり、作成したシートの引裂強度が低下する傾向がある。そのため、1μm以上の太さを有する繊維が5重量%以上存在することで得られるシートの引裂強度を向上させることができる。なお、1μm以上の太さを有する繊維以外の繊維については、1重量%以上のセルロース繊維濃度の水性分散液が抄紙できる粘度であれば、数nm程度の非常に細いナノファイバーを使用することも可能である。
更に、本発明においては、使用される疎水化セルロース繊維の全重量に対して1μm以上の径を有する繊維の含有量が40重量%以下であることが好ましく、30重量%以下がより好ましく、20重量%以下が更により好ましい。1μm以上の太さを有する繊維が40重量%超存在すると、セルロース繊維同士が水素結合等によって接触する接点の数が減少するため、引張強度が低下するおそれがある。したがって、例えば、1μm以上の径を有する疎水化セルロース繊維の含有率を5重量%以上40重量%以下とすることで、引張強度と引裂強度を両立させることができる。
本発明では疎水化セルロース繊維と共に、必要に応じて、疎水化処理を受けていない通常のセルロース繊維を併用することもできる。本発明で使用される疎水化セルロース繊維100重量部に対する通常のセルロース繊維の割合は特に限定されるものではないが、例えば、100重量部に対して10〜1000重量部とすることが可能であり、50〜500重量部であってもよい。また、通常のセルロース繊維の全重量に対して1μm以上の径を有する繊維が5重量%以上含まれていることが好ましく、10重量%以上含まれていることがより好ましく、或いは、40重量%以下含まれていることが好ましく、30重量%以下含まれていることがより好ましく、20重量%以下含まれていることが更により好ましい。但し、本発明で使用されるセルロース繊維の全てが疎水化セルロース繊維であることが最も好ましい。
本発明で使用されるバインダーは、疎水化セルロース繊維間を繋ぐための接着剤として使用されるものであるが、接着剤としての機能以外に、疎水化セルロース繊維の分散性を向上させる機能を発揮することができる。均一な細孔分布を得るためには、スラリー中に繊維が均一に分散する必要があるが、バインダーは疎水化セルロース繊維の表面に定着することで保護コロイドに似た役割を果たすため分散性が向上する。
前記バインダーは高分子バインダーであることが好ましく、親水性高分子バインダー又は疎水性高分子バインダーのいずれであってもよい。
親水性高分子バインダーはカルボキシ基及び/又は水酸基を有することが好ましい。親水性高分子バインダー、好ましくはカルボキシ基及び/又は水酸基を含有する親水性高分子バインダーは、樹脂の形態であっても、エマルジョンの形態であってもよい。具体的には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸、両性澱粉、カルボキシル変性澱粉、リン酸エステル化デンプン、コーンスターチ等の多糖類の誘導体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール等が利用可能であるが、これらに限定されるものではない。中でも、カルボキシメチルセルロースが好ましく利用可能である。これは、カルボキシメチルセルロースが、セルロースと同じくグルコース残基がβ‐1,4グリコシド結合にて繋がった骨格を持っているため、両者を混合した際に両者の親和性が高いためであると考えられる。
前記疎水性高分子バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂等の熱硬化性樹脂;オレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ビニル系樹脂、脂肪酸ビニルエステル系樹脂、ポリアミド樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリケトン樹脂等の熱可塑性樹脂;並びに、これらの混合物が挙げられる。特に、電極用のバインダーとして知られているスチレンブタジエン共重合体、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーを使用することが好ましい。
前記バインダーは、バインダー自体が架橋性であってもよい。例えば、前記バインダーが熱硬化性樹脂である場合は、その種類を適宜選定することによってバインダー自体を架橋することが可能であり、また、疎水化セルロース繊維の水酸基と反応することにより、疎水化セルロース繊維間及び/又はバインダーと疎水化セルロース繊維間を架橋することが可能である。架橋により、本発明の電気化学素子用セパレータの熱的安定性、機械的特性等を向上させることができる。
また、前記バインダー自体が架橋性でない場合は、架橋剤によって架橋されてもよい。前記架橋剤の種類は特に限定されるものではないが、例えば、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、グリオキザール基含有化合物、イソシアネート基含有化合物等が利用可能である。中でも、架橋剤が架橋点を複数持つ高分子化合物であると、より多くの分子、繊維を含んだ架橋構造を形成することが可能であるため好ましい。このように、架橋剤は高分子化合物であることが好ましいが、これは架橋剤の架橋点と架橋点の間に長い分子鎖が存在することにより、応力がかかったときにシート内で分子が動く余地ができるため、低分子量の架橋剤と比較してシートの伸びを維持することができるためでもある。
前記バインダーの量は特に限定されるものではないが、疎水化セルロース繊維100重量部に対して1〜100重量部が好ましく、10〜50重量部がより好ましく、20〜40重量部が更により好ましい。バインダーの添加量が1重量部未満となると、出来上がったシートの強度が低下するおそれがあり、また、疎水化セルロース繊維の分散性が悪化するため、均一な細孔を得ることが困難となる。一方、100重量部よりも多い場合には、バインダーが細孔を埋めてしまう形となり、セルロース製微多孔膜の体積抵抗率が高くなるため好ましくない。
本発明の製造方法で使用される前記水系分散液は水を主体とした水性スラリーであり、分散媒体の50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上が水である。但し、前記水系分散液は必要に応じて1種以上の有機溶媒を含むことができる。
前記有機溶媒は、特に限定されるものではなく、任意の有機溶媒を使用することができる。
前記有機溶媒は、疎水化セルロース繊維の疎水化度(置換度)によって適宜選定することができる。例えば、疎水化度が低いセルロース繊維についてはアルコール等の高極性の有機溶媒を使用し、その一方、疎水化度が高いセルロース繊維についてはケトン、エーテル、エステル等のアルコールよりも極性が小さい有機溶媒を使用することが好ましい。また、疎水化セルロースの分散性に基づいて有機溶媒を選定することも可能である。例えば、疎水化セルロース繊維を2〜3重量%の濃度となるように分散させた場合に、一定時間後に疎水化セルロース繊維が沈降しない有機溶媒を選定することが好ましい。
前記有機溶媒としては、疎水性有機溶媒及び親水性有機溶媒又はこれらの混合物を使用することができる。
本発明で使用される有機溶媒は、25℃における蒸気圧が0.1kPa未満のものが好ましく、0.09kPa未満のものがより好ましく、0.08kPa未満のものが更により好ましい。蒸気圧が0.1kPa以上の有機溶媒は揮発性が高いのでセルロース膜の多孔化の寄与する前に揮発する傾向が高く、結果として、微多孔質のセルロース膜を得ることが困難となるおそれがある。
また、前記有機溶媒の沸点は、乾燥性の点で、50〜180℃が好ましく、60〜150℃がより好ましく、70〜120℃が更により好ましい。
疎水性有機溶媒は、水と非親和性であれば特に限定されるものではないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の鎖状脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;クロロホルム等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
親水性有機溶媒は、水と親和性であれば特に限定されるものではないが、例えば、25℃における100重量部の水に対する溶解度が10重量部上のものが好ましく、20重量部以上のものがより好ましく、30重量部以上のものが更により好ましい。
親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−アミルアルコール、イソアミルアルコール、sec−アミルアルコール、tert−アミルアルコール、1−エチル−1−プロパノール、2−メチル−1−ブタノール、n−ヘキサノール、シクロヘキサノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン類;ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−sec−ブチル、酢酸−3−メトキシブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、炭酸ジエチル、炭酸ジメチル等のエステル類;エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、2−ピロリドン、N−メチルホルムアミド等の窒素原子含有親水性有機溶媒;更には、3−メトキシ−3−メチルブタノール、3−メトキシブタノール、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジアセトンアルコール、アセト酢酸エチル等が挙げられる。
親水性有機溶媒は、水/オクタノールの分配係数(Log Pow)が−1.2〜0.8の範囲のものが好ましく、−1.1〜0.8の範囲のものがより好ましく、−0.7〜0.4の範囲のものが更により好ましい。前記オクタノールとしてはn−オクタノールが好ましい。前記分配係数が−1.2未満の親水性有機溶媒を使用すると、得られるセルロース製微多孔膜のインピーダンス値が高まるおそれがある。
そのような好ましい親水性有機溶媒として、具体的には、例えば1、5−ペンタンジオール、1-メチルアミノ-2,3-プロパンジオール等の高級アルコール類、イプロシンカプロラクトン、α−アセチル−γ−ブチルラクトン等のラクトン類、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、更にその他にグリセリン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン等が挙げられるがその限りではない。これらの中でもグリコールエーテル類、N−メチルピロリドンは蒸気圧が低く、本発明の製造方法において好適である。
2種類以上の有機溶媒の混合物を使用する場合は、沸点の低い有機溶媒及び沸点の高い有機溶媒を適宜組み合わせることが好ましい。
本発明の水系分散液が有機溶媒を含む場合は、例えば、分散液の分散媒体の全重量の30重量%未満、好ましくは10重量%未満、より好ましくは10重量%未満まで有機溶媒が含まれていてもよい。
有機溶媒を使用する場合、特に、水よりも揮発性の高い有機溶媒を使用する場合、水のみを分散媒体として使用する場合に比べて、乾燥効率を大幅に改善することができる。更に、本発明では、疎水化セルロース繊維のタイプに応じて有機溶媒の種類を調整することによってシートの孔のサイズを制御することができる。また、本発明では、有機溶媒の添加量の調整により空孔率を自由に制御することができる。例えば、本発明では、疎水化セルロース繊維100重量(質量)部に対して有機溶媒を好ましくは50〜600重量部、より好ましくは80〜400重量部、更により好ましくは100〜300重量部の割合で使用することができる。
本発明において、必要な場合には、添加剤として界面活性剤を水系分散液に添加することができる。消泡剤やレベリング剤としてアセチレングリコール等に代表されるノニオン性の界面活性剤を電気化学素子性能に影響を与えない程度であれば使用可能である。イオン性の界面活性剤は、電気化学素子性能に影響を与える可能性があるので使わない方が好ましい。また、必要に応じて、炭酸ジルコニウムアンモン、カルボジイミド、エキサゾリン等の架橋剤を水性分散液に添加してもよい。
この他に、疎水化セルロース繊維及びバインダーを含むスラリーには、前記有機溶媒、前記界面活性剤以外にも填料を含むことが可能である。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子といった無機填料、シリコーンパウダー等の有機填料等を使用することが可能である。これらの粒子は、セルロース製微多孔膜の細孔に影響を与えない程度に添加可能であるが、できるだけ平均粒子径が2μm未満のものを使用する方が好ましい。平均粒子径が2μm以上になると、粒子間の隙間により細孔径の大きな孔が開いてしまうため好ましくない。なお、これらの填料は水系分散液の粘度を下げる効果があるために水性分散液の濃度を上げることが可能となり生産効率を上げるのに好適である。一方、添加量が多すぎると強度が低下するため、疎水化セルロース繊維100重量部に対して100重量部よりも多い添加量は好ましくない。
前記水系分散液は、前記疎水性セルロース繊維、前記バインダー、並びに、必要に応じて前記各種の任意成分を水と混合して調製することができる。混合操作は公知の混合手段を用いて実施することができるが、高圧ホモジナイザー等で均一化することが好ましい。
本発明の製造方法における濾過操作は抄紙分野において公知の任意の手法を用いて行うことができる。例えば、濾紙、濾布等の濾過体上に上記水性分散液を導入して、例えば、濾過体の裏から吸引脱水を行うことによって濾過を実施することができる。
本発明の製造方法では、前記濾過操作によって得られたシートを濾過体から剥離後に、或いは、そのままの状態で、乾燥してセパレータを得ることができる。乾燥方法は特に限定されるものではないが、具体的には、熱風乾燥及び遠赤外線乾燥の単独又は組み合わせ等の一般的に使用されている乾燥手法を使用して実施することが可能であり、例えば熱風温度は、30〜150℃、好ましくは60〜120℃とすることができるが、できるだけシートの厚み方向の構造が均一に乾燥されるように熱風温度、熱風量、遠赤外線の照射条件等を調整する必要がある。また乾燥効率の向上のために、マイクロ波加熱を使用することもできる。
本発明におけるシート厚みは、10〜40μmの範囲が好ましい。セルロース製微多孔膜の厚みは、電気化学素子性能を大きく変えうる要因であるが、10μm未満であるとリチウム遮断特性が十分ではなく、安全性の面で十分でないおそれがある。一方、40μmを超えるとセルロース製微多孔膜の体積抵抗率値が大きくなってしまい、電気化学素子の出力性能を落とすことになるため好ましくない。特に好ましいのはリチウム遮断特性及び体積抵抗率の値のバランスから、15〜30μmの範囲のシートである。
なお、疎水化セルロース繊維及びバインダーを含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程に代えて、疎水化セルロース繊維を含む水系分散液を濾過して得られたシートにバインダーを塗布又は含浸させる工程を実施してもよい。
本発明の電気化学素子用セパレータの製造方法は、
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、及び
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
に加えて、前記シート又はセパレータを洗浄する工程を更に有することができる。この洗浄工程は、界面活性剤等を必要に応じて使用した場合等において電気化学素子性能を阻害するような成分を取り除く工程をスムーズに行うためのものである。洗浄工程に用いることのできる洗浄剤は特に限定されるものではなく、必要に応じて、既述した、疎水性有機溶媒、親水性有機溶媒又はこれらの混合物、或いは、水を使用することができる。このような洗浄工程は、乾燥工程の前に設けられることが好ましい。
疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、及び
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
に加えて、前記シート又はセパレータを洗浄する工程を更に有することができる。この洗浄工程は、界面活性剤等を必要に応じて使用した場合等において電気化学素子性能を阻害するような成分を取り除く工程をスムーズに行うためのものである。洗浄工程に用いることのできる洗浄剤は特に限定されるものではなく、必要に応じて、既述した、疎水性有機溶媒、親水性有機溶媒又はこれらの混合物、或いは、水を使用することができる。このような洗浄工程は、乾燥工程の前に設けられることが好ましい。
本発明の電気化学素子用セパレータは、優れた強度特性を有することができる。具体的には、本発明の電気化学素子用セパレータの引張強度は50N・m/g以上であり、及び/又は、その引裂強度は0.40kN/m以上とすることができる。引張強度はJIS C2151に従って測定することができる。一方、引裂強度はJIS K7128−1に従うトラウザー引裂法によって測定することができる。引張強度は55N・m/g以上が好ましく、60N・m/g以上がより好ましい。引裂強度は0.5kN/m以上が好ましく、0.55kN/g以上がより好ましく、0.6kN/m以上が更により好ましい。なお、通常のセルロース製電気化学素子セパレータは引張強度及び引裂強度を共に優れたものとすることは困難であるが、特に、本発明の電気化学素子用セパレータを構成するセルロース繊維に1μm以上の太さの繊維がセルロース繊維の全重量を基準として5重量%以上含まれている場合に、引張強度及び引裂強度を共に優れたものとすることができる。
本発明の電気化学素子用セパレータの細孔径は、水銀圧入法で測定される細孔径の最大値が1.5μm以下であることが好ましい。リチウムイオン電池等の電気化学素子で使用される電極活物質の粒子径は様々な大きさがあるため、必ずしも細孔径が小さくなければならない訳ではない。およその基準としては、使用される活物質の粒子径の1/4の細孔径であれば短絡は起きないとされている。一方で粒子径の小さい活物質を使用する電気化学素子に用いる場合には最大値が1.5μmよりも小さくする必要がある場合もありうる。なお、本発明によって作成したシートを水銀圧入法により粒子径分布を測定すると、1.5μm以上の部分にもピークが確認されるが、この値はシート表面の凹凸に起因するものであり、セパレータの細孔径を示すものではない。
本発明の電気化学素子用セパレータは、膜厚10μm当たりの透気抵抗度が20〜600秒(/100cc)であることが好ましく、20〜450秒がより好ましく、30〜250秒が更により好ましい。前記透気抵抗度はJIS P8117に基づいて測定することができる。前記透気抵抗度が20秒未満の場合、リチウムイオン二次電池用途ではリチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生するリスクが高くなるため、安全上好ましくない。600秒超の場合は、特に体積抵抗率が大きくなり電気化学素子の出力特性を落とすことになるため好ましくない。
本発明の電気化学素子用セパレータの空孔率は30〜70%が好ましい。本発明のセパレータは、空孔率を30%〜70%の範囲に維持することで、電気化学素子に良好に対応可能である。空孔率30%未満でも電気化学素子として作動することは可能ではあるが、抵抗値が高いため出力が下がり電気化学素子としての性能が十分ではないおそれがある。空孔率が70%を超える場合には、細孔分布のモード径が大きくなり微多孔膜に起因する抵抗が下がるので電気化学素子の出力性能及びサイクル特性は向上するが、リチウムイオン二次電池用途ではリチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生するリスクが高くなるため、安全上好ましくない。
本発明における空孔率は、セルロース繊維を膨潤させない溶媒をセパレータに含浸させて、その吸液した溶媒の重量から計算することが可能である。具体的には、50mm×50mmのサイズにカットしたサンプルを23℃50%相対湿度の雰囲気下で1日調湿した後、サンプルの厚みを測定し、更にサンプルの重量を4桁若しくは5桁秤を用いて秤量する。秤量後、溶媒に1分間含浸させた後、表面について余分な溶媒を吸い取り紙で吸収した後、再度秤量を行う。含浸後の重量から含浸前の重量を引いた値を含浸した溶媒の密度で割ることにより溶媒の体積を求める。この体積を厚みから計算した全体の体積の百分率を空孔率とする。したがって、この場合の空孔率は以下の式により求めることができる。
空孔率(%)=100×(吸液後のシート重量−吸液前のシート重量)/吸液させた溶媒の密度×5×5×厚み(cm)
空孔率(%)=100×(吸液後のシート重量−吸液前のシート重量)/吸液させた溶媒の密度×5×5×厚み(cm)
本発明において空孔率を測定することが可能な溶媒は、セルロースを膨潤させない溶媒なので、極性の低い有機溶媒を用いるのが好ましい。また吸液させた溶媒が短い測定時間の間で揮発してしまわないものを選定する必要がある。特に好ましいものとしては、通常電解液で使用されるプロピレングリコールやケロシン等石油系の高沸点溶媒等が挙げられる。
本発明の電気化学素子用セパレータは、1mol/Lの濃度のLiPF6のプロプレンカーボネート溶液を含浸させた状態において20kHzの交流電流を用いて測定される体積抵抗率が1500Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗率は、前述の透気抵抗度及び空孔率と相関があり、基本的には、透気抵抗度が低く、空孔率が高くなると体積抵抗率が下がる傾向にあるが、体積抵抗率には空孔のサイズ及び膜中の空孔の分布状態も影響するため、透気抵抗度が低く、空孔率が高いものが必ずしも低い体積抵抗率を示すとは限らない。ここで、周波数が20kHzの交流を利用するのは、電極界面の反応等の電気化学的な要素を体積抵抗率の測定値から除くことが目的である。これにより、測定装置の抵抗とセパレータのイオン電導性の合計のみが測定値に寄与するため、当該測定値がセパレータの細孔分布及び細孔径を反映することができる。本発明のセパレータは、この体積抵抗率が1500Ω・cm以下であることが好ましく、1000Ω・cm以下がより好ましい。1500Ω・cmを超えるとサイクル特性が悪くなるおそれがある。1500Ω・cm以下では良好なサイクル特性を発現し電気化学素子用セパレータとして十分好適に使用可能である。
本発明における20kHzの交流を用いた体積抵抗率の測定は、以下の手順で行うことができる。まず、直径20mmのサイズに打ち抜いたセパレータを150℃の条件で24時間以上乾燥させる。次に、乾燥したセパレータを、例えば、SH2−Z型固体用サンプルホルダ(東陽テクニカ製)に5枚重ねて入れ、1mol/Lの濃度のLiPF6/プロピレンカーボネートの電解液に十分に浸す。そして、好ましくは、0.8MPaまで減圧してセパレータ間に残る空気を脱気した後、対向する2枚の金電極の間に挟み、ポテンショ/ガルバノスタッドを組み合わせた周波数応答アナライザVSP(Bio−Logic製)を用いて掃引周波数100m〜1MHz、振幅10mVの条件で交流インピーダンス値(Ω)を測定する。この値とセパレータの厚みから単位体積当たりの抵抗率(体積抵抗率)に換算する。なお、測定装置が持つ抵抗成分のみを測定しておくか、測定結果に反映されないようキャンセルしておくことが望ましい。
本発明の電気化学素子用セパレータの表面粗さは、表裏ともにRa値1.5以下が好ましい。表面粗さは、電気化学素子を作製した際の正極とセパレータの接触抵抗として交流インピーダンスに影響を与えることが知られている。この接触抵抗は、ラミネートセルやコイン電池等の電気化学素子で測定した周波数が0.1Hzの値と20000Hzの交流インピーダンス値の差から算出することができる。表面粗さRa値が大きくなるに従い0.1Hzの値と20000Hzの値の差が大きくなる。交流インピーダンスの値はオームの法則に従い対向面積に反比例するが、対向面積を大きくすると測定値自体が小さくなるため測定誤差の影響を受けやすいことや、周波数が低くなるに従い、正極、負極の抵抗成分も交流インピーダンスの値に含まれるため、セパレータの違いだけで値を指定できるものではない。但し、同じ電極、同じ電解液、同じサイズの電池であれば、セパレータの表面性の影響の違いを見ることができる。例えばCoLiO2系正極、グラファイト系負極を用い、電解液にはLiPF6といった一般的なリチウムイオン二次電池で用いる材料で作成した対向面積15cm2のラミネートセルのこの値は、Ra値1.5でおよそ1Ω程度となる。電池の接触抵抗は出来るだけ低い方が好ましいことからRaができるだけ小さくなる条件が好ましい。なお電池を組んで交流インピーダンスを測定する際には、事前に3から5サイクルほど低いレートで充放電を行ったのち、一定の電圧まで充電後にインピーダンスを測定するのが望ましい。
表面粗さRaは原料の細かさ、繊維の分散状態、基材の表面性の影響により変動する。特にセパレータの基材転写面は、原料の細かさや繊維の分散状態の影響よりも顕著に影響がでるため正極側に好適に使用できる。抄紙法のワイヤーメッシュや濾布を用いるケースでは、ワイヤーメッシュは濾布の転写面がそのまま出てしまうため、Raの値を小さく制御することができず不適である。
本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム電池等の電池、並びに、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタに用いることができる。
上記電気化学素子の構成は、本発明の電気化学素子用セパレータをセパレータとして用いていること以外は、従来の電気化学素子と全く同様の構成とすることができる。なお、電気化学素子のセル構造は特に限定するものではなく、積層型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。
例えば、本発明のセパレータを備える電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、正極と負極とを有し、これらの間に本発明の電気化学素子用セパレータが配置され、この電気化学素子用セパレータに電解液が含浸されたものである。
上記正極及び負極は電極活物質を含む。正極活物質としては従来公知のものを用いることができ、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4等のリチウム遷移金属酸化物や、LiFePO4等のリチウム金属リン酸塩等が挙げられる。負極活物質としては従来公知のものを用いることができ、例えば、グラファイト等の炭素材料やリチウム合金等が挙げられる。また、電極には必要に応じて、従来公知の導電助材や結着剤が添加される。
リチウムイオン二次電池を製造するにはまず、正極活物質、負極活物質とそれぞれ、必要に応じて、従来公知の導電助材や結着剤とを含有してなる正極合剤、負極合剤を従来公知の集電体に塗布する。集電体としては例えば、正極にはアルミニウム等、負極には銅、ニッケル等が用いられる。正極合剤、負極合剤を集電体に塗布した後、乾燥させ、加圧成形することにより、集電体に活物質層が形成された正極及び負極がそれぞれ得られる。
次いで、得られた正極及び負極と、本発明の電気化学素子用セパレータとを、正極、電気化学素子用セパレータ、負極の順に積層し或いは巻回して素子を構成する。次いで、その素子を外装材に収納し、集電体を外部電極に接続して、従来公知の電解液を含浸した後、外装材を封止してリチウムイオン二次電池が得られる。
また、例えば、本発明のセパレータを備える電気化学素子としての電気二重層キャパシタは、正極と負極とを有し、これらの間に本発明の電気化学素子用セパレータが配置され、この電気化学素子用セパレータに電解液が含浸されたものである。
上記正極及び負極の電極は例えば、活性炭粉末と従来公知の導電助材や結着剤とを含有してなる電極合剤を従来公知の集電体に塗布し、乾燥させ、加圧成形することにより得られる。集電体としては例えば、アルミニウム等が用いられる。
電気二重層キャパシタは、正極及び負極と、本発明の電気化学素子用セパレータとを、正極、電気化学素子用セパレータ、負極の順に積層し或いは巻回して素子を構成する。次いで、その素子を外装材に収納し、集電体を外部電極に接続して、従来公知の電解液を含浸した後、外装材を封止することにより得られる。
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
(1)厚さの測定
厚み計TM600(熊谷理機製)を用い、セルロース製微多孔膜50mm×50mmのサンプルの厚さを任意で5点測定し、その平均値を膜厚とした。
(2)空孔率の測定
50mm×50mmのサイズにカットしたセルロース製微多孔膜サンプルを23℃50%RHの雰囲気下で1日調湿した後、サンプルの厚みを測定し、更にサンプルの重量を4桁若しくは5桁秤を用いて秤量する。秤量後、ケロシンに1分間含浸させた後、表面について余分な溶媒を吸い取り紙で吸収した後、再度秤量を行い、前述の計算式より算出した。
厚み計TM600(熊谷理機製)を用い、セルロース製微多孔膜50mm×50mmのサンプルの厚さを任意で5点測定し、その平均値を膜厚とした。
(2)空孔率の測定
50mm×50mmのサイズにカットしたセルロース製微多孔膜サンプルを23℃50%RHの雰囲気下で1日調湿した後、サンプルの厚みを測定し、更にサンプルの重量を4桁若しくは5桁秤を用いて秤量する。秤量後、ケロシンに1分間含浸させた後、表面について余分な溶媒を吸い取り紙で吸収した後、再度秤量を行い、前述の計算式より算出した。
[実施例1]
針葉樹クラフトパルプ(α−セルロース含有量98%)10gを、エタノール1000mlに浸漬させ1日放置した。その後、ろ過にてエタノールを除いた後、無水酢酸100mlを加えた耐圧容器内で、90℃で2時間反応させた。反応生成物を、水3000ml中に投入し、過剰の無水酢酸を分解した後、ろ過、水洗を3度繰り返し、脱水した。これにより置換度0.25で部分的にアセチル化されたセルロース繊維を得た。
針葉樹クラフトパルプ(α−セルロース含有量98%)10gを、エタノール1000mlに浸漬させ1日放置した。その後、ろ過にてエタノールを除いた後、無水酢酸100mlを加えた耐圧容器内で、90℃で2時間反応させた。反応生成物を、水3000ml中に投入し、過剰の無水酢酸を分解した後、ろ過、水洗を3度繰り返し、脱水した。これにより置換度0.25で部分的にアセチル化されたセルロース繊維を得た。
このようにして得られた部分的にアセチル化されたセルロース繊維(乾燥重量5g)を1重量%濃度になるように水に分散した後、高圧ホモジナイザーで5回処理することにより部分アセチル化された微細セルロース繊維を含む分散液を作成した。
前記分散液中のセルロース繊維100重量部に対しバインダーとして10重量部のスチレン‐ブタジエン共重合体(JSR製 TRD2001)を加え、さらに分散助剤としてアセチレンジオール系界面活性剤(日信化学製 オルフィンEXP4200)を分散液に対して0.05重量%添加することにより抄紙原料を得た。この原料を用い、網目の細かいろ布上に厚みが均一になるように載せ、吸引脱水後、ろ布から剥がした後、ロールプレスで脱水しエアスルードライヤーで乾燥し、重さ10g、厚み20μm、空孔率60%のシート(セルロース製微多孔膜)を得た。
このようにして得られたセルロース製微多孔膜は電気化学素子用セパレータとして好適であり、電池及びキャパシタのセパレータとして好適に使用することができる。
Claims (12)
- 疎水化セルロース繊維及びバインダーを少なくとも含む水系分散液を濾過してシートを形成する工程、及び、
前記シートを乾燥させてセパレータを得る工程
を備える、電気化学素子用セパレータの製造方法。 - 前記シート又はセパレータを洗浄する工程を更に備える、請求項1記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記疎水化セルロース繊維に1μm以上の太さの繊維が疎水化セルロース繊維の全重量を基準として5重量%以上含まれている、請求項1又は2記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記疎水化セルロース繊維がアセチル化されている、請求項1乃至3のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記水系分散液中の前記疎水化セルロース繊維の濃度が1重量%以上である、請求項1乃至4のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記バインダーが高分子バインダーである、請求項1乃至5のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記バインダーが架橋性である、請求項1乃至6のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 前記水系分散液が界面活性剤を含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の電気化学素子用セパレータの製造方法。
- 請求項1乃至8のいずれかに記載の製造方法により得られる電気化学素子用セパレータ。
- 空孔率が30〜70%である請求項9記載の電気化学素子用セパレータ。
- 請求項9又は10記載の電気化学素子用セパレータを備える電気化学素子。
- 電池又はキャパシタである請求項11に記載の電気化学素子。
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