以下、さらに詳しく、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維およびサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法を実施するための形態について説明をする。
本発明にかかるサイジング剤塗布炭素繊維は、炭素繊維に、分子内に水酸基とエポキシ基を有するエポキシ化合物(A)を主成分として含むサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、前記サイジング剤には、窒素あるいはリン含有量で1.3質量%以下となる硬化剤を含んでおり、かつ、前記サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミド溶媒に浸漬し超音波処理することで溶出した前記サイジング剤の水酸基価(a)meq./gとエポキシ価(b)meq./gが、下記(I)から(III)を満たす。
(I)8≦(a)+(b)≦16
(II)(a)/(b)≧2
(III)(b)≧0.5。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲を全て満たすものは、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にも、プリプレグを長期保管したときの物性低下が少なく、複合材料用の炭素繊維に好適なものである。
まず、本発明で使用するサイジング剤塗布炭素繊維およびそれに用いるサイジング剤の各構成要素について説明する。
本発明のエポキシ化合物(A)は分子内に水酸基とエポキシ基を有する化合物である。エポキシ化合物(A)にエポキシ基および水酸基を含むことで、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基および水酸基の強固な結合を形成することができ、接着性が向上するため好ましい。エポキシ基は、特に炭素繊維と強固な結合を有することで、エポキシ基を含むサイジング剤を用いた場合には炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が高いことが確認されている。一方、マトリックス樹脂中の硬化剤に代表される官能基を有する化合物との反応性が高く、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合、プリプレグの状態で長期間保管すると、マトリックス樹脂とサイジング剤の相互作用により界面層の構造が変化し、そのプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料の物性が低下する課題があることが確認されている。
また、水酸基は、炭素繊維との接着性を向上させ、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた時に、マトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の物性変化が小さいという利点がある。しかしながら、水酸基のみのサイジング剤を用いた場合、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が若干劣ることが確認されている。本発明において、エポキシ化合物(A)が分子内に水酸基とエポキシ基を有するということは、1分子内に一つ以上の官能基を持つ必要はなく、平均的に有していれば十分である。
したがって、本発明においては、炭素繊維に塗布されたエポキシ化合物(A)を主成分として含むサイジング剤の水酸基とエポキシ基の比率が重要であり、これを良好に表現できる、サイジング剤塗布炭素繊維から溶出された成分に含まれている水酸基とエポキシ基の比率が重要であるといえる。本発明においては、サイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルムアミド溶媒に浸漬し超音波処理することで溶出した前記サイジング剤の水酸基価(a)meq./gとエポキシ価(b)meq./gが、下記(I)から(III)を満たすことが重要である。
(I)8≦(a)+(b)≦16
(II)(a)/(b)≧2
(III)(b)≧0.5。
かかる溶出したサイジング剤の水酸基とエポキシ基の比率は、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維をN,N−ジメチルホルム溶媒中に浸漬し、各30分間の超音波洗浄を3回行うことで繊維から溶出させたサイジング剤溶液を分析することによって求めることができる。なお、サイジング剤塗布炭素繊維からサイジング剤を溶出した時に、炭素繊維に残存するサイジング剤は0.20質量%以下になることが好ましい。
サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量の変化を測定し、質量変化量を加熱処理前の質量で除した値(質量%)とする。
本発明のサイジング剤の水酸基価(a)、エポキシ価(b)は塗布するのに用いるサイジング剤の種類に加えて、後述するサイジング剤およびサイジング剤塗布炭素繊維の熱処理によって制御することが可能である。熱履歴により、炭素繊維に塗布したエポキシ化合物は自己縮合あるいは水との反応により加水分解することで、制御することができる。本発明においては、水酸基を増やす観点から水との反応による加水分解が好ましく用いられる。
従って、本発明においては、用いるサイジング剤の種類そのものは公知のものも差し支えはなく、サイジング剤塗布炭素繊維に塗布されているサイジング剤を上記範囲に制御することでプロセス性、コンポジット物性、プリプレグ保管時の経時変化を抑制することが重要である。
本発明において、水酸基価(a)meq./gとエポキシ価(b)meq./gの合計((a)+(b))が8〜16meq./gである。8meq./g以上であることで、サイジング剤の官能基が十分となり接着性がより高くなる。好ましい範囲は、9meq./g以上であり、さらに好ましくは、11meq./g以上である。さらに、(a)+(b)が16meq./g以下にあることで、柔軟性が高くなり、拡がり性が良好になる。
また、本発明において、水酸基価(a)meq./gとエポキシ価(b)meq./gの比である(a)/(b)が2以上である。2以上であることは、エポキシ基に対して水酸基の量が多いことを示しており、炭素繊維表面との相互作用を高めながらマトリックス樹脂との反応性を抑制できる。また、(a)/(b)は4以上がより好ましい。
本発明における溶出したサイジング剤のエポキシ価(b)は、0.5meq./g以上である。エポキシ基は水酸基に比べて炭素繊維表面との相互作用が強く、0.5meq./g以上で、サイジング剤と炭素繊維の間の接着性がより向上するとともに、該サイジング剤塗布炭素繊維を炭素繊維強化複合材料に用いた場合に、コンポジットの物性が向上する。また、エポキシ価(b)は1meq./g以上が好ましい。一方、エポキシ基は反応性が高いため、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合に、サイジング剤中のエポキシ基とマトリックス樹脂が反応することで、プリプレグを長期保管したときに物性低下が生じることが分かっている。エポキシ価を4meq./g以下にすることで、プリプレグを長期保管した時の物性低下が小さくなるため好ましい。また、エポキシ価(b)は3meq./g以下であることがより好ましく、2meq./g以下であることがさらに好ましい。
なお、エポキシ価は、上記サイジング剤を溶出した溶液を用い、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。
また、本発明における溶出したサイジング剤の水酸基価(a)は、9meq./g以上であることが好ましい。水酸基価(a)が9meq./g以上であることで、エポキシ価が小さい場合においても、サイジング剤と炭素繊維の濡れ性が向上するため、サイジング剤が均一に付着し、接着性が良好になるため好ましい。また、水酸基価(a)は10meq./g以上であることがより好ましく、11meq./g以上であることがより好ましい。水酸基による水素結合によるサイジング剤の増粘を抑制することができる観点から、15meq./g以下が好ましい。
サイジング剤の水酸基価は、サイジング剤を溶出した溶媒を用いて、無水酢酸を用いて、水酸基をアセチル化し、生成した酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定する事により求めることができる。エポキシ基も滴定されるため、上記のエポキシ価の値で補正する。
また、本発明における溶出したサイジング剤の重量平均分子量は、1000〜5000であることが好ましい。重量平均分子量が1000以上であることで、サイジング剤塗布炭素繊維の解除時の粘着による単糸切れを抑制できるため好ましい。重量平均分子量は5000以下であることで、官能基を増やすことができ、接着性が良好になる。重量平均分子量は1000〜5000であることが好ましい。重量平均分子量は1500以上が好ましく、3000以下が好ましい。
重量平均分子量は、溶出したサイジング剤を、単分散ポリスチレン標準として、ジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)を溶媒としたゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で求めることができる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、エポキシ化合物(A)を主成分とする。主成分ということは、塗布前の溶媒を除いたサイジング剤全量に対して、50質量%以上であることを示す。また、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることが好ましい。エポキシ化合物(A)は1種類でも良いし、2種類以上を用いることもできる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤は、窒素あるいはリン含有量で1.3質量%以下となる硬化剤含む。本発明における硬化剤とは、熱硬化性樹脂に添加し反応させることによって、その樹脂を三次元網目構造化して硬化させる機能をもつ物質である。硬化後の樹脂の分子骨格成分となるものと、硬化反応を促進する触媒とのあるものの両方を含む。硬化剤のサイジング剤中の含有量を、窒素あるいはリン含有量で1.3質量%以下にすることで、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を使用したプリプレグ等を長期間保管した場合にも、エポキシ化合物の反応による界面層の変化を抑制することができるため、コンポジット物性が良好になることから好ましい。硬化剤のサイジング剤中の含有量は窒素あるいはリン含有量で0.025質量%以下が好ましく、0.005質量%以下がより好ましく、硬化剤をサイジング剤中に含まないことがもっとも好ましい。硬化剤とは、1級アミノ基、2級アミノ基を持つ化合物、3級アミン化合物、3級アミン塩、4級アンモニウム塩などが例示される。アミン化合物以外には、ホスホニウム塩などの活性水素を有する化合物も例示される。芳香族、脂肪族のいずれも含まれる。また、単官能あるいは多官能のどちらにおいても、硬化を促進する効果を有する。
エポキシ化合物(A)はエポキシ基、水酸基以外に、ハロゲン、カルボキシル基、ウレア基、スルホニル基、スルホ基を含むことができる。エポキシ化合物(A)が、他の官能基を有するエポキシ化合物であると、エポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合あるいは水素結合を形成した場合でも、他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上するため好ましい。
特に、ハロゲンを含むことで、極性が高まり接着性が向上することで好ましい。ハロゲンは、臭素、塩素、フッ素が好ましい。エポキシ化合物を製造する際に、水酸基を持つ化合物にエピクロロヒドリンを作用させる方法が好ましく用いられる。このときに、残存する塩素量を本発明の好ましい範囲に制御できるというプロセス性の観点、ハロゲンは塩素がより好ましい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の表面のX線光電子分光法によって測定されるハロゲンと炭素の原子数の比率であるハロゲン/炭素は0.005〜0.030であることが好ましい。ハロゲンと炭素の原子数の比率が0.005以上になることで、理由は定かではないが、接着性が向上するため好ましい。耐腐食性等の観点から、0.030以下であることから好ましい。0.010以上が好ましく、0.020以下が好ましい。
なお、サイジング剤表面のハロゲン濃度はX線光電子分光法によって、次の手順に従って求めたものである。ハロゲンが塩素である場合を例にとって、説明する。まず、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8torrに保ち測定する。光電子脱出角度45°で測定する。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、Cl2pピーク面積は、195〜205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(Cl/C)は、上記Cl2pピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.04である。
なお、ハロゲン化合物がフッ素の場合は、F1sピーク面積は、681〜691eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、装置固有の感度補正値は3.18を用いる。また、ハロゲン化合物が臭素の場合は、Br3dピーク面積は、65〜75eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、装置固有の感度補正値は3.66を用いる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の主成分として用いられるエポキシ化合物(A)として、脂肪族エポキシ化合物(A1)、芳香族エポキシ化合物(A2)が挙げられる。
本発明で好適に使用される脂肪族エポキシ化合物(A1)は、芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が向上する。
また、本発明で好適に使用される、芳香族エポキシ化合物(A2)は、分子内に芳香環を1個以上有するエポキシ化合物である。芳香環とは、炭素のみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる炭素繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。サイジング剤が芳香環を1個以上有する芳香族エポキシ化合物(A2)を含むと、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上するため、好ましい。
なお、本発明においては、接着性の観点から、脂肪族エポキシ化合物(A1)が特に好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A1)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の二重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。プリプレグを長時間保管した時の物性低下を抑制する観点から、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物が好ましい。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、ポリオールとエピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。たとえば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物である。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(A1)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
脂肪族エポキシ化合物(A1)としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(登録商標)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス(株)製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する脂肪族エポキシ化合物(A1)としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する脂肪族エポキシ化合物(A1)としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(登録商標)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395((株)ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する脂肪族エポキシ化合物(A1)としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシ化合物は脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(A1)は、上述した中でも高い接着性の観点からグリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールから選択される1種と、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(A1)は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において使用する脂肪族エポキシ化合物(A1)のエポキシ価は3meq./g以上であることが好ましい。3meq./g以上であることで、水存在下で熱処理した時に水酸基を多く含むことができるため好ましい。また、脂肪族エポキシ化合物(A1)のエポキシ価は、4meq./g以上がより好ましい。炭素繊維に塗布されたサイジング剤に含まれる官能基数を制御する観点から15meq./g以下が好ましく、10meq./g以下がより好ましい。8meq./g以下がさらに好ましい。
さらに、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維に塗布されるサイジング剤には、目的に応じて、エポキシ化合物(A)以外の成分を含めることができる。サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与する材料を配合することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることができる。ポリエステルあるいはポリウレタンなどの一般的なサイジング剤を用いることができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明において、界面活性剤などの添加剤として例えば、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイド、高級アルコール、多価アルコール、アルキルフェノール、およびスチレン化フェノール等にポリエチレンオキサイドやポリプロピレンオキサイド等のポリアルキレンオキサイドが付加した化合物、およびエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体等のノニオン系界面活性剤が好ましく用いられる。また、本発明の効果に影響しない範囲で、適宜、ポリエステル樹脂、および不飽和ポリエステル化合物等を添加してもよい。
本発明において、サイジング剤の炭素繊維への付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して、0.05〜5.0質量%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.95質量%の範囲である。サイジング剤の付着量が0.05質量%以上であると、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグ化および製織する際に、通過する金属ガイド等による摩擦に耐えることができ、毛羽発生が抑えられ、炭素繊維シートの平滑性などの品位が優れる。一方、サイジング剤の付着量が5.0質量%以下であると、サイジング剤塗布炭素繊維の周囲のサイジング剤膜に阻害されることなくマトリックス樹脂が炭素繊維内部に含浸され、得られる複合材料においてボイド生成が抑えられ、複合材料の品位が優れ、同時に機械物性が優れる。サイジング剤の付着量は上述の方法で求められる。
本発明において、炭素繊維に塗布され乾燥されたサイジング剤層の厚さは、2.0〜20nmの範囲内で、かつ、厚さの最大値が最小値の2倍を超えないことが好ましい。このような厚さの均一なサイジング剤層により、安定して大きな接着性向上効果が得られ、さらには、安定した高次加工性が得られる。
次に、本発明で使用する炭素繊維について説明する。本発明において使用する炭素繊維としては、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維が挙げられる。なかでも、強度と弾性率のバランスに優れたPAN系炭素繊維が好ましく用いられる。
本発明にかかる炭素繊維は、得られた炭素繊維束のストランド強度が、3.5GPa以上であることが好ましく、より好ましくは4GPa以上であり、さらに好ましくは5GPa以上である。また、得られた炭素繊維束のストランド弾性率が、220GPa以上であることが好ましく、より好ましくは240GPa以上であり、さらに好ましくは280GPa以上である。
本発明において、上記の炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
本発明において用いられる炭素繊維は、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmであることが好ましい。より好ましくは15〜80nmであり、30〜60nmが好適である。表面粗さ(Ra)が6.0〜60nmである炭素繊維は、表面に高活性なエッジ部分を有するため、前述したサイジング剤のエポキシ基等との反応性が向上し、界面接着性を向上することができ好ましい。また、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmである炭素繊維は、表面に凹凸を有しているため、サイジング剤のアンカー効果によって界面接着性を向上することができ好ましい。
炭素繊維表面の平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いることにより測定することができる。例えば、炭素繊維を長さ数mm程度にカットしたものを用意し、銀ペーストを用いて基板(シリコンウエハ)上に固定し、原子間力顕微鏡(AFM)によって各単繊維の中央部において、3次元表面形状の像を観測すればよい。原子間力顕微鏡としてはDigital Instuments社製 NanoScope IIIaにおいてDimension 3000ステージシステムなどが使用可能であり、以下の観測条件で観測することができる。
・走査モード:タッピングモード
・探針:シリコンカンチレバー
・走査範囲:0.6μm×0.6μm
・走査速度:0.3Hz
・ピクセル数:512×512
・測定環境:室温、大気中。
また、各試料について、単繊維1本から1箇所ずつ観察して得られた像について、繊維断面の丸みを3次曲面で近似し、得られた像全体を対象として、平均粗さ(Ra)を算出し、単繊維5本について、平均粗さ(Ra)を求め、平均値を評価することが好ましい。
本発明において炭素繊維の総繊度は、400〜3000テックスであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは1000〜100000本であり、さらに好ましくは3000〜50000本である。
本発明において、炭素繊維の単繊維径は4.5〜7.5μmが好ましい。7.5μm以下であることで、強度と弾性率の高い炭素繊維を得られるため、好ましく用いられる。6μm以下であることがより好ましく、さらには5.5μm以下であることが好ましい。4.5μm以上で工程における単繊維切断が起きにくくなり生産性が低下しにくく好ましい。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内のものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の強度の低下を抑えることができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。光電子脱出角度90°で測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度(O/C)は、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面のカルボキシル基(COOH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面カルボキシル基濃度(COOH/C)が、0.003〜0.015の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面のカルボキシル基濃度(COOH/C)の、より好ましい範囲は、0.004〜0.010である。また、本発明に用いる炭素繊維は、化学修飾X線光電子分光法により測定される炭素繊維表面の水酸基(OH)と炭素(C)の原子数の比で表される表面水酸基濃度(COH/C)が、0.001〜0.050の範囲内であることが好ましい。炭素繊維表面の表面水酸基濃度(COH/C)は、より好ましくは0.010〜0.040の範囲である。
炭素繊維の表面カルボキシル基濃度(COOH/C)、水酸基濃度(COH/C)は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。
表面水酸基濃度(COH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.04モル/リットルの無水3弗化酢酸気体を含んだ乾燥窒素ガス中に室温で10分間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリビニルアルコールのC1sピーク分割から反応率rが求められる。
表面水酸基濃度(COH/C)は、下式により算出した値で表される。
COH/C={[F1s]/(3k[C1s]−2[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
表面カルボキシル基濃度(COOH/C)は、次の手順に従って化学修飾X線光電子分光法により求められる。先ず、溶媒でサイジング剤などを除去した炭素繊維束をカットして白金製の試料支持台上に拡げて並べ、0.02モル/リットルの3弗化エタノール気体、0.001モル/リットルのジシクロヘキシルカルボジイミド気体および0.04モル/リットルのピリジン気体を含む空気中に60℃で8時間さらし、化学修飾処理した後、X線光電子分光装置に光電子脱出角度を35゜としてマウントし、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー内を1×10−8Torrの真空度に保つ。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積[C1s]は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、F1sピーク面積[F1s]は、682〜695eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。また、同時に化学修飾処理したポリアクリル酸のC1sピーク分割から反応率rを、O1sピーク分割からジシクロヘキシルカルボジイミド誘導体の残存率mが求められる。
表面カルボキシル基濃度COOH/Cは、下式により算出した値で表した。
COOH/C={[F1s]/(3k[C1s]−(2+13m)[F1s])r}×100(%)
なお、kは装置固有のC1sピーク面積に対するF1sピーク面積の感度補正値であり、米国SSI社製モデルSSX−100−206を用いる場合の、上記装置固有の感度補正値は3.919である。
次に、PAN系炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の前駆体繊維を得るための紡糸方法としては、湿式、乾式および乾湿式等の紡糸方法を用いることができる。高強度の炭素繊維が得られやすいという観点から、湿式あるいは乾湿式紡糸方法を用いることが好ましい。特に乾湿式紡糸方法を用いることで、強度の高い炭素繊維を得ることができることから、より好ましい。
炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性をさらに向上するために、表面粗さ(Ra)が6.0〜100nmの炭素繊維が好ましく、該表面粗さの炭素繊維を得るためには、湿式紡糸方法により前駆体繊維を紡糸することが好ましい。
紡糸原液には、ポリアクリロニトリルのホモポリマーあるいは共重合体を溶剤に溶解した溶液を用いることができる。溶剤としてはジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶剤や、硝酸、ロダン酸ソーダ、塩化亜鉛、チオシアン酸ナトリウムなどの無機化合物の水溶液を使用する。ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミドが溶剤として好適である。
上記の紡糸原液を口金に通して紡糸し、紡糸浴中、あるいは空気中に吐出した後、紡糸浴中で凝固させる。紡糸浴としては、紡糸原液の溶剤として使用した溶剤の水溶液を用いることができる。紡糸原液の溶剤と同じ溶剤を含む紡糸液とすることが好ましく、ジメチルスルホキシド水溶液、ジメチルアセトアミド水溶液が好適である。紡糸浴中で凝固した繊維を、水洗、延伸して前駆体繊維とする。得られた前駆体繊維を耐炎化処理ならびに炭化処理し、必要によってはさらに黒鉛化処理をすることにより炭素繊維を得る。炭化処理と黒鉛化処理の条件としては、最高熱処理温度が1100℃以上であることが好ましく、より好ましくは1400〜3000℃である。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、これにより、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが、接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5mol/Lの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1mol/Lの範囲内である。電解液の濃度が0.01mol/L以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の濃度が5mol/L以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電解液の温度が100℃未満であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m2当たり1.5〜1000アンペア/m2の範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/m2の範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m2以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コスト的に有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m2以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法またはスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。一方、乾燥の効率を考慮すれば、乾燥温度は、110℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。
次に、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法について説明する。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法は、以下の(V)または/および(VI)を満たす工程を含むことが好ましい。
(V)水存在下20〜150℃で0.5〜20000時間熱処理したエポキシ化合物(A)を主成分とするサイジング剤含有液を炭素繊維に塗布する工程。
(VI)エポキシ化合物(A)を主成分とするサイジング剤含有液を炭素繊維に塗布し乾燥後に、さらに20〜150℃、湿度50〜90%の湿潤下で20〜20000時間熱処理する工程。
上記方法によって、特定の割合で水酸基、エポキシ基を持つサイジング剤塗布炭素繊維を好適に得ることができる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法は、熱処理により、(V)に示す熱処理をする前のエポキシ価(b1)と熱処理をした後のエポキシ価(b2)、および前記(VI)に示す熱処理をする前のエポキシ価(b3)と熱処理をした後のエポキシ価(b4)が(VII)を満たすものとすることが好ましい。
(VII)1.5≦[(b1)/(b2)]×[(b3)/(b4)]≦10
上記範囲を満たすことで、加水分解によりエポキシ基と水酸基の比率が好ましい範囲に入ることができる。前記[(b1)/(b2)]×[(b3)/(b4)]は、2以上がより好ましく、また、5以下がより好ましい。
本発明は、炭素繊維にサイジング剤を塗布する前にエポキシ化合物(A)を水存在下で熱処理する方法が好ましく用いられる。
水存在下で加熱をすることで、エポキシ基の加水分解が促進され、水酸基の割合を増加させることができる。なお、水存在下で加熱をした後で、エポキシ化合物(A)を長期保管する場合あるいはサイジング剤含有液の溶液として水以外を用いる場合には、水を留去することが好ましい。水分量を200ppm以下にして保管することが好ましい。また、100ppm以下であることがより好ましい。水分量を200ppm以下にすることで、長期保管時のエポキシ価の低下を抑制できる。サイジング剤含有液として水を溶媒として用いる場合には、エポキシ化合物(A)を熱処理する時に用いた水を留去せずに、そのままサイジング剤含有液として用いても良い。
水存在下で熱処理する時の、水溶液中のエポキシ化合物(A)の濃度は0.2質量%以上を採用することが好ましい。0.2質量%以上で、サイジング剤含有液として用いる時に水を除去して濃縮する必要がないから好ましい。上限は、水が存在していれば良く限定されないが、攪拌性を向上することで均一に熱処理する観点からエポキシ化合物(A)は95質量%以下が好ましい。
熱処理温度は、20℃以上、150℃以下が好ましい。20℃以上で反応が促進され、150℃以下の物性劣化が抑制される。98℃以下にすることで常圧処理できることから好ましい。50℃以上、90℃以下が好ましい。
時間は、熱処理温度、化合物の反応性により適宜決められるが、反応の均一性および生産性の観点から、0.5時間以上、20000時間以下が好ましく用いられる。生産性の観点から2時間以上、30時間以下がより好ましい。
また、上記の水存在下での加熱に加えて、水が存在しない中で加熱することもできる。エポキシ基、水酸基が分子間で反応し、官能基の減少および分子量を増加させることができる。
加熱温度は、130℃以上、300℃以下が好ましい。130℃以上であることで、反応が促進され、300℃以下でエポキシ化合物(A)の分解が抑制される。180℃以上、260℃以下が好ましい。時間は、温度、化合物の反応性により適宜決められるが、反応の均一性および生産性の観点から、1分以上、10000分以下が好ましく用いられる。5分以上、1000分以下がより好ましい。
また、熱処理には、水溶液あるいはエポキシ化合物(A)をオーブン中で加熱することもできるし、フラスコ等に代表される反応容器に移して攪拌しながら加熱しても良い。加圧容器中で加圧下反応させても良い。本発明において熱処理する際には、反応の制御を阻害しない範囲で、エポキシ化合物(A)以外の成分が含まれていても良い。また、反応を促進するために、アルカリ、酸などの反応促進剤を添加しても良いが、サイジング剤に残存することで、プリプレグの長期保管での物性低下を抑制する観点から用いない方が好ましい。
本発明において、炭素繊維へのサイジング剤の塗布方法としては、溶媒に、エポキシ化合物(A)ならびにその他の成分を同時に溶解または分散したサイジング剤含有液を用いて、1回で塗布する方法や、複数回において炭素繊維に塗布する方法が好ましく用いられる。本発明においては、サイジング剤の構成成分をすべて含むサイジング剤含有液を、炭素繊維に1回で塗布する1段付与を採用することが効果および処理のしやすさから好ましく用いられる。
本発明にかかるサイジング剤は、サイジング剤成分を溶媒で希釈したサイジング剤含有液として用いることができる。このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドが挙げられるが、なかでも、取扱いが容易であり、安全性の観点から有利であることから、界面活性剤で乳化させた水分散液あるいは水溶液が好ましく用いられる。
サイジング剤含有液におけるサイジング剤の濃度は、通常は0.2〜20質量%の範囲が好ましい。なお、サイジング剤含有液は、エポキシ化合物(A)を1回で溶媒に混合して希釈しても良い。また、エポキシ化合物(A)を溶媒で希釈して、濃度の高いサイジング剤含有液を得た後に、さらに溶媒で希釈するなど、複数回に分けて希釈することもできる。
サイジング剤の炭素繊維への付与(塗布)手段としては、例えば、ローラーを介してサイジング剤含有液に炭素繊維を浸漬する方法、サイジング剤含有液の付着したローラーに炭素繊維を接する方法、サイジング剤含有液を霧状にして炭素繊維に吹き付ける方法などがある。また、サイジング剤の付与手段は、バッチ式と連続式いずれでもよいが、生産性がよくバラツキが小さくできる連続式が好ましく用いられる。この際、炭素繊維に対するサイジング剤有効成分の付着量が適正範囲内で均一に付着するように、サイジング剤含有液濃度、温度および糸条張力などをコントロールすることが好ましい。また、サイジング剤付与時に、炭素繊維を超音波で加振させることも好ましい態様である。
サイジング液を炭素繊維に塗布する際のサイジング剤含有液の液温は、溶媒蒸発によるサイジング剤の濃度変動を抑えるため、10〜50℃の範囲であることが好ましい。また、サイジング剤含有液を付与した後に、余剰のサイジング剤含有液を絞り取る絞り量を調整することにより、サイジング剤の付着量の調整および炭素繊維内への均一付与ができる。
本発明において、エポキシ化合物(A)を主成分とするサイジング剤含有液を炭素繊維に塗布した後に熱履歴を与える方法として、炭素繊維にサイジング剤含有液を塗布した後に熱処理すること、およびサイジング剤塗布炭素繊維を巻取りしたボビンに熱処理する方法が挙げられる。
サイジング剤塗布炭素繊維の製造方法の中で、サイジング剤含有液を塗布した後にサイジング剤塗布炭素繊維に含まれている溶媒を除去する目的で、乾燥する方法が一般的に採用される。本発明において、サイジング剤含有液を炭素繊維に塗布した後に特定の温度、時間の熱処理を与えることで、プロセス性が良好になり好ましい。熱処理時間を長くあるいは熱処理温度を高くすることで、エポキシ基、水酸基の分子間反応が促進され、エポキシ価、水酸基価を低下し、分子量を増加することができる。また、短時間で官能基、分子量を制御できる点が好ましい。乾燥下での熱処理は、乾燥工程と同一でも良いし、別途行っても良い。
熱処理は160〜300℃の温度範囲で30〜900秒間熱処理することが好ましい。熱処理条件は、好ましくは200〜250℃の温度範囲で60〜500秒間であり、より好ましくは210〜240℃の温度範囲で90〜300秒間である。熱処理条件が、160℃以上および30秒以上であると、分子量が増加し、炭素繊維をボビンから解舒する時の粘着等による糸切れを抑制できるため好ましい。一方、熱処理条件が、300℃以下および900秒以下で、サイジング剤の分解および揮発を抑制できるため、炭素繊維との相互作用が促進され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が十分となり好ましい。
また、サイジング剤塗布炭素繊維を湿潤下で熱処理することが好ましい。サイジング剤塗布炭素繊維を湿潤下で熱処理する方法としては、連続処理でもサイジング剤塗布炭素繊維を巻き取ったボビン形状で熱処理しても構わない。連続処理の場合には、均一に処理されるため好ましく、ボビン状態処理することで処理時間を長くとることができ、プロセス的に好ましい。連続処理の場合には、スチームを通したチューブを通過させること、湿度を一定にしたボックス内を通過させることができる。また、ボビン状態での処理では恒温恒湿の槽に保管することができる。なお、温度、湿度は熱処理中、一定でも構わないが、途中で変えても構わない。湿度を制御することで、エポキシ基と水酸基の分子間反応だけでなく、エポキシ基の加水分解を制御することができる。また、温度を上げることで、反応を促進することができる。好ましい熱処理条件は、20〜150℃の温度範囲、50〜90%の湿度範囲の湿潤下で20〜20000時間である。20〜40℃、湿度50〜70%で10000〜20000時間の熱処理を行うことが均一性の点から好ましい。また、60〜98℃、湿度70〜90%で20〜500時間の熱処理を行うことが生産性の点から好ましい。
また、前記熱処理は、マイクロ波照射および/または赤外線照射で行うことも可能である。マイクロ波照射および/または赤外線照射によりサイジング剤塗布炭素繊維を加熱処理した場合、マイクロ波が炭素繊維内部に侵入し、吸収されることにより、短時間に被加熱物である炭素繊維を所望の温度に加熱できる。また、マイクロ波照射および/または赤外線照射により、炭素繊維内部の加熱も速やかに行うことができるため、炭素繊維束の内側と外側の温度差を小さくすることができ、サイジング剤の接着ムラを小さくすることが可能となる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、例えば、トウ、織物、編物、組み紐、ウェブ、マットおよびチョップド等の形態で好適に用いられる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、マトリックス樹脂との組み合わせで、炭素繊維強化複合材料として用いることができる。マトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂(ここで説明される樹脂は、樹脂組成物であってもよい)が用いられる。
次に、マトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いた、炭素繊維強化熱硬化性樹脂系複合材料について説明する。
特に、比強度と比弾性率が高いことを要求される用途には、炭素繊維が一方向に引き揃えたトウが最も適しており、さらに、マトリックス樹脂を含浸したプリプレグを用いる方法が好ましく用いられる。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、熱硬化性樹脂との組み合わせでプリプレグおよび炭素繊維強化複合材料に用いることができる。本発明において、プリプレグは、前述したサイジング剤塗布炭素繊維、または前述の方法で製造されたサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂を含む。
本発明で用いられる熱硬化性樹脂は、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する樹脂であれば特に限定されない。かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂および熱硬化性ポリイミド樹脂等が挙げられ、これらの変性体および2種類以上ブレンドした樹脂なども用いることができる。また、これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合するものであっても良い。
これらの熱硬化性樹脂の中でも、機械特性のバランスに優れ、硬化収縮が小さいという利点を有するため、エポキシ化合物(C)を少なくとも含むエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物(C)としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物などの中から1種以上を選択して用いることができる。
ここで、ビスフェノール型エポキシ化合物とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830、835(以上、DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ化合物としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)などが挙げられる。
また、アミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ化合物の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型エポキシ化合物の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200L(エポキシ当量245〜250、軟化点54〜58)、“エピクロン(登録商標)”HP7200(エポキシ当量255〜260、軟化点59〜63)、“エピクロン(登録商標)”HP7200H(エポキシ当量275〜280、軟化点80〜85)、“エピクロン(登録商標)”HP7200HH(エポキシ当量275〜280、軟化点87〜92)(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、XD−1000−L(エポキシ当量240〜255、軟化点60〜70)、XD−1000−2L(エポキシ当量235〜250、軟化点53〜63)(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix(登録商標)”556(エポキシ当量215〜235、軟化点79℃)(Vantico Inc社製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ化合物の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348((株)ADEKA製)などが挙げられる。
テトラフェニルエタン型エポキシ化合物の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ化合物である“jER(登録商標)”1031(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
トリフェニルメタン型エポキシ化合物の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
特にエポキシ化合物(C)として複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂が好ましい。複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂は、多架橋密度が高く、炭素繊維強化複合材料の耐熱性および圧縮強度を向上させることができるため好ましい。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの化合物は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取扱い性の点から、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1’−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品として、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(東都化成(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)604”(三菱化学(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールとしては、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY0510、“アラルダイト(登録商標)”MY0600(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
複数の官能基を有するグリシジルアミン型エポキシ化合物として、上述した中でもグリシジルアミン骨格を少なくとも1つ有し、かつエポキシ基を3以上有する芳香族エポキシ化合物(C1)であることが好ましい。
エポキシ基を3以上有するグリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物(C1)を含むエポキシ樹脂は、耐熱性を高める効果があり、その割合は、エポキシ樹脂中に30〜100質量%含まれていることが好ましく、より好ましい割合は50質量%以上である。グリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物の割合が30質量%以上で、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度が向上、耐熱性が良好になるため好ましい。
これらのエポキシ化合物(C)を用いる場合、必要に応じて酸や塩基などの触媒や硬化剤を添加してよい。例えば、エポキシ樹脂の硬化には、ハロゲン化ホウ素錯体、p−トルエンスルホン酸塩などのルイス酸や、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタンおよびそれらの誘導体や異性体などのポリアミン硬化剤などが好ましく用いられる。
本発明のプリプレグにおいて、硬化剤には、潜在性硬化剤(B)を用いることが好ましい。ここで説明される潜在性硬化剤は、本発明の熱硬化性樹脂の硬化剤であって、温度をかけることで活性化してエポキシ基等の反応基と反応する硬化剤であり、70℃以上で反応が活性化することが好ましい。ここで、70℃で活性化するとは、反応開始温度が70℃の範囲にあることをいう。かかる反応開始温度(以下、活性化温度という)は例えば、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。具体的には、エポキシ当量184〜194程度のビスフェノールA型エポキシ化合物100質量部に評価対象の硬化剤10質量部を加えたエポキシ樹脂組成物について、示差走査熱量分析により得られる発熱曲線の変曲点の接線とベースラインの接線の交点から求められる。
潜在性硬化剤(B)は、芳香族アミン硬化剤(B1)、またはジシアンジアミドもしくはその誘導体(B2)であることが好ましい。芳香族アミン硬化剤(B1)としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
芳香族アミン硬化剤(B1)の市販品としては、セイカキュアS(和歌山精化工業(株)製)、MDA−220(三井化学(株)製)、“jERキュア(登録商標)”W(ジャパンエポキシレジン(株)製)、および3,3’−DAS(三井化学(株)製)、Lonzacure(登録商標)M−DEA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−DIPA(Lonza(株)製)、“Lonzacure(登録商標)”M−MIPA(Lonza(株)製)および“Lonzacure(登録商標)”DETDA 80(Lonza(株)製)などが挙げられる。
ジシアンジアミド誘導体またはその誘導体(B2)とは、アミノ基、イミノ基およびシアノ基の少なくとも一つを用いて反応させた化合物であり、例えば、o−トリルビグアニド、ジフェニルビグアニドや、ジシアンジアミドのアミノ基、イミノ基またはシアノ基にエポキシ樹脂組成物に用いるエポキシ化合物のエポキシ基を予備反応させたものである。
ジシアンジアミドまたはその誘導体(B2)の市販品としては、DICY−7、DICY−15(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)などが挙げられる。
芳香族アミン硬化剤(B1)、ジシアンジアミドまたはその誘導体(B2)以外の硬化剤としては、脂環式アミンなどのアミン、フェノール化合物、酸無水物、ポリアミノアミド、有機酸ヒドラジド、イソシアネートを芳香族ジアミン硬化剤に併用して用いてもよい。
また、硬化剤の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、繊維強化複合材料のガラス転移温度や強度が不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
また、熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化を促進させることを目的に、硬化促進剤(D)を配合することもできる。
硬化促進剤(D)としては、ウレア化合物、第三級アミンとその塩、イミダゾールとその塩、トリフェニルホスフィンまたはその誘導体、カルボン酸金属塩や、ルイス酸類やブレンステッド酸類とその塩類などが挙げられる。中でも、保存安定性と触媒能力のバランスから、ウレア化合物(D1)が好適に用いられる。
特に、硬化促進剤(D)としてウレア化合物(D1)が用いられる場合、潜在性硬化剤(B)としてジシアンジアミドまたはその誘導体(D2)と組み合わせて用いられることが好適である。
ウレア化合物(D1)としては、例えば、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア、トルエンビス(ジメチルウレア)、4,4’−メチレンビス(フェニルジメチルウレア)、3−フェニル−1,1−ジメチルウレアなどを使用することができる。かかるウレア化合物の市販品としては、DCMU99(保土谷化学(株)製)、“Omicure(登録商標)”24、52、94(以上、Emerald Performance Materials,LLC製)などが挙げられる。
ウレア化合物(D1)の配合量は、全エポキシ樹脂成分100質量部に対して1〜4質量部とすることが好ましい。かかるウレア化合物(D1)の配合量が1質量部に満たない場合は、反応が十分に進行せず、硬化物の弾性率と耐熱性が不足することがある。また、かかるウレア化合物の配合量が4質量部を超える場合は、エポキシ化合物の自己重合反応が、エポキシ化合物と硬化剤との反応を阻害するため、硬化物の靭性が不足することや、弾性率が低下することがある。
また、これらエポキシ樹脂と硬化剤、あるいはそれらの一部を予備反応させた物を組成物中に配合することもできる。この方法は、粘度調節や保存安定性向上に有効な場合がある。
本発明のプリプレグには、靱性や流動性を調整するために、熱可塑性樹脂が含まれていることが好ましく、耐熱性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、熱可塑性樹脂のオリゴマーを含ませることができる。また、エラストマー、フィラーおよびその他の添加剤を配合することもできる。なお、熱可塑性樹脂は、プリプレグを構成する熱硬化性樹脂に含まれていると良い。さらに、熱硬化性樹脂として、エポキシ樹脂が用いられる場合、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。かかるエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂と炭素繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
エポキシ樹脂可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂として、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂やスルホニル基を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。
かかるアルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができ、また、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドンを挙げることができ、さらに、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
エポキシ樹脂に可溶で水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラール(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ(株)製)、ポリスルホンとして“スミカエクセル(登録商標)”(住友化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”、RADEL(登録商標)”(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との相溶性が高く、増粘等の流動性調整のために好適に用いられる。アクリル系樹脂の市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)、“Nanostrength(登録商標)”E40F、M22N、M52N(アルケマ(株)製)などを挙げることができる。
特に、耐熱性をほとんど損なわずにこれらの効果を発揮できることから、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。ポリエーテルスルホンとしては、“スミカエクセル”(登録商標)3600P、“スミカエクセル”(登録商標)5003P、“スミカエクセル”(登録商標)5200P、“スミカエクセル”2(登録商標、以上、住友化学工業(株)製)7200P、“VIrantage”(登録商標)PESU VW−10200、“VIrantage”(登録商標)PESU VW−10700(登録商標、以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Ultrason”(登録商標)2020SR(BASF(株)製)、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム”(登録商標)1000、“ウルテム”(登録商標)1010、“ウルテム”(登録商標)1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などを使用することができる。
かかる熱可塑性樹脂は、特に含浸性を中心としたプリプレグ作製工程に支障をきたさないように、エポキシ樹脂組成物中に均一溶解しているか、粒子の形態で微分散していることが好ましい。
また、かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に溶解せしめる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、より好ましくは1〜25質量部である。一方、分散させて用いる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、より好ましくは15〜30質量部である。熱可塑性樹脂がかかる配合量に満たないと、靭性向上効果が不十分となる場合がある。また、熱可塑性樹脂が前記範囲を超える場合は、含浸性、タック・ドレープおよび耐熱性が低下する場合がある。
さらに、本発明のマトリックス樹脂を改質するために、上述した熱可塑性樹脂以外にエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂、エラストマー、フィラー、ゴム粒子、熱可塑性樹脂粒子、無機粒子およびその他の添加剤を配合することもできる。
本発明に好ましく用いられるエポキシ樹脂には、ゴム粒子を配合することもできる。かかるゴム粒子としては、架橋ゴム粒子、および架橋ゴム粒子の表面に異種ポリマーをグラフト重合したコアシェルゴム粒子が、取り扱い性等の観点から好ましく用いられる。
架橋ゴム粒子の市販品としては、カルボキシル変性のブタジエン−アクリロニトリル共重合体の架橋物からなるFX501P(JSR(株)製)、アクリルゴム微粒子からなるCX−MNシリーズ(日本触媒(株)製)、YR−500シリーズ(新日鐵化学(株)製)等を使用することができる。
コアシェルゴム粒子の市販品としては、例えば、ブタジエン・メタクリル酸アルキル・スチレン共重合物からなる“パラロイド(登録商標)”EXL−2655(呉羽化学工業(株)製)、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体からなる“スタフィロイド(登録商標)”AC−3355、TR−2122(以上、武田薬品工業(株)製)、アクリル酸ブチル・メタクリル酸メチル共重合物からなる“PARALOID(登録商標)”EXL−2611、EXL−3387(以上、Rohm&Haas社製)、“カネエース(登録商標)”MX(カネカ(株)製)等を使用することができる。
熱可塑性樹脂粒子としては、先に例示した各種の熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。中でも、ポリアミド粒子やポリイミド粒子が好ましく用いられ、ポリアミドの中でも、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン11やナイロン6/12共重合体やエポキシ化合物で変性されたナイロン(エポキシ変性ナイロン)は、特に良好な熱硬化性樹脂との接着強度を与えることができることから、落錘衝撃時の炭素繊維強化複合材料の層間剥離強度が高く、耐衝撃性の向上効果が高いため好ましい。ポリアミド粒子の市販品として、SP−500、SP−10(東レ(株)製)、“オルガソール(登録商標)”(アルケマ(株)製)等を使用することができる。
この熱可塑性樹脂粒子の形状としては、球状粒子でも非球状粒子でも、また多孔質粒子でもよいが、球状の方が樹脂の流動特性を低下させないため粘弾性に優れ、また応力集中の起点がなく、高い耐衝撃性を与えるという点で好ましい態様である。本発明では、本発明の効果を損なわない範囲において、エポキシ樹脂組成物の増粘等の流動性調整のため、エポキシ樹脂組成物に、シリカ、アルミナ、スメクタイトおよび合成マイカ等の無機粒子を配合することができる。
本発明のプリプレグは、炭素繊維同士の接触確率を高め炭素繊維強化複合材料の導電性を向上させる目的で、導電性フィラーを混合して用いることも好ましい。このような導電性フィラーとしては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、気相成長法炭素繊維(VGCF)、フラーレン、金属ナノ粒子、カーボン粒子、金属めっきした先に例示した熱可塑性樹脂の粒子、金属めっきした先に例示した熱硬化性樹脂の粒子などが挙げられ、単独で使用しても併用してもよい。なかでも安価で効果の高いカーボンブラック、カーボン粒子が好ましく用いられ、かかるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラックなどを使用することができ、これらを2種類以上ブレンドしたカーボンブラックも好適に用いられる。また、かかるカーボン粒子として“ベルパール(登録商標)”C−600、C−800、C−2000(鐘紡(株)製)、“NICABEADS(登録商標)”ICB、PC、MC(日本カーボン(株)製)などが具体的に挙げられる。金属めっきした熱硬化性樹脂粒子としてはジビニルベンゼンポリマー粒子にニッケルをメッキし、さらにその上に金をメッキした粒子“ミクロパール(登録商標)”AU215などが具体的に挙げられる。
次に、本発明のプリプレグの製造方法について説明する。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、サイジング剤塗布炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作成し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維束の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維束に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
熱および圧力を付与する方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがあり、特にスポーツ用品に関しては、ラッピングテープ法と内圧成形法が好ましく採用される。より高品質で高性能の積層複合材料が要求される航空機用途においては、オートクレーブ成形法が好ましく採用される。各種車輌外装にはプレス成形法が好ましく用いられる。
本発明のプリプレグの炭素繊維質量分率は、好ましくは40〜90質量%であり、より好ましくは50〜80質量%である。炭素繊維質量分率が低すぎると、得られる複合材料の質量が過大となり、比強度および比弾性率に優れる繊維強化複合材料の利点が損なわれることがあり、また、炭素繊維質量分率が高すぎると、マトリックス樹脂組成物の含浸不良が生じ、得られる複合材料がボイドの多いものとなり易く、その力学特性が大きく低下することがある。
本発明におけるサイジング剤塗布炭素繊維としては、オープンモールド形式、加圧成形、連続成形、マッチドダイ成形など、目的とする用途に合わせて任意の成形方法によって炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
また、本発明において炭素繊維強化複合材料を得る方法としては、上記プリプレグを用いるオートクレーブ成形等の他に、ハンドレイアップ、RTM、“SCRIMP(登録商標)”、フィラメントワインディング、プルトルージョンおよびSMCプレス成形、リアクションインジェクションモールド成形、レジンフィルムインフュージョンなどの成形法を目的に応じて選択し適用することができる。これらのいずれかの成形法を適用することにより、前述のサイジング剤塗布炭素繊維と熱硬化性樹脂組成物の硬化物を含む繊維強化複合材料が得られる。
本発明の炭素繊維強化複合材料は、航空機構造部材、風車の羽根、自動車外板およびICトレイやノートパソコンの筐体(ハウジング)などのコンピュータ用途、さらにはゴルフシャフト、バット、バトミントンやテニスラケットなどスポーツ用途に好ましく用いられる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(1)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法(ハロゲン/炭素)
本発明において、サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のハロゲン/炭素比率は、X線源としてAlKα1,2を用いたX線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。ハロゲンが塩素の場合を示す。
サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。なお、光電子脱出角度15°で実施した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせた。この時に、C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、Cl2pピーク面積は、195〜205eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。表面酸素濃度(Cl/C)は、上記Cl2pピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値として3.04を用いた。
なお、ハロゲン化合物がフッ素の場合は、F1sピーク面積は、681〜691eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、装置固有の感度補正値は3.18を用いた。また、ハロゲン化合物が臭素の場合は、Br3dピーク面積は、65〜75eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、装置固有の感度補正値は3.66を用いた。
(2)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤の溶出
サイジング剤塗布炭素繊維30gをN,N−ジメチルホルムアミド150ml中に浸漬し、超音波洗浄を行った。
(3)エポキシ価(b)(b3)(b4)
(2)で溶出したサイジング剤溶液を用いて、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。
(4)エポキシ価(b1)(b2)、およびエポキシ化合物(A)ないし熱硬化性樹脂に用いるエポキシ化合物(C)のエポキシ価
エポキシ化合物のエポキシ価は、エポキシ化合物をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解し、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めた。なお、(b1)(b2)は溶媒を除いた成分に対してエポキシ価を算出した。
(5)水酸基価(a)
(2)で溶出したサイジング剤溶液を用いて、無水酢酸を用いて、水酸基をアセチル化し、生成した酢酸を水酸化カリウム溶液で滴定する事により求めた。エポキシ基も滴定されるため、(3)で測定したエポキシ価の値で補正した。
(6)溶出されたサイジング剤の重量平均分子量
重量平均分子量は、ジメチルホルムアミド(0.01N−臭化リチウム添加)を溶媒としたGPCにより求めた。なお、測定サンプルは、(2)で溶出したサイジング液を用い、溶媒1mlに対してエポキシ化合物2mgになるように調整した。カラムとしてTSK−gelα3000(東ソー(株)社製)を使用し、単分散ポリスチレンを標準として算出した。なお、検出機は示差屈折率検出器を使用した。
(7)プロセス性
プリプレグを作成するときの、ボビンからサイジング剤塗布炭素繊維を引き出す時の解除性、ローラー上での毛羽の点で判断した。解除性が良く、毛羽が見られない場合は○とした。また、解除時あるいはローラー上で毛羽が多い時には×とした。本発明において、○が好ましい範囲である。
(8)炭素繊維束のストランド引張強度と弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(9)サイジング付着量の測定方法
約2gのサイジング付着炭素繊維束を秤量(W1)(少数第4位まで読み取り)した後、50ミリリットル/分の窒素気流中、450℃の温度に設定した電気炉(容量120cm3)に15分間放置し、サイジング剤を完全に熱分解させる。そして、20リットル/分の乾燥窒素気流中の容器に移し、15分間冷却した後の炭素繊維束を秤量(W2)(少数第4位まで読み取り)して、W1−W2によりサイジング付着量を求める。このサイジング付着量を炭素繊維束100質量部に対する量に換算した値(小数点第3位を四捨五入)を、付着したサイジング剤の質量部とした。測定は2回行い、その平均値をサイジング剤の質量部とした。
(10)界面剪断強度(IFSS)の測定
界面剪断強度(IFSS)の測定は、次の(イ)〜(ニ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ化合物“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)100質量部とメタフェニレンジアミン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)14.5質量部を、それぞれ容器に入れた。その後、上記のjER828の粘度低下とメタフェニレンジアミンの溶解のため、75℃の温度で15分間加熱した。その後、両者をよく混合し、80℃の温度で約15分間真空脱泡を行った。
(ロ)炭素繊維単糸を専用モールドに固定
炭素繊維束から単繊維を抜き取り、ダンベル型モールドの長手方向に単繊維に一定張力を与えた状態で両端を接着剤で固定した。その後、炭素繊維およびモールドに付着した水分を除去するため、80℃の温度で30分間以上真空乾燥を行った。ダンベル型モールドはシリコーンゴム製で、注型部分の形状は、中央部分巾5mm、長さ25mm、両端部分巾10mm、全体長さ150mmだった。
(ハ)樹脂注型から硬化まで
上記(ロ)の手順の真空乾燥後のモールド内に、上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込み、オーブンを用いて、昇温速度1.5℃/分で75℃の温度まで上昇し2時間保持後、昇温速度1.5℃/分で125℃の温度まで上昇し2時間保持後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型して試験片を得た。
(ニ)界面剪断強度(IFSS)の測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に繊維軸方向(長手方向)に引張力を与え、歪速度0.3%/秒で引張試験を行い、1%引張ごとに、偏光顕微鏡により試験片中心部22mmの範囲における繊維破断数を測定し、繊維破断数が飽和し、単繊維の破断が起こらなくなった時の繊維破断数をN(個)とした。繊維破断数を用いて、平均破断繊維長la(μm)=22×1000(μm)/N(個)を計算した。さらに、平均破断繊維長laから臨界繊維長lc(μm)=(4/3)×la(μm)を計算した。本発明においては炭素繊維と樹脂界面の接着強度の指標である界面剪断強度(IFSS)を、次式で算出した。σは(8)で求めたストランド引張強度、dは炭素繊維単糸の直径を示す。
界面剪断強度IFSS(MPa)=σ(MPa)×d(μm)/(2×lc)(μm)
IFSSの値が30MPa以上を○、20MPa以上30MPa未満を△、20MPa未満を×とした。○△が本発明において好ましい範囲である。
(11)繊維強化複合材料の0°の定義
JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向繊維強化複合材料の繊維方向を軸方向とし、その軸方向を0°軸と定義し軸直交方向を90°と定義した。
(12)繊維強化複合材料の0°引張強度の測定
作成後24時間以内の一方向プリプレグを所定の大きさにカットし、これを一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm2、2時間で硬化させ、一方向強化材(炭素繊維強化複合材料)を得た。この一方向強化材を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/分で引張試験を行った。
本発明において、0°引張強度の値(MPa)を(8)で求めたストランド強度の値で割り返したものを強度利用率(%)として、次式で求めた。
強度利用率=引張強度/((CF目付/190)×Vf/100×ストランド強度)×100
CF目付=190g/m2
Vf=56%
強度利用率が80%以上を○、80%未満を×とした。○が本発明において好ましい範囲である。
(13)プリプレグ保管後の0°引張強度
プリプレグを温度25℃、湿度60%で20日保管後、(12)と同様にして0°引張強度MPaを測定した。(12)で測定したプリプレグ作成後24時間以内に硬化させたときの0度引張強度(c)MPaと、プリプレグ保管後に硬化したときの0度引張強度(d)MPaとの関係、すなわち引張強度低下率を、下記式(1)から算出した。
((c)−(d))/(c) (%) (1)
引張強度低下率が5%未満を○、5%以上8%未満を△、8%以上を×とした。○が本発明において好ましい範囲である。
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・エポキシ化合物(A):脂肪族エポキシ化合物(A1)に該当する
“デナコール(登録商標)”EX−512(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ価:6.0meq./g、水酸基価2.6meq./g、ハロゲン(Cl):6.5質量%。
・潜在性硬化剤(B)成分:B−1は芳香族アミン硬化剤(B1)に該当する。
B−1:“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・エポキシ化合物(C)成分:C−1〜C−2。
C−1:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
エポキシ価:8.3meq./g
C−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ価:5.3meq./g。
・熱可塑性樹脂
“スミカエクセル(登録商標)”5003P(ポリエーテルスルホン、住友化学工業(株)製)。
(参考例1)
エポキシ化合物(A)として、エポキシ価6.0meq./gのポリグリセリンポリグリシジルエーテルの15質量%水溶液を、加熱攪拌して、表1に示すA−1〜A−6を得た。
(参考例2)
原料となる炭素繊維は以下の通りに製造した。
アクリロニトリル99モル%とイタコン酸1モル%からなる共重合体を乾湿式紡糸し、焼成し、総フィラメント数24,000本、総繊度1,000テックス、比重1.8、ストランド引張強度5.9GPa、ストランド引張弾性率295GPaの炭素繊維を得た。次いで、その炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。このとき表面酸素濃度O/Cは、0.15、表面カルボキシル基濃度COOH/Cは0.005、表面水酸基濃度COH/Cは0.018であった。このときの炭素繊維の表面粗さ(Ra)は3.0nmだった。
(参考例3)
プリプレグの作製は以下の通りに行った。
混練装置で、スミエポキシELM434を80質量部とjER828を20質量部に、10質量部のスミカエクセル5003Pを配合して溶解した後、硬化剤として、セイカキュアS(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン)を40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。
得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/m2で離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m2)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。
(実施例1〜4、比較例1、2)
参考例1で得られたサイジング剤(A−1〜6)を浸漬法により、参考例2で得られた炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。巻き取りをしたボビンの湿潤下での熱処理は行わなかった。
続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)、サイジング剤塗布炭素繊維から溶出されたサイジング剤の水酸基価(a)、エポキシ価(b)((b)は(b3)、(b4)と同じ値)、重量平均分子量を測定した。結果を表1にまとめた。
続いて、参考例3の方法で得られたプリプレグの初期およびプリプレグを長期保管した後の引張試験を実施した。その結果を表2に示す。
(実施例5、6、比較例3、4)
参考例1で得られたサイジング剤(A−1)を浸漬法により、参考例2で得られた炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。このサイジング剤塗布炭素繊維束のエポキシ価(b3)は4.6meq./gだった。続いて、湿潤下、エポキシ価(b)((b)は(b4)と同じ値)が表3の値になるまで加熱処理を行った。
続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)、サイジング剤塗布炭素繊維から溶出されたサイジング剤の水酸基価(a)、エポキシ価(b)、重量平均分子量を測定した。結果を表3にまとめた。
続いて、参考例3の方法で得られたプリプレグの初期およびプリプレグを長期保管した後の引張試験を実施した。その結果を表3に示す。
(比較例5)
参考例1で得られたサイジング剤(A−1)を浸漬法により、参考例2で得られた炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維を得た。サイジング剤の付着量は、サイジング剤塗布炭素繊維に対して0.6質量%となるように調整した。このサイジング剤塗布炭素繊維束のエポキシ価(b3)は4.6meq./gだった。続いて、260℃でエポキシ価(b)が表3の値になるまで加熱処理を行った。なお、湿潤下での処理をしていないため、(b3)/(b4)は1.0である。
続いて、サイジング剤表面のX線光電子分光法測定、サイジング剤塗布炭素繊維の界面剪断強度(IFSS)、サイジング剤塗布炭素繊維から溶出されたサイジング剤の水酸基価(a)、エポキシ価(b)、重量平均分子量の結果を表3にまとめた。
続いて、参考例3の方法で得られたプリプレグの初期およびプリプレグを長期保管した後の引張試験を実施した。その結果を表3に示す。