JP5582269B1 - プリプレグおよびサイジング剤塗布炭素繊維 - Google Patents

プリプレグおよびサイジング剤塗布炭素繊維 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた引張弾性率、有孔板引張強度を発現する炭素繊維複合材料を作製するためのプリプレグ、およびその原料であるサイジング剤塗布炭素繊維を提供。
【解決手段】以下に示す、炭素繊維(I)と熱硬化性樹脂(II)とを含むプリプレグ。(I)単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、かつ、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下である炭素繊維(II)エポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する熱硬化性樹脂。
【選択図】なし

Description

本発明は、サイジング剤が塗布されてなる炭素繊維、(以下、サイジング剤塗布炭素繊維という)およびプリプレグに関するものである。より詳しくは、本発明は、良好な物性、特に高い有孔板引張強度(以下、OHTと略記することもある)を有する炭素繊維強化複合材料が得られる、特定の単繊維強度分布を有する炭素繊維を用いたマトリックス樹脂との接着性に優れるサイジング剤塗布炭素繊維、および、かかる炭素繊維ないしサイジング剤塗布炭素繊維を用いたプリプレグに関するものである。
炭素繊維は、その高い比強度・比弾性率から繊維強化複合材料の強化繊維として航空機用途に用いられることで航空機の軽量化に貢献してきており、近年、適用部材の拡大と大型部材への適用の流れが加速されつつある。航空機の軽量化には、炭素繊維強化複合材料の剛性を支配する炭素繊維の引張弾性率を向上させることが最も効果的であるが、樹脂含浸ストランド(以下、単にストランドという)弾性率を中心とした、炭素繊維のさらなる機械的特性の向上、さらには、炭素繊維強化複合材料としての引張・圧縮強度や有孔板引張・圧縮強度の向上など、幅広い物性バランスに優れることが求められている。なかでも、炭素繊維強化複合材料が航空機用途に用いられる場合には、擬似等方材料を穿孔してファスナーとともに用いることが多いため、一方向の炭素繊維強化複合材料の引張強度よりも有孔板引張強度が重要である。多くの要素が有孔板引張強度に影響を与えるため、その強度発現のメカニズムは不明確な部分も多く、炭素繊維が有孔板引張強度に与える影響については、一般に有孔板引張強度はストランド強度と比例すると知られていた。
ストランド強度とは、強化繊維である炭素繊維の強度ポテンシャルを調べる簡便な方法として用いられているもので、特定のエポキシ樹脂を含浸させて得られる簡易な一方向の炭素繊維強化複合材料の引張強度(以下、一方向複合材料強度という)のことを示す。一方向複合材料強度は、一般に単繊維強度分布と強く関係し、非特許文献1で示される以下の式で予測すると一方向複合材料強度の計算値σ は概ねに実測値と一致することが知られている。
Figure 0005582269
ここで、σ、m、L、τはそれぞれ単繊維強度試験のワイブル形状係数、ワイブル尺度係数、試長、界面剪断強度を示し、一方向の炭素繊維強化複合材料の一種であるストランド強度試験の場合に界面剪断強度は7MPaを用いる。
単繊維強度試験はストランド強度試験よりも精密に繊維強度を調べる手法として幅広く検討されている(非特許文献2および3、特許文献1および2)。これらの文献に示すように試長を短くすることで見掛け強度分布の挙動が変化する(具体的には、試長が短くなるほど単繊維強度分布のワイブル形状係数が大きくなる)が、これらの文献には様々な挙動が開示されており、それらの挙動に対する統一的な見解はなかった。このような問題に対処するために、単繊維の長手方向に渡る応力分布が詳細に解釈されている単繊維コンポジットのフラグメンテーション試験から単繊維強度分布を評価する手法がある(非特許文献4および5)。しかしながら、かかる手法は一般的に用いられる単繊維強度試験に比べて、単繊維コンポジットのフラグメンテーション試験は単繊維強度分布の評価手法として未成熟であり、検討例があまり多くなかった。そのため、短試長領域の精密な強度分布を議論しているものはこれまでなかった。
炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度を向上させる目的で炭素繊維の特性を検討した例はある(特許文献3および4)。特許文献3では炭素繊維の表面形態や炭素繊維への表面処理条件を変化させて炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度を向上させようという試みであるが、炭素繊維の単繊維強度分布を制御するものではなかった。特許文献4では、炭素繊維の拡がり性とその表面の濡れ性を制御することで炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度を高める思想が開示されているものの、該有孔板引張強度は所詮低いレベルであった。
また近年、炭素繊維の引張弾性率を炭素化工程の最高温度の制御によらず向上させるために、高い延伸張力での焼成を安定して行う技術がいくつか提案されている(特許文献5、6および7)。特許文献5では特定の分子量分布を有していることで通常の条件範囲ではストランド強度・弾性率レベルは高いものの、炭素繊維の短試長領域の単繊維強度分布を制御したものではなかった。特許文献6および7では炭素繊維の引張弾性率に着目しており、炭素繊維の単繊維強度を制御できていなかった。
特開2010−013772号公報 特開2009−256833号公報 特開2010−047865号公報 特開2010−111957号公報 特開2008−248219号公報 特開2008−308776号公報 特開2008−308777号公報
"ジャーナル・オブ・アメリカン・セラミックス・ソサイエティー(Journal of American Ceramics Society)"、(アメリカ)、1991年、74、11、p.2837−2845. "コンポジッツ:パートA(Composites: Part A)"(オランダ)、1999年、30、p.1017-1021. "ジャーナル・オブ・マテリアルス・サイエンス(Journal of Materials Science)"(スイス) 26 (1985), p.3260-3270. "コンポジッツ:パートA(Composites: Part A)"(オランダ)、2002年、33、p.1327-1335. "コンポジッツ・サイエンス・アンド・テクノロジー(Composites Science and Technology)"(オランダ)、1995年、55、p.33-39.
本発明者らは、優れた引張弾性率を有する炭素繊維において、極めて高い有孔板引張強度を発現させる特定のマトリックス樹脂との組み合わせでは、炭素繊維のストランド強度を高めても炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度が向上しないために、該有孔板引張強度が満足なレベルではない(言い換えれば、炭素繊維のストランド強度の序列と炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度の序列が比例しない)という課題を着想し、炭素繊維の表面状態の変化に伴う炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度への影響は小さく、そのため、炭素繊維の短試長領域の単繊維強度分布に着目するに到った。そこで本発明は、優れた引張弾性率、有孔板引張強度を発現する炭素繊維強化複合材料を作製するためのプリプレグ、およびそれに用いられる炭素繊維ないしサイジング剤塗布炭素繊維を提供することを目的する。
本発明者らは、炭素繊維強化複合材料のマトリックス樹脂、界面、繊維形態など種々の検討を行った結果、従来明瞭には測定できていなかった炭素繊維の高強度(短試長)領域の単繊維強度分布を制御することで、炭素繊維強化複合材料の有孔板引張強度を向上させうることを見出し、発明に達した。
本発明は次の構成を有する。すなわち、以下に示す、サイジング剤塗布炭素繊維(I)と熱硬化性樹脂(II)を含むプリプレグである。
(I)炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、炭素繊維の単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、かつ、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下であるサイジング剤塗布炭素繊維、
(II)エポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する熱硬化性樹脂。
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、脂肪族エポキシ化合物(C)および芳香族エポキシ化合物(D)を含むサイジング剤を炭素繊維に塗布していることを特徴とし、前記炭素繊維は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、かつ、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下であることを特徴とする。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、好ましくは前記炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.90である。
また、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、好ましくは平均引き裂き可能距離が300mm〜710mmであり、実質的に無撚りであることを特徴とする。
また、本発明のプリプレグは前記のサイジング剤塗布炭素繊維、およびエポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する熱硬化性樹脂(II)を含むことを特徴とする。
本発明によれば、優れた引張弾性率、有孔板引張強度を発現する炭素繊維強化複合材料を作製するためのプリプレグ、およびそれに用いられる炭素繊維ないしサイジング剤塗布炭素繊維が得られる。そして、本発明のプリプレグを用いると、それを硬化して得られる炭素繊維複合材料の引張弾性率や有孔板引張強度という物性がバランス良く高く、そのため、航空機の軽量化に大きく貢献し、航空機の燃料消費率を改善することができる。
図1は、引き裂き可能距離の測定方法を示す図である。 図2は、本発明の実施の形態にかかるサイジング剤塗布炭素繊維を用いた単繊維コンポジットのフラグメンテーション試験結果の一例を示す図である。
本発明のプリプレグは、以下に示す炭素繊維(I)と熱硬化性樹脂(II)とを含む。まず、炭素繊維(I)について説明する。
本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法(具体的な方法は、後述する)による単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下であり、好ましくは1.5個/mm以下であり、より好ましくは1.0個/mm以下である。単繊維コンポジットのフラグメンテーション法とは、炭素繊維(I)の単繊維を樹脂に埋め込んだコンポジット(単繊維コンポジット)に歪みをステップワイズに与えながら各歪みでの繊維破断数を数えることで、炭素繊維の単繊維強度分布を調べることができる。繊維破断したときの単繊維コンポジット歪みから単繊維強度に変換するためには、単繊維コンポジット歪みと繊維歪みの差と各繊維歪みでの弾性率を考慮する必要はある。なお、単繊維強度に関する説明は後述する。ここで、単繊維見掛け応力とは単繊維コンポジット歪みと炭素繊維の単繊維弾性率の積のことを示す。繊維破断が起こると、繊維破断部から遠ざかるに従って繊維応力が回復していく挙動を示すために単繊維コンポジット歪みと繊維歪みには差異が生じる部分があり、かつ、そのために繊維破断数と応力回復挙動から考えると、単繊維コンポジット歪みを増やしても最大の繊維応力はほとんど増加しないことがある。ただし、繊維破断数が1.0個/mmまでは単繊維見掛け応力と最大の繊維応力の差は極めて小さいことが多く、繊維破断数がさらに増えるにつれてその差は拡大していくものの、単繊維見掛け応力と最大の繊維応力に相関があるため、単繊維見掛け応力を用いることが簡便である。なお、炭素繊維の弾性率には歪みが高まるほどその増加が見られるという弾性率の非線形性があり、正しい繊維応力は単純な計算では求められないことをここで言及しておく。かかる繊維破断数が1.7個/mmを上回る場合に炭素繊維の単繊維強度の不足によりOHTが低下し、かかる繊維破断数は少ないほど単繊維強度が高いことを意味するので、かかる繊維破断数を1.7個/mm以下とするのが良い。通常、一方向の炭素繊維強化複合材料の強度は、複合材料全体に負荷されている荷重を繊維だけで負担していると仮定の下、繊維断面積で割っても6、7GPa以下であるため、その強度以上の炭素繊維破断確率と炭素繊維強化複合材料強度との関係を議論されることは従来にはなかったが、本発明者らは、OHTを高めようとした場合に特定の樹脂との組み合わせで高強度領域の炭素繊維破断確率がOHTに強く影響することを明らかにしたのである。
炭素繊維の単繊維強度分布を評価する手法として、単繊維強度試験が一般的であるが、単繊維強度試験ではチャック部においてシアネート系やエポキシ系接着剤を用いて単繊維を包埋してチャックしているので、接着剤内の繊維にまで応力がかかって接着剤内で繊維破断することがあった。すなわち、本発明者らは、単繊維強度試験は接着剤から単繊維引き抜き試験を行っているようなものであることに着目し、単繊維強度試験では樹脂内数mmの繊維に渡って応力が負荷されていることを明らかにしたのである。言い換えれば、本発明者らは、チャック間の距離を5mm未満としても実質的な試長は長くなり、特に、チャック間距離が短いほど実試長とチャック間距離の乖離があって、短試長領域の単繊維強度分布を評価できていなかったことを明らかにしたといえる。このような問題に対処するために、本発明者らは、単繊維コンポジットのフラグメンテーション試験から単繊維強度分布を評価することにしたのである。そして、本発明者らの検討により、単繊維コンポジットのフラグメンテーション試験と試長25mmの単繊維強度試験から計算される単繊維強度分布の結果は良い一致をしていたことから、フラグメンテーション試験は単繊維強度分布の評価法として優れていることが明らかになった。さらに、適宜、単繊維コンポジットに用いるマトリックス樹脂を選択し、単繊維−マトリックス樹脂界面の接着強さをある程度以上とすれば、試長が1mm程度の短試長まで強度分布を高精度に評価できることが明らかになった。なお、このような高強度(短試長)領域の精密な強度分布が議論された例はこれまで皆無であった。
本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、好ましくは3.0個/mm以上である。かかる繊維破断数が2.0個/mmを下回る場合、炭素繊維とマトリックス樹脂との界面接着の低下により繊維破断数が増加したときに繊維が応力を負担できずにOHTが低下する。応力負担が0の破断点から樹脂との界面剪断で破断点間の繊維に応力が伝達されていくが、特にこのように破断数が増えた場合には繊維応力は増加しにくいので繊維破断数が飽和してくる。そのため、実繊維応力は、単繊維見掛け応力よりも小さいということをここで言及しておく。炭素繊維の単繊維弾性率が低い場合は、単繊維見掛け応力を15.3GPaまで負荷する前に単繊維コンポジットが壊れることがあるが、繊維破断数が飽和している場合はその破断数で代用することができる。ここで、飽和とは単繊維コンポジット歪み変化をΔ1%としたときに繊維破断数がΔ0.2個/mmとなったときのことをいう。
また、本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による単繊維見掛け応力が6.8GPaのときに繊維破断数が0.3個/mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.2個/mm以下であり、さらに好ましくは0.1個/mm以下である。かかる繊維破断数が0.3個/mm付近となる繊維応力が低すぎると炭素繊維強化複合材料中の破断繊維の隣接繊維への応力集中を誘起しやすくなる。そのため、かかる繊維破断数を0.3個/mm以下とすることで、高いOHTを維持できる。
本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による単繊維コンポジット歪みが3.6%のときに繊維破断数が1.7個/mm以下であることが好ましく、より好ましくは1.5個/mm以下であり、さらに好ましくは1.0個/mm以下である。かかる繊維破断数が1.7個/mmを上回る場合、炭素繊維の単繊維強度の不足によりOHTが低下し、かかる繊維破断数は少ないほど炭素繊維の単繊維強度が高いことを意味するので好ましい。通常、一方向の炭素繊維強化複合材料の破断伸度は2%以下であるため、その伸度以上の炭素繊維破断確率と複合材料強度との関係を議論されることは従来にはなかったが、本発明者らは、OHTを高めようとした場合に特定の樹脂との組み合わせで高伸度領域の炭素繊維破断確率がOHTに強く影響することをも明らかにしたのである。
本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による単繊維コンポジット歪みが4.5%のときに繊維破断数が2.0個/mm以上であることが好ましく、より好ましくは3.0個/mm以上である。フラグメンテーション法では、炭素繊維の単繊維強度を調べる以外に繊維/樹脂界面の界面剪断強度を調べることにより頻繁に用いられている。そのとき、正確さに欠けるものの簡便なKelly−Tysonモデルがよく用いられ、フラグメンテーション法における飽和繊維破断数が多いほど界面剪断強度が高いといわれている。基本的には界面剪断強度が高いほど一方向の炭素繊維強化複合材料強度は高いために、OHTも高めることができる。単繊維コンポジット歪みが4.5%でも繊維破断数は飽和していないことが多いが、実質的にその歪みでの繊維破断数を評価すれば界面接着の高さを評価するには十分である。かかる繊維破断数が2.0個/mm以上である場合、界面接着の低下により破断が増加したときに破断部近傍の繊維が繊維応力を負担しやすくなり、高いOHTを維持できる。
さらに、本発明において、炭素繊維(I)は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による単繊維コンポジット歪みが2.0%のときに繊維破断数が0.1個/mm以下であることが好ましく、より好ましくは0.08個/mm以下であり、さらに好ましくは0.06個/mm以下である。繊維破断数が0.1個/mm付近となる繊維応力が低すぎると複合材料中の破断繊維の隣接繊維への応力集中を誘起しやすくなるため、かかる繊維破断数を0.1個/mm以下とすることで、高いOHTを維持できる。
本発明において、炭素繊維(I)のストランド強度が、6.4GPa以上であることが好ましく、より好ましくは6.8GPa以上であり、さらに好ましくは7.0GPa以上である。また、炭素繊維(I)のストランド弾性率が、320GPa以上であることが好ましく、より好ましくは340GPa以上であり、さらに好ましくは350GPa以上である。フラグメンテーション法における炭素繊維歪みを繊維応力に変換する場合にはストランド弾性率が必要であり、本質的には高い繊維応力でも繊維破断が少ないことが重要である。ため、ストランド弾性率が320GPa未満のときにOHTが低下することがある。本発明において、炭素繊維(I)のストランド引張強度と弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めることができる。すなわち、樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とする。ストランド弾性率を測定する際の歪み範囲は0.45〜0.85%とする。
本発明において、炭素繊維の単繊維弾性率が、320GPaであることが好ましく、より好ましくは340GPa以上であり、さらに好ましくは350GPa以上である。フラグメンテーション法において、単繊維強度を評価するためには高い本質的には単繊維コンポジット歪みで繊維破断が少ないことよりも高い繊維応力でも繊維破断が少ないことが重要であるため、単繊維コンポジット歪みを繊維応力に変換する。フラグメンテーション法における炭素繊維歪みを繊維応力に変換する場合には炭素繊維のストランド弾性率もしくは単繊維弾性率が必要であり、ここでは単繊維弾性率を用いる。単繊維弾性率が高いほど複合材料単繊維コンポジット歪みが低くても高い繊維応力が負荷されており、マトリックス樹脂特性との関係のために、単繊維弾性率が320GPa未満のときにOHTが低下することがある。本発明において、炭素繊維(I)の単繊維弾性率は、JIS−R−7606(2000)に基づいて求めることができる。すなわち、単繊維引張試験では、チャックで炭素繊維とチャック部の接着剤との間ですべりが発生するため正確な単繊維弾性率を測定することはできないが、ゲージ長が長いほど誤差が小さくなるため、ゲージ長を50mmとする。単繊維弾性率を測定する際の歪み範囲は歪み0%から破断までの全範囲とする。
本発明において炭素繊維(I)の総繊度は、400〜3000texであることが好ましい。また、炭素繊維のフィラメント数は好ましくは10000〜30000本である。
また、本発明において炭素繊維(I)の単繊維直径は4.5〜6.0μmであることが好ましい。炭素繊維は表面欠陥を含んでいるために単繊維直径を小さくするほど、表面欠陥の存在確率が低下してストランド強度は高くなるものの、フラグメンテーション試験における高強度領域での破断挙動は単繊維直径にほとんど依存せず、一方、単繊維直径が大きいほどマトリックス樹脂が単繊維間に含浸しやすくなって結果的にOHTを高めることができるために適度な単繊維直径を選択することが好ましい。
さらに、本発明のプリプレグに含まれる熱硬化性樹脂(II)は、エポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する。炭素繊維(I)は、エポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有した熱硬化性樹脂(II)との組み合わせで高いOHTを発現する。
エポキシ樹脂に用いるエポキシ化合物(A)としては、特に限定されるものではなく、ビスフェノール型エポキシ化合物、アミン型エポキシ化合物、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、レゾルシノール型エポキシ化合物、グリシジルアニリン型エポキシ化合物、フェノールアラルキル型エポキシ化合物、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物、ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物、イソシアネート変性エポキシ化合物、テトラフェニルエタン型エポキシ化合物、トリフェニルメタン型エポキシ化合物などの中から1種以上を選択して用いることができる。
ここで、ビスフェノール型エポキシ化合物とは、ビスフェノール化合物の2つのフェノール性水酸基がグリシジル化されたものであり、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールAD型、ビスフェノールS型、もしくはこれらビスフェノールのハロゲン、アルキル置換体、水添品等が挙げられる。また、単量体に限らず、複数の繰り返し単位を有する高分子量体も好適に使用することができる。
ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”825、828、834、1001、1002、1003、1003F、1004、1004AF、1005F、1006FS、1007、1009、1010(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。臭素化ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、“jER(登録商標)”505、5050、5051、5054、5057(以上、三菱化学(株)製)などが挙げられる。水添ビスフェノールA型エポキシ化合物の市販品としては、ST5080、ST4000D、ST4100D、ST5100(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールF型エポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”806、807、4002P、4004P、4007P、4009P、4010P(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”830、835(以上、DIC(株)製)、“エポトート(登録商標)”YDF2001、YDF2004(以上、新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。テトラメチルビスフェノールF型エポキシ化合物としては、YSLV−80XY(新日鐵化学(株)製)などが挙げられる。
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、“エピクロン(登録商標)”EXA−154(DIC(株)製)などが挙げられる。
また、アミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンや、これらのハロゲン、アルキノール置換体、水添品などが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(新日鐵化学(株)製)、“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY720、MY721、MY725(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。トリグリシジルアミノフェノールまたはトリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100、ELM120(以上、住友化学(株)製)、“アラルダイド(登録商標)”MY0500、MY0510、MY0600、MY0610(以上、ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)、“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)などが挙げられる。テトラグリシジルキシリレンジアミンおよびその水素添加品の市販品としては、TETRAD−X、TETRAD−C(以上、三菱ガス化学(株)製)などが挙げられる。
フェノールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては“jER(登録商標)”152、154(以上、三菱化学(株)製)、“エピクロン(登録商標)”N−740、N−770、N−775(以上、DIC(株)製)などが挙げられる。
クレゾールノボラック型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”N−660、N−665、N−670、N−673、N−695(以上、DIC(株)製)、EOCN−1020、EOCN−102S、EOCN−104S(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
レゾルシノール型エポキシ化合物の市販品としては、“デナコール(登録商標)”EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
グリシジルアニリン型エポキシ化合物の市販品としては、GANやGOT(以上、日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ビフェニル骨格を有するエポキシ化合物の市販品としては、“jER(登録商標)”YX4000H、YX4000、YL6616(以上、三菱化学(株)製)、NC−3000(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
ジシクロペンタジエン型エポキシ化合物の市販品としては、“エピクロン(登録商標)”HP7200L、“エピクロン(登録商標)”HP7200、“エピクロン(登録商標)”HP7200H、“エピクロン(登録商標)”HP7200HH(以上、大日本インキ化学工業(株)製)、XD−1000−L、XD−1000−2L(以上、日本化薬(株)製)、“Tactix(登録商標)”556(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
イソシアネート変性エポキシ化合物の市販品としては、オキサゾリドン環を有するXAC4151、AER4152(旭化成エポキシ(株)製)やACR1348((株)ADEKA製)などが挙げられる。
テトラフェニルエタン型エポキシ化合物の市販品としては、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン型エポキシ化合物である“jER(登録商標)”1031(三菱化学(株)製)などが挙げられる。
トリフェニルメタン型エポキシ化合物の市販品としては、“タクチックス(登録商標)”742(ハンツマン・アドバンズド・マテリアルズ(株)製)などが挙げられる。
特にエポキシ化合物(A)として多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物を少なくとも含有するエポキシ樹脂が好ましい。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維と組み合わせて用いることで、炭素繊維強化複合材料のOHTを向上させることができるため好ましい。その理由は必ずしも明らかではないが、該エポキシ化合物を用いたときに、炭素繊維の高強度領域の強度分布がOHTに強く影響するようになるためと考えている。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾール、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、N,N−ジグリシジル−4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリンおよびN,N−ジグリシジル−4−(4‐フェノキシフェノキシ)アニリン等が挙げられる。これらの化合物は、多くの場合、フェノキシアニリン誘導体にエピクロロヒドリンを付加し、アルカリ化合物により環化して得られる。分子量の増加に伴い粘度が増加していくため、取扱い性の点から、N,N−ジグリシジル−4−フェノキシアニリンが特に好ましく用いられる。
フェノキシアニリン誘導体としては、具体的には、4−フェノキシアニリン、4−(4−メチルフェノキシ)アニリン、4−(3−メチルフェノキシ)アニリン、4−(2−メチルフェノキシ)アニリン、4−(4−エチルフェノキシ)アニリン、4−(3−エチルフェノキシ)アニリン、4−(2−エチルフェノキシ)アニリン、4−(4−プロピルフェノキシ)アニリン、4−(4−tert−ブチルフェノキシ)アニリン、4−(4−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(3−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(2−シクロヘキシルフェノキシ)アニリン、4−(4−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(2−メトキシフェノキシ)アニリン、4−(3−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−(4−フェノキシフェノキシ)アニリン、4−[4−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[3−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−[2−(トリフルオロメチル)フェノキシ]アニリン、4−(2−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−(1−ナフチルオキシフェノキシ)アニリン、4−[(1,1’−ビフェニル−4−イル)オキシ]アニリン、4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(3−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2−ニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−アミノフェニルフェニルエーテル、2−ニトロ−4−(4−ニトロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジニトロフェノキシ)アニリン、3−ニトロ−4−フェノキシアニリン、4−(2−クロロフェノキシ)アニリン、4−(3−クロロフェノキシ)アニリン、4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、4−(2,4−ジクロロフェノキシ)アニリン、3−クロロ−4−(4−クロロフェノキシ)アニリン、および4−(4−クロロ−3−トリルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品として、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)、YH434L(東都化成(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY720、MY721、MY725(ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”604(三菱化学(株)製)等を使用することができる。トリグリシジルアミノフェノールおよびトリグリシジルアミノクレゾールとしては、例えば、“スミエポキシ(登録商標)”ELM100(住友化学(株)製)、“アラルダイト(登録商標)”MY500、MY0510、“アラルダイト(登録商標)”MY0600、MY610(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製)、および“jER(登録商標)”630(三菱化学(株)製)等を使用することができる。
多官能のグリシジルアミン型エポキシ化合物として、上述した中でもグリシジルアミン骨格を少なくとも1つ有し、かつ3官能以上のエポキシ基を有する芳香族エポキシ化合物(A1)であることが好ましい。
多官能のグリシジルアミン型芳香族エポキシ化合物(A1)の割合は、エポキシ化合物(A)中に30〜100質量%含まれていることが好ましく、より好ましい割合は50質量%以上である。グリシジルアミン型エポキシ化合物の割合が30質量%以上で、炭素繊維強化複合材料のOHTが向上するため好ましい。
本発明の芳香族アミン硬化剤(B)としては、エポキシ樹脂硬化剤として用いられる芳香族アミン類であれば特に限定されるものではないが、具体的には、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(3,3’−DDS)、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン(4,4’−DDS)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトライソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジイソプロピル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラ−t−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル(DADPE)、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−10)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(DMP−30)、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールの2−エチルヘキサン酸エステル等を使用することができる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明のサイジング塗布炭素繊維に塗布されたサイジング剤と、芳香族アミン硬化剤(B)の組み合わせとしては、次に示す組み合わせが好ましい。塗布されるサイジング剤と芳香族アミン硬化剤(B)のアミン当量とエポキシ当量の比率であるアミン当量/エポキシ当量が0.9でサイジング剤と芳香族アミン硬化剤(B)を混合し、温度25℃、湿度60%の環境下で20日保管した場合のガラス転移点の上昇が25℃以下であることが好ましい。25℃以下であることで、プリプレグにしたときに、サイジング剤外層とマトリックス樹脂中の反応が抑制され、プリプレグを長期間保管した後の炭素繊維強化複合材料のOHT低下が抑制されるため好ましい。またガラス転移点の上昇が15℃以下であることがより好ましい。10℃以下であることがさらに好ましい。なお、ガラス転移点は、示差走査熱量分析(DSC)により求めることができる。
また、芳香族アミン硬化剤(B)の総量は、全エポキシ樹脂成分のエポキシ基1当量に対し、活性水素基が0.6〜1.2当量の範囲となる量を含むことが好ましく、より好ましくは0.7〜0.9当量の範囲となる量を含むことである。ここで、活性水素基とは、硬化剤成分のエポキシ基と反応しうる官能基を意味し、活性水素基が0.6当量に満たない場合は、硬化物の反応率、耐熱性、弾性率が不足し、また、炭素繊維強化複合材料のガラス転移温度やOHTが不足する場合がある。また、活性水素基が1.2当量を超える場合は、硬化物の反応率、ガラス転移温度、弾性率は十分であるが、塑性変形能力が不足するため、炭素繊維強化複合材料の耐衝撃性が不足する場合がある。
本発明のプリプレグには、靱性や流動性を調整するために、熱可塑性樹脂が含まれていることが好ましく、耐熱性の観点から、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、フェノキシ樹脂、ポリオレフィンから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。また、熱可塑性樹脂のオリゴマーを含ませることができる。また、エラストマー、フィラーおよびその他の添加剤を配合することもできる。なお、熱可塑性樹脂は、プリプレグを構成するエポキシ樹脂に含まれていると良い。さらに、熱可塑性樹脂としては、エポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂や、ゴム粒子および熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子等を配合することができる。かかるエポキシ樹脂に可溶性の熱可塑性樹脂としては、樹脂と炭素繊維との接着性改善効果が期待できる水素結合性の官能基を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。
エポキシ樹脂可溶で、水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂として、アルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂、アミド結合を有する熱可塑性樹脂やスルホニル基を有する熱可塑性樹脂を使用することができる。
かかるアルコール性水酸基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリビニルホルマールやポリビニルブチラールなどのポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール、フェノキシ樹脂を挙げることができ、また、アミド結合を有する熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニルピロリドンを挙げることができ、さらに、スルホニル基を有する熱可塑性樹脂としては、ポリスルホンを挙げることができる。ポリアミド、ポリイミドおよびポリスルホンは、主鎖にエーテル結合、カルボニル基などの官能基を有してもよい。ポリアミドは、アミド基の窒素原子に置換基を有してもよい。
エポキシ樹脂に可溶で水素結合性官能基を有する熱可塑性樹脂の市販品を例示すると、ポリビニルアセタール樹脂として、デンカブチラール(電気化学工業(株)製)、“ビニレック(登録商標)”(チッソ(株)製)、フェノキシ樹脂として、“UCAR(登録商標)”PKHP(ユニオンカーバイド(株)製)、ポリアミド樹脂として“マクロメルト(登録商標)”(ヘンケル白水(株)製)、“アミラン(登録商標)”(東レ(株)製)、ポリイミドとして“ウルテム(登録商標)”(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)、“Matrimid(登録商標)”5218(チバ(株)製)、ポリスルホンとして“スミカエクセル(登録商標)”(住友化学(株)製)、“UDEL(登録商標)”、“RADEL(登録商標)”(以上、ソルベイアドバンストポリマーズ(株)製)、ポリビニルピロリドンとして、“ルビスコール(登録商標)”(ビーエーエスエフジャパン(株)製)を挙げることができる。
また、アクリル系樹脂は、エポキシ樹脂との相溶性が高く、増粘等の流動性調整のために好適に用いられる。アクリル樹脂の市販品を例示すると、“ダイヤナール(登録商標)”BRシリーズ(三菱レイヨン(株)製)、“マツモトマイクロスフェアー(登録商標)”M,M100,M500(松本油脂製薬(株)製)、“Nanostrength(登録商標)”E40F、M22N、M52N(アルケマ(株)製)などを挙げることができる。
特に、OHTを高めることができ、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の特性を最大限発揮させられることから、ポリエーテルスルホンやポリエーテルイミドが好適である。ポリエーテルスルホンとしては、“スミカエクセル”(登録商標)3600P、“スミカエクセル”(登録商標)5003P、“スミカエクセル”(登録商標)5200P、“スミカエクセル”(登録商標、以上、住友化学工業(株)製)7200P、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10200、“Virantage”(登録商標)PESU VW−10700(登録商標、以上、ソルベイアドバンスポリマーズ(株)製)、“Ultrason”(登録商標)2020SR(BASF(株)製)、ポリエーテルイミドとしては、“ウルテム”(登録商標)1000、“ウルテム”(登録商標)1010、“ウルテム”(登録商標)1040(以上、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製)などを使用することができる。
かかる熱可塑性樹脂は、特に含浸性を中心としたプリプレグ作製工程に支障をきたさないように、エポキシ樹脂組成物中に均一溶解しているか、粒子の形態で微分散していることが好ましい。
また、かかる熱可塑性樹脂の配合量は、エポキシ樹脂組成物中に溶解せしめる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して6〜40質量部が好ましく、より好ましくは6〜25質量部である。一方、分散させて用いる場合には、エポキシ樹脂100質量部に対して10〜40質量部が好ましく、より好ましくは15〜30質量部である。熱可塑性樹脂がかかる配合量に満たなくても、超えても、OHTが低下する場合がある。
次に、本発明のプリプレグに好適な製造方法について説明する。
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂を、サイジング剤で塗布した上述の炭素繊維(I)(サイジング剤塗布炭素繊維)に含浸せしめたものである。プリプレグは、例えば、マトリックス樹脂をメチルエチルケトンやメタノールなどの溶媒に溶解して低粘度化し、含浸させるウェット法あるいは加熱により低粘度化し、含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
ウェット法では、強化炭素繊維束をマトリックス樹脂が含まれる液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。
また、ホットメルト法では、加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接サイジング剤塗布炭素繊維に含浸させる方法、あるいは一旦マトリックス樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングしたフィルムをまず作製し、ついでサイジング剤塗布炭素繊維の両側あるいは片側から該フィルムを重ね、加熱加圧してマトリックス樹脂をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させる方法により、プリプレグを製造することができる。ホットメルト法は、プリプレグ中に残留する溶媒がないため好ましい手段である。
本発明のプリプレグを用いて炭素繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながらマトリックス樹脂を加熱硬化させる方法などを用いることができる。このようにして得られる本発明のプリプレグは、航空機部材、宇宙機部材、自動車部材および船舶部材をはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途およびその他一般産業用途に好適に用いられる。
次に、上述のサイジング剤塗布炭素繊維の製造方法を説明する。
本発明で、サイジング剤塗布炭素繊維の製造で好適に用いられるポリアクリロニトリル系重合体は、重量平均分子量が50万〜90万のものが好ましく、70万〜90万のものがより好ましい。重量平均分子量が50万を下回るような、炭素繊維用として一般的な重量平均分子量のポリアクリロニトリル系重合体の場合、繊維軸方向の分子同士のつながりが低下するため、分子鎖末端の影響によって高強度領域で炭素繊維の単繊維強度の低下が起こりやすくなる。また、重量平均分子量は高い方が好ましいが、90万を超えるような高分子量のポリアクリロニトリル系重合体は、重合体溶液として紡糸するときに重合体濃度を低く設定する必要が生じ、その結果、炭素繊維中にボイドが形成され、高強度領域で炭素繊維の単繊維強度の低下が起こりやすくなる。ポリアクリロニトリル系重合体の重量平均分子量は、重合時のモノマー、開始剤および連鎖移動剤などの量を変えることにより制御することができる。具体的には、重合開始時のモノマー濃度を高くする、開始剤濃度を低くする、連鎖移動剤の濃度を少なくすることにより、重量平均分子量を高めることができる。なお、本発明においてポリアクリロニトリル系重合体とは、少なくともアクリロニトリルが重合体骨格の主構成成分となっているものをいい、主構成成分とは、通常、重合体骨格の90〜100mol%を占めることをいう。
本発明で好適なポリアクリロニトリル系重合体の多分散度Mz/Mwは1.4〜2.4である。Mz/Mwは大きいほど高分子量側に分子量の異なる成分を含むことを意味し、Mz/Mwが1.4未満でも、Mz/Mwが2.4を超えても高強度領域で炭素繊維の単繊維強度の低下が起こりやすくなる。
本発明で、サイジング剤塗布炭素繊維の製造で好適に用いられるポリアクリロニトリル系重合体は、製糸性向上の観点および、耐炎化処理を効率よく行う観点等から、共重合成分を含む。一般に、共重合成分の量が少ないと耐炎化反応が不均一となり、また、共重合成分の量が多いとそれ自身の部位が熱分解して炭素繊維の欠陥として認識される場合がある。好ましい共重合成分の量としては、0.1〜0.8質量%である。共重合成分としては、前記観点からカルボキシル基またはアミド基を一つ以上有するものが好ましく例示される。耐熱性の低下を防止するという目的からは、耐炎化促進効果の高いモノマーを少量用いることが好ましく、アミド基よりもカルボキシル基を有する共重合成分を用いることが好ましい。また、含有されるアミド基とカルボキシル基の数は、1つよりも2つ以上であることがより好ましく、その観点からは、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、シトラコン酸、エタクリル酸、マレイン酸およびメサコン酸が好ましく、イタコン酸、マレイン酸およびメサコン酸がより好ましく、中でも、イタコン酸が最も好ましい。
本発明で好適に用いられるポリアクリロニトリル系重合体を製造する重合方法としては、公知の重合方法を選択することができる。本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造で好適に用いられる紡糸溶液は、前記したポリアクリロニトリル系重合体を、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどのポリアクリロニトリル系重合体が可溶な溶媒に溶解したものである。本発明に用いるポリアクリロニトリル系重合体は濃度を10〜18質量%の紡糸溶液とすることが好ましい。該紡糸溶液の濃度が10質量%に満たないと、炭素繊維中にボイドが形成されて高強度領域で炭素繊維の単繊維強度の低下が起こりやすくなり、また、該紡糸溶液の濃度が18質量%を超えると、紡糸性のために該重合体の重量平均分子量を下げなければならない場合がある。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維の製造で好適に用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造方法は、乾湿式紡糸法により紡糸口金から吐出させ紡糸する紡糸工程と、該紡糸工程で得られた繊維を水浴中で洗浄する水洗工程と、該水洗工程で得られた繊維を水浴中で延伸する水浴延伸工程と、該水浴延伸工程で得られた繊維を乾燥熱処理する乾燥熱処理工程からなり、必要に応じて、該乾燥熱処理工程で得られた繊維をスチーム延伸するスチーム延伸工程からなる。
本発明において、前記凝固浴には、紡糸溶液の溶媒として用いたジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびジメチルアセトアミドなどの溶媒と、いわゆる凝固促進成分を含ませることが好ましい。凝固促進成分としては、前記ポリアクリロニトリル系重合体を溶解せず、かつ紡糸溶液に用いる溶媒と相溶性があるものを使用することができる。具体的には、凝固促進成分として水を使用することが好ましい。
水洗工程における水浴温度は20〜90℃の複数段からなる水洗浴を用い水洗することが好ましい。また、水浴延伸工程における延伸倍率は、1.3〜5倍であることが好ましく、より好ましくは2〜4倍である。水浴延伸工程の後、単繊維同士の接着を防止する目的から、糸条にシリコーン等からなる油剤を付与することが好ましい。かかるシリコーン油剤は、変性されたシリコーンを用いることが好ましく、耐熱性の高いアミノ変性シリコーンを含有するものを用いることが好ましい。
前記した水洗工程、水浴延伸工程、油剤付与工程、公知の方法で行われた乾燥熱処理工程の後、必要に応じ、スチーム延伸を行うことにより、サイジング剤塗布炭素繊維の製造で好適に用いられるポリアクリロニトリル系前駆体繊維が得られる。本発明において、スチーム延伸は、加圧スチーム中において、少なくとも3倍以上、より好ましくは4倍以上、さらに好ましくは5倍以上延伸するのがよい。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を好適に製造する方法において、前記したポリアクリロニトリル系前駆体繊維を耐炎化、予備炭素化、炭素化して、炭素繊維を得る。
本発明において、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の耐炎化は暴走反応を生じない範囲でできるだけ高い温度で行うことが好ましく、具体的には200〜300℃の空気中において行うことが好ましい。本発明において、耐炎化の処理時間は、好適には10〜100分の範囲で適宜選択することができるが、得られる炭素繊維の力学的物性を向上させる目的から、得られる耐炎化繊維の比重が1.3〜1.4の範囲となるように設定することが好ましい。
前記耐炎化に引き続いて、予備炭素化を行う。予備炭素化工程においては、得られた耐炎化繊維を、不活性雰囲気中、最高温度500〜1200℃において、比重1.5〜1.8g/cmになるまで熱処理することが好ましい。
前記予備炭素化に引き続いて、炭素化を行う。本発明では、炭素化工程において、得られた予備炭化繊維束を不活性雰囲気中、最高温度1200〜2000℃において、炭素化張力が式(2)を満たす範囲で炭素化する炭素繊維の製造方法であって、予備炭素化繊維束の平均引き裂き可能距離が500〜700mmである炭素繊維の製造方法であることが好ましい。
4.9≦炭素化張力(mN/dtex)≦−0.0225×(予備炭素化繊維束の平均引き裂き可能距離(mm))+23.5・・・(2)。
炭素化工程の温度は、得られる炭素繊維のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると高強度領域の強度が低下する場合があり、両者を勘案して設定するのが良い。より好ましい温度範囲は1200〜1800℃であり、さらに好ましい温度範囲は、1200〜1600℃である。
炭素化工程の張力(炭素化張力)は、炭素化炉出側で測定した張力(mN)をポリアクリロニトリル系前駆体繊維の絶乾時の繊度(dtex)で割った値で示すものとする。該張力を4.9mN/dtexよりも低くすると炭素繊維の結晶子配向を高めることができず、高いストランド弾性率を発現しない。また、該張力は、得られる炭素繊維のストランド弾性率を高める観点からは、高い方が好ましいが、高すぎると工程通過性や、品位が低下する場合があり、式(2)を満たす範囲で設定することが好ましい。式(2)の右辺の一次係数−0.0225の示す意味は、平均引き裂き可能距離の増加に伴う設定可能な該張力の低下勾配であり、定数項23.5は平均引き裂き可能距離を極限まで短くした場合に設定可能な該張力である。
炭素化工程における予備炭素化繊維束の引き裂き可能距離は、繊維束の交絡状態を表す指標であり、以下のようにして求める。まず、繊維束を1160mmの長さにカットし、その一端を水平な台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Aと呼ぶ)。該繊維束の固定していない方の一端を指で2分割し、その一方を緊張させた状態で台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Bと呼ぶ)。2分割した他方を、固定点Aが支点となり弛みが出ないよう台上に沿って動かし、固定点Bからの直線距離が500mmの位置で静止させ、台上に粘着テープで動かないように固定する(この点を固定点Cと呼ぶ)。固定点A、B、Cで囲まれた領域を目視で観察し、固定点Aから最も遠い交絡点を見つけ、固定点Aと固定点Bで結ばれる直線上に投影した距離を最低目盛りが1mmの定規で読み取り、引き裂き可能距離とする。前記操作の繰り返し30回の測定の算術平均値を平均引き裂き可能距離とする。引き裂き可能距離の測定方法を図1に示す。本測定方法において、固定点Aから最も遠い交絡点とは、固定点Aからの直線距離が最も遠く、かつ弛みのない3本以上の単繊維が交絡している点のことである。
従来、交絡状態の評価手法として、フックドロップ法が一般的に用いられてきた。フックドロップ法による繊維束の交絡度は、JIS L1013(2010年)に規定されているように、測定に供する繊維束を垂下装置の上部に固定し、繊維束下端に錘をぶらさげ、試料を垂直にたらし、試料上部固定端から1cm下に、繊維束を2分割するように、直径0.6mmの表面を滑らかに仕上げた重さ10gのフックを挿入し、その降下距離測定するものである。
本発明において、炭素化工程における予備炭素化繊維束の交絡度として、従来のフックドロップ法ではなく、平均引き裂き可能距離を特定の範囲にすることで、炭素繊維高強度領域の強度低下を避けつつ、炭素化工程における高い延伸張力を発現できる。炭素化工程において高い延伸張力をかけるためには、単繊維間の応力伝達能力が高い繊維束状態をつくる必要があり、そのためには単繊維同士の細かい交絡ネットワークを形成することが重要である。従来のフックドロップ法は、フックを用いた「点」での評価であるのに対し、引き裂き可能距離は、束全体を見る「面」での評価であり、この相違点により、炭素化工程における高い延伸張力を発現するための状態を適切に規定できるものと考える。
本発明において、炭素化工程における予備炭素化繊維束の引き裂き可能距離は、短いほど交絡度が高く、単繊維間の応力伝達能力が高まり、炭素化工程における延伸張力を高めることができるが、該距離が500mm未満の場合は高強度領域の炭素繊維の単繊維強度の低下が起こりやすい。引き裂き可能距離が700mmを超える交絡処理を施していない、あるいは弱いものは、炭素化工程である一定確率で破断する単繊維分の応力を破断していない他の単繊維が負担することなり、単繊維間の構造バラツキとそれに伴う強度バラツキを誘起する。
前記した予備炭素化繊維の平均引き裂き可能距離を達成する手段は、前記した数値範囲が達成できれば、どのような方法も採用することができるが、本発明において、平均引き裂き可能距離を制御する方法としては、繊維束への流体による交絡処理が好ましく用いられる。中でも、ポリアクリロニトリル系前駆体繊維の製造工程および耐炎化工程のいずれかにおいて、すなわち繊維伸度が5%以上の繊維束をプロセスしている場所で流体交絡処理を行うことが好ましい。これら以外の工程では、OHTを低下させることがある。
流体交絡処理に用いる流体としては、気体、液体とも用いることができるが、空気又は窒素が安価な為好ましい。流体交絡処理において、流体はノズルを用いて繊維束に吹き付けることが好ましく、流体を吹き付けるノズル形状は特に限定されないが、2〜8箇所の噴出孔を有するものを用いることが好ましい。噴出口の配置は特に限定されないが、繊維束長手方向と流体の吹き付け方向の成す角が88°〜90°の範囲となるよう繊維束を取り囲むように偶数個の噴出孔を配置し、各々の噴出孔が2孔で1組となるよう対向する位置に配置することが好ましい。それ以外の流体交絡処理時の繊維束張力、流体の吐出圧等の条件は、引き裂き可能距離を適宜調整するように条件検討すればよい。
また、炭素化工程において、繊維束は実質的に無撚りであることが好ましい。ここで、実質的に無撚りとは、たとえ撚りが存在していても、繊維束1mあたり1ターン以下であることを意味する。
また、本発明の炭素繊維は、炭素繊維の平均引き裂き可能距離が300〜710mmであることが好ましい。該距離が300mm未満の場合は、マトリックス樹脂が単繊維間に含浸しにくくなり、OHTを低下させることがあり、該距離が710mm以上の場合は、プリプレグ加工において拡幅時の糸割れを誘起し、低目付けの薄いプリプレグを製造するのに適さない場合がある。さらには、炭素繊維強化複合材料にした際に、炭素繊維強化複合材料中での応力伝達も不均一となり、OHTを低下させることがある。
得られた炭素繊維は、マトリックス樹脂との接着性を向上させるために、通常、酸化処理が施され、酸素含有官能基が導入される。酸化処理方法としては、気相酸化、液相酸化および液相電解酸化が用いられるが、生産性が高く、均一処理ができるという観点から、液相電解酸化が好ましく用いられる。
本発明において、液相電解酸化で用いられる電解液としては、酸性電解液およびアルカリ性電解液が挙げられるが接着性の観点からアルカリ性電解液中で液相電解酸化した後、サイジング剤を塗布することがより好ましい。
酸性電解液としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、燐酸、ホウ酸、および炭酸等の無機酸、酢酸、酪酸、シュウ酸、アクリル酸、およびマレイン酸等の有機酸、または硫酸アンモニウムや硫酸水素アンモニウム等の塩が挙げられる。なかでも、強酸性を示す硫酸と硝酸が好ましく用いられる。
アルカリ性電解液としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウム等の水酸化物の水溶液、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウムおよび炭酸アンモニウム等の炭酸塩の水溶液、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウムおよび炭酸水素アンモニウム等の炭酸水素塩の水溶液、アンモニア、水酸化テトラアルキルアンモニウムおよびヒドラジンの水溶液等が挙げられる。なかでも、マトリックス樹脂の硬化阻害を引き起こすアルカリ金属を含まないという観点から、炭酸アンモニウムおよび炭酸水素アンモニウムの水溶液、あるいは、強アルカリ性を示す水酸化テトラアルキルアンモニウムの水溶液が好ましく用いられる。
本発明において用いられる電解液の濃度は、0.01〜5モル/リットルの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1モル/リットルの範囲内である。電解液の濃度が0.01モル/リットル以上であると、電解処理電圧が下げられ、運転コストに有利になる。一方、電解液の濃度が5モル/リットル以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において用いられる電解液の温度は、10〜100℃の範囲内であることが好ましく、より好ましくは10〜40℃の範囲内である。電解液の温度が10℃以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コストに有利になる。一方、電解液の温度が100℃以下であると、安全性の観点から有利になる。
本発明において、液相電解酸化における電気量は、炭素繊維の炭化度に合わせて最適化することが好ましく、高弾性率の炭素繊維に処理を施す場合、より大きな電気量が必要である。
本発明において、液相電解酸化における電流密度は、電解処理液中の炭素繊維の表面積1m当たり1.5〜1000アンペア/mの範囲内であることが好ましく、より好ましくは3〜500アンペア/mの範囲内である。電流密度が1.5アンペア/m以上であると、電解処理の効率が向上し、運転コストに有利になる。一方、電流密度が1000アンペア/m以下であると、安全性の観点から有利になる。
また、本発明において、電解処理で採用する電解電気量の総量は、炭素繊維1g当たり3〜300クーロン/gであることが好ましい。電解電気量の総量が3クーロン/g未満では、炭素繊維表面に十分に官能基を付与できない場合があり、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm未満となることがある。一方、電解電気量の総量が300クーロン/gを超えると炭素繊維単繊維表面の欠陥を拡大させ、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときの繊維破断数が1.7個/mmを超えることがある。
本発明において、電解処理の後、炭素繊維を水洗および乾燥することが好ましい。洗浄する方法としては、例えば、ディップ法とスプレー法を用いることができる。なかでも、洗浄が容易であるという観点から、ディップ法を用いることが好ましく、さらには、炭素繊維を超音波で加振させながらディップ法を用いることが好ましい態様である。また、乾燥温度が高すぎると炭素繊維の最表面に存在する官能基は熱分解により消失し易いため、できる限り低い温度で乾燥することが望ましく、具体的には乾燥温度が好ましくは250℃以下、さらに好ましくは210℃以下で乾燥することが好ましい。
本発明は、脂肪族エポキシ化合物(C)および芳香族エポキシ化合物(D)を少なくとも含むサイジング剤を塗布された炭素繊維であるサイジング剤塗布炭素繊維である。また、好ましくは、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90であることを特徴とするサイジング剤塗布炭素繊維である。
本発明においては脂肪族エポキシ化合物(C)および芳香族エポキシ化合物(D)を併用することが必要である。
本発明者らの知見によれば、かかる範囲のものは、炭素繊維とマトリックス樹脂の界面接着性に優れるとともに、そのサイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合にもプリプレグを長期保管した場合の経時変化が小さく、炭素繊維強化複合材料用のサイジング剤塗布炭素繊維に好適なものである。そのため、かかるサイジング剤を用いることで、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上に制御することができる。
エポキシ化合物として、芳香族エポキシ化合物(D)のみからなり、脂肪族エポキシ化合物(C)を含まないサイジング剤を塗布した炭素繊維は、サイジング剤とマトリックス樹脂との反応性が低く、プリプレグを長期保管した場合の物性変化が小さいという利点がある。また、剛直な界面層を形成することができるという利点もある。しかしながら、芳香族エポキシ化合物(D)はその化合物の剛直さに由来して、脂肪族エポキシ化合物(A)と比較して、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が若干劣ることが確認されている。
また、エポキシ化合物として脂肪族エポキシ化合物(C)のみからなるサイジング剤を塗布した炭素繊維はマトリックス樹脂との接着性が高いことが確認されている。そのメカニズムは確かではないが、脂肪族エポキシ化合物(C)は柔軟な骨格および自由度が高い構造に由来して、炭素繊維表面のカルボキシル基および水酸基との官能基と脂肪族エポキシ化合物が強い相互作用を形成することが可能であると考えられる。しかしながら、脂肪族エポキシ化合物(C)は、炭素繊維表面との相互作用により高い接着性を発現する一方、マトリックス樹脂中の硬化剤に代表される官能基を有する化合物との反応性が高く、プリプレグの状態で長期間保管すると、マトリックス樹脂とサイジング剤の相互作用により界面層の構造が変化し、そのプリプレグから得られる炭素繊維強化複合材料の物性が低下する課題があることが確認されている。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)を混合した場合、より極性の高い脂肪族エポキシ化合物(C)が炭素繊維側に多く偏在し、炭素繊維と逆側のサイジング層の最外層に極性の低い芳香族エポキシ化合物(D)が偏在しやすいという現象が見られる。このサイジング層の傾斜構造の結果として、脂肪族エポキシ化合物(C)は炭素繊維近傍で炭素繊維と強い相互作用を有することで炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性を高めることができる。また、外層に多く存在する芳香族エポキシ化合物(D)は、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグにした場合には脂肪族エポキシ化合物(C)をマトリックス樹脂から遮断する役割を果たす。このことにより、脂肪族エポキシ化合物(C)とマトリックス樹脂中の反応性の高い成分との反応が抑制されるため、長期保管時の安定性が発現される。なお、脂肪族エポキシ化合物(C)を芳香族エポキシ化合物(D)でほぼ完全に覆う場合には、サイジング剤とマトリックス樹脂との相互作用が小さくなり接着性が低下してしまうため、サイジング剤表面の脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)の存在比率が重要である。
本発明において、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は350〜550g/molであることが好ましい。550g/mol以下であることで、サイジング剤を塗布した炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。また、350g/mol以上であることで、プリプレグに該サイジング剤塗布炭素繊維を用いた場合に、プリプレグに用いている樹脂成分とサイジング剤との反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の物性が良好になるため好ましい。本発明におけるサイジング剤を塗布した炭素繊維のエポキシ当量とは、サイジング剤塗布繊維をN,N−ジメチルホルムアミドに代表される溶媒中に浸漬し、超音波洗浄を行うことで繊維から溶出させたのち、塩酸でエポキシ基を開環させ、酸塩基滴定で求めることができる。エポキシ当量は360g/mol以上が好ましく、380g/mol以上がより好ましい。また、530g/mol以下が好ましく、500g/mol以下がより好ましい。なお、炭素繊維に塗布されたサイジング剤のエポキシ当量は、塗布に用いるサイジング剤のエポキシ当量および塗布後の乾燥での熱履歴などにより、制御することができる。
本発明において、サイジング剤塗布繊維から溶出される脂肪族エポキシ化合物(C)がサイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対して0.3質量部以下であることが好ましい。かかる溶出量を0.3質量部以下とすることで、本発明のサイジング剤塗布炭素繊維を熱硬化性樹脂とともに用いてプリプレグとした場合に、熱硬化性樹脂の樹脂成分とサイジング剤による反応を抑制することができるため、プリプレグを長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の物性が良好になるため好ましい。0.1質量部以下がより好ましく、0.05質量部以下がさらに好ましい。本発明において、サイジング剤塗布繊維から溶出される脂肪族エポキシ化合物(C)の溶出量は、以下の手順で求められる。
サイジング剤塗布炭素繊維0.1gをアセトニトリルとクロロホルムを体積比9対1で混合した溶液10mlに浸漬し、超音波洗浄を20分間行うことで繊維からサイジング剤を溶出させた後、試料溶液を5ml採取し窒素中で溶媒を留去、さらに0.2mlになるまで上述のアセトニトリルとクロロホルムの混合溶液を加えて定容し、25倍の濃縮液を作成する。その溶液を水とアセトニトリルの混合液を移動相とした液体クロマトグラフィーを用いて脂肪族エポキシ化合物(C)のピークをそれ以外のピークと分離し、蒸発光散乱検出器(ELSD)にて検出する。そして、予め濃度の分かっている脂肪族エポキシ化合物(C)の溶液のピーク面積を用いて検量線を作成し、それを基準にして脂肪族エポキシ化合物(C)の濃度を定量化することにより、サイジング剤塗布炭素繊維100質量部に対する脂肪族エポキシ化合物(C)の溶出量を求める。
本発明は、サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.50〜0.90である。好ましくは、0.55以上、さらに好ましくは0.57以上である。また、好ましくは0.80以下、より好ましくは0.74以下である。(a)/(b)が大きいということは、表面に芳香族由来の化合物が多く、脂肪族エステル由来の化合物が少ないことを示す。本発明は、この(a)/(b)が、特定の範囲に入るときに、マトリックス樹脂との接着性に優れ、かつプリプレグの状態で長期保管したときも物性低下が少ないことを見出してなされたものである。
X線光電子分光の測定法とは、超高真空中で試料の炭素繊維にX線を照射し、炭素繊維の表面から放出される光電子の運動エネルギーをエネルギーアナライザーとよばれる装置で測定する分析手法のことである。この試料の炭素繊維表面から放出される光電子の運動エネルギーを調べることにより、試料の炭素繊維に入射したX線のエネルギー値から換算される結合エネルギーが一意的に求まり、その結合エネルギーと光電子強度から、試料の最表面(〜nm)に存在する元素の種類と濃度、その化学状態を解析することができる。
本発明において、サイジング剤塗布繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求められるものである。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定が行われる。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせる。このときに、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求められる。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)が算出される。
サイジングの内層を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)が0.45〜1.0であることが好ましい。サイジング剤の内層は、サイジング被覆炭素繊維をアセトン溶媒で1〜10分間超音波洗浄した後、蒸留水で洗い流し、炭素繊維に付着している残存サイジング剤を0.10±0.05質量%の範囲に制御した後、上述した方法にて測定が行われる。
本発明において、サイジング剤は脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)を少なくとも含む。脂肪族エポキシ化合物(C)は塗布されたサイジング剤全量に対して35〜65質量%含まれることが好ましい。35質量%以上塗布されていることで、接着性が向上する。また、65質量%以下であることで、サイジング剤として脂肪族エポキシ以外の成分を用いることができ、得られたサイジング剤塗布繊維を用いて作成したプリプレグは長期保管した場合にも得られた炭素繊維強化複合材料の物性が良好になる。38質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましい。また、60質量%以下がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。
芳香族エポキシ化合物(D)は35〜60質量%含まれることが好ましい。芳香族エポキシ化合物(D)を35質量%以上含むことで、サイジング剤外層中の芳香族化合物の組成を高く維持することができるため、プリプレグの長期保管時に反応性の高い脂肪族エポキシ化合物とマトリックス樹脂中の反応性化合物との反応による物性低下が抑制される。60質量%以下であることで、上述したサイジング剤中の傾斜構造を発現することができ、接着性を維持することができることから好ましい。37質量%以上がより好ましく、39質量%以上がさらに好ましい。また、55質量%以下がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。
本発明におけるサイジング剤中のエポキシ成分として、脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)が含まれる。脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)の質量比(C)/(D)は52/48〜80/20であることが好ましい。(C)/(D)が52/48以上で、炭素繊維表面に存在する脂肪族エポキシ化合物(A)の比率が大きくなり、炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上する。その結果、得られた炭素繊維強化樹脂の引張強度などのコンポジット物性が高くなるため好ましい。また、80/20以下において、反応性の高い脂肪族エポキシ化合物が炭素繊維表面に存在する量が少なくなり、マトリックス樹脂との反応性が抑制できるため好ましい。(C)/(D)の質量比は55/45以上がより好ましく、60/40以上がさらに好ましい。また、75/35以下がより好ましく、73/37以下がさらに好ましい。
本発明において、サイジング剤の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.1〜3.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜3.0質量部の範囲である。サイジング剤の付着量がかかる範囲であると、高いOHTを発現させることができる。
サイジング剤の付着量の測定方法は、サイジング塗布炭素繊維を2±0.5g採取し、窒素雰囲気中450℃にて加熱処理を15分間行ったときの該加熱処理前後の質量変化量を加熱処理前の質量で除した値の質量%である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)の付着量は、炭素繊維100質量部に対して、0.05〜2.0質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜2.0質量部の範囲である。さらに好ましくは0.3〜1.0質量部である。脂肪族エポキシ化合物(C)の付着量が0.05質量部以上であると、炭素繊維表面に脂肪族エポキシ化合物(C)でサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂の接着性が向上するため好ましい。
本発明における脂肪族エポキシ化合物(C)は芳香環を含まないエポキシ化合物である。自由度の高い柔軟な骨格を有していることから、炭素繊維と強い相互作用を有することが可能である。その結果、サイジング剤塗布炭素繊維の接着性が向上することから好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)は分子内に1個以上のエポキシ基を有する。そのことにより、炭素繊維とサイジング剤中のエポキシ基の強固な結合を形成することができる。分子内のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りのエポキシ基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上するため好ましい。エポキシ基の数の上限は特にないが、接着性の観点からは10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)は2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)のエポキシ当量は、360g/mol未満であることが好ましく、より好ましくは270g/mol未満であり、さらに好ましくは180g/mol未満である。エポキシ当量が360g/mol未満であると、高密度で炭素繊維との相互作用が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/mol以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物(C)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物が挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシ化合物として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。また、このグリシジルエーテル型エポキシ化合物として、ジシクロペンタジエン骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンが挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ダイマー酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、分子内にエポキシシクロヘキサン環を有するエポキシ化合物が挙げられる。さらに、このエポキシ化合物としては、エポキシ化大豆油が挙げられる。
本発明に使用する脂肪族エポキシ化合物(C)として、これらのエポキシ化合物以外にも、トリグリシジルイソシアヌレートのようなエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において脂肪族エポキシ化合物(C)は1個以上のエポキシ基と、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を有することが好ましい。エポキシ化合物の具体例として、例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えて水酸基を有する化合物としては、例えば、ソルビトール型ポリグリシジルエーテルおよびグリセロール型ポリグリシジルエーテル等が挙げられ、具体的には“デナコール(商標登録)”EX−611、EX−612、EX−614、EX−614B、EX−622、EX−512、EX−521、EX−421、EX−313、EX−314およびEX−321(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物としては、例えば、ウレタン変性エポキシ化合物が挙げられ、具体的には“アデカレジン(商標登録)”EPU−78−13S、EPU−6、EPU−11、EPU−15、EPU−16A、EPU−16N、EPU−17T−6、EPU−1348およびEPU−1395(株式会社ADEKA製)等が挙げられる。または、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシは脂肪族ジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
本発明で用いる脂肪族エポキシ化合物(C)は、上述した中でも高い接着性の観点からエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物がより好ましい。
上記の中でも本発明における脂肪族エポキシ化合物(C)は、高い接着性の観点から、分子内にエポキシ基を2以上有するポリエーテル型ポリエポキシ化合物および/またはポリオール型ポリエポキシ化合物が好ましい。
また、脂肪族エポキシ化合物(C)がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ポリブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、およびアラビトールと、エピクロロヒドリンとの反応により得られるグリシジルエーテル型エポキシ化合物であることがより好ましい。
本発明において、脂肪族エポキシ化合物は、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルがさらに好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)は、分子内に芳香環を1個以上有する。芳香環とは、炭素からのみからなる芳香環炭化水素でも良いし、窒素あるいは酸素などのヘテロ原子を含むフラン、チオフェン、ピロール、イミダゾールなどの複素芳香環でも構わない。また、芳香環はナフタレン、アントラセンなどの多環式芳香環でも構わない。サイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料において、炭素繊維近傍のいわゆる界面層は、炭素繊維あるいはサイジング剤の影響を受け、マトリックス樹脂とは異なる特性を有する場合がある。エポキシ化合物が芳香環を1個以上有すると、剛直な界面層が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の応力伝達能力が向上し、繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性が向上する。また、芳香環により疎水性が向上することにより、脂肪族エポキシ化合物に比べて炭素繊維との相互作用が弱く、脂肪族エポキシ化合物を覆い、サイジング層外層に存在することができる。このことにより、サイジング剤塗布炭素繊維をプリプレグに用いた場合、長期間保管した場合の経時変化を抑制することができ好ましい。芳香環を2個以上有することで、芳香環による長期安定性の向上するため好ましい。芳香環の数の上限は特にないが、10個あれば力学特性およびマトリックス樹脂との反応の抑制の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)は分子内に少なくとも1種が分子内に1個以上のエポキシ基と1個以上の芳香環を有する。エポキシ基以外の官能基は水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基またはスルホ基から選択されるものが好ましく、1分子内に2種以上含んでいても良い。芳香族エポキシ化合物(D)以外には、化合物の安定性、高次加工性を良好にすることから、芳香族エステル化合物、芳香族ウレタン化合物が好ましく用いられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)のエポキシ基は、2個以上であることが好ましく、3個以上であることがより好ましい。また、10個以下であることが好ましい。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)は2種以上の官能基を3個以上有するエポキシ化合物であることが好ましく、2種以上の官能基を4個以上有するエポキシ化合物であることがより好ましい。エポキシ化合物が有する官能基は、エポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、またはスルホ基から選択されるものが好ましい。分子内に3個以上のエポキシ基または他の官能基を有するエポキシ化合物であると、1個のエポキシ基が炭素繊維表面の酸素含有官能基と共有結合を形成した場合でも、残りの2個以上のエポキシ基または他の官能基がマトリックス樹脂と共有結合または水素結合を形成することができ、接着性がさらに向上する。エポキシ基を含む官能基の数の上限は特にないが、接着性の観点から10個で十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)のエポキシ当量は、360g/mol未満であることが好ましく、より好ましくは270g/mol未満であり、さらに好ましくは180g/mol未満である。エポキシ当量が360g/mol未満であると、高密度で共有結合が形成され、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性がさらに向上する。エポキシ当量の下限は特にないが、90g/mol以上であれば接着性の観点から十分である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)の具体例としては、例えば、ポリオールから誘導されるグリシジルエーテル型エポキシ化合物、複数活性水素を有するアミンから誘導されるグリシジルアミン型エポキシ化合物、ポリカルボン酸から誘導されるグリシジルエステル型エポキシ化合物、および分子内に複数の2重結合を有する化合物を酸化して得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAD、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールA、フェノールノボラック、クレゾールノボラック、ヒドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニル、1,6−ジヒドロキシナフタレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、およびテトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンが挙げられる。また、グリシジルエーテル型エポキシとして化合物、ビフェニルアラルキル骨格を有するグリシジルエーテル型エポキシ化合物も例示される。
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、m−キシリレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタンおよび9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンが挙げられる。
さらに、例えば、グリシジルアミン型エポキシ化合物として、m−アミノフェノール、p−アミノフェノール、および4−アミノ−3−メチルフェノールのアミノフェノール類の水酸基とアミノ基の両方を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるエポキシ化合物が挙げられる。
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸を、エピクロロヒドリンと反応させて得られるグリシジルエステル型エポキシ化合物が挙げられる。
本発明に使用する芳香族エポキシ化合物(D)として、これらのエポキシ化合物以外にも、上に挙げたエポキシ化合物を原料として合成されるエポキシ化合物、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとトリレンジイソシアネートからオキサゾリドン環生成反応により合成されるエポキシ化合物が挙げられる。
本発明において、1個以上のエポキシ基以外に、水酸基、アミド基、イミド基、ウレタン基、ウレア基、スルホニル基、カルボキシル基、エステル基およびスルホ基から選ばれる、少なくとも1個以上の官能基を好ましく用いられる。例えば、エポキシ基と水酸基を有する化合物、エポキシ基とアミド基を有する化合物、エポキシ基とイミド基を有する化合物、エポキシ基とウレタン基を有する化合物、エポキシ基とウレア基を有する化合物、エポキシ基とスルホニル基を有する化合物、エポキシ基とスルホ基を有する化合物が挙げられる。
エポキシ基に加えてアミド基を有する化合物としては、例えば、グリシジルベンズアミド、アミド変性エポキシ化合物等が挙げられる。アミド変性エポキシは芳香環を含有するジカルボン酸アミドのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてイミド基を有する化合物としては、例えば、グリシジルフタルイミド等が挙げられる。具体的には“デナコール(商標登録)”EX−731(ナガセケムテックス株式会社製)等が挙げられる。
エポキシ基に加えてウレタン基を有する化合物としては、ポリエチレンオキサイドモノアルキルエーテルの末端水酸基に、その水酸基量に対する反応当量の芳香環を含有する多価イソシアネートを反応させ、次いで得られた反応生成物のイソシアネート残基に多価エポキシ化合物内の水酸基と反応させることによって得ることができる。ここで、用いられる多価イソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネート、パラフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネートおよびビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネートなどが挙げられる。
エポキシ基に加えてウレア基を有する化合物としては、例えば、ウレア変性エポキシ化合物等が挙げられる。ウレア変性エポキシはジカルボン酸ウレアのカルボキシル基に2個以上のエポキシ基を有する芳香環を含有するエポキシ化合物のエポキシ基を反応させることによって得ることができる。
エポキシ基に加えてスルホニル基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールS型エポキシ等が挙げられる。
エポキシ基に加えてスルホ基を有する化合物としては、例えば、p−トルエンスルホン酸グリシジルおよび3−ニトロベンゼンスルホン酸グリシジル等が挙げられる。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)は、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、またはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのいずれかであることが好ましい。これらのエポキシ化合物は、エポキシ基数が多く、エポキシ当量が小さく、かつ、2個以上の芳香環を有しており、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上させることに加え、繊維強化複合材料の0°引張強度等の力学特性を向上させる。より好ましくは、フェノールノボラック型エポキシ化合物およびクレゾールノボラック型エポキシ化合物である。
本発明において、芳香族エポキシ化合物(D)がフェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがプリプレグを長期保管した場合の安定性、接着性の観点から好ましく、ビスフェノールA型エポキシ化合物あるいはビスフェノールF型エポキシ化合物であることがより好ましい。
さらに、本発明で用いられるサイジング剤には、脂肪族エポキシ化合物(C)と芳香族エポキシ化合物(D)以外の成分を1種類以上含んでも良い。炭素繊維とサイジング剤との接着性を高める促進剤、サイジング剤塗布炭素繊維に収束性あるいは柔軟性を付与することで取扱い性、耐擦過性および耐毛羽性を高め、マトリックス樹脂の含浸性を向上させることが目的として挙げられるが、本発明における、プリプレグでの長期安定性を向上させる目的で(C)および(D)以外の化合物を含有することができる。また、サイジング剤の安定性を目的として、分散剤および界面活性剤等の補助成分を添加しても良い。
本発明において、炭素繊維としては、X線光電子分光法により測定されるその繊維表面の酸素(O)と炭素(C)の原子数の比である表面酸素濃度(O/C)が、0.05〜0.50の範囲内であるものが好ましく、より好ましくは0.06〜0.30の範囲内のものであり、さらに好ましくは0.07〜0.25の範囲内ものである。表面酸素濃度(O/C)が0.05以上であることにより、炭素繊維表面の酸素含有官能基を確保し、マトリックス樹脂との強固な接着を得ることができる。また、表面酸素濃度(O/C)が0.50以下であることにより、酸化による炭素繊維自体の単繊維強度の低下を抑えること、すなわち、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときの繊維破断数が1.7個/mm以下に制御することができる。
炭素繊維の表面酸素濃度は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めたものである。まず、溶剤で炭素繊維表面に付着している汚れなどを除去した炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1、2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定した。測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を284.6eVに合わせる。C1sピーク面積は、282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求められる。表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積の比を装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表す。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用いる場合、上記装置固有の感度補正値は2.33である。
本発明のサイジング剤塗布炭素繊維は、上記好適な製造方法のポイントに注意して、当業者らの慣用の手段に従って、フラグメンテーションの破断挙動が本発明の範囲に合うように試行錯誤することで得ることができる。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制限されるものではない。
(A)サイジング剤塗布炭素繊維のサイジング剤表面のX線光電子分光法
本発明において、サイジング剤塗布繊維のサイジング剤表面の(a)、(b)のピーク比は、X線光電子分光法により、次の手順に従って求めた。サイジング剤塗布炭素繊維を20mmにカットして、銅製の試料支持台に拡げて並べた後、X線源としてAlKα1,2を用い、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保ち測定を行った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。この時に、C1sのピーク面積は282〜296eVの範囲で直線ベースラインを引くことにより求めた。また、C1sピークにて面積を求めた282〜296eVの直線ベースラインを光電子強度の原点(零点)と定義して、(b)C−O成分に帰属される結合エネルギー286.1eVのピークの高さ(cps:単位時間あたりの光電子強度)と(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー284.6eVの成分の高さ(cps)を求め、(a)/(b)を算出した。
なお、(b)より(a)のピークが大きい場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を286.1に合わせた場合、C1sのピークが282〜296eVの範囲に入らない。その場合には、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.6eVに合わせた後、上記手法にて(a)/(b)を算出した。
(B)炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率
炭素繊維束のストランド引張強度とストランド弾性率は、JIS−R−7608(2004)の樹脂含浸ストランド試験法に準拠し、次の手順に従い求めた。樹脂処方としては、“セロキサイド(登録商標)”2021P(ダイセル化学工業社製)/3フッ化ホウ素モノエチルアミン(東京化成工業(株)製)/アセトン=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、温度125℃、時間30分を用いた。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とした。
(C)炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従いX線光電子分光法により求めた。まず、溶媒で表面に付着している汚れを除去した炭素繊維を、約20mmにカットし、銅製の試料支持台に拡げる。次に、試料支持台を試料チャンバー内にセットし、試料チャンバー中を1×10−8Torrに保った。続いて、X線源としてAlKα1,2 を用い、光電子脱出角度を90°として測定を行った。なお、測定時の帯電に伴うピークの補正値としてC1sのメインピーク(ピークトップ)の結合エネルギー値を286.1eVに合わせた。C1sピーク面積は282〜296eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。また、O1sピーク面積は528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。ここで、表面酸素濃度とは、上記のO1sピーク面積とC1sピーク面積の比から装置固有の感度補正値を用いて原子数比として算出したものである。X線光電子分光法装置として、アルバック・ファイ(株)製ESCA−1600を用い、上記装置固有の感度補正値は2.33であった。
(D)フラグメンテーション法
フラグメンテーション法による繊維破断数の測定は、次の(イ)〜(ホ)の手順で行った。
(イ)樹脂の調整
ビスフェノールA型エポキシ樹脂化合物“エポトートYD−128”(新日鐵化学(株)製)190質量部とジエチレントリアミン(和光純薬工業(株)製)20.7質量部を容器に入れてスパチュラでかき混ぜ、自動真空脱泡装置を用いて脱泡した。
(ロ)炭素繊維単繊維のサンプリングとモールドへの固定
20cm程度の長さの炭素繊維束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単繊維をサンプリングした。このとき、束全体からできるだけまんべんなくサンプリングした。次に、穴あき台紙の両端に両面テープを貼り、サンプリングした単繊維に一定張力を与えた状態で穴あき台紙に単繊維を固定した。次に、ポリエステルフィルム“ルミラー”(商標登録)(東レ(株)製)を貼り付けたガラス板を用意して、試験片の厚さを調整するための2mm厚のスペーサーをフィルム上に固定した。そのスペーサー上に単繊維を固定した穴あき台紙を置き、さらにその上に、同様にフィルムを貼り付けたガラス板をフィルムが貼り付いた面を下向きにセットした。このときに繊維の埋め込み深さを制御するために、厚み70μm程度のテープをフィルムの両端に貼り付けた。
(ハ)樹脂の注型から硬化まで
上記(ロ)の手順のモールド内(スペーサーとフィルムに囲まれた空間)に上記(イ)の手順で調整した樹脂を流し込んだ。樹脂を流し込んだモールドを、あらかじめ50℃に昇温させたオーブンを用いて5時間加熱後、降温速度2.5℃/分で30℃の温度まで降温した。その後、脱型、カットをして2cm×7.5cm×0.2cmの試験片を得た。このとき、試験片幅の中央0.5cm幅内に単繊維が位置するように試験片をカットした。
(ニ)繊維埋め込み深さ測定
上記(ハ)の手順で得られた試験片に対して、レーザーラマン分光光度計(日本分光 NRS−3000)のレーザーと532nmノッチフィルターを用いて繊維の埋め込み深さ測定を行った。まず、単繊維表面にレーザーを当て、レーザーのビーム径が最も小さくなるようにステージ高さを調整し、そのときの高さをA(μm)とする。次に試験片表面にレーザーを当て、レーザーのビーム径が最も小さくなるようにステージ高さを調整し、そのときの高さをB(μm)とする。繊維の埋め込み深さd(μm)は上記レーザーを使用して測定した樹脂の屈折率1.732を用いて、以下の式で計算した。
Figure 0005582269
(ホ)4点曲げ試験
上記(ハ)の手順で得られた試験片に対して、外側圧子50mm間隔、内側圧子20mm間隔の治具を用いて4点曲げで引張り歪みを負荷した。ステップワイズに0.1%毎に歪みを与え、偏光顕微鏡により試験片を観察し、試験片長手方向の中心部10mmの破断数を測定した。測定した破断数を10で除した値を繊維破断数(個/mm)とした。また、試験片の中心から幅方向に約5mm離れた位置に貼り付けた歪みゲージを用いて歪みε(%)を測定した。最終的な単繊維コンポジットの歪みεcは、歪みゲージのゲージファクターκ、上記(ニ)の手順で測定した繊維埋め込み深さd(μm)、残留歪み0.14(%)を考慮して以下の式で計算した。
Figure 0005582269
なお、試験のn数は30とした。
(E)炭素繊維の単繊維弾性率
炭素繊維の単繊維弾性率は、JIS R7606(2000年)に基づいて、以下の通りにして求める。つまり、まず、20cm程度の炭素繊維の束をほぼ4等分し、4つの束から順番に単糸をサンプリングして束全体からできるだけまんべんなくサンプリングする。サンプリングした単糸は、穴あき台紙に接着剤を用いて固定する。単糸を固定した台紙を引張試験機に取り付け、ゲージ長50mm、歪速度2mm/分、試料数20で引張試験をおこなう。弾性率は以下の式で定義される。
弾性率=(得られる強力)/(単繊維の断面積×得られる伸度)
単繊維の断面積は、測定する繊維束について、単位長さ当たりの質量(g/m)を密度(g/m)で除して、さらにフィラメント数で除して求める。密度は、比重液をo−ジクロロエチレンとしてアルキメデス法で測定した。
(F)有孔板引張強度
ASTM D5766(Open-hole Tensile Strength of Polymer Matrix Composite Laminates)に準拠して行った。
a.テストコンディション
・室温条件(RTD):69°F(20.6℃)±5°F
・低温条件(LTD):−75°F(−59.4℃)±5°F
b.積層構成
16ply(45/90/−45/0)2s
c.成形コンディション
・プリプレグを所定の大きさにカットし、上述bの構成となるように積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて昇温速度1.5℃/minで180℃まで昇温して圧力6気圧で2時間かけて硬化させ擬似等方強化材(炭素繊維複合材料)を得た。
d.サンプルサイズ
Dimensions:長さ308mm×幅38.1mm×厚み4.5mm
各実施例および各比較例で用いた材料と成分は下記の通りである。
・(C)成分:C−1〜C−3
C−1:“デナコール(登録商標)”EX−810(ナガセケムテックス(株)製)
エチレングリコールのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:113g/mol、エポキシ基数:2
C−2:“デナコール(登録商標)”EX−611(ナガセケムテックス(株)製)
ソルビトールポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/mol、エポキシ基数:4
水酸基数:2
C−3:“デナコール(登録商標)”EX−521(ナガセケムテックス(株)製)
ポリグリセリンポリグリシジルエーテル
エポキシ当量:183g/mol、エポキシ基数:3以上。
・(D)成分:D−1〜D−3
D−1:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/mol、エポキシ基数:2
D−2:“jER(登録商標)”1001(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:475g/mol、エポキシ基数:2
D−3:“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製)
ビスフェノールFのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:167g/mol、エポキシ基数:2。
・(A)成分:A−1〜A−3
A−1:“スミエポキシ(登録商標)”ELM434(住友化学(株)製)
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン
エポキシ当量:120g/mol
A−2:“jER(登録商標)”828(三菱化学(株)製)
ビスフェノールAのジグリシジルエーテル
エポキシ当量:189g/mol
A−3:GAN(日本化薬(株)製)
N−ジグリシジルアニリン
・(B)成分:
“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、和歌山精化(株)製)
・熱可塑性樹脂
“スミカエクセル(登録商標)”5003P(住友化学(株)製)
ポリエーテルスルホン。
(実施例1〜16、比較例1〜26)
本実施例は、次の第Iの工程:原料となる炭素繊維を製造する工程、第IIの工程:炭素繊維の表面処理を行う工程、第IIIの工程:サイジング剤を炭素繊維に付着させる工程および第IVの工程:プリプレグの作製からなる。
・第Iの工程
アクリロニトリル99.5mol%とイタコン酸0.5mol%からなる共重合体を、ジメチルスルホキシドを溶媒とし、2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを開始剤として溶液重合法により重合させ、重量平均分子量70万、Mz/Mwが1.8のポリアクリロニトリル系共重合体を製造した。製造されたポリアクリロニトリル系重合体に、アンモニアガスをpH8.5になるまで吹き込み、重合体濃度が15質量%になるように調製して、紡糸溶液を得た。得られた紡糸溶液を、40℃で、直径0.15mm、孔数6,000の紡糸口金を用い、一旦空気中に吐出し、約4mmの空間を通過させた後、3℃にコントロールした35%ジメチルスルホキシドの水溶液からなる凝固浴に導入する乾湿式紡糸法により凝固糸条とした。この凝固糸条を、常法により水洗した後、2槽の温水浴中で、3.5倍の延伸を行った。続いて、この水浴延伸後の繊維束に対して、アミノ変性シリコーン系シリコーン油剤を付与し、160℃の加熱ローラーを用いて、乾燥緻密化処理を行い、2糸条を合糸し、単繊維本数12000本としてから、加圧スチーム中で3.7倍延伸することにより、製糸全延伸倍率を13倍とし、その後交絡処理を行って単繊維繊度0.7dtex、単繊維本数12000本のポリアクリロニトリル系前駆体繊維を得た。ここで、交絡処理とは、繊維束長手方向と流体の吹き付け方向の成す角が90°で、かつ繊維束を取り囲むように8個の噴出孔を配置し、各々の噴出孔が2孔で1組となるよう対向する位置に配置した流体吹きつけノズルを用い、繊維束の張力が3mN/dtexの状態に調節し、かつ、流体の吐出圧力を0.35MPaに設定して行った。次に、温度240〜260℃の空気中において、延伸比1で延伸しながらで耐炎化処理し、比重1.35〜1.36の耐炎化繊維束を得た。得られた耐炎化繊維束を、温度300〜800℃の窒素雰囲気中において、延伸比1.15で延伸しながら予備炭素化処理を行い、予備炭素化繊維束を得た。得られた予備炭素化繊維束を、窒素雰囲気中において、最高温度1500℃で、5.5mN/dtexの張力で炭素化処理を行った。これを炭素繊維Aとした。
交絡処理を行わない以外は炭素繊維Aと同様にして炭素繊維を得た。これを炭素繊維Bとした。
溶液重合時に開始剤の量や投入タイミングを調整することで重量平均分子量40万、Mz/Mwが3.5、重合体濃度が19%の紡糸溶液を得て、それを用いた以外は炭素繊維Aと同様にして炭素繊維を得た。これを炭素繊維Cとした。
交絡処理を行わない以外は炭素繊維Cと同様にして炭素繊維を得た。これを炭素繊維Dとした。
それ以外に市販されている“TORAYCA(商標登録)”T800S−24k−10E、“TORAYCA(商標登録)”T700S−24k−50E(東レ(株)製)、“Hextow(商標登録)”IM−10(Hexcel社製)、“Hextow(商標登録)”IM−9(Hexcel社製)、“TENAX(商標登録)”IM600(東邦テナックス社製)も用いて解析を行った。
・第IIの工程
得た炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。この表面処理を表面処理Aとした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.15であった。
得た炭素繊維を、濃度0.1モル/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり500クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。この表面処理を表面処理Bとした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.22であった。
得た炭素繊維を、濃度0.1モル/lの硫酸水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。この表面処理を表面処理Cとした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.20であった。
得た炭素繊維を、濃度0.1モル/lの硝酸水溶液を電解液として、電気量を炭素繊維1g当たり80クーロンで電解表面処理した。この電解表面処理を施された炭素繊維を続いて水洗し、150℃の温度の加熱空気中で乾燥し、原料となる炭素繊維を得た。この表面処理を表面処理Dとした。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.14であった。
得た炭素繊維を表面処理しなかったとき、便宜上、表面処理Eと呼ぶ。このときの表面酸素濃度O/Cは、0.02であった。
・第IIIの工程
(D)成分としてD−1を10質量部とD−2を10質量部、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物を20質量部および乳化剤としてポリオキシエチレン(70モル)スチレン化(5モル)クミルフェノールを10質量部からなる水分散エマルジョンを調合した後、(C)成分としてC−3を50質量部混合してサイジング液を調合した。このサイジング剤を浸漬法により表面処理された炭素繊維に塗布した後、210℃の温度で75秒間熱処理をして、サイジング剤塗布炭素繊維束を得た。サイジング剤の付着量は、表面処理された炭素繊維100質量部に対して1.0質量部となるように調整した。これをサイジング剤Aとした。サイジング剤表面を光電子脱出角度15°でX線光電子分光法によって測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)の比率(a)/(b)は0.67であった。
サイジング剤の付着量を、表面処理された炭素繊維100質量部に対して0.2質量部となるように調整した以外はサイジング剤Aと同様に行った。これをサイジング剤Bとした。かかる比率(a)/(b)は0.67であった。
サイジング剤の付着量を、表面処理された炭素繊維100質量部に対して2.0質量部となるように調整した以外はサイジング剤Aと同様に行った。これをサイジング剤Cとした。かかる比率(a)/(b)は0.67であった。
サイジング剤を塗布しなかったものを、便宜上、サイジング剤Dと呼ぶ。
D−1、D−2成分、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、C−3成分を10:10:20:50から22.5:22.5:45:0に変更した以外はサイジング剤Aと同様に行った。これをサイジング剤Eとした。かかる比率(a)/(b)は0.99であった。
D−1成分、D−2成分、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、C−1成分、C−3成分、乳化剤を10:10:20:0:50:10から0:0:0:50:50:0に変更した以外はサイジング剤Aと同様に行った。これをサイジング剤Fとした。かかる比率(a)/(b)は0.26であった。
D−2成分をD−3成分に変更した以外はサイジング剤Aと同様に行った。これをサイジング剤Gとした。かかる比率(a)/(b)は0.63であった。
D−1成分、D−2成分、ビスフェノールAのEO2モル付加物2モルとマレイン酸1.5モル、セバチン酸0.5モルの縮合物、C−1成分、C−3成分、乳化剤を0:0:0:50:50:0から20:0:20:25:25:10からに変更した以外はサイジング剤Eと同様に行った。これをサイジング剤Hとした。かかる比率(a)/(b)は0.60であった。
C−1成分をC−2成分に変更した以外はサイジング剤H同様に行った。これをサイジング剤Iとした。かかる比率(a)/(b)は0.62であった。
続いて、サイジング剤塗布炭素繊維のストランド強度試験、単繊維弾性率試験を実施した。また、使用条件を想定した加速試験として、サイジング剤塗布炭素繊維を温度70℃、湿度95%で3日保管後、サイジング剤塗布炭素繊維のフラグメンテーション試験を実施した。結果を表1にまとめた。
・第IVの工程
混練装置で、(A)成分として(A−1)を35質量部と(A−2)を35質量部と(A−3)を30質量部に、14質量部のスミカエクセル5003Pを配合して溶解した後、(B)成分である4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを40質量部混練して、炭素繊維強化複合材料用のエポキシ樹脂組成物を作製した。これを樹脂組成物Aとした。
スミカエクセル5003Pの配合量を10質量部から5質量部に変更した以外は樹脂組成物Aと同様に樹脂組成物を得た。これを樹脂組成物Bとした。
(A−1):(A−2):(A−3):(B)=50:50:0:40と組成比を変更した以外は樹脂組成物Aと同様に樹脂組成物を得た。これを樹脂組成物Cとした。
得られたエポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて樹脂目付52g/mで離型紙上にコーティングし、樹脂フィルムを作製した。この樹脂フィルムを、一方向に引き揃えたサイジング剤塗布炭素繊維(目付190g/m)の両側に重ね合せてヒートロールを用い、温度100℃、気圧1気圧で加熱加圧しながらエポキシ樹脂組成物をサイジング剤塗布炭素繊維に含浸させプリプレグを得た。実際の使用条件を想定して、プリプレグを温度25℃、湿度60%で20日保管後、複合材料を成形してOHT試験を実施した。その結果を表2に示す。
工程I〜IIIにおいて、表1に示すように組み合わせて製造したサイジング剤塗布炭素繊維の評価結果を表1に、実施例1(Carbon fibre A)、比較例2(Carbon fibre C)、比較例3(Carbon fibre D)のフラグメンテーション試験結果を図2に示す。また、表1に示されるサイジング剤塗布炭素繊維とマトリックス樹脂を組み合わせて製造したプリプレグの評価結果を表2に示す。表1と2から判断するとストランド強度が高いほど単繊維見掛け応力が6.8GPaのときの繊維破断数が少ない傾向にあり、単繊維見掛け応力12.2GPaのときの繊維破断数が少ないほど特に低温試験でのOHTが高い傾向にあるとわかった。市販されているプリプレグの中でOHT(室温条件)のカタログ値の最も大きい“Hexply(登録商標)”IM−10/M91であっても600MPa(=88ksi)程度であり、それに用いられている“Hextow(登録商標)”IM−10のフラグメンテーション試験結果から考えると妥当なOHTである。
Figure 0005582269
Figure 0005582269
1:繊維束
2:固定点A
3:固定点B
4:固定点C
5:交絡点
6:引き裂き可能距離
本発明のプリプレグを用いると、それを硬化して得られる炭素繊維複合材料の引張弾性率や有孔板引張強度という物性がバランス良く高い。そのため、航空機の軽量化に大きく貢献し、航空機の燃料消費率を改善することができる。

Claims (5)

  1. 以下に示す、サイジング剤塗布炭素繊維(I)と熱硬化性樹脂(II)を含むプリプレグ。
    (I)炭素繊維にサイジング剤を塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、炭素繊維の単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、かつ、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下であるサイジング剤塗布炭素繊維
    (II)エポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する熱硬化性樹脂
  2. 脂肪族エポキシ化合物(C)および芳香族エポキシ化合物(D)を含むサイジング剤を炭素繊維に塗布したサイジング剤塗布炭素繊維であって、前記炭素繊維は、単繊維コンポジットのフラグメンテーション法による、単繊維見掛け応力が15.3GPaのときに繊維破断数が2.0個/mm以上であり、かつ、単繊維見掛け応力が12.2GPaのときに繊維破断数が1.7個/mm以下である、サイジング剤塗布炭素繊維。
  3. 前記炭素繊維に塗布したサイジング剤表面を、X線光電子分光法によって光電子脱出角度15°で測定されるC1s内殻スペクトルの(a)CHx、C−C、C=Cに帰属される結合エネルギー(284.6eV)の成分の高さ(cps)と、(b)C−Oに帰属される結合エネルギー(286.1eV)の成分の高さ(cps)との比率(a)/(b)が0.50〜0.90である、請求項2記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
  4. 平均引き裂き可能距離が300mm〜710mmであり、実質的に無撚りの、請求項3記載のサイジング剤塗布炭素繊維。
  5. 請求項2〜4のいずれか記載のサイジング剤塗布炭素繊維、およびエポキシ化合物(A)と芳香族アミン硬化剤(B)とを含有する熱硬化性樹脂(II)を含むプリプレグ。
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