JP2014180692A - タンデムガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents

タンデムガスシールドアーク溶接方法 Download PDF

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Abstract

【課題】先行極及び後行極をともに逆極性とし、それらの何れにも100%炭酸ガスを用い、アンダカットが発生せず、低スパッタで良好なビード形状が得られ、深溶込みが可能な水平すみ肉溶接用のタンデムガスシールドアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】ソリッドワイヤからなる先行極4のトーチ角度θ及びフラックス入りワイヤからなる後行極5のトーチ角度θが、それぞれ「5°≦θ<40°」及び「40°≦θ≦60°」となるように設定し、両電極のシールドガスGとして100%炭酸ガスを用いる。このとき、先行極4の溶接パラメータである溶接電圧Vが26〜38[V]であり、溶接電流Iが350〜550[A]であり、溶接電圧V[V]及び溶接電流I[A]が、「56≦(V・10/I)≦84」の関係を満足する。
【選択図】図1

Description

本発明は、多電極を用いたガスシールドアーク溶接方法であるタンデムガスシールドアーク溶接方法に関する。
近年、橋梁や造船分野の水平すみ肉ガスシールドアーク溶接においては、溶接の高速化に加えて安定した深い溶込みが要求されている。例えば、特許文献1には、高電流かつ高速度の溶接条件で行う水平すみ肉ガスシールドアーク溶接方法に用いるフラックス入りワイヤの成分組成などについて開示されている。その結果、フラックス入りワイヤに充填するフラックスに適正な範囲のSi、Mnからなる脱酸剤にNaOおよびTiOを含む合成物、NaO、TiOの単独、または複合添加したアーク安定剤を含有させることにより、溶接時の溶滴の離脱を促進して溶滴の細粒化および移行回数を増加させてアークを安定化させると共に低スパッタ化を図り、さらにフラックス充填率を低くすることにより、溶込みが深くなるとしている。
また、多電極水平すみ肉ガスシールドアーク溶接において、湯溜りの安定性を向上させて溶接の高速化を図るために、例えば、特許文献2には、ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを先行極及び後行極として使用し、フィラーワイヤを先行極と後行極との間の溶融金属である湯溜り中に挿入し、フィラーワイヤに正極性の電流(フィラーワイヤが溶融金属に対して負極性)を流しながら溶接する溶接方法が開示されている。特許文献2に記載された溶接方法では、湯溜りを安定化することができるため、低スパッタで良好なビード形状を確保ししつつ高速溶接が可能となる。
特開2003−71590号公報 特開2004−261839号公報
しかしながら、特許文献1に記載の溶接方法を用いても、フラックス入りワイヤを用いる限り、その深溶込み効果は微少であり、顕著な改善効果は得られない。
また、特許文献2に記載の溶接方法では、高速溶接が実現した一方で、特許文献1に記載の溶接方法と同様に溶込みが浅くなるという問題がある。また、特許文献2に記載の方法で溶接する場合、良好なビード形状及びビード外観を確保するために、先行極及び後行極のトーチ角度を、ともに40〜60°の範囲で同じ角度とする必要があった。ここで、水平方向の溶込みを深くするために、トーチ角度を40°よりも小さくすると、前記したようにビード形状及びビード外観が悪化することに加えて、下板にアンダカットが発生しやすくなるという問題があった。
本発明は、かかる問題に鑑みて創案されたものであり、スパッタ発生量が少なく、アンダカットが発生せず、深溶込み化が可能な、水平すみ肉溶接用のタンデムガスシールドアーク溶接方法を提供することを目的とする。
前記した課題を解決するために、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、先行極と後行極とを用いた水平すみ肉溶接用のタンデムガスシールドアーク溶接方法であって、前記先行極と前記後行極とをともに逆極性とし、前記先行極としてソリッドワイヤを用いるとともに、当該先行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該先行極のトーチ角度θが、5°<θ<40°であり、前記後行極としてフラックス入りワイヤを用いるとともに、当該後行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該後行極のトーチ角度θが、40°≦θ≦60°であり、前記先行極の溶接電圧V[V]が26〜38[V]であり、前記先行極の溶接電流I[A]が350〜550[A]であり、前記溶接電圧V[V]及び前記溶接電流I[A]の関係が式(1)の条件を満足するようにした。
かかる方法によれば、先行極のトーチ角度θを、5°<θ<40°とすることにより、深溶込みが可能となる。また、後行極のトーチ角度θが、40°≦θ≦60°とすることで、先行極による凸ビード形状を整形し、良好なビード形状とする。そして、式(1)の溶接条件を満足することで、先行極のトーチ角度と後行極のトーチ角度とを異なるように設定するにもかかわらず、両極によるアーク溶接の湯溜りに対する影響をバランスさせることで当該湯溜りを安定化させ、スパッタ及びアンダカットの発生を抑制するとともに、良好なビード形状と深溶込みとを両立することができる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記先行極についての溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、ワイヤ溶融速度WmL[g/min]、ワイヤ直径R[mm]及びワイヤ突出し長さE[mm]が、式(2)及び式(3)の条件を満足することが好ましい。
式(2)及び式(3)の溶接条件を満足することで、湯溜りがより安定化し、より深溶込みにすることができる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記ワイヤ直径R[mm]及び前記ワイヤ突出し長さE[mm]が、式(2−2)の条件を満足することが更に好ましい。
これによって、湯溜りがより安定化し、更に深溶込みにすることができる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記後行極のワイヤ突出し長さEが、前記先行極のワイヤ突出し長さEよりも長いことが好ましい。
これによって、後行極による溶着量をより好適に確保し、高速度でもアンダカットのない良好なビード形状を得ることが可能となる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記先行極のトーチ角度θが、5°<θ≦25°であることが好ましい。
これによって、より好適に、先行極による深溶込みが可能となる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記後行極についての溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、ワイヤ送給速度WfT[m/min]及びワイヤ半径r[mm]が、式(4)及び式(5)の条件を満足することが好ましい。
これによって、より好適に、後行極によるスパッタの発生を抑制し、良好なビード形状とすることができる。
また、前記後行極のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOの含有量及びSiOの含有量の合計が5.0〜9.5質量%であることが好ましい。
TiO及びSiOは、ともにスラグ形成剤として作用する。TiOの含有量及びSiOの含有量の合計を5.0以上とすることにより、十分なスラグ量を確保して、良好なスラグ剥離性や包被性を得ることができ、ビード形状の悪化を抑制することができる。一方、TiOの含有量及びSiOの含有量の合計を9.5質量%以下とすることにより、スラグ生成量が過剰とならず、アンダカットやオーバラップの発生を抑制することができる。
更に、前記後行極のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOが4.5〜9.0質量%、SiOが0.5〜0.8質量%、Cが0.02〜0.09質量%、Siが0.3〜0.75質量%、Mnが2.0〜3.0質量%を、それぞれ含有することが好ましい。
TiOの含有量を4.5〜9.0質量%以上とすることにより、良好なスラグ剥離性や包被性を得ることができるとともに、スラグ生成量が過剰とならず、アンダカットやオーバラップの発生を抑制することができる。
また、SiOの含有量を0.5〜0.8質量%以上とすることにより、良好なスラグ流動性が得られ、ビード形状の悪化を抑制することができるとともに、ビードが垂れやすくなり過ぎず、スパッタ発生量の増加を抑制して溶接作業性の低下を防止することができる。
Cの含有量を0.02〜0.09質量%以上とすることで、溶接金属の十分な強度を確保することができるとともに、溶接金属の強度が上昇し過ぎて低温での靭性が低下することを抑制することができ、また、スパッタ発生量の増加を抑制することができる。
Siは脱酸剤として作用し、溶接金属の強度を調整することや、溶融金属の粘性を高め効果がある。Siの含有量を0.3〜0.75質量%以上とすることで、溶接金属の十分な強度を確保することができ、ビード形状の悪化を抑制することができるとともに、溶接金属の強度が高くなり過ぎて低温での靭性が低下することを抑制することができる。
Mnは脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度、及び低温での靭性を向上させる効果がある。Mnの含有量を2.0〜3.0質量%以上とすることで、このような効果を十分に発揮することができるとともに、溶接金属の強度が高くなり過ぎて低温での靭性が低下し、低温割れが発生しやすくなることを抑制することができる。
本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法によれば、先行極の溶接条件を調整することで、両電極のシールドガスとして100%炭酸ガスを用い、また両電極のトーチ角度を異なるように設定しても、スパッタ及びアンダカットの発生を抑制し、良好なビード形状を維持しつつ、深溶込みの水平すみ肉溶接を行うことができる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法によれば、溶接条件を更に絞り込むことにより、より良好に深溶込みの水平すみ肉溶接を行うことができる。
本発明の実施形態に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法を説明するための模式的な概略図であって、(a)は正面図、(b)は平面図、(c)は側面図を示す。 本発明の実施形態に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法において、電極配置と溶込み及びビード形状との関係を説明する側方からみた模式的な断面図であり、(a)は先行極、(b)は後行極について説明する図である。 溶接部の溶込みの例を示す断面マクロ写真画像であり、(a)は凸ビードとなった場合、(b)はビードが平坦化された場合、(c)はアンダカットが発生した場合を示す。 発明法及び従来法に係る溶接方法を用いた水平すみ肉溶接の断面マクロ写真画像であり、(a)は従来法1、(b)は従来法2、(c)は発明法によるものである。 タンデムガスシールドアーク溶接における溶込みの様子を示す模式的な側面図であり、(a)は溶込みが浅い場合、(b)は溶込みが深い場合を示し、(c)は溶込み及びビード形状の評価方法を説明するための図である。 発明法及び従来法1における、溶接速度とスパッタ発生率との関係を示すグラフである。
以下、本発明の実施形態に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明の便宜上、図面中で部材の大きさや形状を誇張して示している場合があるとともに、一部の構成の描写を省略している場合がある。また、以下の説明では、タンデムガスシールドアーク溶接のことを「タンデム溶接」と略して説明する場合がある。また、以下の説明では、従来のタンデムガスシールドアーク溶接方法のことを「従来法」と、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法のことを「発明法」と、それぞれ略して説明する場合がある。
まず、図1及び図2を参照して、本発明のタンデムガスシールドアーク溶接方法について説明する。
タンデムガスシールドアーク溶接方法は、溶接部にシールドガスGを噴射しながら、先行極4と後行極5とからなる2つの電極によって溶接を行う方法である。前記したように、従来のタンデム溶接法では、先行極4と後行極5とは、40〜60°の範囲の同じトーチ角度に配置するものであった。ここで、トーチ角度とは、図1(c)に示すように、水平に配置された下板1の上面と先行極4及び後行極5とが成す角度θ,θのことである。
本発明におけるタンデム溶接法は、図1(c)に示すように、先行極4のトーチ角度θを後行極5のトーチ角度θより小さくするとともに、先行極4のシールドガスG(図1(a)参照)及び後行極5のシールドガスGとして、ともに100%炭酸ガスを用い、先行極4のワイヤ40としてソリッドワイヤを用い、後行極5のワイヤ50としてフラックス入りワイヤを用いるものである。また、この条件で良好なビード形状を維持し、アンダカットを発生することなく、深溶込み化と低スパッタ化とを実現するために、先行極4のパラメータ間が所定の関係を有するように設定するものである。なお、パラメータ間の所定の関係の詳細については後記する。
先行極4のワイヤ40は、希土類元素などの高価な元素を含有しない安価なソリッドワイヤを用い、シールドガスGとして、高価なアルゴンガスなどの不活性ガスを含有しない100%炭酸ガスを用いる。なお、図1(b)、(c)では、シールドガスGの記載は省略している。
先行極4の中心線(ワイヤ40の先端部である突き出し部の中心線)と、水平に配置されている下板1の上面とが成す角度であるトーチ角度θは、40°より小さく、かつ5°以上の角度とすることで、立板2の厚さ方向の溶込みを深くなるようにする。また、先行極4の溶接方向に対する傾斜角(すなわち、先行極4の中心線と溶接方向を法線とする面とが成す角度)φは、特に限定されるものではないが、スッパタの発生量やビード形状を考慮して、0°乃至15°の後退角となるように設定することが好ましい。
なお、溶接方向を法線とする面は、下板1の上面に直交する面であるため、図1(a)においては、溶接方向を法線とする面に代えて、下板1の上面への垂線を示している。次に説明する後行極5についても同様である。
後行極5のワイヤ50は、フラックス入りワイヤを用い、シールドガスGとして、100%炭酸ガスを用いる。
後行極5の中心線(ワイヤ50の先端部である突き出し部の中心線)と、下板1の上面とが成す角度であるトーチ角度θは、40°以上60°以下、好ましくは40°以上50°以下の角度とすることで、先行極4によって形成する凸ビード(図3(a)参照)を平坦化し、良好なビード形状(図3(b)参照)に整形する。また、後行極5の溶接方向に対する傾斜角(すなわち、後行極5の中心線と溶接方向を法線とする面とが成す角度)φは、特に限定されるものではないが、スッパタの発生量やビード形状を考慮して、0°乃至25°の前進角となるように設定することが好ましい。
また、先行極4のワイヤ40先端と後行極5のワイヤ50の先端との距離である極間距離は、特に限定されるものではないが、両極によるアークAの安定性と、湯溜り30の安定性を考慮して、20〜60[mm]とすることが好ましい。
先行極4及び後行極5は、それぞれが不図示の溶接用電源と接続され、母材である下板1及び立板2との間に所定の溶接電圧及び溶接電流で電力が供給されることで、それぞれの電極のワイヤ40,50と下板1及び立板2との間にアークAが形成される。なお、先行極4及び後行極5に電力を供給する際の極性は、両電極とも逆極性(先行極4及び後行極5を電源の陽極に、母材である下板1及び立板2を電源の陰極に接続する)とする。
母材である下板1及び立板2は、アークAによって溶融され、ワイヤ40、50が溶融した溶着金属と融合することで溶接部が形成される。また、ワイヤ40,50は、アークAのアーク熱とともに、ワイヤ40,50を流れる溶接電流によって生じるジュール熱によって溶融される。
ここで、図2を参照して、先行極4及び後行極5による溶込み及びビード形状への寄与について説明する。
本発明におけるタンデム溶接では、図2(a)に示すように、トーチ角度を小さく設定した先行極4により、立板2の厚み方向(水平方向)についての深溶け込みに大きく寄与する。また、先行極4により形成されるビード3は、凸ビードとなる傾向を有する。図3(a)に凸ビードの断面マクロ写真画像の一例を示す。
また、図2(b)に示すように、先行極4によって形成される凸形状のビード3は、後行極5によって平坦化され、良好なビード形状に整形される。図3(b)に平坦化されたビードの断面マクロ写真画像の一例を示す。
すなわち、先行極4が深溶込みに大きく寄与し、後行極5が良好なビード形状に大きく寄与するように役割を分担する。
次に、各パラメータ間の所定の関係について、本発明に至った考察の過程とともに説明する。
従来のタンデム溶接法である(a)Ar−CO混合ガスとソリッドワイヤとを組み合わせたタンデムパルスMAG(Metal Active Gas)法、(b)100%COガスとフラックス入りワイヤとを組み合わせたタンデムCO溶接法で板厚12mmの水平すみ肉両面溶接を行うと、図4(a)、(b)に示すように、水平方向の合計溶込みが約4〜5mmとなり、板厚の半分以上である約7mmが溶け残しとなる。なお、図4(a)、(b)においては、水平に配置された一方の母材である下板1の上面に垂直に、他方の母材である立板2が配置されている。また、立板2の両面から同じ条件ですみ肉溶接され、ビード3が置かれている。図4(a)、(b)において、立板2の両面に置かれたビード3の間に、水平方向に黒い筋状に見える箇所が、溶け残しとなった領域である。
従って、従来のタンデム溶接法ですみ肉継手部の静的強度を確保するためには、のど厚(脚長)を所定値以上とすることが必要となる。このため、タンデム溶接法を用いているにも関わらず、本来の高速化の効果が十分に発揮できないという問題があった。
なお、水平すみ肉溶接において、溶込みが深い又は浅いとは、特に断らない限り、水平方向、すなわち立板2の厚さ方向の溶込みについていうものとする。例えば、図5(a)は、ビード3の水平方向の溶込みが浅い場合を示したものであり、図5(b)は、溶込みが深い場合を示したものである。
(先行極の条件)
タンデム溶接法においては、先行極4によって溶込みの深さを確保し、後行極5によってビード形状を整えるというように、2つの電極で役割を分担している。従って、深溶込み化するためには、先行極4の溶接条件を検討することが必要となる。
水平すみ肉溶接において、従来のタンデム溶接法により深溶込み化するためには、先行極4のトーチ角度θを小さくする手段が効果的である。しかし、トーチ角度θ、θを小さくすると、先行文献2にも記載されているように、下板1にアンダカットが発生してしまう。図3(c)にトーチ角度θ、θを20°とした際に、アンダカット(点線の円内を参照)が発生した溶接部の断面マクロ写真画像の一例を示す。
アンダカットが発生しないようにするには、後行極5のトーチ角度θを大きく設定する必要がある。しかし、タンデム溶接法において、両極を互いに異なるトーチ角度θ、θに設定して溶接すると、両極間に形成される溶融金属の盛り上がり部である湯溜り30に作用するアーク力の方向がアンバランスになり、湯溜り30が極めて安定しにくく、その結果としてビード形状も悪くなってしまう。このため、従来のタンデム溶接法においては、両極のトーチ角度θ、θを同一で、かつ40〜60°の範囲に設定して溶接せざるを得なかった。
ここで、水平すみ肉タンデム溶接において、アンダカットが発生せず、低スパッタ、良好なビード形成、深溶込みを実現させる上で、
(1)深溶込みとしつつ、安定した湯溜り30を形成すること、
(2)シールドガスGとして100%炭酸ガスを用いた溶接でも低スパッタにすること、
(3)トーチ角度θを小さくし、かつ大電流で溶接してもアンダカットが発生しないこと、
が極めて重要である。
一般的に、100%炭酸ガスを用いた溶接では、溶融したワイヤの先端に形成される溶滴の下からアークが発生するため、溶滴がワイヤから離脱しにくく、粗大になってしまう。このため、溶融金属が揺れ動きながら移行するグロビュール移行となる。グロビュール移行が生じると、スパッタが多量に発生し、溶滴移行に応じて溶接電流Iも大きく変動する。このため、アーク力も時々刻々と変動し、湯溜りも安定しない。また、トーチ角度θが40°以下の場合、グロビュール移行となるような一般的な溶接条件で溶接すると、アンダカットも発生してしまう。
そこで、本発明では、溶接電圧V[V]と溶接電流I[A]との比が、式(1)に示す範囲内になると、深溶込みを確保しながら、低スパッタ溶接が可能となり、湯溜りも安定し、トーチ角度θを小さくして、かつ大電流で溶接してもアンダカットが発生しないことを見出した。すなわち、式(1)を満たすことにより、溶滴の下ではなく、溶滴の周りを包むようにアークを形成させることが可能となり、100%炭酸ガス溶接でもスプレー移行となり、極低スパッタ溶接が実現できる。
次に、式(1)に示した「V・10/I」値の上下限値の意義について説明する。
式(1)の各パラメータと溶接の特性とには、次のような関係がある。
(a1)溶接電圧Vが高過ぎる場合は、スプレー移行の維持ができなくなってグロビュール移行となり、多量のスパッタが発生する。また、アンダカットも発生しやすくなる。
(a2)溶接電流Iが低過ぎる場合は、先行極4のアーク力が弱くなり、溶込みも浅くなる。
そこで、「V・10/I」の値を「84」以下にすることで、スプレー移行を維持してスパッタを低減するとともにアンダカットの発生を抑制し、湯溜り30を安定させて良好なビード形状を維持しつつ、深溶込みを可能とする。
また、式(1)の各パラメータと溶接の特性との間には、次のような関係がある。
(b1)溶接電圧Vが低過ぎる場合は、湯溜り30が安定しなくなり、ビード形状も悪くなる。
(b2)溶接電流Iが高過ぎる場合は、先行極4のアーク力が強過ぎとなり、湯溜り30が安定しなくなる。
そこで、式(1)に示した「V・10/I」の値を「56」以上とすることで、湯溜り30を安定させて良好なビード形状を維持しつつ、深溶込みを可能とする。
次に、本発明の発明者らは、式(1)の条件より、更に好ましい条件を見出した。それは溶接電流Iと溶接電圧V以外のパラメータを含めた、溶込みと湯溜り30の安定性に影響する新たな関係である。まず、溶接電流I及びワイヤ溶融速度WmLの両方に影響するパラメータとして、ワイヤ直径Rと突き出し長さEとの関係に着目した。
ここで、突き出し長さEとは、先行極4の先端部において、ワイヤ40に電流を供給するためのコンタクトチップ(不図示)から母材までの長さである。
ワイヤ直径R及び突き出し長さEが、溶接電流I及びワイヤ溶融速度WmLに及ぼす影響について説明する。
例えば、溶接電流Iが同じ場合、ワイヤ直径Rが太いほど、また突き出し長さEが短いほど、ワイヤ溶融速度WmLが小さくなり、深溶込みに有利である。
しかし、ワイヤ直径Rが太過ぎたり、突き出し長さEが短過ぎたりすると、溶接電流Iが過大となり、湯溜まり30が不安定となり、ビード形状も悪くなる。
そこで、突き出し長さEとワイヤ直径Rとの関係が式(2)に示した条件を満足することが、深溶込み化と安定した湯溜り30の形成とが両立する必要条件であることを見出した。
また、式(2)の条件を満足した上で、全ワイヤ溶融速度WmLとジュール発熱によるワイヤ溶融速度との比と、溶接電圧Vの二乗との積が、式(3)に示す範囲内になると、深溶込みを確保しながら、低スパッタ溶接が可能となり、湯溜りも安定し、トーチ角度θを小さくして、かつ大電流で溶接しても、アンダカットが発生しないことを見出した。式(3)を満たすことにより、溶滴の下ではなく、溶滴の周りを包むようにアークを形成させることが可能となり、100%炭酸ガス溶接でもスプレー移行となり、極低スパッタ溶接が実現できる。更に、式(3)を満たすことにより、先行極アークのエネルギー密度を一般的な溶接条件よりも大幅に低減できるため、トーチ角度θを小さくしてもアークによる母材の過剰な掘下げは抑制され、アンダカットは発生しない。また、スプレー移行となることで溶接電流Iの変動が極めて小さくなるため、湯溜り30も安定する。
すなわち、式(2)及び式(3)の条件を満足することにより、より低スパッタで、アンダカットが発生せず、良好なビード形状で深溶け込みとなる溶接が可能であることを見出した。
但し、式(3)における各パラメータの単位は、溶接電流Iは[A]、溶接電圧Vは[V]、ワイヤ溶融速度WmLは[g/min]、ワイヤ直径Rは[mm]、突き出し長さEは[mm]である。
次に、式(1)に示した「E/R」の値の上下限値の意義について説明する。
式(2)の各パラメータと溶接の特性とには、次のような関係がある。
(c1)突き出し長さEが長過ぎる場合は、ワイヤ溶融速度WmLが過大となり、湯溜り30が安定しなくなり、溶込みも浅くなる。
(c2)ワイヤ溶融速度WmLが同じ場合において、ワイヤ直径Rが小さいほど、溶接電流Iが低くなる。従って、ワイヤ直径Rが小さ過ぎる場合は、溶接電流Iが低くなることでアーク力が弱くなり、深溶込みに不利となる。
そこで、「E/R」の値を「20」以下、更に好ましくは「15」以下とすることで、湯溜り30の安定性と深溶け込みとの両立が可能となる。
また、式(2)の各パラメータと溶接の特性とには、次のような関係がある。
(d1)突き出し長さEが短過ぎると、先行極4のアーク力が強過ぎるため、湯溜り30が不安定となり、ビード形状も悪くなる。
(d2)ワイヤ直径Rが大き過ぎると、溶接電流Iが過大となり、湯溜り30が不安定となり、ビード形状も悪くなる。
そこで、「E/R」の値を「5」以上とすることで、湯溜り30の安定性を確保しながら、深溶込みを可能とすることができる。
次に、式(3)に示した上下限値の意義について説明する。
なお、式(2)を満足していることが前提である。
式(3)の各パラメータと溶接の特性との間には、次のような関係がある。
(e1)溶接電圧Vが高過ぎる場合は、スプレー移行の維持ができなくなってグロビュール移行となり、多量のスパッタが発生する。また、アンダカットも発生しやすくなる。
(e2)ワイヤ溶融速度WmLが高過ぎる場合は、湯溜り30が安定しなくなり、溶込みも浅くなる。
(e3)溶接電流Iが低過ぎる場合は、先行極4のアーク力が弱くなり、溶込みも浅くなる。
(e4)突き出し長さEが短過ぎる場合は、トーチ角度θが小さくなると、ワイヤ40の側面と下板1との間にアークが発生するため、溶接が不安定になる。
(e5)「WmL/(I ・E)」が低過ぎると、溶接電流Iが過大になり、アンダカットが発生しやすくなる。
そこで、式(3)に示した「(V ・WmL・10)/(I ・E)」の値を「48」以下とすることで、スプレー移行を維持してスパッタを低減するとともにアンダカットの発生を抑制し、湯溜り30を安定させて良好なビード形状を維持しつつ、深溶込みを可能とする。
また、式(3)の各パラメータと溶接の特性との間には、次のような関係がある。
(f1)溶接電圧Vが低過ぎる場合は、湯溜り30が安定しなくなり、ビード形状も悪くなる。
(f2)ワイヤ溶融速度WmLが低過ぎる場合は、湯溜り30のバランスが崩れ、ビード形状も悪くなる。
(f3)溶接電流Iが高過ぎる場合は、先行極4のアーク力が強過ぎとなり、湯溜り30が安定しなくなる。
(f4)突き出し長さEが長過ぎる場合は、ワイヤ溶融速度WmLが過大となり、湯溜り30が安定しなくなり、溶込みも浅くなる。
(f5)「WmL/(I ・E)」が高過ぎると、溶接電流Iが低くなり、溶込みが浅くなる。
そこで、式(3)に示した「(V ・WmL・10)/(I ・E)」の値を「38」以上とすることで、湯溜り30を安定させて良好なビード形状を維持しつつ、深溶込みを可能とする。
このように、先行極4についての各パラメータの溶接に対する影響を勘案して、先行極4の溶接条件として、式(2)及び式(3)の満足することで、ワイヤ40としてソリッドワイヤを用い、シールドガスGとして100%炭酸ガスを用いてもスプレー移行させることができ、低スパッタ化を実現できる。また、トーチ角度θを40°よりも小さくし、溶接電流Iを大電流としてもアンダカットにならず、良好なビード形状を得ることができる。
(後行極の条件)
先行極4の溶接条件を規定した式(1)、好ましくは更に式(2)及び式(3)の条件を満足することで、深溶込み化を図りつつ先行極4から発生するスパッタを大幅に低減できる効果があるが、タンデムガスシールドアーク溶接法において、より良好なビード形状や低スパッタ化を図るために、後行極5の溶接条件も適切に設定することが好ましい。
そこで、本実施形態では先行極4の溶接条件を前記したように設定することに加えて、後行極5についての溶接条件として、後行極5についての溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、ワイヤ送給速度WfT[g/min]及びワイヤ半径r[mm]が、式(4)及び式(5)の関係を満足するように設定する。これによって、当該後行極5のアーク長を適正に保つことができ、より良好にビード形状を整えるとともに、スパッタを低減することができる。
ここで、式(4)の上下限値及び式(5)の上限値の意義について説明する。
式(4)に示した「(I・V・10−8)/(WfT・πr )」の値が「7」を超えると、低スパッタかつ良好なビード形状を得ることができない。すなわち、溶接電流Iが大き過ぎると、後行極5によるアークAのアーク力が高過ぎとなり、2つの電極間に生じる湯溜り30が不安定となる。そのため、正常なビード形状が得られない。また、溶接電圧Vが大き過ぎると、アーク長が長過ぎとなり、多量のスパッタが発生する上、アンダカットも発生しやすくなる。
また、式(4)に示した「(I・V・10−8)/(WfT・πr )」の値が「5」未満になっても、低スパッタかつ良好なビード形状を得ることができない。すなわち、溶接電流Iが小さ過ぎるとアークAに対する十分な電磁ピンチ力が得られないため、後行極5から発生するスパッタが増大する。また、後行極5によるアークAのアーク力が低過ぎるため、先行極4によって形成した溶融池を十分に押し広げることができず、不整なビード形状となる。
更に、溶接電圧Vが小さ過ぎると、アーク長が短過ぎて短絡を発生させてしまい、スパッタが多発する上、ビード形状を十分に整えることができない。
また、式(5)に示すように、「I ・10−3/V」の値の上限を「5」とした。この値が「5」を超える場合として、溶接電流Iが過大になると、湯溜り30が安定しにくく、ビード形状も悪くなる。また、溶接電圧Vが小さ過ぎると、先行極4によって凸に形成されるビード形状を十分に整えることができない。
(後行極のワイヤの成分)
また、後行極5のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOの含有量及びSiOの含有量の合計が5.0〜9.5質量%となる関係を満足することが好ましい。
TiO及びSiOは、ともにスラグ形成剤として作用する。TiOの含有量及びSiOの含有量の合計を5.0質量%以上とすることにより、十分なスラグ量を確保して、良好なスラグ剥離性や包被性を得ることができ、ビード形状の悪化を抑制することができる。一方、TiOの含有量及びSiOの含有量の合計を9.5質量%以下とすることにより、スラグ生成量が過剰とならず、アンダカットやオーバラップの発生を抑制することができる。
更に、後行極5のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOが4.5〜9.0質量%、SiOが0.5〜0.8質量%、Cが0.02〜0.09質量%、Siが0.3〜0.75質量%、Mnが2.0〜3.0質量%、をそれぞれ含有することが好ましい。
TiOの含有量を4.5質量%以上とすることにより、良好なスラグ剥離性や包被性を得ることができる。一方、TiOの含有量を9.0質量%以下とすることにより、スラグ生成量が過剰とならず、アンダカットやオーバラップの発生を抑制することができる。
また、SiOの含有量を0.5質量%以上とすることにより、良好なスラグ流動性が得られ、ビード形状の悪化を抑制することができる。一方、SiOの含有量を0.8質量%以下とすることにより、ビードが垂れやすくなり過ぎず、スパッタ発生量の増加を抑制して溶接作業性の低下を防止することができる。
Cは溶接金属の強度を確保するために添加することが好ましい元素である。Cの含有量を0.02質量%以上とすることで、溶接金属の十分な強度を確保することができる。一方、Cの含有量を0.09質量%以下とすることで、溶接金属の強度が上昇し過ぎて低温での靭性が低下することを抑制することができ、また、スパッタ発生量の増加を抑制することができる。
Siは脱酸剤として作用し、溶接金属の強度を調整することや、溶融金属の粘性を高め効果がある。Siの含有量を0.3質量%以上とすることで、溶接金属の十分な強度を確保することができ、ビード形状の悪化を抑制することができる。一方、Siの含有量を0.75質量%以下とすることで、溶接金属の強度が高くなり過ぎて低温での靭性が低下することを抑制することができる。
Mnは脱酸剤として作用するとともに、溶接金属の強度、及び低温での靭性を向上させる効果がある。Mnの含有量を2.0質量%以上とすることで、このような効果を十分に発揮することができる。一方、Mnの含有量を3.0質量%以下とすることで、溶接金属の強度が高くなり過ぎて低温での靭性が低下し、低温割れが発生しやすくなることを抑制することができる。
次に、本発明の実施形態に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法について、本発明の要件を満たす実施例と、本発明の要件を満たさない比較例と、を対比しながら説明する。
<第1実験及び第2実験>
まず、第1実験として、先行極4についてのワイヤ送給速度WfL[m/min]、ワイヤ溶融速度WmL[g/min]、ワイヤ直径R[mm]、突き出し長さE[mm]、溶接電流I[A]、及び溶接電圧V[V]を変化させて、式(1)、式(2)及び式(3)の各計算値が本発明の要件を満足するサンプルと、満足しないサンプルとが含まれるように溶接条件を様々に設定して、板厚が12[mm]の母材(下板1及び立板2)の立板2の片側について、同脚長の水平すみ肉溶接を行い、溶込み[mm]と、スパッタ発生量[g/min]と、ビード形状と、アンダカットとについて評価を行った。
なお、ワイヤ溶融速度WmLは、ワイヤ送給速度WfLと、ワイヤ直径R及びワイヤの密度から算出される単位長さ当たりの質量とを乗じることで算出した。また、図5(c)に示すように、溶込みは、立板2の厚さ方向(水平方向)の溶込み深さcを評価の指標とし、ビート形状は、図5(c)に示すように、ビード3の止端間の距離bと、止端を結ぶ直線からビード3の凸部の先端まで距離aとの比a/bを評価の指標とした。ビード形状の評価指標(a/b)は、凸ビードの程度を示す評価指標であり、大きいほど凸形状が著しいことを示す。従って、当該評価指標(a/b)は小さいほど良好であることを示す。
また、第1実験においては、何れのサンプルも後行極5については、式(4)及び式(5)を満足するように、ワイヤ送給速度WfT[m/min]、ワイヤ直径R[mm]、溶接電流I[A]、及び溶接電圧V[V]を設定した。また、溶接速度を100[cm/min]とし、極間距離(図1(a)参照)は、35[mm]とし、後行極5の突き出し長さEを25[mm]とし、先行極4のワイヤ40としてソリッドワイヤを用い、後行極5のワイヤ50としてFCW(Flux Cored Wire;フラックス入りワイヤ)を用いた。また、先行極4及び後行極5のシールドガスGとして、何れも100%炭酸ガスを用いた。また、何れのサンプルにおいても、先行極4及び後行極5のワイヤ直径R、Rは同じとした。
また、第2実験として、後行極5についてのワイヤ送給速度WfT[m/min]、ワイヤ直径R[mm]、溶接電流I[A]、及び溶接電圧V[V]を変化させて、式(4)及び式(5)が本発明の要件を満足するサンプルと、満足しないサンプルとが含まれるように溶接条件を様々に設定して、板厚が12[mm]の立板2の片側について、同脚長の水平すみ肉溶接を行い、溶込み[mm]と、スパッタ発生量[g/min]と、ビード形状と、アンダカットとについて評価を行った。また、4つの評価指標を用いて総合評価を行った。
また、第2実験においては、何れのサンプルも先行極4については、式(1)、式(2)及び式(3)を満足するように、ワイヤ送給速度WfL[m/min]、ワイヤ溶融速度WmL[g/min]、ワイヤ直径R[mm]、突き出し長さE[mm]、溶接電流I[A]、及び溶接電圧V[V]を設定した。極間距離は、第1実験と同じである。
第1実験の結果を表1〜表3に、第2実験の結果を表4に示す。各表ともに、左側の欄から順に、サンプルNo.、先行極4についてのワイヤ送給速度WfL[m/min]、ワイヤ溶融速度WmL[g/min]、ワイヤ直径R[mm]、突き出し長さE[mm]、溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、式(1)、式(2)及び式(3)の各計算値、後行極5についてのワイヤ送給速度WfT[m/min]、ワイヤ直径R[mm]、溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、式(4)及び式(5)の各計算値、評価結果として溶込み[mm]、スパッタ発生量[g/min]、ビード形状(a/b)、アンダカット及び総合評価を示した。
表1(サンプルNo.1〜9)は、ワイヤ直径Rを1.2[mm]、溶接電流Iを450[A]近傍とした場合の実験結果である。
表2(サンプルNo.10〜38)は、ワイヤ直径Rを、1.4[mm]とし、溶接電流Iを500[A]近傍(No.10〜20)、450[A]近傍(No.21〜29)及び400[A]近傍(サンプルNo.30〜38)とした場合の実験結果である。
表3(サンプルNo.39〜67)は、ワイヤ直径Rを、1.6[mm]とし、溶接電流Iを500[A]近傍(No.39〜48)、450[A]近傍(No.49〜58)及び400[A]近傍(サンプルNo.59〜67)とした場合の実験結果である。
表4(サンプルNo.68〜95)は、後行極についてのワイヤ直径Rを1.6(No.68〜75)、1.4(No.76〜87)及び1.2(No.88〜95)[mm]と変化させ、溶接電流I及び溶接電圧Vを変化させた場合の実験結果である。
また、表1〜表4に示した評価値と良否の判定の対応は次の通りとする。なお、「◎」は非常に良好、「○」は良好、「×」は不良であることを示す。
(1)スパッタ発生量
◎:1.0g/min以下
○:1.0〜3.0g/min(数値範囲の両端を含まず)
×:3.0g/min以上
(2)溶込み(図5(c)にcで示した水平方向の溶込みの深さ)
◎:4.5mm以上
○:3.0〜4.5mm(数値範囲の両端を含まず)
×:3.0mm以下
(3)ビード形状(図5(c)に示したaとbとの比(a/b))
◎:0.15以下
○:0.15〜0.2(数値範囲の両端を含まず)
×:0.2以上
(4)アンダカット評価
◎:アンダカットあり
×:アンダカットなし
(5)総合評価
◎:評価項目(1),(2),(3),(4)の全部が◎の場合
○:評価項目(1),(2),(3),(4)の何れにも×がない場合(全部が◎は除く)
×:評価項目(1),(2),(3),(4)の何れかに×がある場合
(第1実験結果)
表1〜表3に示した第1実験の結果において、式(1)、式(2)及び式(3)の各計算値が、前記した所定の範囲から外れるものについては、数値に下線を付して示した。また、評価結果(溶込み、スパッタ発生量及びビード形状)において、不良と判定される数値に下線を付して示した。
式(1)、式(2)又は式(3)の各計算値の少なくとも1つが所定の範囲から外れるサンプルは、何れも総合評価で「×」(不良)と判定されており、式(1)、式(2)及び式(3)の各計算値の何れもが範囲内のサンプルは、何れも総合評価が「◎」(非常に良好)又は「○」(良好)と判定されているのがわかる。
(第2実験結果)
表4に示した第2実験の結果において、式(4)及び式(5)の各計算値が、前記した所定の範囲から外れるものについては、数値に下線を付して示した。また、評価結果(溶け込み、スパッタ発生量及びビード形状)において、不良と判定される数値に下線を付して示した。
式(4)又は式(5)の計算値の少なくとも一方が所定の範囲から外れるサンプルは、何れも総合評価で「×」(不良)と判定されており、式(4)及び式(5)の各計算値の何れもが範囲内のサンプルは、何れも総合評価が「◎」(非常に良好)と判定されているのがわかる。
以上の2つの実験により、先行極4として式(1)、好ましくは式(2)及び式(3)の条件を満たし、更に好ましくは後行極5として式(4)及び式(5)の条件を満たすように溶接条件を設定することで、スパッタの発生を抑制し、アンダカットが発生せず、良好なビード形状で深溶込みの溶接が可能であることが確認できた。
<第3実験>
次に、発明法と、従来のタンデムガスシールドアーク溶接法(従来法1及び従来法2)とにより溶接を行い、溶込み及びスパッタ発生量の比較を行った結果について説明する。
各溶接法ともに、溶接速度を100[cm/min]とし、水平方向及び垂直方向の脚長が同じで7〜7.5[mm]となるように、板厚が12[mm]の母材(下板1及び立板2)の水平すみ肉両面溶接を行った。立板2の両面側とも同じ溶接条件で溶接した。
従来法1として、タンデムパルスMAG(Metal Active Gas)法を用いて溶接した。
両極とも、ワイヤとして直径1.2[mm]のソリッドワイヤを用い、シールドガスとしてアルゴンガスと炭酸ガス(20体積%)との混合ガスを用いた。溶接電流及び溶接電圧は、先行極が300A、29.8Vとし、後行極が330A、31.0Vとした。
なお、両極ともトーチ角度は、45°とした。
従来法2として、両極のシールドガスとして100%炭酸ガスを用いたタンデムガスシールドアーク溶接を用いて溶接した。
両極とも、ワイヤとして直径1.6mmのFCW(フラックス入りワイヤ)を用い、シールドガスとして100%炭酸ガスを用いた。溶接電流及び溶接電圧は、先行極が450A、33.0Vとし、後行極が350A、31.0Vとした。
なお、両極ともトーチ角度は、45°とした。
発明法として、次の条件で溶接した。
先行極は、ワイヤとして直径1.6mmのソリッドワイヤを用い、ワイヤの突き出し長さを13mmとし、トーチ角度を15°とした。また、溶接電流及び溶接電圧を510A、33.8Vとした。
後行極は、ワイヤとして直径1.4mmのFCWを用い、ワイヤの突き出し長さを25mmとし、トーチ角度を45°とした。また、溶接電流及び溶接電圧を300A、31.0Vとした。
また、両極とも、シールドガスとして、100%炭酸ガスを用いた。
図4に、各溶接法による溶接部の断面マクロ写真画像を示す。
図4(a)及び図4(b)に示すように、従来法1及び従来法2を用いた溶接では、立板2に、約7mmの未溶接部分があるのに対して、図4(c)に示すように発明法を用いた溶接では、未溶接部がない完全溶込みが可能であることが分かる。従来は、レーザを用いた溶接法でしか得られなかった深溶込み効果を、シールドガスアーク溶接法として初めて本発明で実現した。
また、図6に、前記した溶接条件において、溶接速度を変化させた場合の、発明法と、スパッタ発生量が最も少ない混合ガスを使用する従来法1とにおけるスパッタ発生率を示す。
ここで、スパッタ発生率は、次の式で算出した。
スパッタ発生率 =
(スパッタ発生量[g/min]/ワイヤ溶融速度[g/min])×100(%)
図6に示すように、発明法においては、両極ともシールドガスとして100%炭酸ガスを使用するにも関らず、従来法1であるタンデムパルスMAG法よりもスパッタ発生率が低く、最大で約50%低減することが確認できた。
<第4実験>
次に、第4実験として、後行極5のワイヤの化学成分を変化させて、TiO及びSiOの含有量の合計が5.0〜9.5質量%、TiOの含有量が4.5〜9.0質量%、SiOの含有量が0.5〜0.8質量%である条件を満足するサンプルと、この条件を満足しないサンプルとが含まれるように設定して、板厚が12[mm]の立板2の片側について、同脚長の水平すみ肉溶接を行い、アンダカットとビード形状とについて評価を行った。
また、TiO及びSiO以外の成分については、「C」が0.02〜0.09質量%、「Si」が0.3〜0.75質量%、「Mn」が2.0〜3.0質量%となるようにした。また、前記した成分以外のワイヤの残部は「Fe」である。
なお、各極の溶接条件は、前記した第1実験におけるサンプルNo.43(表3参照)と同じに設定した。
第4実験の結果を表5に示す。表5には、左側の欄から順に、サンプルNo.、後行極のワイヤの化学成分として、「C」,「Si」,「Mn」,「TiO」,「SiO」及び「TiO及びSiOの合計(表5において「a」で示す)」についての各含有量[質量%]を示し、続けて、アンダカット及びビード形状の評価結果を示した。
なお、アンダカットとビード形状は、第1実験及び第2実験と同じ基準で評価した。
表5において、サンプルNo.96〜116が、TiO及びSiOの含有量の合計が5.0〜9.5質量%、TiOの含有量が4.5〜9.0質量%、SiOの含有量が0.5〜0.8質量%である条件を満足し、サンプルNo.117〜122が、TiO及びSiOの含有量の合計が条件を満足しないサンプルである。
表5に示すように、前記したワイヤ成分の条件を満足するサンプルは、アンダカットが発生せず(「◎」で示す)、ビード形状も非常に良好(「◎」で示す)であった。また、ワイヤ成分の条件を満足しないサンプルは、アンダカット又はビード形状の少なくとも一方が不良(「×」で示す)であった。
すなわち、後行極のワイヤの成分において、TiO及びSiOの含有量の合計が、好ましくはTiOの含有量及びSiOの含有量が、前記した条件を満足することで、アンダカットが発生せず、良好なビード形状が得られることが確認できた。
以上、本発明の実施形態に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法について、発明を実施するための形態及び実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
1 下板(母材)
2 立板(母材)
3 ビード(溶接金属)
先行極による溶接金属
後行極による溶接金属
30 湯溜り
4 先行極
40 ワイヤ
5 後行極
50 ワイヤ
A アーク
G シールドガス
前記した課題を解決するために、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、先行極と後行極とを用いた水平すみ肉溶接用のタンデムガスシールドアーク溶接方法であって、前記先行極と前記後行極とをともに逆極性とし、前記先行極としてソリッドワイヤを用いるとともに、当該先行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該先行極のトーチ角度θが、5°θ<40°であり、前記後行極としてフラックス入りワイヤを用いるとともに、当該後行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該後行極のトーチ角度θが、40°≦θ≦60°であり、前記先行極の溶接電圧V[V]が26〜38[V]であり、前記先行極の溶接電流I[A]が350〜550[A]であり、前記溶接電圧V[V]及び前記溶接電流I[A]の関係が式(1)の条件を満足するようにした。
かかる方法によれば、先行極のトーチ角度θを、5°θ<40°とすることにより、深溶込みが可能となる。また、後行極のトーチ角度θが、40°≦θ≦60°とすることで、先行極による凸ビード形状を整形し、良好なビード形状とする。そして、式(1)の溶接条件を満足することで、先行極のトーチ角度と後行極のトーチ角度とを異なるように設定するにもかかわらず、両極によるアーク溶接の湯溜りに対する影響をバランスさせることで当該湯溜りを安定化させ、スパッタ及びアンダカットの発生を抑制するとともに、良好なビード形状と深溶込みとを両立することができる。
また、本発明に係るタンデムガスシールドアーク溶接方法は、前記先行極のトーチ角度θが、5°θ≦25°であることが好ましい。
これによって、より好適に、先行極による深溶込みが可能となる。
また、表1〜表4に示した評価値と良否の判定の対応は次の通りとする。なお、「◎」は非常に良好、「○」は良好、「×」は不良であることを示す。
(1)スパッタ発生量
◎:1.0g/min以下
○:1.0〜3.0g/min(数値範囲の両端を含まず)
×:3.0g/min以上
(2)溶込み(図5(c)にcで示した水平方向の溶込みの深さ)
◎:4.5mm以上
○:3.0〜4.5mm(数値範囲の両端を含まず)
×:3.0mm以下
(3)ビード形状(図5(c)に示したaとbとの比(a/b))
◎:0.15以下
○:0.15〜0.2(数値範囲の両端を含まず)
×:0.2以上
(4)アンダカット評価
◎:アンダカットなし
×:アンダカットあり
(5)総合評価
◎:評価項目(1),(2),(3),(4)の全部が◎の場合
○:評価項目(1),(2),(3),(4)の何れにも×がない場合(全部が◎は除く)
×:評価項目(1),(2),(3),(4)の何れかに×がある場合

Claims (8)

  1. 先行極と後行極とを用いた水平すみ肉溶接用のタンデムガスシールドアーク溶接方法であって、
    前記先行極と前記後行極とをともに逆極性とし、
    前記先行極としてソリッドワイヤを用いるとともに、当該先行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該先行極のトーチ角度θが、5°≦θ<40°であり、
    前記後行極としてフラックス入りワイヤを用いるとともに、当該後行極のシールドガスとして炭酸ガスを用い、当該後行極のトーチ角度θが、40°≦θ≦60°であり、
    前記先行極の溶接電圧V[V]が26〜38[V]であり、前記先行極の溶接電流I[A]が350〜550[A]であり、
    前記溶接電圧V[V]及び前記溶接電流I[A]が、式(1)の条件を満足することを特徴とするタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  2. 前記先行極についての溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、ワイヤ溶融速度WmL[g/min]、ワイヤ直径R[mm]及びワイヤ突出し長さE[mm]が、式(2)及び式(3)の条件を満足することを特徴とする請求項1に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  3. 前記ワイヤ直径R[mm]及び前記ワイヤ突出し長さE[mm]が、式(2−2)の条件を満足することを特徴とする請求項2に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  4. 前記後行極のワイヤ突出し長さEが、前記先行極のワイヤ突出し長さEよりも長いことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  5. 前記先行極のトーチ角度θが、5°≦θ≦25°であることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  6. 前記後行極についての溶接電流I[A]、溶接電圧V[V]、ワイヤ送給速度WfT[m/min]及びワイヤ半径r[mm]が、式(4)及び式(5)の条件を満足することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  7. 前記後行極のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOの含有量及びSiOの含有量の合計が5.0〜9.5質量%であることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
  8. 前記後行極のフラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全質量あたり、TiOが4.5〜9.0質量%、SiOが0.5〜0.8質量%、Cが0.02〜0.09質量%、Siが0.3〜0.75質量%、Mnが2.0〜3.0質量%を、それぞれ含有することを特徴とする請求項7に記載のタンデムガスシールドアーク溶接方法。
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