JP2008055509A - 多電極ガスシールドアーク溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを先行電極3及び後行電極4として使用し、先行電極と後行電極との極間距離を15乃至50mmに設定し、フィラーワイヤ5を先行電極3と後行電極4との間の溶融金属8中に挿入し、フィラーワイヤ4に正極性の電流(ワイヤマイナス)を流しながら溶接する。このとき、先行電極の溶着速度L(g/分)及び後行電極の溶着速度T(g/分)の和L+Tが100乃至500g/分であり、フィラーワイヤの溶着速度F(g/分)が0.03(L+T)乃至0.3(L+T)である。
【選択図】図2
Description
本発明においては、先行電極と後行電極の極間が15乃至50mmであることが必須である。ここで、極間距離とは、各電極におけるワイヤ先端間の距離である。DC電源を用いて溶接を行う場合、磁気吹き及び1つの溶融池形成の点から先行電極及び後行電極の極間距離が問題となる。この極間距離が15mmよりも小さいと、先行電極、後行電極が共にアークが安定せず、ビード外観・形状が悪くなり、またスパッタの発生量が多くなる。一方、極間距離が50mmよりも大きいと、2電極で1つの溶融池を形成することが不可能となり、耐ピット性が悪くなる。従って、先行電極と後行電極の極間距離を15乃至50mmの範囲とする。なお、より好ましい範囲は、25乃至35mmである。
本発明においては、先行電極及び後行電極が直流ワイヤ逆極性(DCEP、Direct Current Electrode Positive)で、フィラーワイヤが正極性(ワイヤマイナス)である。また、本発明においては、フィラーワイヤ5を先行電極3と後行電極4との間に形成される溶融金属8(プール)の中の湯溜り10に挿入する。そのフィラーワイヤ5としては、ソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤを適用できる。ソリッドワイヤの場合には従来のメッキありソリッドワイヤでもよく、また最近、適用範囲が拡大しているメッキ無しソリッドワイヤでも良い。特に成分は規定がなくJISZ3312に規定されるYGW11乃至YGW24の中から適切なものを選択できる。フラックス入りワイヤの場合には成分の調整が容易であり、先行電極3に使用するワイヤの成分と後行電極4に使用するワイヤの成分を変えたりしても良い。なお、フラックス入りワイヤの中でも所謂メタル系と称される金属粉を主体とするフラックスを充填したワイヤが好ましい。フィラーワイヤは主に抵抗加熱により溶融するためスラグ形成剤のような融点の高い粉体は解け残りが懸念されるため、メタル系であれば殆ど金属粉末であるため容易に溶融していく。なお、フィラーワイヤがフラックス入りワイヤの場合には、フィラーワイヤ送給量とフィラーワイヤ溶着速度は一致しない場合がある。つまり、フィラーワイヤ成分のうち、スラグになる成分が入っているフラックス入りワイヤの場合であるが、いずれにしろ、溶着金属になる溶着速度を制御すればよい。
L+Tが100(g/分)未満の場合には、溶着金属量が過小であるために、ビード形状が凸になり、また、アンダカットが多発する等、良好な溶接ビードを形成することができない。また、L+Tが500(g/分)を超える場合には、溶接金属量が過大であるために、湯溜まりが安定せず、結果としてビード形状が均一にならず、かつ、ビード外観(揃い)が乱れる。なお、良好なビード形状を得るために、より好ましくは、L+Tは140乃至460(g/分)である。
フィラーワイヤ5はアークが出ていないので、フィラーワイヤ5の溶着金属量の多少は、溶接ビードの脚長の大小にあまり関与しない。溶接ビード脚長の大小に対しては、先行電極及び後行電極の溶着金属量が支配的である。従って、フィラーワイヤ5の溶着速度Fが0.3(L+T)を超えると、先行電極3及び後行電極4の溶着金属量に相当する溶接ビード脚長に対するフィラーワイヤの溶着金属量が過多となり、ビード形状が凸型になる。一方、Fが0.03(L+T)未満になると、フィラーワイヤによる湯溜まり10の安定性の向上効果が少なくなり、その結果、ビード外観及びビード形状を劣化させる。よって、フィラーワイヤの溶着速度F(g/分)は0.03(L+T)乃至0.3(L+T)とする。なお、良好なビード形状を得るために、より好ましくは、溶着速度Fは、0.035(L+T)乃至0.100(L+T)である。
通常のTIG(タングステンイナートガス溶接)で用いられるフィラーワイヤでは、その溶融エネルギーはTIGアークにより与えられ、溶融金属に接触した後の溶融金属から与えられるエネルギーは支配的ではないと考えられる。しかしながら、本発明におけるフィラーワイヤは先行電極と後行電極とのアークに直接さらされる位置にないため、フィラーワイヤの溶融エネルギーは、フィラーワイヤに通電された電流によるジュール熱と溶融池の湯溜まりに挿入された後の溶融池からの加熱によるエネルギーによることとなる。従って、溶接フィラーワイヤの溶着速度(送給量)とフィラーワイヤに与えるエネルギー量との間には適正な関係が存在する。即ち、所定のフィラーワイヤを湯溜まりに送給して円滑な溶融と湯溜まりの良好な制御を行うには、適正な条件範囲がある。前述のとおり、フィラーワイヤの溶融には、先行極と後行極のアーク熱を間接的に得て溶融する割合は溶接現象の観察結果からは殆ど寄与していないと思われ、支配的なのは、湯溜まりのエネルギーを吸収することによる溶融と、フィラーワイヤに通電した電流によるジュール発熱による溶融である。即ち、フィラーワイヤが円滑に湯溜まりに供給されている状態は、送給されたフィラーワイヤが完全に溶融しているわけではないので、ジュール発熱だけでは、溶融するために必要なエネルギーとして不足していることを示しているが、そのことは、湯溜まりの溶融金属が有するエネルギーからの吸収があることを示している。換言すれば、湯溜まりの溶融金属からフィラーワイヤへのエネルギーの吸収は、フィラーワイヤから湯溜まりの溶融金属への冷却効果に反映される。
フィラーワイヤの電流密度が88(A/mm2)を超えると、電流値が大きいために、先行極及び後行極のアーク干渉の緩和という観点では有効であるが、ジュール発熱量が過大となるため、湯溜まりの冷却効果が不足しがちであり、結果としてビード形状の不均一及びオーバーラップ等が発生しやすい傾向がある。このため、本発明の1態様においては、フィラーワイヤの電流密度は88(A/mm2)以下とする。
フィラーワイヤ電流密度が88(A/mm2)未満であると、前述の如く、電流値が小さいために、湯溜りの冷却効果よる安定化という観点では有利であるが、溶融プールの冷却速度が増大し、結果として良好な耐気孔性が確保できない傾向がある。このため、本発明の別の態様においては、耐気孔性を重視する場合に、フィラーワイヤの電流密度を88(A/mm2)以上とする。この条件下では、フィラーワイヤの抵抗発熱により溶融プールの冷却効果を低減し、溶融プール中のプライマーの燃焼ガスなどの放出可能な時間が増大し、結果として、耐気孔性が向上する。但し、電流密度が105(A/mm2)以上では、フィラーワイヤが溶融プールから離れ、アークの発生が頻繁に生じることで、湯溜りの安定形成を持続することが困難となる。この場合、アーク発生を防止する機能を有するフィラーワイヤ用電源を用いることが有効である。
本発明においては、フィラーワイヤから溶融プールに供給するジュール発熱量を変化させることで、溶融プールの粘性及び温度を変化させることができることが望ましい。本発明方法においては、フィラーワイヤ用の電源として、市販の定電流特性電源での溶接自体は可能である。しかし、市販の定電圧特性電源ではワイヤ送給量及び電流密度を夫々単独で制御することができないために、フィラーワイヤから溶融プールに供給するジュール発熱量を制御することが困難となる。また、市販の定電圧特性電源ではアークが発生せず、かつ、安定した溶融プールを形成する条件範囲が小さくなり、本施工法の利点が損なわれる。そこで、本施工法を実施してフィラーワイヤからアークを発生させずに良好な溶接ビードを得るには、フィラーワイヤ用電源として、電流値(電流密度)及びワイヤ送給量を夫々単独で制御することが可能である電源を使用することが望ましい。
先行電極のワイヤの直径(ワイヤ径という)は1.2乃至4.0mm、後行電極のワイヤ径は1.2乃至4.0mmとし、且つ、(先行電極のワイヤ径)≧(後行電極のワイヤ径)の関係にするのが望ましい。ワイヤ径は、アークの安定性、溶融池の安定性及びビード外観に大きく影響を及ぼし、特に多電極の場合では先行電極及び後行電極のワイヤ径のバランスも重要である。
先行電極及び後行電極として、いずれもフラックス入りワイヤを適用する。ルチールを主体とするチタニヤ系フラックス入りワイヤ又は所謂メタル系と称する金属粉を主体とするフラックス入りワイヤのいずれでも適用可能である。
図1、図2に示すように、各々の電極は溶接の進行方向に垂直線から角度を持って位置させる。進行方向に傾けた角度を後退角と言い、進行方向と反対方向に傾けた角度を前進角と言う。先行電極のワイヤの角度を0乃至後退角15°とし、後行電極のワイヤの角度を0乃至前進角25°とするのが望ましい。前進角及び後退角は、スパッタの発生量、ビード形状に大きく影響を及ぼす。先行電極は前進角になると先行電極からスパッタ発生量が多くなり、後退角が15°よりも大きくなるとアンダカットが発生し易くなる。後行電極は後退角になるとアークが安定せず、スパッタ発生量が多くなる。前進角が25°よりも大きくなると、ビード外観・形状が悪くなる。従って、先行電極及び後行電極のワイヤ角度を上記のとおりとする。
図1、図2に示すように、各々の電極は下板1と立板2の中間方向から挿入されるが、溶接進行方向の垂直線であって、下板1からの角度をトーチ角度と言う。先行電極及び後行電極共にトーチ角度を40乃至60°とするのが望ましい。トーチ角度は、ビード形状及びビード外観に大きく影響を及ぼす。40°よりも小さいと、下板にアンダカットが発生し易くなり、60°よりも大きいと、上板にアンダカットを発生し易くする。従って、先行電極及び後行電極共にトーチ角度を上記のとおりとする。
先行電極の電流を250A以上の直流ワイヤ逆極性(DCEP、Direct Current Electrode Positive)、後行電極の電流を200A以上の直流ワイヤ逆極性(DCEP)とし、且つ、(先行電極の電流)≧(後行電極の電流)の関係とするのが望ましい。これは一般に溶接構造物のすみ肉溶接部に必要とされる脚長4.0mmを確保するために必要な電流であり、上記電流を下回るとアークが安定しない。また、先行電極の電流が後行電極の電流よりも小さいと、先行電極と後行電極におけるアークの干渉により、先行電極のアークが乱れるためにビードの外観・形状が悪くなる。従って、先行電極と後行電極の電流並びに両者の関係を上記のとおりとする。
立板を挾む両先行電極・後行電極のシフト間隔を0乃至30mm又は70mm以上とするのが望ましい。シフト間隔が30乃至70mmの間では、スパッタの発生が多くなり、溶接作業性が悪くなるので、この間を除いたシフト間隔とする。
下記表3は試験例Aの溶接条件を示し、表4は試験例Aの溶接結果を示す。但し、表3の試験No.3と10は溶接速度100cm/分、No.5と7は溶接速度150cm/分、それ以外は、溶接速度200cm/分で実施した。
下記表5は試験例Bの溶接条件を示し、表6は試験例Bの溶接結果を示す。但し、表5の比較例17は溶接速度が150cm/分、それ以外は、溶接速度が200cm/分で溶接を実施した。
2;立板
3;先行電極
4;後行電極
5;フィラーワイヤ
7;溶接金属
8;溶融金属
9;溶融スラグ
10;湯溜り
Claims (6)
- ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを先行電極及び後行電極として使用し、先行電極と後行電極との極間距離を15乃至50mmに設定し、フィラーワイヤを前記先行電極と後行電極との間の湯溜り中に挿入し、前記先行電極及び後行電極に逆極性の電流を流し、前記フィラーワイヤに正極性の電流(ワイヤマイナス)を流しながら溶接する多電極ガスシールドアーク溶接方法において、前記先行電極の溶着速度L(g/分)及び後行電極の溶着速度T(g/分)の和L+Tが100乃至500g/分であり、前記フィラーワイヤの溶着速度F(g/分)が0.03(L+T)乃至0.3(L+T)であることを特徴とする多電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記フィラーワイヤの電流密度をj(A/mm2)、チップ−母材間距離をE(mm)、ワイヤ径をβ(mm)としたとき、F/(j2Eβ2)が3.0×10−5乃至30.0×10−5(g・mm/A2・分)であることを特徴とする請求項1に記載の多電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記フィラーワイヤに流す電流の電流密度jが88(A/mm2)以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記フィラーワイヤに流す電流の電流密度jが88(A/mm2)以上であると共に、前記フィラーワイヤの電流値及び送給量を夫々個別に制御することにより、前記フィラーワイヤからアークが発生しないようにすることを特徴とする請求項1又は2に記載の多電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記フィラーワイヤの電流値及びワイヤ送給量を夫々単独で制御可能の電源を使用して、前記フィラーワイヤの電流値及びワイヤ送給量を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の多電極ガスシールドアーク溶接方法。
- 前記フィラーワイヤと母材との間の電圧を検出し、この電圧が所定値を超えたときに、設定電流に拘わらず、10A以下に電流値を低減する機能を有するフィラーワイヤ用電源を使用することを特徴とする請求項1、2、又は4に記載の多電極ガスシールドアーク溶接方法。
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