本発明のシートベルト用リトラクタ(以下、リトラクタという)の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態のリトラクタは、シートベルトのウエビングを巻き取るウエビング巻取装置であり、車両用のシートベルト装置に設けられる。リトラクタを備えたシートベルト装置は、車両に搭載され、シートに座った乗員をウエビング(シートベルト)により保護する。
図1は、本実施形態のリトラクタ1の斜視図である。図2は、分解されたリトラクタ1を図1のW1方向からみて示す斜視図であり、複数のユニットに分解されたリトラクタ1を示している。図1、図2では、帯状のウエビング2を点線で示している。
図示のように、リトラクタ1は、ハウジングユニット3と、ウエビング2の巻取ドラム10を有する巻取ドラムユニット4と、巻取バネユニット5と、メカニズムカバーユニット6と、ウエビング2の端部に固定された抜け止めピン7を備えている。
巻取ドラム10がハウジングユニット3内に配置された状態で、巻取バネユニット5とメカニズムカバーユニット6がハウジングユニット3の側面に固定される。巻取バネユニット5とメカニズムカバーユニット6は、ハウジングユニット3の外側で巻取ドラムユニット4の軸方向の両端部を覆い、巻取ドラムユニット4を回転可能に支持する。また、ウエビング2が巻取ドラム10の挿入部11に挿入され、抜け止めピン7により、ウエビング2が挿入部11から抜けるのが防止される。これにより、ウエビング2の端部が巻取ドラム10に取り付けられる。
巻取バネユニット5は、ウエビング2を巻取ドラム10に巻き取る巻取手段であり、巻取ドラム10をウエビング2の巻取時における回転方向(巻取方向という)Mに回転する。ウエビング2は、回転する巻取ドラム10に巻き取られてリトラクタ1内に収納される。その状態から、ウエビング2は、巻取ドラム10をウエビング2の引出時における回転方向(引出方向という)Pに回転しながらリトラクタ1から引き出される。
巻取ドラムユニット4は、クラッチユニット8を有し、リトラクタ1内で巻取方向Mと引出方向Pに回転する。巻取ドラム10は、通常時においてはクラッチユニット8とともに回転し、緊急時等においてはクラッチユニット8から独立して回転する。メカニズムカバーユニット6は、巻取ドラムユニット4のクラッチユニット8を覆い、クラッチユニット8とともに巻取ドラム10の回転を止めるロック機構9を構成する。ロック機構9は、引出方向Pに回転する巻取ドラム10をロックするロック手段である。ウエビング2の急激な引き出しや車両の速度の急激な変化に反応して、巻取ドラム10の引出方向Pの回転がロック機構9により止められる。このロック機構9の作動により、ウエビング2の引き出しが停止する。
図3、図4は、完全に分解されたリトラクタ1の斜視図であり、互いに異なる方向からみたリトラクタ1を示している。図3は、リトラクタ1を図1と同じ方向からみて示し、図4は、リトラクタ1を図1のW2方向からみて示している。
図示のように、複数の部品を組み合わせることで、リトラクタ1の各ユニット3〜6が組み立てられる。また、複数のユニット3〜6を合体することで、リトラクタ1が製造される。以下、これらリトラクタ1の各部について、順に詳しく説明する。
ハウジングユニット3は、巻取ドラム10を収納するハウジング20と、合成樹脂で形成されたプロテクタ3Aを有する。ハウジング20は、車体に固定される背板部21と、背板部21の両側縁部から突出する一対の側壁部22、23(第1側壁部22、第2側壁部23)と、一対の側壁部22、23に固定された固定板24からなる。プロテクタ3Aは、ウエビング2の通過部3Bを有し、背板部21の上縁部に取り付けられる。ウエビング2は、プロテクタ3Aの通過部3Bに通され、巻き取り及び引き出し時に通過部3Bを通過する。
ハウジング20は、第1側壁部22に形成された円形状の第1開口部25と、第1開口部25の内側に突出する複数のロック歯26と、第2側壁部23に形成された第2開口部27を有する。複数のロック歯26は、三角形状をなし、第1開口部25の内周全体に形成されている。巻取ドラムユニット4の可動パウル4Aがロック歯26に係合することで、巻取ドラム10がロックされて、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が停止する。第2開口部27は、第1開口部25よりも大きく形成され、第1開口部25に対向する。
巻取ドラム10は、第1開口部25に挿入されてハウジング20内に収容される。また、巻取ドラム10の両端部は、それぞれ第1開口部25と第2開口部27内に配置され、クラッチユニット8は、第1側壁部22の側方に配置される。その状態で、メカニズムカバーユニット6が第1側壁部22に取り付けられ、巻取バネユニット5が第2側壁部23に取り付けられる。
図5は、図1のX1−X1線を矢印方向にみたリトラクタ1の断面図であり、図6は、図1のX2−X2線を矢印方向にみたリトラクタ1の断面図である。
図示のように、巻取ドラム10の軸心が第1開口部25の中心に一致する状態で、巻取ドラム10は、ハウジング20、第1開口部25、及び、第2開口部27内で回転する。また、巻取ドラム10は、軸心に沿って側方に突出する一対のシャフト12、13(第1シャフト12、第2シャフト13)を有する。メカニズムカバーユニット6は、クラッチユニット8に組み合わされて、第1シャフト12を回転可能に支持する。巻取バネユニット5は、第2シャフト13に連結されて、第2シャフト13を回転可能に支持する。
巻取バネユニット5(図3、図4参照)は、渦巻バネ5Aと、渦巻バネ5Aを収容するバネケース5Bと、ハウジング20の第2側壁部23に接するバネシート5Cと、バネシャフト5Dを有する。渦巻バネ5Aの外端K1は、バネケース5Bに固定され、渦巻バネ5Bの内端K2は、バネシャフト5Dに固定される。バネシート5Cは、バネケース5Bに取り付けられて、バネケース5B内の渦巻バネ5Aを覆う。その状態で、バネシャフト5Dは、バネケース5Bとバネシート5Cに回転可能に取り付けられる。巻取ドラム10の第2シャフト13は、支持孔5Eに挿入されてバネシート5Cにより回転可能に支持されるとともに、バネシャフト5Dに固定される。
バネシャフト5Dは、巻取ドラム10と一体に回転し、かつ、渦巻バネ5Aの付勢力を巻取ドラム10に伝達する。巻取バネユニット5は、渦巻バネ5Aにより、巻取ドラム10をウエビング2の巻取方向Mに常に付勢する。また、ウエビング2の引出時には、巻取ドラム10の回転により渦巻バネ5Aが巻かれる。ウエビング2の巻取時には、渦巻バネ5Aの付勢により、巻取ドラムユニット4及び巻取ドラム10が巻取方向Mに回転して、ウエビング2が巻取ドラム10に巻き取られる。
図7は、分解された巻取ドラムユニット4の斜視図であり、巻取ドラム10とクラッチユニット8を図2と同じ方向からみて示している。図8は、分解されたクラッチユニット8の斜視図であり、図3のクラッチユニット8を拡大した図である。
図示のように、巻取ドラムユニット4は、ウエビング2の巻取方向Mと引出方向Pに回転可能な巻取ドラム10と、ハウジング20のロック歯26に係合する可動パウル4Aと、クラッチユニット8と、キャップ17を有する。可動パウル4Aは、ロック歯26に係合する係合爪4Bと、側方に突出する連動ピン4Cからなる。巻取ドラム10の端部に形成されたパウル収容部14に可動パウル4Aが収容されたときに、連動ピン4Cは、パウル収容部14の誘導部(貫通部)14Aからクラッチユニット8に向かって突出する。
図9は、可動パウル4Aを収容した巻取ドラム10の正面図であり、図10は、図9のW3方向からみた巻取ドラム10の側面図である。図10には、ハウジング20のロック歯26を点線で示している。
図示のように、可動パウル4Aは、パウル収容部14内に移動可能に収容され、パウル収容部14の内外方向に移動する。その際、連動ピン4Cが、誘導部14Aを摺動して、誘導部14Aに沿って移動する。
また、可動パウル4Aは、係合爪4Bがロック歯26に係合しない非ロック位置(図10Aに示す位置)と、係合爪4Bがロック歯26に係合するロック位置(図10Bに示す位置)との間で移動する。可動パウル4Aがロック位置に移動することで、係合爪4Bがロック歯26に係合し、可動パウル4Aの移動が阻止される。この可動パウル4Aにより、引出方向Pに回転する巻取ドラム10が押さえられて、巻取ドラム10がロックされ、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められる。従って、可動パウル4Aは、クラッチユニット8とともに、ロック機構9の一部をなす。
クラッチユニット8(図7、図8参照)は、円形状のロッキングクラッチ30と、ロッキングクラッチ30に変位可能に連結されたロックアーム40と、リターンスプリング8Aと、センサースプリング8Bを有する。ロッキングクラッチ30は、巻取ドラム10とともに回転し、かつ、巻取ドラム10に対して相対的に回転可能な回転体である。巻取ドラム10の第1シャフト12が、ロッキングクラッチ30の中心孔31に挿入され、キャップ17が、中心孔31から突出する第1シャフト12の先端に固定される。これにより、ロッキングクラッチ30が、巻取ドラム10に相対的に回転可能に連結される。
ロッキングクラッチ30は、巻取ドラム10側に形成されたバネホルダー32を有し、リターンスプリング8Aは、バネホルダー32に取り付けられる。第1シャフト12を中心孔31に挿入する際に、リターンスプリング8Aを縮めた状態で、リターンスプリング8Aとバネホルダー32が巻取ドラム10の凹部15内に配置される。また、可動パウル4Aの連動ピン4Cは、ロッキングクラッチ30の誘導溝33に挿入され、巻取ドラム10の円柱状の突起16(図3参照)は、ロッキングクラッチ30の貫通溝34に挿入される。突起16は、巻取ドラム10の側面に形成され、貫通溝34内を巻取ドラム10の回転方向に移動する。
ロッキングクラッチ30(図7、図8参照)は、リターンスプリング8Aによりウエビング2の引出方向Pに付勢されており、通常時には、巻取ドラム10とともに回転する。その際、可動パウル4Aは、パウル収容部14内で非ロック位置に維持される。緊急時等には、ロッキングクラッチ30がロックされた状態で、停止したロッキングクラッチ30に対して、巻取ドラム10が可動パウル4Aとともに引出方向Pに回転する。これに伴い、可動パウル4Aの連動ピン4Cが、ロッキングクラッチ30により押されて、誘導溝33内を移動する。連動ピン4Cは、誘導溝33により誘導されて、誘導溝33に沿ってロッキングクラッチ30の半径方向外側に移動する。この連動ピン4Cの移動により、可動パウル4Aがロック位置に移動して、可動パウル4Aの係合爪4Bがロック歯26に係合する(図10参照)。
係合爪4Bとロック歯26の係合時には、係合爪4Bがロック歯26に接触して、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、係合爪4Bがロッキングクラッチ30の半径方向外側に移動する。これにより、係合爪4Bは、ロック歯26に沿って、ロック歯26の底部に向かって移動する。係合爪4Bがロック歯26の底部に到達したときに、係合爪4Bがロック歯26に完全に係合して、可動パウル4A(係合爪4B)とロック歯26の係合が完了する。係合爪4Bとロック歯26は、このようにして互いに係合する形状に形成されている。
ロック機構9は、巻取ドラム10が引出方向Pに所定量だけ回転する間に、以上のように可動パウル4Aを移動させて、可動パウル4Aをロック歯26に係合する。このロック機構9により、巻取ドラム10がロックされて、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められる。ロッキングクラッチ30のロックが解除された後、リターンスプリング8Aの付勢により(図7、図8参照)、巻取ドラム10に対して、ロッキングクラッチ30が引出方向Pに相対的に回転する。これに伴い、連動ピン4Cが、ロッキングクラッチ30により押されて、誘導溝33内を移動する。連動ピン4Cは、誘導溝33により誘導されて、誘導溝33に沿ってロッキングクラッチ30の半径方向内側に移動する。可動パウル4Aは、連動ピン4Cの移動によりロック歯26から離れて非ロック位置に復帰する。これにより、ロック機構9による巻取ドラム10のロックが解除される。
ロッキングクラッチ30は、複数の歯35を有するラチェットホイール36と、ロックアーム40を回転可能に支持するアーム支持部37と、センサースプリング8Bを支持する支持ピン38を備えている。ラチェットホイール36は、ロッキングクラッチ30の外周に形成された環状部材からなり、巻取ドラム10とともに回転可能になっている。複数の歯35は、ラチェットホイール36の引出方向Pの回転のみを止めるように傾けられており、ラチェットホイール36の外周全体に形成されている。
ロックアーム40は、長手方向の一端部(係合端部)41と他端部(自由端部)42の間に形成された貫通孔43を有し、湾曲形状に形成されている。アーム支持部37を貫通孔43に挿入することで、ロックアーム40が、アーム支持部37に取り付けられて、ロッキングクラッチ30に回転可能に連結される。ロックアーム40は、ラチェットホイール36の内側に配置され、アーム支持部37を中心に回転する。センサースプリング8Bは、ロックアーム40の他端部42と支持ピン38の間に配置されて、他端部42を引出方向Pに付勢する。この付勢により、ロックアーム40の他端部42は、ロッキングクラッチ30の第1ストッパー39Aに接触する。
ロックアーム40は、巻取ドラム10とともに回転可能になっており、巻取ドラム10及びロッキングクラッチ30とともに引出方向Pと巻取方向Mに回転する。通常時には、センサースプリング8Bの付勢により、ロックアーム40の他端部42は、ロッキングクラッチ30の第1ストッパー39Aに接触する状態に維持される。一方、ウエビング2の引き出しの加速度が所定の加速度を超えたときに(即ち、引出方向Pに回転する巻取ドラム10の引出方向Pの加速度(回転の加速度)が所定の加速度を超えたときに)、回転するロッキングクラッチ30に対して、慣性による遅れがロックアーム40に生じる。その結果、ロックアーム40がセンサースプリング8Bを圧縮しつつ回転して、ロックアーム40の一端部41がロッキングクラッチ30の半径方向外側に変位する。これに伴い、後述するように、リトラクタ1のロック機構9が作動する。
このように、ロックアーム40は、巻取ドラム10の引出方向Pの加速度に応じてロック作動方向に変位可能な変位部材であり、加速度に反応して所定のロック作動方向に変位する。ロック作動方向は、ロック機構9を作動するための方向であり、ここでは、ロックアーム40の一端部41がロッキングクラッチ30の半径方向外側に変位する方向である。ロック機構9は、ロック作動方向に変位したロックアーム40により作動する。なお、ロックアーム40がロック作動方向に変位する際には、ロックアーム40が変位してもよく、ロックアーム40が巻取ドラム10及びロッキングクラッチ30に対して相対的に変位してもよい。或いは、ロックアーム40が、変位しつつ巻取ドラム10及びロッキングクラッチ30に対して相対的に変位してもよい。従って、ロックアーム40の変位には、このような各態様での変位を含む。
ロックアーム40は、ロック作動方向に変位可能にロッキングクラッチ30に連結されてロッキングクラッチ30とともに回転する。また、アーム支持部37は、変位部材用支持部であり、回転によりロックアーム40をロック作動方向へ変位させる。ロックアーム40は、ロック作動方向とロック作動方向の反対方向に回転することで、両方向に変位する。センサースプリング8Bの付勢により、ロックアーム40がロック作動方向の反対方向に変位(回転)し、ロックアーム40の一端部41がロッキングクラッチ30の半径方向内側に変位する。
ロック機構9(図2参照)は、ロックアーム40のロック作動方向への変位により作動し、巻取ドラム10の引出方向Pの回転を止める。加えて、ロック機構9は、ラチェットホイール36の引出方向Pの回転停止により作動して、巻取ドラム10の引出方向Pの回転を止める。
具体的には、リトラクタ1は、メカニズムカバーユニット6内に、ロック作動方向へ変位したロックアーム40を停止する手段(ロックアーム停止手段)と、ラチェットホイール36の回転を停止する手段(ラチェットホイール停止手段)を備えている。ロックアーム40の停止、又は、ラチェットホイール36の回転停止に伴い、ロッキングクラッチ30が停止する。その状態で、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、ロック機構9の可動パウル4Aがロック位置に移動して、巻取ドラム10がロックされる。以下、各停止手段を有するメカニズムカバーユニット6について、詳しく説明する。
メカニズムカバーユニット6(図3、図4参照)は、車両の加速度を検出する加速度センサー50と、クラッチユニット8を収容するメカニズムカバー6Aと、ロックアーム40の変位を規制する規制部材56と、リトラクタ1の状態を切り替える切替手段60を有する。加速度センサー50は、ラチェットホイール停止手段であり、かつ、車両の緊急時にロック機構9を起動する緊急ロック起動装置である。また、加速度センサー50は、サンサーホルダー51と、慣性質量体52と、センサーレバー53を有する。慣性質量体52は、金属製の球体からなり、センサーホルダー51の凹部に移動可能に配置される。センサーレバー53は、慣性質量体52を上方から覆い、センサーホルダー51に上下方向に移動可能に取り付けられる。
図11は、加速度センサー50、メカニズムカバー6A、及び、規制部材56の斜視図である。
図示のように、メカニズムカバー6Aは、ロッキングクラッチ30を収容する円筒状のクラッチ収容部6Bと、加速度センサー50を収容するセンサー収容部6Cと、センサー収容部6C内の加速度センサー50を覆うセンサーカバー6Dを有する。加速度センサー50がセンサー収容部6Cに取り付けられた状態で、センサーレバー53のロック爪54が、上方に突出し、クラッチ収容部6Bの開口6Eに配置される。
図12は、図11のW4方向からみたメカニズムカバーユニット6の断面図であり、クラッチ収容部6B内に収容されたロッキングクラッチ30も示している。
図示のように、慣性質量体52は、センサーホルダー51とセンサーレバー53の間に移動可能に保持される。車両の緊急事態(例えば、衝突、急ブレーキ)により、車両の加速度が所定の加速度を超えたときに、慣性質量体52は、慣性力によりセンサーホルダー51の上で移動して、センサーレバー53を上方へ押す。これにより、センサーレバー53のロック爪54が、クラッチ収容部6B内に移動して、ラチェットホイール36の歯35に噛み合う。
ラチェットホイール36の歯35は、ラチェットホイール36が引出方向Pに回転するときのみ、センサーレバー53のロック爪54と噛み合う。ロック爪54により、ラチェットホイール36(ロッキングクラッチ30)がロックされて、ラチェットホイール36の引出方向Pの回転が停止する。これに伴い、ロック機構9が作動して可動パウル4Aにより巻取ドラム10をロックする。ロック機構9により、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められて、ウエビング2の引き出しが停止する。従って、加速度センサー50とロック機構9は、車両の速度の急激な変化に反応してウエビング2の引き出しを停止する車体感応式ロック機構を構成する。
車両の加速度が所定の加速度以下になったときに、慣性質量体52は、重力により元の位置に移動する。その後、巻取ドラム10が、ウエビング2の負荷から解放されて、巻取方向Mに回転可能になる。巻取ドラム10とロッキングクラッチ30が巻取方向Mに回転することで、ロック爪54が、ラチェットホイール36の歯35から外れて、クラッチ収容部6B外に移動する。同時に、ラチェットホイール36(ロッキングクラッチ30)のロックが解除される。また、ロック機構9による巻取ドラム10のロックが解除され、ウエビング2の引き出しと巻き取りが可能になる。
メカニズムカバー6A(図11参照)は、クラッチ収容部6B内に形成された環状壁6Fと、環状壁6Fの内周に形成された停止部6Gと、環状壁6Fの中心に位置する中心支持部6Hと、中心支持部6Hを貫通する挿入孔6Iを有する。第1シャフト12に固定されたキャップ17(図7参照)が挿入孔6Iに挿入されて、巻取シャフト10の第1シャフト12が中心支持部6Hにより回転可能に支持される。その状態で、ロッキングクラッチ30、ラチェットホイール36、及び、ロックアーム40が、クラッチ収容部6B内に収容される(図11、図12参照)。また、ラチェットホイール36が、クラッチ収容部6Bの内周と環状壁6Fの外周の間に配置され、ロックアーム40が、環状壁6Fの内側に配置される。
中心支持部6Hは、規制部材56を回転可能に支持する規制部材用支持部でもあり、クラッチ収容部6B内に突出する環状凸部からなる。規制部材56は、ロックアーム40を押さえる押さえ部57と、中心支持部6Hに取り付けられる取付部58を有する。本実施形態では、ワイヤを折り曲げることで規制部材56が所定形状に形成され、取付部58が中心支持部6Hに填められるクリップになっている。規制部材56の回転時に、取付部58と中心支持部6Hとの間に摩擦(摩擦力)が生じて、規制部材56に回転に対する抵抗が加えられる。
規制部材56の押さえ部57は、直線状をなし、中心支持部6H(取付部58)からロッキングクラッチ30の半径方向外側に向かって配置されている。押さえ部57の先端部は、ロックアーム40に向かって屈曲し、ロックアーム40は、押さえ部57の屈曲した部分(接触部59)に接触する。規制部材56は、環状壁6Fの内側でロックアーム40に隣接し、中心支持部6Hを中心に巻取方向Mと引出方向Pに回転する。巻取ドラム10の通常の回転時には、規制部材56は、ロッキングクラッチ30とロックアーム40の回転に連動して回転する。
停止部6Gは、ロックアーム停止手段であり、環状壁6Fの内周全体に形成された複数の係合歯6Jを有する。係合歯6Jは、ロック作動方向に変位したロックアーム40と係合する停止部6Gの係合部であり、ロックアーム40の一端部41と係合する。また、複数の係合歯6Jは、ロックアーム40に向かって突出するとともに、ロックアーム40及びロッキングクラッチ30の引出方向Pの回転のみを止めるように傾く。ロッキングクラッチ30が引出方向Pに回転するときのみ、ロックアーム40の一端部41が、停止部6Gの係合歯6Jに引っ掛かるようにして係合する。
図13は、ウエビング2の引出時におけるロックアーム40の動作を示す図であり、停止部6Gの一部とクラッチユニット8を示している。また、図13Aには、ロックアーム40のロック作動方向Lを矢印で示している。ロックアーム40が回転によりロック作動方向Lに変位する際には、ロックアーム40の一端部41が停止部6Gに向かって変位し、ロックアーム40の他端部42が規制部材56の押さえ部57に向かって変位する。
ウエビング2の通常の引出時には(図13A参照)、巻取ドラム10とともに、ロッキングクラッチ30及びロックアーム40が、引出方向Pに一体に回転する。その際、ロックアーム40の一端部41は、停止部6G(係合歯6J)から離れた位置に配置され、ロックアーム40は、停止部6Gに係合しない状態に維持される。
規制部材56の押さえ部57は、巻取ドラム10の引出方向Pの回転によりロックアーム40の他端部42から離れて、ロッキングクラッチ30の第2ストッパー39Bに接触する。第2ストッパー39Bにより押さえ部57が引出方向Pに押されて、規制部材56がロッキングクラッチ30とともに引出方向Pに回転する。また、押さえ部57は、巻取ドラム10の引出方向Pの回転中は、ロックアーム40から離れた状態(ロックアーム40のロック作動方向Lへの変位を規制しない状態)に維持され、ロックアーム40のロック作動方向Lへの変位を許容する。
ウエビング2の急激な引き出しにより、巻取ドラム10の引出方向Pの加速度が所定の加速度を超えたときに、ロックアーム40が、巻取ドラム10の引出方向Pの加速度に応じてロック作動方向Lに変位する(図13B参照)。これに伴い、ロックアーム40が、回転により変位してロッキングクラッチ30の第3ストッパー39Cに接触する。また、ロックアーム40の一端部41が、停止部6Gに接近して係合歯6Jに係合する。停止部6Gは、ロック作動方向Lに変位したロックアーム40と係合して、ロックアーム40を停止する。
ロックアーム40が停止部6G(係合歯6J)に係合することで、停止部6Gがロック作動方向Lに変位したロックアーム40を保持し、巻取ドラム10とともに回転するロックアーム40及びロッキングクラッチ30の回転が停止する。また、ロックアーム40が停止部6Gで停止した状態に維持され、その状態で、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、ロック機構9が作動を開始する。
具体的には、ロックアーム40により、ロッキングクラッチ30がロックされて、ロッキングクラッチ30の引出方向Pの回転が停止する。これに伴い、ロック機構9が作動して可動パウル4Aにより巻取ドラム10をロックする。ロック機構9により、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められて、ウエビング2の引き出しが停止する。従って、ロックアーム40の停止部6Gは、ロック機構9の一部を構成する。また、停止部6Gとロック機構9は、ウエビング2の急激な引き出しに反応してウエビング2の引き出しを停止するウエビング感応式ロック機構を構成する。
ロックアーム40の一端部41が係合歯6Jから外れると、ロッキングクラッチ30のロックが解除される。ロックアーム40は、停止部6Gから解放されてロック作動方向Lの反対方向に変位する。その後、巻取ドラム10が、ウエビング2の負荷から解放され、ウエビング2の巻き取りに応じて巻取方向Mに回転する。これに伴い、ロッキングクラッチ30が巻取ドラム10に対して引出方向Pに相対的に回転して、ロック機構9による巻取ドラム10のロックが解除される。以降、ウエビング2の引き出しと巻き取りが可能になる。
図14は、ウエビング2の巻取時におけるロックアーム40の動作を示す図であり、停止部6Gの一部とクラッチユニット8を示している。
ウエビング2の通常の巻取時には(図14A参照)、巻取ドラム10とともに、ロッキングクラッチ30及びロックアーム40が巻取方向Mに一体に回転する。その際、規制部材56の押さえ部57は、ロックアーム40の他端部42に接触して、他端部42により巻取方向Mに押される。これにより、規制部材56は、ロックアーム40とともに巻取方向Mに回転する。
ここで、ウエビング2の巻取終了に伴い(図14B参照)、巻取ドラム10の回転停止の反動により、ロック機構9が誤って作動する虞がある。即ち、回転を停止したロッキングクラッチ30に対して、ロックアーム40が慣性力によりロック作動方向L(ここでは巻取方向M)に変位して、ロック機構9が作動する。ロック機構9が作動すると、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められて、ウエビング2が巻取ドラム10から引き出せなくなる。同時に、ウエビング2の全体が巻き取られているため、ウエビング2の巻き取りもできず、リトラクタ1にエンドロックが発生する。これに対し、本実施形態では、規制部材56が、巻取ドラム10の巻取方向Mの回転停止の反動によるロックアーム40のロック作動方向Lへの変位を規制して、ロック機構9の作動を防止する。
図15は、ロックアーム40の変位を規制する規制部材56を示す図である。図15Aは、図14Bの一部を拡大した図、図15Bは図15AのY1部を拡大した図である。
規制部材56の押さえ部57(接触部59)は、上記したように、巻取ドラム10の引出方向Pの回転時にロックアーム40から離れる。巻取ドラム10の巻取方向Mの回転時には、図示のように、押さえ部57が、ロックアーム40に接触してロック作動方向Lへ変位するロックアーム40を押さえる。即ち、押さえ部57は、巻取ドラム10の巻取方向Mの回転によりロックアーム40の他端部42に接触し、巻取ドラム10の巻取方向Mの回転中は、ロックアーム40に接触した状態に維持される。また、押さえ部57は、巻取ドラム10の巻取方向Mの回転停止の反動によりロック作動方向Lへ変位するロックアーム40を押さえる。
ロックアーム40は、ロック作動方向Lへの変位時に、規制部材56の押さえ部57に係合する係合部44を有する。係合部44は、ロックアーム40の他端部42に形成された凸部からなり、ロック作動方向L側に突出する。巻取ドラム10の巻取方向Mの回転時には、まず、規制部材56の押さえ部57は、ロックアーム40の係合部44から離れた位置(摺動部45)に接触する。ロックアーム40の摺動部45は、ロックアーム40の係合部44に近接する部分である。押さえ部57は、摺動部45を摺動して、係合部44に近づき、又は、係合部44から離れる。その状態では、係合部44は、押さえ部57に係合せず、規制部材56は、摺動部45を摺動しつつロックアーム40とともに巻取方向Mに回転する。
ロックアーム40のロック作動方向Lへの変位が開始したときに、押さえ部57と係合部44が接近し、係合部44が押さえ部57に係合する。その際、押さえ部57が、平面又は曲面からなる摺動部45を係合部44に向かって摺動して、係合部44に接触する。また、凸部からなる係合部44が、押さえ部57の接触部59に接触して引っ掛かり、押さえ部57の移動を止めて、押さえ部57に係合する。係合部44は、規制部材56の押さえ部57を拘束して、押さえ部57の移動(摺動、及び、回転を含む)を阻止する。係合部44により、押さえ部57の移動が阻止されて、規制部材56が停止する。
ロックアーム40の係合部44により、規制部材56は、押さえ部57によりロックアーム40を押さえてロックアーム40の変位を規制する状態(規制状態)に維持される。また、押さえ部57は、係合部44に係合することで、ロックアーム40を押さえる状態に維持されて、ロックアーム40のロック作動方向Lの変位を止める。規制部材56は、ロックアーム40とともに変位する係合部44を押さえ部57により押さえて、ロックアーム40のロック作動方向Lへの変位を規制する。
本実施形態では、ロックアーム40の係合部44は、規制部材56の押さえ部57に接触する係合面46を有し、係合面46で押さえ部57に係合する。係合面46は、平面又は曲面からなり、押さえ部57を移動させる方向の力を押さえ部57に加えないように形成されている。また、規制部材用支持部である中心支持部6Hにより、規制部材56の回転中心N1がロックアーム40の回転中心N2と異なる位置に配置されている。加えて、係合部44の回転半径R2は、押さえ部57の回転半径R1よりも大きく設定されている。係合部44の回転半径R2は、ロックアーム40の回転中心N2から係合部44と押さえ部57の接点までの距離であり、押さえ部57の回転半径R1は、規制部材56の回転中心N1から係合部44と押さえ部57の接点までの距離である。
係合部44の回転による変位方向(回転軌跡)S2は、押さえ部57(接触部59)の回転方向(回転軌跡)S1に交差する方向に設定されている。その結果、ロックアーム40のロック作動方方向Lへの変位開始に伴い、係合部44は、ロックアーム40とともに規制部材56の押さえ部57を押さえ付ける方向に変位して、変位方向S2の前方に位置する押さえ部57に係合する。続いて、係合部44が、押さえ部57に押し付けられて、押さえ部57の移動を阻止する方向の力を押さえ部57に加える。係合部44と押さえ部57の接点において、係合面46の法線Tは、規制部材56の回転中心N1を通過する。そのため、係合部44により、押さえ部57が中心支持部6Hに押さえ付けられて、回転中心N1へ向かう力のみが押さえ部57に加えられる。
この係合部44から加えられる力により、押さえ部57の移動が阻止されて、規制部材56が規制状態に維持される。また、ロックアーム40の変位によるロック機構9の作動が防止されて、リトラクタ1にエンドロックが発生するのが抑制される。ロックアーム40をロック作動方向Lに変位させる慣性力がロックアーム40に作用しなくなったときに、センサースプリング8Bの付勢により、係合部44が、変位方向S2の反対方向に変位して、押さえ部57から円滑に離れる。これにより、係合部44と押さえ部57の係合が解除される。
なお、ロックアーム40と規制部材56に関して、押さえ部57の係合部44に接触する面は、曲面に形成してもよく、平面、又は、角部を有する形状に形成してもよい。押さえ部57は、係合部44と線で接触してもよく、係合部44と点、又は、面で接触してもよい。係合面46の法線Tが規制部材56の回転中心N1からずれるように、係合部44を形成してもよい。例えば、係合面46の法線Tをロックアーム40の回転中心N2側にずらすことで、係合部44から押さえ部57に回転方向S1の反対側の力が加えられる。また、押さえ部57の回転に干渉する部分(フック状部等)を、係合部44に形成してもよい。このようにすることで、係合部44が、押さえ部57をより確実に拘束するとともに、規制部材56が、押さえ部57によりロックアーム40を押さえた状態に安定して維持される。
これに対し、押さえ部57と係合部44の静止摩擦力により、押さえ部57を係合部44に保持して、係合部44を押さえ部57に係合するようにしてもよい。係合部44と押さえ部57の静止摩擦係数をμとしたとき、摩擦角θは、μとθの関係式(μ=tanθ)より算出される。また、係合部44と押さえ部57の接点を規制部材56の回転中心N1と結んで、接点と回転中心N1に仮想線を引く。この仮想線と係合面46の法線Tのなす角度(法線角度)が摩擦角θ以下であるときに、押さえ部57が静止摩擦力により係合部44に保持される。
例えば、係合部44(ポリアセタール樹脂)と押さえ部57(ステンレス鋼)の静止摩擦係数μが0.15である場合には、摩擦角θは約8.5度となる。従って、法線角度が8.5度以下であれば、係合面46の法線Tの方向にかかわらず、係合部44が押さえ部57に係合した状態に維持される。この場合には、法線Tを、規制部材56の回転中心N1から押さえ部57の回転方向S1に向けてずらしてもよい。また、法線角度が摩擦角θ以下であるとの条件を満すように、法線Tの方向を変更してもよい。法線角度が摩擦角θ以下であるとの条件を満たす限り、法線角度に誤差が生じていてもよい。
ここで、規制部材56によりロックアーム40の変位を規制しても、巻取ドラム10の巻取方向Mの速度やウエビング2の停止の仕方等によっては、ロック機構9が作動して、リトラクタ1にエンドロックが発生する虞がある。エンドロックが発生したときには(図13参照)、ロックアーム40の一端部41が停止部6Gの係合歯6Jに係合することで、ロックアーム40が停止部6Gに係合する。
これに対し、本実施形態のリトラクタ1は(図3参照)、ロック機構9が作動する間に、ロックアーム40と停止部6Gの係合を解除する解除手段18を備えている。仮に、リトラクタ1にエンドロックが発生したとしても、解除手段18により、ロックアーム40と停止部6Gの係合を解除して、リトラクタ1のエンドロックを解除する。解除手段18は、巻取ドラム10に形成された突起16と、ロッキングクラッチ30に形成された貫通溝34を有する。突起16は、巻取ドラム10からロックアーム40に向かって突出し、貫通溝34内を巻取ドラム10の回転方向に移動する。また、突起16は、貫通溝34を貫通して、ロックアーム40に接触する。
図16、図17は、エンドロック時のリトラクタ1の動作を示す図であり、リトラクタ1の要部を図12と同様に示している。また、図16、図17は、停止部6Gの一部とクラッチユニット8を示すとともに、ロックアーム40の断面を示している。ロッキングクラッチ30の一部を透視することで、可動パウル4Aとロック歯26の一部も図16、図17に示している。
図示のように、突起16は、ロックアーム40に形成された凹部47内に配置され、凹部47内で移動してロックアーム40に接触する。
エンドロック時には(図16A、図16B参照)、ロックアーム40がロック作動方向Lに変位し、停止部6Gがロックアーム40と係合してロックアーム40を停止する。このロックアーム40により、ロッキングクラッチ30がロックされて停止する。その状態で、ウエビング2をリトラクタ1から引き出すことで、巻取ドラム10が引出方向Pに回転する。また、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、ロック機構9の作動が開始して、ロック機構9が巻取ドラム10の回転を止める。その際、巻取ドラム10がロッキングクラッチ30に対して相対的に回転することで、突起16が、引出方向Pに移動してロックアーム40に接触する(図16C参照)。従って、突起16は、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い移動してロックアーム40に接触する接触部材である。
巻取ドラム10が引出方向Pに回転する間に、突起16が、ロックアーム40の一端部41側の部分を引出方向Pに押す(図16D参照)。従って、突起16は、ロックアーム40を直接押して、巻取ドラム10の引出方向Pの回転をロックアーム40に伝達する回転伝達部材でもある。解除手段18は、突起16により巻取ドラム10の回転をロックアーム40に伝達する伝達機構19を有する。伝達機構19により、ロックアーム40を停止部6Gから外して、リトラクタ1のエンドロックを解除する。
具体的には、ロック機構9の作動開始から、ロック機構9により巻取ドラム10の引出方向Pの回転が完全に止まるまでの間に、伝達機構19が、巻取ドラム10の引出方向Pの回転(回転の力)をロックアーム40に伝達する。この伝達機構19は、上記したように、突起16からなる回転伝達部材を有する。突起16が、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴いロックアーム40に接触してロックアーム40を押す。続いて、伝達機構19(突起16)は、ロックアーム40に力を加えて、ロックアーム40を停止部6Gとの係合を解除する方向(解除方向)に変位させる。解除手段18の伝達機構19により、ロックアーム40が停止部6Gから外れて、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除される(図17A参照)。
可動パウル4Aが非ロック位置からロック位置に移動する間に、解除手段18は、ロックアーム40と停止部6Gの係合を解除する。その際、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い可動パウル4Aがロック歯26に係合する状態で、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除される。ここでは、可動パウル4Aの係合爪4Bがロック歯26に接触した状態で、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除される。続いて、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、係合爪4Bがロック歯26に沿って移動してロック歯26の底部に到達し、可動パウル4Aとロック歯26の係合が完了する。
これに対し、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い係合爪4Bがロック歯26に接触可能な状態で、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除されるようにしてもよい。この場合には、係合爪4Bがロック歯26に接触しない状態で、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除される。続いて、リターンスプリング8Aの付勢により、ロッキングクラッチ30が巻取ドラム10に対して引出方向Pに相対的に回転し、可動パウル4Aが非ロック位置に向かって移動する。ただし、係合爪4Bは、ロック歯26に接触可能な位置にあり、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴いロック歯26に接触する。その後、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴い、可動パウル4Aとロック歯26の係合が完了する。
図18は、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除される過程を示す図であり、ロックアーム40と停止部6Gを拡大して示している。
図示のように、解除手段18は、伝達機構19によりロックアーム40を押して、ロックアーム40を停止部6Gに沿って移動させつつ解除方向に変位させる。その際、まず、伝達機構19の突起16が、ロックアーム40の一端部41を停止部6Gの係合歯6Jに向かって押す(矢印Q1)。これに伴い、ロックアーム40の一端部41が、係合歯6Jの係合面に沿って移動し始めて、係合歯6Jの先端に向かって移動する(矢印Q2)。
ロックアーム40の一端部41の移動に連動して、ロックアーム40がアーム支持部37を中心に回転するとともに、ロックアーム40のアーム支持部37が移動する(矢印Q3)。また、アーム支持部37が移動し始めた後、ロッキングクラッチ30がアーム支持部37により巻取方向Mに押される。その結果、ロックアーム40がロッキングクラッチ30とともに巻取方向Mに回転しつつ、ロックアーム40の一端部41が係合歯6Jの先端に向かって移動する。同時に、ロックアーム40が回転中心N2(アーム支持部37)回りにロック作動方向Lの反対方向(解除方向)に回転し、ロックアーム40の全体が係合歯6Jから離れる方向に変位する。
ロックアーム40の変位時に、伝達機構19の突起16は、ロックアーム40の凹部47内で、ロックアーム40の接触面(接触部)47Aに接触する。凹部47は、ロックアーム40の巻取ドラム10側に形成され、接触面47Aは、凹部47の平滑な内面からなる。突起16は、凹部47内で、接触面47Aに沿って摺動して、ロックアーム40の一端部41側に円滑に移動する。この移動に伴い、突起16は、ロックアーム40の動きを妨げることなく、ロックアーム40の一端部41を停止部6Gの係合歯6Jに向かって押す。突起16と停止部6Gの係合歯6Jにより、ロックアーム40とロッキングクラッチ30が回転して、ロックアーム40が変位する。
解除手段18は、停止部6Gからロックアーム40が受ける力により、ロックアーム40をロッキングクラッチ30とともに停止部6Gから離れる方向(ここでは巻取方向M)に回転させつつ、ロックアーム40を解除方向に変位させる。その際、ロックアーム40は、係合歯6Jに係合した状態で、係合歯6Jの先端に向かって移動する。係合歯6Jは、解除方向に変位するロックアーム40を移動させつつ、ロックアーム40に力を加えて、ロックアーム40とロッキングクラッチ30を回転させる。また、ロックアーム40は、係合歯6Jに沿った移動に伴い、回転中心N2回りに回転する。このように、係合歯6Jは、ロックアーム40と係合した状態で、解除方向に変位するロックアーム40を先端に向かって移動させつつ回転させ、かつ、ロックアーム40に、ロッキングクラッチ30とともに回転する力を加える。
ロックアーム40の変位により、ロックアーム40の一端部41が停止部6Gの係合歯6Jから外れたときに、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除されて、ロックアーム40が停止部6Gから解放される。これに伴い、ロックアーム40は、ロック作動方向Lの反対方向に変位して元の位置に復帰する(図17A、図17B参照)。また、ロッキングクラッチ30のロックが解除される。ロック機構9は、ロックアーム40と停止部6Gの係合が解除された後に、巻取ドラム10の引出方向Pの回転を止める。従って、解除手段18は、巻取ドラム10の引出方向Pの回転に伴いロック機構9が作動する状態で、ロックアーム40と停止部6Gの係合を解除する。
その後、ウエビング2を巻き取ることで、巻取ドラム10が巻取方向Mに回転し、ロッキングクラッチ30が巻取ドラム10に対して引出方向Pに相対的に回転する(図17C参照)。ウエビング2の巻取前にロッキングクラッチ30のロックが解除されているため、巻取ドラム10が巻取方向Mに回転した後、ロッキングクラッチ30の引出方向Pの回転が早期に開始する。また、可動パウル4Aの連動ピン4Cが誘導溝33により誘導されて、可動パウル4Aの係合爪4Bがロック歯26から外れる位置まで移動する。このように可動パウル4Aが移動すると、ロッキングクラッチ30が急速に引出方向Pに相対的に回転して、可動パウル4Aが非ロック位置に移動する(図17D参照)。これに伴い、ロック機構9による巻取ドラム10のロックが解除され、以降、ウエビング2の引き出しと巻き取りが可能になる。
なお、エンドロックの発生と同時に、車両の振動等により加速度センサー50が作動して、センサーレバー53のロック爪54がラチェットホイール36の歯35に噛み合う虞がある。この場合には、解除手段18によるロッキングクラッチ30の巻取方向Mの回転を利用して、ロック爪54を歯35から外すようにしてもよい。これにより、加速度センサー50によるラチェットホイール36の停止が解除される。
解除手段18と伝達機構19に関して、巻取ドラム10の突起16をロックアーム40の外面に接触させて、ロックアーム40を押すようにしてもよい。ロックアーム40に形成した突起(回転伝達部材)を巻取ドラム10の側面部に接触させることで、巻取ドラム10の回転をロックアーム40に伝達してもよい。巻取ドラム10の回転は、ロックアーム40に直接伝達せずに、回転伝達部材を介して、ロックアーム40に間接的に伝達するようにしてもよい。
また、可動パウル4Aの連動ピン4Cを回転伝達部材として利用してもよい。この場合には、例えば、ロックアーム40の他端部42を部分的に誘導溝33に向かって形成し、連動ピン4Cをロックアーム40の他端部42に向かって形成する。このように、ロックアーム40の他端部42と連動ピン4Cを接触可能な形状に形成し、誘導溝33内を移動する連動ピン4Cにより、ロックアーム40の他端部42を押す。これにより、巻取ドラム10の回転をロックアーム40に伝達して、ロックアーム40を解除方向に変位させる。
伝達機構19によるロックアーム40の変位と同時に、誘導溝33内を移動する可動パウル4Aの連動ピン4Cにより、ロッキングクラッチ30を巻取方向Mに押すようにしてもよい。この場合には、係合爪4Bがロック歯26に沿って移動してロック歯26の底部に到達する際に、連動ピン4Cが誘導溝33内を移動しつつロッキングクラッチ30を巻取方向Mに押す。また、ロッキングクラッチ30が巻取方向Mに回転することで、ロックアーム40が停止部6Gから離れる方向に変位する。その結果、ロックアーム40と停止部6Gの係合の解除が補助される。ロックアーム40やロッキングクラッチ30にガタツキがあるときには、ガタツキによっても、ロックアーム40が解除方向に変位する。
次に、リトラクタ1の状態を切り替える切替手段60について説明する(図3、図4参照)。切替手段60により、リトラクタ1の状態が、使用目的に対応して、自動ロック状態(ALR)と緊急ロック状態(ELR)とに切り替えられる。自動ロック状態では、ウエビング2が引き出せなくなり、ウエビング2の巻き取りのみが可能になる。例えば、チャイルドシートや荷物をシートに固定するときに、リトラクタ1が自動ロック状態に切り替えられる。これに対し、緊急ロック状態では、ウエビング2の巻き取り及び引き出しが可能である。ただし、車両の緊急時には、ロック機構9により巻取ドラム10がロックされる。その結果、巻取ドラム10の引出方向Pの回転が止められて、ウエビング2の引き出しが停止する。
切替手段60は、ロック機構9を作動する作動部材61と、作動部材61を所定位置に配置するアーム状の配置部材62と、配置部材62を移動する円盤状の移動部材70と、配置部材用付勢手段である第1付勢手段63と、作動部材用付勢手段である第2付勢手段64と、減速機構80を備えている。また、減速機構80は、駆動歯車81、中間歯車82、及び、従動歯車83を有し、組み合わされた複数の歯車81、82、83により、巻取ドラム10と移動部材70に連結される。
作動部材61と配置部材62は、メカニズムカバー6A(図3参照)に形成された円柱状の回転軸(回転用の軸)6Kに回転可能に取り付けられる。第1付勢手段63は、弾性変形可能な付勢部材(ばね、ゴム、弾性部材等)(ここでは、引張コイルばね)からなり、配置部材62とメカニズムカバー6Aに取り付けられる。第2付勢手段64は、弾性変形可能な付勢部材(ばね、ゴム、弾性部材等)(ここでは、ねじりばね)からなり、作動部材61とメカニズムカバー6Aに取り付けられる。移動部材70の中心孔71は、メカニズムカバー6Aの環状支持部6Lに回転可能に取り付けられ、移動部材70は、環状支持部6Lを中心に回転する。
第1シャフト12に固定されたキャップ17は、挿入孔6Iに挿入されて、環状支持部6L内に配置される。駆動歯車81は、環状支持部6L内でキャップ17に固定され、移動部材70の中心で、巻取ドラム10の第1シャフト12及びキャップ17と一体に回転する。従動歯車83は、移動部材70の内側凸部72に形成された内歯車であり、駆動歯車81及び中間歯車82よりも大きな歯車になっている。中間歯車82は、駆動歯車81よりも大きい第1歯車82Aと、第1歯車82Aよりも小さい第2歯車82B(図4参照)を有し、外面カバー6Vに回転可能に取り付けられる。第1歯車82Aは駆動歯車81に噛み合い、第2歯車82Bは従動歯車83に噛み合う。外面カバー6Vは、メカニズムカバー6Aに取り付けられて、切替手段60を覆う。
図19は、図4のW5方向からみたリトラクタ1の側面図であり、外面カバー6Vを取り外したメカニズムカバーユニット6を示している。また、図19は、メカニズムカバー6A(クラッチ収容部6B)内に収容されたロッキングクラッチ30のラチェットホイール36も示している。ラチェットホイール36は、クラッチ収容部6Bの開口6Mにおいて露出する。なお、図19は、実線で示す位置から移動した作動部材61の一部と配置部材62の一部を点線で示している。
図示のように、巻取ドラム10が回転すると、駆動歯車81がキャップ17と一体に回転する。駆動歯車81の回転により、第1歯車82Aが回転して、中間歯車82が駆動歯車81の回転速度よりも遅い回転速度で回転する。中間歯車82の第2歯車82Bの回転により、従動歯車83が中間歯車82の回転速度よりも遅い回転速度で回転し、移動部材70が巻取ドラム10の回転に連動して回転する。減速機構80は、巻取ドラム10の回転を減速して移動部材70に伝達し、移動部材70を巻取ドラム10の回転速度よりも遅い回転速度で回転する。ここでは、ウエビング2の全体が引き出される間に、移動部材70が360°以下の所定角度だけ回転する。また、移動部材70は、巻取ドラム10の回転方向の反対方向に回転する。
作動部材61と配置部材62は、回転軸6Kの軸方向に重なるように1つの回転軸6Kに回転可能に取り付けられ、連動して回転可能に組み合わされる。その状態で、作動部材61が、移動部材70に対してラチェットホイール36側に配置され、配置部材62が、移動部材70の内側凸部72側の面に沿って配置される。移動部材70は、回転により配置部材62を移動するカム部材であり、かつ、配置部材62により作動部材61の位置を制御する制御部材である。
配置部材62は、移動部材70に従動するカムフォロアであり、かつ、リトラクタ1の状態を切り替える切替レバーである。作動部材61は、配置部材62に連動する連動部材であり、かつ、ロック機構9の作動と非作動を切り替える作動スイッチ(切替スイッチ)である。ロック機構9は、作動部材61により作動して、巻取ドラム10の引出方向Pの回転のみを止めて、巻取ドラム10の巻取方向Mの回転を許容する。ここでは、作動部材61は、メカニズムカバー6A内でラチェットホイール36の歯35に噛み合う噛合部材であり、歯35への噛合により、ラチェットホイール36の引出方向Pの回転を止める。ロック機構9は、作動部材61と歯35の噛み合いによるラチェットホイール36の引出方向Pの回転停止に伴い作動する。従って、作動部材61を備えた切替手段60は、ラチェットホイール停止手段でもある。
作動部材61と配置部材62は、回転軸6Kを中心に回転して、同じ回転方向に移動する。即ち、リトラクタ1は、作動部材61と配置部材62を回転により移動させる回転手段65を備えており、回転手段65は、1つの回転軸6Kを有する。配置部材62は、回転手段65により、作動部材61とともに回転により移動(図19の矢印H)する。また、配置部材62の移動(回転)に連動して、作動部材61は、ロック機構9を作動しない非作動位置E1(図19に実線で示す位置)と、ロック機構9を作動する作動位置E2(図19に点線で示す位置)に移動(回転)する。
作動部材61の非作動位置E1は、作動部材61がラチェットホイール36の歯35に噛み合わない位置(非噛合位置)である。また、作動部材61の作動位置E2は、作動部材61がラチェットホイール36の歯35に噛み合う位置(噛合位置)である。配置部材62により、作動部材61は、非作動位置E1(非噛合位置)から作動位置E2(噛合位置)に移動してロック機構9を作動する。
具体的には、配置部材62の移動に伴い、作動部材61は、ラチェットホイール36に近づき、又は、ラチェットホイール36から離れる。また、加速度センサー50のロック爪54と同様に、作動部材61は、開口6Mにおいて、クラッチ収容部6B内のラチェットホイール36の歯35に噛み合う。これにより、ラチェットホイール36の回転が停止して、ロック機構9が作動する。
第2付勢手段64は、作動部材61を作動位置E2に向かって常に付勢する。作動部材61は、ラチェットホイール36に接触したときに、第2付勢手段64によりラチェットホイール36に押し付けられる。これに対し、配置部材62は、第1付勢手段63により、作動部材61を非作動位置E1に移動する方向(作動部材61をラチェットホイール36から離す方向)(ここでは、移動部材70の半径方向内側)に常に付勢されている。図19では、作動部材61は、第2付勢手段64により反時計回りに回転するように付勢され、配置部材62は、第1付勢手段63により時計回りに回転するように付勢されている。
第1付勢手段63の付勢力と第2付勢手段64の付勢力とが釣り合った状態(図19に示す状態)で、配置部材62は、移動部材70の半径方向内側に位置し、内側凸部72近傍の第1位置F1(図19に実線で示す位置)に配置される。配置部材62の第1位置F1は、作動部材61が非作動位置E1に配置される位置であり、作動部材61は、配置部材62により非作動位置E1に配置される。その状態から、配置部材62は、作動部材61を作動位置E2に移動する方向(作動部材61をラチェットホイール36に近づける方向)(ここでは、移動部材70の半径方向外側)に移動して、第1位置F1の外側の第2位置F2(図19に点線で示す位置)に配置される。第2位置F2は、作動部材61が作動位置E2に配置される位置であり、作動部材61は、配置部材62により作動位置E2に配置される。
このように、配置部材62は、回転手段65の回転により、第1位置F1と第2位置F2とに配置される。同時に、配置部材62は、作動部材61とともに移動して、作動部材61を非作動位置E1と作動位置E2に配置する。また、第1付勢手段63は、配置部材62を第1位置F1に向かって付勢している。配置部材62が第2位置F2に配置された状態では、第1付勢手段63の付勢力が第2付勢手段64の付勢力よりも大きいため、配置部材62が第1付勢手段63の付勢により第1位置F1に移動して、作動部材61が非作動位置E1に移動する。
図20は、作動部材61と配置部材62の斜視図であり、図21は、図19のY2部の断面図である。
図示のように、配置部材62は、回転軸6Kに取り付けられる円筒状の取付部62Aと、取付部62Aから突出するアーム部62Bと、アーム部62Bの先端に形成された突起からなる接触部62Cを有する。接触部62Cが移動部材70に接触して移動することで、アーム部62Bが取付部62Aを中心に回転し、配置部材62が移動する。
作動部材61は、回転軸6Kに取り付けられる円筒状の取付部61Aと、取付部61Aから突出するアーム部61Bと、アーム部61Bの先端に形成された噛合パウル61Cを有する。噛合パウル61Cは、作動部材61に形成された噛合部(噛合爪)であり、作動部材61と一体に移動する。取付部61Aを中心にアーム部61Bが回転することで、作動部材61が移動し、噛合パウル61Cがラチェットホイール36の歯35に噛み合う。
噛合パウル61Cとチェットホイール36の歯35は、ラチェットホイール36が引出方向Pに回転するときのみ噛み合うように形成されている。噛合パウル61Cは、ロック機構9の一部を構成しており、ロック機構9は、ラチェットホイール36と噛合パウル61Cとを備えている。作動部材61は、作動位置E2への移動により噛合パウル61Cを歯35に噛み合う位置に配置し、非作動位置E1への移動により噛合パウル61Cを歯35に噛み合わない位置に配置する。ロック機構9は、歯35と噛合パウル61Cの噛み合いに伴い作動する。ラチェットホイール36が巻取方向Mに回転するときには、噛合パウル61Cは、歯35の外面を相対的に摺動し、歯35の先端において歯35を乗り越える。
作動部材61の取付部61Aと配置部材62の取付部62Aを回転軸6Kに取り付けたときに、取付部61A、62Aの円弧部61D、62Dが組み合わされる。その際、第2付勢手段64の付勢(図21の矢印G)により、円弧部61D、62Dの一端部が接触するとともに、円弧部61D、62Dの他端部の間に隙間66が形成される。配置部材62(図21では、円弧部62Dの断面のみ示す)が第1位置F1に移動するときには、作動部材61は、配置部材62により押されて回転し、隙間66を維持しつつ非作動位置E1に移動する。また、配置部材62が第2位置F2に移動するときには、配置部材62の移動に伴い、作動部材61が、第2付勢手段64の付勢により、隙間66を維持しつつ作動位置E2まで移動する。
作動部材61の噛合パウル61Cは、引出方向Pに回転するラチェットホイール36の歯35のみに噛み合う。その状態で、ラチェットホイール36が巻取方向Mに回転すると、噛合パウル61Cが歯35により押される。これにより、配置部材62が停止した状態で、作動部材61が、隙間66を狭くしつつ歯35に沿って変位して、複数の歯35を順に乗り越える。
従って、リトラクタ1は、以上のように構成される作動部材61の変位機構67を備える。配置部材62が第2位置F2に維持された状態で、変位機構67により、作動部材61の噛合パウル61Cは、巻取ドラム10とともに巻取方向Mに回転するラチェットホイール36の歯35に沿って変位する。これにより、ラチェットホイール36の巻取方向Mの回転中に、噛合パウル61Cが複数の歯35に噛合可能な状態に確実に維持される。ラチェットホイール36が引出方向Pに回転すると、噛合パウル61Cが再び歯35に噛み合う。
配置部材62(図19参照)は、作動部材61とともに移動して、作動部材61を非作動位置E1と作動位置E2とに移動させる。この移動により、作動部材61と配置部材62は、ラチェットホイール36の回転可能方向を制御するとともに、リトラクタ1の状態を切り替える。配置部材62により作動部材61が非作動位置E1に移動すると、ラチェットホイール36が巻取方向M及び引出方向Pに回転可能になり、リトラクタ1の状態が緊急ロック状態に切り替えられる。配置部材62により作動部材61が作動位置E2に移動すると、ラチェットホイール36が巻取方向Mのみに回転可能になり、リトラクタ1の状態が自動ロック状態に切り替えられる。
移動部材70により、配置部材62は、第1位置F1と第2位置F2に配置されて、作動部材61を非作動位置E1と作動位置E2に配置する。移動部材70は、巻取ドラム10の回転に連動して回転し、回転に伴い、配置部材62を第1位置F1と第2位置F2とに移動させる。また、移動部材70は、内側凸部72と、内側凸部72を囲む外側凸部73と、配置部材62を第1位置F1に維持する第1維持部74と、変更部75と、配置部材62を移動する移動部76と、配置部材62を第2位置F2に維持する第2維持部77と、解放部78を有する。
内側凸部72は、移動部材70の半径方向の内側に形成された環状凸部である。外側凸部73は、移動部材70の半径方向の外側に形成された環状凸部であり、移動部材70の一方の面で内側凸部72の外側に形成されている。内側凸部72の中心と外側凸部73の中心は移動部材70の回転中心に一致し、外側凸部73は内側凸部72の直径よりも大きい直径に形成されている。第1維持部74は、内側凸部72と外側凸部73(第2維持部77)の間の環状経路からなる。第1維持部74において、配置部材62(接触部62C)は、内側凸部72に接触せずに内側凸部72の近傍に配置され、内側凸部72に沿って相対的に移動する。
図22〜図24は、移動部材70の回転に伴う配置部材62の動作を示す図であり、リトラクタ1を図19と同様に示している。また、図22Cは、図22BのX3−X3線を矢印方向にみたリトラクタ1の断面図であり、図23Bは、図23AのX4−X4線を矢印方向にみたリトラクタ1の断面図である。
図示のように、ウエビング2の引き出し又は巻き取りにより巻取ドラム10が引出方向P又は巻取方向Mに回転すると、減速機構80により、移動部材70が巻取ドラム10の回転方向の反対方向に回転する。また、移動部材70の回転に伴い、配置部材62は、移動部材70の周方向に相対的に移動するとともに、移動部材70の各部74〜77に沿って相対的に移動する。
ウエビング2を巻取ドラム10に完全に巻き取ったときには、配置部材62の接触部62Cは、第1維持部74に配置される(図22A参照)。これにより、配置部材62が第1位置F1に維持されて、作動部材61が非作動位置E1に維持される。その状態で、ウエビング2の引き出しにより移動部材70が回転すると、配置部材62(接触部62C)が第1維持部74に沿って相対的に移動する。また、ウエビング2の引き出しと巻き取りに伴い、配置部材62は、第1維持部74において、移動部材70の周方向に相対的に移動する。巻取ドラム10からウエビング2が所定長さ(所定の引出長さ)引き出されるまで、接触部62Cが第1維持部74に配置されて、配置部材62が第1維持部74により第1位置F1に維持される。その結果、リトラクタ1の状態が緊急ロック状態に維持される。
巻取ドラム10からウエビング2が所定長さ引き出されるときに(図22B、図22C参照)、配置部材62が変更部75に沿って相対的に変位し、変更部75により、配置部材62の位置が第1維持部74から移動部76による移動位置に変更される。移動部76による移動位置は、配置部材62が移動部76により移動可能になる位置である。配置部材62は、移動位置まで移動した後、移動部76により移動する。ここでは、変更部75は、第1維持部74から移動部76の先端に向かって傾斜する斜面であり、第1維持部74の終端部に形成されている。
ウエビング2の引き出しによる移動部材70の回転に伴い、配置部材62の接触部62Cが、変更部75に接触し、移動部76に向かって相対的に移動する。これにより、配置部材62が、弾性変形し、変更部75に沿って移動部材70から離れる方向に変位する。続いて(図23A、図23B参照)、配置部材62が移動部76を乗り越えて元の形状に復帰し、接触部62Cが移動部76に接触可能な位置に配置される。ここでは、ウエビング2が巻取ドラム10から完全に引き出されるときに、変更部75により、配置部材62の位置が、第1維持部74から移動部76による移動位置に変更される。従って、ウエビング2が巻取ドラム10から完全に引き出されるまで、配置部材62は、第1維持部74により第1位置F1に維持される。
所定長さ引き出されたウエビング2を巻取ドラム10に巻き取るときに、移動部材70の移動部76が、移動部材70の回転に伴い、配置部材62を第1位置F1から第2位置F2に移動させる(図23C参照)。移動部76は、第2維持部77に向かって傾斜する傾斜部からなり、内側凸部72から外側凸部73(第2維持部77)まで形成されている。ウエビング2の巻き取りによる移動部材70の回転に伴い、配置部材62は、移動部76に接触し、移動部76に沿って次第に移動して、移動部76により第1位置F1から第2位置F2に誘導される。従って、移動部76は、配置部材62を第1位置F1から第2位置F2に誘導する誘導部でもある。
ここでは、移動部76は、移動部材70の回転方向に対して、移動部76による移動位置から第2維持部77に向かって傾斜する傾斜凸部からなり、第2維持部77の前端部に繋がる。また、巻取ドラム10から完全に引き出されたウエビング2を巻取ドラム10に巻き取るときに、配置部材62が移動部76により移動する。その際、配置部材62の接触部62Cが、第1付勢手段63の付勢により移動部76に押し付けられた状態で、移動部76により誘導されて、第2維持部77に向かって移動する。これにより、配置部材62が、移動部材70の半径方向外側に向かって移動して、第1位置F1から第2位置F2に移動する(図24A参照)。同時に、作動部材61が非作動位置E1から作動位置E2に移動して、リトラクタ1の状態が緊急ロック状態から自動ロック状態に切り替えられる。
第2維持部77は、第1維持部74の半径方向外側に円弧状に形成された円弧部からなり、第1維持部74の一部を囲む。所定長さ引き出されたウエビング2の巻取ドラム10への巻取中に、配置部材62は、第2維持部77に接触して、第2維持部77により第2位置F2に維持される。ここでは、第2維持部77は、外側凸部73の一部を構成する円弧状凸部からなり、移動部材70の周方向に沿って所定長さに形成されている。移動部76と第2維持部77が繋がる箇所では、外側凸部73が部分的にないため、配置部材62の接触部62Cは、移動部76から第2維持部77まで円滑に移動する。また、接触部62Cは、第2維持部77に接触し、第1付勢手段63の付勢により第2維持部77に押し付けられる。接触部62Cが第2維持部77により押さえられることで、配置部材62が、第2維持部77により保持される。これにより、完全に引き出されたウエビング2の巻取中に、配置部材62が第2位置F2に維持される。
配置部材62が第2位置F2に維持されることで、作動部材61が作動位置E2に維持される。その結果、リトラクタ1の状態が自動ロック状態に維持され、ロック機構9により、巻取ドラム10の引出方向Pの回転のみが止められる。ウエビング2の巻き取りによる移動部材70の回転に伴い、配置部材62(接触部62C)は、第2維持部77に沿って相対的に移動するとともに、第2維持部77の終端部79及び移動部材70の解放部78に向かって相対的に移動する(図24B参照)。第2維持部77により、配置部材62は、ウエビング2が巻取ドラム10に所定長さ(所定の巻取長さ)巻き取られるまで第2位置F2に維持される。また、ウエビング2が巻取ドラム10に所定長さ巻き取られたときに、配置部材62は、第2維持部77の終端部79から外れて、解放部78により第1維持部74に向かって解放される。配置部材62は、ウエビング2が巻取ドラム10に完全に巻き取られる前に、終端部79から外れる。
第2維持部77の終端部79では、外側凸部73が部分的にないため、配置部材62の接触部62Cは、終端部79に達した後、第2維持部77から外れる。これにより、接触部62Cが第2維持部77により押さえられた状態から解放されて、配置部材62が第2維持部77から解放される。移動部材70の解放部78は、終端部79に続く部分であり、第2維持部77から第1維持部74まで形成された解放領域からなる。解放部78において、配置部材62は、移動部材70に接触することなく、移動部材70の半径方向内側に向かって、第2維持部77から第1維持部74まで移動する。
ウエビング2が巻取ドラム10に所定長さ巻き取られて、配置部材62が第2維持部77の終端部79から外れたときに、解放部78は、配置部材62を第2維持部77から第1維持部74に向かって解放する(図19参照)。この解放に伴い、配置部材62は、第1付勢手段63の付勢により、第2維持部77(第2位置F2)から第1維持部74(第1位置F1)に直ちに移動する。同時に、作動部材61が作動位置E2から非作動位置E1に移動して、リトラクタ1の状態が自動ロック状態から緊急ロック状態に切り替えられる。その後、ウエビング2は、巻取ドラム10に巻き取られ、又は、巻取ドラム10から引き出される。
以上説明したように、本実施形態のリトラクタ1では(図15参照)、係合部44により、規制部材56が、押さえ部57によりロックアーム40を押さえた規制状態に維持される。そのため、ウエビング2を巻き取ったときに、リトラクタ1にエンドロックが発生するのを確実に抑制することができる。また、規制部材56の取付部58と中心支持部6Hとの間に生じる摩擦力の大きさにかかわらず、規制部材56を規制状態に安定して維持することができる。1つの規制部材56によりエンドロックの発生が抑制されるため、リトラクタ1の部品数の増加を防止することができる。
規制部材56は、押さえ部57により係合部44を押さえて、ロックアーム40のロック作動方向Lへの変位を規制する。これにより、係合部44を押さえ部57に係合した状態に維持しつつ、ロックアーム40の変位を確実に規制することができる。また、係合部44が押さえ部57に引っ掛かる凸部からなるため、係合部44と押さえ部57の係合と係合の解除を円滑に行うことができる。
係合部44が押さえ部57を拘束して押さえ部57の移動を阻止することで、ロックアーム40のロック作動方向Lの変位をより確実に抑制できる。また、係合部44が、押さえ部57に押し付けられて、押さえ部57の移動を阻止する方向の力を押さえ部57に加えるため、押さえ部57が係合部44に押されて移動するのを防止できる。規制部材56の取付部58と中心支持部6Hとの間に生じる摩擦力により、ロックアーム40の不要な動きを抑制できるとともに、規制部材56を規制状態により確実に維持することができる。
規制部材56の回転中心N1をロックアーム40の回転中心N2と異なる位置に配置することで、係合部44と押さえ部57の係合に伴う規制部材56の回転(移動)を容易に抑制することができる。係合部44の変位方向S2を押さえ部57の回転方向S1に交差する方向に設定するときには、係合部44の変位方向S2の力により規制部材56が回転せず、係合部44により規制部材56が回転できない状態に保持される。これらにより、規制部材56を規制状態により確実に維持することができる。
押さえ部57がロックアーム40の係合部44から離れた位置に接触するため、通常の巻取ドラム10の巻取方向Mの回転時に、係合部44が押さえ部57に係合することがない。また、巻取ドラム10の引出方向Pの回転時には、押さえ部57がロックアーム40から確実かつ円滑に離れる。その結果、規制部材56がウエビング2の引き出し及び巻き取りを妨げず、かつ、ロックアーム40の正常な機能が確実に発揮される。
なお、リトラクタ1の状態を切り替える切替手段60(図19参照)に関して、配置部材62が第1位置F1に維持された状態で、第1付勢手段63の付勢力が第2付勢手段64の付勢力よりも大きくなるようにしてもよい。この場合には、配置部材62の接触部62Cが、第1維持部74において内側凸部72に接触し、内側凸部72により押さえられる。また、配置部材62が変更部75に沿って相対的に変位するときに、配置部材62が弾性変形せずに、移動部材70が弾性変形するようにしてもよい。
作動部材61は、弾性変形可能な部材であってもよい。この場合には、例えば、作動部材61は、作動位置E2に移動したときに、ラチェットホイール36の歯35に押されて弾性変形する。その際、作動部材61は、弾性力により作動位置E2に向かって付勢される。従って、作動部材61自体が付勢手段になるため、第2付勢手段64を別途設ける必要がなく、部品数が削減される。また、作動部材61と配置部材62を一体に形成して、部品数を削減するようにしてもよい。この場合にも、作動部材61は、弾性変形することで、作動位置E2に向かって付勢される。
巻取ドラム10からウエビング2が所定長さ引き出されるまで、移動部材70の第1維持部74により、配置部材62が第1位置F1に維持される。このウエビング2の所定長さは、任意の長さに設定される。従って、所定長さは、ウエビング2の全長であってもよく、全長よりも短い長さであってもよい。
減速機構80は、本実施形態の例に限定されず、周知の減速機構を使用できる。また、噛合パウル61Cを作動部材61に形成せずに、噛合パウル61Cを作動部材61とは異なる部材にしてもよい。この場合には、作動部材61が、噛合パウル61Cを非噛合位置と噛合位置に移動する。作動部材61と配置部材62は、異なる回転軸に取り付けて、連動して回転するようにしてもよい。このようにすることで、回転軸の軸方向における作動部材61と配置部材62の配置スペースを削減することができる。