1.光学フィルム
光学フィルムは、セルロースエステルを主成分として含有する基材層と、その少なくとも一方の面上に配置され、(メタ)アクリル樹脂を主成分として含有する表層とを含む。
基材層
基材層は、セルロースエステルを主成分として含有し、必要に応じて添加剤などの他の成分をさらに含有しうる。
セルロースエステルは、セルロースの水酸基を、脂肪族カルボン酸または芳香族カルボン酸でエステル化して得られる化合物である。即ち、セルロースエステルに含まれるアシル基は、脂肪族アシル基または芳香族アシル基であり、好ましくは脂肪族アシル基である。脂肪族アシル基の炭素数は、一定以上の位相差発現性を得るためには、2〜7であることが好ましく、2〜4であることがより好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基などが含まれ、好ましくはアセチル基である。
セルロースエステルのアシル基の総置換度は、2.0以上3.0以下でありうる。アシル基の総置換度を「Dall」、炭素数2のアシル基の置換度を「D2」、炭素数3以上7以下のアシル基の置換度を「D3」としたとき、光学フィルムの位相差発現性がよいことから、下記式を同時に満たすことが好ましい。
式(i) 2.0≦Dall≦3.0
式(ii) 1.5≦D2≦3.0
式(iii) 0.0≦D3≦0.7
セルロースエステルのアシル基の総置換度Dallは、溶媒に対する溶解性が高く、製膜が比較的容易であることから、好ましくは2.1以上であり、より好ましくは2.3以上であり、さらに好ましくは2.5以上であり、特に好ましくは2.8以上である。アシル基の総置換度は、2.95以下であることが好ましい。
セルロースエステルの例には、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどが含まれ、好ましくはセルロースアセテートである。セルロースアセテートは、アシル基の全てがアセチル基であることが好ましく、該アセチル基置換度が2.1以上2.95以下であることがより好ましい。
アシル基の総置換度(アセチル基置換度)の測定方法は、ASTM−D817−96に準じて測定することができる。
セルロースエステルの重量平均分子量は、それを含有する基材層と(メタ)アクリル樹脂を主成分として含有する表層との密着性を高めるためには、7.5×104以上であることが好ましく、7.5×104以上3.0×105以下であることがより好ましく、1.0×105以上2.4×105以下であることがさらに好ましく、1.6×105以上2.4×105以下であることが特に好ましい。
セルロースエステルの分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)は、1.0〜4.5であることが好ましい。
セルロースエステルの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。測定条件は以下の通りである。
溶媒:メチレンクロライド
カラム:Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製)を3本接続して使用する。
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0ml/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standardポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=1.0×106〜5.0×102までの13サンプルによる校正曲線を使用する。13サンプルは、ほぼ等間隔に選択することが好ましい。
セルロースエステルは、公知の方法で合成でき、例えばセルロースと、少なくとも酢酸または無水酢酸を含む炭素数2以上の有機酸またはその無水物とをエステル化反応させて合成することができる(特開平10−45804号公報に記載の方法を参照)。
セルロースエステルの原料であるセルロースの例には、綿花リンター、木材パルプ(針葉樹由来、広葉樹由来)およびケナフなどが含まれる。原料となるセルロースは、一種類だけであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。セルロースエステルの市販品としては、(株)ダイセル製のL20、L30、L40、L50、イーストマンケミカルジャパン(株)製のCa398−3、Ca398−6、Ca398−10、Ca398−30、Ca394−60Sが挙げられる。
基材層中のセルロースエステルの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
基材層は、後述する(メタ)アクリル樹脂を主成分として含有する表層との密着性を高めたり、硬度差を少なくしたりするために、必要に応じて少量の(メタ)アクリル樹脂をさらに含有してもよい。
添加剤
基材層は、必要に応じてポリエステル化合物、糖エステル化合物、多価アルコールエステル化合物、多価カルボン酸エステル化合物(フタル酸エステル化合物を含む)、グリコレート化合物、およびエステル化合物(脂肪酸エステル化合物やリン酸エステル化合物などを含む)などの添加剤をさらに含有してもよい。これらの添加剤は、可塑剤としても機能しうる。これらのなかでも、フィルムの延伸性を高めて高倍率で延伸しやすく、さらに延伸後のフィルムの引き裂き強度が高まりやすい、あるいはヘイズの低いフィルムが得られやすいなどの観点から、ポリエステル化合物が好ましい。
ポリエステル化合物
ポリエステル化合物は、ジカルボン酸とジオールとの縮合物に由来する繰り返し単位を含む。ポリエステル化合物を構成するジカルボン酸は、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸または芳香族ジカルボン酸でありうる。脂肪族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは4〜20であり、より好ましくは4〜12である。脂肪族ジカルボン酸の例には、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等が含まれる。
芳香族ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは8〜20であり、より好ましくは8〜12である。芳香族ジカルボン酸の例には、1,2-ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3-ベンゼンジカルボン酸(イソフタル酸)、1,4-ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸)、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,4−キシリデンジカルボン酸等が含まれ、好ましくは1,4−ベンゼンジカルボン酸(テレフタル酸)である。
脂環式ジカルボン酸の炭素数は、好ましくは6〜20であり、より好ましくは6〜12である。脂環式ジカルボン酸の例には、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジ酢酸等が含まれる。
ポリエステル化合物を構成するジカルボン酸は、一種類であっても、二種類以上あってもよい。ポリエステル化合物を構成するジカルボン酸は、SP値を高めてセルロースエステルとの相溶性を高めるためには、芳香族ジカルボン酸を含むことが好ましい。
ポリエステル化合物を構成するジオールは、脂肪族ジオール、アルキルエーテルジオール、脂環式ジオールまたは芳香族ジオールでありうる。脂肪族ジオールの炭素数は、好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜12であり、さらに好ましくは2〜4である。脂肪族ジオールの例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、および1,12-オクタデカンジオールなどが含まれる。アルキルエーテルジオールの炭素数は、好ましくは4〜20であり、より好ましくは4〜12である。アルキルエーテルジオールの例には、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールなどが含まれる。
脂環式ジオールの炭素数は、好ましくは4〜20であり、より好ましくは4〜12である。脂環式ジオールの例には、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
芳香族ジオールの炭素数は、好ましくは6〜20であり、より好ましくは6〜12である。芳香族ジオールの例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などが含まれる。
ポリエステル化合物を構成するジオールは、一種類であっても、二種類以上あってもよい。ポリエステル化合物を構成するジオールは、脂肪族ジオールを含むことが好ましい。
ポリエステル化合物は、得られるフィルムの延伸性と透明性が良好であることから、芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、脂肪族ジオール(好ましくは炭素数2〜4の脂肪族ジオール)との縮合物に由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。
ポリエステル化合物の分子末端は、必要に応じてモノカルボン酸またはモノアルコールで封止されていてもよい。
モノカルボン酸は、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸または芳香族モノカルボン酸でありうる。脂肪族モノカルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜30、より好ましくは2〜4でありうる。脂肪族カルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸などが含まれる。脂環式モノカルボン酸の例には、シクロヘキシルモノカルボン酸などが含まれる。芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸などが含まれる。
モノアルコールは、脂肪族モノアルコール、脂環式モノアルコールまたは芳香族モノアルコールでありうる。脂肪族モノアルコールの炭素数は1〜30であり、好ましくは1〜3でありうる。脂肪族モノアルコールの例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどが含まれる。脂環式モノアルコールの例には、シクロヘキシルアルコールなどが含まれる。芳香族モノアルコールの例には、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどが含まれる。
なかでも、分子末端が、脂肪族モノカルボン酸(好ましくは酢酸)で封止されたポリエステル化合物が好ましい。
環構造を有するポリエステル化合物の具体例には、以下のものが含まれる。後述の表1において、TPA:テレフタル酸、PA:フタル酸、SA:コハク酸、AA:アジピン酸、SEA:セバシン酸を示す。
糖エステル化合物は、下記式(FA)で表される化合物であることが好ましい。
式(FA)のR1〜R8は、置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基、または置換もしくは無置換のアリールカルボニル基を表わす。R1〜R8は、互いに同じであっても、異なってもよい。
置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基は、炭素原子数2以上の置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基であることが好ましい。置換もしくは無置換のアルキルカルボニル基の例には、メチルカルボニル基(アセチル基)、エチルカルボニル基などが含まれる。アルキル基が有する置換基の例には、フェニル基などのアリール基が含まれる。
置換もしくは無置換のアリールカルボニル基は、炭素原子数7以上の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基であることが好ましい。アリールカルボニル基の例には、フェニルカルボニル基が含まれる。アリール基が有する置換基の例には、メチル基などのアルキル基が含まれる。
式(FA)で示される化合物の具体例には、以下のものが含まれる。表中のRは、式(FA)におけるR
1〜R
8を表す。
多価アルコールエステル化合物の具体例を以下に示す。2価のアルコールエステル化合物の例には、以下のものが含まれる。
3価以上のアルコールエステル化合物の例には、以下の化合物が含まれる。
多価カルボン酸エステル化合物は、2価以上、好ましくは2〜20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2〜20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3〜20価の芳香族多価カルボン酸または3〜20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸またはその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが含まれ、フィルムからの揮発を抑制するためには、オキシ多価カルボン酸が好ましい。
アルコール化合物の例には、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族飽和アルコール化合物、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族不飽和アルコール化合物、脂環式アルコール化合物または芳香族アルコール化合物などが含まれる。脂肪族飽和アルコール化合物または脂肪族不飽和アルコール化合物の炭素数は、好ましくは1〜32であり、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜10である。脂環式アルコール化合物の例には、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが含まれる。芳香族アルコール化合物の例には、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが含まれる。
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は、特に制限はないが、300〜1000であることが好ましく、350〜750であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースエステルとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
多価カルボン酸エステル化合物の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
多価カルボン酸エステル化合物は、フタル酸エステル化合物であってもよい。フタル酸エステル化合物の例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
グリコレート化合物の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれ、好ましくはエチルフタリルエチルグリコレートである。
エステル化合物には、脂肪酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物やリン酸エステル化合物などが含まれる。
脂肪酸エステル化合物の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、およびセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル化合物の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、およびクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル化合物の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、およびトリブチルホスフェート等が含まれ、好ましくはトリフェニルホスフェートである。
これらの添加剤は、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
前述の通り、ロール体において積層されるフィルム同士が貼り付くと、基材層に含まれる添加剤は、表層を透過してフィルムの表面に染み出すことがある。このような添加剤の染み出しを抑制するためには、添加剤の、基材層の主成分であるセルロースエステルとの相溶性を高め、かつ表層の主成分である(メタ)アクリル樹脂との相溶性を低くすることが有効と考えられる。そのため、添加剤のFedorsの溶解度パラメータ(SP値)が、セルロースエステルのそれと近い範囲にあることが好ましい。具体的には、添加剤のSP値は、9〜14の範囲にあることが好ましく、9〜13の範囲にあることがより好ましく、9〜12の範囲にあることがさらに好ましい。セルロースエステルのSP値は、置換度などによっても異なるが、通常、11〜13程度であり;トリアセチルセルロースのSP値は、約11.5である。
セルロースエステルと添加剤のSP値の差の絶対値は、例えば2.5以下とすることができ、好ましくは1.0以下としうる。(メタ)アクリル樹脂と添加剤のSP値の差の絶対値は、例えば4.0以上とすることができ、好ましくは5.0以上としうる。
本発明におけるSP値は、Fedorsのパラメーターを用いて計算により求めることができる。SP値の単位は、凝集エネルギー密度△Eをモル体積Vで除した値の平方根で、「(cm3/cal)1/2」を用いることができる。Fedorsのパラメーターは、参考文献:コーティングの基礎科学 原田勇次著 槇書店(1977)のp54〜57に記載されている。
基材層における上記添加剤の含有量は、セルロースエステルに対して好ましくは1〜20質量%であり、より好ましくは1.5〜15質量%である。上記添加剤の含有量が1質量%未満であると、可塑性の付与効果が十分でないことがある。一方、上記添加剤の含有量が20質量%超であると、光学フィルムにおいて添加剤が染み出しやすくなる。
基材層は、必要に応じて紫外線吸収剤、レターデーション調整剤、劣化防止剤などをさらに含有してもよい。
紫外線吸収剤
紫外線吸収剤は、波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性を得る観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ない化合物が好ましく用いられる。紫外線吸収剤の例には、ヒンダードフェノール系化合物、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
紫外線吸収剤の具体例には、下記のUV−1〜3が含まれる。
紫外線吸収剤の含有量は、セルロースエステルに対して質量割合で1ppm〜1.0%が好ましく、10〜1000ppmがより好ましい。
表層
表層は、(メタ)アクリル樹脂を主成分として含有し、必要に応じて他の成分をさらに含有してもよい。
(メタ)アクリル樹脂
(メタ)アクリル樹脂は、メチルメタクリレートの単独重合体またはメチルメタクリレートと他の共重合成分との共重合体であることが好ましい。(メタ)アクリル樹脂中のメチルメタクリレート由来の構成単位の含有割合は、例えば光弾性係数の小さいフィルムを得るためには、50〜99質量%であることが好ましく、60〜95質量%であることがより好ましい。
メチルメタクリレートと共重合される共重合成分の例には、アルキル基の炭素数が2〜18のアルキルメタクリレート;アルキル数の炭素数が1〜18のアルキルアクリレート;アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−不飽和酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和基含有二価カルボン酸;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のα,β−不飽和ニトリル;無水マレイン酸;マレイミド;N−置換マレイミド;グルタル酸無水物;アクリロイルモルホリン(ACMO)などのアクリルアミド誘導体等が含まれる。これらは単独で、あるいは2種以上の単量体を併用して共重合成分として用いることができる。
これらの共重合成分の中でも、共重合体の耐熱分解性や流動性を高める観点から、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、s−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアルキルアクリレート;2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどの水酸基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。セルロースエステルとの相溶性を高めるためには、アクリロイルモルホリンなども好ましい。
熱や湿度などの環境条件による光学性能の変動が少ない光学フィルムを得るためなどから、(メタ)アクリル樹脂を構成する共重合成分は、脂環式アルキル基を含有するか、分子内環化により分子主鎖に環状構造を形成する化合物が好ましい。分子主鎖に環状構造を有する(メタ)アクリル樹脂の例には、ラクトン環含有(メタ)アクリル樹脂が含まれる。
ラクトン環含有(メタ)アクリル樹脂の樹脂組成や合成方法は、例えば特開2012−066538号公報および特開2006−171464号公報に記載されている。(メタ)アクリル樹脂に含まれるラクトン環構造は、好ましくは下記式(1)で表される。
式(1)において、R1〜R3は、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の有機残基を示す。有機残基は、酸素原子を含んでいてもよい。有機残基の例には、直鎖もしくは分岐状のアルキル基、直鎖もしくは分岐状のアルキレン基、アリール基、−OAc基(Acはアセチル基)、−CN基などが含まれる。式(1)で示されるラクトン環構造は、後述の水酸基を有するアルキル(メタ)アクリレートに由来するものである。
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂は、アルキル部分の炭素数が1〜18のアルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位をさらに含み、必要に応じて水酸基を含有するモノマー、不飽和カルボン酸、一般式(2)で表されるモノマーなどに由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。一般式(2)におけるR4は、水素原子またはメチル基を示す。Xは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、−OAc基(Ac:アセチル基)、−CN基、アシル基または−C−OR基(Rは水素原子または炭素数1〜20の有機残基)を示す。
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂における、式(1)で表されるラクトン環構造の含有割合は、好ましくは5〜90質量%であり、より好ましくは10〜80質量%であり、さらに好ましくは15〜70質量%である。ラクトン環構造の含有割合が90質量%超であると、成形加工性が低く、得られるフィルムの可とう性も低くなりやすい。ラクトン環構造の含有割合が5質量%未満であると、必要な位相差を有するフィルムが得られにくく、耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が十分でないことがある。
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂における、アルキル(メタ)アクリレートに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは10〜95質量%であり、より好ましくは20〜90質量%であり、さらに好ましくは30〜85質量%である。
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂における、水酸基含有モノマー、不飽和カルボン酸または一般式(2)で表されるモノマーに由来する構成単位の含有割合は、それぞれ独立に好ましくは0〜30質量%であり、より好ましくは0〜20質量%であり、さらに好ましくは0〜10質量%である。
ラクトン環構造を含有する(メタ)アクリル樹脂は、少なくとも水酸基を有するアルキル(メタ)アクリレートと、それ以外のアルキル(メタ)アクリレートとを重合反応させて、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得るステップ;得られた重合体を加熱処理して分子内環化させてラクトン環構造を導入するステップを経て製造されうる。
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、光学フィルムを溶液流延法で作製する場合に、ドープ中の有機溶剤の含有量を少なくでき、かつ得られる膜状物の面状を良好にする観点から、5万以上であることが好ましく、8万以上であることが好ましい。また、有機溶剤や添加剤などと均一に溶解しやすくするためには、(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、100万以下であることが好ましい。
(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定することができる。
(メタ)アクリル樹脂は、例えばデルペット60N、80N(旭化成ケミカルズ(株)製)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱レイヨン(株)製)、KT75(電気化学工業(株)製)等の市販品であってもよい。(メタ)アクリル樹脂は、一種類であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
表層中の(メタ)アクリル樹脂の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
表層は、(メタ)アクリル樹脂以外の他の熱可塑性樹脂をさらに含有してもよい。他の熱可塑性樹脂は、フィルムのガラス転移温度が100℃以上であり、全光線透過率が85%以上のものが、(メタ)アクリル樹脂と混合して得られる層の耐熱性や機械的強度を向上させることができ、好ましい。
他の熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ(4−メチル−1−ペンテン)等のオレフィン系ポリマー;塩化ビニル、塩素化ビニル樹脂等の含ハロゲン系ポリマー;ポリスチレン、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系ポリマー;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610等のポリアミドなどが挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂と相溶しやすいことから、アクリロニトリル−スチレン系共重合体やポリ塩化ビニル樹脂などが好ましい。アクリロニトリル−スチレン系共重合体の共重合比(モル比)は、アクリロニトリル:スチレン=1:10〜10:1の範囲のものが好ましい。
表層は、基材層と同様の添加剤、紫外線吸収剤、レターデーション調整剤、劣化防止剤などの他、マット剤をさらに含有してもよい。
微粒子(マット剤)
表層は、光学フィルムの表面の滑り性を高めるためなどから、必要に応じて微粒子(マット剤)をさらに含有してもよい。
微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化珪素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムなどが含まれる。なかでも、二酸化珪素や酸化ジルコニウムが好ましく、得られるフィルムのヘイズの増大を少なくするためには、より好ましくは二酸化珪素である。
二酸化珪素の微粒子の例には、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKE−P10、KE−P30、KE−P50、KE−P100(以上日本触媒(株)製)などが含まれる。なかでも、アエロジルR972V、NAX50、シーホスターKE−P30などが、得られるフィルムの濁度を低く保ちつつ、摩擦係数を低減させうるため特に好ましい。
微粒子の一次粒子径は、5〜50nmであることが好ましく、7〜20nmであることがより好ましい。一次粒子径が大きいほうが、得られるフィルムの滑り性を高める効果は大きいが、透明性が低下しやすい。そのため、微粒子は、粒子径0.05〜0.3μmの二次凝集体として含有されていてもよい。微粒子の一次粒子またはその二次凝集体の大きさは、透過型電子顕微鏡にて倍率50万〜200万倍で一次粒子または二次凝集体を観察し、一次粒子または二次凝集体100個の粒子径の平均値として求めることができる。
表層における微粒子の含有量は、表層に含まれる樹脂成分((メタ)アクリル樹脂と他の熱可塑性樹脂)に対して0.05〜1.0質量%とすることができ、好ましくは0.1〜0.8質量%としうる。
基材層および表層は、それぞれ一層のみであってもよいし、二層以上であってもよい。なかでも、薄い膜厚で、かつフィルムの両面に活性エネルギー線硬化性接着剤との良好な接着性を付与できることなどから、光学フィルムは、1つの基材層と、それを挟持する2つの表層とを有すること(3層構造を有すること)が好ましい。光学フィルムは、必要に応じて表層上に配置されたハードコート層などの他の機能層をさらに有してもよい。
光学フィルムの総厚みは、一定以上の機械的強度を有し、かつ熱や湿度によるレターデーションの変動などを少なくするためなどから、10〜50μmであることが好ましく、15〜35μmであることがより好ましい。
光学フィルムの総厚みに対する基材層の厚みの割合は、30〜90%の範囲内であることが好ましく、50〜80%であることがより好ましい。基材層の厚みの割合が低すぎると、光学フィルムの機械的強度や耐熱性が十分でないことがある。基材層の厚みの割合が高すぎると、光学フィルムの耐湿性や、活性エネルギー線硬化性接着剤との親和性が十分でないことがある。
光学フィルムが複数の基材層を含む場合、「基材層の厚み」とは、複数の基材層の厚みの合計を意味する。光学フィルムが複数の表層を含む場合、表層の厚みは、互いに同一であっても異なってもよく、同一であることが好ましい。
光学フィルムの物性
23℃55%RHの環境下で、波長590nmにて測定される面内方向のレターデーションRoは0nm以上30nm以下であることが好ましく、0nm以上10nm以下であることがより好ましい。厚み方向のレターデーションRthは、0nm以上70nm以下であることが好ましく、0nm以上50nm以下であることがより好ましい。このようなレターデーションを有する光学フィルムは、例えば位相差調整機能を有しない保護フィルム(後述の図1の保護フィルムF1またはF4)として好適である。
レターデーションRoおよびRthは、それぞれ以下の式で定義される。
式(I) Ro=(nx−ny)×d
式(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d
(nx:フィルム面内の遅相軸方向xの屈折率、ny:フィルム面内において、遅相軸方向xに対して直交する方向yの屈折率、nz:フィルムの厚み方向zの屈折率、d:フィルムの厚み(nm))
レターデーションRoおよびRthは、例えば以下の方法によって測定することができる。
1)光学フィルムを23℃55%RHで調湿する。調湿後の光学フィルムの平均屈折率をアッベ屈折計などで測定する。
2)調湿後の光学フィルムに、当該フィルム表面の法線に平行に測定波長590nmの光を入射させたときのRoを、KOBRA21ADH、王子計測(株)にて測定する。
3)KOBRA21ADHにより、光学フィルムの面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)として、光学フィルムの表面の法線に対してθの角度(入射角(θ))から測定波長590nmの光を入射させたときのレターデーション値R(θ)を測定する。レターデーション値R(θ)の測定は、θが0°〜50°の範囲で、10°毎に6点行うことができる。光学フィルムの面内の遅相軸は、KOBRA21ADHにより確認することができる。
4)測定されたRoおよびR(θ)と、前述の平均屈折率と膜厚とから、KOBRA21ADHにより、nx、nyおよびnzを算出して、測定波長590nmでのRthを算出する。レターデーションの測定は、23℃55%RH条件下で行うことができる。
光学フィルムの面内遅相軸とフィルムの幅方向とのなす角θ1(配向角)は、好ましくは−1°〜+1°であり、さらに好ましくは−0.5°〜+0.5°である。光学フィルムの配向角θ1の測定は、自動複屈折計KOBRA−WR(王子計測機器)を用いて測定することができる。
光学フィルムの、JIS K−7136に準拠して測定される内部ヘイズは、0.01〜0.1であることが好ましい。光学フィルムの可視光透過率は、90%以上であることが好ましく、93%以上であることがより好ましい。
光学フィルムは、好ましくは液晶表示装置用の光学フィルムであり、その具体例には、偏光板保護フィルム、位相差フィルム(光学補償フィルム)、反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどが含まれ、より好ましくは反射防止フィルム、防眩フィルム、ハードコートフィルムなどである。
2.光学フィルムのロール体
本発明の光学フィルムのロール体は、長尺状の光学フィルムを、フィルムの幅方向に対して垂直方向(長さ方向)に巻き取ったものである。
図1は、光学フィルムのロール体の一例を示す模式図である。図1に示されるように、光学フィルムのロール体10は、巻芯12と、その周囲に、フィルムの長さ方向に巻き取られた長尺状の光学フィルム14とを有する。そして、ロール体10において、積層される光学フィルム14同士の密着を抑制するために、長尺状の光学フィルム14の幅方向両端部には、エンボス部16が形成されている。
図2は、光学フィルムのエンボス部近傍の一例を示す斜視図である。図2に示されるように、エンボス部16を構成する凸部16Aの高さD0は、好ましくは1.0μm以上10.0μm以下であり、より好ましくは2.0μm以上6.0μm以下である。凸部16Aの高さD0とは、フィルム面F(エンボスが形成されていない部分のフィルム面)から凸部16Aの頂点までの高さをいう。凸部16Aの高さが1.0μm未満であると、光学フィルム同士が密着しやすいため、好ましくない。一方、凸部16Aの高さが大きすぎると、ロール体の幅方向中央部がたわみやすく、光学フィルムとしての平面性が保ちにくい。
凸部16Aの幅wは、0.05〜5mm程度としうる。凸部16Aの幅wとは、エンボス部16の断面において、凸部16Aが、フィルム面Fと交わる2点間の距離として表される。凸部16Aと凸部16Aの間隔bは、0.1〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。凸部16Aと凸部16Aの間隔bは、エンボス部16の断面において、2つの凸部16Aが、それぞれフィルム面Fと交わる点同士の距離で表される。
エンボス部16の幅Wは、光学フィルムの幅に対して0.12〜2.1%の範囲であることが好ましい。具体的には、エンボス部16の幅Wは、光学フィルムの幅の大きさにもよるが、5〜25mmとし;好ましくは10〜20mmとしうる。エンボス部16の幅Wが大きすぎると、光学フィルムとして使用できる面積が少なくなる。一方、エンボス部16の幅Wが小さすぎると、光学フィルム同士が密着しやすい。
本発明の光学フィルムは、(メタ)アクリル樹脂を主成分とする表層上にエンボス加工が施される。しかしながら、(メタ)アクリル樹脂を主成分とする表層の硬度が低いため、表層に形成されたエンボス部の強度が低くなりやすい。それにより、光学フィルムのロール体において、巻芯近傍のフィルムのエンボス部の凸部が、積層される光学フィルムの重みによってつぶれやすい。エンボス部の凸部がつぶれると、積層される光学フィルム同士が密着しやすくなり;当該密着部分において、光学フィルムに含まれる添加剤(例えば可塑剤)が染み出しやすくなる。添加剤が染み出すと、光学フィルムの表面に、例えば活性エネルギー線硬化性接着剤やハードコート層用溶液などを塗布する際に、塗布ムラを生じやすく、加工性が低下しやすい。
そこで本発明では、エンボス加工が施される表層の硬度が低くても、つぶれにくいエンボス部を有すること;即ち、強度(弾性率)が高いエンボス部を有することが好ましい。具体的には、以下の方法で測定されるエンボス部の凸部の耐つぶれ率が、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。
エンボス部の凸部の耐つぶれ率は、以下の方法で測定することができる。図3および4は、エンボス部の凸部の耐つぶれ率の測定方法の一例を示す部分斜視図である。
1)光学フィルム14のエンボス部16を含む領域を5cm角に切り出して、サンプルフィルム14Aとする。このサンプルフィルム14Aを、定圧厚さ測定機RG−02(株式会社テクロック)のステージ15上に配置する。そして、定圧厚み測定機の測定棒の、直径5mmの円形状の先端部をサンプルフィルムのエンボス部上に載せて、10gの初期荷重を加えた状態でエンボス部の凸部の高さD
0を測定する(図3参照)。
2)次いで、厚み測定機の測定棒18Aの先端部に1kgの荷重がかかるように、測定棒18A上に分銅18Bを配置する(図4参照)。そして、前述と同様に、光学フィルムのエンボス部上に、直径5mmの円領域に1kgの荷重を加えた状態で、23℃55%RH下において10分間放置する。
3)その後、分銅を除去せずに、1kgの荷重を加えた状態のままサンプルフィルム14Aのエンボス部の凸部の高さDを測定する。
4)得られたD
0とDの値を、それぞれ下記式に当てはめて、耐つぶれ率を算出する。
エンボス部の凸部の耐つぶれ率の調整は、エンボス加工条件;1)エンボスロールの表面温度、2)バックロールの材質、3)フィルムの搬送速度、4)バックロールの表面温度のうち少なくとも二以上を組み合わせて調整することができる。なかでも、1)エンボスロールの表面温度と、2)バックロールの材質と、3)フィルムの搬送速度を調整することがより好ましい。エンボス部の凸部の耐つぶれ率を高めるためには、例えば1)エンボスロールの表面温度を高くし、2)バックロールの材質を金属製とし、3)フィルムの搬送速度を低くすることが好ましい。
本発明のロール体における光学フィルムの巻長は、通常、1500m以上8000m以下であり、好ましくは2000m以上6000m以下であり、より好ましくは3800m以上6000m以下である。本発明のロール体における巻芯の径は、100mm〜250mm程度としうる。本発明のロール体における光学フィルムの幅は、1.2〜4m程度であり、好ましくは1.2〜2.5m程度でありうる。
本発明によれば、光学フィルムの幅方向両端部に、強度の高いエンボス部を有する。そのため、巻長が大きい光学フィルムのロール体においても、巻芯近傍の光学フィルムのエンボス部の凸部が、積層される光学フィルムの重みによってつぶされにくくすることができる。それにより、光学フィルム同士の密着;それによる添加剤の染み出しを抑制できる。
光学フィルムのロール体を、防湿性を有する包装材で包装して包装体とし、保存することが好ましい。包装材は、シートまたは袋でありうる。保存時の熱や湿度の影響による、光学フィルムの性能低下を低減するためである。防湿性を有する包装材は、例えばポリエステルやポリエチレンなどの基材上にアルミ蒸着層を形成したシートまたは袋などでありうる。包装材は、多重(好ましくは2重)にすることが好ましい。包装材を多重(好ましくは2重)にした際は、各包装材の材質は、同一であっても異なっていてもよい。包装体の開口部は、ゴムやシールなどの封止部材で封止されていることが好ましい。
図5Aは、包装体の外観の一例を示す斜視図であり;図5Bは、図5Aの包装体の断面図である。図5Bに示されるように、包装体100は、ロール体110と、それを包装する内側包装材130aと、さらにそれを包装する外側包装材130bと、内側包装材130aと外側包装材130b(合わせて包装材130)の開口部をそれぞれ封止する封止部材150aと150bとを有する。
ロール体110は、巻芯111と、それに巻きとられた長尺状の光学フィルム113とを有する。内側包装材130aは、例えばアルミ蒸着シート/アルミ蒸着層/PEとし;外側包装材130bは、例えばポリエチレンシートとしうる。封止部材150aおよび150bは、例えば接着テープ(日東PPテープ、ニチバンセロテープ(登録商標))などを用いることができる。
3.光学フィルムのロール体の製造方法
本発明の光学フィルムのロール体は、少なくとも溶液共流延法または溶融共流延法;面状が良好な光学フィルムが得られやすいことから、好ましくは溶液共流延法によって光学フィルムを得る工程を含む。
即ち、本発明の光学フィルムのロール体は、1)セルロースエステルと有機溶媒とを含有する基材層用ドープと、(メタ)アクリル樹脂と有機溶媒とを含有する表層用ドープとを準備する工程;2)前記基材層用ドープと前記表層用ドープとを、流延支持体上に同時または逐次に積層しながら流延する工程;3)積層された前記基材層用ドープと前記表層用ドープに含まれる有機溶媒を除去して、積層物を得る工程;4)前記積層物を延伸して、基材層と、前記基材層の少なくとも一方の面上に配置された表層とを含む光学フィルムを得る工程;5)前記光学フィルムの前記表層上の幅方向両端部にエンボス部を形成する工程を経て製造されることが好ましい。
1)ドープを準備する工程
セルロースエステルや、必要に応じて添加剤などを有機溶媒に溶解させて、セルロースエステルを主成分とする基材層用ドープAを得る。同様に、(メタ)アクリル樹脂や、必要に応じて添加剤などを有機溶媒に溶解させて、(メタ)アクリル樹脂を主成分とする表層用ドープBを得る。
各成分の有機溶媒への溶解は、室温溶解法、冷却溶解法または高温溶解方法で行うことができる。セルロースエステルの有機溶媒への溶解方法は、例えば特開平5−163301号、特開昭61−106628号、特開昭58−127737号、特開平9−95544号、特開平10−95854号、特開平10−45950号、特開2000−53784号、特開平11−322946号、特開平11−322947号、特開平2−276830号、特開2000−273239号、特開平11−71463号、特開平04−259511号、特開2000−273184号、特開平11−323017号、特開平11−302388号の各公報などに記載されている。特に、非塩素系溶媒への溶解は、前記の公技番号2001−1745号の22〜25頁に記載された方法で行うことができる。高温で溶解する場合は、使用する有機溶媒の沸点以上かつ加圧状態で行うことが好ましい。
得られたドープは、必要に応じて溶液濃縮および濾過が実施されうる。溶液濃縮および濾過方法は、公技番号2001−1745号の25頁に詳細に記載されている。
(有機溶媒)
ドープの調製に用いられる有機溶媒は、従来公知の有機溶媒であってよく、例えば溶解度パラメーターで17〜22の範囲ものが好ましい。溶解度パラメーターは、例えばJ.Brandrup、E.H等の「PolymerHandbook(4th.edition)」、VII/671〜VII/714に記載の内容のものを表す。低級脂肪族炭化水素の塩化物、低級脂肪族アルコール、炭素原子数3〜12までのケトン、炭素原子数3〜12のエステル、炭素原子数3〜12のエーテル、炭素原子数5〜8の脂肪族炭化水素類、炭素数6〜12の芳香族炭化水素類、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)等が挙げられる。
有機溶媒は、一種類で用いられてもよいが、二種類以上を組み合わせてもよい。二種類以上を組み合わせる場合、面状が良好な光学フィルムを安定に得るために、良溶剤と貧溶剤を混合して使用することが好ましい。良溶剤と貧溶剤の混合比率は、良溶剤が60〜99質量%であり、貧溶剤が40〜1質量%であることが好ましい。
良溶剤とは、使用する樹脂を単独で溶解するもの、貧溶剤とは使用する樹脂を単独で膨潤するかまたは溶解しないものをいう。良溶剤の例には、メチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類が含まれる。貧溶剤の例には、メタノール、エタノール、n−ブタノール、シクロヘキサン等が好ましく用いられる。
基材層用ドープAおよび表層用ドープBに含まれる貧溶媒は、流延支持体上でのドープの乾燥時間を短縮するためなどから、アルコールであることが好ましく、メタノールであることが好ましい。基材層用ドープAおよび表層用ドープBに含まれる有機溶媒のうちメタノールの含有割合は20〜35質量%とすることができ、好ましくは21〜35質量%、より好ましくは25〜30質量%としうる。
(ドープの固形分濃度)
基材層用ドープAおよび表層用ドープBの固形分濃度(ドープを乾燥した後、固体となる成分の濃度)は、樹脂の分子量に応じて適切に設定されうる。溶液流延製膜を行うのに適切な粘度のドープを得るためには、固形分濃度が16〜30質量%であることが好ましく、18〜25質量%であることがより好ましい。
共流延製膜にて良好な面状のフィルムを得るためには、基材層用ドープAと表層用ドープBの固形分濃度が同程度であることが好ましい。表層用ドープBと基材層用ドープAの固形分濃度の差が10質量%以内であることが好ましく、5質量%以内であることがより好ましい。
即ち、表層用ドープBの固形分濃度は、16〜30質量%であり、かつ基材層用ドープAの固形分濃度との差が10質量%以下であることが好ましい。
(ドープの複素粘度)
基材層用ドープAおよび表層用ドープBの固形分濃度の複素粘度は、いずれも10〜80Pa・s以下であることが好ましく、20〜80Pa・sであることがより好ましく、25〜70Pasであることがさらに好ましい。複素粘度を上記範囲とすることで、溶液流延適性がより向上しうる。ドープの複素粘度とは、溶液剪断レオメータ測定によって測定される粘度をいう。
粘度の測定は、次のようにして行うことができる。試料溶液1mLをレオメーター(CLS 500)にセットし、直径4cm/2°のSteel Cone(共にTA Instrumennts社製)を用いて粘度を測定する。
試料溶液はあらかじめ測定開始温度にて液温一定となるまで保温した後に、測定を開始する。試料溶液の温度は、ドープを流延時の温度であればよく、好ましくは−5〜70℃であり、より好ましくは−5〜35℃である。
基材層用ドープAの粘度と、表層用ドープBの粘度とは異なっていてもよく、表層用ドープBの粘度が基材層用ドープAの粘度よりも小さいことが好ましい。中でも、基材層用ドープAおよび表層用ドープBの複素粘度が、いずれも10〜80Pa・s以下であり、かつ表層用ドープBの複素粘度が、基材層用ドープAの複素粘度よりも大きいことが、製膜後のフィルム面状を改善する観点から好ましい。
2)同時または逐次に積層しながら流延する工程
基材層用ドープAと表層用ドープBとを、流延支持体上に同時または逐次に積層しながら流延する。
基材層用ドープAと表層用ドープBの共流延は、公知の共流延方法で行うことができる。例えば、流延支持体の進行方向に間隔を置いて設けた複数の流延口から各ドープをそれぞれ逐次流延させて積層させてもよく、例えば特開昭61−158414号、特開平1−122419号、特開平11−198285号の各公報などに記載の方法が適用できる。また、2つの流延口からドープを同時に流延して積層させてもよく、例えば特公昭60−27562号、特開昭61−94724号、特開昭61−947245号、特開昭61−104813号、特開昭61−158413号、特開平6−134933号の各公報に記載の方法を適用できる。
例えば、表層/基材層/表層の3層構造を有する光学フィルムを得る場合、流延支持体側から順に、表層用ドープB/基材層用ドープA/表層用ドープBを共流延することができる。一つの積層物中の複数の表層用ドープBは、組成が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
流延支持体は、特に制限はないが、ドラムまたはバンドであることが好ましい。支持体の表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延及び乾燥方法については、米国特許第2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許第640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
基材層ドープAと表層用ドープBが流延される流延支持体の表面温度は、5℃以下であることが好ましく、−30〜5℃であることがより好ましく、−10〜2℃であることがさらに好ましい。
3)ドープに含まれる有機溶媒を除去して、積層物を得る工程
流延された基材層ドープAと表層用ドープBを、前述のように温調板で加熱して乾燥させてもよいし;2秒以上風に当てて乾燥させてもよい。得られた積層物を流延支持体から剥ぎ取り、100℃から160℃まで逐次温度を変えながら高温風で乾燥させて残留溶媒を蒸発させることもできる。この乾燥方法は、特公平5−17844号公報に記載されている。
4)積層物を延伸する工程
前述の積層物を延伸して、セルロースエステルを主成分とする基材層と(メタ)アクリル樹脂を主成分とする表層とを有する光学フィルムを得る。このように積層物を延伸することで、積層物の引張弾性率を高めることができ、表面硬度を高くすることができる。
積層物の延伸開始時の残留溶媒量は、1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましく、3〜20質量%であることがさらに好ましい。残留溶媒量が1質量%未満である積層物を延伸すると、延伸が困難になるだけでなく、フィルムが破断する場合があり好ましくない。残留溶媒量が50質量%を超えて延伸した場合、弾性率増加の効果が小さくなってしまい、十分な表面硬度が得られない。
なお、残留溶媒量は下記の式で表される。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mは積層物の任意時点での質量、NはMを測定した積層物を110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
延伸は、搬送方向(MD方向)、幅方向(TD方向)、斜め方向またはこれらを組み合わせて行うことができる。得られるフィルムのRoを小さくし、Rthを大きくするためには、互いに直交する2軸方向;例えば搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)の両方に延伸することが好ましい。
2軸延伸は、例えば2方向に同時に延伸してもよいし、逐次に延伸してもよい。逐次に延伸する場合、延伸ごとに延伸温度を変更してもよい。
同時2軸延伸する場合、延伸温度は110℃〜190℃であることが好ましく、120℃〜150℃であることがより好ましく、130℃〜150℃であることがさらに好ましい。同時2軸延伸することで、ヘイズはある程度高くなりやすいが、必要なリターデーション値を効果的に高めることができる。
逐次2軸延伸する場合、搬送方向(MD方向)に延伸した後、幅方向(TD方向)に延伸することが好ましい。延伸温度は、前述と同様としうる。
延伸倍率は、搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)とを合わせて1.1〜4.0倍となる範囲で行うことが好ましい。搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)とを合わせた延伸倍率とは、搬送方向(MD方向)の延伸倍率と幅方向(TD方向)の延伸倍率の積を意味する。例えば、搬送方向(MD方向)に2.0倍延伸し、幅方向(TD方向)に1.5倍延伸したとき、搬送方向(MD方向)と幅方向(TD方向)とを合わせた延伸倍率は3.0倍である。
具体的には、幅方向(TD方向)の延伸倍率は、1.05〜1.5倍であることが好ましく、搬送方向(MD方向)の延伸倍率は、1.01〜1.5倍であることが好ましい。
搬送方向(MD方向)の延伸は、ニップロールを用いて行うことが好ましく、幅方向(TD方向)の延伸は、テンターで行うことが好ましい。
乾燥と延伸とを兼ねると、工程を短縮できるため好ましい。延伸工程における延伸温度は、110〜190℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましい。延伸温度が120℃以上であると、得られるフィルムのヘイズの増大を抑制しやすい。延伸温度が150℃以下であると、得られるフィルムの光学発現性や弾性率を高めることができ、好ましい。積層物の温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、可塑剤として揮散しやすい低分子可塑剤を用いる場合は、室温(15℃)〜145℃の範囲が好ましい。
光学フィルムの製造工程でのフィルムの搬送速度は、60〜200m/分であることが好ましく、80〜150m/分であることがより好ましい。フィルムの搬送速度が低すぎると、生産性が低下しやすい。フィルムの搬送速度が高すぎると、例えばフィルムが破断しやすい。後述するエンボス部を形成する工程は、光学フィルムを一旦巻き取ってロール体にした後、該ロール体から巻き出して行ってもよいし;光学フィルムを巻き取らずに、そのまま行ってもよい。光学フィルムを一旦巻き取ってロール体にした後、該ロール体から巻き出してエンボス部を形成する工程を行う場合、エンボス部を形成する工程でのフィルムの搬送速度は、光学フィルムの製造工程でのフィルムの搬送速度と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
5)エンボス部を形成する工程
得られた光学フィルムの、(メタ)アクリル樹脂を主成分とする表層上にエンボス加工を施す。図6は、エンボス加工装置20の一例を示す模式図である。図6に示されるように、エンボス加工装置は、エンボスロール22と、光学フィルム14を介してエンボスロール22と対向配置されたバックロール24とを有する。
バックロール24の材質は、エンボス部が形成されたフィルムを均一に冷却させるためなどから、金属製であることが好ましい。金属の種類は、例えばSUS、ステンレス、アルミニウム、チタン、硬質クロムなどでありうる。金属製のバックロールは、例えばゴム製、プラスチック製、セラミック製のバックロールよりも、放熱性が高く、フィルムを均一に冷却しやすいため、(メタ)アクリル樹脂を均一に結晶化させやすく、高い強度(高い弾性率)を有するエンボス部を形成することができる。
エンボスロール22とバックロール24との間のクリアランスは、1μm〜30μm程度とし、好ましくは1〜15μm程度としうる。エンボスロール22とバックロール24とによるニップ圧は、100〜10000Pa程度としうる。
そして、エンボスロール22とバックロール24とで、光学フィルム14の幅方向両端部をニップして、フィルムの幅方向両端部にエンボス加工を施す。
エンボスロール22の表面温度は、150〜250℃とすることが好ましい。エンボスロール22の表面温度が150℃未満であると、フィルムを十分に溶融させることができないため、冷却しても(メタ)アクリル樹脂を十分に結晶化させにくく、強度の高いエンボス部を形成しにくい。一方、エンボスロールの表面温度が250℃超であると、フィルムが溶融しすぎて、フィルムの溶融物がエンボスロールに貼り付きやすい。エンボスロール22のロール径は、30〜60cm程度としうる。
バックロール24の表面温度は、エンボスロール22の表面温度にもよるが、30〜100℃とすることが好ましく、40〜80℃とすることがより好ましい。バックロールの表面温度が30℃未満であると、フィルムが急速に冷却されすぎるため、(メタ)アクリル樹脂を均一に結晶化させにくく、弾性率の高いエンボス部が得られにくい。一方、バックロールの表面温度が100℃超であると、フィルムに含まれる(メタ)アクリル樹脂を冷却しにくいことから、結晶化させにくいだけでなく、フィルムが熱膨張して、エンボス部付近のフィルムの表裏面が波打ちやすい。エンボス部付近のフィルムの表裏面の波打ちが生じると、フィルム同士が貼りつきやすく、フィルムが裂けやすくなる。
エンボス加工時のフィルムの搬送速度は、40〜200m/分であることが好ましく、60〜130m/分であることがより好ましい。フィルムの搬送速度が40m/分未満であると、生産性が低下しやすい。一方、フィルムの搬送速度が200m/分超であると、エンボスロールの圧力や、エンボスロールの熱がフィルムに均一に伝わりにくい。それにより、表層中の(メタ)アクリル樹脂を均一に結晶化させにくく、強度の高いエンボス部を形成しにくい。
つまり、つぶれにくいエンボス部を形成するためには、1)エンボスロールで(メタ)アクリル樹脂を主成分として含む表層を十分に溶融させて、2)バックロールで溶融した(メタ)アクリル樹脂をゆっくりと冷却して結晶化させることが重要と考えられる。そのためには、1)エンボスロールの表面温度、2)バックロールの材質、3)フィルムの搬送速度、4)バックロールの表面温度のうち少なくとも二以上を組み合わせて調整することが好ましい。なかでも、1)エンボスロールの表面温度、2)バックロールの材質、および3)フィルムの搬送速度を、それぞれ前述の範囲に調整することが好ましい。
得られた長尺状の光学フィルムを、巻き取り機を用いて、フィルムの長さ方向(幅方向に対して垂直方向)に巻き取る。巻き取り方法は、特に制限されず、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法などでありうる。光学フィルムを巻き取る際の、巻き取り張力は、50〜170N程度としうる。
4.偏光板
本発明の偏光板は、偏光子と、その少なくとも一方の面に配置され、本発明の光学フィルムのロール体から得られる光学フィルムとを含む。本発明の光学フィルムのロール体から得られる光学フィルムは、エンボス部がスリット除去されて得られる光学フィルムである。光学フィルムは、偏光子上に直接配置されてもよいし、他のフィルムまたは層を介して配置されてもよい。
偏光子は、一定方向の偏波面の光のみを通過させる素子である。偏光子の代表的な例は、ポリビニルアルコール系偏光フィルムであり、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を染色させたものと、二色性染料を染色させたものと、がある。
偏光子は、ポリビニルアルコールフィルムを一軸延伸した後、染色するか;あるいはポリビニルアルコールフィルムを染色した後、一軸延伸して、好ましくはホウ素化合物で耐久性処理をさらに行って得ることができる。偏光子の膜厚は、5〜30μmの範囲内が好ましく、5〜15μmの範囲内であることがより好ましい。
ポリビニルアルコールフィルムとしては、特開2003−248123号公報、特開2003−342322号公報等に記載のエチレン単位の含有量1〜4モル%、重合度2000〜4000、ケン化度99.0〜99.99モル%のエチレン変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。
偏光子の一方の面に本発明の光学フィルムが配置される場合、偏光子の他方の面には位相差フィルムが配置されてもよい。位相差フィルムのレターデーションは、組み合わされる液晶セルの種類に応じて設定されうる。例えば、位相差フィルムの、23℃RH55%下、波長590nmで測定される面内リターデーションRo(590)は30〜150nmの範囲であることが好ましく、厚さ方向のリターデーションRth(590)は70〜300nmの範囲であることが好ましい。レターデーションが上記範囲である位相差フィルムは、例えばVA型液晶セルや、IPS型液晶セルなどに好ましく用いることができる。
光学フィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル系接着剤や、活性エネルギー線硬化性接着剤などを用いて行うことができる。得られる接着剤層の弾性率が高く、偏光板の変形を抑制しやすい点などから、活性エネルギー線硬化性接着剤を用いることが好ましい。
活性エネルギー線硬化性接着剤は、硬化性化合物と、光重合開始剤と、必要に応じて光増感剤や光増感助剤などをさらに含みうる。
硬化性化合物は、(メタ)アクリル化合物などのラジカル重合性化合物であってもよいし、エポキシ化合物などのカチオン重合性化合物であってもよい。エポキシ化合物は、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物または脂肪族エポキシ化合物などであってよく、好ましくは脂環式エポキシ化合物である。エポキシ化合物は、一種類であっても、二種類以上であってもよい。例えば、脂環式エポキシ化合物と脂環構造を有しない脂肪族エポキシ化合物とを組み合わせてもよい。
脂環式エポキシ化合物の例には、芳香族エポキシ化合物の水添物、シクロヘキサン系、シクロヘキシルメチルエステル系、シシクロヘキシルメチルエーテル系のエポキシ化合物などが含まれる。なかでも、入手が容易で硬化物の貯蔵弾性率を高めやすいことから、下記化合物(ep−1)〜(ep−11)が好ましい。
上記式中、R1〜R24は、各々独立に水素原子または炭素原子数1〜6のアルキル基を表す。炭素原子数1〜6のアルキル基は、直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環式環を有していてもよい。
Y8は、酸素原子または炭素原子数1〜20のアルカンジイル基を表す。Y1〜Y7は、それぞれ独立に直鎖でもよく、分岐を有していてもよく、脂環式環を有していてもよい炭素原子数1〜20のアルカンジイル基を表す。n、p、qおよびrは、それぞれ独立に0〜20の数を表す。
光重合開始剤は、硬化性化合物の種類に応じて選択され、光ラジカル重合開始剤または光カチオン重合開始剤でありうる。光ラジカル重合開始剤の例には、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトンなどのアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテルなどのベンゾインエーテル系化合物;3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物などが含まれる。光カチオン重合開始剤の例には、アリールジアゾニウム塩、アリールスルホニウム塩(例えばトリアリールスルホニウム塩など)、アリールヨードニウム塩、アレン−イオン錯体などが含まれる。光重合開始剤の含有量は、硬化性化合物100質量部に対して通常0.1〜10質量部程度であり、好ましくは0.5〜5質量部としうる。
光増感剤は、9,10−ジメトキシアントラセン、9,10−ジエトキシアントラセン、9,10−ジブトキシアントラセンなどのアントラセン系化合物が含まれる。光増感剤は、活性エネルギー線硬化性接着剤100質量部に対して0.1質量部以上2質量部以下としうる。
光増感助剤は、1,4−ジメトキシナフタレン、1,4−ジエトキシナフタレンなどのナフタレン系光増感助剤が含まれる。光増感助剤は、活性エネルギー線硬化性接着剤100質量部に対して0.1質量部以上10質量部以下としうる。
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いた偏光板の製造方法は、例えば1)光学フィルムの偏光子を接着する面を易接着処理する前処理工程、2)偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、下記の活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する接着剤塗布工程、3)得られた接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとを貼り合せる貼合工程、および4)接着剤層を介して偏光子と光学フィルムとが貼り合わされた状態で接着剤層を硬化させる硬化工程を含みうる。1)の前処理工程は、必要に応じて実施すればよい。
(前処理工程)
前処理工程では、光学フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。偏光子の両面にそれぞれ光学フィルムを接着させる場合は、それぞれの光学フィルムの、偏光子との接着面に易接着処理を行う。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
(接着剤塗布工程)
接着剤塗布工程では、偏光子と光学フィルムとの接着面のうち少なくとも一方に、上記活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する。偏光子または光学フィルムの表面に直接活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特別な限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と光学フィルムの間に、活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた後、ロール等で加圧して均一に押し広げる方法も利用できる。
(貼合工程)
こうして活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した後、貼合工程に供される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子の表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合、そこに光学フィルムが重ね合わされる。先の塗布工程で光学フィルムの表面に活性エネルギー線硬化性接着剤を塗布した場合は、そこに偏光子が重ね合わされる。また、偏光子と光学フィルムの間に活性エネルギー線硬化性接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子と光学フィルムとが重ね合わされる。偏光子の両面に光学フィルムを接着する場合であって、両面とも活性エネルギー線硬化性接着剤を用いる場合は、偏光子の両面にそれぞれ、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して光学フィルムが重ね合わされる。そして通常は、この状態で両面(偏光子の片面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、偏光子側と光学フィルム側、また偏光子の両面に光学フィルムを重ね合わせた場合は、その両面の光学フィルム側)からロール等で挟んで加圧することになる。ロールの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置されるロールは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
(硬化工程)
硬化工程では、未硬化の活性エネルギー線硬化性接着剤に活性エネルギー線を照射して、エポキシ化合物やオキセタン化合物を含む接着剤層を硬化させる。それにより、活性エネルギー線硬化性接着剤を介して重ね合わせた偏光子と光学フィルムとを接着させる。偏光子の片面に光学フィルムを貼合する場合、活性エネルギー線は、偏光子側または光学フィルム側のいずれから照射してもよい。また、偏光子の両面に光学フィルムを貼合する場合、偏光子の両面にそれぞれ活性エネルギー線硬化性接着剤を介して光学フィルムを重ね合わせた状態で、いずれか一方の光学フィルム側から活性エネルギー線を照射し、両面の活性エネルギー線硬化性接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
活性エネルギー線としては、可視光線、紫外線、X線、電子線等を用いることができ、取扱いが容易で硬化速度も十分であることから、一般的には、電子線または紫外線が好ましく用いられる。
電子線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。例えば、電子線照射は、加速電圧が好ましくは5〜300kVの範囲内であり、さらに好ましくは10〜250kVの範囲内である。加速電圧が5kV未満の場合、電子線が接着剤まで届かず硬化不足となるおそれがあり、加速電圧が300kVを超えると、試料を通る浸透力が強すぎて電子線が跳ね返り、透明光学フィルムや偏光子にダメージを与えるおそれがある。照射線量としては、5〜100kGyの範囲内、さらに好ましくは10〜75kGyの範囲内である。照射線量が5kGy未満の場合は、接着剤が硬化不足となり、100kGyを超えると、透明光学フィルムや偏光子にダメージを与え、機械的強度の低下や黄変を生じ、所定の光学特性を得ることができない。
紫外線の照射条件は、前記接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50〜1500mJ/cm2の範囲内であることが好ましく、100〜500mJ/cm2の範囲内であるのがさらに好ましい。
以上のようにして得られた偏光板において、接着剤層の厚さは、特に限定されないが、通常0.01〜10μmの範囲内であり、好ましくは0.5〜5μmの範囲内である。
5.液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、液晶セルと、それを挟持する一対の偏光板とを有する。そして、一対の偏光板のうち少なくとも一方が、本発明の光学フィルムのロール体から得られる光学フィルムを含む。
図7は、液晶表示装置の基本的な構成の一例を示す模式図である。図7に示されるように、液晶表示装置30は、液晶セル40と、それを挟持する第一の偏光板50および第二の偏光板60と、バックライト70とを有する。
液晶セル40は、例えばSTN、TN、OCB、HAN、VA(MVA、PVA)、IPS等の種々の表示方式のものが提案されている。高いコントラストを得るためには、VA(MVA、PVA)方式が好ましい。
VA方式の液晶セルは、一対の透明基板と、それらの間に挟持された液晶層とを有する。
一対の透明基板のうち、一方の透明基板には、液晶分子に電圧を印加するための画素電極が配置される。対向電極は、(画素電極が配置された)前記一方の透明基板に配置されてもよいし、他方の透明基板に配置されてもよく、開口率を高めるためには、(画素電極が配置された)前記一方の透明基板に配置されることが好ましい。
液晶層は、負または正の誘電率異方性を有する液晶分子を含む。液晶分子は、透明基板の液晶層側の面に設けられた配向膜の配向規制力により、電圧無印加時(画素電極と対向電極との間に電界が生じていない時)には、液晶分子の長軸が、透明基板の表面に対して略垂直となるように配向している。
このように構成された液晶セルでは、画素電極に画像信号(電圧)を印加することで、画素電極と対向電極との間に電界を生じさせる。これにより、透明基板の表面に対して垂直に初期配向している液晶分子を、その長軸が基板面に対して水平方向となるように配向させる。このように、液晶層を駆動し、各副画素の透過率および反射率を変化させて画像表示を行う。
第一の偏光板50は、視認側に配置されており、第一の偏光子52と、第一の偏光子52の視認側の面に配置された保護フィルム54(F1)と、第一の偏光子52の液晶セル側の面に配置された保護フィルム56(F2)とを有する。第二の偏光板60は、バックライト70側に配置されており、第二の偏光子62と、第二の偏光子62の液晶セル側の面に配置された保護フィルム64(F3)と、第二の偏光子62のバックライト側の面に配置された保護フィルム66(F4)とを有する。保護フィルム56(F2)と64(F3)の一方は、必要に応じて省略されてもよい。
保護フィルム54(F1)、56(F2)、64(F3)および66(F4)のうち、保護フィルム54(F1)と66(F4)の少なくとも一方を、本発明の光学フィルムのロール体から得られる光学フィルムとすることが好ましい。
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
3)添加剤
化合物A:SP値=12.8
化合物B:SP値=11.4
化合物1〜4:いずれも平均置換度7.0
PMMA:ポリメチルメタクリレート(SP値=8.7)
ポリエスチレン(SP値=9.1)
化合物のSP値は、参考文献:コーティングの基礎科学 原田勇次著 槇書店(1977)のp54〜57に記載の計算方法に基づいて算出した。
2.ドープの調製
表2のセルロースアシレート樹脂、表3の(メタ)アクリル樹脂、表4のポリエステル化合物および溶剤などの各成分を、表5に示される組成となるように混合して、ドープA1〜A7およびC1〜C22をそれぞれ調製した。溶剤組成は、ジクロロメタン500質量部に対してメタノール50質量部とした。表5におけるドープの溶剤濃度は、ドープの全質量に対する溶剤の質量(質量%)を表す。
3.光学フィルムの製造
(実施例1)
表5に示されるドープA1およびC1を、走行するステンレスバンド上に、流延ダイからドープA1/ドープC1/ドープA1の順に積層されるように同時多層流延を行った。流延させるドープの温度を35℃、ステンレスバンドの温度を15℃とし、流延スピードは50m/分、流延幅は1.8mとした。ステンレスバンド上のドープ中の溶剤を、残留溶剤量が約100%になるまで蒸発除去させた後、得られた膜状物をステンレスバンドから剥ぎ取った。
得られた膜状物を、35℃でさらに乾燥させた後、幅1.65mとなるようにスリットした。次いで、テンターにて160℃の熱風を当てつつ幅方向に30%延伸した後、搬送方向に30%延伸した。延伸開始時の膜状物の残留溶剤量は5%であった。
得られたフィルムを、乾燥装置にて多数のロールで搬送させながら125℃で15分間乾燥させた後、2.2m幅にスリットし、幅方向両端部に、凸部の高さが10μm、凸部の幅wが100μm、凸部同士の間隔が1000μmのエンボス部(エンボス部の幅W:15mm)を形成した。エンボス加工は、以下の条件で行った。
(エンボス加工条件)
エンボスロール
材質:ステンレス製
表面温度:200℃
バックロール
材質:ステンレス製
温度:60℃
フィルムの搬送速度:100m/分
搬送張力:120N/m
エンボスロールとバックロールとのクリアランス:27μm
エンボスロールとバックロールとによるニップ圧:150Pa
得られた幅2.2m、長さ3800m、厚み25μmの長尺状の光学フィルムを、長さ方向に巻き取って光学フィルムのロール体を得た。得られた光学フィルムは、A1層(表層)/C1層(基材層)/A1層(表層)の3層構造であり、その厚みは5μm/15μm/5μmであった。
(実施例1〜4、比較例1〜4)
層構成を表6に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例5〜15、比較例5〜6)
各層の厚み比を表10に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例16〜21)
ドープC1の種類(具体的にはドープC1に含まれるセルロースエステルの種類)を表6に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例22〜35)
ドープC1の種類(具体的にはドープC1に含まれる添加剤の種類)を表7に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例36〜41、比較例7〜8)
ドープA1の種類を表7に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例42〜48)
光学フィルムのロール体の巻き長を表12に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。
(実施例49〜62、比較例9〜14)
エンボス加工条件(搬送速度、バックロールの材質、エンボスロールの温度)を表8に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。なお、実施例49〜54および比較例9においては、一旦、製膜したフィルムをロール状に巻き取った後;巻き出してエンボス加工を行った。
(実施例63〜79)
延伸条件(幅方向延伸倍率、搬送方向延伸倍率、搬送速度)を表9に示されるように変更した以外は実施例1と同様にして光学フィルムのロール体を作製した。なお、実施例73〜79においては、一旦、製膜したフィルムをロール状に巻き取った後;巻き出してエンボス加工を行った。
得られたロール体を、前述の図5Aおよび図5Bに示されるように、2重の包装袋材で包装し、それぞれの開口部を輪ゴム(封止部材)で留めて、包装体とした。
内側の包装材:アルミ蒸着シート(PET(10μm)/アルミ蒸着層/PE(15μm)の積層シート
外側の包装材:ポリエチレンシート
得られた包装体を、23℃80%RH下で40時間保存した。一方、実施例2のロール体については、包装せずにそのまま保存した。その後、ロール体を袋から取り出して、以下の評価(耐つぶれ率、エンボス欠け、接着性)を行った。
[耐つぶれ率]
得られた光学フィルムのエンボス部が施された部分を切り取り、5cm角のサンプルフィルムを10枚準備した。サンプルフィルムを、定圧厚さ測定機RG−02(株式会社テクロック)のステージ上に配置した。そして、図4に示されるように、定圧厚み測定機の測定棒の、直径5mmの円形状の先端部をサンプルフィルムのエンボス部に載せて、10gの初期荷重を加えた状態でエンボス部の凸部の高さD0を測定した。
次いで、厚み測定機の測定先端部に1kgの荷重がかかるように、測定棒上に分銅を配置した。そして、前述と同様に、光学フィルムのエンボス部上に、直径5mmの円領域に1kgの荷重を加えた状態で、23℃55%RH下において10分間放置した。その後、分銅を除去せずに、1kgの荷重を加えた状態のままサンプルフィルムのエンボス部の凸部の高さDを測定した。得られた測定値を、それぞれ下記式に当てはめて、耐つぶれ率を算出した。
耐つぶれ率(%)=D/D0×100
同様の測定を、他の9枚のサンプルフィルムについても行い、耐つぶれ率を算出した。そして、10回の測定で得られた耐つぶれ率の平均値を求めた。
[エンボス欠け]
ロール状に巻き取られた光学フィルムのうち、巻芯に近い部分の光学フィルムのエンボス部分を光学顕微鏡にて10倍に拡大して、エンボス部の凸部の形状を観察した。そして、100個の四角形状の凸部のうち、端部の欠けが観察される凸部の数をカウントした。
◎:100個の凸部のいずれにおいても、端部の欠けは観察されなかった
○:100個の凸部中1〜2個の凸部で、端部の欠けが観察された
△:100個の凸部中3〜5個の凸部で、端部の欠けが観察された
×:100個の凸部中6個以上の凸部で、端部の欠けが観察された
[接着性]
1)偏光子の調製
厚さ30μmのポリビニルアルコールフィルムを、35℃の水で膨潤させた。得られたフィルムを、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5gおよび水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、さらにヨウ化カリウム3g、ホウ酸7.5g及び水100gからなる45℃の水溶液に浸漬した。得られたフィルムを、延伸温度55℃、延伸倍率5倍の条件で一軸延伸した。この一軸延伸フィルムを、水洗した後、乾燥させて、厚さ10μmの偏光子を得た。
2)活性エネルギー線硬化性接着剤の調製
下記成分を混合した後、脱泡して、活性エネルギー線硬化性接着剤を調製した。なお、トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートは、50%プロピレンカーボネート溶液として配合し、下記にはトリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェートの固形分量を表示した。
(活性エネルギー線硬化性接着剤の組成)
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート:45質量部
エポリードGT−301(ダイセル化学社製の脂環式エポキシ樹脂):40質量部
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル:15質量部
トリアリールスルホニウムヘキサフルオロホスフェート:2.3質量部
9,10−ジブトキシアントラセン:0.1質量部
1,4−ジエトキシナフタレン:2.0質量部
3)偏光板の作製
作製した光学フィルム上に、上記調製した活性エネルギー線硬化性接着剤を、マイクログラビアコーターを用いて乾燥厚みが5μmになるように塗布して、活性エネルギー線硬化性接着剤層を形成した。塗布は、グラビアローラ#300、回転速度140%/ライン速の条件で行った。
上記作製した偏光子の一方の面に、活性エネルギー線硬化性接着剤層が形成された光学フィルムを配置し偏光子/活性エネルギー線硬化性接着剤層/光学フィルムの積層物を得た。得られた積層物を、ローラ機で貼り合わせた。そして、貼り合わせた積層物の光学フィルム側から紫外線を照射して、活性エネルギー線硬化性接着剤層を硬化させて偏光板を得た。ライン速度は20m/min、積算光量が250mJ/cm2となるように紫外線を照射した。
作製した偏光板の光学フィルムを偏光子から剥がす操作を10回行い、光学フィルム/偏光子との接着界面を目視観察した。それにより、光学フィルム/偏光子の接着性を、下記の基準で評価した。
◎:10回とも、完全に剥離しない
○:10回とも完全には剥離しないが、一部剥離することがある
△:10回中1〜3回完全に剥離する
×:10回中4回以上完全に剥離する
実施例1〜21および比較例1〜6の光学フィルムの作製条件を表6に示し;ロール体の保存条件および評価結果を表10に示す。同様に、実施例22〜41および比較例7〜8の光学フィルムの作製条件を表7に示し;ロール体の保存条件および評価結果を表11に示す。実施例42〜62および比較例9〜14の光学フィルムの作製条件を表8に示し;ロール体の保存条件および評価結果を表12に示す。実施例63〜79の光学フィルムの作製条件を表9に示し;ロール体の保存条件および評価結果を表13に示す。
実施例1〜79の光学フィルムは、比較例1〜14の光学フィルムよりも、エンボス部の耐つぶれ率が40%以上と高く、エンボス形状も良好であり、かつUV接着性も良好であることがわかる。
なかでも、実施例16の光学フィルムは、基材層中のセルロースエステルのアセチル基置換度が低いため、フィルムが硬く、脆くなっており、裂けやすくなることがわかる。実施例21の光学フィルムは、基材層中のセルロースエステルのアセチル基置換度が高すぎるため、エンボス部の強度が高すぎて、エンボスの欠けが生じることがあった。実施例26の光学フィルムは、基材層中に脂肪族ジカルボン酸を構成成分とするポリエステル化合物を含むため、芳香族ジカルボン酸を構成成分とするポリエステル化合物を含む実施例25の光学フィルムよりも表層に染み出しやすいため、UV接着性が低いことがわかる。巻き長が小さい実施例42のロール体は、偏光板作製工程において、ロールの交換を頻繁に行う必要があり;実施例49の光学フィルムは、エンボス形成時のフィルムの搬送速度が小さいため、いずれも生産性がやや低いことがわかる。実施例24の光学フィルムは、基材層に含まれる添加剤のSP値が高すぎるため、当該添加剤が表層中に染み出しやすく、UV接着性が低いことがわかる。一方、実施例34の光学フィルムは、添加剤のSP値が低すぎるため、基材層内の添加剤が染み出し、染み出した添加剤の影響でUV接着性が劣化することがわかる。
比較例1および4の光学フィルムは、セルロースエステルを主成分とする層を含まないため、エンボス部の強度が低く、つぶれや欠けが生じやすいことがわかる。比較例2および3の光学フィルムは、少なくとも表層がセルロースエステルを主成分として含むため、UV接着性が低いことがわかる。比較例5の光学フィルムは膜厚が薄すぎるため、破断しやすく、取り扱いにくいだけでなく、エンボス部の強度が低いため、つぶれや欠けが生じやすいことがわかる。比較例6の光学フィルムは膜厚が厚すぎるため、UV接着性が低いことがわかる。これは、UV接着時に紫外線を光学フィルム側から当てたときに、紫外線のエネルギーが光学フィルム(主に基材層)で吸収され、光学フィルムと偏光子との接着界面まで十分に到達しなかったためと考えられる。比較例7の光学フィルムは、表層中の(メタ)アクリル樹脂の分子量が小さすぎるため、エンボス部の強度が低すぎて、つぶれや欠けが生じやすいことがわかる。比較例8の光学フィルムは、表層中の(メタ)アクリル樹脂の分子量が大きすぎるため、光学フィルムのヘイズが増大した。
比較例9の光学フィルムは、エンボス形成時のフィルムの搬送速度が大きすぎるため、エンボス部の強度が低いだけでなく、エンボス部を綺麗に形成できなかった。比較例10〜12の光学フィルムはエンボス形成時のバックロールの材質が樹脂であるため、熱が伝わりにくく、エンボス部の強度の低いことがわかる。比較例13の光学フィルムは、エンボスロールの温度が低いため、エンボス部の強度が低下することがわかる。比較例14の光学フィルムは、エンボスロールの温度が高いため、樹脂が溶融しすぎる状態でエンボス加工が行われるため、形状がくずれやすいことがわかる。また、高温により各層が溶融し、光学性能も低下した。