JP2014110566A - 立体音響装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヘッドフォンを用いることなく「ドライバーのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を与える。
【解決手段】運転座席αに座ったドライバーβの左右の耳元に、「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」によって「運転に有用な音情報」を与える。ドライバーβが運転座席αに座ることで、ドライバーβの左右の耳位置(超音波の照射位置)を特定できる。さらに、超音波発生用の右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの上方に設置することにより、「ドライバーβの耳元で再生した再生音」が「助手席や後部座席の人に直接音または反射音として聞こえる不具合」を防ぐことができ、周囲の人に対する再生音の音圧差を大きくできる。これにより、ヘッドフォンを用いることなく「ドライバーβのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を付与することができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、ヘッドフォンを装着することなく「特定の人のみ」に立体音響を付与する立体音響装置に関し、例えば、自動車の運転を行うドライバー(座席に座る人の一例)に音情報等を与える技術に用いて好適なものである。
人に立体音響を付与する立体音響装置として「通常のステレオ装置」が知られている。一般的に用いられる「通常のステレオ装置」は、左右離れた場所に設置したダイナミックスピーカから可聴周波数の音を発生させて、左右のダイナミックスピーカから離れた人に立体音響を生じさせる技術である。
しかし、「通常のステレオ装置」では、「隣りの人」にまで立体音響が付与されてしまい、「特定の人のみ」にポイント的に立体音響を付与することはできない。
この不具合を回避する手段として、ヘッドフィンが知られている。
しかし、ヘッドフォンは、他の音が聞こえ難くなるとともに、装着が煩わしく、装着感を嫌う人もいて、ヘッドフォンを用いない技術が望まれる。
また、自動車を運転するドライバーは、ヘッドフォンの装着が禁止されており、ドライバーには適用できない。
理解補助を目的として、背景技術をドライバーを例に説明する。
ドライバーに対して「運転に有用な音情報(ウィンカ作動音、車両の進行方向の歩行者の存在を知らせる注意喚起音、車線変更時に変更先の車両の存在を知らせる注意喚起音、車両のレーンはみ出しの可能性を知らせる注意喚起音、カーナビゲーションの案内音など)」を与えることが望まれる。
「運転に有用な音情報」は、ドライバーには有用であるが、他の乗員や乗客には不要な場合が多い。
このため、ドライバー以外の要望によって「運転に有用な音情報」を消すと、ドライバーは「運転に有用な音情報」を失ってしまう。
その具体的な例を説明する。
ドライバーは、ウィンカを操作した際、ウィンカ作動音(カチ、カチというウィンカのリレー音)を耳にすることで、ウィンカの出し忘れや、ウィンカの消し忘れを無意識または意識的に防止している。
しかるに、ドライバー以外の乗員にとっては、ウィンカ作動音は煩わしく感じる場合もあり、例えば深夜のバスの走行中では、ウィンカ作動音を就寝中の乗客に聞こえなくする要望がある。
ウィンカリレーを運転座席から離れた位置に搭載する等の対策ことで、ウィンカ作動音を無くすことができるが、ドライバーにとっては、ウィンカの出し忘れや、ウィンカの消し忘れを防ぐ安心感が無く、ドライバーの負担が増えてしまう。
そこで、ドライバーにだけ「運転に有用な音情報」を与える技術が望まれる。
特に、「運転に有用な音情報」には、「ウィンカ作動音」、「車両の進行方向の歩行者の存在を知らせる注意喚起音」、「車線変更時に変更先の車両の存在を知らせる注意喚起音」、「車両のレーンはみ出しの可能性を知らせる注意喚起音」、「カーナビゲーションの案内音」など、左右方向の区別がある場合が多い。
そこで、ドライバーだけに立体音響を用いて「運転に有用な音情報」を与える技術が望まれる。
特開平5−153687号公報
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ヘッドフォンを装着することなく「特定の人(ドライバー等)のみ」に立体音響を付与することのできる立体音響装置の提供にある。
本発明の立体音響装置は、「特定の人(立体音響を与える対象者)」を「座席に座った人」に特定している。座席に人が座ることで、左右の耳位置(頭部の位置と方向)を特定できる。これにより、左右のパラメトリックスピーカによって「座席に座った人」の左右の耳元で正確に再生音を再生できる。さらに、右スピーカおよび左スピーカを、座席に座った人の上方に配置している。このため、「座席に座った人の耳元で再生した再生音(パラメトリックスピーカによる直進性の強い再生音)」が、「近隣の人に直接または反射により到達する」のを抑えることができ、「座席に座った人のみ」に立体音響を付与することができる。
このように、本発明の立体音響装置は、座席に座った人の耳元で正確に再生音を再生し、近隣の人に再生音が及ばないため、ヘッドフォンを装着することなく「座席に座った人(特定の人)のみ」に立体音響を付与することができる。
(a)座席後方から見たスピーカ配置の説明図、(b)バイノーラル再生により人が認識する音像定位(仮想音源)の説明図である(実施例1)。 立体音響装置の構成図である(実施例1)。 「スピーカの配置仰角」の説明図である(実施例1)。 「スピーカの配置仰角」に対する「雑音の聴感音圧」の相違を示すグラフである(実施例1)。 「スピーカの配置仰角」に対する「7.7kHzの聴感音圧」の相違を示すグラフである(実施例1)。 モノラル時とステレオ時(スピーカが離れて配置された場合)における到達音圧の相違を示す説明図である(実施例1)。 「左右スピーカの間隔」に対する「ドライバ到達音圧と助手席到達音圧」の関係を示すグラフである(実施例1)。 モノラル時とステレオ時(スピーカが離れて配置された場合)における「ドライバ到達音圧と助手席到達音圧」の相違を示すグラフである(実施例2)。 モノラル時とステレオ時(スピーカが離れて配置された場合)における聴感音圧の相違を示すグラフである(実施例2)。
以下、発明を実施するための形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
以下の実施例は具体的な一例を示すものであって、本発明が実施例に限定されないことはいうまでもない。
[実施例1]
図1〜図7を参照して実施例1を説明する。
この実施例は、本発明を運転サポート装置に適用したものである。
この実施例の運転サポート装置は、自動車の運転座席αに座るドライバーβ(座席に座った人の一例)に「運転に有用な音情報(具体的な一例として、ウィンカ作動音)」を与えるものであり、ドライバーβに音像を立体定位させる立体音響装置を搭載する。
具体的に、この実施例の立体音響装置は、「ドライバーβのみ」に「ウィンカ作動音」を聞かせるものであり、
(i)右ウィンカを点滅させる際に「ウィンカ作動音をドライバーβの右方向に定位」させ、
(ii)左ウィンカを点滅させる際に「ウィンカ作動音をドライバーβの左方向に定位」させるものである。
ウィンカリレーは、リレー作動音(ウィンカ作動音)が直接乗員(ドライバーβや他の乗員)に聞こえないように設けられている。具体的には、車室内から離れた位置にウィンカリレーが搭載されたり、あるいはウィンカリレーが遮音材等で覆われることで、リレー作動音が直接乗員に聞こえないように設けられている。または、ウィンカリレーを車両が搭載しないものである。
立体音響装置の具体的な構成を、図2を参照して説明する。
立体音響装置は、
・バイノーラル録音された2チャンネルの「ウィンカ作動音信号(音源)」を記憶するメモリを搭載する再生用音源部1と、
・再生用音源部1の発生する右チャンネル用のオーディオ信号(ウィンカ作動音信号)を超音波変調してドライバーβの右耳へ向けて超音波を照射し、ドライバーβの右耳に直接的に再生音(右チャンネル用のウィンカ作動音)を発生させる右耳用パラメトリックスピーカ2と、
・再生用音源部1の発生する左チャンネル用のオーディオ信号(ウィンカ作動音信号)を超音波変調してドライバーβの左耳へ向けて超音波を照射し、ドライバーβの左耳に直接的に再生音(左チャンネル用のウィンカ作動音)を発生させる左耳用パラメトリックスピーカ3と、
を備えて構成される。
再生用音源部1は、
(i)右ウィンカが作動した際に、「右定位用のウィンカ作動音信号(ドライバーβの右方向で音像が定位するバイノーラル信号)」を発生し、
(ii)左ウィンカが作動した際に、「左定位用のウィンカ作動音信号(ドライバーβの左方向で音像が定位するバイノーラル信号)」を発生するものである。
バイノーラル録音は、人の頭部を模したダミーヘッドの左右の擬似耳内に配置した左右のマイクを用いて録音する2チャンネルの録音技術であり、一般的にはヘッドフォン装着者に立体音響を与えるための録音技術として知られるものである。
なお、この実施例におけるバイノーラル録音は、パラメトリックスピーカによりダミーヘッドに与えた再生音(ウィンカ作動音)を録音したものである(限定するものではない)。
右耳用パラメトリックスピーカ2は、
・ドライバーβの右耳へ向けて超音波を発生させる右スピーカR1と、
・再生用音源部1の発生する右チャンネル用のオーディオ信号(ウィンカ作動音信号)を超音波周波数に変調する右用超音波変調部R2と、
・右用超音波変調部R2で変調された変調信号によって右スピーカR1を駆動する右用パワーアンプR3(例えば、B級アンプあるいはD級アンプ等)と、
を備える。
同様に、左耳用パラメトリックスピーカ3は、
・ドライバーβの左耳へ向けて超音波を発生させる左スピーカL1と、
・再生用音源部1の発生する左チャンネル用のオーディオ信号(ウィンカ作動音信号)を超音波周波数に変調する左用超音波変調部L2と、
・左用超音波変調部L2で変調された変調信号によって左スピーカL1を駆動する左用パワーアンプL3(例えば、B級アンプあるいはD級アンプ等)と、
を備える。
右スピーカR1および左スピーカL1は、パラメトリックスピーカにおいて超音波を発生させる超音波発生手段であり、電気信号(アンプ駆動信号)を空気振動に変換して、人間の可聴帯域よりも高い周波数(20kHz以上)の空気振動を発生させる。
右スピーカR1および左スピーカL1に用いる具体的な超音波発生手段は限定するものではないが、具体的な一例としてこの実施例では、超音波の発生が可能な複数の圧電素子をアレイ状に集合配置したものである。
右スピーカR1は、運転座席αに座ったドライバーβの右耳に向けて超音波を放出し、左スピーカL1は、運転座席αに座ったドライバーβの左耳に向けて超音波を放出するものであり、右スピーカR1および左スピーカL1は、運転座席αに座ったドライバーβの頭部位置より上方に配置される。
具体的に、図1(a)に示すように、
(i)右スピーカR1は、超音波照射方向(超音波照射の中心軸)がドライバーβの右耳位置に向けられて車両の天井部に設置され、
(ii)左スピーカL1は、超音波照射方向(超音波照射の中心軸)がドライバーβの左耳位置に向けられて車両の天井部に設置されるものである。
なお、右スピーカR1および左スピーカL1からドライバーβの耳位置までの距離Hは、限定するものではなく、車両の天井位置等によって変化するものである。
また、右スピーカR1および左スピーカL1のそれぞれは、超音波照射方向が調整可能に設けられている(限定するものではない)。これにより、頭部の高さ位置や、座席αの前後位置に応じて、超音波の照射方向を、常にドライバーβの左右の耳位置へ正確に向けることが可能になる。
パラメトリックスピーカの作動を説明する。
右ウィンカが作動すると、「右定位用のウィンカ作動音信号(右定位用バイノーラル信号)」を超音波変調した超音波が、右スピーカR1および左スピーカL1からドライバーβの左右の耳に向けて照射される。
同様に、左ウィンカが作動すると、「左定位用のウィンカ作動音信号(左定位用バイノーラル信号)」を超音波変調した超音波が、右スピーカR1および左スピーカL1からドライバーβの左右の耳に向けて照射される。
右スピーカR1および左スピーカL1からドライバーβの左右の耳に向けて照射された「ウィンカ作動音信号」を変調した超音波は、空気中を伝播するにつれて、空気の粘性等によって波長の短い超音波が歪んで鈍(なま)される。すると、伝播途中の空気中において超音波に含まれていた振幅成分が自己復調され、ドライバーβの左右の耳において「ウィンカ作動音」が再生される。あるいは、復調前にドライバーβの頭部に到達した超音波がドライバーβの頭部(耳付近等)において自己復調することでドライバーβの左右の耳において「ウィンカ作動音」が再生される。
このように、ドライバーβの左右の耳元において直接的に再生音を発生させることで、ヘッドフォンとほぼ同様の再生音をドライバーβに与えることができる。
ドライバーβの左右の耳元において直接的に再生される再生音は、上述したようにバイノーラル録音の再生音である。このため、ヘッドフォンを装着しないが、ヘッドフォンによるバイノーラル再生(バイノーラル録音の再生)と同様に、ドライバーβに立体音響を付与することができる。
即ち、ヘッドフォンを装着しなくても、「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」により、例えば図1(b)に示すように、ドライバーβから離れた位置γに音像を立体定位させることができる。
具体的には、
(i)ウィンカレバーを右側へ操作した際に、「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」により、ドライバーβの右側にウィンカ作動音を定位させることができ、
(ii)ウィンカレバーを左側へ操作した際に、「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」により、ドライバーβの左側にウィンカ作動音を定位させることができる。
(実施例の効果1)
上述したように、立体音響装置の「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」により、「ドライバーβのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を与えることができる。
これにより、ドライバーβ以外の乗員にとって、「運転に有用な音情報」が煩わしく感じることがない。例えば深夜のバスの走行中において「運転に有用な音情報」を乗客に聞こえなくすることができるとともに、ドライバーβのみ「運転に有用な音情報」を聴くことができる。
(実施例の効果2)
この実施例の立体音響装置は、運転座席αに座ったドライバーβに立体音響を与えるものである。ドライバーβが運転座席αに座ることで、ドライバーβの左右の耳位置(頭部の位置と方向)をほぼ正確に特定できる。
このため、ドライバーβの左右の耳元で「パラメトリックスピーカ+バイノーラル再生」による再生音を発生させることが可能になり、「ドライバーβのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を与えることができる。
(実施例の効果3)
この実施例の立体音響装置は、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの上方に配置している。具体的にこの実施例では、右スピーカR1および左スピーカL1を、運転座席αに座るドライバーβの想定耳位置(設計上の耳位置)の水平ラインより60°以上の上方に配置している。
このように、パラメトリックスピーカにおいて超音波を発生させる右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの上方に設置することにより、「ドライバーβの耳元で再生した再生音(パラメトリックスピーカによる直進性の強い再生音)」が、「助手席や後部座席の人に直接音(ドライバーβを通り越した通過音)または反射音(ドライバーβ等で反射した音)として聞こえる不具合」を防ぐことができる。
(実施例の効果4)
この実施例の立体音響装置は、上述したように、右スピーカR1および左スピーカL1を、ドライバーβより上方に配置している。
ここで、人間の耳は、耳殻(所謂みみたぶ)等の構造により、音の発生方向に応じて聞こえる周波数が異なることが知られている。具体的に、人間の耳は、上方から音を発生させた場合、正面から音を発生させる場合に比較して、5kHz以上の高い音が感度良く聞こえ、逆に5kHz以下の低い音の感度が下がることが知られている。
そこで、この実施例では、ドライバーβの耳元で再生する再生音の周波数を5kHz以上に設定することで、ドライバーβに対して「運転に有用な音情報」を認識し易くしている。具体的な一例として、この実施例では、「ウィンカ作動音」を7kHz〜8kHz(例えば、7.7kHz)に設定して上方よりドライバーβに与えることにより、ドライバーβに「ウィンカ作動音」を認知し易くしている。
この例を図3、図4を参照して具体的に説明する。
本発明とは異なり、図3に示すように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの正面位置(仰角θ=0°)に設置して、7.7kHzの「ウィンカ作動音」をドライバーβの正面に向けて発生させた場合、ドライバーβの聞こえる音圧は、図4の破線A1になる。
これに対し、図3に示すように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの真上(仰角θ=90°)に設置して、7.7kHzの「ウィンカ作動音」をドライバーβの正面に向けて発生させた場合、ドライバーβの聞こえる音圧は、図4の実線A2になる。
上記破線A1(参考例)と実線A2(実施例)を比較して明らかなように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの真上(仰角θ=90°)に配置することにより、ドライバーβに聞こえる7.7kHzの音圧を高めることができ、ドライバーβに「ウィンカ作動音」を認知し易くできる。
(実施例の効果5)
複数の圧電素子をアレイ状に集合させた右スピーカR1および左スピーカL1の雑音は、1kHz〜3kHzを多く含む。
ここで、人間の耳は、上述したように、上方から音を発生させると、正面から音を発生させる場合に比較して、5kHz以下の低い音の感度が下がる。
このため、右スピーカR1および左スピーカL1を、ドライバーβより上方に配置することにより、ドライバーβに聞こえる「雑音」を減らすことができる。
この例を図3および図5を参照して具体的に説明する。
本発明とは異なり、図3に示すように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの正面位置(仰角θ=0°)に設置して、雑音の音圧レベルを測定した場合、ドライバーβの聞こえる音圧は、図5の破線B1になる。
これに対し、図3に示すように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの真上(仰角θ=90°)に設置して、雑音の音圧レベルを測定した場合、ドライバーβの聞こえる音圧は、図5の実線B2になる。
上記破線B1(参考例)と実線B2(実施例)を比較して明らかなように、右スピーカR1および左スピーカL1をドライバーβの真上(仰角θ=90°)に配置することにより、ドライバーβに聞こえる雑音の音圧レベルを減らすことができる。
(実施例の効果6)
この実施例では、図6に示すように、右スピーカR1の超音波照射方向(超音波照射の中心軸)をドライバーβの右耳位置Rに向けている。
同様に、左スピーカL1の超音波照射方向(超音波照射の中心軸)をドライバーβの左耳位置Lに向けている。
このため、ドライバーβの頭部位置が多少前後あるいは左右に変化しても、ドライバーβに聞こえる再生音の音圧変化を抑えることができる。
このことを具体的に説明する。
超音波スピーカをドライバーβの上方に配置するものの、本発明とは異なり、パラメトリックスピーカ技術により、ドライバーβの頭部の中心位置Cに「モノラルの再生音」を発生させる場合、
(i)耳までの音の到達距離を考慮して中心位置Cで発生させる最大音圧を大きくする必要があるとともに、
(ii)頭部位置が前後左右に変化すると、図6の破線C’に示すように、ドライバーβに聞こえる音圧変化が大きくなってしまう。
これに対し、本発明を採用するこの実施例では、
(i)右耳位置Rと左耳位置Lで再生音を発生させているため、モノラルの場合に比較して最大音圧を小さくすることができるとともに、
(ii)頭部位置が前後左右に変化しても、図6の破線R’および破線L’に示すようにドライバーβに聞こえる音圧変化を小さくすることができる。
これにより、ドライバーβの頭部位置が多少変化しても、立体音響装置の再生音をドライバーβに認識させることが可能になり、「運転に有用な音情報」の誤認識を防ぐことができる。
(実施例の効果7)
この実施例では、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、15cm以上(好ましくは20cm以上)で、且つ45cm以下に設けている。
具体的に、この実施例では、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、ドライバーβの「想定頭部の横幅(設計上の頭部横幅:例えば、平均的な大人の横幅)」以上で、且つドライバーβの「想定肩幅(設計上の肩幅:例えば、平均的な大人の肩幅)」以下に設けている。
その理由を説明する。
右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、ドライバーβの「想定頭部の横幅である20cm」より狭く設けると、右スピーカR1と左スピーカL1の配置が外振り(超音波の照射軸が平行より外向)になる。すると、右スピーカR1と左スピーカL1から照射された超音波が拡散して、助手席の乗員に到達する再生音の音圧が上昇する不具合が生じる。
逆に、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、ドライバーβの「想定肩幅である45cm」より広く設けると、右スピーカR1と左スピーカL1の配置の内振り(超音波の照射軸が平行より内向)の度合が大きくなる。すると、ドライバーβで反射して助手席の乗員に到達する反射音や、車室内は狭いためドア等で反射した反射音によって、助手席の乗員に到達する再生音の音圧が上昇する不具合がある。
そこで、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、上述したように、ドライバーβの「想定頭部の横幅の20cm」以上で、且つドライバーβの「想定肩幅の45cm」以下に設けることで、「ドライバーβに聞こえる再生音」と「助手席の乗員に聞こえる再生音」の音圧差を大きく確保することができ、「ドライバーβのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を与えることができる。
この具体例を図7を参照して説明する。
図7における実線Xは、ドライバーβに聞こえる再生音の音圧を示し、図7における実線Yは、助手席の乗員に聞こえる再生音の音圧を示す。
右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが広がるに従い、外耳内に再生音が到達し易くなり、再生音の音圧が上昇する。その結果、図7の実線Xに示すように、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが広がるに従い、ドライバーβに聞こえる再生音の音圧が上昇する。
これに対し、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定頭部の横幅(20cm)」から0cmに接近するに従い、上述した「外振り」の度合が大きくなる。その結果、図7の実線Yに示すように、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定頭部の横幅(20cm)」から0cmに接近するに従い、再生音の拡散が強まり、助手席の乗員に聞こえる再生音の音圧が大きくなってしまう。
一方、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定頭部の横幅(20cm)」から広がるに従い、上述した「内振り」の度合が大きくなる。その結果、図7の実線Yに示すように、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定頭部の横幅(20cm)」より広がるに従い、ドライバーβで反射した再生音により、助手席の乗員に聞こえる再生音の音圧が大きくなる。
ここで、図7のデータを捕捉説明する。
図7の実験結果は、車室内データではなく、広い空間で測定したデータである。このため、図7は、ドア等の車両部材による反射音がデータに含まれていない。
しかし、実際は、狭い車室内では、ドア等の車両部材の影響を受ける。
このため、図7の実験結果(実線Y)には反映されていないが、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定肩幅(45cm)」を超えると、上述した「外振り」の度合が大きくなってドア等で反射する再生音が増える。その結果、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wが、ドライバーβの「想定肩幅」より広がると、ドライバーβと助手席の乗員との音圧差(20dB)を確保できなくなってしまう。
そこで、右スピーカR1と左スピーカL1の配置間隔Wを、ドライバーβの「想定頭部の横幅(20cm)」〜「想定肩幅(45cm)」の範囲に設定する。
これにより、ドライバーβと助手席の乗員との音圧差を確保することができ、「ドライバーβのみ」に立体音響による「運転に有用な音情報」を与えることができる。
(実施例の効果8)
この実施例で用いるバイノーラル録音は、パラメトリックスピーカによる再生音を用いて録音される。
パラメトリックスピーカに用いる超音波は指向性が強いため、音の広がりが抑えられてダミーヘッドに「録音に用いる音」を与えることができる。これにより、バイノーラル録音を行うダミーヘッドに対して高精度な「音の3D情報(定位情報)」を与えることができる。
その結果、既存のバイノーラル録音(パラメトリックスピーカ技術を用いないバイノーラル録音)に比較して、音像定位性の高いバイノーラル録音(録音物)を得ることができ、ドライバーβに対して定位性に優れた「立体音響」を与えることができる。
[実施例2]
図8、図9を参照して実施例2を説明する。なお、以下の実施例において上記実施例1と同一符号は同一機能物を示すものである。
(実施例2の特徴技術1)
上記の実施例1では、ドライバーβに高い周波数(7kHz〜8kHz)の「運転に有用な音情報(ウィンカ作動音や警告音など)」を与える例を示したが、再生音の周波数域を限定するものではなく、例えば低音を含む再生音をドライバーβに与えても良い。
具体的な一例として、この実施例2は、本発明を「音楽やラジオ等の音響機器」と組み合わせて、ドライバーβのみに「音楽やラジオ等の音波」を付与可能に設けたものである。
本発明により、「ドライバーβのみ」に立体音響による「音楽やラジオ等の音波」を与えることができる。
これにより、ドライバーβ以外の乗員にとって、ドライバーβが聴く「音楽やラジオ等」が煩わしく感じることがない。例えば深夜の車両走行中に、他の乗員に気兼ねなくドライバーβのみが「音楽やラジオ等」を聴くことができる。
ドライバβのみに「音楽やラジオ等の音波」を与える例として、ドライバーβと他の乗員との音圧差(例えば、20dB以上)を確保できる具体例を、図8を参照して説明する。
本発明とは異なり、パラメトリックスピーカ技術により、正面からドライバーβに再生音を発生させる場合、再生音が後部座の乗員等に聞こえてしまう。具体的には、図8(a)に示すように、ドライバーβに聞こえる音圧レベル(実線D1)と、後部座席の乗員に聞こえる音圧レベル(破線D2)との音圧差を十分に大きく確保することができない。
これに対し、この実施例2では、右スピーカR1と左スピーカL1がドライバーβの上方に配置されるため、上記「実施例の効果3」で説明したように、「ドライバーβの耳元で再生した再生音(パラメトリックスピーカによる直進性の強い再生音)」が、「助手席や後部座席の人に直接音(ドライバーβを通り越した通過音)または反射音(ドライバーβ等で反射した音)として聞こえる不具合」を防ぐことができる。具体的には、図8(b)に示すように、ドライバーβに聞こえる音圧レベル(実線D1’)と、後部座席の乗員に聞こえる音圧レベル(破線D2’)との音圧差を十分に大きく確保することができる。
(実施例2の特徴技術2)
上述したように、この実施例2は、高い周波数だけでなく、低音を含む音波(音楽やラジオ等の音波)をドライバーβに与えるものである。
ここで、右スピーカR1と左スピーカL1は、上記実施例1で示したように、20cm以上(ドライバ頭部の横幅以上)離れて配置される。これにより、低音を含む再生音をドライバーβの左右の耳元で再生することにより、ドライバーβに与える低音の音圧を高めることができる。
この低音増強効果を図9を参照して説明する。
超音波スピーカをドライバーβの上方に配置するものの、本発明とは異なり、パラメトリックスピーカ技術により、ドライバーβの頭部の中心位置Cにモノラルの再生音を発生させる場合、超音波スピーカの超音波照射軸と、ドライバーβの左右の外耳道との交差角度が急激(90°未満)になる。その結果、図9の破線E1に示すように、ドライバーβに聞こえる低音が低下する不具合が生じる。
これに対し、この実施例では、右スピーカR1と左スピーカL1が20cm以上(ドライバ頭部の横幅以上)離れて配置されるため、
(i)右スピーカR1の超音波照射軸と、ドライバーβの右の外耳道との交差角度が90°以上になるとともに、
(ii)左スピーカL1の超音波照射軸と、ドライバーβの左の外耳道との交差角度も90°以上になる。
このように、右スピーカR1と左スピーカL1の超音波照射軸と、ドライバーβの左右の外耳道との交差角度が、モノラルの場合よりも直線に近づくことにより、図9の実線E2に示すように、ドライバーβに聞こえる低音が増える。即ち、圧電スピーカの数を増すことなく、ドライバーβに聞こえる低音を増強することができる。
上記の実施例では、ドライバーβに与える「運転に有用な音情報」の一例として「ウィンカ作動音」を示したが、限定するものではなく、種々の音情報(車両の進行方向の歩行者の存在を知らせる注意喚起音、車線変更時に変更先の車両の存在を知らせる注意喚起音、車両のレーンはみ出しの可能性を知らせる注意喚起音、カーナビゲーションの案内音など)を与えても良い。
上記の実施例では、「特定の人」の一例としてドライバーβを示したが、限定するものではなく、助手席や後部座席の乗員であっても良いし、自動車とは異なる座席に座る人に立体音響を与える技術に本発明を適用しても良い。
2 右耳用パラメトリックスピーカ
3 左耳用パラメトリックスピーカ
α 運転座席(所定の座席)
β ドライバー(特定の人)
R1 右スピーカ
L1 左スピーカ

Claims (7)

  1. 右スピーカ(R1)と左スピーカ(L1)を用いて特定の人のみに立体音響を与える立体音響装置において、
    (a)前記特定の人は、座席(α)に座った人(β)であり、
    (b)前記右スピーカ(R1)は、前記座席(α)に座った人(β)の右耳位置へ向けて超音波を照射して右耳に再生音を発生させる右耳用パラメトリックスピーカ(2)の超音波発生手段であり、
    (c)前記左スピーカ(L1)は、前記座席(α)に座った人(β)の左耳位置へ向けて超音波を照射して左耳に再生音を発生させる左耳用パラメトリックスピーカ(3)の超音波発生手段であり、
    (d)前記右スピーカ(R1)および前記左スピーカ(L1)は、前記座席(α)に座った人(β)の頭部位置より上方に配置されることを特徴とする立体音響装置。
  2. 請求項1に記載の立体音響装置において、
    前記所定の座席(α)に座った人(β)は、自動車の運転座席(α)に座ったドライバー(β)であることを特徴とする立体音響装置。
  3. 請求項2に記載の立体音響装置において、
    この立体音響装置は、前記ドライバー(β)に対して、運転に有用な音情報を付与することを特徴とする立体音響装置。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の立体音響装置において、
    この立体音響装置に用いる音源は、バイノーラル録音によって作られたバイノーラル音源であることを特徴とする立体音響装置。
  5. 請求項1〜請求項4のいずれか1つに記載の立体音響装置において、
    前記右スピーカ(R1)および前記左スピーカ(L1)は、前記座席(α)に座る人(β)の想定耳位置に対して60°以上の上方に配置されることを特徴とする立体音響装置。
  6. 請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の立体音響装置において、
    前記右スピーカ(R1)と前記左スピーカ(L1)の配置間隔(W)は、20cm以上に設けられることを特徴とする立体音響装置。
  7. 請求項6に記載の立体音響装置において、
    前記右スピーカ(R1)と前記左スピーカ(L1)の配置間隔(W)は、45cm以下に設けられることを特徴とする立体音響装置。
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