JP2010034755A - 音響処理装置および音響処理方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】第1の音声信号と、第2の音声信号とを、共通のスピーカで音響再生させる音響処理装置において、聴取者が、両者を区別可能に聴取できる。
【解決手段】第1の音声信号をスピーカ31L,31Rに供給する第1の音声処理系を備える。また、第1の音声信号をスピーカ31L,31Rにより音響再生しているときに、第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理してスピーカ31L,31Rに供給し、第2の音声信号による仮想音像を、第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする第2の音声処理系を備える。
【選択図】図1
【解決手段】第1の音声信号をスピーカ31L,31Rに供給する第1の音声処理系を備える。また、第1の音声信号をスピーカ31L,31Rにより音響再生しているときに、第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理してスピーカ31L,31Rに供給し、第2の音声信号による仮想音像を、第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする第2の音声処理系を備える。
【選択図】図1
Description
この発明は、例えば音楽を再生しながら、経路誘導音声案内することができるナビゲーションシステムなどに適用して好適な音響処理装置および音響処理方法に関する。
車載用のナビゲーション装置と音響再生装置とを組み合わせて、音響再生装置でCD(Compact Disc)などからの音楽を再生しながら、経路誘導音声案内によるナビゲーション機能が実現されるナビゲーションシステムが提供されている。
この種のナビゲーションシステムにおいては、例えば特許文献1(特開2002−116045号公報)に記載されているように、運転者が経路案内音声を確実に聴取できるように、音声案内地点では、音響再生装置からの音楽音声の音量を絞るようにしている。あるいは、音声案内地点では、音響再生装置からの音楽音声のミューティングして、音量をゼロにしてしまい、経路案内音声のみを聴取者に聴取させるようにするものもある。
ところで、リクライニングチェアや自動車の座席シートのヘッドレストに、スピーカを設け、そのスピーカにより、聴取者(リスナ)の耳の近傍において、高品位の音声を放音することができるようにした音響処理装置が提案されている。すなわち、ヘッドホンなどを用いなくても、聴取者の耳の近傍に位置付けられるスピーカを通じて、高品位の音声を聴取者が聴取することができる環境が整えられてきている。
しかし、椅子(座席)のヘッドレスト部分にスピーカを設けた場合、聴取者の耳の後ろ側から直接音声が放音されるために、聴取者の意識が聴取者の後方に惹かれ、聴取する音楽によっては、違和感を感じたり、いわゆる聞き疲れが生じたりする場合がある。
このため、音声信号に対して仮想音像定位処理を施すことによって、聴取者の後ろ側のスピーカから放音された音声が、聴取者の前方の予め想定した位置から聞こえるようにすることが提案されている(特許文献2(特開2003−301533号公報)参照)。
図13は、例えば自動車の運転座席シートのヘッドレスト1に、左右2チャンネル用のスピーカ2L,2Rを設けた状態を示している。そして、この図13の例では、左右2チャンネルの音声信号SL,SRに対して、聴取者3の前方に想定した点線で示す位置VSL,VSRに仮想音像が定位するような仮想音像定位処理を施した後、スピーカ2L,2Rに供給するようにしている。
このようにすれば、聴取者3は、仮想音像定位位置VSL,VSRから音声が放音されて聞こえるようになり、聴取者の耳の後ろ側に位置するスピーカ2L,2Rから放音される音声を聴取することによる違和感や聞き疲れを防止することが可能となる。
このような音響処理装置においても、仮想音像定位処理された音楽信号と、経路案内音声とを合成し、その合成信号をスピーカ2L,2Rに供給するように構成することでナビゲーション装置と組み合わせたシステムを実現することができる。
上記の特許文献は、次の通りである。
特開2002−116045号公報
特開2003−301533号公報
上述したナビゲーション装置と組み合わせた音響処理装置の場合、経路案内音声の音像は、スピーカ2L,2Rの位置に定位する。図13のシステムの場合、スピーカ2L,2Rが聴取者の耳の後ろ側に位置するため、経路案内音声の音像が聴取者の後方に定位することになる。
一方、音楽音声は、仮想音像定位により、聴取者の前方に定位されるため、経路案内音声とは異なる音像定位位置となる。このため、従来のように、音楽音声の音量をゼロにしたり、微小音量に絞らなくても、音量を少し下げるだけで、経路案内音声を確実に聴取者が聴取できるようになると期待できる。
しかしながら、経路案内音声が運転者である聴取者の後方に定位すると、当該後方に運転者の注意が向けられ、好ましくなく、運転者にとっては、経路案内音声は前方に音像定位する方が安全上望ましい。
そこで、ナビゲーション装置と組み合わせた音響処理装置を構成する場合に、経路案内音声信号を、音楽信号と、仮想音像定位処理前に合成して、経路案内音声をも聴取者の前方に仮想音像定位させるようにすることが考えられる。
ところで、経路案内音声の音像定位位置は、指示される方向に片寄せた方が望ましい。例えば、経路案内音声が「次の信号を右折です」の場合には、聴取者の右側に経路案内音声による音像が定位する方が良い。同様に、「次の信号を左折です」の場合には、聴取者の左側に経路案内音声による音像が定位する方が良い。
しかしながら、経路案内音声がモノーラル音声の場合には、当該モノーラル経路案内音声信号を、左右2チャンネルの音楽音声信号に均等に加算するようにすることになる。このため、その仮想音像定位位置は、聴取者の正面中央で固定となってしまい、そのままでは、指示される方向に片寄せた方に音像を定位させることができない。
一方、経路案内音声がステレオ音声である場合には、「次の信号を右折です」などの経路案内音声は右チャンネル音声のみとし、「次の信号を左折です」などの経路案内音声は右チャンネル音声のみとすることで、経路案内音声の仮想音像定位位置を、指示される方向に片寄せることができる。
しかし、そのようにしたのでは、音楽音声による音像の定位位置と、経路案内音声による音像の定位位置とが重なってしまう。そのため、経路案内音声を際立たせて確実に聴取者に聴取させるためには、従来と同様に、音楽音声の音量をゼロにしたり、微小音量に絞る必要がある。
この発明は、以上の点にかんがみ、音楽音声信号のような第1の音声信号と、経路案内音声信号のような第2の音声信号とを、共通のスピーカで音響再生させる音響処理装置において、上記の問題点を改善することができる装置および方法を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、
スピーカと、
第1の音声信号を前記スピーカに供給する第1の音声処理系と、
前記第1の音声信号を前記スピーカにより音響再生しているときに、前記第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理して前記スピーカに供給し、前記第2の音声信号による仮想音像を、前記第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする第2の音声処理系と、
を備える音響処理装置を提供する。
スピーカと、
第1の音声信号を前記スピーカに供給する第1の音声処理系と、
前記第1の音声信号を前記スピーカにより音響再生しているときに、前記第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理して前記スピーカに供給し、前記第2の音声信号による仮想音像を、前記第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする第2の音声処理系と、
を備える音響処理装置を提供する。
この請求項1の発明においては、例えば上述した経路案内音声などの第2の音声信号は、第2の音声処理系により、第1の音声信号による音像定位位置とは異なる位置に仮想音像定位するように構成されている。
すなわち、例えば音楽信号などの第1の音声信号による音声の音像定位位置とは異なる位置に、第2の音声信号の音声の音像が仮想音像定位して、第1の音声信号による音像定位位置と、第2の音声信号による音像定位位置とが重ならない。このため、従来のように、例えば、音楽音声の音量をゼロにしたり、微小音量に絞らなくても、音楽音声の音量を少し下げるだけで、経路案内音声を確実に聴取者が聴取できるようになると期待できる。
この発明によれば、第2の音声信号は、第2の音声処理系により、第1の音声信号による音像定位位置とは異なる位置に仮想音像定位するようにされる。このため、第1の音声信号による音像と、第2の音声信号による音像とを区分けして聴取者は聴取することが容易になる。
以下、この発明による音響処理装置の幾つかの実施形態を、図を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態の音響処理装置は、いずれも、車載用ナビゲーション装置と組み合わせて構成された場合の例である。以下の例では、第1の音声信号は、いわゆるカーステレオの音楽信号であり、第2の音声信号は、ナビゲーションの経路案内音声の音声信号である。
[第1の実施形態]
<ナビゲーションシステムの構成例>
図2は、この発明による音響処理装置が適用された車載用ナビゲーションシステム100の構成例を示すブロック図である。
<ナビゲーションシステムの構成例>
図2は、この発明による音響処理装置が適用された車載用ナビゲーションシステム100の構成例を示すブロック図である。
この例の車載用ナビゲーションシステム100は、制御部110に対して、位置検出部120、地図データベース部130、操作入力部140、メモリ部150、表示部160、音響処理部170、リモコン受信部181、が接続されて構成されている。そして、この例では、制御部110には、さらに、音楽再生装置部190が接続されている。
制御部110は、例えばマイクロコンピュータで構成されている。メモリ部150は、例えばハードディスク装置などからなり、ナビゲーションのためのプログラムや、後述する音響処理のためのプログラムなどが記憶されている。メモリ部150には、また、後述するように、音響処理部160に供給するフィルタ係数などの、制御部110が処理に必要なデータも記憶保持されている。
制御部110は、このメモリ部150に記憶されているプログラムを実行することで、この例の車載用ナビゲーションシステム100におけるナビゲーション機能や後述するような音楽再生処理機能を実行するようにしている。
位置検出部120は、地磁気センサ121、ジャイロスコープ122、距離センサ123、GPS(Global Positioning System)受信機124を備えて構成される。位置検出部120は、各センサ出力と、GPS受信機124からの測位データとを、制御部110に出力する。
制御部110は、位置検出部120からの各センサ出力と測位データとから、自分の自動車の現在位置を算出する。そして、制御部110は、地図データベース部130から読み出した地図画面に、自分の自動車位置をマーク表示したものを、表示部160の表示画面に表示するようにする。表示部160は、例えば液晶ディスプレイなどで構成される。
音楽再生装置部190は、例えばCD(Compact Disc)再生部などを備え、制御部110からの制御指示により、CDから再生した音楽信号を制御部11を通じて音響処理部170に供給するようにする。
音響処理部170は、制御部110を通じて入力される音楽信号について、後述するように、この実施形態では、仮想音像定位処理をした後、スピーカ31Lおよび31Rに供給するようにする。
制御部110は、ナビゲーション機能時には、自分の自動車が、地図上における音声案内地点になったことを検知すると、経路案内音声信号を音響処理部170に供給するようにする。
音響処理部170は、後で詳述するようにして、経路案内音声信号を処理し、音楽信号に合成してスピーカ31Lおよび31Rに供給する。このとき、音響処理部170は、音楽信号による仮想音像定位位置と、経路案内音声信号による仮想音像定位位置とが異なるように処理する。
操作入力部140は、複数個の操作ボタンスイッチを備えるもので、聴取者が操作したボタンスイッチに応じた操作信号を、制御部110に供給する。制御部110は、受け取った操作信号が、どのボタンスイッチに対応したものかを判断して、聴取者により操作されたボタンスイッチを判断する。そして、制御部110は、操作されたと判断したボタンスイッチに応じた制御処理を実行する。
この例では、操作入力部140の他に、リモコン受信部181が制御部110に接続されている。このリモコン受信部181は、リモコン送信機182からの例えば赤外線からなるリモコン信号を受信する。リモコン送信機182は、複数個の操作ボタンを備える。そして、リモコン送信機182は、聴取者が操作したボタンスイッチに応じたリモコン信号を、リモコン受信部182に送信する。リモコン受信部181は、受信したリモコン信号を、制御部110に供給する。
制御部110は、リモコン受信部181から受け取ったリモコン信号を解析して、リモコン送信機182で、どのボタンが操作されたかを判断する。そして、制御部110は、操作されたと判断したボタンスイッチに応じた制御処理を実行する。
[第1の実施形態における音響処理部170の構成例]
図1は、この発明が適用された第1の実施形態の音響処理装置の要部を構成する音響処理部170の構成例を説明するためのブロック図である。また、図3は、この実施形態の音響処理装置を構成するスピーカが取り付けられた椅子(この例では運転者の座席シート)の外観を説明するための図である。この第1の実施形態では、音楽音声などの左右2チャンネルの音声信号を処理して再生するために、前述したように、スピーカは、左チャンネル用のスピーカ31Lと、右チャンネル用のスピーカ31Rの2個からなる。
図1は、この発明が適用された第1の実施形態の音響処理装置の要部を構成する音響処理部170の構成例を説明するためのブロック図である。また、図3は、この実施形態の音響処理装置を構成するスピーカが取り付けられた椅子(この例では運転者の座席シート)の外観を説明するための図である。この第1の実施形態では、音楽音声などの左右2チャンネルの音声信号を処理して再生するために、前述したように、スピーカは、左チャンネル用のスピーカ31Lと、右チャンネル用のスピーカ31Rの2個からなる。
前述したように、音楽再生装置部190で再生された左右2チャンネルの音声信号が、音響処理部170に供給される。
この実施形態の音響処理部170は、左チャンネルの音声信号の供給を受け付ける左チャンネル入力端子Linと、右チャンネルの音声信号の供給を受け付ける右チャンネル入力端子Rinとを有している。
また、第1の実施形態における音響処理部170は、仮想音像定位処理を行なう音像定位処理フィルタ部10と、再生音場における伝達関数の影響を除去するためのトランスオーラルシステムフィルタ部20とを備えている。
そして、左チャンネル入力端子Linを通じた左チャンネルの音声信号は、音量制御するための可変ゲイン部32Lを通じて加算部33Lに供給される。そして、加算部33Lからの音声信号が、音像定位処理フィルタ部10に供給される。また、右チャンネル入力端子Rinを通じた右チャンネルの音声信号は、音量制御するための可変ゲイン部32Rを通じて加算部33Rに供給される。そして、加算部33Rからの音声信号が、音像定位処理フィルタ部10に供給される。可変ゲイン部32L、32Rおよび音像定位処理フィルタ部10での処理は、後で詳述する。
音像定位処理フィルタ部10からの2チャンネルの音声信号は、それぞれトランスオーラルシステムフィルタ部20に供給される。トランスオーラルシステムフィルタ部20での処理は、後で詳述する。
トランスオーラルシステムフィルタ部20からの2チャンネルの音声信号は、左チャンネルスピーカ31Lと右チャンネルスピーカ31Rとにそれぞれ供給される。
左、右チャンネルスピーカ31L、31Rは、それぞれ1つずつのスピーカからなる場合もあれば、スーパーツィータやウーハーを備えた高品位の音声の放音が可能ないわゆるHiFiスピーカデバイスを用いることも可能である。この第1の実施形態の場合、左、右チャンネルスピーカ31L、31Rは、スーパーツィータやーウハーを備えたHiFiスピーカデバイスとされている。
そして、この第1の実施形態における音響処理部170の左、右チャンネルスピーカ31L、31Rは、図2に示すように、自動車の座席や家庭において用いられる椅子Stの背もたれ部に対して着脱可能とされたヘッドレスト部St1に構成するようにされる。ヘッドレスト部St1は、図3に示すように、自動車の座席や家庭で用いられる椅子などにおいて、使用者の頭部を支持する部分(頭部支持部)に相当する。
図3に示すように、自動車の座席やリクライニングシートなどの椅子(座席)Stは、大きく分けると、使用者が腰をおろす腰掛部St2と、使用者が背中をもたせかける背もたれ部St3と、ヘッドレスト部St1とからなっている。
この第1の実施形態においては、図3に示すヘッドレスト部St1に相当する部分に、左右2チャンネルのスピーカ31L、31Rを含む図1に示した構成の音響処理部170を構成する。
この実施形態では、図3に示したように、椅子Stに腰をかけた聴取者は、自己の頭部の斜め後方に位置する左、右スピーカ31L、31Rからの放音音声による音像は、聴取者の前方の仮想音像定位位置VSL,VSRに有るものとして聴取することになる。
すなわち、この実施形態においては、音像の定位位置を、実際に固定されたスピーカ31L、31Rの位置ではなく、仮想的な音像定位位置にずらすようにしている。これにより、この実施形態では、音が聴取者の後頭部付近や耳の後方から聞こえることによる違和感、不快感を除去するようにしている。
なお、ヘッドレスト部St1は、背もたれ部St3と一体に形成され、ヘッドレスト部St1のみを取り外すことができないものもあるが、この実施形態においては、自動車の座席や家庭の椅子などの複数の椅子に対して着脱可能に構成されている。したがって、この実施形態の音響処理装置は、複数の椅子において兼用することができるように構成されている。
この第1の実施形態においては、音像定位処理フィルタ部10、トランスオーラルシステムフィルタ部20とにより、実スピーカ31L、31Rから放音される音声の音像を仮想スピーカVSL、VSRから放音されたもののように感じるように定位させる。つまり、左スピーカ31Lと右スピーカ31Rから放音される音声を、図1および図3において点線で示す左仮想スピーカVSL、右仮想スピーカVSRの位置から放音されたように聞こえるようにする。
以下、この第1の実施形態における音響処理部170の各部について詳細に説明する。まず、音像定位処理フィルタ部10を説明するに当たり、音像定位処理の原理について説明する。図4は、音像定位処理の原理を説明するための図である。
図4に示すように、所定の再生音場において、ダミーヘッドDHの位置を聴取者の位置とする。このダミーヘッドDHの位置の聴取者に対して、音像を定位させようとする左右の仮想スピーカ位置(スピーカがあるとものと想定する位置)に実際に左チャンネルの実スピーカSPL、右チャンネルの実スピーカ31LRを設置する。
そして、左チャンネルの実スピーカSPL、右チャンネルの実スピーカSPRから放音される音声をダミーヘッドDHの両耳部分に置いたマイクロホンにて収音する。そして、スピーカSPLおよびスピーカSPRのそれぞれから放音された音声が、ダミーヘッドDHの両耳部分に到達したときには、どのように変化するか示す頭部伝達関数(HRTF)を、マイクロホンで収音した音声信号から予め測定しておく。
図4に示す例では、左チャンネルの実スピーカSPLからダミーヘッドDHの左耳までの音声の伝達関数はM11であり、左チャンネルの実スピーカSPLからダミーヘッドDHの右耳までの音声の伝達関数はM12であるとする。同様に、右チャンネルの実スピーカSPRからダミーヘッドDHの左耳までの音声の伝達関数はM21であり、右チャンネルの実スピーカSPRからダミーヘッドDHの右耳までの音声の伝達関数はM22であるとする。
なお、ここでは頭部伝達関数(HRTF)の測定に際し、ダミーヘッドDHを用いるようにしたが、これに限るものではない。頭部伝達関数を測定する再生音場に実際に人間を座らせ、その耳近傍にマイクロホンを置いて頭部伝達関数を測定するようにしてもよい。
こうして測定された伝達関数M11,M12,M21,M22を、左右2チャンネルの音声信号に畳み込み処理し、その処理後の音声信号を、ヘッドレスト部St1のスピーカ31L、31Rに供給するようにする。すると、聴取者は、ヘッドレスト部St1のスピーカ31L、31Rから放音される音声が、あたかも仮想スピーカ位置VSL、VSRから音声が放音されているように感じるように、音像を定位させることができる。
音像定位処理フィルタ部10は、前述した頭部伝達関数M11,M12,M21,M22を、左右2チャンネルの音声信号に畳み込む処理を行なう。すなわち、この実施形態では、音像定位処理フィルタ部10は、図1に示すように、4つのフィルタ部11、12、13、14と、2つの加算部15、16からなる。
フィルタ部11は、左入力端子Linを通じて入力された左チャンネルの音声信号を伝達関数M11で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部15に供給する。
また、フィルタ部12は、左入力端子Linを通じて入力された左チャンネルの音声信号を伝達関数M12で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部16に供給する。
また、フィルタ部13は、右入力端子Rinを通じて入力された右チャンネルの音声信号を伝達関数M21で処理するものであり、処理後の音声信号を左チャンネル用の加算部15に供給する。
また、フィルタ部14は、右入力端子Rinを通じて入力された右チャンネルの音声信号を伝達関数M22で処理するものであり、処理後の音声信号を右チャンネル用の加算部16に供給する。
そして、加算部15は、フィルタ部11からの音声信号と、フィルタ部13からの音声信号(右チャンネルから左チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。また、加算部16は、フィルタ部14からの音声信号と、フィルタ部12からの音声信号(左チャンネルから右チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。
これら加算部15および16の加算結果の音声信号を、スピーカ31Lおよび31Rに供給すれば、当該スピーカ31L,31Rから放音された音声により、仮想音像定位が可能となる。すなわち、スピーカ31L,31Rから放音された音声により、聴取者は、図1、図3に示した左仮想スピーカ位置VSLおよび右仮想スピーカVSRから音が放音されたような音像定位感を得る。
しかし、実際の再生音場においては、ヘッドレスト部St1に設けられた左スピーカ31L、右スピーカ31Rからの放音音声が聴取者の両耳に入射することを考慮しなければならない。すなわち、左スピーカ31L、右スピーカ31Rからの放音音声の聴取者の両耳への入射を影響を除去しないと、再生音声の音像を目的とする仮想スピーカ位置に正確に定位させることができない場合がある。
そこで、図1に示すように、左スピーカ31L、右スピーカ31Rと、聴取者3との間における実際の再生音場における伝達関数G11、G12、G21、G22を予め測定しておく。そして、その伝達関数G11、G12、G21、G22を用いて、左スピーカ31L、右スピーカ31Rからの放音音声が聴取者の両耳へ入射する影響を除去するようにする。
この役割をするのが、トランスオーラルシステムフィルタ部20である。このため、この実施形態では、加算部15は、その加算結果の左チャンネルの音声信号をトランスオーラルシステムフィルタ部20に供給する。また、加算部16は、その加算結果の右チャンネルの音声信号をトランスオーラルシステムフィルタ部20に供給する。
トランスオーラルシステムフィルタ部20は、トランスオーラルシステムが適用されて形成された音声フィルタである。トランスオーラルシステムは、ヘッドホンを用いて音声を厳密に再生するようにする方式であるバイノーラルシステム方式と同様の効果を、スピーカを用いた場合にも実現しようとする技術である。
トランスオーラルシステムについて、図1の場合を例にして説明する。図1に示すトランスオーラルシステムフィルタ部20は、左スピーカ31L、右スピーカ31Rから放音されることになる音声について、再生音場における伝達関数の影響を除去する。これにより、左スピーカ31L、右スピーカ31Rから放音される音声の音像を正確に仮想スピーカ位置応じた位置に定位させるようにする。
具体的にトランスオーラルシステムフィルタ部20は、左スピーカ31L、右スピーカ31Rから聴取者の左右の耳までの伝達関数の逆関数に応じて音声信号を処理するフィルタ部21、22,23、24と、加算部25、26を備えたものである。
フィルタ部21は、伝達特性G11の逆関数H1nに応じて音声信号を処理し、その処理結果を加算部25に供給する。フィルタ部22は、伝達特性G12の逆関数H2nに応じて音声信号を処理し、その処理結果を加算部26に供給する。フィルタ部23は、伝達特性G21の逆関数H3nに応じて音声信号を処理し、その処理結果を加算部25に供給する。フィルタ部24は、伝達特性G22の逆関数H4nに応じて音声信号を処理し、その処理結果を加算部26に供給する。
そして、加算部25は、フィルタ部21からの音声信号と、フィルタ部23からの音声信号(右チャンネルから左チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。また、加算部26は、フィルタ部24からの音声信号と、フィルタ部22からの音声信号(左チャンネルから右チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。
そして、加算部25および26は、それぞれの加算結果の音声信号を、アンプ33Lおよび33Rを通じてスピーカ31Lおよび31Rに供給する。
なお、この第1の実施形態において、フィルタ部21、22,23、24においては、逆フィルタ特性をも考慮した処理を行ない、より自然な再生音声を放音できるようにしている。
ところで、ヘッドレスト部St1に設けられたスピーカから聴取者の左右の耳までの伝達関数G11、G12、G21、G22は、スピーカ31L、31SRに対する聴取者の頭部の位置が想定した位置よりもずれてしまえば、変化してしまう。このようになると、再生音場における当該伝達関数G11、G12、G21、G22の影響を確実に除去することができなくなり、スピーカ31L、31Rから放音した音声による仮想音像定位効果が十分には得られなくなる。
特に、聴取者の頭部が、スピーカの放音面に対して平行に上下方向や左右方向に動いてしまった場合には、スピーカの放音面に対して直交する方向に聴取者の頭部が動いた場合に比べてその影響は大きい。
このため、仮想音像定位の効果を十分に得るためには、スピーカに対する聴取者の頭部の位置(耳の位置)を必ず決まった位置となるように規制して、音声を聴取させるようにすることが考えられる。
しかし、当該ヘッドレスト部St1を有する椅子に腰をかけた聴取者の頭部の位置を常にスピーカに対して所定の位置の保持するようにすることは難しい。また、保持するようにすることができたとしても、かえって聴取者のリラックス感を阻害することにもなりかねない。
そこで、この実施形態では、スピーカ31L,31Rに対する聴取者の頭部の様々な位置における伝達関数G11、G12、G21、G22を予め測定しておき、その測定結果をそれぞれの位置情報と対応付けてメモリ部150に保持しておくようにする。
そして、スピーカに対する聴取者の耳の位置、換言すればスピーカが設けられたヘッドレスト部からの聴取者の頭部の距離を含むヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置を計測できるようにする。このために、頭部位置検出部40を設ける。なお、頭部位置検出部40における、ヘッドレスト部に対する聴取者の頭部の位置の検出は、音響処理部170が動作状態にあるときに、あるいは、聴取者からの指示があったときにおいて、行なうようにする。
この実施形態においては、ヘッドレスト部St1に設けられるスピーカデバイスのスーパーツイータを聴取者の頭部の位置検出センサとして用いるようにしている。近年、再生オーディオについてのHiFi志向が進み、可聴周波数帯域以上の再生性能を持つスピーカを実装することは珍しいことではないため、これを利用する。
すなわち、この実施形態におけるスピーカ31L,31Rのスーパーツイータは、可聴周波数以上の再生能力を持つものであり、この構成のスピーカを聴取者の頭部の位置の測定に用いるようにする。これにより、聴取者の頭部の位置を検出するために、感圧式などの専用のセンサシステムを搭載しなくても済むように構成している。
具体的には、ヘッドレスト部St1に設けられたスピーカのスーパーツイータから超音波を送信し、この送信した超音波の聴取者の頭部からの反射波(反射超音波)をスーパーツイータにより受信する。そして、受信した反射波出力を頭部位置検出部(以下、単に検出部という。)40に供給する。検出部40では、左右チャンネルのスピーカのスーパーツイータからの反射波を分析することにより、ヘッドレスト部St1に対する聴取者の頭部の位置を検出する。
検出部40は、スーパーツイータから送信した超音波の反射波の受信の有無、超音波を送信してからその反射波を受信するまでにかかった時間、当該時間と超音波の速度とから得られるスピーカと聴取者との距離、などに基づいて、ヘッドレスト部St1に対する聴取者の頭部の位置を検出するようにしている。検出部40は、その頭部位置検出結果を、制御部110に供給する。
制御部110は、検出部40からの聴取者の頭部の位置の検出結果の位置情報を用いて、メモリ部150に記録されている係数データテーブルを参照する。そして、制御部110は、現在の聴取者の頭部の位置に応じたトランスオーラルシステムフィルタ部20の各フィルタ部21、22、23、24に供給する係数データを、メモリ部150から読み出す。そして、読み出した係数データを、それぞれ対応するフィルタ部21〜24のそれぞれに供給して、設定するようにする。
したがって、トランスオーラルシステムフィルタ部20においては、設定された係数データにより、当該再生音場における伝達係数G11,G12,G21,G22の影響を除去するように、補正処理がなされる。
これにより、聴取者の頭部の位置がヘッドレスト部St1に対して動いても、トランスオーラルシステムフィルタ部20での補正処理により、聴取者の実際の頭部の測定位置に応じて、再生音場における伝達関数の影響を除去するように行なうことができる。したがって、ヘッドレスト部St1の左右のスピーカ31L,31Rから放音される音声の音像を、聴取者の頭部の位置にかかわりなく、想定された仮想音像定位位置に定位させることができる。
以上は、音楽再生装置部190からの左右2チャンネルの音楽再生信号についての処理である。前述もしたように、この実施形態の音響処理部170には、ナビゲーション機能における経路案内音声の音声信号が、音声案内地点のところで、制御部110を通じて入力される。
この経路案内音声は、例えば「500メートル先、右折です」、「まもなく左折です」、「この先、直進です」などの案内メッセージである。この場合、前述もしたように、案内メッセージが「右折」の場合には、その音像は、聴取者である運転者の後方にあるスピーカ31L,31R位置にあるよりも、聴取者である運転者の右前方に音像定位した好ましい。同様に、案内メッセージが「左折」の場合には、聴取者である運転者の左前方に音像定位した好ましい。
そして、音楽再生装置部190からの左右2チャンネルの音楽再生信号による仮想音像定位位置と、経路案内音声による仮想音像定位位置とが重ならないようにすることで、経路案内音声を聴取者に確実に聴取させるようにすることが肝要である。
この実施形態では、経路案内音声は、音楽再生信号と同様に仮想音像定位させることにより、上記のことを実現する。この場合に、この実施形態では、仮想音像定位処理を行う音像定位処理フィルタ部10を、音楽再生信号と経路案内音声信号とで兼用する。
ここで、この第1の実施形態では、経路案内音声は、モノーラル信号とされ、入力端子51から音響処理部170に入力される。仮想音像定位処理を行う音像定位処理フィルタ部10を、兼用するには、この入力端子51を通じたモノーラル信号の経路案内音声信号を、2系統に分け、加算部33Lおよび33Rに供給すればよい。
しかし、単純に、モノーラル信号の経路案内音声信号を、2系統に分け、加算部33Lおよび33Rに供給したのでは、経路案内音声信号による仮想音像位置は、左右の仮想スピーカVSLおよびVSR(図13参照)の間の中央位置となってしまう。
そこで、この実施形態では、入力端子51を通じた経路案内音声信号は、左右チャンネル用として2系統に分けた後、可変遅延部52Lおよび52Rをそれぞれ通じて、加算部33Lおよび33Rに供給するようにする。
左右2チャンネルの音声信号において、同じタイミングで聴取されるべき音声信号が、聴取者の左右の耳に到達する時間に差が生じると、聴取者は、ハース効果により、先に到達した音声の方を優勢な音声として聴取する。その場合、聴取者は、その音声は、優勢となる方のチャンネル側に片寄せられた音像位置に定位しているとして聴取する。
したがって、可変遅延部52Rよりも可変遅延部52Lの方が遅延量が大きい場合には、経路案内音声は、右チャンネル側に片寄せられた音像位置に仮想定位することになる。逆に、可変遅延部52Lよりも可変遅延部52Rの方が遅延量が大きい場合には、経路案内音声は、左チャンネル側に片寄せられた音像位置に仮想定位することになる。
こうして、音楽信号の左右2チャンネルの音声信号に加算するために2系統に分けた経路案内音声信号について、その2系統の経路案内音声信号間における遅延量の差を制御することにより、経路案内音声を、右や左に片寄せたり、中央に定位させたりすることができる。
そして、この実施形態では、経路案内音声の音像定位位置を、当該経路案内音声で指示される方向に片寄せるようにするため、音声認識を利用するようにする。このため、この実施形態では、入力端子51を通じた経路案内音声は、音声認識部53に供給される。この音声認識部53では、入力端子51を通じた音声信号から、経路案内音声メッセージのメッセージ区間を検出すると共に、その経路案内音声メッセージ中に含まれる「右」、「左」、「直進」、などの方向を示す語を認識する。そして、音声認識部53は、その認識結果と、メッセージ区間のタイミング情報を、経路案内音声制御部54に供給する。
経路案内音声制御部54は、当該経路案内音声メッセージ区間において、音声認識部53からの経路案内音声メッセージ中に含まれる語の認識結果に応じて、可変遅延部52Lおよび52Rの遅延量を制御する。
例えば、経路案内音声メッセージ中に「右」の語が含まれている場合には、その経路案内音声メッセージ区間において、可変遅延部52Lの遅延量が、可変遅延部52Rの遅延量よりも大きくなるように制御する。したがって、この経路案内音声メッセージは、聴取者の右側に片寄った位置に仮想音像定位するようにされる。この場合において、この経路案内音声メッセージの仮想音像定位位置は、音楽信号による右チャンネルの音声信号による仮想音像定位位置とは重ならないように、経路案内音声制御部54は、可変遅延部52L,52Rの遅延量を制御するようにする。
また、例えば、経路案内音声メッセージ中に「左」の語が含まれている場合には、その経路案内音声メッセージ区間において、可変遅延部52Rの遅延量が、可変遅延部52Lの遅延量よりも大きくなるように制御する。したがって、この経路案内音声メッセージは、聴取者の左側に片寄った位置に仮想音像定位するようにされる。この場合において、この経路案内音声メッセージの仮想音像定位位置は、音楽信号による左チャンネルの音声信号による仮想音像定位位置とは重ならないように、経路案内音声制御部54は、可変遅延部52L,52Rの遅延量を制御するようにする。
また、例えば、経路案内音声メッセージ中に「直進」の語が含まれている場合には、その経路案内音声メッセージ区間において、可変遅延部52Rの遅延量と、可変遅延部52Lの遅延量とは等しくするように制御する。したがって、この経路案内音声メッセージは、聴取者の正面中央置に仮想音像定位するようにされる。
なお、この場合において、可変遅延部52Rおよび可変遅延部52Lの遅延量は、少なくとも音声認識部53で、経路案内音声メッセージを取り込んで音声認識を行う処理時間および制御部54での制御遅延時間分は含むものとされる。この遅延により、経路案内音声制御部54は、入力端子51を通じた経路案内音声メッセージの到来区間において、可変遅延部52R,52Lの遅延量の制御を可能とするものである。
このように可変遅延部52Lおよび52Rの遅延量を制御することにより、この実施形態では、経路案内音声の仮想音像を、音楽信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に定位させることができる。そのため、音楽信号は、音量を下げなくても、聴取者は、経路案内音声を認識することができる。しかし、この実施形態では、経路案内音声を、より、確実に聴取者に聴取させるようにするために、音楽信号は、音量制御するようにする。
ゲイン可変部32Lおよび32Rは、その音量制御のためのものである。そして、この実施形態では、経路案内音声制御部54は、加算部33L,33Rに経路案内音声メッセージが供給される区間においては、ゲイン可変部32Lおよび32Rのゲインを小さくして、音楽音声の音量を低下させるようにしている。
以上のようにして、この第1の実施形態によれば、可変遅延部52Lおよび52Rの遅延量を制御することにより、経路案内音声メッセージにより指示される方向に応じた位置側に、経路案内音声の音像を仮想音像定位させることができる。しかも、この実施形態では、経路案内音声の仮想音像を、音楽信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に定位させるようにしているので、音楽信号は、音量を下げなくても、下げる音量を僅かにしても、聴取者は、経路案内音声を認識することができる。
[第2の実施形態]
図5は、第2の実施形態の音響処理装置を説明するためのブロック図である。図5に示すように、この第2の実施形態の音響処理装置は、トランスオーラルシステムフィルタ部20に変えて、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60を用いる。その他は、図1に示した第1の実施形態の音響処理装置と同様に構成される。この図5の第2の実施形態の音響処理装置において、図1に示した第1の実施形態の音響処理装置と同様の構成部分には、同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図5は、第2の実施形態の音響処理装置を説明するためのブロック図である。図5に示すように、この第2の実施形態の音響処理装置は、トランスオーラルシステムフィルタ部20に変えて、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60を用いる。その他は、図1に示した第1の実施形態の音響処理装置と同様に構成される。この図5の第2の実施形態の音響処理装置において、図1に示した第1の実施形態の音響処理装置と同様の構成部分には、同じ参照符号を付し、その詳細な説明は省略する。
図3に示したように、スピーカ31L,31Rが設けられるヘッドレスト部St1と、聴取者3の頭部とは通常近接している。このため、スピーカ31L,31Rのそれぞれから、聴取者の反対側の耳に入射する音声のクロストーク成分は、スピーカ31L,31Rのそれぞれから当該スピーカに対応する側の耳に入射する音声成分よりも格段に小さい。
つまり、上述の第1の実施形態においては処理対象とした左から右、また、その逆のクロストーク成分の伝達関数G12、G21は、伝達関数G11、G22よりも格段に影響が小さい。そこで、このクロストーク成分の伝達関数G12、G21は無視することができる。
このことにかんがみ、クロストーク成分の考慮を通常のトランスオーラルシステムから省略することにより、簡略化を図ったものが、図5に示した簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60である。
この簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60は、図5に示すように、2個のフィルタ部61および62のみからなる簡略化された構成とされる。フィルタ部61は、ヘッドレスト部St1に設けられた左チャンネルスピーカ31Lから、聴取者3の左耳までの音声の伝達関数G1の逆関数で、音声信号をフィルタ処理するものである。また、フィルタ部62は、ヘッドレスト部St1に設けられた右チャンネルスピーカ31Rから、聴取者3の右耳までの音声の伝達関数G2の逆関数で、音声信号をフィルタ処理するものである。
このように、クロストーク成分を無視するようにした場合であっても、左右チャンネルのスピーカ31L,31Rから放音される音声の定位感に対する影響は殆どないことは実験により確認されている。
そして、この第2の実施形態の場合には、メモリ部150には、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60の2つのフィルタ部61,62のそれぞれに対して設定するフィルタ係数が記憶されている。
このフィルタ係数は、前述した第1の実施形態の音響処理装置の場合と同様にして、左右2チャンネルのスピーカ31L,31Rが設けられるヘッドレスト部を用いて測定された伝達関数G1,G2に応じて算出された係数データである。この第2の実施形態においても、聴取者の種々の頭部の位置変化に応じた複数の係数データが、その位置情報と対応付けられてメモリ部150に記憶されている。
そして、制御部110は、検出部40からの聴取者の頭部の位置の検出結果の位置情報を用いて、メモリ部150に記録されている係数データテーブルを参照する。そして、制御部110は、現在の聴取者の頭部の位置に応じた各フィルタ部61,62に供給する係数データを、メモリ部150から読み出す。そして、読み出した係数データを、それぞれ対応するフィルタ部61,62のそれぞれに供給して、設定するようにする。
この第2の実施形態の音響処理装置によれば、上述した第1の実施形態と同様の作用効果が得られる上に、以下のような効果が得られる。
メモリ部150に用意しておく係数データは、フィルタ部61,62に対するものだけでよいので、第1の実施形態の場合に比較して、メモリ部150に記憶保持しておくデータ量を少なくすることができる。したがって、メモリ部150として記憶容量の小さなものを用いることができる。
そして、図5に示した第2の実施形態の音響処理装置の場合には、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60を用いることにより、音響処理装置の構成を簡単にすることができる。
[第3の実施形態]
この第3の実施形態の第1の特徴は、仮想音像定位処理およびスピーカからの直接音の影響を除去する補正処理に関するフィルタ部の構成を簡略化することである。また、この第3の実施形態の第2の特徴は、経路案内音声信号による仮想音像を、音楽信号による仮想音像よりも、聴取者に近い側に定位させることができるようにすることである。
この第3の実施形態の第1の特徴は、仮想音像定位処理およびスピーカからの直接音の影響を除去する補正処理に関するフィルタ部の構成を簡略化することである。また、この第3の実施形態の第2の特徴は、経路案内音声信号による仮想音像を、音楽信号による仮想音像よりも、聴取者に近い側に定位させることができるようにすることである。
後者に関し、上述の第1および第2の実施形態では、仮想音像定位処理を、経路案内音声と、音楽信号とで共通の処理部10および20を用いて行なった。そのため、経路案内音声信号による仮想音像位置と、音楽信号による仮想音像位置とは、聴取者からの距離位置としては、ほぼ同じになり、聴取者に対して前後関係に異ならせることはできない。
そこで、この第3の実施形態では、仮想音像定位処理は、音楽信号に対するものと、経路案内音声信号に対するものとでは、別個、独立に設けるようにする。
図6は、この第3の実施形態の音響処理装置を説明するためのブロック図である。先ず、第1の特徴について説明する。
図6に示すように、この第3の実施形態の音響処理装置は、第2の実施形態の簡易型トランスオーラルフィルタ部60を省略する。そして、音像定位処理フィルタ部10の機能と、簡易型トランスオーラルフィルタ部60の機能とを、1つのフィルタ部で実現した合成処理フィルタ部70を設ける。これにより、仮想音像定位処理およびスピーカからの直接音の影響を除去する補正処理に関するフィルタ部の構成の簡略化を図っている。
合成処理フィルタ部70は、前述した頭部伝達関数M11,M12,M21,M22を、左右2チャンネルの音声信号に畳み込む処理を行なうと共に、再生音場におけるスピーカからの直接的に聴取者の耳に飛び込む音声の影響を除去する処理を行なう。
このため、合成処理フィルタ部70は、4個のフィルタ部71,72,73,74と、2個の加算部75および76を備える。
フィルタ部71は、左入力端子Linを通じて入力され、ゲイン可変部32Lを通じた左チャンネルの音声信号を伝達関数M11で処理する。これと同時に、フィルタ部71は、仮想音像定位位置VSLに対して、伝達関数G1の逆関数1/G1により、スピーカ31Lからの直接的に聴取者に飛び込む音声の影響を除去する処理をする。このため、このフィルタ部71のフィルタ係数は、M11/G1の伝達関数に対応したものとされる。このフィルタ部71からの音声信号は、左チャンネル用の加算部75に供給される。
フィルタ部72は、左入力端子Linを通じて入力され、ゲイン可変部32Lを通じた左チャンネルの音声信号を伝達関数M12で処理する。これと同時に、フィルタ部72は、仮想音像定位位置VSRに対して、伝達関数G2の逆関数1/G2により、スピーカ31Rからの直接的に聴取者に飛び込む音声の影響を除去するものである。このため、このフィルタ部72のフィルタ係数は、M12/G2の伝達関数に対応したものとされる。このフィルタ部72からの音声信号は、右チャンネル用の加算部76に供給される。
フィルタ部73は、右入力端子Rinを通じて入力され、ゲイン可変部32Rを通じた右チャンネルの音声信号を伝達関数M21で処理する。これと同時に、フィルタ部72は、仮想音像定位位置VSRに対して、伝達関数G1の逆関数1/G1により、スピーカ31Lからの直接的に聴取者に飛び込む音声の影響を除去するものである。このため、このフィルタ部73のフィルタ係数は、M21/G1の伝達関数に対応したものとされる。このフィルタ部73からの音声信号は、左チャンネル用の加算部75に供給される。
フィルタ部74は、右入力端子Rinを通じて入力され、ゲイン可変部32Rを通じた左チャンネルの音声信号を伝達関数M22で処理する。これと同時に、フィルタ部72は、仮想音像定位位置VSRに対して、伝達関数G2の逆関数1/G2により、スピーカ31Rからの直接的に聴取者に飛び込む音声の影響を除去するものである。このため、このフィルタ部74のフィルタ係数は、M22/G2の伝達関数に対応したものとされる。このフィルタ部74からの音声信号は、右チャンネル用の加算部76に供給される。
そして、加算部75は、フィルタ部71からの音声信号と、フィルタ部73からの音声信号(右チャンネルから左チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。また、加算部76は、フィルタ部74からの音声信号と、フィルタ部72からの音声信号(左チャンネルから右チャンネルへのクロストーク成分)とを加算する。
これら加算部75および76の加算結果の音声信号は、アンプ34Lおよび34Rをそれぞれ通じ、また、経路案内音声信号との加算部35Lおよび35Rをそれぞれ通じて、スピーカ31Lおよび31Rに供給される。
この第3の実施形態の場合には、メモリ部150には、合成処理フィルタ部70の4つのフィルタ部71、72、73、74のそれぞれに対して設定するフィルタ係数が記憶されている。
このフィルタ係数は、仮想音像定位のためのフィルタ係数と、前述の場合と同様にして、左右2チャンネルのスピーカ31L,31Rが設けられるヘッドレスト部を用いて測定された伝達関数G1,G2とに応じて算出された係数データである。この第2の実施形態においても、聴取者の種々の頭部の位置変化に応じた複数の係数データが、その位置情報と対応付けられてメモリ部150に記憶されている。
そして、制御部110は、検出部40からの聴取者の頭部の位置の検出結果の位置情報を用いて、メモリ部150に記録されている係数データテーブルを参照する。そして、制御部110は、現在の聴取者の頭部の位置に応じた各フィルタ部71、72,73、74に供給する係数データを、メモリ部150から読み出す。そして、読み出した係数データを、それぞれ対応するフィルタ部71、72、73,74のそれぞれに供給して、設定するようにする。
以上のように構成された合成処理フィルタ部70からの音声信号は、図5において、音像定位処理フィルタ部10および簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部60により処理された音声信号と同じものとなる。したがって、この第3の実施形態においても、スピーカ31L,31Rから放音された音声により、上述の実施形態と同様に、音楽音声信号については、位置VSLおよびVSRに仮想音像定位されると共に、G1,G2の伝達関数の影響が除去される。
次に、この第3の実施形態の第2の特徴について説明する。すなわち、この第3の実施形態においては、経路案内音声信号用の合成処理フィルタ部80を設ける。この合成処理フィルタ部80は、2個のフィルタ部81および82を備える。
そして、入力端子51を通じて入力された経路案内音声信号は、上述の実施形態と同様に、2系統にされて、それぞれ可変遅延部52Lおよび52Rを通じて、この音像定位処理フィルタ部80のフィルタ部81および82にそれぞれ供給される。
そして、この第3の実施形態では、この音像定位処理フィルタ部80により、図7に示すように、聴取者3の正面中央位置VNVに、経路案内音声による音像が仮想音像定位するように構成される。この場合において、図7に示すように、経路案内音声の仮想音像定位位置VNVは、音楽信号の仮想音像定位位置VSLおよびVSRよりも、聴取者3側に、より近い位置となるようにされる。図7の例では、音楽信号の仮想音像定位位置VSLおよびVSRよりも、距離dだけ、聴取者3側に近い位置に、経路案内音声による音像が仮想音像定位するように構成されている。
このように構成するために、この第3の実施形態においては、図8に示すように、聴取者の位置に配置したダミーヘッドDHに対して、図4に示したスピーカSPL,SPRよりも、距離dだけ聴取者側に近い位置に、実スピーカSPNVを設置する。このスピーカSPNVの位置は、経路案内音声の音像を仮想音像定位させたい位置である。
そして、実スピーカSPNVから放音される音声をダミーヘッドDHの両耳部分に置いたマイクロホンにて収音する。そして、スピーカSPNVから放音された音声が、ダミーヘッドDHの両耳部分に到達したときには、どのように変化するか示す頭部伝達関数(HRTF)M3,M4を、マイクロホンで収音した音声信号から予め測定する。
そして、この第3の実施形態では、合成処理フィルタ部70と同様に、測定して得た頭部伝達関数M3,M4と、伝達関数G1,G2の逆関数1/G1および1/G2とを合成したフィルタ係数を、メモリ部150に、フィルタ部81および82用のフィルタ係数として記憶させておくようにする。
制御部110は、ナビゲーション機能の動作時には、メモリ部150から、このフィルタ係数M3/G1を読み出して、フィルタ部81に設定すると共に、フィルタ係数M4/G2を読み出して、フィルタ部82に設定するようにする。
そして、この実施形態では、合成処理フィルタ部80のフィルタ部81からの経路案内音声信号は、加算部35Lに供給され、フィルタ部82からの経路案内音声信号は、加算部35Rに供給される。
そして、経路案内音声制御部54は、上述の実施形態と同様に、音声認識部53からの経路案内音声メッセージにより指示される方向に応じて、可変遅延部52Lおよび52Rが制御される。
この結果、可変遅延部52Lの遅延量が可変遅延部52Rの遅延量と等しいときには、経路案内音声による音像は、前述した図7の位置VNVに仮想音像定位する。また、可変遅延部52Lの遅延量が可変遅延部52Rの遅延量よりも大きいときには、経路案内音声による音像は、中央位置VNVよりも右側にシフトした位置に仮想音像定位する。さらに、可変遅延部52Lの遅延量が可変遅延部52Rの遅延量よりも小さいときには、経路案内音声による音像は、中央位置VNVよりも左側にシフトした位置に仮想音像定位する。
こうして、この第3の実施形態の音響処理装置によれば、上述した第1の実施形態と同様の作用効果が得られる上に、以下のような効果が得られる。
図6に示した第3の実施形態の音響処理装置の場合には、仮想音像定位のためのフィルタ処理部と、簡易型トランスオーラルシステムフィルタ部とを合体させた構成であるので、音響処理装置の構成を非常に簡単にすることができる。
また、経路案内音声の仮想音像を、音楽音声の仮想音像位置よりも聴取者3側に近い位置に定位させることが可能であるので、経路案内音声を、聴取者は、より確実に聴取することが可能になる。
[第4の実施形態]
上述の第1〜第3の実施形態では、経路案内音声の仮想音像定位位置を、経路案内音声メッセージにより指示される方向に応じた方向側にずらすために、可変遅延部を設けるようにした。この可変遅延部の代わりに、ゲイン可変部を用いることもできる。
上述の第1〜第3の実施形態では、経路案内音声の仮想音像定位位置を、経路案内音声メッセージにより指示される方向に応じた方向側にずらすために、可変遅延部を設けるようにした。この可変遅延部の代わりに、ゲイン可変部を用いることもできる。
第4の実施形態は、その場合の実施形態である。図9に、この第4の実施形態による音響処理装置のブロック図を示す。この図9の実施形態は、第3の実施形態の場合に、第4の実施形態を適用した場合であるが、第1の実施形態および第2の実施形態に対しても適用できる。
すなわち、前述の実施形態における可変遅延部52Lおよび52Rの代わりに、ゲイン可変部55Lおよび55Rを設ける。そして、このゲイン可変部55Lおよび55Rは、経路案内音声制御部54により、経路案内音声メッセージにより指示される方向に応じてゲインが可変制御される。
すなわち、経路案内音声により指示される方向が右であるときには、制御部54は、経路案内音声制御部54は、ゲイン可変部55Lのゲインは小さく、ゲイン可変部55Rのゲインは大きくするように制御する。すると、経路案内音声による音像は、ゲイン可変部55Lと55Rとの間のゲイン差に応じた分だけ、中央位置VNVよりも右側にシフトされた仮想音像位置にシフトされる。
また、経路案内音声により指示される方向が左であるときには、制御部54は、経路案内音声制御部54は、ゲイン可変部55Lのゲインは大きく、ゲイン可変部55Rのゲインは小さくするように制御する。すると、経路案内音声による音像は、ゲイン可変部55Lと55Rとの間のゲイン差に応じた分だけ、中央位置VNVよりも右側にシフトされた仮想音像位置に左側にシフトされる。
こうして、この第4の実施形態においても、上述した実施形態と同様の作用効果が得られる。
なお、ゲイン可変部55Lおよび55Rのゲイン制御に際しては、一方のゲインをゼロとするようにしても良いことは、前述した可変遅延部を用いた場合と同様である。
[第5の実施形態]
実際の再生音場においては、聴取者の周囲の壁などからの影響を受けて、聴取者を中心とした左右対称の音響特性となっていない場合が多い。例えば、図3の例のヘッドレストSt1が、図10に示すように、自動車の運転席の座席シートのヘッドレストであった場合を考える。この場合には、聴取者3の右側は運転席側のドアのウインドー91が間近に迫り、一方、左側のドアのウインドー92は助手席を介して、比較的離れた状態になっており、聴取者3に対しては、左右非対称の音響特性を持つ環境となる。
実際の再生音場においては、聴取者の周囲の壁などからの影響を受けて、聴取者を中心とした左右対称の音響特性となっていない場合が多い。例えば、図3の例のヘッドレストSt1が、図10に示すように、自動車の運転席の座席シートのヘッドレストであった場合を考える。この場合には、聴取者3の右側は運転席側のドアのウインドー91が間近に迫り、一方、左側のドアのウインドー92は助手席を介して、比較的離れた状態になっており、聴取者3に対しては、左右非対称の音響特性を持つ環境となる。
このため、聴取者3の右耳には運転席側のドアのウインドー91に反射したスピーカ31Lやスピーカ31Rからの音声成分が、左側よりも、より強く飛び込むようになって、聴取者3の右耳で聴取する音声の方が強勢となる。すると、左チャンネルについての仮想音像定位位置が、想定された位置VSLよりも、図11に示すように、より左側にシフトした位置VSL´となるように感ぜられ、仮想音像の定位位置が左側に寄ってしまう、あるいは所望のステレオ音像感が得られないことになる。
この第5の実施形態は、この点にかんがみ、自動車の車内のような聴取者に対して左右非対称な音響特性を持つ環境においても、音楽信号による仮想音像定位が左右のどちらかに寄ってしまう、あるいは所望の音像感が得られなくなるのを防止することができる音響処理装置提供する。
図12に、この第5の実施形態の音響処理装置の構成例のブロック図を示す。この図12の構成例は、上述した第4の実施形態の場合に、第5の実施形態を適用した場合である。なお、上述した第1〜第3の実施形態の場合にも、同様に、第5の実施形態を適用することが可能である。
この第5の実施形態では、ゲイン可変部32Lおよび32Rのそれぞれの入力側に、遅延部36L,36Rを設ける。そして、この遅延部36Lおよび36Rにより、自動車の車内のような聴取者に対して左右非対称な音響特性を持つ環境においても、音楽信号による仮想音像定位が左右のどちらかに寄ってしまうのを防止するようにする。
例えば、実施形態の音響処理装置が、運転席の座席シートStのヘッドレストSt1にスピーカ32L,32Rが設けられたものに対して適用された場合には、前述の図11に示したように、左の仮想スピーカ位置VSLが、位置VSL´のように左にずれる。
そこで、このような場合には、遅延部36Lの遅延量を、遅延部36Rの遅延量に対して小さくするように設定する。すると、左右2チャンネルの音声信号において、同じタイミングで聴取されるべき音声信号が、聴取者の左右の耳に到達する時間に差が生じる。聴取者は、ハース効果により、先に到達した音声の方を優勢な音声として聴取する。そのため、この場合には、左チャンネルの音声が優勢となるように調整される。こうして、前記左右チャンネルの遅延量の差により、左にずれた左の仮想音源定位位置VSLが、所期の位置になるように補正される。これにより、聴取者が、所望の音像感が得られなくなるのを防止することができる。
なお、この場合に、遅延部36Rの遅延量をゼロとして、遅延部36Lのみを挿入し、その遅延量を調整するようにしてもよい。
また、例えば自動車の助手席の座席シートのヘッドレストにスピーカ32L,32Rが設けられたものに対して適用された場合には、右チャンネルの仮想スピーカ位置VSRが、右にずれる。この場合には、遅延部36Rの遅延量を、遅延部36Lの遅延量に対して小さくするように設定する。すると、その左右チャンネルの遅延量の差により、右にずれた仮想音源定位位置が、所期の位置になるように補正される。
この場合も、遅延部36Lの遅延量をゼロとして、遅延部36Rのみを挿入し、その遅延量を調整するようにしてもよい。
なお、遅延部36Lおよび36Rを、それぞれ外部から遅延量が調整可能な可変遅延手段により構成し、聴取者がスライド操作などにより、その遅延量を可変調整することができるように構成してもよい。その場合には、聴取者は、実際の再生音場において、仮想音源定位位置が適切な位置となるように、実際の再生音で確かめながら調整することが可能になる。
なお、経路案内音声についても、音楽音声と同様に、自動車の車内のような聴取者に対して左右非対称な音響特性を持つ環境においては、所期の仮想音源定位位置よりもずれてしまう。そこで、この経路案内音声については、図12の例の場合においては、可変遅延部52Lおよび52Rに設定する可変遅延量を、当該ずれ分を考慮したものとするようにする。
また、図9に示した第3の実施形態の場合には、ゲイン可変部55Lおよび55Rの入力側に、聴取者に対して左右非対称な音響特性を持つ環境における、仮想音像定位位置のずれ分を補正する遅延部を、それぞれ設けるようにすればよい。
[その他の実施形態および変形例]
なお、上述の実施形態では、経路案内音声メッセージが指示する方向を判断する手段としては、音声認識部53で音声認識して判断する手段を用いたが、これに限られるものではない。
なお、上述の実施形態では、経路案内音声メッセージが指示する方向を判断する手段としては、音声認識部53で音声認識して判断する手段を用いたが、これに限られるものではない。
例えば、経路案内音声信号に、予め、当該経路案内音声メッセージにより指示される方向を示すタグ情報などの方向識別用情報を埋め込んでおき、当該方向識別用情報を経路案内音声信号から抽出して、判断するようにしてもよい。その場合、方向識別用情報は、経路案内音声メッセージの先頭に挿入するようにする。そして、経路案内音声メッセージの最後には、当該経路案内音声メッセージの終了を示すタグ情報などの終了識別用情報を挿入するようにすると良い。
なお、音声認識部53で音声認識を行なう場合においても、経路案内音声メッセージの先頭には、経路案内音声の開始識別用情報を挿入し、経路案内音声メッセージの最後には、終了識別用情報を挿入しておくようにするとよい。
なお、上述の実施形態の説明では、経路案内音声信号は、モノーラル信号としたが、左右2チャンネル音声信号としても勿論よい。その場合には、第3の実施形態において図6を用いて説明した経路案内音声信号用の合成処理フィルタ部80は、合成処理フィルタ部70と同様の構成となるものである。
そして、経路案内音声を左右2チャンネル音声信号とした場合には、経路案内音声メッセージで示す方向に応じて、2チャンネル音声信号により音像位置を片寄せることができる。例えば、経路案内音声メッセージで示す方向が右方向であれば、右チャンネルを左チャンネルよりも優勢(強勢)とし、当該方向が左方向であれば、左チャンネルを右チャンネルよりも優勢(強勢)とすることもできる。さらには、経路案内音声メッセージで示す方向が右方向であれば、右チャンネルにのみ経路案内音声メッセージを送出し、当該方向が左方向であれば、左チャンネルにのみ経路案内音声メッセージを送出するようにすることもできる。
このようにする場合においても、第1および第2の実施形態の場合には、仮想音像定位処理部が、音楽信号と共通に兼用されているので、両者の仮想音像定位位置が一致してしまうことになる。そこで、第1および第2の実施形態の場合には、経路案内音声が2チャンネル音声であっても、上述と同様にして、可変遅延部52L,52Rや可変ゲイン部55L,55Rを用いて、両者の仮想音像定位位置を、上述の実施形態と同様に異ならせるものである。
一方、第3の実施形態の場合には、仮想音像定位処理部が、経路案内音声信号用が音楽信号用とは別個に設けられている。このため、上述のように、経路案内音声信号が、指示する方向に応じて音像位置を片寄せるようにした2チャンネル音声信号であれば、可変遅延部52L,52Rや可変ゲイン部55L,55Rを用いなくてもよい。この場合、経路案内音声による音像は、上述したように、音楽音声の仮想音像位置よりも、聴取者に近い位置に定位されるからである。
なお、上述の実施形態の説明では、遅延手段およびゲイン調整手段により、仮想音像定位位置を調整するようにした。
しかし、第3の実施形態のように、経路案内音声用の仮想音像定位処理部を、音楽信号用とは別個に備える場合には、そのフィルタ係数として、経路案内音声メッセージで指示される方向に応じたものを設定制御しても良い。
すなわち、例えば「右折」の経路案内音声に対しては、右前方に仮想音像定位させるようにする頭部伝達関数を求めておき、それをメモリ部150に記憶保持する。また、「左折」の経路案内音声に対しては、左前方に仮想音像定位させるようにする頭部伝達関数を求めておき、それをメモリ部150に記憶保持する。そして、制御部54は、上述の実施形態と同様に、音声認識部の認識結果や、経路案内音声信号に予め埋め込まれた音声メッセージの種類を示すタグ情報などに基づいて方向を判断し、その判断結果を制御部110に供給する。制御部110は、メモリ部150から、対応する方向に定位させるための頭部伝達関数を読み出し、それを音像定位フィルタ部に供給するようにする。
また、上述の実施形態では、聴取者の頭部の移動を考慮して、伝達関数G11、G12、G21、G22に応じてフィルタ係数を、メモリ部150に、予め、記憶しておくようにした。しかし、ヘッドレスト部St1の形状、材質、スピーカデバイスの設置位置などスピーカの性能や特性などが異なれば、フィルタ係数も変更すべきである。
そこで、ヘッドレスト部St1の形状、材質、スピーカデバイスの設置位置などスピーカの性能や特性などに応じた、伝達関数G11、G12、G21、G22に対応するフィルタ係数をも、メモリ部150に記憶しておくようにしてもよい。その場合には、使用されるヘッドレスト部St1の形状、材質や、スピーカデバイスの設置位置などスピーカの性能や特性に応じたフィルタ係数を選択するように、制御部110に対して、予め設定入力しておくようにするとよい。
上述の実施形態は、車載用のナビゲーション装置に、この発明を適用した場合であるが、この発明は、車載用のナビゲーション装置にのみ適用されるものではない。例えば、スピーカの代わりにヘッドホンを用いるようなパーソナルナビゲーションシステムにも適用可能である。
また、音楽再生機能付きの携帯電話端末で、ヘッドホンを用いて、音楽を聴きながらハンズフリーの通話をする場合において、通話音声を左右の一方の耳側で聴取するような場合にも適用できる。その他、種々の形態の音響処理装置に、この発明は適用可能である。
10…音像定位処理フィルタ部、20…トランスオーラルシステムフィルタ部、31L,31R…スピーカ、32L,32R…ゲイン可変部、51…経路案内音声信号の入力端子、52L,52R…可変遅延部、53…音声認識部、54…経路案内音声制御部、70,80…合成処理フィルタ部
Claims (20)
- スピーカと、
第1の音声信号を前記スピーカに供給する第1の音声処理系と、
前記第1の音声信号を前記スピーカにより音響再生しているときに、前記第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理して前記スピーカに供給し、前記第2の音声信号による仮想音像を、前記第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする第2の音声処理系と、
を備える音響処理装置。 - 請求項1に記載の音響処理装置において、
前記第1の音声処理系は、前記第1の音声信号を仮想音像定位処理して、前記スピーカに供給するものである
音響処理装置。 - 請求項1または請求項2に記載の音響処理装置において、
前記第1の音声処理系には、前記第1の音声信号をゲイン調整するゲイン可変手段を備え、
前記第2の音声信号を前記スピーカに供給するときに、前記ゲイン可変手段を制御して、前記スピーカに供給する第1の音声信号のゲインを低下させる制御手段を
備える音響処理装置。 - 請求項1または請求項3に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号による仮想音像定位位置は、前記第1の音声信号による音像定位位置よりも、聴取者に近くする
音響処理装置。 - 請求項2に記載の音響処理装置において、
前記スピーカは、左右2チャンネル用の2個のスピーカからなると共に、少なくとも前記第1の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、
前記第1の音声処理系および前記第2の音声処理系において、仮想音像定位処理部を兼用すると共に、前記第2の音声信号は、前記仮想音像定位処理部の前段において、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するものであり、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号を、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するに際して、チャンネル間で異なる遅延を施すことにより、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に、前記第2の音声信号による音像を仮想音像定位させるための遅延手段を設ける
音響処理装置。 - 請求項2に記載の音響処理装置において、
前記スピーカは、左右2チャンネル用の2個のスピーカからなると共に、少なくとも前記第1の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、
前記第1の音声処理系および前記第2の音声処理系において、仮想音像定位処理部を兼用すると共に、前記第2の音声信号は、前記仮想音像定位処理部の前段において、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するものであり、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号を、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するに際して、チャンネル間で異なるゲイン調整を施すことにより、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に、前記第2の音声信号による音像を仮想音像定位させるためのゲイン調整手段を設ける
音響処理装置。 - 請求項5に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号について、少なくとも「左」、「右」を含む特定の語を認識する音声認識手段が含まれ、
前記音声認識手段で、前記第2の音声信号から前記「左」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の左側になり、前記「右」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の右側になるように、前記遅延手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項6に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号について、少なくとも「左」、「右」を含む特定の語を認識する音声認識手段が含まれ、
前記音声認識手段で、前記第2の音声信号から前記「左」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の左側になり、前記「右」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の右側になるように、前記ゲイン調整手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項5に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号には、仮想音像定位位置させたい位置に応じたタグ信号が、対象音声信号区間の少なくとも先頭に付加されており、
前記第2の音声信号に含まれる前記タグ信号を解析して、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が当該タグ信号に応じた仮想音像定位位置となるように、前記遅延手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項6に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号には、仮想音像定位位置させたい位置に応じたタグ信号が、対象音声信号区間の少なくとも先頭に付加されており、
前記第2の音声信号に含まれる前記タグ信号を解析して、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が当該タグ信号に応じた仮想音像定位位置となるように、前記ゲイン調整手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項5または請求項6に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、聴取者の左側に当該第2の音声信号による仮想音像を定位させたい場合には、左チャンネルが右チャンネルよりも優勢、あるいは、左チャンネルのみの音声信号とし、聴取者の右側に当該第2の音声信号による仮想音像を定位させたい場合には、右チャンネルが左チャンネルよりも優勢、あるいは、右チャンネルのみの音声信号とする
音響処理装置。 - 請求項2に記載の音響処理装置において、
前記スピーカは、左右2チャンネル用の2個のスピーカからなると共に、少なくとも前記第1の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、
前記第1の音声処理系および前記第2の音声処理系は、仮想音像定位処理部を、それぞれ独立に備えると共に、前記仮想音像定位処理後の左右2チャンネルの前記第1の音声信号に、前記仮想音像定位処理後の前記第2の音声信号を加算するものであり、
前記第2の音声処理系の前記仮想音像定位処理部の前段には、前記第2の音声信号を、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するに際して、チャンネル間で異なる遅延を施すことにより、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に、前記第2の音声信号による音像を仮想音像定位させるための遅延手段を設ける
音響処理装置。 - 請求項2に記載の音響処理装置において、
前記スピーカは、左右2チャンネル用の2個のスピーカからなると共に、少なくとも前記第1の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、
前記第1の音声処理系および前記第2の音声処理系は、仮想音像定位処理部を、それぞれ独立に備えると共に、前記仮想音像定位処理後の左右2チャンネルの前記第1の音声信号に、前記仮想音像定位処理後の前記第2の音声信号を加算するものであり、
前記第2の音声処理系の前記仮想音像定位処理部の前段には、前記第2の音声信号を、前記左右2チャンネルの第1の音声信号の各チャンネルの信号に加算するに際して、チャンネル間で異なる遅延を施すことにより、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置とは異なる位置に、前記第2の音声信号による音像を仮想音像定位させるためのゲイン調整手段を設ける
音響処理装置。 - 請求項12に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号について、少なくとも「左」、「右」を含む特定の語を認識する音声認識手段が含まれ、
前記音声認識手段で、前記第2の音声信号から前記「左」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の左側であって、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置よりも聴取者側に近くになり、前記「右」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の右側であって、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置よりも聴取者側に近くになるように、前記遅延手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項13に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声処理系には、前記第2の音声信号について、少なくとも「左」、「右」を含む特定の語を認識する音声認識手段が含まれ、
前記音声認識手段で、前記第2の音声信号から前記「左」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の左側であって、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置よりも聴取者側に近くになり、前記「右」が認識されたときには、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が聴取者の右側であって、前記第1の音声信号による仮想音像定位位置よりも聴取者側に近くになるように、前記ゲイン調整手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項12に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号には、仮想音像定位位置させたい位置に応じたタグ信号が、対象音声信号区間の少なくとも先頭に付加されており、
前記第2の音声信号に含まれる前記タグ信号を解析して、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が当該タグ信号に応じた仮想音像定位位置となるように、前記遅延手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項13に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号には、仮想音像定位位置させたい位置に応じたタグ信号が、対象音声信号区間の少なくとも先頭に付加されており、
前記第2の音声信号に含まれる前記タグ信号を解析して、前記第2の音声信号による仮想音像定位位置が当該タグ信号に応じた仮想音像定位位置となるように、前記ゲイン調整手段を制御する制御部を備える
音響処理装置。 - 請求項12または請求項13に記載の音響処理装置において、
前記第2の音声信号は、左右2チャンネルのステレオ信号であり、聴取者の左側に当該第2の音声信号による仮想音像を定位させたい場合には、左チャンネルが右チャンネルよりも優勢、あるいは、左チャンネルのみの音声信号とし、聴取者の右側に当該第2の音声信号による仮想音像を定位させたい場合には、右チャンネルが左チャンネルよりも優勢、あるいは、右チャンネルのみの音声信号とする
音響処理装置。 - 請求項1〜請求項18のいずれかに記載の音響処理装置において、
前記スピーカは、聴取者が座る椅子のヘッドレストに設けられている
音響処理装置。 - 第1の音声信号をスピーカにより音響再生しているときに、前記第1の音声信号とは異なる第2の音声信号を仮想音像定位処理して前記スピーカに供給し、前記第2の音声信号による仮想音像を、前記第1の音声信号による音像定位位置とは異なる所定の位置に仮想音像定位させるようにする音響処理方法。
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