<第1実施形態>
以下、図面に基づいて、本実施形態に係る音出力コントローラ100について説明する。本実施形態の音出力コントローラ100は、移動体としての車両1000に搭載され、車両1000の外部で発生する音の情報を車両1000の室内に提供する装置である。
図1は、本実施形態に係る音出力コントローラ100を含む情報提供装置Aのブロック構成図である。
同図に示すように、情報提供装置Aは、音出力コントローラ100と、車両の周囲の音を集音する集音装置200と、音出力コントローラ100により制御された音を出力させる音響装置400とを有する。これらの各装置は、CAN(Controller Area Network)などの車載LANによって接続され、相互に情報の授受を行う。
また、同図に示すように、本実施形態の音出力コントローラ100は、集音装置200により取得された音を制御して、音響装置400により出力させるためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory )2と、このROM2に格納されたプログラムを実行することで、音出力コントローラ100として機能する動作回路としてのCPU(Central Processing Unit)1と、アクセス可能な記憶装置として機能するRAM(Random Access Memory)3と、を備える。なお、動作回路としては、CPU(Central Processing Unit)1に代えて又はこれとともに、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などを用いることができる。
図2は、図1に示す情報提供装置Aのハードウェア構成の具体例を示す図である。
図2に示すように、車両の外部に設けられた集音装置200が備える前方マイクロホン201,202及び後方マイクロホン211,212により集音された音の情報(信号)は、音出力コントローラ100へ入力される。
この前方マイクロホン201,202は車両の前方に設置され、車両前方の音を集音する。本実施形態において、前方マイクロホン201,202は、エンジン音が入力されにくい位置に配置することが好ましい。また、後方マイクロホン211,212は車両の後方の左右の外壁付近に設置され、車両左右側面及び車両後方の音を集音する。前方マイクロホン201,202及び後方マイクロホン211,212は、一般的なダイナミック型等のマイクロホンを使用できる。
音出力コントローラ100は、集音装置200により取得された音を増幅するマイクアンプ11を有する。マイクアンプ11は、フィルタを備え、集音された音を適切な大きさの電気信号等に変換する機能を有する。このマイクアンプ11は、マイクロホン200のゲインを後段のAD変換器12のダイナミックレンジに合せて増幅する機能を備えていればよく、一般的に用いられる増幅装置を使用することができる。さらに、AD変換器12は、取得した音の情報をアナログ信号からデジタル信号に変換し、演算装置1すなわちCPU1へ送出する。加えて、記憶装置3すなわちROM3は予め音の出力制御に必要な情報を記憶する。そして、演算装置1は、記憶装置3を参照し、必要な情報を参照して音の出力処理を実行する。演算装置1が出力する制御信号は、DA変換機13を介して音響装置400へ送出される。
また、音響装置400は、音出力コントローラ100から出力された電気信号等を増幅し、スピーカ401,402,411,412等から出力する。増幅装置410およびスピーカ401,402,411,412等は一般的に用いられるものを使用することができる。
図3は、図1に示す本実施形態の音出力コントローラ100の機能ブロック構成を説明するための図である。
同図に示すように、本実施形態の音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201,202(集音装置200)により集音された音に対応する第1音信号を取得する第1取得機能101aと、後方マイクロホン211,212(集音装置200)により集音された音に対応する第2音信号を取得する第2取得機能101bと、第1音信号に基づいて、所定の仮想音源からその音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する第1音出力信号生成機能102と、第1音出力信号及び/又は第2音信号に基づいて、車両の室内に予め設定された所定の各制御点に音像が定位するように制御された音像形成信号を生成する音像生成機能103と、生成された音像形成信号に基づく音を出力させる音出力機能104とを備える。
音出力コントローラ100は、これらの機能を実現するためのソフトウェアと、上述したハードウェアの協働により各機能を実行させる。
まず、本実施形態の音出力コントローラ100の制御対象となる車両外部の音を集音する集音装置200について説明する。
本実施形態の集音装置200は、車両の進行方向の前方に設けられる前方マイクロホン201,202と、前方マイクロホン201,202よりも進行方向の後方に設けられる後方マイクロホン211,212とを有する。
特に限定されないが、前方マイクロホン201,202は、乗員の頭部が位置すると予測される領域よりも進行方向の前方、特に乗員の両耳を結ぶ線よりも進行方向の前側に設けることが好ましい。さらに、前方マイクロホン201,202は、ウィンドシールドの位置よりも進行方向の前側、例えば車両のフロントノーズ部分に設けることが好ましい。車両前方の音は、距離が遠すぎるため、車両の後方に配置されたマイクロホンによって集音することはできないからである。
本実施形態において、前方マイクロホン201,202は、車両の外部であって、車両の進行方向の前方のボディ境界面の近傍に設ける。図4は、本実施形態の集音装置200の設置例を示す図である。図4に示すように、本実施形態の前方マイクロホン201,202は、車両1000の進行方向の前方端部に設けられている。このように、車両1000の前方端部に設けることにより、車両前方の物体との距離を短くすることができるので、車両前方の物体から発せられる音を正確に集音することができる。なお、図4に示す態様に限定されず、前方マイクロホン201,202の設置位置は、車両のフロントバンパー部分、ヘッドライト部分としてもよい。
また、前方マイクロホン201,202を、動体の進行方向の前方かつ車両の移動面と対向するボディ天井側に設けてもよい。つまり、車両の前方の外壁(ウィンドシールド)と天井の接合部分、車両の上方からの平面視において、ウィンドシールド側のルーフ(例えばルーフレール)に配置してもよい。これにより、車両前方にエンジンがマウントされている場合において、エンジン音の影響を排除し、かつ、タイヤと走行面との摩擦によるロードノイズの影響を防ぐことができる。なお、ルーフレール及びその近傍に配置する場合は、2つの前方マイクロホン201,202の入力信号の独立性が低くなるため、集音指向性を有するマイクロホンを用い、その集音指向性が得られる方向を車両の中心から離隔させた外側に傾けることが好ましい。
また、後方マイクロホン211,212は、前方マイクロホン201,202よりも車両の進行方向の後方側に設ける。後方マイクロホン211,212の設置位置は特に限定されず、車両ボディの側面、リアドア部分、Cピラー、バックドア部分、バックバンパー部分、テールランプ部分などに設けることができる。本実施形態では、図4に示すように、車両の後方角部に後方マイクロホン211,212を配置する。なお、被験者による音の聞き分け実験を行ったところ、後方マイクロホン211,212を車両のCピラーより後方に配置した場合は、車両の後方に存在する物体が発する音を認識率が向上することが確認された。
具体的に、前方マイクロホン201,202と後方マイクロホン211,212の集音範囲を説明する。図5Aは後方マイクロホン211,212による集音範囲の一例を示す図であり、図5Bは前方マイクロホン201,202及び後方マイクロホン211,212による集音範囲の例を示す図である。
図5Aに示すように、進行方向に沿って車両の右側面後方に設けられた後方マイクロホン211は、車両の右側面側の領域となる集音範囲1Rにおいて発生した音を集音する。また、進行方向に沿って車両の左側面後方に設けられた後方マイクロホン212は、車両の左側面側の領域となる集音範囲1Lにおいて発生した音を集音する。本実施形態では、運転者より後方に後方マイクロホン211,212を配置するため、後方から接近する物体の発生する音(例えば他車両の音)のS/Nを向上させることができるので、後方から接近する物体の到来方向及び物体の位置に関する情報を正確に提供することができる。
また、図5Bに示すように、進行方向に沿って車両の右側前方に設けられた前方マイクロホン201は、車両の右側前方の領域となる集音範囲2Rにおいて発生した音を集音する。また、進行方向に沿って車両の左側前方に設けられた前方マイクロホン202は、車両の左側前方の領域となる集音範囲2Lにおいて発生した音を集音する。
ところで、車両の運転者は、自車両周囲の物体の存在を目と耳で認識することができる。図6は、車両の運転者の視認範囲を示す図である。同図に示すように、車両の運転者が視認できる範囲には限界がある。つまり、車両前方の領域Kは視線を動かさなくても視認できる範囲であるが、運転席とは反対側の側面である領域Hは頭部を回転させないと視認できない範囲であり、車両後方の領域Jは乗員が視線移動させることにより視認できる範囲である。このように、運転者は、後方から接近する物体(他車両など)を視線または頭部を動かすことなく視認することは難しい。
このように、車両の後方に後方マイクロホン211,212に加えて、車両の前方に前方マイクロホン201,202を設けることにより、車両の周囲で発生する音を満遍なく集音することができる。特に、運転者の頭部を回転することによってのみ視認できる範囲(領域H)、運転者の視線移動により視認できる範囲(領域J)で発生する音を高いS/N比で集音することができる。
続いて、本実施形態の情報提供装置Aに適する、後方マイクロホン211,212の態様について説明する。
2つの後方マイクロホン211,212から入力された2つの音は、バイノーラル音源として成立していることが望ましい。このため、本実施形態では後方マイクロホン211,212に擬似耳介部材231を設ける。一般に、バイノーラル音源となるように2つのマイクロホンを厳密に配置するためには、ダミーヘッドの外耳道内にマイクロホンを設置する。しかし、本実施形態では、集音された環境音の音源方向や音源位置が実際の音源方向や音源位置と一定評価以上の整合性があればよいため、2つのマイクロホンから入力された2つの音がバイノーラル音源に近似するように、後方マイクロホン211,212の一部を覆う曲面を有する擬似耳介部材231を設ける。
図7に示すように、後方マイクロホン211,212の一部を覆う曲面を有する擬似耳介部材231を、車両の集音装置200の設置位置に設ける。本実施形態では、後方マイクロホン211,212と、これを覆う擬似耳介部材231とを車両の側面に配置した例を示す。本実施形態の擬似耳介部材231は、人間の耳の形状を模した形状、または、人間の耳の形状の特徴を強調させた形状を有する。そして、本実施形態の擬似耳介部材231における、人間の耳の外耳道入り口部分に相当する部分に、後方マイクロホン211,212を設置する。また、図7に示すように、擬似耳介部材231は、後方マイクロホン211,212を進行方向後ろ側から覆い、進行方向の前側が解放状態となるように設置することが好ましい。これにより、車両の進行方向から到来する音を前方の音として違和感なく認識させることができる。なお、擬似耳介部材231の材質は特に限定されず、所望の形状に成形可能な樹脂材料などを用いることができる。
図8は、車両前方の音源1と車両後方の音源2から擬似耳介部材231を設けた後方マイクロホン211に音が到達する経路を説明するための図である。車両前方の音源1から到来する音は、直接波Aおよび擬似耳介部材231により反射した反射波B等が後方マイクロホン211により集音される。一方、車両後方の音源Bから到来する音は、擬似耳介部材231による回折波Cが後方マイクロホン211により集音される。このように、擬似耳介部材231を用いることにより、車両の前方から到来する音と車両の後方から到来する音とを、位相等の音波の特徴を変化させて集音することができる。これにより、車両前後方向から到来する音信号をそれぞれ分離して、各音の到来方向を区別して集音することができる。実際に前方の音源1と後方の音源2から到来する音を、擬似耳介部材231が設けられた後方マイクロホン221で集音し、これを被験者に受聴させたところ、実際に前方の音源1と後方の音源2から到来する音を聞き分けることができた。
また、擬似耳介部材231を設けることにより、バイノーラル集音をすることができる。これに加えて、バイノーラル集音した音を乗員の耳の近傍の制御点に音像を定位させてトランスオーラル再生を行うことにより、車外の音を車室内において忠実に(リアルに)再現することができる。なお、擬似耳介部材231は、前方マイクロホン201,202に設けることも可能である。
なお、この擬似耳介部材231の形状は特に限定されず、擬似耳介部材231を覆う曲面の曲率、形状などは任意に設定できる。このとき、擬似耳介部材231は、少なくとも、前後から到来する音の音波が特徴づけられ、使用者が音源の位置を判別できる程度に模されていることが好ましい。
また、後方マイクロホン211,212の防水、防塵、防音を図る観点から、後方マイクロホン211,212を覆うマイクカバー251を設けることが好ましい。本実施形態において、マイクカバー251は、集音に際し、環境音の歪を抑制できるように設計されていることが好ましい。
図9は、擬似耳介部材231を設けた後方マイクロホン211にマイクカバー251を設けた一の例を示す図である。図9に示す例において、マイクカバー251は、擬似耳介部材231及び後方マイクロホン211にマイクカバー251を曲面で覆う形状を有し、車両1000の側壁に取り付けられる。図9に示すように、マイクカバー251の曲面の曲率が最も大きい部分に、擬似耳介部材231及び後方マイクロホン211が位置するようにマイクカバー251の形状を決定することが好ましい。また、マイクカバー251の一方側には、音響透過性を有する材料で封止された複数のスリット241を形成する。スリット241は、車両の進行方向に対して後方側に設けることが好ましい。このような構成とすることにより、環境音の減衰が少ない状態で集音することができ、かつ、マイクカバー251の内部でこもり音が発生するのを防止することができる。
また、図10は、擬似耳介部材231を設けた後方マイクロホン211にマイクカバー251を設けた他の例を示す図である。図10に示す例では、車両の外装内に小さな空間を設け、擬似耳介部材231及び後方マイクロホン211を収容し、車両の外装に音響透過性を有する材料で封止された複数のスリット241を設ける。また、車両の外装の一部を音響透過性の音響透過壁とする。ここで、音響透過性壁とは、透過前の音波と透過後の音波との差が所定値以下であり、音響的な損失量や歪量が所定値以下である部材である。
さらに続いて、本実施形態の情報提供装置Aに適した前方マイクロホン201,202の態様について説明する。
後方マイクロホン211,212を設けることにより、自車両の側面及び後方で発生する環境音を集音することは可能である。マイクロホンの受聴範囲は入力ゲインの大きさに依存するため、例えば、後方に配置したマイクロホンを用いて車両前方の音を集音するためには、入力ゲインを大きく取る必要がある。ところが、入力ゲインの設定値には上限があり、感度を高くすると自車両の走行雑音が相対的に大きく入力されてしまうなどの障害が生じるため、後方マイクロホン211,212の集音範囲は図6Aに示す集音範囲1R及び1Lに限定されてしまう。本実施形態では、自車両の走行雑音等の影響を低減させた状態において自車両周囲で発生する環境音を集音するため、バイノーラル録音を行う後方マイクロホン211,212に加えて、別の前方マイクロホン201,202を設ける。
さらに続いて、本実施形態の情報提供装置Aに適する、前方マイクロホン201,202の設置態様を説明する。
FF車、FR車のように車両前方にエンジンがマウントされている車両の前方にマイクを配置すると、エンジン音によりS/Nが低下する。このため、本実施形態では、前方マイクロホン201,202と車両の駆動装置又はタイヤとの間に防音壁を設ける。図11は、前方マイクロホン201,202をライトのカバー内に設けた例を示す図である。図11に示すように、前方マイクロホン201,202は車両外部側をライトのカバーに覆われ、その車両内部側を防音壁261に覆われている。防音壁261は、吸音性を有する材料で形成され、エンジンから発せられる音を遮音する。
また、ライトのカバーには、音響透過性を備える部材で封止されたスリット251を設けてもよい。スリット251は、車両の進行方向の前側に設けてもよいし後ろ側に設けてもよい。また、スリット251に代えて、ライトのカバーの一部を音響透過材で形成してもよい。このように、防音壁261を配置することで、エンジンが前方にある車種であっても車両の前側乃至前端部に前方マイクロホン201,202を配置することができる。
また、本実施形態では、前方マイクロホン201,202は、所定方向領域の音を集音する指向性を備えることが好ましい。これにより、前方マイクロホン201,202の設置位置に応じて、前方マイクロホン201,202の集音方向が任意に設定できる。図12は、指向性を備える前方マイクロホン201,202の設置例を示す図である。図12の例では、前方マイクロホン201,202をルーフレールの前方に設置し、右側の前方マイクロホン201の集音方向を車両中心から右方向に所定角度だけ移動させ、左側の前方マイクロホン202の集音方向を車両中心から左方向に所定角度だけ移動させる。
このように指向性を備える各前方マイクロホン201,202の集音方向を、車両中心を基準に反対の方向に設定することにより、2つのマイクロホンの入力信号の独立性を高めることができる。特に、前方マイクロホン201,202をルーフレールに配置する場合は、2つのマイクの入力信号の独立性が低くなるため、前方マイクロホン201,202の集音方向を外側に傾けると各方向において発生する音を正確に集音することができる。この場合において、指向性を備える前方マイクロホン201,202を用いることにより、エンジンやタイヤで発生する音を集音しないようにすることができる。
さらにまた、図13の右側に示す図のように、音を集音しない死角領域を設定できる前方マイクロホン201,202を用いることにより、エンジンやタイヤで発生する音を集音しないようにすることができ、これらの音の影響を排除することができる。
ここで、図3に戻り、上述した音出力コントローラ100が実現する機能についてそれぞれ説明する。
まず、音出力コントローラ100の第1取得機能101aと、第2取得機能101bについて説明する。音出力コントローラ100は、上述した前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号を取得するとともに、進行方向の後方に設けられ、車両の外部の音を集音する2つ以上の後方マイクロホン211,212により集音された音に対応する第2音信号を取得する。取得された第1音信号は第1音出力信号生成機能102の処理に用いられ、取得された第2音信号は音像生成機103の処理に用いられる。
続いて、音出力コントローラ100の第1音出力信号生成機能102について説明する。音出力コントローラ100は、取得された第1音信号に基づいて、乗員において、所定の仮想音源からその音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
本実施形態の音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号を、所望の方向、つまり仮想音源から聞こえる音に変換する。なお、第1音信号は前方マイクロホン201,202により集音された音に、増幅処理、デジタル変換などの信号処理に必要な処理がなされた音信号である。さらに、音出力コントローラ100は、第1音信号を仮想音源から聞こえる音に変換したのち、所望のチャネル数(すなわち、前方マイクロホン201等の数に対応する数)に変換して、後段の処理工程に出力する。これらの処理は、図4に示すAD変換器12、演算装置1、記憶装置3、DA変換器13によって実行される。第1音出力信号生成機能102によって生成される第1音出力信号に対応する音は、後述する制御点に定位される音像と理論上は等価(共通の特性を有する)であることが好ましい。
特に限定されないが、本実施形態の音出力コントローラ100は、仮想音源から運転者を含む各乗員の両耳までの音の伝達系としての空間伝達系を用いてフィルタ(関数)を構成し、第1音信号にフィルタを畳み込むことにより仮想音源から聞こえる音に変換する。
図14は、第1音出力信号生成処理を説明するための第1の図であり、第1音信号にフィルタを畳み込むことにより仮想音源から聞こえる音に変換する処理手法を説明するための図である。
図14に示すように、モノラル録音の音源信号Xをフィルタリングすることで、音源信号Xが仮想音源位置P1から聞こえるように補正する。仮想音源位置P1から受聴者の両耳までの音源信号Xの空間伝達特性の時間信号を夫々G1、G2としたとき、受聴者の両耳位置における音信号の時間信号Y1、Y2は以下のように求めることができる。
Y1=X*G1 (式1)
Y2=X*G2 (式2)
ここで、*畳込み演算を表す。
図15は、第1音出力信号生成処理を説明するための第2の図であり、入力される音信号から仮想音源における音を作成するフィルタの構成を説明するための図である。
各前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号X1〜Xmは、2つ以上のフィルタセット(例えば、X1であればG11,G12)を通過した後、受聴者の両耳(Left, Right)位置において、仮想音源から聞こえる音となるように変換される。用いられるフィルタセットは、図14のG1、G2のような空間伝達特性が十分に表現するのに必要なタップ数を備える。例えば、受聴者から2mの距離に仮想音源を設置する場合は、ADコンバータのサンプリング周波数を8kHzとすると、48タップ程度のフィルタ長が必要となる。各前方マイクロホン201,202から入力された第1音信号は、フィルタ処理を行い、仮想音源から聞こえるように制御された第1音出力信号を、左右のチャネル毎に加算(ミキシング)された後、後段の処理系に送出される。
本処理において使用されるフィルタの設計は、一般に仮想音源からの音に変換するためのフィルタ設計手法を用いることができる。例えば、遅延子を用いて受聴者との位置関係、つまり方向を表現するフィルタを作成してもよいし、実際に情報提供装置Aが設置される空間伝達特性を測定してフィルタを作成してもよい。
ここで、フィルタの設計の各手法について説明する。
まず、遅延子を用いて受聴者との位置関係を表現するフィルタの作成手法を説明する。図16は、遅延子を用いたフィルタの作成手法を説明するための図である。図16に示す例では、車両前端に1個の前方マイクロホン201を配置し、この前方マイクロホン201の設置位置を仮想音源の位置として設定する。このとき、前方マイクロホン201の設置位置から受聴者である運転者の両耳までの伝達系を表現するため、フィルタ(図15参照)の中に遅延子を埋め込む。図16に、G11およびG12に遅延子を挿入した時間遅延フィルタの一例を示す。G11は前方マイクロホン201の位置から運転者の左耳までの空間伝達系を模擬しており、この空間伝達経路は、G12の空間伝達系の経路と比較して、音源からの到来音が時間的に速く到着する。このため、G11のフィルタは、G12のフィルタよりも2タップ分の時間だけ速くピークが来るように設計する。
続いて、空間伝達特性用いてフィルタを作成する手法を説明する。空間伝達特性を用いる手法では、時間遅れだけではなく、総ての周波数における位相のずれも含めて、フィルタを設計することができる。
図17は、空間伝達特性を用いたフィルタの作成手法を説明するための図である。図17に示す例では、車両前端に1個の前方マイクロホン201を配置し、前方マイクロホン201の置き場所を仮想音源として設定する。このとき、前方マイクロホン201の設置位置から受聴者である運転者の両耳までの伝達系について、インパルス等を用いて測定し、その応答波形をフィルタとして用いる。例えば、G11は、前方マイクロホン201の設置位置から運転者の左耳までの伝達特性を測定し、フィルタ処理を行なうシステムの設計要件(メモリサイズ、実時間処理性能)および仮想音源から運転者(受聴者)までの距離のバランスを鑑みて、適切な長さに打ち切ることで、フィルタとして用いることができる。なお、空間伝達特性は実空間で測定しても良いが、波動方程式や虚像法等の幾何的な手法を用いてシミュレーションしても良い。
なお、入力される音信号から仮想音源における音を作成するフィルタの設計手法は、上述のものに限定されず、位相だけを制御するものや、周波数特性だけを制御するものなど出願時において公知の手法を用いることができる。
次に、仮想音源の位置の設定手法について説明する。
特に限定されないが、音出力コントローラ100は、仮想音源を、乗員の両耳が位置する領域を結んだ線よりも前方に設定する。すなわち、音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201又は201及び202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、乗員の両耳が位置する領域を結んだ線よりも前方に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
具体的に、音出力コントローラ100は、仮想音源を、車両(移動体)の進行方向の前方のボディ境界面よりも前方に設定する。すなわち、音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201、又は201及び202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、車両の進行方向の前方のボディ境界面よりも前方に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
また、具体的に、音出力コントローラ100は、仮想音源を、車両の進行方向の前方端部に設定する。すなわち、音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201又は201及び202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、車両の進行方向の前方端部に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
また、付加的な態様として、音出力コントローラ100は、仮想音源を、前方マイクロホン201又は201及び202の設置位置を含む水平面上に設定する。すなわち、音出力コントローラ100は、前方マイクロホン201又は201及び202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、前方マイクロホン201又は201及び202の設置位置を含む水平面上に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。仮想音源を、前方マイクロホン201又は201及び202の設置位置と同じ高さに設定することにより、車両の前方で集音された音を、同じく車両の前方かつ同じ高さに設定された仮想音源から聞こえるようにすることができる。
このように、音出力コントローラ100は、車両の進行方向前方にて集音された環境音は、車両の進行方向前方から到来するように仮想音源を設定する。つまり、音出力コントローラ100は、仮想音源の位置を、前方マイクロホン201又は201及び202が集音する音の音源の位置(集音範囲)に応じた位置に設定する。
ところで、車両を運転する乗員(運転者)に対し、周囲の環境音の情報を提供する目的は、第1に車両が前進するときに他車両などの物体に接近することを知らせる、第2に車両が後退するときに設置物などの物体に接近することを知らせることである。
第1の目的を達成するためには、提供すべき音が前方から到来すること、さらに、その提供すべき音が前方の左右の何れの方向から到来するのかということが判る音情報を提供する必要がある。運転者が前方から到来する音情報に気付けば、ブレーキを踏むなどの適切な運転操作を判断することができ、更に、運転者が左右の何れから音が到来しているかを音情報により識別できれば、適切なステアリング操作によって対象物との接近を回避することができる。
以上の観点から、本実施形態では、(1)仮想音源を、車両の前方の一箇所に配置する態様、及び(2)仮想音源を、乗員の中心から進行方向に沿った基準線から進行方向の左右に60°程度の見開き角を有する二箇所に配置する態様を選択することができる。
図18は、車両の前方に一つの仮想音源を配置した場合を説明するための図である。図18に示すように、車両の進行方向前方のボディ境界面の近傍、具体的には、車両の進行方向の前方端部に1個の前方マイクロホン201が配置されている。車両前方の環境音は前方マイクロホン201で集音され、仮想音源位置P1から到来する第1音出力信号に変換される。前方マイクロホン201が単一指向性を備え、かつ、図18に示す受音範囲となるように設置されている場合は、車両の前方から接近する全ての接近物が発する音は、仮想音源位置P1から到来する音として運転者に提供される。図18に示す前方マイクロホン201の配置によれば、車両の進行方向前方から接近する物体の存在を、音により運転者に気付かせることができる。この提供された音情報により、運転者は適切なブレーキ操作などの減速操作を行い、物体との接近を回避することができる。
図19は、車両の前方に二つの仮想音源を配置した場合を説明するための図である。図19に示すように、車両の前端には2個の指向性を備える前方マイクロホン201,202が配置されている。各前方マイクロホン201,202は所定距離以上離隔するように配置され、異なる受音範囲で発生する音を集音する。前方マイクロホン201により集音された音に対応する第1音信号は仮想音源位置P1から聞こえるように制御され、前方マイクロホン202により集音された音に対応する第1音信号は仮想音源位置P2から聞こえるように制御される。特に限定されないが、仮想音源位置P1は、前方マイクロホン201の設置位置と乗員の右側の耳とを結んだ線上に設定されることが好ましい。また、仮想音源位置P2は、前方マイクロホン202の設置位置と乗員の左側の耳とを結んだ線上に設定されることが好ましい。
このようにすることで、左右の前方マイクロホン201,202から入力された音は、実際の音源が位置する方向に応じて左右の仮想音源位置P1,P2に割振られるため、仮想音源位置P1,P2から到来する音を受聴した運転者は音源となる物体が左右いずれの方向に存在するかを識別することができる。前方マイクロホン201,202と仮想音源P1,P2によれば、前方の物体が左右いずれの方向に存在するかを音により知らせることができ、その結果、運転者はブレーキ操作およびステアリング操作により物体との接近を回避することができる。
最後に、音出力コントローラ100の音像生成機能103について説明する。音出力コントローラ100は、第1音出力信号及び/又は第2音信号に基づいて、車両の室内に予め設定された所定の各制御点に音像が定位するように制御された音像形成信号を生成する生成された音像形成信号に基づく音を出力させる。第1音出力信号を定位させる制御点の位置と、第2音信号を定位させる制御点の位置は異なる位置である。
音出力コントローラ100は第1音出力信号生成機能102により生成された第1音出力信号及び/又は後方マイクロホン211,212により集音された第2音信号に対応する音を音響装置400から出力する際に、音響装置400の各スピーカから所定の制御点(例えば受聴者の両耳付近)までの伝達系の影響を除去し、第1音出力信号に対応する音が制御点において再現されるように変換された音像形成信号を生成し、音響装置400に送出する。これらの処理は、図4に示すAD変換器12、演算装置1、記憶装置1、DA変換器13によって実行される。
図20は、音像生成処理を説明するための図である。図20に示すように、音像生成機能103に用いられるフィルタHは、所定の制御点の位置C1、C2において、入力信号Y1、Y2が制御点において再現される、つまり制御点に音像が定位するように設計される。入力信号Y1、Y2は、第1音出力信号生成機能102により生成された第1音出力信号及び/又は第2音信号である。
本処理において、入力信号Y1、Y2と制御点において再現される音像形成信号Z1、Z2において以下の関係が成立することが好ましい。
Y1=Z1 (式3)
Y2=Z2 (式4)
このため、音像信号形成処理用のフィルタHを用いて空間伝達系の影響を除去する。以後、このフィルタHを逆フィルタHと呼ぶ。
図20を用いて、逆フィルタHの構成と処理手法を説明する。任意の周波数毎に、入力信号Yn、逆フィルタHmn(mは音源番号、nは制御点番号である)、再現信号(制御点における音像形成信号)Znおよび空間伝達特性Fnmとするとき、各要素の関係は式5に表現できる。
FHY=Z (式5)
ここで、F=[Fnm]、H=[Hmn]、Y=[Yn]、Z=[Zn]である。
このとき、式3、式4の関係を満たすためには、FH=I(Iは単位ベクトル)である。よってFに基づいて逆フィルタHを導出するためには、任意の周波数毎にH=F-([・] -は行列[・]の一般逆行列)を計算すればよい。例えば、”最小ノルム解を用いた逆フィルタ設計のトランスオーラルシステムへの応用:日本音響学会講演論文集,pp495-496(1998)”に記載の計算方法を用いることができる。
音出力コントローラ100は、設計された逆フィルタHを用いて、制御点において音像を定位させるための音像形成信号を生成する。そして、音出力コントローラ100は、生成された音像形成信号に基づく音を音響装置400に出力させる。
音響装置400の前方スピーカ401,402は、車両の進行方向前方に配置される。このとき、前方スピーカ401,402は前方マイクロホン201,202の位置に対応する位置に設ける。例えば、乗員の頭部又は両耳の位置と前方マイクロホン201,202とを結んだ線上の車室内に前方スピーカ401,402を設けることが好ましい。
他方、後方スピーカ411,412は車両の進行方向後方に配置される。このとき、後方スピーカ411,412は後方マイクロホン211,212の位置に対応する位置に設ける。例えば、乗員の頭部又は両耳の位置と後方マイクロホン211,212とを結んだ線上の車室内に後方スピーカ411,412を設けることが好ましい。
具体的に、本実施形態の後方スピーカ411,412は乗員の頭部が位置すると予測される領域よりも進行方向の後方であって、乗員の右側及び左側に配置される。
図21は、座席のヘッドレストに後方スピーカ411,412を設置した場合の例を示す図である。後方マイクロホン211,212により集音された第2音信号に対応する音像形成信号に基づいて、乗員の耳の位置よりも進行方向後方に設けられた後方スピーカ411,412から音を出力することにより、乗員は後方から接近する物体の位置を高い精度で判断することができる。到来する環境音に対する定位感が増加する。
続いて、図22に基づいて、本実施形態の音出力コントローラ100の制御手順を説明する。
図22は本実施形態の音情報の提供処理の手順を説明するためのフローチャート図である。
情報提供装置Aが動作を開始すると、ステップS110において、音出力コントローラ100は、電源の投入および初期設定処理を実行する。具体的に、音出力コントローラ100は、初期設定処理時に、第1音出力信号生成処理において用いられるフィルタ及び音像生成処理において用いられるフィルタの読み込みを行う。
続くステップS120において、音出力コントローラ100は、集音装置200の前方マイクロホン201,202及び後方マイクロホン211,212により集音された音を取得し、これらを電気信号に変換する。
さらに、ステップS130において、音出力コントローラ100は、ステップS120において変換された電気信号を適切なレベルに増幅した第1音信号及び第2音信号を取得する。
その後、ステップS140において、音出力コントローラ100は、ステップS130において取得された第1音信号を離散変換し(取得信号が連続信号の場合)、この第1音信号に基づいて、フィルタ処理およびチャネルの統合処理を行い、所定の仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
続いて、ステップS150において、音出力コントローラ100は、ステップS140において生成された第1音出力信号と、ステップS130において処理された第2音信号を離散変換し(取得信号が連続信号の場合)、第1音出力信号及び/又は第2音信号に基づいて、車両の室内に予め設定された所定の制御点に音像が定位するように制御された連続の音像形成信号を生成する。
次に、ステップS160において、音出力コントローラ100は、ステップS150において生成された音像形成信号を増幅する。
次に、ステップS170において、音出力コントローラ100は、ステップS160において増幅された、音像形成信号に基づく音を音信号(音波)に変換し、音響装置400に出力させる。
なお、一連の情報処理において扱われる信号が電気信号のような連続信号の場合は、第1音出力信号生成処理および音像生成処理の前後で、AD処理およびDA処理を挿入し、他方、一連の情報処理において扱われる信号が離散信号で得られる場合はAD/DA処理を行なわずに第1音出力信号生成処理および音像生成処理を実行させる。また、第1音出力信号生成処理および音像生成処理はコスト等の観点から離散的なフィルタを用いることが望ましいが、連続処理が可能なフィルタを用いてもよい。
本実施形態の音出力コントローラ100は、以上のように構成され、以上のように作用するので、以下の効果を奏する。
本実施形態の音出力コントローラ100は、外部の音処理に係るコスト抑えつつ、車両外部の音源と車両内部の乗員との位置関係を保って、車両外部の音源が発する音情報を車両内部の乗員に提供することができる。
つまり、本実施形態の音出力コントローラ100は、車両の進行方向の前方において集音された音に対応する第1音信号に基づいて、所定の仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成し、この第1音出力信号及び/又は車両の進行方向の後方において集音された音に対応する第2音信号に基づいて、予め設定された所定の制御点に音像を定位させる音像形成信号を生成して、この音像形成信号に基づく音を出力させるため、車両の進行方向の前方において集音された外部の音を、車両室内の所定の制御点において、予め設定された仮想音源から聞こえるようにするので、外部の音処理に係るコスト抑えつつ、車両外部の音源と車両内部の乗員との位置関係を保って、車両外部の音源が発する音情報を車両内部の乗員に提供することができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、車両の前方に前方マイクロホン201,202を設け、別途、車両の後方に後方マイクロホン211,212を設けることにより、車両の周囲で発生する音を満遍なく集音することができる。特に、運転者の頭部を回転することによってのみ視認できる範囲(図6の領域H)、運転者の視線移動により視認できる範囲(図6の領域J)で発生する音を高いS/N比で集音することができる。
このため、車両の進行方向の前方において集音された外部の音を予め設定された仮想音源から聞こえるように制御し、仮想音源から聞こえる音の音像と車両の後方において集音された音の音像とを、車両室内の所定の制御点に定位させるので、車両外部の音源と車両内部の乗員との位置関係を保って、車両外部の音源が発する音情報を車両内部の乗員に提供することができる。
本実施形態の情報提供装置Aによれば、車両の遮音性が高い場合であっても、車両周囲の物体が発する音の情報を、乗員がその物体の位置を認識できるように提供することができる。すなわち、乗員は、前方から接近する他車両、踏切、信号機などの存在を認識するので、減速などの適切な運転操作をすることができるとともに、後方から接近する他車両、緊急車両などの存在を認識するので、方向転換などの適切な運転操作をすることができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、前方マイクロホン201,202を車両の進行方向前方、例えば車両のボディ境界面の近傍、車両の進行方向の前方端部に設けたことにより、車両前方の音を集音することができ、所定の仮想音源から聞こえる音として提供できるので、音源と乗員との位置関係を維持して、音源から発せられる音の情報を提供することができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、前方マイクロホン201,202を、車両の進行方向の前方かつ車両の移動面と対向するボディ天井側に設けることにより、車両前方にエンジンがマウントされている場合において、エンジン音の影響を排除し、かつ、ロードノイズの影響を防ぐことができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、前方マイクロホン201,202が、所定方向領域の音を集音する指向性を備えることにより、前方マイクロホン201,202の設置位置に応じて、前方マイクロホン201,202の集音方向を任意に設定することができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、前方マイクロホン201,202と車両のエンジン又はタイヤとの間に防音壁を設けることにより、エンジンが前方にある車種であっても車両の前側乃至前端部に前方マイクロホン201,202を配置することができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、後方マイクロホン211,212の一部を覆う曲面を有する擬似耳介部材231を備えることにより、車両の前方から到来する音と車両の後方から到来する音とを、位相等の音波の特徴を変化させて集音することができる。これにより、車両前後方向から到来する音信号をそれぞれ分離して、各音の到来方向が識別可能な音を集音することができる。
また、本実施形態の音出力コントローラ100において、前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、乗員の両耳が位置する領域を結んだ線よりも前方に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成することにより、車両の前方で集音された音を、同じく車両の前方に設定された仮想音源から聞こえるようにすることができる。つまり、前方マイクロホン201,202により集音された音に基づいて提供された音情報により、乗員は前方から接近する物体の存在を認識することができる。
同様に、本実施形態の音出力コントローラ100において、前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、車両の進行方向の前方のボディ境界面よりも前方に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成することにより、上述の効果を奏することができる。
また、同様に、本実施形態の音出力コントローラ100において、前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、車両の進行方向の前方端部に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成することにより、上述の効果を奏することができる。
また、本実施形態の音出力コントローラ100において、前方マイクロホン201,202により集音された音に対応する第1音信号に基づいて、第1音入力手段の設置位置を含む水平面上に設定された仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成することにより、車両の前方で集音された音を、同じく車両の前方かつ同じ高さに設定された仮想音源から聞こえるようにすることができる。つまり、前方マイクロホン201,202により集音された音に基づいて提供された音情報により、乗員は前方から接近する物体の存在をより正確に認識することができる。
また、本実施形態の情報提供装置Aにおいて、音響装置400の後方スピーカ411,412を、車両の乗員の頭部が位置すると予測される領域よりも進行方向の後方であって、乗員の右側及び左側に配置することにより、乗員は後方から接近する物体の位置を高い精度で判断することができる。到来する環境音に対する定位感が増加する。
<第2実施形態>
続いて、第2実施形態について説明する。第2実施形態の情報提供装置Aの基本的な構成は、図1に示す第1実施形態の情報提供装置Aに共通する。ここでは、重複した説明を避けるため、第1実施形態とは異なる点を中心に説明する。
図23は、第2本実施形態の音出力コントローラ100のハードウェア構成の一例を示す図である。
図23に示すように、車両の外部に設けられた集音装置200が備える前方マイクロホン201,202及び後方マイクロホン211,212により集音された音の情報(信号)は、音出力コントローラ100へ入力される。図23に示す各構成は、図2の第1実施形態の各構成と共通する。
図24は、図23に示す第2実施形態の音出力コントローラ100の機能ブロック構成を説明するための図である。
図24に示す第1音出力信号生成機能112は、第1音信号に基づいて、所定の仮想音源からその音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成し、前方スピーカ401,402の音出力を制御する第1音出力機能114aに向けて送出する。
図24に示す音像生成機能113は、第2音信号に基づいて、車両の室内に予め設定された所定の制御点に音像が定位するように制御された音像形成信号を生成し、後方スピーカ411,412の音出力を制御する第2音出力機能114bに向けて送出する。
図25は、車両の前方に設けられた2つの前方マイクロホン201,202から取得した音に基づいて、車室内の一の仮想音源から聞こえるように制御された第1音出力信号の生成処理を説明するための図である。本実施形態では、第1実施形態のような、第1音出力信号に基づいて指定の制御点に音像を定位させる処理は行わない。つまり、前方マイクロホン201,202から取得した音に基づいて、車両前方に設定した一の仮想音源から聞こえるように音を出力する。このとき、音出力コントローラ100は、車両の進行方向前方に設置された前方スピーカ401,402を用いて、第1音出力信号に基づく音を出力させてもよい。
図25に示す例では、2つの前方マイクロホン201,202を車両の前端に設置する。前方マイクロホン201,202により集音された音信号はチャネル毎に増幅され、前方マイクロホン201により集音された音は前方スピーカ401により出力させ、前方マイクロホン202により集音された音は前方スピーカ402により出力させる。
本実施形態において、前方スピーカ401,402は、車両の乗員の頭部が位置すると予測される領域よりも進行方向の前方に設けられることが好ましい。具体的に、前方スピーカ401,402は、車両のAピラーの根本付近等に配置することが好ましいが、乗員の頭部の位置よりも進行方向前方であればよい。これにより、車両の前方で集音された音を、車両の前方に設けられた前方スピーカ401,402から出力させることができる。
また、夫々の前方スピーカ401,402に送出する音信号は、運転席から受聴したとき、ステレオ効果が得られるよう、左右のバランスを調整することが好ましい。このとき音像生成機能112を用いて、例えば、音源A1の音の音像が仮想音源A´1(制御点)に定位するように、音圧バランスを調整しても良い。
また、図26は、車両の前方に設けられた1つのマイクロホン201により集音された音を、車両の前方に設けられた前方スピーカ401により出力させる処理例を説明するための図である。
音出力コントローラ100は、1個のマイクロホン201により集音された音を増幅し、運転者の正面に配置された一個の前方スピーカ401から出力させる。スピーカ401は、マイクロホン201の数に応じて設置することができる。また、2個以上のマイクロホン201を設置し、ミキサー等を用いて適当な位置に定位するように調整しても良い。
本実施形態の情報提供装置Aは、フィルタを用いないため、仮想音源を用いる方式と比較して、簡易的な構成かつ低コストで、一定の効果が期待できる。
図27は、第2実施形態の音情報の提供処理の手順を説明するためのフローチャート図である。
図27の処理のステップS210〜S230は、図22のステップS110〜S130と共通する。ここでは第1実施形態とは異なる処理であるステップS240以降の処理を説明する。
ステップS240において、音出力コントローラ100は、ステップS230において取得された第1音信号を離散変換し(取得信号が連続信号の場合)、この第1音信号に基づいて、フィルタ処理およびチャネルの統合処理を行い、所定の仮想音源から音が聞こえるように制御された第1音出力信号を生成する。
このステップS240と並行して実行されるステップS250において、音出力コントローラ100は、ステップS230において処理された第2音信号を離散変換し(取得信号が連続信号の場合)、第2音信号に基づいて、車両の室内に予め設定された所定の制御点に音像が定位するように制御された連続の音像形成信号を生成する。
次に、ステップS260において、音出力コントローラ100は、ステップS240において生成された第1音出力信号及びステップS250において生成された音像形成信号を増幅する。
次に、ステップS270において、音出力コントローラ100は、ステップS260において増幅された第1音出力信号及び音像形成信号に基づく音を音信号(音波)に変換し、音響装置400に出力させる。
第2実施形態の情報提供装置Aによれば、第1実施形態の情報提供装置Aと同様の効果を奏する。つまり、第2実施形態の情報提供装置Aによれば、外部の音処理に係るコスト抑えつつ、車両外部の音源と車両内部の乗員との位置関係を保って、車両外部の音源が発する音情報を車両内部の乗員に提供することができる。
また、本実施形態において、前方スピーカ401,402を、車両の乗員の頭部が位置すると予測される領域よりも進行方向の前方に設けることにより、車両の前方で集音された音を、車両の前方に設けられた前方スピーカ401,402から出力させることができる。
また、前方マイクロホン201,202の配置や特性は、第1実施形態と同様にすることができ、同様の作用及び効果を奏する。
同様に、後方マイクロホン211,212の配置や特性は、第1実施形態と同様にすることができ、同様の作用及び効果を奏する。
さらに、仮想音源の位置は、第1実施形態と同様にすることができ、同様の作用及び効果を奏する。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
すなわち、本明細書では、本発明に係る車両に搭載される音情報提供装置の一態様として、車両に搭載される情報提供装置Aを例にして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本明細書では、本発明に係る音情報提供装置の一態様として、CPU1、ROM2、RAM3を有する音出力コントローラ100を備えた情報提供装置Aを説明するが、これに限定されるものではない。
また、本明細書では、本願発明に係る第1音入力手段と第2音入力手段を有する音情報提供装置の一態様として、前方マイクロホン201,202と後方マイクロホン211,122とを備える集音装置200を備えた情報提供装置Aを説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本明細書では、第1音入力手段としての前方マイクロホン201,202が1つ又は2つ配置される例を説明したが、その数は限定されない。同様に、第2音入力手段としての後方マイクロホン211,122が2つ配置される例を説明したが、その数は限定されない。
また、本明細書では、本願発明に係る第1音出力信号生成手段と、音像生成手段を有する音情報提供装置の一態様として、第1取得機能101aと、第2取得機能101bと、第1音出力信号生成機能102と、音像生成機能103と、音出力機能104を実現させる音出力コントローラ100を備えた情報提供装置Aを例にして説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本明細書では、本願発明に係る音出力手段の一態様として、前方スピーカ401,402と後方スピーカ411,412を有する音響装置400を備えた情報提供装置Aを説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
また、本明細書では、移動体に搭載される音情報提供装置の一例として、車両に搭載された情報提供装置Aを例にして説明するが、本発明の移動体は車両に限定されるものではなく、電車、飛行機、フォークリフト、遊戯具その他の動力によって移動可能な乗り物を含む。