本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
(全実施形態に共通の説明)
まず、車両用方向提示装置の概要を説明する。
本発明の車両用方向提示装置は、車両上で運転者などの乗員に対して音響により方向を提示する機能を有している。例えば、運転者の視点位置から見て死角となる位置に存在する自車両周辺の他車両、歩行者、障害物のような物体や、天候などの影響により視界不良の状況になり視認しにくい物体については、それを運転者が認識する前に、センサ等で検知して運転者に物体の方向を提示することにより安全運転を支援することができる。また、例えば車両上で何らかのトラブルが発生している場合に、トラブルの発生箇所の方向を提示することにより、トラブルを解消するための操作を運転者が素早く行うことも可能になる。
一方、音響を用いて方向を提示する場合に、音像を定位させたい位置から受聴者の耳までの音響伝達特性を考慮したり、人間の頭部伝達関数を利用することにより、所望の位置に音像を定位させることが可能である。しかし、頭部伝達関数については個人差が大きく、受聴ポイントの位置ずれの影響も受けやすいため、誤差が大きくなるという難点がある。そこで、本発明の車両用方向提示装置は、「方向決定帯域」を利用して運転者等の聴取者に対して方向を提示する。
図5(A)、図5(B)、および図5(C)に、聴取者と知覚する方向との関係を示す。図5(A)のグラフにおいて、縦軸は相対頻度[%]、横軸は周波数[Hz]を表している。このグラフには、3つの特性曲線Cv、Ch、およびCoが示されている。また、図5(B)は上方から見た聴取者と各方向との関係を示し、図5(C)は左側方から見た聴取者と各方向との関係を示している。
つまり、「Blauert」が定義しているように、狭帯域ノイズを聴取者に対して正中面内から提示すると、生じる音像の方向は音源方向と関係なく、刺激の中心周波数に依存して知覚される。このような音像方向を決定する周波数帯域を方向決定帯域(Directional Band)と定義する。
図5(A)に示したグラフを得るための実験においては、音源としては、ホワイトノイズから抽出した一部の特定帯域の信号成分を利用している。このような音源について、正中面に配置したスピーカから周波数を変更しながら実際に音響を出力し、各聴取者が知覚した方向を特定するデータを取得した。そして、多数の聴取者が知覚した方向の相対頻度と周波数との関係を3つの特性曲線Cv、Ch、およびCoとして図5(A)に示してある。
つまり、図5(B)、図5(C)に示す「前」方向として各聴取者が知覚した相対頻度が特性曲線Cvとして示され、「後」方向として知覚した相対頻度が特性曲線Chとして示され、「上」方向として知覚した相対頻度が特性曲線Coとして示されている。
例えば、図5(A)に示した特性曲線Cvを参照すると、315〜500[Hz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B1)と、3.15〜5[kHz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B3)とで高い相対頻度が得られている。また、図5(A)に示した特性曲線Chを参照すると、800〜1600[Hz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B2)と、10〜12.5[kHz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B5)とで高い相対頻度が得られている。図5(A)に示した特性曲線Coを参照すると、8[kHz]近傍の比較的狭い範囲内の周波数帯(方向決定帯域B4)で高い相対頻度が得られている。
つまり、音の発生位置が正中面に固定されている場合であっても、不特定の聴取者が知覚する方向は、周波数の違いに応じて図5(A)のように変化する。また、図5(A)に示す特性曲線Cvから、B1、B3の各周波数帯域は聴取者に「前方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。また、図5(A)に示す特性曲線Chから、B2、B5の各周波数帯域は聴取者に「後方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。図5(A)に示す特性曲線Coから、B4の周波数帯域は聴取者に「上方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。
したがって、図5(A)に示す方向決定帯域B1、B2、B3、B4、およびB5を選択的に使用して作成した音響を出力することにより、聴取者が知覚する「前方向」、「後方向」、および「上方向」を制御することができる。
(第1実施形態)
まず、装置全体の構成例を説明する。
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100の構成例を図1に示す。
図1に示した車両用方向提示装置100は、提示方向決定部10、音提示部20、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
提示方向決定部10は、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。
音提示部20は、提示方向決定部10が出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。音提示部20の具体的な構成については後で説明する。
車両状態検出部31は、必要に応じて自車両における様々な状態を検出し、何らかの方向と関連のある車両状態信号SG11を出力する。具体例としては、車両状態検出部31として、車載カメラ、ドアスイッチ、トランクスイッチ、車輪の空気圧センサ等を用いることが考えられる。例えば、自車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のいずれかに空気圧の異常が発生したことを検知した場合は、右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のうち異常が発生した箇所を特定可能な車両状態信号SG11を出力する。車両状態検出部31は、自車両に搭載された1つ以上のセンサであってもよいし、様々なセンサが接続された電子制御ユニット(ECU)であってもよい。
車両周辺情報検出部32は、自車両の周辺における様々な情報を検知して車両周辺情報SG12を出力する。例えば、自車両の進行方向に存在する他車両、歩行者、障害物や、自車両に接近する他車両などを車両周辺情報検出部32が検知する。車両周辺情報検出部32は、例えば自車両の周辺の様々な映像を撮影するカメラと映像の内容を自動的に認識する認識装置とを組み合わせて構成することもできるし、例えばレーザ光などを用いて自車両の周辺の障害物等を検知するレーダ装置として構成することもできるし、ITSから得られた情報でも構成できる。
顔検出部33は、運転席に着座している運転者の実際の顔の向きが基準方向(車両の前方)に対してどれだけずれているのかを検知して顔方向情報SG13を生成する。この顔検出部33は、例えば運転席の正面に運転者の顔を撮影できる状態で配置したカメラと、このカメラが撮影した映像を認識する装置とを組み合わせて構成することもできるし、運転者に装着されるジャイロセンサを用いて構成することもできる。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。例えば、図4に示すようにスピーカ34は聴取者である運転者の左耳側に配置され、スピーカ35は運転者の右耳側に配置される。なお、スピーカ34および35を配置する位置については、運転者の前方に変更してもよいし、運転席のヘッドレスト等の箇所に配置してもよい。
次に、提示する音の具体例を説明する。
図1に示した車両用方向提示装置100が提示する音を構成する各成分の波形および周波数の例を図3に示す。
すなわち、車両用方向提示装置100が方向を提示する場合に、図1のスピーカ34および35が出力する音響には、図3に示した(音A)の成分の波形WAと(音B)の成分の波形WBとが含まれている。
ここで、(音A)の成分の波形WAは、例えば周波数が1[kHz]の正弦波である。また、(音B)の成分の波形WBは、例えば周波数が800〜1600[Hz]の間で周期的に変動するように周波数変調された正弦波の複合音である。つまり、図3に示す特性曲線CBのように、波形WBの周波数は周期的に変動する。また、これらの周波数については、いずれかの方向決定帯域内の周波数と一致するように自動的に選択される。また、図3に示した各成分の波形WA、WBはいずれも断続信号であり、振幅が0になる区間(時刻t2−時刻t3、時刻t4−時刻t5)が周期的に現れる。
なお、図3に示した波形WA、WBについては、波形WAが周波数一定の正弦波で、波形WBが周波数変調された正弦波である場合に限られない。例えば、波形WAは、変調開始周波数及び変調終了周波数の少なくともいずれか一方が波形WBと異なるように変調された波形であってもよい。さらには、波形WA、WBを正弦波の代わりに例えば矩形波や三角波のような波形に置き換えることも可能である。また、(音A)、(音B)のみに限らず、更に別の信号を同時に出力してもよい。例えば、互いに周波数が異なる複数の(音A)と、1つの(音B)とを組み合わせてもよいし、1つの(音A)と、互いに周波数が異なる複数の(音B)とを組み合わせてもよい。また、互いに波形が異なる複数の信号を合成してもよい。更に、各信号を振幅変調してもよい。
図3に示した(音A)、(音B)のように、方向決定帯域内の周波数の信号を用いて音響を出力することにより、スピーカの数を4つ以上に増やすことなく、運転者等の聴取者に対して「前」、「後」、「上」等の特定の方向を知覚させることができる。しかも、耳の形状などの個人差の影響が少なく、聴取位置の位置ずれの影響も少ない。なお、例えばスピーカ34、35が出力する音響の音量バランス、時間差、位相差等を調整すれば、提示する方向を左右方向に対して変化させることができる。
また、図3に示した(音B)の波形WBのように周波数変調された信号を用いて音響を出力することにより、聴取者が「後方」を知覚する場合の正答率が向上する。更にこの効果を高めるためには(音B)と組み合せる(音A)のような波形成分が必要になる。
また、(音B)の波形WBの周波数を図3に示した特性曲線CBのように、時間の経過と共に低い周波数から高い周波数に向かってなだらかに変化するように変調制御することにより、方向の知覚の他にも副次的な効果が得られる。すなわち、この音響により運転者が危険を感じたり、危機感が強調されるような効果がある。
また、周波数を変調させた存在感のある音源を利用しているので、音源としてホワイトノイズの狭帯域信号を使用する場合と比べて、聴取者に対して十分な刺激を与えることができ、報知音等の用途で望ましい結果が得られる。
次に、提示する方向の具体例を説明する。
提示する音と聴取者との位置関係の例を図4に示す。
例えば、図4に示すように、左側のスピーカ34の音量を上げて、右側のスピーカ35の音量を下げれば、聴取者37は、音源が自分の左の方向に位置するように知覚することになる。また、図3に示した(音A)、(音B)の音響成分として、図5(A)に示した方向決定帯域B2またはB5の周波数の音をスピーカ34、35から出力すれば、聴取者37は、音源が自分の後方に位置するように知覚することになる。
更に、上記のようなスピーカ34、35の左右の音量バランスの調整と、後方を示す方向決定帯域B2またはB5の周波数の音の出力とを同時に行えば、図4に示すように左向きのベクトルと後ろ向きのベクトルとの合成結果として、聴取者37が自分の左後方の向きを知覚するように、方向を提示することができる。
また、図示しないが、例えば聴取者37の前方の方向を提示する場合には、聴取者37の正中面上に配置した1つのスピーカ、または左右に配置したスピーカから前方を知覚する方向決定帯域B1またはB3の周波数で、(音A)、(音B)の音響成分を同時に出力する。これにより出力される音響は、聴取者37に前方の向きを知覚させるものとなる。
次に、音提示部20の構成例を説明する。
音提示部20の構成例を図2に示す。なお、図2に示す音提示部20と同等の機能を実現する装置については、構成上の様々な変形が考えられる。例えば、アナログ電気回路で構成することもできるし、デジタル回路で構成することもできるし、マイクロコンピュータを主体とする回路とソフトウェアとの組み合わせで構成することもできる。したがって、図2に示した複数の構成要素を一体化したり、複数の構成要素の接続関係を変更したり、各構成要素をソフトウェアで置き換えるような変更も考えられる。
図2に示した音提示部20について以下に説明する。この音提示部20は、正弦波信号発生器21、22、周波数選択部23、オンオフ信号発生器25、信号合成部26、左右バランス調整部27、増幅器28、および29を備えている。
正弦波信号発生器21は、周波数が可変の正弦波を正弦波信号SG21として出力することができる。この正弦波信号SG21は、図3に示した(音A)の波形WAに相当する信号である。また、正弦波信号発生器21は、出力する信号の周波数を決定するための制御入力を備えている。制御入力には周波数制御信号SG23が印加される。
正弦波信号発生器22は、周波数が可変の正弦波を正弦波信号SG22として出力することができる。この正弦波信号SG22は、図3に示した(音B)の波形WBに相当する信号である。また、正弦波信号発生器22は、出力する信号の変調周波数を決定するための制御入力を備えている。制御入力には変調周波数制御信号SG24が印加される。
周波数選択部23は、図1に示した提示方向決定部10から出力される提示方向信号SG14およびオンオフ信号発生器25から出力されるオンオフ制御信号SG25に従って、適切な方向決定帯域の周波数を選択するための周波数制御信号SG23および変調周波数制御信号SG24を生成する。この周波数制御信号SG23が、正弦波信号発生器21へ、変調周波数制御信号SG24が正弦波信号発生器22の制御入力に印加される。
オンオフ信号発生器25は、信号のオンオフ、または周期的に変化するオンオフ制御信号SG25を生成する。このオンオフ制御信号SG25が周波数選択部23の制御入力に印加される。つまり、図3に示した波形WA、WBにおいて、時刻t1まで、時刻t2−t3の区間、時刻t4−t5の区間、時刻t6以降などで波形出力を周期的に停止するためにオンオフ制御信号SG25を利用している。
信号合成部26は、正弦波信号発生器21が出力する正弦波信号SG21と、正弦波信号発生器22が出力する正弦波信号SG22とを加算してその結果を合成信号SG26として出力する。つまり、合成信号SG26は、図3に示した波形WAと波形WBとを合成したものとなる。
左右バランス調整部27は、信号合成部26から出力される合成信号SG26に基づいて、左側出力信号SG27Lおよび右側出力信号SG27Rを生成する。また、左右バランス調整部27は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG27Lと右側出力信号SG27Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
例えば、図4に示すように聴取者37から見て左側に音源が存在するように音量バランスを調整する場合には、左側出力信号SG27Lの振幅を大きくして、同時に右側出力信号SG27Rの振幅を小さくするように左右バランス調整部27が制御する。
増幅器28は、左側出力信号SG27Lを増幅してスピーカ34を駆動するのに十分な電力の左側出力信号SG15Lを出力する。この左側出力信号SG15Lがスピーカ34に印加される。増幅器29は。右側出力信号SG27Rを増幅してスピーカ35を駆動するのに十分な電力の右側出力信号SG15Rを出力する。この右側出力信号SG15Rがスピーカ35に印加される。
次に、音提示部20の動作を説明する。
図2に示した音提示部20においては、入力される提示方向信号SG14に従って、適切な方向決定帯域内の周波数を選択するための周波数制御信号SG23および変調周波数制御信号SG24を周波数選択部23が生成する。そして、周波数制御信号SG23に従って、正弦波信号発生器21、変調周波数制御信号SG24に従って、正弦波信号発生器22がそれぞれ適切な方向決定帯域内の周波数を生成する。
例えば、提示方向信号SG14の提示方向が「後方向」である場合は、図5に示した方向決定帯域B2内の周波数を周波数選択部23が選択する。そして、図3に示す(音A)の波形WAのように、例えば周波数が1[kHz]の正弦波を正弦波信号発生器21が生成する。また、図3に示す(音B)のように、例えば周波数が800〜1600[Hz]の範囲の正弦波を正弦波信号発生器22が生成する。
また、正弦波信号発生器22が生成する正弦波は周波数選択部23が出力する変調周波数制御信号SG24によって周波数変調されるので、正弦波信号SG22の周波数は、図3に示す(音B)のように、例えば周波数が800〜1600[Hz]の範囲で周期的に変動する。
また、周波数選択部23は、制御入力に印加されるオンオフ制御信号SG25に従って周波数制御信号SG23および変調周波数制御信号SG24のオンオフを周期的に切り替えるので、正弦波信号発生器21および22から出力される正弦波信号SG21およびSG22のそれぞれは、図3に示す波形WA、WBのように断続的に現れる。
また、正弦波信号発生器21が出力する正弦波信号SG21と正弦波信号発生器22が出力する正弦波信号SG22とを信号合成部26で合成するので、図3に示した(音A)、(音B)の各信号成分を同時に同じスピーカ34および35からそれぞれ出力することができる。
また、スピーカ34および35から出力される音響は、図3に示した(音A)の波形WA、および(音B)の波形WBを含み、これらの周波数は提示方向信号SG14に従って選択されたいずれかの方向決定帯域内の周波数である。したがって、選択された方向決定帯域の違いにより、聴取者37は「前方向」、「後方向」、「上方向」のいずれかを知覚できる。
更に、提示方向信号SG14に従って、左右バランス調整部27が左右の音量バランスを自動的に調節するので、聴取者37は左右の方向の違いも知覚できる。例えば図4に示した左後方のように、聴取者37は水平面内の任意の方向と、上方向とをそれぞれ区別した状態で方向を知覚できる。
また、音提示部20に入力される提示方向信号SG14には、顔検出部33が検知した聴取者37の顔の向きの違いが反映されている。したがって、聴取者37は車両の進行方向の前方を向いている状態でなくても、車両用方向提示装置100が提示した方向を正しく知覚することができる。
(第2実施形態)
まず、装置全体の構成例を説明する。
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100Bの構成例を図6に示す。
図6に示した車両用方向提示装置100Bは、提示方向決定部10B、音提示部20B、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
提示方向決定部10Bは、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。また、提示方向決定部10Bは、提示対象の物体等の接近状態を検知して、その結果を接近状態信号SG16として出力する。
音提示部20Bは、提示方向決定部10Bが出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。また、運転者等の聴取者が接近状態を音響により把握できるように、音提示部20Bは提示方向決定部10Bが出力する接近状態信号SG16に従い、接近状態を音響の周波数帯域の変化や音量の違いに反映する。音提示部20Bの具体的な構成については後で説明する。
図6中に示した車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、および顔検出部33は、既に説明した第1実施形態とほぼ同じである。但し、第2実施形態の車両周辺情報検出部32は、例えば、自車両の近傍に存在する他車両、歩行者、障害物等の方向だけでなく、距離や接近速度の情報も取得できる場合を想定している。
例えば、図9(A)に示したように、自車両の右後方から他車両が接近しているような状況で、車両周辺情報検出部32は、自車両から他車両までの距離、距離の変化速度などの情報も出力する。そして、提示方向決定部10Bは、車両周辺情報検出部32が出力する情報に基づいて、接近状態信号SG16を生成する。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。例えば、図9(B)に示すようにスピーカ34は聴取者である運転者の左耳側に配置され、スピーカ35は運転者の右耳側に配置される。なお、スピーカ34および35を配置する位置については、運転者の前方に変更してもよいし、運転席のヘッドレスト等の箇所に配置してもよい。
例えば、図9(A)に示したように、自車両の右後方から他車両が接近しているような状況で、音提示部20Bは、他車両の接近状態に応じて、つまり接近状態信号SG16に従い、聴取者37に提示する音の方向の違いの他に、音の種類S01〜S05(周波数帯域の変化、および音量(音の強さ)の違い)に反映するように制御する。
次に、提示する音の具体例を説明する。
図9(B)に示した音の種類S01、S02、S03を選択する場合には、他車両が自車両の右後方に存在しているので、聴取者37が後方を知覚できるように、例えば図10に示す周波数スペクトルにおける後方を知覚する帯域B21内の周波数を音提示部20Bが選択する。また、図9(B)に示した音の種類S04、S05を選択する場合には、他車両が自車両の右前方に存在しているので、聴取者37が前方を知覚できるように、例えば図10に示す周波数スペクトルにおける前方を知覚する帯域B22内の周波数を音提示部20Bが選択する。
また、図8に示すように、音の種類S01、S02、およびS03を選択する場合には、それぞれ後方を知覚する帯域B21内の帯域B21a、B21b、およびB21cの周波数帯域を使用し、音量も同時に変更する。また、音の種類S04、およびS05を選択する場合には、それぞれ前方を知覚する帯域B22内の帯域B22a、およびB22bの周波数帯域を使用し、音量も同時に変更する。音の種類の違いの詳細について以下に説明する。
図6に示した車両用方向提示装置100Bが提示する音を構成する各成分の波形および周波数の例を図11に示す。すなわち、車両用方向提示装置100Bが方向を提示する場合に、図6のスピーカ34および35が出力する音響には、図11に示した(音A)の成分の波形WAと(音B)の成分の波形WBとが含まれている。
ここで、(音A)の成分の波形WAは、接近状態に従って、例えば周波数が方向決定帯域内で850、950、1050[Hz]と変化する正弦波である。また、(音B)の成分の波形WBは、例えば周波数が800〜1600[Hz]の間で周期的に変動するように周波数変調された正弦波の複合音である。また、(音B)の成分の波形WBは、接近状態に従って図11に示すように変調する周波数帯域の中心が変化する。ここで、(音A)の成分の波形WAの周波数は、(音B)の成分の波形WBの変調する周波数帯域内に定めてある。また、図11に示した各成分の波形WA、WBはいずれも断続信号であり、振幅が0になる区間が周期的に現れる。
なお、図11に示した波形WA、WBについては、正弦波の代わりに例えば矩形波や三角波のような波形に置き換えることも可能である。また、(音A)、(音B)のみに限らず、更に別の信号を同時に出力してもよい。例えば、互いに周波数が異なる複数の(音A)と、1つの(音B)とを組み合わせてもよいし、1つの(音A)と、互いに周波数が異なる複数の(音B)とを組み合わせてもよい。また、互いに波形が異なる複数の信号を合成してもよい。更に、各信号を振幅変調してもよい。
また、図8および図11に示したように出力する音の種類S01〜S05を順次に変更することにより、図9(B)に示すように他車両の接近状態の違いを音で聴取者37に知覚させることができる。また、選択した後方を知覚する帯域B21、前方を知覚する帯域B22の違いと、左右の音量バランスの違いにより、他車両が存在する方向の違いを聴取者37に知覚させることができる。
次に、音提示部20Bの構成例を説明する。
音提示部20Bの構成例を図7に示す。なお、図7に示す音提示部20Bと同等の機能を実現する装置については、構成上の様々な変形が考えられる。例えば、アナログ電気回路で構成することもできるし、デジタル回路で構成することもできるし、マイクロコンピュータを主体とする回路とソフトウェアとの組み合わせで構成することもできる。したがって、図7に示した複数の構成要素を一体化したり、複数の構成要素の接続関係を変更したり、各構成要素をソフトウェアで置き換えるような変更も考えられる。
図7に示した音提示部20Bは、正弦波信号発生器21、22、周波数選択部23B、オンオフ信号発生器25、信号合成部26、左右バランス調整部27B、増幅器28、および29を備えている。
周波数選択部23Bは、図6に示した提示方向決定部10Bから出力される提示方向信号SG14に従って、適切な方向決定帯域の周波数を選択するための周波数制御信号SG23、変調周波数制御信号SG24を生成する。また、周波数選択部23Bは、提示方向決定部10Bから出力される接近状態信号SG16に応じて周波数制御信号SG23、変調周波数制御信号SG24を出力する。この周波数制御信号SG23が、正弦波信号発生器21、変調周波数制御信号SG24が、正弦波信号発生器22の制御入力に印加される。
したがって、接近状態信号SG16に応じて、図8に示した帯域B21a、B21b、B21c、B22a、B22bが切り替わるように、正弦波信号発生器21が出力する正弦波信号SG21、および正弦波信号発生器22が出力する正弦波信号SG22の周波数を変更することができる。
左右バランス調整部27Bは、信号合成部26から出力される合成信号SG26に基づいて、左側出力信号SG27Lおよび右側出力信号SG27Rを生成する。また、左右バランス調整部27Bは提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG27Lと右側出力信号SG27Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。更に、左右バランス調整部27Bは、接近状態信号SG16に従って、左側出力信号SG27Lおよび右側出力信号SG27Rの音量を調整する。したがって、接近状態信号SG16に応じて、図8に示したように音量が変化する。
周波数選択部23Bおよび左右バランス調整部27B以外の構成要素については、既に説明した図2の音提示部20の構成と同様であるので説明を省略する。
上述の車両用方向提示装置100Bを用いることにより、他車両等の提示対象の方向だけでなく、接近状態の違いも聴取者37が音で知覚できるように音で表現することができる。これにより、安全運転を効果的に支援し、危険を回避することが可能になる。なお、接近状態の違いによる音の周波数帯域や音量の調節については、必要に応じて、ステップ状に切り替えてもよいし、連続的に変化させてもよい。このことは、他の実施形態においても同様である。
(第3実施形態)
まず、装置全体の構成例を説明する。
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100の構成例を図1に示す。
図1に示した車両用方向提示装置100は、提示方向決定部10、音提示部20、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
第3実施形態では音源として環境音を利用する。したがって、第3実施形態における音提示部20の具体的な構成は、第1実施形態とは異なっている。これについては後で説明する。
提示方向決定部10は、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。
音提示部20は、提示方向決定部10が出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。音提示部20の具体的な構成については後で説明する。
車両状態検出部31は、必要に応じて自車両における様々な状態を検出し、何らかの方向と関連のある車両状態信号SG11を出力する。具体例としては、車両状態検出部31として、車載カメラ、ドアスイッチ、トランクスイッチ、車輪の空気圧センサ等を用いることが考えられる。例えば、自車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のいずれかに空気圧の異常が発生したことを検知した場合は、右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のうち異常が発生した箇所を特定可能な車両状態信号SG11を出力する。車両状態検出部31は、自車両に搭載された1つ以上のセンサであってもよいし、様々なセンサが接続された電子制御ユニット(ECU)であってもよい。
車両周辺情報検出部32は、自車両の周辺における様々な情報を検知して車両周辺情報SG12を出力する。例えば、自車両の進行方向に存在する他車両、歩行者、障害物や、自車両に接近する他車両などを車両周辺情報検出部32が検知する。車両周辺情報検出部32は、例えば自車両の周辺の様々な映像を撮影するカメラと映像の内容を自動的に認識する認識装置とを組み合わせて構成することもできるし、例えばレーザ光などを用いて自車両の周辺の障害物等を検知するレーダ装置として構成することもできるし、ITSから得られた情報でも構成できる。
顔検出部33は、運転席に着座している運転者の実際の顔の向きが基準方向(車両の前方)に対してどれだけずれているのかを検知して顔方向情報SG13を生成する。この顔検出部33は、例えば運転席の正面に運転者の顔を撮影できる状態で配置したカメラと、このカメラが撮影した映像を認識する装置とを組み合わせて構成することもできるし、運転者に装着されるジャイロセンサを用いて構成することもできる。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。例えば、図4に示すようにスピーカ34は聴取者である運転者の左耳側に配置され、スピーカ35は運転者の右耳側に配置される。なお、スピーカ34および35を配置する位置については、運転者の前方に変更してもよいし、運転席のヘッドレスト等の箇所に配置してもよい。
次に、音提示部20の構成例を説明する。
本実施形態では、音源として環境音を利用するので、図1に示した音提示部20の具体例として、図12に示した音提示部20C、または図13に示した音提示部20Dの構成を用いることができる。
なお、図12、および図13に示した主要な構成要素については、アナログ電気回路で構成することもできるし、デジタル回路で構成することもできるし、マイクロコンピュータを主体とする回路とソフトウェアとの組み合わせで構成することもできる。
次に、音提示部20Cの構成を説明する。
図12に示した音提示部20Cは、マイク41、周波数フィルタ42、方向決定帯域選択部43、左右バランス調整部44、位相調整部45、46、増幅器28、および29を備えている。
マイク41は、例えば図15に示すように、車室内の運転席に着座している運転者に相当する聴取者37の顔の前方に配置されている。もちろん、車室内の別の位置にマイク41を設置してもよいが、聴取者37に聞こえる環境音と同等の音を集音できる位置に配置するのが好ましい。このマイク41は、車室内で集音可能な様々な環境音を集音し、集音した音を電気信号に変換して環境音信号SG41として出力する。この環境音には、例えば自車両の走行に伴って発生する走行音、エンジン音、車室内のオーディオ装置などが出力する音楽等の音、自車両の周囲で発生した環境騒音などが含まれる。
周波数フィルタ42は、環境音信号SG41を入力し、不要な周波数成分を除去した結果を信号SG42として出力する。つまり、音源として使用する環境音信号SG41の中で、必要な周波数成分のみを抽出する。具体的には、図5(A)に示した方向決定帯域B1〜B5の各々に該当する周波数以外の成分を周波数フィルタ42で除去する。したがって、環境音信号SG41の中の、方向決定帯域B1〜B5の周波数成分のみが信号SG42に現れる。
方向決定帯域選択部43は、抽出する周波数が可変のフィルタであり提示方向信号SG14に従って、信号SG42の中から選択した特定の周波数成分のみを方向決定帯域信号SG43として出力する。
例えば、提示方向信号SG14が「前方向」の場合には、方向決定帯域B1またはB3内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「後方向」の場合には、方向決定帯域B2またはB5内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「上方向」の場合には、方向決定帯域B4内の周波数成分を選択的に抽出する。
左右バランス調整部44は、方向決定帯域信号SG43を入力し、これと同等の信号を左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rとして出力する。また、左右バランス調整部44は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG44Lと、右側出力信号SG44Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
例えば、提示方向信号SG14が「左方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を大きくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を小さくするように音量バランスを調整する。逆に、提示方向信号SG14が「右方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を小さくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を大きくするように音量バランスを調整する。
位相調整部45は、左側出力信号SG44Lを入力し、位相を調整した結果を左側出力信号SG27Lとして出力する。位相調整部46は、右側出力信号SG44Rを入力し、位相を調整した結果を右側出力信号SG27Rとして出力する。
増幅器28は、左側出力信号SG27Lを増幅してスピーカ34を駆動するのに十分な電力の左側出力信号SG15Lを出力する。この左側出力信号SG15Lがスピーカ34に印加される。増幅器29は、右側出力信号SG27Rを増幅してスピーカ35を駆動するのに十分な電力の右側出力信号SG15Rを出力する。この右側出力信号SG15Rがスピーカ35に印加される。
次に、音提示部20Dの構成を説明する。
図13に示した音提示部20Dは、マイク51、録音制御部52、録音データ保持部53、録音データ再生部54、方向決定帯域選択部55、左右バランス調整部56、増幅器28、および29を備えている。なお、事前に録音した標準的な環境音のデータを利用する場合には、マイク51および録音制御部52は不要である。
マイク51は、図15に示したマイク41と同様に、車室内で集音可能な環境音を集音できる位置に配置される。このマイク51は、環境音を集音し、集音した音を電気信号に変換して環境音信号SG51として出力する。この環境音には、例えば自車両の走行に伴って発生する走行音、エンジン音、車室内のオーディオ装置などが出力する音楽等の音、自車両の周囲で発生した環境騒音などが含まれる。
録音制御部52は、車両用方向提示装置100を通常状態で使用する前の準備として、音提示部20Dが録音モードで動作する時に、環境音信号SG51からデジタル信号である録音データSG52を生成し、これを時系列データとして録音データ保持部53上に順次に書き込み保存する。
録音データ保持部53は、例えば不揮発性メモリにより構成され、データの書き込みおよび読み出しを自在に行うことができる。録音データ保持部53は、事前に登録した環境音のデータ、または録音制御部52が書き込んだ環境音の録音データSG52を保持することができる。
録音データ再生部54は、車両用方向提示装置100を通常状態で使用する時に、録音データ保持部53から読み出した録音データSG53を入力し、これを音の電気信号として再生し、再生音信号SG54を生成する。
方向決定帯域選択部55は、入力される再生音信号SG54から、可変の特定の周波数帯域の信号成分を抽出するフィルタである。すなわち、方向決定帯域選択部55は、提示方向信号SG14が示す方向に従って、図5(A)に示した方向決定帯域B1〜B5のいずれかの範囲内の周波数成分のみを方向決定帯域信号SG55として抽出することができる。
例えば、提示方向信号SG14が「前方向」の場合には、方向決定帯域B1またはB3内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「後方向」の場合には、方向決定帯域B2またはB5内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「上方向」の場合には、方向決定帯域B4内の周波数成分を選択的に抽出する。
左右バランス調整部56は、方向決定帯域信号SG55を入力し、これと同等の信号を左側出力信号SG27L、および右側出力信号SG27Rとして出力する。また、左右バランス調整部56は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG27Lと、右側出力信号SG27Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
例えば、提示方向信号SG14が「左方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG27Lの振幅を大きくすると共に、右側出力信号SG27Rの振幅を小さくするように音量バランスを調整する。逆に、提示方向信号SG14が「右方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG27Lの振幅を小さくすると共に、右側出力信号SG27Rの振幅を大きくするように音量バランスを調整する。
増幅器28は、左側出力信号SG27Lを増幅してスピーカ34を駆動するのに十分な電力の左側出力信号SG15Lを出力する。この左側出力信号SG15Lがスピーカ34に印加される。増幅器29は。右側出力信号SG27Rを増幅してスピーカ35を駆動するのに十分な電力の右側出力信号SG15Rを出力する。この右側出力信号SG15Rがスピーカ35に印加される。
次に、第3実施形態の車両用方向提示装置100の動作を説明する。
自車両が駐車のために後退する場合について、障害物との位置関係の例を上方から見た状態を図14に示す。また、聴取者37である運転者と提示する音との位置関係および方向の例を図15に示す。また、車両上における環境騒音および提示する音の周波数スペクトルの例を図16に示す。
図14においては、自車両が後退しながら駐車場に駐車しようとする際に、進行方向に三輪車のような障害物が存在する場合を想定している。図14に示す状態では、自車両の運転者に対して障害物の存在を知らせるために、音響出力により左後方の方向提示を行うことが望ましい。
第3実施形態の車両用方向提示装置100は、図14に示すような状況において、スピーカ34および35の音響出力を用いて、図15に示すように左後方の方向提示を行うことができる。
すなわち、図15に示すように、左側のスピーカ34の音量を上げて、右側のスピーカ35の音量を下げれば、聴取者37は、音源が自分の左の方向に位置するように知覚することになる。また、図5(A)に示した方向決定帯域B2またはB5の周波数の音をスピーカ34、35から出力すれば、聴取者37は、音源が自分の後方に位置するように知覚することになる。更に、上記のようなスピーカ34、35の左右の音量バランスの調整と、後方を示す方向決定帯域B2またはB5の周波数の音の出力とを同時に行えば、図15に示すように左向きのベクトルと後ろ向きのベクトルとの合成結果として、聴取者37が自分の左後方の向きを知覚するように、方向を提示することができる。
また、図示しないが、例えば聴取者37の前方の方向を提示する場合には、聴取者37の正中面上に配置した1つのスピーカ、または左右に配置したスピーカから前方を知覚する方向決定帯域B1またはB3の周波数で音響を出力する。これにより出力される音響は、聴取者37に前方の向きを知覚させるものとなる。
図15に示すような方向提示を行う場合に、この車両上の環境騒音および提示する音の周波数スペクトルは図16に示すような状態になる。すなわち、後方向を提示するために車両用方向提示装置100のスピーカ34、35から出力される音響は、環境音の一部分であり、その周波数は聴取者37が後方向を知覚する方向決定帯域B31(図5(A)中のB2に相当)内のみにある。
したがって、聴取者37が知覚する環境音の中で、方向決定帯域B31の音量だけが加算されて、図16に示すようにレベルL0からL1に増大する。つまり、車両用方向提示装置100が左後方を提示する音を出力すると、聴取者37は、それまでに聞こえていた環境音と比べて、特定の周波数成分(方向決定帯域B31)が増大したことを知覚し、これにより後方向を提示されたことを知覚することになる。また、実際には左右の音量バランスの影響も加わるので、聴取者37は図15に示すように左後方を知覚する。
なお、図16の周波数スペクトルに示した動作例では、方向決定帯域B31の環境音を増大させることにより方向を提示しているが、図12に示した音提示部20Cを利用する場合には、マイク41が集音したリアルタイムの環境音を音源として使用するので、ノイズキャンセルの手法を用いて一部の環境音を打ち消し、これを方向提示に利用することも可能である。
すなわち、聴取者37が聞くことのできる環境音と同じ波形の音響を逆位相で加算することにより、聴取者37が知覚する環境音の音量を低減したり消すことができる(ノイズキャンセル)。図12に示した音提示部20Cにおいては、位相調整部45および46を用いて左側出力信号SG27L、右側出力信号SG27Rの位相を調整することにより、環境音と同じ波形の逆位相の音響をスピーカ34、35から出力し、環境音の音量を低減したり消すことができる。つまり、特定方向の環境音のみを打ち消すことにより、該当する方向を聴取者37に知覚させることができる。
第3実施形態の車両用方向提示装置100においては、マイク41で集音したリアルタイムの環境音、または録音した環境音を音源として利用しているので、次のような利点がある。
(1)音の提示のために出力される音が、運転者が常時知覚している環境音とほぼ同じであるため、ブザー音のような人工音や一般的な報知音と比べて違和感を感じにくい。そのため、例えば方向の提示が繰り返し、あるいは継続的に行われた場合でも、その音を運転者が煩わしく感じるような状況が生じにくい。
(2)ホワイトノイズなどの音源を利用する場合と比べると、存在感のある音響が出力されるので、方向を提示する報知音の用途に適した音響が得られる。
(3)車両の走行時に発生する環境音には前後方向の方向感が盛り込まれているので、音源自体に含まれる方向感を、聴取者37が感じる方向感を強調するために役立てることができる。
なお、図1に示した車両用方向提示装置100においてはこれに接続した専用のスピーカ34、35を利用して音響を出力しているが、スピーカ34、35の代わりに適当な音響出力デバイスを利用することも可能である。例えば、車両に固定されているメータ内蔵スピーカや、オーディオ装置用スピーカを利用してもよい。また、ユーザが車両に持ち込む機器に搭載されたデバイス、例えばスマートフォン内蔵スピーカ、ヘッドマウントディスプレイ付属スピーカなどを利用してもよい。また、一般的なスピーカの他に、ブザーやパラメトリックスピーカなどを利用することもできる。
(第4実施形態)
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100Bの構成例を図6に示す。
図6に示した車両用方向提示装置100Bは、提示方向決定部10B、音提示部20B、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
第4実施形態では音源として環境音を利用する。したがって、第4実施形態における音提示部20Bの具体的な構成は、第2実施形態とは異なっている。これについては後で説明する。
提示方向決定部10Bは、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。また、提示方向決定部10Bは、提示対象の物体等の接近状態を検知して、その結果を接近状態信号SG16として出力する。
音提示部20Bは、提示方向決定部10Bが出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。また、運転者等の聴取者が接近状態を音響により把握できるように、音提示部20Bは提示方向決定部10Bが出力する接近状態信号SG16に従い、接近状態を音響の種類の変化や音量の違いに反映する。音提示部20Bの具体的な構成については後で説明する。
図6中に示した車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、および顔検出部33は、既に説明した第3実施形態とほぼ同じである。但し、第4実施形態の車両周辺情報検出部32は、例えば、自車両の近傍に存在する他車両、歩行者、障害物等の方向だけでなく、距離や接近速度の情報も取得できる場合を想定している。
例えば、図9(A)に示したように、自車両の右後方から他車両が接近しているような状況で、車両周辺情報検出部32は、自車両から他車両までの距離、距離の変化速度などの情報も出力する。そして、提示方向決定部10Bは、車両周辺情報検出部32が出力する情報に基づいて、接近状態信号SG16を生成する。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。例えば、図9(B)に示すようにスピーカ34は聴取者である運転者の左耳側に配置され、スピーカ35は運転者の右耳側に配置される。なお、スピーカ34および35を配置する位置については、運転者の前方に変更してもよいし、運転席のヘッドレスト等の箇所に配置してもよい。
例えば、図9(A)に示したように、自車両の右後方から他車両が接近しているような状況で、音提示部20Bは、他車両の接近状態に応じて、つまり接近状態信号SG16に従い、聴取者37に提示する音の方向の違いの他に、音の種類S01〜S05(周波数帯域の変化、および音量(音の強さ)の違い)に反映するように制御する。
次に、音提示部20Bの構成例を説明する。
本実施形態では、音源として環境音を利用するので、図6に示した音提示部20Bの具体例として、図17に示した音提示部20E、または図18に示した音提示部20Fの構成を用いることができる。図17の音提示部20E、および図18の音提示部20Fは、図12に示した音提示部20Cの変形例である。
次に、音提示部20Eの構成を説明する。
図17に示した音提示部20Eは、マイク41、周波数フィルタ42、方向決定帯域選択部43B、左右バランス調整部44B、位相調整部45、46、増幅器28、および29を備えている。
方向決定帯域選択部43Bは、抽出する周波数が可変のフィルタであり提示方向信号SG14に従って、信号SG42の中から選択した特定の周波数成分のみを方向決定帯域信号SG43として出力する。
例えば、提示方向信号SG14が「前方向」の場合には、方向決定帯域B1またはB3内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「後方向」の場合には、方向決定帯域B2またはB5内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「上方向」の場合には、方向決定帯域B4内の周波数成分を選択的に抽出する。
また、方向決定帯域選択部43Bは、接近状態信号SG16に従って、方向決定帯域内で選択する周波数の微調整を行うことができる。例えば、図8に示した後方を知覚する帯域B21を提示方向信号SG14により選択している状態で、図8に示した帯域B21a、B21b、B21c等のいずれかを接近状態信号SG16により選択することができる。
左右バランス調整部44Bは、方向決定帯域信号SG43を入力し、これと同等の信号を左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rとして出力する。また、左右バランス調整部44は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG44Lと、右側出力信号SG44Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
例えば、提示方向信号SG14が「左方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を大きくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を小さくするように音量バランスを調整する。逆に、提示方向信号SG14が「右方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を小さくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を大きくするように音量バランスを調整する。また、左右バランス調整部44Bは、接近状態信号SG16に従って、左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rの両方の音量を自動的に調整する。
方向決定帯域選択部43Bおよびと左右バランス調整部44B以外の構成要素については、既に説明した図12の構成と同様であるので説明を省略する。
次に、音提示部20Fの構成を説明する。
図18に示した音提示部20Fの構成は、図17に示した音提示部20Eの変形例である。すなわち、図18の音提示部20Fには方向提示用音源49が追加され、更に音源を切り替える機能が追加されている。
方向提示用音源49は、環境音とは異なる人工音の信号を出力する。具体的には、図3に示した(音A)、および(音B)の各成分を合成した信号を出力する。ここで(音A)、および(音B)の各成分は、正弦波や矩形波のような単調な波形の信号である。(音A)、および(音B)の各成分の周波数は、提示方向信号SG14により定まるいずれかの方向決定帯域の範囲内に定められる。更に、(音A)は周波数が一定であり、(音B)の信号は周波数変調されている。また、(音A)、および(音B)の各成分は断続する信号である。
図18に示した左右バランス調整部44Bは、方向決定帯域選択部43Bが出力する方向決定帯域信号SG43と、方向提示用音源49が出力する方向決定帯域信号SG49とのいずれか一方を、接近状態信号SG16に従って選択し、選択した信号を音源として利用する。そして、選択した信号と同等の信号を左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rとして出力する。
また、左右バランス調整部44Bは提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG44Lと、右側出力信号SG44Rとの間の左右の音量バランスを調整する。また、左右バランス調整部44Bは接近状態信号SG16に従って、左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rの両方の音量を調整する。
そして、接近状態信号SG16の状態が比較的安全な状態では、左右バランス調整部44Bは方向決定帯域信号SG43を音源として選択する。また、距離や接近速度が所定の警報レベルに達したことが接近状態信号SG16により認識された時には、左右バランス調整部44Bは方向提示用音源49を音源として自動的に選択する。
次に、第4実施形態の車両用方向提示装置100Bの特徴的な動作を説明する。
例えば、図9(A)に示したように、自車両の右後方から他車両が接近しているような状況で、図17の音提示部20E、または図18の20Fは、他車両の接近状態に応じて、つまり接近状態信号SG16に従い、聴取者37に提示する音の方向の違いの他に、音の種類S01〜S05(周波数帯域の変化、および音量(音の強さ)の違い)に反映するように制御する。
図9(B)に示した音の種類S01、S02、S03を選択する場合には、他車両が自車両の右後方に存在しているので、聴取者37が後方を知覚できるように、例えば図10に示す周波数スペクトルにおける後方を知覚する帯域B21内の周波数を音提示部20Eが選択する。また、図9(B)に示した音の種類S04、S05を選択する場合には、他車両が自車両の右前方に存在しているので、聴取者37が前方を知覚できるように、例えば図10に示す周波数スペクトルにおける前方を知覚する帯域B22内の周波数帯域を音提示部20Eが選択する。
また、図8に示すように、音の種類S01、S02、およびS03を選択する場合には、それぞれ後方を知覚する帯域B21内の帯域B21a、B21b、およびB21cの周波数帯域を使用し、音量も同時に変更する。また、音の種類S04、およびS05を選択する場合には、それぞれ前方を知覚する帯域B22内の帯域B22a、およびB22bの周波数帯域を使用し、音量も同時に変更する。
つまり、図17に示した方向決定帯域選択部43Bが、接近状態信号SG16に従って帯域B21a、B21b、B21c、B22a、B22bの周波数を選択し、左右バランス調整部44Bが接近状態信号SG16に従って音量を調整するので、図9(B)に示すように接近状態に応じて知覚する方向だけでなく、音の種類S01〜S05(周波数帯域、および音量(音の強さ))も自動的に変更することができる。
また、図8に示したように出力する音の種類S01〜S05を順次に変更することにより、図9(B)に示すように他車両の接近状態の違いを音で聴取者37に知覚させることができる。また、選択した後方を知覚する帯域B21、前方を知覚する帯域B22の違いと、左右の音量バランスの違いにより、他車両が存在する方向の違いを聴取者37に知覚させることができる。
また、図18に示した音提示部20Fを使用する場合には、接近状況が警報レベルか否かに応じて使用する音源を自動的に切り替えることができる。すなわち、接近状況が警報レベル未満の状況では、左右バランス調整部44Bが方向決定帯域信号SG43を音源の信号として選択し、接近状況が警報レベルに到達すると左右バランス調整部44Bが方向決定帯域信号SG49を音源の信号として選択する。例えば、図9(A)に示す音の種類がS01、S02の場合には方向決定帯域信号SG43を選択し、音の種類がS03、S04、S05の場合には方向提示用音源49を選択するように制御する。
方向を提示するための音源として環境音を利用する場合には、方向を提示するために出力する音が、運転者にとってあまり気にならない音であるため、この音を繰り返し、あるいは継続的に出力した場合でも、運転者が煩わしく感じにくく、報知音として非常に好ましい。
但し、例えば他車両が異常に接近した場合のように緊急を要するような状況では、普通の環境音だけでは運転者に与える刺激が不足すると考えられる。しかし、図18に示した音提示部20Fを使用する場合には、接近状況が警報レベルに到達すると、環境音以外の正弦波等の音源に切り替えるので、この特別な音により運転者に対して一時的に大きな刺激を与えて特別な注意を促すことができる。
(第5実施形態)
まず、装置全体の構成例を説明する。
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100の構成例を図1に示す。
図1に示した車両用方向提示装置100は、提示方向決定部10、音提示部20、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
第5実施形態では音源として環境音を利用する。したがって、第5実施形態における音提示部20の具体的な構成は、第1実施形態とは異なっている。これについては後で説明する。
提示方向決定部10は、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。
音提示部20は、提示方向決定部10が出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。音提示部20の具体的な構成については後で説明する。
車両状態検出部31は、必要に応じて自車両における様々な状態を検出し、何らかの方向と関連のある車両状態信号SG11を出力する。具体例としては、車両状態検出部31として、車載カメラ、ドアスイッチ、トランクスイッチ、車輪の空気圧センサ等を用いることが考えられる。例えば、自車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のいずれかに空気圧の異常が発生したことを検知した場合は、右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のうち異常が発生した箇所を特定可能な車両状態信号SG11を出力する。車両状態検出部31は、自車両に搭載された1つ以上のセンサであってもよいし、様々なセンサが接続された電子制御ユニット(ECU)であってもよい。
車両周辺情報検出部32は、自車両の周辺における様々な情報を検知して車両周辺情報SG12を出力する。例えば、自車両の進行方向に存在する他車両、歩行者、障害物や、自車両に接近する他車両などを車両周辺情報検出部32が検知する。車両周辺情報検出部32は、例えば自車両の周辺の様々な映像を撮影するカメラと映像の内容を自動的に認識する認識装置とを組み合わせて構成することもできるし、例えばレーザ光などを用いて自車両の周辺の障害物等を検知するレーダ装置として構成することもできるし、ITSから得られた情報でも構成できる。
顔検出部33は、運転席に着座している運転者の実際の顔の向きが基準方向(車両の前方)に対してどれだけずれているのかを検知して顔方向情報SG13を生成する。この顔検出部33は、例えば運転席の正面に運転者の顔を撮影できる状態で配置したカメラと、このカメラが撮影した映像を認識する装置とを組み合わせて構成することもできるし、運転者に装着されるジャイロセンサを用いて構成することもできる。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。例えば、図20(B)に示す例ではスピーカ34および35は運転席のヘッドレストに設置され、左側のスピーカ34は聴取者である運転者の左耳に近い位置の後方に配置され、右側のスピーカ35は運転者の右耳に近い位置の後方に配置されている。
次に、音提示部20の構成例を説明する。
音提示部20の構成例(7)を図19に示す。第5実施形態では、図1の音提示部20として、図19に示した音提示部20Gを使用する。
図19に示すように、この音提示部20Gは、マイク61、周波数フィルタ62、方向決定帯域選択部63、左側キャンセル信号生成部64L、右側キャンセル信号生成部64R、増幅器28、および29を備えている。
マイク61は、例えば図20(B)に示すように、運転席のヘッドレスト38のほぼ中央に設置され、左右のスピーカ34、35の中央付近に配置されている。このように聴取者37の耳に近い位置にマイク61を設置することで、聴取者37の位置でノイズキャンセルを効果的に行うことが可能になる。マイク61は、これが設置された位置で収集可能な環境音、すなわち車両上で発生する様々な環境音、エンジン音、走行に伴って発生する音、車両外部の騒音などを収集し、電気信号である環境音信号SG61に変換して出力する。
周波数フィルタ62は、入力される環境音信号SG61から、例えば図5(A)に示した各方向決定帯域B1〜B5の周波数範囲外の不要な成分を除去し、その結果を信号SG62として出力する。
方向決定帯域選択部63は、入力される信号SG62の中から、提示方向信号SG14に従って選択したいずれか1つの方向決定帯域(B1〜B5の1つ)の範囲内の周波数成分を抽出し、その結果を方向決定帯域信号SG63として出力する。
左側キャンセル信号生成部64Lは、聴取者37が左耳で聞くことのできる環境音を打ち消すための左側キャンセル信号を生成する。すなわち、打ち消すべき環境音と同じ波形で位相が180度ずれた逆相のキャンセル信号を生成し、左側出力信号SG27Lとして出力する。
本実施形態では、左側キャンセル信号生成部64Lが全周波数帯域の環境音を打ち消す場合と、一部分の周波数成分だけを打ち消す場合とがあるので、環境音信号SG61と、方向決定帯域信号SG63とが左側キャンセル信号生成部64Lにそれぞれ入力される。また、提示方向を制御するために提示方向信号SG14が左側キャンセル信号生成部64Lに入力される。
同様に、右側キャンセル信号生成部64Rは、聴取者37が右耳で聞くことのできる環境音を打ち消すための右側キャンセル信号を生成する。すなわち、打ち消すべき環境音と同じ波形で位相が180度ずれた逆相のキャンセル信号を生成し、右側出力信号SG27Rとして出力する。右側キャンセル信号生成部64Rの入力には、環境音信号SG61と、方向決定帯域信号SG63とがそれぞれ入力される。また、提示方向を制御するために提示方向信号SG14が右側キャンセル信号生成部64Rに入力される。
増幅器28は、左側出力信号SG27Lを増幅してスピーカ34を駆動するのに十分な電力の左側出力信号SG15Lを出力する。この左側出力信号SG15Lがスピーカ34に印加される。増幅器29は、右側出力信号SG27Rを増幅してスピーカ35を駆動するのに十分な電力の右側出力信号SG15Rを出力する。この右側出力信号SG15Rがスピーカ35に印加される。
次に、第5実施形態の車両用方向提示装置100の特徴的な動作を説明する。
方向を示す音を提示する前の環境騒音の例を図20(A)および図20(B)に示す。図20(A)は環境騒音の周波数スペクトルを示し、図20(B)は上方から見た車室内の環境騒音の分布状態を示している。
また、第5実施形態の車両用方向提示装置100が方向を示す音を提示した時の変化の例を図21(A)、図21(B)、および図21(C)に示す。また、図21(A)は車室内左側領域の周波数スペクトルを示し、図21(B)は車室内右側領域の周波数スペクトルを示し、図21(C)は上方から見た車室内の環境騒音分布状態の例を示す。
車両用方向提示装置100が方向を示す音を提示する前の通常の状態においては、図20(B)に示すように車室内の空間には、環境騒音がほぼ一様に分布している。また、この場合の環境騒音の周波数スペクトルは、例えば図20(A)のように分布している。
そして、車両用方向提示装置100が右前方を示す音を提示する時には、聴取者37が左耳で知覚する音の周波数スペクトルは図21(A)に点線で示す状態から実線で示す状態に変化し、聴取者37が右耳で知覚する音の周波数スペクトルは図21(B)に点線で示す状態から実線で示す状態に変化する。また、車室内の環境騒音分布状態は図21(C)のようになる。
図21(C)の状態では、図19に示す左側キャンセル信号生成部64Lは、環境音信号SG61を入力してこの信号の位相を180度ずらしたキャンセル信号を左側出力信号SG27Lとして出力する。これにより、左側のスピーカ34から出力されるキャンセル信号の音響の影響により、車室内左側の空間における環境騒音の少なくとも一部が打ち消される。そして、聴取者37が左耳で知覚する音の周波数スペクトルは図21(A)に点線で示す状態から実線で示すように変化する。つまり、環境騒音のキャンセルにより全周波数帯域で音量が低下する。
また、図21(C)の状態では、図19に示す右側キャンセル信号生成部64Rは、前方を知覚する方向決定帯域(B1またはB3)内の周波数成分を含む方向決定帯域信号SG63と、全周波数帯域の成分を含む環境音信号SG61とをそれぞれ入力する。そして、環境音信号SG61から方向決定帯域信号SG63を減算することにより、特定の方向決定帯域(B1またはB3)以外の周波数成分のみを抽出する。更に、抽出した特定の方向決定帯域(B1またはB3)以外の周波数成分の位相を180度ずらしたキャンセル信号を右側出力信号SG27Rとして出力する。
この右側出力信号SG27Rによって、右側のスピーカ35から出力されるキャンセル信号の音響の影響により、車室内右側の空間においては、環境騒音のうち、特定の方向決定帯域(B1またはB3)以外の周波数成分が打ち消される。つまり、聴取者37が右耳で知覚する音の周波数スペクトルは図21(B)に点線で示す状態から実線で示すように変化する。
すなわち、聴取者37が右耳で知覚する環境騒音に関しては、特定の方向決定帯域(B1またはB3)の周波数成分がそのまま残り、それ以外の周波数成分はキャンセル(低減)されて音量が低下する。
したがって、図21(C)に示すように、聴取者37は左右の耳で知覚する環境騒音の音量の違いにより右方向を知覚する。同時に、図21(B)に示すように「前方向」を示す方向決定帯域(B1またはB3)の周波数成分だけが相対的に強調された環境騒音を聴くことになるため、前方向を知覚する。そして、右方向の知覚と前方向の知覚とが合成されて、図21(C)に示すように右前方の方向を知覚することになる。
なお、聴取者37に対して方向をより強く知覚させたい場合には、キャンセルされない方向決定帯域の音について、音量を増やしたり、振幅変調、断続制御などを併用することが想定される。
例えば、図21(C)のように右前方を提示する場合には、方向決定帯域選択部63が出力する方向決定帯域信号SG63を増幅器29の入力側で右側出力信号SG27Rに加算することで、右側の方向決定帯域の音量を増やすことができる。また、加算する方向決定帯域信号SG63を振幅変調したり、断続的に出力することにより方向を強調することができる。
第5実施形態の車両用方向提示装置100においては、マイク61で集音したリアルタイムの環境音を音源として利用しているので、次のような利点がある。
(1)音の提示のために出力される音が、運転者が常時知覚している環境音とほぼ同じであるため、ブザー音のような人工音や一般的な報知音と比べて違和感を感じにくい。そのため、例えば方向の提示が繰り返し、あるいは継続的に行われた場合でも、その音を運転者が煩わしく感じるような状況が生じにくい。
(2)ホワイトノイズなどの音源を利用する場合と比べると、存在感のある音響が出力されるので、方向を提示する報知音の用途に適した音響が得られる。
(3)車両の走行時に発生する環境音には前後方向の方向感が盛り込まれているので、音源自体に含まれる方向感を、聴取者37が感じる方向感を強調するために役立てることができる。
(4)また、方向決定帯域の周波数を使用するので、前後方向だけでなく、上方向を提示することもできる。
(第6実施形態)
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100Bの構成例を図6に示す。
図6に示した車両用方向提示装置100Bは、提示方向決定部10B、音提示部20B、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、顔検出部33、スピーカ34および35を備えている。
第6実施形態では音源として環境音を利用する。したがって、第6実施形態における音提示部20Bの具体的な構成は、第2実施形態とは異なっている。これについては後で説明する。
提示方向決定部10Bは、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、顔検出部33が検出した聴取者(運転者)の顔の方向を示す顔方向情報SG13の状態を提示方向に反映する。また、提示方向決定部10Bは、提示対象の物体等の接近状態を検知して、その結果を接近状態信号SG16として出力する。
音提示部20Bは、提示方向決定部10Bが出力する提示方向信号SG14に従い、該当する方向を音響として聴取者に提示するために必要な左側出力信号SG15Lおよび右側出力信号SG15Rを生成する。また、運転者等の聴取者が接近状態を音響により把握できるように、音提示部20Bは提示方向決定部10Bが出力する接近状態信号SG16に従い、接近状態を音響の種類の変化や音量の違いに反映する。音提示部20Bの具体的な構成については後で説明する。
図6中に示した車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、および顔検出部33は、既に説明した第5実施形態とほぼ同じである。但し、第6実施形態の車両周辺情報検出部32は、例えば、自車両の近傍に存在する他車両、歩行者、障害物等の方向だけでなく、距離や接近速度などの情報も取得できる場合を想定している。
例えば、図24に示したように、自車両の前方の交差点で、右前方から他車両が接近しているような状況で、車両周辺情報検出部32は、自車両から他車両までの距離、距離の変化速度などの情報も出力する。そして、提示方向決定部10Bは、車両周辺情報検出部32が出力する情報に基づいて、接近状態信号SG16を生成する。
スピーカ34は、電気信号である左側出力信号SG15Lを音響に変換して出力する。スピーカ35は、電気信号である右側出力信号SG15Rを音響に変換して出力する。
例えば、図23(C)に示す例ではスピーカ34および35は運転席のヘッドレストに設置され、左側のスピーカ34は聴取者である運転者の左耳に近い位置の後方に配置され、右側のスピーカ35は運転者の右耳に近い位置の後方に配置されている。
本実施形態では、例えば図24に示したように、自車両の右前方から他車両が接近しているような状況で、音提示部20Bは、他車両の接近状態に応じて、つまり接近状態信号SG16に従い、聴取者37に提示する音の方向の違いの他に、図23(C)に示したように、音の種類S01〜S05(周波数帯域の変化、および音量(音の強さ)の違い)に反映するように制御する。
次に、音提示部20Bの構成例を説明する。
音提示部20Bの構成例(8)を図22に示す。
本実施形態では、音源として環境音を利用するので、図6に示した音提示部20Bの具体例として、図22に示した音提示部20Hまたは図25に示した音提示部20iの構成を用いる。図22の音提示部20Hは図19に示した音提示部20Gの変形例であり、図25の音提示部20iは、図22に示した音提示部20Hの変形例である。
次に、音提示部20Hの構成を説明する。
図22に示した音提示部20Hは、マイク61、周波数フィルタ62、方向決定帯域選択部63B、左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RB、増幅器28、および29を備えている。
方向決定帯域選択部63Bは、抽出する周波数が可変のフィルタであり提示方向信号SG14に従って、信号SG62の中から選択した特定の周波数成分のみを方向決定帯域信号SG63として出力する。
例えば、提示方向信号SG14が「前方向」の場合には、方向決定帯域B1またはB3内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「後方向」の場合には、方向決定帯域B2またはB5内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「上方向」の場合には、方向決定帯域B4内の周波数成分を選択的に抽出する。
また、方向決定帯域選択部63Bは、接近状態信号SG16に従って、方向決定帯域内で選択する周波数の微調整を行うことができる。例えば、図26に示した前方を知覚する帯域B22を提示方向信号SG14により選択している状態で、図26に示した帯域B22a、B22b、B22c、B22d、B22e等のいずれかを接近状態信号SG16により選択することができる。
左側キャンセル信号生成部64LBおよび右側キャンセル信号生成部64RBは、それぞれ図19に示した左側キャンセル信号生成部64Lおよび右側キャンセル信号生成部64Rの場合と同様にキャンセル信号を生成する。それ以外に、接近状態信号SG16に従って音量制御を行う。
例えば、図23(C)に示したように右前方の方向を提示する場合には、右側キャンセル信号生成部64RBが、キャンセル信号に、入力の方向決定帯域信号SG63の成分を加算することにより、右側の方向決定帯域内の周波数成分の音量を増やし、方向を強調することができる。
方向決定帯域選択部63B、左側キャンセル信号生成部64LB、および右側キャンセル信号生成部64RB以外の構成要素については、既に説明した図19の構成と同様であるので説明を省略する。
次に、音提示部20iの構成を説明する。
図25に示した音提示部20iは、マイク61、周波数フィルタ62、方向決定帯域選択部63B、左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RB、方向提示用音源69、音源切換部68、増幅器28、および29を備えている。つまり、図22に示した音提示部20Hの構成要素の他に、音源切換部68および方向提示用音源69が更に追加されている。
方向提示用音源69は、環境音とは異なる人工音の信号を出力する。具体的には、図3に示した(音A)、および(音B)の各成分を合成した信号を出力する。ここで(音A)、および(音B)の各成分は、正弦波や矩形波のような単調な波形の信号である。(音A)、および(音B)の各成分の周波数は、提示方向信号SG14により定まるいずれかの方向決定帯域の範囲内に定められる。更に、(音A)は周波数が一定であり、(音B)の信号は周波数変調されている。また、(音A)、および(音B)の各成分は断続する信号である。
音源切換部68は、接近状態信号SG16に従って、左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RBの出力と、方向提示用音源69の出力とのいずれか一方を、選択的に増幅器28、29の入力に印加する。
具体的には、接近状態信号SG16の状態が比較的安全な状態では、音源切換部68は左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RBの出力(環境音)を音源として選択する。また、距離や接近速度が所定の警報レベルに達したことが接近状態信号SG16により認識された時には、音源切換部68は方向提示用音源69の出力(正弦波等の人工音)を音源として自動的に選択する。
次に、第6実施形態の車両用方向提示装置100Bの特徴的な動作を説明する。
例えば、図24に示したように、自車両の右前方から他車両が接近しているような状況で、図22の音提示部20Hは、他車両の接近状態に応じて、つまり接近状態信号SG16に従い、聴取者37に提示する音の方向の違いの他に、音の種類S01〜S05(周波数帯域の変化、および音量(音の強さ)の違い)を反映するように制御する。
図23(C)に示した音の種類S01〜S05のいずれかを選択する場合には、他車両が自車両の右前方に存在しているので、聴取者37が前方を知覚できるように、例えば図23(B)に示す周波数スペクトルにおける前方を知覚する帯域B22内の周波数を音提示部20Hが選択する。
また、図26に示すように、音の種類S01〜S05のいずれかを選択する場合には、それぞれ前方を知覚する帯域B22内の帯域B22a、B22b、B22c、・・・の周波数帯域を使用し、音量も同時に変更する。
つまり、図22に示した方向決定帯域選択部63Bが、接近状態信号SG16に従って帯域B22a、B22b、B22c、B22d、B22eの各周波数を選択し、左側キャンセル信号生成部64LB、または右側キャンセル信号生成部64RBが接近状態信号SG16に従って音量を調整するので、図23(C)に示すように接近状態に応じて知覚する方向だけでなく、音の種類S01〜S05(周波数帯域、および音量(音の強さ))も自動的に変更することができる。
また、図26に示したように出力する音の種類S01〜S05を順次に変更することにより、図23(C)に示すように他車両の接近状態の違いを音で聴取者37に知覚させることができる。また、選択した方向決定帯域の違いと、左右の音量バランスの違いにより、他車両が存在する方向の違いを聴取者37に知覚させることができる。
また、図25に示した音提示部20iを使用する場合には、接近状況が警報レベルか否かに応じて使用する音源を自動的に切り替えることができる。すなわち、接近状況が警報レベル未満の状況では、音源切換部68が左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RBの出力を音源の信号として選択し、接近状況が警報レベルに到達すると音源切換部68が方向提示用音源69の出力を音源の信号として選択する。
例えば、図23(C)に示す音の種類がS01、S02、S03の場合には環境音に相当する左側キャンセル信号生成部64LB、右側キャンセル信号生成部64RBの出力を音源として選択し、音の種類がS04、S05の場合には方向提示用音源69の出力を選択するように制御する。
方向を提示するための音源として環境音を利用する場合には、方向を提示するために出力する音が、運転者にとってあまり気にならない音であるため、この音を繰り返し、あるいは継続的に出力した場合でも、運転者が煩わしく感じにくく、報知音として非常に好ましい。
但し、例えば他車両が異常に接近した場合のように緊急を要するような状況では、普通の環境音だけでは運転者に与える刺激が不足すると考えられる。しかし、図25に示した音提示部20iを使用する場合には、接近状況が警報レベルに到達すると、環境音以外の正弦波等の音源に切り替えるので、この特別な音により運転者に対して一時的に大きな刺激を与えて特別な注意を促すことができる。
ここで、上述した本発明に係る車両用方向提示装置の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[8]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両に搭載され、乗員に対し方向を提示する車両用方向提示装置であって、
前記車両上の状態、および前記車両の周辺の状況の少なくとも一方を検知する状態検出部(車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32)と、
前記状態検出部の検知状態に基づいて、提示対象の前記乗員に対する方向を特定する方向識別部(提示方向決定部10)と、
前記方向識別部が特定した方向を前記乗員に対して提示するための音響を出力する音響出力部(音提示部20)と、
を備え、
前記音響出力部(音提示部20)は、提示方向(提示方向信号SG14)に応じて選択された方向決定帯域(B1、B2、B3、B4、B5)の周波数の信号を用いて前記音響を出力する、
車両用方向提示装置(100)。
[2] 前記音響出力部(音提示部20)は、周波数変調された1つ以上の信号(正弦波信号SG22)を用いて前記音響を出力する、
ことを特徴とする前記[1]に記載の車両用方向提示装置。
[3] 前記音響出力部(音提示部20)は、周波数変調された第1の信号(正弦波信号SG22)と、周波数が一定又は変調開始周波数及び変調終了周波数のうち少なくとも一方が前記第1の信号と異なる第2の信号(正弦波信号SG21)とを組み合わせて前記音響を出力する、
ことを特徴とする前記[2]に記載の車両用方向提示装置。
[4] 前記方向識別部(提示方向決定部10B)は、前記状態検出部の検知状態に基づいて、提示対象の前記乗員に対する方向と接近状態とを識別し、
前記音響出力部(音提示部20B)は、前記方向識別部が識別した接近状態(接近状態信号SG16)の変化に応じて、出力する音響の周波数と音量を断続的又は連続的に変化させて出力する、
ことを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載の車両用方向提示装置(100B)。
[5] 前記音響出力部(音提示部20C、20D)は、前記車両上の集音器で収集した環境音又は事前に録音した環境音(信号SG41、SG54)を音源として利用し、前記音源の信号に含まれる周波数成分のうち、特定の方向決定帯域以外の不要な周波数成分を低減又は除去し、もしくは必要な周波数成分のみを強調又は抽出した結果(信号SG42、SG54)に基づき、前記音響を出力する、
ことを特徴とする前記[1]に記載の車両用方向提示装置。
[6] 前記方向識別部の識別状態に基づき、提示対象の所定の接近状態が検知された場合には、前記音響出力部(音提示部20F)は、前記音響を出力するために利用する音源を環境音以外の音(方向決定帯域信号SG49)に切り替える、
ことを特徴とする前記[5]に記載の車両用方向提示装置。
[7] 前記音響出力部(音提示部20G)は、前記車両上で収集可能な環境音を音源として利用すると共に、前記環境音を収集して電気信号に変換する集音器(マイク61)と、前記集音器が収集した環境音を打ち消すための逆位相のキャンセル信号を生成するキャンセル信号生成部(64L、64R)と、前記キャンセル信号を音響として出力する1つ以上のスピーカ(34、35)と、を備え、
前記キャンセル信号生成部(64L、64R)は、前記提示方向以外の領域については全周波数帯域の環境音を打ち消し、前記提示方向(提示方向信号SG14)の領域については特定の方向決定帯域以外の周波数成分のみを打ち消すように、前記キャンセル信号を生成する、
ことを特徴とする前記[1]に記載の車両用方向提示装置。
[8] 前記方向識別部(提示方向決定部10B)は、前記状態検出部の検知状態に基づいて、提示対象の前記乗員に対する方向(提示方向信号SG14)と接近状態(接近状態信号SG16)とを識別し、
前記音響出力部(音提示部20H)は、前記方向識別部が識別した接近状態(接近状態信号SG16)の変化に応じて、出力する音響の音量変化を断続的又は連続的に変化させて出力する(図26参照)、
ことを特徴とする前記[7]に記載の車両用方向提示装置。