JP2014092109A - 内燃機関の制御装置および制御方法 - Google Patents

内燃機関の制御装置および制御方法 Download PDF

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Abstract

【課題】プレイグニッションが急激に発生するような状況下でも、予兆検出に基づいてプレイグニッション発生を未然に回避できるようにする。
【解決手段】機関の吸気温等の温度条件から、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定し(S1)、YESであれば、有効圧縮比を比較的小幅で低下させ、プレイグニッションが仮に生じても予兆検出期間が確保できるようにする(S2,S3)。この状態で、プレイグニッションの予兆を検出したら(S4)、これに応答して、有効圧縮比をプレイグニッションを回避し得るレベルまで低下させ(S5)、プレイグニッション発生を未然に回避する。
【選択図】図3

Description

この発明は、内燃機関の異常燃焼の一つであるプレイグニッションの予兆を検出し、この予兆検出に応答して所定のプレイグニッション回避制御を実行するようにした内燃機関の制御装置および制御方法に関する。
火花点火式の内燃機関においては、点火プラグによる点火前に燃焼室内の混合気が着火するいわゆるプレイグニッションが発生すると、内燃機関の耐久性低下や性能の著しい低下が生じ、好ましくない。
特許文献1には、燃焼室内のイオン電流等からプレイグニッションの予兆を検出し、この予兆の検出時に、例えば、燃料噴射量の増量や点火時期の遅角などによって燃焼室内の温度を低下させ、プレイグニッションの発生を未然に回避するようにした技術が開示されている。
特開2006−46140号公報
例えば内燃機関の吸気温や冷却水温が高いときなどプレイグニッションが比較的容易に発生する運転条件の下では、正常燃焼状態からすぐにプレイグニッション発生状態に移行し易く、時間的に、プレイグニッション発生前にその予兆を検出してプレイグニッション発生を回避することが困難である。
つまり、正常燃焼状態からプレイグニッション発生までの移行期間が非常に短い状況では、予兆の検出が困難であり、また仮に予兆を検出し得たとしても、燃料噴射量の増量や点火時期の遅角などによるプレイグニッション回避が間に合わず、結局、プレイグニッションが発生した後に、燃料噴射量の増量や点火時期の遅角などによって、その後のプレイグニッションが抑制されるに過ぎない。
本発明に係る内燃機関の制御装置は、燃焼室内に発生するプレイグニッションの予兆を検出するプレイグニッション予兆検出手段を有し、プレイグニッションの予兆の検出時に、プレイグニッション回避制御を実行する。
さらに、内燃機関の運転条件に基づいて、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定する即時プレイグニッション発生条件判定手段を備えており、即時プレイグニッション発生条件であるときは、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御を実行することを特徴としている。
また、本発明に係る内燃機関の制御方法は、燃焼室内に発生するプレイグニッションの予兆を監視し、プレイグニッションの予兆の検出時に、プレイグニッション回避制御を実行する内燃機関の制御方法において、
内燃機関の運転条件に基づいて、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定し、
即時プレイグニッション発生条件であるときは、プレイグニッションの予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御を実行する、ことを特徴としている。
例えば、内燃機関の吸気温、冷却水温、油温などが高いときには、正常燃焼からプレイグニッションへ移行する際の移行期間が非常に短い。本発明では、このような特定の状況を、即時プレイグニッション発生条件であるとして、内燃機関の運転条件に基づいて判定する。内燃機関の運転条件が即時プレイグニッション発生条件である場合には、予兆検出に拘わらずに、予備プレイグニッション抑制制御を実行する。
予備プレイグニッション抑制制御は、プレイグニッションの予兆検出期間を確保するために正常燃焼からプレイグニッションへの移行をより緩慢とするための制御であり、内燃機関の有効圧縮比の低下、燃料噴射量の増量、筒内への燃料噴射の噴射時期のリタード、冷却装置による内燃機関の冷却能力の強化、内燃機関の回転速度の上昇、補機を介した内燃機関の負荷の抑制、などの一つあるいは複数の組み合わせとして実行される。
これらの手段の多くは、プレイグニッションの回避そのものにも有効であるが、この予備プレイグニッション抑制制御は、プレイグニッションを完全に回避することを目的とするものではなく、プレイグニッションへの移行を緩慢とするためのものであるので、その程度は比較的弱いもので足りる。例えば、内燃機関の有効圧縮比の低下を例にすると、プレイグニッションを回避するために必要な有効圧縮比の低下に比べて、予備プレイグニッション抑制制御として実行される有効圧縮比の低下は、小幅なものとなる。従って、例えば有効圧縮比の低下に伴うトルクの低下は比較的小さい。
そして、このように予備プレイグニッション抑制制御が実行されている下で、仮にプレイグニッションが発生しそうになると、その予兆の検出に応答して、プレイグニッション回避制御が実行される。プレイグニッション回避制御は、例えば、内燃機関の有効圧縮比の低下、燃料噴射量の増量、筒内への燃料噴射の噴射時期のリタード、などを用いることができるが、例えば予備プレイグニッション抑制制御が有効圧縮比の低下であり、予兆検出に応答するプレイグニッション回避制御も有効圧縮比の低下である場合、プレイグニッション回避制御により低下した有効圧縮比は、予備プレイグニッション抑制制御により低下した有効圧縮比よりもさらに低い圧縮比となる。予備プレイグニッション抑制制御を実行していることによって、実際のプレイグニッション発生までに予兆検出期間を確保でき、従って、予兆検出に応答したプレイグニッション回避制御によって、実際のプレイグニッションの発生が回避される。
また、運転条件が即時プレイグニッション発生条件でない場合には、上記の予備プレイグニッション抑制制御は実行されない。このような条件下で、仮にプレイグニッションが発生しそうになると、やはりその予兆の検出に応答して、有効圧縮比の低下等のプレイグニッション回避制御が実行される。即時プレイグニッション発生条件でない場合には、一般に正常燃焼からプレイグニッションへ移行するまでの期間に時間的余裕があり、従って、予兆検出ならびにこれに応答したプレイグニッション回避制御によるプレイグニッションの回避が可能である。
この発明によれば、内燃機関の運転条件により正常燃焼から急にプレイグニッションへ移行してしまうような場合でも、確実に予兆を検出してプレイグニッションの発生を回避することができる。また同時に、プレイグニッション回避のためのトレードオフとなる例えばトルクの悪化や燃料消費率の悪化などを最小限に抑制することができる。
この発明を適用した一実施例の内燃機関のシステム構成図。 内燃機関の冷却装置の説明図。 有効圧縮比の低下を用いた第1実施例を示すフローチャート。 即時プレイグニッション発生条件判定の処理を示すフローチャート。 回転速度に対する水温閾値の特性を示す特性図。 第1実施例による非即時プレイグニッション発生条件のときの挙動を示したタイムチャート。 第1実施例による即時プレイグニッション発生条件のときの挙動を示したタイムチャート。 燃料増量を用いた第2実施例を示すフローチャート。 第2実施例による挙動を示したタイムチャート。 有効圧縮比の低下と燃料増量とを用いた変形例による挙動を示したタイムチャート。 冷却水温低下を用いた第3実施例を示すフローチャート。 機関回転速度上昇を用いた第4実施例を示すフローチャート。 冷却水温に対する目標の回転速度の特性を示す特性図。
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、この発明が適用された自動車用内燃機関1のシステム構成を示している。この内燃機関1は、筒内直噴型の火花点火式内燃機関であって、各気筒毎に、筒内へ向けて燃料を噴射する燃料噴射弁2を備えているとともに、生成された混合気に点火を行うための点火プラグ3を備えている。上記点火プラグ3には、プレイグニッション予兆検出手段として燃焼室内のイオン電流を測定するイオン電流センサ4が付設されている。なお、このイオン電流センサ4は、点火プラグ3自体を検出プローブとして利用するものであるが、点火プラグ3とは別に独立したイオン電流センサを用いるようにしてもよい。
また各気筒は、吸気弁5と排気弁7とを具備しているが、吸気弁5は、該吸気弁5の開閉時期(少なくとも閉時期)を可変制御できる可変動弁装置6を備え、排気弁7は、該排気弁7の開閉時期を可変制御できる可変動弁装置8を備えている。これらの可変動弁装置6,8は、エンジンコントローラ10によって制御されている。
吸気通路11の上流側には、エンジンコントローラ10からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットル弁12が介装されており、排気通路13から吸気通路11に至る排気還流通路14には、排気還流制御弁15が介装されている。
上記エンジンコントローラ10には、上記のイオン電流センサ4のほか、機関回転速度を検出するためのクランク角センサ16、吸入空気量を検出するエアフロメータ17、吸気温を検出する吸気温センサ18、冷却水温を検出する水温センサ19、潤滑油温を検出する油温センサ20、運転者により操作されるアクセルペダルの踏込量を検出するアクセル開度センサ21、等のセンサ類の検出信号が入力されている。エンジンコントローラ10は、これらの検出信号に基づき、燃料噴射弁2による燃料噴射量および噴射時期、点火プラグ3による点火時期、吸気弁5および排気弁7の開閉時期、等を最適に制御している。
また、図示例では、内燃機関1の出力軸が、トルクコンバータ25およびベルト式無段変速機(CVT)26を介して駆動輪27を駆動する構成となっている。無段変速機26の変速比は、CVTコントローラ28によって制御される。CVTコントローラ28は、CAN通信を介してエンジンコントローラ10に接続されている。
また、図2は、上記内燃機関1の冷却装置の構成を示している。この冷却装置は、内燃機関1のシリンダブロックやシリンダヘッド内に設けられたウォータジャケット31と、冷却水と外気との熱交換を行うラジエータ32と、内燃機関1の出力によって常時駆動されるウォータポンプ33と、このウォータポンプ33を介してウォータジャケット31内に流入する冷却水の流量を制御する流量コントロールバルブ34と、ウォータジャケット31から流出した冷却水を、その温度に応じてラジエータ32側もしくはバイバス通路36側へ案内するサーモスタット弁35と、を備えている。上記サーモスタット弁35は、冷却水温に応じて機械的に動作する切換弁である。流量コントロールバルブ34は、上記エンジンコントローラ10によって可変的に制御され、これによって、内燃機関1に対する冷却能力を調節することが可能である。
次に、上記の構成におけるプレイグニッション回避のための制御について説明する。
図3は、制御の第1実施例を示すフローチャートである。この処理は、内燃機関1の運転中に繰り返し実行されるものであって、まずステップ1では、そのときの内燃機関1の運転条件に基づき、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定する。ステップ1の具体的な処理は後述する。
ステップ1で即時プレイグニッション発生条件でないと判定した場合には、ステップ4へ進み、プレイグニッションの予兆(あるいは実際のプレイグニッション発生)を検出したか否かを判定する。燃焼室内で発生するイオン電流は、燃焼室内での燃焼状態ないし燃焼圧に相関し、例えばその発生開始時期やピークの時期などから、プレイグニッションの発生を検出できるほか、実際のプレイグニッション発生前に、その予兆を把握することができる。
ステップ4でプレイグニッションの予兆がなければ、ステップ1に戻る。従って、プレイグニッションの予兆が検出されない限りは、ステップ1,4の処理を繰り返し、プレイグニッションの予兆の監視を継続的に行うこととなる。
ステップ4でプレイグニッションの予兆が検出されると、ステップ5へ進み、プレイグニッション回避制御として、吸気弁5の閉時期(IVC)を下死点から比較的大きく遅角させる。これにより、有効圧縮比が低下し、圧縮端温度が下がることによってプレイグニッション発生が回避される。
なお、有効圧縮比の低下は、可変動弁装置6により吸気弁5の閉時期を下死点よりも進角させる(いわゆる早閉じ)ことによっても実現でき、さらには、機械的圧縮比を可変とする可変圧縮比機構を利用して行うことも可能である。
一方、ステップ1において即時プレイグニッション発生条件であると判定した場合には、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御として、有効圧縮比の低下を行う。具体的には、ステップ2で、予兆検出期間を確保するために必要な目標とする吸気弁閉時期を、そのときの水温および吸気温に基づいて演算する。そして、ステップ3で、この目標の吸気弁閉時期となるように可変動弁装置6を制御する。
ステップ3に続くステップ4は前述した通りであり、ステップ4においてプレイグニッションの予兆が検出されない限りは、ステップ1〜ステップ4の処理を繰り返し、予備プレイグニッション抑制制御として有効圧縮比を低下させた状態のまま、プレイグニッションの予兆の監視を継続的に行うこととなる。
そして、ステップ4においてプレイグニッションの予兆が検出されたら、ステップ5へ進み、前述したように、吸気弁閉時期を下死点から比較的大きく遅角させ、プレイグニッションの発生を回避する。
本実施例では、プレイグニッションの予兆検出に応答して実行されるプレイグニッション回避制御と、プレイグニッションが急に生じやすい即時プレイグニッション発生条件のときに継続的に行われる予備プレイグニッション抑制制御と、の双方が、同じ有効圧縮比の低下として実行されるが、後者の予備プレイグニッション抑制制御によって与えられる有効圧縮比は、前者のプレイグニッション回避制御によって与えられる有効圧縮比よりも高い圧縮比である。つまり、プレイグニッション回避制御では、プレイグニッション発生を回避するに十分な比較的低い有効圧縮比となるのに対し、予備プレイグニッション抑制制御では、仮にプレイグニッションが発生したとしてもその移行が緩慢となれば足りるため、比較的高い有効圧縮比に設定されるのである。
図4は、上記ステップ1の即時プレイグニッション発生条件判定の処理の流れを示すフローチャートであって、ステップ11では、内燃機関1の回転速度が所定の回転速度閾値以下であること、および、内燃機関1の充填効率(負荷)が所定の充填効率閾値以上であること、の2つの条件が同時に成立しているか否かを判定する。つまり、低速高負荷域であるかどうか判定している。なお、充填効率は、例えば内燃機関1のサイクル毎の吸入空気量によって示される。
ステップ11でYESであればステップ12へ進み、内燃機関1の回転速度に基づいて、水温閾値、油温閾値、吸気温閾値、をそれぞれ求める。図5は、一例として、回転速度と水温閾値との関係を示しており、図示するように、基本的に、回転速度が高いほど、水温閾値が高く与えられる。これは、プレイグニッション発生が、筒内温度とその筒内温度に晒されている時間(つまり機関回転速度)に大きく依存し、回転速度が高いほどプレイグニッションが発生しにくいことを考慮したものである。油温閾値および吸気温閾値についても、図示はしないが、同様の傾向となる。なお、回転速度のみならず内燃機関1の負荷を考慮して各閾値を決定するようにしてもよい。この場合は、負荷が高いほどプレイグニッションが発生しやすいので、各閾値は、高負荷ほど低い値となる。
ステップ13では、そのときの冷却水温、潤滑油温、吸気温を、上記のように決定した水温閾値、油温閾値、吸気温閾値、とそれぞれ比較する。そして、冷却水温が水温閾値以上であること、潤滑油温が油温閾値以上であること、吸気温が吸気温閾値以上であること、の3つの条件が同時に成立しているか否かを判定し、YESであれば、ステップ14へ進み、即時プレイグニッション発生条件であると判定(つまり判定フラグをONとする)する。
このように、図4の実施例では、機関回転速度、負荷(充填効率)、冷却水温、潤滑油温、吸気温、の5つの要素から、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定している。なお、本発明においては、即時プレイグニッション発生条件の判定は、必ずしもこの5つの要素に限定されるものではなく、いずれかの要素を省略してもよく、逆に、他の別の要素を付加してさらに総合的に判断するようにしてもよい。
次に、図6および図7のタイムチャートに基づいて、上記実施例の作用を説明する。
図6は、ステップ1において即時プレイグニッション発生条件ではないと判定された状況下でのプレイグニッション発生時の挙動を示している。
同図の下段は、吸気弁閉時期(IVC)を示している。中段は、即時プレイグニッション発生条件の判定フラグのON・OFFを示している。上段は、プレイグニッション発生ないし予兆を示す1つのパラメータとして、点火時期後のイオン電流検出タイミングを示しており、これが早期であるほどプレイグニッション発生とみなされる。図示例では、理解を容易にするために、イオン電流検出タイミングを、正常燃焼領域、プレイグニッション予兆領域、プレイグニッション発生領域、の3つに単純に分けて示している。
即時プレイグニッション発生条件でなくとも、何らかの要因で筒内温度の上昇などによりプレイグニッションが発生することはある。このような場合、回避制御を行わないものとすると、同図に、「回避制御なし」として示す線のように、正常燃焼領域からプレイグニッション予兆領域を経てプレイグニッション発生へと移行する。
これに対し、本実施例では、時刻t1においてプレイグニッションの予兆が検出され、これに基づいて、若干の遅れの後に、吸気弁閉時期が遅角(プレイグニッション回避に十分なレベルまで遅角)し、有効圧縮比が低下するので、図示するように、プレイグニッション発生が未然に回避される。可変動弁装置6による有効圧縮比の低下は、一般に機械的な遅れもあり、応答性は必ずしも高くないが、即時プレイグニッション発生条件以外の条件では、予兆検出からプレイグニッション発生までに多少の余裕があることから、十分に対応でき、プレイグニッションの回避が可能である。
図7は、ステップ1において即時プレイグニッション発生条件であると判定された状況下でのプレイグニッション発生時の挙動を示している。
図中の「比較例」として示すものは、予兆検出に対しプレイグニッション回避制御として有効圧縮比の低下は行うものの、予備プレイグニッション抑制制御は行わない場合の挙動を示している。図示するように、即時プレイグニッション発生条件の場合、つまり低速高負荷域であって吸気温等が高い場合は、プレイグニッション発生時に、正常燃焼からプレイグニッションに直ちに移行する。従って、予兆検出は困難であり、例えば、プレイグニッションが実際に発生した時点t1’でプレイグニッション発生が検出され、これに応答して有効圧縮比の低下などの処理が実行されることとなる。そのため、プレイグニッション発生を未然に回避することはできない。
これに対し、本実施例では、図7下段に示すように、即時プレイグニッション発生条件と判定された段階で予備プレイグニッション抑制制御として吸気弁閉時期が遅角され、有効圧縮比が低下している。そのため、プレイグニッションが発生しようとしたときに、正常燃焼から比較的緩やかにプレイグニッション発生へと移行することになり、図示するように、プレイグニッション予兆領域に比較的長く留まるので、予兆検出期間が確実に確保される。従って、前述した図6の場合と同様に、時刻t1においてプレイグニッションの予兆が検出され、これに基づいて、若干の遅れの後に、吸気弁閉時期が遅角(プレイグニッション回避に十分なレベルまで遅角)し、有効圧縮比が低下することで、図示するように、プレイグニッション発生が未然に回避される。
このように、本実施例では、プレイグニッションが急激に発生するような状況下でも、予兆検出に基づいてプレイグニッション発生を確実に回避することができる。また、予備プレイグニッション抑制制御としての有効圧縮比の低下は比較的小さいので、トルクの低下ならびに燃費の悪化を最小限にとどめることができる。なお、有効圧縮比の低下による排気エミッションの悪化はない。
次に、図8は、制御の第2実施例を示すフローチャートである。ステップ21は、即時プレイグニッション発生条件の判定であり、前述した図3のステップ1と同じものである。ステップ24も前述した図3のステップ4と特に変わりがない。
ステップ21で即時プレイグニッション発生条件であると判定した場合には、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御として、燃料噴射量の増量補正を行う。具体的には、ステップ22で、予兆検出期間を確保するために必要な目標とする燃料増量(例えば増量補正係数)を、そのときの水温および吸気温に基づいて演算する。そして、ステップ23で、この目標の燃料増量を実現するように、燃料噴射弁2を駆動制御する。
このように燃料噴射量を増量することで、燃料気化熱により筒内が冷却され、プレイグニッション発生が抑制される。従って、正常燃焼からプレイグニッション発生への移行が緩慢となり、予兆検出期間を確保することができる。
ステップ24においてプレイグニッションの予兆が検出されたら、ステップ25へ進み、プレイグニッション回避制御を実行する。この実施例では、プレイグニッション回避制御も燃料噴射量の増量補正によって行う。具体的には、プレイグニッション発生を回避し得るレベルまで、燃料噴射量を増量する。
本実施例では、プレイグニッションの予兆検出に応答して実行されるプレイグニッション回避制御と、プレイグニッションが急に生じやすい即時プレイグニッション発生条件のときに継続的に行われる予備プレイグニッション抑制制御と、の双方が、同じ燃料噴射量の増量補正として実行されるが、前述した実施例と同様に、プレイグニッション回避制御では、プレイグニッション発生を回避するに十分なレベルの比較的多量の燃料増量となるのに対し、予備プレイグニッション抑制制御では、仮にプレイグニッションが発生したとしてもその移行が緩慢となれば足りるため、比較的少量の燃料増量となる。
図9は、この第2実施例の場合の挙動を示しており、特に、前述した図7と同様に、ステップ21において即時プレイグニッション発生条件であると判定された状況下でのプレイグニッション発生時の挙動を示している。
予備プレイグニッション抑制制御を行わない場合は、図中に比較例として示すように正常燃焼から急激にプレイグニッションに移行してしまうが、本実施例では、図下段に示すように、即時プレイグニッション発生条件と判定された段階で、予備プレイグニッション抑制制御として、比較的少量の燃料増量が実行される。従って、プレイグニッションが発生する場合に、正常燃焼からプレイグニッション発生までの移行が緩慢となる。
図示例では、時刻t1でプレイグニッションの予兆が検出され、これに応答して燃料がさらに(プレイグニッションを回避し得るレベルまで)増量される。なお、燃料増量は機械的な遅れはないので、図示するように比較的高い応答性で実行される。
従って、前述した第1実施例と同様に、プレイグニッションが急激に発生するような状況下でも、予兆検出に基づいてプレイグニッション発生を確実に回避することができる。また、予備プレイグニッション抑制制御としての燃料増量は比較的少量であるので、燃費の悪化は最小限にとどめることができる。
なお、燃料増量に代えて(あるいは燃料増量に加えて)、筒内への燃料噴射時期のリタードによって予備プレイグニッション抑制制御およびプレイグニッション回避制御を実現することも可能である。燃料噴射時期をリタードして圧縮上死点に近付けると、燃料気化熱による筒内温度低下効果がより遅い時期に得られ、圧縮端温度が低下する。これにより、予兆検出期間の確保ならびにプレイグニッション回避が可能である。なお、1サイクル当たりに複数回噴射する場合には、最後の噴射の噴射時期のみをリタードさせるようにしてもよい。
この場合、ステップ22では、予兆検出期間を確保するために必要な目標とする燃料噴射時期(換言すればリタード量)を、そのときの水温および吸気温に基づいて演算し、ステップ23で、この目標の燃料噴射時期を実現するように、燃料噴射弁2を駆動制御する。そして、プレイグニッションの予兆が検出されたら、ステップ25では、プレイグニッション発生を回避し得るレベルまで、燃料噴射時期をさらにリタードすることとなる。
ところで、上記の第1実施例および第2実施例では、いずれも、予備プレイグニッション抑制制御とプレイグニッション回避制御とが同一の種類の制御(つまり有効圧縮比の低下や燃料増量)によって実現されているが、本発明はこのような方式に限定されるものではなく、予備プレイグニッション抑制制御とプレイグニッション回避制御とを異種の制御でもって行うことも可能である。図10は、このような変形例を示しており、ここでは、即時プレイグニッション発生条件時の予備プレイグニッション抑制制御として第1実施例と同様に有効圧縮比の低下(吸気弁閉時期の遅角)を実行し、予兆検出に応答するプレイグニッション回避制御として第2実施例と同様に燃料噴射量の増量補正を実行する。なお、図中に「第1実施例」として示す線は、第1実施例のようにプレイグニッション回避制御も有効圧縮比の低下による場合の特性である。
なお、プレイグニッション回避制御として燃料噴射量の増量補正による場合は、前述したように有効圧縮比の低下に比べて応答性が高いので、予兆の期間が比較的短くでもプレイグニッションの回避が可能である。従って、予備プレイグニッション抑制制御としての有効圧縮比の低下は、第1実施例の場合に比べて、その低下幅が小幅のもので足りる。
次に、図11は、制御の第3実施例を示すフローチャートである。ステップ31は、即時プレイグニッション発生条件の判定であり、前述した図3のステップ1と同じものである。ステップ34も前述した図3のステップ4と特に変わりがない。
ステップ31で即時プレイグニッション発生条件であると判定した場合には、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御として、内燃機関1の冷却の強化を行う。具体的には、ステップ32で、予兆検出期間を確保するために必要な目標とする冷却水温を演算する。そして、ステップ33で、この目標の冷却水温を実現するように、冷却装置における流量コントロールバルブ34(図2参照)の開度を制御する。つまり、冷却水の循環量が増大し、より積極的な冷却が行われる。
このように内燃機関1の温度を低下させることで、プレイグニッション発生が抑制される。従って、正常燃焼からプレイグニッション発生への移行が緩慢となり、予兆検出期間を確保することができる。
ステップ34においてプレイグニッションの予兆が検出されたら、ステップ35へ進み、プレイグニッション回避制御を実行する。この実施例では、プレイグニッション回避制御として、有効圧縮比の低下(吸気弁閉時期の遅角)を行う。なお、前述したように燃料増量などの他の手段を適用することも可能である。
図12は、制御の第4実施例を示すフローチャートである。ステップ41は、即時プレイグニッション発生条件の判定であり、前述した図3のステップ1と同じものである。ステップ44も前述した図3のステップ4と特に変わりがない。
ステップ41で即時プレイグニッション発生条件であると判定した場合には、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御として、内燃機関1の回転速度の上昇を行う。具体的には、ステップ42で、予兆検出期間を確保するために必要な目標とする機関回転速度を機関温度条件に基づいて演算する。そして、ステップ43で、この目標の機関回転速度を実現するように、無段変速機26(図1参照)の変速比を制御する。
前述したように、プレイグニッション発生は、筒内温度とその筒内温度に晒されている時間(つまり機関回転速度)に大きく依存し、回転速度が高いほどプレイグニッションが発生しにくい。従って、変速比の変更により機関回転速度を高めることで、正常燃焼からプレイグニッション発生への移行が緩慢となり、予兆検出期間を確保することができる。
図13に示すように、目標とする機関回転速度は、機関温度(例えば冷却水温)に基づいて設定され、機関温度が高いほど高い回転速度となる。
ステップ44においてプレイグニッションの予兆が検出されたら、ステップ45へ進み、プレイグニッション回避制御を実行する。この実施例では、プレイグニッション回避制御として、有効圧縮比の低下(吸気弁閉時期の遅角)を行う。なお、前述したように燃料増量などの他の手段を適用することも可能である。
機関回転速度の上昇は、内燃機関1によって駆動される補機(オルタネータやエアコンコンプレッサ等)の負荷を低下させることを併用して行ってもよい。例えば、発電トルクの可変制御可能なオルタネータや可変容量コンプレッサを用い、これらの駆動トルクを一時的に低下させることで、内燃機関1の回転速度の上昇が得られる。
また、補機の負荷の低下は、変速比の変更と組み合わせずに単独で予備プレイグニッション抑制制御として利用することもできる。すなわち、車両の走行条件を変えずに補機の負荷を低下させれば、必要な内燃機関1のトルクが低下するので、プレイグニッションが緩慢なものとなる。なお、この際の内燃機関1のトルク低下は、スロットル開度の減少のほか、吸気弁閉時期の遅角や点火時期のリタードなどによって行うようにしてもよい。
1…内燃機関
2…燃料噴射弁
4…イオン電流センサ
6…可変動弁装置
10…エンジンコントローラ
18…吸気温センサ
19…水温センサ
20…油温センサ
26…無段変速機
34…流量コントロールバルブ

Claims (14)

  1. 燃焼室内に発生するプレイグニッションの予兆を検出するプレイグニッション予兆検出手段を有し、プレイグニッションの予兆の検出時に、プレイグニッション回避制御を実行する内燃機関の制御装置において、
    内燃機関の運転条件に基づいて、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定する即時プレイグニッション発生条件判定手段を備え、即時プレイグニッション発生条件であるときは、予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御を実行することを特徴とする内燃機関の制御装置。
  2. 内燃機関の有効圧縮比を変化させる有効圧縮比可変機構を有し、
    上記予備プレイグニッション抑制制御は、この有効圧縮比可変機構によって、内燃機関の有効圧縮比を低下させる制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  3. 上記有効圧縮比可変機構は、吸気弁の閉時期を変更可能な可変動弁機構であり、
    上記予備プレイグニッション抑制制御は、有効圧縮比を低下させるために、通常時よりも吸気弁閉時期を下死点から進角側もしくは遅角側に遠ざけることを特徴とする請求項2に記載の内燃機関の制御装置。
  4. 上記予備プレイグニッション抑制制御は、内燃機関の燃料噴射量を増量補正する制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  5. 筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置を備えており、
    上記予備プレイグニッション抑制制御は、上記燃料噴射装置の燃料噴射時期をリタードさせる制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  6. 上記予備プレイグニッション抑制制御は、内燃機関の冷却能力を通常時よりも高める制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  7. 自動変速機を備えた車両用の内燃機関であって、
    上記予備プレイグニッション抑制制御は、内燃機関の回転速度が高くなるように上記自動変速機の変速比を通常時よりも大きくする制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  8. 補機負荷を可変制御可能な補機を備え、
    上記予備プレイグニッション抑制制御は、上記補機負荷を通常時よりも低くする制御を含むことを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
  9. 内燃機関の有効圧縮比を変化させる有効圧縮比可変機構を有し、
    上記プレイグニッション回避制御は、プレイグニッションの予兆検出に応答した有効圧縮比の低下補正からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
  10. 上記プレイグニッション回避制御は、プレイグニッションの予兆検出に応答した燃料噴射量の増量補正からなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
  11. 筒内に燃料を噴射する燃料噴射装置を備えており、
    上記プレイグニッション回避制御は、プレイグニッションの予兆検出に応答した燃料噴射時期のリタードであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
  12. 上記即時プレイグニッション発生条件判定手段は、内燃機関の回転速度が所定の回転速度閾値以下、内燃機関の充填効率が所定の充填効率閾値以上、内燃機関の吸気温が所定の吸気温閾値以上、内燃機関の冷却水温が所定の水温閾値以上、内燃機関の潤滑油温が所定の油温閾値以上、の5つの条件が同時に成立したときに、即時プレイグニッション発生条件であると判定することを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。
  13. 上記の吸気温閾値、水温閾値および油温閾値の少なくとも1つは、内燃機関の回転速度もしくは充填効率に基づいて可変的に設定されることを特徴とする請求項12に記載の内燃機関の制御装置。
  14. 燃焼室内に発生するプレイグニッションの予兆を監視し、プレイグニッションの予兆の検出時に、プレイグニッション回避制御を実行する内燃機関の制御方法において、
    内燃機関の運転条件に基づいて、正常燃焼から直ちにプレイグニッションに移行する即時プレイグニッション発生条件であるか否かを判定し、
    即時プレイグニッション発生条件であるときは、プレイグニッションの予兆検出期間を確保するための予備プレイグニッション抑制制御を実行する、ことを特徴とする内燃機関の制御方法。
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