以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
以下、図1乃至図16を用いて本発明の実施形態になる内燃機関の制御装置の構成及びその動作について説明する。
図1乃至図16は、本実施形態による1回の点火動作において断続的に複数回の点火信号の通電動作が行われる点火装置と共に用いられ、複数回の通電を指令する点火制御を行う制御装置を示している。すなわち、点火装置による点火時期(点火前、或いは点火後)における燃焼室内圧力に応じて、1回の点火動作における点火信号の通電回数を設定するように点火制御を指令する制御装置を内燃機関に適用したシステム構成についての説明図である。
図1は本実施形態による内燃機関システムのシステム構成図である。内燃機関100は、火花点火式燃焼を実施する自動車用の内燃機関である。吸入空気量を計測するエアフロセンサ3と、吸気管圧力を調整するスロットル5と、吸入空気温度及び湿度検出器の一態様であって吸入空気の温度および湿度を計測する吸気温湿度センサ4と、吸気管内の面積を可変にするタンブル弁6が吸気管11の各々の適宜位置に備えられている。
エアフロセンサ3は吸入空気圧力センサを代替としてもよい。また、内燃機関100には燃焼室17の中に燃料を噴射するインジェクタ7と、点火エネルギーを供給する点火プラグ19が備えられ、燃焼室17に流入する吸入空気と排出ガスを調整する可変動弁12が内燃機関100の各々の適宜位置に備えられている。可変動弁12は吸気弁と排気弁の開いている期間、あるいは開閉時期を可変とすることが可能であり、吸気弁のみ可変動弁を備えても良い。また、吸気弁の閉じ時期を変更することにより実圧縮比が変更可能であり、燃焼室内圧力を可変とすることができる。
インジェクタ7と連結することで燃料を供給するコモンレール9と、このコモンレール9に燃料を圧送するための燃料ポンプ8と、この燃料ポンプ8に燃料を供給する燃料配管10が内燃機関100の各々の適宜位置に備えられている。また燃料圧力検出器の一態様であって燃料の圧力を計測する燃料圧力センサ22がコモンレール9の適宜位置に備えられている。ここで燃料圧力センサ22は燃料温度センサであってもよい。
点火プラグ19は点火コイル20と接続され、点火コイル20によって点火エネルギーを制御される。ここで、点火コイル20は1回の点火動作で複数回の点火信号が入力される点火装置である。点火コイル20内部には複数のコイルが内蔵されている。あるいは点火コイル20が2つ以上あっても良い。また点火コイル20内部にはコントロールユニット(以下、ECU1)と信号を受信、送信する回路が実装されても良い。尚、以下では、点火コイル20、或いは点火コイル20と点火プラグ19を含めて点火装置として説明する場合もある。
更に、排気を浄化する三元触媒23と、排気温検出器の一態様であって三元触媒23の上流側にて排気の温度を計測する排気温センサ24と、空燃比検出器の一態様であって三元触媒23の上流側にて排気の空燃比を検出する空燃比センサ25と、吸気管11へ連結される排気還流管28とが排気管31の各々の適宜位置に備えられている。
ここで、空燃比センサ25は酸素濃度センサとしてもよい。また、排気還流率を調整するEGR弁26と、還流ガス温度を検出する還流ガス温度検出器を備え、還流ガス温度を調整するEGRクーラ27が排気還流管28の適宜位置に備えられている。また、EGRクーラ27は還流ガス温度の温度調整を実施するための冷却水の出入口を有し、冷却水の流量を制御するための冷却水ポンプ29と冷却水流路切替弁30が内燃機関100の適宜位置に備えられている。
また、クランクシャフト14はメインシャフトとサブシャフトにより構成され、サブシャフトはコネクティングロッドを介してピストン13に連結されている。ここで、メインシャフトとサブシャフトの距離、或いはコネクティングロッドの長さは可変とする可変圧縮比機構を備えても良い。この可変圧縮比機構を備えることにより、ピストンのストローク量を変更することが可能となり、これによって燃焼室内圧力を可変とすることができる。
クランクシャフト14には、クランクシャフト14の角度及び回転速度及びピストン13の移動速度を検出するためのクランク角センサ15が備えられている。また、内燃機関100には内燃機関100の燃焼振動を加速度として検出するためのノックセンサ16が備えられている。また燃焼室内部の圧力を検出する圧力センサ21が内燃機関100の適宜位置に備えられている。例えば、この圧力センサ21は点火プラグ19に内蔵されており、更には、圧力センサ21は燃焼ガスのイオン量を検出するイオン電流センサであっても良い。また、内燃機関100内部の冷却水温度を検出する冷却水温センサ18が内燃機関100の適宜位置に備えられている。
エアフロセンサ3、吸気温湿度センサ4、クランク角センサ15、ノックセンサ16、冷却水温センサ18、圧力センサ21、排気温センサ24、空燃比センサ25、還流ガス温度を調整するEGRクーラ27から得られる検出信号は、EUC1に送られる。更に、アクセルペダル開度センサ2から得られる検出信号もECU1に送られる。
アクセルペダル開度センサ2は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわちアクセルペダル開度を検出する。ECU1はアクセルペダル開度センサ2の出力信号に基づいて運転者の要求トルクを演算する。すなわち、アクセルペダル開度センサ2は内燃機関100への要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる。
ECU1はクランク角センサ15の出力信号に基づいてクランクシャフト14の角度及び回転速度及びピストン13の移動速度を演算する。ECU1は各種センサの出力から得られる内燃機関100の運転状態に基づいてスロットル5の開度、タンブル弁6の開度、インジェクタ7の噴射信号、燃料ポンプ8の駆動信号、可変動弁12の弁開閉時期、点火コイル20の複数回の点火を指令する点火制御信号、EGR弁26の開度、冷却水制御として冷却水ポンプ29と冷却水切替弁30の駆動信号等の内燃機関100の主要な作動量を適切に演算する。
ECU1で演算されたスロットル開度はスロットル駆動信号としてスロットル5へ送られ、以下同様に、タンブル弁開度はタンブル弁駆動信号としてタンブル弁6へ送られ、噴射信号はインジェクタ開弁パルス信号に変換されインジェクタ7に送られ、点火信号は所定の点火時期で点火されるように点火制御信号として点火コイル20に送られる。
ここで、この点火信号は、本実施形態では1回の点火動作において、断続的に通電できるように制御可能である。したがって、2回以上の通電信号を出力するが、もちろん通常通り1回の通電も実施可能であり、断続的に通電という意味は1回以上の通電を含むものである。この制御については後述する。
更に、ECU1で演算された燃料ポンプ駆動信号は燃料ポンプ8へ送られ、弁開閉時期は可変動弁駆動信号として可変動弁12へ送られ、EGR弁開度はEGR弁駆動信号としてEGR弁26へ送られ、冷却水制御信号は冷却水制御駆動信号として冷却水ポンプ29と冷却水流路切替弁30へ送られる。また、ECU1で演算された目標ストローク信号は可変圧縮比機構へ送られ、圧縮比が変更される。
吸気管11から吸気弁を経て燃焼室17内に流入した空気と、排気管31からEGR弁26とEGRクーラ27を経て再循環する再循環ガスとの混合気に対して、燃料が噴射されて可燃混合気を形成する。可燃混合気は所定の点火時期で点火コイル20により点火エネルギーを供給された点火プラグ19から発生される火花により爆発し、その燃焼圧によりピストン13を押し下げて内燃機関100の駆動力となる。爆発後の排気は排気管31を経て三元触媒23に送られ、排気成分は三元触媒23内で浄化された後に排出される。
内燃機関100は自動車に搭載されており、自動車の走行状態に関する情報はECU1に送られる。また、ECU1へは内燃機関を搭載する車体あるいは車輪に取り付けられた車速センサと、内燃機関を搭載する車体に取り付けられた変速機を制御するためのシフトレバーの位置を検出するシフトレバー位置センサとの信号が、直接、或いはECU1とは異なる制御装置から入力されている。
図2は上述したECU1の構成を示すシステムブロック図である。アクセルペダル開度センサ2、エアフロセンサ3、吸気温湿度センサ4、クランク角センサ15、ノックセンサ16、冷却水温センサ18、圧力センサ21、排気温センサ24、空燃比センサ25、EGRクーラに備えられた還流ガス温度検出器27の検出信号は、ECU1の入力回路50aに入力される。尚、入力信号はこれらの入力だけに限られないものである。
入力された各センサの入力信号は、入出力ポート50b内の入力ポートに送られる。入出力ポート50bに送られた検出信号の値はRAM50cに保管され、CPU50eで演算処理される。演算処理内容を記述した制御プログラムはROM50dに予め書き込まれている。この制御プログラムに従って演算された各アクチュエータの作動量を示す値は、RAM50cに保管された後、入出力ポート50bの出力ポートに送られ各駆動回路を経てて各アクチュエータに送られる。
本実施形態の場合は駆動回路として、スロットル駆動回路50f、タンブル弁駆動回路50g、インジェクタ駆動回路50h、燃料ポンプ駆動回路50i、可変動弁駆動回路50j、可変圧縮比用のストローク駆動回路50k、点火信号出力回路50l、EGR弁駆動回路50m、冷却水制御駆動回路50nが設けられている。各駆動回路はスロットル5、タンブル弁6、インジェクタ7、燃料ポンプ8、可変動弁12、ストローク調整機構(図示せず)、クランクシャフト15、点火コイル20、EGR弁26、冷却水ポンプ或いは冷却水流路切替弁30を制御する。本実施形態においては、ECU1内に駆動回路を備えた装置であるが、これに限るものではなく駆動回路のいずれかをECU1内に備えるものであってもよい。
図3はアクセルペダル開度と内燃機関の回転数に基づいてピストンストローク、スロットル開度、燃料噴射量、EGR量、点火時期等の目標制御量を求める目標制御値算出ロジック図である。
アクセルペダル開度APOと内燃機関の回転数NEが、目標トルク演算部TTRQに入力され、目標トルクTRGTRQを演算する。目標トルクTRGTRQは目標圧縮比演算部TGCRと、目標吸入空気量演算部TAIRと、目標空燃比演算部TGAFと、目標EGR量演算部TEGRと、目標点火時期演算部TIGNに入力される。
目標圧縮比演算部TGCRでは目標圧縮比TRGCRが演算され、これに基づいてピストン13の目標ストロークTRGSTRを出力する。目標吸入空気量演算部TAIRでは目標吸入空気量TRGAIRが演算され、これに基づいて目標スロットル開度TRGATVを出力する。また、目標吸入空気量TRGAIRは目標空燃比演算部TGAFに入力される。
目標空燃比演算部TGAFでは目標空燃比TRGAFが演算されると共に、「目標吸入空気量TRGAIR/目標空燃比TRGAF=目標噴射量TRGQF」の式に基づき目標噴射量TRGQFを演算、出力する。目標EGR量演算部TEGRでは目標EGR量TRGEGRが演算され目標EGR弁開度TRGETVを出力する。目標点火時期演算部TIGNでは目標点火時期TRGIGNが演算され出力される。
図4A、図4B、図4Cはアクセルペダル開度と内燃機関の回転数に対する目標トルクの特性、目標トルクに対する目標圧縮比の特性、及び目標圧縮比に対する目標制御値(ここでは、目標吸気弁閉時期とピストンの目標ストローク)の特性を示す特性図である。
図4AのZ軸は目標トルクTRGTRQを示し、X軸はアクセルペダル開度APOを示し、Y軸は内燃機関回転数NEを示しており、アクセルペダル開度APOと回転数NEに対する目標トルクTRGTRQの特性を示している。アクセルペダル開度APOの増加と回転数NEの増加に応じて目標トルクTRGTRQは増加する特性である。
また、図4Bは目標圧縮比TRGCRと目標トルクTRGTRQの特性図を示しており、目標トルクTRGTRQが増加するのに伴い目標圧縮比TRGCRは小さくなる特性である。これにより目標トルクTRGTRQが小さい領域においてノッキングに対し点火時期の進角量の余力がある時、圧縮比を増加させることで熱効率の向上が得られ、かつ目標トルクTRGTRQが大きい領域においてノッキングに対し点火時期の余力が無い時、圧縮比を下げることで点火時期を進角させることができ熱効率の向上が得られる。
ここで目標圧縮比はこの特性に限るものではなく、一定、或いは増加させる特性とし、ノッキングに対し点火時期の余力を無くする方向に制御することで排気温度を上昇させ三元触媒の暖機運転を行うことで排気中のHC、CO等を抑制しても良い。
図4Cの縦軸は目標吸気弁閉じ時期TRGIVCと目標ストロークTRGSTRを示し、横軸はこの特性図から得られた目標圧縮比TRGCRを示している。目標圧縮比TRGCRが大となる領域では、目標吸気弁閉じ時期TRGIVCを下死点(以下、BDC)方向へ変更、或いは目標ストロークTRGSTRを大きくする方向へ変更する特性とする。目標吸気弁閉じ時期TRGIVCをBDCへ近付けることで実圧縮比が増加する。また目標ストロークTRGSTRを大きくすることでピストン位置がクランクシャフト側から燃焼室側へ移動することになり機械圧縮比が増加する。目標吸気弁閉じ時期TRGIVCと目標ストロークTRGSTRを適宜位置へ変更することで機械圧縮比と実圧縮比を任意に増減できる。
また、本実施形態例では可変動弁、及びメインシャフトとサブシャフトの距離、あるいはコネクティングロッドの長さを可変とするストローク調整機構を備えるクランクシャフトを備える場合を示しているが、そのどちらか一方を備える内燃機関でも圧縮比を変更し燃焼室内圧力を可変とすることが可能である。
図5A、図5Bは目標トルクに対する目標吸入空気量と、目標吸入空気量に対する目標スロットル開度の特性を示す特性図を示している。
図5Aの縦軸は目標吸入空気量TRGAIRを示し、横軸はこの特性図から得られた目標トルクTRGTRQを示している。目標トルクTRGTRQが増大すると、目標吸入空気量TRGAIRを増大する特性を示している。
図5Bの目標スロットル開度TRGATVと目標吸入空気量TRGAIRの関係を示しており、目標吸入空気量TRGAIRの増大に伴い目標スロットル開度TRGATVは開き側へ制御する特性である。これより目標トルクTRGTRQの増大に伴う目標吸入空気量TRGAIRの増大に対し、目標スロットル開度TRGATVを開くことで吸気管内における絞りを低減でき、目標吸入空気量TRGAIRを満足できる。
図6A、図6Bは目標トルクと回転数に対する目標空燃比と、目標空燃比と目標吸入空気量に対する目標噴射量の特性を示す特性図を示している。
図6Aの縦軸は目標トルクTRGTRQであり、横軸は回転数NEであり、目標トルクTRGTRQと回転数NEに対する目標空燃比TRGAFの特性を示している。目標トルクTRGTRQの増大に伴い目標空燃比TRGAFはリーンとなる特性である。ここで、目標空燃比TRGAFの特性図はこの例に限るものではなく、全域をストイキ、或いはリーンとしても良い。
図6Bは目標空燃比TRGAFと目標吸入空気量TRGAIRに基づく目標噴射量TRGQFの特性を示している。目標空燃比TRGAFのストイキ化と目標吸入空気量TRGAIRの増大に応じて目標噴射量TRGQFは増大する特性である。
図7A、図7Bは目標トルクと回転数に対する目標EGR量と、目標EGR量に対する目標EGR弁開度の特性を示す特性図である。
図7Aの縦軸は目標トルクTRGTRQであり、横軸は回転数NEであり、目標トルクTRGTRQと回転数NEに対する目標EGR量TRGEGRの特性を示している。目標トルクTRGTRQの増減に伴い、目標EGR量TRGEGRは多い領域と少ない領域となる特性である。ここで、目標EGR量TRGEGRの特性図はこの例に限るものではなく、全域を一定値、或いは目標トルクTRGTRQの増大に応じて単調増加としても良いものである。
図7Bは目標EGR弁開度TRGETVに基づく目標EGR量TRGEGRとの特性を示している。目標EGR量TRGEGRの増加に伴い、目標EGR弁開度TRGETVを開き方向へ制御する特性である。
図8は目標トルクTRGTRQと回転数NEに対する目標点火時期TRGIGNの特性を示す特性図である。
図8の縦軸は目標トルクTRGTRQであり、横軸は回転数NEであり、目標トルクTRGTRQと回転数NEに対する目標点火時期TRGIGNの特性を示している。目標トルクTRGTRQの増大に伴い、目標点火時期TRGIGNは遅角する特性である。また回転数NEの高回転化に伴い目標点火時期TRGIGNは進角する特性である。ここで、目標点火時期TRGIGNの特性図はこの例に限るものではなく、全域を一定値、或いは目標トルクTRGTRQの増大に応じて進角する特性としても良いものである。
このように、本実施形態になる内燃機関システムでは、圧縮比を可変とする可変圧縮比制御、或いは異常燃焼を抑制する排気循環燃焼制御、或いはリーン燃焼制御が単独で適用されるか、好ましくは、本実施形態のようにこれらが組み合わせられて適用されている。
ところで、本発明者等の検討によると、少なくとも可変圧縮比、排気循環燃焼、リーン燃焼等のいずれかを行う内燃機関においては、燃焼室内の混合気の状態が内燃機関の出力に応じて大きく変化するため、点火装置による点火不良が生じて失火現象が発生することが新たに判明した。
つまり、圧縮比の増加、排気循環量の増加、リーン空燃比の増加により圧縮行程での燃焼室内圧力が増加し、この燃焼室内圧力の増加に応じて、点火プラグにおける絶縁破壊電圧と放電電圧が増加するようになり、点火装置内の蓄電エネルギーが低燃焼室圧力時に比べ早く消費されることで放電時間が短縮され、火炎核の成長が不足することで失火に至るものである。したがって、この失火現象を抑制して排気浄化性能を向上することが強く要請されている。
そこで、本実施形態ではこの要請に応えるため、1サイクル中の点火装置による1回の点火動作において、点火装置への点火信号の通電を断続的に行い、しかも内燃機関の燃焼室内圧力に応じて通電回数を増減する制御を行なう構成を提案するものである。尚、通電の断続間隔は、点火プラグによる放電が継続できる間隔に設定されることはいうまでもない。
これによれば、点火信号の通電を断続することによって点火エネルギーが瞬間的に立ち上がるブレークダウンが生じ、燃焼室の圧力に応じてこの通電回数(即ち、ブレークダウンの回数)を制御(増減)すれば、燃焼室内圧力が増加しても放電時間が長くなって混合気への着火を確実に実行でき、失火現象の発生を抑制することができるようになる。その結果、燃費性能と排気性能を向上することができる。
以下、本実施形態の詳細について説明する。図9は本実施形態による点火信号の通電回数算出ロジック図である。
図9において、クランク角度CAと、目標点火時期TRGIGNと、燃焼室内圧力Pは通電回数演算部TIGNTに入力される。また、イオン電流センサ信号IONと、吸入空気量QAと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRは燃焼室内圧力推定部TPESに入力され、推定燃焼室内圧力P*を演算して通電回数演算部TIGNTに入力される。ここで、燃焼室圧力センサを使用して燃焼室内圧力Pを直接検出して使用する方法と、推定燃焼室内圧力P*を推定して使用する方法があるが、どちらか一方を使用して燃焼室圧力を求めればよいものである。
ただ、燃焼室圧力センサの故障検知や出力異常検知を行う場合は、両方の方法で燃焼室内圧力を求め、推定燃焼圧P*を用いて燃焼室圧力センサの検出圧力を検証することで燃焼室圧力センサの故障や異常を判断することができる。
上述した入力値を用いて通電回数演算部TIGNTでは通電回数Npを演算して出力する。ここで、通電回数演算部TIGNTは、1回の点火動作に複数回の点火信号の通電を行う制御装置と共に用いられる。通電回数演算部TIGNTの通電回数Npは通電を指令する点火制御を行う制御装置で用いられ、点火装置の点火時期、つまり目標点火時期TRGIGNにおいて、燃焼室内圧力に応じて1回の点火動作における点火信号の通電回数を設定するように多段通電制御を指令する制御装置となる。
これにより、燃焼室内圧力の変化に伴う点火プラグにおける絶縁破壊電圧と放電電圧の変化に伴う点火コイルの蓄電エネルギー要求量の変化に対応し、放電時間を最適に制御(増減)することができ、必要最小限の蓄電エネルギーを供給するようにできる。これによって必要最小限の蓄電エネルギーとすることにより、内燃機関システムの省エネルギー化と、燃焼室内の混合気が要求する蓄電エネルギーを過不足なく供給することができる。もちろん放電時間を充分確保できるので、失火現象を抑制して燃焼の高効率化を実現でき、更に燃費性能と排気性能の改善効果が得られるようになる。
本実施例では好ましくは、燃焼室内圧力を検出する手段、或いは燃焼室内圧力を推定する手段を有している。燃焼室内圧力を検出する手段は、燃焼室内圧力を直接検出する圧力センサであり、これによって燃焼室内圧力Pを直接的に検出することができる。
また、燃焼室内圧力を推定する手段は、燃焼室内圧力推定部TPESであり、(1)イオン電流センサのイオン電流信号IONと、空燃比センサの信号AFと、目標EGR量TRGEGRを用いて燃焼室内圧力を推定することができ、或いは(2)吸入空気量センサの信号QAと空燃比センサの信号AFと目標EGR量TRGEGRを用いて燃焼室内圧力を推定することができる。
上記した燃焼室内圧力を検出する手段、或いは燃焼室内圧力を推定する手段によって、各気筒の点火時期付近(点火前、或いは点火後)における燃焼室内圧力を検出、或いは推定し、この検出、或いは推定された燃焼室内圧力は、通電回数演算部TIGNTに入力されて通電回数Npが演算されて出力される。
具体的には、本実施例では燃焼室内圧力Pを検出する圧力センサが備えられており、燃焼室内圧力Pが通電回数演算部TIGNTに入力される場合、クランク角度CAと目標点火時期TRGIGNの同期をもって燃焼室内圧力Pを検出し、燃焼室内圧力Pに応じて通電回数演算部TIGNTでは通電回数Npを演算、出力するように構成することができる。
一方、燃焼室内圧力Pを検出する圧力センサが備えられておらず、燃焼室内圧力Pが通電回数演算部TIGNTに入力されない場合は、次のような方法で通電回数Npが求められる。
第1には、イオン電流信号IONを検出するイオン電流センサが備えられている場合では、イオン電流信号IONと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRが燃焼室内圧力推定部TPESに入力され、イオン電流信号IONと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRを用いて所定の演算、或いは物理モデルを利用して燃焼室内圧力推定量P*を推定し、推定された燃焼室内圧力P*に応じて通電回数演算部TIGNTでは通電回数Npを演算、出力するように構成することができる。
第2には、圧力センサやイオン電流センサが備えられていない場合、吸入空気量QAと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRが燃焼室内圧力推定部TPESに入力され、吸入空気量QAと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRを用いて所定の演算、或いは物理モデルを利用して燃焼室内圧力推定量P*を推定し、推定された燃焼室内圧力P*に応じて通電回数演算部TIGNTでは通電回数Npを演算、出力するように構成することができる。
このように、燃焼室内圧力を検出する手段、或いは燃焼室内圧力を推定する手段によって燃焼室内圧力の変化を精確に、かつリアルタイムに検出、或いは推定可能となり、通電回数Npの最適化が可能となる。その結果、燃費性能と排気性能の改善効果が最大化できる。尚、通電回数演算部TIGNTによる通電回数Npの演算については後述する。
本実施例になる内燃機関の制御装置は、内燃機関出力が同一条件においても燃焼室内圧力Pを可変とすることが可能な可変圧縮比機構を備える可変圧縮比内燃機関に適用することが特に望ましい。なぜならば、吸入空気量と空燃比とEGR量が同一であっても実圧縮比、或いは機械圧縮比を可変調整する場合において、当然のことながら燃焼室内圧力が変化するためである。
可変圧縮比内燃機関においては、点火装置による点火時期における燃焼室内圧力に応じて点火信号の通電回数を設定することで、必要最小限の蓄電エネルギーとすることによる内燃機関システムの省エネルギー化と、燃焼室内の混合気が要求する蓄電エネルギーを過不足なく供給することによる燃焼の高効率化を実現でき、燃費性能と排気性能の改善効果が最大化する。
また、燃焼室内圧力を可変調整する可変圧縮比機構は、吸気弁の閉じ時期、或いはピストンのストローク量の変更により可変とする機構であり、吸気弁の閉じ時期、或いはピストンのストローク量の指令値は、図4Cの特性図に基づき与えられる。したがって、可変圧縮比内燃機関の圧縮比制御と、1回の点火動作に複数回の点火信号の通電が行なわれる点火装置と、燃焼室内圧力に応じた点火信号の通電回数の設定を行う制御装置を組み合わせて使用することで、適切な制御システムに統合することが可能となる。
次に、燃焼室内圧力の圧力センサによる検出方法と、燃焼室内圧力推定部TPESによる推定方法による通電回数Npの求め方の具体的な例について、図10A、図10B、図11A〜図11C、図12A〜図12Cを用いて説明する。
図10A、図10Bは燃焼室内圧力センサを用いた点火時期圧力に基づく通電回数Npの特性を示す特性図である。
図10Aにおいて、縦軸は燃焼室内圧力Pを示し、横軸はクランク角度CAを示している。正常に燃焼が行われた際には、上死点TDC以降に燃焼室内圧力は最大値を示すことになる。また、目標点火時期TRGIGNは上死点TDC以前に設定されている。目標点火時期TRGIGNの直前における燃焼室内圧力Pを点火時期圧力PIGNにとして検出する。この場合、点火時期圧力PIGNは目標点火時期TRGIGNに近い時点の圧力である方が望ましい。検出された点火時期圧力PIGNは通電回数演算部TIGNTに入力されて通電回数Npが設定される。
図10Bにおいて、縦軸は通電回数Npを示し、横軸は点火時期圧力PIGNを示している。点火時期圧力PIGNが増大するのに伴い、通電回数Npは多く設定される特性である。これにより、通電回数Npが増加することで1行程中の点火装置(=点火コイル)に蓄電されるエネルギーが増加し、かつ点火プラグから燃焼室内の混合気へとエネルギーが伝わる伝達効率が高い絶縁破壊現象を複数回与えることができるため、放電時間が長くなって火炎核の成長が促進され、失火の発生を抑制できるようになる。
また、正常に燃焼が行われない時、つまり目標点火時期TRGIGNの前に燃焼室内圧力Pが任意の閾値以上となった場合においては、通電回数Npを所定の一定回数に制限、或いは減少させても良いものである。これは燃焼室内圧力Pが任意の閾値以上である時、燃焼室内では点火時期前に燃焼が開始してしまう過早着火と呼ばれる現象が発生している場合であり、過早着火後の燃焼室内圧力値は非常に高い値を示すからである。過早着火が生じると内燃機関の破損を招くため、可能な限り燃焼反応を抑制する必要がある。このため、通電回数Npは所定の一定回数に制限、或いは減少させることで、混合気へ伝達されるエネルギーを低減させることは有効である。
図11A〜図11Cは本実施形態によるイオン電流センサを用いた燃焼室内圧力推定量P*(I)に基づく通電回数Npの特性を示す特性図である。尚、イオン電流センサを用いる場合は燃焼後の燃焼室内圧力推定量P*(I)を用いるので、通電回数Npが反映されるのは次の行程の点火時期である。
図11Aにおいて、縦軸はイオン電流信号IONを示し、横軸はクランク角度CAを示している。正常に燃焼が行われた際には、上死点TDC以降にイオン電流信号IONは2つ、或いは3つの山形状の信号が現れる。ここでは2つの山形状のイオン電流信号IONが得られる場合の方法について述べる。イオン電流信号IONは上死点TDC前、上死点TDC後の2つの山形状の信号が現れる。ここで2つ目の山形状のイオン電流信号IONの最大値をイオン電流ピークIMAXとして検出する。
図11Bにおいて、縦軸は燃焼室内圧力推定量P*(I)を示し、横軸はイオン電流ピークIMAXを示している。ここで、燃焼室内圧力推定量P*(I)はイオン電流ピークIMAXの検出時期ではなく、目標点火時期TRGIGNにおける燃焼室内圧力P*(I)の推定値である。この推定値はイオン電流ピークIMAXをパラメータとした演算や物理モデルから求めることができる。
空燃比AFがストイキ、かつ目標EGR量が0である時、イオン電流ピークIMAXの増加に伴い燃焼室内圧力推定量P*(I)は増加する傾向を示すようになる。なぜなら、イオン電流ピークIMAXの増加は燃焼室内の燃焼温度の上昇と相関があるためである。
また、空燃比AFがリーンに変化する、或いは目標EGR量TRGEGRが多くなる場合においては、イオン電流ピークIMAXの増加に伴う燃焼室内圧力推定量P*(I)の増加傾向は同一であるものの、その勾配が大きくなる。一例として空燃比AFがリーンに変化した時の勾配は、空燃比AFがストイキの時の勾配より大きい。
また、空燃比AFがリーンであり目標EGR量TRGEGRが多くなる時の勾配は、空燃比AFがリーン、かつ目標EGR量TRGEGRが0の時の勾配よりは大きい。なぜなら、空燃比がリーンになる時、或いはEGR量が増加するときには目標点火時期における混合気量が増加しており、燃焼室内圧力Pが高まるのに対してリーン、或いはEGR量増加は断熱火炎温度が低下するために燃焼温度が低下し、イオン発生量が減少するためである。
図11Cにおいて、縦軸に通電回数Npを示し、横軸には燃焼室内圧力推定量P*(I)を示している。燃焼室内圧力推定量P*(I)が増大するのに伴い、通電回数Npは多く設定される特性である。これにより、通電回数Npが増加することで1回の点火動作での点火コイルに蓄電されるエネルギーが増加し、かつ点火プラグから燃焼室内の混合気へとエネルギーが伝わる伝達効率が高い絶縁破壊現象を複数回与えることができるため、放電時間が長くなって火炎核の成長が促進され、失火の発生を抑制できる。
また、正常に燃焼が行われない時、つまり上述した2つのイオン電流信号に先行して3つ目の山形状のイオン電流信号IONが検出される。3つ目の山形状信号のピーク値が任意の閾値以上となった場合においては、通電回数Npを所定の一定回数に制限、或いは減少させても良いものである。尚、3つ目の山形状の信号は目標点火時期TRGIGNより以前に出現する。これは3つ目の山形状信号のピーク値が任意の閾値以上である時、燃焼室内では点火時期前に燃焼が開始してしまう過早着火と呼ばれる現象が発生している場合であり、過早着火後の燃焼室反応は目標点火時期TRGIGN以前に進行し3つ目の山形状のイオン電流信号IONが増加するためである。過早着火が生じると内燃機関の破損を招くため、可能な限り燃焼反応を抑制する必要がある。このため、通電回数Npは所定の一定回数に制限、或いは減少させることで、混合気へ伝達されるエネルギーを低減させることは有効である。
図12A〜図12Cは本実施形態による吸入空気量QAと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRを用いた燃焼室内圧力推定量P*(AE)に基づく通電回数の特性を示す特性図である。尚、吸入空気量QAと、空燃比AFと、目標EGR量TRGEGRを用いる場合は燃焼後の燃焼室内圧力推定量P*(AE)を用いるので、通電回数Npが反映されるのは次の行程の点火時期である。
図12Aにおいて、縦軸は吸入空気量QAを示し、横軸は空燃比AFを示している。吸入空気量QAの増加と空燃比AFのリーン化は、混合気量を増加すると共に目標点火時期TRGIGNにおける燃焼室内圧力推定量P*(A)を高める。
図12Bにおいて、縦軸は燃焼室内圧力推定量P*(AE)を示し、横軸は目標EGR量TRGEGRを示している。目標EGR量TRGEGRの増加に伴い燃焼室内圧力推定量P*(AE)は高まる特性である。目標EGR量TRGEGRが0であるとき、燃焼室内圧力推定量P*(AE)は燃焼室内圧力推定量P*(A)となる。
図12Cにおいて、縦軸は通電回数Npを示し、横軸は燃焼室内圧力推定量P*(AE)を示している。燃焼室内圧力推定量P*(AE)の高まりに応じて通電回数Npは多く設定される特性とする。これにより燃焼室内圧力に応じた通電回数Npの設定が、燃焼室内に露出した圧力センサやイオン電流センサを備えなくても実施できるようになる。
図13は本実施形態によるECU1で実行される制御内容を示すフローチャートである。このフローチャートでは、図3に示すピストンストローク、スロットル開度、燃料噴射量、EGR量、点火時期等の目標制御量を求める目標制御値算出ロジックと、図9に示す通電回数算出ロジックがECU1によって所定の周期で繰り返し実行されるものである。
ステップS101において、アクセルペダル開度APO、内燃機関回転数NE、ECU1内のROMに書き込まれた各種制御値などを読み込む。次にステップS102において、内燃機関100に対する目標トルクTRGTRQを演算する。
ステップS103において、ステップS102の演算結果に基づき目標圧縮比TRGCR、目標吸入空気量TRGAIR、目標空燃比演算TRGAF、目標EGR量TRGEGR、目標点火時期TRGIGNを演算する。
次にステップS104において、ステップS103の演算結果に基づき、目標ストロークTRGSTR、目標スロットル開度TRGATV、目標噴射量TRGQF、目標EGR弁開度TRGETV、目標点火時期TRGIGNを演算する。
次にステップS105において、クランク角度CA、目標点火時期TRGIGN、燃焼室内圧力P、イオン電流信号ION、吸入空気量QA、空燃比AF、目標EGR量TRGEGRを読み込む。
次にステップS106において、燃焼室内圧力Pデータの有無を確認し、YESである時はステップS108へ進み、NOである時はステップS107へ進む。このステップは圧力センサの有無を判断しているものである。
ステップS106でYESと判断されると、次にステップS108では点火時期圧力PIGNを読み込み、ステップS109では通電回数Npを演算する。通電回数Npが決定されると、この通電回数Npは図示しない点火制御装置に送られ、目標点火時期TRGIGNの時点において、決定された通電回数Npで断続的に点火信号の通電が行われて点火が実行される。
ここで通電回数Npが設定されると、点火制御装置ではこの通電回数に対応して点火信号を点火コイルに断続的に流すが、この点火信号の断続間隔は点火プラグでの放電が継続できる間隔に設定されている。また、燃焼室内圧力が高いと点火プラグにおける絶縁破壊電圧と放電電圧が増加することにより点火コイルの蓄電エネルギーが早く消費される。したがって、燃焼室内圧力が高いほど点火信号の断続間隔を短くすることが有効である。
一方、ステップS106でNOと判断されると、ステップS107ではイオン電流信号IONデータの有無を確認し、YESである時はステップS110へ進み、NOである時はステップS112へ進む。このステップはイオン電流センサの有無を判断しているものである。
ステップS107でYESと判断されると、ステップS110では燃焼室内圧力推定量P*(I)を演算する。またステップS111では通電回数Npを演算する。ステップS109と同様に、通電回数Npが決定されると、この通電回数Npは図示しない点火制御装置に送られ、目標点火時期TRGIGNの時点において、決定された通電回数Npで断続的に点火信号の通電が行われて点火が実行される。そして、通電回数Npが設定されると、点火制御装置ではこの通電回数に対応して点火信号を点火コイルに断続的に流すが、この点火信号の断続間隔は点火プラグでの放電が継続できる間隔に設定されている。この場合、上述したように通電回数Npが反映されるのは次の行程の点火時期である。
一方、ステップS107でNOと判断されると、ステップS112では燃焼室内圧力推定量P*(A)を演算し、更に、ステップS113では燃焼室内圧力推定量P*(AE)を演算する。そして、ステップS114では通電回数Npを演算する。ステップS109と同様に、通電回数Npが決定されると、この通電回数Npは図示しない点火制御装置に送られ、目標点火時期TRGIGNの時点において、決定された通電回数Npで断続的に点火信号の通電が行われて点火が実行される。そして、通電回数Npが設定されると、点火制御装置ではこの通電回数に対応して点火信号を点火コイルに断続的に流すが、この点火信号の断続間隔は点火プラグでの放電が継続できる間隔に設定されている。この場合、上述したように通電回数Npが反映されるのは次の行程の点火時期である。
ここで、上述の説明では圧力センサやイオン電流センサの有無を判断して通電回数Npを算出しているが、圧力センサを有したシステム、イオン電流センサを有したシステム、圧力センサ、イオン電流センサを有しないシステム毎に、上述した個々の制御フローを採用しても良いことはいうまでもない。
圧力センサを有したシステムでは、ステップS101〜S105、S108,S109が実行される。尚、ステップS105では、クランク角度CA、目標点火時期TRGIGN、燃焼室内圧力Pが読み込まれるものである。また、イオン電流センサを有したシステムでは、ステップS101〜S105、S110,S111が実行される。尚、ステップS105では、イオン電流信号IONが読み込まれるものである。更に、圧力センサ、イオン電流センサを有しないシステムでは、ステップS101〜S105、S1112,S113、S114が実行される。尚、ステップS105では、吸入空気量QA、空燃比AF、目標EGR量TRGEGRが読み込まれるものである。
このように、本実施例によれば、内燃機関の燃焼室内の圧力が高くなるに従い、1回の点火動作での点火信号の通電回数を多くする制御を行なうようにしている。これによって、点火信号の通電の断続を行うことで点火エネルギーが瞬間的に立ち上がるブレークダウンが生じ、燃焼室の圧力に応じてこの通電回数(即ち、ブレークダウンの回数)を制御(増減)すれば、燃焼室内圧力が増加しても放電時間を長くでき、混合気への着火を確実に行って失火現象の発生を抑制することができるようになる。
次に、本実施例の具体的な通電回数Npの変更動作を説明する。図14は燃焼室内圧力センサを用いた点火時期圧力に基づく通電回数変更制御の例である。横軸は内燃機関の行程数を示しており、縦軸は上から順番に燃焼室内圧力P、点火時期圧力PIGN、通電回数Np、点火装置の放電電流、放電電圧を示している。
今、内燃機関のクランクシャフトが回転している時、各行程において燃焼室内圧力Pは増減を繰り返し行う。この時の点火時期直前における燃焼室圧力PIGNが各行程で検出される。通電回数Npは点火時期圧力PIGN検出後に即座に演算され、図14では、行程の進行に合わせて通電回数Np=1、Np=1,Np=3、Np=3と変化している。この通電回数Npに基づく点火信号で点火装置は制御装置から制御され、1回の点火動作で放電電流は通電回数Np分の増加を行い、点火装置の放電電圧は通電回数Np分のスパイク的な増減を行うようになる。
このように目標点火時期TRGIGNにおける燃焼室内圧力Pの増加に応じて、点火信号の通電回数Npを増減することができる。これによって、放電時間を制御できることになる。ここで制御装置から点火装置である点火コイルに送られる点火信号は通電信号であり、点火コイルから点火プラグへ送られる放電電流が流れている期間は放電、あるいは点火と称するものである。
このように、1回の点火動作における点火信号の通電回数Npの増加は、放電、或いは点火が持続する期間内で複数回の通電が行われるように設定される。点火装置の放電電流と放電電圧が示すように、目標点火時期TRGIGNから放電電流が0近傍に帰着するまでの放電が持続する期間内において、通電回数Npに対応して複数回に亘って放電電流が増減する。
図15はイオン電流センサを用いた燃焼室内圧力推定量に基づく通電回数変更制御の例である。横軸は内燃機関の行程数を示しており、縦軸は上から順番にイオン電流信号Ion、燃焼室内圧力推定量P*(I)、通電回数Np、点火装置の放電電流、放電電圧を示している。
内燃機関のクランクシャフトが回転している時、各行程においてイオン電流信号IONは増減を繰り返し行う。この時イオン電流ピークIMAXが燃焼室内圧力推定量P*(I)として検出される。通電回数Npは燃焼室内圧力推定量P*(I)検出後に即座に演算されるが、目標点火時期TRGIGN以後に燃焼室内圧力推定量P*(I)は検出されるため、次行程の点火時期に通電回数Npが反映される。図15では、行程の進行に合わせて通電回数Np=1、Np=1,Np=1、Np=2と変化している。
この通電回数Npに基づき点火装置は制御装置から制御され、1回の点火動作で点火装置の放電電流は通電回数Np分の増加を行い、放電電圧は通電回数Np分のスパイク的な増減を行うようになる。これにより燃焼室内圧力推定量P*(I)に応じて、つまり目標点火時期TRGIGNにおける燃焼室内圧力Pの増加に応じて、点火信号の通電回数Npを増加させることができる。
図14と同様に、1回の点火動作における点火信号の通電回数Npの増加は、放電、或いは点火が持続する期間内で複数回の通電が行なわれるように設定される。点火装置の放電電流と放電電圧が示すように、目標点火時期TRGIGNから点火装置の放電電流が0近傍に帰着するまでの放電が持続する期間内において通電回数Npに対応して複数回に亘って放電電流が増減する。
図16は吸入空気量と、空燃比と、目導EGR量を用いた燃焼室内圧力推定量に基づく通電回数変更制御の例である。横軸は内燃機関の行程数を示しており、縦軸は上から順番に吸入空気量QA、空燃比AF、目標EGR量TRGEGR、燃焼室内圧力推定量P*(A)、燃焼室内圧力推定量P*(AE)、通電回数Npを示している。内燃機関のクランクシャフトが回転している時、各行程において吸入空気量QA、空燃比AF、目標EGR量TRGEGRは検出される。
実線は吸入空気量QAのみ変化した際の例を示しており、吸入空気量QAが増加し、燃焼室内圧力推定量P*(A)も増加する。ここで空燃比AFは一定であり、目標EGR量TRGEGRも一定である。したがって、燃焼室内圧力推定量P*(A)は燃焼室内圧力推定量P*(AE)と等しい値となる。燃焼室内圧力推定量P*(AE)に基づき通電回数Npは決められるが、通電回数Npは次行程においての点火制御に反映されるものである。
次に一点鎖線は空燃比AFのみ変化した際の例を示しており、空燃比AFがリーン方向に制御され、燃焼室内圧力推定量P*(A)は増加する。ここで吸入空気量QAと目標EGR量TRGEGRは一定であるため、燃焼室内圧力推定量P*(A)は燃焼室内圧力推定量P*(AE)と等しい値となる。燃焼室内圧力推定量P*(AE)に基づき通電回数Npは決められるが、上の例と同様に通電回数Npは次行程においての点火制御に反映されるものである。
次に点線は目標EGR量TRGEGRのみ変化した際の例を示しており、目標EGR量TRGEGRが増加する様制御されるが、吸入空気量QAと空燃比AFが一定であるため燃焼室内圧力推定量P*(A)は一定となる。しかしながら、燃焼室内圧力推定量P*(AE)は増加するので通電回数Npが増加する。燃焼室内圧力推定量P*(AE)に基づき通電回数Npは決められるが、上の例と同様に通電回数Npは次行程においての点火制御に反映されるものである。
図14、15、16に示した通り、本実施例は1回の点火動作で複数回の点火信号の通電が行われる点火装置と、複数回の点火信号の通電を指令する点火制御を行う制御装置を用い、点火装置の点火時期、つまり目標点火時期TRGIGNにおける燃焼室内圧力に応じて、1回の点火動作における点火信号の通電回数を最適に設定するものである。
このように本実施例においては、点火装置への点火信号の通電を断続的に行い、しかも内燃機関の燃焼室内圧力に応じて点火信号の通電回数を増減する制御を行なうようにした。これによれば、点火信号の通電を断続することによって点火エネルギーが瞬間的に立ち上がるブレークダウンが生じ、燃焼室の圧力に応じてこの通電回数(即ち、ブレークダウンの回数)を制御(増減)すれば、燃焼室内圧力が増加しても放電時間が長くなって混合気への着火を確実に実行でき、失火現象の発生を抑制することができるようになる。その結果、燃費性能と排気性能を向上することができる。
また、燃焼室内圧力の変化に伴う点火プラグにおける絶縁破壊電圧と放電電圧の変化に伴う点火コイルの蓄電エネルギー要求量の変化に対応し、放電時間を最適に制御することができ、必要最小限の蓄電エネルギーを供給することができる。
これは必要最小限の蓄電エネルギーとすることにより内燃機関システムの省エネルギー化と、燃焼室内の混合気が要求する蓄電エネルギーを過不足無く供給することにより燃焼の高効率化を実現でき、燃費性能と排気性能の改善効果が得られる。
また、燃焼室内圧力Pの増加に応じて1回の点火動作における点火信号の通電回数Npを増加するように設定するので、通電回数Npが増加することで点火コイルに蓄電されるエネルギーが増加し、かつ点火プラグから燃焼室内の混合気へとエネルギーが伝わる伝達効率が高い絶縁破壊現象を複数回与えることができるため、火炎核の成長が促進され失火の発生を抑制できる。
燃焼室内圧力の増加に伴い点火プラグにおける絶縁破壊電圧と放電電圧の要求値は増加する。その際に点火コイルに対する蓄電エネルギー要求量が増加し放電時間が短縮する。本実施例を適用することで、燃焼室内の混合気の蓄電エネルギー要求の増加に対して、通電回数Npの増加が蓄電エネルギーの増加を促すことから、燃焼の高効率化を実現でき、燃費性能と排気性能の改善効果が得られる。
更に、1回の点火動作回数における点火信号の通電回数Npの増加は、放電が持続する期間内で複数回の通電が行われるように設定されている。このため、点火装置の放電電流と放電電圧が目標点火時期TRGIGNから放電電流が0近傍に帰着するまで放電が持続する期間内において、複数回に亘って放電電流が増減する。これによって、放電の持続時間、つまり総放電時間が延長でき、放電途切れ期間が生じるのを抑制することで、火炎核の成長中に点火プラグからのエネルギー供給が継続される。その結果、火炎核を安定し成長させることが可能となり失火が抑制できる。
この効果はとりわけ回転数NEが高くなるに従い増加する。なぜなら、回転数NEが高まると点火プラグの電極間に流れる単位時間当たりの混合気流量が増加し、放電途切れ期間を与えた時に火炎核が吹き飛び消炎し易いためであり、総放電時間を延長できることが火炎核の点火プラグの電極からの離れ現象、つまり吹き飛びを抑制できるためである。
以上述べた通り本発明によれば、1サイクル中の点火装置による1回の点火動作において、点火装置への点火信号の通電を断続的に行い、しかも内燃機関の燃焼室内圧力に応じて通電回数を増減する制御を行なう構成とした。
これによれば、点火信号の通電を断続的に行うことによって点火エネルギーが瞬間的に立ち上がるブレークダウンが生じ、燃焼室の圧力に応じてこの通電回数(即ち、ブレークダウンの回数)を制御(増減)すれば、燃焼室内圧力が増加しても放電時間が長くなって混合気への着火を確実に実行でき、失火現象の発生を抑制することができるようになる。その結果、燃費性能と排気性能を向上することができる。
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。