上述したように、従来の点火制御装置では、混合気の燃焼性が低下するような内燃機関の運転状態において、点火プラグの放電期間がより長くなるように制御される。しかし、点火プラグの放電期間を単純に長くしても、必ずしも燃焼性の改善には結びつかず、後述するように、放電期間がある最適な期間のときに、リーン運転時や高EGR運転時などにおいて高い燃焼性が得られることが判明した。
このため、従来の点火制御装置のように、混合気の燃焼性が低下するような内燃機関の運転状態において、点火コイルの通電時間を長くすることで、点火プラグの放電期間を延長しても、放電期間が最適な期間から外れた場合には、燃焼性の改善効果が乏しい状態で、点火エネルギが余分に消費される結果、点火プラグの摩耗が進行し、その寿命が短くなるとともに、消費電力が増大してしまう。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、点火プラグの放電期間を燃焼に最適な期間に制御することによって、点火エネルギの要求を満たしながら、高いエネルギ効率で混合気の燃焼性を確保することができる内燃機関の点火制御装置を提供することを目的とする。
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、点火コイル31及び点火プラグ32を有し、点火コイル31の通電及び点火プラグ32の放電による混合気の点火動作を、1つの燃焼サイクル中に複数回、行うことが可能な点火装置5を制御する内燃機関3の点火制御装置であって、内燃機関3の運転状態(実施形態における(以下、本項において同じ)エンジン回転数NE、アクセル開度AP)を検出する運転状態検出手段(クランク角センサ20、アクセル開度センサ21)と、検出された内燃機関3の運転状態に応じて、点火装置5の目標点火エネルギEIGCMDを設定する目標点火エネルギ設定手段(ECU2、図6のステップ4)と、設定された目標点火エネルギEIGCMDが所定の第1しきい値EIGREF1以下のときに、点火プラグ32の放電の開始時から終了時までの期間である放電期間PDCHを一定の所定期間(最適期間PDCHOPT)に保持し、目標点火エネルギEIGCMDが第1しきい値EIGREF1よりも大きいときに、放電期間PDCHを所定期間よりも増加側に可変に制御する点火制御手段(ECU2、図8〜図11)と、を備えることを特徴とする。
この内燃機関の点火装置5は、点火コイルの通電及び点火プラグの放電による混合気の点火動作を、1つの燃焼サイクル中に複数回、行うことが可能である。また、この点火制御装置によれば、検出された内燃機関の運転状態に応じて、点火装置5の目標点火エネルギを設定する。そして、設定された目標点火エネルギが所定の第1しきい値以下のときには、点火プラグの放電期間を一定の所定期間に保持するように制御する。一方、目標点火エネルギが第1しきい値よりも大きいときには、点火プラグの放電期間を所定期間よりも増加側に可変に制御する。なお、点火プラグの放電期間は、点火プラグの放電の開始時から終了時までの期間として定義される。
上述した構成は、本発明者によって見出された、以下に述べるような点火プラグの放電期間と混合気の燃焼性との関係に基づいている。図5は、点火プラグの放電期間と、混合気のリーン側の燃焼限界を表す限界空燃比(A/F)又は限界EGR率との関係を、互いに異なる3つの点火エネルギについて示したものである。同図に示すように、いずれの点火エネルギの場合にも、限界空燃比又は限界EGR率は、放電期間がある値付近にあるときに最大値を示す。すなわち、点火エネルギの大きさにかかわらず、最良の燃焼性が得られる最適な放電期間が存在することが判明した。
本発明は、この知見に基づいており、上記のような最適な放電期間を所定期間として定めるとともに、目標点火エネルギが第1しきい値以下のときには、点火プラグの放電期間を所定期間に保持するように制御する。これにより、放電期間が最適な所定期間に保持されることによって、最良のエネルギ効率で混合気の燃焼性を確保することができる。また、目標点火エネルギが第1しきい値よりも大きいときには、放電期間を所定期間よりも増加側に可変制御するので、点火エネルギの要求を満たしながら、放電期間を最適な所定期間に近い値に制御することによって、高い燃焼性を維持することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の点火制御装置において、点火制御手段は、目標点火エネルギEIGCMDが第1しきい値EIGREF1以下のときには、目標点火エネルギEIGCMDが大きいほど、目標点火エネルギEIGCMDが確保されるように点火コイル31の通電電圧VELCをより増加させるとともに、目標点火エネルギEIGCMDにかかわらず、点火コイル31の通電時間TELCを所定時間(最小時間TELCMIN)に保持し、かつ点火プラグ32の放電回数NDCHを所定回数NDCHREFに保持することによって、放電期間PDCHを所定期間に保持するように制御することを特徴とする。
点火装置の制御パラメータとして、点火コイルの通電電圧、通電時間及び点火プラグの放電回数を用いる場合、通電時間又は放電回数を変化させると、それに応じて点火プラグの放電期間が変化するのに対し、通電電圧を変化させても、放電期間には影響を及ぼさない。上記の構成によれば、放電期間に影響を及ぼさない通電電圧を、目標点火エネルギが確保されるように可変制御する一方、放電期間に影響を及ぼす通電時間及び放電回数については、それぞれの所定値に保持する。したがって、点火エネルギの要求を満たしながら、放電期間を最適な所定期間に安定して精度良く保持することができる。
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の内燃機関3の点火制御装置において、第1しきい値EIGREF1は、通電時間TELCが所定時間に設定され、放電回数NDCHが所定回数NDCHREFに設定され、かつ通電電圧VELCが所定の最大電圧VELCMAXに設定されているときに、点火装置5から供給される点火エネルギであることを特徴とする。
この構成によれば、第1しきい値は、通電時間=所定時間、放電回数=所定回数で、通電電圧=所定の最大電圧のときに点火装置から供給される点火エネルギに設定されている。したがって、目標点火エネルギが第1しきい値以下のときに、通電電圧を目標点火エネルギに応じて最大電圧まで増加させることができ、請求項2による作用を最大限に得ることができる。
請求項4に係る発明は、請求項1に記載の内燃機関3の点火制御装置において、点火制御手段は、目標点火エネルギEIGCMDが第1しきい値EIGREF1よりも大きいときには、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、放電期間PDCHを所定期間から無段階に増加させる放電期間漸増制御を実行することを特徴とする。
また、請求項5に係る発明は、請求項2又は3に記載の内燃機関3の点火制御装置において、点火制御手段は、目標点火エネルギEIGCMDが第1しきい値EIGREF1よりも大きいときには、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、放電期間PDCHを所定期間から無段階に増加させる放電期間漸増制御を実行することを特徴とする。
この構成によれば、目標点火エネルギが第1しきい値よりも大きいときには、放電期間漸増制御を実行することにより、目標点火エネルギが増加するにつれて、放電期間を所定期間から無段階に増加するように制御する。これにより、目標点火エネルギが増加するのに対応して放電期間を所定期間に保持できない場合でも、放電期間を最適な所定期間に可能な限り近い値に制御でき、したがって、点火エネルギの要求を満たしながら、高い燃焼性を維持することができる。
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の内燃機関3の点火制御装置において、点火制御手段は、放電期間漸増制御を実行する際に、通電電圧VELCを最大電圧VELCMAXに保持し、かつ放電回数NDCHを保持した状態で、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、通電時間TELCを所定時間から漸増させるとともに、目標点火エネルギEIGCMDが所定の切替値(第1切替値EIGSW1、第2切替値EIGSW2)に達したときに、通電時間TELCを所定時間にリセットするとともに、放電回数NDCHを1回、増加させ、所定の切替値は、漸増した通電時間TELCによって得られる放電期間PDCHが、通電時間TELCが所定時間に設定され、かつ放電回数NDCHが1回、増加したと仮定したときに得られる放電期間(初期値PDCH(n+1))に一致するときの点火エネルギに相当する値に設定されていることを特徴とする。
この構成によれば、目標点火エネルギが第1しきい値よりも大きい場合に、請求項4による放電期間漸増制御を実行する際には、通電電圧を最大電圧に保持し、放電回数を保持した状態で、目標点火エネルギが増加するにつれて、通電時間を所定時間から漸増させる。これにより、点火エネルギの要求を満たしながら、放電期間を最適な所定期間から無段階に増加させることができる。
また、目標点火エネルギが所定の切替値に達したときには、通電時間を所定時間にリセットするとともに、放電回数を1回、増加させる。この切替値は、漸増した通電時間によって得られる放電期間が、通電時間が所定時間に設定され、かつ放電回数が1回、増加したと仮定したときに得られる放電期間に一致するときの点火エネルギに相当する値に設定されている。したがって、目標点火エネルギが切替値に達したときに、通電時間及び放電回数を上記のように切り替えることによって、この切替の前後においても、放電期間を段差なく連続させることができる。以上から、放電期間漸増制御を実行するに際し、点火エネルギの要求を満たしながら、放電期間漸増制御が実行される目標点火エネルギの領域の全体にわたって、放電期間を無段階に増加させることができ、請求項4による前述した作用を得ることができる。
請求項7に係る発明は、請求項5又は6に記載の内燃機関3の点火制御装置において、点火制御手段は、目標点火エネルギEIGCMDが第1しきい値EIGREF1よりも大きな所定の第2しきい値EIGREF2よりも大きいときには、目標点火エネルギEIGCMDにかかわらず、通電電圧VELCを最大電圧VELCMAXに保持し、かつ放電回数NDCHを最大回数NDCHMAXに保持するとともに、目標点火エネルギEIGCMDが大きいほど、目標点火エネルギEIGCMDが確保されるように通電時間TELCを増加させることによって、放電期間PDCHを無段階に増加させることを特徴とする。
この構成によれば、目標点火エネルギが所定の第2しきい値(>第1しきい値)よりも大きいときには、通電電圧を最大電圧に保持し、放電回数を最大回数に保持するとともに、目標点火エネルギが確保されるように通電時間を増加させることによって、放電期間を無段階に増加させる。これにより、目標点火エネルギが大きい場合においても、点火エネルギの要求を満たしながら、放電期間を最適な所定期間に可能な限り近い値に制御することによって、高い燃焼性を維持することができる。
請求項8に係る発明は、請求項7に記載の内燃機関3の点火制御装置において、第2しきい値EIGREF2は、通電電圧VELCが最大電圧VELCMAXに設定され、放電回数NDCHが最大回数NDCHMAXに設定され、かつ通電時間TELCが所定時間に設定されているときに、点火装置5から供給される点火エネルギであることを特徴とする。
この構成によれば、第2しきい値は、通電電圧=最大電圧、放電回数=最大回数で、通電時間=所定時間のときに点火装置から供給される点火エネルギに設定されている。したがって、目標点火エネルギが、第1しきい値よりも大きく、第2しきい値以下のときに、通電電圧を最大電圧に保持し、放電回数及び通電時間を可変制御する、前述した請求項5による放電期間漸増制御を支障なく行えるとともに、目標点火エネルギが第2しきいよりも大きい場合の請求項6による放電期間漸増制御を、目標点火エネルギの増加に応じ、所定時間を初期値として通電時間を増加させることによって、円滑に行うことができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明を適用した内燃機関(以下「エンジン」という)3を示す。このエンジン3は、車両(図示せず)に搭載された、例えば4気筒のガソリンエンジンである。各気筒3a(1つのみ図示)のピストン3bとシリンダヘッド3cとの間には、燃焼室3dが形成されている。
各気筒3aには、吸気ポート6aと、吸気コレクタ部6bを有する吸気マニホルド6cを介して、吸気通路6が接続されるとともに、排気ポート7aと、排気コレクタ部7bを有する排気マニホルド7cを介して、排気通路7が接続されている。吸気ポート6a及び排気ポート7aにはそれぞれ、吸気弁8及び排気弁9が設けられている。
また、各気筒3aには、吸気ポート6aに向かって燃料を噴射する燃料噴射弁4(図4参照)が設けられている。燃料噴射弁4から噴射された燃料は、吸気通路6を介して供給される空気(新気)とともに気筒3aに吸入され、それにより、燃焼室3d内に混合気が生成される。
さらに、各気筒3aには、燃焼室3d内の混合気を点火するための点火装置5が設けられている。図2に示すように、点火装置5は、第1及び第2点火コイル31A、31Bから成る一対の点火コイル31と、燃焼室3dに臨む1つの点火プラグ32を有している。第1及び第2点火コイル31A、31Bとそれらに接続された回路の構成は、互いに同じである。
各点火コイル31は、1次コイル33及び2次コイル34で構成されている。1次コイル33の一端部は、コンデンサ35と、DC−DCコンバータで構成されたコンバータ36を介して、直流電源であるバッテリ37に接続され、他端部は、スイッチ素子38を介してアースされている。
コンバータ36及びコンデンサ35は、バッテリ37と1次コイル33の間に並列に接続されている。バッテリ37の電圧は、コンバータ36で昇圧された後、コンデンサ35に出力され、それにより、コンデンサ35が充電される。コンバータ36による昇圧電圧は、ECU2からの制御信号S1によって制御される。
スイッチ素子38は、トランジスタやMOS−FETなどで構成されており、そのオン/オフは、ECU2からの通電信号S2によって制御される。また、点火コイル31の2次コイル34の一端部はアースされ、他端部は、点火プラグ32に接続されている。
以上の構成により、スイッチ素子38がオンされると、コンデンサ35に蓄えられた電荷が点火コイル31の1次コイル33に流れることで、1次コイル33が通電される。その後、スイッチ素子38がオフされると、1次コイル33の通電が遮断されることによって、1次コイル33に放電電流が流れる。この放電電流によって2次コイル34に誘起された高電圧が点火プラグ32から火花放電され、混合気が点火される。
図3に示すように、上述した1次コイル33の通電及び点火プラグ32の放電は、第1及び第2点火コイル31A、31Bによって、互い違いのタイミングで、繰り返し行われる。これにより、点火プラグ32の放電を、その放電電流が途切れなく連続した状態で、1つの燃焼サイクル中に複数回(例えば最大15回)行うことが可能である。
この場合、最初の放電の開始時から最後の放電の終了時(放電電流の収束時)までの放電期間PDCHは、1次コイル33の1回当たりの通電時間TELCと、点火プラグ32の放電回数NDCHに応じて定まる。また、放電によって供給される点火エネルギEIGは、上記の2つのパラメータに加え、コンバータ36で昇圧され、1次コイル33に通電される電圧(以下「通電電圧」という)VELCに応じて定まり、これらの3つのパラメータは、ECU2によって制御される。
図1に戻り、吸気通路6の吸気コレクタ部6bよりも上流側には、スロットル弁機構10が設けられている。このスロットル弁機構10は、吸気通路6内に配置された回動自在のスロットル弁10aと、スロットル弁10aを駆動するTHアクチュエータ10bを有する。スロットル弁10aの開度は、THアクチュエータ10bに供給される電流をECU2で制御することによって制御され、それにより、燃焼室3dに吸入される吸気量(新気量)が調整される。
また、エンジン3には、燃焼室3dから排気通路7に排出された排ガスの一部を、EGRガスとして、吸気通路6に還流させるためのEGR装置11が設けられている。EGR装置11は、EGR通路12と、EGR通路12の途中に設けられたEGR弁機構13及びEGRクーラ14などで構成されている。EGR通路12は、排気通路7の排気コレクタ部7bと吸気通路6の吸気コレクタ部6bに接続されている。
EGR弁機構13は、EGR通路12内に配置されたEGR弁13aと、EGR弁13aを駆動するEGRアクチュエータ13bを有する。EGR弁13aのリフト量は、EGRアクチュエータ13bに供給される電流をECU2で制御することによって制御され、それにより、吸気通路6に還流するEGR量GEGRが調整される。
エンジン3のクランクシャフトには、クランク角センサ20が設けられている(図4参照)。クランク角センサ20は、クランクシャフトの回転に伴い、所定のクランク角(例えば30°)ごとに、パルス信号であるCRK信号をECU2に出力する。ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。また、図4に示すように、ECU2には、アクセル開度センサ21から、車両のアクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が入力される。
さらに、吸気通路6のスロットル弁10aよりも上流側には、大気圧センサ22及び吸気温センサ23が設けられている。大気圧センサ22は大気圧PAを検出し、吸気温センサ23は吸気通路6を流れる吸気の温度TAを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。また、エンジン3のシリンダブロック3eには、エンジン3の冷却水の温度TWを検出する水温センサ24が設けられており、その検出信号はECU2に出力される。
ECU2は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などから成るマイクロコンピュータで構成されている。ECU2は、前述した各種のセンサ20〜24の検出信号などに応じて、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、エンジン3の吸気量、EGR量、燃料噴射量及び点火動作などを制御するエンジン制御を実行する。本実施形態では、ECU2が、目標点火エネルギ設定手段、及び点火制御手段に相当する。
次に、図6を参照しながら、ECU2で実行される、エンジン3の点火制御処理について説明する。本処理は、点火装置5の通電電圧VELC、通電時間TELC及び放電回数NDCHを設定し、点火装置5を制御するものであり、所定の周期(例えば1秒)で繰り返し実行される。
本処理ではまず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、検出されたアクセル開度AP及びエンジン回転数NEに応じ、所定のマップ(図示せず)を検索することによって、エンジン3の要求トルクTRQCMDを算出する。このマップでは、要求トルクTRQCMDは、アクセル開度APにほぼ比例するように設定されている。
次に、算出された要求トルクTRQCMD及びエンジン回転数NEに応じ、それぞれの所定のマップ(図示せず)を検索することなどによって、目標吸気量GAIRCMD及び目標EGR量GEGRCMDを算出する(ステップ2)。
また、要求トルクTRQCMD及びエンジン回転数NEに応じ、それぞれの所定のマップ(図示せず)を検索することなどによって、燃料噴射量GFUEL及び点火時期IGを算出する(ステップ3)。
次に、点火装置5の目標点火エネルギEIGCMDを算出する(ステップ4)。この目標点火エネルギEIGCMDの算出は、例えば次のようにして行われる。まず、エンジン回転数NE、目標吸気量GAIRCMD及び目標EGR量GEGRCMDに応じ、所定の三次元マップを検索することによって、目標点火エネルギEIGCMDの基本値EIGBASEを算出する。図示しないが、この三次元マップでは、基本値EIGBASEは、エンジン回転数NEが高いほど、目標吸気量GAIRCMDが大きいほど、また目標EGR量GEGRCMDが大きいほど、点火に必要な電気エネルギが大きくなるため、より大きな値に設定されている。
そして、算出した基本値EIGBASEを点火時期IGに応じて補正することによって、目標点火エネルギEIGCMDを算出する。この場合、点火時期IGが進角側にあるほど、点火に必要な電気エネルギが大きくなるため、目標点火エネルギEIGCMDはより大きな値に補正される。
次に、エンジン回転数NEが所定回転数NEREFよりも小さいか否かを判別する(ステップ5)。この答がNOのときには、エンジン3が高回転状態にあるとして、後述する高回転時用の点火制御を実行し(ステップ6)、本処理を終了する。一方、ステップ5の答がYESのときには、エンジン3が低回転状態にあるとして、後述する低回転時用の点火制御を実行し(ステップ7)、本処理を終了する。
次に、図7を参照しながら、上記ステップ6で実行される高回転時用の点火制御処理について説明する。本処理では、通電時間TELCを所定の最大時間TELCMAXに設定する(ステップ11)とともに、通電電圧VELCを所定の最小電圧VELCMINに設定する(ステップ12)。
次に、図6のステップ4で設定された目標点火エネルギEIGCMDが、所定値EIGREF以下であるか否を判別する(ステップ13)。この答がYESで、目標点火エネルギEIGCMDが比較的小さいときには、放電回数NDCHを1回に設定し(ステップ14)、本処理を終了する。一方、ステップ13の答がNOで、目標点火エネルギEIGCMDが比較的大きいときには、放電回数NDCHを2回に設定し(ステップ15)、本処理を終了する。
以上のように、高回転時用の点火制御では、放電回数NDCHは、目標点火エネルギEIGCMDに応じて、1回又は2回という小さな回数に設定される。これは、エンジン3が高回転状態にあることから、放電期間が大きく制限されるためである。
次に、図8を参照しながら、図6のステップ7で実行される低回転時用の点火制御処理について説明する。本処理では、目標点火エネルギEIGCMDに応じ、図9に示すマップを用いて、点火コイル31の通電電圧VELC、通電時間TELC及び点火プラグ32の放電回数NDCHが設定される。
本処理ではまず、ステップ21において、目標点火エネルギEIGCMDが所定の第1しきい値NIGREF1以下であるか否かを判別する。この第1しきい値NIGREF1は、通電時間TELCが所定の最小時間TELCMINに設定され、放電回数NDCHが所定回数NDCHREFに設定され、かつ通電電圧VELCが所定の最大電圧VELCMAXに設定されているときに、点火装置5から供給される点火エネルギに設定されている。
上記ステップ21の答がYESで、目標点火エネルギEIGCMDが、第1しきい値NIGREF1以下である第1領域にあるときには、これに相当する図9のマップの部分を用いて、上記3つのパラメータを設定する。具体的には、通電時間TELCを最小時間TELCMINに設定する(ステップ22)とともに、放電回数NDCHを所定回数NDCHREFに設定する(ステップ23)。また、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、通電電圧VELCを最小電圧VELCMINから漸増するように設定し(ステップ24)、本処理を終了する。
以上のように、目標点火エネルギEIGCMDが第1領域にあるときには、放電期間PDCHに影響を及ぼさない通電電圧TELCを、目標点火エネルギEIGCMDが確保されるように可変制御する一方、放電期間PDCHに影響を及ぼす通電時間TELC及び放電回数NDCHについては、それぞれの所定値に保持する。これにより、点火エネルギの要求を満たしながら、図9(a)に示すように、放電期間PDCHを所定の最適期間PDCHOPTに精度良く保持でき、したがって、最良のエネルギ効率で混合気の燃焼性を確保することができる。
また、第1しきい値NIGREF1が上述したように設定されているので、通電電圧VELCを目標点火エネルギEIGCMDに応じて増加させる、第1領域における制御を、最大電圧VELCMAXまで行うことができ、それによる利点を最大限に得ることができる。
前記ステップ21の答がNOのときには、目標点火エネルギEIGCMDが、第1しきい値NIGREF1よりも大きな所定の第2しきい値NIGREF2以下であるか否かを判別する(ステップ25)。この第2しきい値NIGREF2は、通電電圧VELCが所定の最大電圧VELCMAXに設定され、放電回数NDCHが所定の最大回数NDCHMAXに設定され、かつ通電時間TELCが最小時間TELCMINに設定されているときに、点火装置5から供給される点火エネルギに設定されている。
上記ステップ25の答がYESで、目標点火エネルギEIGCMDが、第1しきい値NIGREF1よりも大きく、第2しきい値NIGREF2以下である第2領域にあるときには、これに相当する図9のマップの部分を用いて、3つのパラメータを設定する。具体的には、通電時間TELCを、第1領域の場合と同様、最小時間TELMINに設定する(ステップ26)とともに、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、放電回数NDCHを、所定回数NDCHREFから段階的に増加するように設定する(ステップ27)。また、通電電圧VELCを最大電圧VELCMAXIに設定し(ステップ28)、本処理を終了する。
以上のように、目標点火エネルギEIGCMDが第2領域にあるときには、通電時間TELCを最小時間TELMINに保持し、通電電圧VELCを最大電圧VELCMAXIに保持する一方、放電回数NDCHを、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、所定回数NDCHREFから段階的に増加させる。これにより、点火エネルギの要求を満たしながら、図9(a)に示すように、放電期間PDCHを最適期間PDCHOPTに比較的近い値に制御することによって、高い燃焼性を維持することができる。また、第2しきい値NIGREF2が上述したように設定されているので、第2領域における制御を支障なく行うことができる。
また、前記ステップ25の答がNOで、目標点火エネルギEIGCMDが第2しきい値NIGREF2よりも大きな第3領域にあるときには、これに相当する図9のマップの部分を用いて、3つのパラメータを設定する。具体的には、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、通電時間TELCを、最小時間TELMINから線形に増加するように設定する(ステップ29)。また、放電回数NDCHを最大回数NDCHMAXに設定する(ステップ30)とともに、通電電圧VELCを、第2領域の場合と同様、最大電圧VELCMAXに設定し(ステップ31)、本処理を終了する。
以上のように、目標点火エネルギEIGCMDが第3領域にあるときには、通電電圧VELCを最大電圧VELCMAXに保持し、放電回数NDCHを最大回数NDCHMAXに保持する一方、通電時間TELCを、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、最小時間TELMINから線形に増加させる。これにより、点火エネルギの要求を満たしながら、図9(a)に示すように、放電期間PDCHを無段階に増加させ、最適期間PDCHOPTに比較的近い値にすることによって、高い燃焼性を維持することができる。また、第2しきい値NIGREF2が上述したように設定されているので、目標点火エネルギEIGCMDの増加に応じ、最小時間TELCMINを初期値として通電時間TELCを増加させることによって、第3領域における制御を円滑に行うことができる。
上述した第1実施形態では、目標点火エネルギEIGCMDが中間の第2領域にあるときには、通電時間TELC及び通電電圧VELCを一定値に保持し、目標点火エネルギEIGCMDの増加に対して、放電回数NDCHが段階的に増加される。このため、目標点火エネルギEIGCMDに対する点火エネルギの無駄が生じる(図9(c)のハッチング部)。また、放電回数NDCHの段階的な増加に伴って放電期間PDCHも段階的に増加するため、エネルギ効率の無駄が生じる(図9(a)のハッチング部)。以下に説明する第2実施形態は、このような点火エネルギとエネルギ効率の無駄を除去するものである。
図10及び図11に示すように、第2実施形態は、第1実施形態と比較し、図10のステップ26A及び27Aの実行内容、すなわち図11のマップの第2領域における通電時間TELC及び放電回数NDCHの設定が異なるものである。
具体的には、このマップでは、通電時間TELC及び放電回数NDCHが以下のように設定されている。目標点火エネルギEIGCMDが第2領域のうちの第1領域に近い部分にあるときには、放電回数NDCHは、第1領域の場合と同様、所定回数NDCHREFに設定され、通電時間TELCは、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、最小時間TELMINから線形に増加する。これに伴い、点火エネルギが増加するとともに、放電期間PDCHは、最適期間PDCHOPTから無段階に増加する。
また、目標点火エネルギEIGCMDが所定の第1切替値EIGSW1に等しいときに、放電回数NDCHが所定回数NDCHREFから1回、増加するとともに、通電時間TELCは最小時間TELMINにリセットされる。この第1切替値EIGSW1から目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、通電時間TELCは最小時間TELMINから線形に増加する。これに伴い、放電期間PDCHは無段階に増加する。さらに、目標点火エネルギEIGCMDが所定の第2切替値EIGSW2に等しいときに、放電回数NDCHが1回、増加し、通電時間TELCは再び最小時間TELMINにリセットされる。その後は、目標点火エネルギEIGCMDが増加するにつれて、通電時間TELCが最小時間TELMINから線形に増加し、それに伴い、放電期間PDCHは無段階に増加する。
また、上記の第1及び第2切替値EIGSW1、EIGSW2は、以下のように設定されている。図12は、通電時間TELCと放電期間PDCHの関係を、放電回数NDCHがn回とn+1回の場合について示したものである。通電時間TELCが最小時間TELCMINから増加するにつれて、放電期間PDCHは、NDCH=nのときには、初期値PIN(n)から増加し、NDCH=n+1のときには、より大きな初期値PIN(n+1)から増加する。
同図に示すように、この初期値PIN(n+1)に等しい放電時間PDCHが得られる、NDCH=nのときの通電時間TELCの値が、通電時間の切替値TSWn(TSW1、TSW2)として設定され、この切替値TSWnに対応する点火エネルギに相当する値が、目標点火エネルギの切替値EIGSWnとして設定されている(図11参照)。
以上のように第1及び第2切替値EIGSW1、EIGSW2が設定されるとともに、前述したように、目標点火エネルギEIGCMDがこれらの切替値EIGSW1,2に達したときにはそれぞれ、放電回数NDCHが1回、増加され、通電時間TELCが最小時間TELMINにリセットされる。その結果、放電期間PDCHは、このような放電回数NDCH及び通電時間TELCの切替の前後においても段差なく連続し、したがって、第2領域の全体にわたり、目標点火エネルギEIGCMDに対して無段階に増加する。
以上のように、本実施形態によれば、目標点火エネルギEIGCMDが第2領域にあるときに、点火エネルギの要求を過不足なく満たしながら、目標点火エネルギEIGCMDの第2領域の全体にわたって、放電期間PDCHを無段階に増加させることができる。これにより、第1実施形態における点火エネルギとその効率の無駄を除去でき、エネルギ効率をさらに高めることができる。
また、第1及び第2切替値EIGSW1,2が前述したように設定される結果、その前後における放電期間PDCHの連続性を保つことが可能な条件において最も早く、放電回数NDCHが増加される。一方、図13に示すように、放電期間PDCHが同一の条件では、放電回数NDCHが少ない場合には、同図に矢印Aで示すような放電電流の落ち込みが生じやすく、それに起因する混合気の燃焼の吹き消えが発生するなど、燃焼性が低下しやすいことから、放電回数NDCHはより多いことが好ましい。したがって、上述した切替により、放電回数NDCHを最も早く増加させることによって、より良好な燃焼性を得ることができる。
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態に示した点火装置5は、一対の点火コイル31A、31Bを有するタイプのものであるが、これに限らず、本発明は、単一の点火コイルを有する点火装置にも適用できる。このタイプの点火装置では、点火プラグの放電は、点火コイルの通電と交互に、間欠的に行われる。その場合、点火装置の放電期間は、放電の休止時間を含む、最初の放電の開始時から最後の放電の終了時までの時間として定義され、そのように定義された放電期間についても、最良の燃焼性が得られる最適な放電期間が存在することが確認されている。
また、実施形態では、通電時間TELCの所定時間として、その最小時間TELCMINを用いているが、適当な他の時間を用いてもよい。さらに、第2実施形態で示した、第1及び第2切替値EIGSW1、EIGSW2の設定手法は、あくまで例示であり、その切替の前後で放電期間PDCHが連続する限り、他の設定手法を採用できる。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。