JP2014083293A - 内視鏡挿入部、内視鏡、及び曲げ剛性プロファイル補正具 - Google Patents

内視鏡挿入部、内視鏡、及び曲げ剛性プロファイル補正具 Download PDF

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Abstract

【課題】押込み力が小さく、座屈も起こりにくい内視鏡を提供する。
【解決手段】内視鏡の挿入部を、先端硬性部、湾曲部、軟性部から構成する。軟性部を、湾曲部との境界からの距離に応じて曲げ剛性が指数関数状に増加する曲げ剛性プロファイルPFにする。内視鏡の操作部を体腔内に挿入する際に、押込み力が小さく、座屈も起こりにくくなる。これにより、体腔内への挿入部の挿入時の操作性が向上する。所望とする体腔の奥部に迅速に内視鏡先端を送ることができ、術者及び患者の負担が軽減する。
【選択図】図5

Description

本発明は、内視鏡挿入部、内視鏡、及び曲げ剛性プロファイル補正具に関する。
医療用内視鏡の体腔への挿入部は、管状部材の内部に、例えば、ライトガイド、信号ケーブル、ワイヤ、チューブ類等が配され挿通されている。この管状部材の全長の大部分は、弾力性(可撓性)を有する内視鏡用可撓管で構成される。この可撓管の先端には、湾曲部、それに続いて先端硬性部が接続されている。湾曲部は、操作部から可撓管の内部に配されたワイヤを介して湾曲方向を操作することができる。これにより、先端硬性部を所望の方向に向けることができ、患部の観察や処置が可能になる。
内視鏡検査では、内視鏡の挿入部を例えば、胃、十二指腸、小腸あるいは大腸といった体腔の深部まで挿入する。この際に、可撓管は、曲がった体腔に沿って挿入されるため、この挿入の操作性の良否は、可撓管の弾力性に大きく依存する。
可撓管の先端から基端までを、先端部、中間部及び手元部と大きく3つに分けて、各部位の弾力性を考察すると以下のようになる。弾力性は例えば曲げ剛性に依存するので、曲げ剛性を基準に考えると、先端部は曲げ剛性が低く十分に軟らかいものが、挿入の操作性が良く好ましい。これにより、体内の深部の湾曲が急な管腔に追従して円滑に前進することができる。また、手元部は、曲げ剛性が比較的高いのが好ましい。これにより、押し込み力や捩じり(回転)を加えやすくなる。そして、中間部は、先端部と手元部との中間の適度な曲げ剛性とするのが好ましい。これにより、手元部で加えられた押し込み力や回転が先端部に確実に伝達され、しかも、患者に苦痛を感じさせないようにすることができる。
このような観点から、挿入の操作性の向上を目的として、挿入部の長手方向に沿って可撓性が変化するように構成した内視鏡用可撓管が提案されている。例えば、特許文献1では、可撓管を先端部、中間部、手元部の三つに分け、先端部では、可撓性変化率(曲げ剛性変化率)を1.2倍から2.5倍の範囲で増加するようにし、中間部では1倍から1.4倍の範囲で増加するようにし、手元部では1倍から1.5倍の範囲で増加するように設定した曲げ剛性プロファイル(軸方向の曲げ剛性の分布図)を用いている。
特開2002−552号公報
しかしながら、特許文献1のように、曲げ剛性変化率を規定しても、でき上がった可撓管を使用した上での操作性を検証して、より満足の行く可撓管を作り上げていく必要がある。
例えば、先端部の柔軟性が高いものは、中間部が軟らかくなり過ぎて、手元部からの押し込み力や捩じりが先端まで確実に伝わらないという欠点があり、押し込み性、トルク伝達性が良くない。反対に、中間部に十分な剛性があるものは、先端部の剛性も強くなる傾向にあり、先端部が湾曲した管腔に沿って十分小さな曲率半径で曲がることができないものとなっていた。このため、挿入の操作に手間取って検査時間が長引いてしまい、その分だけ、患者の負担や苦痛が大きくなるという弊害もあった。
このように、結局のところは試行錯誤の繰り返しにより、操作性の良い挿入部を製造していく他はなく、新たな理論に裏打ちされた斬新な設計法が望まれていた。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試行錯誤による可撓管の長さ方向での曲げ剛性プロファイルの規定方法ではなく、新たな設計の観点に立った理想的な曲げ剛性プロファイルを有する内視鏡挿入部、内視鏡、及び曲げ剛性プロファイル補正具を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の内視鏡挿入部は、先端から基端に向かって順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する内視鏡挿入部において、軟性部は、湾曲部との境界から基端へ向けての距離に応じて曲げ剛性が指数関数状に変化する領域を有することを特徴とする。
なお、距離をsとし、曲げ剛性をE(s)とするときに、E0・exp(0.5s)≦E(s)≦E0・exp(2s)の範囲内とすることが好ましい。また、先端硬性部の先端から前記曲げ剛性が変化する領域の終端までの長さが800mm以上あることが好ましい。800mm以上あれば、大腸鏡として使用する場合に、目標とする盲腸へ到達させることができるからである。
境界における曲げ剛性E(0)は、間隔100mmの3点曲げ試験機における中点で中心軸に直交する方向に12mm押し込んだ状態の反力が5N以上15N以下であることが好ましい。
曲げ剛性は、軟性部を構成する可撓管とこの可撓管に内蔵される内蔵物とを含む全体の曲げ剛性であることが好ましい。また、曲げ剛性は、軟性部を構成する可撓管と、この可撓管に内蔵される内蔵物と、可撓管内に挿入され、曲げ剛性を指数関数状に変化する領域とするために挿入される曲げ剛性補正具とを含む全体の曲げ剛性であることが好ましい。
本発明の内視鏡は、上記の内視鏡挿入部と、この挿入部が接続される手元操作部とを備えることを特徴とする。
本発明の内視鏡は、体腔内に挿入され、先端から順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する挿入部と、この挿入部が接続される手元操作部と、この手元操作部の処置具挿入口から挿入部の先端の処置具出口に連通する処置具挿通チャンネルと、処置具挿通チャンネルに挿入され、軟性部を湾曲部との境界からの距離に応じて曲げ剛性を指数関数状に変化させる領域を形成する曲げ剛性プロファイル補正具とを備えることを特徴とする。
本発明の曲げ剛性プロファイル補正具は、体腔内に挿入され、先端から順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する挿入部と、この挿入部が接続される手元操作部と、この手元操作部の処置具挿入口から挿入部の先端の処置具出口に連通する処置具挿通チャンネルとを有する内視鏡に用いられ、処置具挿通チャンネルに挿入され、軟性部を湾曲部との境界からの距離に応じて曲げ剛性を指数関数状に変化させる領域を有するものにすることを特徴とする。
本発明によれば、曲げ剛性が指数関数状に変化する領域を有することにより、軟性部の柔軟性を確保しつつ座屈の発生を抑えることができ、内視鏡挿入部の挿入時の操作性が向上する。
本発明の内視鏡を有する内視鏡システムの概略を示す斜視図である。 軟性部による大腸内での座屈の発生と垂直抗力及び摩擦抵抗の発生を示す断面図である。 湾曲管路内に軟性部を押し込む時の軟性部の状態を示す正面図である。 軟性部の座屈条件を説明するための正面図である。 本発明の曲げ剛性プロファイルの一実施形態を示すグラフである。 軟性部を示す断面図である。 曲げ剛性測定機を示す正面図である。 理想とする曲げ剛性プロファイルと、実際の曲げ剛性プロファイルと、これらの差分から求められる曲げ剛性差分と、曲げ剛性プロファイル補正具の曲げ剛性プロファイルとを示すグラフである。 曲げ剛性プロファイル補正具を処置具挿通チャンネルに挿入して使用する実施形態を示す正面図である。 曲げ剛性プロファイル補正具を軟性部に配して使用する実施形態を示す正面図である。
図1に示すように、本発明の内視鏡挿入部10を有する内視鏡システム11は、内視鏡12、プロセッサ装置13、光源装置14を有する。内視鏡12は、挿入部10、手元操作部17、コネクタ18a、ユニバーサルコード18を有する。挿入部10は、患者の体腔、例えば大腸に挿入される。
挿入部10は、先端から順に、先端硬性部20、湾曲部21、及び軟性部22に区分けされている。先端硬性部20の先端面には、図示は省略したが、処置具出口、観察窓、照明窓、送気送水ノズルが設けられる。また、必要に応じて、ウォータジェット噴き出し口やその他のノズルなどが設けられる。先端硬性部20内には、観察窓に対応する位置でカメラモジュール26が、照明窓に対応する位置にはライトガイド(光ファイババンドル)が配されている。
湾曲部21は周知のように、複数の節輪をピンにより回転自在に連結して構成されている。各節輪には、周方向に4分割した位置にワイヤ挿通孔部が形成されている。このワイヤ挿通孔部にはワイヤが通される。これら4本のワイヤが手元操作部17のアングルノブ25の回転操作により引っ張られることにより、任意の方向に任意の角度で湾曲部21全体が湾曲する。これにより、先端硬性部20の先端面を体腔内の所望の方向に向けることができ、体腔内の観察部位をカメラモジュール26で撮像することができる。
軟性部22は、手元操作部17と湾曲部21との間を細径で長尺状に繋ぐ部分であり、可撓性がある可撓管41を有する。
手元操作部17は、アングルノブ25の外に、送気送水ボタン27、吸引ボタン28、レリーズボタン29、ズーム操作用のシーソースイッチ30などの各種操作部材を備えている。送気送水ボタン27は、押圧操作によって送気送水ノズルからエアーまたは水を噴出させる。吸引ボタン28は、押圧操作によって、体内の液体や組織等の被吸引物を処置具出口から吸引する。レリーズボタン29は、押圧操作によってカメラモジュール26により観察画像を静止画記録する。シーソースイッチ30は、カメラモジュール26の撮影レンズの焦点距離を調節し、標準及び拡大撮影に切り換える。
プロセッサ装置13は、光源装置14と電気的に接続され、内視鏡システム11の動作を統括的に制御する。プロセッサ装置13は、ユニバーサルコード18や挿入部10内に挿通された信号ケーブルを介して内視鏡12に給電を行い、先端硬性部20のカメラモジュール26の駆動を制御する。また、プロセッサ装置13は、信号ケーブルを介してカメラモジュール26からの信号を受信し、各種処理を施して画像データを生成する。プロセッサ装置13にはモニタ31が接続されている。モニタ31は、プロセッサ装置13からの画像データに基づき観察画像を表示する。光源装置14はライトガイドを介して照明窓から照明光を照射する。
挿入部10は、腸の形状に沿って例えば肛門から盲腸まで挿入される。その際、術者は患者の体の外に出ている軟性部22の根元の部分を把持し、先端部に向かって押し込むことで、軟性部22に推進力を発生させる。このとき、押し込み力を小さくすることができれば、以下のメリットがある。例えば、術者側からみると、押し込み力が小さくて済むため、術者の身体的負担が軽くなる。また、操作性が向上し細かい操作が可能になる。患者側からみると、内視鏡から受ける負担が小さいため、痛みを感じることが少なく、腸への穿孔のリスクも抑えることができる。
上記押し込み力は、腸と挿入部との間で発生する力学的な関係に依存する。ここで、内視鏡側の構成要素として、力学的な関係に関与するのは、表面の状態と、曲げ剛性のプロファイルである。表面の状態は、摩擦抵抗が少なければ少ないほど良いので、本発明においては、最適な曲げ剛性のプロファイルについて考察する。
従来の内視鏡用軟性部では、先端部は急な曲がりの管腔に追随して円滑に動作するように、軟らかくしている。また、操作部側は、押し込み力や捩じりを加えやすいように、硬くしている。また、特許文献1では、内視鏡用可撓管を先端部、中間部、手元部に三等分し、先端部では、可撓性変化率(曲げ剛性変化率)を1.2倍から2.5倍の範囲で増加するようにし、中間部では1倍から1.4倍の範囲で増加するようにし、手元部では1倍から1.5倍の範囲で増加するように設定した曲げ剛性プロファイルを用いている。
このように、特許文献1を始めとする従来のものは、結局のところ、曲げ剛性プロファイルと操作力との関係が明確ではなく、評価も官能的な段階に留まっており、操作力の最適化にまで至っていないのが現状である。
軟性部22の摩擦抵抗だけを考慮すると、計算上は内視鏡の軟性部22は軟らかければ軟らかいほどよい。しかしながら、軟性部22は軸方向に圧縮荷重をかけて推進させる必要から、曲げ剛性が低すぎると、図2に示すように、座屈が発生するという問題がある。
図2は、大腸40における軟性部22の座屈の発生と、その時の垂直抗力Nと摩擦抵抗μNとの関係を図示したものである。軟性部22に座屈が発生すると、押込み力Tが壁面40aの垂直抗力Nに変換されてしまい、結果的に座屈発生部位の摩擦抵抗μNが増大し、押込み力Tを相殺してしまう。このため、先端に必要な推進力を伝達することができないばかりか、垂直抗力Nが押込み力Tに応じていくらでも増大し、最悪の場合には穿孔に至る危険性がある。なお、Toは反力を示している。したがって、軟性部22は座屈が発生しない十分な曲げ剛性が要求される。具体的には、軟性部22の各部位で曲げ剛性に関しては以下の要求を満たす必要がある。
A.摩擦抵抗μNの低減のためには、曲げ剛性は低くなければならない。これは軟性部22が曲がった時に垂直抗力Nが作用し、摩擦抵抗μNが大きくなるからである。
B.座屈防止の観点からは、曲げ剛性は高くなければならない。
このように一方の目的である摩擦抵抗μNを考慮すると曲げ剛性は低くなければならず、また、他方の目的である座屈の防止を考慮すると曲げ剛性は高くなければならないという曲げ剛性に対して相反する要求がある。Aに関しては、曲げ剛性が低ければ低いほど良い。これに対して、Bは座屈現象の発生を抑えるために閾値を超えなければ良い。これらを満足させるためには、先端側から発生し得る最大の反力Toに対して、座屈が発生しない限界まで曲げ剛性を下げることが最適な条件であることが判る。
軟性部22の先端部に関しては軟らかければ軟らかいほど良いが、内視鏡12は内部に処置具挿通チャンネルや、送気送水チューブ、湾曲のための駆動ワイヤなどを内蔵しており、これらによる曲げ剛性も作用している。また、可撓管41の外皮そのものに関しても、一定以上の膜厚が必要であることと、極端に軟らかい材料を用いると、表面がタック性を有するようになり、実用に適さなくなるという問題があることなどから、外皮も一定の曲げ剛性を持たざるを得ない。
次に、押込み力Tを作用させて、軟性部22を腸に挿入する場合について考える。従来の特許文献においては、曲げ剛性が直線的に変化することが前提とされているものが多い。この場合における曲げ剛性と摺動抵抗の関係を定式化する。前提として、図3に示すように、挿入経路(管路)の曲率半径Rを一定とする。また、曲がり部入口0から曲がり部出口lまでを定式化する。さらに、曲げ部で曲げ剛性はリニアに変化すると仮定して計算する。
押込み抵抗は以下の式で表される。
Figure 2014083293
T:軟性部22に作用する軸方向圧縮荷重(N)
μ:軟性部22と管路間の摩擦係数
R:管路曲率半径(m)
E(s)I:曲がり部入口0を起点とする距離sにおける軟性部22の曲げ剛性(N・m
ここで、該当部位で曲げ剛性がリニアに変化していると仮定すると、E(s)は以下のように表される。
Figure 2014083293
l:曲がり部の長さ(m)
:距離lにおける弾性率(Pa)
:距離0における弾性率(Pa)
(1)式に(2)式を代入すると、下記(3)式が得られる。
Figure 2014083293
この際、Tは式(3)における斉次一般解Tと特解Tの和として下記(4)式のように表される。
Figure 2014083293
斉次一般解Tは下記(5)式のように表される。
Figure 2014083293
特解Tの一般解として、以下の一次式(6)が考えられる。
Figure 2014083293
式(6)を式(3)に代入し、a,bを求めると、下記(7),(8)式のようになる。
Figure 2014083293
Figure 2014083293
式(7),(8)を式(6)に代入すると、Tは下記(9)式のように表される。
Figure 2014083293
式(4),(5),(9)により、Tの一般解は下記(10)式のようになる。
Figure 2014083293
s=0でT=Tとすると、Aは下記(11)式のように表される。
Figure 2014083293
式(11)を式(10)に代入することで、押込み力Tは下記(12)式のように表される。
Figure 2014083293
ここでE=E=0とした場合、押込み力Tは下記(13)式のようになる。
Figure 2014083293
=Eとした場合、押込み力Tは下記(14)式のようになる。
Figure 2014083293
したがって、押込み力Tは下記(15)式のように表すことができる。
Figure 2014083293
ここで、Tは剛性以外の影響による押込み力であり、下記(16)式のようになる。
Figure 2014083293
は剛性が一定値の影響による押込み力であり、下記(17)式のようになる。
Figure 2014083293
は剛性変化の影響による押込み力であり、下記(18)式のようになる。
Figure 2014083293
上記(17),(18)により、曲げ剛性が高ければ高いほど、Tが増大することがわかる。
次に、曲げ剛性の限界条件について考察する。まず、座屈条件について説明し、次に座屈の限界条件を満足する曲げ剛性プロファイルについて説明する。
図4に示すように、軟性部22に押込み力Teとその反力Toが作用する時の座屈条件は下記(19)式のようになる。
T≧4πEI/l・・・(19)
曲げ剛性が一定の場合は、荷重が大きくなる根元側が座屈し易くなる。荷重が増えていくと、いつかは座屈が発生することになるが、先端の座屈は経路に沿って変形するだけであり、問題とならないと考えられる。したがって、先端と操作部側が同時に座屈する場合を座屈限界と考える。
この場合に、次の式(20)を満たせば、根元側より先に、先端側が屈曲することになる。軟性部22の長さの任意の二点で下記(20)式を満たすことができれば、根元側が先に座屈して先端に力が伝わらないということがなくなる。
Figure 2014083293
ここで、座屈の限界条件は下記(21)で表すことができる。
Figure 2014083293
次に、座屈限界条件を満足する曲げ剛性プロファイルについて考察する。軟性部22が一定の曲率半径Rの管路内にあるとして、曲げ剛性プロファイルをE(s)として、下記(22)式を仮定する。
Figure 2014083293
上記(22)式による仮定は座屈限界条件を満足する。座屈限界条件を満足するとは、前後方向で同時に座屈することである。そして、この式(22)からは、曲率半径Rが小さく、摩擦係数μが大きいほど大きな剛性変化率が必要であることが判る。そのため、腸内で想定される厳しい条件を設定すれば、十分対応可能であると考えられる。例えば、腸内では、腸壁を介した接触となり、流体湿潤状態になると仮定すると、μは約0.1である。そして、例えば曲率半径Rは通常使用範囲では100mm=0.1m程度と仮定すると、下記(23)式となる。
Figure 2014083293
この(23)式による曲げ剛性プロファイルを有する軟性部22とすることにより、押し込み性及びトルク伝達性がより優れたものとなる。図5に、この曲げ剛性プロファイルPFを示す。横軸は先端からの距離を示しており、縦軸は曲げ剛性EIを示している。このような曲げ剛性プロファイルPFを有する軟性部22とすることにより、軟性部22の長さ方向におけるバランスがより優れたものとなる。
なお、腸内使用環境に応じて、摩擦係数μ及び曲率半径Rを上記値から変えることが好ましい。例えば、軟性部には内視鏡処置時に潤滑剤が塗布されるので、摩擦係数μは0.1であり、曲率半径Rは腸の個体差を考慮すると、例えば50〜200mmである。これら数値を当てはめることにより、E・exp(0.5s)や、E・exp(2s)、さらにはこれらの中間値としてE(s)を設定しても、押し込み性及びトルク伝達性がより優れたものとなる。
図5に示すように、軟性部22の可撓管41は、芯材42と、その外周を被覆する外皮43とを有している。芯材42は、螺旋管45と、螺旋管45の外周を被覆する網状管(編組体)46とで構成され、全体としてチューブ状の長尺物として形成されている。この芯材42は、挿入部可撓管41を補強する効果を有する。なお、螺旋管45は必要に応じて2重、あるいは3重に設けてもよく、この場合にはさらに高い機械的強度が得られる。芯材42内には、例えば、ライトガイド、信号ケーブル、ワイヤ、チューブ類(図示せず)が配置され挿通される。
螺旋管45は、帯状材を均一な径で螺旋状に間隔をあけて巻いて形成したもので、ステンレス鋼、銅合金等が好ましく用いられる。網状管46は、金属製または非金属製の細線を複数並べたものを編組して形成されている。細線を構成する材料としては、例えば、ステンレス鋼、銅合金等が好ましく用いられる。
外皮43は、例えば内層51と、中間層52と、外層53とを有する積層体で構成されている。外皮43の全体の平均厚さは、特に限定されず、0.15〜0.9mmであるのが好ましく、0.3〜0.8mmであるのがより好ましい。外皮43の構成材料は、特に限定されないが、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等のフッ素系樹脂、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、フッ素系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが、好ましく用いられる。外層53の硬度は、内層51、中間層52に比べて高くしてある。
上記のような可撓管41に上記の曲げ剛性プロファイルPFを付与するには、外層53と、内層51または中間層52との厚み比率をその長さ方向で徐々に変える。さらには、これに代えてまたは加えて、各層51〜53の組成を長さ方向で徐々に変更する。このようにして、曲げ剛性プロファイルPFを指数関数状に形成する。
軟性部22の曲げ剛性は、可撓管41そのものばかりではなく、ライトガイド、信号ケーブル、ワイヤ、チューブ類などの内蔵物によるものもある。このため、予め実験などにより内蔵物が無い状態の可撓管41と、内蔵物が入った状態の可撓管41との両方の曲げ剛性を測定し、内蔵物による曲げ剛性の影響を測定しておく。これら内蔵物は軟性部22の長さ方向においては、その断面積や形成材料は略均一であるので、曲げ剛性は長さ方向においては変化することがなく、略均一である。したがって、これら内蔵物による曲げ剛性寄与分を予め除くようにして可撓管41の曲げ剛性プロファイルを決定する。これにより、内蔵物が入れられた組み立て後の軟性部22は、可撓管41と内蔵物とによる総合曲げ剛性が上記指数関数曲線で表されるプロファイルになる。
可撓管41の製造方法は、特に限定されないが、外皮43を芯材42に押出成形によって被覆することにより、連続的に製造することができる。複数の押出口を備えた押出成形機によれば内層51、中間層52及び外層53を同時に押出し、その積層体を芯材42に被覆することができる。なお、各押出口からの各層の構成材料の供給量(単位時間当たりの供給量)や芯材2の移動速度を調整することにより、各層の厚さを自由に調節することができる。
指数関数状の曲げ剛性プロファイルPFを付与するための可撓管41の構造は上記以外の構成でもよい。例えば、外皮43を単層で構成する場合において、その層の構成材料(組成)を長手方向に沿って変化させる。また、外皮43を積層体で構成する場合において、その少なくとも1層において、その層の構成材料(組成)を長手方向に沿って変える。外皮43を積層体で構成する場合において、その層数を長手方向に沿って変更する。例えば、先端部を単層、中間部を2層、手元部を3層とする。外皮43を物性の異なる2つ以上のチューブを接続して構成する。螺旋管45の肉厚あるいは螺旋ピッチを長手方向に沿って変化させる。さらには、以上のような構成、あるいは、これら以外の構成を複数組み合わせたものとする。
図7は曲げ剛性を測定するための測定機60である。測定機60は、可撓管保持部61と測定機本体62と測定機シフト部63とを有する。可撓管保持部61は、直線状に配置された4個の保持ロール65と、これらに対向する2個の保持ロール66とを有する。4個の保持ロール65は、測定対象である軟性部22の一方の側面を直線状に保持する。2個の保持ロール66は4個の保持ロール65により保持される側とは反対側の側面を保持する。4個の保持ロール65のうち、中央側に位置する2個の保持ロール65が、曲げ剛性の測定支点となり、これら測定支点の距離L1は例えば100mmである。
測定支点間の中心には、軟性部22の軸方向に垂直に軟性部22を押圧する測定機本体62が設けられる。測定機本体62は押付力、引張力、剥離力などを測定するプッシュプルゲージが用いられ、測定ロッド62aが軟性部22の中心軸に対して直交する方向から押し当てられる。測定機シフト部63は測定機本体62を軟性部22の中心軸に直交する方向にシフトさせて、軟性部22を押圧する。この押圧により、例えば可撓管41の撓み量B1が例えば12mmとなる位置の押圧力を測定し、これを曲げ剛性とする。
軟性部22の曲げ剛性プロファイルPFは、可撓管41の長さ方向に例えば100mmピッチで測定点を規定し、これら各測定点に測定機本体62の測定ロッド62aを位置させて、各測定点の曲げ剛性を測定する。そして、得られた曲げ剛性が指数関数曲線で規定されたプロファイルPF上に現れているか否かをチェックする。なお、測定点の間隔は短い方が精度良く曲げ剛性プロファイルPFをチェックすることができ、好ましい。なお、可撓管41の両端については、上記の測定機では測定することができないため、可撓管41の先端から例えば60mm離れた位置を第1測定点とすることが好ましい。また、第1測定点における上記測定機による曲げ剛性は5N以上15N以下であることが好ましい。曲げ剛性が5N未満では挿入部の座屈が生じ、15Nを超えると腸の穿孔のリスクが高くなり、共に好ましくない。
本実施形態では、上記のような指数関数で表された曲げ剛性プロファイルPFとすることにより、先端側から発生し得る最大の反力に対して座屈が発生しない限界まで曲げ剛性を下げた最適状態の軟性部22を提供することができる。したがって、内視鏡操作時の押し込み力を小さくすることができるので、術者にとっては、身体的負担が低下する。また、操作性が向上することにより、細かい操作が可能になり、内視鏡を体内の奥深くに挿入する時間を短縮することができる。患者にとっては、内視鏡から受ける負担が小さくなるため、痛みを感じることが少なくなる。また、腸への穿孔のリスクも小さくなる。しかも、座屈が発生しない限界まで曲げ剛性を下げることができ、体腔に対する追従性に優れる。
上記実施形態では、可撓管自体や可撓管及び内蔵物を含む軟性部22そのものの曲げ剛性プロファイルを形成する方法について説明したが、これに代えて、従来の曲げ剛性プロファイルを有するものに対して、図9及び図10に示すような曲げ剛性プロファイル補正具71,72を用いて、軟性部22全体の曲げ剛性プロファイルを指数関数曲線状にしてもよい。この場合には、図8に示すように、内視鏡12の型番毎に、実際の曲げ剛性プロファイルPF1を測定する。次に、この実測の曲げ剛性プロファイルPF1を補正して、軟性部全体の曲げ剛性プロファイルPFが所望の指数関数曲線分布となるようにする曲げ剛性差分ΔEIを求める。そして、このΔEIの曲げ剛性プロファイルPF2を有する曲げ剛性プロファイル補正具71,72を製造する。
このようにして得られる曲げ剛性プロファイル補正具71は、図9に示すように、スタイレットと同じように、内視鏡12の処置具挿入口75から処置具挿通チャンネル76内に挿入される。この挿入によって、軟性部22の曲げ剛性が補正され、総合的な曲げ剛性プロファイルを指数関数曲線とすることができる。また、挿入が完了した時には、必要に応じて曲げ剛性プロファイル補正具71を取り出すことにより、他の処置具等の挿入が可能になる。また、挿入部10の引き出し操作時には、取り出した曲げ剛性プロファイル補正具71分の曲げ剛性がなくなり、その分だけ挿入部10の曲げ剛性が全体的に低くなり、挿入部10の引き出し操作を楽に行うことができる。
また、図10に示すように、曲げ剛性プロファイル補正具72は、内視鏡12の組み立て工程において、可撓管41内に挿入して配置される。この場合にも、軟性部22の曲げ剛性が補正され、総合的な曲げ剛性プロファイルを指数関数曲線とすることができる。
また、可撓管41や軟性部22の曲げ剛性プロファイルを測定して所望のプロファイル形状が得られない時にも、図8に示すように曲げ剛性差分ΔEIを求め、これら曲げ剛性差分ΔEIに基づく曲げ剛性プロファイル補正具71,72を用いて、軟性部22の総合的な曲げ剛性プロファイルを指数関数曲線とすることができる。
曲げ剛性プロファイル補正具71,72は、ピアノ線などからなる芯体に対し、曲げ剛性を上げたい部分に線材やチューブ、コイルなどの剛性付与部材を配置して製造することができる。なお、剛性付与部材に代えて、芯体の曲げ剛性を下げたい部分を例えば切削し、部分的に曲げ剛性を下げたものなどを用いてもよい。さらには、剛性付与部材の付与と切削の両方により曲げ剛性プロファイル補正具71,72を製造してもよい。
10 挿入部
11 内視鏡システム
12 内視鏡
17 手元操作部
20 先端硬性部
21 湾曲部
22 軟性部
41 可撓管
42 芯材
43 外皮
45 螺旋管
46 網状管
51 内層
52 中間層
53 外層
60 測定機
61 可撓管保持部
62 測定機本体
65,66 保持ロール
70,71 曲げ剛性プロファイル補正具

Claims (9)

  1. 先端から基端に向かって順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する内視鏡挿入部において、
    前記軟性部は、前記湾曲部との境界から前記基端へ向けての距離に応じて曲げ剛性が指数関数状に変化する領域を有することを特徴とする内視鏡挿入部。
  2. 前記距離をsとし、曲げ剛性をE(s)とするときに、E0・exp(0.5s)≦E(s)≦E0・exp(2s)の範囲内とすることを特徴とする請求項1記載の内視鏡挿入部。
  3. 前記先端硬性部の先端から前記曲げ剛性が変化する領域の終端までの長さが800mm以上あることを特徴とする請求項1または2記載の内視鏡挿入部。
  4. 前記境界における曲げ剛性E(0)は、間隔100mmの3点曲げ試験機における中点で中心軸に直交する方向に12mm押し込んだ状態の反力が5N以上15N以下であることを特徴とする請求項1または3いずれか1項記載の内視鏡挿入部。
  5. 前記曲げ剛性は、前記軟性部を構成する可撓管と前記可撓管に内蔵される内蔵物とを含む全体の曲げ剛性であることを特徴とする請求項4記載の内視鏡挿入部。
  6. 前記曲げ剛性は、前記軟性部を構成する可撓管と、前記可撓管に内蔵される内蔵物と、前記可撓管内に挿入され、前記曲げ剛性を指数関数状に変化する領域とするために挿入される曲げ剛性補正具とを含む全体の曲げ剛性であることを特徴とする請求項4記載の内視鏡挿入部。
  7. 請求項1から6いずれか1項記載の内視鏡挿入部と、
    前記挿入部が接続される手元操作部とを備えることを特徴とする内視鏡。
  8. 体腔内に挿入され、先端から順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する挿入部と、
    前記挿入部が接続される手元操作部と、
    前記手元操作部の処置具挿入口から前記挿入部の先端の処置具出口に連通する処置具挿通チャンネルと、
    前記処置具挿通チャンネルに挿入され、前記軟性部を前記湾曲部との境界からの距離に応じて曲げ剛性を指数関数状に変化させる領域を形成する曲げ剛性プロファイル補正具とを備えることを特徴とする内視鏡。
  9. 体腔内に挿入され、先端から順に先端硬性部、湾曲部、軟性部を有する挿入部と、前記挿入部が接続される手元操作部と、前記手元操作部の処置具挿入口から前記挿入部の先端の処置具出口に連通する処置具挿通チャンネルとを有する内視鏡に用いられ、
    前記処置具挿通チャンネルに挿入され、前記軟性部を前記湾曲部との境界からの距離に応じて曲げ剛性を指数関数状に変化させる領域を有するものにすることを特徴とする曲げ剛性プロファイル補正具。
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