以下に添付図面を参照し、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置について説明する。なお、以下に示す実施の形態により本発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例を示す図である。図1に示すように、実施の形態1にかかる電力変換装置は、三相交流電源(以下、単に「交流電源」という)1の交流電圧を整流する三相整流器(以下、単に「整流器」という)2、チョッパ回路部3、チョッパ回路部3の出力を平滑する平滑コンデンサ7、母線電流検出手段8、母線電圧検出手段9、およびスイッチング制御手段10を備えている。整流器2は、6個の整流ダイオード2a〜2fをブリッジ接続して構成される。チョッパ回路部3は、昇圧リアクタ4と、例えばIGBT(Insulated GATE Bipolar Transistor)のようなスイッチング素子5と、例えばファストリカバリダイオードのような逆流防止素子6とにより構成される。
スイッチング制御手段10は、母線電流検出手段8および母線電圧検出手段9の各出力信号に基づいて、スイッチング素子5を動作させる駆動パルスを生成する。母線電流検出手段8は、整流器2から負荷(図示せず)へ流れ、負荷から整流器2に流れる電流である母線電流(Idc)を検出し、スイッチング制御手段10に出力する。母線電圧検出手段9は、チョッパ回路部3の出力電圧を平滑コンデンサ7で平滑した電圧である母線電圧(Vo)を検出し、スイッチング制御手段10に出力する。
図2は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。図2に示すように、スイッチング制御手段10は、フィードバック制御部21およびフィードフォワード制御部22を含み構成される。フィードバック制御部21は、母線電流指令値制御手段23およびオンデューティ制御手段24を含み構成されたオンデューティ算出手段29と、オンデューティ補償手段30と、駆動パルス生成手段25とを備えている。このスイッチング制御手段10は、例えばマイコンのような演算手段を用いて構成される。
母線電流指令値制御手段23は、母線電圧検出手段9の出力信号である母線電圧(Vo)と、例えば予め設定される母線電圧指令値(Vo*)とから、母線電流指令値(Idc*)を演算する。この母線電流指令値(Idc*)の演算は、例えば、母線電圧検出手段9の出力信号である母線電圧(Vo)と母線電圧指令値(Vo*)との差分を比例積分制御して行う。
オンデューティ制御手段24は、母線電流指令値制御手段23にて演算した母線電流指令値(Idc*)と母線電流検出手段8にて検出した母線電流(Idc)とから、スイッチング素子5のオンデューティ(duty)を演算する。オンデューティ(duty)の演算は、例えば、母線電流指令値制御手段23の出力である母線電流指令値(Idc*)と母線電流検出手段8の出力信号である母線電流(Idc)との差分を比例積分制御して行う。
オンデューティ補償手段30は、後述するオンデューティ理論値(Don*)をベースとしてオンデューティ制御手段24にて演算したオンデューティ(duty)を補償する。
駆動パルス生成手段25は、オンデューティ補償手段30により補償されたオンデューティに基づいて、スイッチング素子5を動作させる駆動パルス(pulse)を生成して出力する。この駆動パルス(pulse)は、例えば、三角波や鋸歯波のようなキャリア信号と補償後のオンデューティとを比較し、キャリア信号より補償後のオンデューティが大きくなる区間だけ、スイッチング素子5がオンするようなパルス信号である。
ここで、母線電流指令値制御手段23やオンデューティ制御手段24での演算に用いる制御パラメータは、例えば、オンデューティ制御手段24における比例制御ゲインが母線電圧に反比例して変化するのが望ましいなど、回路の動作状況に合わせた最適値が存在する。したがって、整流器2の出力電圧である整流電圧や母線電流(Idc)や母線電圧(Vo)の値に応じた計算式、もしくはテーブルを設け、回路の動作状況に合わせて制御パラメータを調整するようにしてもよい。これにより制御性を向上することができる。
また、母線電流指令値制御手段23やオンデューティ制御手段24での演算手法として比例積分制御を挙げたが、これらの制御演算手法により本発明が限定されるものではなく、微分項を追加して比例積分微分制御とするなど、その他の演算手法を用いてもよい。また、母線電流指令値制御手段23やオンデューティ制御手段24での演算手法を同一の手法とする必要もない。
フィードフォワード制御部22は、オンデューティ理論値(Don*)を算出してフィードフォワード補償するブロックであり、整流電圧推定手段26およびオンデューティ理論値算出手段27を備え構成される。
ここで、フィードフォワード制御部22の動作を、チョッパ回路部3の動作と合わせて説明する。チョッパ回路部3には、整流器2の出力である整流電圧(Vds)が入力され、チョッパ回路部3の出力が平滑コンデンサ7で平滑され、母線電圧(Vo)が得られる。チョッパ回路部3において、スイッチング素子5がオンしたとき、逆流防止素子6の導通が阻止され、昇圧リアクタ4には整流電圧(Vds)が印加される。一方、スイッチング素子5がオフしたとき、逆流防止素子6が導通し、昇圧リアクタ4には、整流電圧(Vds)と母線電圧(Vo)との差分の電圧が、スイッチング素子5がオンしたときとは逆向きに誘導される。このとき、スイッチング素子5のオン時に昇圧リアクタ4に蓄積されたエネルギーが、スイッチング素子5のオフ時に負荷へ移送されると見ることができる。スイッチング素子5のオン/オフ時に、昇圧リアクタ4を出入りするエネルギーが等しいとすると、オンデューティ(Don)、整流電圧(Vds)、および母線電圧(Vo)の関係は下記(1)式で表される。
Vo=Vds/(1−Don) ・・・(1)
上記(1)式から明らかなように、スイッチング素子5のオンデューティ(Don)を制御することで、チョッパ回路部3の出力電圧、すなわち母線電圧(Vo)を制御することができる。
上記(1)式をオンデューティ(Don)について解くと、下記(2)式が得られる。
Don=1−(Vds/Vo) ・・・(2)
上記(2)式の母線電圧(Vo)に所望の母線電圧指令値(Vo*)を代入すると、所望の母線電圧指令値(Vo*)を得るためのオンデューティ理論値(Don*)は、下記(3)式で表される。
Don*=1−(Vds/Vo*) ・・・(3)
図3は、実施の形態1にかかる電力変換装置の整流電圧、母線電圧指令値、およびオンデューティ理論値の各波形図である。上記(3)式から明らかなように、整流電圧(Vds)が変動すると、それに伴いオンデューティ理論値(Don*)が変動することがわかる。上述したフィードバック制御部21により、母線電圧(Vo)や母線電流(Idc)をそれぞれの指令値との差分より制御を行う場合であっても、基本的には、上記(2)式で表されるオンデューティ理論値(Don*)に追従するように制御する必要がある。
ここで、整流電圧(Vds)は、整流器2により交流電源1の交流電圧を直流に整流して得たものであるので、この整流電圧(Vds)には、電源電圧周波数の6倍の周波数で脈動する成分(以下、「6f成分」と呼ぶ)が含まれる。つまり、駆動パルス生成手段25に与える補償後のオンデューティがこの6f成分に応じて補償されている必要がある。ここで、例えば、この6f成分に応じた補償を、上述したフィードバック制御部21のみで行う、つまり、フィードバック制御部21により演算されたオンデューティを用いてスイッチング素子5の駆動パルスを生成する場合、上述した6f成分の影響を受けないように、母線電流指令値制御手段23やオンデューティ制御手段24における制御応答周波数を十分に高い値とする必要があり、スイッチング制御手段10を構成するマイコンの演算負荷が増大する。
そこで、本実施の形態では、フィードフォワード制御部22のオンデューティ理論値算出手段27にて、上記(3)式を用いて整流電圧(Vds)の6f成分に応じたオンデューティ理論値(Don*)を求め、このオンデューティ理論値(Don*)をベースとし、そのオンデューティ理論値(Don*)と、オンデューティ算出手段29において演算したオンデューティ(duty)との差分(つまり、補償後のオンデューティ)を用いて、駆動パルス生成手段25において駆動パルス(pulse)を生成する。このようにすることにより、フィードバック制御部21で補償すべき外乱は6f成分以外となるので、フィードバック制御部21における制御応答周波数を下げることができ、マイコンの演算負荷を低減することができる。
ここで、オンデューティ理論値(Don*)を演算する際に用いる整流電圧(Vds)について説明する。整流電圧(Vds)は、フィードバック制御部21には使用しないため、整流電圧(Vds)を検出する場合には、フィードフォワード制御部22における制御に用いるために新たに整流電圧推定手段を設ける必要があり、部品の増加や、回路実装面積の増大や基板コストの増加といった問題が生じる。そこで、本実施の形態では、母線電流検出手段8から出力される母線電圧(Idc)を用いて、整流電圧(Vds)を推定し、その推定した整流電圧(Vds)を用いて、オンデューティ理論値(Don*)を演算する。母線電圧(Idc)は、フィードバック制御部21における制御にも用いる検出値であるので、フィードフォワード制御部22における制御に用いるために新たに検出部を設ける必要がないため、回路実装面積の増大や基板コストの増加を招くことなく実現することができる。
まず、図4は、実施の形態1にかかる電力変換装置のキャリア信号、駆動パルス、および母線電流の各波形図である。ここでは、整流電圧推定手段26において、母線電流(Idc)、母線電圧(Vo)、およびオンデューティ(Don)の関係を用いて、整流電圧(Vds)を推定する手法について説明する。
図4に示すように、スイッチング素子5がオンしているとき、つまり、駆動パルス(pulse)が「H」である期間は、上述したように、昇圧リアクタ4には整流電圧(Vds)が印加され、昇圧リアクタ4を交流電源1側から負荷側に流れる母線電流Idconは、直線的に増加する。昇圧リアクタ4のインダクタンス値をLとすると、このIdconの傾きΔIdconは、下記(4)式で表される。
ΔIdcon=Vds/L ・・・(4)
また、スイッチング素子5がオフしているとき、つまり、駆動パルス(pulse)が「L」である期間は、上述したように、昇圧リアクタ4には整流電圧(Vds)と母線電圧(Vo)との差分の電圧が、スイッチング素子5のオン時とは逆向きに印加され、昇圧リアクタ4を交流電源1側から負荷側に流れる母線電流Idcoffは、直線的に減少する。このIdcoffの傾きΔIdcoffは下記(5)式で表される。
ΔIdcoff=(Vds−Vo)/L ・・・(5)
スイッチング制御手段10を、例えばマイコンのような演算手段で実現する場合、母線電流検出手段8で検出した母線電流(Idc)や母線電圧検出手段9で検出した母線電圧(Vo)のアナログ値は、マイコン内のキャリア信号の谷や山に同期したタイミングでデジタル値として取り込まれる。また、このキャリア信号は、駆動パルス生成手段25で駆動パルス(pulse)を生成する際に用いられる三角波としても用いられる。
上述したように、補償後のオンデューティと三角波であるキャリア信号との比較により駆動パルス(pulse)を生成する場合には、例えば、図4に示すように、キャリア信号の谷の頂点が駆動パルス(pulse)のオン期間の中間点となり、キャリア信号の山の頂点が駆動パルス(pulse)のオフ期間の中間点となる。ここで例えば、母線電流(Idc)のアナログ値をデジタル値として取り込む検出タイミングを、キャリア信号の谷および山の頂点に同期したタイミングとすると、キャリア信号の谷の頂点における検出値Idc1と山の頂点における検出値Idc2との差分値ΔIdcは、ΔIdconの傾きでオン期間の1/2だけ変化した値と、ΔIdcoffの傾きでオフ期間の1/2だけ変化した値との和となる。これを、スイッチング周期をTswとして表すと、下記(6)式で表される。
ΔIdc=ΔIdcon*Don*Tsw/2
+ΔIdcoff*(1−Don)*Tsw/2 ・・・(6)
(4)式および(5)式を(6)式に代入して整流電圧(Vds)で解くと、下記(7)式が得られる。
Vds=2*L*ΔIdc/Tsw+(1−Don)*Vo
=2*L*|Idc1−Idc2|/Tsw+(1−Don)*Vo
・・・(7)
したがって、整流電圧(Vds)は、母線電流(Idc)、母線電圧(Vo)、およびオンデューティ(Don)の関係を用いて、上記(7)式により推定することができる。
つぎに、キャリア信号の谷の頂点あるいは山の頂点のいずれか一方における母線電流(Idc)の電流変化率を用いて、整流電圧(Vds)を推定する手法について説明する。図5は、実施の形態1にかかる電力変換装置の母線電流検出タイミングにおける母線電流の傾きを示す図である。例えば、母線電流検出値(Idc)をデジタル値として取り込む場合、マイコンのA/D(アナログ/デジタル)変換ポートのうちの少なくとも2つのポートに、母線電流検出値(Idc)を入力する。これら2つのA/D変換ポート間で時間差を持ってサンプリングするようにし、これら2つのA/D変換ポートにおける母線電流の差分値ΔIdcを時間差分Tadで割ることにより、駆動パルス(pulse)のオン期間およびオフ期間における母線電流(Idc)の電流変化率を得ることができる。つまり、キャリア信号の谷の頂点における母線電流(Idc)の電流変化率を用いた場合、下記(8)式により整流電圧(Vds)を推定することができる。
Vds=L*ΔIdc/Tad ・・・(8)
同様に、キャリア信号の山の頂点における母線電流(Idc)の電流変化率を用いた場合、下記(9)式により整流電圧(Vds)を推定することができる。
Vds=(L*ΔIdc/Tad)+Vo ・・・(9)
このように、整流電圧推定手段26において推定した整流電圧(Vds)を用いて、オンデューティ理論値算出手段27において上述した(3)式によりオンデューティ理論値(Don*)を求め、このオンデューティ理論値(Don*)をベースとしてオンデューティ制御手段24にて演算したオンデューティ(duty)を補償することにより、新たに整流電圧(Vds)を検出する検出回路を設けることなく、整流電圧(Vds)の変動、つまり、6f成分に応じて、オンデューティを適切に変化させることができる。
なお、昇圧リアクタ4のインダクタンス値(L)は、一般に、リアクタ固有の直流重畳特性を持ち、リアクタに流れる電流値によって変化する。そのため、上記(5)式、(8)式、および(9)式の各式で用いるインダクタンス値(L)は、リアクタ固有の直流重畳特性を予めテーブル化、もしくは電流値に対する近似式等にて値を変化させるようにしてもよい。これにより、より正確に整流電圧(Vds)を推定することができる。
また、電源電圧の位相角を得ることが可能である場合、オンデューティ理論値(Don*)を正弦関数、余弦関数、あるいは、2次関数を用いて近似することにより簡易化することが可能となる。
正弦関数を用いた場合、オンデューティ理論値(Don*)の近似式であるDcmpは、例えば、オンデューティ理論値(Don*)が図3に示すような変化をすることから、例えば、Dcmpの最大値をA、Dcmpの半波正弦波の振幅をB、電源電圧の3倍の周波数の位相角をθとすると、下記(10)式で表すことができる。
Dcmp=A−B*|sinθ|(≒Don*) ・・・(10)
このDcmpをオンデューティ理論値(Don*)に近似させるためには、その最大値Aは、整流電圧(Vds)が最小値(=Vdspeak*(√3)/2)となる点におけるオンデューティ理論値と同等として、下記(11)式で表される。
A=1−(Vdspeak*(√3)/2)/(Vo*) ・・・(11)
また、Dcmpの半波正弦波の振幅Bは、整流電圧(Vds)が最大値(=Vdspeak)となる点におけるオンデューティ理論値より、下記(12)式で表される。
B=Vdspeak/(Vo*)*(1−(√3)/2) ・・・(12)
また、Dcmpの最大値AおよびDcmpの半波正弦波の振幅Bは、整流電圧(Vds)の平均値やピーク値(Vdspeak)等の一定の値を用いて、上記(11)式、(12)式に基づいて求めた定数としてもよいが、(4)〜(9)式により母線電流検出値に基づいて整流電圧(Vds)を推定し、この推定した整流電圧(Vds)の変化に応じて、AおよびBを変化させるようにしてもよい。この場合、上記(11)式および(12)式を用いてAおよびBを算出すればよい。もしくは、上記(11)式および(12)式から、A−1およびBの値が整流電圧(Vds)に比例することを利用して、予め決めた初期値を、整流電圧(Vds)の値に比例して調整するようにしてもよい。
また、位相調整用の値φを用いてDcmpの位相を調整するようにしてもよい。この位相調整用の値φを上記(10)式に適用すると、Dcmpは下記(13)式で表される。
Dcmp=A−B*|sin(θ+φ)|(≒Don*) ・・・(13)
例えば、マイコンのA/D変換ポートの仕様などにより、A/D変換して母線電流検出値(Idc)を取り込んだ検出タイミングから、その母線電流検出値(Idc)を用いてオンデューティ理論値(Don*)の近似値(Dcomp)を演算して出力するタイミングまでには、一般的にはある程度の時間遅れが生じる。この時間遅れが問題となる場合に、予め位相調整用の値φを設定し、この位相調整用の値φを用いて位相を調整することで、より適切なオンデューティ理論値(Don*)の近似値(Dcomp)を得ることができる。
なお、位相角θは電源電圧の3倍の周波数を0〜2πとするのでなく、0〜π/3としてもよい。整流電圧に含まれる6f成分は、電源電圧の正弦波の頂点部60度(π/3)区間であるため、AおよびBを求める上記(10)式および(13)式は複雑化するが、オンデューティ理論値(Don*)に対して、より近似させることができる。
また、上記(10)式および(13)式では正弦関数としたが、θやφを調整して余弦関数としてもよいし、二次関数を用いて近似することも可能である。例えば、電源周波数の6倍の周波数のカウンタtを作成し、その値の範囲を−1〜1とする。このとき、Dcmpをpt2+qとすると、p+qはDcmpの最大値、qはDcmpの最小値となる。pおよびqを上記(11)式および(12)式のように式で表すと、下記(14)式、(15)式となる。
p=Vdspeak/(Vo*)*(1−(√3)/2)=B ・・・(14)
q=(1−Vdspeak/(Vo*)) ・・・(15)
位相角θは、例えば、交流電源1の電源電圧がゼロとなる点(以下、「ゼロクロス」と呼ぶ)を検出して得る必要がある。このため、上述のようにオンデューティ理論値(Don*)を近似する手法を用いる場合には、電源電圧のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路が必要となる。したがって、電源電圧の欠相や周波数変動の検知等、他の機能を実現するために電源電圧のゼロクロス検出回路を設けてある場合に、上述した手法を用いてオンデューティ理論値(Don*)の近似値(Dcomp)を算出して簡易化することが望ましい。
図6は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第2の構成例を示す図である。なお、図1に示す第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。図1に示す第1の構成例では、母線電流検出値(Idc)から整流電圧(Vds)を推定する例について説明したが、図6に示すように、母線電圧検出手段9の代わりに整流電圧推定手段11を設けて、母線電圧(Vo)を推定するようにしてもよい。あるいは、母線電圧検出および整流電圧検出の双方を行わず、整流電圧(Vds)および母線電圧(Vo)の双方を推定するようにしてもよい。この場合は、キャリア信号の谷の頂点あるいは山の頂点の双方における電流変化率ΔIdconおよびΔIdcoffを算出する必要があるので、マイコンの演算負荷が大きくなるが、ハードウェアにより検出器を構成する必要がないので、マイコンの演算負荷に余裕がある場合には、回路の大型化やコスト増加を抑制することができるという効果が得られる。
図7は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第3の構成例を示す図である。また、図8は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第3の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。なお、図1および図2に示す第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。図1に示す第1の構成例及び図6に示す第2の構成例では、交流電源1を三相交流電源とし、整流器2を三相整流器とした例について説明したが、図7に示すように、交流電源1を単相交流電源41とし、整流器2を単相整流器42としてもよい。この場合には、単相整流器42への入力電流を正弦波状に制御するため、すなわち、母線電流指令(Idc*)を正弦波の絶対値をとった全波整流波形とするために、単相交流電源41のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路43を設けている。
図8に示す第3の構成例では、ゼロクロス検出回路43により検出される電源電圧のゼロクロス(ZC)を用いて、電源電圧のゼロクロス点の位相と電源周波数とを求めて、電源電圧に同期した正弦波を生成し、母線電流指令値制御手段23aにおいて、比例積分制御などの出力と乗算して、母線電流指令値(Idc*)を得る。これにより、整流器2への入力電流を正弦波状に制御することができる。
また、図7に示すように、ゼロクロス検出回路43を設けた場合、上述したようにオンデューティ理論値(Don*)の近似値Dcmpを算出して簡易化することが可能となる。
また、図7に示すように、単相交流電源41の交流電圧を単相整流器42にて整流する場合は、整流電圧(Vds)が正弦波の絶対値をとった全波整流波形となるため、三相交流電源の交流電圧を三相整流器にて整流する場合と比較し、オンデューティの変化が大きくなる。したがって、図7に示す第3の構成例では、フィードフォワード制御部22においてオンデューティ理論値(Don*)(あるいは、近似値Dcmp)を求め、フィードバック制御部21において演算したオンデューティ(duty)を補償することにより、マイコンの演算負荷をより軽減することが可能である。
本実施の形態において第1〜第3の構成例を用いて説明した例では、整流電圧(Vds)の変化、特に、整流電圧(Vds)に含まれる6f成分に応じた補償について説明した。一方で、オンデューティ理論値(Don*)を算出する上記(3)式には、母線電圧指令値(Vo*)も含まれており、母線電圧指令値(Vo*)を変化させてオンデューティ理論値(Don*)(あるいは、近似値Dcmp)を調整することにより、母線電圧(Vo)を意図的に変化させることも可能である。
図9は、実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例を適用したモータ駆動制御装置の一構成例を示す図である。図9に示す例では、実施の形態1にかかる電力変換装置の負荷として、直流電圧を交流電圧に変換するインバータ31と、インバータ31の出力である交流電圧が印加されることで駆動するモータ32とを接続したモータ駆動制御装置の一例を示している。
インバータ31は、例えば、IGBTのようなスイッチング素子を三相ブリッジ構成もしくは二相ブリッジ構成と、インバータ31を制御するインバータ制御手段33は、例えば、インバータ31からモータ32に流れる電流を検出するモータ電流検出器34を用いて、モータ32が所望の回転数にて回転するような電圧指令を演算して、インバータ31内のスイッチング素子を駆動するパルスを生成する。
また、図9に示す構成において、スイッチング制御手段10によるコンバータ制御やインバータ制御手段33によるインバータ制御は、例えばマイコンのような演算手段を用いて実現すればよい。本実施の形態にかかる電力変換装置では、コンバータ制御の演算負荷を低減できるため、コンバータ制御およびインバータ制御の双方を1つの演算手段により実現することができ、演算手段の使用個数削減や、回路上の実装面積の縮小が可能となる。
このように構成されたモータ駆動制御装置では、電力変換装置への電力負荷に応じて、必要な母線電圧(Vo)が異なるという特色がある。一般に、モータ32の回転数が高回転になるほど、インバータ31からの出力電圧は高くする必要があるが、このインバータ31からの出力電圧の上限は、インバータ31への入力電圧、つまり、電力変換装置の出力である母線電圧(Vo)により制限される。インバータ31からの出力電圧が、母線電圧(Vo)により制限された上限を超えて飽和する領域を過変調領域と呼ぶ。図9に示すような構成においては、モータ32が低回転である(過変調領域に到達しない)範囲では、母線電圧(Vo)を昇圧する必要はなく、モータ32が高回転となった場合には、母線電圧(Vo)を昇圧することで、過変調領域をより高回転側にすることができる。これにより、モータ32の運転範囲を高回転側に拡大できる。また、モータ32の運転範囲を拡大する必要がなければ、その分モータ32の固定子巻線を高巻数化することができる。このとき、低回転数の領域では、モータ電圧が高くなる分、電流が少なくなり、インバータ31での損失低減が見込まれる。モータ32の運転範囲拡大と低回転数領域の損失改善の双方の効果を得るため、モータ32の高巻数化の程度を適切に設計してもよい。
本実施の形態にかかる電力変換装置では、電力変換装置への電力負荷の変動に応じて、オンデューティ理論値算出手段27への母線電圧指令値(Vo*)を変化させることにより、オンデューティ理論値(Don*)(あるいは、近似値Dcmp)を調整し、所望の母線電圧(Vo)が得られるように適切に制御することが可能である。図9に示すモータ駆動制御装置のように、モータ32の回転数に応じて、母線電圧(Vo)の昇圧の程度を調整したい場合には、フィードフォワード制御部22における補償量算出のためのパラメータ(ここでは、母線電圧指令値(Vo*))を調整すればよい。例えば、母線電圧にいくつかの固定値を設け、この固定値に基づく各パラメータを定数とした場合と比べた場合、本実施の形態にかかる電力変換装置では、各パラメータを調整して算出した値を用いて制御するので、線形的な制御も可能となる。
以上説明したように、実施の形態1の電力変換装置によれば、フィードフォワード制御部のオンデューティ理論値算出手段において、整流電圧の6f成分に応じたオンデューティ理論値を算出し、このオンデューティ理論値をベースとしてフィードバック制御部内のオンデューティ算出部により算出されたオンデューティを補償し、この補償したオンデューティを用いて、駆動パルス生成手段において駆動パルスを生成するようにしたので、整流電圧の6f成分を抑制する一方、フィードバック制御部で補償すべき外乱は6f成分以外となるので、フィードバック制御部における制御応答周波数を下げることができ、マイコンの演算負荷を低減することができる。したがって、演算負荷の低減を図りつつ、高調波電流の抑制効果を高めることが可能となる。
また、母線電流を用いて整流電流を推定するようにしたので、新たに整流電圧を検出する検出回路を設ける必要がなく、回路実装面積の増大や基板コストの増加を招くことなく実現することができ、また、整流電圧の変動、つまり、6f成分に応じて、オンデューティを適切に変化させることができる。
また、交流電源が単相交流電源であり、単相整流器により整流する構成である場合には、ゼロクロス検出回路が必要となるが、このゼロクロス検出回路により検出される電源電圧のゼロクロスを用いて、正弦関数、余弦関数、あるいは二次関数による近似式を用いたオンデューティ理論値の近似値の算出が可能となり、さらには、整流電圧が正弦波の絶対値をとった全波整流波形となるため、三相交流電源の交流電圧を三相整流器にて整流する場合と比較し、オンデューティの変化が大きくなるので、オンデューティ理論値の近似値を用いてオンデューティを補償することによるマイコンの演算負荷の軽減に対する効果はより大きくなる。
また、母線電圧検出および整流電圧検出の双方を行わず、整流電圧および母線電圧の双方を推定するようにした場合には、キャリア信号の谷の頂点あるいは山の頂点の双方における電流変化率を算出する必要があるので、マイコンの演算負荷が大きくなるが、ハードウェアにより検出器を構成する必要がないので、マイコンの演算負荷に余裕がある場合には、回路の大型化やコスト増加を抑制することができるという効果が得られる。
さらに、実施の形態1にかかる電力変換装置をモータ駆動制御装置に適用した場合、本実施の形態にかかる電力変換装置では、コンバータ制御の演算負荷を低減できるため、コンバータ制御およびインバータ制御の双方を1つの演算手段により実現することができ、演算手段の使用個数削減や、回路上の実装面積の縮小が可能となる。
また、モータの回転数に応じて、母線電圧の昇圧の程度を調整したい場合には、オンデューティ理論値算出のためのパラメータ(例えば、母線電圧指令値)を調整すればよく、例えば、母線電圧にいくつかの固定値を設け、この固定値に基づく各パラメータを定数とした場合と比べ、本実施の形態にかかる電力変換装置では、各パラメータを調整して算出した値を用いて制御するので、線形的な制御も可能となる。
実施の形態2.
図10は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第1の構成例を示す図である。なお、図1に示す実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図10に示すように、実施の形態2にかかる電力変換装置では、チョッパ回路部3は、昇圧リアクタ4aとスイッチング素子5aと逆流防止素子6aとからなるチョッパ回路部3aと、昇圧リアクタ4bとスイッチング素子5bと逆流防止素子6bとからなるチョッパ回路部3bとを、並列接続して構成される。このとき、チョッパ回路部3aおよびチョッパ回路部3bのそれぞれにおいて、各スイッチング素子5a,5bをオン/オフした場合の挙動は、実施の形態1において説明した挙動と同様である。
また、スイッチング制御手段10は、母線電流検出手段8および母線電圧検出手段9の各出力信号に基づいて、各スイッチング素子5a,5bを動作させる駆動パルスを生成する。
図11は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第1の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。なお、図2に示す実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例におけるスイッチング制御手段と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図11に示すように、フィードバック制御部21は、図2に示す駆動パルス生成手段25に代えて、それぞれ各チョッパ回路部3a,3bに対応した各駆動パルス生成手段25a,25bを備えている。なお、フィードバック制御部21およびフィードフォワード制御部22を含むスイッチング制御手段10は、実施の形態1と同様に、例えばマイコンのような演算手段を用いて構成される。
駆動パルス生成手段25aは、オンデューティ制御手段24にて演算したオンデューティ(duty)に基づいて、スイッチング素子5aを動作させる駆動パルス(pulse_a)を生成して出力する。
駆動パルス生成手段25bは、オンデューティ制御手段24にて演算したオンデューティ(duty)に基づいて、スイッチング素子5bを動作させる駆動パルス(pulse_b)を生成して出力する。
図12は、実施の形態2にかかる電力変換装置のキャリア信号、駆動パルス、およびリアクタ電流の各波形図である。
図12に示すように、母線電流検出値(Idc)の電流波形は、昇圧リアクタ4aに流れるリアクタ電流(ILa)と昇圧リアクタ4bに流れるリアクタ電流(ILb)とが加算された波形となる。図10および図11に示す構成では、各スイッチング素子5a,5bを同一のオンデューティで動作させ、スイッチング位相を互いにずらすことで、昇圧リアクタ4aに流れるリアクタ電流(ILa)と昇圧リアクタ4bに流れるリアクタ電流(ILb)とを加算して母線電流(Idc)を得ることにより、互いのスイッチングリプルが相殺し合い、各スイッチング素子5a,5bのスイッチング位相が180度ずれた場合に、ILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))のスイッチングリプルが最も小さくなる。
各スイッチング素子5a,5bのスイッチング位相をずらす手法としては、例えば、図11に示す各駆動パルス生成手段25a,25bに与えるオンデューティを同一とし、それぞれに供給するキャリア信号の位相を所望の位相(例えば、180度)ずらせばよい。
あるいは、各スイッチング素子5a,5bのスイッチング位相を180度ずらす別の手法として、例えば、各駆動パルス生成手段25a,25bに同一のキャリア信号を供給し、それぞれに与えるオンデューティを反転させてもよい。つまり、例えば、駆動パルス生成手段25aに与えるオンデューティをDonとした場合、駆動パルス生成手段25bに与えるオンデューティを1−Donとする。このようにすれば、各駆動パルス生成手段25a,25bに同一のキャリア信号を供給する場合でも、各スイッチング素子5a,5bのスイッチング位相を180度ずらすことができる。また、例えばスイッチング制御手段10をマイコンで構成する場合には、モータ駆動向け相補PWM機能を有しているマイコンを選定すればよく、駆動パルスの生成が簡素化できる。また、モータ駆動用マイコンは汎用的で低コストなものが多いため、コスト低減にもつながる。
ここで、オンデューティが50%未満の場合、各スイッチング素子5a,5bのオン/オフの組合せは、一方がオンで他方がオフである場合(以下、「オン−オフの組み合わせ」という)と、双方がオフである場合(以下、「オフ−オフの組み合わせ」という)の2通りの組合せとなる。
各昇圧リアクタ4a,4bが同じインダクタンス値である場合、各スイッチング素子5a,5bのオン時の傾きやオフ時の傾きは同じであるので、オン−オフの組合せとなる区間において、ILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))の傾き(電流変化率)ΔIdcupは、実施の形態1において説明した(4)式および(5)式を用いて、ΔILonとΔILoffとを加算することにより求めることができ、下記(16)式で表される。
ΔIdcup=ΔIdcon+ΔIdcoff=(2*Vds−Vo)/L
・・・(16)
また、オフ−オフの組合せとなる区間において、ILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))の傾き(電流変化率)ΔIdcdownは、上述した(4)式を用いて、ΔIdcoffの2倍で求めることができ、下記(17)式で表される。
ΔIdcdown=2*ΔIdcoff=2*(Vds−Vo)/L ・・・(17)
オン−オフの組合せとなる区間Tonoffは、各スイッチング素子5a,5bのオン時間と同一時間となり、下記(18)式で表すことができる。
Tonoff=Don*Tsw ・・・(18)
また、オフ−オフの組合せとなる区間Toffoffは、下記(19)式で表すことができる。
Toffoff=(1/2−Don)*Tsw ・・・(19)
また、キャリア信号の谷の頂点あるいは山の頂点のいずれで母線電圧(Idc)を検出する場合でも、ILaとILbとの加算電流においては、電流が増加する範囲のみの検出となる。したがって、実施の形態2にかかる電力変換装置の第1の構成例において、母線電流検出値(Idc)より整流電圧(Vds)もしくは母線電圧(Vo)を推定する場合には、キャリア信号の谷の頂点あるいは山の頂点のいずれか一方あるいは双方において、電流変化率を求めればよい。
図13は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第2の構成例を示す図である。なお、図11に示す第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図13に示すように、実施の形態2にかかる電力変換装置の第2の構成例では、母線電流検出手段8に代えて、各チョッパ回路部3a,3bの各昇圧リアクタ4a,4bに流れる各リアクタ電流(ILa,ILb)を検出する各リアクタ電流検出手段8a,8bを備えている。
また、スイッチング制御手段10は、各リアクタ電流検出手段8a,8bおよび母線電圧検出手段9の各出力信号に基づいて、各スイッチング素子5a,5bを動作させる駆動パルスを生成する。
図14は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第2の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。なお、図11に示す第1の構成例におけるスイッチング制御手段と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図14に示す例では、フィードバック制御部21は、図11に示すオンデューティ算出部29に代えて、各チョッパ回路部3a,3bにそれぞれ対応した(つまり、各スイッチング素子5a,5bにそれぞれ対応した)各オンデューティ制御手段24a,24bを設けた各オンデューティ算出部29a,29bを備えている。また、フィードバック制御部21は、図11に示すオンデューティ補償手段30に代えて、各チョッパ回路部3a,3bにそれぞれ対応した(つまり、各スイッチング素子5a,5bにそれぞれ対応した)各オンデューティ補償手段30a,30bを備えている。
図10および図11に示す第1の構成例では、ILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))を検出して、各チョッパ回路部3a,3bの電流制御をまとめて行う構成としたが、図13および図14に示すように、リアクタ電流(ILa)およびリアクタ電流(ILb)をそれぞれ別々に検出して、各チョッパ回路部3a,3bの電流制御を個別に行う構成とすることも可能である。
さらに、オンデューティ理論値算出手段27についても個別に設け、各スイッチング素子5a,5bを駆動する各駆動パルス(pulse_a,pulse_b)のオンデューティを個別に補償するようにしてもよい。なお、オンデューティ理論値算出手段27を個別に設ける場合には、各スイッチング素子5a,5bのスイッチング位相のずれを考慮する必要がある。例えば、スイッチング位相のずれを180度とする場合、各スイッチング素子5a,5bのオンタイミングがスイッチング周期の半周期分(Tsw/2)だけ違うため、このオンタイミングの時間差を考慮してオンデューティ理論値(あるいは、近似値)を演算するよう、Tsw/2だけずらして演算させる。もしくはオフセット量を設けて、演算値が適切にずれるようにしてもよい。
また、各チョッパ回路部3a,3bの構成部品の特性バラツキなどで起こる電流アンバランスなどを補償するようにしてもよい。この場合も、オンデューティ理論値算出手段27を個別に設ける場合と同様に、オンタイミングの時間差を考慮してオンデューティ理論値(あるいは、近似値)を演算し、各スイッチング素子5a,5bの補償値に加えるようにすればよい。
なお、図10〜図14に示す例では、2系統のチョッパ回路部を並列接続した構成について説明したが、3系統以上のチョッパ回路部を並列接続した構成としても、同様の効果が得られる。
図15は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第3の構成例を示す図である。また、図16は、実施の形態2にかかる電力変換装置の第3の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。なお、図10および図11に示す第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図10に示す第1の構成例及び図13に示す第2の構成例では、交流電源1を三相交流電源とし、整流器2を三相整流器とした例について説明したが、実施の形態1において図7を用いて説明した実施の形態1にかかる電力変換装置の第3の構成例と同様に、交流電源1を単相交流電源41とし、整流器2を単相整流器42とし、単相整流器42への入力電流を正弦波状に制御するため、すなわち、母線電流指令(Idc*)を正弦波の絶対値をとった全波整流波形とするために、単相交流電源41のゼロクロスを検出するゼロクロス検出回路43を設け、ゼロクロス検出回路43から入力される電源電圧のゼロクロス点の位相と電源周波数とを求めて、電源電圧に同期した正弦波を生成し、母線電流指令値制御手段23aにおいて、比例積分制御などの出力と乗算して、母線電流指令値(Idc*)を得る。
このように構成することにより、複数のチョッパ回路部3a,3bを並列接続した構成であっても、実施の形態1にかかる電力変換装置の第3の構成例と同様の効果を得ることができる。
以上説明したように、実施の形態2の電力変換装置によれば、複数のチョッパ回路部を並列接続した構成であっても、実施の形態1と同様の効果が得られ、演算負荷の低減を図りつつ、高調波電流の抑制効果を高めることが可能となる。
また、新たに整流電圧を検出する検出回路を設ける必要がないので、回路実装面積の増大や基板コストの増加を招くことなく実現することができる。
さらに、例えば、オンデューティ理論値算出手段を各スイッチング素子にそれぞれ対応して個別に設けた場合には、各チョッパ回路部の構成部品の特性バラツキなどで起こる電流アンバランスなどを補償するようにすることも可能である。
実施の形態3.
図17は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第1の構成例を示す図である。また、図18は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第1の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。なお、図1および図2に示す実施の形態1にかかる電力変換装置の第1の構成例と同一または同等の構成部には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
図18に示すように、実施の形態3にかかる電力変換装置の第1の構成例におけるフィードフォワード制御部22では、整流電圧推定手段26およびオンデューティ理論値算出手段27に加えて、電流差分補償値算出手段28をさらに備え構成される。
つぎに、電流差分補償値算出手段28の動作について説明する。図19は、実施の形態3にかかる電力変換装置のキャリア信号、駆動パルス、および母線電流の各波形図である。
実施の形態1において説明した(4)式および(5)式から、1スイッチング周期において、母線電流(Idc)の値は、オン期間における電流増加分とオフ期間における電流減少分との差分だけ変化することになる。ここで、1スイッチング周期においてオンデューティ(Don)がΔDonだけずれた場合の母線電流(Idc)の電流値変化分ΔIdc’は、下記(20)式で表される。
ΔIdc’=ΔDon*L/(Vo*Tsw) ・・・(20)
上記(20)式をΔDonについて解くと、下記(21)式が得られる。
ΔDon=ΔIdc’*L/(Vo*Tsw) ・・・(21)
つまり、1スイッチング期間において、母線電流(Idc)の値を所望のΔIdc’だけ変化させるためには、上記(21)式で表されるΔDonだけ、オンデューティを変化させればよい。
本実施の形態では、電流差分補償値算出手段28は、上記(21)式におけるΔIdc’の値を、所望の母線電流補償指令値であるΔIdc*とすることにより、母線電流波形が所望の波形となるように整形する電流波形整形機能を有している。
上記(21)式のΔIdc’に所望の母線電流補償指令値(ΔIdc*)を代入すると、母線電流(Idc)の波形を所望の波形とするためのオンデューティ補償指令値(ΔDon*)は、下記(22)式で表される。
ΔDon*=(ΔIdc*)*L/(Vo*Tsw) ・・・(22)
例えば、0<t<Tの区間において、母線電流波形をf(t)という関数で表される波形にしたい場合には、t=aの時点から、1スイッチング周期後の母線電流値(Idc)をf(a+T)−f(a)だけ変化させる必要がある。つまり、上記(22)式において、ΔIdc*=f(a+T)−f(a)とすると、f(t)という関数で表される母線電流波形を得るためのオンデューティ補償指令値(ΔDon*)が得られる。
このように、所望の母線電流波形を得るための関数f(t)から、1スイッチング周期毎に母線電流補償指令値(ΔIdc*)を求め、上記(22)式を用いて得られるオンデューティ補償指令値(ΔDon*)によりオンデューティを補償することで、母線電流波形の整形が可能となる。
ここで、電源からの入力電流は、三相整流器2の整流ダイオード2a〜2fの通電位相によって決まる。例えば、整流ダイオード2aと2dとに接続される相においては、相電圧が他相の相電圧と比べて最大となる120度区間では整流ダイオード2aが導通し、他相の相電圧と比べて最小となる120度区間では整流ダイオード2dが導通する。この相における電流は、整流ダイオード2aが導通する区間では、昇圧リアクタ4に流れる電流が同じ極性で現れ、整流ダイオード2dが導通する区間では、昇圧リアクタ4に流れる電流が逆の極性で現れ、それ以外の区間では零となる。したがって、昇圧リアクタ4に流れる母線電流波形を整形することにより、電源入力電流の波形を整形することができる。例えば、母線電流が一定値となるように制御したとすると、電源入力電流の波形は、120度矩形波となる。
また、電源入力電流に含まれる高調波電流に規制がある場合、電源入力電流に含まれる高調波電流ができるだけ少ない電流波形となるように整形することで、高調波規制をクリアするために設置するアクティブフィルタなどの高調波抑制機器の台数や容量を削減でき、高調波規制対策費用を削減することができる。また、電源を共通として並列に別の機器が接続される場合、本実施の形態にかかる電力変換装置を適用した機器にて、それらの機器が含む高調波電流を相殺もしくは低減するよう、電流波形を整形してもよい。本実施の形態にかかる電力変換装置を適用した機器単体で見ると、見かけ上高調波を多く含むような電流波形になったとしても、電源側では、高調波量が低減される効果がある。
なお、上述した電流差分補償値算出手段28を、実施の形態1および2において説明した各構成に適用することも可能である。これにより、実施の形態1および2において説明した各構成による効果に加え、電流波形整形機能を有する電流差分補償値算出手段28を備えることによって得られる効果をも得ることができる。
図20は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第2の構成例を示す図である。また、図21は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第2の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。この図20および図21に示す構成例は、図7および図8に示す実施の形態1にかかる電力変換装置の第3の構成例に対して、電流波形整形機能を有する電流差分補償値算出手段28を備えた例を示している。
図22は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第3の構成例を示す図である。また、図23は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第3の構成例におけるスイッチング制御手段の一構成例を示す図である。この図22および図23に示す構成例は、図10および図11に示す実施の形態2にかかる電力変換装置の第1の構成例に対して、電流波形整形機能を有する電流差分補償値算出手段28を備えた例を示している。
実施の形態2において説明した(16)式〜(19)式から、各スイッチング素子5a,5bのオンデューティがΔDonだけ変化したとき、各スイッチング素子5a,5bのスイッチング周期の1/2におけるILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))の電流値変化分をΔIdcとすると、これらの関係は、下記(23)式で表される。
ΔDon=ΔIdc*L/(Tsw*(4*Vds−3Vo)) ・・・(23)
上記(23)式のΔIdcに所望の母線電流補償指令値(ΔIdc*)を代入すると、ILaとILbとの加算電流波形(つまり、母線電流(Idc)の波形)が所望の波形となるように整形するためのオンデューティ補償指令値(ΔDon*)は、下記(24)式で表される。
ΔDon=(ΔIdc*)*L/(Tsw*(4*Vds−3Vo))
・・・(24)
したがって、図22に示すように第1のチョッパ回路部3aと第2のチョッパ回路部3bとを並列接続した構成において、ILaとILbとの加算電流(つまり、母線電流(Idc))を用いてオンデューティの補償を行う場合には、所望のΔIdc*を求め、電流差分補償値算出手段28において、上記(24)式を用いてオンデューティ補償指令値(ΔDon*)を演算すればよい。
図24は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第4の構成例を示す図である。また、図25は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第4の構成例におけるスイッチング制御手段の第1の構成例を示す図である。この図24および図25に示す構成例は、図13および図14に示す実施の形態2にかかる電力変換装置の第2の構成例に対して、電流波形整形機能を有する電流差分補償値算出手段28を備えた例を示している。
図26は、実施の形態3にかかる電力変換装置の第4の構成例におけるスイッチング制御手段の第2の構成例を示す図である。この図26に示す構成例では、図25に示した電流差分補償値算出手段28に代えて、各チョッパ回路部3a,3bにそれぞれ対応した(つまり、各スイッチング素子5a,5bにそれぞれ対応した)電流差分補償値算出手段28a,28bを備えた例を示している。
この場合、各電流差分補償値算出手段28a,28bにおいてそれぞれ各昇圧リアクタ4a,4bを流れる各リアクタ電流ILa,ILbの波形を所望のリアクタ電流補償指令値であるΔILa*,ΔILb*とするための各オンデューティ補償指令値(ΔDona*,Donb*)は、下記(25)式、(26)式で表される。
ΔDona*=(ΔILa*)*La/(Vo*Tsw) ・・・(25)
ΔDonb*=(ΔILb*)*Lb/(Vo*Tsw) ・・・(26)
このようにすれば、例えば、各チョッパ回路部3a,3bの構成部品の特性バラツキなどで起こる電流アンバランスなどを補償することが可能となる。
以上説明したように、実施の形態3の電力変換装置によれば、母線電流(あるいはリアクタ電流)が所望の波形となるような母線電流補償指令値(あるいはリアクタ電流補償指令値)からオンデューティ補償指令値を算出し、そのオンデューティ補償指令値に基づいてさらにオンデューティを補償するようにしたので、電源入力電流に含まれる高調波電流ができるだけ少なくなるように、母線電流(あるいはリアクタ電流)の波形を整形することができ、高調波規制をクリアするために設置するアクティブフィルタなどの高調波抑制機器の台数や容量を削減でき、高調波規制対策費用を削減することができる。
また、複数の各スイッチング素子にそれぞれ対応した電流差分補償値算出手段を備えることにより、各チョッパ回路部の構成部品の特性バラツキなどで起こる電流アンバランスなどを補償することが可能となるなど、より柔軟な対応が可能となる。
なお、上述した実施の形態にかかる電力変換装置において、チョップ部に用いるスイッチング素子としては、ワイドバンドギャップ半導体を用いてもよい。ワイドバンドギャップ半導体とは、シリコン系スイッチング素子に比べ、バンドギャップの広い、低抵抗(低損失)の半導体素子で、炭化珪素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)、ダイヤモンド素子などが挙げられる。これらを用いることで、損失低減を図ることができる。
また、ワイドバンドギャップ半導体では、スイッチング時の損失が少なく、スイッチング周波数を高くすることができるため、制御周波数も高くすることが望ましいが、演算手段による演算時間に余裕がなくなり負担となる。本実施の形態によれば、演算手段での演算負荷を軽減できるため、ワイドギャップバンド半導体の特長を活かした、高周波スイッチングに対応でき、低損失化を図ることができる。
また、高周波スイッチングの場合には、上述したような、昇圧リアクタ4における電流リプルが低減するため、その分、昇圧リアクタのインダクタンス値を下げることも可能となる。この場合、昇圧リアクタの小型化につながり、ひいては、コスト低減にもつながる。
また、上述した実施の形態で説明した電力変換装置を適用したモータ駆動制御装置を空気調和機や冷蔵庫、冷凍庫等に適用し、これらの送風機もしくは圧縮機のモータの少なくとも一つを駆動するのに用いても同様の効果が得られる。
さらに、上述した実施の形態にかかる電力変換装置は、例えば、複数台並列接続した空気調和機を駆動するような、マルチ型の空気調和機のような機器にも有効である。通常、ビルなどに設置されるマルチ型の空気調和機は、部屋の広さなどによって、異なる容量の空気調和機が複数台設置される。このうちの、少なくとも1台の機器に本実施の形態を適用していれば、他の機器が発生する高調波を相殺もしくは低減でき、ビル全体としての高調波量を減らすことができる。このとき本実施の形態を適用する機器は、複数台設置される機器のうち、比較的大容量のものであることが望ましい。これは、大容量の機器であれば、使用される素子の電流容量も大きく、他の機器の高調波を抑制するだけの電流変化の融通が利くからである。
また、マルチ型の空気調和機に限らず、並列に接続される機器の電流や、電源全体の電流が分かる構成であれば、高調波を相殺もしくは低減する対象となる機器には制限はない。
また、整流器にて整流された電圧を電源として並列に別の機器が接続される場合にも適用できる。例えば、空気調和機や冷蔵庫など、圧縮機を駆動する部分と、送風機を駆動する部分とが、少なくとも1台ずつ、整流された電圧を電源として並列に接続される場合、電源入力電流は、双方の加算電流となる。このとき、例えば、電流容量が比較的大きい圧縮機駆動部分にのみ、本実施の形態を適用した場合、送風機駆動部分の発生する高調波量を低減すべく、圧縮機駆動部分にて昇圧リアクタに流れる電流波形を整形することで、電源電流の高調波量を低減でき、上記と同様に、高調波規制対策費用を削減することができる。
また、上記では、上述した実施の形態にかかる電力変換装置を空気調和機や冷蔵庫に適用する例を挙げて、その効果を説明したが、同様に接続される機器に上述した実施の形態にかかる電力変換装置を適用する場合には、同様の効果が得られることは言うまでもない。
また、上述した実施の形態では、母線に流れる母線電流とリアクタに流れるリアクタ電流とを分けて説明したが、チョッパ回路部を1つ有する構成では(図1、図6、図7、図9、図17、図20)、母線電流とリアクタ電流とが同値であることは言うまでもない。また、チョッパ回路部を複数有する構成であっても(図10、図15、図22)、各チョッパ回路部に対して同一のオンデューティを補償する構成である場合には(図11、図16、図23)、各リアクタに流れるリアクタ電流の合計を母線電流として、その母線電流に基づいて、オンデューティおよびオンデューティの理論値を算出するように構成してもよいことは言うまでもない。また、チョッパ回路部を複数有する構成であり、且つ、各チョッパ回路部に対して異なるオンデューティを補償する構成である場合には(図13、図14、図24、図25、図26)、各リアクタに流れるリアクタ電流に基づいて、オンデューティを算出し、各リアクタ電流の合計を母線電流として、その母線電流に基づいて、オンデューティの理論値を算出するように構成すればよい。
なお、以上の実施の形態に示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能であることは言うまでもない。