<電動機駆動装置の構成>
図1は、電動機駆動装置の構成の一例を概略的に示している。電動機駆動装置は例えば電力変換器2と制御回路30と電圧検出部4を備えている。
電力変換器2はその入力側において直流母線LH,LLに接続されている。直流母線LH,LLの間には直流電圧Vdcが印加されており、電力変換器2には、この直流電圧Vdcが入力される。直流母線LHに印加される電位は、直流母線LLに印加される電位よりも高い。
図1に示すように、直流母線LH,LLの間には、コンデンサC1が接続されていてもよい。このコンデンサC1は、例えば、大きな静電容量を有する平滑コンデンサであってもよく、あるいは、小さな静電容量を有するコンデンサ(例えばフィルタコンデンサ)であってもよい。直流電圧VdcはこのコンデンサC1に印加されている。
図1に示すように、電動機駆動装置には、整流器1が設けられてもよい。整流器1はその入力側において交流電源E1に接続され、その出力側において直流母線LH,LLに接続される。整流器1は、交流電源E1から入力される交流電圧を整流して、整流後の直流電圧を直流母線LH,LLの間に出力する。整流器1は、例えばダイオード整流回路である。なお整流器1は、ダイオード整流回路に限らず、他の整流回路(例えば自励式整流回路または他励式整流回路)であってもよい。
図1の例では、交流電源E1は単相交流電源であり、2本の入力線を介して整流器1に接続されている。また図1に示すように、この入力線の一つの上にリアクトルL1が、コンデンサC1に対して電力変換器2とは反対側で、設けられていてもよい。このリアクトルL1は、入力線を流れる入力電流の高周波を抑制することができる。また、交流電源E1は単相交流電源に限らず、N(Nは3以上の整数)相交流電源であってもよい。換言すれば、整流器1はN相の整流器であってもよい。
電力変換器2は制御回路30から制御信号Sに基づいて、直流電圧Vdcを交流電圧に変換する。そして、電力変換器2はこの交流電圧を電動機M1へと出力する。電力変換器2は例えばインバータ回路である。図1の例では、電力変換器2として三相のインバータ回路が示されている。この電力変換器2は、例えば、スイッチング素子S1〜S6とダイオードD1〜D6とを備えている。
スイッチング素子S1〜S6は例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタである。スイッチング素子S1,S2は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されており、スイッチング素子S3,S4は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されており、スイッチング素子S5,S6は直流母線LH,LLの間で相互に直列に接続されている。スイッチング素子S1〜S6は制御回路30からの制御信号Sに基づいて導通/非導通する。
ダイオードD1〜D6は、それぞれスイッチング素子S1〜S6に並列に接続されている。ダイオードD1〜D6の順方向は直流母線LLから直流母線LHへと向かう方向である。
なお、スイッチング素子S1〜S6は、直流母線LLから直流母線LHへと向かう順方向の寄生ダイオードを有していてもよい。このようなスイッチング素子S1〜S6としては、例えばMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)電界効果トランジスタを挙げることができる。この場合、ダイオードD1〜D6は設けられていなくてもよい。
スイッチング素子S1,S2を接続する接続点は出力線Puの一端に接続され、スイッチング素子S3,S4を接続する接続点は出力線Pvの一端に接続され、スイッチング素子S5,S6を接続する接続点は出力線Pwの一端に接続される。出力線Pu,Pv,Pwの他端は電動機M1に接続されている。
スイッチング素子S1〜S6が適切に制御されることによって、電力変換器2は直流電圧Vdcを交流電圧(図1の例では三相交流電圧)に変換し、変換後の交流電圧を、出力線Pu,Pv,Pwを介して電動機M1へと出力することができる。なお、図1では三相の電動機M1が例示されているものの、その相数はこれに限らない。換言すれば、電力変換器2は三相の電力変換器に限らない。
電動機M1は同期電動機であって、界磁(不図示)および電機子(不図示)を備えている。界磁は例えば永久磁石を有しており、電機子へ鎖交磁束を供給する。電機子は電機子巻線を有している。電力変換器2からの交流電圧が電機子巻線に印加されることにより、当該電機子巻線には交流電流が流れる。この交流電流によって、電機子は界磁へと回転磁界を印加することができる。界磁はこの回転磁界に応じて、電機子に対して相対的に回転する。
制御回路30は制御信号Sを電力変換器2(具体的にはスイッチング素子S1〜S6)へ出力して、電力変換器2の出力を制御し、ひいては電動機M1を制御する。
またここでは、制御回路30はマイクロコンピュータと記憶装置を含んで構成される。マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップ(換言すれば手順)を実行する。上記記憶装置は、例えばROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性メモリ(EPROM(Erasable Programmable ROM)等)、ハードディスク装置などの各種記憶装置の1つ又は複数で構成可能である。当該記憶装置は、各種の情報やデータ等を格納し、またマイクロコンピュータが実行するプログラムを格納し、また、プログラムを実行するための作業領域を提供する。なお、マイクロコンピュータは、プログラムに記述された各処理ステップに対応する各種手段として機能するとも把握でき、あるいは、各処理ステップに対応する各種機能を実現するとも把握できる。また、制御回路30はこれに限らず、制御回路30によって実行される各種手順、あるいは実現される各種手段又は各種機能の一部又は全部をハードウェアで実現しても構わない。
<直流電圧Vdcの脈動成分>
例えばスイッチング素子S1〜S6のスイッチングに起因して、直流電圧Vdcは脈動する。つまり直流電圧Vdcには、高周波たる脈動成分が含まれる。図2は、直流電圧Vdcの一例を模式的に示す図である。図2の例では、脈動成分の1周期分の直流電圧Vdcが示されている。本実施の形態では、このような脈動成分の振幅(つまり直流電圧Vdcの変動幅)の増大を制御によって抑制することを企図する。
ところで、図1の例では、整流器1の入力側のリアクトルL1と、整流器1の出力側のコンデンサC1とは、交流電源E1の出力端の間において直列に接続されるので、リアクトルL1およびコンデンサC1は共振回路を形成し得る。よって、直流電圧Vdcの脈動成分の振幅は、この共振回路による共振に起因して急激に増大する場合がある。本制御では、このような共振による脈動成分の振幅の増大も抑制することを企図する。そこで、以下では、脈動成分の振幅を抑制する本実施の形態の制御を、共振抑制制御と呼ぶことがある。ただし、本制御は必ずしも共振の発生を前提としない。共振がなくとも、大きな振幅を有する脈動成分が発生する場合もあり得るからである。
<共振抑制制御の基本的な考え方>
次に、共振抑制制御の基本的な考え方について説明する。共振抑制制御では、電力変換器2の出力電力を制御することで、電力変換器2の入力電圧たる直流電圧Vdcを制御する。具体的には、直流電圧Vdcの脈動成分の瞬時値の増大に応じて、電力変換器2の出力電力を増大させる。これにより、脈動成分の瞬時値の増大中において、電力変換器2からの出力電流、ひいては電力変換器2へ入力される直流電流が増大する。この直流電流の増大によって、直流電圧Vdcの脈動成分の更なる増大を抑制することができる。したがって、脈動成分の振幅を低減することができる。
逆に説明すると、脈動成分の瞬時値の低減に応じて、電力変換器2の出力電力を低減させる。これにより、脈動成分の瞬時値の低減中において、電力変換器2への直流電流が低減する。この直流電流の低減により、直流電圧Vdcの脈動成分の更なる低減を抑制することができる。これにより、脈動成分の振幅を低減することができる。
さて、電力変換器2の出力電力は理想的には電動機M1の出力と等しい。そして、この電動機M1の出力は出力トルクと回転速度との積で表される。よって、回転速度が一定であれば、出力トルクが大きいほど、出力は大きい。また、この出力トルクは電動機M1の一次磁束(後述)の大きさ、および、負荷角(後述)によって決まる。負荷角が一定であれば、一次磁束の大きさが大きいほど出力トルクは高い。
本実施の形態では、この一次磁束の大きさを直流電圧Vdcの脈動成分に基づいて制御することにより、上述のように出力電力を制御することを企図する。
<一次磁束>
共振抑制制御の具体的な説明の前に、まず、一次磁束について説明する。図3は、電動機M1における一次磁束[λ0](記号[]はベクトル量を表す:以下同様)と、界磁による電機子への鎖交磁束[Λa]との関係を示すベクトル図である。鎖交磁束[Λa]は例えば電動機M1が永久磁石を有している場合には当該永久磁石によって発生するし、電動機M1が界磁巻線を有している場合には当該界磁巻線に電流が流れることによって発生する。
図3では、α−β軸固定座標系、d−q軸回転座標系、M−T軸回転座標系およびMc−Tc軸回転座標系が、原点を一致させて表示されている。α−β軸固定座標系は、電動機M1の固定子(例えば電機子)に固定された座標系であり、α軸およびβ軸によって構成されている。β軸はα軸に対して位相が90度進む。d−q軸回転座標系は、電動機M1の回転子(例えば界磁)に固定された座標系であり、d軸およびq軸によって構成されている。d軸は鎖交磁束[Λa]と同相に設定され、q軸はd軸に対して位相が90度進む。よって、d−q軸回転座標系は電動機M1の回転に同期して回転する。M−T軸回転座標系は、電動機M1の回転に応じて回転する座標系であり、M軸およびT軸によって構成されている。M軸は一次磁束[λ0]と同相に設定され、T軸はM軸に対して位相が90度進む。Mc−Tc軸回転座標系は、制御で用いられる座標系(以下、制御座標系とも呼ぶ)であり、理想的にはM−T軸回転座標系と一致する。
一次磁束[λ0]は、電機子巻線に交流電流が流れて発生する電機子反作用による磁束[λi]と、鎖交磁束[Λa]との合成である。電機子巻線に流れる電流は、図3においては電流[ia]で示される。電機子反作用による磁束[λi]は、周知のように、電機子巻線に流れる電流と、電機子巻線のインダクタンスとで決定される。負荷角はd軸とM軸との間の角度である。
図3においては、参考のために、電圧[V],[Va]も示されている。電圧[V]は電動機M1に印加される電圧であり、電圧[Va]は電機子巻線のインダクタンス成分に印加される電圧である。よって、電圧[V]は、電機子巻線の抵抗成分の抵抗値Rと、電流[Ia]の積と、電圧[Va]との合成である。
<共振抑制制御の具体例>
制御回路30は、直流電圧Vdcの脈動成分の瞬時値の増大に応じて、一次磁束[λ0]の大きさが増大するように、一次磁束[λ0]の大きさを当該脈動成分に基づいて制御する。つまり、脈動成分の瞬時値が増大するほど、一次磁束[λ0]の大きさを増大して出力電力を増大させ、これにより、直流電圧Vdcの更なる増大を抑制するのである。言い換えれば、脈動成分の瞬時値が低減するほど、一次磁束[λ0]の大きさを低減して出力電力を低減し、これにより、直流電圧Vdcの更なる低減を抑制する。
なお以下では、一次磁束[λ0]の大きさを一次磁束λ0とも言う。また、脈動成分の瞬時値の増大を単に脈動成分の増大とも言い、脈動成分の瞬時値の低減を単に脈動成分の低減とも言う。
図4は、制御回路30の内部構成の一例を概略的に示す機能ブロック図である。制御回路30は磁束脈動重畳部31と一次磁束制御部32とを備えている。磁束脈動重畳部31には、一次磁束指令λ0c**および直流電圧Vdcが入力される。一次磁束指令λ0c**は一次磁束λ0についての指令であって、例えば外部から入力される。直流電圧Vdcは電圧検出部4によって検出される(図1も参照)。電圧検出部4は例えば電圧検出回路であって、直流電圧Vdcを検出し、その検出値を制御回路30へと出力する。磁束脈動重畳部31は、直流電圧Vdcの脈動成分の瞬時値の増大に応じて、一次磁束指令λ0c**を増大させる補正を行って、補正後の一次磁束指令λ0c*を生成する。
図5も、制御回路30の内部構成の一例を概略的に示す機能ブロック図であり、図5においては、磁束脈動重畳部31の内部構成の一例が示されている。例えば磁束脈動重畳部31は、脈動成分抽出部311と、一次磁束補正部312とを備えている。
脈動成分抽出部311には、電圧検出部4から直流電圧Vdcが入力される。脈動成分抽出部311は直流電圧Vdcからその脈動成分Vdchを抽出し、この脈動成分Vdchを一次磁束補正部312へと出力する。
例えば脈動成分抽出部311は、ローパスフィルタ313と、減算器314とを備えている。ローパスフィルタ313には、電圧検出部4からの直流電圧Vdcが入力される。ローパスフィルタ313は、直流電圧Vdcから脈動成分Vdchを除去して、除去後の直流電圧Vdc(つまり、直流電圧Vdcの低周波、例えば直流成分)を減算器314へと出力する。減算器314には、電圧検出部4からの直流電圧Vdcも入力される。減算器314は、電圧検出部4が出力する直流電圧Vdcから、ローパスフィルタ313の出力を減算して、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchを算出し、この脈動成分Vdchを一次磁束補正部312へと出力する。
なお脈動成分抽出部311は、図5の構成に替えて、ハイパスフィルタを有していてもよい。このハイパスフィルタには、電圧検出部4から直流電圧Vdcが入力される。ハイパスフィルタは直流電圧Vdcから低周波を除去して脈動成分Vdchを抽出し、この脈動成分Vdchを一次磁束補正部312へと出力する。
一次磁束補正部312には、一次磁束指令λ0c**も入力される。一次磁束補正部312は、脈動成分Vdchに応じて一次磁束指令λ0c**を補正して、一次磁束指令λ0c*を算出する。具体的には、一次磁束補正部312は、脈動成分Vdchの増大に応じて一次磁束指令λ0c*が増大するように、一次磁束指令λ0c**に対して補正を行う。言い換えれば、一次磁束補正部312は、脈動成分Vdchの低減に応じて一次磁束指令λ0c*が低減するように、一次磁束指令λ0c**に対して補正を行う。
図5に示すように、例えば一次磁束補正部312はゲイン部315と加算器316とを備えている。ゲイン部315には、脈動成分抽出部311から脈動成分Vdchが入力される。ゲイン部315は脈動成分VdchにゲインKを乗算して、その結果(K・Vdch)を加算器316へ出力する。ゲインKは例えば予め設定された正の値であってよく、例えば、制御回路30に属する所定の記憶媒体に記憶されている。加算器316には、一次磁束指令λ0c**も入力される。加算器316はゲイン部315からの出力と一次磁束指令λ0c**とを加算して、一次磁束指令λ0c*を算出する。以下の式は、図5に例示する一次磁束補正部312の演算を示している。
λ0c*=λ0c**+K・Vdch ・・・(1)
式(1)によれば、一次磁束指令λ0c*は脈動成分Vdchが増大するほど増大し、脈動成分Vdchが低減するほど低減する。より具体的には、一次磁束指令λ0c*は脈動成分Vdchの波形と同様に脈動する。よって、図5の磁束脈動重畳部31は一次磁束指令λ0c**に脈動成分Vdchを重畳している、とも説明できる。
また式(1)によれば、脈動成分Vdchが正であるときには、一次磁束指令λ0c**よりも大きく一次磁束指令λ0c*が算出され、脈動成分Vdchが負であるときには、一次磁束指令λ0c**よりも小さく一次磁束指令λ0c*が算出される。つまり、磁束脈動重畳部31は、直流電圧Vdcがその平均値よりも大きいときに、補正前の一次磁束指令λ0c**よりも大きく補正後の一次磁束指令λ0c*を算出し、直流電圧Vdcがその平均値よりも小さいときに、補正前の一次磁束指令λ0c**よりも小さく補正後の一次磁束指令λ0c*を算出してもよい。
磁束脈動重畳部31は一次磁束指令λ0c*を一次磁束制御部32へと出力する。一次磁束制御部32は、この一次磁束指令λ0c*に基づいて制御信号Sを生成し、制御信号Sを電力変換器2へ出力する(図1も参照)。電力変換器2は制御信号Sに基づいた交流電圧を電動機M1へと出力する。これにより、脈動成分Vdchの増大に応じて一次磁束λ0が増大するように、言い換えれば、脈動成分Vdchの低減に応じて一次磁束λ0が低減するように、一次磁束λ0が制御される。
次に、一次磁束指令λ0c*に基づく制御信号Sの生成方法の一例について述べる。図4を参照して、一次磁束制御部32は例えば速度制御部321と積分器322と磁束制御部323と座標変換部324と制御信号生成部325とを備えている。
速度制御部321には、回転速度指令ω0c**と電流iMc,iTcとが入力される。回転速度指令ω0c**は、制御座標系の回転速度についての指令であり、例えば外部から速度制御部321に入力される。制御座標系はMc−Tc軸回転座標系である(図3参照)。なお、この回転速度指令ω0c**は、例えば、電動機M1の回転速度についての回転速度指令に基づいて算出されればよい。あるいは、例えば回転速度指令ω0c**として、電動機M1の回転速度指令と同じ値を採用してもよい。
電流iMc,iTcは、電動機M1に流れる交流電流を、Mc−Tc軸回転座標系で表したものであり、それぞれ電流[ia]のMc軸成分およびTc軸成分である。電動機M1を流れる交流電流は電流検出部5によって検出される(図1も参照)。電流検出部5は例えば電流検出回路であって、出力線Pu,Pv,Pwをそれぞれ流れる電流iu,iv,iwを検出し、これらを座標変換部324へと出力する。座標変換部324は、Mc−Tc軸回転座標系の位相角θ0cも入力される。位相角θ0cはα−β軸固定座標系に対するMc−Tc軸回転座標系の位相角である(図3も参照)。座標変換部324は位相角θ0cに基づいて電流iu,iv,iwに対して座標変換を行って、電流iMc,iTcを算出する。
なお図1の例では、電流検出部5は電流iu,iv,iwを検出しているものの、いずれか二つを検出してもよい。電流iu,iv,iwの総和は理想的には零であるので、この二つの電流から残りの一つの電流を算出することができる。また図1の例では、電流検出部5は電流iu,iv,iwを直接に検出しているものの、直流母線LHまたは直流母線LLを流れる直流電流を検出してもよい。具体的には、電流検出部5は、コンデンサC1と電力変換器2との間において直流母線LHまたは直流母線LLを流れる直流電流を検出してもよい。この直流電流は、電流iu,iv,iwのうちスイッチング素子S1〜S6のスイッチパターンに応じた電流と一致する。よってスイッチパターンおよび直流電流に基づいて電流iu,iv,iwを把握できる。かかる電流検出は、いわゆる1シャント方式と呼ばれる。
速度制御部321は、回転速度指令ω0c**を電流iMc,iTcの少なくともいずれか一方に基づいて補正して、回転速度指令ω0c*を算出し、この回転速度指令ω0c*を積分器322および磁束制御部323へと出力する。具体的な一例として、速度制御部321は、電流iTcの高周波成分を抽出し、この高周波成分に所定の正のゲインを乗算して得られた補正量を、回転速度指令ω0c**から減算することで、回転速度指令ω0c*を算出する。
なお、この回転速度の補正は、電動機M1の安定的な運転に資するものの、必ずしも必要ではない。例えば速度制御部321は回転速度指令ω0c**をそのまま回転速度指令ω0c*として出力してもよい。言い換えれば、速度制御部321は設けられなくてもよい。
積分器322は回転速度指令ω0c*を積分してMc−Tc軸回転標系の位相角θ0cを算出し、この位相角θ0cを座標変換部324および制御信号生成部325へと出力する。この位相角θ0cに対しては、脈動成分Vdchに基づく補正が行われなくてもよい。
磁束制御部323は一次磁束指令λ0c*、回転速度指令ω0c*および電流iMc,iTcに基づいて、電圧指令VMc*,VTc*を生成し、これらの電圧指令VMc*,VTc*を制御信号生成部325へと出力する。電圧指令VMc*,VTc*は、電力変換器2が出力する交流電圧についての、Mc−Tc軸回転座標系における指令である。より具体的な一例として、磁束制御部323は、一次磁束指令λ0c*についてフィードフォワード制御を行って、電圧指令VMc*,VTc*を生成してもよい。以下、具体例について説明する。
図6は磁束制御部323の内部構成の一例を概略的に示す機能ブロック図である。例えば磁束制御部323は演算部326と電圧降下算出部327と加算器328とを備えている。図6の例においては、一次磁束指令λ0c*に替えて一次磁束指令{λMc*,λTc*}(ただし{}内は、ベクトルの要素を示す)が示されている。一次磁束指令λMc*は一次磁束指令のMc軸成分であり、一次磁束指令λTc*は一次磁束指令のTc軸成分である。この一次磁束指令λTc*は零に設定されてもよい。この場合、一次磁束指令λMc*が一次磁束指令λ0c*に一致する。このように一次磁束指令λTc*を零に設定すれば、後述する演算部326の演算を簡易にできる。また、一次磁束指令λTc*が零に設定されていない場合には、磁束脈動重畳部31は補正前の一次磁束指令λMc**,λTc**の両方に対して、上述と同様の脈動成分Vdchに基づく補正を行って、一次磁束指令λMc*,λTc*を算出すればよい。
演算部326は、一次磁束指令{λMc*,λTc*}に、次で説明する2行2列の行列を乗算する。即ち、この行列においては、第1行第1列の要素および第2行第2列の要素が「s(微分演算子)」であり、第1行第2列の要素が「−ω0c*」であり、第2行第1列の要素が「ω0c*」である。演算部326は算出結果を加算器328に出力する。
電圧降下算出部327には、電流iMc,iTcが入力される。電圧降下算出部327は電流iMc,iTcの各々に電機子巻線の抵抗成分の抵抗値Rを乗算し、その結果{R・iMc,R・iTc}を加算器328に出力する。抵抗値Rは、例えば予め設定されて、例えば、制御回路30に属する所定の記憶媒体に記録されている。加算器328は、演算部326からの算出結果と、電圧降下算出部327からの算出結果とを加算して、電圧指令VMc*,VTc*を算出し、これらを制御信号生成部325へ算出する。以下の式は、図6に例示する磁束制御部323の演算を示している。
VMc*=R・iMc+s・λMc*−ω0c*・λTc* ・・・(2)
VTc*=R・iTc+s・λTc*+ω0c*・λMc* ・・・(3)
式(2)および式(3)は、電動機M1の電圧方程式に相当する。これらの式(2)および式(3)によれば、電圧指令VMc*,VTc*がフィードフォワード制御によって算出されていることが理解できる。
なお式(2)および式(3)の第1項はそれぞれの第2項および第3項に比べて小さい場合がある。例えば回転速度指令ω0c*が高い場合、当該第1項は小さい。このような場合には、式(2)および式(3)の第1項を省略してもよい。言い換えれば、電圧降下算出部327を設けなくてもよい。
制御信号生成部325には、電圧指令VMc*,VTc*および位相角θ0cが入力される。制御信号生成部325は電圧指令VMc*,VTc*および位相角θ0cに基づいて制御信号Sを生成し、制御信号Sを電力変換器2へと出力する。具体的な一例を説明する。例えば制御信号生成部325は位相角θ0cを用いて電圧指令VMc*,VTc*に対して座標変換を施して、三相の電圧指令を生成する。そして制御信号生成部325はこの三相の電圧指令の各々に対して直流電圧Vdcを除算して、三相の電圧指令を規格化する。制御信号生成部325は規格化後の電圧指令と所定のキャリアとの比較に基づいて、制御信号Sを生成する。このような制御信号Sの生成方法はパルス幅変調方式で用いられる方法である。
以上のように、本実施の形態によれば、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの増大に応じて一次磁束λ0が増大するように、一次磁束λ0が制御される。言い換えれば、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの低減に応じて一次磁束λ0が低減するように、一次磁束λ0が制御される。よって、脈動成分Vdchの振幅(つまり直流電圧Vdcの変動幅)を低減することができる。
比較例として、例えば特許文献1に記載のように、脈動成分Vdchに基づいて回転速度を制御する場合を考慮する。この制御において、回転速度の応答性は、電動機M1が駆動する負荷(例えば圧縮機)のイナーシャに起因して低くなる。一方で、一次磁束λ0はイナーシャの影響を受けないので、高い応答性で一次磁束λ0を制御できる。そして、高い応答性で一次磁束λ0を制御すれば、脈動成分Vdchの振幅をより適切に低減することができる。
また、電動機M1の電圧方程式に鑑みると、磁束の微分が電圧に相当するので、一次磁束λ0について上述のようにフィードフォワード制御を行いやすい。フィードフォワード制御によれば、高い応答性で一次磁束λ0を制御できる。よって、脈動成分Vdchの振幅をより適切に低減することができる。
また、上述の例では、一次磁束λ0についての一次磁束指令λ0c**を補正しており、簡易に制御を実現できる。
なお図5において、電圧検出部4および脈動成分抽出部311からなる部分は、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchを検出する脈動成分検出部6を形成する、とも説明できる。また、一次磁束補正部312および一次磁束制御部32からなる部分は、脈動成分Vdchの増大に応じて一次磁束の大きさを増大させるように、一次磁束の大きさを制御する制御回路3を形成する、とも説明できる。脈動成分検出部6と制御回路3とは纏めて、電力変換器2を制御する制御装置として機能する。
<脈動成分Vdch>
コンデンサC1は、上述のように、小さい静電容量を有するコンデンサであっても構わない。この場合、直流電圧VdcはコンデンサC1によって十分に平滑されず、整流器1の整流に起因して脈動する。例えば交流電源E1が単相交流電圧を出力し、整流器1が全波整流を行う場合には、直流電圧Vdcは単相交流電圧の周波数の2倍の周波数(以下、整流周波数と呼ぶ)で脈動する。また、交流電源E1がN相交流電圧を出力し、整流器1が全波整流を行う場合には、直流電圧VdcはN相交流電圧の周波数の2N倍の周波数で脈動する。
一方で、スイッチング素子S1〜S6のスイッチング周波数は整流周波数よりも高いので、これに起因して生じる脈動成分の周波数は、整流周波数よりも高い。
さて、本実施の形態では、例えば、整流成分よりも高い脈動成分を低減の対象としているものの、低減の対象となる周波数成分は任意に設定してもよい。例えば、リアクトルLとコンデンサC1とによる共振回路の共振周波数を低減の対象としてもよい。かかる周波数は、脈動成分抽出部35のフィルタのカットオフ周波数などによって設定される。
<電動機駆動装置の他の例>
図7は、第2の実施の形態にかかる電動機駆動装置の構成の一例を概略的に示す図である。図7の例においては、電動機駆動装置は、図1の電動機駆動装置と比較して、リアクトルL2を更に備えている。リアクトルL2は、整流器1とコンデンサC1との間において、直流母線LHの上に設けられている。なおリアクトルL2は、整流器1とコンデンサC1との間において、直流母線LLの上に設けられてもよい。
コンデンサC1は、小さい静電容量を有するコンデンサである。よって、直流電圧Vdcは脈動成分Vdchと整流成分とを含む。
この場合、リアクトルL1の電圧VLは脈動成分Vdchに相当する。その理由について簡単に述べる。まず、直流電圧Vdcは整流成分Vrecと脈動成分Vdchとの和(Vrec+Vdch)である。そして、例えばリアクトルL2のコンデンサC1側の一端の電位を基準電位とした電圧VLを考慮すると、キルヒホッフの法則により、整流器1の出力電圧は電圧VLと直流電圧Vdcの和と等しい。整流器1の出力電圧は、整流成分Vrecとほぼ等しいと考えることができるので、Vrec=Vdc+VLが成立する。Vdc=Vrec+Vdchをこの式に代入すると、VL=−Vdchが成立する。つまり、電圧VLは理想的には脈動成分Vdchの逆相となる。言い換えれば、電圧VLの正負は脈動成分Vdchと正負と相違する。
同様に、リアクトルL2の整流器1側の一端の電位を基準電位とした電圧VLを考慮すると、キルヒホッフの法則により、Vrec=Vdc−VLが成立する。Vdc=Vrec+Vdchをこの式に代入すると、VL=Vdchが成立する。つまり、この場合、電圧VLは理想的には、脈動成分Vdchと一致する。
以上のように、電圧VLは脈動成分Vdchに相当する。図7の例では、脈動成分検出部6は、電圧検出回路であって、リアクトルL2の電圧VLを検出する。より具体的な一例として、脈動成分検出部6は、コンデンサC1側のリアクトルL2の一端の電位を基準電位としたリアクトルL2の電圧VLを、脈動成分Vdchの逆相として検出する。あるいは、脈動成分検出部6は、リアクトルL2の他端の電位を基準電位としたリアクトルL2の電圧VLを、脈動成分Vdchとして検出する。脈動成分検出部6は、検出した電圧VLを制御回路3へと出力する。
制御回路3は電圧VLに基づいて一次磁束λ0を制御する。例えば電圧VLが脈動成分Vdchと逆相である場合、制御回路3は、電圧VLの瞬時値の増大に応じて、一次磁束λ0を低減するように、言い換えれば、電圧VLの瞬時値の低減に応じて、一次磁束λ0を増大するように、一次磁束λ0を制御する。つまり、電圧VLの正負が脈動成分Vdchの正負と逆であるので、電圧VLの増減と一次磁束λ0の増減との関係を、脈動成分Vdchの増減と一次磁束λ0の増減との関係と逆にするのである。
具体的には、磁束脈動重畳部31は、以下の式を用いて一次磁束指令λ0c**を算出してもよい。
λ0c*=λ0c**−K・VL ・・・(4)
また、例えば電圧VLが脈動成分Vdchと同相である場合、制御回路3は、電圧VLの瞬時値の増大に応じて、一次磁束λ0を増大するように、言い換えれば、電圧VLの瞬時値の低減に応じて、一次磁束λ0を低減するように、一次磁束λ0を制御する。より具体的には磁束脈動重畳部31は、以下の式を用いて一次磁束指令λ0c**を算出してもよい。
λ0c*=λ0c**+K・VL ・・・(5)
これにより、直流電圧Vdcの脈動成分Vdchの振幅を低減できる。しかも、図7の脈動成分検出部6においては、直流電圧Vdcに対してフィルタを施す処理が不要であるので、処理を簡易にできる。言い換えれば、簡易に脈動成分Vdchを検出できる。
他方、図5のようにローパスフィルタ313を採用したり、あるいは不図示のハイパスフィルタを採用したりすれば、フィルタのカットオフ周波数を調整することで、脈動成分Vdchの周波数を適宜に調整することができる。つまり、低減の対象となる周波数帯域を容易に調整できる。
本電動機駆動装置および制御回路3では、その発明の範囲内において、相互に矛盾しない限り、上記の種々の実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。例えば図6の例においては、磁束制御部323はフィードフォワード制御のみを行っているものの、一次磁束についてのフィードバック制御を併用してもよい。