JP2014015638A - 熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板 - Google Patents

熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】強度ばらつきが少なく、靭性に優れるとともに耐遅れ破壊性にも優れる熱間プレス鋼板部材を提供する。
【解決手段】C:0.26%以上0.35%以下、Mn:1.5%以上2.0%以下、Nb:0.01%以上1.0%以下、B:0.0001%以上0.01%以下を含有するとともに、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Si:0.5%以下、Cu:1%以下、V:1%以下、Mo:1%以下、Al:1%以下およびN:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有し、さらに、式(1)式:3.42N+0.001≦Ti≦3.42N+0.5を満足するTiを含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、旧オーステナイト平均粒径が10μm以下である鋼組織を有し、引張強さが1.8GPa以上2.0GPa以下である機械特性を有する熱間プレス鋼板部材である。式(1)中のTiおよびNは鋼中の各元素の含有量を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板に関する。より詳しくは、本発明は、自動車のボデー構造部品、足回り部品等を始めとする機械構造部品等に好適な、強度ばらつきが少なく、靭性にも優れ、かつ耐遅れ破壊性に優れる高強度熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板に関する。
近年、自動車の軽量化のため、車体に使用する鋼材の高強度化を図り、使用重量を減ずる努力が進められている。自動車に広く使用される薄鋼板においては、強度の増加に伴い、プレス成形性が低下し、複雑な形状を製造することが困難になる。具体的には、延性が低下し、加工度が高い部位で破断が生じる、あるいは、スプリングバックや壁反りが大きくなり、寸法精度が劣化する、といった問題が発生する。したがって、高強度、特に780MPa級以上の引張強度(以下、「TS」ともいう。)を有する鋼板を用いて、プレス成形により部品を製造することは容易ではない。
一方、特許文献1に示されているように、加熱した鋼板をプレス成形する熱間プレスと呼ばれる方法では、鋼板が高温で軟質、高延性になっているため、複雑な形状を寸法精度よく成形することが可能である。さらに、鋼板をオーステナイト単相域に加熱しておき、金型内で急冷(焼入れ)することによって、マルテンサイト変態による部材の高強度化が同時に達成できる。したがって、このような熱間プレス法は、部材の高強度化と鋼板の成形性とを同時に確保できる優れた成形方法である。
また、特許文献2には、室温で予め所定の形状に成形後、オーステナイト域に加熱し、金型内で急冷することによって、部材の高強度化を達成する予プレスクエンチ法が開示されている。このような熱間プレスの一態様である予プレスクエンチ法は、金型により部材を拘束して熱歪による変形を抑制することができるので、部材の高強度化と高い寸法精度とを同時に確保することができる優れた成形方法である。
このように熱間プレスは優れた成形方法であることから、近年ではその適用が拡大するとともに、熱間プレスに関する研究が一段と進められるようになってきている。
ところで、熱間プレスにより得られる部材のミクロ組織は、マルテンサイト単相系組織であり、その強度はあまりばらつかないものと従来は考えられていた。
しかし、非特許文献1にあるように、同一部材でも部位により強度に大きな差が生じることが、最近の研究により明らかにされてきた。このことは、換言すると、熱間プレス条件によっては、大きな強度低下の恐れがあることを示唆する。
英国特許第1490535号明細書 特開平10−96031号公報
鉄と鋼、社団法人日本鉄鋼協会、2010、第96巻、第6号、378−385頁
このような課題への対応として、単純に、鋼板に焼入れ性向上元素等を多量に添加することにより強度低下を防ぐ方法が一応考えられる。しかし、焼入れ性向上元素等の多量添加は、一般に靭性や耐遅れ破壊性の低下を招くため、実用的ではない。
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、強度ばらつきが少なく、靭性に優れるとともに耐遅れ破壊性にも優れる熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板を提供することである。
本発明者らは、熱間プレス鋼板部材に関して、強度ばらつきを低減させるとともに優れた靭性と耐遅れ破壊性を確保すべく鋭意検討を行った。その結果、適正な鋼板成分を有する鋼材を用い、かつ適正な条件で熱間プレスを施すことにより、上記の各特性を満足させる方法を新たに見出した。本発明の要旨は以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.26%以上0.35%以下、Mn:1.5%以上2.0%以下、Nb:0.01%以上1.0%以下、B:0.0001%以上0.01%以下を含有するとともに、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Si:0.5%以下、Cu:1%以下、V:1%以下、Mo:1%以下、Al:1%以下およびN:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有し、さらに、下記式(1)式を満足するTiを含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
旧オーステナイト平均粒径が10μm以下である鋼組織を有し、
引張強さが1.8GPa以上2.0GPa以下である機械特性を有する
ことを特徴とする、熱間プレス鋼板部材。
3.42N+0.001≦Ti≦3.42N+0.5 (1)
ここで、式(1)中のTiおよびNは、鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
(2)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ni:3%以下を含有することを特徴とする(1)項に記載の熱間プレス鋼板部材。
(3)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Bi:0.02%以下を含有することを特徴とする、(1)項または(2)項に記載の熱間プレス鋼板部材。
(4)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする、(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材。
(5)(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼材をAc点以上(Ac点+100℃)以下の温度域に加熱し、前記加熱の完了から熱間プレスの開始までに前記鋼材が空冷に曝される時間を15秒間未満として熱間プレスを施し、上部臨界冷却速度以上の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする、熱間プレス鋼板部材の製造方法。
(6)(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼板であって、(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材の素材としての用途に供されることを特徴とする、熱間プレス用鋼板。
本発明により、強度ばらつきが少なく、靭性に優れるとともに耐遅れ破壊性にも優れる熱間プレス鋼板部材およびその製造方法ならびに熱間プレス用鋼板が提供される。
図1は、4点曲げ遅れ破壊試験の状況を示す説明図である。 図2は、熱間プレス試験の要領を示す説明図である。 図3は、円柱試験片を示す説明図である。
1.化学組成
本発明に係る熱間プレス鋼板部材(以下、単に「鋼板部材」ともいう。)および熱間プレス用鋼板の化学組成を上記のように規定した理由を説明する。以下の説明において、各合金元素の含有量を表す「%」は、特に断りがない限り質量%を意味する。
(C:0.26%以上0.35%以下)
Cは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後の強度を主に決定する非常に重要な元素である。特に、熱間プレス後の強度でTS1.8GPa以上を確保するには、C含有量を少なくとも0.26%とする必要がある。したがって、C含有量は0.26%以上とする。好ましくは0.28%以上である。一方、C含有量が0.35%を超えると、熱間プレス後の強度が高くなりすぎて、靱性劣化が著しくなる。したがって、C含有量は0.35%以下とする。好ましくは0.33%以下である。
(Mn:1.5%以上2.0%以下)
Mnは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。しかし、Mn含有量が1.5%未満ではその効果は十分ではない。したがって、Mn含有量は1.5%以上とする。一方、Mn含有量が2.0%を超えると、その効果は飽和するとともに、熱間プレス後の靭性や耐遅れ破壊性を大幅に劣化させてしまう。したがって、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.7%以下である。
(Nb:0.01%以上1.0%以下)
Nbは、鋼板をAc点以上に加熱したときに、再結晶を抑制するとともに微細な炭化物を形成してオーステナイト粒を細粒にするため、熱間プレス後の靱性を大きく改善する作用を有する。しかし、Nb含有量が0.01%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Nb含有量は0.01%以上とする。好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.04%以上である。一方、Nb含有量が1.0%超になると、上記作用による効果は飽和し、いたずらにコスト増を招く。したがって、Nb含有量は1.0%以下とする。好ましくは0.15%以下、さらに好ましくは0.1%以下である。
(B:0.0001%以上0.01%以下)
Bは、鋼の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後の強度の安定確保効果をさらに高めるのに有効な元素である。また、粒界に偏析して粒界強度を高め、靱性や耐遅れ破壊性を向上させる点でも重要な元素である。さらに、熱間プレスに供する際の加熱工程におけるオーステナイトの粒成長を抑制することにより、靭性を向上させる作用をも有する。B含有量が0.0001%未満では上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、B含有量は0.0001%以上とする。好ましくは、0.001%以上である。
一方、B含有量が0.01%を超えると、上記作用による効果は飽和してしまい、コスト的に不利となる。したがって、B含有量は0.01%以下とする。
なお、Bの粒界偏析量は、熱間プレスに供する際のオーステナイト粒径の影響を受ける。すなわち、上記オーステナイト粒径が小さくなるほど、Bの偏析サイトが増加するため、より多くのBが偏析することが可能となる。一方、上記オーステナイト粒径が大きくなるほど、Bの偏析サイトが減少するため、Bの偏析可能量が少なくなる。したがって、B含有量の上限は熱間プレスに供する際のオーステナイト粒径、すなわち熱間プレス鋼板部材における旧オーステナイト粒径に応じて決定することが、B偏析による作用効果を効率的に得ることができるので好ましい。具体的には、下記式(2)を満足することが好ましい。
B含有量(ppm)≦exp(4.57−0.571×ln(r)) (2)
ここで、rは旧オーステナイト粒の平均切片長さ(μm)である。
なお、上記式(2)を満足させるには、化学組成と熱間プレスに供する際のオーステナイト粒径との関係を経験的に求めておき、化学組成と熱間プレス条件とを調整すればよい。
(Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Si:0.5%以下、Cu:1%以下、V:1%以下、Mo:1%以下、Al:1%以下およびN:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上)
これらの元素は、鋼の焼入れ性を高め,かつ熱間プレス後の強度の安定確保に効果の有る元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、上記上限値以上に含有させてもその効果は小さく、いたずらにコスト増を招くため、各合金元素の含有量は上記範囲とする。なお、上記効果をより確実に得るには、Cr:0.01%以上、P:0.0001%以上、S:0.0001%以上、Si:0.01%以上、Cu:0.01%以上、V:0.01%以上、Mo:0.01%以上、Al:0.01%以上およびN:0.0001%以上の少なくとも一つを満足させることが好ましい。
(3.42N+0.001≦Ti≦3.42N+0.5)
Tiは、鋼中のNを固定することにより、Bによる作用効果を向上させる作用を有する。Ti含有量が、(3.42N+0.001)%未満では、上記作用による効果を得ることが困難である。したがって、Ti含有量は(3.42N+0.001)%以上とする。好ましくは(3.42N+0.02)%以上である。一方、Ti含有量が(3.42N+0.5)%を超えると、Ti系析出物が多量に生成してしまい、靭性を劣化させる。したがって、Ti含有量は(3.42N+0.5)以下とする。好ましくは(3.42N+0.08)%以下である。
(Ni:3%以下)
Niは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。さらに、劈開破壊強度を上昇させ、靭性を大きく改善する効果を有する。さらには耐遅れ破壊性を改善する効果を有する。したがって、Niを含有させてもよい。しかし、Ni含有量が3%を超えるとその効果は飽和し、かつコスト増を招く。したがって、Ni含有量は3%以下とする。好ましくは1.0%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ni含有量は0.01%以上とすることが好ましく、0.1%以上とすることがさらに好ましい。
(Bi:0.02%以下)
Biは、鋼板の焼入れ性を高め、かつ熱間プレス後の強度を安定して確保するために、非常に有効な元素である。また組織を均一にし、熱間プレス後の靭性を一層高める作用を有する元素でもある。さらには鋼板中への水素侵入を抑制し、耐遅れ破壊性を改善する効果も有する。したがって、Biを含有させてもよい。しかし、Bi含有量が0.02%を超えると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になる。したがって、Bi含有量は0.02%以下とする。好ましくは0.015%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.002%以上とすることがさらに好ましい。
(Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上)
これらの元素は、製鋼時における介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、熱間プレス後の靭性を高める作用を有する元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかし、いずれも0.01%を超えて含有させると、表面性状の劣化が顕在化する場合がある。したがって、各元素の含有量はそれぞれ上記の通りとする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、これらの元素の少なくとも一つの含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
ここで、REMは、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素を指し、上記REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加される。
2.鋼組織
熱間プレス鋼板部材において、旧オーステナイト平均粒径が10μm超では、良好な靭性を確保することが困難である。したがって、旧オーステナイト平均粒径は10μm以下とする。好ましくは8μm以下である。良好な靭性を確保する観点からは、旧オーステナイト平均粒径は細粒であるほど好ましい。したがって、旧オーステナイト平均粒径の下限は特に規定する必要はないが、通常は3μm以上である。
なお、熱間プレス用鋼板は、後述するように、熱間プレスの際にオーステナイト域に加熱され、その温度域でプレス成形されることが多いため、熱間プレス用鋼板としての機械的性質はあまり重要ではなく、鋼組織についても特に規定する必要はない。したがって、熱間プレス用鋼板として、熱延鋼板、冷延鋼板(フルハード材および焼鈍材)、めっき鋼板のいずれを使用してもよく、その製造方法については特に限定はしない。例えばめっき鋼板としては、アルミニウム系めっき鋼板や亜鉛系めっき鋼板等が挙げられる。
3.機械特性
引張強さが1.8GPa未満では、近年のさらなる高強度化のニーズに応えることができず、また、靭性や耐遅れ破壊性がさほど問題になることはない。したがって、熱間プレス鋼板部材の引張強さは1.8GPa以上とする。
一方、引張強さが2.0GPa超では、良好な靭性や耐遅れ破壊性を確保することが困難となる。したがって、熱間プレス鋼板部材の引張強さは2.0GPa以下とする。
4.製造方法
次に、上記の特徴を有する本発明に係る熱間プレス鋼板部材の好ましい製造方法について説明する。
熱間プレスに供する鋼材の加熱温度がAc点未満では、鋼組織の一部がオーステナイト化していないため、当該部位について焼入れによる高強化を図ることができず、熱間プレス鋼板部材の引張強さを1.8GPa以上とすることが困難となる。したがって、熱間プレスに供する鋼材の加熱温度はAc点以上とする。
一方、熱間プレスに供する鋼材の加熱温度が(Ac点+100℃)超では、オーステナイトの粒成長が過度に進行してしまい、熱間プレス鋼板部材の鋼組織について旧オーステナイト平均粒径を10μm以下とすることが困難となる。したがって、熱間プレスに供する鋼材の加熱温度は(Ac点+100℃)以下とする。
熱間プレスに供する鋼材をAc点以上(Ac点+100℃)以下の温度域に保持する保持時間は特に規定しないが、鋼材のオーステナイト化を確実に進行させる観点からは1分間以上とすることが好ましく、オーステナイトの粒成長を抑制する観点からは10分間以下とすることが好ましい。
熱間プレスに供する鋼材の加熱方式は特に規定する必要はなく、炉加熱、高周波加熱、通電加熱等により、鋼材は数℃/秒〜数百℃/秒で加熱される。
加熱された鋼材には、その後熱間プレスが施されるが、加熱完了から熱間プレス開始までの鋼材を搬送する間に鋼材は通常空冷に曝される。このため、搬送時間が長すぎるとフェライト変態が生じてしまい、熱間プレス鋼板部材の引張強さを1.8GPa以上とすることが困難となる。上記空冷における冷却速度はおよそ数十℃/秒程度であり、このような冷却速度に対してフェライト変態を発生させないようにするには、上記化学組成を有する鋼材であれば、加熱完了から熱間プレス開始までの時間を15秒間未満とすればよい。したがって、前記加熱の完了から熱間プレスの開始までに前記鋼材が空冷に曝される時間を15秒間未満として熱間プレスを施す。
熱間プレスにおける鋼材の冷却は、熱間プレス鋼板部材をマルテンサイト主体の組織として熱間プレス鋼板部材の引張強さを1.8GPa以上とするために重要である。したがって、熱間プレスにおける鋼材の冷却速度は上部臨界冷却速度以上として室温まで冷却する。
このようにして得られる鋼組織は、ラスマルテンサイトおよびオートテンパマルテンサイトが単独または混在した組織となるが、不可避的に数%の残留オーステナイトやベイナイトなどが混入する場合がある。
以下に本発明の実施例について説明する。
表1に示す化学組成を有する実験室にて溶製したスラブを1250℃で30分間加熱し、900℃以上で熱間圧延を行い、板厚4mmの鋼板とした。熱間圧延後は、600℃まで水スプレー冷却したのち炉に装入し、600℃で30分間保持した後、20℃/時で室温まで徐冷することにより、熱延巻き取り工程を模擬した。得られた熱延板は、酸洗によりスケールを除去した後、冷間圧延にて板厚2.6mmとした。
このようにして得られた鋼板を、空燃比1.1に設定したガス炉内で、表2に示す条件下で加熱し、その後、加熱炉より取り出し、搬送(空冷)後に平板の鋼製金型を用いて、熱間プレスを行った。熱間プレスにおいては鋼板に熱電対を貼付して冷却速度の測定も行った。なお、表2における保持時間とは、Ac点に達した時から加熱温度に達した後に加熱炉から取り出すまでの時間である。
得られた熱間プレス鋼板部材について、切断法による旧オーステナイト粒径測定(平均切片長さ測定)、引張試験(JIS5号試験片)、シャルピー衝撃試験、4点曲げ遅れ破壊試験に供した。
シャルピー衝撃試験では、1/4サイズ(板厚:2.5mm)のVノッチシャルピー試験片を作製し、評価を行った。靱性評価としては、−40℃での衝撃値が30J/cm以上50J/cm以下となる場合は合格とし、表中では○と表記し、50J/cmを超える場合には、非常に靭性に優れるとして、表中では◎と表記した。
4点曲げ遅れ破壊試験では、1.2t×7.0w×68L(mm)の試験片を作製し、図1に示すように、4点曲げジグにより、試験片に、種々の歪み(応力)を付与後、塩酸(30℃、pH=1)に100hrまで浸漬し、割れが発生する限界歪み量を調査した。耐遅れ破壊性評価としては、限界歪み量が0.6%以上1.0%以下となる場合は合格とし、表中では○と表記し、1.0%を超える場合には、非常に耐遅れ破壊性に優れるとして、表中では◎と表記した。
また、上記の冷延鋼板から長さ200mm、幅50mmの試験片を採取し、表2の条件にて加熱し、図2に示す分割金型に挟持する熱間プレス試験を実施した。このとき、クリアランス幅Wは70mmとし、上下のクリアランスCLはそれぞれ0.2mmとした。また、下死点における保持は49kNの押付力で60秒間行った。この熱間プレス試験により得られた試験片について、図2に示した位置の断面ビッカース硬さ(荷重9.8N)を測定し、クリアランス部における最小のビッカース硬さと金型が直接接触する部位のビッカース硬さの平均値との差を△Hvと定義し、△Hvが20以上50以下を合格とし、表中では○と表記し、20未満の場合には、非常に硬さばらつきが少ないとして、表中では◎と表記した。
なお、各鋼種のAc点および上部臨界冷却速度は、次の方法にて測定した。熱延鋼板から、図3に示す直径3.0mm、長さ10mmの円柱試験片を切り出し、不活性ガス雰囲気中で900℃まで10℃/秒の昇温速度にて加熱し、その温度で5分間保持したのち、種々の冷却速度で室温まで冷却した。そのときの加熱中の熱膨張変化を測定することによりAc点を測定した。また、冷却中の熱膨張変化の測定、得られた試験片のビッカース硬さ測定(荷重49N、測定数:3)および組織観察を行い、それらの結果から上部臨界冷却速度を見積もった。
なお各評価項目で一つでも不合格となったものについては、原則として、他項目の評価は中止または未実施とした。
結果を表2にあわせて示す。
本発明例である例No.1〜9では、硬さばらつきが少なく、靭性および耐遅れ破壊性に優れるのは明らかである。
一方、比較例である例No.10、11は、引張強さが本発明の範囲を満足していない。
例No.12は、Mn含有量が少なく、本発明の範囲からはずれているため、硬さばらつきが大きい。
例No.13は、Mn含有量が多く、本発明の範囲からはずれているため、耐遅れ破壊性が劣位である。
例No.14は、Nb含有量が本発明の範囲からはずれているため、旧オーステナイト粒径が粗大化し、靭性が劣位である。
例No.15は、Ti含有量およびB含有量が本発明の範囲からはずれているため、靭性が劣位である。
さらに、例No.16は、空冷時間が長すぎるため、引張強さが本発明の範囲を満足していない。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.26%以上0.35%以下、Mn:1.5%以上2.0%以下、Nb:0.01%以上1.0%以下、B:0.0001%以上0.01%以下を含有するとともに、Cr:0.5%以下、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Si:0.5%以下、Cu:1%以下、V:1%以下、Mo:1%以下、Al:1%以下およびN:0.01%以下からなる群から選択された1種または2種以上を含有し、さらに、下記式(1)式を満足するTiを含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    旧オーステナイト平均粒径が10μm以下である鋼組織を有し、
    引張強さが1.8GPa以上2.0GPa以下である機械特性を有する
    ことを特徴とする、熱間プレス鋼板部材。
    3.42N+0.001≦Ti≦3.42N+0.5 (1)
    ここで、式(1)中のTiおよびNは、鋼中の各元素の含有量(単位:質量%)を示す。
  2. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ni:3%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱間プレス鋼板部材。
  3. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Bi:0.02%以下を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の熱間プレス鋼板部材。
  4. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有することを特徴とする、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材。
  5. 請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼材をAc点以上(Ac点+100℃)以下の温度域に加熱し、前記加熱の完了から熱間プレスの開始までに前記鋼材が空冷に曝される時間を15秒間未満として熱間プレスを施し、上部臨界冷却速度以上の冷却速度で室温まで冷却することを特徴とする、熱間プレス鋼板部材の製造方法。
  6. 請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の化学組成を有する鋼板であって、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の熱間プレス鋼板部材の素材としての用途に供されることを特徴とする、熱間プレス用鋼板。
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