図1はこの発明に係る無段変速機を入力軸、DRプーリ軸などの軸関係を中心に示す説明側面図、図2は図1に示す無段変速機を同図A−A線で展開したときの拡大断面図、図3は図2の部分拡大図である。
図1から図3において符号10は無段変速機(Continuously Variable Transmission。以下「CVT」という)を示す。CVT10はベルト式からなり、車両(図示せず)に搭載され、駆動源、より具体的には内燃機関(以下「エンジン」という。図示せず)の出力を変速して左右の駆動輪(図示せず)に伝達する。
図示の如く、CVT10は、互いに平行に設けられた入力軸12とDR(ドライブ(駆動))プーリ軸(駆動プーリ軸)14とDN(ドリブン(被動))プーリ軸(被動プーリ軸)16とアイドル軸18を備え、エンジンの出力はトルクコンバータ20を介して入力軸12から入力される。
トルクコンバータ20は、エンジンのクランクシャフト22に直結されたドライブプレート24に固定されるポンプインペラ20aと、入力軸12に固定されるタービンランナ20bと、ロックアップクラッチ20cからなる。
ロックアップクラッチ20cは背圧室20c1を備え、そこから排出される油圧(オイル(作動油)の圧力)に応じた係合力でエンジンの出力を入力軸12に伝達する。
DRプーリ軸14とDNプーリ軸16の間には、金属Vベルト機構26が設けられる。
金属Vベルト機構26は、DRプーリ軸14に配設されたDR(ドライブ)プーリ30とDNプーリ軸16に配設されたDN(ドリブン)プーリ32と、その間に巻き掛けられた金属製のVベルト34からなる。
DRプーリ30はDRプーリ軸14に相対回転不能で軸方向移動不能に設けられた固定側DRプーリ半体30aと、DRプーリ軸14に相対回転不能で固定側DRプーリ半体30aに対して軸方向移動自在に設けられた可動側DRプーリ半体30bからなる。
DNプーリ32は、DNプーリ軸16に相対回転不能で軸方向移動不能に設けられた固定側DNプーリ半体32aと、DNプーリ軸16に相対回転不能で固定側DNプーリ半体32aに対して軸方向移動自在に設けられた可動側DNプーリ半体32bからなる。
可動側DRプーリ半体30bと可動側DNプーリ半体32bにはシリンダ室30b1,32b1が設けられ、可動側DR,DNプーリ半体30b,32bはシリンダ室30b1,32b1に供給された油圧(側圧)に応じて固定側DRプーリ半体30aと固定側DNプーリ半体32aに接近あるいは離間する。
DRプーリ30とDNプーリ32の間にはVベルト34が巻き掛けられる。Vベルト34は多数のエレメントとその両側に嵌められた2本のリング(共に図示せず)からなり、エレメントに形成されたV字面がDRプーリ30とDNプーリ32のプーリ面と接触し、両側から強く押圧された状態でエンジンの動力をDRプーリ30からDNプーリ32に伝達する。
入力軸12上には車両の進行方向を切り換える前後進切換機構36が設けられる。前後進切換機構36は前進(FWD)走行ギヤ38と前進(FWD)クラッチ40、および後進(RVS)走行ギヤ42と後進(RVS)クラッチ44からなる。
前進走行ギヤ38は、入力軸12に相対回転自在に設けられた前進DR(駆動)ギヤ38aと、DRプーリ軸14に相対回転不能でかつ前進DRギヤ38aに噛合自在に設けられた前進DN(被動)ギヤ38bとからなる。
前進DRギヤ38aは入力軸12にガイド40a(図3)を介して固定された前進クラッチ40に接続され、前進クラッチ40がオイル(作動油)を供給されて係合されると、入力軸12に固定される。
その結果、入力軸12からトルクコンバータ20を介して入力されるエンジンの出力は、前進DRギヤ38a、前進DNギヤ38bを介してDRプーリ軸14に伝えられ、DRプーリ軸14を車両前進方向に回転させる。
後進走行ギヤ42は、入力軸12に相対回転不能に設けられた後進DR(駆動)ギヤ42aと、アイドル軸18に相対回転可能でかつ後進DRギヤ42aと噛合自在に設けられた後進アイドルギヤ42bと、DRプーリ軸14に相対回転可能でかつ後進アイドルギヤ42bに噛合自在に設けられた後進DN(被動)ギヤ42c(図2は図1のA−A線で展開断面図のため、図2では後進アイドルギヤ42bと後進DNギヤ42cの噛合は図示されない)とからなる。
後進DNギヤ42cはDRプーリ軸14にガイド44a(図3)を介して固定された後進クラッチ44に接続され、後進クラッチ44がオイル(作動油)を供給されて係合されると、駆動プーリ軸14に固定される。
その結果、入力軸12からトルクコンバータ20を介して入力されるエンジンの出力は、前進クラッチ40が係合されていないとき、後進DRギヤ42aから後進アイドルギヤ42bに伝えられて逆転された後、後進DNギヤ42cを介してDRプーリ軸14に伝えられ、DRプーリ軸14を車両前進方向と反対の車両後進方向に回転させる。
DNプーリ軸16にはディファレンシャル機構46が接続される。即ち、DNプーリ軸16にはファイナルDRギヤ50が設けられ、ファイナルDRギヤ50はディファレンシャル機構46のケースに固定されたファイナルDNギヤ52と噛合する。
ディファレンシャル機構46には左右の車軸54が固定されると共に、その端部には駆動輪が取り付けられる。ファイナルDNギヤ52はDNプーリ軸16の回転に伴ってディファレンシャル機構46のケース全体を左右の車軸54まわりに回転させる。
プーリ30,32のシリンダ室30b1,32b1に供給される油圧を制御し、Vベルト34の滑りが発生することのないプーリ側圧を与えた状態で入力軸12にエンジンの回転を入力すると、その回転は、入力軸12→DRプーリ軸14→DRプーリ30→Vベルト34→DNプーリ32→DNプーリ軸16と伝達される。
金属Vベルト機構26にあっては、DRプーリ30とDNプーリ32の両プーリ側圧を増減させてプーリ幅を変化させ、Vベルト34の両プーリ30,32に対する巻き掛け半径を変化させて巻き掛け半径の比(プーリ比)に応じた所望の変速比(レシオ)を無段階で得ることができる。
上記したトルクコンバータ20のロックアップクラッチ20cの係合量、DRプーリ30などのプーリ幅、前進クラッチ40あるいは後進クラッチ44の係合(インギヤ)・非係合(解放。アウトギヤ)などは、それらの背圧室20c1やシリンダ室30b1,32b1などに供給される油圧を制御することで行われるが、それについての説明は省略する。
図示の如く、CVT10は変速機ケース60に収容される。より具体的には、変速機ケース60は、CVT10などの本体部分を収容するM(ミッション)ケース60aと、トルクコンバータ20を収容するTC(トルクコンバータ)ケース60bとからなる。
変速機ケース60は、Mケース60aとTCケース60bの開口側を対面させつつ、多数のボルト62で締結されることで閉じ合わされる。Mケース60aはTCケース60bの反対側においてキャップ60cで閉鎖される。
変速機ケース60のMケース60aの内部には入力軸ホルダ(中間壁)66が立設される。尚、図1はCVT10を入力軸12、DRプーリ軸14などの軸関係を中心に示す説明側面図であることから、前後進切換機構36などの図示を省略している。
図1に良く示す如く、入力軸ホルダ66は平面視矩形状を呈し、周縁をボルト66aでMケース60aの内壁に形成された支持部(図示せず)に締結されることで、Mケース60aに固定される。
図1と図2に示す如く、入力軸ホルダ66には入力軸12とアイドル軸18とが支持されると共に、DRプーリ軸14は入力軸ホルダ66を外れた位置、換言すれば入力軸ホルダ66の外に配置され、入力軸12に前進走行ギヤ38、後進走行ギヤ42を介して接続される。入力軸ホルダ66の内部には油路(図示せず)が穿設される。
DNプーリ軸16とディファレンシャル機構46のファイナルDNギヤ52の付近には、オイルの流れを整流するバッフルプレート70が配置される。
変速機ケース60の底部は制御室72として区画され、そこにはオイルパン74が形成されると共に、オイルパン74には(ガスケット76で上下2層に区分された)バルブボディ80が配置される。
バルブボティ80には、トルクコンバータ20のロックアップクラッチ20cの背圧室20c1やプーリのシリンダ室30b1,32b1などへのオイルの給排を制御する種々の油圧制御バルブが収容される。
図2に示す如く、ファイナルDNギヤ52の付近にはポンプ82が設けられ、入力軸12からチェーン駆動されて軸82aを中心として回転し、図2で図示されないオイルパン74からオイルを汲み上げる。
図1において軸82aで示すポンプ82はオイルパン74からストレーナ84を介してオイルを汲み上げ、バルブボディ80内の種々の油圧制御バルブにオイルを圧送する。
また、ポンプ82はオイルパン74からオイルを汲み上げ、入力軸12、DR軸14、DN軸16などの回転軸のベアリングに圧送すると共に、入力軸ホルダ66に穿設された油路を介して入力軸12のベアリングとアイドル軸18の支持部分にも圧送する。
また、ファイナルDNギヤ52も回転するとき、変速機ケース60の底部に貯留するオイルを掻き揚げて周囲に飛散させる。ファイナルDNギヤ52で掻き揚げられたオイルはバッフルプレート70で整流される。
ここで入力軸12の取り付けについてさらに敷衍すると、図3に示す如く、入力軸12は一端において入力軸ホルダ66にボールベアリング12aを介して回転自在に支承されると共に、他端までの間においてMケース60aに固定されるステータシャフト60a1にラジアルニードルベアリング12bとスラストニードルベアリング12cを介して回転自在に支承される。
即ち、入力軸12とDRプーリ軸14の間の空間は、クラッチガイド40a,44aとボールベアリング12aで制約される。そこで上記のように構成することで、図3に示す如く、前進走行ギヤ38の前進DRギヤ38a(あるいは後進走行ギヤ42の後進DRギヤ42a)によって生じるスラスト荷重を入力軸ホルダ66と反対の方向(ステータシャフト60a1の方向)に作用させるように構成した。これにより、入力軸12に加わる負荷を低減できて入力軸ホルダ66を薄肉にでき、変速機ケース60をより一層小型・軽量にすることができる。
より具体的には、図3に示す如く、前進DRギヤ38aなどによって生じる軸方向のスラスト荷重をスラストニードルベアリング12cに分担させ、ボールベアリング12aには径方向のラジアル荷重のみ作用する如く構成したので、ボールベアリング12aに加わる負荷を低減できて入力軸12と駆動プーリ軸14の間の距離を減少でき、変速機ケース60をより一層小型・軽量にすることができる。
上記した如く、この実施例にあっては、変速機ケース60の内部に収容されると共に、前記変速機ケース60の内部に立設された入力軸ホルダ(中間壁)66で支持される入力軸12から入力されるエンジン(駆動源)の出力を無段に変速するCVT(無段変速機)10において、前記入力軸12にアイドルギヤ(後進アイドルギヤ42b)を介して接続されると共に、前記入力軸ホルダ(中間壁)66で支持されるアイドル軸18と、前記入力軸ホルダ(中間壁)66を外れた位置に配置されて前記入力軸12に前進走行ギヤ38と後進走行ギヤ42を介して接続されるDRプーリ軸(駆動プーリ軸)14と、前記入力軸12に配置されて前記前進走行ギヤ38を軸上に固定する前進クラッチ40と、前記駆動プーリ軸に配置されて前記後進走行ギヤ42を軸上に固定する後進クラッチ44とを備え、前記前進クラッチ40を前記入力軸12の軸方向において前記前進走行ギヤ38よりも前記エンジン側に配置し、前記前進走行ギヤ38を前記入力軸12の軸方向において前記後進走行ギヤ42よりも前記エンジン側に配置し、前記後進走行ギヤ42を前記入力軸12の軸方向において前記後進クラッチ44よりも前記エンジン側に配置すると共に、前記後進クラッチ44を前記入力軸12の軸方向に直交する方向において前記入力軸ホルダ(中間壁)66とオーバーラップするように構成、換言すれば、エンジン側から順に、前進クラッチ40、前進走行ギヤ38、後進走行ギヤ42、後進クラッチ44を配置すると共に、後進クラッチ44と入力軸ホルダ(中間壁)66が軸方向に直交する方向から見て重なるように構成したので、その分だけ変速機ケース60の軸方向長さを一層短縮でき、一層の小型化・軽量化を実現することができる。
尚、上記において入力軸ホルダ(中間壁)66の構造は図示の例に止まるものではなく、入力軸12を支持できる限り、どのような構造であっても良い。