JP2013216927A - 清浄性の高い鋼材の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】環流型脱ガス装置を用いて、粗大酸化物の少ない、強脱酸元素を含む鋼材を溶製するとともに、微細酸化物を確実に分散させる手法を提供する。
【解決手段】製鋼炉から取鍋に出鋼した、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.02%以下を含有する溶鋼を、減圧清浄化処理として、環流型脱ガス装置において、Al<0.0008×((101.325×C)/P0_former)1.5式を満たすAl濃度、C濃度および真空槽内圧力の条件下で、10分間以上環流処理した後、さらに、強脱酸剤添加処理として、Zr、REMのうち1種以上を0.0003〜0.002%添加し、前記条件下で5分間以上環流処理することにより、清浄性の高い鋼材を製造する。P0_formerは減圧清浄化処理時の真空槽内圧力(kPa)である。
【選択図】図1

Description

本発明は、清浄性の高い鋼材の製造方法に関し、具体的には、Zr,REMといった強脱酸元素を含む鋼材の製造段階において、製品段階で製品性能を低下させる要因となり得る粗大な非金属介在物を低減させるとともに、製品性能を向上できる可能性がある微細な非金属介在物を増加させる方法に関する。
鋼材中の非金属介在物(以下、「介在物」という。)は、製品段階で製品性能を低下させる要因となり得ることが知られている。特に、Alキルド鋼中に存在するアルミナ系酸化物は、硬質であり、クラスタを形成して粗大化することもある。
例えば、最も清浄性を要求される軸受鋼といった清浄鋼では、鋼材中の酸化物が破壊の起点となり、転動疲労寿命を低下させることが知られている。また、大型構造物として用いられる厚板鋼においては、粗大酸化物が溶接時の靱性を低下させる場合がある。さらに、自動車用鋼板等に使用される薄板鋼では、粗大酸化物がスラブの表層欠陥であるふくれ疵の要因となり、鋼板表面の美麗さを損なう場合もある。
Zr,REMといった強脱酸元素を溶鋼に添加した場合、アルミナ系酸化物と同様に、粗大な酸化物は製品段階の性能を低下させる要因になり得る。また、粗大な酸化物はノズル詰まりの要因となることから、生産性の低下にも繋がる。上記に示した以外にも、加工性,強度,寿命といった製品性能が低下することから、溶鋼段階でこれら大型介在物を低減する対策が行われている。
溶鋼中の酸化物を低減させるため、これまでに取鍋底部からの不活性ガス吹込みによる溶鋼撹拌や、RH真空脱ガス装置における長時間環流処理といった処理が行われている。
例えば、特許文献1には、溶鋼撹拌のみからなる介在物の浮上・分離工程を20分間以上継続して行うことにより高清浄度鋼を溶製する方法が開示されている。この方法は、生成した介在物を物理的に溶鋼から除去する技術に分類できる。この技術は、効率良く凝集させて見かけの介在物径を大きくして除去速度を増大させ、かつ、長時間処理することで鋼の清浄性を向上させるものである。
また、RH真空脱ガス装置を用いた処理において、その目的の多くは脱炭反応であるが、溶鋼を減圧処理することで脱酸反応を生じさせている。すなわち、未脱酸溶鋼を減圧処理することで脱炭脱酸反応を生じさせ、極低炭素鋼を溶製している。脱炭脱酸反応はCOガス発生を伴うため、溶鋼から炭素と同時に酸素も除去されることとなる。ただし、脱炭を目的とする場合、多くは反応速度を高めるため溶存酸素濃度が高い状態で減圧処理し、脱炭終了後にAl等により残存する溶存酸素を低減する処理を行っている。
このRHでの減圧処理に関して、例えば、特許文献2には、転炉から溶鋼を末脱酸出鋼し、溶鋼中酸素濃度が100ppm以下になるまで炭素含有物を溶鋼に添加し、結果として溶鋼中酸素濃度を100ppm以下とした後にAlを添加することにより高清浄鋼を溶製する方法が開示されている。この方法は、炭素含有物を添加することにより溶鋼中の酸素をCOガスとして除去し、清浄性を高める技術である。しかしながら、この技術は、RHでのAl添加時のアルミナ生成量を低減する技術であり、Al添加後に脱炭脱酸反応を活用する技術ではない。
また、特許文献3には、減圧処理により溶鋼を脱ガスする際、取鍋内の溶鋼にMg系脱酸剤を添加し、脱酸生成物MgOを溶鋼とともに取鍋から真空容器に上昇させ、真空容器内で脱酸生成物MgOを鋼中炭素[C]と反応させ、反応生成物であるCOおよびMgガスを系外に気化分離する技術が開示されている。この技術は、酸化物をMgO系に制御した上で、COとして脱酸して清浄性を向上させる技術である。
しかしながら、この技術を用いて溶鋼を清浄化させるには、大量のMg系脱酸材が必要になることに加えて、特許文献3には真空槽での処理条件が明確に示されていない。このため、たとえ脱酸生成物としてMgOが生成したとしても、MgOが還元されずに溶鋼中に残存してしまう可能性がある。
一方、特許文献4には、低炭素成分組成の溶鋼に、Al,REMおよびZrを使用して複合脱酸処理を行うことによりアルミナクラスタを低減した高清浄鋼を製造する方法が開示されている。この方法は、生成した酸化物よりも強い脱酸元素を加えることにより生成した酸化物を還元、分解する技術に分類できる。この技術は、介在物を物理的に除去する技術とは異なり、化学反応を介して介在物を低減する技術である。
しかしながら、これらの強脱酸元素を添加する技術においては、クラスタを形成するアルミナ系酸化物は低減するものの、添加した強脱酸元素との酸化物に置き換わるため、強脱酸元素添加に伴う酸化物低減効果は不十分であると考えられる。
また、特許文献5には、溶存酸素量20〜200ppmに調節し、Mn,Siを添加して脱酸しMn,Si系酸化物を生成させ、溶鋼中にMn,Si系酸化物が存在する状態で、Tiを0.005〜0.030質量%添加して脱酸し、その後さらにAlを0.005〜0.020%添加することによりTi−Al複合系酸化物が均一微細分散した鋼を製造する方法が開示されている。この方法は、特許文献4と同様に脱酸力の弱い元素から順番に添加することにより、溶存酸素濃度が少ない状況を作り出すことにより微細酸化物を得るものである。
しかしながら、この方法では、脱酸力の強い元素の酸化物を微細分散させるためには、脱酸力の弱い元素を複数種類順番に添加することになることから、生産性が低下することに加え、酸化物総量を低下させる技術ではないことから、溶鋼中には多量の酸化物が残存してしまう場合もある。
粗大な酸化物は鋼材中で悪影響を及ぼす可能性がある一方、微細な酸化物を積極的に利用して鋼材性能を向上させる技術も提案されている。
例えば特許文献6には、溶鋼に脱酸剤を添加した後に、脱酸剤を添加した溶鋼よりも溶存酸素濃度が高い他の溶鋼を添加することにより溶鋼中の酸化物を微細分散させる方法が開示されている。この方法は、酸素供給速度を抑制しつつ、電圧印加や酸化性ガス吹込みに比べて多量の酸素を供給することにより、粗大な酸化物の生成を抑制しながら酸化物を微細化するものである。
しかしながら、上記した従来の技術の共通した課題として、酸化物の分散量を増加させるために酸素濃度を増加させた場合、酸化物が粗大化してしまい、微細化効果が減殺される点が挙げられる。
特開2001−262218号公報 特開平10−317049号公報 特開平7−207329号公報 特開平11−323426号公報 特開平6−293937号公報 特開2002−256330号公報
近年の製鋼技術の進歩に伴い、鋼材の清浄度は大幅に向上した。しかしながら、同時に製品性能の要求水準も高くなっていることから、更なる鋼材の清浄度向上が求められている。また、鋼材特性を向上させるための酸化物微細化技術も求められている。近年、清浄鋼を溶製するにはRHに代表される環流型脱ガス装置を用いる場合が殆どである。これは、環流型脱ガス装置を用いることで、昇温,成分調整,介在物除去などの複数処理を同一装置で実現できるためと考えられる。
しかしながら、環流型脱ガス装置を用いた溶鋼清浄化技術は既に数多く報告されており、例えば環流処理の最適化といった従来技術の延長では、大幅な清浄度向上は望めないのが現状である。また、強脱酸元素を利用した酸化物微細化技術に関しても従来とは異なる切り口が必要である。
要求される製品性能の高度化に対応するため、鋼材にZr,REMといった強脱酸元素を添加することで付加価値を高めた鋼材が開発されている。これらの強脱酸元素は鋼材の母材特性を向上させるとともに、強脱酸元素の酸化物が微細分散した鋼はピン止め効果により結晶粒の粗大化を抑制したり、粒内変態核として作用することに加え、炭化物や窒化物の析出基点として作用するなど、鋼材特性を大きく向上できると考えられる。
しかしながら、単純に溶鋼に強脱酸元素を添加した場合、溶存酸素をもとに生成した酸化物が成長して粗大化することに加え、元々存在していた酸化物を還元して酸化物を形成することもあるため、製品性能を低下させる粗大介在物が多数生成してしまう。また、この時の強脱酸元素の添加歩留りは著しく低い。このため、通常はAlで強脱酸して溶存酸素を低下させた状態で強脱酸元素を添加するが、アルミナ系酸化物が多量に存在する状態で強脱酸元素を添加したとしても、アルミナ系酸化物を元にした酸化物が生成されてしまい、溶鋼の清浄化は困難である。この時、Alで強脱酸した上、さらに環流型脱ガス装置等を用いて長時間環流させた後であれば、溶存酸素も酸化物としての酸素も少ない状態で強脱酸元素を添加できるが、この手順では、溶鋼の清浄化および酸化物の微細化ができたとしても、生産性が著しく低下してしまい、製造コストの増大を招いてしまうことになる。
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、環流型脱ガス装置を用いて、粗大酸化物の少ない、強脱酸元素を含む鋼材を溶製するとともに、微細酸化物を確実に分散させる技術を提供することである。
本発明者らは、溶存酸素濃度および介在物としての酸素濃度が低い溶鋼にZr,REMといった強脱酸元素を添加することで、鋼の清浄性を悪化させることなく強脱酸元素を含む鋼材が得られると考え、その手法として脱炭反応を積極的に活用することを考えた。
すなわち、真空脱ガス装置を用いた減圧精錬において、真空槽内の溶鋼表面近傍では、下記(5)式で表される脱炭反応が生じている。自動車外装用の極低炭素鋼を溶製するにあたり、製鋼炉から未脱酸出鋼した溶鋼に対して真空脱ガス装置で減圧処理する際にこの反応を活用している。近年では、脱炭反応を活用することで10ppmを下回るような極低炭素鋼の溶製も可能となっている。
C+O=CO(g) ・・・(5)
しかしながら、炭素濃度が低下してくる脱炭末期では脱炭反応が停滞することに加え、脱炭終了後にAlを多量添加して脱酸した後の溶鋼では、脱炭反応が生じないことから、通常のAlキルド鋼を対象に考えた場合、脱炭反応を活用することはできない。
しかしながら、完全にAlで脱酸されていない溶鋼、あるいは、一度Alを添加して溶鋼を昇熱させる操作を行った状況においても、送酸によりAl濃度が低減し、酸素が溶存している溶鋼では、減圧下での脱炭反応を積極的に活用できることを着想した。
すなわち、通常のAlキルド鋼では、減圧下であっても、溶鋼中のAlと溶存酸素が反応し、(6)式に示す反応式に従ってアルミナが生成される。Alキルド鋼の平衡酸素濃度は、C脱酸における平衡酸素濃度と同水準であることから、Alキルド鋼を減圧処理したとしても、アルミナの生成が続き、鋼中にはアルミナが多量に生成していることになる。
Al(s)=2Al+3O ・・・(6)
一方、低Al状態での減圧処理を考えた場合、低Al状態での平衡到達酸素濃度は、減圧処理時のC脱酸における平衡酸素濃度よりも高く、溶鋼中の酸素濃度はC脱酸平衡に従って低下する。脱炭反応下での平衡酸素濃度は非常に低位であり、真空槽内は強還元状態となることから、低Al状態で減圧処理を行っている間は、溶存酸素が溶鋼中炭素と反応することで減少し、一時的にアルミナの生成速度が極端に低い状態が作られることになる。さらに、溶鋼中酸素濃度が低位になってくると、酸化物として懸濁したアルミナの分解反応が生じるようになる。
上述したように、通常のAlキルド鋼と脱炭反応を活用した低Al鋼を比較した場合、同じ酸素濃度の溶鋼を溶製するのであっても、溶存酸素の低減プロセスが異なり、Alキルド鋼ではアルミナが生成されながら低減していくのに対し、低Al鋼ではアルミナが分解されながら低減していくことになる。このため、低Al鋼を減圧処理した場合、製品段階で同じ酸素濃度であっても、通常のAlキルド鋼よりも粗大な酸化物が極めて少ない、清浄度の高い鋼が効率よく得られることになる。この方法は、従来と同じ処理装置を使って溶製できることから、環流処理に伴う介在物の凝集,浮上除去といった溶鋼清浄化手法は従来と何の変わりもなく活用できる。
上記清浄化処理後の溶鋼は溶存酸素が低く、かつ酸化物として存在する酸素も低い状態となっている。この状態の溶鋼に、Zr,REMといった強脱酸元素を添加すると、添加された強脱酸元素の大部分は酸化物を形成することなく、溶鋼に溶解することになる。ただし、強脱酸元素濃度が高い条件では、減圧処理時のC脱酸における平衡酸素濃度よりも、強脱酸元素と平衡する酸素濃度のほうが低くなってしまい、酸化物が生成することになるため、強脱酸元素の添加量には上限がある。
また、清浄化処理後の溶鋼に強脱酸元素を添加した場合であっても、僅かに残存している溶存酸素と反応して粗大酸化物を形成する場合もあるが、脱炭反応を積極的に活用することなく溶製した場合と比べると、生成する酸化物は僅かであることに加え、強脱酸元素の添加量自体も少量であることから、強脱酸元素添加後に環流処理することによって粗大酸化物を系外に排出できる。
ここで、微細酸化物を確実に得るためには、凝固段階で生成する微細酸化物を活用する手法が最適である。凝固段階で溶存酸素が高い状況を作ることができれば、凝固過程ではより多くの微細酸化物を分散できる。このためには、凝固段階、すなわち、溶鋼段階末期で溶存酸素濃度が高い状態を作る必要がある。
脱炭反応を活用して脱酸した溶鋼の溶存酸素濃度は、減圧精錬時の真空度に依存することになる。このため、一度高真空精錬で溶存酸素濃度を低減した後に真空槽内圧力を高めて環流させると、溶存酸素濃度はその真空度に合わせて増加することになる。この時の酸素供給源は、取鍋スラグや耐火物内壁であるので、過剰な酸素供給を回避できる。溶存酸素濃度のみを高くした状態で鋳込んだ場合、凝固過程で溶鋼中に溶け切れなくなった酸素が溶鋼成分と反応して生成する、いわゆる二次脱酸生成物が大量に生成することになる。
仮に、同じ真空槽内圧力を高める操作を通常の強脱酸添加鋼に適用したとしても、溶存酸素濃度は、本発明のような低Al濃度においては、強脱酸元素濃度によって決まっている。このため、真空槽内の圧力を高めることで酸素濃度が増加したとしても、増加した溶存酸素と強脱酸元素が反応してM(Mは強脱酸元素)を形成することから、それは溶存酸素濃度ではなく、酸化物が増大することを意味する。一方、減圧処理を経ずに強脱酸元素だけを用いて弱脱酸しただけでは、溶鋼中に粗大な酸化物が多数生成してしまうことになる。ただし、この時強脱酸元素濃度が少量過ぎる場合、強脱酸元素とともにAlの酸化反応が同時に起こることで酸化物中にアルミナが生じ、酸化物組成の制御性が低下することから、真空槽内圧力を高める操作を行う場合の強脱酸元素濃度には下限がある。
このような状況を踏まえて本発明者らが検討した結果、減圧処理を行う際、その時点でのAl濃度で決まる溶存酸素濃度よりも、炭素濃度と真空槽の圧力で決まる溶存酸素濃度が低くなる条件で減圧精錬を行うことで脱炭反応が生じ、粗大な酸化物を低減できることを知見した。また、この状態の溶鋼に強脱酸元素を添加したとしても、溶鋼中には溶存酸素や酸化物として存在する酸素も少ないことから、強脱酸元素が酸化物を形成することなく溶鋼に溶解することを知見した。さらに、この状態から真空槽内圧力を高くして環流させることで、溶存酸素濃度のみを増加できることを知見した。
CとAlの酸化反応はそれぞれ(5)式,(6)式で表すことができ、溶存酸素濃度で整理すると(7)式,(8)式の形になる。(8)式で決まる溶存酸素濃度が(7)式で決まる溶存酸素濃度よりも低くなる条件は(9)式に示す形となる。
%O_Al=(C_7(定数)/%Al1/3 ・・・(7)
%O_C=C_8(定数)×P_CO/%C ・・・(8)
%Al<C_9(定数)×(%C/P)3/2 ・・・(9)
ただし、
%O_Al:Alの酸化反応から求まる溶鋼中溶存O濃度
%O_C:Cの酸化反応から求まる溶鋼中溶存O濃度
_7:定数
%Al:Sol.Al濃度
_8:定数
_CO:CO分圧
%C:C濃度
_9:定数
P:CO分圧と相関関係にある真空槽内の圧力
である。
本発明者らは、上記検討を踏まえ、真空脱ガス装置で溶鋼を処理する際のAl,C濃度および真空度、その処理時間、ならびに、Zr,REMといった強脱酸元素の添加量を明確化して、本発明を完成するに至った。
本発明は以下の通りである。
(1)製鋼炉から取鍋に出鋼した、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.02%以下を含有する溶鋼を、
減圧清浄化処理として、環流型脱ガス装置において、(1)式を満たすAl濃度、C濃度および真空槽内圧力の条件下で、炭素以外の脱酸剤を添加することなく、10分間以上環流処理した後に、
さらに、強脱酸剤添加処理として、Zr、REMのうち1種以上を0.0003〜0.002質量%添加し、該脱酸剤以外には脱酸剤を添加することなく、前記条件下で5分間以上環流処理すること
を特徴とする清浄性の高い鋼材の製造方法。
Al<0.0008×((101.325×C)/P0_former1.5
・・・(1)
ただし、
Al:溶鋼中Sol.Al濃度(質量%)
C:溶鋼中C濃度(質量%)
0_former:減圧清浄化処理時の真空槽内圧力(kPa)
である。
(2)前記減圧清浄化処理および前記強脱酸剤添加処理を施した後に、
後環流処理として、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.005%以下、Zr,REMのうち1種以上:0.0003〜0.002%を含有する溶鋼を、前記強脱酸剤添加処理後には炭素以外の脱酸剤を添加することなく、(2)式を満たす範囲の真空槽内圧力P0_latterで3分間以上環流処理することを特徴とする(1)項に記載された清浄性の高い鋼材の製造方法。
5<P0_latter<15 ・・・(2)
0_latter:後環流処理時の真空槽内圧力(kPa)
本発明によれば、粗大な酸化物量が極めて少ない、Zr,REMといった強脱酸元素を含む鋼材を効率よく製造できる。また、従来よりも微細酸化物の分散量が大きい鋼材を効率よく製造できる。このように鋼材を溶製することで、粗大酸化物による鋼材への悪影響を低減するとともに、鋼材に、高強度化,加工性向上といった新たな付加価値を付与することができる。本発明は、既存の製鋼プロセスを大きく変更することなく実施可能であることから、製造コストの増大を抑制することもでき、本発明の社会的貢献度は非常に高い。
図1は、請求項1中のAl濃度および(1)式が示す範囲を示すグラフである。
1.本発明における用語の定義
「製鋼炉」とは、転炉または電気炉を指し、製鋼炉から出鋼された「溶鋼」とは、脱硫,脱りんもしくは脱炭といった一次精錬処理が実施された状態であるものとする。
「環流型脱ガス装置」とは、真空槽を要する溶鋼処理装置であって、代表的な装置としてRHがある。「環流処理」とは、環流型脱ガス装置を用いて、取鍋に溶鋼を受鋼している状態で、真空槽内圧力を低下させることで溶鋼を真空槽に吸い上げ、環流ガスを流すことで、溶鋼を取鍋と真空槽管で環流させる操作を指す。環流中の溶鋼では、溶鋼が減圧雰囲気にさらされることから脱ガス反応が促進されるとともに、介在物の凝集,浮上除去が促進される。
「脱炭脱酸反応」とは、(5)式で示されるように、炭素と酸素から一酸化炭素が生成する反応を示す。
「環流時間」とは、真空脱ガス装置で溶鋼を処理するに当たり、真空槽内が所定の圧力に到達した後、環流ガスを流して、溶鋼を真空槽内と取鍋間を循環させている間の時間を指す。
「REM」とは、周期表の3族に属するSc,Y,ランタノイド(La,Ce等、原子番号57〜71の15元素)から選ばれた1種以上の金属元素を意味し、特に、Ce,La,PrまたはNdのうちの1種以上の元素が該当する。
「脱酸剤」とは、鉄以外の合金元素の内、酸化物を形成する元素を含む金属単体もしくはその化合物を指し、C,Al,Si,Mn,Ti,Ca,Mg,Zr,REMが含まれる。その内、本発明に係る「強脱酸剤」としては、Zr,REMが該当する。
「減圧清浄化処理」とは、脱炭脱酸反応を生じさせて溶存酸素濃度を低減、並びに粗大酸化物を低減させることを目的とした環流型脱ガス装置における精錬処理であって、本発明において、具体的には「環流型脱ガス装置において、(1)式を満たすAl濃度,C濃度および真空槽内圧力の条件下で炭素以外の脱酸剤を添加することなく、10分間以上環流処理すること」を指す。
さらに、「強脱酸剤添加処理」とは、「減圧清浄化処理した後、さらに、強脱酸剤としてZr,REMのうち1種以上を0.0003〜0.002質量%添加し、該脱酸剤以外には脱酸剤を添加することなく、(1)式を満たすAl濃度、C濃度および真空槽内圧力の条件下で5分間以上環流処理すること」を指す。
また、「後環流処理」とは、強脱酸元素添加後に、微細酸化物を生成させることを目的とした環流型脱ガス装置での精錬処理であって、本発明において、具体的には「前記減圧清浄化処理を施した後に、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.005%以下、Zr、REMのうち1種以上:0.0003%〜0.002%、を含有する溶鋼を、前記強脱酸剤添加処理後には炭素以外の脱酸剤を添加することなく、(2)式を満たす範囲の真空槽内圧力P0_latterで、3分間以上環流処理すること」を指す。
2.溶鋼組成
本発明を実施するに当たって、溶鋼段階の鋼に含まれる元素について説明する。以下、断りが無い限り全て質量%とする。
[Sol.Al濃度:0.005%以下]
本発明は、環流型脱ガス装置において、脱炭脱酸反応を活用して酸化物の分解反応を生じさせる。このため、減圧清浄化処理の前段階において、溶存酸素が完全に低減されていないことが必要である。このため、脱炭脱酸反応中は終始、溶鋼中のSol.Al濃度は0.005%以下である必要がある。この時、Sol.Al濃度は低位であるほうが脱炭脱酸反応を効率的に活用できる。
減圧清浄化処理を行う前段階として、Alの酸化反応を利用した溶鋼昇熱処理を実施してもよい。昇温に必要な温度が高い場合、溶鋼中のAl濃度は一時的に0.005%を超える場合もあるが、昇熱操作に伴う酸素吹きによりAl濃度を0.005%以下に制御し、脱炭脱酸反応が生じるのに必要な酸素量を確保すればよい。Sol.Al濃度が低い場合、溶存酸素濃度は高くなり、脱炭脱酸反応を効率的に活用できる。一方で、Alを完全に低減することは困難であることから、減圧清浄化処理中および強脱酸剤添加処理中、並びに後環流処理中の望ましいSol.Al濃度は、0.0005〜0.0020%である。
[Si濃度:0.005〜0.3%]
Siは、溶鋼中で脱酸元素として働き、鋼材中では焼き入れ性を高める。脱酸成分が低位過ぎると、溶鋼中酸素濃度が過度に高くなってしまう可能性があることから、Siは0.005%以上含有されることが必要である。一方、Siが0.3%を超えて含有されると、溶存酸素濃度が低くなりすぎ、脱炭脱酸反応が停滞する可能性ある。このことから、減圧清浄化処理中および強脱酸剤添加処理中、並びに後環流処理中は終始、Si濃度は0.005〜0.3%であることが必要である。
[O濃度:0.02%以下]
Oは、鋼材の製造過程において不可避的に含有される元素であり、溶存、もしくは酸化物として存在する。両者を明確に分離することは困難であり、かつ脱炭脱酸反応では溶存酸素とともに酸化物としての酸素も酸素源に成り得ると考えられることから、本発明でのO濃度は両者を合わせた全酸素濃度とする。本発明の対象鋼は清浄性の高い鋼であり、減圧清浄化処理後は脱酸材を新たに添加しなくても酸素濃度が低い状態にする必要がある。減圧清浄化処理する前の段階でO濃度が0.02%を超えると、脱炭脱酸反応によって脱酸するのに長時間要し、生産性が低下することから、減圧清浄化処理する前の段階で、溶鋼中のO濃度は0.02%以下であることが必要である。また、極端にO濃度が低い場合、脱炭脱酸反応を効率的に活用できないことから、減圧清浄化処理する前の段階ではO濃度が0.003%以上であることが望ましい。
減圧清浄化処理後は、酸化物としてのO濃度、および溶存酸素両者ともに低いことが望ましい。このため、減圧清浄化処理後のO濃度は0.005%以下であることが望ましい。一方で、二次脱酸生成物を有効活用することを考えると、溶存酸素濃度が高いことが望ましい。しかしながら、過度にO濃度が高くなると、鋳造時に鋳型内で溶鋼が沸き、鋳込めなくなる可能性が高くなる。このことから、後還流処理後のO濃度は0.008%以下であることが望ましい。
[C濃度:0.03〜1.2%]
Cは、鋼材の製造過程において不可避的に含有される元素であり、脱炭脱酸反応を効率的に生じさせるためには、溶鋼中のC濃度が一定量以上含有されていることが望ましい。減圧清浄化処理する前の段階で0.03%を下回ると、溶存酸素濃度が低い状況において脱炭脱酸反応が停滞することになる。脱炭脱酸反応を促進する点から、減圧清浄化処理する前の段階はC濃度が高い方が望ましい。一方、製品性能の面からは、1.2%を超えてCが含有されると過度に硬くなり過ぎることに加え、1.2%を超えてCが含有されていても脱炭脱酸反応の効率は飽和している。このため、減圧清浄化処理する前の段階のC濃度は0.03〜1.2%であることが望ましい。
[Mn濃度:0.3〜2.5%]
Mnは、鋼材の製造過程において不可避的に含有される元素であり、脱酸剤として有用であるとともに、鋼材中でMnSを形成して赤熱脆性を防止する作用もある。左記の効果を得るにはMnが0.3%を超えて含有されることが望ましい。一方、Mnが2.5%を超えて含有されても効果が飽和してしまうことから、減圧清浄化処理中および強脱酸剤添加処理中、並びに後環流処理中は終始Mn濃度は0.3〜2.5%であることが望ましい。
[Zr,REM濃度:0.0003〜0.002%]
Zr,REMは、強脱酸元素であり、鋼材の組織を微細化するといった付加価値を付ける目的で添加する。溶存Zr,REMと、介在物としてのZr,REMを分離することは困難であるため、本発明でのZr,REM濃度は、全Zr,全REM濃度とする。また、脱酸剤として多く用いられるAlと同等もしくはAl以上に脱酸力が強く、多量添加した場合は取鍋スラグからの再酸化に起因する粗大酸化物の生成が無視できなくなる。これらの元素は少量添加であっても大きな効果が得られることに加え、多量に添加されるとC脱酸が生じなくなることから、ZrおよびREMは0.002%以下含まれている必要がある。一方で、これらの元素の添加量が少量すぎると、酸化物濃度の制御性が低下してしまうことから、減圧清浄化処理後から後環流処理中は終始0.0003%以上0.002%以下であることが必要である。酸化物の微細化効果を最大限得るためには、0.0005〜0.0015%であることが望ましい。
[S:0.003%以下]
Sは、鋼材の製造過程において不可避的に含有される元素であり、Feと化合物を作り、熱間加工性を害する。REMはSとの親和性が強い元素であり、多量に含まれていると溶鋼段階でREM硫化物を形成してしまい、酸化物の微細分散効果が低下してしまう。このため、減圧清浄化処理中もしくは減圧清浄化処理以降に脱硫剤を添加すると、新たな酸化物が生成してしまう可能性があることから、Sは減圧清浄化処理する前段階において0.003%以下であることが必要である。
本発明で溶製する清浄性の高い鋼は、上記したAl,Si,O,SおよびZr,REMを必須元素として含有し、他に、P:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で構成される。
また、本発明で溶製する清浄性の高い鋼は、上記したAl,Si,O,SおよびZr,REMを必須元素として含有し、さらにCおよびMnの一種以上を、上記した望ましい範囲で含有するほか、P:0.1%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物で構成されることが好ましい。
また、上記以外に、製品に必要な機能を付加する目的で、前記Feの一部に換えて、さらに、Ti:0.005%以下,Cr:2.0%以下,Nb:0.05%以下,Mo:1.0%以下,V:0.3%以下,B:0.004%以下,Cu:1.0%以下,Ni:3.0%以下,Sn:1.0%以下,Mg:0.001%以下,Ca:0.001%以下,N:0.02%以下を含有させてもよい。
3.溶製時の溶鋼成分測定方法
本発明において、脱炭脱酸反応を生じさせるには、減圧清浄化処理で脱炭脱酸反応を生じさせる前段階において、Al脱酸で決まる溶鋼中の酸素濃度よりも、溶鋼中の炭素濃度と真空槽内圧力で決まる酸素濃度が低い状態を構築する必要がある。また、強脱酸元素の微細酸化物を生成させることを考えた場合、添加した強脱酸元素と平衡する酸素濃度よりも、溶鋼中の炭素濃度と真空槽内圧力で決まる酸素濃度が低い状態を構築する必要がある。
溶鋼中のC,Si,Al,S,Zr,REM濃度は、取鍋から採取したサンプルを分析することで測定できる。また、溶鋼中の全酸素濃度は特許第4888516号に係る鉄鋼中酸素の分析方法に基づき迅速分析できる。また、酸素濃淡電池を原理とする酸素濃度プローブで直接溶鋼の溶存酸素濃度を測定することができる。
所定のsol.Al,Si濃度を満たすように溶鋼組成が調整されている場合、減圧清浄化処理前に全酸素濃度が0.02%以下になっていることは容易に推定可能であることから、常に全酸素濃度を確認する必要はない。また、強脱酸剤添加処理以降は、全酸素濃度に占める酸化物としての酸素量は僅かであることから、酸素濃度プローブの測定値が0.005%以下であれば、常に全酸素濃度を確認する必要はない。
4.処理手順
本発明において、溶鋼は、製鋼炉から取鍋に出鋼された後、環流型脱ガス装置にて減圧清浄化処理される。取鍋に出鋼された後、環流型脱ガス装置まで搬送される間に、合金等を添加して成分調整してもよい。
環流型脱ガス装置にて、脱炭脱酸反応を生じさせる前段階で、Alの酸化反応を利用した溶鋼昇熱処理を行ってもよい。その場合、一時的にSol.Al濃度が0.005%を超えてもよい。ただし、脱炭脱酸反応が生じる溶存酸素を確保し、反応中のアルミナ生成を抑制するため、Al濃度が0.005%以下になるまで送酸処理を行ってAl濃度を低減させる必要がある。また、真空槽内に生石灰分を吹き込んで脱硫処理を加えてもよい。
減圧清浄化処理を開始するに先立って、溶鋼成分を前記した所定の成分範囲、すなわち「質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.02%以下」に調整する。その後、真空槽内圧力を調整し、溶鋼中の溶存酸素濃度よりも、溶鋼中の炭素濃度と真空槽内圧力から求まる溶存酸素濃度を低い状態にすることで脱炭脱酸反応を生じさせる。溶鋼中の炭素濃度と真空槽内圧力から求まる酸素濃度は処理温度によっても変化するが、環流型脱ガス装置での処理中の溶鋼温度では、真空槽内圧力P0_formerを、(1)式を満たす範囲とすることで、確実に脱炭脱酸反応を生じさせることができる。脱炭脱酸反応は、溶鋼中酸素濃度と平衡酸素濃度の差異が大きいほど効果が大きいことから、真空槽内圧力はより低位であることが望ましい。
脱炭脱酸反応は真空槽内の溶鋼面で生じる反応であるため、脱酸効果を得るためには、ある程度の反応時間が必要である。脱酸効果を確実に得るためには、減圧清浄化処理開始後の溶鋼環流時間が10分間以上であることが必要である。この環流時間が10分間より短い場合、溶存酸素濃度を十分低下させることができない。なお、その環流時間が30分間を超えても、脱酸効果は既に飽和しており、それ以上の処理時間増加は処理費用の増大を招くことになるため、減圧清浄化処理開始から強脱酸元素を添加するまでの処理時間は30分間より短いことが望ましい。
上記減圧清浄化処理開始後の溶鋼環流時間が10分間以上経過した時点で、溶鋼は脱炭脱酸反応により溶存酸素が低下し、溶鋼中の酸化物は還元されて粒径が小さくなっている。さらに、従来の環流操作と同様に、介在物の凝集と浮上の効果も相まって、脱炭脱酸反応を活用していない状態と比較して、溶鋼中の酸化物は低減できており、清浄性の高い状態になっている。
減圧清浄化処理開始以降、後述の強脱酸元素添加処理の前後を含めて、減圧清浄化処理が終わるまでの間に、溶存酸素と酸化物を形成するようなAl,Si,Mn,Ti,Mg,Caといった脱酸材を添加してしまうと、僅かに残存している溶存酸素と反応して粗大な酸化物を形成してしまう可能性があるため、炭素以外の脱酸材は添加してはならない。ただし、炭素を添加した場合、溶鋼中に溶解するか、COガスとして気相に排出され、粗大な酸化物は形成されないため、減圧清浄化処理中もしくは後環流処理中であっても添加してもよい。
溶鋼の清浄性が高い状態において、本発明に係る強脱酸剤であるZr,REMを溶鋼に添加する。添加形態は特に限定されず、金属Zrや金属Laのような純金属でもよく、Fe−Zr合金,Fe−La合金で添加すればよい。REMに関してはミッシュメタルの形態で添加してもよい。ミッシュメタルとは、セリウム族希土類元素の混合物であり、具体的には、Ceを40〜50%程度,Laを20〜40%程度含有している。添加する強脱酸元素量が少ないことから、平衡酸素濃度はC脱酸によって決まっていることに加え、溶鋼中の溶存酸素および介在物としての酸素は極めて少ないことから、添加した強脱酸元素の大部分は溶存する。しかしながら、一部残存している溶存酸素と強脱酸元素が反応して酸化物が形成される。この時、真空槽内の圧力を強脱酸元素添加前よりも高くすると、C脱酸によって決まる溶存酸素濃度が、強脱酸元素濃度によって決まる溶存酸素濃度よりも高くなってしまい、平衡酸素濃度増加分が強脱酸元素と反応して酸化物を形成してしまう蓋然性が高くなることから、強脱酸元素添加前後で真空槽内の圧力を高くしてはならない。また、強脱酸元素添加後は、添加直後に生成した酸化物の凝集浮上除去させるため、5分間以上環流させることが必要である。強脱酸元素添加後の環流時間が5分間より短い場合、凝集浮上除去効果を十分に得られない。また、強脱酸元素添加後の環流時間が15分間を超える場合、既に効果が飽和していることに加え、これ以上の処理時間増加は処理費用の増大を招くことになるため、強脱酸元素添加後の環流時間は15分間より短いことが望ましい。
清浄性が高く、強脱酸元素を含有する鋼材を得るには上記した方法で処理すればよい。
一方、清浄性が高いことに加え、強脱酸元素の酸化物が微細分散した鋼材を得るには、上記した処理手順に加え、以下の後環流処理の手順を加える。
後環流処理を行うに当たり、強脱酸元素が添加されており、溶鋼中Al濃度が低位である状態で、かつ、溶存酸素が不足している状態で真空槽の圧力を高めてやればよい。具体的には、前記減圧清浄化処理と強脱酸剤添加処理を施した後に、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.005%以下、Zr,REMのうち1種以上:0.0003〜0.002%を含有する溶鋼を、前記強脱酸剤添加処理後には炭素以外の脱酸剤を添加することなく、(2)式を満たす範囲の真空槽内圧力P0_latterで3分間以上環流処理することが必要である。
溶鋼中の酸素濃度はC脱酸によって決まっており、真空槽内の圧力を高くしてP0_latterとした場合、気相から微量酸素が供給されることになる。この時、真空槽の圧力を(2)式を満たす範囲とすることで、確実に強脱酸元素の酸化物を微細分散できる。
上記した強脱酸元素の酸化物の微細分散させるには、(2)式に示すように、P0_latterを5kPaよりも高く設定する必要がある。P0_latterが5kPaよりも低い場合、気相からの酸素供給速度が遅く、生産性が低下してしまう。一方、真空槽内の圧力を高くして、P0_latterが15kPaを超える場合、浸漬管からの溶鋼吸い上げ高さが低位となり、環流操作に支障が現れ始めることから、P0_latterは15kPa以下であることが必要である。
溶存酸素濃度を増加させる効果を確実に得るには、後環流処理時の環流時間が3分間以上であることが必要である。環流時間が3分間より短い場合、鋼材中の微細酸化物の分散量を高める効果は限定的である。一方、環流時間が10分間を超えても、効果が既に飽和していることから、これ以上の処理時間増加は処理費用の増大を招くことになる。また、このため、鋼材中の微細酸化物の分散量を高めるには環流時間は3分間以上必要であり、10分間以内であることが望ましい。
前記減圧清浄化処理後に、溶存酸素と酸化物を形成するようなAl,Si,Mn,Ti,Ca,Mg,Zr,REMといった脱酸剤を添加してしまうと、増加させた溶存酸素が低下してしまうことに加え、合金中の僅かな酸素源を元に酸化物が生成するとともに、溶鋼中の微細介在物の粗大化を引き起こしてしまう。このため、前記減圧清浄化処理後から後還流処理中ないし処理後は、炭素を除く脱酸材は添加してはならない。炭素を添加した場合、炭素は溶鋼中に溶解するか、COガスとして気相に排出され、粗大な酸化物は形成されないため、後還流処理中であっても添加してもよい。
5.効果の確認方法
本発明の効果を確認するため、減圧清浄化処理前(Zr,REMを除き、本発明に係るSol.Al,Si,SおよびOを含めて製品所要成分の濃度調整を完了した直後)、減圧清浄化処理中の強脱酸元素添加前(添加直前)、減圧清浄化処理後(後環流処理をしなかった場合は溶鋼環流停止直後、後環流処理をした場合はP0_formerからP0_latterへの変更直前)、加えて、後環流処理した場合、後環流処理後(溶鋼環流停止直後)の溶鋼サンプルを採取し、迅速酸素濃度分析装置で全酸素濃度、化学分析に供して溶鋼成分を得るとともに、酸素濃度プローブで溶存酸素濃度を測定した。また、減圧清浄化処理後および後環流処理後に採取した溶鋼のボンブサンプルの切断面を光学顕微鏡で観察し、測定視野面積200mmに存在する5.0μm以上20μm以下の酸化物の個数を調査した。酸化物とは、EDS付属の走査電子顕微鏡で測定した際、Al,Si,Mn,Ti,Ca,MgおよびOの占める割合が90atm%以上である介在物を指す。Sが10atm%以上含まれる介在物は、酸化物として計数しない。
表1には、本発明鋼と比較鋼の溶鋼成分を示す。表1に示す組成のHeat1〜29の鋼を溶製した。精錬段階において、高炉から出銑された溶銑を、溶銑予備処理で脱硫処理し、転炉型精錬容器(CV、Converter)にて脱Pおよび脱C処理した後、取鍋に受鋼した。出鋼の際、Si,Mnを含む合金元素を添加し、保温用のカバースラグを添加した。Heat8,9,28,29の溶鋼量は80トン規模であり、その他は250トン規模である。
Figure 2013216927
表2には、減圧清浄化処理条件(強脱酸剤添加処理前)を示し、表3には、減圧清浄化処理条件(減圧清浄化処理後)を示す。
Figure 2013216927
Figure 2013216927
取鍋内の溶鋼をRH真空脱ガス装置にて、表2および表3に示す条件で減圧清浄化処理および強脱酸剤添加処理を行った。減圧清浄化処理後、強脱酸剤添加処理で表2に示すZrもしくはREMを0.02kg/ton添加した。なお、Heat12,13および19,20は0.04kg/ton添加した。Heat1から7およびHeat17から21までは、強脱酸剤添加処理後に、表4に示す条件で、真空槽内圧力を高くした後環流処理を行った。表4に、後環流処理条件および処理後の酸素、介在物調査結果をまとめて示す。
Figure 2013216927
減圧清浄化処理前、減圧清浄化処理中のREM添加直前、強脱酸剤添加処理後および、後環流処理後には酸素濃度プローブで溶鋼中酸素濃度を測定するとともに、溶鋼サンプルを採取し、迅速酸素濃度分析装置で全酸素濃度、化学分析に供して溶鋼成分を得た。さらに、採取した溶鋼サンプルから検鏡用のミクロサンプルを切り出し、検鏡法にて5.0μm以上の酸化物個数を計数した。RH真空脱ガス装置における溶鋼温度は、Heat8,9,28,29ではおよそ1540℃から1550℃で推移し、その他は1550℃から1580℃で推移したが、溶鋼昇熱処理直後は一時的に1600℃を超える温度となった。RH真空脱ガス装置で処理した後は、連続鋳造法によって、スラブあるいはブルームといった半製品を得た。
始めに、C,Al濃度および真空槽内圧力から求めた請求項1中のAl濃度および(1)式が示す範囲を、図1にグラフにまとめて示す。図1のグラフの横軸は減圧清浄化処理前のAl濃度であり、縦軸は(1)式によってC濃度とP0_formerから求まる値である。
図1のグラフにおいて、◎印は強脱酸剤添加処理後の酸化物個数が10個/200mm以下であったものであり、本発明鋼であるHeat1から9、並びにHeat17および18は、全て請求項1に記載した本発明に係る発明特定事項を満たすものである。したがって、それらのプロットは、請求項1に規定したAl濃度および(1)式が示す範囲内にある。
また、それらの内Heat1から7は、請求項2に記載した本発明に係る発明特定事項を満たすものである。したがって、表4に示すように、後環流処理を行った後であっても、酸化物個数が10個/200mm以下であり、清浄性が保たれていたことがわかる。
次に、個別の処理条件の特徴と、その酸化物個数への影響を説明する。
Heat7では減圧清浄化処理中(REM添加前)にCを(1)式を満たす範囲内で添加した。一方、Heat11では減圧清浄化処理中(REM添加前)にMnを0.005%以下の条件に収まる範囲内で添加した。その結果、減圧清浄化処理後(REM添加前)の酸化物個数は、Heat7では7と少なかった一方、Heat11では83と多かった。また、この酸化物個数は、強脱酸剤添加処理後でも、Heat7では5と少なかった一方、Heat11では55と多かった。したがって、減圧清浄化処理を開始して以降は、Cは(1)式を満たす範囲内で添加してもよいが、C以外のAl等の脱酸剤を添加してはいけないことが確認された。
また、Heat22では減圧清浄化処理後の強脱酸剤添加処理開始時のREM添加に加え、強脱酸剤添加処理末期(環流処理終了の3分間前)に、REMを0.01kg/ton追添加した。その結果、減圧清浄化処理後(REM添加前)の酸化物個数は6と少なかったが、強脱酸剤添加処理後の酸化物個数は22と多くなっていた。したがって、強脱酸剤添加処理においてREMを添加した後に、溶鋼環流処理を5分間以上行う必要があることが確認された。
さらに、Heat2、17、18では後環流処理開始時に、それぞれ脱酸剤であるC,REM,Alを添加し、(2)式を満たす条件で環流時間を3分間以上確保した。なお、Heat17,18ではそれぞれREM:0.002%以下、Sol.Al:0.005%以下であるように、注意して添加した。その結果、Heat2,17,18のいずれもが強脱酸剤添加処理後の酸化物個数が10以下であって、いずれも請求項1に係る発明の効果が現われていたが、後環流処理を行った後ではHeat2以外のHeat17,18では酸化物個数が51,49と多くなっていて、いずれも請求項2に係る発明の効果を奏することができていないことが分かった。したがって、後環流処理においても、C以外の脱酸剤は添加してはいけないことが確認された。
さらに、Heat5では後環流開始時に1分間以内で、真空槽内で送酸処理を行った。その結果、酸化物個数は強脱酸剤添加後の7から後環流処理後の8に変わっただけで、実質的に送酸処理の影響はないことが分かった。したがって、請求項1および請求項2に規定した要件を満たして処理する限り、後環流処理において酸素を上吹きしても差し支えないことが確認された。
Al濃度が0.005%よりも高いHeat24,26,28,29では減圧清浄化処理後も酸化物個数が多く、減圧清浄化処理前Al濃度は0.0050%以下であることが必要であることが分かる。
また、C濃度とP0_formerから求まる値が減圧清浄化処理前Al濃度よりも低位であったHeat10,25では減圧清浄化処理後の酸化物個数が多く、C濃度とP0_formerから求まる値が減圧清浄化処理前Al濃度よりも高い条件で処理することが必要であることが分かる。
さらに、S濃度が0.003%を超えていたHeat16では、添加したREMが硫化物を形成してしまったため減圧清浄化処理後のREM濃度が低位となっている。
Heat27は(1)式の条件は全て満たしているが、Siによって強脱酸されたことから脱炭脱酸反応が生じていないと考えられ、減圧清浄化処理後の酸化物個数が低減できていない。このため、減圧清浄化処理前Si濃度は0.3%以下である必要がある。
以下は、REM添加前のAl、C、P0_formerは(1)式を満たしているものの、その他の要因で清浄性が低下してしまった例である。
図1のグラフ中の*印(Heat14)は、REM添加前に真空槽内の圧力を高めたことで減圧清浄化処理条件が(1)式から外れてしまったため、減圧清浄化処理後の酸化物個数が多い。
また、図1のグラフ中の△印(Heat11,22)は、減圧清浄化処理末期に脱酸剤を添加したことから、新たに粗大酸化物が生成したことで、酸化物個数が増加している。
図1のグラフ中の□印(Heat12,13,19,20)はZr,REMの添加量が多く、溶存酸素と反応して酸化物が新たに生成するとともに、脱炭反応が上手く生じないことから清浄化作用が享受できず、減圧清浄化処理後の酸化物個数が増加している。また、この状態のまま真空槽内の真空度を高める操作を行っても、溶存酸素濃度は増加できるが、粗大な酸化物が低減されていない。
さらに、図1のグラフ中の+印(Heat15,21,23)は減圧清浄化処理時間が短いため、粗大酸化物が低減しきれておらず、減圧清浄化処理後の酸化物個数が多いままである。

Claims (2)

  1. 製鋼炉から取鍋に出鋼した、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.02%以下を含有する溶鋼を、
    減圧清浄化処理として、環流型脱ガス装置において、(1)式を満たすAl濃度,C濃度および真空槽内圧力の条件下で、炭素以外の脱酸剤を添加することなく、10分間以上環流処理した後に、
    さらに、強脱酸剤添加処理として、Zr,REMのうち1種以上を0.0003〜0.002質量%添加し、該脱酸剤以外には脱酸剤を添加することなく、前記条件下で5分間以上環流処理すること
    を特徴とする清浄性の高い鋼材の製造方法。
    Al<0.0008×((101.325×C)/P0_former1.5
    ・・・(1)
    Al:溶鋼中Sol.Al濃度(質量%)
    C:溶鋼中C濃度(質量%)
    0_former:減圧清浄化処理時の真空槽内圧力(kPa)
  2. 前記減圧清浄化処理および前記強脱酸剤添加処理を施した後に、
    後環流処理として、質量%で、Sol.Al:0.005%以下、Si:0.005〜0.3%、S:0.003%以下、O(全酸素濃度):0.005%以下、Zr,REMのうち1種以上:0.0003%〜0.002%を含有する溶鋼を、
    前記強脱酸剤添加処理後には炭素以外の脱酸剤を添加することなく、(2)式を満たす範囲の真空槽内圧力P0_latterで3分間以上環流処理すること
    を特徴とする請求項1に記載された清浄性の高い鋼材の製造方法。
    5<P0_latter<15 ・・・(2)
    0_latter:後環流処理時の真空槽内圧力(kPa)
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