以下においては、MOCVD法によりZnO単結晶基板上に単結晶性及び平坦性に優れたマグネシウム・酸化亜鉛(MgxZn1-xO)系半導体結晶層を成長する方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る実施例の成長方法及び成長層の特徴、構成及び効果を説明するための比較例についても詳述する。
図1は、本発明の結晶成長に用いたMOCVD装置5の構成を模式的に示している。MOCVD装置5の装置構成の詳細について以下に説明する。また、結晶成長材料については後に詳述する。
[装置構成]
MOCVD装置5は、ガス供給部5A、反応容器部5B及び排気部5Cから構成されている。ガス供給部5Aは、有機金属化合物材料を気化して供給する部分と、気体材料ガスを供給する部分と、これらのガスを輸送する機能を備えた輸送部とから構成されている。
常温で液体(または固体)である有機金属化合物材料は、気化させ蒸気として供給する。本実施例においては、亜鉛(Zn)源としてDMZn(ジメチル亜鉛)、マグネシウム(Mg)源としてCp2Mg(ビスシクロペンタジエニルマグネシウム)、ガリウム(Ga)源としてTEGa(トリエチルガリウム)をそれぞれ用いた。
まず、DMZnの供給について説明する。図1に示すように、窒素ガスを流量調整装置(マスフローコントローラ)21S にて所定の流量とし、ガス供給弁21Mを通してDMZn格納容器21Cに送り、DMZn蒸気を窒素ガス中に飽和させる。そして、DMZn飽和窒素ガスを取出し弁21E、圧力調整装置21Pを通して、成長待機時には第1ベント配管(以下、VENT−MOラインという。)28Vに、成長時には第1ラン配管(以下、RUN−MOラインという。)28Rに供給する。なお、この際、圧力調整装置21Pによって格納容器内圧を一定に調整する。またDMZn格納容器は恒温槽21Tで一定温度に保たれる。
また、その他の有機金属化合物材料Cp2Mg、TEGaについても同様である。すなわち、これらの材料をそれぞれ格納する格納容器22C(TEGa),23C(Cp2Mg)に流量調整装置22S、23Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、取出し弁22E、23E及び圧力調整装置22P、23Pを通して、成長待機時にはVENT−MOライン(VENT1)28Vに、成長時にはRUN−MOライン28Rにこれらのガスが供給される。
また、酸素源としての液体材料であるH2O(水)は格納容器24Cに流量調整装置24Sを経た所定の流量の窒素ガスが送気され、水蒸気として窒素ガスに飽和させて取出し弁24E、圧力調整装置24Pを通して、成長待機時には第2ベント配管(以下、VENT−Oxラインという。)29Vに、成長時には第2ラン配管(以下、RUN−Oxラインという。)29Rに供給される。
p型不純物源としては、気体材料であるNH3(アンモニア)ガスを用いた。NH3ガスは、流量調整装置25Sにより所定の流量が供給される。待機時にはVENT−Oxライン29V、成長時にはRUN−Oxライン29Rに供給される。なお、当該ガスは、窒素やAr(アルゴン)などの不活性ガスで希釈されていても構わない。
上記した液体または固体材料の蒸気と気体材料(以下、材料ガスという。)は、RUN−MOライン28R、RUN−Oxライン29Rを通して反応容器部5Bのシャワーヘッド30に供給される。なお、RUN−MOライン28R及びRUN−Oxライン29Rのそれぞれにも流量調整装置20C、20Bが設けられており、材料ガスはキャリアガス(窒素ガス)によって反応容器(チャンバ)39の上部に取付けられたシャワーヘッド30に送り込まれる。
なお、シャワーヘッド30は、基板10の主面(成長面)に対向する噴出面を有し、当該噴出面内に亘って噴出孔が多数配列され、有機金属化合物材料ガス及びH2Oが個々の孔より基板10に向けて噴出されるように構成されている。
反応容器39内には材料ガスを基板10に吹付けるシャワーヘッド30、基板10、基板10を保持するサセプタ19、サセプタ19を加熱するヒーター49が設置されている。そして、ヒーター49によって基板を室温から1100℃程度まで加熱できる構造となっている。
なお、本実施例における基板温度とは、基板を載置するサセプタ19の表面の温度を指している。すなわち、MOCVD法の場合、サセプタ19から基板10への熱伝達は直接接触、およびサセプタ19と基板10間に存在するガスにより行なわれる。本実施例で用いた成長圧力1kPa〜120kPa(Pa:パスカル)の間では、基板10の表面温度(すなわち、成長温度)はサセプタ19の表面温度より0℃〜10℃低い程度である。
また、反応容器39にはサセプタ19を回転させる回転機構が設けられている。より詳細には、サセプタ19はサセプタ支持筒48に支持され、サセプタ支持筒48はステージ41上に回転自在に支持されている。そして、回転モータ43がサセプタ支持筒48を回転させることによりサセプタ19(すなわち、基板10)を回転させる。なお、上記したヒーター49は、サセプタ支持筒48内に設置されている。
排気部5Cは、容器内圧力調整装置51と排気ポンプ52で構成されており、容器内圧力調整装置51にて反応容器39内の圧力を0.01kPaないし120kPa程度まで調整できる構造となっている。
[結晶成長材料]
本発明においては、有機金属化合物材料(または有機金属材料)として、構成分子内に酸素を含まないZn有機金属化合物と、Cp基(シクロペンタジエニル基)を有するMg有機金属化合物とを用い、酸素源としてはH2O(水蒸気)を用いた。
酸素を含まない有機金属化合物は、H2Oとの反応性が高く、低成長圧力、あるいは水蒸気と有機金属化合物(MO)の流量比(F(H2O)/F(MO)比)又はVI/II比が低い領域においてもZnO系結晶の成長を可能とする。
また、後述する成長触媒作用を利用するためにCp基(シクロペンタジエニル基)を有するMg有機金属化合物を使用した。なお、Mg有機金属化合物以外の有機金属材料による触媒機能の妨害を防ぐため、Mg有機金属化合物以外の有機金属材料の官能基は鎖状炭化水素基であることが好ましい。
より具体的には、有機金属化合物材料として、DMZn、Cp2Mg、TEGaを用いたが、Zn材料として、DEZn(ジエチル亜鉛)等も用いることができる。また、Cp基(シクロペンタジエニル基)を有するMg有機金属材料としては、Cp2Mgの他にMeCp2Mg(ビスメチルペンタジエニルマグネシウム)、EtCp2Mg(ビスエチルペンタジエニルマグネシウム)等を用いることができる。
酸素材料としては、H2O(水蒸気)を用いた。H2Oは、後述する反応触媒機能により水素を供給した後、活性な酸素になるので本発明の方法には最適な酸化剤である。
また、不純物ドーピング材料(III族材料)として、TMGa(トリメチルガリウム)、TEGa(トリエチルガリウム)、TMAl(トリメチルアルミニウム)、TEAl(トリエチルアルミニウム)、TIBA(トリイソブチルアルミニウム)などを利用することができる。
不純物用のV族材料としてNH3(アンモニア)、Hy(ヒドラジン)、MMHy(
モノメチルヒドラジン)、DMHy(ジメチルヒドラジン)等を用いることができる。
キャリアガスとしては、N2(窒素)、Ar(アルゴン)、Xe(キセノン)、He(ヘリウム)等の不活性ガスを用いることができる。キャリアガスは、ガス純度とコストを加味するとN2(窒素)が最適である。尚、本発明ではCp2Mgの成長触媒機能を用いる。キャリアガスにH2(水素)を用いると成長触媒効果が低下するので好ましくないが、少量ならば使用することができる。
基板には、(0001)面が [10−10]方向に0.5°傾いた、いわゆる0.5°オフ基板(あるいは、c面がm軸方向に0.5°傾いた0.5°オフ基板)、及び(0001)ジャスト基板を用いた。また、以下に説明する実施例および比較例においては、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用いた。
[実施例1〜4及び比較例1〜4の成長方法]
実施例1〜4及び比較例1〜4においては、アンドープMgZnO結晶の成長について説明する。より詳細には、実施例1においては、本発明の代表的な実施例(成長温度が850〜900℃)のアンドープMgZnO結晶の成長について説明する。実施例2においては、成長温度範囲を拡張した場合、すなわち成長温度が775〜925℃の場合の成長について説明する。実施例3においては、成長圧力が2〜40kPaの場合の成長について説明する。実施例4においては、II族の流量(後述するII族流量倍率)が異なる場合の成長について説明する。
[実施例1の成長方法]
図2に示す結晶成長シーケンスを参照して実施例1の成長方法について以下に詳細に説明する。
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板(以下、ZnO基板又は単に基板ともいう。)10を反応容器39内のサセプタ19にセットし、真空に排気後、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。また、RUN−MOライン28R及びRUN−Oxライン29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2L/min(合計4L/min)の流量でシャワーヘッド30からZnO基板10に供給した。
次に、反応容器39内の圧力が10kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともに、RUN−MOライン28Rからキャリアガスとして窒素ガスを2L/min供給し、H2O(水蒸気)の流量F(H2O)を800μmol/minに調整してRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、基板温度を1000℃で、7min間の熱処理を行った(T=T3〜T4)。
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させ、基板温度の上昇を開始した(T=T4)。成長圧力Pg=80kPa、基板温度が所定の成長温度Tg=775℃に安定した後、DMZnの流量F(DMZn)を10μmol/minに調整し、キャリアガスとしての窒素ガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給し、結晶成長を開始した(T=T5)。24分(min)間の成長により、ZnO基板10上に厚さ約0.2μmのZnO結晶層11を成長した(T=T5〜T6、成長時間:EG1=24min)。
次に、基板温度の上昇、及び圧力の降下を開始し、成長圧力Pg=5kPa、基板温度が成長温度Tg=875℃に安定した後、RUN−MOライン28RからDMZn(流量30μmol/min)の供給(T=T7)及びCp2Mg(流量F(Cp2Mg):1.00μmol/min)の供給(T=T8)を順次行った。この際、MOガスとキャリアガス(窒素)との総流量は2L/minを維持した。また、H2O(流量:800μmol/min)をRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、成長開始(T=T8)から480分(min)経過時(T=T9)において、Cp2Mgの供給停止(T=T9)及びDMZnの供給停止(T=T10)を順次行い、ZnO結晶層11上に厚さ約500nmのアンドープMgZnO結晶層12を成長した(T=T8〜T9、成長時間:EG2=480min)。
なお、理解及び説明の容易さのため、II族の流量倍率MF(II)を以下のように定義する。上記したように、MgZnO結晶層12の成長におけるII族の流量については、(F(DMZn),F(Cp2Mg))=(30μmol/min,1.00μmol/min)であったが、このII族流量の組合せの1/3の流量、すなわち(F(DMZn),F(Cp2Mg))=(10μmol/min,0.334μmol/min)を1単位としてII族の流量倍率MF(II)を定義する。また、MF(II)=1,2,3・・、あるいは、×1,×2,×3・・、のように表記する。なお、実施例1の場合では、II族の流量倍率MF(II)=3(又は×3)となる。
また、実施例1において、水蒸気面積流量FS(H2O)は、18.1μmol・min-1・cm-2であった。ここで、水蒸気面積流量FS(H2O)は、ZnO基板10に供給されるH2O(水蒸気)の単位面積当たりのモル流量である。具体的には、H2Oの流量をシャワーヘッド30のガス噴出面の面積(有効噴出面積)で除した値である。すなわち、シャワーヘッド30の噴出面の直径をdとしたとき、水蒸気面積流量FS(H2O)=H2O流量(F(H2O))/(π×(d/2)2)で与えられる。なお、本実施例等では、d=75mmとした。
成長終了後、圧力を5kPaに保ったまま、基板温度が280℃に低下するまで水蒸気(H2O)を流しながら冷却した(T=T10〜T11)。その後、圧力をポンプ真空(〜10-1Pa程度)まで減圧し、同時にH2Oの供給を停止した。基板温度が室温になるまで待ち成長を終了した。
[実施例1の成長条件]
上記においては、成長温度Tgが875℃の場合を例に成長方法について説明したが、実施例1においては、成長温度Tgを変えてMgZnO層12をZnO結晶層11上に成長した。すなわち、異なる5つの成長温度Tg=850℃、863℃、875℃、888℃、900℃の場合について成長を行った。成長前熱処理、ZnO結晶層11の成長などは上記条件と同一である。また、MgZnO結晶層12の成長についても、成長温度Tgを変えた点を除き、成長圧力、成長時間などは上記条件と同一である。
上記したように、実施例1においては、有機金属(MO)材料として、構成分子内に酸素を含まないZn有機金属であるDMZnと、Cp基を有するMg有機金属化合物であるCp2Mgとを用い、酸素源としてH2O(水蒸気)を用い、
(i)成長温度Tg=850℃、863℃、875℃、888℃、900℃、
(ii)成長圧力Pg=5kPa、
(iii)II族の流量倍率MF(II):×3
(iv)成長時間480min、
でアンドープMgZnO層12の成長を行った。
[実施例2の成長方法]
MgZnO結晶層12の成長を除き、成長基板の成長前熱処理、ZnO結晶層11の成長などの成長条件は実施例1と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。
具体的には、成長圧力Pgを5kPaとし、成長温度が異なる場合について、MgZnO結晶層12の成長を行った。具体的には、RUN−MOライン28RからDMZn(流量30μmol/min)及びCp2Mg(流量:1.00μmol/min)を供給し、H2O(流量:800μmol/min)をRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、120min間の成長により、ZnO結晶層11上にMgZnO結晶層12を成長した。なお、異なる成長温度Tg=775℃、825℃、875℃、925℃の場合について成長を行った。また、MgZnO結晶層12の層厚は、60〜1000nmであった。
[実施例2の成長条件]
実施例2においては、成長温度Tgを変えてMgZnO層12をZnO結晶層11上に成長した。また、MgZnO層12の成長時間を実施例1の成長時間よりも短くした点を除き、これら以外の成長条件は実施例1の場合と同一である。なお、水蒸気面積流量FS(H2O)も、18.1μmol・min-1・cm-2と実施例1の場合と同一であった。
すなわち、実施例2においては、有機金属(MO)材料としてDMZn、Cp2Mgを用い、酸素源としてH2O(水蒸気)を用い、
(i)成長温度Tg=775℃、825℃、875℃、925℃、
(ii)成長圧力Pg=5kPa、
(iii)II族の流量倍率MF(II):×3
(iv)成長時間120min、
でアンドープMgZnO層12の成長を行った。
[実施例3の成長方法]
実施例1の場合と異なる点について以下に説明する。すなわち、基板の熱処理は、H2O(水蒸気)の流量を640μmol/minとして行った。
また、ZnO結晶層11の成長は、成長圧力Pgを80kPa、成長温度Tgを775℃として行った。DMZnの流量は10μmol/min、H2Oの流量は640μmol/minであった。そして、24min間の成長により、ZnO基板10上に厚さ約0.2μmのZnO結晶層11を成長した。
MgZnO結晶層12の成長は、成長温度Tgを875℃として行った。DMZnの流量は10μmol/min、Cp2Mgの流量は0.334μmol/min、H2Oの流量は640μmol/minであった。なお、異なる5つの成長圧力Pg=2kPa、5kPa、10kPa、20kPa、40kPaの場合について成長を行った。また、MgZnO結晶層12の層厚は、20〜30nmであった。
[実施例3の成長条件]
すなわち、実施例3においては、有機金属(MO)材料としてDMZn、Cp2Mgを用い、酸素源としてH2O(水蒸気)を用い、
(i)成長圧力Pg=2kPa、5kPa、10kPa、20kPa、40kPa、
(ii)成長温度Tg=875℃
(iii)II族の流量倍率MF(II):×1
(iv)成長時間120min、
でアンドープMgZnO層12の成長を行った。
基板の熱処理及びZnO結晶層11の成長法は、実施例3の場合と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。
具体的には、MgZnO結晶層12の成長は、成長温度Tgを875℃、成長圧力Pgを5kPaとし、120min間の成長を行った。実施例4においては、II族(DMZn、Cp2Mg)の流量が異なる4つの場合、すなわち、(F(DMZn),F(Cp2Mg))=(10μmol/min,0.334μmol/min),(20μmol/min,0.669μmol/min),(30μmol/min,1.00μmol/min),(40μmol/min,1.33μmol/min)の場合について成長を行った。すなわち、上記したII族の流量倍率MF(II)は、それぞれMF(II)=1,2,3,4(又は、×1,×2,×3,×4、とも表記する)であった。また、MgZnO結晶層12の層厚は、20〜110nmであった。
すなわち、実施例4においては、有機金属(MO)材料としてDMZn、Cp2Mgを用い、酸素源としてH2O(水蒸気)を流量F(H2O)=640μmol/min(MF(II)=4の場合はF(H2O)=800μmol/min)として供給し、
(i)成長温度Tg=875℃、
(ii)成長圧力Pg=5kPa、
(iii)II族の流量倍率MF(II):×1,×2,×3,×4
(iv)成長時間120min、
でアンドープMgZnO層12の成長を行った。
[比較例1〜4]
上記した実施例1〜4により成長したアンドープMgZnO結晶層の評価のため、比較例として以下の成長方法、成長条件で結晶成長を行った。より詳細には、比較例1は代表的な比較成長例(成長温度:775℃)、比較例2は成長温度範囲が700〜850℃の場合、比較例3は成長圧力範囲が10〜40kPaの場合、比較例4はII族の流量を異ならせた場合の成長例である。
また、基板として、XRD(100)ωロッキングカーブのFWHMが40arcsec未満のZnO単結晶基板を用い、表面層をエッチング処理した点は実施例1〜4と同様である。また、成長シーケンスも以下に説明する点を除き実施例1〜4と同様である。以下においては、実施例1〜4と異なる点を主に説明する。
(比較例1)
基板熱処理については、基板温度を800℃、圧力10kPaとし、昇温開始と同時にRUN−MOライン28Rからキャリアガスとして窒素ガスを2L/min供給し、H2O(水蒸気)の流量F(H2O)を640μmol/minに調整してRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、基板温度を800℃で、7min間の熱処理を行った。
また、ZnO結晶層11の成長は、成長温度Tgを800℃、成長圧力Pgを80kPaとして行った。DMZnの流量は10μmol/min、H2Oの流量は640μmol/minであった。そして、24min間の成長により、ZnO基板10上に厚さ約0.2μmのZnO結晶層11を成長した。
MgZnO結晶層12の成長は、成長温度Tgを775℃、成長圧力Pgを10kPaとして行った。DMZnの流量は10μmol/min、Cp2Mgの流量は0.556μmol/minであった。そして、120min間の成長により、ZnO結晶層11上にMgZnO結晶層12を成長した。
比較例1においては、H2Oの流量を変え、VI/II比を異ならせて成長を行った。具体的には、H2Oの流量を40μmol/min(VI/II比=3.8)、80μmol/min(VI/II比=7.6)、160μmol/min(VI/II比=15.2)、640μmol/min(VI/II比=60.6)として、アンドープMgZnO結晶層12を成長した。また、MgZnO結晶層12の層厚は、60〜240nmであった。
(比較例2)
MgZnO結晶層12の成長を除き、成長基板の成長前熱処理、ZnO結晶層11の成長などの成長条件は比較例1と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。
成長圧力Pgを10kPaとし、成長温度Tgが異なる場合について、MgZnO結晶層12の成長を行った。DMZnの流量は10μmol/min、Cp2Mgの流量は0.556μmol/min、H2Oの流量は640μmol/minであった。具体的には、成長温度Tg=700℃、750℃、775℃、800℃、825℃、850℃の場合について成長を行った。そして、120min間の成長により、ZnO結晶層11上に層厚が35〜600nmのアンドープMgZnO結晶層12を成長した。
(比較例3)
MgZnO結晶層12の成長を除き、成長基板の成長前熱処理、ZnO結晶層11の成長などの成長条件は比較例1と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。
成長温度Tgを800℃とし、成長圧力Pgが異なる場合について、MgZnO結晶層12の成長を行った。DMZnの流量は10μmol/min、Cp2Mgの流量は0.556μmol/min、H2Oの流量は640μmol/minであった。具体的には、成長圧力Pg=10kPa、20kPa、40kPaの場合について成長を行った。120min間の成長により、ZnO結晶層11上に層厚が250nmのアンドープMgZnO結晶層12を成長した。
(比較例4)
MgZnO結晶層12の成長を除き、成長基板の成長前熱処理、ZnO結晶層11の成長などの成長条件は比較例1と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。
MgZnO結晶層12の成長は、成長温度Tgを775℃、成長圧力Pgを10kPaとし、120min間の成長を行った。比較例4においては、II族(DMZn、Cp2Mg)の流量及びVI族(H2O)の総流量F(II+VI)、すなわち材料ガスの総流量F(II+VI)が異なる3つの場合について成長を行った。より詳細には、(DMZn、Cp2Mg、H2O)が、(10μmol/min,0.556μmol/min、40μmol/min)、(20μmol/min,1.11μmol/min、80μmol/min)、(30μmol/min,1.66μmol/min、120μmol/min)の場合について成長を行った。ここで、上記した材料ガス(II族及びVI族ガス)の流量(10μmol/min,0.556μmol/min、40μmol/min)を1単位として材料ガスの総流量倍率MF(II+VI)を定義する。すなわち、比較例1、2、3の場合では、材料ガスの総流量倍率MF(II+VI)=1であり、比較例4の場合では、MF(II+VI)=1,2,3(又は、×1,×2,×3とも表記する)である。
[本発明の結晶成長メカニズム]
本発明は、MgZnO系結晶の成長に関する検討及び研究の結果得られた知見によりなされた。上記したように、本発明のMgZnO系結晶の成長方法は、有機金属(MO)材料として、構成分子内に酸素を含まないZn有機金属と、Cp基を有するMg有機金属化合物とを用い、酸素源としてH2O(水蒸気)を用い、非還元雰囲気(窒素雰囲気)下でMgZnO系結晶の成長を行う。
従来、MgxZn1-xO等の3元混晶を成長する場合、ZnO結晶の成長条件を基礎にしてMg組成xを増加する手段を採る。例えば、特許文献1に記載されているMgZnO結晶の成長方法もかかる手段を採用し、かつ減圧成長(低圧成長)および低水蒸気流量を用いて不要な反応を抑制しつつ、結晶品質の向上を図っている。
DMZnと水蒸気を用い、窒素雰囲気下で成長するZnO成長系は、水素のない非還元雰囲気の反応系である。鎖状炭化水素を有するDMZnは、非還元雰囲気においても水蒸気と反応して鎖状炭化水素を脱離し、生成した活性なZnと水蒸気が反応してZnO結晶を成長する。この時、鎖状炭化水素はZnO結晶成長過程を阻害することなく成長表面から脱離(飛散)する。
ところでCp2Mgは、Mg金属が2つのCp基(シクロペンタジエニル基)で挟まれた構造をしているため、鎖状炭化水素を有する有機金属であるTMGa、TMAl、DMZnより化学的安定性が高い。それ故、鎖状炭化水素を有する有機金属と比較して熱分解温度が100℃から200℃高く、同時にカーボン(炭素)を生成し易い。すなわち、反応性が悪くカーボン(炭素)を残留し易い有機金属材料である。
本願の発明者は、鋭意研究の結果、Cp2Mgを用いたMgZnO結晶の成長における真の問題点を見出した。つまり、DMZnと水蒸気を用い、反応性の悪いCp2Mgを加えた、窒素雰囲気下(非還元雰囲気下)で成長するMgZnO成長系では、Cp2Mgは環状構造のCp基が水蒸気と容易に反応できず、成長表面に留まり易い環状および高分子鎖状炭化水素を生成する、ということである。加えてMgZnO結晶成長系では、Mgは結晶組成元素であるためにCp2Mgを大流量で供給するので影響は増大する。
本発明は、環状構造のCp基を有するMg有機金属化合物の分解過程に関する上記知見から、上記した問題となるCp2Mgの分解過程を逆に効果的に利用して、高品質なMgZnO結晶層の成長を可能にした。
すなわち、従来の方法において、反応阻害を起こす炭化水素生成物とは、環状構造のCp基に由来する環状炭化水素生成物であり、また、開環反応の際に重合した高分子鎖状炭化水素も反応阻害を起こす炭化水素生成物である。そして、これらの炭化水素生成物は基板表面に長く留まりMgZnO結晶成長過程を阻害して、MgZnO結晶層にピット(ランダムピット)やヒルロックを発生させ、またカーボン残留を引き起こす。
これに対し、反応阻害を起こさない炭化水素生成物とは、開環反応して鎖状になった低分子の炭化水素生成物であり、これらの炭化水素生成物は基板表面から即座に脱離(飛散)するのでMgZnO結晶成長過程を阻害せず、またカーボン残留も起こさない。
従って、本発明の方法は、ZnO単結晶の成長上限温度以上の成長温度、すなわち850℃程度以上の成長温度による高温成長によって、Cp基が開環反応を起すのに必要なエネルギを充足し、基板表面でCp基が容易に鎖状炭化水素生成物となることを可能とした。また、成長圧力を5kPa程度以下とすることで、開環反応の際の重合反応を抑制し、低分子の鎖状炭化水素生成物が生成することを可能とした。
なお、Cp基の開環反応には、反応の際に水素元素(H)を必要とする。そこで、成長表面に水蒸気を供給することで(水蒸気面積流量FS(H2O)が10μmol・min-1・cm-2程度以上)、低分子の鎖状炭化水素生成物の生成を促進することができる。同時に、上記反応の断片として活性な酸素が成長表面へ供給される(以下、「成長触媒機能」という。)ので、高温減圧条件下においても酸素供給不足なく安定した2次元結晶成長(2D成長)が可能となる。その結果、平坦性や結晶配向性が良好で且つMgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)やヒルロックの形成を抑制でき、カーボン残留がなく、また残留キャリア濃度の低い優れた結晶品質のMgZnO結晶成長が可能となる。
ところで、DMZnと水蒸気を用い、成長温度850℃程度以上、成長圧力5kPa程度以下の条件においては、ZnO単結晶の成長は不可能である。しかし、本発明の方法は、上記したCp2Mgの“成長触媒機能”によりウルツァイト構造のMgZnO結晶の成長が可能となる。逆に言えば、Cp2Mgを供給しない場合、ZnO結晶すら成長できない特異な成長条件における結晶成長方法である。
以上より、本発明の方法が非還元雰囲気でのCp基を有するMg有機金属化合物の熱分解過程の成長阻害要因を取除き、更に成長触媒機能を引出し、高品質なMgZnO結晶成長を可能にした特異な方法であることが理解できる。同時に、従来の成長方法の延長線上では想定不可能な方法ともいえる。
[結晶成長層の詳細な評価結果及び物性]
以下に、上記した実施例1〜4、及び比較例1〜4における結晶成長層の評価結果及び物性等について図を参照して詳細に説明する。また、以下においては、理解の容易さのため、実施例1〜4の結晶成長層をそれぞれEMB1〜4と称し、比較例1〜4の結晶成長層をそれぞれCMP1〜4と称して説明する場合がある。上記した結晶成長層について、以下の方法により評価・分析を行った。
表面モフォロジは、微分偏光顕微鏡、SEM(Scanning Electron Microscope)及びAFM(Atomic Force Microscope)により評価を行った。また、結晶配向性及び欠陥・転位密度については、X線回折(XRD:X-Ray Diffractometer)で評価した。結晶中の不純物濃度については、二次イオン質量分析(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)により評価した。
より詳細には、XRD測定では、結晶構造や結晶組成、また結晶の方位の分布状態(結晶配向)を分析・評価することができる。ZnO系単結晶層の場合、2θ測定によって結晶組成を評価し、ロッキングカーブ測定によって結晶配向性を評価した。具体的には、(002)面の2θ測定にてMgxZn1-xOのMg組成xを評価し、(002)面と(100)面のロッキングカーブ測定の半値幅(FWHM:full width at half maximum)により結晶配向性を評価した。半値幅が広い場合、配向性の乱れが大きく欠陥密度や転位密度が高いといえ、半値幅が狭い場合、配向性の乱れが小さく欠陥密度や転位密度が低いといえる。
また、SIMS測定では、結晶中に含まれる微量不純物の濃度を分析評価できる。特に、深さ方向測定(Depth profile測定)では、結晶表面から深さ方向の不純物濃度プロファイルが得られる。
CV測定では、結晶中のキャリア濃度を測定・評価することができる。ショットキー接合に、逆バイアス電圧Vを印加して容量Cを測定する。そしてV−1/C2の傾きは、空間電荷層の縁における不純物濃度の関数であるため、不純物濃度を求めることができる((株)オーム社発行 半導体ブック(第2版)265ページ参照)。
<1.実施例1の成長層:EMB1>
上記したように、適用可能性が高い成長温度Tgである850℃、863℃、875℃、888℃、900℃においてMgZnO結晶層12を成長した事例である。特に、本発明の方法の特徴は、MgxZn1-xO(0<x≦0.68)結晶層のMg結晶組成xを、成長速度や水蒸気流量を一定に保ち、成長温度Tgのみで調整できる点にある。なお、以下においては、成長したMgxZn1-xO結晶層におけるMgの結晶組成をXs(=x)として示す場合がある。
(i)表面モフォロジ
図4に、実施例1の各MgZnO成長層のAFMイメージを示す。AFMイメージは15μm角、5μm角、1μm角の視野で測定したものである。MgZnO結晶層の表面モフォロジは、m軸方向に0.5°offしたc面ZnO基板に由来するテラスとステップで構成された縦縞が観察されるだけである。平坦性も15nm角視野にて2nm以下と良好な水準である。また、MgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)やヒルロックは全く観察されていない。
すなわち、本発明の方法は、Mgの結晶組成Xs(=x)が0.17以上、膜厚約500nmであるにも関わらず、歪み緩和応力による、テラスとステップで構成された縦縞の乱れがなく、またピット(ランダムピット)やヒルロック形成を抑制できることがわかった。
図5に、実施例1の各MgZnO成長層の微分干渉顕微鏡像を示す。観察倍率20倍の画像を用いて、基板欠陥に由来するピット(ラージピット)密度を測定した。成長温度850℃、863℃、875℃、888℃、900℃において、ラージピット密度は6.3×103、7.0×103未満、1.4×103、1.5×104、1.7×104cm-2であり、概ね103〜104cm-2と低い。基板欠陥由来のピット(ラージピット)とは、ZnO基板に潜在している欠陥や転位を起点に、その上に成長したZnO結晶層にピットが発生する現象である。すなわち、基板上に成長したZnO結晶層にピットは発生しないが欠陥や転位を引継いだ場合、その上に成長するMgZnO結晶層にピットが発生する場合がある。なお、その場合もZnO基板由来のピット(ラージピット)と以後記載する。このように、MgZnO結晶層の成長界面でのラージピット形成を抑制できることがわかった。なお、図中、Enは指数表記であり、例えば、6.3E3は6.3×103を表している。
(ii)XRD
図6(a)に、(0002)面の2θ回折カーブを示す。ZnO(0002)面の回折ピークに対してMgZnO(0002)面の回折ピークが高角側に観察される。その回折ピークは成長温度の上昇に従い、比例して高角側にシフトする。また全ての回折カーブは、MgZnO/ZnO積層構造としたシミュレーション結果とも良い一致を示した。
発光ダイオード(LED)等のダブルへテロ構造の障壁層にMgZnO結晶層を用い、発光層にZnO結晶層を用いた構造の場合に、結晶層界面が乱れると発光層へのキャリア閉じ込め効果が低下して発光効率が低下する。然るに、急峻な界面形成は半導体素子形成に重要である。本発明によれば、Mgの面内分布および厚み方向分布が均質なMgZnO結晶層を成長できる。また、下地ZnO結晶層とMgZnO結晶層の界面が乱れることなく急峻な界面を形成できることがわかった。
図6(b)に、MgZnO結晶層の(100)面のロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅は全温度域において30arcsec程度であり、ZnO基板の半値幅と同等である。従って、本発明によれば、Mg結晶組成(x)が0.17以上また層厚約500nmであっても、ツイスティングおよびチルティングを極めて低く抑制でき、良好な結晶配向性のMgZnO結晶層を成長できることがわかった。
図7に、(105)面の逆格子マッピングを示す。横軸がm軸方向、縦軸がc軸方向である。何れの成長温度においてもMgZnO結晶層は、ZnO結晶層と同等なa軸長を取り、c軸長が延びる状態で積層されている。
図8に、Mg結晶組成とc軸長の関係を示す。Mg結晶組成(x)の増加に従いc軸長は線形に減少している(フリースタンディングの状態より長い)。Mg結晶組成(x)が0.17以上また膜厚約500nmであっても、格子緩和することなくZnO結晶層上にMgZnO結晶層を成長できることがわかった。
図9に、CV測定で得られた深さ方向のキャリア濃度を示す。成長温度850℃から900℃で成長したMgZnO結晶層の残留キャリア濃度は4.7×1015cm-3から1.3×1016cm-3以下と極めて低い値に抑制できることがわかった。例えば、LEDを製造する場合、残留キャリア濃度の低さは、n型半導体層、発光層、p型半導体層の何れの形成においても重要である。ドーピング濃度に比例したn型キャリア濃度およびp型キャリア濃度の半導体層の形成を可能とし、また発光層においては意図しない不純物準位からの発光・非発光遷移を抑制でき発光効率を向上できるからである。
本発明によれば、成長温度が850℃以上、成長圧力が5kPa以下であっても、水蒸気面積流量FS(H2O)を、18.1μmol・min-1・cm-2で供給することで、Cp2Mgの成長触媒機能の効果を生かし、酸素欠損を抑制して残留キャリア濃度を5×1015cm-3程度以下にできることがわかった。
(iii)SIMS
測定データについては記載を省略するが、Mg結晶組成(Xs=x)が0.17以上であっても、炭素濃度はSIMS測定において安定して検出下限界以下であることがわかった。本発明によれば、Cp2MgからCp基を低分子鎖状炭化水素として脱離できること、また成長触媒機能により炭素単体も二酸化炭素として脱離できるため、成長過程での炭素取り込みを抑制できることがわかった。
(iv)Mg結晶組成と成長速度
図10(a)に、成長温度に対するMg結晶組成(x)及び成長速度(GR)の関係を示す。成長温度とMg結晶組成xの間には線形比例の関係があり、成長温度によりMg結晶組成を制御性良く調整できることが解る(傾きは0.0027℃-1)。また、成長温度Tgにかかわらず成長速度は、略一定(約60〜66nm/hour)であった。従って、異なるMg結晶組成xのMgZnO結晶を積層する場合には、成長温度Tgを変更して組成xを制御することができる。
(v)ロッキングカーブの半値幅とキャリア濃度
図10(b)に、成長温度に対する(100)ロッキングカーブの半値幅FWHMおよびキャリア濃度の関係を示す。全成長温度域において(100)ロッキングカーブの半値幅は30arcsec程度と一定であり、また残留キャリア濃度も2×1016cm-3以下と安定して低いことがわかった。
以上説明したように、本発明は、平坦性と結晶配向性に優れ、ZnO基板由来のピット(ラージピット)、MgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)やヒルロックの形成を抑制でき、炭素残留のない、低残留キャリア濃度のMgZnO単結晶層の成長を可能とする優れた結晶成長方法であることが確認された。
また、本発明によれば、MgZnO系半導体発光素子の障壁層に必要なMg結晶組成が0.1以上、膜厚約30nm以上、ZnO結晶のa軸長とコヒーレントなa軸長のMgZnO結晶層の形成が可能となる。Mg結晶組成xは少なくとも0.375までは形成可能であり、膜厚も約500nmまでは形成可能であることが確認された。
<2.実施例2の成長層:EMB2>
上記したように、実施例2においては、成長温度Tgを775℃、825℃、875℃、925℃としてMgZnO結晶層を成長した。
(i)表面モフォロジ
図11に、各MgZnO成長層のAFMイメージを示す。成長温度Tgが775℃の場合では膜欠損を発生し、またm軸方向にオフさせたc面ZnO基板に由来した縦縞模様(テラスとステップ)に乱れが生じている。成長温度825℃では、若干の乱れが残っている。これに対し、成長温度Tgが875℃及び925℃の場合では実施例1の場合と同様に高品質なMgZnO単結晶層が成長できることが分かった。
図12に、成長温度毎のMgZnO結晶層の微分干渉顕微鏡像及び(100)面ロッキングカーブを示す。微分干渉顕微鏡像に示すように、観察倍率は50倍の画像において基板欠陥に由来するラージピット密度を測定した。ラージピット密度は、成長温度が775℃、825℃、875℃、925℃において、それぞれ、無数(すなわち、膜欠損)、6.9×104cm-2、1.4×103cm-2、8.6×103cm-2であり、875℃以上の成長温度の場合にラージピット密度は減少する。
(ii)XRD
図12の(100)面のロッキングカーブに示すように、ロッキングカーブの半値幅は、成長温度775℃で49.3arcsecと広く、成長温度825℃以上で30arcsecと狭くなり、結晶配向性が向上する。
以上の結果から、有効成長温度は825℃超からであり、実施例1の結果を考慮すると850℃程度以上が好ましい成長温度である。高温側は925℃(すなわち、Mg結晶組成x=0.375)においても優れた結晶品質を維持できており、更に高温域まで結晶成長は可能である。尚、上限値は不明であるが1000℃から1100℃程度でないかと考えられる。ヒーター設備コストやヒーター寿命を考慮すると、上限値は1100℃程度が適当である。
これに対し、ZnO結晶成長の適切な温度域である775℃では、膜欠損が発生した。すなわち、ZnO結晶成長の適切温度域では、例え成長圧力が5kPaであってもCp2Mgの熱分解生成物が環状炭化水素になり成長阻害を引起すからであると考えられる。
また、成長温度825℃、850℃の成長結果から、Mg結晶組成xは0.1以上が好ましく、0.17以上がさらに好ましい。Cp2Mgの成長触媒機能が発揮され、安定にMgZnO結晶が成長されるからである。
<3.実施例3の成長層:EMB3>
上記したように、実施例3においては、成長圧力Pgを2kPa、5kPa、10kPa、20kPa、40kPaとしてMgZnO結晶層を成長した。
(i)表面モフォロジ
図13に、各成長層のAFMイメージを示す。成長圧力Pgが2kPa、5kPaではc面ZnO基板に由来する縦縞模様が観察され、またMgZnO結晶成長過程に由来するピット(ランダムピット)やヒルロックの発生も観察されない。ところが成長圧力Pgが10kPa、20kPaでは膜欠損を起こし、更に40kPaでは膜形成できなくなる。
(ii)XRD
図14に、MgZnO結晶層の(100)面のロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅は、成長圧力Pgが2kPa及び5kPaの場合において、それぞれ27.6arcsecと28.9arcsecと狭く、配向性の優れたMgZnO単結晶層が形成できていることを示す。対して10kPaと20kPaでは、43.6arcsecと44.0arcsecと広くなり、結晶配向性が低下している。
(iii)Mg結晶組成と成長速度
図15に、成長圧力(Pg)とMg結晶組成(x)および成長速度(GR)の関係を示す。良好な結晶成長を示す5kPa程度以下においては、Mg結晶組成および成長速度は成長圧力に依存しない。
以上の結果から、有効成長圧力は10kPa未満であり、好ましくは5kPa程度以下が良い。水蒸気供給量が十分であれば、Cp2Mgの成長触媒機能が効くので2kPaでも高品質なMgZnO単結晶を成長することができる。更に低圧力でも結晶成長は可能である。尚、下限値については、減圧設備コストを考慮すると、0.5kPa程度が適当である。
これに対し、MgZnO結晶成長圧力を10kPaとした場合では、膜欠損を発生する。すなわち、成長圧力が10kPaでは、例え成長温度が875℃であってもCp2Mgの熱分解生成物が高分子鎖状炭化水素となり成長阻害を引起す。
<4.実施例4の成長層:EMB4>
上記したように、実施例4においては、II族(DMZn、Cp2Mg)の流量、が異なる4つの場合について成長を行った。具体的には、(F(DMZn),F(Cp2Mg))=(10μmol/min,0.334μmol/min)の場合をベースとし(すなわち、II族の流量倍率MF(II):×1)、この2倍、3倍、4倍の流量(MF(II):×2,×3,×4)の場合について成長を行った。
(i)表面モフォロジ
図16に、各成長層のAFMイメージを示す。II族流量倍率MF(II)が1倍〜4倍(×1〜×4)の範囲で、c面ZnO基板に由来する縦縞模様が観察される。またMgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)は見られない。
(ii)XRD
図17に、MgZnO結晶層の(100)面のロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅FWHMは、II族流量が1倍〜4倍の範囲においても、全て30arcsec程度と狭く、優れた結晶配向性のMgZnO単結晶層が形成されていることを示す。
(iii)Mg結晶組成と成長速度
図18に、II族流量とMg結晶組成(x)および成長速度GRの関係を示す。II流量の増加により、Mg結晶組成xは0.34から0.26へと僅かに低下する。成長速度は11.3nm/hour〜56nm/hourと流量増加に比例して増加する。
Mg結晶組成xの低下は、II族流量増加に伴うCp2Mgの流量増加による反応触媒機能の効果が高まり成長表面への酸素供給量が増加してZnO結晶成分が増加したものと考えられる。すなわち、水蒸気の面積流量FS(H2O)が14.5μmol・min-1・cm-2および18.1μmol・min-1・cm-2ならば、II族流量を最大4倍としても十分足りていることが分かる。
(iv)VI/II比:水蒸気流量の規定方法
実施例4において、II族流量が1倍〜3倍(×1〜×3)の範囲では、水蒸気流量は640μmol/minと一定である。従って、II族流量の増加に従いVI/II比は61.9、31.0、20.6と減少する。このときVI/II比が低下するにも関わらず、Mg結晶組成xは0.34、0.30、0.29と低下する。例えば、特許文献1の方法では、水蒸気流量を減少させてMg結晶組成を増加している。言い換えれば、VI/II比を低下させてMg結晶組成を増加させているが、本発明はこれとは特性が逆(すなわち、Mg結晶組成xは減少する)である。
以上の結果より、水蒸気面積流量FS(H2O)が14.5μmol・min-1・cm-2および18.1μmol・min-1・cm-2ならば、II族流量を最大4倍まで増加しても優れた結晶品質のMgZnO単結晶層を成長することができる。更にII族流量の増加は可能と考えられる。
尚、II族流量(すなわち、単位時間当たりのモル流量(μmol・min-1))は水蒸気流量(単位時間当たりのモル流量(μmol・min-1))を超えてはならない。
ところで、水蒸気面積流量の下限値は概ね10μmol・min-1・cm-2程度以上と考えられる。同様に、上限値も水蒸気供給設備コストを加味すると、54μmol・min-1・cm-2程度が適当である。なお、室温での水蒸気飽和率は18.1の場合30%なので供給限界の90%ならば54μmol・min-1・cm-2となる。
尚、本発明の方法においては、II族流量の増加・減少によって僅かにMg結晶組成は減少・増加するものの、MgZnO結晶層の結晶品質に影響はない。
<5.比較例1の成長層:CMP1>
比較例1においては、本発明の成長方法との対比の観点から、成長温度を従来のZnO結晶の適正成長温度である775℃とした。また、減圧成長(圧力Pg:10kPa)および低水蒸気流量としてMg有機金属化合物との不要な反応を抑える方法による成長である(例えば、特許文献1参照)。比較例1の成長条件をまとめて表1に示す。
(i)表面モフォロジ
図19に、比較例1の各成長層のAFMイメージ像を示す。AFM像には0.5°offのc面ZnO基板に由来するテラスとステップで構成された縦縞が観察されるが、MgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)や基板欠陥に由来するピット(ラージピット)が高密度で観察される。唯一、水蒸気流量640μmol/minにおいては、AFM視野内にピットは観察されなかった。
ZnO単結晶が成長可能な成長温度におけるMgZnO結晶の成長方法では、Cp2Mgの熱分解の際にMgZnO結晶の成長過程を阻害する炭化水素生成が生成するので、MgZnO結晶成長由来のピット(すなわち、ランダムピット)密度が高くなる傾向にある。また、成長過程が阻害され不安定であるためランダムピットの発生密度は結晶成長毎に“ばらつく”傾向がある。
図20に、各成長層の微分干渉顕微鏡像及び(100)面ロッキングカーブを示す。微分干渉顕微鏡像において、観察倍率100倍の画像にて、基板欠陥に由来するピット(ラージピット)密度を測定した。ラージピット密度は、水蒸気流量40、80、160、320、640μmol/minとした場合に、5.6×105、5.9×105、2.9×105、2.2×105、2.5×105cm-2であった。
従来のMgZnO結晶成長方法では、基板欠陥に由来するピット(ラージピット)密度は5乗オーダー(105)と比較的高い。これは、歪みを内在するMgZnO結晶の特性と成長阻害の複合要因により、下地ZnO結晶層(成長層)ではピット形成しない種類の欠陥または転位を基点にMgZnO結晶成長の段階でピット形成したためと考えられる。
(ii)XRD
図20に示すように、ロッキングカーブの半値幅は全ての水蒸気流量域において30arcsec程度であり結晶配向性については良好な水準であった。
かかるMgZnO結晶の成長方法は、減圧化と低水蒸気流量とすることでMg有機金属化合物との不要な反応を抑制して、MgZnO結晶層の高品質化を図っているが、MgZnO成長過程に由来するピット(すなわち、ランダムピット)は安定的に抑制できない。また基板欠陥由来のピット(すなわち、ラージピット)密度は5乗オーダーと上記実施例の場合に比べて高い。
また、水蒸気流量の増加に伴い、VI/II比が増加すると、Mg結晶組成xが低下する。具体的には、VI/II比が3.8から60.6に増加するに従い、Mg結晶組成xは0.32から0.108に大きく減少する。また、VI/II比が大きいほど、成長速度は増加する。
<6.比較例2の成長層:CMP2>
比較例2においては、成長温度Tgを変えてMgZnO結晶の成長を行った。また、成長圧力Pgを10kPaとし、DMZnを10μmol/min、Cp2Mgを0.556μmol/min(または0.334μmol/min)とした。なお、水蒸気流量は、実施例1でランダムピットが観察されなかった640μmol/minを用いた。比較例2の成長条件をまとめて表2に示す。
(i)表面モフォロジ
図21に、各成長層のAFMイメージ像を示す。成長温度700℃では3D(3次元成長)化し、750℃以上において0.5°offのc面ZnO基板に由来するテラスとステップで構成された縦縞が観察される。成長温度750℃、775℃では、MgZnO結晶成長に由来するピット(ランダムピット)は観察されない。しかし、成長温度が800℃、825℃ではランダムピット密度は高くなる。更に高温の850℃では、膜欠損を発生した。
低温でランダムピット密度が低いのは、ZnO結晶成分の成長が容易になるため相対的にCp2Mgの熱分解生成物の影響が低下する、またはCp2Mgの熱分解生成物自体が減少するからと考えられる。尚、高温化による成長層厚の低下とMg結晶組成の増大は、ZnO結晶成分の成長が困難になるためと考えられる。
図22に、各成長層の微分干渉顕微鏡像を示す。観察倍率100倍の画像において、基板欠陥に由来するピット(ラージピット)密度を測定した。ラージピット密度は、成長温度700、750、775、800、825、850℃とした場合に、それぞれ3D(3次元成長)にて測定不可、4.7×105、2.5×105、1.7×105、1.7×104cm-2、膜欠損にて測定不可であった。成長温度700℃と850℃を除けば、低温でラージピット密度が高く、高温でラージピット密度が低い傾向にある。これは、低温の場合には、2次元結晶成長(2D成長)過程における成長化学種のマイグレーションが低下し、高温の場合には、2次元結晶成長過程における成長化学種のマイグレーションが向上する、ことが原因と考えられる。
(ii)XRD
図23に、MgZnO結晶層の(100)面のロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅FWHMは成長温度Tgを700、750、775、800、825、850℃とした場合、81.3arcsec、27.3arcsecで裾野の広がり有り、30.7arcsec、38.2arcsec、28.0arcsec、33.0arcsecで裾野の広がりありであった。成長温度Tgが775℃から825℃の範囲では結晶配向性は良好な水準にあった。
以上の結果から、従来のMgZnO結晶成長方法の成長温度範囲は、約750℃超から825℃程度以下であった。データは示さないが、水蒸気流量を60μmol/minで実施した場合においても825℃にてランダムピットの増加と(100)ロッキングカーブの裾野が広がる結果があった。然るに、かかるMgZnO結晶成長方法は、成長温度825℃以下に適用できる方法である。
<7.比較例3の成長層:CMP3>
比較例3においては、成長圧力Pgを10kPa、20kPa、40kPaと変えてMgZnO結晶の成長を行った。また、成長温度を775℃、DMZnを10μmol/min、Cp2Mgを0.556μmol/minとした。なお、水蒸気流量は、実施例1でランダムピットが観察されなかった640μmol/minを用いた。
(i)表面モフォロジ
図24に、各成長層のAFMイメージ像を示す。成長圧力Pgが10kPa、20kPaにおいて0.5°offのc面ZnO基板に由来するテラスとステップで構成された縦縞が観察された。成長圧力Pgが40kPaでは、不定形であった。
図25に、各成長層の微分干渉顕微鏡像を示す。観察倍率100倍の画像において、基板欠陥に由来するピット(すなわち、ラージピット)密度を測定した。ラージピット密度は、成長圧力10kPa、20kPa、40kPaとした場合に、2.5×105、2.4×105、1.5×105cm-2と高い水準にある。尚、成長圧力Pgが40kPaにおいて成長表面に流紋が観察された。
(ii)XRD
図26に、MgZnO結晶層の2θ及び(100)ωロッキングカーブを示す。成長圧力Pgが10kPa、20kPa、40kPaとした場合に、Mg結晶組成xは0.108、0.065、0.00となり、成長圧力Pgが高くなるに従いMg結晶組成xは低くなる関係にある。特に、成長圧力Pgが40kPaにおいてMg結晶組成xは略0となり、ZnO結晶成長となった。ロッキングカーブの半値幅は30.7arcsec、25.5arcsec、41.4arcsecであり、40kPa成長時の結晶配向性は悪い。
従来のMgZnO結晶の成長方法は、減圧化と低水蒸気流量とすることでMg有機金属化合物との不要な反応を抑制して、MgZnO結晶層の高品質化を図っている。然るに、成長圧力Pgが40kPaでは不要な反応のために結晶配向性が悪いZnO結晶層が成長し、20kPaより不要な反応の抑制効果が効き始め、10kPaにおいてMg結晶組成が0.108のMgZnOの結晶成長が可能となる。しかし、基板欠陥に由来するピット(ラージピット)密度は5乗オーダーと高い水準にある。
ところで、従来方法は40kPa程度までは結晶品質が悪いながらもZnO結晶層が成長する。これに対し、本発明の方法では、成長圧力Pgが40kPaにおいては膜形成不可能になる。すなわち、本発明の成長方法は従来の成長方法と相違する。
<8.比較例4の成長層:CMP4>
比較例4においては、材料ガス(DMZn,Cp2Mg,H2O)の総流量F(II+VI)が異なる3つの場合、すなわち総流量倍率MF(II+VI)が、1,2,3倍(すなわち、×1、×2、×3)の場合について成長を行った。比較例4の成長条件をまとめて表3に示す。
(i)表面モフォロジ
図27に、各成長層のAFMイメージ像を示す。材料ガス総流量が1倍においては0.5°offのc面ZnO基板に由来するテラスとステップで構成された縦縞が観察された。材料ガス総流量が2倍、3倍では、MgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)密度が高く、また膜欠損が発生した。
(ii)XRD
図28に、MgZnO結晶層の(100)面ロッキングカーブを示す。ロッキングカーブの半値幅FWHMは、材料ガス総流量が1倍、2倍、3倍とした場合、26.8arcsec、31.3arcsec(かつ裾野が広い)、28.7arcsec(かつ裾野が広い)であり、材料ガス流量を2倍、3倍と増加すると結晶配向性は悪化した。
従来のMgZnO結晶成長方法は、減圧化と低水蒸気流量とすることで有機金属との不要な反応を抑制して、MgZnO結晶層の高品質化を図っている。そのため、材料ガス総流量を増加すると不要な反応を抑制できなくなりMgZnO結晶層が劣化する。尚、比較例4の水蒸気流量は、材料ガス総流量が2倍の場合には80μmol/min、3倍の場合でも120μmol/minであり、比較例2および比較例3の640μmol/minnより少ない。従って、有機金属材料の流量増加が不要な反応を引き起こしていると考えられる。
これに対して、本発明のMgZnO結晶の成長方法は、実施例4において説明したようにII族流量が1倍から4倍まで増加しても、優れた結晶品質でMgZnO結晶層を成長できる。すなわち、従来の成長方法と本発明の成長方法は相違する成長方法である。
[本発明の成長条件について]
上記した実施例1〜4から、成長温度は825℃程度以上であり、850℃以上が好ましい。Cp2Mgの熱分解生成物は、成長温度が825℃以上より低分子鎖状炭化水素となり初め、成長温度が850℃程度以上で反応が安定して良好な結晶性のMgZnO結晶層の成長が可能となる。特に、高温側は925℃でも問題なくMgZnO結晶が成長した。
成長圧力の上限は10kPa未満であり、5kPa程度以下が好ましい。Cp2Mgの熱分解生成物の高分子炭化水素の生成を抑制できるのは、10kPa未満であり、完全に抑制して、良好な結晶品質のMgZnO結晶層を得るには5kPa程度以下が好適である。特に低圧側は2kPaにおいても良好に成長しており、下限圧力は不明である。
水蒸気面積流量は10μmol・min-1・cm-2以上が良く、15μmol・min-1・cm-2以上がさらに好ましい。Cp2Mgの成長触媒機能を利用してMgZnO結晶層を成長するには、基板表面に十分な量の水蒸気供給が不可欠である。
また、本発明の方法は、Cp2Mgの成長触媒機能を利用してMgZnO結晶層を成長するため、VI/II比や酸素分圧に依存しない。但し、水蒸気流量はII族(DMZn及びとCp2Mg)のモル流量を上回らなければならない。
[本発明の結晶成長メカニズムについての考察]
図29は、上記した実施例及び比較例について、成長温度Tgに対するMg組成xをまとめて示す図である。
図29に示すように、従来、MOCVD法によりMgZnO等の3元混晶を成長する場合、成長温度や成長圧力など、ZnO結晶の成長条件を基礎にしてCp2Mg等のMg金属材料を添加してMg組成を増加する手段を採る(以下、成長モードIという。)。ZnO単結晶の成長可能な温度範囲よりも低温あるいは高温では、ZnO結晶が3次元(3D、図中、破線で示す)成長したり、膜欠損(DF、図中、破線で示す)が生じる。ZnO単結晶の成長温度範囲の高温側には膜欠損が生じやすい成長不安定温度帯域が存在する。かかる成長温度範囲での成長においては、例えば、特許文献1に記載されているように、減圧成長(低圧成長)および低水蒸気流量を用いて不要な反応を抑制しつつ、結晶品質の向上を図る方法がある。
これに対し、本発明の方法は、ZnO単結晶の成長可能な温度範囲、すなわち成長モードIでの温度範囲(成長不安定温度帯域)を超えた成長温度で成長を行う(以下、成長モードIIという。)。つまり、DMZnと水蒸気を用いたMOCVD法では、ZnO単結晶の成長は不可能な高温であるが、Cp基を有する有機金属の高温における成長触媒機能を利用してMgZnO結晶を成長する。そのため、同じMg結晶組成のMgZnO結晶を成長する成長条件において従来技術とは大きな差異がある。また、材料ガスの反応過程の違いにより、成長条件を変えた場合の結晶組成の変化などにも大きな差異が生じる。
例えば、図29に示すように、ZnO単結晶の成長温度範囲におけるMgZnO結晶の成長(成長モードI)においては、II族材料の流量が一定の下で、VI/II比を増加させると、Mg結晶組成xは低下し、成長速度は増加する(比較例1)。また、II族材料の流量を増加させると、成膜欠損を生じやすく、結晶配向性も低下しやすい(比較例4)。従って、材料ガスの流量を増加して成長速度を速くすることは難しい。
これに対し、本発明の方法においては、II族材料(DMZn、Cp2Mg)の流量の増加によって、成長速度を増大させることができる。また、その場合、VI/II比は減少するが、Mg結晶組成xは大きく変化しない(実施例4)。さらに、成長不安定温度帯域以下の温度では、結晶性が低下し、また膜欠損等が生じる。このような、成長モードの違いは、本発明の方法が上記した、高温におけるCp基を有する有機金属の成長触媒機能によって説明され得る。
より詳細には、本発明の方法は、ZnO単結晶の成長上限温度以上の成長温度、すなわち850℃程度以上の成長温度による高温成長によって、Cp基が開環反応を起すのに必要なエネルギを充足し、基板表面でCp基が容易に鎖状炭化水素生成物となることを可能とした。また、成長圧力を5kPa程度以下とすることで、開環反応の際の重合反応を抑制し、低分子の鎖状炭化水素生成物が生成することを可能とした。なお、Cp基の開環反応には、反応の際に水素元素(H)を必要とする。そこで、成長表面に水蒸気を供給(水蒸気面積流量FS(H2O)が10μmol・min-1・cm-2程度以上)することで、低分子の鎖状炭化水素生成物の生成を促進することができる。Cp基の開環反応によって活性な酸素が成長表面へ供給される(すなわち、「成長触媒機能」)ので、高温減圧条件下においても酸素供給不足なく安定した2次元結晶成長(2D成長)が可能となる。
その結果、平坦性や結晶配向性が良好で且つMgZnO結晶成長由来のピット(ランダムピット)やヒルロックの形成を抑制でき、カーボン残留がなく、また残留キャリア濃度の低い優れた結晶品質のMgZnO結晶成長が可能となる。
[実施例5の成長方法]
図30に示す結晶成長シーケンスを参照して実施例5のGaド−プMgZnO結晶の成長方法について以下に詳細に説明する。なお、実施例5においては、ドーパントとしてGa有機金属(TEGa)を用い、ZnO基板上にZnO結晶を、当該ZnO結晶上にGaド−プのMgZnO結晶を成長した。
まず、表面層をエッチングしたZnO単結晶基板10を反応容器39内のサセプタ19にセットし、真空に排気後、反応容器圧力を10kPaに調整した(時刻T=T1)。また、回転機構によりZnO基板10を10rpmの回転数で回転した。また、RUN−MOライン28R及びRUN−Oxライン29Rからそれぞれ窒素(N2)ガスを2L/min(合計4L/min)の流量でシャワーヘッド30からZnO基板10に供給した。
次に、反応容器39内の圧力が10kPaに安定した後、基板温度を室温(RT)から昇温を開始するとともに、RUN−MOライン28Rからキャリアガスとして窒素ガスを2L/min供給し、H2O(水蒸気)の流量F(H2O)を800μmol/minに調整してRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、基板温度を1000℃で、7min間の熱処理を行った(T=T3〜T4)。
次に、反応容器39内の圧力を10kPaから上昇させ、基板温度の上昇を開始した(T=T4)。成長圧力Pg=80kPa、基板温度が所定の成長温度Tg=775℃に安定した後、DMZnの流量F(DMZn)を10μmol/minに調整し、キャリアガスとしての窒素ガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給し、結晶成長を開始した(T=T5)。24分(min)間の成長により、ZnO基板10上に厚さ約0.2μmのZnO結晶層11を成長した(T=T5〜T6、成長時間:EG1=24min)。
次に、基板温度の上昇、及び圧力の降下を開始し、成長圧力Pg=5kPa、基板温度が成長温度Tg=875℃に安定した後、RUN−MOライン28RからDMZn(流量30μmol/min)の供給(T=T7)、Cp2Mg(流量F(Cp2Mg):1.00μmol/min)の供給(T=T8)、及びTEGaの供給(T=T8A)を順次行った。この際、MOガスとキャリアガス(窒素)との総流量は2L/minを維持した。また、H2O(流量:800μmol/min)をRUN−Oxライン29Rからキャリアガスと合わせて2L/minの流量でZnO基板10に供給した。そして、成長開始(T=T8A)から360分(min)経過時において、TEGaの供給(T=T9A)、Cp2Mgの供給停止(T=T9)及びDMZnの供給停止(T=T10)を順次行い、ZnO結晶層11上に厚さ約300nmのGaドープMgZnO結晶層12を成長した(T=T8A〜T9A、成長時間:EG2=360min)。なお、TEGaの流量F(TEGa)を、0nmol/min(アンドープ)、0.03,0.09,0.21,0.30,0.90nmol/min(Gaドープ)と変えて6回の成長を行った。
成長終了後、冷却(T=T10〜T11)、容器内圧力の減圧、室温への冷却を行い、成長を終了した。
[実施例5の成長条件]
上記したように、実施例5では、TEGa流量を変えて、1回のアンドープMgZnO結晶成長、及び5回のGaドープMgZnO結晶成長を行った。後に詳述するように、Gaドープ濃度は、TEGaの供給流量F(TEGa)で制御できる。以下に、Ga有機金属のII族材料ガス(DMZn及びCp2Mg)に対するモル流量比であるGa流量比(以下、Ng値ともいう。)を定義する。すなわち、DMZn及びCp2Mgの流量をそれぞれF(DMZn)、F(Cp2Mg)とすると、
Ng=F(TEGa)/F(DMZn)+F(Cp2Mg) (式1)
すなわち、実施例5では、Gaモル流量比であるNg値は、0.0(アンドープ)、0.97×10-6(F(TEGa)=0.03nmol/min)、2.9×10-6(0.09nmol/min)、6.8×10-6(0.21nmol/min)、9.7×10-6(0.3nmol/min)、29×10-6(0.9nmol/min)となる。なお、II族の流量倍率MF(II)=3(すなわち、×3)であった。
上記したように、実施例5においては、Cp基を有するMg有機金属化合物(Cp2Mg)、構成分子内に酸素を含まない有機金属化合物(DMZn)及び水蒸気(H2O)と、ドーパントとしてGa有機金属(TEGa)を用い、
(i)成長温度Tg=875℃、
(ii)成長圧力Pg=5kPa、
(iii)Ng値(Ga流量比):0(アンドープ),0.97×10-6,2.9×10-6,6.8×10-6,9.7×10-6,29×10-6
(iv)成長時間360min、(層厚:約230〜420nm)
でGaドープMgZnO層12の成長を行った。
[比較例5]
上記実施例5のGaドープMgZnO結晶成長層の評価のため、比較例5としてGaドープMgZnO結晶の成長を行った。なお、成長基板の前熱処理、ZnO結晶層11の成長などの成長方法は実施例1と同一であるので、MgZnO結晶層12の成長について以下に説明する。但し、熱処理温度は800℃とした。
比較例5においては、成長温度Tgを775℃、成長圧力を10kPaとした。DMZnの流量F(DMZn)を10μmol/min、Cp2Mgの流量F(Cp2Mg) を0.556μmol/minとした。なお、TEGaの流量F(TEGa) を、0nmol/min(アンドープ)、0.02,0.05,0.1,0.2nmol/minと変えて5回の成長を行った。この場合、Ng値(Ga流量比)は、それぞれ0(アンドープ)、1.9×10-6、4.7×10-6、9.5×10-6、19×10-6(Gaドープ)であった。120min間の成長により、ZnO結晶層11上に厚さ約36〜39nmのGaドープMgZnO結晶層を成長した。
[GaドープMgZnO結晶成長層の評価結果]
以下に、実施例5及び比較例5における結晶成長層の評価結果及び物性等について図を参照して詳細に説明する。また、以下においては、理解の容易さのため、実施例5、比較例5の結晶成長層をそれぞれEMB5、CMP5と称して説明する場合がある。
<実施例5の成長層:EMB5>
図31に、実施例5の成長層の評価結果をまとめて示す。
(1)アンドープMgZnO結晶
図32(a)、(b),(c)、(d)はアンドープMgZnO結晶層(F(TEGa)=0)の、それぞれ(002)面の2θロッキングカーブ測定、AFMイメージ、(100)面のロッキングカーブ、CV測定結果である。AFMイメージから2次元(2D)成長であることが確認できる。また表面粗さは、ステップバンチングの影響でRMS=2.09nmであるが、層厚424nmを考慮すれば良好な平坦性といえる(図32(c))。Mg組成xは0.233であり、また(100)面のロッキングカーブの半値幅FWHMは30.6arcsecであった(図32(b))。このロッキングカーブのFWHMは、ZnO基板と同等であり、結晶配向性は良好であるといえる。また、残留キャリア濃度(図32(d))は3.1×10-16cm-3と低い。
なお、半導体層のキャリア濃度を調整する場合に重要な点は、調整するキャリア濃度より半導体層の残留キャリア濃度が十分に低い必要性がある。通常、p型またはn型半導体層のキャリア濃度は1×1017から1×1019cm-3の範囲で用いるので、残留キャリア濃度は5×1016cm-3程度以下(または目的キャリア濃度の1/5〜1/10以下)が望ましい。当然、残留キャリア濃度がこれより低ければ、より低濃度から不純物ドープ量に比例したキャリア濃度の半導体層を調整できる。
前述のように、本発明は、高温でMgZnO結晶成長可能な方法を基礎としている。その成長方法は、酸素を含まないZn有機金属(DMZn)とCp基を有するMg有機金属化合物と水蒸気を用い、高温(成長温度850℃程度以上)、成長圧力5kPa程度以下とし、水蒸気面積流量FS(H2O)が10μmol・min-1・cm-2程度以上の範囲で成長を行う。従って、GaドープMgZnO結晶を成長する場合においても成長温度850℃以上が可能となる。
(2)GaドープMgZnO結晶
図33(a)、(b),(c)、(d)は、GaドープのMgZnO結晶層の代表例として、TEGa流量F(TEGa)が0.3nmol/min(Ng値:9.7×10-6)の場合の、それぞれ(002)面の2θロッキングカーブ測定、AFMイメージ、(100)面のロッキングカーブ、CV測定結果である。
図31のAFMイメージに示すように、TEGa流量F(TEGa)が0.03、0.09、0.21、0.30nmol/min(Ng値0.97×10-6、2.9×10-6、6.8×10-6、9.7×10-6)の範囲において、2次元結晶成長であることが確認できる。また表面粗さ(RMS又はRq)はステップバンチングの影響によって2.11、2.01、2.75、1.83nmであるが、層厚がそれぞれ298、252、228、254nmを考慮すれば良好な平坦性を有しているといえる。
図31に示すように、Mg組成xは、Ng値0.97×10-6、2.9×10-6、6.8×10-6、9.7×10-6の場合にそれぞれ0.176、0.248、0.230、0.230であり、また(100)面のロッキングカーブのFWHMは31.3、31.3、31.8、31.9arcsecであった。このロッキングカーブのFWHM値は、ZnO基板と同等な値であり、結晶配向性は良好であるといえる。また、SIMS測定によるGaドープ濃度は、それぞれ2.3×1017、1.7×1018、2.8×1018、4.0×1018 atoms/cm3であった。またキャリア濃度は、5.0×1018、2.7×1018、4.4×1018、5.9×1018cm-3であった。
図33(a)、(b),(c)、(d)に示すように、TEGa流量F(TEGa)が0.3nmol/min(Ng値:9.7×10-6)までGaをドープした場合でも、良好な2次元結晶成長性、平坦性、結晶配向性が得られることがわかった。
また、図34は、TEGa流量F(TEGa)が0.3nmol/min(Ng値:9.7×10-6)の場合の、SIMSの深さ方向分析結果を示す。本発明の方法によれば、Gaは下地のZnO結晶層11にておいて検出下限界値(図中、LM(Ga)として示す。)以下であり、MgZnO結晶層12の界面から急峻に立ち上がる良好なドーププロファイルを有していることがわかった。すなわち、下地ZnO結晶層より高い成長温度でGaドープMgZnO結晶層を成長しても意図しない逆拡散、つまり下地層であるZnO結晶層への拡散は起こらない。
これに対し、図35(a)、(b),(c)に示すように、TEGa流量F(TEGa)が0.90nmol/min(Ng値:29×10-6)の場合、AFMイメージは凹凸状の3次元成長(3DG)となり(図35(c))、(100)面のロッキングカーブのFWHMも38.6arcsecと広がった(図35(b))。この平坦性及び結晶性のMgZnO結晶層では、例えば半導体発光素子に必要な積層構造を形成することはできない。
図36は、Ng値とGaドープ濃度の関係を示す。MgZnO結晶層が平坦性を有するNg値0.97×10-6〜9.7×10-6の範囲において、Gaドープ濃度はNg値に対して比例増加することがわかった。MgZnO結晶層が凹凸(3DG)になるNg値29×10-6において、Gaドープ濃度はフィッティングラインから外れて低下する。
また、平坦性が得られる上限Ng値は、成長温度に関係なく略一定であり、概ね1×10-5であることがわかった。従って、これ以下のNg値でTEGaを供給することによって、良好な平坦性のGaドープMgZnO結晶層が得られる。
図37は、Gaドープ濃度とn型キャリア濃度の関係を示す。MgZnO結晶層が平坦性を有する範囲において、Gaドープ濃度とn型キャリア濃度は良好な比例関係にある。これは、MgZnO結晶層の残留キャリア濃度が低く、Gaが良好なドーパントとして機能している(活性化率が高い)からである。なお、n型キャリア濃度が僅かに高いのは測定機器の固有の特性が原因であると考えられる。MgZnO結晶層が凹凸(3DG)になると、Gaドープ濃度は低下して、結果キャリア濃度も低下する。
850℃から925℃までの各成長温度において略同じTEGa流量(Ng値=1×10-5)超の場合に凹凸化することが分かった。すなわち当該上限Ng値を超えるGaの高濃度ドープはできないが、上限Ng値以下であれば、TEGa流量(Ng値)を調整することでGaドープ濃度を調整することができる。
一方、図38に示すように、成長温度Tgを高温化すると、Gaドープ濃度、n型キャリア濃度を高くできることが分かった。ここでは、TEGa流量(Ng値)を良好な平坦性と結晶配向性が得られる上限Ng値(1×10-5)として成長を行った。
具体的には、成長温度Tg=850℃,875℃,900℃,925℃,950℃,1000℃において、Gaドープ濃度は、それぞれ1.8×1018,4.0×1018,9.1×1018,2.9×1019,4.7×1019,2.4×1020cm-3であり、n型キャリア濃度は2.6×1018,5.9×1018,1.3×1019,2.9×1019,6.4×1019,3.2×1020cm-3であった。すなわち、n型キャリア濃度の上限値を高くしたい場合は、MgZnO結晶の成長温度を高温化すれば良いことがわかった。
なお、上限Gaドープ濃度は、
Gaドープ濃度(2DG)=10(0.0143×Tg+6.12)
キャリア濃度=10(0.0139×Tg+6.63 )
で与えられる。尚、式中の定数は成長装置により多少変動する。
また、上記したように、n型ドーパントに用いる有機金属はTEGa以外にTMGaでも良く、またTMAl、TEAl、TIBAlでもよい。尚、Ng値や上限ドープ濃度値またはキャリア濃度(活性化率)は使用する有機金属によって若干異なる。
<比較例5の成長層:CMP5>
比較例5のアンドープMgZnO結晶成長層及びGaドープMgZnO結晶成長層の評価結果を図39に示す。アンドープMgZnO結晶については、AFMイメージ像から2次元成長であることが確認できる。表面粗さはRMS=0.78nmであり平坦性は良好である。また、Mg組成x=0.31であり、(100)面のロッキングカーブのFWHMは29.2arcsecであった。このロッキングカーブのFWHM値は基板と同等であり、結晶配向性は良好であるといえる。
図40は、TEGa流量F(TEGa)が0.1nmol/min(Ng値:9.5×10-6)の場合の、それぞれ(002)面の2θロッキングカーブ測定、AFMイメージ、(100)面のロッキングカーブの結果である。TEGa流量F(TEGa)が0.02、0.05、0.10nmol/min(Ng値が1.9×10-6、4.7×10-6、9.5×10-6)の範囲において、AFMイメージ像より2次元結晶成長であることが確認できる。また、表面粗さ(RMS又はRq)は1.03、1.33、0.97nmであり、平坦性は良好である。
Mg組成xは0.387、0.397、0.422であり、(100)面のロッキングカーブのFWHMは27.1、28.5、27.6arcsecであった。このロッキングカーブの値はZnO基板と同等であり、結晶配向性は良好であると言える。
また、SIMS測定によるGaドープ濃度は3.0×1016、7.0×1016、1.5×1017 atoms/cm3であった。
これに対し、TEGa流量が0.20nmol/min(Ng値:19×10-6)の場合、AFMイメージ像は凹凸状(3DG)となり、(100)面のロッキングカーブのFWHMも25.1arcsecではあるが裾野の広がりが見られた。この状態のMgZnO結晶層では、例えばLEDなどの半導体発光素子に必要な積層構造を形成できない。
図41は、Ng値に対するGaドープ濃度の関係を示している。Ng値が1.9×10-6から19×10-6までの範囲において、Gaドープ濃度はNg値に対して比例増加する。しかし、Ng値が19×10-6においては、MgZnO結晶層は凹凸化する。
図42は、TEGa流量F(TEGa)が0.1nmol/min(Ng値:9.5×10-6)の場合の、SIMSの深さ方向分析結果を示す。比較例5の方法では、MgZnO結晶層のGa濃度が低いにも関わらず、下地ZnO結晶層へ若干拡散している。また、ZnO基板のAlが下地ZnO結晶層を透過してMgZnO層へ拡散している。すなわち、GaドープによりMgZnO結晶層の結晶品質が低下し、Gaが下地ZnO層へ拡散し、基板のAlがMgZnO結晶層へ拡散したためと思われる。
[本発明の結晶成長及びドーピング特性]
本発明の方法は、Cp基を有するMg有機金属化合物の、ZnO単結晶の成長上限温度以上の成長温度における分解・反応過程に関する知見から可能となった残留キャリア濃度の低い高品質なMgZnO結晶の成長を基礎としている。すなわち、当該高品質なMgZnO結晶へのドーピングについての検討結果からなされたものである。
より詳細には、本発明の方法は、構成分子内に酸素を含まないZn有機金属、Cp基を有するMg有機金属化合物(Cp2Mg)、ドーパント有機金属(TEGa)、H2O(水蒸気)を用い、ZnO単結晶の成長上限温度以上の成長温度、すなわち850℃程度以上の高温成長によって、高いドーピング濃度が得られ、かつ高品質なGaドープMgZnO結晶の成長が可能となった。
具体的には、ZnO単結晶の成長上限温度以上の成長温度によって、Cp基の開環反応を促進し、開環反応によって活性な酸素が成長表面へ供給されることによって安定した2次元結晶成長(2D成長)が可能となるとともに、平坦性や結晶配向性が良好で且つ残留キャリア濃度の低い優れた結晶品質のMgZnO結晶成長が可能となる(すなわち、「成長触媒機能」)ことを利用している。また、成長圧力を5kPa程度以下とすることで、開環反応の際の重合反応を抑制し、低分子の鎖状炭化水素生成物が生成することを可能としている。
このようなMgZnO結晶の成長法を用い、Ga有機金属を添加することによって高ドーピング濃度(高キャリア濃度)かつ高品質なGaドープMgZnO結晶の成長が可能となった。また、Gaドープ濃度に比例したn型のキャリア濃度のMgZnO結晶の成長が可能となった。すなわち、MgZnO結晶層の残留キャリア濃度が低く、Gaが良好なドーパントとして機能する(活性化率が高い)からである。
上記したように、上限Ng値(1×10-5)以下のTEGa供給量であれば、高ドーピング濃度かつ高品質なGaドープMgZnO結晶の成長が可能なことが分かった。また、上限Ng値は、成長温度に関係なく略一定であり、成長温度を変化させることによってドーピング濃度(キャリア濃度)を変化させることができる。例えば、異なるキャリア濃度のn型MgZnO結晶層を形成する場合には、単に成長温度を変えてMgZnO結晶層を成長すればよい。さらに、成長温度の高温化によって結晶へのGa元素の取り込み率が向上し、高濃度ドーピングが可能となる。
従って、本発明によれば、平坦性や結晶配向性が良好で且つランダムピットやヒルロックの形成が抑制された、高キャリア濃度かつ高品質なGaドープMgZnO結晶の成長が可能となった。