JP2013177671A - フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 - Google Patents

フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材 Download PDF

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Abstract

【課題】熱分解反応と酸化反応を抑制することで品質面で良好な特性を有するフッ化物溶射皮膜を、基材の表面に強固に密着させてなるフッ化物溶射皮膜被覆部材およびその被覆形成方法を提供する。
【解決手段】前記基材表面をまず前処理し、その前処理後の基材の表面に、炭化物サーメット材料を溶射して、面積率にして8〜50%の部分が疎らにかつ粒子先端部が該基材表面に突き刺さった状態で付着している炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成し、その後、基材表面および溶射粒子点在部の上に、フッ化物溶射材料粒子を、不活性ガスを成膜用作動ガスとする溶射ガンを用い、600℃〜1300℃の温度において、飛行粒子速度:500m/sec.以上の速度で吹き付けて、該基材表面に付着させてこれを被覆するフッ化物溶射皮膜の形成方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、フッ化物溶射皮膜の形成方法およびフッ化物溶射皮膜被覆部材に関し、特に、各種のハロゲンガスやハロゲンが存在する環境下においてプラズマエッチング加工が施される半導体加工装置用部材などの表面に、耐食性や耐プラズマエッチング特性に優れたフッ化物溶射皮膜を強固に付着させて被覆する方法と、この方法の実施によって得られるフッ化物溶射皮膜被覆部材について提案する。
半導体加工プロセスや液晶製造プロセスに使用されるドライエッチヤー、CVD、PVDなどの装置類は、シリコンやガラスなどの基板に形成する回路の高集積化に伴う微細加工の精度を向上させる必要性から、加工環境については一段と高い清浄性が求められている。その一方で、微細加工用の各種プロセスにおいては、フッ化物、塩化物をはじめとする腐食性の強いガスあるいは水溶液を用いるため、これらのプロセス装置に配設されている部材類の腐食損耗が速く、その結果として、腐食生成物による二次的な環境汚染も無視できない状況になっている。
半導体ディバイスの製造・加工工程は、SiやGa、As、Pなどからなる化合物半導体を主体としたものを用いて、真空中もしくは減圧環境の中で処理されるいわゆるドライプロセスに属している。このドライプロセスでは、前記環境中において、各種の成膜や不純物の注入、エッチング、アッシング、洗浄などの処理が繰り返し行なわれる。このようなドライプロセスで用いられる装置・部材としては、酸化炉、CVD装置、PVD装置、エピタキシャル成長装置、イオン注入装置、拡散炉、反応性イオンエッチング装置およびこれらの装置に付属している配管、給排気ファン、真空ポンプ、バルブ類などの部材、部品がある。しかも、これらの装置類は、BF、PF、PF、NF、WF、HFなどのフッ化物、BCl、PCl、PCl、POCl、AsCl、SnCl、TiCl、SiHCl、SiCl、HCl、Clなどの塩化物、HBrなどの臭化物、NH、CHFなど腐食性の強い薬剤およびガスを用いることが知られている。
また、ハロゲン化物を用いる前記ドライプロセスでは、反応の活性化と加工精度向上のため、しばしばプラズマ(低温プラズマ)が用いられる。プラズマ使用環境中では、各種のハロゲン化物は、腐食性の強い原子状またはイオン化したF、Cl、Br、Iとなって半導体素材の微細加工に大きな効果を発揮するが、その一方で、プラズマ処理(特に、プラズマエッチング処理)された半導体素材の表面からは、エッチング処理によって削り取られた微細なSiO、Si、Si、Wなどのパーティクルが処理環境中に浮遊し、これらが加工中あるいは加工後のディバイスの表面に付着して加工製品の品質を著しく低下させるという問題があった。
これらの問題に対する対策の一つとして、従来、半導体製造・加工装置用部材の表面をアルミニウム陽極酸化物(アルマイト)によって表面処理する方法がある。その他、Al、Al・Ti、Yなどの酸化物をはじめ、周期律表IIIa族金属の酸化物を溶射法や蒸着法(CVD法、PVD法)などによって、該部材の表面を被覆したり、また、これらを焼結体として利用する技術がある(特許文献1〜5)。
さらに最近では、Y、Y−A1溶射皮膜の表面をレーザービームや電子ビームを照射して該溶射皮膜の表面を再溶融することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も出現している(特許文献6〜9)。
また、ハロゲン化合物に属する金属元素のフッ化物被膜を半導体加工装置用部材の耐食性被覆として使用する提案もある。例えば、特許文献10には、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体の表面に希土類元素及びアルカリ土類元素のフッ化物をマグネトロンスパッタ法、CVD法、溶射法などによって被覆する方法。特許文献11には、A1基材上にYF皮膜を形成した部材についての提案がある。
また、特許文献12には、Yとランタノイド元素のフッ化物を主成分とする粉末を用いるサセプタの製造方法が開示され、特許文献13、14には、周期律表IIIa族元素のフッ化物粒子を不活性ガスプラズマや燃焼ガスフレームなどの溶射熱源によって成膜した後、200℃〜250℃の熱処理を施して、安定した斜方晶の結晶に変化させる技術について開示されている。
さらに、特許文献15には、平均粒径が0.05μm〜10μmの一次粒子から造粒された粒子のYを含む希土類含有混合物(酸化物、フッ化物、塩化物)溶射用粒子などの提案があり、特許文献16には、フッ化物溶射皮膜の形成方法として、高熱源温度のプラズマ溶射法に加え、コールドスプレー法やエアロゾルデポジション法を利用する技術についての開示がある。
特開平6−36583号公報 特開平9−69554号公報 特開2001−164354号公報 特開平11−80925号公報 特開2007−107100号公報 特開2005−256093号公報 特開2005−256098号公報 特開2006−118053号公報 特開2007−217779号公報 特開平11−80925号公報 特開2002−001865号公報 特開2001−351966号公報 特開2004−197181号公報 特開2005−243988号公報 特開2002−302754号公報 特開2007−115973号公報 特開2007−308794号公報
本発明では、上掲の従来技術のうち特に、溶射法によって形成されたフッ化物溶射皮膜およびその皮膜形成方法に関しての次のような問題点を改善し、耐ハロゲン腐食性と耐プラズマエロージョン性に優れるフッ化物溶射皮膜被覆部材とそれの形成方法を提案することを目指している。
(1)特許文献12に開示されている不活性ガス(Ar、He)のプラズマや炭化水素ガス、灯油などの燃焼フレームを熱源とする溶射法で成膜すると、次のような現象が起こる。即ち、プラズマを熱源とする溶射法では、高温のジェットフレーム中を飛行するフッ化物粒子が、5000℃〜7000℃の高温環境に曝され、また、燃焼フレームであっても2000℃〜2800℃の高温雰囲気が構成されているため、いずれの熱源中においても、フッ化物粒子の一部は熱分解反応と酸化反応を誘発して、Fガスが放出される。
そして、そのFガスの放出に伴って、フッ化物粒子の成分が変化し、成膜されたフッ化物の皮膜は、化学量論的に変化したものになっている。例えば、YF粒子を用いてプラズマ溶射すると、熱源中においてFガスが放出されYF3−Xで表示されるフッ化物に変化するものと推定される。
しかし、このYF3−Xで表示されるフッ化イットリウム溶射皮膜の耐ハロゲン性は、成膜用フッ化物粒子(YF)に比較して、化学的に不安定になることが推定される。このことは、特許文献13の(0010)段落におけるフッ化イットリウム膜について、「フッ化イットリウムを用いるだけでは、腐食性ハロゲンガスにより、フッ化イットリウム膜の色が変化することを見出した。また、フッ化イットリウムを用いるだけでは耐食性は十分でなく、フッ化イットリウム膜が減耗して行くことを見出した。」の記載からも伺い知ることができる。
(2)また、特許文献13に開示の技術では、皮膜の色の変化と耐食性低下対策として、成膜直後の非晶質フッ化物溶射皮膜を200℃〜500℃の熱処理を施こすことにより、斜方晶へ変化させる技術を提案している。しかし、この方法を適用してもこの文献13の(0014)段落に記載されているように、皮膜の色の変化が少なくなるという程度に止まり、抜本的な対策になっていない。
(3)さらに、特許文献16に記載のフッ化物皮膜の形成法は、(0021)段落にて、コールドスプレー法やエアロゾルデポジション法等が望ましいと記載している。その一方で、溶射法として適用する場合、「アルゴンやヘリウムのプラズマガスに、さらに、水素ガスを混合すると、プラズマ温度が高くなり、より緻密な成膜が可能となる。」としている。しかし、コールドスプレー法というのは、日本溶射協会監修誌「溶射技術Vol.26 No.2/3 2007年1月31日発行18頁〜25頁 コールドスプレーの概要と研究・開発の動向」によると、Ar、N、Heなどの不活性ガスを500℃に加熱し、成膜粒子を300〜1200m/Sの高速で吹き付ける方法である。
この方法では、500℃のガスがノズルの吹き付け部では、断熱膨張現象によって、室温まで低下するとの説明があり、この条件ではフッ化物の成膜用として適した方法と言えない。
また、この特許文献16には、フッ化物皮膜の形成に必要なコールドスプレー法についての詳しい内容が説明されていない。即ち、コールドスプレー法に比較すると格段に温度が高いプラズマ溶射法のプラズマ熱源温度をさらに高めるため、Ar、Heなどの不活性ガス中にHガスを混入してプラズマ温度を上昇させて成膜するフッ化物皮膜の形成方法を推奨しているが、一方で、コールドスプレー法による低いガス温度での成膜が可能であるなど技術的な矛盾があるにも拘わらず、その理由については全く言及していない。
(4)また、特許文献13、16のようにフッ化物溶射皮膜を熱処理する方法では、製造工程が増加することに加え、生産効率の低下とコストアップを招く問題点がある他、熱処理を施しても皮膜の耐食性を十分に回復させられないという問題点があった。
(5)また、フッ化物溶射皮膜を大気プラズマ溶射法や高速フレーム溶射法によって形成するプロセスでは、高温の熱源中で成膜用フッ化物粒子が熱分解して、異臭を伴う有害なFガスを放出するため、作業環境が悪化し、作業の安全衛生上にも問題がある。
(6)さらに、フッ化物溶射皮膜は、優れた耐ハロゲン性を有しているものの、基材に対する密着性に乏しい欠点がある。しかし、この原因と対策について記載した先行技術文献は殆どない。また、開示されていたとしても、一般的なブラスト処理の適用のみであり、フッ化物溶射皮膜の密着性を向上させようとする意図は認められない。
例えば、特許文献13、特許文献16では、基材の表面を鋼玉やコランダム(Al)による粗面化、特許文献17ではAlによる粗面化が開示されているのみであり、皮膜の密着性向上対策としてのブラスト粗面化処理およびアンダーコート材料についての記載はなく、表面粗さについても開示されていない。
(7)しかも、前記各特許文献は、基材の表面にフッ化物溶射皮膜を直接被覆形成する方法を採用しており、フッ化物溶射皮膜を形成するための前処理としてのブラスト処理の条件やアンダーコート施工の必要性などについての記載が認められないことから、フッ化物溶射皮膜の密着性を重要視していないことが明らかであり、そのために皮膜がしばしば剥離するという問題があるにも拘わらず、その解決手段についての検討が行なわれることはなかった。
そこで、本発明の目的は、熱分解反応と酸化反応を抑制することで品質面で良好な特性を有するフッ化物溶射皮膜を、基材の表面に強固に密着させてなるフッ化物溶射皮膜被覆部材の提供と、その皮膜を強固に付着させて被覆形成する方法とを提案することにある。
本発明は、従来技術が抱えている上述した問題点を克服して前記目的を確実に実現するために鋭意研究した結果、熱源温度の高い溶射法で形成される従来のフッ化物溶射皮膜形成方法では、皮膜の化学的・物理的特性が不安定で密着力も小さいという問題点があったところ、これを解決するには、次のような視点に立った新しい溶射皮膜の形成方法の採用が有利であるとの知見を得て本発明に想到した。
(1)成膜用フッ化物(溶射材料)は、溶射熱源が600℃〜1300℃程度の温度に熱したArやN、Heなどの単独または混合状態の不活性ガスを成膜用フッ化物粒子の流体駆動源として用いることが有利である。
(2)成膜用フッ化物溶射材料の上記熱源中での噴射は、毎秒500m以上の高速度で飛行させる。このことにより、基材表面に大きな運動エネルギーをもって衝突させるので、飛行する溶射粒子の少なくとも一部が被着面(基材表面等)の凹部に食い込んだ状態で付着してなる植毛構造を有する皮膜となる。そのため皮膜の密着性を向上させることできる。
(3)フッ化物溶射皮膜を被覆するための基材は、その表面を予めJIS H9302規定のセラミック溶射皮膜作業標準に準拠して、脱脂、脱スケールあるいはA1やSiCなどの研削材粒子を用いたブラスト粗面化処理して凹凸を形成したり、予熱することが好ましい。
(4)前処理後の基材表面に、フッ化物皮膜の形成に先立ち、WC−CoやWC−Ni−Crなどの炭化物サーメットを高速フレーム溶射することにより、該基材表面に、少なくとも一部の炭化物サーメットの溶射粒子が疎らにかつ杭のように突き刺さって林立した状態にある炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成しておき、この溶射粒子点在部を介して、前記(2)の方法によってフッ化物溶射皮膜を成膜することが好ましい。
(5)前記炭化物サーメットを用いた溶射粒子点在部は、炭化物サーメットの溶射粒子が面積率(記載表面を被覆する割合)で8〜50%相当の部分が疎らに点在して非膜状になっている部分であることが好ましい。この部分は、基材全表面が略均等の厚みで被覆されて膜状化した炭化物サーメットの前記アンダーコート層とは区別される。
(6)低温の不活性ガスを駆動源とする溶射ガンのノズルと基材表面との距離は、5〜50mmに保持する。このことによって、密着性に優れたフッ化物溶射皮膜を被覆形成することが好ましい。
このような視点に立って開発した本発明は、前記基材表面をまず前処理し、その前処理後の基材の表面に、炭化物サーメット粒子を飛行速度150〜600m/sec.、好ましくは300〜600m/sec.の吹き付け速度で溶射して、炭化物サーメットの溶射粒子の少なくとも一部の先端部分が面積率にして8〜50%の割合で疎らにかつ該溶射粒子先端部が基材表面に疎らにかつ杭のように突き刺さって林立した状態で付着している炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成し、その後、基材および炭化物サーメットの溶射粒子点在部上に、フッ化物溶射材料を、ArやN、Heまたはそれらの混合ガスのような不活性ガスを成膜用作動ガスとする溶射ガンを用い、600℃〜1300℃の温度に保持される溶射雰囲気中において、飛行速度:500m/sec.以上の速度で吹き付けて、フッ化物の溶射粒子を炭化物サーメットの溶射粒子点在部の粒子間の間隙に食い込むように該基材表面に付着させてこれを被覆することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法である。
また、本発明は、基材と、その基材表面に被覆されたフッ化物溶射皮膜とからなるものにおいて、前記フッ化物溶射皮膜は、基材表面もしくはWC−Co、WC−Ni−Cr、WC−Co−・Cr、Cr−Ni−Crなどの炭化物サーメット溶射粒子の少なくとも一部が該基材の表面に疎らに突き刺さって林立した状態にあり、他の一部が基材表面に付着するか基材中に埋没した状態で、面積率にして8〜50%が付着・堆積してなる炭化物サーメットによる非膜状の溶射粒子点在部を介してその上に、基材を覆うように形成されていることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材を提供する。
なお、本発明においては、
(1)フッ化物溶射材料粒子を溶射するのに先立ち行なう前記前処理は、脱脂、脱スケールの他、基材表面の粗面化処理すること、あるいは、該基材を80℃〜700℃の温度に予熱することのいずれか1以上であること、
(2)前記粗面化処理は、Al、SiCなどの研削材を吹き付ける粗面化処理によって、表面粗さがRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmにすること、
(3)前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素を含む鋼鉄、各種ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体のいずれかであること、
(4)前記炭化物サーメットの溶射粒子点在部は、WC−Co、WC−Ni−Cr、WC−Co−Cr、Cr−Ni−Crなどから選ばれる1種以上の炭化物サーメット粒子を吹き付けて基材表面に疎らに突き刺さった粒子が林立した状態の非膜状化した部分であること、
(5)前記炭化物サーメットの溶射粒子点在部は、基材の表面に炭化物サーメット材料を吹き付け粒子の飛行速度を150〜600m/sec.、好ましくは300〜600m/sec.の吹き付け速度で溶射して、該炭化物サーメット溶射粒子の少なくとも一部の先端部が面積率にして8〜50%の部分が疎らにかつ杭のように突き刺さった状態で付着して形成された層であること、
(6)基材表面に、非膜状の炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成するには、前記研削材粒子による基材表面の粗面化処理後、市販の高速フレーム溶射装置(ガン)を用いて、WC−Co、Cr−Ni−Crなどの炭化物サーメット粒子を、溶射ガンへの供給量100〜200g/min.、溶射ガンが基材表面上を繰り返し移動するとき移動速度を300〜1000mm/sec.に制御した条件で、溶射(移動)回数については5回以下、好ましく3回以下の操作を行なうことによって、面積率にて8〜50%の割合からなる炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成すること、
(7)前記フッ化物溶射皮膜は、周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族Y、原子番号57〜71のランタノイド系金属であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のフッ化物から選ばれる1種以上の、粒径が5μm〜80μmのフッ化物粒子を吹き付けて、20μm〜500μmの膜厚に形成されたものであること、
(8)前記溶射ガンから噴射した成膜用作動ガスが充満する700℃以上1200℃以下の溶射容器内において、フッ化物粒子を噴射するための溶射ノズルの先端と基材表面の間隔を5〜50mmに保持すること、
(9)前記フッ化物溶射皮膜は、膜厚が20〜500μmであること、
(10)前記基材は、フッ化物を溶射するのに先立ち、80〜700℃の温度に加熱すること、
(11)フッ化物の溶射粒子の吹き付け飛行速度は、面積率に応じて600m/sec.以上、より好ましくは650m/sec.以上とし、その飛行速度の上限は1000m/sec.以下、好ましくは800m/sec.以下にすること、
が、より好ましい解決手段となる。
前記のような構成を有する本発明によれば、つぎのような効果が期待できる。
(1)成膜用のフッ化物溶射用粒子を加熱するための溶射熱源が、ArやN、Heなどの不活性ガスを用いているため、溶射熱源中を飛行するフッ化物粒子が酸化、変質することなく被着面に達して溶射皮膜となる。即ち、無酸化雰囲気下での溶射のため酸化反応が抑制され、フッ化物本来の性能を損ねるようなことがなく、安定した品質のものが得られる。
(2)フッ化物粒子を加熱するための前記不活性ガスの溶射熱源温度が、一般的なプラズマ溶射法の熱源温度:5000℃〜7000℃、高速フレーム溶射法の熱源温度:1800℃〜2800℃に比較して、はるかに低温の600℃〜1300℃の範囲であるため、フッ化物粒子の熱分解反応を抑えて化学的質量変化とそれに伴う物理化学的性質の劣化を起こさないような溶射皮膜が成膜できる。
(3)さらに、不活性ガス中を飛行するフッ化物粒子の速度を毎秒500m以上に設定しているため、粒子の温度被曝時間が短く(1/1000秒)、前記(1)、(2)の効果を一段と高めると共に、フッ化物粒子に大きな運動エネルギーを付与することで得られる基材表面への衝突エネルギーの増大によって、飛行する溶射粒子の先端が、炭化物サーメット溶射粒子が疎らにかつ杭状に突き刺さって林立した溶射粒子点在部の粒子間間隙中に捕捉された、かつ食い込んだり、突き刺さった炭化物サーメットの先端部に串刺し状態となって、炭化物サーメットの存在と相俟って、溶射皮膜の密着力の向上を得ることができる。
(4)低温度、不活性ガス熱源、高速度飛行粒子など前述した条件を揃えることにより、現在のプラズマ溶射法などでは成膜できなかった高温下で高蒸気圧性のフッ化物粒子(例えば、AlF)などの成膜が容易となる。
(5)前記溶射法の条件に加え、溶射皮膜を被成するための基材表面をブラスト処理による粗面化処理に加え、80℃〜700℃に予熱する前処理を行ない。その後、炭化物サーメットの溶射粒子点在部の存在と基材表面に衝突するフッ化物粒子の植毛構造からなる付着・堆積効果との向上が図れる。
(6)とくに、粗面化した前記基材表面に対し、高速フレーム溶射法によって、WC−Ni−Cr、Cr−Ni−Crなどの硬質の炭化物サーメット粒子を吹き付け突き刺して楔(くさび)止め状態を導いて炭化物サーメット粒子の疎らにかつ突き刺した状態のあの溶射粒子点在部を介在させた場合、一段と高度なフッ化物溶射材料粒子の付着堆積率の向上と密着力の向上とが図れる。
(7)フッ化物は、表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力や基材との密着性が低く、しばしば剥離する欠点がある。この点、本発明によれば、フッ化物と炭化物サーメット(主成分は炭素)とは、互いの化学的親和力が強くかつよく濡れ合う特性があるため、前記炭化物サーメットの溶射粒子点在部によるフッ化物粒子の物理的付着機構に加え、化学的親和力との相乗作用を利用した皮膜密着力の向上をはかることができる。
本発明方法を実施するための工程の流れを示した図である。 高速フレーム溶射法によって、WC−12mass%Coサーメット粒子を斑らな状態に吹き付けた基材の表面と、断面のSEM像を示したものである。 (a)は、前記サーメット粒子を吹き付けた表面 (b)は、同上の拡大写真 (c)は、サーメット粒子を吹き付けた基材の断面 本発明方法で利用する低温溶射皮膜形成用装置の略線図である。 本発明方法で利用するの他の低温溶射皮膜形成用装置の略線図である。 本発明の方法で形成されたYF溶射皮膜の写真である。 (a)皮膜表面の写真 (b)皮膜断面の写真
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明方法を実施するための工程の流れを示したものである。以下、この工程順に従って本発明を説明する。
(1)基材
本発明で使用することができる基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、ステンレス鋼を含む各種の合金鋼、炭素鋼、Niおよびその合金などである。その他、酸化物や窒化物、炭化物、珪化物などのセラミック焼結体、焼結炭素材料であってもよい。
(2)前処理
この前処理は基材表面を、JIS H9302に規定されているセラミック溶射作業標準に準拠して実施することが好ましい。例えば、基材表面の錆や油脂類などを除去する脱脂、脱スケール処理をするだけでなく、さらにAl、SiCなどの研削粒子を吹き付けて粗面化して、フッ化物粒子が付着しやすい状態にする。粗面化後の粗さは、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μm程度にすることが好適である。これに加えて、基材を予め80〜700℃に予熱することも有効である。
(3)炭化物サーメット粒子の溶射粒子点在部の形成
ブラスト処理によって粗面化した基材表面に、高速フレーム溶射法または後述する本発明に特有の不活性ガス溶射法と同一の方法によって、粒径5〜80μmの炭化物サーメット粒子を高速で吹き付け、吹き付けた硬質の炭化物サーメット溶射粒子の少なくとも一部の粒子の先端部を、独立した状態で該基材表面に突き刺して杭が林立しているような状態となるようにする。しかも、このような方法によって、前記基材表面に対して炭化物サーメット粒子が疎ら模様となって付着した溶射粒子点在部が形成される。この場合において、炭化物サーメット粒子の粒径が5μmより小さいと、溶射ガンへの供給量が不均等となって均等な吹き付けができない他、突き刺さり量が少なくなって有効な溶射粒子点在部が形成できなくなる。一方、80μm超の粒径では、突き刺し効果が弱まる。
なお、この溶射粒子点在部は、炭化物サーメット材料(粒径5〜80μm)を、150〜600m/sec.、好ましくは300〜600m/sec.の飛行速度の溶射ガンを用いて、溶射回数を5回以下、このましくは3回以下に設定して面積率で8〜50%の部分の基材表面に、溶射粒子が疎らにかつ杭のように突き刺さった状態で付着させた部分である。
この処理工程における疎らに分散した炭化物サーメットの溶射粒子点在部とは、完全に膜状化したものではなく、次のような構造を形造っている。即ち、WC−12mass%Coの炭化物サーメット材料の粒子を、SUS310鋼基材の表面に吹き付けた際の外観状態を示す図2(a)、(b)に明らかように、吹き付けたWC−Coサーメット粒子の一部が、基材の表面の8〜50%の部分にそれぞれ杭のように突き刺さって減り込むように付着している状態である。なお、他のWC−Coサーメット粒子はまた、基材表面への衝突エネルギーによって一部が粉砕された状態で分散して付着したものであり、さらに他の一部は基材中に完全に埋没したようになって、溶射皮膜表面層に炭化物サーメットによる強化層を形成した状態になっている。
また、図2(c)は、基材表層部に存在する吹き付けられたWC−Coサーメット粒子の分布状態を断面状態で観察したものである。この写真から明らかなように、WC−Coサーメット粒子は、基材表面に打ち込まれて小さな杭が疎らに林立した状態で存在していると共に、他の一部は単に付着するか、埋没した状態となっている。本発明では、このような状態の基材表面、即ち、このような状態で付着している炭化物サーメット粒子による溶射粒子点在部(これは、完全な膜状になったものではない)上にフッ化物粒子を溶射すると、杭状に林立した硬質WC−Coサーメット粒子フッ化物溶射粒子との相互の絡み合いの作用(植毛構造)や串刺し現象を利用して密着性の高いフッ化物溶射皮膜を形成しようとするものである。
なお、前記溶射粒子点在部について、本発明では、図2(a)または図2(b)のSEM写真を用いて画像解析装置によって、白色部を炭化物サーメット溶射粒子、黒色部を基材の露出面として、炭化物サーメット粒子の面積率(面積占有率)を求めた。その結果は、面積率は、8〜50%の範囲内とすることが好適であることを確認した。8%以下では、炭化物サーメット粒子のよる粗面化の効果が低く、また、80%以上では、炭化物サーメットのアンダーコート層と同様な作用機構となり、フッ化物粒子の突き刺し効果が小さくなるからである。本発明では、炭化物サーメット溶射粒子の面積率が8〜50%の範囲で吹き付けられた基材表面の状態を「溶射粒子点在部」と呼ぶことにした。
前記炭化物サーメット材料としては、例示した前記WC−Coに加え、WC−Ni−Cr、WC−Co−Cr、Cr−Ni−Crなども用いることができる。なお、この炭化物サーメットに占める金属成分の割合は、5〜40mass%の範囲がよく、特に10〜30mass%が好適である。金属成分が5mass%より少ないと、硬質の炭化物は小さな粉体となって飛散し、一方、金属成分が40mass%以上と多くなると、硬度および耐食性が低下し、楔止めの効果が低下したり、フッ化物溶射皮膜の貫通気孔か侵入する腐食性ガスによって、基材が腐食されるおそれがある。
(4)基材の予熱
前記基材及び炭化物サーメット粒子の吹き付け処理に伴う疎らに付着した炭化物サーメット粒子による溶射粒子点在部を形成した後の基材は、フッ化物溶射に先駆けて予熱を行う。予熱の温度は、基材質によって管理することが好ましく、下記の温度が推奨される。
(i)Al、Ti及びそれらの合金:80℃〜250℃
(ii)鋼鉄(低合金鋼):80℃〜250℃
(iii)ステンレス鋼:80℃〜250℃
(iv)酸化物・炭化物などのセラミック焼結体:120℃〜500℃
(v)焼結炭素:200℃〜700℃
また、この予熱は、大気中、真空中、不活性ガス中のいずれであってもよいが、基材質が予熱によって酸化され、表面に酸化膜が生成するような雰囲気は避ける必要がある。
本発明方法において、基材を予熱する最も大きな理由の一つは、不活性ガスをノズルから高速で噴射するとき、ガスの断面膨張現象によって、例えば600℃程度のガス温度が50℃前後にまで低下し、これによって基材が冷却されるおそれがあるからである。もし、基材の表面温度がこのような低い温度になると、ノズルから噴射されたフッ化物溶射粒子(フッ化物の融点は、YFの場合(1152℃)、ErFの場合(1350℃)は、ガス中で溶融することなく、そのまま基材表面に衝突した場合、その大部分が飛散して成膜する確率が非常に低くなるうえ、もし成膜できたとしてもフッ化物粒子の相互結合力が弱く、かつ気孔率の大きい皮膜となるなどの品質の低下を招くからである。
本発明は、基材表面の粗面化、該基材表面への炭化物サーメット粒子の疎らに付着した溶射粒子点在部の形成、さらに基材の予熱および後述の不活性ガスによるフッ化物粒子の熱間高速度吹き付けによる大きな運動エネルギーによって、フッ化物粒子の付着力の向上を図るものである。
(5)フッ化物溶射皮膜(トップコート)の形成
a.フッ化物溶射材料
本発明において用いられるフッ化物溶射材料としては、元素の周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族のY、原子番号57〜71に属するランタノイド系金属のフッ化物である。原子番号57〜71の金属元素名は、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)の17種の使用が可能である。
そして、溶射材料としては、前記金属のフッ化物粒子を5〜80μmの粒径に調整したものを使用する。それは、溶射材料が5μm以下の細粒では、基材表面に衝突した際、成膜するより飛散するものが多くなる欠点があり、また80μmより大きい粒子では、溶射ガンへの送給速度を均一化しにくくなる一方、成膜された皮膜の気孔が大きくなる傾向が顕著となるからである。
前記粗面化後のもしくは炭化物サーメットの溶射粒子点在部、さらに予熱後の基材表面の上に形成されるフッ化物粒子による溶射皮膜は、20〜500μmの厚さにすることがよく、特に50〜200μmの範囲が好適である。それは、20μmより薄い膜では、均等な膜厚が得られず、また、500μmより厚くすると、フッ化物皮膜の形成時における残留応力が大きくなって、基材から剥離しやすくなるからである。
(b)溶射装置及び成膜方法
本発明の実施に当たって用いる装置としては、発明者らが先に提案した特許番号第4628578号に記載の低温溶射皮膜被覆部材及びその製造方法において使用した装置を用いることができる。図3および図4は、そうした装置の中の本発明に係るフッ化物溶射皮膜を基材表面に形成するのに有効な装置の好適例を示すものである。図示のlは圧縮ガスボンベから供給される作動ガス源、2は溶射材料の供給器、3はガス加圧用熱交換器、4は溶射容器、5は噴射ガン、6はノズル、7は被処理体、8は消音器、9は作動ガス用主ガス管、10は溶射材料粉末搬送用の副ガス管、11は作動ガスの整流板、12、13はそれぞれのガス管に設けられた流量調整バルブである。
例示したこれらの装置は、作動ガス源1から供給された高圧の不活性ガスを2つに分け、その一方のガスを作動ガスとして熱交換器3に送って600〜1300℃に加熱し、超音速流の噴射ガスとしてノズル6から被処理体7に向けて噴射させる。この場合、断熱膨張に伴う極端な低温化を防ぐように温度制御する。好ましくは700℃、より好ましくは800℃以上であり、一方、上限の温度は1000℃とすることが好ましい。一方、好ましい上限の温度は1000℃程度である。
なお、この作動ガスの温度が600℃未満では、噴射ガン出口における断熱膨張現象によって50℃前後の低温となって、フッ化物粒子の昇温効果が期待できない。一方、この温度が1300℃を超えると、不活性ガスの加熱に要するエネルギーが大きくなるうえ、付属機器の耐熱対策費用が大きくなる。
なお、分岐させた他方のガスは、溶射粉末材料の搬送用ガスとして使用するが、噴射ガン5において前記の作動ガスと合流させ、(図3の場合)ノズル6中で超音速ガス流にして溶射材料粒子を高速度で被処理体に向けて飛行衝突させ、一部が被着面に喰い込むように吹き付けて次第に肥厚化させて、所定の厚みの溶射皮膜を形成する。また、図4に示すように、溶射材料粒子を噴射ガン5の出口(ノズル6の取付部近傍)の減圧部から投入してもよい。いずれの場合もノズル6と被処理体との距離は、5〜50mm、好ましくは10〜30mmがよく、5mmより小さい間隔では、ガス流の障害となり、50mmより大きい間隔ではフッ化物粒子の付着率が著しく低下する。
前記溶射ガン5のノズル6から不活性ガスを成膜用の作動用ガスとしてフッ化物溶射材料粒子を、500m/sec.以上の飛行速度で被処理体7に吹き付ける。このときの飛行速度は500m/sec.以上とする理由は、500m/sec.未満では基材表面に対するフッ化物粒子の付着率が極端に低下するからである。なお、好ましい下限の速度は600m/sec.以上、より好ましくは650m/sec.以上である。上限については800m/sec.以下が、より好ましくは750m/sec.程度の速度にすることが好ましい。
なお、超音速のガス発生部(ノズル6)や被処理体7は、鋼製の溶射容器4によって保護され、また、超音速ガスによって発生する衝撃波音は、消音器8の作用と相俟って外部には洩れないような構造にしてある。
本発明において特徴的なことは、使用する高圧の作動ガスとして、不活性ガス、例えば、ArやNあるいはHe単体のガスまたはこれらの混合ガスを使用することにある。また、これらのガスの圧力は0.5〜1.0MPa未満の範囲内に制御することが好適である。本発明において、該作動ガスとして、例示のような不活性ガスに着目した理由は、たとえ1300℃の高温に加熱しても、溶射装置を構成する各種の金属製部材を酸化消耗させない他、フッ化物粒子を加熱する際にも粒子の酸化反応による物理化学的変化を最小限にとどめ得るからである。そして、その圧力を0.5〜1.0MPa未満にする理由は、熱源用不活性ガスの運動エネルギーを利用するのに適しているからである。1MPa以上の圧力ガスの使用は、成膜上の問題はないが、高圧ガス取扱上の法的な対策を必要とし、作業の安定上からも好ましいものでないからである。
以上は、発明者等が先に提案した特許番号第4628578号に記載の低温溶射法において使用した装置を例にとって、フッ化物溶射皮膜の形成方法を説明したが、さらに他の作業性や経済性に優れた類似の低温溶射装置(コールドスプレー)を用いてもよい。従って、本発明については、フッ化物溶射皮膜の被覆形成条件、具体的には作動ガスの種類、温度、流速などが得られる装置であれば、いずれでも使用することができるので、溶射装置については上記の例に限定されるものではない。
次に、図5は、本発明に係る上述した方法によって基材表面に形成されたYF溶射皮膜の断面と表面のSEM像を示したものである。比較的緻密な溶射皮膜の性状と良好な状態で基材表面に付着形成されていることがわかる。
(c)フッ化物溶射皮膜の特徴
まず、フッ化物自体の物理化学的性質としては、次の点を指摘することができる。即ち、フッ化物の膜は、金属皮膜やセラミック皮膜と比較して、ハロゲン系ガスに対する化学的安定性を有するものの、表面エネルギーが小さいため、皮膜を構成するフッ化物粒子の相互結合力及び基材の密着強さが弱い点が挙げられる。また、成膜時に大きな残留応力を発生しやすいため、基材が成膜後の僅かな変形によって、容易に皮膜の剥離が起こることが多い。加えて、フッ化物は延性に乏しい性質を示すために皮膜が容易に“ひび割れ”し、前記成膜時に発生する気孔部とともに、酸やアルカリ洗浄液などの内部浸入によって、基材の腐食原因となるなど、フッ化物そのものの耐食性は良好であっても、その性質を防食膜としては利用できないという問題点もある。
この点、本発明によれば、溶射皮膜自体の強度が粒子どうしの相互結合力、とくに、フッ化物溶射粒子の植毛構造に由来する結合力が向上し、特に、基材表面に炭化物サーメット粒子による溶射粒子点在部を設けた場合には、皮膜の密着性も向上して、フッ化物が抱えている上述した問題点を解消することができる。即ち、皮膜の剥離やひび割れの防止、それに伴う洗浄液の侵入を阻止して基材の腐食を防ぐという効果が発生するのである。
なお、本発明に適合して形成されたフッ化物溶射皮膜は、成膜状態のままでも使用できるが、必要に応じて成膜後250℃〜500℃の熱処理を行って、残留応力を開放したり、アモルファス状のものを結晶化(斜方晶系)することも容易であるので、本発明では、これらの処理の実施について、特に制限するものではない。この熱処理の温度を上記の範囲に限定する理由は、250℃以下では皮膜の残留応力の解放に長時間を要するだけでなく結晶化も不十分で、500℃以上の高温ではフッ化物溶射皮膜の物理化学的性質の変化を助長させる可能性があるからである。
(実施例1)
この実施例では、フッ化物としてYFとAlFを用い、成膜用作動ガスの温度とフッ化物溶射皮膜の形成の可否について調査した。
(1)基材:基材として、SUS304鋼(寸法:30mm×30mm×厚さ5mm)を用い、その表面をブラスト粗面化処理後、180℃に予熱したものを供試した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして、Ar、NおよびHeからなる不活性ガスを用い、それぞれのガス温度を500℃未満から最高1300℃に加熱し、この中を飛行するフッ化物粒子の飛行速度を600〜660m/sec.に維持しながら基材表面に形成されるフッ化物皮膜の有無と良否について調べた。
(3)成膜用フッ化物材料:フッ化物として粒径10〜35μmのYFとAlFを用いた。また比較例の溶射法として、Arと水素ガスをプラズマ作動ガスとする現行の大気プラズマ溶射法と減圧プラズマ溶射法(粒子飛行速度:350〜500m/sec.)を用い、それぞれのプラズマジェットを熱源として、YFとAlFを成膜した。
(4)試験結果
試験結果を表1に示した。この表に示す結果から明らかなように、本発明に係る溶射法では、成膜用作動ガス(Ar、N、He)が500℃未満ではフッ化物皮膜の形成が見られず(フッ化物粒子の付着が認められる場合でも、多孔質で実用できない状態)、また、600℃以上のガス温度によって、外観上、良好な皮膜の形成が確認できた。
これに対して、現行の大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法による方法では、YFの成膜は見られるが、AlFの皮膜は欠陥(多孔質、均一性に劣る)が多く、実用的な皮膜性状は得られなかった。この原因は、AlFは蒸気圧が非常に高いため、高温のプラズマジェット中を飛行する際、AlF粒子の表面から蒸気化したり、分解したためと思われる。
Figure 2013177671
(実施例2)
この実施例では、SS400鋼の表面に形成したフッ化物溶射皮膜の気孔率に及ぼす成膜方法と基材の粗面化方法の影響について調査した。
(1)基材:基材として、SS400鋼(寸法:幅50mm×縦50mm×厚さ3.2mm)を用い、現行のアルミナ粒子によるブラスト粗面化処理(比較例)とWC−12mass%Co粒子(以下の実施例の数値はmass%を示す)を高速フレーム溶射法により飛行速度:720m/sec.溶射回数:6回、面積率:30〜32%の条件での吹き付け処理の2種類を施工した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして750℃に加熱したArガスを用い、この中を飛行するYF粒子の飛行速度を650〜700m/sec.範囲に制御した。
(3)成膜用フッ化物:YF(粒径10〜40μm)を用い、本発明法及び比較例の成膜として現行の大気プラズマ溶射法、高速フレーム溶射法により、120μmの厚さに形成させた。
(4)フェロキシル試験(気孔率)
フェロキシル試験方法として、具体的には、次に示すような方法を用いた。すなわち、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム10g及び塩化ナトリウム15gを1リットルの蒸留水に溶解し、これを分析用の濾紙に十分含浸させる。その後、この濾紙を試験片表面に貼り付けし、30分間静置した後、濾紙を剥がして、濾紙面での青色斑点の有無を目視判定した。これはアモルファス状膜に貫通気孔が存在するとフェロキシル試験液が浸透し、鉄基材界面に達して鉄イオンを生成させ、これにヘキサシアノ(III)酸カリウム塩が反応して、濾紙の表面に青色斑点を生成させることによって判定することができる。
(5)試験結果
試験結果を表2に示した。この表に示す結果から明らかなように、供試したすべてのフッ化物溶射皮膜から青色斑点が発生し、皮膜に貫通気孔が存在していることが判明した。ただ青色斑点数を見ると、比較例の大気プラズマ溶射法や高速フレーム溶射法で形成された皮膜(No.3、4)には、3〜7個の大きな青色斑点が見られるのに対し、本発明に適合する方法で溶射して形成した皮膜では斑点数が少なく、前者に比較して緻密化の傾向を示している。またWC−Co粒子を吹き付けた基材表面に形成した皮膜にも貫通気孔が少なく、フッ化物皮膜形成用の前処理として実用化できることが判明した。
Figure 2013177671
(実施例3)
この実施例では、フッ化物粒子の飛行速度と基材の予熱温度をそれぞれ変化させ、フッ化物皮膜の形成に必要な飛行速度と予熱温度を求めた。
(1)基材:実施例1と同じステンレス鋼を用い、ブラスト粗面化処理を行い、20℃〜520℃の範囲で予熱した試験片を準備した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして750℃に加熱したArガスを用い、この中を飛行するフッ化物粒子の速度を500m/sec.未満、600〜700m/sec.、750m/sec.の3条件で成膜した。
(3)成膜用フッ化物:YF(粒径:10〜35μm)
(4)試験結果
試験結果を表3に示した。この表に示す結果から明らかなように、YF粒子の飛行速度が500m/sec.未満では基材の予熱温度を20℃〜520℃に変化しても十分な成膜が得られなかった(No.1)。しかし、粒子の飛行速度を600m/sec.以上にすると、基材の予熱温度を80℃以上に維持すると成膜し、この傾向は飛行速度を750m/sec.以上にしてもほぼ変化はなく、良好な状態の溶射皮膜の形成が認められた。このことから、フッ化物皮膜の形成に必要なフッ化粒子の飛行速度は600m/sec.以上、基材(SUS304鋼)の予熱温度を80℃〜500℃であれば所定の効果が得られることが判明した。
なお、基材の予熱温度の最高は、基材質によって異なり、Al、Tiなどの非鉄金属は温度の上昇に伴って変形や冶金的変化を受け、鉄鋼材料は表面に酸化スケールを生成するなどの変化が発生するため、低い温度に抑制することが好ましい。この点、炭化物、酸化物などの焼結体は加熱温度の影響を受けることが少ないので、生産上可能な限り高くする方が良好な溶射皮膜が形成されるため、最高温度を700℃とした。
Figure 2013177671
(実施例4)
この実施例では、フッ化物粒子の飛行速度と基材表面の粗面化状態の相違による皮膜の形成状態を調査した。
(1)基材:実施例1と同じSUS304鋼試験片を用い、その表面をブラスト粗面化処理の有無、およびWC−Coサーメットの実施例2と同じ条件で、高速フレーム溶射法による疎ら模様となる吹き付け処理(750m/sec.)を行ったものを準備した。また基材は、いずれも200℃に予熱した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして700℃に加熱したArガスを用い、この中を飛行するフッ化物粒子の飛行速度を500未満〜750m/sec.になるように調整した。
(3)成膜用フッ化物:YF(粒径:5〜30μm)
(4)試験結果
試験結果を表4に示した。この表に示す結果から明らかなように、フッ化物粒子の飛行速度が500m/sec.未満では、基材の表面を粗面化していてもフッ化物皮膜の形成は十分でなく、たとえ形成されたとしても多孔質、不均一なものであった。粒子速度を600m/S以上にすると、ブラスト粗面化したもの(No.2)WC−Coサーメット粒子吹き付けともに良好な皮膜を形成し、特にWC−Coサーメット粒子を吹き付けた試験片上の皮膜は、良好な外観を示した(No.3)。
Figure 2013177671
(実施例5)
この実施例では、Al合金基材(寸法:幅30mm×縦50mm×厚さ3mm)の表面に、本発明に適合するの方法によって、フッ化物溶射皮膜を形成し、その皮膜の耐プラズマエッチング特性を評価した。
(1)基材:Al合金(JIS H4000規定のA3003)の表面をブラスト粗面化処理した後、200℃に予熱した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして800℃に加熱したHeガスを用い、この中を飛行するフッ化物粒子の飛行速度を650〜700m/sec.の範囲に制御した。
(3)成膜用フッ化物:YF、DyF、CeF(粒径5〜45μm)を用い、膜厚180μmに成膜した。なお、比較例の皮膜として、大気プラズマ溶射法によってY、Dy、CeOをそれぞれ180μmに成膜した皮膜を同一条件で評価した。
(4)プラズマエッチング雰囲気ガス組成とプラズマ出力
(i)雰囲気ガスと流量条件
(a)含Fガス:CHF/O/Ar=80/100/160(1分間当たりの流量cm
(b)含CHガス:C/Ar=80/100(1分間当たりの流量cm
(ii)プラズマ照射出力
高周波電力:1300W
圧力:4Pa
温度:60℃
(iii)プラズマエッチング試験の雰囲気
(a)含Fガス雰囲気中で実施
(b)含CHガス雰囲気中で実施
(C)含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰り返す雰囲気中で実施
(5)評価方法
耐プラズマエロージョン試験の評価は、エッチング処理によって供試皮膜から飛散する皮膜成分のパーティクル数を計測することによって、耐プラズマエロージョン性と耐環境汚染性を調査した。パーティクル類は、試験容器内の配設した直径8インチのシリコンウェハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでの時間を測定することにより実施した。
(6)試験結果
試験結果を表5に示した。この結果から明らかなように比較例の酸化物系皮膜(No.1、3、5)は、含CHガス中では最もパーティクルの発生が少なく、含Fガス中ではやや多くなり許容値に達する時間が短くなる状況が見られる。しかし、含Fガスと含CHガスを交互に繰り返す雰囲気下におけるパーティクルの発生数は一段と多くなっていることが判明した。この原因は、含Fガス中におけるフッ化ガスの酸化作用とCHガスの還元作用の繰り返しによって、酸化物セラミック皮膜の表面の酸化膜が常に不安定な状態となって飛散するためと考えられる。これに対して、フッ化物皮膜(No.2、4、6)は、含Fガス中、含CHガス中及びこれらのガス交互繰り返し雰囲気中でも化学的に安定な状態を維持し、パーティクルの発生を抑制したものと考えられる。なお、フッ化物皮膜からのものに比較して1/5〜1/10程度小さいものが多い点も耐環境汚染性をよくしているものと思われる。
Figure 2013177671
(実施例6)
この実施例では、本発明の方法で形成されたフッ化物溶射皮膜のハロゲン系酸の蒸気に対する耐食性を調査した。
(1)基材:SS400鋼基材(寸法:横30mm×縦50mm×厚さ3.2mm)を用い、その表面をブラスト粗面化するとともに、180℃に予熱して成膜した。
(2)溶射雰囲気:成膜用作動ガスとして850℃に加熱したArガスを用い、この溶射雰囲気中を飛行するフッ化物粒子の飛行速度を680〜720m/sec.の範囲に制御した。
(3)成膜用フッ化物:フッ化物として、AlF、YF(粒径10〜60μm)を用いて、膜厚250μmの厚さに形成したものを準備した。
(4)腐食試験
(a)HCl蒸気による腐食試験は、化学実験用のデーシケ一夕ーの底部に30%HCl水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHCl水溶系から発生するHCl蒸気に曝露する方法を採用した。腐食試験温度は30℃〜50℃、時間は96hrである。
(b)HF蒸気による腐食試験は、SUS316製のオートクレーブの底部にHF水溶液を100ml入れ、その上部に試験片を吊すことによってHF蒸気による腐食試験を実施した。腐食試験温度は30℃〜50℃、曝露時間は96hrである。
(6)試験結果
試験結果を表6に示した。表に示す結果から明らかなように、比較例の酸化物系皮膜(No.2、4)は、すべて多量の赤錆が皮膜表面にまで達していた。即ち、酸化物系皮膜には多くの貫通気孔が存在するため、HCl、HFなどの蒸気は、この貫通気孔を通って皮膜の内部に達してSS400鋼基材を腐食し、その腐食生成物としての鉄成分が貫通気孔を通して皮膜表面に達して赤錆状を呈したものと考えられる。これに対して、フッ化物皮膜(No.1、3)は、赤錆の発生は認められるものの、その程度は比較例の30〜40%程度にとどまっていた。この結果からフッ化物皮膜のも貫通気孔は存在するが、酸化物系皮膜に比較すると少なく、さらにフッ化物皮膜そのものにも、優れた耐食性があるため、総合的な耐ハロゲン系酸の蒸気に対して良好な耐食性を発揮したものと思われる。
Figure 2013177671
(実施例7)
この実施例では、フッ化物溶射皮膜の密着性に及ぼす基材表面の前処理の影響を調査した。
(1)前処理の種類
基材としてAl3003合金(寸法:直径25mm×厚さ5mm)の片面に、次に示すような前処理を行なった。
(i)脱脂した後、ワイヤブラシで軽く研磨する。
(ii)脱脂後、Ni−20mass%Crを大気プラズマ溶射法によって、50μm厚さの皮膜を形成する(金属アンダーコート)
(iii)脱脂後、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって、疎らな溶射粒子点在部を形成(面積率22%)
(iv)脱脂後、Al研削材を用いて、ブラスト粗面化処理を行なう。
(v)同上のブラスト処理面に、Ni−20mass%Crを大気プラズマ溶射法によって、80μm厚さの皮膜を形成(金属アンダーコート)
(vi)同上のブラスト処理面に、WC−12mass%Coを高速フレーム溶射法によって、疎らな林立した溶射粒子点在部を形成(面積率18%)
以上の(iii)、(vi)は本発明例、他の(i)、(ii)、(iv)、(v)は比較例である。
(2)フッ化物溶射皮膜の形成
前記前処理後の基材表面に、800℃に加熱してHeガスを用い、この中を飛行するフッ化物粒子の飛行速度を680〜750m/sec.の範囲に制御したYF粒子によって、膜厚140μmのフッ化物溶射皮膜を形成した。
(3)密着性試験方法
溶射皮膜の密着性は、JIS H8666セラミック溶射皮膜試験方法に規定されている密着強さ試験方法によって測定した。
(4)試験結果
試験結果を表7に示した。この表に示す結果から明らかなように、基材表面を脱脂した後、軽ワイヤブラシングした面に形成したフッ化物溶射皮膜(No.1)は、密着力に乏しく0.5〜1.2MPaで皮膜が剥離し、また、金属アンダーコートを施したフッ化物溶射皮膜(No.2)は、若干の密着力の向上が見られる。これに対して、WC−12mass%Coが疎らに点在している面に形成したフッ化物溶射皮膜(No.3)は、13〜16MPaの高い密着力を発揮した。一方、ブラスト粗面化面に形成されたフッ化物溶射皮膜(No.4)の密着力は、4〜6MPaを示し、また、ブラスト粗面化面に金属質のアンダーコートを施工したフッ化物溶射皮膜の密着力は、それぞれNo.1、No.2の場合に比較すると高くなる傾向があり、基材の粗面化や金属質アンダーコートの施工は、皮膜の密着性の向上に効果が見られる。これに対して、本発明に係る炭化物サーメット粒子を吹き付けることによって形成された溶射粒子点在部を有する面(No.6)は、フッ化物溶射皮膜上との密着性が一段と向上し、13〜15MPaの高い密着力を示した。
Figure 2013177671
以上説明したように、本発明の比較的低温〜超高速、不活性ガスを作動流体として、溶射加工して得たフッ化物皮膜は、成膜用のフッ化物粒子が熱分解したり、脱F成分の現象を発生しないため、形成されるフッ化物皮膜は、フッ化物本来の物理化学的性質を発揮する。さらに、成膜に際し、大きな運動エネルギーによって衝突する基材側にも、予熱に加え硬質の炭化物サーメット粒子を斑らな状態になるよう吹き付け、この突き刺さった粒子を突起物とする粗面化処理とする工夫によって、緻密で密着力が高いフッ化物溶射皮膜を形成することができる。このようにして形成されたフッ化物溶射皮膜は、従来のプラズマ溶射法や高速フレーム溶射法によって形成された皮膜に比較して、耐酸性、耐ハロゲンガス性、耐プラズマエロージョン性などの物理化学的性質に優れ、現行の半導体加工装置部材用の被覆はもとより、一般の石油化学・化学プラント用被覆として、より厳しく、より優れた性能が求められる分野への新しい用途が期待できる。
1 作動ガス源
2 溶射材料の供給器
3 ガス加熱用熱交換器
4 溶射容器
5 噴射ガン
6 ノズル
7 被処理体
8 消音器
9 主ガス管
10 副ガス管
11 作動ガス整流板
12、13 流量調整バルブ

Claims (15)

  1. 前記基材表面をまず前処理し、その前処理後の基材の表面に、炭化物サーメット材料を溶射して、その炭化物サーメットの溶射粒子の少なくとも一部の先端部が面積率にして8〜50%の割合いで、疎らにかつ該溶射粒子先端部が基材表面に疎らにかつ杭のように突き刺さって林立した状態で付着している炭化物サーメットの非膜状の溶射粒子点在部を形成し、その後、基材表面および該炭化物サーメットの溶射粒子点在部上に、フッ化物溶射材料を、ArやN、Heまたはそれらの混合ガスのような不活性ガスを成膜用作動ガスとする溶射ガンを用い、600℃〜1300℃の温度に保持される溶射雰囲気中において、飛行速度:500m/sec.以上の速度で吹き付けて、フッ化物の溶射粒子を炭化物サーメットの溶射粒子点在の突き刺さり粒子間の間隙に食い込ませて該基材表面に付着させてこれを被覆することを特徴とするフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  2. 前記炭化物サーメットの溶射粒子点在部は、基材の表面に対し、炭化物サーメット材料を飛行速度が150〜600m/sec.となる吹き付け速度で溶射することを特徴とする請求項1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  3. 基材表面の粗面化処理後、高速フレーム溶射装置を用いて、炭化物サーメット材料を、溶射ガンへの供給量100〜200g/min.、溶射ガンが基材表面上を繰り返し移動するとき移動速度を300〜1000mm/sec.に制御した条件下で、溶射回数回以下の溶射ガン操作を行なうことによって、面積率にて8〜50%の割合の部分からなる炭化物サーメットの溶射粒子点在部を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  4. フッ化物溶射材料粒子を溶射するのに先立ち行なう前記前処理は、脱脂、脱スケールの他、基材表面の粗面化処理、あるいは該基材を80℃〜700℃の温度に予熱することであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  5. 前記粗面化処理は、Al、SiCなどの研削材を吹き付ける粗面化処理によって、表面粗さがRa:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmにすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  6. 前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素を含む鋼鉄、各種ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  7. 前記炭化物サーメット材料は、WC−Co、WC−Ni−Cr、WC−Co−Cr、Cr−Ni−Crなどから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  8. 前記フッ化物溶射皮膜は、周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族Y、原子番号57〜71のランタノイド系金属であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のフッ化物から選ばれる1種以上の、粒径が5μm〜80μmのフッ化物粒子を吹き付けて、20μm〜500μmの膜厚に形成されたものであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  9. 不活性ガスを成膜用作動ガスとする溶射法により、フッ化物粒子を噴射するための溶射ノズルの先端と基材表面の間隔を5〜50mmに保持することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  10. 前記フッ化物溶射皮膜は、膜厚が20〜500μmであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜の形成方法。
  11. 基材と、その基材表面に被覆されたフッ化物溶射皮膜とからなるものにおいて、前記フッ化物溶射皮膜は、WC−Co、WC−Ni−Cr、WC−Co−・Cr、Cr−Ni−Crなどの炭化物サーメット溶射粒子の少なくとも一部が該基材の表面に突き刺さって疎らに林立した状態にあり、他の一部が基材表面に付着するか基材中に埋没した状態で、面積率にして8〜50%が付着・堆積してなる炭化物サーメットによる非膜状の溶射粒子点在部を介してその上に基材を覆うように形成されていることを特徴とするフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  12. 前記基材は、Al、SiCなどの研削材を吹き付ける粗面化処理によって、Ra:0.05〜0.74μm、Rz:0.09〜2.0μmの表面粗さを有することを特徴とする請求項11に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  13. 前記基材は、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、炭素を含む鋼鉄、各種ステンレス鋼、Ni及びその合金、酸化物、窒化物、炭化物、珪化物、炭素焼結体のいずれかであることを特徴とする11または12に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  14. 前記炭化物サーメット材料は、WC−Co、WC−Ni−Cr、WC−Co−Cr、Cr−Ni−Crなどから選ばれる1種以上を用いることを特徴とする請求項11〜13のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
  15. 前記フッ化物溶射皮膜は、周期律表IIa族のMg、周期律表IIIb族のAl、周期律表IIIa族Y、原子番号57〜71のランタノイド系金属であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロビウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジズプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)のフッ化物から選ばれる1種以上の、粒径が5μm〜80μmのフッ化物粒子を吹き付けて、20μm〜500μmの膜厚に形成されたものであることを特徴とする請求項11〜14のいずれか1に記載のフッ化物溶射皮膜被覆部材。
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