JP2013152817A - 密閉型リチウム二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】従来に比べ信頼性(典型的には、広範な温度環境下における安全性)の向上した密閉型リチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明により、正極10と負極20を備えた電極体80と、電解質が所定の電池ケース50内に収容された密閉型リチウム二次電池100が提供される。かかる電池の負極20は、負極集電体22と該集電体上に形成された負極活物質を含む負極合材層24を備えている。そして、上記電解質には所定の電池電圧を超えた際に上記正極表面上で酸化されて水素イオンを生じさせる芳香族化合物が含まれており、上記負極合材層24の表面には、上記芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンを還元し水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物が含まれており、電池ケース50には該水素ガスの発生に伴って電池ケース50内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構30が備えられている。
【選択図】図2

Description

本発明は、密閉型リチウム二次電池(典型的には密閉型リチウムイオン電池)に関する。詳しくは、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池に関する。
リチウムイオン電池その他のリチウム二次電池は、既存の電池に比べ、小型、軽量かつ高エネルギー密度であって、出力密度に優れる。このため、近年、パソコンや携帯端末等のいわゆるポータブル電源や、車両駆動用電源として好ましく用いられている。
かかる電池の一形態として、密閉型リチウム二次電池が挙げられる。該電池は、典型的には、活物質を含む合材層を備えた正負極からなる電極体が、電解質(典型的には、電解液)とともに電池ケースに収容された後、蓋体が装着されて封口(密閉)されることにより構築される。密閉型リチウム二次電池は、一般に電圧が所定の領域(例えば3.0V以上4.2V以下)に収まるよう制御された状態で使用されるが、誤操作等により電池に通常以上の電流が供給されると、所定の電圧を超えて過充電となる場合がある。
かかる場合においても安全を確保し得る技術として、電池ケース内の圧力が所定値以上になると充電電流を遮断する電流遮断機構(CID:Current Interrupt Device)が広く用いられている。一般に、電池が過充電状態になると電解質の非水溶媒等が電気分解され、ガスが発生する。上記電流遮断機構は、このガス発生に基づいて電池の充電経路を切断することで、それ以上の過充電を防止し得るようになっている。上記機構をより迅速に作動させるための手法としては、例えば、特許文献1のように正極合材層中に無機化合物(例えば、炭酸リチウム)を添加する方法が挙げられる。
また、他の手法として、電解質中に該電解質の非水溶媒よりも酸化電位の低い(即ち、酸化分解反応の始まる電圧が低い)化合物(以下、「過充電防止剤」という。)を、含有させておく手法が知られている。かかる過充電防止剤は、電池が過充電状態になると正極(典型的には、正極合材層中の正極活物質や導電材)の表面において速やかに酸化分解され、水素イオン(H)を生じる。そして、該水素イオンが電解質中に拡散し、負極上で還元されることにより水素ガス(H)を発生させる。かかる水素ガスの発生により電池の内圧が上昇するため、電流遮断機構を迅速に作動させることができる。この種の従来技術として、例えば特許文献2には、過充電防止剤としてシクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)を用いる技術が開示されている。
特開2008−277106号公報 特開2006−324235号公報 国際公開第2011/114641号 特表2010−537389号公報 特開2011−192562号公報
しかしながら、かかるリチウム二次電池では、使用環境および/または保存環境が高温(例えば、50℃〜60℃)となった場合に、電解質の粘性が低下し、芳香族化合物のレドックスシャトル反応が優先的に生じる。このため、過充電防止剤の分解反応が抑制され、ガスの発生量が減少してしまう。とりわけ、車両駆動用電源等に用いられる大型(または大容量)の電池では、電池内の空間体積が比較的大きいことから、電流遮断機構を作動させるのに多量のガス発生が必要となる。しかし、かかる高温環境下においては、ガス発生量が不足することで電池ケース内の圧力が迅速に上昇せず、電流遮断機構の作動が遅れる虞がある。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電池ケース内の圧力上昇により作動する電流遮断機構を備えた密閉型リチウム二次電池であって、高い電池性能を維持しつつ、且つ従来に比べ信頼性(典型的には、広範な温度環境下における安全性)が向上した該電池を提供することである。
上記目的を実現すべく、正極と負極とを備えた電極体と、電解質とが所定の電池ケース内に収容された密閉型リチウム二次電池が提供される。そして、上記負極は負極集電体と該集電体上に形成された負極活物質を含む負極合材層とを備えている。ここで、上記電解質には所定の電池電圧を超えた際に上記正極表面上で酸化されて水素イオンを生じさせる芳香族化合物が含まれており、上記負極合材層の表面には少なくとも上記芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンを還元し、水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物が含まれており、上記電池ケースには該水素ガスの発生に伴って上記電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構を備えられている。
負極合材層表面にリチウムチタン複合酸化物を含む場合、高温環境下(例えば、50℃〜60℃)においても、過充電防止剤たる芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンが好適に還元され、水素ガスを生じる。さらに、上記水素イオンの還元反応が促進されることで、該還元反応と並行して生じる芳香族化合物のシャトル反応を抑制することができる。このため、高温環境下においても、従来に比べ多量の水素ガスを迅速に発生させることができ、かかるガスの発生によって電池ケース内の圧力を好適に上昇させることができる。従って、従来に比べ広範な温度環境下(例えば、0℃〜60℃)において、より安定的に電流遮断機構を作動させることができる。
なお、特許文献3および4には、負極活物質としてチタン酸リチウムを使用したリチウム二次電池が記載されている。また、特許文献5には負極活物質としてチタン酸リチウムを使用し、且つ電解液中にシクロヘキシルベンゼン等の添加剤を添加したリチウム二次電池が記載されている。しかし、かかる従来技術は電池特性(具体的には、低温特性、サイクル特性、貯蔵特性)の向上を目的としており、電流遮断機構や過充電防止に関する記載は一切ない。即ち、本発明の課題および目的(即ち、広範な温度環境下において電流遮断機構をより確実に作動させること)に関しては、何の開示も示唆もされていない。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記負極合材層は厚み方向に少なくとも二層構造を有しており、上記負極集電体に接する層には負極活物質として炭素材料が主として含まれており、表層部には負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物が主として含まれていることが挙げられる。
高い容量を発現し得る炭素材料を集電体近傍に配置し、上記水素イオンを好適に還元し水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物を表面近傍に配置することで、優れた電池性能(例えば、高い出力密度)と、本発明の効果(広範な温度環境下における安全性の向上)とを高いレベルで両立させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記表層部の平均厚みは、上記負極合材層全体の厚みを100%とした時に1%以上20%以下であることが挙げられる。
上記範囲にある場合、優れた電池性能(例えば、高い出力密度)と、本発明の効果とをより一層高いレベルで両立させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記芳香族化合物として、シクロヘキシルベンゼンまたはビフェニルを含んでいることが挙げられる。
シクロヘキシルベンゼンやビフェニルは、酸化電位が凡そ4.5V〜4.6Vであるため、例えば凡そ4.1V〜4.2Vを上限充電電圧とする電池では、過充電時に速やかに酸化され、水素ガスを発生し得る。このため、電流遮断機構をより迅速に作動させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な一態様として、上記芳香族化合物の添加量が、上記電解質100質量%に対し、0.5質量%以上5質量%以下であることが挙げられる。
ここで開示される技術では、過充電防止剤たる芳香族化合物の反応効率が高いため、高温環境下においても、従来に比べ少量の芳香族化合物で電流遮断装置を作動させるために必要なガス量を得ることができる。添加量を削減し得ることは電池抵抗の低減につながるため、優れた電池性能と本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを高いレベルで両立させることができる。
また、ここで開示される密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両が提供される。
上記電池は、信頼性(典型的には、広範な温度環境下における安全性)が向上しているため、高容量、高出力の大型電池であって、且つ使用および/または放置環境が高温になり得る場合に特に有効である。従って、例えば車両(典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)のような電動機)に搭載されるモーター駆動のための動力源(駆動用電源)として好適に用いることができる。
本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池の外形を模式的に示す斜視図である。 図1の密閉型リチウム二次電池のII−II線における断面構造を模式的に示す図である。 本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。 本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池の負極の構成を模式的に示す断面図である。 本発明の一実施形態に係る、密閉型リチウム二次電池を備えた車両(自動車)を示す側面図である。
本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池(もしくはリチウムイオン二次電池)、リチウムポリマー電池等と称される二次電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、本明細書において「活物質」とは、正極側又は負極側において蓄電に関与する物質(化合物)をいう。即ち、電池の充放電時において電子の吸蔵および放出に関与する物質をいう。なお、本明細書において、過充電状態とは充電深度(SOC:State of Charge)が100%を超えた状態を指す。SOCとは、可逆的に充放電可能な作動電圧の範囲において、その上限となる電圧が得られる充電状態(即ち、満充電状態)を100%とし、下限となる電圧が得られる充電状態(即ち、充電されていない状態)を0%としたときの充電状態を示す。
以下、ここで開示される密閉型リチウム二次電池の好適な実施形態について、説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。かかる構造の密閉型リチウム二次電池は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
かかる密閉型リチウム二次電池の正極としては、正極活物質と導電材とバインダ(結着剤)等とを適当な溶媒中で混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「正極合材スラリー」という。)を調製し、該スラリーを正極集電体上に付与して正極合材層(正極活物質層ともいう。)を形成した形態のものを用いる。
正極合材スラリーを調製する方法としては、上記正極活物質と導電材とバインダとを一度に混練してもよく、何回かに分けて段階的に混練してもよい。特に限定されるものではないが、正極合材スラリーの固形分濃度(NV)は凡そ50%〜75%(好ましくは55%〜65%、より好ましくは55%〜60%)とすることができる。
正極合材層を形成する方法としては、上記正極合材スラリーを正極集電体の片面または両面に、従来公知の塗布装置(例えば、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、グラビアコーター等)を用いて適量塗布し、乾燥させる方法を好ましく採用することができる。
正極集電体の素材としては、アルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。集電体の形状は、構築される電池の形状等に応じて異なり得るため特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。なお、後述する捲回電極体を備えた電池では、主に箔状体が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
正極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、リチウムニッケル酸化物(例えばLiNiO)、リチウムコバルト酸化物(例えばLiCoO)、リチウムマンガン酸化物(例えばLiMn)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含む酸化物(リチウム遷移金属酸化物)や、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムと遷移金属元素とを構成金属元素として含むリン酸塩等が挙げられる。中でも、一般式:LiNiCoMnOで表される層状構造のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3)を主成分とする正極活物質(典型的には、実質的にリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質)は、熱安定性に優れ、かつエネルギー密度も高いため好ましく用いることができる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める正極活物質の割合は、50質量%以上(典型的には70質量%以上100質量%以下、例えば80質量%以上99質量%以下)であることが好ましい。
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li、Ni、Co、Mnを構成金属元素とする酸化物のほか、Li、Ni、Co、Mn以外に他の少なくとも一種の金属元素(Li、Ni、Co、Mn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pb)、白金(Pt)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうちの一種または二種以上の元素であり得る。また、リチウムニッケル酸化物、リチウムコバルト酸化物、及びリチウムマンガン酸化物についても同様である。上記置換的な構成元素の量は、特に限定されないが、例えば、当該置換元素とNiとCoとMnとの合計100質量%に対し、0.1質量%以上(典型的には0.2質量%以上、例えば0.3質量%以上)であって、5質量%以下(典型的には3質量%以下、例えば2.5質量%以下)とすることができる。
このようなリチウム遷移金属酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウム遷移金属酸化物粉末をそのまま使用することができる。かかる粉末の累積50%粒径(D50)は、特に限定するものではないが、例えば、凡そ1μm〜25μm(好ましくは2μm〜20μm、より好ましくは6μm〜15μm、例えば6μm〜10μm)とすることができる。なお、本明細書において「粒径」とは一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布おいて、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D50粒径、メジアン径ともいう。)を示す。
導電材としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、黒鉛粉末(天然、人造)、炭素繊維(PAN系、ピッチ系)等から選択される、一種または二種以上であり得る。あるいは金属繊維(例えばAl、SUS等)、導電性金属粉末(例えばAg、Ni、Cu等)、金属酸化物(例えばZnO、SnO等)、金属で表面被覆した合成繊維等を用いてもよい。なかでも好ましいカーボン粉末としては、アセチレンブラックが挙げられる。特に限定するものではないが、正極合材層全体に占める導電材の割合は、例えば、凡そ0.1質量%〜15質量%とすることができ、凡そ1質量%〜10質量%(より好ましくは2質量%〜6質量%)とすることが好ましい。
バインダには、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。典型的には、各種のポリマー材料を好適に用いることができる。例えば、溶剤系の液状組成物(分散媒の主成分が有機溶媒である溶剤系組成物)を用いて正極合材層を形成する場合には、有機溶剤に分散または溶解するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリ塩化ビニリデン(PVdC)、ポリエチレンオキサイド(PEO)等が挙げられる。あるいは、水系の液状組成物を用いて正極合材層を形成する場合には、水に溶解または分散するポリマー材料を好ましく採用し得る。かかるポリマー材料としては、セルロース系ポリマー、フッ素系樹脂、酢酸ビニル共重合体、ゴム類等が例示される。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等が挙げられる。特に限定するものではないが、正極活物質100質量%に対するバインダの使用量は、例えば0.1質量%〜10質量%(好ましくは1質量%〜5質量%)とすることができる。
溶媒としては、従来からリチウム二次電池に用いられる溶媒のうち一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。なお、かかる溶媒は水系と有機溶剤に大別され、有機溶媒としては、例えば、アミド、アルコール、ケトン、エステル、アミン、エーテル、ニトリル、環状エーテル、芳香族炭化水素等が挙げられる。より具体的には、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド、2−プロパノール、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロペン酸メチル、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、アセトニトリル、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレンジメチルスルホキシド(DMSO)、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン等が挙げられ、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を好適に用いることができる。また、水系溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒であることが好ましい。該混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶剤(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、該水系溶媒の凡そ80質量%以上(より好ましくは凡そ90質量%以上、さらに好ましくは凡そ95質量%以上)が水である水系溶媒の使用が好ましい。特に好ましい例として、実質的に水からなる水系溶媒(例えば水)が挙げられる。
また、ここで調製される正極合材スラリーには、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、各種添加剤(例えば、過充電時においてガスを発生させる無機化合物や、分散剤として機能し得る材料)等を添加することもできる。該過充電時にガスを発生させる無機化合物としては、炭酸塩やシュウ酸塩、硝酸塩等が挙げられ、例えば、炭酸リチウムやシュウ酸リチウムが好ましく用いられる。また、該分散剤としては、疎水性鎖と親水性基をもつ高分子化合物(例えばアルカリ塩、典型的にはナトリウム塩)や、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩などを有するアニオン性化合物やアミンなどのカチオン性化合物などが挙げられる。より具体的には、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチラール、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ等が挙げられる。
その後、適当な乾燥手段で正極合材層を乾燥し、正極合材スラリーに含まれていた溶媒を除去する。かかる手法としては、自然乾燥、熱風、低湿風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線等を単独または組み合わせて用いることができる。
正極合材スラリーの乾燥後は、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極合材層の厚みや密度を調整することができる。正極集電体上に形成された正極合材層の密度が極端に低い(即ち、正極合材層内の活物質量が少ない)場合は、単位体積当たりの容量が低下する虞がある。また、該正極合材層の密度が極端に高い場合は、特に大電流充放電時や低温下での充放電時において内部抵抗が上昇する傾向にある。このため、正極合材層の密度は、例えば2.0g/cm以上(典型的には2.5g/cm以上)であって、3.8g/cm以下(典型的には3.4g/cm以下)とすることができる。
かかる密閉型リチウム二次電池の負極を作製する場合は、先ず、少なくともリチウムチタン複合酸化物を含む負極活物質と、バインダ等と、を混合してスラリー状(ペースト状、インク状のものを包含する。)の組成物(以下、「負極合材スラリー」という。)を調製する。そして、上記調製したスラリーを負極集電体上に付与し、負極合材層(負極活物質層ともいう。)を形成する。この際、上記負極合材層の表面には、少なくともリチウムチタン複合酸化物が含まれている。このため、ここで開示される密閉型リチウム二次電池では、高温環境下(例えば、50℃〜60℃)においても、過充電防止剤たる芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンが好適に還元され水素ガスを発生させることができる。さらにかかる水素イオンの還元が促進されることで、該還元反応と並行して生じる芳香族化合物のシャトル反応を抑制することができる。このため、従来に比べ多量の水素ガスを発生させることができ、かかるガスの発生により電池ケース内の圧力を好適に上昇させることができる。従って、従来に比べ広範な温度環境下(例えば、0℃〜60℃)において、より安定的に電流遮断機構を作動させることができる。また、該リチウムチタン複合酸化物は、充放電(即ち電荷担体たるリチウムイオンの挿入および脱離)に伴う膨張収縮が少ないため、好ましくはサイクル特性をも向上し得る。
負極合材層を形成する方法としては、上述した正極の場合と同様、負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し、乾燥させる方法を採用することができる。
負極集電体の素材としては、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等が挙げられる。なお、形態は特に限定されず、棒状体、板状体、箔状体、網状体等を用いることができる。後述する捲回電極体を備えた電池では、箔状が用いられる。箔状集電体の厚みは特に限定されないが、電池の容量密度と集電体の強度との兼ね合いから、5μm〜50μm(より好ましくは8μm〜30μm)程度を好ましく用いることができる。
リチウムチタン複合酸化物(LTOとも言う。)としては、構成元素にリチウム元素(Li)とチタン元素(Ti)と酸素元素(O)を含む化合物であれば特に限定されず、一種または二種以上を適宜用いることができる。かかる例としては、例えば、化学式:LiTi12、LiTi、LiTi等で示される酸化物が挙げられ、なかでもLiTi12で示されるスピネル構造を有するチタン酸リチウムを好ましく用いることができる。
ここで、リチウムチタン複合酸化物とは、Li、Tiを構成金属元素とする酸化物のほか、Li、Ti以外に他の少なくとも一種の金属元素を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素としては、例えば、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pb)、白金(Pt)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうちの一種または二種以上の元素であり得る。上記置換的な構成元素の量は、特に限定されないが、例えば、当該置換元素とNiとTiとの合計100質量%に対し、10質量%以下とすることができる。このようなリチウムチタン複合酸化物(典型的には粒子状)としては、例えば従来公知の方法で調製されるリチウムチタン複合酸化物粉末をそのまま使用することができる。
リチウムチタン複合酸化物の粒径は、一般的な粒度分布測定装置(例えば、株式会社堀場製作所製の型式「LA−920」)を用いて、レーザー回折・光散乱法により測定した粒度分布による累積50%粒径(D50)を、例えば10μm以下(典型的には0.1μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下)とすることができる。上記粒径範囲を満たす負極活物質を備えた負極合材層では、該合材層内に電解液が十分含浸し得るため、本発明の効果をより一層発揮することができる。さらに、負極合材層内に好適な導電経路(導電パス)を形成し得ることから、本発明の効果と優れた電池性能とを高いレベルで両立させることができる。
リチウムチタン複合酸化物の比表面積は、一般的な比表面積測定装置(例えば日本ベル株式会社製の「BELSORP(商標)−18PLUS」)を用いて、窒素ガスによる定容量式吸着法により測定した値(BET比表面積)を、例えば1m/g以上(好ましくは2m/g以上)であって、30m/g以下(典型的には20m/g以下、好ましくは10m/g以下)とすることができる。上記比表面積の範囲を満たす負極活物質を備えた電池では、過充電防止剤たる芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンが還元され、好適に水素ガスを生じ得る。さらに、電解液と馴染み易いため、該活物質を含む合材層内の拡散抵抗を低く抑えることができる。このため、本発明の効果と優れた電池性能とをより一層高いレベルで両立させることができる。
また、負極活物質としては、上記リチウムチタン複合酸化物以外の材料を混合して用いることもできる。かかる負極活物質としては、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。例えば、グラファイト(黒鉛質のもの)、ハードカーボン(難黒鉛化炭素質のもの)、ソフトカーボン(易黒鉛化炭素質のもの)、カーボンナノチューブ等の少なくとも一部に黒鉛構造(層状構造)を含む炭素材料、スズ(Sn)やケイ素(Si)とリチウムの合金、リチウムチタン複合酸化物以外の酸化物等が挙げられる。なかでも、大きな容量が得られる黒鉛質の炭素材料(典型的には、天然鉱物から採られた天然黒鉛(石墨)や、石油または石炭系の材料から製造された人造黒鉛)を好ましく使用することができる。リチウムチタン複合酸化物は負極活物質のなかでは比較的容量が小さいが、大きな容量が得られる黒鉛を混在させることで、本発明の効果(広範な温度環境下における安全性の向上)と優れた電池性能(例えば、高い出力密度)とを高いレベルで両立させることができる。負極活物質全体に占めるリチウムチタン複合酸化物の割合は特に限定されないが、典型的には1質量%以上、例えば5質量%〜20質量%(例えば、5質量%〜10質量%)とすることができる。また電池性能の観点からは、負極活物質中に占める炭素材料の割合が、典型的には50質量%以上、例えば60質量%〜99質量%であることが好ましい。
上記炭素材料の性状は特に限定されないが、例えば累積50%粒径(D50)が30μm以下(典型的には20μm以下、好ましくは5μm以上15μm以下)のものを用いることができる。また比表面積は、例えば1m/g以上(好ましくは2m/g以上)であって、10m/g以下(典型的には5m/g以下、好ましくは4m/g以下)とすることができる。またタップ密度は、一般的なタッピング式の密度測定装置(例えば、筒井理化学器械社製の型式「TPM−3」)を用いて、JIS K1469に規定される方法により測定した値を、例えば、0.1g/cm以上(好ましくは0.5g/cm以上、より好ましくは0.7g/cm以上)であり、1.5g/cm以下(好ましくは1.3g/cm以下、より好ましくは1.2g/cm以下)とすることができる。
負極活物質としての炭素材料が上記範囲を満たす場合、負極合材層内に適度な空隙を保持し得る。このため該負極合材層内に電解液が潤浸し易く、拡散抵抗を低く抑えることができる。また体積が比較的小さく抑えられるため、負極合材層に含まれる負極活物質の割合を相対的に高めることができ、単位体積当たりの電池容量(エネルギー密度)を高める上でも有効である。このため、かかる負極活物質を用いたリチウム二次電池では、電池性能(例えば、定格容量や出力特性)をより一層向上させることができる。
バインダとしては、上記正極合材層用のバインダとして例示したポリマー材料から適当なものを選択することができる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が例示される。
その他に、導電材や、分散剤(例えばカルボキシメチルセルロース(CMC))等も適宜使用することができる。なお、ここで用いられる負極活物質たるリチウムチタン複合酸化物は導電性が比較的低いことから、負極合剤層内の導電性を向上させるために導電材を含むことが好ましい。導電材としては、既に上記正極合材層用として例示したものを適宜使用することができ、典型的には、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック)を用いることができる。
負極合材層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、典型的には50質量%以上とすることができ、例えば90質量%〜99質量%(例えば凡そ95質量%〜99質量%)である。負極活物質100質量%に対するバインダや導電材の使用量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、其々、典型的には0.5質量%〜10質量%(例えば0.5質量%〜3質量%)とすることができる。
また、上記負極の好ましい一態様を、図4を参照しつつ説明する。図4はここで開示される密閉型リチウム二次電池の負極20の構成を示した模式図である。かかる構成において、負極合材層24は厚み方向に少なくとも二層構造を有しており、集電体に接する層242には少なくとも負極活物質としての炭素材料(典型的には、黒鉛)が含まれており、表層部244には少なくとも負極活物質としてのリチウムチタン複合酸化物が含まれている。高い容量を発現し得る炭素材料を集電体近傍に配置し、(過充電防止剤たる芳香族化合物の酸化により生じた)水素イオンを好適に還元し水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物を表面近傍に配置することで、優れた電池性能(例えば、高い出力密度)と、本発明の効果(広範な温度環境下における安全性の向上)とをより一層高いレベルで両立させることができる。なお、本明細書において「層」とは、単に厚み方向の一部を、他の部分と区別するのに用いる用語であって、必ずしも物理的に微視的および/または巨視的に視認される必要はない。
かかる構造の負極合材層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば先ず負極活物質として少なくとも既に上述した炭素材料を用いた負極合材スラリーと、少なくともリチウムチタン複合酸化物を用いた負極合材スラリーとを其々調製する。そして、炭素材料を含む負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し乾燥させることにより、集電体に接する層242を形成する。次に、集電体に接する層242の上に、リチウムチタン複合酸化物を含む負極合材スラリーを負極集電体上の片面または両面に適当量塗布し乾燥させることにより表層部244を形成し、二層構造を有する負極合材層24を得ることができる。ここで、表層部244の平均厚みは、上記負極合材層24全体の厚みを100%とした時に1%以上20%以下(例えば、5%以上10%以下)とすることが好ましい。上記範囲にある場合、優れた電池性能(例えば、高い出力密度)と本発明の効果とを、より一層高いレベルで両立させることができる。なお、負極合材スラリーを形成する方法や、使用する材料(バインダ、導電材等)等については、既に上述したものを適宜用いることができる。
かかる厚み方向に占める表層部242の割合は、例えば、一般的な走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)−エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)によって確認し得る。より具体的には、SEM観察により得られた画像を、EDXを用いて解析(マッピング)することで元素の分布状態を調べ、表層部の厚みを算出する。かかる分析を、任意の数か所(典型的には10〜30箇所)において行い、平均厚みの値を得ることができる。
集電体に接する層242中に含まれる負極活物質全体に占める炭素材料の割合は特に限定されないが、典型的には50質量%以上、例えば60質量%〜100質量%であることが好ましい。また、表層部244中に含まれる負極活物質全体に占めるリチウムチタン複合酸化物の割合は、特に限定されないが、典型的には50質量%以上、例えば60質量%〜100質量%であることが好ましい。芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンの還元は負極合材層の表面で生じるため、電解質(電解質中の芳香族化合物)と近接する表層部244にリチウムチタン複合酸化物を多く含有することが好ましく、表層部244に含まれる負極活物質が実質的にリチウムチタン複合酸化物のみの場合がより好ましい。かかる場合、本発明の効果をより発揮することができる。なお、図4に示す例では二層構造を示しているが、積層する層の数に限定はなく、適宜増やすことができる。かかる場合において、表層部と集電体に接する層との間の層に使用する材料(バインダ、導電材等)および比率、負極合材スラリーを形成する方法等については、本発明の効果を著しく悪化させない限りにおいて、既に上述したものを適宜用いることができる。
負極合材スラリーの乾燥後、正極の場合と同様に、適宜プレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、負極合材層の厚みや密度を調製することができる。負極合材層の密度(負極合材層が多層構造を有する場合には、典型的には厚み方向に占める割合が最も大きい層の密度)は、例えば、1.1g/cm以上(典型的には1.2g/cm以上、例えば1.3g/cm以上)であって、1.5g/cm以下(典型的には1.49g/cm以下)とすることができる。上記電極密度を満たす場合、負極合材層内に適度な電解液を含浸し得るため、本発明の目的をより一層発揮することができる。かかる密度が極端に低い(即ち、負極合材層内の活物質量が極端に少ない)場合は、単位体積当たりの容量が低下する虞がある。一方、該負極合材層の密度が極端に高い場合は、特に大電流充放電時や低温環境下での充放電時において内部抵抗が上昇する傾向にある。
上記正極および負極を積層し、電極体が作製される。かかる電極体の形状は特に限定されないが、例えば、長尺状の正極集電体上に、所定の幅の正極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の正極と、長尺状の負極集電体上に、所定の幅の負極合材層が該集電体の長手方向に沿って形成されている長尺状の負極と、が積層され、長手方向に捲回されてなる捲回電極体を用いることができる。かかる電極体(典型的には、該電極体の中心部分)では放熱性が比較的低いため、過充電時において、電流遮断装置を作動させるため(即ち、電池ケース内の内圧上昇を生じさせるため)に必要なガスの発生が抑制されてしまう虞がある。しかし、ここで開示される電池は、広範な温度環境下において安定的に所望のガス量を発生させることができるため、かかる場合においてもより確実に電流遮断機構を作動させることができる。
そして、上記電極体と、電解質と、芳香族化合物(過充電防止剤)とが適当な電池ケースに収容され、密閉型リチウム二次電池が構築される。なお、該ケースには安全機構として、電流遮断機構(電池の過充電時に、該ガスの発生によって生じたケース内圧の上昇に応じて電流を遮断し得る機構)が備えられている。
また、ここで開示される密閉型リチウム二次電池の代表的な構成では、正極と負極との間にセパレータが介在される。該セパレータとしては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができ、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成るポリオレフィン系樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。なお、かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複数構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータの厚みは、特に限定されないが、例えば、5μm〜50μm(典型的には10μm〜40μm、例えば10μm〜30μm)とすることができる。セパレータ(典型的には多孔質樹脂シート)の性状も、特に限定されるものではないが、例えば、孔径が0.01μm〜20μm(典型的には0.1μm〜1μm)程度であり、気孔率(空隙率)が、例えば凡そ20体積%〜90体積%(典型的には30体積%〜80体積%)程度のものを用いることができる。また、固体状の電解質を用いた密閉型リチウム二次電池(リチウムポリマー電池)では、上記電解質がセパレータを兼ねる構成としてもよい。
電池ケースとしては、従来のリチウム二次電池に用いられる材料や形状を用いることができる。該ケースの材質としては、例えばアルミニウム、スチール等の比較的軽量な金属材や、PPS、ポリイミド樹脂等の樹脂材料が挙げられる。また、形状(容器の外形)も特に限定されず、例えば、円筒型、角型、直方体型、コイン型、袋体型等の形状であり得る。
電解質には、従来のリチウム二次電池に用いられる非水電解質と同様の一種または二種以上のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水電解質は、典型的には、適当な非水溶媒に支持塩(リチウム塩)を含有させた組成を有する。
該非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。なかでもカーボネート類を主体とする非水溶媒が好ましく用いられる。例えば、非水溶媒として一種または二種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水電解液を好ましく用いられる。
該支持塩としては、例えばLiPF、LiBF、LiClO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiCFSO、LiCSO、LiC(SOCF、LiClO等が例示される。なかでもLiPFが好ましく用いられる。電解質の濃度は特に制限されないが、電解質の濃度が低すぎると電解質に含まれるリチウムイオンの量が不足し、イオン伝導性が低下する傾向がある。また支持電解質の濃度が高すぎると非水電解質の粘度が高くなりすぎて、イオン伝導性が低下する傾向がある。このため、電解質を凡そ0.5mol/L〜2mol/L(好ましくは、凡そ0.8mol/L〜1.5mol/L)程度の濃度で含有する非水電解質が好ましく用いられる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池の電解質には、所定の電池電圧を超えた際に、正極表面上で酸化されて水素イオンを生じさせる芳香族化合物が含有されている。かかる芳香族化合物としては、上記電解質中に均一に溶解または分散し得る化合物であって、且つ、酸化電位がリチウム二次電池の作動電圧以上であって、過充電状態において分解されガスを発生させるような物質(過充電防止剤)であれば、従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。上記酸化電位は、該電池の通常使用時における作動上限電圧+0.1V(典型的には+0.2V、例えば+0.3V)程度高いことが好ましい。例えば、4.1Vを作動上限電圧とする密閉型非水電解質二次電池においては、酸化反応電位が4.6V以上4.9V以下の範囲のものが好ましく用いられる。また、酸化電位の異なる2種以上の化合物を混在させることがより好ましい。
具体的な物質としては、例えば、ビフェニル化合物、アルキルビフェニル化合物、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、有機リン化合物、フッ素原子置換芳香族化合物、カーボネート化合物、環状カルバメート化合物、脂環式炭化水素等が挙げられる。より具体的には、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)、trans−ブチルシクロヘキシルベンゼン、シクロペンチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミノベンゼン、ターフェニル、2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、4,4’−ジフルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン、tris−(t−ブチルフェニル)ホスフェート、フェニルフルオライド、4−フルオロフェニルアセテート、ジフェニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、ビスターシャリーブチルフェニルカーボネート、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等が挙げられる。例えば4.1V〜4.2Vを作動上限電圧とする電池では、酸化電位が凡そ4.5〜4.6Vと比較的低い、シクロヘキシルベンゼン(CHB)やビフェニル(BP)等を好ましく用いることができ、両者を混在させることがより好ましい。
電解質中に添加する芳香族化合物の量は特に限定されないが、添加量が極端に少なすぎる場合は、過充電時におけるガス発生量が少なくなり、電流遮断機構が正常に作動しない虞がある。また安全性を重視するあまり過剰量を添加すると、電池性能が低下(例えば、電池抵抗の増加やサイクル特性の悪化)する虞がある。従って、電解質100質量%に対する芳香族化合物の添加量は、例えば凡そ0.1質量%以上(典型的には0.5質量%以上、例えば1質量%以上)であって、6質量%以下(典型的には5質量%以下、例えば4質量%以下、好ましくは3質量%以下)とすることができる。ここで開示される技術では芳香族化合物の反応効率が高いため、従来に比べ少ない添加量で、電流遮断装置を作動させるために必要なガス量を得ることができる。添加量を削減し得ることは電池抵抗の低減につながるため、優れた電池性能と本発明の効果(即ち、広範な温度環境下における安全性の向上)とを高いレベルで両立させることができる。
電流遮断機構としては、電池ケース内の圧力の上昇に応じて(即ち、内圧の上昇を作動のトリガーとして)電流を遮断し得るものであれば特に限定されず、この種の電池に設けられる電流遮断機構として従来知られているいずれかのものと同様の機構を適宜採用することができる。一例として、例えば、後述する図2に示すような構成を好ましく用いることができる。かかる構成では、電池ケースの内圧が上昇した際、電極端子から電極体に至る導電経路を構成する部材が変形し、他方から離隔することにより導電経路を切断するように構成されている。
特に限定することを意図したものではないが、本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と、非水電解質とを扁平な直方体形状(箱型)の容器に収容した形態の密閉型リチウム二次電池(単電池)を例とし、図1〜3にその概略構成を示す。以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。
図1は、本発明の一実施形態に係る密閉型リチウム二次電池100の外形を模式的に示す斜視図である。また図2は、上記図1に示した密閉型リチウム二次電池のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す図である。
図1および図2に示すように、本実施形態に係る密閉型リチウム二次電池100は、捲回電極体80と、ハードケース(外容器)50とを備える。このハードケース50は、上端が開放された扁平な直方体形状(箱型)のハードケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。ハードケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極シートと電気的に接続する正極端子70および該電極体の負極シートと電気的に接続する負極端子72が設けられている。また、蓋体54には、従来の密閉型リチウム二次電池のハードケースと同様に、電池ケース内部で発生したガスをケースの外部に排出するための安全弁55が備えられている。かかる安全弁55は、典型的には電流遮断機構30の作動する圧力以上で開放されるよう設定されている。
電池ケース50の内部には、長尺状の正極シート10と長尺状の負極シート20(例えば図4に示すような積層構造であり得る。)が長尺状のセパレータ40Aと40Bとを介して、扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)80が、図示しない非水電解質とともに収容される。また、正極シート10は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極合材層14が設けられておらず(あるいは除去されて)、正極集電体12が露出するよう形成されている。同様に、捲回される負極シート20は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極合材層24が設けられておらず(あるいは除去されて)、負極集電体22が露出するように形成されている。そして、正極集電体12の該露出端部に正極集電板74が、負極集電体22の該露出端部には負極集電板76が其々付設され、上記正極端子70および上記負極端子72と其々電気的に接続される。
また、電池ケース50の内部には、電池ケースの内圧上昇により作動する電流遮断機構30が設けられている。電流遮断機構30は、電池ケース50の内圧が上昇した場合に少なくとも一方の電極端子から電極体80に至る導電経路(例えば、充電経路)を切断するように構成されていればよく、特定の形状に限定されない。この実施形態では、電流遮断機構30は、蓋体54に固定した正極端子70と電極体80との間に設けられ、電池ケース50の内圧が上昇した場合に正極端子70から電極体80に至る導電経路を切断するように構成されている。
より具体的には、上記電流遮断機構30は、例えば第一部材32と第二部材34とを含み得る。そして、電池ケース50の内圧が上昇した場合に第一部材32および第二部材34の少なくとも一方が変形して他方から離隔することにより上記導電経路を切断するように構成されている。この実施形態では、第一部材32は変形金属板であり、第二部材34は上記変形金属板32に接合された接続金属板である。変形金属板(第一部材)32は、中央部分が下方へ湾曲したアーチ形状を有し、その周縁部分が集電リード端子35を介して正極端子70の下面と接続されている。また、変形金属板32の湾曲部分33の先端が接続金属板34の上面と接合されている。接続金属板34の下面(裏面)には正極集電板74が接合され、かかる正極集電板74が電極体80の正極10に接続されている。このようにして、正極端子70から電極体80に至る導電経路が形成されている。
また、電流遮断機構30は、プラスチック等により形成された絶縁ケース38を備えている。絶縁ケース38は、変形金属板32を囲むように設けられ、変形金属板32の上面を気密に密閉している。この気密に密閉された湾曲部分33の上面には、電池ケース50の内圧が作用しない。また、絶縁ケース38は、変形金属板32の湾曲部分33を嵌入する開口部を有しており、該開口部から湾曲部分33の下面を電池ケース50の内部に露出している。この電池ケース50の内部に露出した湾曲部分33の下面には、電池ケース50の内圧が作用する。かかる構成の電流遮断機構30において、電池ケース50の内圧が高まると、該内圧が変形金属板32の湾曲部分33の下面に作用し、下方へ湾曲した湾曲部分33が上方へ押し上げられる。この湾曲部分33の上方への押し上げは、電池ケース50の内圧が上昇するに従い増大する。そして、電池ケース50の内圧が設定圧力を超えると、湾曲部分33が上下反転し、上方へ湾曲するように変形する。かかる湾曲部分33の変形によって、変形金属板32と接続金属板34との接合点36が切断される。このことにより、正極端子70から電極体80に至る導電経路が切断され、過充電電流が遮断されるようになっている。
なお、電流遮断機構30は正極端子70側に限らず、負極端子72側に設けてもよい。また、電流遮断機構30は、上述した変形金属板32の変形を伴う機械的な切断に限定されず、例えば、電池ケース50の内圧をセンサで検知し、該センサで検知した内圧が設定圧力を超えると充電電流を遮断するような外部回路を電流遮断機構として設けることもできる。
図3は、捲回電極体80を組み立てる前段階における長尺状のシート構造(電極シート)を模式的に示す図である。長尺状の正極集電体12の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って正極合剤層14が形成された正極シート10と、長尺状の負極集電体22の片面または両面(典型的には両面)に長手方向に沿って負極合剤層24が形成された負極シート20とを、長尺状のセパレータ40Aと40Bとともに重ね合わせて長尺方向に捲回し、捲回電極体を作製する。かかる捲回電極体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体80が得られる。捲回電極体を備えた電池は、リチウム二次電池の中でも高容量なため、信頼性の向上(例えば、誤作動等が生じた場合の安全対策)が殊に重要である。ここで開示される技術によれば、かかる電池の安全性(例えば、過充電や内部短絡が発生した際の安全性)を従来に比べ向上させることができる。
ここで開示される密閉型リチウム二次電池は、各種用途に利用可能であるが、広範な温度環境下における安全性が向上していることを特徴とする。高容量、高出力の大型電池であって、且つ使用および/または放置環境が高温になり得る場合に特に有効である。例えば、図5に示すような自動車等の車両1に搭載されるモーター用の動力源(駆動用電源)としてここで開示される密閉型リチウム二次電池100が好適に使用され得る。車両1の種類は特に限定されないが、典型的には、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)が挙げられる。また、かかる密閉型リチウム二次電池100は単独で使用されてもよく、該電池を直列および/または並列に複数接続されてなる組電池の形態で使用されてもよい。
以下、具体的な実施例として、ここで開示される手法によって該電池の安全性に相違があるか否かを評価した。なお、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
[密閉型リチウム二次電池の構築]
<例1>
正極活物質の出発原料として、Ni源である硝酸ニッケルと、Co源である硝酸コバルトと、Mn源である硝酸マンガンとを、Ni:Co:Mn=33:33:33となるよう秤量して溶媒(純水)に溶解させ、アルカリ水溶液を添加することで前駆体水酸化物を調製した。次に、Liと他の全ての構成金属元素(ここではNi,Co,Mn)の合計(Mall)とのモル比(Li/Mall)が1.05となるような分量で、上記調製した前駆体水酸化物と、Li源である炭酸リチウムとを混合した。そして、上記混合物を大気中において900℃で凡そ48時間焼成した。得られた焼成物を冷却した後、粉砕、分級して、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンを構成元素とする層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物(Li1.05Ni1/3Co1/3Mn1/3)からなる粉末状の正極活物質を調製した。
かかるLi1.05Ni1/3Co1/3Mn1/3粉末と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製の「デンカブラック(プレス品):FX35」、一次粒径26nm)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製の「KFポリマー#1300」)とを、これら材料の質量比率が凡そ91:6:3となるよう、混練機(プラネタリーミキサー)に投入し、固形分濃度(NV)が凡そ50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、正極合材層形成用のスラリー状組成物(正極合材スラリー)を調製した。この正極合材スラリーを、厚み凡そ15μmの長尺状アルミニウム箔(正極集電体)の両面に、目付量が30mg/cmとなるよう塗布し、乾燥することで正極合材層を形成した。得られた正極をロールプレスし、正極合材層密度が1.4g/cmのシート状の正極(正極シート)を作製した。そして、上記正極シートを凡そ40(mm)×40(mm)に切り出した。
次に、負極活物質としての天然黒鉛(粉末)とスチレンブタジエンゴム(SBR)と、カルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比率が凡そ98:1:1であり、NVが凡そ45質量%となるようにイオン交換水で粘度を調製しながら混練し、負極合材層形成用のスラリー状組成物(負極合材スラリー)を調製した。この負極合材スラリーを、厚み凡そ20μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に、目付量が17mg/cmとなるよう塗布し、乾燥することで黒鉛を含む層を形成した。
次に、負極活物質としてのチタン酸リチウム(LTO:LiTi12)と、導電材としてのアセチレンブラックと、バインダとしてのポリフッ化ビニリデンとを、これら材料の質量比率が凡そ90:8:2であり、NVが凡そ50質量%となるようにN−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調製しながら混練し、負極合材スラリーを調製した。この負極合材スラリーを、上記形成した黒鉛を含む層の上に塗布して、LTOを含む層を形成し、二層構造の負極合材層とした。得られた負極をロールプレスし、黒鉛を含む層の密度が1.4g/cmのシート状の負極(負極シート(例1))を作製した。この負極シートの断面構造を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、負極合材層の厚み全体に占める、LTOを含む層(表層部)の厚みの割合は10%だった。そして、上記負極シート(例1)を凡そ44(mm)×44(mm)に切り出した。
そして、上記切り出した正極シートと負極シートとを、セパレータ(PE製、47(mm)×47(mm)、厚み20μm)を介して対面に配置し、電極体を作製した。そして、該電極体の正極集電体の端部に正極端子を、負極集電体の端部に負極端子を溶接により其々接合した。かかる電極体をラミネートシートに収容し、非水電解質(ここでは、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に、電解質としてのLiPFを凡そ1.0mol/Lの濃度で溶解し、さらに芳香族化合物(過充電防止剤)としてビフェニル(BP)を3質量%の濃度で含有させた電解質を用いた。)を注液した。そして真空に引きながら、ラミネートシートを熱融着して、ラミネートシート型のリチウム二次電池(例1)を構築した。
<例2>
例2では、芳香族化合物として、シクロヘキシルベンゼン(CHB)とビフェニル(BP)を其々2質量%の濃度で電解質に含有させたこと以外は例1と同様に、ラミネート型の密閉型リチウム二次電池(例2)を構築した。
<例3>
例3では、負極合材層として上記黒鉛を含む層のみを用いた(即ち、黒鉛を含む層の上に、LTOを含む層を形成しなかった)こと以外は、例2と同様に、ラミネート型の密閉型リチウム二次電池(例3)を構築した。
[過充電試験(ガス発生量の測定)]
上記構築後の(即ち、SOCが0%の状態の)ラミネートシート型の密閉型リチウム二次電池(例1〜3)について、アルキメデス法にてセルの体積を測定した。その後、上記電池を25℃の環境下において、過充電状態(本例では、SOCが160%の状態。)まで1Cのレートで定電流充電し、再びアルキメデス法にてセルの体積を測定した。そして、過充電後のセルの体積(A(cm))から、構築後のセルの体積(B(cm))を差し引いて、過充電時おけるガス発生量(A−B(cm))を算出した。得られた値を電池の容量(Ah)で除して、単位容量当たりのガス発生量(cm/Ah)を算出した。結果を、表1に示す。
なお、アルキメデス法とは、測定対象物(本例では、ラミネートシート型の密閉型リチウム二次電池)を、媒液(例えば、蒸留水やアルコール等)に浸漬し、測定対象物が受ける浮力を測定することにより、該測定対象物の体積を求める手法である。
Figure 2013152817
表1に示されるように、室温環境下(25℃)においては、例1〜3で過充電時のガスの発生量に大きな差異は見られなかった。また、高温環境下(60℃)においては、負極合材層表面にリチウムチタン複合酸化物を含む例1および例2では、室温環境下のガス発生量を100%としたときに、60%〜70%のガス発生量が維持されていたのに対し、リチウムチタン複合酸化物を含まない例3では、凡そ35%までガス発生量が低下した。この理由としては、負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物を含む場合、高温環境下においても、(1)過充電防止剤たる芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンが好適に還元されることで、多量の水素ガスを生じさせることができたこと、(2)上記水素イオンの還元反応が促進されたことで、該還元反応と並行して生じる芳香族化合物のシャトル反応が抑制されたこと、により従来に比べ多量の水素ガスを発生させることができたためと考えられる。
かかる結果は、本発明の適用効果(即ち、あらゆる環境下(典型的には0℃〜60℃)における安定的なガス発生量の確保)を示すものである。従って、ここで開示される密閉型リチウム二次電池では、従来に比べより確実に電流遮断機構を作動させることができ、該電池の信頼性(過充電や内部短絡に対する安全性)を向上させ得ることが示された。さらに、該密閉型リチウム二次電池においては、過充電防止剤たる芳香族化合物の反応効率が高いため、従来に比べ少量で、広範な温度域において、電流遮断装置を作動させるために必要なガス量を得られるものと考えられる。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
1 自動車(車両)
10 正極シート(正極)
12 正極集電体
14 正極合材層
20 負極シート(負極)
22 負極集電体
24 負極合材層
242 集電体に接する層
244 表層部
30 電流遮断機構
32 変形金属板(第一部材)
34 接続金属板(第二部材)
38 絶縁ケース
40A、40B セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極集電板
76 負極集電板
80 捲回電極体
100 密閉型リチウム二次電池

Claims (6)

  1. 正極と負極とを備えた電極体と、電解質と、が所定の電池ケース内に収容された密閉型リチウム二次電池であって、
    前記負極は、負極集電体と、該集電体上に形成された負極活物質を含む負極合材層と、を備えており、
    ここで、前記電解質には、所定の電池電圧を超えた際に前記正極表面上で酸化されて水素イオンを生じさせる芳香族化合物が含まれており、
    前記負極合材層の表面には、少なくとも、前記芳香族化合物の酸化によって生じた水素イオンを還元し、水素ガスを発生させ得るリチウムチタン複合酸化物が含まれており、
    前記電池ケースには、該水素ガスの発生に伴って前記電池ケース内の圧力が上昇した際に作動する電流遮断機構を備えられている、密閉型リチウム二次電池。
  2. 前記負極合材層は厚み方向に少なくとも二層構造を有しており、
    前記負極集電体に接する層には負極活物質として炭素材料が主として含まれており、表層部には負極活物質としてリチウムチタン複合酸化物が主として含まれていることを特徴とする、請求項1に記載の密閉型リチウム二次電池。
  3. 前記表層部の平均厚みは、前記負極合材層全体の厚みを100%とした時に1%以上20%以下である、請求項2に記載の密閉型リチウム二次電池。
  4. 前記芳香族化合物として、シクロヘキシルベンゼンまたはビフェニルを含んでいる、請求項1から3のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  5. 前記芳香族化合物の添加量が、前記電解質100質量%に対し、0.5質量%以上5質量%以下である、請求項1から4のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池。
  6. 請求項1から5のいずれか一項に記載の密閉型リチウム二次電池を駆動用電源として備える車両。
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