低音域再生用のウーファー及び高音域再生用のツィーターを含むマルチウェイスピーカーシステムでは、各スピーカーユニットの再生周波数帯域に合わせてアンプで増幅された音声信号を帯域分割するネットワーク回路を含む場合が一般的である。近年では、ウーファーに対応するネットワーク回路とツィーターに対応するネットワーク回路をそれぞれに独立することができ、それぞれに接続する入力端子を備えるバイワイヤリング接続に対応するスピーカーシステムが普及している(以下、バイワイヤリングSSと省略する。)。バイワイヤリング接続では、ウーファーのネットワーク回路に接続するパワーアンプと、ツィーターのネットワーク回路に接続する他のパワーアンプと、を用いるバイアンプ駆動を採用することになる。
一方で、スピーカーシステムのネットワーク回路を使用せずにマルチアンプ(バイアンプ)駆動を実現する方法として、パワーアンプの前段にチャンネルデバイダを設けて、このチャンネルデバイダによって音声信号を帯域分割する場合がある。チャンネルデバイダは、上記のようなマルチアンプ−マルチウェイスピーカーシステムの音声再生システムにおいて、入力される音声信号を少なくとも低音域側出力信号と高音域側出力信号とに帯域分割して、マルチアンプに出力する。チャンネルデバイダを用いることで、スピーカーシステムのネットワークよりも急峻な過渡帯域を持つLPF(低域通過フィルタ)あるいはHPF(高域通過フィルタ)を設定できる、クロスオーバー周波数を比較的自由に設定できる、等の利点がある(例えば、特許文献1)。また、チャンネルデバイダを採用する場合には、低音域用のアンプ回路と高音域用のアンプ回路が独立するので、低音成分と高音成分とが重畳して発生する混変調歪が低減し、再生音質に優れるという利点があると言われている。
近年、DSPおよびマルチアンプを含むAVレシーバー等を利用してネットワーク回路を備えないスピーカーシステムを接続できるように、DSPにチャンネルデバイダの機能を持たせようとするものがある(特許文献2、特許文献3)。チャンネルデバイダをデジタルフィルタで実現する場合にはFIRフィルタまたはIIRフィルタによる場合がある。チャンネルデバイダを使用するには、マイクロホン等を用いてスピーカーシステムの各スピーカーユニットの再生帯域を測定して、クロスオーバー周波数を適切に設定する必要がある(特許文献4、特許文献5)。
従来のチャンネルデバイダでは、ウーファーおよびツィーター間にクロスオーバー周波数を設定すると、これが低音域側のLPFと高音域側のHPFとのカットオフ周波数に自動的に適用されるものがある。もちろん、低音域側のLPFのカットオフ周波数と高音域側のHPFのカットオフ周波数とを独立して設定できるチャンネルデバイダも存在する。ただし、ネットワーク回路を用いない使用条件では、ウーファーおよびツィーターが再生可能な帯域が重複していることが多いので、これらの隣接する周波数帯域を担当するフィルタのカットオフ周波数は、上記重複する帯域において同一の周波数の設定値に設定することが多い。
しかしながら、音声再生システムにチャンネルデバイダを採用しようとしても、一部を除く一般ユーザーにとっては、ネットワーク回路を省略したスピーカーシステムを構成する(市販品を改造する、ユニットのみで自作する、など。)こと、および、マイクロホンを利用して適切なクロスオーバー周波数を設定すること、はハードルが高いという問題があり、AVレシーバー等の家庭用のオーディオ装置では、マルチチャンネルアンプ回路を利用したバイアンプ駆動が可能であっても、チャンネルデバイダの機能はほとんど採用されていない。
その一方で、普及しているネットワーク回路を含むバイワイヤリングSSとチャンネルデバイダとを用いてバイアンプ駆動を実現しようとすると、実際にはクロスオーバー周波数の設定が困難であると言う問題がある。バイワイヤリングSSは、ネットワーク回路を含んだ上で所定の平坦な合成特性が得られるように設計されているので、チャンネルデバイダによりマルチチャンネルアンプ回路の前段でクロスオーバー周波数を設定して帯域分割すると、結果的に音圧周波数特性上にディップが生じてしまう場合がある。バイワイヤリングSSのクロスオーバー周波数に対してチャンネルデバイダで設定するクロスオーバー周波数がずれると、音圧周波数特性上のディップはかなり大きくなり、適切に再生されない帯域が広くなるという問題がある。また、マイクロホンおよびレベルメータ、FFTアナライザ等の測定器が無ければ、バイワイヤリングSSの未知のクロスオーバー周波数を一般ユーザーが知るのは困難であり、一般的なユーザーにとっては、チャンネルデバイダでクロスオーバー周波数を設定するのが困難な場合がある。
特開2005−109969号公報
特開2002−111399号公報
特開2005−184149号公報
特許第4321315号公報
実開平5−39097号公報
本発明は、上記の従来技術が有する問題を解決するためになされたものであり、その目的は、マルチウェイスピーカーシステムによる音声信号再生で使用するチャンネルデバイダおよびチャンネルデバイダのクロスオーバー周波数を設定する方法であって、特に、ネットワーク回路を含んでバイワイヤリング接続可能なスピーカーシステムを用いる場合に、適切にチャンネルデバイダのクロスオーバー周波数を設定することができるチャンネルデバイダを提供することにある。
本発明のチャンネルデバイダは、入力される音声信号を、少なくとも低音域側の第1出力信号と第1出力信号よりも高音域側の第2出力信号とに帯域分割して、それぞれ第1出力端子および第2出力端子に出力する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFと、これらを制御する制御回路と、を含むチャンネルデバイダであって、帯域分割を規定する任意のクロスオーバー周波数fc0を指定する場合に、制御回路が、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高く設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低く設定し、周波数帯域fcL−fcHをともに含む第1出力信号および第2出力信号をそれぞれ第1出力端子および第2出力端子に出力する音声出力モードを有する。
好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、所定の帯域を含むテスト信号を発生させるテスト信号発生回路をさらに備え、テスト信号を低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFを直列接続して構成する狭帯域通過フィルタBPFに通過させ、狭帯域通過フィルタBPFの出力信号を、第1出力端子のみから出力し、又は、第2出力端子のみから出力し、又は、第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する、ように制御回路が切り換えるテスト信号出力モードを有する。
また、好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFが、第1出力信号または第2出力信号のレベル調整を行なうレベル調整回路と、第1出力信号または第2出力信号の位相反転を行なう位相反転回路と、第1出力信号または第2出力信号の遅延時間を調整する遅延回路と、をそれぞれ含む。
また、好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、音声を音声信号に変換して制御回路へ測定信号として入力するマイクロホンと、マイクロホンからの測定信号のレベルを表示する表示回路と、をさらに備え、テスト信号出力モードにおいて、狭帯域通過フィルタBPFの出力であるテスト信号を、第1出力端子のみから出力する場合に測定する第1測定レベルと、第2出力端子のみから出力する場合に測定する第2測定レベルと、を制御回路が比較して、表示回路が前記クロスオーバー周波数fc0を変更することあるいは保つことを示唆する表示を行なう、又は、制御回路が該クロスオーバー周波数fc0を変更してあるいは保って設定する。
また、好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、テスト信号出力モードにおいて、狭帯域通過フィルタBPFの出力であるテスト信号を第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する場合に測定する第3測定レベルと、第1測定レベルと、第2測定レベルと、を制御回路が比較して、第3測定レベルが第1測定レベルまたは第2測定レベルよりも所定値以上低い場合には、表示回路が逆相接続に変更することを示唆する表示を行なう、又は、制御回路が第1出力信号または第2出力信号の位相反転を行なう。
また、好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、音声出力モードにおいて、第1出力端子から第1出力信号のみ出力し、又は、第2出力端子から第2出力信号のみ出力する、帯域別音声出力モードをさらに有する。
また、好ましくは、本発明のチャンネルデバイダは、入力される音声信号を、第1出力信号よりも低音域側の第3出力信号、および/または、第2出力信号よりも高音域側の第4出力信号に帯域分割して、それぞれ第3出力端子、および/または、第4出力端子にさらに出力する上記のチャンネルデバイダであって、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFが、それぞれ直列接続する他の高域通過フィルタHPFまたは他の低域通過フィルタLPFと組み合わせて帯域通過フィルタBPFを構成し、それぞれ第1出力端子または第2出力端子に出力する。
また、本発明の音響再生システムは、上記のチャンネルデバイダと、チャンネルデバイダのそれぞれの出力端子に対応する増幅回路を含む増幅器と、少なくともウーファー及びツィーターとそれぞれに対応するネットワーク回路とを少なくとも含み、増幅器とバイワイヤリング接続が可能なスピーカーシステムと、を含む。
また、本発明のチャンネルデバイダのクロスオーバー周波数を設定する方法は、入力される音声信号を、少なくとも低音域側の第1出力信号と第1出力信号よりも高音域側の第2出力信号とに帯域分割して、それぞれ第1出力端子および第2出力端子に出力する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFを含むチャンネルデバイダと、チャンネルデバイダのそれぞれの出力端子に対応する増幅回路を含む増幅器と、少なくともウーファー及びツィーターとそれぞれに対応するネットワーク回路とを少なくとも含み、増幅器とバイワイヤリング接続が可能なスピーカーシステムと、を含むオーディオ再生システムにおいて、スピーカーシステムのネットワーク回路で設定されているウーファー及びツィーター間でのクロスオーバー周波数fcを探知してチャンネルデバイダのクロスオーバー周波数fc0を設定する方法であって、チャンネルデバイダの帯域分割を規定する任意のクロスオーバー周波数fc0を指定するステップと、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高く設定するステップと、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低く設定するステップと、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFを直列接続して狭帯域通過フィルタBPFを構成するステップと、所定の帯域を含むテスト信号を発生させて狭帯域通過フィルタBPFに通過させるステップと、狭帯域通過フィルタBPFのテスト信号出力を、第1出力端子のみから出力する、又は、第2出力端子のみから出力し、又は、第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する、ように切り換えるステップと、を含む。
以下、本発明の作用について説明する。
本発明のチャンネルデバイダは、入力される音声信号を、少なくとも低音域側の第1出力信号と第1出力信号よりも高音域側の第2出力信号とに帯域分割して、それぞれ第1出力端子および第2出力端子に出力する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFと、これらのフィルタおよび全体の動作を制御する制御回路と、を含む。チャンネルデバイダは、チャンネルデバイダのそれぞれの出力端子に対応する増幅回路を含む増幅器と、少なくともウーファー及びツィーターとそれぞれに対応するネットワーク回路とを少なくとも含み、増幅器とバイワイヤリング接続が可能なスピーカーシステムと、を含む音響再生システムを構成する。したがって、ユーザーは、チャンネルデバイダを調整して、ウーファーとツィーターとが重複して再生する周波数帯域とその再生レベルを変更できるので、再生音質の調整が容易になるという利点がある。バイワイヤリングSSのネットワーク回路は、±6〜18dB/Oct.の遷移域特性が一般的であるのに対して、チャンネルデバイダのLPFおよびHPFは±24〜96dB/Oct.以上も可能であり、チャンネルデバイダを導入することで遷移域および阻止域の減衰率を大きくすることができる。
本発明のチャンネルデバイダは、帯域分割を規定する任意のクロスオーバー周波数fc0を指定する場合に、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高く設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低く設定し、周波数帯域fcL−fcHをともに含む第1出力信号および第2出力信号をそれぞれ第1出力端子および第2出力端子に出力する音声出力モードを有する。つまり、このチャンネルデバイダの音声出力モードでは、ネットワーク回路を含むバイワイヤリングSSを用いる場合に、ネットワーク回路で設定されているウーファー及びツィーター間でのクロスオーバー周波数fcに近いクロスオーバー周波数fc0をユーザーが指定すると、低域通過フィルタLPFからはクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高いカットオフ周波数fcL以下の周波数帯域の信号が出力され、高域通過フィルタHPFからはクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低いカットオフ周波数fcH以上の周波数帯域の信号が出力される。したがって、クロスオーバー周波数fc0を中心周波数として含む2/6〜2オクターブ範囲の音声信号が重複する(オーバーラップする)ようになり、それぞれ低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFから、第1出力信号および第2出力信号として出力される。
その結果、ネットワーク回路を含むバイワイヤリングSSを用いて本発明のチャンネルデバイダを動作させても、音圧周波数特性上にディップが生じないようにできる。つまり、バイワイヤリングSSのクロスオーバー周波数に対してチャンネルデバイダで設定するクロスオーバー周波数が多少ずれたとしても、低域通過フィルタLPFの出力である第1出力信号と、高域通過フィルタHPFの出力である第2出力信号と、のそれぞれにクロスオーバー周波数を中心周波数として含む2/6〜2オクターブ範囲の音声信号が含まれるからである。バイワイヤリングSSは、ネットワーク回路を含んだ上で所定の平坦な合成特性が得られるように調整されているので、本発明のチャンネルデバイダを動作させても、音圧周波数特性上にディップが生じるおそれがなくなる利点がある。一方で、チャンネルデバイダによって、バイワイヤリングSSのネットワーク回路よりも急峻な遷移域特性を設定することにより、遷移域および阻止域の減衰率が大きくなるので、ユーザーは、ネットワーク回路を含むバイワイヤリングSSを用いる場合にもチャンネルデバイダを導入して再生音質を調整することができる。
なお、チャンネルデバイダは、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFが、第1出力信号または第2出力信号のレベル調整を行なうレベル調整回路と、第1出力信号または第2出力信号の位相反転を行なう位相反転回路と、第1出力信号または第2出力信号の遅延時間を調整する遅延回路と、をそれぞれ含むようにしてもよく、再生音質を調整する範囲が広がり、幅広く普及しているバイワイヤリングSSにも対応できるようになる。また、このチャンネルデバイダは、音声出力モードにおいて、第1出力端子から第1出力信号のみ出力し、又は、第2出力端子から第2出力信号のみ出力する、帯域別音声出力モードをさらに有していてもよい。ユーザーは、帯域別音声出力モードでは、ウーファーから再生する音声とツィーターから再生する音声との相違を確認しながら、再生音質を調整することができる。
また、本発明のチャンネルデバイダは、好ましくは所定の帯域を含むテスト信号を発生させるテスト信号発生回路をさらに備え、テスト信号を上記のように設定する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFを直列接続して構成する狭帯域通過フィルタBPFに通過させ、狭帯域通過フィルタBPFの出力信号を、第1出力端子のみから出力し、又は、第2出力端子のみから出力し、又は、第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する、ように切り換えるテスト信号出力モードを有する。つまり、ユーザーは、バイワイヤリングSSのネットワーク回路で設定されているクロスオーバー周波数が未知の場合でも、所定の帯域を含むテスト信号を発生させて狭帯域通過フィルタBPFに通過させ、狭帯域通過フィルタBPFのテスト信号出力を、第1出力端子のみから出力する、又は、第2出力端子のみから出力する、又は、第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する、ように切り換えると、ウーファーから再生する音圧レベルと、ツィーターから再生する音圧レベルと、を比較することによって未知のクロスオーバー周波数を知ることができる。
なぜなら、上記のチャンネルデバイダが設定するクロスオーバー周波数は、上記の狭帯域通過フィルタBPFの中心周波数を意味し、狭帯域通過フィルタBPFの中心周波数とネットワーク回路のクロスオーバー周波数とが略一致する場合に限って、ウーファーから再生する音圧レベルと、ツィーターから再生する音圧レベルと、がほぼ一致するようになるからである。したがって、チャンネルデバイダが設定するクロスオーバー周波数を変更するステップを繰り返すことで、バイワイヤリングSSの未知のクロスオーバー周波数を知ることができる。
チャンネルデバイダが、狭帯域通過フィルタBPFの出力であるテスト信号の再生音を測定するマイクロホンを備える場合には、マイクロホンからの測定信号のレベルを表示回路で表示してもよい。第1出力端子のみから出力する場合に測定する第1測定レベルと、第2出力端子のみから出力する場合に測定する第2測定レベルと、を制御回路が比較して、表示回路にクロスオーバー周波数fc0を変更することを示唆する表示を行なう、あるいは保つことを示唆する表示を行なうようにしてもよい。又は、チャンネルデバイダの御回路が、クロスオーバー周波数fc0を変更して、あるいは保って設定してもよい。
なお、ウーファーとツィーターとから同時に再生する場合に合成された音圧レベルが、それぞれの場合の音圧レベルよりも低下する場合には、それぞれの再生音波が打ち消し合う逆位相の関係にあることも判別できる。つまり、テスト信号出力モードにおいて、テスト信号を第1出力端子および第2出力端子の両方から出力する場合に測定する第3測定レベルと、第1測定レベルと、第2測定レベルと、を制御回路が比較して、第3測定レベルが第1測定レベルまたは第2測定レベルよりも所定値以上低い場合には、表示回路が逆相接続に変更することを示唆する表示を行なうようにしてもよい。又は、制御回路が第1出力信号または第2出力信号の位相反転を行なうようにしてもよい。
また、本発明のチャンネルデバイダは、ウーファーおよびツィーターを含む2wayのバイワイヤリングSSに適用するものに限られない。チャンネルデバイダは、サブウーファーおよび/またはミッドレンジおよび/またはスーパーツィーターを含む3〜5wayのマルチウェイスピーカーに対応するように、入力される音声信号を、第1出力信号よりも低音域側の第3出力信号、および/または、第2出力信号よりも高音域側の第4出力信号に帯域分割して、それぞれ第3出力端子、および/または、第4出力端子にさらに出力するものであってもよい。2wayのバイワイヤリングSSでのウーファーおよびツィーターに対応する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFが、それぞれ直列接続する他の高域通過フィルタHPFまたは他の低域通過フィルタLPFと組み合わせて帯域通過フィルタBPFを構成すれば、ネットワーク回路を含むバイワイヤリングSSが3〜5wayのマルチウェイスピーカーであっても同様に、チャンネルデバイダを動作させても、音圧周波数特性上にディップが生じないようにできる。
本発明のチャンネルデバイダは、特に、ネットワーク回路を含んでバイワイヤリング接続可能なスピーカーシステムを用いる場合に、適切にチャンネルデバイダのクロスオーバー周波数を設定することができ、音圧周波数特性上にディップが生じるおそれが無く、良好な音声再生を可能にすることができる。
以下、本発明の好ましい実施形態によるチャンネルデバイダおよびこれを含む音声再生システム、並びに、チャンネルデバイダのクロスオーバー周波数を設定する方法について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
図1は、本発明の好ましい実施形態による音響再生システムについて説明する図である。具体的には、音響再生システムは、チャンネルデバイダを含むアンプ装置1と、アンプ装置1に接続するスピーカーシステム8およびマイクロホン9と、を含み、図1は、それぞれの内部構成を示すブロック図である。また、図2、図4および図6は、スピーカーシステム8の音圧周波数特性を説明するグラフであり、図3および図5は、アンプ装置1のチャンネルデバイダのクロスオーバー特性について説明するグラフである。なお、説明に不要な一部の構成や、内部構造等は、図示ならびに説明を省略する。
音響再生システムは、アンプ装置1と、アンプ装置1に接続するスピーカーシステム8と、を含み、アンプ装置1に入力されるデジタル信号データadataをステレオ音声信号LおよびRに変換し、アンプ装置1で増幅した後に2本のスピーカー8Lおよび8Rからなるスピーカーシステム8によってステレオ音声を再生する音声再生システムである。アンプ装置1は、DSPおよびマルチアンプを含み、チャンネルデバイダを動作させたマルチアンプ接続が可能である。また、スピーカーシステム8は、それぞれウーファーWOおよびツィーターTWを含む2wayのバイワイヤリングSSであり、アンプ装置1とは、スピーカーコードによってバイワイヤリング接続される。したがって、アンプ装置1を使用するユーザーは、チャンネルデバイダを調整して、ウーファーとツィーターとが重複して再生する周波数帯域とその再生レベルを変更して、スピーカーシステム8の再生音質の調整が可能になる。
アンプ装置1は、デジタル信号データadataを信号処理するDSP(デジタルシグナルプロセッサ)10と、DSP10の4チャンネル分の出力を受けてアナログ信号に変換するD/A変換器2、および、これらのアナログ信号をそれぞれ増幅してスピーカーシステム8へ出力するアンプ回路3と、を少なくとも含む。ステレオ音声信号LおよびRは、アナログで供給されるステレオ信号(左信号Lおよび右信号R)として(図示しない)A/D変換器を介してDSP10に供給されてもよい。アンプ装置1は、全体を制御する制御回路であるCPU4と、CPU4に接続してユーザーからの指示入力を受ける操作部5と、ディスプレイを含む表示回路6と、マイクロホン9が接続するマイクアンプ回路7と、を含む。具体的には、アンプ装置1は、マルチチャンネル音声に対応したDSPおよびマルチチャンネルアンプ回路を内蔵するAVレシーバー等により構成し得る。操作部5は、スイッチ、ジョグダイヤル、あるいは、リモコン装置、等の入力デバイスを含む。表示回路6は、内蔵するFLディスプレイ、液晶ディスプレイ等でもよく、又は他に接続するディスプレイ装置であってもよい。もちろん、アンプ装置1は、DSP10と、D/A変換器2と、マルチチャンネルアンプ回路3と、マイコン等のCPU4と、を含む他の音響再生装置により構成してもよい。また、後述するように、アンプ装置1のマイクロホン端子Mに接続するマイクロホン9は、必ずしも備えなくてもよい。
スピーカーシステム8は、ウーファーWOおよびツィーターTWを含む2wayのバイワイヤリングSSであり、それぞれのスピーカーユニットに対応するネットワーク回路と入力端子を含む。左スピーカー8Lおよび右スピーカー8Rの低音域再生用のウーファーWOは、入力端子tLおよびネットワーク回路nLに接続する。また、高音域再生用のツィーターTWは、入力端子tHおよびネットワーク回路nHに接続する。ネットワーク回路nLは、ウーファーWOとともに低音域を通過させる低域通過フィルタLPFを構成する。また、ネットワーク回路nHは、ツィーターTWとともに高音域を通過させる高域通過フィルタHPFを構成する。ネットワーク回路nLおよびnHは、コイル、抵抗、コンデンサを含んで構成されるアナログフィルタである。
図2は、スピーカーシステム8の音圧周波数特性について説明するグラフである。本実施例のスピーカーシステム8のウーファーWOおよびツィーターTWは、主に音声再生する周波数帯域を、ネットワーク回路nLおよびnHにより、クロスオーバー周波数fcを境にして分割されている。ネットワーク回路nLは、クロスオーバー周波数fcよりも高い周波数で−12dB/Oct.の遷移域特性を示す2次のLPFフィルタである。また、ネットワーク回路nHは、クロスオーバー周波数fcよりも低い周波数で12dB/Oct.の遷移域特性を示す2次のHPFフィルタである。したがって、低音域再生用のウーファーWOは、クロスオーバー周波数fc以下の周波数帯域を主に再生し、ツィーターTWは、クロスオーバー周波数fc以上の周波数帯域を主に再生する。スピーカーシステム8は、ネットワーク回路nLおよびnHを用いて同一の信号を入力する場合(つまり、入力端子tLおよびtHを接続して入力する場合)に、比較的にフラットな合成音圧周波数特性(図示するWO+TW)を実現するように調整されている。なお、本実施例の場合には、クロスオーバー周波数fcは約1.8kHzである。スピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHは、緩やかな遷移域特性を示す2次のフィルタであるので、図2に図示するように、クロスオーバー周波数fcの付近でのスピーカーシステム8の再生音は、ウーファーWOからの再生音とツィーターTWからの再生音とが、幅広く重複することになる。
DSP10は、入力データadataをステレオ信号LおよびRに変換するデコーダ11と、デジタルフィルタを含むチャンネルデバイダ12と、デコーダ11に接続してステレオ信号(左信号Lおよび右信号R)に代えてテスト信号をチャンネルデバイダ12に入力するテスト信号源13と、を内部に含む。DSP10は、チャンネルデバイダ12の4チャンネル分の出力端子(DL1、DL2、DR1、DR2)をD/A変換器2へ出力する。チャンネルデバイダ12は、左信号Lおよび右信号Rにそれぞれ対応する低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFと、スイッチSW1〜4と、を含む。DSP10のチャンネルデバイダ12の低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFのフィルタ設定と、スイッチSW1〜4の切換えは、CPU4により制御される。
チャンネルデバイダ12の低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFは、FIRフィルタまたはIIRフィルタにより構成されるデジタルフィルタである。低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFは、バターワースフィルタ、Linkwitz−Rileyフィルタ、等が好ましく、FIRフィルタによる直線位相特性を含むものであってもよい。再生音質を調整する範囲が広がり、幅広いバイワイヤリングSSにも対応できるように、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFはそれぞれ、レベル調整を行なう(図示しない)レベル調整回路と、位相反転を行なう(図示しない)位相反転回路と、遅延時間を調整する(図示しない)遅延回路と、をそれぞれ含ようにしてもよい。
スイッチSW1は、高域通過フィルタHPFへ入力する信号を、低域通過フィルタLPFへの入力信号の分岐と、低域通過フィルタLPFの出力と、のいずれかに切り換える。スイッチSW2は、低域通過フィルタLPFの出力を第1の出力端子(DL1、DR1)へ出力するか否かを切り換える。スイッチSW3は、高域通過フィルタHPFの出力を高音域側のD/A変換器2に接続する第2の出力端子(DL2、DR2)へ出力するか、低音域側のD/A変換器2に接続する出力端子(DL1、DR1)へ出力するか、を切り換える。スイッチSW4は、出力端子(DL1、DL2)の間、および(DR1、DR2)の間を短絡するか、開放するかを切り換える。
チャンネルデバイダ12のスイッチSW1〜4は、通常の音声再生時には、図1のように、低域通過フィルタLPFと高域通過フィルタHPFとを並列接続して、入力信号がそれぞれに供給されて、低域通過フィルタLPFと高域通過フィルタHPFのそれぞれの出力がD/A変換器2へ出力するように切り替えられる。つまり、スイッチSW1は閉じられて、低域通過フィルタLPFへの入力信号の分岐されるのと同じ入力信号を高域通過フィルタHPFに入力し、スイッチSW2およびSW3はそれぞれ閉じられて、低域通過フィルタLPFの出力を第1の出力端子(DL1、DR1)へ出力し、高域通過フィルタHPFの出力を第2の出力端子(DL2、DR2)へ出力し、スイッチSW4は、開放される。なお、本実施例では、チャンネルデバイダ12を動作させて音声再生する上記のスイッチ接続状態を「通常音声再生モード」という。ユーザーは、「通常音声再生モード」では、チャンネルデバイダ12を動作させて、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生する音声とツィーターTWから再生する音声との合成音を確認しながら、再生音質を調整することができる。
スイッチSW2およびSW3は、それぞれOn/Offを切り換えることで、低域通過フィルタLPFの出力を出力端子(DL1、DR1)のみへ出力し、又は、高域通過フィルタHPFの出力を出力端子(DL2、DR2)へのみへ出力することができる「帯域別音声出力モード」でチャンネルデバイダ12を動作させることもできる。スイッチSW2を閉じて低域通過フィルタLPFの出力を出力端子(DL1、DR1)へ出力し、スイッチSW3をオープンにすると、スピーカーシステム8のウーファーWOのみから音声が再生される。一方、スイッチSW2をオープンにして、スイッチSW3を閉じて高域通過フィルタHPFの出力を出力端子(DL2、DR2)へ出力すると、スピーカーシステム8のツィーターTWのみから音声が再生される。ユーザーは、「帯域別音声出力モード」では、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生する音声とツィーターTWから再生する音声との相違を確認しながら、再生音質を調整することができる。
図3は、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12のクロスオーバー特性について説明するグラフである。図3には、上記の通常音声再生モードにおいて、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを等しく設定し、設定クロスオーバー周波数fc0とする場合を説明するグラフである。低域通過フィルタLPFは、クロスオーバー周波数fc0よりも高い周波数で−96dB/Oct.の遷移域特性を示すLPFフィルタである。また、高域通過フィルタHPFは、クロスオーバー周波数fcよりも低い周波数で96dB/Oct.の遷移域特性を示すHPFフィルタである。図3のグラフでは、設定するクロスオーバー周波数fc0において、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの通過域よりも−6dBのレベルで、それぞれの出力特性が交叉している。後述するように、上記のように低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを等しく設定する場合を、「オーバーラップ無し」とする。
図4は、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12を使用する場合のスピーカーシステム8の音圧周波数特性について説明するグラフである。図3および図4に図示する場合には、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0は、スピーカーシステム8のネットワーク回路のクロスオーバー周波数fc(=1.8kHz)よりも高く、約2.0kHzであるとする。つまり、上記の通常音声再生モードにおいて、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを等しく(=fc0)設定する「オーバーラップ無し」の場合に、図4のように、スピーカーシステム8の合成音圧周波数特性(図示するWO+TW)にディップが生じることがある。これは、バイワイヤリングSSであるスピーカーシステム8のネットワーク回路のクロスオーバー周波数fcに対して、チャンネルデバイダ12において設定するクロスオーバー周波数fc0が一致せずにずれている場合に発生する問題である。なぜなら、この音響再生システムでは、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12の帯域分割フィルタと、スピーカーシステム8のネットワーク回路の帯域分割フィルタが直列接続される関係になるからである。バイワイヤリングSSのクロスオーバー周波数fcに対して、チャンネルデバイダ12で設定するクロスオーバー周波数fc0が「オーバーラップ無し」でずれる場合に、音圧周波数特性上のディップはかなり大きくなり、適切に再生されない帯域が広くなる場合がある。チャンネルデバイダ12で設定するフィルタが急峻になると、ディップが深くなる場合がある。
図5は、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12のクロスオーバー特性について説明するグラフであり、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを異なるように設定する「オーバーラップ有り」の場合を説明する図である。図5には、上記の通常音声再生モードにおいて、帯域分割を規定するクロスオーバー周波数fc0を指定する場合に、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/3オクターブ高く設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/3オクターブ低く設定している。例えば、クロスオーバー周波数fc0=2kHzを指定すると、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLを2.5kHzに設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを約1.6kHzに設定している。なお、低域通過フィルタLPFは、クロスオーバー周波数fc0よりも高い周波数で−96dB/Oct.の遷移域特性を示すLPFフィルタである。また、高域通過フィルタHPFは、クロスオーバー周波数fcよりも低い周波数で96dB/Oct.の遷移域特性を示すHPFフィルタである。「オーバーラップ無し」または「オーバーラップ有り」は、CPU4がDSP10を制御して設定する。
図5のグラフでは、設定するクロスオーバー周波数fc0において、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの通過域が重なってオーバーラップしている。このように、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高く設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低く設定し、「オーバーラップ有り」に設定すると、低域通過フィルタLPFの第1の出力(DL1、DR1)と高域通過フィルタHPFの第2の出力(DL2、DR2)には、周波数帯域fcL−fcHがともに含まれる。したがって、スピーカーシステム8のネットワーク回路のクロスオーバー周波数fc=1.8kHz付近の周波数帯域成分は、低域通過フィルタLPFの出力(DL1、DR1)および高域通過フィルタHPFの出力(DL2、DR2)の両方に含まれる。
図6は、本実施例のアンプ装置1のチャンネルデバイダ12を使用する場合のスピーカーシステム8の音圧周波数特性について説明するグラフであり、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHを異なるように設定する「オーバーラップ有り」の場合を説明する図である。チャンネルデバイダ12において設定するクロスオーバー周波数fc0=2kHzが、スピーカーシステム8のネットワーク回路のクロスオーバー周波数fc=1.8kHzとは多少ずれていても、「オーバーラップ有り」とすることで、図6に図示するように、スピーカーシステム8の合成音圧周波数特性(図示するWO+TW)にディップが発生しなくなる。スピーカーシステム8がバイワイヤリングSSである場合には、ネットワーク回路nLおよびnHを含んだ上で平坦な合成特性が得られるように調整されているので、チャンネルデバイダ12を「オーバーラップ有り」の通常音声再生モードで設定すれば、音圧周波数特性上にディップが生じない。
本実施例のようにチャンネルデバイダ12の「オーバーラップ有り」の通常音声再生モードにおいて、スピーカーシステム8のネットワーク回路の遷移域特性(±12dB/Oct.)よりも急峻な遷移域特性(±96dB/Oct.)を設定すると、遷移域および阻止域の減衰率が大きくなるので、基本的なスピーカーシステム8の音圧周波数特性は変更することなく、かつ、音響再生システムの再生音質を変化するように調整することができる。本実施例のように、2wayのスピーカーシステム8においてステレオ音声を再生すると、そのクロスオーバー周波数fcを跨ぐように歌手のボーカル音声の再生帯域が存在するので、チャンネルデバイダ12により急峻な遷移域特性を設定すると、ウーファーWOの再生音波とツィーターTWの再生音波との間での干渉が実質的に減少し、ユーザーは、チャンネルデバイダ12を機能させない場合に比較して、歌手のボーカルの大きさがより小さくなるような音像感を得ることができる。
チャンネルデバイダ12の低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFのクロスオーバー周波数fcは、細かく設定できるのが好ましいが、例えば、JIS規格(又はISO/IEC規格)に倣って1/3オクターブ程度、または、1/6オクターブ程度のステップで設定できるものであってもよい。「オーバーラップ有り」の場合に、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度高く設定し、高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHをクロスオーバー周波数fc0よりも約1/6〜1オクターブ程度低く設定するにしても、重複してオーバーラップする周波数帯域を狭くする方が、チャンネルデバイダ12による音質調整の効果が高くなる。一方で、スピーカーシステム8のネットワーク回路が、緩やかな遷移域特性を持つ場合には、重複する周波数帯域を2オクターブ程度まで広くする方が、音圧周波数特性上にディップを生じにくくすることができる。
ただし、チャンネルデバイダ12は、上記実施例のようなウーファーWOおよびツィーターTWを含む2wayのバイワイヤリングSSに適用するものに限られない。チャンネルデバイダ12は、サブウーファーおよび/またはミッドレンジおよび/またはスーパーツィーターを含む3〜5wayのマルチウェイスピーカーである(図示しない)バイワイヤリングSSに対応するように、3〜5way用の帯域通過フィルタBPFを含む構成にしてもよい。帯域通過フィルタBPFは、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFに、それぞれ他の高域通過フィルタHPFまたは他の低域通過フィルタLPFを直列接続して構成してもよい。つまり、隣接して帯域分割するフィルタの間で「オーバーラップ有り」とするようにフィルタを設定することで、3〜5wayのバイワイヤリングSSに対応してチャンネルデバイダを動作させても、音圧周波数特性上にディップが生じないようにすることができる。
もちろん、ネットワーク回路を用いないウーファーおよびツィーターを含むマルチウェイスピーカーの場合にも、チャンネルデバイダ12の「オーバーラップ有り」の設定は有効である。また、スピーカーシステム8がネットワーク回路を用いないフルレンジスピーカーを含む場合にも、同様に「オーバーラップ有り」の設定は有効である。フルレンジスピーカー、あるいは、ウーファー、ツィーター等のスピーカーの再生音圧周波数特性の限界に起因するレベル低下に対応して、他のスピーカーとの実質的なクロスオーバー周波数fcが設定されている場合にも、これに合わせたチャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を設定することができる。
図7は、上記実施例のアンプ装置1のチャンネルデバイダ12の「テスト信号出力モード」における左信号L側のフィルタ構成について説明する図である。テスト信号出力モードでは、アンプ装置1のDSP10のテスト信号源13を動作させて、テスト信号をステレオ信号(左信号Lおよび右信号R)に代えてチャンネルデバイダ12に入力する。テスト信号は、所定の周波数帯域成分を持つホワイトノイズ、ピンクノイズ、等の雑音信号、または、純音をスイープするスイープ信号、あるいは、インパルス信号、等のいずれかのテスト信号であればよい。右信号R側のフィルタ構成については、同様であるので図示並びに説明を省略する。
アンプ装置1のテスト信号出力モードでは、ユーザーは、バイワイヤリングSSであるスピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHで設定されているクロスオーバー周波数fcが未知の場合でも、テスト信号出力モードにおいてアンプ装置1のDSP10の所定の帯域を含むテスト信号源13を動作させるとともに、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの接続を変更するスイッチSW1〜4の開閉状態を変えるようにして、未知のクロスオーバー周波数fcを知ることができる。図7(a)〜(d)に図示するように、CPU4がスイッチSW1〜4の開閉状態を変えて、テスト信号源13からのテスト信号をフィルタ処理し、出力端子DL1およびDL2からスピーカーシステム8に出力する。
テスト信号出力モードでは、上記実施例における通常音声再生モードの「オーバーラップ有り」の場合と同様に低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFが設定される。つまり、図6に図示する場合と同様に、低域通過フィルタLPFの出力と高域通過フィルタHPFの出力には、低域通過フィルタLPFのカットオフ周波数fcLと高域通過フィルタHPFのカットオフ周波数fcHとの間の周波数帯域fcL−fcHがともに含まれる。したがって、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの設定については、説明を省略する。
図7(a)は、図1〜6で示す上記の通常音声再生モードの場合と、スイッチSW1〜4の開閉状態が同じである。したがって、ユーザーは、「テスト信号出力モード」においても、チャンネルデバイダ12を動作させて、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生するテスト信号による音声とツィーターTWから再生するテスト信号による音声との合成音を確認しながら、再生音質を調整することができる。もちろん、上記の帯域別音声出力モードのようにスイッチSW2およびSW3の短絡/開放を切り換えることで、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生するテスト信号による音声とツィーターTWから再生するテスト信号による音声との相違を確認しながら、チャンネルデバイダ12を動作させる場合の再生音質を調整することができる。
次に、アンプ装置1のテスト信号出力モードにおいては、図7(b)〜(d)に図示するように、スイッチSW1は、高域通過フィルタHPFへ入力する信号を、低域通過フィルタLPFの出力にするように切り換えられる。また、スイッチSW2は開放されて、低域通過フィルタLPFの出力を出力端子(DL1、DR1)へ出力しないように切り換えられる。その結果、低域通過フィルタLPFと高域通過フィルタHPFとを直列接続する狭帯域通過フィルタBPFが構成される。チャンネルデバイダ12を通常音声再生モードで動作させる場合に、適切に設定されるべきクロスオーバー周波数fc0は、上記の狭帯域通過フィルタBPFの中心周波数になる。
したがって、この狭帯域通過フィルタBPFの中心周波数fc0とバイワイヤリングSSであるスピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHのクロスオーバー周波数fcとが略一致する場合には、ウーファーWOから再生する音圧レベルと、ツィーターTWから再生する音圧レベルと、がほぼ一致するようになる。そこで、アンプ装置1のテスト信号出力モードにおいては、チャンネルデバイダ12が設定するクロスオーバー周波数fc0を変更するステップを繰り返すことで、ウーファーWOから再生する音圧レベルとツィーターTWから再生する音圧レベルとがほぼ一致する周波数を確認できるので、バイワイヤリングSSであるスピーカーシステム8の未知のクロスオーバー周波数fcを知ることができる。
つまり、アンプ装置1のテスト信号出力モードにおいては、所定の帯域信号を含むテスト信号を狭帯域通過フィルタBPFに通過させ、狭帯域通過フィルタBPFの出力を図7(b)に図示するように出力端子DL1のみから出力する、又は、狭帯域通過フィルタBPFの出力を図7(c)に図示するように出力端子DL2のみから出力する、又は、狭帯域通過フィルタBPFの出力を図7(d)に図示するように出力端子DL1および出力端子DL2の両方から出力する、ように切り換えると、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生する音圧レベルと、ツィーターTWから再生する音圧レベルと、を比較することによって、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcが未知でも、これに一致するチャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を設定できる。
急峻な遷移域特性を有する低域通過フィルタLPFと高域通過フィルタHPFとを直列接続して構成される狭帯域通過フィルタBPFは、クロスオーバー周波数fc0を中心周波数として含む2/6〜2オクターブ範囲のみのテスト信号を通過させるので、クロスオーバー周波数fc0の設定が不適当な場合には、スピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHのゲイン特性に応じて明らかな音圧レベル差が発生する。スピーカーシステム8の未知のクロスオーバー周波数fcよりも設定するクロスオーバー周波数fc0が低い場合に、ウーファーWOから再生する音圧レベルがツィーターTWから再生する音圧レベルよりも高くなる。又は、スピーカーシステム8の未知のクロスオーバー周波数fcよりも設定するクロスオーバー周波数fc0が高い場合に、ウーファーWOから再生する音圧レベルがツィーターTWから再生する音圧レベルよりも低くなる。
ただし、狭帯域通過フィルタBPFの中心周波数fc0とネットワーク回路nLおよびnHのクロスオーバー周波数fcとが略一致する場合には、ウーファーWOから再生する音圧レベルと、ツィーターTWから再生する音圧レベルと、がほぼ一致する。したがって、ユーザーは、マイクロホン9を使わなくても聴感上の音の大きさを頼りに、クロスオーバー周波数fc0を変更してスピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHの未知のクロスオーバー周波数fcにほぼ一致させることができる。バイワイヤリングSSのクロスオーバー周波数に対してチャンネルデバイダで設定するクロスオーバー周波数がずれなければ、音圧周波数特性上にディップが生じなくなって、適切に音声再生が可能になる。また、ユーザーは、マイクロホンおよびレベルメータ、FFTアナライザ等の測定器が無くても、バイワイヤリングSSの未知のクロスオーバー周波数を知ることができるので、チャンネルデバイダを機能させて適正に再生音質の調整を行なうことができる。
図8は、上記実施例のアンプ装置1の表示回路6について説明する図である。また、図9は、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12のテスト信号出力モードでの動作を説明するフローチャートである。本実施例のアンプ装置1は、チャンネルデバイダ12の「テスト信号出力モード」において、マイクアンプ回路7に接続するマイクロホン9を用いて、バイワイヤリングSSであるスピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcが未知であっても、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を適切に設定することができる。チャンネルデバイダ12の「テスト信号出力モード」については、上記実施例と同様であるので、本実施例の説明では、重複する説明を省略する。
マイクアンプ回路7は、マイクロホン9からの入力信号を増幅する増幅段71と、増幅段71の出力をCPU4に出力するようにフィルタ処理する出力回路72と、を含む。したがって、アンプ装置1のCPU4は、テスト信号出力モードにおいてテスト信号源13から発生させたテスト信号に同期してマイクロホン9から検出される音声信号を、テスト信号の再生音として検出し、表示回路6に表示することができる。テスト信号出力モードにおいて、表示回路6は、少なくとも、設定するクロスオーバー周波数fc0を示す窓表示80と、測定したスピーカーシステム8のウーファーWOからのテスト信号の再生音圧レベル81と、測定したツィーターTWからのテスト信号の再生音圧レベル82と、ウーファーWOとツィーターTWとから同時に再生されて合成されたテスト信号の再生音圧レベル83と、を表示するとともに、クロスオーバー周波数fc0を変更することを示唆する窓表示84を行なう。テスト信号の再生音圧レベル81〜83は、図8のようにバー表示によってユーザーに対して音圧レベルの大小を表示してもよい。
例えば、図8(a)は、ユーザーがアンプ装置1の操作部5を操作して、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を2.0kHzに設定する場合の表示回路6を説明する図である。テスト信号出力モードにおいては、所定の帯域信号を含むテスト信号を狭帯域通過フィルタBPFに通過させ、図7(b)〜(d)に図示するように切り換えて出力すると、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81と、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82と、ウーファーWOとツィーターTWとから同時に再生されて合成されたテスト信号の音圧レベル83と、をそれぞれ測定して表示できる。図8(a)の場合には、ウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81が、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82よりも小さくなる。この場合は、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0は、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fc(=1.8kHz)よりも高いので、表示回路6の窓表示84は、クロスオーバー周波数fc0を低く(Down)するように変更することを示唆するように表示する。
次に、図8(b)は、ユーザーがアンプ装置1の操作部5を操作して、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を1.6kHzに設定する場合の表示回路6を説明する図である。図8(b)の場合には、ウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81が、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82よりも大きくなる。この場合は、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0は、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fc(=1.8kHz)よりも低いので、表示回路6の窓表示84は、クロスオーバー周波数fc0を高く(Up)するように変更することを示唆するように表示する。
次に、図8(c)は、ユーザーがアンプ装置1の操作部5を操作して、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を1.8kHzに設定する場合の表示回路6を説明する図である。図8(c)の場合には、ウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81が、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82とほぼ等しくなる。さらに、ウーファーWOとツィーターTWとから同時に再生されて合成されたテスト信号の再生音圧レベル83が、それぞれウーファーWOとツィーターTWとが単独の場合の音圧レベル81又は82よりも大きくなる。したがって、ウーファーWOからの再生音波と、ツィーターTWからの再生音波は、マイクロホン9の位置において互いに同相の関係であると推測できる。この場合は、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0は、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fc(=1.8kHz)とほぼ一致しており、かつ、好ましい同相の関係にあるので、表示回路6の窓表示84は、クロスオーバー周波数fc0をそのまま保つ(Keep)ことを示唆するように表示する。
次に、図8(d)は、ユーザーがアンプ装置1の操作部5を操作して、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を1.8kHzに設定する場合の表示回路6を説明する図である。図8(c)の場合には、ウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81が、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82とほぼ等しいが、ウーファーWOとツィーターTWとから同時に再生されて合成されたテスト信号の再生音圧レベル83が、それぞれウーファーWOとツィーターTWとが単独の場合の音圧レベル81又は82よりも小さくなる。ウーファーWOからの再生音波と、ツィーターTWからの再生音波は、マイクロホン9の位置において互いに逆相の関係になって打ち消しあっていると推測できるので、ウーファーWOまたはツィーターTWのいずれか一方を逆相接続に変更するのが好ましい。したがって、表示回路6の窓表示84は、逆相接続に変更する(Invert)ことを示唆するように表示する。
したがって、ユーザーは、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12が設定するクロスオーバー周波数fc0を、表示回路6の窓表示84の示唆にしたがって変更する操作を繰り返すことで、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcが未知の場合にも、これにほぼ一致するようにチャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を設定することができる。また、適切なクロスオーバー周波数fc0を設定できれば、ユーザーは、ウーファーWOおよびツィーターTWを同相接続または逆相接続のいずれかに変更するのが好ましいのかを知ることができるので、通常音声再生モードで音声再生する場合に、チャンネルデバイダ12の低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの位相反転回路を調整して、通音圧周波数特性上にディップが生じないようにすることができる。もちろん、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFのレベル調整回路と、遅延回路と、をそれぞれ調整するようにしてもよい。
本実施例では、ユーザーがアンプ装置1の操作部5を操作して、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0を変更しているが、CPU4がクロスオーバー周波数fc0を自動的に変更するようにしてもよい。図9のフローチャートに示すように、CPU4は、アンプ装置1のチャンネルデバイダ12のテスト信号出力モードでの動作を制御することができる。スピーカーシステム8のネットワーク回路nLおよびnHで設定されているクロスオーバー周波数fcが未知の場合に、チャンネルデバイダ12の通常音声再生モードから移行してテスト信号出力モードの動作を開始する(S001)。CPU4は、最初にチャンネルデバイダ12の低域通過フィルタLPFと高域通過フィルタHPFとを直列接続して狭帯域通過フィルタBPFを設定する(S002)。
次に、CPU4は、DSP10の所定の帯域を含むテスト信号源13を動作させるとともに、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの接続を変更するスイッチSW1〜4の開閉状態を切り換える(S003)。例えば、所定時間のミュート動作の後に、狭帯域通過フィルタBPFの出力を、(1)図7(b)に図示するように出力端子DL1のみからウーファーWOへ所定時間継続して出力し、さらに所定時間のミュート動作の後に、(2)図7(c)に図示するように出力端子DL2のみからツィーターTWへ所定時間継続して出力し、さらに所定時間のミュート動作の後に、(3)図7(d)に図示するように出力端子DL1および出力端子DL2の両方から所定時間継続して出力する、ようにスイッチSW1〜4を切り換える。マイクロホン9を使ってテスト信号による音圧レベルを所定の回数だけ測定するように繰り返し(S004:No)、これを所定の回数以上繰り返して測定した場合(S004:Yes)には、測定されたウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81と、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82と、がほぼ等しいと言えるかどうかを確認する(S005)。
測定されたウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81と、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82と、が異なる場合(S005:No)には、CPU4は、それらの大小を比較して(S006)、ウーファーWOからの音圧レベル81の方がツィーターTWからの音圧レベル82よりも低い場合(S006:Yes)には、チャンネルデバイダ12が設定するクロスオーバー周波数fc0を低くするように変更する(S007)。一方、ウーファーWOからの音圧レベル81の方がツィーターTWからの音圧レベル82よりも高い場合(S006:Yes)には、チャンネルデバイダ12が設定するクロスオーバー周波数fc0を高くするように変更する(S008)。CPU4は、テスト信号出力モードを終了するかしないかを判断し(S011)、終了しない場合(S011:No)には、狭帯域通過フィルタBPFを設定するステップ(S002)に戻って、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0とスピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcとがほぼ一致するまで上記のステップを繰り返す。
その結果、測定されたウーファーWOから再生するテスト信号の音圧レベル81と、ツィーターTWから再生するテスト信号の音圧レベル82と、がほぼ一致する場合(S005:Yes)には、CPU4は、チャンネルデバイダ12の設定すべきクロスオーバー周波数fc0を確認できたので、ウーファーWOとツィーターTWとから同時に再生されて合成されたテスト信号の再生音圧レベル83が、それぞれウーファーWOとツィーターTWとが単独の場合の音圧レベル81又は82よりも小さくなっているかどうかを判断する(S009)。ウーファーWOとツィーターTWの合成再生音圧レベル83が、それぞれ単独の場合の音圧レベル81又は82よりも大きい場合(S009:No)には、ウーファーWOからの再生音波と、ツィーターTWからの再生音波は、マイクロホン9の位置において互いに同相の関係になっているので、CPU4は、クロスオーバー周波数fc0を自動的に変更するステップを終了する(S011:Yes)。
一方、これらのレベル差の絶対値が所定値よりも大きい場合(S009:Yes)には、ウーファーWOからの再生音波と、ツィーターTWからの再生音波は、マイクロホン9の位置において互いに逆相の関係になって打ち消しあっていると推測できるので、CPU4は、ウーファーWOまたはツィーターTWのいずれか一方を逆相接続に変更するように、低域通過フィルタLPFおよび高域通過フィルタHPFの位相反転回路を設定する(S010)。その後にCPU4は、テスト信号出力モードを終了するかしないかを判断し(S011)、終了しない場合(S011:No)には、狭帯域通過フィルタBPFを設定するステップ(S002)に戻って、チャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fc0とスピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcとがほぼ一致するまで上記のステップを繰り返す。CPU4は、テスト信号出力モードを終了する場合には(S011:Yes)、クロスオーバー周波数fc0を自動的に変更するステップを終了する(S012)。
なお、本実施例のアンプ装置1のチャンネルデバイダ12のテスト信号出力モードでは、これを制御するCPU4が、表示回路6にクロスオーバー周波数fc0を変更することを示唆する表示を行ない、ユーザーが操作部5を操作してクロスオーバー周波数fc0を変更する場合、あるいは、自動的にクロスオーバー周波数fc0を変更する場合を説明したが、これらを一部組み合わせてテスト信号出力モードを構成してもよい。例えば、CPU4が、ウーファーWOまたはツィーターTWのいずれか一方を逆相接続に変更するのが好ましいと判断する場合には、同相接続の場合と逆相接続の場合とを所定回数切り換えて自動的にテスト信号音声の測定を行ない、その後に最終的にユーザーに同相接続と逆相接続のいずれかを選択するかを決定させるようにしてもよい。また、テスト信号出力モードでのチャンネルデバイダ12の設定を変更する場合には、ユーザーが操作部5を操作すると直ちに通常音声再生モードへ移行するようにして、適切にチャンネルデバイダ12が設定されているかどうかを、ユーザーが音楽等の音声信号で再生して試聴確認できるようにしてもよい。
また、チャンネルデバイダ12のスイッチSW1〜4を含む接続の構成は、上記実施例で説明および図示する構成に限られない。つまり、スイッチSW1〜4は、アンプ装置1のテスト信号出力モードにおいては、所定の帯域信号を含むテスト信号を狭帯域通過フィルタBPFに通過させるようにして、この狭帯域通過フィルタBPFの出力を第1の出力端子DL1のみから出力する、又は、第2の出力端子DL2のみから出力する、又は、出力端子DL1および出力端子DL2の両方から出力する、ように切り換えるものであれば、他のスイッチの組み合わせであってもよい。また、スイッチSW1〜4は、チャンネルデバイダ12を構成するDSP10のシグナルフローにおける乗算器で代用してもよい。乗算器の乗算係数を1にすれば短絡になり、乗算係数を0にすれば開放と等価になる。
また、本発明のチャンネルデバイダ12は、特に、ネットワーク回路を含んでバイワイヤリング接続可能なスピーカーシステム8を用いる場合に、適切にチャンネルデバイダ12のクロスオーバー周波数fcを設定することができる。したがって、ユーザーは、音圧周波数特性上にディップが生じるおそれが無く、良好な音声再生を可能にすることができる。チャンネルデバイダ12は、狭帯域通過フィルタBPFのテスト信号出力を選択的に再生し、スピーカーシステム8のウーファーWOから再生する音圧レベルと、ツィーターTWから再生する音圧レベルと、を比較できれば、スピーカーシステム8のクロスオーバー周波数fcが未知でも、これに一致するクロスオーバー周波数fc0を設定できる。