JP4257079B2 - 周波数特性調整装置および周波数特性調整方法 - Google Patents

周波数特性調整装置および周波数特性調整方法 Download PDF

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  • Tone Control, Compression And Expansion, Limiting Amplitude (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば音声信号等の周波数特性を変化させるイコライザ等の周波数特性調整装置および周波数特性調整方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
コンパクトディスク(CD)やDVD(Digital VersatileDisc)に記録された音楽や映画を楽しむためのオーディオシステムは、グラフィックイコライザを備えている場合が多い。グラフィックイコライザは、例えば音声信号の周波数帯域を複数の帯域に分割し、各帯域のレベルを強調(ブースト)または減衰(カット)することができる回路を備えている。グラフィックイコライザによって音声信号における各帯域のレベルを調整することにより、音声信号の周波数特性を、スピーカその他の音響機器の特性や、音楽や映画を視聴する場所の環境に合うように調整することができる。
【0003】
また、近年普及しているマルチチャンネルサラウンドオーディオシステムは、例えば5〜8程度のチャンネルを有し、これらのチャンネルの音声出力を制御するアンプ装置と、これらのチャンネルに対応する数のスピーカを備えている。サラウンド再生を実現するためには、各スピーカを適切な位置に設置すると共に、各スピーカの特性に適合するように音声信号の音圧レベルや周波数特性を適切に設定することが要求される。そこで、かかるサラウンドオーディオシステムにおけるアンプ装置は、チャンネルごとにイコライザや増幅器を備えていているものが多い。
【0004】
さらに、かかるサラウンドオーディオシステムの中には、音声信号の音圧レベルや周波数特性をチャンネルごとに自動的に設定する自動音場補正システムを有しているものもある。すなわち、かかる自動音場補正システムは、スピーカの位置や特性およびスピーカの設置されている部屋の環境を検知・分析し、その結果に基づいて各チャンネルの音声信号に設定すべき周波数特性(目標周波数特性)を算出する。そして、その目標周波数特性に一致するように、各音声信号における各帯域のレベルを強調または減衰させ、各音声信号の周波数特性を自動的に設定する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、イコライザのバンド数(周波数帯域の分割数)を増やすと、周波数分解能が高くなり、周波数特性調整の精度が良くなるが、製造コストが高くなる。一方、バンド数を減らすと、製造コストは安くなるが、周波数分解能が低下し、周波数特性調整の精度が落ちる。このように、従来のイコライザでは、周波数特性調整精度の維持または向上を図りながら、製造コストを抑えることが難しいという問題がある。
【0006】
一方、従来のイコライザにはさらに別の問題がある。すなわち、音の周波数帯域には、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域とそうでない帯域とがある。例えば、1kHz(キロヘルツ)付近の帯域において音圧レベルが変化すると、人間はその変化を敏感に感じとる。そのため、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域のレベルをイコライザによって強調または減衰させると、イコライザのオン・オフによって聴感上の音圧レベルが大きく変化する。例えば、チャンネルごとにイコライザを備えたサラウンドオーディオシステムにおいて、各イコライザで1KHz付近のレベルを様々に変更すると、各スピーカから出力される音声の聴感上の音圧レベルが様々に変化する。この結果、各スピーカの出力レベルのバランスが崩れてしまい、サラウンド再生が実現できないという不都合が生じる。
【0007】
かかる不都合を防止するために、従来のオーディオシステムには、イコライザの後段に増幅器や減衰器を設け、イコライザから出力された音声信号のレベルを全体的に上げ下げすることによって、イコライザの設定に伴う音圧レベルの変化を調整するものがある。しかし、イコライザから出力された音声信号のレベルを上げるために、音声信号を増幅器によって増幅すると、音声信号と共にノイズまでも増幅してしまう。このため、オーディオシステムにおける再生の高音質化を図ることが困難となるという問題がある。
【0008】
本発明は上記に例示したような問題点に鑑みなされたものであり、本発明の第1の目的は、周波数特性調整の精度を維持または向上させながら、製造コストを抑えることができる周波数特性調整装置および周波数特性調整方法を提供することにある。
【0009】
本発明の第2の目的は、信号の周波数特性を変化させたことによって、信号の聴感上の音圧レベルが変化する量を小さくすることができる周波数特性調整装置および周波数特性調整方法を提供することにある。
【0010】
本発明の第3の目的は、ノイズを抑制することができ、信号再生の品質を高めることができる周波数特性調整装置および周波数特性調整方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために請求項1に記載の周波数特性調整装置は、音声信号の周波数特性を目標周波数特性と一致するように変化させる周波数特性調整装置であって、外部から入力された前記音声信号を受け取る受取手段と、前記受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割し、前記目標周波数特性における前記固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを、人間の聴感特性に応じて算定する算定手段と、前記算定手段により算定された前記各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる調整手段と、前記調整手段により前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力手段と、前記受取手段に受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力手段によって出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力手段から出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整手段とを備え、前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする。
【0012】
上記課題を解決するために請求項に記載の周波数特性調整装置は、外部から入力された音声信号を受け取る受取手段と、前記受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域とに分割し、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のみのレベルを、人間の聴感特性に応じて強調または減衰させる調整手段と、前記調整手段により前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力手段と、前記受取手段に受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力手段によって出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力手段から出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整手段とを備え、前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする。
【0013】
上記課題を解決するために請求項に記載のコンピュータプログラムは、コンピュータを請求項1ないしのいずれかに記載の周波数調整装置として機能させることを特徴とする。
【0014】
上記課題を解決するために請求項に記載の周波数特性調整方法は、音声信号の周波数特性を目標周波数特性と一致するように変化させる周波数特性調整方法であって、外部から入力された前記音声信号を受け取る受取工程と、前記受取工程において受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割し、前記目標周波数特性における前記固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを、人間の聴感特性に応じて算定する算定工程と、前記算定工程において算定された前記各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる調整工程と、前記調整工程において前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力工程と、前記受取工程において受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力工程において出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力工程において出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整工程とを備え、前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする。
【0015】
上記課題を解決するために請求項に記載の周波数特性調整方法は、外部から入力された音声信号を受け取る受取工程と、前記受取工程において受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域とに分割し、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のみのレベルを、人間の聴感特性に応じて強調または減衰させる調整工程と、前記調整工程において前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力工程と、前記受取工程において受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力工程において出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力工程において出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整工程とを備え、前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
(第1実施形態)
まず、本発明の第1実施形態にかかる周波数特性調整装置の構成について説明する。本発明の第1実施形態にかかる周波数特性調整装置は、音声信号の周波数特性を目標周波数特性と一致するように変化させる装置である。例えば、周波数特性調整装置は、音声信号の周波数帯域を複数の帯域に分割し、各帯域のレベルを強調(ブースト)または減衰(カット)することによって、音声信号の周波数特性を変化させるグラフィックイコライザである。なお、本実施形態にかかる周波数特性調整装置による処理の対象となる音声信号はアナログ信号であってもデジタル信号であってもよい。また、本実施形態にかかる周波数特性調整装置による処理の対象は、音声信号に限らず、動画信号、静止画信号、通信信号、何らかの低周波信号および高周波信号など、周波数特性を有する信号であれば何でもよい。さらに、本発明はグラフィックイコライザに限らず、複数帯域を有するパラメトリックイコライザにも適用することができる。
【0018】
本実施形態にかかる周波数特性調整装置は、音声信号の周波数特性を目標周波数特性に一致するように変化させる。すなわち、周波数特性調整装置は、音声信号の周波数帯域を複数の帯域に分割し、各帯域のレベルを目標周波数特性における各帯域のレベルに一致させるように、当該各帯域(固定レベル帯域を除く)のレベルを強調または減衰させる。目標周波数特性とは、当該周波数特性調整装置に設定された周波数特性であって、当該周波数特性調整装置の処理の対象となる音声信号に持たせるべき周波数特性を意味する。例えば、本実施形態にかかる周波数特性調整装置がマニュアルタイプのグラフィックイコライザである場合には、目標周波数は、当該グラフィックイコライザのパネル面に設けられた複数の帯域レベル調整用のボリュームをユーザが手動で調整することによって定められる。また、本実施形態にかかる周波数特性調整装置が例えば自動音場補正システムにおけるオートタイプのグラフィックイコライザである場合には、目標周波数は、自動音場補正システムにより自動検出または自動算出されて定められる。なお、目標周波数を外部のオーディオ機器またはコンピュータから周波数特性調整装置に提供する構成としてもよいし、周波数特性調整装置が外部のオーディオ機器またはコンピュータに問い合わせて目標周波数を取得する構成としてもよい。
【0019】
また、本実施形態にかかる周波数特性調整装置は、外部から入力された音声信号を受け取る受取手段と、受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割し、目標周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する算定手段と、算定手段により算定された各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、音声信号における各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる調整手段と、調整手段により各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された音声信号を出力する出力手段とを備えている。
【0020】
算定手段は、受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を複数の帯域に分割し、そのうちの1つの帯域を固定レベル帯域として選択し、残りの帯域を可変レベル帯域として選択する。帯域分割の方法は、例えば、音声信号の経路に中心周波数の異なる複数のバンドパスフィルタを直列に接続する方法でもよいし、音声信号の経路を複数に分岐させ、分岐したそれぞれの経路に中心周波数の異なるバンドパスフィルタを並列に接続する方法でもよい。また、これら以外の既知の方法を用いてもよい。
【0021】
さらに、算定手段は、目標周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する。例えば、算定手段は、演算回路、記憶回路、および目標周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する算定処理プログラムを、周波数特性調整装置内に設けることによって実現することができる。すなわち、記憶回路が目標周波数特性の各帯域におけるレベルを記憶し、演算回路がその記憶回路に記憶された各レベルを参照しつつ、算定処理プログラムを実行し、目標周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する。
【0022】
調整手段は、算定手段により算定された各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、音声信号における各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる。例えば、調整手段は、各可変レベル帯域の信号成分を増幅または減衰させる増幅・減衰手段等により実現することができる。
【0023】
なお、帯域分割の手段や増幅・減衰手段は、アナログ回路によって構成してもよいし、デジタル回路によって構成してもよい。
【0024】
調整手段は、各可変レベル帯域のレベルを調整するのみであり、固定レベル帯域のレベルは調整しない。すなわち、本実施形態にかかる周波数特性調整装置は、各可変レベル帯域のレベルを調整するための調整手段は有しているが、固定レベル帯域のレベルを調整するための手段は有していない。そのため、固定レベル帯域の信号成分のレベルは維持される。そして、調整手段により各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された音声信号は、出力手段によって出力される。
【0025】
次に、第1実施形態にかかる周波数特性調整装置の動作について図1を参照して説明する。図1は目標周波数特性F1と、周波数特性調整装置に処理が行われた音声信号の周波数特性F2を示している。
【0026】
図1において、例えば、音声信号の周波数成分を、中心周波数31.5Hz、63Hz、125Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHz、16kHzの10個の帯域に分割し、中心周波数1kHzの帯域を固定レベル帯域に選択し、他の各帯域を可変レベル帯域に選択したとする。
【0027】
かかる設定下で、算定手段は、目標周波数特性F1における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する。図1によれば、例えば、目標周波数特性F1における周波数1kHzのレベルを基準とした周波数250Hzの相対レベルは、+11dB(デシベル)である。また、目標周波数特性F1における周波数1kHzのレベルを基準とした周波数4kの相対レベルは+8dBである。
【0028】
次に、調整手段は、算定手段により算定された各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、音声信号における各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる。例えば、音声信号の元の周波数特性が各帯域において0dBであると仮定した場合、周波数250Hzの相対レベルは+11dBであるので、調整手段は、音声信号の周波数250Hzのレベルを+11dB強調する。また、周波数4kHzの相対レベルは+8dBであるので、調整手段は、音声信号の周波数4kHzのレベルを+8dB強調する。
【0029】
このような算定手段および調整手段の処理によって、周波数特性調整装置の処理の対象となっている音声信号の周波数特性は、図1中の周波数特性F2のようになる。音声信号の周波数特性F2を目標周波数特性F1と比較すると、両者は、全体的なレベルが異なるものの、周波数特性は共通している。また、音声信号の周波数特性F2を見ると、各可変レベル帯域におけるレベルは、目標周波数特性F1における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベル分だけ強調されている。ところが、固定レベル帯域のレベルは、音声信号の元のレベルから変わっておらず、0dBである。
【0030】
以上より、第1実施形態にかかる周波数特性調整装置によれば、目標周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定し、当該各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、音声信号における各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる構成としたから、固定レベル帯域における信号成分のレベルを強調または減衰させることなく、音声信号の周波数特性を目標周波数特性に一致させることができる。
【0031】
これにより、固定レベル帯域の信号レベルを強調または減衰させる手段が不要となり、バンド数(周波数帯域の分割数)を減らすことなしに、帯域レベルの調整機構を1個減らすことができる。例えば、図1に示す例では、音声信号の周波数帯域が10個の帯域に分割されているが、固定レベル帯域である中心周波数1kHzの帯域については調整機構が不要となる。したがって、可変レベル帯域のそれぞれに対応する9個の調整機構を設ければ足りる。よって、周波数分解能ひいては周波数特性調整精度を維持または向上させながら、周波数特性調整装置の製造コストを低減させまたは抑制することができる。
【0032】
次に、本発明の第1実施形態の各種態様について説明する。
【0033】
上述したように、第1実施形態にかかる周波数特性調整装置においては、音声信号の周波数特性を1つの固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割する。この場合、固定レベル帯域の中心周波数または周波数範囲をいかに設定するかは任意である。しかし、固定レベル帯域を、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域に設定する構成としてもよい。これにより、周波数特性調整装置によって音声信号の周波数特性を変化させたときに、音声信号の聴感上の音圧レベルが大幅に変化するのを防止することができる。
【0034】
すなわち、人間の聴感は周波数によって異なり、同じ音圧レベルの音でも周波数が異なると大きさが違って感じられる。そのため、人間の聴感上の音圧レベルの変化も周波数によって異なる。言い換えれば、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域とそうでない帯域がある。そこで、固定レベル帯域を、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域、言い換えれば、音圧レベルの変化を人間に感知させるにあたり支配的な周波数帯域に設定する。すると、図1に示す周波数特性F2を見ればわかるように、固定レベル帯域の信号レベルは、周波数特性調整装置による処理の前後で変化しないので、周波数特性調整装置による処理の前後で音声信号の聴感上の音声レベルの変化を小さくすることができる。
【0035】
また、本実施態様によれば、上述したように、周波数特性調整装置により音声信号の周波数特性を変化させても、音声信号の聴感上の音圧レベルは大幅に変化しない。したがって、周波数特性調整装置による処理によって生じる音声信号の音圧レベルの変動を吸収するために、処理後の音声信号の音圧レベルを増幅または減衰させる量が小さくなる。したがって、デジタル信号の音声信号に対して周波数特性を変化させた後に、当該音声信号をデジタル−アナログ変換し、増幅器で増幅するという構成の回路において、最終的に出力されるノイズの量を減らすことができる。すなわち、本実施形態による周波数特性調整装置により音声信号の周波数特性を変化させても、当該音声信号の音圧レベルが大幅に減少することはない。とすれば、後段の増幅器によって音声信号の音圧レベルを増幅する量は小さくなる。したがって、デジタル−アナログ変換の際に音声信号にノイズが混在しても、そのノイズが音声信号の増幅に伴って大幅に増幅してしまうのを防ぐことができる。
【0036】
また、固定レベル帯域を、1kHzを含む所定の帯域に設定してもよい。
【0037】
これにより、周波数特性調整装置によって音声信号の周波数特性を変化させたときに、音声信号の聴感上の音圧レベルが大幅に変化するのを防止することができる。そして、この場合、上述したように、周波数特性調整装置による処理後の音声信号を増幅する量を小さくできるので、ノイズの抑制を図ることができる。
【0038】
すなわち、一般に、1kHz付近の帯域における聴感上の音圧レベルの変化は大きいとされている。この根拠は、等ラウドネス曲線に基づいて説明することができる。図2は人間の可聴範囲を表す等ラウドネス曲線を示している。等ラウドネス曲線は、1kHzの純音を基準にして、その音と同じ大きさに聞こえる音の音圧レベルを結んだ曲線である。図2によれば、1kHz付近の音圧レベルは、600Hz付近および4kHz付近の音圧レベルと比較して大きいことがわかる。このことは、1kHz付近の帯域における聴感上の音圧レベルの変化が大きいことを意味する。
【0039】
また、固定レベル帯域を、500Hzないし2kHzを含む所定の帯域に設定してもよい。
【0040】
かかる構成によっても、周波数特性調整装置によって音声信号の周波数特性を変化させたときに、音声信号の聴感上の音圧レベルが大幅に変化するのを防止することができる。そして、この場合、上述したように、周波数特性調整装置による処理後の音声信号を増幅する量を小さくできるので、ノイズの抑制を図ることができる。
【0041】
すなわち、500Hzないし2kHzの帯域は、一般に、音声信号の聴感上の音圧レベルの変化が大きいとされる。この根拠は、例えば騒音計に関する学問研究に求めることができる。騒音計は物理的意味および感覚的意味において、音が大きいか小さいかを判定し、数値化する測定器である。騒音計では、音圧レベルを人間の聴感度に擬した周波数補正特性で補正した値が騒音レベルとして用いられている。そこで、かかる周波数補正特性に基づいて、人間の聴感上の音圧レベルの変化が大きく現れる帯域を知ることができる。図3はIEC(国際電気標準会議)規格に基づく3つの周波数補正曲線(A曲線、B曲線、C曲線)を示している。図3によれば、いずれの曲線においても500Hzないし2kHzの帯域において、聴感上の音圧レベルの変化が大きいことがわかる。このことは、500Hzないし2kHzの帯域において、音声信号の聴感上の音圧レベルの変化が大きいことを意味する。
【0042】
また、固定レベル帯域を、500Hzないし2kHzの帯域に含まれる所定の帯域に設定しても、同様の作用・効果が実現される。
【0043】
また、第1実施形態にかかる周波数特性調整装置において、受取手段により受け取られる前の音声信号のレベルと出力手段によって出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、出力手段から出力された信号のレベルを調整するレベル調整手段を備えてもよい。
【0044】
かかる構成によれば、例えば、当該周波数特性調整装置をオフにしたときに当該周波数特性調整装置の出力端側に現れる音声信号のレベルと、当該周波数特性調整装置をオンにしたときに当該周波数特性調整装置の出力端側に現れる音声信号のレベルとを自動的に等しくすることができる。これにより、周波数特性調整装置のオン・オフによって周波数特性調整装置の出力端側に現れる音声信号のレベルが変化するのを防止できる。
【0045】
また、第1実施形態にかかる周波数特性調整装置において、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じ取る所定の周波数帯域を有する測定用信号を受取手段に出力する測定用信号発生手段を備えてもよい。
【0046】
かかる構成を有する周波数特性調整装置において、測定用信号発生手段から出力された測定用信号は、周波数特性調整装置の各手段による処理を経て、出力手段により出力される。これにより、受取手段に受け取られる前の測定用信号のレベルと、出力手段から出力された後の測定用信号のレベルとを比較すれば、周波数特性調整装置のオン・オフによって周波数特性調整装置の出力端側に現れる音声信号のレベルの変化量を知ることができる。したがって、周波数特性調整装置の出力側に手動の増幅器または減衰器を設ければ、ユーザは、その増幅器または減衰器を操作して、周波数特性調整装置のオン・オフによって周波数特性調整装置の出力端側に現れる測定用信号のレベルが等しくなるように、レベル調整をすることができる。また、上述したレベル調整手段を備えた周波数特性調整装置に測定用信号発生手段を追加すれば、測定用信号を用いたレベル調整を自動的に行うことができる。さらに、測定用信号の周波数を、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じ取る所定の周波数帯域に設定することにより、周波数特性調整装置のオン・オフにより周波数特性調整装置の出力端側に現れる音声信号の聴感上の音圧レベルが変化するのを高精度にかつ効率よく防止することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態にかかる周波数特性調整装置は、外部から入力された音声信号を受け取る受取手段と、受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域とに分割し、音声信号における各可変レベル帯域のみのレベルを強調または減衰させる調整手段と、調整手段により各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された音声信号を出力する出力手段とを備えている。そして、かかる周波数特性調整装置において、固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域に設定される。
【0048】
かかる構成を有する第2実施形態にかかる周波数特性調整装置において、調整手段によってレベルを強調または減衰させることができるのは、各可変レベル帯域の信号成分のみである。すなわち、固定レベル帯域の信号成分はレベル調整がなされず、元のレベルのまま出力手段から出力される。このように、固定レベル帯域のレベル調整ができない構成であっても、各可変レベル帯域のレベルを調整し、固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを設定することができる。これにより、音声信号の全周波数帯域について所望の周波数特性を設定することができる。
【0049】
このように第2実施形態にかかる周波数特性調整装置によれば、固定レベル帯域のレベルを強調または減衰させることなく、音声信号の全周波数帯域における周波数特性を設定することができる。したがって、固定レベル帯域の信号レベルを強調または減衰させる手段が不要となり、バンド数(周波数帯域の分割数)を減らすことなしに、帯域レベルの調整機構を1個減らすことができる。よって、周波数分解能ひいては周波数特性調整精度を維持または向上させながら、周波数特性調整装置の製造コストを低減させまたは抑制することができる。
【0050】
さらに、第2実施形態にかかる周波数特性調整装置によれば、固定レベル帯域を、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域に設定されている。これにより、周波数特性調整装置によって音声信号の周波数特性を変化させたときに、音声信号の聴感上の音圧レベルが大幅に変化するのを防止することができる。したがって、上述した第1実施形態にかかる周波数特性調整装置の各種態様と同様の効果を得ることができる。
【0051】
なお、以上のような第1および第2の実施形態は、専用の装置としてハードウェアと一体的に構成する形態で実現してもよいし、コンピュータにプログラムを読み込ませることによって実現してもよい。
【0052】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例は、本発明の周波数特性調整装置をマルチチャンネルオーディオシステムにおけるマルチチャンネルアンプ装置に適用した例である。
【0053】
まず、マルチチャンネルオーディオシステムの構成について図4および図5を参照して説明する。
【0054】
図4はマルチチャンネルオーディオシステムの構成およびアンプ装置の構成を示している。図5はマルチチャンネルオーディオシステムにおけるスピーカおよびマイクの配置を示している。
【0055】
マルチチャンネルオーディオシステム1は、例えば5.1サラウンドのマルチチャンネル再生を実現することができるオーディオシステムである。図4に示すように、マルチチャンネルオーディオシステム1は、DVDプレーヤ2、アンプ装置3、例えば6個のスピーカ4Aないし4F、およびマイク5を備えている。
【0056】
DVDプレーヤ2は、DVDに記録された音声データを再生し、音声データに対応する音声信号SAないしSFを出力する情報再生装置である。DVDプレーヤ2は、マルチチャンネル再生に対応している。したがって、マルチチャンネル再生に対応した音声データがDVDに記録されているときには、DVDプレーヤ2は例えば6チャンネルの音声信号SAないしSFを出力する。なお、DVDプレーヤ2から出力される音声信号SAないしSFは、アナログ信号でもデジタル信号でもよいが、本実施例におけるDVDプレーヤ2はデジタル信号の音声信号SAないしSFを出力するものとする。
【0057】
アンプ装置3は、マルチチャンネル対応の音声出力制御装置である。アンプ装置3は、DVDプレーヤ2から出力された6チャンネルの音声信号SAないしSFを受け取り、これら音声信号SAないしSFの周波数特性、遅延特性および音圧レベル等を調整し、さらに、これら音声信号SAないしSFをチャンネルごとに6個のスピーカ4Aないし4Fに分配して出力する。また、アンプ装置3は、自動音場補正処理を行う機能を有している。自動音場補正処理とは、各チャンネルの音声信号SAないしSFの周波数特性、遅延特性および音圧レベルを自動的に設定する機能である。
【0058】
アンプ装置3には6個のスピーカ4Aないし4Fが接続されている。6個のスピーカ4Aないし4Fは、具体的には、左側フロントスピーカ4A、右側フロントスピーカ4B、センタスピーカ4C、サブウーファー4D、左側リアスピーカ4E、右側リアスピーカ4Fである。これらのスピーカ4Aないし4Fは、図5に示すように配置されている。スピーカ4Aないし4Fをこのように配置することにより、サラウンド再生を実現することができる。
【0059】
また、図4に示すように、アンプ装置3にはマイク5が接続されている。マイク5は、アンプ装置3が自動音場補正処理を行うときに用いられるものある。マイク5は、図5に示すように、自動音場補正処理を行うときには、各スピーカ4Aないし4Fの配置された領域の中央に置かれる。
【0060】
次に、アンプ装置3の構成について図4を参照して説明する。図4に示すように、アンプ装置3は、信号処理ユニット11、測定用信号発生器12、6個のD/A(デジタル/アナログ)変換器13Aないし13F、6個の可変増幅器14Aないし14F、増幅器15、およびA/D(アナログ/デジタル)変換器16を備えている。
【0061】
信号処理ユニット11は、DVDプレーヤ2からアンプ装置3に入力された音声信号SAないしSFの周波数特性、遅延特性および音圧レベルを設定・調整する回路群である。
【0062】
測定用信号発生器12は、自動音場補正処理を実行するときに用いられるものである。自動音声補正処理を行うとき、測定信号発生器12は、測定用信号SN1ないしSN3を生成し、これを信号処理ユニット11に出力する。なお、測定用信号SN1ないしSN3は、例えばピンクノイズである。
【0063】
D/A変換器13Aないし13Fは、信号処理ユニット11から出力された音声信号SAないしSF(デジタル信号)をアナログ信号にそれぞれ変換する回路である。
【0064】
可変増幅器14Aないし14Fは、D/A変換器13Aないし13Fから出力された音声信号SAないしSFを増幅する回路である。可変増幅器14Aないし14Fの増幅率は、信号処理ユニット11内の制御部22に設けられた増幅制御部73から出力される増幅制御信号AAないしAFによって制御される。
【0065】
増幅器15は、自動音場補正処理を行うときに、マイク5から出力される集音信号を増幅する回路である。
【0066】
A/D変換器16は、自動音場補正処理を行うときに、マイク5から出力され、増幅器15によって増幅された集音信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換し、これを集音信号STとして信号処理ユニット11に供給する回路である。
【0067】
次に、信号処理ユニット11の構成について図6ないし図8を参照して説明する。
【0068】
図6は信号処理ユニット11の構成を示している。図6に示すように、信号処理ユニット11は、信号処理部21および制御部22を備えている。
【0069】
信号処理部21は、DVDプレーヤ2からアンプ装置3に出力された音声信号SAないしSFの周波数特性および遅延特性を設定・調整する回路群である。信号処理部21は、6個のスイッチ31Aないし31F、6個のイコライザ32Aないし32F、および6個の遅延回路33Aないし33Fを備えている。
【0070】
スイッチ31Aないし31Fは、信号処理部21に入力すべき信号を、DVDプレーヤ2から出力された音声信号SAないしSFとするか、測定用信号発生器12から出力された測定用信号SN1ないしSN3とするかを選択するためのスイッチである。自動音場補正処理を行うときには、スイッチ31Aないし31Fにおける図6中の上側に位置する入力端子と出力端子とを接続する。これにより、測定用信号SN1ないしSN3が信号処理部21に供給される。一方、DVDを再生するときには、スイッチ31Aないし31Fにおける図6中の下側に位置する入力端子と出力端子とを接続する。これにより、音声信号SAないしSFが信号処理部21に供給される。スイッチ31Aないし31Fの切換は、制御部22に設けられたメインコントローラ74によって制御される。
【0071】
イコライザ32Aないし32Fは、音声信号SAないしSFの周波数特性をそれぞれ設定する回路である。イコライザ32Aないし32Fは、制御部22に設けられた周波数特性制御部71から出力されるレベル制御信号LAないしLFによってそれぞれ制御される。
【0072】
図7は、6個のイコライザ32Aないし32Fのうちの1個であるイコライザ32Aの構成を示している。図7に示すように、イコライザ32Aは、6個のバンドパスフィルタ41ないし46、5個のレベル設定部51ないし55、および合成器61を備えている。
【0073】
バンドパスフィルタ41ないし46のそれぞれは、音声信号SAにおける所定の周波数成分のみを通過させ、他の周波数成分を遮断するフィルタ回路である。具体的には、バンドパスフィルタ41は、音声信号SAにおける11.3kHz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ42は、音声信号SAにおける4kHz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ43は、音声信号SAにおける250Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ44は、音声信号SAにおける125Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ45は、音声信号SAにおける63Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ46は、音声信号SAにおける500Hzないし2kHz付近の周波数成分のみを通過させる。
【0074】
レベル設定部51ないし55は、バンドパスフィルタ41ないし45を通過した音声信号SAの周波数成分のレベルを実際に設定する回路である。レベル設定部51ないし55は、周波数特性制御部71から出力されるレベル制御信号LA1ないしLA5(これらの信号はレベル制御信号LAに含まれている)によってそれぞれ制御される。具体的には、レベル設定部51ないし55によって音声信号SAのそれぞれの周波数成分に設定すべきレベルは、レベル制御信号LA1ないしLA5によって定められる。
【0075】
合成器61は、レベル設定部51ないし55およびバンドパスフィルタ46から出力された音声信号SAのそれぞれの周波数成分を合成する回路である。合成器61により合成された音声信号SAは、遅延回路33A(図6参照)に出力される。
【0076】
ここで、図7に示すように、バンドパスフィルタ41ないし45の後段にはレベル設定部51ないし55が設けられている。したがって、バンドパスフィルタ41ないし45によって分割された音声信号SAのそれぞれの周波数成分は、レベル設定部51ないし55によってそれぞれのレベルがレベル制御信号LA1ないしLA5に基づいて変更された後に、合成器61に供給される。すなわち、バンドパスフィルタ41ないし45のそれぞれに対応する複数の周波数帯域(中心周波数が63Hz、125Hz、250Hz、4kHz、11.3kHz)は、可変レベル帯域である。
【0077】
これに対し、音声信号SAにおける500Hzないし2kHz付近の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタ46の後段には、レベル設定部は設けられていない。すなわち、このバンドパスフィルタ46の出力端子は、合成器に直接接続されている。したがって、音声信号SAにおける500Hzないし2kHz付近の周波数成分は、そのレベルが変更されることなしに、そのまま合成器61に供給される。すなわち、バンドパスフィルタ46に対応する周波数帯域(500Hz〜2kHz)は、固定レベル帯域である。このように、固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域、言い換えれば、音圧レベルの変化を人間に感知させる支配的な周波数帯域に設定されている。
【0078】
以上、図7に基づいてイコライザ32Aについて説明したが、イコライザ32Bないし32Fも同様の構成を有する。
【0079】
図6に戻り、遅延回路33Aないし33Fは、イコライザ32Aないし32Fから出力された音声信号SAないしSFの遅延特性をそれぞれ調整する回路である。遅延回路33Aないし33Fは、制御部22に設けられた遅延制御部72から出力される遅延制御信号DAないしDFによってそれぞれ制御される。
【0080】
一方、制御部22は、主として自動音場補正処理の制御を行う回路群である。具体的には、制御部22は、自動音場補正処理において、音声信号SAないしSFに設定すべき周波数特性(各周波数成分におけるレベル)、遅延特性(遅延量)および音圧レベル(増幅率)を算定し、これら算定結果に基づいて信号処理部21のイコライザ32Aないし32F、遅延回路33Aないし33Fおよび可変増幅器14Aないし14Fを制御する。図6に示すように、制御部22は、周波数特性制御部71、遅延制御部72、増幅制御部73およびメインコントローラ74を備えている。
【0081】
図8は周波数特性制御部71の構成を示している。周波数特性制御部71は、音声信号SAないしSFに設定すべき周波数特性を算定し、この算定結果に基づいて信号処理部21のイコライザ32Aないし32Fを制御する回路群である。図8に示すように、周波数特性制御部71は、バンドパスフィルタユニット81および周波数特性演算部82を備えている。
【0082】
バンドバスフィルタユニット81は、集音信号STを9個の帯域に分割する回路である。自動音場補正処理が行われるとき、バンドバスフィルタユニット81には、マイク5、増幅器15およびA/D変換器16を介して信号処理ユニット11に供給された集音信号ST(図4参照)が入力される。バンドパスフィルタユニット81には、中心周波数が例えば63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHz、16kHzにそれぞれ設定された9個のバンドパスフィルタ(図示せず)が設けられている。バンドパスフィルタユニット81に入力された集音信号STは、これら9個のバンドパスフィルタによって9個の周波数成分に分割され、周波数特性演算部82に出力される。
【0083】
周波数特性演算部82は、音声信号SAないしSFに設定すべき周波数特性を実際に算定する回路である。周波数特性演算部82は、例えば演算処理用のMPU(マルチプロセッシングユニット)、演算処理に用いられる係数テーブルなどを記憶したメモリなど(いずれも図示せず)を備えている。具体的には、周波数特性演算部82は、バンドパスフィルタユニット81から出力された集音信号STの各周波数成分を用いて、イコライザ32Aないし32Fを制御するためのレベル制御信号LAないしLFを生成し、これらをイコライザ32Aないし32Fに出力する。
【0084】
図6に戻り、遅延制御部72は、音声信号SAないしSFに設定すべき遅延特性(遅延量)を算定し、この算定結果に基づいて信号処理部21の遅延回路33Aないし33Fを制御する回路群である。具体的には、遅延制御部72は、集音信号STを用いて、遅延回路33Aないし33Fを制御するための遅延制御信号DAないしDFを生成し、これらを遅延回路33Aないし33Fに出力する。
【0085】
増幅制御部73は、音声信号SAないしSFに設定すべき音圧レベル(増幅率)を算定し、この算定結果に基づいて可変増幅器14Aないし14F(図4参照)を制御する回路群である。具体的には、増幅制御部73は、集音信号STを用いて、可変増幅器14Aないし14Fを制御するための増幅制御信号AAないしAFを生成し、これらを可変増幅器14Aないし14Fに出力する。ここで、図9は増幅制御部73の構成を示している。図9に示すように、増幅制御部73は、演算処理用のMPUからなる増幅率演算部91および基準レベルデータ等を記憶した記憶部92を備えている。
【0086】
メインコントローラ74は、周波数特性制御部71、遅延制御部72および増幅制御部73の制御、並びに信号処理部21のスイッチ31Aないし31Fの切換制御などを行う。メインコントローラ74は、CPU(セントラルコントロールユニット)、ROM(リードオンリメモリ)およびRAM(ランダムアクセスメモリ)等の演算回路および記憶回路を備えている。
【0087】
次に、マルチチャンネルオーディオシステム1の再生動作について説明する。図4に示すように、DVDソフトを再生するとき、DVDプレーヤ2から出力された音声信号SAないしSFは、アンプ装置3における信号処理ユニットの信号処理部21に入力される。このとき、図6に示すように、信号処理部21のスイッチ31Aないし31Fは図6中の下側に位置する入力端子と出力端子を接続するように切り換えられている。これにより、音声信号SAないしSFはイコライザ32Aないし32Fに供給される。そして、音声信号SAないしSFは、その周波数特性がイコライザ32Aないし32Fによって調整され、その遅延特性が遅延回路33Aないし33Fによって調整される。さらに、図4に示すように、調整された後の音声信号SAないしSFは、D/A変換器13Aないし13Fによってアナログ信号に変換され、続いて可変増幅器14Aないし14Fによって増幅され、スピーカ4Aないし4Fに出力される。
【0088】
次に、マルチチャンネルオーディオシステム1の自動音場補正処理について図10ないし図16を参照して説明する。
【0089】
自動音場補正処理は、マルチサウンドオーディオシステム1を新たに構築するときや、スピーカ4Aないし4Fの設置位置を変更したときなど、DVDの再生の準備段階において行われる。例えば、ユーザは、図5に示すように、スピーカ4Aないし4Fを所定の位置に設置し、スピーカ4Aないし4Fの設置された領域の中央にマイク5を置く。そして、ユーザは、アンプ装置3に対し、自動音場補正処理を開始すべき旨の指示を入力する。これにより、主としてアンプ装置3の制御部22の制御の下、自動音場補正処理が開始される。
【0090】
図10は自動音場補正処理のメインルーチンを示している。図10に示すように、自動音場補正処理は、周波数特性設定処理(ステップS1)、遅延特性設定処理(ステップS2)および音圧レベル設定処理(ステップS3)の順で行われる。
【0091】
では、周波数特性設定処理について図11ないし図15を参照して説明する。図11は周波数特性設定処理を示している。周波数特性設定処理は、信号処理部21のイコライザ32Aないし32Fにおける各帯域のレベルを設定する処理である。この処理により、イコライザ32Aないし32Fにおける各帯域のレベルが設定されると、DVDの再生時における各チャンネルの音声信号SAないしSFに、スピーカ4Aないし4Fおよび室内環境等に応じた適切な周波数特性が設定され、サラウンド再生が実現される。この周波数特性設定処理は、スピーカ4Aないし4Fの個々のスピーカごとに行われる。まず、スピーカ4Aについて周波数特性設定処理が行われる。
【0092】
すなわち、図11に示すように、制御部22のメインコントローラ74は、信号処理部21のスイッチ31Aないし31Fに制御信号を送り、スイッチ31Aにおける図6中の上側に位置する入力端子と出力端子とを接続すると共に、他のスイッチ31Bないし31Fにおける図6中の上側に位置する入力端子と出力端子とを切り離す(図6参照)。そして、メインコントローラ74は、測定用信号発生器12に制御信号を送り、測定用信号SN1を発生させる(ステップS11)。これにより、測定用信号SN1は、スイッチ31Aを介してイコライザ32Aおよび遅延回路33A等が設けられた経路のみに供給される。すなわち、測定用信号SN1は、スイッチ31A、イコライザ32A、遅延回路33A、D/A変換器13Aおよび可変増幅器4Aを介してスピーカ14Aに供給され、スピーカ14Aから出力される(図4参照)。なお、測定用信号SN1は、人間の可聴範囲をカバーする程度の周波数帯域(例えば20Hz〜20kHz)を有している。
【0093】
スピーカ14Aから出力された測定用信号SN1は、マイク5に入力され、増幅器15およびA/D変換器16を介し、集音信号STとして信号処理ユニット11の制御部22に供給される(図4参照)。
【0094】
制御部22に供給された集音信号STは、制御部22内の周波数特性制御部71のバンドパスフィルタユニット81に供給される(図8参照)。そして、バンドパスフィルタユニット81は、集音信号STを、中心周波数63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHz、16kHzの9個の帯域に分割し、周波数特性演算部82に出力する(ステップS12)。図12は9個の帯域に分割された集音信号STの周波数特性を示している。
【0095】
次に、周波数特性演算部82は、9個の帯域に分割された集音信号STを6個の帯域となるようにグルーピングする(ステップS13)。具体的には、500kHzないし2kHzの帯域を1つにグルーピングすると共に、8kHzないし16kHzの帯域を1つにグルーピングする。なお、8kHzないし16kHzの帯域の中心周波数は11.3kHzとなる。図13は6個の帯域にグルーピングされた集音信号STの周波数特性を示している。
【0096】
次に、周波数特性演算部82は、集音信号STの6個の帯域のレベルを認識する(ステップS14)。
【0097】
次に、周波数特性演算部82は、集音信号STの6個の帯域レベルから、集音信号STの周波数特性の逆特性(逆周波数特性)を算出する(ステップS15)。図14はこの逆周波数特性を示している。なお、この逆周波数特性が目標周波数特性に当たる。
【0098】
次に、周波数特性演算部82は、この逆周波数特性における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定する(ステップS16)。具体的には、上述したように、本実施例における固定レベル帯域は、500Hzないし2kHzである。また、可変レベル帯域は、残り5個の帯域、すなわち中心周波数が63Hz、125Hz、250Hz、4kHz、11.3kHzの帯域である。したがって、集音信号STの逆周波数特性における500Hzないし2kHzの帯域のレベルを基準とし、当該逆周波数特性の残り5個の帯域の相対レベルをそれぞれ算出する。図14は、この算出結果によって得られた周波数特性(以下、これを「相対周波数特性」という)を示している。図14からわかるとおり、固定レベル帯域である500Hzないし2kHzの帯域は、レベルが0dBである。
【0099】
次に、周波数特性演算部82は、この相対周波数特性における各帯域のレベルを、それぞれレベル制御信号LA1ないしLA5として出力する。そして、レベル制御信号LA1ないしLA5は、イコライザ32Aのレベル設定部51ないし55にそれぞれ供給される。これにより、イコライザ32Aのレベル設定部51ないし55には、相対周波数特性における各帯域のレベルがそれぞれ設定される。なお、固定レベル帯域である500Hzないし2kHzのレベルは0dBなので、この帯域のレベルをイコライザ32Aに設定する必要はない。このため、図7に示すように、イコライザ32Aにおける固定レベル帯域の経路には、レベル設定部が排除されている。
【0100】
メインコントローラ74は、ステップS12ないしS17までの処理をスピーカ4Aについて4回繰り返し実行する。1個のスピーカについて同じ処理を4回実行することで、イコライザにおける各帯域のレベル設定の誤差をなくし、または少なくすることができる。
【0101】
スピーカ4AについてステップS12ないしS17までの処理が4回実行されたときには(ステップS18:YES)、システムコントローラ74は、次に、スピーカ4Bについて周波数特性設定処理を行うために、処理をステップS11に戻す。そして、メインコントローラ74は、信号処理部21のスイッチ31Aないし31Fに制御信号を送り、スイッチ31Bにおける図6中の上側に位置する入力端子と出力端子とを接続すると共に、他のスイッチ31Aおよびスイッチ31Cないし31Fにおけるに図6中の上側に位置する入力端子と出力端子とを切り離す(図6参照)。これにより、測定用信号SN1は、スイッチ31Bを介してイコライザ32Bおよび遅延回路33B等が設けられた経路に供給される。この状態で、ステップS12ないしS18の処理を実行し、イコライザ32Bの各帯域のレベルを設定する。
【0102】
同様に、システムコントローラ74は、スピーカ4Cないし4Fに対しても周波数特性設定処理を行い、イコライザ32Cないし32Fにおける各帯域のレベルを設定する。
【0103】
そして、全チャンネルについて周波数特性設定処理が終了したときには(ステップ19:YES)、測定用信号発生器12に制御信号を送り、測定用信号SN1の出力を停止させる。以上より、周波数特性設定処理は終了する。
【0104】
次に、遅延特性設定処理について説明する。遅延特性設定処理は、信号処理部21の遅延回路33Aないし33Fの遅延量を設定する処理である。この処理により、遅延回路33Aないし33Fの遅延量が設定されると、DVDの再生時における各チャンネルの音声信号SAないしSFの遅延量が一致し、サラウンド再生が実現される。
【0105】
遅延特性設定処理は、システムコントローラ74および遅延特性制御部72によって行われる。遅延特性設定処理も、周波数特性設定処理と同様に、スピーカ4Aないし4Fの個々のスピーカごとに行われる。すなわち、システムコントローラ74は、信号処理部21のスイッチ31Aないし31Fを制御し、測定用信号SN2をスピーカ4Aないし4Fが接続された6個の経路に順次供給する。なお、測定用信号SN2は遅延特性を分析・設定するのに相応しい周波数帯域を有している。そして、遅延特性制御部72は、集音信号STに基づいて、各チャンネルの遅延特性を分析し、各チャンネルの遅延特性が等しくなるように、遅延回路33Aないし33Fに設定すべき遅延量を算定する。このようにして算定された遅延量を遅延制御信号DAないしDFとして遅延回路33Aないし33Fに出力する。これにより、当該遅延量が遅延回路33Aないし33Fに設定される。そして、遅延特性設定処理が終了したときには、メインコントローラ74は、測定用信号発生器12に制御信号を送り、測定用信号SN2の出力を停止させる。次に、音圧レベル設定処理について図16を参照して説明する。図16は音圧レベル設定処理を示している。音圧レベル設定処理は、可変増幅器14Aないし14Fの増幅率を設定する処理である。この処理により、可変増幅器14Aないし14Fの増幅率が設定されると、DVDの再生時における各チャンネル相互間の音声信号の音圧レベルが等しくなり、サラウンド再生が実現される。また、この音圧レベル設定処理では、スピーカ4Aないし4Fから出力される音声信号の音声レベルが、イコライザ32Aないし32Fのオン時とオフ時とで少なくとも聴感上等しくなるように、可変増幅器14Aないし14Fの増幅率を設定する。
【0106】
なお、この音圧レベル設定処理も、周波数特性設定処理および遅延特性設定処理と同様に、スピーカ4Aないし4Fの個々のスピーカごとに行われる。まず、スピーカ4Aについて音圧レベル設定処理が行われる。
【0107】
図16に示すように、メインコントローラ74は、イコライザ32Aに制御信号を送り、イコライザ32Aをオフにする(ステップS21)。
【0108】
次に、システムコントローラ74は、スイッチ31Aないし31Fを制御し、測定用信号SN3がスピーカ4Aの接続された経路のみに供給されるようにする。そして、システムコントローラ74は、測定用信号発生器12を制御して、測定用信号SN3を出力させる(ステップS22)。これにより、測定用信号SN3は、オフ状態のイコライザ32A等を介してスピーカ4Aに供給され、スピーカ4Aから出力される。
【0109】
ここで、測定用信号SN3の周波数帯域は、人間が聴感上、音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域、例えば、500kHzないし2kHzに設定されている。このように、測定用信号SN3の周波数帯域に、人間が聴感上の音圧レベルの変化を敏感に感じとる帯域を含ませることによって、音声信号の音圧レベルがイコライザ32Aないし32Fのオン時とオフ時とで聴感上等しくなるように、可変増幅器14Aないし14Fの増幅率を決定することができる。 スピーカ4Aから出力された測定用信号SN3は、マイク5に入力され、集音信号STとして信号処理ユニット11の制御部22内に設けられた増幅制御部73に供給される(図6参照)。
【0110】
増幅制御部73は、記憶部92に記憶された基準レベルを読み出し、集音信号STの音圧レベルがこの基準レベルと等しくなるように、可変増幅器14Aの増幅率を算出する(ステップS24)。そして、この増幅率をイコライザオフ用増幅率として記憶部92(図9参照)に記憶する(ステップS25)。
【0111】
次に、メインコントローラ74は、イコライザ32Aに制御信号を送り、イコライザ32Aをオンにする(ステップS25)。これにより、測定用信号SN3はオン状態のイコライザ32A等を介してスピーカ4Aに供給され、スピーカ4Aから出力され、さらに、マイク5等を介し、集音信号STとして増幅制御部73に供給される。
【0112】
次に、増幅制御部73は、記憶部92から基準レベルを再び読み出し、集音信号STの音圧レベルがこの基準レベルと等しくなるように、可変増幅器14Aの増幅率(以下、これを「イコライザオン用増幅率」という)を算出する(ステップ26)。
【0113】
次に、増幅制御部73は、このイコライザオン用増幅率を、記憶部92に記憶すると共に(ステップS27)、増幅制御信号AAとして可変増幅器14Aに出力する(ステップS28)。これにより、可変増幅器14Aの増幅率が、イコライザオン用増幅率に設定される。
【0114】
以上のステップS21ないしS28の処理を他のスピーカ4Bないし4Fについても実行し、全チャンネルについて処理が終わったときには(ステップS29:YES)、メインコントローラ74は、測定用信号発生器12に制御信号を送り、測定用信号SN3の発生を停止させる。以上により音圧レベル設定処理は終了する。
【0115】
ここで、上記音圧レベル設定処理では、すべてのチャンネルについてイコライザオフ用増幅率とイコライザオン用増幅率を算出する。イコライザオフ用増幅率は、イコライザ32Aないし32Fがオフのときにチャンネル相互間の聴感上の音圧レベルを等しくするための増幅率であり、イコライザオン用増幅率は、イコライザ32Aないし32Fがオンのときにチャンネル相互間の聴感上の音圧レベルを等しくするための増幅率である。また、イコライザオフ用増幅率およびイコライザオン用増幅率は、イコライザ32Aないし32Fのオン時とオフ時との間の聴感上の音圧レベルを等しくするための増幅率でもある。DVD再生時において、イコライザ32Aないし32Fをオフにすると、増幅制御部73の記憶部92に記憶されたイコライザオフ用増幅率が読み取られ、これらが増幅制御信号AAないしAFとして可変増幅器14Aないし14Fに出力される。これにより、可変増幅器14Aないし14Fには、イコライザオフ用増幅率が設定される。一方、DVD再生時において、イコライザ32Aないし32Fをオンにすると、増幅制御部73の記憶部92に記憶されたイコライザオン用増幅率が読み取られ、これらが増幅制御信号AAないしAFとして可変増幅器14Aないし14Fに出力される。これにより、可変増幅器14Aないし14Fには、イコライザオン用増幅率が設定される。この結果、イコライザ32Aないし32Fのオン・オフによって音声信号SAないしSFの聴感上の音圧レベルは変化しない。なお、上記音圧レベル設定処理では、イコライザ32Aないし32Fがオンになった状態で自動音場補正処理が終了するので、イコライザオン用増幅率を可変増幅器14Aないし14Fに設定している。
【0116】
以上より、実施例にかかるアンプ装置3によれば、周波数特性設定処理において、集音信号STの逆周波数特性(目標周波数特性)における固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを算定し、当該可変レベル帯域の相対レベルの値を用いて、イコライザ32Aないし32Fの各帯域のレベルを設定する構成としたから、固定レベル帯域における周波数成分のレベルを変化させることなく、音声信号SAないしSFの周波数特性を調整することができる。これにより、固定レベル帯域の周波数成分のレベルを設定する手段が不要となる。具体的には、図7に示すように、各イコライザ32Aないし32Fは各音声信号SAないしSFの周波数帯域を6個の帯域に分割するが、固定レベル帯域(500Hzないし2kHz)についてはレベル設定部が設けられていない。また、周波数特性設定処理においても、5個の可変レベル帯域について相対レベルを算出するのみである。また、周波数制御部73による各イコライザ32Aないし32Fに対するレベル制御も、5個の可変レベル帯域について行うのみである。このように、本実施例によれば、実質的には5帯域分の機構および処理によって、結果的には6帯域分の周波数特性設定処理を実現することができる。したがって、周波数分解能ひいては周波数特性調整精度を維持しながら、アンプ装置3の製造コストを低減させることができる。
【0117】
また、実施例にかかるアンプ装置3によれば、周波数特性設定処理における固定レベル帯域を500Hzないし2kHzに設定する構成としたから、イコライザ32Aないし32Fによって音声信号SAないしSFの周波数特性を変化させたときに、音声信号SAないしSFの聴感上の音圧レベルが変化する量を小さくすることができる。
【0118】
さらに、本実施態様によれば、イコライザ32Aないし32Fによって音声信号SAないしSFの聴感上の音圧レベルが大幅に変化しないので、イコライザ32Aないし32Fによって音声信号SAないしSFの聴感上の音圧レベルが大幅に減少するのを防止することができる。したがって、後段の可変増幅器14Aないし14Fで、音声信号SAないしSFを増幅する量を小さくすることができる。この結果、D/A変換器13Aないし13Fから生じるノイズが可変増幅器14Aないし14Fによって増幅されるのを抑えることができる。よって、音声信号SAないしSFと共にスピーカ4Aないし4Fから出力されるノイズを減少させることができ、高音質の音楽または映画再生を実現することができる。
【0119】
さらに、音声レベル設定処理において、音声信号の音圧レベルがイコライザ32Aないし32Fのオン時とオフ時とで等しくなるように、可変増幅器14Aないし14Fの増幅率を設定することとしたから、イコライザ32Aないし32Fのオン・オフによって音圧信号の音圧レベルが変化するのを防止することができる。さらに、音声レベル設定処理において、音声レベルの測定に用いる測定用信号SN3の周波数帯域を、人間が聴感上、音圧レベルの変換を敏感に感じとる領域に設定したから、イコライザ32Aないし32Fのオン時とオフ時との間に生じる音圧信号の音圧レベルの変動を聴感上なくすことができる。これにより、人間の聴感に影響を与える範囲で音圧レベルの変化を補正することができ、音圧レベル設定処理の効率化を図ることができる。なお、上述した実施例では、測定用信号SN3の周波数帯域を、500kHzないし2kHzとし、固定レベル帯域と一致させた。固定レベル帯域も測定用信号SN3の周波数帯域も、人間が聴感上の音圧レベルの変化を敏感に感じとる領域に設定すべき点で共通しているので、両者を一致させることが好ましい。しかし、両者を必ずしも一致させる必要はない。例えば、測定用信号SN3を中心周波数1kHzの信号としてもよい。
【0120】
なお、上述した実施例では、音声信号の周波数帯域を6個の帯域に分割し、周波数特性設定処理を行う場合を例に挙げたが、本発明はこれに限らない。周波数帯域の分割数は2以上であればいくつでもよい。また、各帯域の中心周波数も限定されない。さらに、上述した実施例では、周波数特性設定処理において、2以上の帯域をグルーピングする処理を行う場合を例に挙げたが、本発明は、グルーピング処理を行わない場合にも適用することができる。
【0121】
また、上述した実施例では、周波数特性設定処理において、各可変レベル帯域の相対レベルをレベル制御信号LAないしLFとしてイコライザ32Aないし32Fに出力する構成としたが、本発明はこれに限らず、各可変レベル帯域の相対レベルに何らかの演算処理(例えば、所定のオフセットを加える処理や、所定の定数を乗じる処理など)を行った結果得られたレベル値をレベル制御信号LAないしLFとしてイコライザ32Aないし32Fに出力する構成としてもよい。このような場合でも、固定レベル帯域のレベルを変えることなく、音声信号の周波数特性を目標周波数特性に一致させることができるのであれば、上述した本発明の効果を得ることができる。
【0122】
また、本発明は、請求の範囲および明細書全体から読み取るこのできる発明の要旨または思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う周波数特性調整装置および周波数特性調整方法並びにこれらの機能を実現するコンピュータプログラムもまた本発明の技術思想に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態における目標周波数特性および周波数特性調整装置によって設定された信号の周波数特性を示す特性線図である。
【図2】等ラウドネス曲線を示す特性線図である。
【図3】騒音計で用いられる周波数補正特性を示す特性線図である。
【図4】実施例におけるマルチチャンネルオーディオシステムの構成およびアンプ装置の構成を示すブロック図である。
【図5】実施例のマルチチャンネルオーディオシステムにおけるスピーカおよびマイクの位置を示す説明図である。
【図6】実施例における信号処理ユニットの構成を示すブロック図である。
【図7】実施例におけるイコライザの構成を示すブロック図である。
【図8】実施例における周波数特性制御部の構成を示すブロック図である。
【図9】実施例における増幅制御部の構成を示すブロック図である。
【図10】実施例における自動音場補正処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【図11】自動音場補正処理において行われる周波数特性設定処理を示すフローチャートである。
【図12】周波数特性設定処理の過程における集音信号の周波数特性を示す特性線図である。
【図13】周波数特性設定処理の過程においてグルーピング処理が行われたときの集音信号の周波数特性を示す特性線図である。
【図14】周波数特性設定処理の過程において集音信号の周波数特性の逆特性を示す特性線図である。
【図15】周波数特性設定処理の過程においてオフセット操作が行われたときのイコライザに設定すべき周波数特性(各帯域のレベル)を示す特性線図である。
【図16】自動音場補正処理において行われる音圧レベル設定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
3…アンプ装置(周波数特性調整装置)
12…測定用信号発生器(測定用信号発生手段)
14A〜14F…可変増幅器(レベル調整手段)
32A〜32F…イコライザ(調整手段)
51〜55…レベル設定部(調整手段)
71…周波数特性演算部(算定手段)
73…増幅制御部(レベル調整手段)

Claims (9)

  1. 音声信号の周波数特性を目標周波数特性と一致するように変化させる周波数特性調整装置であって、
    外部から入力された前記音声信号を受け取る受取手段と、
    前記受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割し、前記目標周波数特性における前記固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを、人間の聴感特性に応じて算定する算定手段と、
    前記算定手段により算定された前記各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる調整手段と、
    前記調整手段により前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力手段と
    前記受取手段に受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力手段によって出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力手段から出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整手段と
    を備え
    前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域である
    ことを特徴とする周波数特性調整装置。
  2. 外部から入力された音声信号を受け取る受取手段と、
    前記受取手段により受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域とに分割し、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のみのレベルを、人間の聴感特性に応じて強調または減衰させる調整手段と、
    前記調整手段により前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力手段と
    前記受取手段に受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力手段によって出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力手段から出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整手段と
    を備え、
    前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする周波数特性調整装置。
  3. 前記固定レベル帯域は、1kHzを含む所定の帯域であることを特徴とする請求項1または2に記載の周波数特性調整装置。
  4. 前記固定レベル帯域は、500Hzないし2kHzを含む所定の帯域であることを特徴とする請求項1または2に記載の周波数特性調整装置。
  5. 前記固定レベル帯域は、500Hzないし2kHzの帯域に含まれる所定の帯域であること特徴とする請求項1または2に記載の周波数調整装置。
  6. 人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じ取る所定の周波数帯域を有する測定用信号を前記受取手段に出力する測定用信号発生手段を備えたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の周波数特性調整装置。
  7. コンピュータを請求項1ないしのいずれかに記載の周波数調整装置として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。
  8. 音声信号の周波数特性を目標周波数特性と一致するように変化させる周波数特性調整方法であって、
    外部から入力された前記音声信号を受け取る受取工程と、
    前記受取工程において受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域に分割し、前記目標周波数特性における前記固定レベル帯域のレベルを基準とした各可変レベル帯域の相対レベルを、人間の聴感特性に応じて算定する算定工程と、
    前記算定工程において算定された前記各可変レベル帯域の相対レベルに基づいて、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のレベルを強調または減衰させる調整工程と、
    前記調整工程において前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力工程と
    前記受取工程において受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力工程において出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力工程において出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整工程と
    を備え
    前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域である
    ことを特徴とする周波数特性調整方法。
  9. 外部から入力された音声信号を受け取る受取工程と、
    前記受取工程において受け取られた音声信号の周波数帯域を1の固定レベル帯域と1または複数の可変レベル帯域とに分割し、前記音声信号における前記各可変レベル帯域のみのレベルを、人間の聴感特性に応じて強調または減衰させる調整工程と、
    前記調整工程において前記各可変レベル帯域のレベルの強調または減衰が施された前記音声信号を出力する出力工程と
    前記受取工程において受け取られる前の音声信号のレベルと前記出力工程において出力された後の音声信号のレベルとが等しくなるように、前記出力工程において出力された音声信号のレベルを調整するレベル調整工程と
    を備え、
    前記固定レベル帯域は、人間が聴感上音圧レベルの変化を敏感に感じとる所定の帯域であることを特徴とする周波数特性調整方法。
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