[基本実施例]
まず、本発明によるイコライザの周波数帯域(「バンド」とも呼ぶ。)数変換の基本的な実施例について説明する。以下、例として、9バンドのイコライザパラメータを用いて、5バンドのイコライザパラメータを作成する場合について説明する。
図1(A)に、9バンドのイコライザ特性の例を示す。図示のように、9個のバンドの各中心周波数は、63Hz、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHz、4kHz、8kHz及び16kHzとなっている。各バンド毎のイコライザパラメータにより規定されるレベルL91〜L99が、各バンドに対応する棒グラフで示されている。このイコライザ特性は、さらに全周波数帯域のレベル(「全帯域レベル」とも呼ぶ。)L9Wを含んでいる。全帯域レベルL9Wは、全帯域レベル調整パラメータにより規定される。即ち、このイコライザ特性は、全帯域レベル調整パラメータにより規定される全帯域レベルL9Wと、各バンドのイコライザパラメータにより規定されるレベルL91〜L99により規定されている。
図1(A)において、グラフ201は、図示の9バンドのイコライザパラメータ及び全帯域レベル調整パラメータにより規定される周波数特性を示している。9バンドのイコライザパラメータは、9バンドのイコライザを用いた自動音場測定処理により得ることができる。自動音場測定処理とは、リスニングルームなどの音場にマイク及び複数のスピーカを設置し、所定の測定用信号をスピーカから出力するとともにマイクで集音して、当該音場の特性を測定する処理である。
いま、この9バンドのイコライザパラメータによる周波数特性201を、装置のハードウェア上の制約などの理由により、5バンドのイコライザで実現すると仮定する。詳細は後述するが、5バンドのイコライザを用いる場合、実質的に6バンド分のイコライザを実現することができる。即ち、6バンドのうち1つのバンドを基準バンドとしてそのレベルを0dBとし、他の残りの5バンドのイコライザパラメータを基準バンドとの相対レベルに基づいて設定することにより、5バンドのイコライザで実質的に6バンド分の周波数特性を制御することができる。従って、以下、6バンドの分析について説明する。
この場合、6バンドのイコライザ特性の例を図1(B)に示す。この例では、6個のバンドの中心周波数は、63Hz、125Hz、250Hz、1kHz、4kHz及び11.3kHzとなっており、各バンドのレベルはL51〜L56となっている。また、全帯域レベル調整パラメータにより規定されるレベルはL5Wとなっている。このように、少ないバンド数のイコライザでも、以下に述べる方法によって各バンドのイコライザパラメータを適切に設定することにより、9バンドのイコライザで得られた周波数特性201を忠実に実現することができる。本発明では、このように、あるバンド数のイコライザパラメータにより得られた周波数特性を、それとは異なるバンド数のイコライザで実現する際に、全帯域レベルの調整を適切に行う。具体的に、上記の例では、図1(A)に示す9バンドのイコライザパラメータ及び全帯域レベル調整パラメータに基づいて、図1(B)に示す5バンドのイコライザパラメータ及び全帯域レベル調整パラメータを算出する。
図2は、本発明によるイコライザのバンド数変換処理を概略的に示すブロック図である。いま、バンド数変換を行う際の前提として、9バンドのイコライザパラメータが既に取得されているものとする。基本的に、バンド数変換処理は、9バンドのイコライザパラメータに基づいて周波数特性を決定する第1のステップと、得られた周波数特性を実現するように、5バンドのイコライザパラメータを決定する第2のステップと、全帯域レベル調整パラメータを変換する第3のステップと、を備える。
図2(A)に第1のステップのための構成を概略的に示す。9バンドイコライザ111には、上記のように、予め取得された9バンドのイコライザパラメータが設定されている。これに対し、ピンクノイズ発生器110は、測定用信号としてのピンクノイズを生成し、9バンドイコライザ111に供給する。これにより、9バンドイコライザ111からの出力信号は、9バンドのイコライザパラメータにより規定される周波数特性を有するものとなる。
次に、6バンド分析部112は、9バンドイコライザ111の出力信号を、9バンドより少ない6バンドで分析する。この場合の6バンドは、例えば図1(B)に示す6バンドとすることができる。そして、6バンド分析部112は、9バンドイコライザ111からの出力信号の各バンド毎のレベルを、分析レベル値として出力する。この分析レベル値は、第2のステップにおける5バンドのイコライザパラメータ調整の目標値となる。こうして、分析レベル値が得られると、第2のステップへ進む。
図2(B)は第2のステップのための構成を概略的に示す。ここで、第1のステップで得られた分析レベル値は、5バンドパラメータ設定部123へ目標値として入力されている。第2のステップは、図2(B)における5バンドイコライザ121のイコライザパラメータを設定する処理である。即ち、第1のステップで得られた、9バンドイコライザに基づく周波数特性の分析レベル値を目標値として、それと同じ周波数特性が得られるように5バンドイコライザ121のパラメータを設定するのである。
具体的には、まず、ピンクノイズ発生器120は測定用信号としてのピンクノイズを5バンドイコライザ121へ入力する。5バンドイコライザ121において、最初は各バンドのイコライザパラメータは初期値に設定されている。よって、5バンドイコライザ121は、入力されたピンクノイズを、初期値に対応する特性で処理し、出力信号を6バンド分析部122へ供給する。
6バンド分析部122は、5バンドイコライザ121の出力信号を6バンドで分析する。この6バンドは、例えば図1(B)に示す6バンドとする。6バンドの分析結果の一例を図3(A)に示す。各バンド毎に信号レベルが決定されている。6バンドの分析結果は、5バンドパラメータ設定部123へ送られる。
5バンドパラメータ設定部123は、6バンドの分析結果に基づいて、5バンドのイコライザパラメータを決定する。具体的には、分析結果として得られる6バンド分のレベルのうち、1つのバンドを基準バンドとし、基準バンドのイコライザのレベルを0dBとする。そして、残りの5バンドについて、各々のレベルに対応するイコライザパラメータを設定する。
これについて、詳しく説明する。いま、6バンド分析部122から出力される6バンドの分析結果が図3(A)に示すものとする。5バンドパラメータ設定部123は、6バンドの分析結果、即ち6バンドの各レベルのうち、0dBに最も近いレベルを有するバンドを「基準バンド」とし、基準バンドの相対レベルを0dBに設定する。そして、他の5バンドについては、各バンドのレベルから基準バンドのレベルを減算したものを各バンドの相対レベルとする。図3(A)の例から算出した各バンドの相対レベルを図3(B)に示す。
そして、5バンドパラメータ設定部123は、相対レベルに基づいて、5バンドのイコライザパラメータを設定する。上記のように、基準バンドは、その相対レベルを0dBとすることにより、イコライザパラメータを不要とすることができる。よって、5バンドパラメータ設定部123は、基準バンド(本例では中心周波数4kHzのバンド)を除く5つのバンドについて、それぞれ相対レベルに対応するパラメータを設定する。こうして、5つのイコライザを用いて、実質的に6バンド分の周波数特性の調整を行うことができる。
こうして設定された5バンド分のイコライザパラメータは、5バンドイコライザ121に設定される。そして、再度ピンクノイズ発生器120からピンクノイズが供給され、5バンドイコライザ121は設定されたパラメータに対応する周波数特性を有する出力信号を6バンド分析部122へ供給する。そして、6バンド分析部122はその周波数特性を分析し、5バンドパラメータ設定部123は分析結果を用いて再度5バンドのイコライザパラメータを設定する。この処理を、所定回数であるX回実行し、5バンドのイコライザパラメータが得られる。
なお、このように処理を所定回数繰り返す間に、5バンドパラメータ設定部123により決定される基準バンドは常に同一のバンドであるとは限らない。例えば、初期設定による5バンドイコライザ111の設定によれば基準バンドが中心周波数4Hzのバンドであったとしても、その後のパラメータの再設定により、6バンド分析部122による分析結果において最も0dBに近いレベルを有するバンドが他のバンドとなれば、そのバンドが基準バンドとなって、新たに5バンドのイコライザパラメータが設定されることになる。
次に、第3のステップとして、全帯域レベル調整パラメータの変換が実行される。図4は、図1(A)に示すイコライザ特性における全帯域レベルの詳細を示している。図示のように、全帯域レベル調整パラメータにより規定される全帯域レベルL9Wは、イコライザ(EQ)レベル変動量L9WBと、ユーザ調整量L9WUとを含んでいる。ここで、「イコライザレベル変動量」とは、複数バンドのイコライザによる全帯域レベルの変動分である。例えば、まず全帯域レベルを0dBとして周波数特性をフラットにした後、複数バンドのイコライザのパラメータを変更して任意の特性を設定した場合、イコライザパラメータの変更により各バンドのレベルが変化することに起因して、全帯域レベルが変動する。図4の例で言えば、イコライザレベル変動量L9WBは、9バンドのイコライザパラメータの設定による9バンドのレベルL91〜L99により生じる全帯域レベルの変動分に相当する。即ち、9バンドのレベルがL91〜L99に設定されたことにより、本来は0dBでフラットであった特性が変動した分である。
一方、「ユーザ調整量」とは、ユーザが入力装置などを操作して全帯域レベルを変更した分である。即ち、ユーザ調整量は、ユーザが好みの特性を得るために全帯域レベルを調整した調整量である。よって、全帯域レベルは、ユーザが任意の調整を行わず、ユーザ調整量がゼロである場合には、イコライザレベル変動量と一致する。
さて、上記のようにバンド数変換を行うと、変換後のバンド数のイコライザパラメータが得られる。上記の例では、9バンドから5バンドへのバンド数変換により、5バンドのイコライザパラメータが決定される。ここで、変換後の5バンドのイコライザパラメータによるイコライザレベル変動量は、変換前の9バンドのイコライザパラメータによるイコライザレベル変動量とは当然に異なる。そこで、本発明では、変換後のイコライザレベル変動量と、変換前のユーザ調整量とに基づいて、変換後の全帯域レベルを決定する。
図5は、バンド数変換前後の全帯域レベルの関係を模式的に示す。図5に示すように、変換前の9バンドのイコライザ特性における全帯域レベルPEは、変換前の9バンドのイコライザレベル変動量PCと、ユーザ調整量PFの和である。よって、変換前の9バンドのイコライザレベル変動量PCを計算し、変換前の全帯域レベルPEから減算すれば、ユーザ調整量PFが得られる。
一方、バンド数変換により5バンドのイコライザパラメータが得られるので、変換後の5バンドのイコライザレベル変動量PDを計算することができる。よって、変換後のイコライザレベル変動量PDに、ユーザ調整量PFを加算することにより、変換後の全帯域レベルPGを得ることができる。変換後の全帯域レベル調整パラメータは、変換後の全帯域レベルPGを示すものとなる。図5から明らかなように、この全帯域レベル調整パラメータは、ユーザが好みによって調整した分であるユーザ調整量を含んでいる。よって、本実施例によるバンド数変換によれば、各バンドのレベルを適切に変換するのみならず、変換前後における全帯域レベルも適切に設定することができる。特に、変換前にユーザが任意に全帯域レベルを調整している場合には、その調整分を変換後の全帯域レベルに正確に反映することができる。
[実施例]
次に、本発明に係るイコライザバンド数変換装置の好適な実施例について説明する。以下の実施例は、本発明のイコライザバンド数変換装置を、マルチチャンネルオーディオシステムにおけるマルチチャンネルアンプ装置(以下、単に「アンプ装置」と呼ぶ。)に適用した例である。
まず、マルチチャンネルオーディオシステムの構成について図6および図7を参照して説明する。
図6はマルチチャンネルオーディオシステムの構成およびアンプ装置の構成を示している。図7はマルチチャンネルオーディオシステムにおけるスピーカおよびマイクの配置を示している。
マルチチャンネルオーディオシステム1は、例えば5.1サラウンドのマルチチャンネル再生を実現することができるオーディオシステムである。図6に示すように、マルチチャンネルオーディオシステム1は、DVDプレーヤ2、アンプ装置3、例えば6個のスピーカ4A〜4F、およびマイク5を備えている。
DVDプレーヤ2は、DVDに記録された音声データを再生し、音声データに対応する音声信号SA〜SFを出力する情報再生装置である。DVDプレーヤ2は、マルチチャンネル再生に対応している。したがって、マルチチャンネル再生に対応した音声データがDVDに記録されているときには、DVDプレーヤ2は例えば6チャンネルの音声信号SA〜SFを出力する。なお、DVDプレーヤ2から出力される音声信号SA〜SFは、アナログ信号でもデジタル信号でもよいが、本実施例におけるDVDプレーヤ2はデジタル信号の音声信号SA〜SFを出力するものとする。
アンプ装置3は、マルチチャンネル対応の音声出力制御装置である。アンプ装置3は、DVDプレーヤ2から出力された6チャンネルの音声信号SA〜SFを受け取り、これら音声信号SA〜SFの周波数特性、遅延特性および音圧レベル等を調整し、さらに、これら音声信号SA〜SFをチャンネルごとに6個のスピーカ4A〜4Fに分配して出力する。また、アンプ装置3は、自動音場補正処理を行う機能を有している。自動音場補正処理とは、各チャンネルの音声信号SA〜SFの周波数特性、遅延特性および音圧レベルを自動的に設定する機能である。
アンプ装置3には6個のスピーカ4A〜4Fが接続されている。6個のスピーカ4A〜4Fは、具体的には、左側フロントスピーカ4A、右側フロントスピーカ4B、センタスピーカ4C、サブウーファー4D、左側リアスピーカ4E、右側リアスピーカ4Fである。これらのスピーカ4A〜4Fは、図7に示すように配置されている。スピーカ4A〜4Fをこのように配置することにより、サラウンド再生を実現することができる。
また、図6に示すように、アンプ装置3にはマイク5が接続されている。マイク5は、アンプ装置3が自動音場補正処理を行うときに用いられるものである。マイク5は、図7に示すように、自動音場補正処理を行うときには、各スピーカ4A〜4Fの配置された領域の中央に置かれる。
次に、アンプ装置3の構成について図6を参照して説明する。図6に示すように、アンプ装置3は、信号処理ユニット11、測定用信号発生器12、6個のD/A(デジタル/アナログ)変換器13A〜13F、6個の可変増幅器14A〜14F、増幅器15、およびA/D(アナログ/デジタル)変換器16を備えている。
信号処理ユニット11は、DVDプレーヤ2からアンプ装置3に入力された音声信号SA〜SFの周波数特性、遅延特性および音圧レベルを設定・調整する回路群である。
測定用信号発生器12は、自動音場補正処理を実行するときに用いられるものである。自動音声補正処理を行うとき、測定信号発生器12は、測定用信号SN1〜SN3を生成し、これを信号処理ユニット11に出力する。なお、測定用信号SN1〜SN3は、例えばピンクノイズである。
D/A変換器13A〜13Fは、信号処理ユニット11から出力された音声信号SA〜SF(デジタル信号)をアナログ信号にそれぞれ変換する回路である。
可変増幅器14A〜14Fは、D/A変換器13A〜13Fから出力された音声信号SA〜SFを増幅する回路である。可変増幅器14A〜14Fの増幅率は、信号処理ユニット11内の制御部22に設けられた増幅制御部73から出力される増幅制御信号AA〜AFによって制御される。
増幅器15は、自動音場補正処理を行うときに、マイク5から出力される集音信号を増幅する回路である。
A/D変換器16は、自動音場補正処理を行うときに、マイク5から出力され、増幅器15によって増幅された集音信号(アナログ信号)をデジタル信号に変換し、これを集音信号STとして信号処理ユニット11に供給する回路である。
次に、信号処理ユニット11の構成について図8〜図10を参照して説明する。
図8は信号処理ユニット11の構成を示している。図8に示すように、信号処理ユニット11は、信号処理部21および制御部22を備えている。
信号処理部21は、DVDプレーヤ2からアンプ装置3に出力された音声信号SA〜SFの周波数特性および遅延特性を設定・調整する回路群である。信号処理部21は、6個のスイッチ31A〜31F、6個のイコライザ32A〜32F、および6個の遅延回路33A〜33Fを備えている。
スイッチ31A〜31Fは、信号処理部21に入力すべき信号を、DVDプレーヤ2から出力された音声信号SA〜SFとするか、測定用信号発生器12から出力された測定用信号SN1〜SN3とするかを選択するためのスイッチである。自動音場補正処理を行うときには、スイッチ31A〜31Fにおける図8中の上側に位置する入力端子と出力端子とを接続する。これにより、測定用信号SN1〜SN3が信号処理部21に供給される。一方、DVDを再生するときには、スイッチ31A〜31Fにおける図8中の下側に位置する入力端子と出力端子とを接続する。これにより、音声信号SA〜SFが信号処理部21に供給される。スイッチ31A〜31Fの切換は、制御部22に設けられたメインコントローラ74によって制御される。
イコライザ32A〜32Fは、音声信号SA〜SFの周波数特性をそれぞれ設定する回路である。イコライザ32A〜32Fは、制御部22に設けられた周波数特性制御部71から出力されるレベル制御信号LA〜LFによってそれぞれ制御される。
図9は、6個のイコライザ32A〜32Fのうちの1個であるイコライザ32Aの構成を示している。図9に示すように、イコライザ32Aは、6個のバンドパスフィルタ41〜46、6個のレベル設定部51〜56、および合成器61を備えている。なお、図9のイコライザ32Aは6個のバンドバスフィルタ41〜46を備えているが、そのうちの1つは基準バンドに設定され、レベルが0dBとされる一方、他の5つのバンドは基準バンドのレベルに対する相対レベルが設定される。よって、6バンドからなる周波数特性を規定するが、イコライザのパラメータ自体は5つで良いため、「5バンドのイコライザ」と呼ぶこととする。
バンドパスフィルタ41〜46のそれぞれは、音声信号SAにおける所定の周波数成分のみを通過させ、他の周波数成分を遮断するフィルタ回路である。具体的には、バンドパスフィルタ41は、音声信号SAにおける11.3kHz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ42は、音声信号SAにおける4kHz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ43は、音声信号SAにおける250Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ44は、音声信号SAにおける125Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ45は、音声信号SAにおける63Hz付近の周波数成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ46は、音声信号SAにおける500Hz〜2kHz付近(中心周波数は1kHz)の周波数成分のみを通過させる。
レベル設定部51〜56は、バンドパスフィルタ41〜46を通過した音声信号SAの周波数成分のレベルを実際に設定する回路である。レベル設定部51〜56は、周波数特性制御部71から出力されるレベル制御信号LA1〜LA6(これらの信号はレベル制御信号LAに含まれている)によってそれぞれ制御される。具体的には、レベル設定部51〜56によって音声信号SAのそれぞれの周波数成分に設定すべきレベルは、レベル制御信号LA1〜LA6によって定められる。このレベル制御信号LA1〜LA6に基づいてレベル設定部51〜56に設定されるレベル制御値は、各バンドのイコライザパラメータに相当する。
合成器61は、レベル設定部51〜56から出力された音声信号SAのそれぞれの周波数成分を合成する回路である。合成器61により合成された音声信号SAは、遅延回路33A(図8参照)に出力される。
図9に示すように、バンドパスフィルタ41〜46の後段にはレベル設定部51〜56が設けられている。したがって、バンドパスフィルタ41〜46によって分割された音声信号SAのそれぞれの周波数成分は、レベル設定部51〜56によってそれぞれのレベルがレベル制御信号LA1〜LA6に基づいて変更された後に、合成器61に供給される。
以上、図9に基づいてイコライザ32Aについて説明したが、イコライザ32B〜32Fも同様の構成を有する。
図8に戻り、遅延回路33A〜33Fは、イコライザ32A〜32Fから出力された音声信号SA〜SFの遅延特性をそれぞれ調整する回路である。遅延回路33A〜33Fは、制御部22に設けられた遅延制御部72から出力される遅延制御信号DA〜DFによってそれぞれ制御され、遅延後の出力信号SIA〜SIFを出力する。
一方、制御部22は、主として自動音場補正処理の制御を行う回路群である。具体的には、制御部22は、自動音場補正処理において、音声信号SA〜SFに設定すべき周波数特性(各周波数成分におけるレベル)、遅延特性(遅延量)および音圧レベル(増幅率)を算定し、これら算定結果に基づいて信号処理部21のイコライザ32A〜32F、遅延回路33A〜33Fおよび可変増幅器14A〜14Fを制御する。図8に示すように、制御部22は、周波数特性制御部71、遅延制御部72、増幅制御部73およびメインコントローラ74を備えている。
図10は周波数特性制御部71の構成を示している。周波数特性制御部71は、音声信号SA〜SFに設定すべき周波数特性を算定し、この算定結果に基づいて信号処理部21のイコライザ32A〜32Fを制御する回路群である。図10に示すように、周波数特性制御部71は、バンドパスフィルタユニット81および周波数特性演算部82を備えている。
バンドバスフィルタユニット81は、集音信号STを6個の帯域に分割する回路である。自動音場補正処理が行われるとき、バンドバスフィルタユニット81には、マイク5、増幅器15およびA/D変換器16を介して信号処理ユニット11に供給された集音信号ST(図6参照)が入力される。バンドパスフィルタユニット81には、中心周波数が例えば63Hz、125Hz、250Hz、1kHz、4kHz、11.3kHzにそれぞれ設定された6個のバンドパスフィルタ(図示せず)が設けられている。バンドパスフィルタユニット81に入力された集音信号STは、これら6個のバンドパスフィルタによって6個の周波数成分に分割され、周波数特性演算部82に出力される。
一方、本発明に係るイコライザバンド数変換処理が行われるとき、バンドバスフィルタユニット81には、集音信号STの代わりに、遅延回路33A〜33Fからの出力信号SIA〜SIFが入力される。すなわち、イコライザバンド数変換処理においては、各チャンネルの信号SIA〜SIFは信号処理ユニット11内で周波数特性制御部71へ供給される。このため、イコライザバンド数変換処理においては、音声信号はスピーカ4A〜4Fから出力されることはなく、図6に示すD/A変換器13A〜13F、可変増幅器14A〜14F、スピーカ4A〜4F、マイク5、増幅器15及びA/D変換器16は不要となる。
周波数特性演算部82は、音声信号SA〜SFに設定すべき周波数特性を実際に算定する回路である。周波数特性演算部82は、例えば演算処理用のMPU、演算処理に用いられる係数テーブルなどを記憶したメモリなど(いずれも図示せず)を備えている。具体的には、自動音場補正処理を行うときは、周波数特性演算部82は、バンドパスフィルタユニット81から出力された集音信号STの各周波数成分を用いて、イコライザ32A〜32Fを制御するためのレベル制御信号LA〜LFを生成し、これらをイコライザ32A〜32Fに出力する。
一方、本発明によるイコライザバンド数変換処理を行うときは、周波数特性演算部82は、遅延回路33A〜33Fから入力された信号SIA〜SIFの各周波数成分を用いて、イコライザ32A〜32Fを制御するためのレベル制御信号LA〜LFを生成し、これらをイコライザ32A〜32Fに出力する。具体的には、遅延回路33Aから入力された信号SIAをバンドパスフィルタユニット81が6個の帯域に分割する。そして、周波数特性演算部82は、9バンドイコライザの周波数特性に基づいて得られた分析レベル値(目標値)と一致するように、レベル制御信号LA1〜LA6を生成し、イコライザ32Aに供給する。
図8に戻り、遅延制御部72は、音声信号SA〜SFに設定すべき遅延特性(遅延量)を算定し、この算定結果に基づいて信号処理部21の遅延回路33A〜33Fを制御する回路群である。具体的には、遅延制御部72は、集音信号STを用いて、遅延回路33A〜33Fを制御するための遅延制御信号DA〜DFを生成し、これらを遅延回路33A〜33Fに出力する。
増幅制御部73は、音声信号SA〜SFに設定すべき音圧レベル(増幅率)を算定し、この算定結果に基づいて可変増幅器14A〜14F(図6参照)を制御する回路群である。具体的には、増幅制御部73は、集音信号STを用いて、可変増幅器14A〜14Fを制御するための増幅制御信号AA〜AFを生成し、これらを可変増幅器14A〜14Fに出力する。
メインコントローラ74は、周波数特性制御部71、遅延制御部72および増幅制御部73の制御、並びに信号処理部21のスイッチ31A〜31Fの切換制御などを行う。メインコントローラ74は、CPU、ROMおよびRAM等の演算回路および記憶回路を備えている。
次に、上記のマルチチャンネルアンプ装置におけるイコライザバンド数変換処理について説明する。なお、イコライザバンド数変換処理は、測定用信号発生器12からの測定用信号を利用して、信号処理ユニット11内部で実行される。図11はイコライザバンド数変換処理のフローチャートである。この処理の前提として、9バンドのイコライザパラメータが既に取得されているものとする。また、以下の処理は、各チャンネルの信号について別個に実行される。
まず、既に取得されている9バンドのイコライザパラメータがイコライザ32に設定される(ステップS101)。なお、図9に示すように、本実施例では各チャンネルのイコライザ32A〜32Fはそれぞれ6個のバンドパスフィルタしか備えていない。このような場合には、1つのチャンネルの処理において、2つのイコライザ同時に使用することにより、9バンドのイコライザを構成することができる。以下の説明では、イコライザ32A及び32Bを用いて9バンドのイコライザを構成するものとする。即ち、イコライザ32A及び32Bの合計12個の帯域のうち9帯域を用いて9バンドイコライザを構成するものとする。この場合、周波数特性制御部71は、既に取得されているイコライザパラメータに基づいて、レベル制御信号LA1〜LA6などを生成し、各バンドのレベル制御部51〜56などへ供給する。
こうして、9バンドのイコライザに対してイコライザパラメータが設定されると、次に、測定用信号発生部12から測定用信号としてのピンクノイズが生成され、スイッチ31A及び31Bを介して、9バンドイコライザを構成するイコライザ32A及び32Bに供給される。イコライザ32A及び32Bにより構成される9バンドイコライザは、設定されたレベルに応じてバンド毎にピンクノイズのレベルを制御し、制御後の信号を遅延回路33A及び33Bに供給する(ステップS102)。なお、イコライザバンド数変換処理では遅延回路による遅延は不要であるので、実際には遅延回路33A及び33Bは入力信号をそのまま信号SIA及びSIBとして出力する。
信号SIA及びSIBは合成器35により合成され、合成信号S9が集音信号STの代わりに周波数特性制御部71へ直接供給される。こうして、予め用意された9バンドのイコライザパラメータにより規定される周波数特性が得られる。なお、本実施例では、上記の合成器35はイコライザバンド数変換処理において、イコライザ32A及び32Bを利用して一時的に9バンドイコライザを構成するために使用されるものである。
次に、周波数特性制御部71は、9バンドのイコライザにより処理された出力信号である合成信号S9を6バンドで分析し、各バンドのレベル、即ち分析レベル値を取得する(ステップS103)。こうして得られた分析レベル値は、例えばメインコントローラ74内に一時的に保存される。この分析レベル値は、5バンドのイコライザパラメータを設定する際の目標値となる。
次に、上記の分析レベル値を目標値として、5バンドのイコライザパラメータを設定する(ステップS104)。この処理を図12に示す。まず、周波数特性制御部71は、イコライザ32Aに対して、イコライザパラメータ、即ちレベル制御値の初期値を設定する(ステップS111)。なお、ここでは、イコライザ32Aの6個のバンドのうち、1つのバンドは基準バンドであり、そのレベル制御値は0dBとされる。
次に、測定用信号発生器12からピンクノイズを発生してイコライザ32Aに供給し(ステップS112)、その出力を遅延回路33Aを通過させて周波数特性制御部71へ入力する。そして、周波数特性制御部71は、イコライザ32Aからの出力を6バンドで分析する(ステップS113)。そして、周波数特性制御部71は、その6バンドの分析結果と、予めメインコントローラ74に記憶していた分析レベル値(目標値)とを用いて、5バンドのイコライザパラメータを設定する(ステップS114)。このとき、周波数特性制御部71は前述のように6バンドのうち、もっともレベルが0dBに近いバンドを基準バンドとし、そのイコライザパラメータを0dBにするとともに、他の5つのバンドのイコライザパラメータを基準バンドのレベルとの相対レベルに基づいて決定する。
こうして決定された5バンドのイコライザパラメータはイコライザ32Aに設定され、ステップS111〜S114の処理が再度行われる(ステップS115)。そして、ステップS111〜S114の処理を所定回数Y回繰り返し(ステップS115;Yes)、得られた5バンドのイコライザパラメータをバンド数変換後のイコライザパラメータとして出力する(ステップS116)。
図11へ戻り、次に、全帯域レベル調整パラメータの決定処理が行われる。全帯域レベル調整パラメータの決定処理のフローチャートを図13に示す。この処理は、主として図8に示す制御部22内のメインコントローラ74により実行される。
まず、メインコントローラ74は、周波数特性制御部71を制御してイコライザ32A〜32Fのイコライザ特性をフラットとし、測定用信号発生器12から基準ノイズを生成して各イコライザに入力する。そして、信号処理ユニット11内でイコライザ32A〜32Fから出力される基準ノイズのパワーPAを測定する(ステップS151)。具体的には、メインコントローラ74は、イコライザ32の出力信号に基づいてパワーPAを測定する。即ち、イコライザ32から出力される基準ノイズは後段のD/A変換器13、可変増幅器14、スピーカ4などには送られず、制御部22へ直接供給される。なお、パワーPAは固定値となる。
次に、メインコントローラ74は、前述のようにイコライザ32A及び32Bを利用して、予め用意された9バンドのイコライザパラメータを9バンドのイコライザに設定し、同様に測定用信号発生器12から基準ノイズを供給する。そして、9バンドのイコライザから出力される基準ノイズのパワーPBを測定する(ステップS152)。
次に、メインコントローラ74は、イコライザ特性をフラットとしたときのパワーPAと、9バンドのイコライザパラメータを設定したときのパワーPBの差を計算することにより、図5に示す9バンドのイコライザレベル変動量PCを算出する(ステップS153)。
次に、メインコントローラ74は、9バンドのイコライザパラメータが設定されているときの実際の全帯域レベルPEから、9バンドのイコライザレベル変動量PCを減算することにより、図5に示すようにユーザ調整量PFを算出する(ステップS154)。なお、9バンドのイコライザパラメータが設定されているときの全帯域レベルPEは、ユーザが調整した後の全帯域レベルを記憶しておいたものである。
次に、メインコントローラ74は、バンド数変換後の5バンドのイコライザパラメータをイコライザ32Aなどに設定し、測定用信号発生器12から基準ノイズを与えて5バンドのイコライザパラメータを設定した場合の基準ノイズのパワーPdを求める(ステップS155)。そして、パワーPdと、ステップS151で得られたパワーPAとの差を計算することにより、5バンドのイコライザレベル変動量PDを算出する(ステップS156)。
次に、図5に示すように、メインコントローラ74は、ステップS154で得られたユーザ調整量PFと、ステップS156で得られた5バンドのイコライザレベル変動量PDを過加算して、5バンドの全帯域レベルPGを決定し、対応する全帯域レベル調整パラメータを決定する(ステップS157)。こうして得られた全帯域レベル調整パラメータは、図5に示すように、9バンドのイコライザ使用時にユーザが設定したユーザ調整量を含んでいる。よって、イコライザのバンド数の変換後も、ユーザの調整分を含んだ全帯域レベルが決定されることになる。
全帯域レベル調整パラメータ設定処理が終了すると、イコライザバンド数変換処理が完了する。こうして決定された全帯域レベル調整パラメータは、例えば増幅制御部73を通じて図6に示す可変増幅器14A〜14Fに設定される。
なお、上記の実施例では、メインコントローラ74が、本発明におけるイコライザパラメータ変換手段、ユーザ調整量算出手段、変換前及び変換後イコライザレベル変動量算出手段、及び、全帯域レベル調整パラメータ変換手段として機能する。
[変形例]
上記の実施例では、9バンドのイコライザパラメータの周波数特性を得る際に、イコライザ32A及び32Bを利用しているが、その代わりに、信号処理ユニット内に、イコライザ32A〜32Fとは別個に9バンドのイコライザを設けることとしてもよい。
また、上記のイコライザバンド数変換処理を、所定の条件下でのみ実行することとしてもよい。具体的には、A個(Aは2以上の整数)のバンドのイコライザパラメータを、B個(Bは2以上の整数)のバンドに変換する場合、A個のバンドのイコライザパラメータのうちの(A−B)個以上のパラメータが0dBである場合には、上記のイコライザバンド数変換処理は行なわず、0dB以外のパラメータをそのままBバンドのイコライザパラメータとして使用する。例えば、上記の例で、イコライザバンド数を9バンドから5バンドへ変換する場合、元の9バンドのイコライザパラメータのうち4個以上が0dBであれば、それらを除いた残りの5個のイコライザパラメータをそのまま5バンドのイコライザパラメータとして使用すればよい。
また、上記の例では、変換後のバンド数が変換前のバンド数より減少する場合となっているが、逆に変換後のバンド数が変換前のバンド数より増加するように変換を行うこともできる。この場合も、変換前のバンド数のイコライザパラメータにより規定される周波数特性を目標として、変換後のバンド数のイコライザパラメータを設定する処理を実行すればよい。