以下、本発明の医療機器をカテーテルに適用した実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。本明細書では、「医療機器の縦断面」とは、医療機器(各実施形態ではカテーテル)を、その中心軸を通って長手方向に平行に切断した断面をいう。「医療機器の横断面」とは、医療機器を径方向に平行に切断した断面をいう。カテーテルの一部材である管状本体、コイル層、内層等の縦断面に関しても同様である。また、「コイル状のワイヤ」の「縦断面における断面形状」とは、ワイヤをコイル状に巻回した状態での、医療機器の縦断面におけるワイヤの断面形状をいう。
これに対して、「横断面形状が非円形」の「ワイヤ」とは、コイル状とする前の、長尺なワイヤを、当該ワイヤの幅方向(ワイヤの延在方向に対する直交方向)に切断したときの断面形状をいう。
〔第1の実施形態〕
図1は第1の実施形態に係るカテーテル100における管状本体10の先端部の側断面図である。図1の左方がカテーテル先端側にあたり、右方が手元側(基端側)にあたる。カテーテルの先端を遠位端DEともいい、基端を近位端CEともいう。ただし、図1においてはカテーテル100の近位端CEは図示を省略している。なお、図6に、本実施形態のカテーテル100の全体図および動作図を示している。図6の詳細な説明は後述する。
本実施形態に係るカテーテルは、図1に示すように、内部にメインルーメン20を有する長尺の管状本体10を備えている。具体的には、管状本体10は、内層11、コイル層30、マーカー40、外層12、コート層50およびサブルーメン80を備えている。内層11は管状本体10の最内周にあたり、メインルーメン20を画定する管状の層である。すなわち、内層11は内部にメインルーメン20を有している。コイル層30は、内層11の外周に配置されている。マーカー40は、遠位端DEの付近に装着されている。外層12は、コイル層30およびマーカー40を含む内層11の外周全体を被覆する層である。コート層50は外層12の外周に形成されている。サブルーメン80(第一サブルーメン80a、第二サブルーメン80b)は、メインルーメン20の外周に形成され、操作線70(第一操作線70a、第二操作線70b)が挿通されている。
以下、本実施形態のカテーテル100の構成について具体的に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るカテーテル100の管状本体10は、樹脂材料111により形成された内層11と、この内層11とは別の樹脂材料112により形成された外層12とを有している。なお、内層11および外層12を含むカテーテル100の本体である管状本体10は、シースと呼ばれる。また、内層11または外層12は、各1層で形成してもよいし、2種以上の異種または同種の材料で形成した多層構造としてそれぞれ形成してもよい。
コイル層30は、本実施形態では、横断面形状が非円形の1本(1条)のワイヤ31を、長尺方向に巻回(単条巻き)することにより形成されている。本実施形態では、横断面形状が長方形状のワイヤ31を用いている。このように形成されたコイル層30は、図1に示すように、コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、カテーテル100の径方向の外側辺をA、径方向の内側辺をBとしたとき、図1に示すように、断面形状も長方形状であり、外側辺Aおよび内側辺Bが直線状である。そして、直線状の内側辺Bが、カテーテル100の長手方向に対して斜めに傾斜している。なお、長手方向に対して斜めに傾斜するとは、長手方向成分と径方向成分をともに含むことを意味する。ワイヤ31の横断面形状において、長径寸法にあたる幅寸法は、短径寸法にあたる厚さ寸法よりも長い。厚さ寸法に対する幅寸法の比、すなわち厚さ寸法を1としたときの厚さ寸法は、1.1以上5以下が好ましく、1.5以上4以下がより好ましく、2以上4以下が更に好ましい。ワイヤ31の幅寸法の実寸法としては、1mm以下、好ましくは0.5mmである。このようなワイヤ31を使用することで、コイル層30は、管状本体10の縦断面におけるワイヤ31の断面形状が、図1に示すように、厚さが幅に対して薄肉となるよう巻回される。
なお、ワイヤ31の横断面形状は、非円形であれば特に限定されない。ここで、非円形としては、長円形、楕円形、半円形、扇形(1本の孤をもつ扇形、または外孤と内孤をもつ地紙形)、曲玉形、水玉形または多角形を例示的に挙げることができる。多角形は、長方形、台形、菱形または平行四辺形などの凸多角形のほか、180度を超える内角をもつ凹多角形でもよい。また、この非円形は、上記形状を複合した形状でもよく、具体的には、弧状に突出する辺を有する角丸多角形や、弧状に凹陥する辺を有する凹レンズ形でもよい。
この非円形は、これに外接する最小面積の長方形を想定した場合にその長辺と短辺の長さが異なるものでもよい。
マーカー40は、内層11の遠位端DE付近の外周に、リング部材が装着されて形成されている。また、マーカー40は、X線不透過性の材料で形成されている。そのため、X線によりマーカー40の位置を確認することで、カテーテル100が患者の体内のいずれの位置まで挿入されたかを確認することができる。
また、管状本体10の遠位端DEの近傍における外層12の周囲には、管状本体10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層50が設けられている。コート層50は、任意に設ければよい。たとえば、外層12が潤滑性や親水性に優れていれば、コート層50を設けなくてもよい。
操作線70(第一操作線70a、第二操作線70b)を挿通するサブルーメン80(第一サブルーメン80a、第二サブルーメン80b)は、外層12の内部に管部材が埋設されることで形成されている(図1参照)。また、サブルーメン80をメインルーメン20から外径方向に離間して設けていることで、メインルーメン20を通じて薬剤等を供給したり光学系を挿通したりする際に、これらがサブルーメン80に脱漏しないようにすることができる。そして、本実施形態のようにサブルーメン80をコイル層30の外側に設けることにより、摺動する操作線70に対して、コイル層30の内側、すなわちメインルーメン20が保護される。また、操作線70の先端(遠位端)71(71a、71b)は、マーカー40に連結されている。しかし、本発明がこれに限定されることはなく、マーカー40以外の部分、たとえば外層12に操作線70を固着してもよく。またはマーカー40のカシメ加工によって操作線70を固定してもよい。
内層11の材料としては、たとえば、フッ素系の熱可塑性ポリマーを用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などの樹脂材料111を用いることができる。このように、内層11にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル100のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
外層12の材料としては、たとえば、熱可塑性ポリマーを用いることができる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などの樹脂材料112を用いることができる。
コイル層30のワイヤ31の材料としては、金属材料製の平線を用いることが好ましい。しかし、本発明がこれに限定されることはなく、コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、ワイヤ31の内側辺Bが直線状である場合の当該内側辺Bが、長手方向に対して斜めに傾斜しているか、または、後述の第2の実施形態以降の各実施形態のように、ワイヤの内側辺Bが弧状である場合は、断面形状の最大幅方向が、長手方向に対して斜めに傾斜して、内層11または外層12の内部に嵌入してアンカー効果を奏するものであればよい。ワイヤ31には、いずれの材料を用いてもよい。ワイヤ31の具体的な材料としては、ステンレススチール(SUS)、ニッケルチタン系合金、鋼、チタンもしくは銅合金などの金属材料、または樹脂材料を用いることができる。
マーカー40の材料としては、たとえば、白金などのX線不透過材料を用いることができる。また、本実施形態のマーカー40はリング形状であるが、これに限らず、長手方向にコイル層30と離間して配置した他のコイルでもよい。
コート層50の材料としては、たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料51を用いることができる。
サブルーメン80は、メインルーメン20に沿って形成された空孔である。外層12に貫通形成した空孔をサブルーメン80としてもよく、または外層12に中空管を挿通して当該中空管の内腔をサブルーメン80としてもよい。本実施形態では、PTFEやポリエーテルエーテルケトン(PEEK)など、外層12よりも硬質かつタッキング性が低い樹脂材料からなる中空管(図1には図示せず、図3を参照)を外層12に挿通し、その内腔をサブルーメン80としている。
操作線70の材料としては、外層12の樹脂材料112とともに操作線70を挿通したサブルーメン80を押し出す場合、操作線70には、樹脂材料112の溶融温度以上の耐熱性が求められる。このような操作線70の場合、具体的な材料としては、たとえば、PEEK、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、ステンレススチール(SUS)、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。一方、管状本体10を成形した後にサブルーメン80内に操作線70を挿通する場合など、操作線70に耐熱性が求められない場合は、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。以上、カテーテル100の形成材料は、コストや製作の容易さ、用途目的などを考慮して、適宜選択することができる。
上述のような構成の管状本体10の近位端に、図示しない操作部を接続して、本実施形態のカテーテル100が構成されている。操作部は、第一、第二操作線70a、70bの近位端と接続している。操作部により第一操作線70aまたは第二操作線70b、もしくは、双方を牽引することで、カテーテル100の管状本体10を、直線的な形状から、所望の方向に自在に屈曲させることができる。その操作手順については、後述の第2の実施形態で詳細に説明する。
なお、カテーテル100が屈曲するとは、カテーテル100の中心軸(たとえばメインルーメン20の中心軸)が直線以外(曲線状または折れ線状など)となるようにカテーテル100が変形する(曲がる)ことを意味する。
ここで、本実施形態のカテーテル100の代表的な寸法について説明する。メインルーメン20の半径は200μm〜300μm程度とすることができる。内層11の厚さは10μm〜30μm程度、外層12の厚さは50μm〜150μm程度、コイル層30の外径は直径500μm〜860μm、コイル層30の内径は直径420μm〜660μmとすることができる。そして、カテーテル100の(管状本体10の)軸心からサブルーメン80の中心までの半径は300μm〜450μm程度、サブルーメン80の内径は40μm〜100μmとすることができる。操作線70の太さは30μm〜60μmとすることができる。そして、カテーテル100の(管状本体10の)軸心からコート層50を含む最外半径を350μm〜490μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態のカテーテル100の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル100は、たとえば、分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル100を進入させることが可能である。
次に、上述のような構成の本実施形態のカテーテル100の製造方法の一例について説明する。本実施形態のカテーテル100の製造方法は、横断面形状が非円形のワイヤ31を、長尺方向にコイル状に巻回してコイル層30を形成する工程(以下、「コイル層形成工程」と呼ぶ)を少なくとも有している。より具体的には、カテーテル100の製造方法は、たとえば、芯線の外周に、樹脂材料111により内層11を形成する工程(以下「内層形成工程」と呼ぶ)と、内層11の外周表面に、前述のコイル層30を形成するコイル層形成工程と、内層11の遠位端DEの近傍の外周に、マーカー40を装着する工程(以下、「マーカー装着工程」と呼ぶ)と、樹脂材料112により外層12を形成し、管状本体10を形成する工程(以下、「外層形成工程」と呼ぶ)と、を有する。本実施形態では、さらに、外層12の周囲にコート層50を形成する工程(以下、「コート層形成工程」と呼ぶ)や、図示しない操作部を接続する工程(以下、「操作部接続工程」と呼ぶ)などを有している。このような工程を含む製造方法により、本実施形態のカテーテル100が製造される。以下、各工程について詳細に説明する。
内層形成工程では、芯線として、任意で表面に離型処理された図示しない円柱状のマンドレルに、前述したような樹脂材料111を押出し、または、ディスパージョン被覆成形して内層11を形成する。次に、コイル層形成工程では、上述のように成形された内層11の外周に、コイル層30を形成する。この手順としては、たとえば、予め、コイル層30を形成し、そのときに、当該コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、当該ワイヤ31の直線状の内側辺Bが、長手方向に対して斜めに傾斜するよう巻回する。このコイル層30を内層11の外周に配置し、後述の外層形成工程で、熱収縮チューブによる熱収縮の際に、その圧縮力により、コイル層30を僅かに収縮させることで、ワイヤ31を内層11に嵌入させてもよい。または、ワイヤ31の巻回装置などを用いて、非円形状のワイヤ31を、所定間隙を介在させて内層11の外周に巻回してもよい。このときも、コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、当該ワイヤ31の直線状の内側辺Bが、長手方向に対して斜めに傾斜するように、かつ、ワイヤ31が内層11に嵌入するように当該ワイヤ31を巻回する。なお、後述の第2の実施形態以降の実施形態のように、ワイヤの内側辺Bが弧状である場合は、断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜するよう巻回する。
マーカー形成工程では、前述した材料製のマーカー40を、内層11の外周であって、コイル層30よりも遠位端DEの側にカシメ固定する。または、マーカー40を単に内層11の遠位端DEの近傍の外周に装着し、次の外層形成工程で、外層12の樹脂材料112によってマーカー40を被覆することで、マーカー40の固定を行ってもよい。
外層形成工程では、コイル層30とマーカー40とを含む内層11の外周全体に、前述したような樹脂材料112を用いて外層12を形成する。外層12は、樹脂材料112を内層11の外周に押し出し成形して形成してもよい。または、予め内層11の外径よりも内径が広い管状の外層12を樹脂材料112で形成し、この外層12を内層11の外周に装着する。さらに、その外周に図示しない熱収縮チューブを装着して加熱し、熱収縮チューブを熱収縮させることにより内層11と外層12とを密着させてもよい。その後、熱収縮チューブを除去する。このような方法を用いることで、外層12の形成を容易にできる。いずれの手法でも、コイル層30のワイヤ31の巻き間隙32内に、外層12の樹脂材料112が溶融して侵入し、固化することで、内層11と外層12との密着性を向上させ、層間の界面剥離を防止することができる。なお、内層形成工程および外層形成工程は、上記手法に限定されることはなく、他のいずれの方法を用いてもよい。
また、上記外層形成工程のときに、管部材からなるサブルーメン80(第一サブルーメン80a、第二サブルーメン80b)を外層12の樹脂材料112とともにコイル層30の外周に押し出し成形して、外層12内にサブルーメン80(80a、80b)を設けてもよい。そして、サブルーメン80(80a、80b)内に操作線70(70a、70b)を挿通し、その先端71(71a、71b)をマーカー40にそれぞれ固定してもよい。または、サブルーメン80内に操作線70を挿通した状態で、外層12とともにコイル層30の外周に押し出してもよい。
最後に、マンドレルを内層11から引き抜く。この際、必要に応じ、マンドレルの両端部を互いに逆方向に牽引することによってマンドレルを細径化する。このような工程により、メインルーメン20と、内層11と、外層12と、コイル層30と、マーカー40と、コート層50と、操作線70を挿通したサブルーメン80とを備える管状本体10を得ることができる。そして、この管状本体10と操作部とを組み立てることにより、本実施形態のカテーテル100を製造することができる。
以上のように、本実施形態では、コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、当該ワイヤ31の直線状の内側辺Bが、長手方向に対して斜めに傾斜している。そのため、コイル層30を内層11に嵌入させることができるとともに、外層12にも嵌入させることができる。したがって、コイル層30のアンカー効果により、内層11、コイル層30、および外層12の密着性を向上させることができる。その結果、カテーテル100の体腔内への挿入および抜き取りの際の強い抵抗力が負荷しても、各層の密着性の低下や界面剥離を良好に防止することができる。また、コイル層30の縦断面におけるワイヤ31の断面形状において、当該ワイヤ31の直線状の内側辺Bが、長手方向に対して斜めに傾斜している。長手方向に対する内側辺Bの傾斜角は0度よりも大きく45度未満である。好ましくは5度以上30度以下である。そして、コイル層30の層厚さ、すなわちワイヤ31の最内側点と最外側点との距離は、ワイヤ31の横断面形状における長径寸法よりも小さい。これにより、コイル層30の層厚さを抑制しつつ、コイル層30と、これに隣接する他層(内層11および外層12)との界面における高い接合力が実現する。
そして、操作線70の牽引に追随してカテーテル100の先端71が屈曲する際に、コイル層30のワイヤ31には、その軸方向を曲げようとする外力が加わる。しかし、ワイヤ31はその弾性的な反撥力と曲げ剛性によって、その外力に抗しようとする。このため、カテーテル100の急角度の折れ曲がりを抑制しつつ、大きな曲率で屈曲させることができる。その結果、メインルーメン20の急角度の折れ曲がりも抑制でき、良好な復元力も得られるため、耐キンク性が向上し、優れた屈曲性が得られる。これにより、メインルーメン20の内腔断面積を十分な大きさに維持可能な優れた屈曲性を有するカテーテル100を得ることができる。このようなメインルーメン20を介して、薬剤等の供給や光学系の挿通などを好適に実施できる。また、ワイヤ31の巻き間に所定の間隙32を介しているため、隣接するそれぞれの巻きが互いの動作に干渉することがない。そのため、カテーテル100の可撓性を向上させることができる。このように、本実施形態では、層間の優れた密着性と、耐キンク性による優れた屈曲性とを兼ね備えたカテーテル100を得ることができる。
また、コイル層30の縦断面形状において、ワイヤ31の巻きの各々の断面形状は、内側辺Bが直線状であり、この内側辺Bが長手方向に対して斜めに傾斜している。これにより、内層11に対してワイヤ31が楔状に嵌入することとなり、良好なアンカー効果を発揮する。また、前述のように隣接するワイヤ31の間隙32における内層11と外層12との密着性も保持されている。そのため、コイル層30と内層11との間の界面剥離を良好に防止する効果も生じ、耐久性や使用性にも優れたカテーテル100を得ることができる。なお、本明細書でいう、「内側辺Bが直線状」とは、真に直線であることだけでなく、ワイヤ31の成形のときの誤差やコイル状としたときの多少の湾曲などで、後述の弧状までには至らなくても、多少の反りや歪みのある略直線状も含むものとする。
〔第2の実施形態〕
次に、図2、図3、図6〜図8を用いて、第2の実施形態に係るカテーテルについて説明する。図2に示すように、本実施形態のカテーテル200は、コイル層230が多条(本実施形態では4条)に巻回され、かつ、ワイヤ231の横断面が長円形であること以外は、第1の実施形態に係るカテーテル100と共通している。より具体的には、ワイヤ231の横断面形状における外側辺Aと内側辺Bは弧状である。
図2、図6に示すように、本実施形態のカテーテル200は管状本体210および操作部260から構成されている。操作部260は、管状本体210の近位端部PEに接続され、操作線270を操作する部位である。管状本体210は、樹脂材料2111からなる内層211、コイル層230、樹脂材料2112からなる外層212、マーカー240、コート層250およびサブルーメン280(第一サブルーメン280a、第二サブルーメン280b)を有する。本実施形態のコイル層230は、横断面形状の両端が円弧状のワイヤ231を多条に巻回してなる。サブルーメン280には、操作線270(第一操作線270a、第二操作線270b)が挿通されている。
図3には、コイル状のワイヤ231、すなわちコイル層230の縦断面形状を図示している。ワイヤ231を延在方向に直交して切った横断面形状(図示せず)は、図3に示すコイル層230の縦断面形状と略同形状であり、長手方向の遠位側および近位側の両側辺がともに半円形で外方に突出し、外側辺および内側辺(上下辺)は直線的である。すなわち、ワイヤ231の横断面形状は長円形である。コイル層230の縦断面形状において、ワイヤ231は、径方向の内側辺Bが弧状であり、その最大幅方向(図3のa方向またはb方向)は、カテーテル200の長手方向に対して斜めに傾斜している。ワイヤ231は、内層211および外層212に陥入するように、内層211と外層212との界面に配置されている。
なお、本実施形態のカテーテルの製造方法は、ワイヤ231を多条巻回する点を除いて第一実施形態の製造方法と共通する。ここで、コイル層230の形成工程において、多条巻きを行う際に、先に巻き始めるワイヤ231を先巻きワイヤとし、それ以降に巻き始めるワイヤ231を後巻きワイヤと定義する。コイル層230の形成工程において、後巻きワイヤを、先巻きワイヤと接触させながら、かつ、当該先巻きワイヤを巻き径の内側方向に押し付けながら巻回する工程を行っている。そのため、本実施形態のように、隣接するワイヤ231が互いに接触し、かつ、先巻きワイヤが後巻きワイヤによって内側方向に押さえつけられる。その結果、図2、図3に示すように、カテーテル200の縦断面におけるワイヤ231の円弧状の内側辺Bが、最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜しつつ、コイル層230の全体の厚さ(外側辺Aの最大突出位置での外径)は先細り等になることなく、同一径となっている。
図2、図3に示すように、本実施形態のコイル層230の縦断面形状において、ワイヤ231の径方向の外側辺Aおよび内側辺Bは、ともに径方向の内向きに突出する凸形状である。言い換えると、ワイヤ231の縦断面形状における外径側の稜線である外側辺Aと、内径側の稜線である内側辺Bは、カテーテル200の内径側に向かって幅中央が突出し、逆に幅両側が外径側に向かうような反り形状をなしている。外側辺Aと内側辺Bは円弧状であり、ワイヤ231の縦断面形状は弓なり長円形(曲玉形)である。ワイヤ231の延在方向に対する直交断面(横断面)形状も、同様に弓なり長円形の反り形状である。以下、本実施形態において、ワイヤ231の横断面形状とコイル層230の縦断面形状とを特に区別せず、ワイヤ231の断面形状と呼称する。
図3に示すように、ワイヤ231の断面形状において、外方の幅寸法aは内方の幅寸法bよりも短い(a<b)。ワイヤ231をこのような弓なり長円形の反り形状とする手法としては、(i)予め当該形状に成形されたワイヤ231を用意してこれをコイル状に巻回する方法と、(ii)平坦なワイヤ231に対してコイル巻回時に応力を付与してこれを弓なり長円形に変形させる方法と、を代表的に採用することができる。
(ii)の方法について詳述する。まず、平坦な断面形状のワイヤ231を用意する。このワイヤ231を、内層11または他の芯線の外周に巻回してコイル層230を形成するときに、(ii−1)ワイヤ231の幅中央を内径側に押圧して凹ませるか、または(ii−2)ワイヤ231の幅両側の少なくとも一方に対して外径側に外力を付与して、ワイヤ231の断面形状を弓なり長円形に変形させる。または、(ii−3)平坦なワイヤ231を巻回してコイル層230を形成したのちに、アニーリングなどの物理処理を施してワイヤ231の断面形状を弓なり長円形に変形させてもよい。
図2に示すように、本実施形態のコイル層230では、隣接するワイヤ231が互いに密着して形成される。さらに、図3の拡大断面図に示すように、当該隣接するワイヤ231の断面の幅方向の円弧状の両側が互いに点接触する。また、ワイヤ231同士の点接触の位置yは、ワイヤ231の互いの両側の円弧の最大突出部x、x'の間に存在する。本実施形態のコイル層230において、任意の条のワイヤ231における幅方向の一方の側縁(図3では、任意のワイヤ231における左側の側縁)が、隣接する他の条の近接縁(図3では、当該ワイヤ231の左側に隣接する他の条における右側の側縁)の上に乗り上げている。乗り上げている上側の条が後巻きワイヤであり、下側の条が先巻きワイヤである。なお、図2、図3は断面図であるため、点接触していると表現しているが、実際には、周回方向に点接触が連続しているため、隣接するワイヤ231は、互いに線接触している。本実施形態では、上記の(ii−2)の方法でワイヤ231の断面形状を変形させている。すなわち、先巻きワイヤの側縁の上に後巻きワイヤの側縁を重ねるようにして多条のワイヤ231を巻回することにより、後巻きワイヤの当該側縁に対して外径側に応力を付与し、このワイヤの断面形状を弓なり長円形に変形させる。
上述のように、本実施形態では、コイル層230が多条のワイヤ231を用いて密巻きされていることにより、カテーテル200は優れた剛性を有する。そのため、耐キンク性に優れたカテーテル200を得ることができる。また、コイル層230の隣接するワイヤ231同士の断面は点接触(実際は線接触)している。この点接触の位置yは、ワイヤ231の互いの両側の円弧の最大突出部x、x'同士の間に存在している。これにより、隣接する条の円弧状の近接縁同士が重ね合った状態で、当該近接縁が密着する。このため、隣接するワイヤ231同士が相対的に回動および変位しても、互いの密着状態を維持することができる。その結果、カテーテル200を所望の方向に自在に屈曲させることができる。
図7に、ワイヤ231が自在に動作する概念図を示した。図7(a)は屈曲前の直線状態を示す概念図である。図7(b)はコイル層230が紙面上方に屈曲した状態を示す概念図であり、ワイヤ231の断面形状の反り方向に屈曲した状態を示している。図7(c)はコイル層230が紙面下方に屈曲した状態を示す概念図であり、ワイヤ231の断面形状の反り方向とは反対方向に屈曲した状態を示している。いずれの場合でも、ワイヤ231の隣接する巻きが、断面形状において互いに点接触しているため、反り方向でもその反対方向でも関節等のように自在に屈曲させることができる。
図8(a)に、参考として、上記(ii−3)の方法で作成されたコイル層の縦断面の顕微鏡写真を掲載した。同図(b)は、同図(a)にて楕円で囲った部分を拡大した顕微鏡写真である。これらの顕微鏡写真に示すとおり、コイル層230は、横断面形状が非円形の4条のワイヤ231が多条に密巻きされ、縦断面におけるワイヤ231の内側辺Bが弧状であり、当該断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜している。また、この縦断面において、隣接するワイヤ231が互いに位置yで点接触しており、この点接触の位置yが、ワイヤ231の互いの両側の円弧の最大突出部x、x'の間に存在している。さらに、縦断面の幅方向の両側の側縁が、外方に向いた反り形状となっている。
ここで、図6に示すように、カテーテル200の遠位端部215とは、カテーテル200の遠位端DEを含む所定の長さの範囲をいう。なお、カテーテル200の遠位端DEは管状本体210の遠位端でもある。また、カテーテル200の近位端部216とは、カテーテル200の操作部260の近位端CEを含む所定の長さの範囲をいう。同様に、管状本体210の遠位端部とは、遠位端DEを含む所定の長さの範囲をいい、管状本体210の近位端とは、管状本体10の近位端部PEを含む所定の長さの範囲をいう。
図6の各図に示すように、カテーテル200の近位端部216に接続された操作部260は、カテーテル200の長手方向に延在する軸部261と、軸部261に対してカテーテル200の長手方向にそれぞれ進退するスライダ264(たとえば、第一スライダ264a、第二スライダ264b)と、軸部261と一体に該軸部261の軸周りに回転するハンドル部262と、管状本体210の基端部が軸周りに回転可能に差し込まれた把持部263とを備えている。管状本体210の近位端部PEは、軸部261に固定されている。操作部260のスライダ264に対し、複数本の操作線270をそれぞれ個別に、または二本以上を同時に牽引する操作を行うことにより、カテーテル200の遠位端部215を屈曲させることができるようになっている。また、たとえば、一方の手で把持部263を把持した状態で、他方の手でハンドル部262を把持部263に対して軸回転させることにより、管状本体210の全体を軸部261とともに回転させることができるようになっている。
本実施形態のサブルーメン280は、図6の各図に示すように、管状本体210の近位端部PEにおいて開口している。なお、管状本体210の近位端部PEよりも遠位側において開口していてもよい。各サブルーメン280には、それぞれ操作線270が挿通され、且つ、各操作線270がサブルーメン280に対して摺動可能となっている。
第一操作線270aの近位端は、第一サブルーメン280aの開口より導出され、操作部260の第一スライダ264aに接続されている。同様に、第二操作線270bの近位端は、第二サブルーメン280bの開口より導出され、操作部260の第二スライダ264bに接続されている。そして、第一スライダ264aと第二スライダ264bとを軸部261に対して個別に近位側にスライドさせる。この操作により、各々に接続された第一操作線270aまたは第二操作線270bが個別に牽引され、カテーテル200の遠位端部215(つまり管状本体210の遠位端DE)に引張力が与えられる。これにより、当該牽引された操作線270の側に遠位端部215が屈曲する。
第一操作線270aの近位端を牽引する方向(つまり図6の紙面右方向)に操作部260の第一スライダ264aを操作する。すると、操作線270を介してカテーテル200の遠位端部215に引張力が与えられて、当該第一操作線270aが挿通された第一サブルーメン280aの側に遠位端部215が屈曲する。ただし、第一操作線270aの近位端をカテーテル200に対して押し込む方向(つまり図6の紙面左方向)に操作部260の第一スライダ264aを操作しても、当該第一操作線270aから遠位端部215に対して押込力が実質的に与えられることはない。第二操作線270bが固定された第二スライダ264bについても同様である。
第一操作線270aまたは第二操作線270bの何れかの操作線270を個別に牽引する場合、牽引する距離に応じて、遠位端部215の曲率を変化させることができる。なお、操作線270を個別に牽引するだけでは遠位端部215を所望の姿勢に屈曲させることができない場合には、第一および第二操作線270a、270bを同時に牽引することにより、遠位端部215の所望の姿勢を実現してもよい。
このように遠位端部215を様々な形状に屈曲させるとともに、ハンドル部262に対する回転操作によって管状本体(シース)210の回転位相を調節する。この操作により、遠位端部215の屈曲量および屈曲方向を調節し、様々な角度に分岐する体腔に対してカテーテル200を自在に進入させることができる。したがって、たとえば分岐のある血管や末梢血管に対しても、本実施形態のカテーテル200を所望の方向に進入させることができる。なお、本実施形態のカテーテル200において、図6(c)、(e)に示すように、遠位端部215の屈曲角度は90度を超えることが好ましい。これにより、血管の分岐角度がUターンするような鋭角の場合であっても、かかる分岐枝に対してカテーテル200を進入させることができる。
次に、第2の実施形態に係るカテーテル200の動作を、図6を用いて説明する。まず、本実施形態のカテーテル200を患者の血管等の体腔内に挿入する。本実施形態では、カテーテル200の軸心を挟んで第一サブルーメン280aと第二サブルーメン280bとが180度対向して形成されている。そして、第一サブルーメン280aには第一操作線270aが挿通され、第二サブルーメン280bには第二操作線270bが挿通され、先端を自在に屈曲させることができる。そのため、ガイドワイヤなどを必要とせず、操作線270を操作しながら、能動的にカテーテル200を患者の体内に挿入できる。
ここで、本実施形態のカテーテル200では、操作部260の第一スライダ264aを操作して第一操作線270aを近位側に牽引すると、図6(b)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図6の紙面上方に屈曲する。さらに、この牽引量を大きくすると、図6(c)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図6の紙面上方に大きな曲率で屈曲する。
また、操作部260の第二スライダ264bを操作して、第二操作線270bを近位側に牽引すると、図6(d)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図6の紙面下方に屈曲する。さらに、この牽引量を大きくすると、図6(e)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図6の紙面下方に大きな曲率で屈曲する。
なお、第一操作線270aと第二操作線270bとを共に牽引する場合には、牽引量を互いに相違させてもよい。すなわち、いずれの操作線270を個別に牽引しても所望の曲率が達成されない場合には、両方の操作線270を牽引して曲率を調整してもよい。より具体的には、何れか一方の操作線270を牽引することにより遠位端部215が屈曲した状態から、何れか他方の操作線270を牽引する。この操作により、遠位端部215の屈曲量を減じる操作や、遠位端部215の姿勢を屈曲した状態から元の直線状の姿勢へ戻す操作を行うことができる。このように屈曲量を減じる操作により、屈曲量の微調整が可能である。
また、カテーテル200の遠位端部215を屈曲させた状態で、一方の手で操作部260の把持部263を把持し、他方の手でハンドル部262を、把持部263に対して軸回転させる。この操作により、カテーテル200の全体を軸部261とともに最大90度だけ回転させ、操作者はカテーテル200の遠位端部215の屈曲方向を所望の方向に変えて、遠位端DEを患部に対向させることができる。なお、本実施形態でも、メインルーメン220の周囲にワイヤ231が巻回されているので、管状本体210のねじり剛性が高まる。よって、カテーテル200の回転操作時におけるトルク伝達効率が高まり、回転操作に対する遠位端部215の回転応答性が向上する。さらに、マーカー240で先端の位置を明確に確認できるため、遠位端DEの現在の位置や向きを容易に確認しながら操作ができる。
また、第2の実施形態に係るカテーテル200においては、ワイヤ231がメインルーメン220の周囲に密巻きされて、より弾性力を有するコイル層230が形成されている。そのため、操作線270に対する操作によってカテーテル200が屈曲する際に、コイル層230にはその軸方向を曲げようとする外力が加わる。しかし、コイル層230はその弾性的な反撥力によって、その外力に抗しようとする。このため、カテーテル200の急角度の折れ曲がりを抑制しつつ、大きな曲率で屈曲させることができる。よって、メインルーメン220の急角度の折れ曲がりも抑制し、良好な復元力も得られるため、耐キンク性が向上し、優れた屈曲性が得られる。これにより、メインルーメン220の内腔断面積を十分な大きさに維持できるため、メインルーメン220を介した薬剤等の供給や光学系の挿通などを好適に実施できる。
以上のように、本実施形態のカテーテル200でも、コイル層230の隣接するワイヤ231が互いに密着して点接触(線接触)していても、互いの動作に干渉せず、可撓性に優れたコイル層230とすることができる。また、ワイヤ231が密巻きされていても、ワイヤ231の内側辺Bが弧状で、当該の断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜して形成されたコイル層230が内層211と外層212の双方に楔状に嵌入して、アンカー効果を発揮する。そのため、カテーテル200の挿抜の際に、長手方向に強い抵抗力が負荷されても、層間の密着性の低下や界面剥離を良好に防止する効果を得ることができる。したがって、層間の優れた密着性と耐キンク性による優れた屈曲性とを有するカテーテル200を得ることができる。また、耐久性や使用性にも優れるカテーテル200を得ることができる。
〔第3の実施形態〕
次に、図4を用いて、第3の実施形態に係るカテーテルについて説明する。図4に示すように、本実施形態のカテーテル300は、コイル層330が多条(4条)巻きされ、かつ、隣接するワイヤ331の一部が互いに重なり合って面接触していること以外は、第2の実施形態に係るカテーテル200とほぼ同様の構成である。図4に示すように、本実施形態のカテーテル300は、樹脂材料3111からなる内層311と、横断面の両端が円弧状のワイヤ331を多条に巻回してなるコイル層330と、樹脂材料3112からなる外層312と、マーカー340と、コート層350と、操作線370(第一操作線370a、第二操作線370b)が挿通されたサブルーメン380(第一サブルーメン380a、第二サブルーメン380b)と、を有する管状本体310、および、管状本体310の近位端CEに接続された図示しない操作部とから構成されている。
本実施形態でも、ワイヤ331の外側辺Aおよび内側辺Bが弧状であり、当該断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜している。また、各ワイヤ331は、内層311および外層312に嵌入するように巻回されているため、層間の界面剥離を良好に防止することができる。また、コイル層330の隣接するワイヤ231に一部が互いに重なりあって面接触していることから、剛性がより向上し、耐キンク性に優れる。さらに、屈曲の際には、隣接するワイヤ331同士が面接触しながら相対的に変位する。また、図4に示すように、4本一組のワイヤ331を、間隙332を介在させて巻回している。この間隙332内に、外層312の樹脂材料3112が入り込むことにより、内層311と外層312との密着性が高まり、互いの界面剥離防止効果をより向上させることができる。なお、変形例として、間隙332を設けずに密巻きしても、コイル層330の内層311および外層312へのアンカー効果、および、多少は外層3112の樹脂材料3112がコイル層330から内層311側に侵入することにより、層間の密着性および界面剥離防止効果を損なうことはない。
〔第4の実施形態〕
次に、図5を用いて、第4の実施形態に係るカテーテルについて説明する。図5に示すように、本実施形態のカテーテル400は、コイル層430の縦断面におけるワイヤ431の内側辺Bが弧状で、当該断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜していることと、ワイヤ431が内層411に嵌入していないこと以外は、第1の実施形態に係るカテーテル100とほぼ同様の構成である。図5に示すように、本実施形態のカテーテル400は、樹脂材料4111からなる内層411と、横断面の両端が円弧状のワイヤ431を単条に巻回してなるコイル層430と、樹脂材料4112からなる外層412と、マーカー440と、コート層450と、操作線470(第一操作線470a、第二操作線470b)が挿通されたサブルーメン480(第一サブルーメン480a、第二サブルーメン480b)と、を有する管状本体410、および、管状本体410の近位端CEに接続された図示しない操作部とから構成されている。
本実施形態でも、ワイヤ431の外側辺Aおよび内側辺Bが弧状であり、当該断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜している。また、ワイヤ431の巻き間隙432内、および、コイル層430と内層411との間に、外層412の樹脂材料4112が侵入し、外層412と内層411とが良好に密着している。また、下地層としての外層412に、ワイヤ431が楔状に陥入(埋設)することとなる。これらの相乗効果により、層間の優れた密着性が得られ、界面剥離を良好に防止することができる。また、コイル層430により、優れた可撓性と耐キンク性とを得て、屈曲性にも優れたカテーテル400を得ることができる。
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
変形例として、たとえば、ワイヤを巻回するときに、近位端CE側から、第2の実施形態のように、隣接する巻きが互いに密接するように密巻きする。この密巻き部分に連続して、遠位端部では、第1の実施形態のように、隣接する巻き間に所望の間隙を介在させてワイヤを巻回して粗巻き部分を形成してもよい。このようなコイル層では、密巻き部分は、粗巻き部分と比較して、曲げ剛性が相対的に大きいため、体腔内への挿入の際に、直線状に維持され、患部までの挿入が容易となる。また、粗巻き部分では、曲げ剛性が相対的に小さいため屈曲性が良好で屈曲し易い。しかし、適度な剛性を有することで、この屈曲状体を保持することができる。したがって、粗巻き部分では、操作線による遠位端部の屈曲操作を容易に行うことができる。
また、上記各実施形態では、カテーテルが2本の操作線を有する例を説明した。しかし、それぞれ操作線が挿通された3本以上のサブルーメンを管状本体に形成してもよい。この場合、これらの操作線のうちの1本もしくは2本以上を牽引することによって、カテーテルの屈曲操作を行うことができる。なお、この場合、3本以上の操作線の牽引長さを個別に制御することにより、遠位端部を360度にわたり任意の向きに屈曲させることができる。これにより、カテーテルの全体に対して回転力を付与して遠位端部を所定方向に向ける回転操作を行うことなく、操作部による操作線の牽引操作のみによって、カテーテルの進入方向を操作することが可能となる。また、カテーテルが操作線を1本のみ有している構成とすることも可能である。この場合、操作線の牽引による遠位端部の屈曲操作とカテーテルの回転操作とを併用する。これにより、任意の屈曲量方向および任意の方向にカテーテルの遠位端部を屈曲させることが可能となる。また、サブルーメンがコイル層より内側に配置されていてもよいし、サブルーメンや操作線を設けずに、ガイドワイヤ等を用いて屈曲させるものであってもよい。また、サブルーメンを管部材で形成しているが、外層の形成時に長尺な孔を形成してサブルーメンとし、当該孔内に操作線を挿通させてもよい。また、マーカーも必要でなければ設けなくてもよい。
また、上記第2〜第4の実施形態では、コイル層のワイヤは、カテーテルの縦断面における断面形状が外方に向いた反り形状となっている。しかし、本発明がこれに限定されることはなく、内方に向いた反り形状であってもよいし、第1の実施形態のように反ることなく、直線的であってもよい。いずれの場合でも、カテーテルの縦断面におけるワイヤの断面形状において、(1)ワイヤの内側辺が直線状である場合の内側辺が長手方向に対して斜めに傾斜しているか、または、(2)ワイヤの内側辺が弧状である場合の断面形状の最大幅方向が長手方向に対して斜めに傾斜していることで、優れた可撓性と耐キンク性を有するだけでなく、層間の界面剥離性の防止効果にも優れた製品を得ることができる。
また、上記各実施形態および変形例は、カテーテルについて実施しているが、本発明はカテーテルに限定されるものではなく、内視鏡、超音波器具など、体腔内に挿入して使用する、他の長尺な医療機器にも適用することができる。