以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
〔第1の実施形態〕
図1は第1の実施形態に係るカテーテル100における管状本体10の先端部の側断面図である。図1の左方がカテーテル100の先端側(以下、「遠位端側DE」ともいう)にあたり、右方が手元側(以下、「基端部側」あるいは「近位端側CE」ともいう)にあたる。ただし、図1においてはカテーテル100の近位端側CEは図示を省略している。また、図2は図1のX−X線断面図で、カテーテル100を補強層(コイル)30付近で切断した断面図である。図3は図1のY−Y線断面図で、カテーテル100をマーカー40付近で切断した断面図である。図4は第1の実施形態に係るカテーテル100のマーカー40と補強層30との付近の一部拡大断面図であり、マーカー40と補強層30との位置関係を示している。また、マーカー40と内層11との間に、外層12の樹脂材料121が入り込んだ状態を示している。図5は第1の実施形態に係るカテーテル100の製造方法の一工程例を示す図であり、図5(a)は補強層30をコイル31の巻き同士の巻回ピッチを変えて巻回して形成した図である。図5(b)は、マーカー40の装着予定部分のコイル31を切断除去して凹溝113が形成された状態を示す。図5(c)は、螺旋溝112からコイル31の一部を除去した凹溝113上であって補強層30と離間距離Bの位置に、マーカー40を装着した状態を示す側面図である。図6(a)は第1の実施形態に係るカテーテル100の全体側面図を示し、図6(b)および図6(c)は、カテーテル100の先端部の屈曲例を示す側面図である。図7はマーカー140の内周面に、凹溝113に対応する突起141、すなわち螺着溝を設けた変形例の断面図である。
本実施形態に係るカテーテル100は、図1、図4等に示すように、内部にメインルーメン20を有する長尺の管状本体10を備えている。具体的には、管状本体10は、樹脂材料111により形成され内部にメインルーメン20を有する内層11と、この内層11の外周表面に、当該内層11の樹脂材料111よりも硬質な材料(コイル31)で形成された補強層30と、少なくとも補強層30の外周表面に、樹脂材料121により形成された外層12と、内層11の外周上であって、遠位端部15付近に形成された凹凸部と、この凹凸部の外周表面に装着されたマーカー40と、を備えている。
以下、本実施形態のカテーテル100の構成について具体的に説明する。図1に示すように、本実施形態に係るカテーテル100の管状本体10は、樹脂材料111により形成された内層11と、この内層11とは同種または異種の樹脂材料121により形成された外層12とを有している。なお、内層11および外層12を含むカテーテル100の本体である管状本体10は、シースと呼ばれる。また、内層11または外層12は、1層で形成してもよいし、2種以上の異種または同種の材料で形成した多層構造の内層11または外層12としてもよい。そして、内層11の外周に配置された補強層30は、本実施形態では、例えば、弾性体により構成された1本の線材(コイル31)を螺旋状に屈曲させて巻回すことにより形成されている。また、この補強層30を形成する際には、図1または図4に示すように、コイル31が内層11の厚みa内に食い込むように巻回している。また、マーカー40は、補強層30と離間距離Bを介して凹凸部の外周表面に装着されている。
また、本実施形態では、凹凸部は、螺旋状の凹溝113により形成されている。この凹溝113は、後述の製造方法で詳細に説明するが、内層11に食い込むように巻回したコイル31の除去跡であるため、補強層30のコイル31を配置する螺旋溝112と一続きに形成されている。さらに、この除去跡は、コイル31を遠位端部15付近において、隣接するコイル31の近接縁間距離Cを補強層30におけるコイル31の近接縁間距離Aよりも大きくなるように巻回し、近接縁間距離C部分のコイル31を除去して得られたものである。また、図1または図4に示すように、コイル31を内層11の厚みaに対して食い込み深さがbとなるまで食い込んで螺旋溝112を形成している。凹溝113は、この螺旋溝112と、コイル31の巻回ピッチを変えただけで一連に形成しているため、凹溝113の深さもbとなる。このコイル31の食い込み深さbは、特に限定されることはなく、コイル31が内層11に食い込んで螺旋溝112と凹溝113とを形成できればいずれの深さでもよい。具体的には、内層11の内腔の平坦性を維持でき、かつ、コイル31の脱落を防止できる程度であれば、例えば、食い込み深さbを内層11の厚みaの1/3〜2/3としてもよい。また、食い込み深さbを内層11の厚みaの1/2程度とするのがより好ましい。また、平坦性を低下させることがなければ、コイル31が内層11に内包されていてもよい。そして、別途、内層11の外表面に凹凸部を形成してもよい。以上、カテーテル100の形成材料は、コストや製作の容易さ、用途目的などを考慮して、適宜選択することができる。
また、本実施形態のカテーテル100の凹溝113は、補強層30と同層に形成されている。なお、凹溝113と補強層30とが同層に形成されているとは、図4を用いて説明すれば、管状本体10の径方向に観察した際に、凹溝113と補強層30との位置が一致する程度であることをいう。より具体的には、凹溝113の深さcと補強層30の内層11内への食い込み深さbとが同一または略一致していることをいう。または、補強層30の食い込み部分の表面と凹溝113との間に隙間があっても、補強層30の食い込み深さbの少なくとも一部、好ましくは半分以上が凹溝113の深さc内にあることをいう。
また、本実施例では、凹凸部を凹溝113で形成しているが、本願がこれに限定されることはない。例えば、リング状の凹部または凸部を長手方向に平行に形成して凹凸部を設けてもよい。また、このリング状の凹部または凸部は、管状本体10の軸方向に対して直角に形成してもよいし、直角以外の角度で軸方向に対して傾斜して形成してもよい。また、内層11の全周に螺旋状、リング状の凹凸部を形成せずに、螺旋の一部、リングの一部で凹凸部を形成してもよい。また、凹凸部であって、マーカー40の長手方向への移動を防止することが可能であれば、螺旋状、リング状に限らず、内層11の外周表面に複数の突起を形成してもよい。または、内層11の外周表面を円錐状、半円状、その他の形状にえぐり取って複数の凹部を形成するなど、他のいずれの形状で凹凸部を形成してもよい。また、図1、図4、図5に示すように、コイル31は、遠位端部に近くなるほど、隣接するコイル31の巻線間の近接縁間距離が近接縁間距離A<近接縁間距離C1<近接縁間距離C2<近接縁間距離C3のように次第に大きくなるよう巻回している。また、マーカー40と補強層30との間には、近接縁間距離Aよりも広い離間距離Bを介在させている。このような構成とすることにより、マーカー40の装着位置や、コイル31の切断位置を明確にすることができる。また。先端側の巻数が少なくなるため、例えば、切断したコイル31を回転させながら抜き取る際、少ない回転数で容易に抜き取ることができる。
また、マーカー40は、X線不透過性の材料で形成されている。そのため、X線によりマーカー40の位置を確認することで、カテーテル100が患者の体内のいずれの位置まで挿入されたかがわかる。また、本実施形態では、マーカー40は、内層11の外周に、補強層30と離間距離Bを介して装着されている。また、マーカー40と補強層30とは、図1に示すように同層に形成されている。なお、マーカー40と補強層30とが同層に形成されているとは、管状本体10の径方向に観察した際に、マーカー40と補強層30との位置が一致する程度であることをいう。より具体的には、マーカー40の厚みと補強層30の厚みとの中心同士が一致しているか、または、マーカー40の径方向の厚みの中心が補強層30の径方向の厚み内にあり、かつ、補強層30の径方向の厚みの中心がマーカー40の径方向の厚み内にあることをいう。
マーカー40、補強層30、および、凹溝113との関係が上述のように構成されていることにより、補強層30とマーカー40とが積層することがなく、また、補強層30が内層11に食い込んでいる。そのため、管状本体10が肉厚となることがない。また、後述するが、マーカー40を内層11の外周にカシメた場合でも、補強層30には影響がないため、補強層30とともに内層11が内腔側に変形することがない。そのため、メインルーメン20の平坦性を維持することができる。また、このマーカー40のカシメ、および、後述するようにマーカー40と凹溝113内への樹脂材料121の充填により、凹溝113とマーカー40との密着性が高まる。その結果、アンカー効果が向上して、カテーテル100の製造時あるいは使用時のマーカー40の軸方向への位置ズレ抑制効果を向上させることができる。
また、マーカー40と補強層30との離間距離Bは、本実施形態では、A<Bとなるよう形成されているため、補強層30とマーカー40との位置がより明確である。しかし、X線によるマーカー40の検出の際に、マーカー40と補強層30との区別が明確に検出できれば、本願がこれに限定されることはなく、任意の距離とすることができる。例えば、本実施形態のように、コイル31の外径Dのほうが近接縁間距離Aより大きいため、離間距離Bを少なくとも近接縁間距離Aより広くすれば、マーカー40と補強層30との区別がつく。より好ましくは、離間距離Bをコイル31の外径Dより広くすれば、マーカー40と補強層30とを、より明確に区別できる。さらに好ましくは、離間距離Bを近接縁間距離Aと外径Dとの和以上としてもよく、マーカー40と補強層30との区別を、さらに明確に行える。ただし、離間距離Bが大きすぎると、管状本体10の離間距離B部分の剛性が低下することがある。しかし、その場合は、離間距離B部分にX線透過性の補強部材を配置するなどの対応を行うことにより、剛性が低下することがなく、しかも補強層30とマーカー40との区別の妨げとなることがない。また、コイル31を除去して凹溝113を形成する場合、本実施形態では、先端のマーカー40よりも遠位端側DEを除去しているが、コイル31の途中を除去して、マーカー40よりも遠位端側DEにも補強層30を配置してもよい。その場合も、この補強層30とマーカー40との間に、離間距離Bを介在することにより、マーカー40の検出を妨げることがない。
また、管状本体10の遠位端側DEにおける外層12の周囲には、管状本体10の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性のコート層50が任意で設けられている。
このような構成の管状本体10と、シリンジのコネクタ60とにより、第1の実施形態に係るカテーテル100が構成されている。このカテーテル100では、ガイドワイヤーの形状に追随して、図6(a)の直線的な形状から、図6(b)、図6(c)に示すように、管状本体10の遠位端部15側を、上下方向に自在に屈曲させることができる。
ここで、カテーテル100の遠位端部15とは、カテーテル100の遠位端側DE(先端)を含む所定の長さの範囲をいう。なお、遠位端側DEは、管状本体10の遠位端でもある。また、カテーテル100の近位端部16とは、カテーテル100の近位端側CEを含む所定の長さの範囲をいう(図6参照)。同様に、管状本体10の遠位端部とは、遠位端側DEを含む所定の長さの範囲をいい、管状本体10の近位端部とは、管状本体10の近位端側PEを含む所定の長さの範囲をいう。
ここで、カテーテル100が屈曲するとは、カテーテル100の中心軸(例えばメインルーメン20の中心軸)が直線以外(曲線状または折れ線状など)となるようにカテーテル100が変形する(曲がる)ことを意味する。
上記内層11の材料としては、例えば、フッ素系の熱可塑性ポリマーを用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。このように、内層11にフッ素系樹脂を用いることにより、カテーテル100のメインルーメン20を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
上記外層12の材料としては、例えば、熱可塑性ポリマーを用いることができる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
上記コート層50の材料としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性の樹脂材料51を用いることができる。
上記マーカー40の材料としては、例えば、白金などのX線不透過材料を用いることができる。また、本実施例では、マーカー40は、リングで形成しているが、リングに限らず、長手方向に補強層30と離間していれば、コイルで形成してもよいし、金属板などで形成してもよい。
また、上記補強層30を構成するコイル31には、金属製の線材を用いることが好ましい。しかし、本願がこれに限定されることはなく、内層11および外層12よりも高剛性で弾性を有する材質材料で形成されていれば、その他の材質(例えば樹脂等)を用いても良い。また、線材の金属材料として、具体的には、例えば、ステンレススチール(SUS)、ニッケルチタン系合金、鋼、チタン或いは銅合金を用いることができる。また、コイル31の断面形状は特に限定されず、円形、楕円形、正方形、長方形、多角形等、いずれの形状であってもよい。本実施の形態では、図1に示すように、一般的な円形となっている。
また、本実施例では、上述のように、コイル31の巻回ピッチ、すなわち隣接するコイル31の巻線間の近接縁間距離が密巻き部32、狭間隔部33(近接縁間距離A)、広間隔部34(近接縁間距離C)と、次第に大きくなっている。しかし、本願がこれに限定されることはない。例えば、コイル31の巻回ピッチが全長にわたって均一であってもよく、コイル31の巻回ピッチを変える手間を省くことができる。また、狭間隔部33を形成せずに、補強層30をすべて密巻き部32としてもよい。ただし、本実施形態のように、巻回ピッチを変えることにより、上述したように、遠位端側DEの柔軟性が向上する。さらに、広間隔部34が存在することにより、カテーテル100の製造時にマーカー40の装着部を確保するためのコイル31の切断部位が分かり易い、などの利点がある。
このようなコイル31で補強層30を形成することにより、カテーテル100はコシが強くなり、形態安定性を保つことができる。なお、本実施形態および以下の実施形態では、補強層30をコイル31で形成している。しかし、本願がこれに限定されることはない。例えば、メッシュ素材で内層11を被覆する、メッシュ素材で形成された管体内に内層11を挿入する、などにより補強層30を形成してもよい。または、複数本の線材料を内層11の外周面に巻回した多条コイルで補強層30を形成してもよい。
ここで、本実施形態のカテーテル100の代表的な寸法について説明する。まず、メインルーメン20の半径は200〜300μm程度とすることができる。内層11の厚さは10〜30μm程度、外層12の厚さは100〜220μm程度、補強層30の外径は直径500〜860μm、補強層30の内径は直径420〜660μmとすることができる。そして、カテーテル100の(管状本体10の)軸心からコート層50を含む最外半径を350〜490μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態のカテーテル100の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル100は、例えば、分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル100を進入させることが可能である。
次に、上述のような構成の本実施形態のカテーテル100の製造方法の一例について説明する。本実施形態のカテーテル100の製造方法は、芯線の外周に、樹脂材料111により内層11を形成する工程(以下「内層形成工程」と呼ぶ)と、内層11の外周表面に、内層11の樹脂材料111よりも硬質な材料であるコイル31で補強層30を形成する工程(以下、「補強層形成工程」と呼ぶ)と、内層11の外周上であって、遠位端部15付近に凹凸部である凹溝113を形成する工程(以下、「凹溝形成工程」と呼ぶ)と、凹溝113の外周に、マーカー40を装着する工程(以下、「マーカー装着工程」と呼ぶ)と、少なくともマーカー40および補強層30を含む内層11の外周に、樹脂材料121により外層12を形成し、管状本体10を形成する工程(以下、「外層形成工程」と呼ぶ)と、を有する。本実施形態では、さらに、外層12の周囲にコート層50を形成する工程(以下「コート層形成工程」と呼ぶ)を有している。このような工程を含む製造方法により製造されたカテーテル100は、内層11の遠位端部15付近に形成された凹溝113の外周表面にマーカー40が装着されているため、マーカー40の内層11へのアンカー効果が高まる。そのため、作業工程時や使用時のマーカーの軸方向への位置ズレを防止して、高精度な製品を効率的に得ることができる。そのため、使用性に優れたカテーテル100を廉価に提供することができる。
また、本実施形態では、補強層形成工程において、内層11の外周の遠位端部15まで、線材料をコイル状に、当該内層11に食い込むよう巻き回して螺旋溝112を形成し、この螺旋溝112の外周上に補強層30を形成する。また、凹溝形成工程では、補強層形成工程でコイル状に巻回した線材料(コイル31)のうち、遠位端部15のマーカー40の装着予定部分を少なくとも一巻き分除去することにより、螺旋状の凹溝113を螺旋溝112と一連に形成している。なお、これらの補強層形成工程、凹溝形成工程は、一例であり、これらに限定されることはなく、他のいずれの方法を用いて行ってもよい。
また、凹溝形成工程で、線材料を切断する方法としては、レーザー照射によって破断するのが好ましい。本実施例では、この破断部分よりも遠位端部15側の線材料(コイル31)を除去することにより、凹溝113を形成している。しかし、本願がこれに限定されることはなく、線材料の切断方法として、バーナー、カッターなどによる切断方法を用いてもよいし、ねじ切ってもよいし、他のいずれの切断方法を用いてもよい。
また、内層形成工程では、芯線に樹脂材料111を押出、または、ディスパージョン被覆成形して内層11を形成することが好ましい。また、外層形成工程でも、樹脂材料121の押し出し成形により外層12を形成してもよい。しかし、本実施形態では、予め内層11の外径よりも内径が広い管状の外層12を形成し、この外層12を内層11の外周に装着する。さらに、その外周に図示しない熱収縮チューブを装着して加熱し、熱収縮チューブを熱収縮させることにより内層11と外層12とを密着させている。その後、熱収縮チューブを除去する。このような方法を用いることで、外層12の形成を容易にできる。また、熱収縮チューブの熱収縮時に凹溝113とマーカー40との間に、外層12の樹脂材料121が侵入することで、双方の密着性が向上する(以下、「樹脂材料充填工程」と呼ぶ)。または、マーカー装着工程の前に、凹溝113の外周に、外層12と同一の樹脂材料121を塗布する工程(以下「樹脂材料塗布工程」と呼ぶ)、すなわち、樹脂材料121の先盛りを行ってもよい。その後、マーカー装着工程を行い、次いで、外層形成工程で外層12の形成工程を行っても、樹脂材料121によりマーカー40と内層11との密着性を向上させることができる。なお、内層形成工程および外層形成工程は、上記方法に限定されることはなく、内層11の外周にマーカー40と補強層30を少なくとも被覆する外層12が配置されて管状本体10が形成されるのであれば、他のいずれの方法を用いてもよい。しかし、上記のような方法を用いることにより、廉価かつ効率的に管状本体10を得ることができる。
以下、各工程について具体的に説明する。まず、本実施形態では、内層形成工程で、芯線として、任意で表面に離型処理された円柱状のマンドレルに、前述したような樹脂材料111を用いて内層11を被膜形成する。次に、補強層形成工程では、図5(a)に示すように、内層11の周囲にコイル31を、上述したような巻回ピッチで巻回す。この作業により、補強層30となる密巻き部32、および近接縁間距離Aを介在した狭間隔部33、ならびに、離間距離Bを挟んで、遠位端側DEに、近接縁間距離Cを介在した広間隔部34を形成する。なお、線材料を巻回したコイル31は、メインルーメン20と略同軸に配置され、内層11に食い込ませることで内層11の外周表面に凹溝113が形成されるように巻回している。そのため、補強層30および内層11、後に装着するマーカー40および内層11との密着性が向上する。次に、凹溝形成工程では、狭間隔部33と離間距離B部分との間で、レーザーを用いて線材料を切断する。そして、図5(b)に示すように、切断部分から先端側の離間距離B部分と広間隔部34部分のコイル31を除去することにより、凹溝113が露出する。
また、線材料は、凹溝113の形成部分よりも遠位端側DEまで巻回してもよい。この場合は、線材料を狭間隔部33と離間距離B部分との間、および、広間隔部34の凹溝113の形成部分とその先のコイル31部分との間をレーザーで切断し、マーカー40の装着予定部分のみコイル31を除去する。このような方法では、遠位端側DEにコイル31が残留するが、このコイル31も遠位端側DEを補強する第2の補強層(図示せず)となる。また、コイル31を内層11に食い込ませて螺旋溝112を形成しているため、外層形成工程、その他の工程を行う際に、生産ライン上での移動や加熱を行っても、遠位端側DEのコイル31が容易に脱落することがなく、製造効率に影響がない。また、補強層30とマーカー40との間に離間距離Bを設けて、補強層30とマーカー40との区別を明確にしているとともに、マーカー40の長手方向の長さを予め所定の長さとしておく。これにより、遠位端部15側のコイル31とマーカー40との間に離間距離Bが介在せず、互いに当接していても、当該コイル31がマーカー40の位置を把握する際の妨げとなることはない。
次のマーカー装着工程では、図5(c)に示すように、凹溝形成工程で、広間隔部(マーカー装着予定部)34からコイル31を除去する。この作業により、内層11の凹溝113が露出した部分に、X線等の放射線が透過不能な材料を用いたリング状のマーカー40を装着してカシメ固定する。次に、外層形成工程では、前述したように補強層30とマーカー40とを被覆するように、内層11の周囲に予め管状に形成した樹脂材料121を装着する。さらに、その外周に図示しない熱収縮チューブを装着して加熱し、熱収縮チューブを熱収縮させ、その後熱収縮チューブを除去して外層12を形成する。この外層12は、内層11の樹脂材料111と同種または異種の樹脂材料121により形成されている。また、熱収縮チューブの熱収縮の際に、図4の拡大断面図に示すように、マーカー40と内層11の凹溝113との間に、外層12の樹脂材料121が侵入し固化する。この樹脂材料121の介在により、マーカー40および補強層30と内層11との密着性、および、マーカー40の軸方向へのずれ抑制効果が向上する。そして、次のコート層形成工程では、外層12の周囲に、前述したような樹脂材料51の塗布や化学処理等をすることにより、コート層50を形成する。
なお、本実施形態では、マーカー装着工程では、内層11へのマーカー40の固定は、カシメ固定しているが、本願がこれに限定されることはない。マーカー40をカシメることなく、単に凹溝113外周に装着して、後の外層形成工程での加熱時に、溶融した外層12の樹脂材料121を凹溝113に充填し固化することによりマーカー40を内層11に接着固定してもよい。また、前述したように、マーカー40の装着前に樹脂材料塗布工程を行い、溶融した樹脂材料121をマーカー40の装着予定部分に塗布してもよい。その後、樹脂材料121が溶融している状態で、マーカー装着工程を行って、樹脂材料121を塗布した凹溝113の外周にマーカー40を装着し、樹脂材料121の固化によりマーカー40を内層11に軸方向に移動不能に固定してもよい。または、マーカー40の装着後に、凹溝113内に溶融した樹脂材料121を充填し、その後固化させることにより、樹脂材料121を介してマーカー40と内層11とを固定し、その後、外層形成工程を行ってもよい。
最後に、マンドレルを内層11から引き抜く。この際、必要に応じ、マンドレルの両端部を互いに逆方向に牽引することによってマンドレルを細径化する。このような工程により、メインルーメン20と、内層11と、外層12と、補強層30と、マーカー40と、コート層50と、を備える管状本体10を得ることができる。そして、この管状本体10とコネクタ60とを組み立てることにより、本実施形態のカテーテル100を製造することができる。
次に、上記製造方法で形成された本実施形態のカテーテル100の屈曲例を説明する。本実施形態のカテーテル100を用いる場合は、まず、例えば、血管にガイドワイヤーを挿通する。次に、このガイドワイヤーに追随するようにカテーテル100を血管に挿入することにより、受動的にカテーテル100を患部まで到達させることができる。また、ガイドワイヤーが屈曲している場合には、このワイヤーの屈曲に追随して、図6(b)または図6(c)の側面図に示すように、カテーテル100の遠位端部15を屈曲させることができる。また、本実施形態のカテーテル100は、マーカー40と補強層30とを長手方向に離間させて配置しているため、X線等でマーカー40を明確に確認し易くなり、患者の体内で遠位端側DEがいずれの位置にあるか容易に確認できる。また、凹溝113のアンカー効果により、このような屈曲を行っても、マーカー40の軸方向への位置ズレを抑制することができる。
また、本実施形態に係るカテーテル100においては、コイル31を巻回すことにより弾性力を有する補強層30がメインルーメン20の周囲に配置されている。そのため、ガイドワイヤーに追随してカテーテル100が屈曲する際に、補強層30のコイル31にはその軸方向を曲げようとする外力が加わる。しかし、コイル31はその弾性的な反撥力によって、その外力に抗しようとする。このため、カテーテル100の急角度の折れ曲がりを抑制することができる。よって、メインルーメン20の急角度の折れ曲がりも抑制できる。これにより、メインルーメン20の内腔断面積を十分な大きさに維持できるため、メインルーメン20を介した薬剤等の供給や光学系の挿通などを好適に実施できる。
また、本実施形態では、コイル31を巻回す際に、隣接する巻き同士を密接させた密巻き部32と、この密巻き部32に連続して、遠位端側DEに、隣接する巻き同士に近接縁間距離Aを介在させた狭間隔部33を形成している。したがって、密巻き部32部分は、曲げ剛性が相対的に大きいために、さほど屈曲せずにほぼ軸方向が直線状に維持される。また、狭間隔部33では、曲げ剛性が相対的に小さいため屈曲性が良好で屈曲し易く、また、この屈曲状体を保持することができる。このため、コイル31の狭間隔部33では、ガイドワイヤーの屈曲に追随した遠位端部15の屈曲操作を容易に行うことができる。しかも、密巻き部32は隣接する巻き同士が当接しているので、カテーテル100を体腔内に押し込む際に、その押し込み力を、密巻き部32を介して狭間隔部33にまで有効に伝達させることができる。つまり、カテーテル100のプッシャビリティを向上できる。カテーテル100のプッシャビリティは、コイル31からなる補強層30がメインルーメン20の先端部から基端部にわたって延在していることにより、一層向上する。さらに、カテーテル100のプッシャビリティは、補強層30が狭間隔部33以外は密巻き部32となっていることにより、格段に向上する。
以上のように、本実施形態では、凹溝113、および、この凹溝113に充填した樹脂材料121によって、マーカー40に対する良好なアンカー効果が得られるため、製造時や使用時に、マーカー40の軸方向への位置ズレが良好に抑制される。そのため、製造効率に優れ、かつ、操作性に優れるカテーテル100を廉価に提供することができる。また、このようにマーカー40を固定しても、マーカー40と補強層30とが離間しているので、カテーテル100の屈曲時に互いが邪魔になることがなく、円滑な屈曲が可能となる。また、マーカー40のカシメを行っても、補強層30の配置部分で内層11が内腔側に変形することがないため、メインルーメン20の平坦性も維持することができる。
また、上記第1の実施形態では、図1および図4に示すように、マーカー40の内周面は、平滑面である。本願がこれに限定されることはなく、例えば、図7に示すカテーテル101の変形例のように、マーカー140の内周面に、凹溝113に螺着するための螺旋状の突起141を設けてもよい。このようなマーカー140では、マーカー装着工程において、マーカー140を回転させながら、凹溝113に螺着する。この螺着により、マーカー140のアンカー効果をさらに向上させることができる。なお、マーカー140の内周面には、突起141に限らず、凹溝(凹溝113間の突起に螺着する)を形成してもよいし、粗面(ラフネス)を形成してもよい。
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態に係るカテーテルについて説明する。図8は、第2の実施形態に係るカテーテル200の管状本体210先端部(遠位端側DE)の側断面図である。図9は、第2の実施形態に係るカテーテル200の全体図と屈曲例を示す側面図とである。図9(a)はカテーテル200を屈曲する前の全体を示す側面図である。図9(b)は後述するスライダ264aを操作して先端を上方に屈曲させた状態を示す側面図である。図9(c)はスライダ264aを操作して、先端を図9(b)よりも大きな曲率で上方に屈曲させた状態を示す側面図である。図9(d)はスライダ264bを操作して先端を下方に屈曲させた状態を示す側面図である。図9(e)はスライダ264bを操作して、先端を図9(d)よりも大きな曲率で下方に屈曲させた状態を示す側面図である。
第2の実施形態のカテーテル200は、第1の実施形態に係るカテーテル100とほぼ同様の構成である。図8に示すように、樹脂材料2111製の内層211および樹脂材料2121製の外層212からなる管状本体210と、当該管状本体210内に、長手方向に沿って配設されたメインルーメン220と、このメインルーメン220の外周に、管状本体210を形成する樹脂材料よりも硬質な材料で形成されたコイル231を巻回した補強層230と、管状本体210の遠位端側DEに装着されたマーカー240と、を備えている。また、遠位端部215における外層212の周囲には、管状本体210の最外層として、潤滑処理が外表面に施された親水性の樹脂材料251製のコート層250が設けられている。
なお、本実施形態においても、マーカー240は、補強層230よりも管状本体210の長手方向の遠位端側DEに、当該補強層230と離間して配置されている。また、第1の実施形態と同様に、コイル231を内層211に食い込むように巻回して、補強層230を配置する螺旋溝2112と一連に凹溝2113を形成している。なお、本実施形態でも、マーカー240の内周面は平滑面としているが、図7に示す第1の実施形態の変形例と同様に、マーカー240の内周面に突起、凹溝、ラフネスなどを設けてもよい。また、補強層230とマーカー240とは、同層に形成していたが、本実施形態では、補強層230は、マーカー240よりも、内側に配置している。そして、第1の実施形態とは異なる構成として、補強層230の外側に、サブルーメン280が設けられている。このサブルーメン280は、図8に示すように、外層212内に設けられ、メインルーメン220よりも小径で、カテーテル200の長手方向に延在する中空として形成されている。すなわち、サブルーメン280は、メインルーメン220の周囲に配設されている。以下、サブルーメン280の構成とその製造方法について説明する。
ここで、サブルーメン280の本数は任意であるが、本実施形態のカテーテル200は、2本のサブルーメン280を有している。複数本のサブルーメン280を有する場合は、これらサブルーメン280をメインルーメン220の軸周りにおいて分散して配置する。本実施形態のようにカテーテル200が2本のサブルーメン280を備える場合は、図8のようにサブルーメン280をメインルーメン220の周囲に180度間隔で配置することが好ましい。なお、カテーテル200は3本以上のサブルーメン280を有していてもよい。例えば3本のサブルーメン280を有する場合は、サブルーメン280をメインルーメン220の周囲に120度間隔で配置することが好ましい。
サブルーメン280は、少なくとも管状本体210の近位端側CE、具体的には、例えば、図9に示すように、管状本体210の近位端側PEにおいて開口している。なお、管状本体210の近位端側PEよりも遠位端側DEにおいて開口していてもよい。各サブルーメン280には、それぞれ操作線270が挿通され、且つ、各操作線270がサブルーメン280に対して摺動可能となっている。
また、操作線270の先端は、カテーテル200の遠位端部215に固定されている。操作線270の遠位端を遠位端部215に固定する態様は特に限定されない。例えば、図8に示すように、操作線270の先端(遠位端271)をマーカー240に連結してもよい。また、遠位端部215におけるマーカー240以外の部分に溶着してもよい。または、接着剤によりマーカー240または管状本体210の遠位端部215に接着固定してもよい。
操作線270は、管状本体210の遠位端部215から近位端部216にわたってサブルーメン280内を導かれている。操作線270の近位端(図示せず)は、管状本体210の近位端側PEにおけるサブルーメン280の開口より導出され、後述する操作部260のスライダ264a、264bに固定されている。
操作線270の近位端を牽引する方向(つまり図9の紙面右方向)に操作部260のスライダ264を操作する。すると、操作線270を介してカテーテル200の遠位端部215に引張力が与えられて、当該操作線270が挿通されたサブルーメン280の側に遠位端部215が屈曲する。ただし、操作線270の近位端をカテーテル200に対して押し込む方向(つまり図9の紙面左方向)に操作部260のスライダ264を操作しても、当該操作線270から遠位端部215に対して押込力が実質的に与えられることはない。
なお、操作線270を挿通するサブルーメン280をメインルーメン220と外径方向に離間して設けている。このことにより、メインルーメン220を通じて薬剤等を供給したり光学系を挿通したりする際に、これらがサブルーメン280に脱漏しないようにすることができる。そして、本実施形態のようにサブルーメン280を補強層230の外側に設けることにより、摺動する操作線270に対して、補強層230の内側、すなわちメインルーメン220が保護される。
ここで、操作線270をサブルーメン280に挿通する方法としては、例えば、予めサブルーメン280が形成されたカテーテル200の管状本体210に対して、その一端側から操作線270を挿通してもよい。または、管状本体210の押出成形時に、樹脂材料とともに操作線270を押し出してサブルーメン280の内部に挿通してもよい。
操作線270を樹脂材料とともに押し出してサブルーメン280に挿通する場合、操作線270には、管状本体210を構成する樹脂材料の溶融温度以上の耐熱性が求められる。かかる操作線270の場合、具体的な材料としては、たとえば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの高分子ファイバー、または、ステンレススチール(SUS)、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線を用いることができる。
一方、予め成形された管状本体210のサブルーメン280に対して操作線270を挿通する場合など、操作線270に耐熱性が求められない場合は、上記各材料に加えて、PVDF、高密度ポリエチレン(HDPE)またはポリエステルなどを使用することもできる。
ここで、本実施形態のカテーテル200の代表的な寸法について説明する。メインルーメン220の半径は200〜300μm程度、内層211の厚さは10〜30μm程度、外層212の厚さは100〜220μm程度、補強層230の外径は直径500〜860μm、補強層230の内径は直径420〜660μmとすることができる。そして、カテーテル200の(管状本体210の)軸心からサブルーメン280の中心までの半径は300〜450μm程度、サブルーメン280の内径は40〜100μmとすることができ、操作線270の太さは30〜60μmとすることができる。そして、カテーテル200の(管状本体210の)最外半径を350〜490μm程度とすることができる。
すなわち、本実施形態でも、第1の実施形態と同様に、カテーテル200の外径は直径1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル200に関しては、操作線270の牽引により進行方向が自在に操作されるため、たとえば分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル200を進入させることが可能である。
図9の各図に示すように、カテーテル200の近位端部216には、操作部260が備えられている。本実施形態の操作部260は、カテーテル200の長手方向に延在する軸部261と、軸部261に対してカテーテル200の長手方向にそれぞれ進退するスライダ264(例えば、第1および第2スライダ264a、264b)と、軸部261と一体に該軸部261の軸周りに回転するハンドル部262と、管状本体210の基端部が軸周りに回転可能に差し込まれた把持部263とを備えている。管状本体210の近位端側PEは、軸部261に固定されている。操作部260のスライダ264に対し、複数本の操作線270をそれぞれ個別に、または二本以上を同時に牽引する操作を行うことにより、カテーテル200の遠位端部215を屈曲させることができるようになっている。また、例えば、一方の手で把持部263を把持した状態で、他方の手でハンドル部262を把持部263に対して軸回転させることにより、管状本体210の全体を軸部261とともに回転させることができるようになっている。
ここで、上述のように、本実施形態の場合、カテーテル200は、2本のサブルーメン280と、それらサブルーメン280にそれぞれ挿通された操作線270を有している。以下では、説明の便宜上、一方のサブルーメン280を第1サブルーメン280aと称し、他方のサブルーメン280を第2サブルーメン280bと称する(図8、図9参照)。そして、第1サブルーメン280a内に挿通された操作線270を第1操作線270aと称し、第2サブルーメン280b内に挿通された操作線270を第2操作線270bと称する。
第1操作線270aの近位端は、操作部260の第1スライダ264aに接続されている。同様に、第2操作線270bの近位端は、操作部260の第2スライダ264bに接続されている。そして、第1スライダ264aと第2スライダ264bとを軸部261に対して個別に基端側にスライドさせる。この操作により、各々に接続された第1操作線270aまたは第2操作線270bが個別に牽引され、カテーテル200の遠位端部215(つまり管状本体210の遠位端側DE)に引張力が与えられる。これにより、当該牽引された操作線270の側に遠位端部215が屈曲する。
第1操作線270aまたは第2操作線270bの何れかの操作線270を個別に牽引する場合、牽引する距離に応じて、遠位端部215の曲率を変化させることができる。なお、操作線270を個別に牽引するだけでは遠位端部215を所望の姿勢に屈曲させることができない場合には、第1および第2操作線270a、270bを同時に牽引することにより、遠位端部215の所望の姿勢を実現してもよい。
このように遠位端部215を様々な形状に屈曲させるとともに、ハンドル部262に対する回転操作によって管状本体(シース)210の回転位相を調節する。この操作により、遠位端部215の屈曲量および屈曲方向を調節し、様々な角度に分岐する体腔に対してカテーテル200を自在に進入させることができる。したがって、例えば分岐のある血管や末梢血管に対しても、本実施形態のカテーテル200を所望の方向に進入させることができる。なお、本実施形態のカテーテル200において、遠位端部215の屈曲角度は90度を超えることが好ましい(図9参照)。これにより、血管の分岐角度がUターンするような鋭角の場合であっても、かかる分岐枝に対してカテーテル200を進入させることができる。
次に、第2の実施形態に係るカテーテル200の動作を、図9を用いて説明する。まず、本実施形態のカテーテル200を患者の血管等の体腔内に挿入する。本実施形態では、カテーテル200の軸心を挟んで第1サブルーメン280aと第2サブルーメン280bとが180度対向して形成されている。そして、第1サブルーメン280aには第1操作線270aが挿通され、第2サブルーメン280bには第2操作線270bが挿通され、先端を自在に屈曲させることができる。そのため、上記第1の実施形態のように、ガイドワイヤーなどを必要とせず、操作線270を操作しながら、能動的にカテーテル200を患者の体内に挿入できる。
ここで、本実施形態のカテーテル200では、操作部260のスライダ264aを操作して第1操作線270aを近位端側CEに牽引すると、図9(b)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図9の上方に屈曲する。さらに、この牽引量を大きくすると、図9(c)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図9の上方に大きく屈曲する。
また、操作部260のスライダ264bを操作して、第2操作線270bを近位端側CEに牽引すると、図9(d)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図9の下方に屈曲する。さらに、この牽引量を大きくすると、図9(e)に示すように、カテーテル200の遠位端部215は図9の下方に大きく屈曲する。
なお、第1操作線270aと第2操作線270bとを共に牽引する場合には、牽引量を互いに相違させてもよい。すなわち、いずれの操作線270を個別に牽引しても所望の曲率が達成されない場合には、両方の操作線270を牽引して曲率を調整してもよい。より具体的には、何れか一方の操作線270を牽引することにより遠位端部215が屈曲した状態から、何れか他方の操作線270を牽引する。この操作により、遠位端部215の屈曲量を減じる操作や、遠位端部215の姿勢を屈曲した状態から元の直線状の姿勢へ戻す操作を行うことができる。このように屈曲量を減じる操作により、屈曲量の微調整が可能である。
また、カテーテル200の遠位端部215を屈曲させた状態で、一方の手で操作部260の把持部263を把持し、他方の手でハンドル部262を、把持部263に対して軸回転させる。この操作により、カテーテル200の全体を軸部261とともに最大90度だけ回転させ、操作者はカテーテル200の遠位端部215の屈曲方向を所望の方向に変えて、遠位端側DEを患部に対向させることができる。なお、本実施形態でも、メインルーメン220の周囲にコイル231が巻回されているので、管状本体210のねじり剛性が高まる。よって、カテーテル200の回転操作時におけるトルク伝達効率が高まり、回転操作に対する遠位端部215の回転応答性が向上する。さらに、補強層230と長手方向に離間していることによりマーカー240の位置を明確に確認できるため、遠位端側DEの現在の位置や向きを容易に確認しながら操作ができる。
また、第2の実施形態に係るカテーテル200においては、弾性体により構成されたコイル231がメインルーメン220の周囲に巻回されている。そのため、操作線270に対する操作によってカテーテル200が屈曲する際に、コイル231にはその軸方向を曲げようとする外力が加わる。しかし、コイル231はその弾性的な反撥力によって、その外力に抗しようとする。このため、カテーテル200の急角度の折れ曲がりを抑制することができる。よって、メインルーメン220の急角度の折れ曲がりも抑制できる。これにより、メインルーメン220の内腔断面積を十分な大きさに維持できるため、メインルーメン220を介した薬剤等の供給や光学系の挿通などを好適に実施できる。
また、メインルーメン220が内空断面を維持することにより、サブルーメン280の急角度の折れ曲がりも抑制できる。これにより、サブルーメン280の内周壁と操作線270との摩擦係数の増大を抑制できるため、操作線270を用いたカテーテル200の屈曲操作性を良好な状態に維持できるとともに、操作線270の断線の発生も抑制できる。ただし、コイル231は、その軸方向を曲げようとする外力に従って屈曲することが可能であるため、カテーテル200の屈曲性を十分に確保することができる。要するに、カテーテル200の屈曲性を十分に確保しつつも、コイル231が有する弾性的な反撥力によってカテーテル200の急角度の折れ曲がりを抑制することができる。
また、本実施形態においても、コイル231は、少なくとも、メインルーメン220の先端部の周囲に巻回されている。そのため、カテーテル200の遠位端部215において、カテーテル200の屈曲性を十分に確保しつつカテーテル200の急角度の折れ曲がりを抑制することができる。
また、補強層230は、第1の実施形態と同様に、コイル231の先端部を含む狭間隔部と、巻回ピッチが密な密巻き部とを有するように形成してもよい。この構成により、コイル231の狭間隔部では、牽引された操作線270側が圧縮される挙動を呈するので、操作線270の牽引による遠位端部215の屈曲操作を容易に行うことができる。また、補強層230により、カテーテル200のプッシャビリティについては、第1の実施形態と同様に向上する。
また、本実施形態においても、マーカー240が補強層230よりも長手方向の遠位端側DEに離間して配置されているので、カテーテル200の先端を屈曲した際に、マーカー240と補強層230とが互いに干渉せず、円滑な屈曲を実現することができる。さらには、カテーテル200全体の肉厚を低減(薄型化)し、かつメインルーメン220の内腔の平坦化を実現することができる。また、操作線270を牽引してカテーテル200を屈曲させると、マーカー240も牽引されて、マーカー240が位置ズレする場合が想定されるが、本願では、凹溝2113のアンカー効果により、マーカー240が位置ズレを生じることがない。したがって、カテーテル200の使用性や耐久性も向上できる。
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
例えば、上記第2の実施形態においては、カテーテル200が2本の操作線270(第1操作線270a、第2操作線270b)を有する例を説明した。しかし、上述したように、それぞれ操作線270が挿通された3本以上のサブルーメン280を管状本体210に形成してもよい。この場合、これらの操作線270のうちの1本もしくは2本以上を牽引することによって、カテーテル200の屈曲操作を行うことができる。なお、この場合、3本以上の操作線270の牽引長さを個別に制御することにより、遠位端部215を360度にわたり任意の向きに屈曲させることができる。これにより、カテーテル200の全体に対して回転力を付与して遠位端部215を所定方向に向ける回転操作を行うことなく、操作部260による操作線270の牽引操作のみによって、カテーテル200の進入方向を操作することが可能となる。
また、カテーテル200が操作線270を1本のみ有している構成とすることも可能である。この場合も、操作線270の牽引による遠位端部215の屈曲操作とカテーテル200の回転操作との併用により、任意の屈曲量および任意の方向に遠位端部215を屈曲させることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
内部にメインルーメンを有する長尺の管状本体を備えるカテーテルであって、
前記管状本体は、
樹脂材料により形成され内部に前記メインルーメンを有する内層と、
前記内層の外周表面であって、遠位端部付近に形成された凹凸部と、
前記管状本体の遠位端部に配置されたマーカーと、を備え、
前記マーカーが、前記凹凸部の外周表面に装着されたカテーテル。
2.
前記内層の外周上に、前記内層の前記樹脂材料よりも硬質な材料で形成された補強層を、さらに備え、
前記凹凸部は、前記補強層と同層に形成されたことを特徴とする1.に記載のカテーテル。
3.
前記補強層は、前記内層の外周表面にコイルを巻回して形成されたことを特徴とする2.に記載のカテーテル。
4.
前記凹凸部は、螺旋状の凹溝である2.〜3.のいずれか1つに記載のカテーテル。
5.
前記凹溝は、前記補強層よりも遠位端部側に位置し、前記内層の外周表面に食い込むようにコイルを巻回すことで形成される螺旋溝と一連に形成された4.に記載のカテーテル。
6.
前記内層の外周表面にコイルを巻回して形成された前記補強層は、前記コイルを前記内層の厚みの略半分の深さまで食い込むよう巻回すことで形成される螺旋溝上に配置形成された3.〜5.のいずれか1つに記載のカテーテル。
7.
前記内層の外周表面にコイルを巻回して形成された前記補強層の前記コイルは、前記遠位端部に近くなるほど、隣接する前記コイルの巻線間の近接縁間距離が次第に大きくなるよう巻回すことを特徴とする3.〜6.のいずれか1つに記載のカテーテル。
8.
前記凹凸部は、螺旋状の凹溝であり、前記内層の前記遠位端部付近まで前記内層の外周表面に食い込むようにコイルを巻回すことで形成される螺旋溝上の前記コイルを少なくとも一巻き分、除去することにより形成されたことを特徴とする4.〜7.のいずれか1つに記載のカテーテル。
9.
少なくとも、前記補強層および前記マーカーの外周表面に、樹脂材料により形成された外層を、さらに備え、
前記凹凸部と前記マーカーとの間に、前記外層を形成する前記樹脂材料と同一の樹脂材料が介在することを特徴とする2.〜8.のいずれか1つに記載のカテーテル。
10.
内部にメインルーメンを有する長尺の管状本体を備えるカテーテルの製造方法であって、
芯線の外周に、樹脂材料により内層を形成する工程と、
前記内層の外周表面であって、遠位端部付近に凹凸部を形成する工程と、
前記凹凸部の外周上に、マーカーを装着し、前記管状本体を形成する工程と、を有するカテーテルの製造方法。
11.
前記内層の外周上に、前記内層の前記樹脂材料よりも硬質な材料で補強層を形成する工程を、さらに有し、
前記補強層を形成する工程では、前記内層の外周の遠位端部まで、線材料をコイル状に、当該内層に食い込むよう巻回すことにより形成される螺旋溝上に前記補強層を配置形成し、
前記凹凸部を形成する工程では、前記コイル状に巻回した線材料のうち、前記遠位端部の前記マーカーの装着予定部分を少なくとも一巻き分、除去することにより、螺旋状の凹溝により凹凸部を形成することを特徴とする10.に記載のカテーテルの製造方法。
12.
少なくとも、前記マーカーおよび前記線材料により形成された前記補強層の外周表面に、樹脂材料により外層を形成する工程を、さらに有し、
前記外層を形成する工程では、前記外層の形成時に、前記凹凸部と前記マーカーとの間に、前記外層の前記樹脂材料を充填することを特徴とする11.に記載のカテーテルの製造方法。
13.
少なくとも、前記マーカーおよび前記線材料により形成された前記補強層の外周表面に、樹脂材料により外層を形成する工程を、さらに有し、
前記マーカーを装着する工程の前に、前記凹凸部の外周表面に前記外層と同一の樹脂材料を塗布する工程を行い、その後、前記マーカーを前記凹凸部に装着する工程を行い、次いで、前記外層を形成する工程を行うことを特徴とする11.または12.に記載のカテーテルの製造方法。
14.
前記線材料を、レーザー照射によって破断し、当該破断部分よりも遠位端部側を除去することを特徴とする11.〜13.のいずれか1つに記載のカテーテルの製造方法。
15.
前記内層の形成工程は、前記芯線に前記樹脂材料を押し出して前記内層を成形することを特徴とする10.〜14.のいずれか1つに記載のカテーテルの製造方法。