JP2013125692A - 色素増感太陽電池用電解液およびそれを用いた色素増感太陽電池 - Google Patents

色素増感太陽電池用電解液およびそれを用いた色素増感太陽電池 Download PDF

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Abstract

【課題】高い短絡電流密度と光電変換効率が得られる色素増感太陽電池用電解液およびそれを用いた色素増感太陽電池を提供する。
【解決手段】イオン性を有さない有機溶媒と、ハロゲン分子と、一般式(a)で表されるハロゲン化物塩と、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、を含有する色素増感太陽電池用電解液において、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAとは異なることを特徴とする色素増感太陽電池用電解液およびそれを用いた色素増感太陽電池。
【選択図】図1

Description

本願発明は、色素増感太陽電池用電解液に関し、さらに詳細には、大きな短絡電流密度が得られ、広範な温度範囲で使用可能であり、耐久性に優れる色素増感太陽電池用電解液およびそれを利用した色素増感太陽電池に関する。
近年、可視光域を吸収する増感色素を半導体層に担持させた色素増感太陽電池について検討が行われている。この色素増感太陽電池は、使用する材料が安価であることや比較的シンプルなプロセスで製造できること等の利点を有しており、その実用化が期待されている。
色素増感太陽電池は、一般に、透明導電膜付き透明基体上に金属酸化物半導体の多孔質膜を形成させ、その表面に増感色素を吸着させたアノード電極(半導体電極)と、導電性基体に触媒層を形成させたカソード電極(対極)とが対向して配置され、その間に電解液が封止された構造となっている。半導体電極に光が入射すると、増感色素が可視光を吸収して励起状態となり、増感色素から半導体電極に電子が注入され、集電体を通して外部に電流が取り出される。一方、増感色素の酸化体は電解液中の酸化還元対により還元されて再生する。酸化された酸化還元対は、半導体電極に対向して設置された対極表面の触媒層で還元されてサイクルが一周する。
従来、色素増感太陽電池用の電解液として、ヨウ化リチウムやヨウ化物塩とヨウ素をメトキシアセトニトリルやアセトニトリルに溶解させたものが一般的に用いられている(非特許文献1、特許文献1、3)。ヨウ化物塩およびヨウ素は電解液中でIおよびI を形成し、酸化還元対として両電極間の電荷キャリアとして機能している。一方、ヨウ化リチウムは短絡電流密度を向上させるための添加剤として多用されている。
近年では、ニトリルの毒性や耐久性の低さから、ニトリルに代わる溶媒としてプロピレンカーボネートやγ−ブチロラクトン、鎖状スルホンを用いた色素増感太陽電池用電解液も開示されている(特許文献1、2、非特許文献2)。ところが、これらの溶媒に対してヨウ化リチウムは溶解性が低いという問題がある。また、リチウムイオンはイオン半径が小さいため溶媒和されやすいという特徴があるが、これらの溶媒がリチウムイオンに溶媒和すると、ニトリルを溶媒に用いた場合よりも強固に溶媒和し、その結果電解液の粘度が増大して、リチウムイオンによる短絡電流密度の向上効果を打ち消してしまうという大きな問題点があった。
さらに、ヨウ化リチウムを添加すると、酸化物半導体としてもっとも広範に用いられている酸化チタンがリチウムイオンと反応し、半導体電極の電気抵抗が増大してしまうため、長期的な安定性が著しく低下してしまうという致命的な問題点もあった。
色素増感太陽電池の電解液として実用的な耐久性を得るためには、アセトニトリルよりも高い沸点、望ましくは200℃以上の高い沸点を有する溶媒を用いることが求められるが、沸点の向上に伴って溶媒自体の粘度も高くなるため、高沸点の溶媒を用いた電解液は短絡電流密度が低くなりやすい。このため、より大きな短絡電流密度が得られる電解液が求められているが、上述のようにヨウ化リチウムを添加剤として用いる電解液では得られる短絡電流密度が低い。
従って、高い短絡電流密度が得られる優れた電解液が望まれている。
特開2007−220608号公報 特開2000−277182号公報
Japanese Journal of Applied Physics,Vol.45,No.25,2006,L638−L640 Electrochemistry,3,163(2011)
したがって、本願発明は、上記課題に鑑み、高い短絡電流密度が得られる優れた色素増感太陽電池用電解液が望まれており、本願発明はこれらの特性を具備する電解液およびそれを用いた色素増感太陽電池を提供することをその課題とする。
本願発明者らは鋭意検討した結果、イオン性を有さない有機溶媒と、ハロゲン分子と、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩と、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、を含有する色素増感太陽電池用電解液において、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAとは異なることを特徴とする色素増感太陽電池用電解液が、優れた短絡電流密度が得られることを見出し、本願発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明は以下に示すものである。
第一の発明は、イオン性を有さない有機溶媒と、ハロゲン分子と、下記一般式(a)で表されるハロゲン化合物塩と、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、を含有する色素増感太陽電池用電解液において、
下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAとは異なることを特徴とする色素増感太陽電池用電解液である。
Figure 2013125692
(式(a)中、Aは、オニウムカチオンを示し、Xは、ハロゲンアニオンを示す。)
Figure 2013125692
(式(b)中、Bは、オニウムカチオンを示し、Yは、チオシアン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラシアノホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、環状パーフルオロアルキレンジスルホニルイミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)
第二の発明は、AおよびBが、下記一般式(1)〜(9)で表されるオニウムカチオンからなる群より選ばれる1種であることを特徴とする第一の発明に記載の色素増感太陽電池用電解液である。
Figure 2013125692
(式(1)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
Figure 2013125692
(式(2)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基、R、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
Figure 2013125692
(式(3)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R、R10、R11は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
Figure 2013125692
(式(4)中、R12〜R14は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R15、R16は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
Figure 2013125692
(式(5)中、R17〜R19は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R20は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Qは、酸素原子または硫黄原子である。)
Figure 2013125692
(式(6)中、R21〜R25は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R26は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
Figure 2013125692
(式(7)中、R27〜R30は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。ただし、R27〜R30の全てが同一の置換基であることを除く。)
Figure 2013125692
(式(8)中、R31〜R34は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。ただし、R31〜R34の全てが同一の置換基であることを除く。また、R31とR32、R33とR34はそれぞれ環を巻いていてもよい。)
Figure 2013125692
(式(9)中、m、nは、4または5の整数である。)
第三の発明は、一般式(1)〜(9)で表される化合物が、N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N,N−ジメチルピロリジニウムカチオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3,5−トリメチル−ピラゾリウムカチオン、2−エチル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウムカチオン、2−プロピル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムカチオン、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムカチオン、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウムカチオンからなる群より選ばれる1種であることを特徴とする第二の発明に記載の色素増感太陽電池用電解液である。
第四の発明は、一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAが、一般式(2)または(3)で表されるオニウムカチオンであり、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、一般式(1)、(4)〜(9)で表されるオニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする第二または第三の発明に記載の色素増感太陽電池用電解液である。
第五の発明は、ハロゲン化物塩がヨウ化物塩又は臭化物塩で、ハロゲン分子がヨウ素又は臭素である第一から第四の発明のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液である。
第六の発明は、有機溶媒が、ニトリル類、ラクトン類、環状カーボネート類、下記一般式(10)で表される鎖状スルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含むことを特徴とする第一から第五の発明のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液である。
Figure 2013125692
(式(10)中、R35、R36は独立して、ハロゲン、アルコキシ基若しくは芳香環で一部置換されていても良い炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基を表す。)
第七の発明は、導電層上に多孔質の金属酸化物半導体層を形成し、該金属酸化物半導体層に光増感作用を有する色素を吸着させてなる光電極と、前記光電極に対向配置される対極、及び前記光電極と対極間に形成され、色素増感太陽電池用電解液を含む電解質層とを有する色素増感太陽電池であって、
前記電解質層が第一から第六の発明のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液を含んでなることを特徴とする色素増感太陽電池である。
本願発明は、高い短絡電流密度が得られる優れた色素増感太陽電池用電解液およびそれ用いた色素増感太陽電池を提供することである。
本発明の色素増感太陽電池の構成の一例を示す断面模式図である。
本願発明の色素増感太陽電池用電解液について説明する。
本発明の色素増感太陽電池用電解液は、イオン性を有さない有機溶媒と、ハロゲン分子と、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩と、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、を含有する色素増感太陽電池用電解液において、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAとは異なることを特徴とする色素増感太陽電池用電解液である。
Figure 2013125692
一般式(a)中、Aは、オニウムカチオンを示し、Xは、ハロゲンアニオンを示す。
Figure 2013125692
一般式(b)中、Bは、オニウムカチオンを示し、Yは、チオシアン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラシアノホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、環状パーフルオロアルキレンジスルホニルイミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。
ハロゲン化物塩およびオニウム化合物塩に用いるオニウムカチオンAおよびBとしては、下記一般式(1)に記載したピロリジニウムカチオンが望ましい。特に、溶解・電離後の移動度が高いN−エチル−N−メチルピロリジニウム又はN,N−ジメチルピロリジニウムカチオンであることが望ましい。
Figure 2013125692
一般式(1)中、R及びRは独立して、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシアルキル基を表す。
また、他のオニウムカチオンとしては、下記一般式(2)および(3)に記載したイミダゾリウムカチオンが望ましい。用いる電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、アルキル差が長くなりすぎると、電解液のイオン伝導率が低下するため、一般式(2)中のRおよびRが、炭素数1〜12のアルキル基であって、それぞれのアルキル基の炭素数の合計が2〜4であることが望ましく、より具体的には、1,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムが望ましい。
Figure 2013125692
一般式(2)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基、R、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を表す。
また、下記一般式(3)においては、用いる電解液溶媒によって変わるため限定はされないが、移動度と溶媒への溶解性を両立できるように、1−エチル−2−メチル−3−プロピルイミダゾリウム、より望ましくは、RおよびRがメチル基で、Rが炭素数3〜6のアルキル基であることが望ましい。中でも、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムカチオンであることが望ましい。
Figure 2013125692
一般式(3)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R、R10、R11は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。
また、他のオニウムカチオンとしては、下記一般式(4)に記載したピラゾリウムカチオンが望ましい。用いる電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、特に1−エチル−2,3,5−トリメチル−ピラゾリウムであればイオン伝導率が高く、高い短絡電流密度が得られるため好適に用いことができる。
Figure 2013125692
一般式(4)中、R12〜R14は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R15、R16は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。
さらに、他のオニウムカチオンとしては、下記一般式(5)に記載したイソオキサゾリウムカチオン、イソチアゾリウムカチオンが望ましい。用いる電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、特に2−エチル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウム又は2−プロピル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウムを好適に用いことができる。
Figure 2013125692
一般式(5)中、R17〜R19は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R20は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Qは、酸素原子または硫黄原子である。
さらに、他のオニウムカチオンとしては、下記一般式(6)に記載したピリジニウムカチオンが望ましい。用いる電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、特に高いイオン伝導率に加え、高い開放電圧も得られる、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオンを好適に用いことができる。
Figure 2013125692
一般式(6)中、R26は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシアルキル基を、R21、〜R25は独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシアルキル基を表す。
また他のオニウムカチオンとしては、第4級アンモニウムカチオンが望ましく、特に溶媒に対する溶解度を確保するため、下記一般式(7)に記載した、4つのアルキル鎖が同一ではない、非対称型の第4級アンモニウムカチオンが望ましい。特に電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、第4級アンモニウムカチオンとしては高い溶解性とイオン伝導率を有する、トリエチルメチルアンモニウムカチオンを好適に用いことができる。
Figure 2013125692
一般式(7)中、R27〜R30は、独立して炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシアルキル基を表す。ただし、R27〜R30の全てが同一の置換基であることを除く。
また他のオニウムカチオンとしては、下記一般式(8)に記載した第4級ホスホニウムカチオンが望ましく、特に溶媒に対する溶解度を確保するため、4つのアルキル鎖が同一ではない、非対称型の第4級ホスホニウムカチオンが望ましい。特に電解液溶媒によっても変わるため特には限定されないが、高いイオン伝導率に加え、高い開放電圧も得られる、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、トリイソプロピルメチルホスホニウムカチオン、トリブチルメチルホスホニウムカチオン、トリブチルエチルホスホニウム、トリエチルメトキシメチルホスホニウムカチオン、トリエチルメトキシエチルホスホニウムカチオン、また、スピロ−(1,1’)−ホスホラニウムカチオン、1−エチル−1−メチル−ホスホラニウムカチオン等を好適に用いことができる。
Figure 2013125692
一般式(8)中、R31〜R34は、独立して炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシアルキル基を表す。ただし、R31〜R34の全てが同一の置換基であることを除く。また、R31とR32、R33とR34はそれぞれ環を巻いていてもよい。
さらに、他の望ましいオニウムカチオンとしては、高い耐熱性と電気化学的安定性を示す、下記一般式(9)に記載したスピロ型の第4級アンモニウムカチオンが望ましく挙げられる。
Figure 2013125692
一般式(9)中、m、nは、4または5の整数である。高いイオン伝導率を示す、m及びnが4の整数であるスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムが特に好適に利用できる。
一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のアニオンYとしては、用いる有機溶媒やオニウムカチオンとアニオンの組合せにより溶解度や電離度が変化するため特には限定されないが、電解液の粘度をなるべく向上させないよう、用いる有機溶媒との相互作用が少ないことが望ましい。
具体的には、チオシアン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラシアノホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオンが好適に利用できる。また、他に好適に利用できるアニオンとしては、一般式(I)で表されるビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミド又はビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、一般式(II)で表される環状パーフルオロアルキレンジスルホニルイミドが望ましく、特に、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド、ビス(フルオロスルホニル)イミドからなる群より選ばれる1種が好適に利用できる。一方、酸化還元対とならないよう、ハロゲンアニオン、具体的にはヨウ素アニオン、臭素アニオンは含まれない。
Figure 2013125692
一般式(I)中、p、qは独立して、0〜6の整数を表す。
Figure 2013125692
一般式(II)中、rは2〜8の正整数を表す。
本願発明の一般式(b)で表されるオニウム化合物塩の電解液に添加する濃度としては、用いるオニウム化合物塩の種類や、有機溶媒、ハロゲン化物塩の種類およびその濃度などにより最適な添加量が異なるため、特には限定されないが、ハロゲン化物塩の電離を促進するために有効と考えられる0.01mol/l以上、望ましくは0.05mol/l以上であることが望ましい。一方、本願発明に用いるオニウム化合物塩は、電離すれば電荷を有するため、過剰に存在すると酸化還元対の拡散速度を遅くしてしまう可能性がある。したがって、特には限定されないが、2.0mol/l以下、より望ましくは1.0mol/l以下が望ましい。
本願発明の効果である短絡電流密度が向上する理由としては、明確には解明できてはいないものの、色素増感太陽電池の電解液において、酸化還元対となるハロゲン化物塩の電離度が低いことが挙げられる。すなわち、例えハロゲン化物塩が電解液中に溶解していたとしても、電離度が低い場合には、電解液中に仕込んだハロゲン化物塩は、所定の濃度どおりには酸化還元対として機能しないため、キャリア輸送能は本来の値よりも低下しており、その結果低い短絡電流密度しか得られていない。
物質の電離度はその物質の濃度に依存しており、その濃度が低いほど電離度は向上する。したがって、本発明のようにハロゲン化物塩のカチオンとは異なるカチオンを有するオニウム化合物塩を用いると、酸化還元対を構成するハロゲン化物塩とは異なるオニウムカチオンが電解液中に共存することになり、必然的にハロゲン化物塩とオニウム化合物塩との間で塩交換反応が発生する。この結果、電解液の調製時に用いたハロゲン化物塩とは異なるカチオンのハロゲン化物塩が系中で共存することになるため、個々のハロゲン化物塩として見ると、単一のハロゲン化物塩を用いて調製した場合の濃度よりも低くなる。その結果、電解液中におけるハロゲン化物塩の電離度が高くなって、酸化還元対として機能しうるハロゲンアニオンの濃度が向上する。すなわち、短絡電流密度が向上するのである。
したがって、本願発明においては、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンは、ハロゲン化物塩を構成するオニウムカチオンとは異なることが必須である。特に、ハロゲン化物塩の電離度が高くなるよう、電流向上添加剤自体の電離度が高いことが望ましく、さらに、ハロゲン化物塩のオニウムカチオンとは置換基だけの違いによる構造の違いにとどまらず、互いにカチオンの主構造も異なることが望ましい。
これに対し、低電離度を補おうとハロゲン化物塩の仕込み濃度を上げると、電離度はさらに低下してしまうため、酸化還元対のイオン伝導率は頭打ちになる上、電解液の粘度が大幅に増加するため、逆に短絡電流密度が減少してしまう。このため、溶解させるハロゲン化物塩の種類を決定してしまえば、ある一定光量のもとでの光電流が極大となるハロゲン化物塩の濃度は一義的に決まってしまい、耐久性を犠牲にして、低粘度低沸点の有機溶媒を混合させて電解液の粘度を下げる以外には、それ以上短絡電流密度を向上させることは困難であった。
従来のニトリル溶媒を用いた電解液では溶媒であるニトリルの粘度が低い上に電離度が高い溶媒であり、電解液は高いイオン伝導率を示して優れた短絡電流密度が得られるため、上記の酸化還元対の電離度は大きな問題にはなってはいなかった。このため、従来のニトリル電解液に併せて見出された性能向上用の添加剤では、高沸点溶媒を用いた場合の低短絡電流密度の改善を行なうことはできない。すなわち、高沸点溶媒を用いた電解液において、酸化還元対として用いるハロゲン化物塩を構成するオニウムカチオンとは、異なるオニウムカチオンからなるオニウム化合物塩を含有することで、高沸点溶媒に由来する高い耐久性を低下させることなく、従来よりも高い短絡電流密度が得られる電解液となることは、これまでには全く見出されていなかった。
耐久性が低いものの、優れた短絡電流密度が得られるニトリル系電解液では、t−ブチルピリジンやN−メチルベンズイミダゾール等の塩基性添加剤を添加して開放電圧や形状因子(「ff」と略記する。)を改善することで、変換効率を向上させる方法が一般的に用いられている。一方、塩基性添加剤を用いると、酸化物半導体の伝導体準位がシフトするため、短絡電流密度が低下する場合が多く、この短絡電流密度の低下を抑制するために、チオシアン酸グアニジウムを電解液中に共存させる方法が知られている。
しかしながら、本願発明者がチオシアン酸グアニジウムを高沸点溶媒中に添加してみると電解液の粘度が著しく増加し、逆にセルの特性が低下してしまった。このような添加剤効果の違いは、添加剤が増感色素やチタニア電極に作用するだけではなく、溶媒と添加剤との間にも分子間力などの相互作用が働いており、用いる溶媒や電解質と添加剤との組合せ、およびその濃度や組成比率により作用が異なってくるためである。
すなわち、複数の電解質・溶媒からなる電解液の粘度変化を事前に予測することは全く不可能であるうえ、例え低粘度の溶媒を用いた場合には問題にならなかった添加剤であっても、高沸点の溶媒を用いた場合に電流値やffにどのような悪影響を及ぼすかどうかは推測できない。また、電流値の課題だけはなく、溶媒によってそもそもの開放電圧が異なってくることから、いずれの添加剤をどの濃度で用いれば、使用する高沸点溶媒の中で効果的に短絡電流密度を向上することができるのか不明であり、従来の高電流密度が得られる低沸点溶媒を用いた先行技術文献をもとにしても、本願発明を類推することは不可能である。したがって、実際に電解液を調製し、太陽電池を組むことで初めて、その組成の電解液の特性を評価することができるようになるのであり、本願特許発明者らも、実際に高沸点溶媒に対して添加剤としてオニウム化合物塩を作用させて初めて本願発明の効果を見出すことに成功した。
ところで、色素増感太陽電池の電解液には、本願発明のように有機溶媒に電解質となるハロゲン化物塩を溶解させて形成する有機溶媒電解液と、室温で液状を呈するイオン液体にハロゲン化物塩を混合させる、もしくはハロゲン化物塩自体が室温で液状を呈するイオン液体を用いたイオン液体電解液の2種がある。前者の有機溶媒電解液においては、ハロゲン化物塩が室温で液状を呈するイオン液体の場合もあるが、有機溶媒中に溶解・電離させて作用させるものであり、ハロゲン化物塩が室温で固体であるか液体であるかは本質的には全く差異がない。
本願発明における一般式(b)で表されるオニウム化合物塩を構成するオニウムカチオンを用いた物質として、具体的な物質構造は後述するが、室温で液体であるイオン液体も含まれているものの、上記したハロゲン化物塩と同様に、有機溶媒中に溶解し、系中で電離させて使用するものであることから、室温で液状を呈するか否かは本願発明の機構には本質的に寄与していない。
従来のイオン液体電解液において、複数のイオン液体、すなわち複数のオニウム化合物塩を混合することにより、電解液の粘度や酸化還元対の濃度の最適化を図り、太陽電池セルの特性を改善できることが知られている。また、チオシアン酸グアニジウムをイオン液体電解液に添加し、イオン液体中における添加剤の効果が比較されている。電解液に対してオニウム塩を添加するものではあるが、本願発明とは本質的に全く異なるものである。なぜならば、イオン液体系電解液と有機溶媒電解液とは、ヨウ素レドックスのキャリア輸送のメカニズムが異なっていること、また、そもそも、添加されたイオン液体やオニウム化合物塩は、イオン液体中では電離、すわなち、溶媒和されてイオンの状態では存在していないことから、従来のイオン液体電解液に関する公知の技術からは、本願発明のような高沸点の有機溶媒に適した添加剤の効果を類推・判別することはできない。実際、上述したように、チオシアン酸グアニジウムを高沸点溶媒に対して添加した場合には、電解液粘度が増大し、逆に特性が悪化してしまうことが判明している。
本願発明の電解液には、酸化還元性の電解質、すなわち酸化還元対が含有されている。酸化還元対としては、ハロゲンアニオンを対イオンとするハロゲン化物塩およびハロゲン分子が挙げられる。具体的には、ヨウ化物アニオンとヨウ素との組合せ、臭化物アニオンと臭素との組合せ、もしくはそれらの混合物が挙げられる。特に、ヨウ化物アニオンとヨウ素との組合せが、変換効率が高く好ましい。
ハロゲンアニオンを対イオンとするハロゲン化物塩、具体的にはヨウ化物や臭化物等のハロゲン化物塩を構成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム等の金属カチオンが例示できるが、冒頭に記載したように、高沸点溶媒下においては、金属カチオンを用いても良好な特性が得難い上、耐久性の低下を招く事例があることから、より好適なカチオンとしては、公知のオニウムカチオンが利用できる。具体的にはイミダゾリウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、ピラゾリウム等のオニウムカチオンが挙げられる。特に、イミダゾリウム系や、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムなどのスピロ型第4級アンモニウムを好適に利用することができる。すなわち、好適に利用できる一般式(1)〜(9)で表されるオニウムカチオンの群からも選択することができ、これらの1種または2種以上を混合して用いることもできる。ただし、前述したように、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩を構成するオニウムカチオンとは構造が異なることが必須であり、さらには、置換基だけによる違いにとどまらず、互いにカチオンの主構造も異なることが望ましい。
用いる有機溶媒によって代わるため、必ずしも限定されないが、ハロゲン化物塩の溶解度が高くなるよう、ハロゲン化物塩のカチオンは上記一般式(2)または(3)で表されるカチオンであって、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のカチオンは上記一般式(1)、(4)〜(9)で表されるカチオンであることが望ましい。
ハロゲン化物塩の濃度は、太陽電池として用いる際の入射光量などによって発生する電流量が異なるため最適な濃度は必ずしも一定ではないが、好ましくは0.01〜4.0mol/lであり、特に好ましくは0.1〜2.5mol/lである。濃度が0.01mol/lより小さいと十分な性能が得られない場合があり、一方、濃度が4.0mol/lより大きいと溶媒に溶解しにくい場合がある。
一方、酸化還元対として作用させるためのハロゲン分子としては、上記したようにヨウ素(I)または臭素(Br)が好ましい。特に、ハロゲン化物塩としてヨウ化物塩を用いる場合にはハロゲン分子としてヨウ素を用いることが望ましい。この場合ヨウ化物塩とともに、I/I の酸化還元対として作用する。電解液中のハロゲン分子の含有量は、太陽電池として用いる際の入射光量などによって発生する電流量が異なるため最適な含有量は必ずしも一定ではないが、イオン導電性及び光エネルギー変換効率の観点から、好ましくは0.01mmol〜0.5mol/lであり、特に0.05mmol〜0.2mol/lが好ましい。
続いて、本願発明の電解液に用いる有機溶媒について説明する。電解液に用いる有機溶媒としては、イオン性を有しない有機容媒が挙げられ、電解質を溶解できれば特には限定されず、従来公知の電解液溶媒を用いることができる。例えば、アセトニトリルやメトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の環状カーボネート類、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等の鎖状カーボネート類、γ−ブチロラクトン等のラクトン類、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類、エチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル等のエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、ジメチルスルホキシド、また、スルホラン、メチルスルホラン等の環状スルホン類、また、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルオキサゾリジノンなどが挙げられ、これらは、単独でも複数を混合して使用しても構わない。
また、本願発明の効果は、粘度が高くて電離度が低くなってしまう、またキャリアの移動度が低くなってしまう溶媒に対して効果が大きいが、太陽電池セルの変換効率が少しでも高くなるように、粘度が低く十分なイオン伝導性を有し、かつ高い耐久性が得られるように沸点が高くて揮発性が低い溶媒であることが好ましい。具体的な有機溶媒の沸点としては、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく挙げられる。上記の有機溶媒の中で、前記沸点を満たす有機溶媒としては、メトキシプロピオニトリル、炭酸プロピレン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。また、低粘度で低沸点の溶媒として例示したアセトニトリルやメトキシアセトニトリルについても、他の高沸点溶媒に添加して使用することで、耐久性を向上させることができれば用いても構わない。
また、単独では室温で固体であっても、他の有機溶媒や酸化還元対と混合することで凝固点降下を起こし、使用範囲温度で液状であれば、単独では固体であっても構わない。
さらに、本願発明に用いる有機溶媒としては、下記一般式(10)で表される鎖状スルホンを用いることが好ましい。
Figure 2013125692
一般式(10)中、R35、R36は独立して、ハロゲン、アルコキシ基若しくは芳香環で一部置換されていても良い炭素数1〜12のアルキル基、またはアリール基を表す。
具体的な鎖状スルホン化合物としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、メチルイソプロピルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン、イソブチルイソプロピルスルホン、メトキシエチルイソプロピルスルホン、フルオロエチルイソプロピルスルホン等が例示できる。これらの中でも、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン、イソブチルイソプロピルスルホン、メトキシエチルイソプロピルスルホン、フルオロエチルイソプロピルスルホン等のR35およびR36の炭素数の合計が5以上、好ましくは5〜10である化合物は、広範な温度で使用でき、耐久性に優れるため特に好適に使用できる。
上記一般式(10)の鎖状スルホン化合物のその他の例としては、R35、R36の少なくとも一方がフェニル基である化合物が挙げられ、例えば、フェニルイソプロピルスルホン、フェニルエチルスルホン、ジフェニルスルホン等が例示できる。これらの中でも、R35、R36の一方がフェニル基であり、一方がハロゲン、アルコキシ基若しくは芳香環で一部置換されていても良い炭素数1〜12のアルキル基である化合物が、広範な温度で使用可能であり、耐久性に優れるため好ましく用いられ、より好ましくは、一方が置換されていない炭素数1〜5のアルキル基である化合物であり、特にフェニルイソプロピルスルホンが好適に使用できる。
また、本願発明の電解液はポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーや低分子のゲル化剤などを溶媒中に添加したり、エチレン性不飽和基を有した多官能性モノマーを溶媒中で重合させる等の方法でこれらの溶媒をゲル化することで、電解質層7をゲル電解質として形成しても構わない。溶媒をゲル化させるためのポリマーはイオン性を有していても構わないが、電解質の移動を妨げる場合にはイオン性を有さないことが望ましい。
また、ポリマーではなく、粒子を添加させてチクソトロピー性を持たせることで、セルに構成した際に固体状・ペースト性状・ゲル性状を持たせても構わない。このような粒子の材料としては、特には限定されず公知の材料を使用することができる。例えば、酸化インジウム、酸化スズと酸化インジウムの混合体(以下、「ITO」と略記する。)、シリカ等の無機酸化物、ケッチェンブラックやカーボンブラック、カーボンナノチューブ等のカーボン材料、また、カオリナイトやモンモリロナイト等の層状無機化合物、すなわち粘土鉱物でも構わない。
また、本願発明の電解液には添加剤として、太陽電池セルの特性を向上するためにホウ酸エステルやドナー数が25以上であるドナー化合物を併用することが望ましい。
このようなドナー性の添加剤は従来公知の材料を用いことが可能であるが、一般的な溶媒であるメトキシプロピオニトリルやγ−ブチロラクトン、また、鎖状スルホンなど各種溶媒のドナー数は14から18程度であることが多く、また、酸化還元対として最も多用されているIイオンのドナー数も14であることから、これらの溶媒や電解質よりも優位に高いドナー数を有する必要がある。具体的には、25以上のドナー数を有する、ピリジン類、より好ましくは4−t−ブチルピリジンなどのアルキルピリジン類、ピラジン類や、ピリミジン類、ピペリジン類などの含窒素6員環化合物、また、イミダゾール類、ピラゾール類、トリアゾール類、ピロリジン類などの含窒素5員環化合物、さらに、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、ピロリドンやN−メチルピロリドンなどの環状アミド、ジメチルスルホキシドやジフェニルスルホキシドなどのスルホキシド類などが挙げられる。これらの中で好ましい添加剤としては、4位がアルキル置換されたピリジン、2位および/又は4位がアルキル置換されたイミダゾール、3位および/又は5位がアルキル置換されたピラゾール、トリアゾール、N−メチルピロリドン、ジアルキルスルホキシド、ジアルキルアセトアミドが挙げられる。前記アルキル置換基としては、該ドナー化合物を添加した際に電解液の粘度が高くなりすぎないような分子サイズと、置換基導入によるドナー性向上効果との兼ね合いから、ピリジン類とスルホキシド類の場合が炭素数1から4のアルキル基、イミダゾール類、ピラゾール類、アセトアミドの場合は炭素数1または2のアルキル基であることが望ましい。
ここでドナー数とは、ある分子のドナーとしての性質を溶媒に無関係な量として表したもので、供与性とも呼ばれる。ドナー数は、基準のアクセプターとしてジクロロエタン中10−3MのSbClを選び、ドナーとしての反応のモルエンタルピー値として定義される。
ホウ酸エステルは、用いる溶媒や太陽電池セルの使用方法により最適な種類が異なるため特には限定されないが、例えば、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリイソブチル、ホウ酸トリペンチル、ホウ酸トリヘキシル、ホウ酸トリヘプチル、ホウ酸トリメチルブチル、ホウ酸トリス(エチルヘキシル)、ホウ酸トリイソオクチル、ホウ酸トリ−n−オクチル、ホウ酸トリデシル、ホウ酸トリドデシル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリ−o−トリル、ホウ酸トリ−m−トリル、ホウ酸トリス(プロピオニトリル)、ホウ酸トリス(2−メトキシエチル)、ホウ酸トリス(クロロエチル)などが挙げられる。
ホウ酸エステルの沸点としては、太陽電池の使用条件によっても最適値が異なるため限定はされないが、60℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、180℃以上であることが特に好ましく挙げられる。
また、ホウ酸エステルは電解液溶媒へ溶解することが望ましい。また、溶解させる電解液溶媒により最適値が異なるため限定はされないが、電解液の伝導率が高くなるようにホウ酸エステルの粘度は低いほうが望ましく、例えば、10mPa・s以下、より好ましくは5mPa・s以下であることが望ましい。
上述のホウ酸エステルの中でも、ホウ酸エステルが、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリイソブチル、ホウ酸トリフェニル、ホウ酸トリス(プロピオニトリル)が望ましく、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリス(プロピオニトリル)が特に望ましい。
電解液中のホウ酸エステル濃度としては、用いる有機溶媒により最適値が異なるため必ずしも限定はされないが、添加効果が十分に現われるよう、物質量濃度が0.001〜5.0mol/lが望ましい。ホウ酸エステル自体には電解質の溶解度が低いため、ホウ酸エステルの濃度が高くなりすぎると、かえって短絡電流密度が低下してしまう。そのため、求める短絡電流密度が得られる範囲においてできるだけホウ酸エステルの濃度が低いことが望ましい。
本願発明の色素増感太陽電池用電解液は、常法に従って上記の有機溶媒中に、上記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、一般式(a)で表されるハロゲン化物塩と、ハロゲン分子と、を溶解させ、さらに、必要に応じてドナー性化合物やホウ酸エステルを溶解させることによって得ることができる。
一方、本願発明の色素増感太陽電池は、この色素増感太陽電池用電解液を用いたものであるが、電解液以外は、一般的な色素増感太陽電池の構成を採用すればよい。図1に本願発明の色素増感太陽電池の構成の一例を示す。図1中、1は電極基体、2は透明基体、3は透明導電膜、4は多孔質金属酸化物半導体層、5は増感色素層、6は半導体電極、7は本願発明の電解液を含む電解質層、8は対極、9は電極基体、10は触媒活性層、11はスペーサー、12は周縁シール部をそれぞれ示す。
電極基体1は、透明基板2に透明導電膜3を形成させた、導電性ガラスなどの透明電極基体である。透明導電膜3には多孔質金属酸化物半導体層4が形成されており、金属酸化物半導体の表面に色素を吸着させた増感色素層5を有している。これらから、アノード電極である半導体電極6が構成される。
<透明基体>
電極基体1を構成する透明基体2は、可視光を透過するものが使用でき、透明なガラスが好適に利用できる。また、ガラス表面を加工して入射光を散乱させるようにしたもの、半透明なすりガラス状のものも使用できる。また、ガラスに限らず、光を透過するものであればプラスチック板やプラスチックフィルム等も使用できる。
透明基体2の厚さは、太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチック等を用いた場合では、使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルムなどを使用した場合は、25μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコート等の表面処理を用いても構わない。
<透明導電膜>
透明導電膜3としては、可視光を透過して、かつ導電性を有するものが使用でき、このような材料としては、例えば金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばフッ素をドープした酸化スズ(以下、「FTO」と略記する。)や、酸化インジウム、ITO、アンチモンをドープした酸化スズ(以下、「ATO」と略記する。)、酸化亜鉛等が好適に用いることができる。
また、導電性材料を分散担持させるなどの処理方法や、メッシュ形状のような細線状の導電性材料を透明基体上に形成することによって、電極全体としては透光率を高めることができていれば、不透明な導電性材料を用いることもできる。このような材料としては炭素材料や金属が挙げられる。炭素材料としては、特に限定はされないが、例えば黒鉛(グラファイト)、カーボンブラック、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブやフラーレン等が挙げられる。また、金属としては、特に限定はされないが、例えば白金、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、クロム、鉄、モリブデン、チタン、タンタル、ニオブ又はそれらの合金等が挙げられる。
ここで、本願発明では電解液中に含まれる酸化還元対としてハロゲン分子と一般式(a)で表されるハロゲン化物塩、より具体的にはヨウ素とヨウ化物塩や臭素と臭化物塩を用いることが望ましいため、透明導電膜に使用する導電性材料は電解液に対する耐蝕性が高いことが望ましい。したがって、特に金属酸化物、中でもFTOやITO、また表面を導電性の耐食処理を施した銅やアルミニウム、ニッケルやその合金等が特に好適である。
透明導電膜3としては、上記の導電性材料のうち少なくとも1種類以上からなるものを、透明基体1の表面に設けて形成することができる。あるいは透明基体2を構成する材料の中へ上記導電性材料を組み込んで、透明基体と透明導電膜を一体化して電極基体1とすることも可能である。
透明基体2上に透明導電膜3を形成する方法として、金属酸化物を形成する場合は、ゾルゲル法や、スパッタやCVD等の気相法、分散ペーストのコーティング等がある。また、不透明な導電性材料を使用する場合は、粉体等を、透明なバインダー等とともに固着させる方法が挙げられる。
透明基体と透明導電膜を一体化させるには、透明基体の成形時に導電性のフィラーとして上記導電膜材料を混合させるなどがある。
透明導電膜3の厚さは、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されないが、一般的に使用されるFTO被膜付ガラスでは、0.01〜5μmであり、好ましくは0.1〜1μmである。また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは10Ω/□以下、より好ましくは5Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が上がるため好ましくない。
透明基体及び透明導電膜から構成される電極基体1、又は透明基体と透明導電膜とを一体化した電極基体1の厚さは、上記のように太陽電池の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、一般的に1μm〜1cm程度である。
<多孔質金属酸化物半導体>
多孔質金属酸化物半導体4としては、従来公知のものが使用できる。即ち、Ti、Nb、Zn、Sn、Zr、Y、La、Taなどの遷移金属の酸化物の他、SrTiO、CaTiOなどのペロブスカイト系酸化物などが挙げられる。特に限定はされないが、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ等が挙げられ、特に二酸化チタン、さらにはアナターゼ型二酸化チタンが好適である。
このような多孔質金属酸化物半導体は、特に限定されず既知の方法で透明導電膜3上に設けることができる。例えば、ゾルゲル法や、分散体ペーストの塗布、また、電析や電着させる方法がある。さらに、電気抵抗値を下げるため、金属酸化物の粒界は少ないことが望ましく、塗布した金属酸化物を焼結させることが望ましい。焼結条件は用いる金属酸化物半導体の種類や形成方法、基板の耐熱温度により異なるため、適宜変更して構わないが、二酸化チタンを用いた場合、450〜550℃で焼結させることが望ましい。
また、増感色素をより多く吸着させるために、当該半導体層は多孔質になっていることが望ましく、具体的には比表面積が10〜200m/gであることが望ましい。また、増感色素の吸光量を増加させるため、使用する酸化物の粒径に幅を持たせて光を散乱させることが望ましい。前記半導体層の厚さは、用いる酸化物及びその性状により最適値が異なるため特には限定されないが、0.1〜50μm、好ましくは5〜30μmである。
<増感色素>
増感色素層5としては、太陽光により励起されて前記金属酸化物半導体層4に電子注入できるものであればよく、一般的に色素増感太陽電池に用いられている色素を用いることができるが、変換効率を向上させるためには、その吸収スペクトルが太陽光スペクトルと広波長域で重なっていて、耐光性が高いことが望ましい。
増感色素は、特に限定はされないが、ルテニウム錯体、特にルテニウムポリピリジン系錯体が望ましく、さらに望ましいのは、Ru(L)(L’)(X)で表されるルテニウム錯体が望ましい。ここでLは4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン、もしくはその4級アンモニウム塩及びカルボキシル基が導入されたポリピリジン系配位子であり、L’はLと同一、もしくは4,4’−置換2,2’−ビピリジンであり、L’の4,4’位の置換基は、長鎖アルキル基、アルキル置換ビニルチエニル基、アルキル又はアルコキシ置換スチリル基、チエニル基誘導体などが挙げられる。また、XはSCN、Cl、CNである。例えば、ビス(4,4’−ジカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体等が挙げられる。
他の色素としては、ルテニウム以外の金属錯体色素、例えば鉄錯体、銅錯体等が挙げられる。さらに、シアン系色素、ポルフィリン系色素、ポリエン系色素、クマリン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、スチリル系色素、エオシン系色素等の有機色素が挙げられ、具体的には三菱製紙株式会社製色素(商品名:D149色素)等が挙げられる。これらの色素には、該金属酸化物半導体層への電子注入効率を向上させるため、該金属酸化物半導体層との結合基を有していることが望ましい。該結合基としては、特に限定はされないが、カルボキシル基、スルホニル基等が望ましい。
増感色素を前記多孔質金属酸化物半導体層4に吸着させる方法は、特には限定されるものではなく、例としては、室温条件、大気圧下において、色素を溶解させた溶液中に、透明導電膜2上に形成させた金属酸化物半導体層4を浸漬する方法が挙げられる。浸漬時間は、使用する半導体、色素、溶媒の種類、色素の濃度により、半導体層に均一に色素の単分子膜が形成されるよう、適宜調整することが望ましい。なお、吸着を効果的に行なうには加熱下での浸漬を行なえばよい。
増感色素は多孔質金属酸化物半導体層の表面上で会合しないことが望ましい。色素単独で吸着させると会合が起きる場合には、必要に応じて、共吸着剤を吸着させても構わない。このような吸着剤としては、用いる色素により最適な種類や濃度が変わるため特には限定されないが、例えばデオキシコール酸等の有機カルボン酸が挙げられる。共吸着剤を吸着させる方法としては、特には限定されないが、増感色素を溶解させる溶媒に、増感色素とともに共吸着剤を溶解させてから金属酸化物半導体層を浸漬させることで、色素の吸着工程と同時に共吸着剤を吸着させることができる。
増感色素を溶解するために用いる溶媒の例としては、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル等の窒素化合物、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム等のハロゲン化脂肪族炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル等のエステル類などが挙げられる。溶液中の色素濃度は、使用する色素及び溶媒の種類により適宜調整することが望ましい。例えば、5×10−5mol/L以上の濃度が望ましい。
<対極>
半導体電極6に対向して、カソード電極である対極8が電解質層7およびスペーサー11を介して配置される。
<対極−基体>
太陽電池の内部抵抗を小さくするため対極の基体9は電気伝導度が高いことが望ましい。また、上記のように本願発明では電解質中に酸化還元対としてハロゲン分子およびハロゲン化物を用いているため、該導電性の電極基体9には電解液に対する耐蝕性が高いことが望ましい。
このような導電性基体の材質としては、具体的には、表面に酸化皮膜を形成し耐蝕性が良好なクロム、ニッケルや、チタン、タンタル、ニオブ、及びそれらの合金であるステンレスや、表面に酸化皮膜を形成して耐蝕性を高めたアルミニウム等が挙げられる。
また、他の好適な材料としては、導電性金属酸化物が挙げられる。特に限定はされないが、例えばITOやFTO、ATO、また、酸化亜鉛や酸化チタン等が好適に用いることができる。中でもFTO、ITOを好適に用いることができる。
上記導電性の電極基体9には、耐久性やハンドリング性を高めること等を目的として支持体を兼備することができる。例えば、透明性を求める場合にはガラスや透明なプラスチック樹脂板を用いることができる。また、軽量性を求める場合にはプラスチック樹脂板、フレキシブル性を求める場合にはプラスチック樹脂フィルム等を用いることができる。また、強度を高める場合には、金属板等を用いることもできる。
支持体の配置方法は特には限定されないが、導電性の電極基体9の表面には対極の作用部分として触媒活性層10が形成されるため、支持体は該触媒活性層が担持されない部分、特に電極基体9の裏面に配置することが好ましい。また、支持体表面に導電性材料の粉末やフィラーを埋め込む等の方法で担持することにより、導電性の電極基体と支持体を一体化することもできる。
支持体の厚さは、対極の形状や使用条件により異なるため特に限定はされないが、例えばガラスやプラスチック等を用いた場合では、実使用時の耐久性を考慮して1mm〜1cm程度であり、フレキシブル性が必要とされ、プラスチックフィルム等を使用した場合は、25μm〜1mm程度である。また、必要に応じて耐候性を高めるハードコートなどの処理や、フィルム添付処理を用いても構わない。また、金属材料を支持体にした場合には、10μm〜1cm程度である。
導電性の電極基体9の形態や厚みについては、電極として用いる際の形状や使用条件、また、用いる材料により導電性が異なるため特には限定されず、任意の形態を選択することができる。例えば、上記支持体を用いることで実用上の強度が保持される場合、電極として使用する上で必要な電導度が確保できていれば、100nm程度の厚みでも構わない。また、支持体を用いず、導電性の電極基体9のみにて強度を確保する場合は、1mm程度以上の厚さが好ましい。
また、必要とされる導電性は、使用する電極の面積により異なり、大面積電極ほど低抵抗であることが求められるが、一般的に100Ω/□以下、好ましくは5Ω/□以下、より好ましくは1Ω/□以下である。100Ω/□を超えると太陽電池の内部抵抗が増大するため、好ましくない。
<触媒活性層>
導電性の電極基体9の表面に担持された触媒活性層10は、電解質層7中に含まれる酸化還元対として含まれるハロゲン化物塩の酸化体を還元体に十分な速度で還元することができれば、具体的には三ヨウ化物アニオン(I )をヨウ化物アニオン(I)に、もしくは三臭化物アニオン(Br )を臭化物アニオン(Br)に、それぞれ還元することができれば特に限定はされず、既知の物質が使用できるが、例えば、遷移金属、導電性高分子材料、又は炭素材料等を好適に用いることができる。
その形状は、用いる触媒の種類により異なるため特には限定されない。上述の触媒材料のうち少なくとも1種類以上からなる触媒材料を、電極基体9の表面に設けて形成することができる。あるいは電極基体9を構成する材料の中へ上記触媒材料を組み込むことも可能である。
触媒となる遷移金属としては、白金やパラジウム、ルテニウム、ロジウム等が好適に利用でき、また、それらを合金としても構わない。それらの中でも特に白金、もしくは白金合金が好適である。遷移金属の導電性基体上への担持方法としては既知の方法により作製できる。例えば、スパッタや蒸着、電析により直接形成する方法や、塩化白金酸等の前駆体を熱分解する方法等を用いることができる。
導電性高分子のモノマーとして、ピロール、アニリン、チオフェン、及びそれらの誘導体の中から、少なくとも1種類以上のモノマーを重合してなる導電性高分子を触媒として使用することができる。特に、ポリアニリンやポリ(エチレンジオキシチオフェン)であることが望ましい。導電性高分子の電極基体9の担持方法としては、既知の方法を用いることができる。例えば、前記導電性基体を、前記モノマーを含有する溶液中に浸漬して電気化学的に重合する方法や、Fe(III)イオンや過硫酸アンモニウム等の酸化剤と前記モノマーを含む溶液とを、該電極基体上で反応させる化学重合法、導電性高分子を溶融状態もしくは溶解させた溶液から成膜する方法、また、導電性高分子の粒体をペースト状、もしくはエマルジョン状、もしくは高分子溶液及びバインダーを含む混合物形態に処理した後に、該電極基体上へスクリーン印刷、スプレー塗布、刷毛塗り等により形成させる方法が挙げられる。
また、炭素材料としては特に制限されず、酸化還元対の酸化体を還元する触媒能を有する、従来公知の炭素材料を使用することができるが、中でもカーボンナノチューブやカーボンブラック、活性炭等が望ましい。炭素材料の導電性基体への担持方法としては、フッ素系のバインダー等を用いたペーストを塗布・乾燥する方法等、既知の方法を用いることができる。
半導体電極6と対極8の間には電解液が充填されて電解質層7が形成され、周縁シール部12によって封止されている。
<スペーサー>
スペーサー11は、半導体電極と対極が接触して短絡することのないように電極間距離を制御・固定するものであり、電解液、または熱・光などにより劣化しない材質であれば特には限定されず既知の材料を任意の形状で用いることができる。材質としては例えば、ガラスやセラミック材料、フッ素系樹脂や光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、周辺シール部12中に、微小なガラスやセラミック材料などを混合するなどの方法で周辺シール部がスペーサーを兼ねることもできる。
周辺シール部は、本願発明の電解液が漏洩しないよう、半導体電極と対極を貼合せて封止するものであり、電解液、または熱・光などにより劣化しない材質であれば特に制限されない。熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂、金属、ゴム等を例示することができる。
次に、実施例及び比較例を挙げて本願発明を具体的に説明するが、これらは本願発明を何ら限定するものではない。
(実施例1)
以下のようにして電解液の調製および色素増感太陽電池の作製を行った。
<電解液の調製>
ヨウ化1,3’−ジメチルイミダゾリウム(表中「DMImI」と略記する。)1.0mol/l、ヨウ素(「I」と略記する。)0.1mol/l、t−ブチルピリジン0.5mol/l、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸(表中「SBPBF」と略記する。)0.05mol/lの割合で、エチルイソプロピルスルホン(表中「EiPS」と略記する)に溶解して電解液を調製した。
<多孔質金属酸化物半導体層の形成>
透明導電膜付きの透明基体としてFTOガラス(日本板ガラス製25mm×50mm)を用い、その表面に酸化チタンペースト(日揮触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST−18NR)を、スクリーン印刷による印刷工程と、90℃30分の乾燥工程とを3回繰り返して重ね塗りした後、大気雰囲気下500℃で60分間焼成することで15μm前後の厚さの多孔質酸化チタン層を形成させた。さらに、前記多孔質酸化チタン層の上に、酸化チタンペースト(日揮触媒化成工業株式会社製チタニアペースト PST−400C)をスクリーン印刷で重ね塗りした後、同様に焼成を行なって、20μm前後の厚さとした多孔質金属酸化物半導体層を完成させ、多孔質酸化チタン半導体電極とした。
<増感色素の吸着>
増感色素として、一般にN719dyeと呼ばれるビス(4−カルボキシ−4’−テトラブチルアンモニウムカルボキシ−2,2’−ビピリジン)ジイソチオシアネートルテニウム錯体(Solaronix社製)を使用した。80℃にした前記多孔質酸化チタン半導体電極を、色素濃度0.5mmol/Lのアセトニトリル・t−ブチルアルコール(1:1)混合溶液中でゆっくりと振盪させながら遮光下48時間浸漬させた。その後脱水アセトニトリルにて余分な色素を洗浄してから風乾することで、太陽電池の光電極(アノード電極)として完成させた。
<対極>
対極として、アンカー層として、スパッタ法によりガラス基板上にTi(膜厚50nm)を成膜したのち、該Ti層上にスパッタ法によりPt(膜厚50nm)を成膜させた白金対極(ジオマテック製)を使用した。
<太陽電池セルの組み立て>
前記のように作製した光電極と、電気ドリルで0.6mmφの電解液注入孔を2個設けた対極を対向するよう設置し、両電極間に、スペーサーとして厚み50μmのFEP樹脂シートと、スペーサーの外周に熱可塑性シート(Dupont製 bynel、膜厚50μm)を重ならないように挟み、熱圧着する事により両電極を接着した。次に、前記のように作製した電解液を電解液注入孔から毛管現象にて両電極間に含浸させ、電解液注入孔上に可塑性シートを挟んで1mm厚のガラス板を置き、再度加熱圧着することで封止を実施し、太陽電池素子を作製した。
(実施例2)
実施例1に記載のスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えてスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(表中「SBPTFSI」と略記する)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例3)
実施例1に記載のスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えてスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラシアノホウ酸(表中「SBPTCB」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例4)
実施例1に記載のヨウ化1,3’−ジメチルイミダゾリウムに代え、ヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム(表中「DMPImI」と略記する。)を、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えて、エチルトリメチルピラゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(表中「ETMPzFSI」と略記する)を、溶媒として、エチルイソプロピルスルホンに代えて、プロピレンカーボネート:メトキシプロピオニトリル(体積比9:1)の混合溶媒(表中「PC+MPN」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例5)
実施例4に記載のエチルトリメチルピラゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに代え、トリエチルメトキシメチルホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(表中、「TEMeOMPFSI」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例4と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例6)
実施例1に記載のヨウ化1,3’−ジメチルイミダゾリウムに代え、ヨウ化トリエチルメチルアンモニウム(表中「TEMAI」と略記する。)を、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えて、エチルジメチルイソオキサゾリウムテトラフルオロホウ酸(表中「EDMiOzBF」と略記する。)を、溶媒としてエチルイソプロピルスルホンに代えて、プロピレンカーボネートを用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例7)
実施例6に記載のエチルジメチルイソオキサゾリウムテトラフルオロホウ酸に代えて、エチルメチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(表中「EMPrTFSI」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例6と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例8)
実施例6に記載のエチルジメチルイソオキサゾリウムテトラフルオロホウ酸に代えて、1−ブチル−3−メチルピリジニウムヘキサフルオロリン酸(表中「BMPyPF」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例6と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例9)
実施例1に記載のヨウ化1,3’−ジメチルイミダゾリウムに代え、ヨウ化スピロ−(1,1)−ビピロリジニウム(表中「SBPI」と略記する。)を、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えて、1−メチル−3−プロピルイミダリウムテトラフルオロホウ酸(表中「MPImBF」と略記する)を、溶媒としてエチルイソプロピルスルホンに代えて、エチレンカーボネート90wt%、γ−ブチロラクトン10wt%の混合溶媒(表中「EC+GBL」と略記する。)を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(実施例10)
実施例1に記載のヨウ化1,3’−ジメチルイミダゾリウムに代え、ヨウ化エチルメチルピロリジニウム(表中「EMPrI」と略記する。)を、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代えて、エチルメチルイミダゾリウムチオシアン酸(表中「EMImSCN」と略記する)を、溶媒としてエチルイソプロピルスルホンに代えて、エチレンカーボネート90wt%、γ−ブチロラクトン10wt%の混合溶媒を用いて電解液を調製した以外は実施例1と同様にして太陽電池セルを作製した。
(比較例1)
実施例1に記載のスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸を用いないこと以外は実施例1と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例2)
実施例1に記載のスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸に代え、1,3’−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(表中「DMImTFSI」と略記する。)を用いたこと以外は実施例1と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例3)
実施例6に記載のスピロ−(1,1)−ビピロリジニウムテトラフルオロホウ酸を用いないこと以外は実施例6と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例4)
実施例6に記載のエチルジメチルイソオキサゾリウムテトラフルオロホウ酸に代え、トリエチルメチルアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミドを用いたこと以外は実施例6と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例5)
エチルメチルイミダゾリウムチオシアン酸を用いないこと以外は実施例10と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例6)
エチルメチルイミダゾリウムチオシアン酸に代え、1−エチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(表中「EMPrTFSI」と略記する。)を用いたこと以外は実施例10と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例7)
実施例9に記載の1−メチル−3−プロピルイミダリウムテトラフルオロホウ酸を用いないこと以外は実施例9と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例8)
比較例5に記載の1−メチル−3−プロピルイミダリウムテトラフルオロホウ酸に代え、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムヘキサフルオロリン酸(表中「SBPPF」と略記する。)を用いたこと以外は比較例5と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例9)
実施例4に記載のエチルトリメチルピラゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドを用いないこと以外は実施例4と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(比較例10)
実施例4に記載のエチルトリメチルピラゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミドに代え、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(表中「DMPImFSI」と略記する)を用いたこと以外は実施例4と同様に電解液を調製し、太陽電池セルを作製した。
(試験1)
<太陽電池セルの光電変換特性の測定>
実施例1〜10および比較例1〜10で作製した色素増感太陽電池に対し、25℃にて、5mm角の窓をつけた光照射面積規定用マスクを装着させた上で、分光計器製ソーラシュミレータを用い、光量100mW/cm、AM1.5の条件で光源の照射強度を調整した擬似太陽光を照射しながら、エーディーシー製直流電圧電流発生装置を用いて開放電圧(以下、「Voc」と略記する。)、短絡電流密度(以下、「Jsc」と略記する。)、形状因子(以下、「FF」と略記する。)、及び光電変換効率を評価した。「Voc」、「Jsc」、「FF」及び光電変換効率(以下、「Eff」と略記する。)の各測定値については、より大きい値が太陽電池セルの性能として好ましいことを表す。結果を表1に示す。
Figure 2013125692
実施例1〜3の電解液では、オニウム化合物塩を用いない比較例1に比べて、Jscが向上し、ひいては高い変換効率を得ることができることが示された。また、実施例2と比較例1および2を比較すると、比較例2では、ハロゲン化物塩を構成するオニウムカチオンと同じカチオン、すなわちジメチルイミダゾリウムと、実施例2のオニウム化合物塩を構成するアニオンすなわちビス(トリフルオロスルホニル)イミドからなる塩を加えているが、比較例1のオニウム化合物塩がない場合よりも逆にJscやffが低下してしまっていることがわかる。
同様に、実施例4、5と比較例9、10の組合せ、および、実施例6〜8と比較例3、4の組合せ、また、実施例9と比較例7、8の組合せにおいても、ハロゲン化物塩を構成するカチオンとは異なるカチオンからなるオニウム化合物塩を用いることによって、各種の溶媒においてもJscが改善し、変換効率が向上することがわかる。
本願発明の電解液は、短絡電流密度を向上することができるため、色素増感太陽電池用の電解液として好適に利用可能である。
1 電極基体
2 透明基体
3 透明導電膜
4 多孔質金属酸化物半導体層
5 増感色素層
6 半導体電極
7 電解質層
8 対極
9 電極基体
10 触媒活性層
11 スペーサー
12 周縁シール部

Claims (7)

  1. イオン性を有さない有機溶媒と、ハロゲン分子と、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩と、下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩と、を含有する色素増感太陽電池用電解液において、
    下記一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、下記一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAとは異なることを特徴とする色素増感太陽電池用電解液。
    Figure 2013125692
    (式(a)中、Aは、オニウムカチオンを示し、Xは、ハロゲンアニオンを示す。)
    Figure 2013125692
    (式(b)中、Bは、オニウムカチオンを示し、Yは、チオシアン酸アニオン、テトラフルオロホウ酸アニオン、テトラシアノホウ酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(パーフルオロアルキルスルホニル)イミドアニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン、環状パーフルオロアルキレンジスルホニルイミドアニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種である。)
  2. およびBが、下記一般式(1)〜(9)で表されるオニウムカチオンからなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項1に記載の色素増感太陽電池用電解液。
    Figure 2013125692
    (式(1)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
    Figure 2013125692
    (式(2)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基、R、Rは、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
    Figure 2013125692
    (式(3)中、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R、R10、R11は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
    Figure 2013125692
    (式(4)中、R12〜R14は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R15、R16は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
    Figure 2013125692
    (式(5)中、R17〜R19は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R20は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。Qは、酸素原子または硫黄原子である。)
    Figure 2013125692
    (式(6)中、R21〜R25は、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示し、R26は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。)
    Figure 2013125692
    (式(7)中、R27〜R30は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。ただし、R27〜R30の全てが同一の置換基であることを除く。)
    Figure 2013125692
    (式(8)中、R31〜R34は、炭素数1〜12のアルキル基またはアルコキシ基を示す。ただし、R31〜R34の全てが同一の置換基であることを除く。また、R31とR32、R33とR34はそれぞれ環を巻いていてもよい。)
    Figure 2013125692
    (式(9)中、m、nは、4または5の整数である。)
  3. 一般式(1)〜(9)で表される化合物が、N−エチル−N−メチルピロリジニウムカチオン、N,N−ジメチルピロリジニウムカチオン、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−2,3,5−トリメチル−ピラゾリウムカチオン、2−エチル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウムカチオン、2−プロピル−3,5−ジメチルイソオキサゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルピリジニウムカチオン、トリエチルメチルアンモニウムカチオン、スピロ−(1,1’)−ビピロリジニウムカチオン、ピペリジン−1−スピロ−1’−ピロリジニウムカチオン、スピロ−(1,1’)−ビピペリジニウムカチオンからなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項2に記載の色素増感太陽電池用電解液。
  4. 一般式(a)で表されるハロゲン化物塩のオニウムカチオンAが、一般式(2)または(3)で表されるオニウムカチオンであり、一般式(b)で表されるオニウム化合物塩のオニウムカチオンBが、一般式(1)、(4)〜(9)で表されるオニウムカチオンからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項2または3に記載の色素増感太陽電池用電解液。
  5. ハロゲン化物塩がヨウ化物塩又は臭化物塩で、ハロゲン分子がヨウ素又は臭素である請求項1から4のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液。
  6. 有機溶媒が、ニトリル類、ラクトン類、環状カーボネート類、下記一般式(10)で表される鎖状スルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種の有機溶媒を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液。
    Figure 2013125692
    (式(10)中、R35、R36は独立して、ハロゲン、アルコキシ基若しくは芳香環で一部置換されていても良い炭素数1〜12のアルキル基またはアリール基を表す。)
  7. 導電層上に多孔質の金属酸化物半導体層を形成し、該金属酸化物半導体層に光増感作用を有する色素を吸着させてなる光電極と、前記光電極に対向配置される対極、及び前記光電極と対極間に形成され、色素増感太陽電池用電解液を含む電解質層とを有する色素増感太陽電池であって、
    前記電解質層が請求項1から6のいずれかに記載の色素増感太陽電池用電解液を含んでなることを特徴とする色素増感太陽電池。
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