JP2013073756A - リチウムイオン二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】リチウムイオン二次電池の性能向上
【解決手段】
リチウムイオン二次電池100Aは、負極集電体241Aと、負極集電体241Aに塗工された負極活物質層243Aとを備えている。ここで、負極活物質層243Aは、負極活物質粒子710とバインダ730とを少なくとも含んでおり、負極活物質粒子710は炭素材料である。そして、塗工前における負極活物質粒子710のBET比表面積Aと塗工後の負極活物質層243AのBET比表面積Bとの比(A/B)が、1.17≦(A/B)≦1.88である。
【選択図】図9

Description

本発明はリチウムイオン二次電池に関する。
本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充電可能な蓄電デバイス一般をいう。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」は、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電子の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
かかるリチウムイオン二次電池として、例えば、特開2010−135314号(特許文献1)では、電解液との過剰な反応性を抑制するとともに、急速充放電特性に優れた炭素材料を提供するしうるリチウムイオン二次電池用炭素材料が開示されている。ここで開示されるリチウムイオン二次電池用の炭素材料は、下記、(A)〜(C)の特徴を備えている。
(A)タップ密度≧0.75g/cm
(B)ラマンR値≧0.23、ラマンスペクトル1358cm−1付近に現われるDバンドの半値幅ΔνD<45cm−1
(C)BET比表面積(SA):4m/g≦SA≦11m/g
特開2010−135314号
特許文献1に開示されているように、炭素材料は、リチウムイオン二次電池の負極の活物質として用いられている。同文献では、リチウムイオン二次電池に所望の特性を得るべく、BET比表面積によって炭素材料を選択して用いている。しかし、BET比表面積によって炭素材料を選択しても必ずしも所望の性能を備えるリチウムイオン二次電池が得られない事象があった。特に、車両駆動用電池として用いられるリチウムイオン二次電池は、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとが、両方とも所要の性能を有することが求められる。
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極集電体と、負極集電体に塗工された負極活物質層とを備えている。ここで、負極活物質層は、負極活物質粒子とバインダとを少なくとも含んでおり、負極括物質粒子は炭素材料である。そして、塗工前における負極活物質粒子のBET比表面積Aと塗工後の負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)が、1.17≦(A/B)≦1.88である。かかるリチウムイオン二次電池によれば、特に、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとでトレードオフが生じ難いリチウムイオン二次電池が得られる。
上記比(A/B)は、例えば、1.50≦(A/B)であるとよい。また、上記比(A/B)は、例えば、(A/B)≦1.80であるとよい。これにより、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとで、トレードオフをより確実に解決することができる。
かかるリチウムイオン二次電池の製造方法には、例えば、下記、工程P1〜P3が含まれているとよい。工程P1は、炭素材料からなる負極活物質粒子と、バインダと、溶媒とを混合したペーストを用意する工程である。工程P2は、工程P1において用意されたペーストを負極集電体に塗布する工程である。工程P3は、工程P2において集電体に塗布されたペーストを乾燥させた後、圧延して負極活物質層を形成する工程である。ここで、工程P1で用意された負極活物質粒子のBET比表面積Aと、工程P3で形成された負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)が、1.17≦(A/B)≦1.88となるように、工程P3の圧延量を調整するとよい。
図1は、リチウムイオン二次電池の構造例を示す図である。 図2は、リチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。 図3は、図2中のIII−III断面を示す断面図である。 図4は、正極活物質層の構造を示す断面図である。 図5は、負極活物質層の構造を示す断面図である。 図6は、捲回電極体の未塗工部と電極端子との溶接箇所を示す側面図である。 図7は、リチウムイオン二次電池の充電時の状態を模式的に示す図である。 図8は、リチウムイオン二次電池の放電時の状態を模式的に示す図である。 図9は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構造例を示す図である。 図10は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体を示す図である。 図11は、塗工後の負極活物質層のBET比表面積Bの測定方法を説明する図である。 図12は、0℃パルス試験における1サイクルの充放電パターンを示す図である。 図13は、0℃パルス試験における手順1と手順2の充放電における電流値Axと、当該0℃パルス試験が施された評価用セルのサイクル後容量維持率との関係を示すグラフである。 図14は、負極活物質層のBET比表面積Bと限界電流密度との関係を示すグラフである。 図15は、塗工前における負極活物質粒子のBET比表面積Aと塗工後の負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)と、限界電流密度との関係を示すグラフである。 図16は、上記比(A/B)と限界電流密度(mA/cm)との関係、および、上記比(A/B)と保存後容量維持率(%)との関係を示すグラフである。 図17は、リチウムイオン二次電池を搭載した車両を示す図である。
ここではまず、リチウムイオン二次電池の一構造例を説明する。その後、かかる構造例を適宜に参照しつつ、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
図1は、リチウムイオン二次電池100を示している。このリチウムイオン二次電池100は、図1に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。図2は、捲回電極体200を示している。図3は、図2中のIII−III断面を示している。
捲回電極体200は、図2に示すように、正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
≪正極シート220≫
正極シート220は、帯状の正極集電体221と正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。正極集電体221には、例えば、所定の幅を有し、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔を用いることができる。正極集電体221の幅方向片側の縁部に沿って未塗工部222が設定されている。図示例では、正極活物質層223は、図3に示すように、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。正極活物質層223には、正極活物質が含まれている。正極活物質層223は、正極活物質を含む正極合剤を正極集電体221に塗工することによって形成されている。
≪正極活物質層223および正極活物質粒子610≫
ここで、図4は、正極シート220の断面図である。なお、図4において、正極活物質層223の構造が明確になるように、正極活物質層223中の正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630とを大きく模式的に表している。正極活物質層223には、図4に示すように、正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630が含まれている。
正極活物質粒子610には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。正極活物質粒子610の例を挙げると、LiNiCoMnO(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO(ニッケル酸リチウム)、LiCoO(コバルト酸リチウム)、LiMn(マンガン酸リチウム)、LiFePO(リン酸鉄リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、LiMnは、例えば、スピネル構造を有している。また、LiNiO或いはLiCoOは層状の岩塩構造を有している。また、LiFePOは、例えば、オリビン構造を有している。オリビン構造のLiFePOには、例えば、ナノメートルオーダーの粒子がある。また、オリビン構造のLiFePOは、さらにカーボン膜で被覆することができる。
≪導電材620≫
導電材620としては、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。導電材620としては、このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。
≪バインダ630≫
また、バインダ630は、正極活物質層223に含まれる正極活物質粒子610と導電材620の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体221とを結着させたりする。かかるバインダ630としては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)など)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)など)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
≪増粘剤、溶媒≫
正極活物質層223は、例えば、上述した正極活物質粒子610と導電材620を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極合剤を作製し、正極集電体221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
正極合剤全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50wt%以上(典型的には50〜95wt%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95wt%(例えば75〜90wt%)であることがより好ましい。また、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20wt%とすることができ、通常は凡そ2〜15wt%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極合剤全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10wt%とすることができ、通常は凡そ2〜5wt%とすることが好ましい。
≪負極シート240≫
負極シート240は、図2に示すように、帯状の負極集電体241と、負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。この負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、縁部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。負極活物質層243は、負極集電体241に保持され、少なくとも負極活物質が含まれている。負極活物質層243は、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体241に塗工されている。
≪負極活物質層243≫
図5は、リチウムイオン二次電池100の負極シート240の断面図である。負極活物質層243には、図5に示すように、負極活物質粒子710、増粘剤(図示省略)、バインダ730などが含まれている。図5では、負極活物質層243の構造が明確になるように、負極活物質層243中の負極活物質粒子710とバインダ730とを大きく模式的に表している。
≪負極活物質粒子710≫
負極活物質粒子710としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。なお、ここでは、負極活物質粒子710は、いわゆる鱗片状黒鉛が用いられた場合を図示しているが、負極活物質粒子710は、図示例に限定されない。
≪増粘剤、溶媒≫
負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質粒子710とバインダ730を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極合剤を作製し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。バインダ730には、上記正極活物質層223(図4参照)のバインダ630として例示したポリマー材料を用いることができる。また、上記正極活物質層223のバインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、図1または図2に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータ262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ262、264には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。この例では、図2および図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
なお、図1および図2に示す例では、セパレータ262、264は、シート状の部材で構成されている。セパレータ262、264は、正極活物質層223と負極活物質層243とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。したがって、シート状の部材に限定されない。セパレータ262、264は、シート状の部材に代えて、例えば、正極活物質層223または負極活物質層243の表面に形成された絶縁性を有する粒子の層で構成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。
この捲回電極体200では、図2および図3に示すように、正極シート220と負極シート240とは、セパレータ262、264を介在させた状態で、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向するように重ねられている。より具体的には、捲回電極体200では、正極シート220と負極シート240とセパレータ262、264とは、正極シート220、セパレータ262、負極シート240、セパレータ264の順に重ねられて捲回されている。
また、この際、正極活物質層223と負極活物質層243とは、セパレータ262、264が介在した状態で対向している。そして、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向した部分の片側に、正極集電体221のうち正極活物質層223が形成されていない部分(未塗工部222)がはみ出ている。当該未塗工部222がはみ出た側とは反対側には、負極集電体241のうち負極活物質層243が形成されていない部分(未塗工部242)がはみ出ている。
≪電池ケース300≫
また、この例では、電池ケース300は、図1に示すように、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を有しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、当該容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギ効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウム、アルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギ効率を向上させることができる。
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、図1に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、電極端子420、440が取り付けられている。電極端子420、440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には注液孔350と安全弁360とが設けられている。
捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。図2に示す例では、正極集電体221の未塗工部222と負極集電体241の未塗工部242は、それぞれセパレータ262、264の両側において、らせん状に露出している。図6に示すように、この実施形態では、未塗工部222、242の中間部分224、244を寄せ集め、電極端子420、440の先端部420a、440aに溶接している。この際、それぞれの材質の違いから、電極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、電極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。ここで、図6は、捲回電極体200の未塗工部222(242)の中間部分224(244)と電極端子420(440)との溶接箇所を示す側面図であり、図1のVI−VI断面図である。
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、図1に示すように、容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目322(図1参照)は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注液孔350から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒としていない、いわゆる非水電解液が用いられている。この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔350に金属製の封止キャップ352を取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている非水電解液は適宜に使用することができる。
≪空孔≫
ここで、正極活物質層223は、例えば、正極活物質粒子610と導電材620の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間225を有している(図4参照)。かかる正極活物質層223の微小な隙間には電解液(図示省略)が浸み込み得る。また、負極活物質層243は、例えば、負極活物質粒子710の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間245を有している(図5参照)。ここでは、かかる隙間225、245(空洞)を適宜に「空孔」と称する。また、捲回電極体200は、図2に示すように、捲回軸WLに沿った両側において、未塗工部222、242が螺旋状に巻かれている。かかる捲回軸WLに沿った両側252、254において、未塗工部222、242の隙間から、電解液が浸み込みうる。このため、リチウムイオン二次電池100の内部では、正極活物質層223と負極活物質層243に電解液が浸み渡っている。
≪ガス抜け経路≫
また、この例では、当該電池ケース300の扁平な内部空間は、扁平に変形した捲回電極体200よりも少し広い。捲回電極体200の両側には、捲回電極体200と電池ケース300との間に隙間310、312が設けられている。当該隙間310、312は、ガス抜け経路になる。例えば、過充電が生じた場合などにおいて、リチウムイオン二次電池100の温度が異常に高くなると、電解液が分解されてガスが異常に発生する場合がある。この実施形態では、異常に発生したガスは、捲回電極体200の両側における捲回電極体200と電池ケース300との隙間310、312を通して安全弁360の方へ移動し、安全弁360から電池ケース300の外に排気される。
かかるリチウムイオン二次電池100では、正極集電体221と負極集電体241は、電池ケース300を貫通した電極端子420、440を通じて外部の装置に電気的に接続される。以下、充電時と放電時のリチウムイオン二次電池100の動作を説明する。
≪充電時の動作≫
図7は、かかるリチウムイオン二次電池100の充電時の状態を模式的に示している。充電時においては、図7に示すように、リチウムイオン二次電池100の電極端子420、440(図1参照)は、充電器290に接続される。充電器290の作用によって、充電時には、正極活物質層223中の正極活物質からリチウムイオン(Li)が電解液280に放出される。また、正極活物質層223からは電荷が放出される。放出された電荷は、導電材(図示省略)を通じて正極集電体221に送られ、さらに、充電器290を通じて負極シート240へ送られる。また、負極シート240では電荷が蓄えられるとともに、電解液280中のリチウムイオン(Li)が、負極活物質層243中の負極活物質に吸収され、かつ、貯蔵される。
≪放電時の動作≫
図8は、かかるリチウムイオン二次電池100の放電時の状態を模式的に示している。放電時には、図8に示すように、負極シート240から正極シート220に電荷が送られるとともに、負極活物質層243に貯蔵されたリチウムイオンが、電解液280に放出される。また、正極では、正極活物質層223中の正極活物質に電解液280中のリチウムイオンが取り込まれる。
このようにリチウムイオン二次電池100の充放電において、電解液280を介して、正極活物質層223と負極活物質層243との間でリチウムイオンが行き来する。また、充電時においては、正極活物質から導電材を通じて正極集電体221に電荷が送られる。これに対して、放電時においては、正極集電体221から導電材を通じて正極活物質に電荷が戻される。
充電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、効率的で急速な充電が可能になると考えられる。放電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、電池の抵抗が低下し、放電量が増加し、電池の出力が向上すると考えられる。
≪他の電池形態≫
なお、上記はリチウムイオン二次電池の一例を示すものである。リチウムイオン二次電池は上記形態に限定されない。また、同様に金属箔に電極合剤が塗工された電極シートは、他にも種々の電池形態に用いられる。例えば、他の電池形態として、円筒型電池或いはラミネート型電池などが知られている。円筒型電池は、円筒型の電池ケースに捲回電極体を収容した電池である。また、ラミネート型電池は、正極シートと負極シートとをセパレータを介在させて積層した電池である。
≪車両駆動用電池≫
ところで、車両駆動用電池では、例えば、リチウムイオンの反応が鈍くなる、−10℃程度の低温環境でも、高い電流値で充電でき、かつ、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率が高く維持されることが望ましい。さらに、車両駆動用電池は、長期保存後の容量維持率を高く維持できることが望ましい。このように車両駆動用電池では、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率が高く維持でき、かつ、長期保存後の容量維持率についても高く維持できる電池が望ましい。
また、本発明者の得た知見によれば、リチウムイオン二次電池は、単純には、負極活物質層のBET比表面積Bが大きいほど、ハイレートでの充放電サイクル後容量維持率が向上する。また、負極活物質層のBET比表面積Bが大きいほど保存後容量維持率が悪くなる傾向がある。負極活物質層のBET比表面積Bが大きい、すなわち、負極活物質層に電解液が馴染み易いほど、ハイレートでの充放電に向いており、ハイレートでの充放電に対して電池性能を維持できる傾向がある。しかし、長期保存という観点において、負極活物質層に電解液が馴染み易いほど、リチウムイオンが負極活物質層から抜け易いという側面があり、長期保存後の容量維持率を高く維持することが難しい。
≪トレードオフ≫
このように、リチウムイオン二次電池において、単純には、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとは、トレードオフ(二律背反)の関係にある。車両駆動用電池では、上述したように、かかるハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとを両立することが、特に望ましく、何れも高く維持できる電池が望ましい。このように、所望の性能がトレードオフの関係にある場合、通常は、トレードオフの関係にある性能のうち、何れかの性能を犠牲にしつつ、バランスを考慮して必要な性能を確保するように設計される。
≪本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池≫
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。なお、ここで、上述したリチウムイオン二次電池100と同じ作用を奏する部材または部位には、適宜に同じ符号を用い、必要に応じて上述したリチウムイオン二次電池100の図を参照して説明する。
≪リチウムイオン二次電池100A≫
図9は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aを示している。図10は、その捲回電極体200Aを示している。リチウムイオン二次電池100Aは、図9および図10に示すように、負極集電体241Aと、負極集電体241Aに塗工された負極活物質層243Aとを備えている。負極活物質層243Aは、負極活物質粒子710とバインダ730(図5参照)とを少なくとも含んでいる。ここで、負極活物質粒子710は炭素材料である。
リチウムイオン二次電池100Aは、塗工前における負極活物質粒子710のBET比表面積Aと、塗工後の負極活物質層243AのBET比表面積Bとの比(A/B)が、凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である。かかるリチウムイオン二次電池100Aによれば、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することについて、上述したトレードオフを解決したリチウムイオン二次電池が得られる。この場合、(A/B)は、凡そ1.50≦(A/B)であることが好ましく、(A/B)≦1.80であることが好ましい。以下、かかるリチウムイオン二次電池100Aをより詳細に説明する。
≪BET比表面積A≫
ここで塗工前における負極活物質粒子710のBET比表面積Aは、塗工前における負極活物質粒子710の粉体について、JIS K 6217−2「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第2部、比表面積の求め方−窒素吸着法、単点法」に準拠して求められる。
≪BET比表面積B≫
図11は、塗工後の負極活物質層243AのBET比表面積Bの測定方法を説明する図である。ここで塗工後の負極活物質層243AのBET比表面積Bは、図11に示すように、負極活物質層243Aが塗工された負極集電体241Aから所定の大きさの極板20(ここでは、60mm×90mmの極板)を切り出す。次に、切り出した極板20を、さらに小片40(ここでは、2mm×15mmの小片)に切り分けて測定サンプルとする。次に、切り分けた小片40のサンプルを、窒素雰囲気下で120℃、1時間乾燥させた後、BET1点法の測定によって実表面積値を得る。
ここで、極板20から切り分けたサンプル小片40の重量F1を測定しておく。そして、BET1点法の測定によって実表面積値を得た後、小片40を水に浸し、超音波洗浄器にて振動を与える。これによって、小片40から負極活物質層243Aを剥がすことができる。そして、負極活物質層243Aが剥がされた小片40の負極集電体241Aを乾燥させて、小片40の負極集電体241Aの重量F2を得る。そして、予め測定しておいた小片40の重量F1から、小片40の負極集電体241Aの重量F2を除して、小片40の負極活物質層243Aの重量F3を得る。

(小片40の負極活物質層243Aの重量F3)=(小片40の重量F1)−(小片40の負極集電体241Aの重量F2);
ここでは、サンプル小片40について、BET1点法の測定によって得た小片40の実表面積値を得る。そして、小片40の負極活物質層243Aの重量F3で割る。これによって、負極活物質層243Aの単位面積当たりの比表面積としてBET比表面積Bを得るとよい。
なお、塗工前の負極活物質粒子710(図6参照)のBET比表面積Aが同じでも、負極活物質層243AのBET比表面積Bに差が生じ得る。例えば、圧延工程で、圧延量が高くなれば、負極活物質層が密になる。負極活物質層243Aが密になると、負極活物質層243AのBET比表面積Bは小さくなる。しかしながら、さらに、圧延量が大きくなると、負極活物質層243AのBET比表面積Bは高くなる場合がある。
これは、圧延量が大きくなることにより、負極活物質層243A中の負極活物質粒子710に割れが生じることによると考えられる。負極活物質層243A中の負極活物質粒子710に割れが生じると、負極活物質粒子710自体のBET比表面積が、塗工前の負極活物質粒子710のBET比表面積Aに比べて大きくなる。要するに、圧延量が大きくなると、負極活物質層243Aは密になるが、負極活物質層243A中の負極活物質粒子710に割れが生じるために、負極活物質層243AのBET比表面積Bは大きくなる。
本発明者は、上述した塗工前の負極活物質粒子710のBET比表面積Aと、負極活物質層243AのBET比表面積Bと、さらに後述のように定義される限界電流密度とに着目した。そして、塗工前における負極活物質粒子710のBET比表面積Aと、塗工後の負極活物質層243AのBET比表面積Bとの比(A/B)を適切に管理することによって、好適なリチウムイオン二次電池が得られ得ることを見出した。
≪限界電流密度≫
ここで、「限界電流密度」は、所定のパルス充放電サイクル試験後に電池容量を高く維持できなくなる電流値を限界電流値とし、当該限界電流値を極板面積で割った値で定義される。かかる限界電流密度の測定は、評価用セルを作製して行なう。
≪評価用セル≫
評価用セルは、電池サイズが7cm×7cmで、極板面積(正極活物質層と負極活物質層とが対向した面積)が4.5×4.7のラミネートセルを用いた。ここで、正極、負極、セパレータ、電解液などは、上述したリチウムイオン二次電池100と同様の構成をとることができる。ここでは、塗工前の負極活物質粒子のBET比表面積A、および、負極活物質層のBET比表面積Bを変えた複数の負極シートを用意した。すなわち、同じ負極活物質粒子710を用いた場合でも、例えば、圧延量を変えて、負極活物質層243AのBET比表面積Bが異なる負極シートを用意した。
評価用セルは、負極シート以外の構成を共通化した。また、限界電流密度の測定では、限界電流値を導くのに、複数の評価用セルを用いる。このため、各負極シートを用いて、それぞれ複数の評価用セルを作成した。なお、評価用セルは、負極活物質粒子のBET比表面積Aおよび負極活物質層のBET比表面積Bと、限界電流密度との相関関係を調べるために作製したものであり、電池の構造や大きさは、上記の構造に特に限定されない。
評価用セルは、それぞれ所定のコンディショニングの後、SOC60%に調整する。そして、限界電流密度を測定する上で限界電流値を知るために行なわれるパルス充放電サイクル試験として「0℃パルス試験」が行なわれる。以下、コンディショニング、SOC調整、0℃パルス試験を順に説明する。
≪コンディショニング≫
ここでコンディショニングは、次の手順1、2によって行なわれる。
手順1:1Cの定電流充電にて4.1Vに到達した後、5分間休止する。
手順2:手順1の後、定電圧充電にて1.5時間充電し、5分間休止する。
≪定格容量の測定≫
上記コンディショニングの後、評価用セルについて定格容量が測定される。定格容量の測定は、次の手順1〜3によって測定されている。なお、ここでは温度による影響を一定にするため、定格容量は温度25℃の温度環境において測定されている。
手順1:1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間休止する。
手順2:1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、その後、10秒間休止する。
手順3:0.5Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間停止する。
ここで、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を「定格容量」とする。この評価用セルでは、定格容量が凡そ40mAhになる。
≪SOC調整≫
SOC調整は、次の1、2の手順によって調整される。ここで、SOC調整は、上記コンディショニング工程および定格容量の測定の後に行なうとよい。また、ここでは、温度による影響を一定にするため、25℃の温度環境下でSOC調整を行なっている。
手順1:3Vから1Cの定電流で充電し、定格容量の凡そ60%の充電状態(SOC60%)にする。
手順2:手順1の後、2.5時間、定電圧充電する。
これにより、評価用セルは、所定の充電状態に調整することができる。なお、ここでは、SOCを60%に調整する場合を記載しているが、手順1での充電状態を変更することにより、任意の充電状態に調整できる。例えば、SOC80%に調整する場合には、手順1において、評価用セルを定格容量の80%の充電状態(SOC80%)にするとよい。
≪0℃パルス試験≫
0℃パルス試験は、SOC60%に調整した評価用セルを用い、0℃の温度環境下において、所定のパルス充放電を1サイクルとして250サイクル行なう。図12は、0℃パルス試験における1サイクルの充放電パターンを示している。ここで1サイクルの充放電パターンは、以下の通りである。
手順1:定電流で10秒間充電(CC充電)し、10分間休止・・・(S1)
手順2:定電流で10秒間放電(CC放電)し、10分間休止・・・(S2)
ここで、手順1と手順2は充電と放電の電流値を同じ値(電流値Ax)とする。また、0℃パルス試験は、限界電流密度を測定する上で、都度、新たな評価用セルを用い、電流値Axを変更して試験が実施される(図13参照)。
≪初期容量Q1≫
ここで、評価用セルの初期容量Q1は、上記0℃パルス試験が行なわれる前の評価用セルについて、次の手順1〜3によって測定しておく。
手順1:SOC60%に調整した評価用セルを用意し、25℃の温度条件下において、端子間電圧が4.1Vになるまで1Cの定電流にて充電し、続いて合計充電時間が2.5時間になるまで4.1Vの定電圧で充電した(CC−CV充電)。
手順2:手順1の充電完了から10分間休止した後、4.1Vから0.33Cの定電流で3.0Vになるまで放電する(CC放電)。
手順3:手順2のCC放電完了から10分間休止した後、さらに合計放電時間が4時間になるまで3.0Vの定電圧で放電する(CC−CV放電)。
手順4:手順3のCC−CV放電完了から10分間休止し、手順2および手順3で放電された容量を、評価用セルの初期容量[Ah]とした。
≪サイクル後容量Q2、サイクル後容量維持率≫
サイクル後容量[Ah]は、上述した0℃パルス試験後の評価用セルを、上記初期容量と同じ条件で充電と放電を行った際の評価用セルの容量である。ここで、サイクル後容量維持率は、初期容量をQ1、サイクル後容量をQ2とし、次式により、サイクル後の容量維持率を算出した。

サイクル後容量維持率=(サイクル後容量Q2)/(初期容量Q1)×100[%];
≪限界電流値Axo、限界電流密度≫
ここで、図13は、上記0℃パルス試験における手順1と手順2の充放電における電流値Axと、当該0℃パルス試験が施された評価用セルのサイクル後容量維持率との関係を示すグラフである。ここでは、0℃パルス試験後に電池容量(サイクル後容量Q2)と、初期容量Q1との比((サイクル後容量維持率:サイクル後容量/初期容量)が97%以上であれば、サイクル後容量維持率を高く維持できているものとしている。なお、ここでは、サイクル後容量維持率を高く維持できているものとする基準は、サイクル後容量維持率が97%以上としているが、かかる基準は適当に定めることができる。かかる基準は、例えば、サイクル後容量維持率が98%以上としてもよいし、サイクル後容量維持率が95%以上としてもよい。
また、0℃パルス試験では、都度、新たな評価用セルを用いる。すなわち、図13中、プロット毎に新たな評価用セルが用いられている。また、手順1と2の充放電における電流値Axは、例えば、0.1Cずつ変えて、都度、新たな評価用セルを用いて0℃パルス試験を行なうとよい。手順1と2の充放電における電流値Axを、細かく変えて0℃パルス試験を行なうことによって、限界電流値Axoをより精度良く検出することができる。
0℃パルス試験では、例えば、電流値Axを徐々に高くすると、ある値を境に、評価用セルはサイクル後容量/初期容量が97%以上を維持できなくなる。この際、サイクル後容量/初期容量が97%以上に維持される最大の電流値Axo(換言すれば、サイクル後容量/初期容量が97%未満となる電流値Axのうち最小の電流値Axo)を見出し、その電流値Axoを限界電流値とする。
ここで、当該限界電流値Axoは、所定のパルス充放電サイクル試験後に電池容量(サイクル後容量維持率)を高く維持できなくなる電流値(電池容量を97%以上に高く維持できない電流値)を意味する。ここでは、当該限界電流値Axoを評価用セルの極板面積で割った値を、限界電流密度とする。

限界電流密度(mA/cm)=(限界電流値Axo(mA))/(評価用セルの極板面積(cm));
≪負極活物質層のBET比表面積Bと限界電流密度との関係≫
図14は、負極活物質層のBET比表面積Bと限界電流密度との関係を示している。図14において、プロット「□」は、BET比表面積が2.7の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。また、プロット「◇」は、BET比表面積が4.0の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。また、プロット「△」は、BET比表面積が3.2の人造黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。
負極活物質層のBET比表面積Bと限界電流密度との関係でみると、図14に示すように、負極活物質粒子によってばらつきがある。しかしながら、傾向としては、負極活物質層のBET比表面積Bが高くなるにつれて、限界電流密度が高くなる領域C1、限界電流密度が徐々に低くなる領域C2、限界電流密度が著しく低くなる領域C3が順に現れる。なお、図14では、プロット「□」で示された、BET比表面積が2.7の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合について、上述したC1,C2,C3の各領域が、C1,C2,C3の各矢印によって示されている。
≪比(A/B)と、限界電流密度との関係≫
本発明者は、さらに塗工前における負極活物質粒子のBET比表面積Aを考慮し、塗工前における負極活物質粒子のBET比表面積Aと塗工後の負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)と、限界電流密度との関係を調べた。図15は、塗工前における負極活物質粒子のBET比表面積Aと塗工後の負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)と、限界電流密度との関係を示している。
図15における各プロットは、それぞれ図14と同様の負極活物質粒子が用いられた場合を示している。すなわち、図15において、プロット「□」は、BET比表面積が2.7の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。また、プロット「◇」は、BET比表面積が4.0の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。また、プロット「△」は、BET比表面積が3.2の人造黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合である。
ここで、図15に示すように、上記比(A/B)と、限界電流密度との関係で整理すると、上記比(A/B)が小さいところでは、限界電流密度が低い領域D1がある。そこから、上記比(A/B)が高くなるにつれて、限界電流密度が徐々に高くなる領域D2が現れ、さらに限界電流密度が著しく低くなる領域D3が現れる。この場合、上記領域D2は、上記比(A/B)が、凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域に現れる。このように、上記比(A/B)と限界電流密度とでは、特に、上記比(A/B)が、凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域において、一様の相関関係がみられる。
上記比(A/B)が凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域D2では、概ね限界電流密度が他の領域に比べてある程度高く、かつ、上記比(A/B)が高くなるにつれて限界電流密度が徐々に高くなる。かかる領域D2では、限界電流密度が他の領域に比べてある程度高いので、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率が高く維持できる。なお、図15では、プロット「◇」で示された、BET比表面積が4.0の天然黒鉛が負極活物質粒子に用いられている場合について、上述したD1,D2,D3の各領域が、D1,D2,D3の各矢印によって示されている。
さらに、かかる領域D2について、上記比(A/B)と、長期保存後の容量維持率(保存後容量維持率)(%)との関係を調べた。図16は、当該領域D2における、上記比(A/B)と限界電流密度(mA/cm)との関係、および、上記比(A/B)と保存後容量維持率(%)との関係を示している。図16中のプロット「◇」は、上記比(A/B)と限界電流密度との関係を示している。またプロット「○」は、上記比(A/B)と保存後容量維持率(%)との関係を示している。
≪保存後容量維持率(%)≫
ここで、保存後容量維持率(%)は、25℃の温度条件下にてSOC80%に調整した評価用セルを、60℃の温度環境下において30日間放置する。かかる保存後に、25℃の温度条件下にて、上述した初期容量Q1と同じ条件で充電と放電を行い、評価用セルの容量(保存後電池容量Q3)を求めた。そして、次式により、保存後容量維持率(%)を算出した。

保存後容量維持率(%)=(保存後電池容量Q3)/(初期容量Q1)×100[%];
限界電流密度は、ハイレートでの充放電サイクル後容量維持率を高く維持できなくなる電流値を意味する限界電流値Axoを、極板面積で割った値であり、極板の単位面積における限界電流値を意味する。限界電流密度が高ければ、極板の単位面積における限界電流値が高く、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率が高く維持できることを意味する。これに対して、保存後容量維持率(%)が高ければ、長期保存後の容量維持率を高く維持できることを意味する。
図16に示すように、上記比(A/B)が凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域D2では、上記比(A/B)が高くなるにつれて、限界電流密度が高くなり、かつ、保存後容量維持率(%)も高くなる。すなわち、かかる領域では、限界電流密度と、保存後容量維持率(%)とが二律背反せず、トレードオフの関係が解消している。このため、上記比(A/B)に着目し、上記比(A/B)が凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域D2でリチウムイオン二次電池100A(図9参照)を構築するとよい。これによって、限界電流密度と保存後容量維持率(%)とでトレードオフの問題が生じ難いリチウムイオン二次電池100Aが得られる。換言すれば、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとでトレードオフが生じ難いリチウムイオン二次電池が得られる。
車両駆動用電池では、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率が高く維持でき、かつ、長期保存後の容量維持率についても高く維持できる電池が望ましい。上記比(A/B)が凡そ1.17≦(A/B)≦1.88である領域D2では、上記比(A/B)が高くなるにつれて、限界電流密度が高くなり、かつ、保存後容量維持率(%)も高くなる。このため、車両駆動用電池としては、例えば、上記比(A/B)が凡そ1.30≦(A/B)であるとよい。また、例えば、上記比(A/B)が凡そ1.50≦(A/B)であってもよい。さらに上記比(A/B)は凡そ1.60≦(A/B)であってもよい。また、例えば、上記比(A/B)が凡そ(A/B)≦1.85、また、例えば、上記比(A/B)が凡そ(A/B)≦1.80であるとよい。これにより、より確実に上述したトレードオフが生じ難いリチウムイオン二次電池が得られる。そして、限界電流密度が高く、かつ、保存後容量維持率(%)も高いリチウムイオン二次電池100Aをより確実に得ることができる。
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aを説明したが、本発明のリチウムイオン二次電池は、上述した形態に限定されず、種々の変更が可能である。ここでは、評価用セルを例に、限界電流密度と保存後容量維持率(%)についての性能を説明した。評価用セルは、負極シート以外の構成を共通化した。このため、評価用セルの電池構成に関わらず、負極シートの構成で差別化される評価用セルで得られる傾向と同様の傾向が他の構成のリチウムイオン二次電池にも現れる。かかる観点において、本発明は、特に言及されない限りにおいて、上述した何れのリチウムイオン二次電池100Aの形態にも限定されない。
また、かかるリチウムイオン二次電池100Aの製造方法は、例えば、以下の工程P1〜P3を含んでいるとよい。ここで、工程P1は、炭素材料からなる負極活物質粒子と、バインダと、溶媒とを混合したペーストを用意する工程である。工程P2は、工程P1において用意されたペーストを負極集電体に塗布する工程である。工程P3は、工程P2において集電体に塗布されたペーストを乾燥させた後、圧延して負極活物質層を形成する工程である。また、工程P1で用意された負極活物質粒子のBET比表面積Aと、工程P3で形成された負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)が、凡そ1.17≦(A/B)≦1.88となるように、工程P3の圧延量を調整するとよい。
また、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aは、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率を高く維持することと、長期保存後の容量維持率を高く維持することとについて、トレードオフの関係が解決されている。このため、ハイレートでの充放電サイクルに対して容量維持率と、長期保存後の容量維持率とが、何れも高く維持することができ、プラグインハイブリッド車若しくは電気自動車の駆動用電池など車両駆動用電池として好適なリチウムイオン二次電池が提供されうる。
この場合、例えば、図17に示すように、リチウムイオン二次電池100Aを複数個接続して組み合わせた組電池の形態で、自動車などの車両1のモータ(電動機)を駆動させる車両駆動用電池1000として好適に利用され得る。リチウムイオン二次電池100Aは、特に、ハイブリッド車(特に、プラグインハイブリッド車)若しくは電気自動車の駆動用電池として好適な、例えば、定格容量が3.0Ah以上のリチウムイオン二次電池に好適である。
20 極板
40 サンプル小片
100、100A リチウムイオン二次電池
200、200A 捲回電極体
220 正極シート
221 正極集電体
222 未塗工部
223 正極活物質層
224 中間部分
225 隙間
240、240A 負極シート
241、241A 負極集電体
242、242A 未塗工部
243、243A 負極活物質層
245 隙間
262 セパレータ
264 セパレータ
280 電解液
290 充電器
300 電池ケース
310、312 隙間
320 容器本体
340 蓋体
350 注液孔
352 封止キャップ
360 安全弁
420 電極端子
440 電極端子
610 正極活物質粒子
620 導電材
630 バインダ
710 負極活物質粒子
730 バインダ
1000 車両駆動用電池(組電池)

Claims (5)

  1. 負極集電体と、
    前記負極集電体に塗工された負極活物質層と
    を備え、
    前記負極活物質層は、負極活物質粒子とバインダとを少なくとも含み、
    前記負極括物質粒子は炭素材料であり、
    前記塗工前における前記負極活物質粒子のBET比表面積Aと、前記塗工後の前記負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)が、1.17≦(A/B)≦1.88である、
    リチウムイオン二次電池。
  2. 前記比(A/B)が、1.50≦(A/B)である、請求項1に記載されたリチウムイオン二次電池。
  3. 前記比(A/B)が、(A/B)≦1.80である、請求項1または2に記載されたリチウムイオン二次電池。
  4. 請求項1から3までの何れか一項に記載されたリチウムイオン二次電池を備えた車両駆動用電池。
  5. 炭素材料からなる負極活物質粒子と、バインダと、溶媒とを混合したペーストを用意する工程P1と、
    前記工程P1において用意されたペーストを負極集電体に塗布する工程P2と、
    前記工程P2において集電体に塗布されたペーストを乾燥させた後、圧延して負極活物質層を形成する工程P3と
    を含み、
    前記工程P1で用意された負極活物質粒子のBET比表面積Aと、前記工程P3で形成された負極活物質層のBET比表面積Bとの比(A/B)が、1.17≦(A/B)≦1.88となるように、工程P3の圧延量が調整される、リチウムイオン二次電池の製造方法。
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