以下、添付図面にしたがって本発明の実施形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は本発明の実施形態に係るフレキソ印刷版の版上に形成されるレリーフ(浮き彫りとして形成される凸部分)のイメージを模式的に表した斜視図である。本実施形態によるフレキソ印刷版10の版上には浮き彫りの凸部分として、図示のような3次元形状を有するレリーフ12が形成される。このレリーフ12は、頂面14にインキが付与されるキャップ部16と、該キャップ部16を支える土台となる台部18と、を有する。図1では円錐台形状の台部18の上に、略円柱形状のキャップ部16が形成されている例を示したが、台部18及びキャップ部16の立体形状については、図示の例に限定されない。なお、本実施形態の説明においては、図1のように、レリーフ12の頂面14を「上」側、レリーフ12のボトム24の面を「下」側として、上下の方向を表現する。また、フレキソ印刷版10は、重力方向に対して直交する水平面と平行な支持面(不図示)の上に支持されているものとして説明する。
図1に示したように、レリーフ12におけるキャップ部16の頂面14の部分は、水平面と平行なフラット部として形成されている。キャップ部16の頂面14の形状(平面視による形状)は円形に限らず、楕円形、多角形など、任意の形状とすることができる。キャップ部16の頂面14のエッジ(縁)部分は面取りされ、滑らかな傾斜面(符号20)となっている。本明細書では、この符号20で示す面取り部分を「キャップ面取り部」と呼ぶことにする。
図1では、頂面14のエッジ全周が面取りされている例を示すが、必ずしも全周に限らず、エッジの一部分のみを面取りし、一部を面取りせずに残す形態も可能である。
キャップ部16は、キャップ面取り部20よりも下方の部分は、頂面14に対して垂直に近い急峻な勾配の側面を有する形状となっている。すなわち、キャップ部16は、キャップ面取り部20を除いて、その水平断面の断面積が切断面高さによらず概ね一定となっている。この水平面(頂面14)に対して垂直に近い急峻な角度で起立する側面を有する部分(符号22)を本明細書では「キャップ急峻部」と呼ぶことにする。
「垂直に近い急峻な角度」とは、例えば、70°以上90°以下の範囲の角度である。垂直(90°)に近い角度であるほど好ましいものであるが、実際の加工プロセス等の制約により、必ずしも厳密に垂直(90°)となることまで要求されず、実用上、同等程度の作用効果が得られる範囲で許容範囲がある。垂直に近い急峻な角度として、好ましくは、75°以上90°以下、より好ましくは80°以上90°以下である。
一方、キャップ部16を支える台部18は、キャップ部16の基部(根本)からレリーフ12のボトム(底部)に向かって全体的に末広がり型の形状を有しており(ボトムからキャップ部16に向かって先細り型)の形状を有しており、水平断面の断面積が下に行くほど大きい(水平断面の断面積が上に行くほど小さい)。例えば、楕円錐台、角錐台などの形態の土台部分も可能である。
図2は、図1に示したレリーフ12の縦断面図(頂面14と垂直に交差する切断面で切った断面形状を示す断面図)である。図1のレリーフ12を縦断面の断面形状で見ると、図2に示すように、キャップ部16は略矩形の形状である。キャップ部16は、水平な頂面14と、この頂面14に対して垂直に近い急峻な角度の側面を形成するキャップ急峻部22を有する。また、キャップ部16の頂面14のエッジは、面取りされた傾斜面(符号20)となっている。
フレキソ印刷版の場合、レリーフ12の頂面14からボトム24までの深さdの最大値(最大深度dmax)は、概ね500μm程度であり、キャップ部16の高さ(頂面14からの深さdc)はおよそ40μm程度(最大深度dmaxの約10%前後)であることが好ましい。
キャップ部16を支える台部18の縦断面形状は台形形状を有する。台部18の側面28は、キャップ急峻部22と比較して緩やかな勾配の傾斜面となっている。台部18の斜面部分(符号28)の傾斜角度xは、適宜の角度に設計することができる。ここでは、ボトム24の底面を基準として斜面の仰角を傾斜角度xとしているが、頂面14に垂直な鉛直面を基準として傾斜角度yを定義してもよい。頂面の面積が小さいほど、勾配(傾斜角度x)を小さくする(スロープを緩やかにする)ことで、凸部の倒れを効果的に防止できる。なお、台部18の縦断面における側面部分(符号28)は、斜めの直線となる形態に限らず、曲線となる形態も可能である。
図3は、本実施形態におけるレリーフ(凸部)の各部の名称について整理するための模式図である。図3の[1]で示した部分は、キャップ部16の頂面14部分を表している。このように頂面14部分を水平に形成したことにより、インキを凸版に転写させるためのローラ(アニロックスローラ)からのインキの転写が一様になり、インキ付与用が安定するという効果がある。
図3の[2]で示した部分は、キャップ面取り部(図1、図2の符号20参照)である。キャップ部16の頂面14のエッジを面取りしない構成の場合、印刷でキャップ部が変形して印刷後の線や点が太るという問題がある。この点、本実施形態のようにキャップ部16の頂面14のエッジを面取りする構成を採用することにより、印圧でキャップ部16が変形しても被印刷体に転写されたインキによる画像線や画像点(網点)が太らないという作用効果が得られる。
キャップ面取り部20は、頂面14から深さ方向に5μm以上20μm以下の範囲で形成されることが好ましい。
図3の[3]で示した部分は、キャップ急峻部(図1、図2の符号22参照)である。レリーフ12の頂面14として残す領域A(面取り後の頂面の領域、以下「頂面領域」という。)に比べて、キャップ急峻部22の太さ(水平断面形状の領域B)は大きいものとなっている。
図3の[2]で示したキャップ面取り部と、[3]で示したキャップ急峻部とを合わせたキャップ部16は、頂面14から深さ方向に10μm以上40μm以下の範囲で形成されることが好ましい。
このようなキャップ急峻部22を設ける理由は次のとおりである。例えば、キャップ部16として、錐台形のように傾斜のある山形の形状を採用すると、印圧の大小によって垂直方向への押し込み量が異なり、その押し込み量の大小(印圧の大小)に応じてドットの太り方が異なる。特に、印刷機、基材の種類や印刷条件などによって印圧が異なるため、キャップ部16は、頂面14から垂直に近い急峻な角度で形成されたキャップ急峻部22を有する構成が好ましい。
図3の[4]で示した部分は、台部(図1、図2の符号18参照)である。台部18の側面が垂直のままだと、版上のレリーフが印圧で倒れやすいという問題がある。このような凸部の倒れを防止する観点から、台部18はボトム24に向かって末広がりの傾斜形状とすることが好ましい。台部18の側面の勾配は50度以上70度以下の範囲であることが好ましい。
図4は、フレキソ印刷版10の断面の一例を示す。図示のように、フレキソ印刷版10には、多数の凸部が形成されている。各凸部の頂面14のエッジは面取りされている。
このような印刷版を用いることにより、印圧によるドットの太りが軽減される。また、印圧により頂面14から周囲に押し出されるインキは、キャップ面取り部20の面取り斜面に沿って部分に流れるため、マージナルも抑制される。
<フレキソ印刷版の製造方法について>
次に、上述したフレキソ印刷版10(「凸版印刷版」に相当)を作成するための作成装置(製版装置)及び製造方法について説明する。
<フレキソ彫刻CTPシステムの構成>
図5は、フレキソ彫刻CTPシステムの全体構成を示すブロック図である。この製版システム100(「凸版印刷版作成装置」に相当)は、主として、RIP(Raster Image Processor)装置102と、凸版作成装置(セッター装置)104とから構成される。
RIP装置102は、RIP処理部112とスクリーニング処理部(2値画像データ生成部)114とを備える。RIP処理部112は、コンピュータ等を用いて編集された印刷原稿のベクトル画像を表現するPDF(Portable Document Format)データやPS(Post Script;登録商標)データ等のページ記述言語(Page Description Language)データ(以下、「ページデータ」という。)120をラスタ画像データIrに変換する変換処理部である。
ラスタ画像データIrを構成する各画像データIi(各画素データ)は、階調値として、通常、例えば、CMYKの4チャンネルで各8ビット、すなわち256 (0〜255)階調等を採り得るが、本実施形態では、理解の便宜のために、 256(0〜255)階調は、対応する網点面積率Harで0〜100[%]に変換されているものとする。すなわち、網点面積率に変換された画像データIiは、 階調値として0〜100の値を採るものとなる。この場合、画像データIiの値がIi=100の場合、ベタ部が形成される。また、画像データIiの値がIi=0の場合、非画像部となり、網点突起部(網点印刷用突起部、又は、単に突起部という)は、形成されない。
スクリーニング処理部114は、RIP処理部112で生成されたラスタ画像データを2値の網点画像データ(「2値網点画像データ」という。)に変換する変換処理部である。スクリーニング処理部114は、予め指定された網(例えば、AM網点、FM網点、或いは、これらを組み合わせたハイブリッド網)、スクリーン角度とスクリーン線数などの条件の下に、ラスタ画像データIrに対してスクリーニング処理を行い、2値網点画像データを生成する。スクリーニング処理には、AMスクリーニング、FMスクリーニング、ハイブリッドスクリーニングなど、各種のスクリーニング技術を適用できる。
セッター装置104は、RIP装置102で生成された2値網点画像データを3次元(3D)の彫刻形状データ(「3D彫刻形状データ」という。)に変換する3D彫刻形状変換部142と、3D彫刻形状データからレーザ彫刻用の露光量データに変換する露光量変換部144と、を有する画像処理回路146を備える。また、セッター装置104は、画像処理回路146で生成された露光量データに基づいてレーザ光の出力が制御される彫刻型CTP描画部148を備えている。
3D彫刻形状変換部142は、網点や文字など非露光領域の外側に、レリーフの形状を指定するパラメータに従い、3D形状を作成する。RIP装置102で生成される2値網点画像データは、インキを付与する部分(画像部)の画素が黒、インキを付与しない部分(非画像部)の画素が白と、というような白(0)/黒(1)の2値データとなる。この2値網点の画像内容を反映した凸版をレーザ彫刻によって作成する場合、版材の白地部となる非画像部(白画素の部分)にレーザ光を照射して除去加工が行われ、画像部(黒画素の部分)は非露光領域として残される。
本実施形態における「2値網点画像データ」が請求項で言う「2値画像データ」に相当し、「3D彫刻形状データ」が「目標立体形状データ」に相当する。
図6は、3D彫刻形状変換部142の処理ブロック図である。3D彫刻形状変換部142は、白地部の各画素から最短の黒画素までの距離を計算する距離計算部152と、形状設定パラメータを記憶した記憶部154と、距離計算部152にて算出された距離の値に応じて、指定されたパラメータにより計算される彫刻深さを求める深さ計算部156と、を備える。
図7は、距離計算部152にて計算される距離の一例である。図7における黒塗り斜線で示した画素が2値画像データにおけるON画素(「黒画素」とも言う。)であり、当該ON画素の領域が画像部に相当する。当該ON画素の領域(画像部)の外側の周囲の画素は白地部に対応する非画像部である。白地部の各画素から最短の黒画素までの距離を画素単位で示した数字が各画素のセルに示されている。黒画素に隣接する白画素の距離は「1」として表した。距離の計算に際しては、ユークリッド距離変換を含む公知の距離変換アルゴリズムを用いることができる。
図8は、形状設定パラメータの模式図である。図8のように、レリーフ凸部の形状モデルが定められている。レリーフの凸形状を特定するパラメータには、例えば、2次元面内における黒画素の端からの距離r、レリーフの深さd、キャップの高さ(頂面からの深さ)h、キャップ下の土台部分における肩の張り出し量u、土台部分の傾斜角x、などがある。
これら各パラメータに関する数値を設定することによって、目的の3次元形状が得られる。実際の彫刻に際しては、距離rと深さdの関係を規定することによって、レリーフの形状を特定することができる。
このような形状設定パラメータは、版材の種類に関連して複数種類のデータ群が保持されている。或いはまた、版材の種類と被印刷体(メディア)の種類との組み合わせに関連して複数種類のデータ群が保持されている。使用する版材に応じて、若しくは使用する版材と被印刷体の組み合わせに応じて、製版用のプログラムによって自動的に適切なパラメータが選択される。また、ユーザーインターフェース(不図示)を介してオペレータ(ユーザ)が所望のパラメータを選択したり、入力、編集することも可能である。
図9は、距離計算の結果から3次元彫刻形状を決定する処理の概念図である。図9の横軸は2次元空間(画像面)内で最も近い黒画素(2値画像のON部分)からの距離を示し、縦軸は2値画像の信号値並びに彫刻深さを表している。2値網点画像の元のデジタル信号は、図9の太線で示したように、画像部と非画像部が離散的に(ステップ状に)切り替わるものである。
これに対して、2次元空間における白地部分(白画素)について、最も近いON領域(黒画素)からの距離rに応じて、彫刻深さを変化させるように、彫刻形状データが修正される(図9の破線)。この破線で示した彫刻深さデータは、図8で説明した形状設定パラメータにしたがって決定される。図9では、円弧状の破線による彫刻形状を図示したが、形状パラメータに規定される距離rと深さdの関係に対応した彫刻形状データが生成される。
図10は、露光量変換部144の処理ブロック図である。露光量変換部144は、3D彫刻データの彫刻深さ情報から彫刻に必要なレーザ露光量のデータに変換する処理部(露光量算出処理部)162と、レリーフ頂面から所定距離の画像外近接画素に対して、エッジ部の面取り用の露光量を与えるエッジ部露光量設定部164と、エッジ部の面取り露光に必要なパラメータのデータを保持する記憶部(面取り用露光パラメータ保持部166)を備える。
面取り用露光パラメータ保持部166には、版材の種類に関連して複数種類の面取り用露光パラメータが保持されている。或いはまた、版材の種類と被印刷体(メディア)の種類との組み合わせに関連して複数種類の面取り用露光パラメータが保持されている。使用する版材に応じて、若しくは使用する版材と被印刷体の組み合わせに応じて、製版用のプログラムによって自動的に適切なパラメータが選択される。また、ユーザーインターフェースを介してオペレータ(ユーザ)が所望のパラメータを選択したり、入力、編集することも可能である。図10の符号168は、ユーザーインターフェースとしての入力装置である。入力装置168には、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、操作ボタン、或いはこれらの適宜の組み合わせなど、各種の構成を採用し得る。ユーザは、入力装置168から各種の指示を入力することができ、その指示内容は図示せぬディスプレイ(表示装置)を通じて確認することができる。
図11は、3D彫刻形状データから露光量データに変換する際の変換処理の説明図である。最も単純な変換処理の方法としては、例えば、図11のように、彫刻深さに対して露光量を定めるルックアップテーブルにより変換するものである。図10で説明した露光量算出処理部162において、図11のようなルックアップテーブを用いた変換処理が行われる。
なお、上記の説明では、黒画素からの距離→彫刻深さ→露光量という段階的な処理ステップで変換処理を行う場合を説明したが、実際の演算処理においては、距離と露光量の関係を規定したテーブルを予め求めておき、そのテーブルを用いて距離から露光量へ一回の変換処理で目的の変換結果を得ることができる。
〔エッジ部の面取り露光量の設定について〕
図10に示したエッジ部露光量設定部164の処理は次のとおりである。本実施形態では、画像部(2値網点画像のON領域)のエッジ部分を面取りするため、黒画素に隣接する白画素(最も近いON領域からの距離が、画素単位で「1」の範囲)に対して、パラメータとして指定した所定露光量を与える。具体的に例示すると、図7で説明した周囲1画素の範囲(距離「1」の画素)が「画像外近接画素」に相当しており、この周囲1画素に対して、パラメータとして指定した露光量を与える。ここで言う所定露光量は、目的の面取り量を実現する彫刻量となる露光量であり、キャップ急峻部22や台部18を削り出すための露光量よりも少量の露光量が設定される。
こうして、ON領域のエッジ部の露光量、並びに非画像部の露光量のデータを含んだ露光量データが生成され、この露光量データに基づいて彫刻型CTP描画部148(図5参照)による彫刻動作が制御される。
図5から図11で説明した信号処理は、ハードウエア及びソフトウエアの組み合わせによって実現することができる。例えば、図5で説明した画像処理回路146の機能をコンピュータによって実現することも可能である。この場合、画像処理回路146の処理機能(図6や図10で説明した処理機能を含む)をコンピュータによって実現するためのプログラムがコンピュータに組み込まれる。
<彫刻型CTP描画部の構成例>
本実施形態のセッター装置104は、例えば、2次元平面内において2400dpiの描画(加工)解像度を有するレーザ彫刻機が採用されている。つまり、セッター装置104は、2400dpiに対応する解像度の3D彫刻データと露光量データを生成する。この場合、版データ上の1画素は1辺が約10.6μmのセルとなる。
図12は、レーザ彫刻機によって版材上に照射されるレーザ光のビーム径と、2値画像データの画素の関係を例示した説明図である。レーザ光のビーム径Dは、当該レーザ彫刻機の描画解像度で規定される画素の1辺の長さ(例えば、ax=ay=10.6μm)よりも大きいものを用いることができる。一例として、レーザ彫刻機から版材上に照射されるレーザ光のビーム径Dはおよそ35μmである。2400dpiの場合、1画素の画素サイズは一辺が約10.6μmになる。つまり、描画彫刻に用いるレーザ光のビーム径Dは、1画素の範囲よりも大きく、図12のように、中心画素に隣接する周囲1画素分を含む範囲にわたって、レーザ光による露光が行われることになる。なお、図12の下段に示したように、ビーム径Dの範囲内においては、当該レーザ光のパワー分布は概ね一定なものである。
ビーム径と画素の大きさの関係は、上記に例示したものに限定されない。ビーム径は1画素の面積よりも大きいものを用いることができるが、ビーム径と1画素のサイズの大きさの関係に応じて、面取り用の露光量を付与する画像外近接画素の範囲が決定される。
<露光制御方法について>
次に、本実施形態によるレーザ露光制御の方法を説明する。図13では、平面視で矩形の網点凸部を形成する場合の光パワー制御の説明図である。ここでは、露光量データ上において中央の隣接4画素(Q1,Q2,Q3,Q4)を2値画像のON画素(黒画素)として矩形の凸点を形成する場合を例に説明する。
本例ではこの4画素からなる矩形凸点の全周にわたって隣接する1画素分の画像外エッジ範囲(図中符号180で示した淡いドットスクリーンで示した12画素からなる最隣接領域)について、相対的に少量の露光パワー(面取り加工に対応した微量の所定露光量)を与える。そして、この画像外エッジ範囲のさらにその外側の全周にわたって隣接する周囲1画素分の範囲(図中符号182で示した濃いドットスクリーンで示した20画素からなる隣接領域)について、相対的に光パワーを上げて彫刻を行う。
図14の(a)は、レーザビームの画素の露光量信号を示し、図14の(b)は、(a)に示した露光量信号にしたがって版材上に照射されるレーザビームの図13中A−A線に沿った断面の光パワーの積算エネルギーを示すグラフ、図14の(c)は版上に形成される凸点の図13中A−A線に沿った断面形状を模式的に示す図である。
図14の(a)に示すように、黒画素Q1,Q2,Q3,Q4に接する最近接エッジ領域(図13の符号180で示した周囲1画素範囲)について少量の露光量を与えることにより、頂面のエッジ部分に面取り形状を形成できる(図14の(c)参照)。彫刻用のレーザ光のビーム径は1画素よりも大きいことから、黒画素Q1,Q2,Q3,Q4の矩形領域の内側にもビーム径の範囲でレーザ光が照射される。このため、元々のON領域(矩形領域)の縁から内側の一部分も露光されて除去される。したがって、本来のON領域の面積よりも小さい頂部面積が実現される(図14の(c)参照)。
また、図13の符号182で示した画素領域について、相対的に大きな露光量で彫刻を行うことにより、キャップ急峻部22に相当する急峻な側面が形成される。さらに、図13において符号182で示した画素領域のさらに外側の符号184で示した周囲画素の範囲については、符号182の画素領域よりも相対的に光パワーの小さい露光量で彫刻が行われ、台部18に相当する部分が形成される(図14の(c)参照)。
<レーザ彫刻機の構成例>
次に、彫刻型CTP描画部148の一例として、マルチビーム走査露光方式のレーザ彫刻機を用いた製版装置の構成例について説明する。
図15は、本実施形態に用いられる製版装置200の構成を示す斜視図である。本例の製版装置200は、円筒形を有するドラム250の外周面にシート状の版材F(「記録プレート」とも言う。)を固定し、該ドラム250を図15中の矢印R方向(主走査方向)に回転させると共に、版材Fに向けてレーザ記録装置210の露光ヘッド230から、該版材Fに彫刻(記録)すべき画像の画像データに応じた複数のレーザビームを射出し、露光ヘッド230を主走査方向と直交する副走査方向(図15中の矢印S方向)に所定ピッチで走査させることで、版材Fの表面に2次元画像を高速で彫刻(記録)し、凸版印刷版を製版するものである。ここでは、フレキソ印刷用のゴム版又は樹脂版を彫刻する場合を例に説明する。
本例の製版装置200に用いられるレーザ記録装置210は、複数のレーザビームを生成する光源ユニット220と、光源ユニット220で生成された複数のレーザビームを版材Fに照射する露光ヘッド230と、露光ヘッド230を副走査方向に沿って移動させる露光ヘッド移動部240と、を含んで構成されている。なお、ドラム250の回転方向Rが主走査方向とされ、矢印Sで示すドラム50の軸方向(長手方向)に沿って露光ヘッド30が移動する方向が副走査方向とされる。
光源ユニット220は、複数の半導体レーザ221A、221B(ここでは合計64個)を備えており、各半導体レーザ221A、221Bの光は、それぞれ個別に光ファイバー222A、222B、270A、270Bを介して露光ヘッド230の光ファイバーアレイ部300へと伝送される。
本例では、半導体レーザ221A、221Bとしてブロードエリア半導体レーザ(波長:915nm)が用いられ、これら半導体レーザ221A、221Bはそれぞれ光源基板224A、224B上に並んで配置されている。各半導体レーザ221A、221Bは、それぞれ個別に光ファイバー222A、222Bの一端部にカップリングされ、光ファイバー222A、222Bの他端はそれぞれSC型光コネクタ225A、225Bのアダプタに接続されている。
SC型光コネクタ225A、225Bを支持するアダプタ基板223A、223Bは、光源基板224A、224Bの一方の端部に垂直に取り付けられている。また、光源基板224A、224Bの他方の端部には、半導体レーザ221A、221Bを駆動するLDドライバー回路(図15中不図示、図21の符号226)を搭載したLDドライバー基板227A、227Bが取り付けられている。各半導体レーザ221A、221Bは、それぞれ個別の配線部材229A、229Bを介して、対応するLDドライバー回路に接続されており、各々の半導体レーザ221A、221Bは個別に駆動制御される。
なお、本実施の形態では、レーザビームを高出力とするために、コア径の比較的大きな、多モード光ファイバーを光ファイバー270A、270Bに適用している。具体的には、本実施形態においては、コア径が105μmの光ファイバーが用いられている。また、半導体レーザ221A、221Bには、最大出力が10W程度のものを使用している。具体的には、例えば、JDSユニフェーズ社から販売されているコア径105μmで出力8.5W(6397−L3)のものなどを採用することができる。
一方、露光ヘッド230には、複数の半導体レーザ221A、221Bから射出された各レーザビームを取り纏めて射出するファイバーアレイ部300(図16参照)が備えられている。このファイバーアレイ部300には、各々アダプタ基板223A、223Bに接続されたSC型光コネクタ225A、225Bに接続された複数の光ファイバー270A、270Bによって、各半導体レーザ221A、221Bから射出されたレーザビームが伝送される。
また、露光ヘッド230内には、光ファイバーアレイ部300の光出射部側より、コリメータレンズ232、開口部材233、及び結像レンズ234が、順番に並んで配設されている。コリメータレンズ232と結像レンズ234の組み合わせによって結像光学系が構成されている。開口部材233は、光ファイバーアレイ部300側から見て、その開口がファーフィールド(Far Field)の位置となるように配置されている。これによって、光ファイバーアレイ部300から射出された全てのレーザビームに対して同等の光量制限効果を与えることができる。
露光ヘッド移動部240には、長手方向が副走査方向に沿うように配置されたボールネジ241及び2本のレール242が備えられており、ボールネジ241を回転駆動する副走査モータ(図15中不図示、図21の符号243)を作動させることによってボールネジ241上に配置された露光ヘッド230をレール242に案内された状態で副走査方向に移動させることができる。また、ドラム250は主走査モータ(図15中不図示、図21の符号251)を作動させることによって、図15の矢印R方向に回転駆動させることができ、これによって主走査がなされる。
図16は光ファイバーアレイ部300の構成図であり、図17はその光出射部280の拡大図(図15の矢印A方向から見た図)である。図17に示すように、ファイバーアレイ部300の光出射部280は、2枚の基台302A、302Bを有している。基台302A、302Bには各々片面に半導体レーザ221A、221Bと同数の、すなわち夫々32個のV字溝282A、282Bが所定の間隔で隣接するように形成されている。そして、基台302A、302Bは、V字溝282A、282Bが対向するように配置されている。
基台302Aの各V字溝282Aには、光ファイバー270Aの他端部の光ファイバー端部271Aが1本ずつ嵌め込まれている。同様に基台302Bの各V字溝282Bに各光ファイバー270Bの他端部の光ファイバー端部71Bが1本ずつ嵌め込まれている。したがって、ファイバーアレイ部300の光出射部280から、各半導体レーザ221A、221Bから射出された複数の、本実施形態では64本(32本×2)のレーザビームを同時に射出させることができる。
すなわち、本実施の形態のファイバーアレイ部300は、複数(本実施形態では32本×2=合計64個)の光ファイバー端部271A、272Bが所定方向に沿った直線状に配置されて構成された光ファイバー端部群301A、301Bが、上記所定方向と直交する方向に平行に2列設けられて構成されている。
そして、図15及び図17に示すように、本実施形態に係るレーザ記録装置210では、以上のように構成されたファイバーアレイ部300(露光ヘッド30)が、上記所定方向が副走査方向に対して傾斜された状態とされている。また、図17と図18とに示すように、ファイバーアレイ部300を主走査方向に見て、副走査方向に光ファイバー端部群301Aと光ファイバー端部群301Bとが重ならないで並ぶように配設されている。光ファイバー端部群301Aのファイバー配列(並び順)における端の(図18において左端の)光ファイバー端部271ATの次に、光ファイバー端部群301Bのファイバー配列における端の(図18において右端の)光ファイバー端部271BTが並ぶ構成とされている。なお、図18では判りやすくするため、光ファイバー端部271A,271Bの数を実際よりも少なく図示している。
図19は、光ファイバーアレイ部300の結像系の概要図である。図19に示すように、コリメータレンズ232及び結像レンズ234で構成される結像手段によって、レーザビームは版材Fの露光面(表面)FAの近傍に結像される。なお、図19においては、図15で説明した開口部材33は図示を省略した。
本実施形態では、結像位置(結像位置)Xは、露光面FA上に設定することが、細線再現性等の観点から望ましい。光ファイバー端部271A(光ファイバー端部群301A)から射出されたレーザビームがレーザビームLAとされ、光ファイバー端部272B(光ファイバー端部群301B)から射出されたレーザビームがレーザビームLBとされる。これらのレーザビームを、特に区別する必要がない場合は、単に「レーザビーム」、或いは「レーザ光」と記載する。
図19に示した光学系により、光ファイバーアレイ部300の光出射部280を所定の結像倍率で版材Fの露光面(表面)FAの近傍に結像させる。本実施形態では、結像倍率は1/3倍とされており、これにより、コア径105μmの光ファイバー端部271A、271Bから出射されたレーザビームのスポット径は概ねφ35μmとなる。
このような結像系を有する露光ヘッド230において、図17で説明した光ファイバーアレイ部300の隣接ファイバー間隔(図17中のL1)及び光ファイバーアレイ部300を固定するときの光ファイバー端部群301A、301Bの配列方向(アレイ方向)の傾斜角度(図18中の角度θ)を適宜設計することにより、図18に示すように、隣り合う位置に配置される光ファイバーから射出されるレーザビームで露光する走査線(主走査ライン)Kの間隔P1を10.58μm(副走査方向の解像度2400dpi相当)に設定することができる。
上記構成の露光ヘッド230を用いることにより、64ラインの範囲(1スワス分)を同時に走査して露光することができる。
図20は、図15に示した製版装置200における走査露光系の概要を示す平面図である。露光ヘッド230は、ピント位置変更機構260と、副走査方向への間欠送り機構290を備えている。
ピント位置変更機構260は、露光ヘッド230をドラム250面に対して前後移動させるモータ261とボールネジ262を有し、モータ261の制御により、レーザビームのピント位置を移動させることができる。間欠送り機構290は、図15で説明した露光ヘッド移動部240を構成するものであり、図20に示すように、ボールネジ241とこれを回転させる副走査モータ243を有する。露光ヘッド230は、ボールネジ241上のステージ244に固定されており、副走査モータ243の制御により、露光ヘッド230をドラム250の軸線252方向に、1スワス分(2400dpiの場合、10.58μm×64チャンネル=677.3μm)の間欠送りができる。
なお、図20において、符号246、247は、ボールネジ241を回動自在に支持するベアリングである。符号298はドラム250上で版材Fをチャックするチャック部材である。ドラム250の回転軸方向を長手方向とした帯状とされたチャック部材298によって、ドラム250の外周面に版材(記録プレート)Fが装着される。シート状の版材を用いる場合、版材Fの端部FT同士の合わせ部分の上を押さえるようにドラム250にチャック部材298を取り付けることで、版材Fがドラム250の外周面に装着される。このチャック部材298の部分は、露光ヘッド230による露光(記録)を行わない非記録領域となる。
ドラム250を回転させながら、この回転するドラム250上の版材Fに対し、露光ヘッド230から64チャンネルのレーザビームを照射することで、62チャンネル分(1スワス分)の露光範囲を隙間なく露光し、版材Fの表面に1スワス幅の彫刻(画像記録)を行う。そして、ドラム250の回転により、露光ヘッド230の前をチャック部材298が通過するときに(版材Fの非記録領域のところで)、副走査方向に間欠送りを行い、次の1スワス分を露光する。このような副走査方向の間欠送りによる露光走査を繰り返すことにより、版材Fの全面に所望の画像を形成する。
本例では、シート状の版材F(記録媒体)を用いているが、円筒状記録媒体(スリーブタイプ)を用いることも可能である。
<制御系の構成>
次に、本実施形態に係る製版装置200の制御系の構成について説明する。
図21は、製版装置200の制御系の構成を示すブロック図である。図21に示すように、製版装置200は、彫刻すべき2次元の画像データに応じて各半導体レーザ221A、221Bを駆動するLDドライバー回路226と、ドラム250を回転させる主走査モータ51と、主走査モータ251を駆動する主走査モータ駆動回路331と、副走査モータ243を駆動する副走査モータ駆動回路333と、制御回路330と、を備えている。制御回路330は、LDドライバー回路226、及び各モータ駆動回路(281、282)を制御する。
制御回路330には、版材Fに彫刻(記録)する画像を示す画像データが供給される。制御回路330は、この画像データに基づき、主走査モータ251及び副走査モータ243の駆動を制御すると共に、各半導体レーザ221A、221Bについて個別にその出力(オン・オフの制御並びにレーザビームのパワー制御)を制御する。
図22は、製版装置200によって画像記録(フレキソ印刷版の製版)を行う際の処理の流れを示すフローチャートである。図22に示すように、まず、版材Fに彫刻(記録)する画像の画像データを時的に記憶する不図示の画像メモリから制御回路330に転送する(ステップS110)。制御回路330は、転送されてきた画像データ、及び記録画像の予め定められた解像度を示す解像度データ、浅彫り及び深彫り等を示すデータに基づいて、調整された信号をLDドライバー回路226、主走査モータ駆動回路331、副走査モータ駆動回路333に供給する。
次に、主走査モータ駆動回路331は、制御回路330から供給された信号に基づいて回転速度でドラム250を回転させるように主走査モータ251を制御する(ステップS112)。副走査モータ駆動回路333は、副走査モータ243による露光ヘッド230の副走査方向に対する送り間隔を設定する(ステップS114)。
次いで、LDドライバー回路226は、画像データに応じて各半導体レーザ221A、221Bの駆動を制御する(ステップS116)。
各半導体レーザ221A,221Bから射出されたレーザビームLA,LBは、図15で説明したように、光ファイバー222A,222B、SC型光コネクタ225A、225B、及び光ファイバー270A、70Bを介してファイバーアレイ部300の光ファイバー端部271A,271Bから射出される。ファイバーアレイ部300から射出された光は、コリメータレンズ232によって略平行光束とされた後、開口部材233によって光量が制限され、結像レンズ34を介してドラム50上の版材Fの露光面FAの近傍(結像面XとFAが一致してもよい)に結像される(集光される)。
この場合、版材Fには、各半導体レーザ21から射出されたレーザビームLA,LBに応じてビームスポットが形成される。これらのビームスポットにより、露光ヘッド230が前述したステップS114で設定された送り間隔のピッチで副走査方向に送られると共に、前述したステップS112により開始されたドラム250の回転によって、解像度が解像度データによって示される解像度となる2次元画像が、版材F上に彫刻(形成)される(ステップS118)。
なお、版材F上への2次元画像の彫刻(記録)が終了すると、主走査モータ駆動回路331は主走査モータ251の回転駆動を停止し(ステップS120)、その後に本処理を終了する。
<彫刻領域におけるビーム制御>
次に、マルチビーム露光系によって印刷版を製造する際の露光走査工程について説明する。図23は、本例の製版装置200による多重露光彫刻プロセスの説明図である。本例の製版装置200は、版材Fの表面に残すべき平面形状(印刷面の形状)に対し、その近接周辺部分(周囲領域)を精密彫刻領域とし、さらにその外側の周辺部分を粗彫刻領域とする。
本実施形態においては、各副走査位置で露光ヘッド230を移動させずに、4回ずつ主走査(露光走査)を行う。また、精密彫刻領域は走査線間隔の2倍の間隔のビームを用いてインターレース露光し、粗彫刻領域は全ビームを用いて同時に露光する。
図23は、同一副走査位置における1〜4回目の露光走査について示した図である。図23の(a)は彫刻された版材Fの断面を示しており、図23の(b)は、各走査線4110A〜410Hに対して照射されるレーザビーム400A〜400Hの露光制御を示している。ここでは、説明のためレーザビームの数を減じて示しており、また、版材Fに対して各レーザビーム400A〜400Hが相対的に図の上方向に主走査される形態で例示している。
なお、版材Fの断面は、厳密にはレーザビーム400A〜400Dのどの走査線における断面かによって彫刻深さの程度が異なってくるが、ここでは各走査線における断面の平均的な彫刻深さを示すものとする。
当該副走査位置における1回目の主走査は、粗彫刻領域に対してレーザビーム400A〜400Hの全てを用いてノンインターレース露光を行い、各走査線410A〜410Hを彫刻する。斜め方向に配列された複数のビームにより露光すると、先に走査したビームの熱により、次に走査されるビームによる彫刻の深さの比率が大きくなる。したがって、このように彫刻することで、近接ビームの熱の流入を促進し、彫刻効率の向上を図ることができる。
また、粗彫刻領域において、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム400A〜400Hの出力を線形に下げるように制御することにより、精密彫刻領域への熱の流入による不必要な彫刻を防止している。
さらに、精密彫刻領域においては、隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群を用いてインターレース露光することで、1列おきの走査線を彫刻する。主走査方向に直交する方向(副走査方向)に同時に射出されるレーザビームは相互の熱の干渉を受けないため、このように制御することで、精密彫刻領域においてインターレース露光した走査線だけを精密に彫刻することができる。
また、精密彫刻領域においても、印刷面に近づくほどレーザビームの出力を線形に下げるように制御する。このように制御することにより、印刷面への熱の流入による不必要な彫刻を防止する。
2回目の主走査は、粗彫刻領域においてはレーザビーム400A〜400Hの全てを用いてノンインターレース露光を行い、近接ビームの熱の流入を促進して彫刻効率の向上を図りながら、走査線410A〜410Hを彫刻する。また、1回目の主走査と同様に、精密彫刻領域に近づくほどレーザビーム400A〜400Hの出力を線形に下げるように制御する。
さらに、精密彫刻領域においては、隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群であって、1回目に使用されていなかったビーム群を用いてインターレース露光することで、1回目に彫刻されていない走査線を彫刻する。精密彫刻領域においても、印刷面に近づくほどレーザビームの出力を線形に下げるように制御する。このように制御することにより、印刷面への熱の流入による不必要な彫刻を防止する。
3回目の主走査は、粗彫刻領域においては1回目、2回目と同様にレーザビーム400A〜400Hによりノンインターレース露光を行い、走査線110A〜110Hを彫刻する。また、精密彫刻領域においては、隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群を用いてインターレース露光(重ね露光)をすることで、1列おきの走査線を彫刻する。ここでは1回目の露光走査と同じ第1のビーム群を用いて露光走査する。
その結果、粗彫刻領域は2回目の断面よりもさらに深く彫刻され、精密彫刻領域は第1のビーム群で走査した走査線が、深く彫刻される。
同様に、4回目の主走査は、粗彫刻領域においてはレーザビーム400A〜400Hにより4回目のノンインターレース露光を行い、走査線410A〜410Hを彫刻する。また、精密彫刻領域においては、隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群であって、3回目に使用されていなかったビーム群を用いてインターレース露光(重ね露光)することで、3回目に彫刻されていない走査線を彫刻する。2回目の主走査と同じ第2のビーム群だけを用いて露光走査する。
その結果、粗彫刻領域は3回目の断面よりもさらに深く彫刻され、精密彫刻領域に近づくにつれて彫刻深さが浅くなっている。また、精密彫刻領域は、3回目の主走査及び4回目の主走査により副走査位置の全ての走査線が均等に彫刻される。さらに精密彫刻領域は、最終的には印刷面に対して急峻なキャップ急峻部が形成されるように彫刻される。
このようにドラム250の4回転で1スワス分の彫刻を完成させた後、非記録領域たるチャック部材298が露光ヘッド230の前を横切るときに、露光ヘッド230を副走査方向に間欠送りし、隣接する次の1スワス分の彫刻を行う位置に移動させる。そして、当該位置において、露光走査を同様に行う。以後、上記の工程を繰り返し、版材F上の全面を露光する。
以上のように、最終的に凸平面部として残す表面形状に対し、その周辺部(精密彫刻領域)においては隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群を用い、複数回の走査により露光する走査線を異ならせて露光済み走査線の間の未露光走査線を順次露光する。
このようなインターレース露光を4回繰り返し行うことで、目的の平面形状とその周囲の傾斜部の形状を適切に彫刻することができる。また、重ね露光を繰り返すことで、近接ビームの熱の影響や、ドラム回転時の主走査方向と副走査方向の振動、露光ヘッドの位置静定精度や副走査の送り精度、アレイの副走査方向のピッチ間隔誤差に伴う誤差などによる周期ムラ、振動ムラの低減が可能となる。
さらにその周辺部(粗密彫刻領域)においては全ての段の出射口列から同時にビームを射出することで近接ビームの熱の流入を促進させることにより彫刻効率を向上させることができる。
なお、上述の説明では、精密彫刻領域に対しては、隣接ビームの間隔を走査線間隔の2倍とするビーム群を用いたインターレース露光を4回繰り返し行うことで各走査線を2回ずつ露光し、粗彫刻領域に対しては、隣接ビームの間隔を走査線間隔と同じとするビーム群を用いてノンインターレース露光を4回行ったが、これらの数値は適宜決めることができる。すなわち、精密彫刻領域に対しては、隣接ビームの間隔を走査線間隔のN倍(Nは2以上の整数)とするビーム群を用いたインターレース露光をN×m回(mは2以上の整数)繰り返し行うことで各走査線をm回ずつ露光し、粗彫刻領域に対しては、隣接ビームの間隔を走査線間隔と等しいビーム群を用いたノンインターレース露光をN×m回行うように構成すればよい。このNとmは、それぞれ2以上の整数であれば、所望の数字を適宜組み合わせることができる。
<マルチビームによる微細加工方式の具体例>
図24は、精密彫刻領域(「微細彫刻エリア」とも言う。)について4ライン置きに露光する例を示したものである。図24は横方向が主走査方向であり、ドラムの回転に伴い、レーザ光が図24の左から右に向かって相対的に移動するものとなる。
図24において、中央の黒塗りで示した画素が2値網点画像データにおける黒画素(画像領域)である。この画像領域に接する外側周囲1画素の範囲(図24において白抜きで示した画素)の範囲が画像外エッジの領域である。当該画像外エッジの画素に対して面取り用露光量が与えられる。
版表面は精密彫刻領域と粗彫刻領域(「粗彫刻エリア」とも言う。)に分けられる。精密彫刻領域は、画像領域に近接する周囲数画素の範囲として設定される。精密彫刻領域は、隣接するビームを同時に点灯しないインターレース測光が行われる領域である。図24の例では、4ライン置きに露光する(点灯させるビーム本数を1/4に間引いて露光する)。
粗彫刻領域は、隣接するビームを同時に点灯して彫刻効率を高める。図24において「A」の符号が付された画素領域が「粗彫刻領域」である。当該粗彫刻領域内の画素については、1回目から5回目までの各回全てで露光が行われる。図24において「1」〜「4」の符号が付された画素の領域が「精密彫刻領域」である。図24において、「1」が付された画素については、2回目の走査時のみ露光が行われる。同様に、「2」が付された画素は3回目のみ露光され、「3」が付された画素は4回目のみ露光され、「4」が付された画素は5回目のみ露光される。
画像外エッジの画素(図24において白抜き□で示した画素)に対しては、同走査線上の画素の露光時に、微量の露光パワー(面取り用露光量)が与えられる。
このようなマルチビームインターレース露光走査を採用することにより、高精度の微細彫刻が可能である。
<第2実施形態>
図25は本発明の第2実施形態に係るフレキソ印刷版の版上に形成されるレリーフ(浮き彫りとして形成される凸部分)のイメージを模式的に表した要部斜視図である。図26は、その縦断面図である。図25及ぶ図26に示す第2実施形態において、図1〜図4で説明した第1実施形態の構成と同一又は類似の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
第2実施形態によるフレキソ印刷版の版上には浮き彫りの凸部分として、図25及び図26に示すような3次元形状を有するレリーフ12が形成される。すなわち、第2実施形態によるレリーフ12の頂面14には、不規則な位置に、不規則な大きさ/深さの窪み15が複数形成されている。窪み15の深さは、0μmより大きく20μm以下の範囲であることが好ましい。また、これらランダムに形成される複数の窪み15の深さの平均は、概ね10μm程度であることが好ましい。レリーフ頂面14にランダムな窪み15を複数形成することにより、印刷物における濃度ムラを防止できる。
頂面14にランダムな凹凸を彫刻するための手段として、例えば、図27に示すような構成を採用することができる。図27は、図5で説明した露光量変換部144として適用されるものであり、図10で説明した構成に代えて、図27の構成を採用し得る。
なお、図27中、図10と同一又は類似する要素には同一の符号を付し、その説明や省略する。図27では、図示を簡略化するために、図10で説明した面取り用露光パラメータ保持部166及び入力装置168の図示を省略したが、図27の例においてもこれら要素を具備している。
図27に示す露光量変換部144は、2次元の乱数テーブル170と、当該テーブルに基づいて画像領域の各画素にランダム露光量を与えるランダム露光量データ生成部172と、を備えている。
例えば、512×512画素程度の2次元の乱数表をテーブルとしてメモリ等の記憶部に保持する。乱数の値に対応した深さが計算される。深さ範囲は0〜20μmの範囲であることが好ましく、平均が10μm程度であることが望ましい。
さらに、露光量と彫刻深さの関係テーブルを参照し、乱数から計算された深さの値を露光量のデータに変換し、これを2次元テーブル(例えば、512×512画素程度のサイズ)として保持する。
ランダム露光量データ生成部172では、画像領域(2値画像データ内のON画素)の各画素の座標(x,y)に対応して、2次元乱数テーブル170を参照して露光量を与える。乱数表のテーブルサイズが512×512画素の場合、座標(x、y)に対応して、512の剰余で当該乱数表を参照する。つまり、512×512画素のテーブルを繰り返して適用する。
これにより、画像領域の各画素に対し、2次元乱数テーブル170に従い、ランダムな露光量が付与される。当該ランダム露光量にしたがって画像領域内の画素に対して微量な露光パワーが与えられ、頂面14における不規則な位置に不規則な大きさ、深さの窪み15が形成される。なお、ここで付与されるランダムな露光量は、エッジ部の面取り用の露光量よりも少ない露光量であることが好ましい。
ランダムパターンは、ブルーノイズに基づくものであることが好ましい。ブルーノイズ特性を持つランダムパターンで頂面に窪み15を形成することにより、ムラの視認性を低減することができる。
第2実施形態で説明したとおり、レリーフ頂面にランダムな凹凸(窪み15)を形成したことにより、網点とのビートを抑えた、ムラの少ない滑らかな階調を得ることができる。また、被印刷体(印刷メディア)の凹凸によるムラを抑えることができる。
このような頂面の窪み15は、ベタ部に設けることも有効である。ベタ部の頂面にランダムな窪み15を形成することで、ベタ部のかくれを防止することができると共に、マージナルを低減することができる。このようにランダムな凹凸を彫刻するには、必ずしも高精細なビームでなくてもよい。
なお、版上におけるベタ部の印刷面は網点凸部の頂面14と同様に、非露光領域として構成され、網点凸部の頂面14と同じ高さに形成される。
<フレキソ印刷の印刷プロセスについて>
第1実施形態又は第2実施形態で説明したフレキソ印刷版は、フレキソ印刷機に装着され、印刷に使用される。図28はフレキソ印刷機の要部構成図である。図28に示したように、フレキソ印刷機440は、主としてフレキソ印刷版(樹脂製のシート上に網点となるレリーフが形成された凸版)442と、このフレキソ印刷版442が両面テープ等のクッションテープ444を介して取り付けられる版胴446と、ドクターチャンバ448によりインキが供給されるアニロックスローラ450と、圧胴452とから構成される。
フレキソ印刷版442として、第1実施形態や第2実施形態で説明したレリーフ形状を有する凸版印刷版(フレキソ印刷版10)が適用される。フレキソ印刷版442の各レリーフの頂部(印刷面)には、アニロックスローラ450によりインキが転写され、このインキは、フレキソ印刷版442が取り付けられた版胴446と圧胴452との間で挟持されて搬送される被印刷体454に転写される。このようにして印刷物が得られる。
<印刷物の画質評価結果>
図29は、平網50%の印刷結果のL*(明るさ)の印圧変動を示すグラフである。横軸は印圧を表しており、ここでは押し込み量をμm単位で示している。縦軸はL*を示している。印刷物としては、L*が大きく(明るく)、印圧に対してなるべく変化が少なもの(一定に近いもの)であることが望ましい。
図29では、レリーフの傾斜角が45°のもの(エッジ部の面取り無し)、傾斜角が60°のもの(エッジ部の面取り無し)、傾斜角が75°のもの(エッジ部の面取り無し)、エッジ部を面取りしたもの(傾斜角60°)、頂面を表面加工(規則的な線による凹凸を形成したもの)、頂面を表面加工(ランダムノイズによるランダム露光による窪みを形成したもの)の各印刷版による印刷物の画質を評価した。
図29に示すように、エッジ部を面取りしたものがドットゲインの軽減に効果が高いことが解る。
図30は、平網50%の印刷結果についての粒状性の印圧変動を示すグラフである。ここでは、L*粒状度を指標としているが、画質の評価に関しては、L*粒状度に限らず、他の指標(例えば、濃度など)を用いても良い。
L*粒状度は、次式により定義される。
印刷物としては、L*粒状度が小さく、印圧に対してなるべく変化が少なもの(一定に近いもの)であることが望ましい。図30に示すように、頂面に凹凸を形成したものがムラや粒状性に対して効果が高いことが解る。
図29及び図30の結果から、キャップ部のエッジを面取りし、さらに頂面にランダムな窪みを形成する態様が特に好ましいものであることが解る。
<変形例>
上述した実施形態では、ビーム径と1画素の大きさとの関係から、画素値が「1」(ON)の黒画素に隣接する周囲1画素の範囲に面取り用の微小露光量を与える構成を採用したが、本発明の実施に際しては本例に限定されない。
例えば、ビーム径が1画素に比べて大きい場合、黒画素に隣接する白画素のさらに外側の周囲画素(最も近いON画素までの距離が「2」画素となる画素)を「画像外近接画素」とし、黒画素に隣接しない周囲画素について、面取り用の露光量を与えても良い。
画像外近接画素に与える面取り用の露光量データにしたがってレーザ光が照射されることにより、元の2値画像における黒画素の領域(ON領域)の内側にレーザ光が照射される。この面取り露光によって本来の黒画素の領域から削られることになる範囲は1画素未満の範囲であることが好ましい。
<小点のレリーフ形状について>
<<課題>>
フレキソ印刷の場合、通常、中間調網%のドットなどでは、キャップ部の頂面は印圧によって40μm程度まで押し込まれる。しかし、ドットの直径として35μm程度のものが求められる小点の場合、レリーフが細いために印圧によってさらに押し込まれてしまう。つまり、小点の場合、印圧に対してキャップ部の頂面が押し込まれる量がより大きくなる。そして、そのときに台部に付着した余分のインキが印刷紙に転写されてしまい、汚れなどの原因になる。
<<解決手段>>
このような問題を解決するために、小点のレリーフにかかる印圧を中間調網%のドットの場合よりも軽減させる必要がある。そこで、小点用レリーフについて、キャップ部の急峻部(キャップ急峻部)をさらに深く彫刻する構成を採用する。
図31にその例を示す。図31は、直径35μm程度の小点用の凸部(レリーフ)形状を示す縦断面図である。図31において、図1及び図2で説明した構成と同一又は類似する要素には同一の符号を付した。図31に示す小点用のレリーフ512は、キャップ部16と台部18を有する。キャップ急峻部22を支える台部18の側面の勾配(傾斜角度x)は50度以上70以下の範囲で形成される。キャップ急峻部22の側面の勾配(傾斜角度z)は、台部18の勾配(傾斜角度x)よりも大きく、例えば、75度以上85度以下の範囲で形成される。
キャップ部16の急峻部(キャップ急峻部22)は、当該レリーフ512が形成される凸版印刷版の版上における最も高いレリーフ(不図示)の頂面を基準として、100μm程度の深さ(符号hc)まで彫刻される。版上における「最も高いレリーフの頂面」としては、ベタ濃度のレリーフがある。
図31では、最も高いレリーフの頂面(基準面)の位置(高さ)を符号Sで表し、キャップ急峻部22と台部18との境界(急峻部22の最下端)の位置を符号Bで表した。基準面Sからキャップ急峻部22の最下端Bまでの深さhcが100μm程度に形成される。
ここでいう深さhcが100μm程度とは、100μsをおよその目安とし、その前後に適当な許容範囲があることを意味している。深さhcの目安及び許容範囲については、台部18に付着した余分のインキが印刷紙に転写されないという作用効果が得られる範囲で適宜定められる。例えば、印圧による押し込み量が40μmである場合に、その押し込み量の2倍以上の値が好ましい深さhcであるとすると、深さhcは80μm以上にする構成が好ましい。深さhcが深いほど汚れ防止効果は高くなる。ただし、過剰に深く掘り下げ過ぎると、レリーフの形状安定性や倒れ等の問題も生じ得るため、そのような問題が生じない範囲で深さhcの上限値が規定される。
印圧によって押し込まれる部分(符号M)は、基準面Sから深さ方向に40μm程度の範囲であるため、この印圧による押し込み量(40μm程度)に対応して、キャップ急峻部22の基準面Sから40μm程度の深さ位置における太さ(外径)Gが35μm程度(ドットの直径程度)に形成される。
また、小点でのドットの太りを抑えるために、キャップ部16の頂面14を「最も高いレリーフの頂面」(基準面S)の高さよりも低く形成する低層化部514を設けてもよい。低層化部514は、最も高いレリーフの頂面(基準面S)を基準として、所定の深さ(低層化量bs)まで彫刻した部分を指す。低層化量bcは20〜30μm程度であることが好ましい。このような構成によって、キャップ部16の頂面14にかかる印圧がさらに抑えられ、ドットの太りを抑制することができる。
図31で説明したように、小点用のレリーフに関して、キャップ部16を基準面Sから100μm程度まで深く掘り下げる構成としたことにより、基準面Sから台部18までの十分な距離が確保され、印圧による押し込み量を考慮しても、台部18に付着した余分のインキが印刷紙に転写されなくなり、汚れを防止することができる。
なお、図31ではキャップ部16の頂面14を平坦面に描き、キャップ面取り部20は丸みを帯びた曲面として描いたが、頂面14自体が丸みを帯びた曲面として構成される形態も可能であり、頂面とキャップ面取り部とが一体的に滑らかな曲面を構成する形態も可能である。
<他の応用例>
上記の説明ではフレキソ印刷を例に説明したが、本発明は、樹脂やゴムなど弾力性のある版材を使った凸版印刷に広く適用することができる。
本発明の適用範囲は、上記説明した実施形態には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有するものにより、多くの変形が可能である。