JP2013001929A - 被削性に優れた高周波焼入れ用鋼、及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の高周波焼入れ用鋼は、C:0.40〜0.65%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、Si:0.010〜0.50%、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.002〜0.10%、Cr:0.010〜0.3%、Al:0.06〜0.50%、B:0.0050〜0.010%、N:0.01〜0.030%を含有し、残部は鉄及び不可避的不純物からなると共に、窒化物を0.010%以上有し、且つ、鋼の金属組織が、パーライト、及びベイナイトを有し、更にフェライトを有していてもよく、全組織に対するパーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1面積%以下(0%を含む)、ベイナイトは20〜50面積%である。
【選択図】図1
Description
上記したようにベイナイトとパーライトは鋼の内部の高硬度化、及び疲労特性向上に寄与する金属組織である。したがって鋼の金属組織を実質的にパーライト、及びベイナイトの混合組織とすることによって、強度を向上させることができる。もっとも上記したように単にパーライトやベイナイトを含む金属組織とするだけでは所望の強度と被削性のバランスが得られないことから、以下で詳述する様に、各組織の面積率、並びに窒化物の導入、及び成分組成等も満足する必要がある。
上記したように本発明の鋼の内部強度は、パーライトとベイナイトの混合組織とすることによって発現するものである。このような効果を得るためには、全組織に対するパーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上、好ましくは97面積%以上、より好ましくは99面積%以上である。なお、パーライト、及びベイナイト以外の金属組織には、例えば製造上不可避的に生成し得るフェライト、マルテンサイトや残留オーステナイトなどが含まれるが、これら組織の面積率が高くなると加工硬化によって被削性が劣化することがあるため、全く含まれていなくてもよい。したがって全組織に対するパーライト、及びベイナイトの合計面積率は更に好ましくは100面積%である。
ベイナイトは、パーライトよりも硬質相であるため、高周波焼入れ処理後の部品強度、及び疲労特性の向上に寄与する組織である。このような作用を得るためには、全組織に対するベイナイトの面積率は20面積%以上、好ましくは22.5面積%以上、より好ましくは25面積%以上である。一方、全組織に占めるベイナイトの面積率が高くなりすぎると、部品強度は向上するものの、被削性が低下する。したがってベイナイトの面積率の上限は全組織に対して50面積%以下、好ましくは45面積%以下、より好ましくは40面積%以下である。
フェライトは、パーライトやベイナイトと比較して軟質相であるため、切削加工時に変形応力が加わると硬質相の緩衝材として作用して鋼材の加工硬化を助長させる。そのため、加工硬化を抑制する観点からはフェライトはできるだけ少ない方が望ましく、1面積%以下とする。なお、残部組織は主にパーライトであるが、不可避的に生成することがあるマルテンサイトや残留オーステナイトなどを含むことがある。
Cは、強度を確保するために必要な元素であり、0.40%以上含有させることによって、部品として必要な強度(高周波焼入れ後の鋼表面と内部の硬度、及び疲労特性)を確保できる。Cは、好ましくは0.43%以上、より好ましくは0.45%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性や靱性が劣化する。従ってC量は0.65%以下とする。C量は、好ましくは0.62%以下であり、より好ましくは0.60%以下である。
Siは、脱酸元素として作用し、鋼の内部品質を向上させるのに必要な元素である。Siが少なすぎると、脱酸が不十分となり、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。したがってSiは、0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかしSi量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性が劣化する。したがってSiは、0.50%以下、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.40%以下とする。
Mnは、焼入れ性を向上させて鋼の強度を向上させるのに必要な元素である。またMnはA3温度を低下させるため、フェライトの生成抑制に有効な元素である。このような効果を得るためにはMnは1.0%以上、好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.4%以上とする。しかしMnが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎて過剰にベイナイトが生成したり、マルテンサイトが生成し易くなり、被削性が低下する。従ってMnは、2.0%以下、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下とする。
Pは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であり、P量が過剰になると加工時に割れが発生するのを助長するので、できるだけ低減する必要がある。従ってPは、0.03%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下とする。なお、P量を0%とすることは工業的に困難である。
Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物であるが、鋼中のMnと結合してMnS介在物を形成し、鋼の被削性を向上させるのに有効に作用する元素であり、0.002%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.008%以上とする。しかしS量が過剰になると、MnS系介在物量が増大し、この介在物が加工時(例えば、熱間圧延や熱間鍛造など)に加工方向に伸展するため、加工方向に直角な方向の靱性(横目靱性)が劣化する原因となる。従ってS量は0.10%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
Crは、鋼の焼入れ性を高め、強度を向上させるために有効に作用する元素である。また、Alとの複合添加によって、鋼の被削性(特に、断続切削性)を高めるのにも有効に作用する元素である。こうした効果を発揮させるには、Crは0.010%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cr量が過剰になると、粗大な炭化物が生成するか、或いは過冷組織が過剰に生成して被削性を却って劣化させるので、Cr量は0.3%以下、好ましくは0.27%以下、より好ましくは0.25%以下である。
Alは、鋼中に固溶状態で存在させることによって断続切削したときの被削性を向上させる(工具表面の酸化摩耗を抑制する)ために必要な元素である。また、AlはNと結合してAlNを析出し、加工時に結晶粒が異常成長して強度が低下するのを防止する元素である。また、Alは、脱酸剤としても作用する。こうした効果を発揮させるためには、Alは、0.06%以上、好ましくは0.08%以上、より好ましくは0.10%以上とする。しかしAlが過剰になると、AlNが多量に析出して加工性を低下させる。従ってAlは0.50%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下とする。
Bは、フェライトの生成を抑制する効果を有する重要な元素である。こうした効果を発揮させるには、Bは、0.0050%以上、好ましくは0.0055%以上、より好ましくは0.0060%以上とする。しかしBが過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて被削性が却って劣化する。従ってBは0.010%以下、好ましくは0.0095%以下、より好ましくは0.0090%以下とする。
Nは、AlNを析出して加工時に結晶粒が異常成長して強度が低下するのを防止する他、BNを析出して被削性を向上させるのに寄与する元素である。また後記する窒化物生成に必須の元素である。こうした効果を発揮させるには、Nは0.010%以上、好ましくは0.012%以上、より好ましくは0.014%以上とする。しかしNが過剰になると、固溶N量が増加して動的ひずみ時効が生じ、鋼材の加工硬化が進行して被削性が劣化する。従ってNは、0.030%以下、好ましくは0.028%以下、より好ましくは0.026%以下とする。
Moは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れされていない組織が生成するのを抑制するのに作用する元素である。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.06%以上、更に好ましくは0.08%以上である。しかしMoを過剰に含有すると、過冷組織が過剰に生成して被削性が低下するため、1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.8%以下であり、更に好ましくは0.5%以下である。
Ti、Nb、Vは、熱間加工時に結晶粒が異常成長するのを防止し、鋼の靭性や疲労特性が低下するのを防止する作用を有する元素である。また連続切削時の切り屑分断性にも有効に作用する元素である。こうした作用は、少なくとも任意の1種以上を含有することによって発揮され、その含有量が増加するにつれて増大するが、Ti、Nb、Vは夫々好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上含有することが望ましい。しかし、これらの元素を過剰に含有すると、硬質の炭化物が多量に生成して鋼の被削性が低下するので、Ti、Nb、Vは夫々、0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.10%以下である。なお、Ti、Nb、およびVは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
Cu、およびNiは、焼入れ性を向上させて強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした作用は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるには、Cu、Niは夫々好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.10%以上である。しかし過剰に含有させると過冷組織が過剰に生成し、延性や靭性が低下するので、Cu、Niは夫々3%以下とすることが好ましい。より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、Cu、およびNiは、夫々、単独で含有させてもよいし、両方を含有させてもよく、また両方を含有させる場合の含有量は夫々上記範囲で任意の含有量でよい。
Ca、Mg、Li、及びREMは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、被削性を向上させるのに有効な元素である。こうした作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるためには、CaとMgは夫々好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上、LiとREMは夫々好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0002%以上である。しかし過剰に含有させてもその効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できないので、CaとMgは夫々好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.0040%以下、更に好ましくは0.0030%以下、LiとREMは夫々好ましくは0.001%以下(REMは0.0010%以下)、より好ましくは0.0008%以下、更に好ましくは0.0005%以下である。なお、Ca、Mg、Li、およびREMは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。REMとは、ランタノイド元素(LaからLuまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味であり、これらの中から任意に選ばれる1種または2種以上を含有してもよい。
上記成分組成に加えて、本発明の鋼は窒化物を0.010%以上含有するものである。窒化物含有量が増えると、切削した鋼が工具刃先で加工硬化する前に分断されるため、切削エネルギーを小さくできる。また窒化物は鋼を脆化するためフェライト面積率が低くても被削性が向上する。
ビレットの端部を切断し、ダミービレット(155mm角×長さ:9〜10m)を溶接した(2本作成した(A−1、A−2))。
B−1(1本目):上記ビレット(155mm角)を1200℃に加熱した後、熱間鍛造してφ45mmの丸棒とした後、室温まで空冷した。得られたB−1鋼は熱間鍛造に供した。
上記各試験片について、下記に示す手順で金属組織、及び金属組織の面積割合を測定した。
各試験片を、長手方向に対して垂直に切断し、D/4位置(Dは板厚)を3%ナイタール液で腐食し、光学顕微鏡(観察倍率400倍)で観察・画像(写真)撮影した。任意の10箇所で撮影した画像(全10枚)のうち、任意の100箇所について画像分析し、各箇所のフェライト、パーライト、ベイナイト、及びその他(マルテンサイトや残留オーステナイト等)の組織の面積率を測定し、その平均値を求めた。参考のため図1(a)(No.1A)、及び図1(b)(No.1G−17)を示す。図1(a)に示すように組織内が白く、濃淡のない領域はベイナイトであり、それ以外の濃淡のある部分が分散して混在している暗いコントラストの領域はパーライトである。また図1(b)に示すように暗いコントラストの領域のうち、白い部分が針状に混在している領域はベイナイトであり、黒い部分はパーライトであり、その他の白い部分の針状の領域がマルテンサイト等である。各組織の面積率を下記に示す。
試験片にX線を照射して窒化物の有無を確認した後、抽出残渣法で窒化物を分離抽出して、窒化物量を算出した。
(断続切削性)
上記試験片を切削加工して、長さ:150mm×幅:100mm×厚み:10mmの板材(試験片)に仕上げた。この板材の被削性を評価するために、ホブ切削試験を行い、板材を断続切削したときの工具摩耗量を測定した。切削工具としてTiAlNコーティングハイスホブ(すくい面コーティングなし)を用いて以下の切削条件で断続切削を行った。
切削条件
切り込み量:1.0mm
送り速度:42mm/s
切削速度:165m/min
切削雰囲気:乾式
切削長:150mm/カット
上記試験片を以下の切削条件で3000mm長手方向旋削(連続切削)した後、逃げ面摩耗量を測定した。
切削条件
切削工具:P10
切削速度:200m/min
切り込み量:1.5m
送り量:0.25mm
切削油:なし
上記試験片の中央位置付近からJIS Z2274に基づいて1号疲労試験片(標点間部の直径:φ6mm)を採取し、疲労試験片に高周波焼入れ処理(加熱温度:850℃、冷却条件:水冷)を施して強度試験片を得た。この強度試験片を用いて以下の条件でビッカース硬さ、及び疲労特性の評価を行った。
上記強度試験片の標点間中央で垂直に切断し、横断面が測定面となるように冷間樹脂に埋め込んだ。硬度試験片の横断面を鏡面状態に研磨して仕上げた後、ビッカース硬さ試験機を用いて測定した。
上記強度試験片の疲労特性を回転曲げ試験機を用いて回転曲げ疲労特性の評価を行った。具体的には周波数20Hz、負荷応力を700MPa〜100MPaの間で変化させ、107回寿命に相当する応力(MPa)を求めて、この値を疲労特性の指標とした。本実施例では、疲労限応力が220MPa以上を合格(高強度)、220MPa未満を不合格(強度不足)と判定した。
Claims (6)
- C:0.40〜0.65%(質量%の意味、化学成分について以下同じ)、
Si:0.010〜0.50%、
Mn:1.0〜2.0%、
P:0.03%以下(0%を含まない)、
S:0.002〜0.10%、
Cr:0.010〜0.3%、
Al:0.06〜0.50%、
B:0.0050〜0.010%、
N:0.010〜0.030%、
を含有し、残部は鉄、及び不可避的不純物からなると共に、窒化物を0.010%以上有し、且つ、
鋼の金属組織が、パーライト、およびベイナイトを有し、更にフェライトを有していてもよく、全組織に対するパーライト、及びベイナイトの合計面積率は95面積%以上であって、且つ全組織に対するフェライト、及びベイナイトの各面積率は、フェライトは1面積%以下(0面積%を含む)、ベイナイトは20〜50面積%であることを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Mo:1.0%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、及びV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ca:0.005%以下(0%を含まない)、
Mg:0.005%以下(0%を含まない)、
Li:0.001%以下(0%を含まない)、および
REM:0.0010%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、
850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、前記温度域から700℃までの温度域を0.05〜0.5℃/sの平均冷却速度で冷却した後、700〜500℃までの温度域を1.0〜5.0℃/sの平均冷却速度で冷却することを特徴とする被削性に優れた高周波焼入れ用鋼の製造方法。
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