JP5679439B2 - 高周波焼入れ後におけるねじり強度および靱性に優れた高周波焼入れ用鋼、およびその製造方法 - Google Patents
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Ms値=538−317×[C]−11×[Si]−33×[Mn]−28×[Cr]−11×[Mo]−17×[Ni]−11×[Cu]+6×[V]+10×[Al] ・・・(1)
(a)Mo:1%以下(0%を含まない)、
(b)Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)、およびV:0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素、
(c)Cu:3%以下(0%を含まない)、および/またはNi:3%以下(0%を含まない)、
(d)Ca:0.005%以下(0%を含まない)、Mg:0.005%以下(0%を含まない)、Li:0.001%以下(0%を含まない)、およびREM:0.001%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素、
等を含有してもよい。
本発明に係る高周波焼入れ用鋼の金属組織は、ベイナイトおよびマルテンサイトを有している。ベイナイトおよびマルテンサイトは、高周波焼入れして得られる鋼部品の内部を高硬度化し、ねじり強度を向上するのに寄与する金属組織である。そして本発明では、以下で詳述する様に、金属組織の面積率を適切に制御する必要がある。
本発明に係る高周波焼入れ用鋼の金属組織は、全組織に対するベイナイトおよびマルテンサイトの合計面積率を70%以上とする。ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率が70%未満となり、フェライトやパーライトの生成量が増加すると、高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度または靱性の少なくとも一方が劣化する。従って本発明では、ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率は70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上とする。ベイナイトとマルテンサイトの合計面積率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
本発明に係る高周波焼入れ用鋼の金属組織は、全組織に対するベイナイトの面積率を50%超とする。ベイナイトの面積率を50%超とすることによって、鋼部品のねじり強度と靱性の両方を向上させることができる。即ち、ベイナイトは、フェライトやパーライトよりも硬質相であるため、高周波焼入れ後の鋼部品強度の向上に寄与する組織である。一方、マルテンサイトも同様に硬質相であるため、高周波焼入れ後の鋼部品強度の向上に寄与する。しかし、マルテンサイトは硬質過ぎるため靱性が劣化する。そこで、鋼部品の強度と靱性を同時に確保するには、ベイナイトの面積率を高めにする必要がある。従って本発明では、高周波焼入れ用鋼の金属組織をベイナイト主体とし、具体的には、全組織に対するベイナイトの面積率を50%超、好ましくは55%以上、より好ましく60%以上とする。
Cは、強度を確保するために必要な元素であり、0.4%以上含有させることによって、鋼部品として必要なねじり強度(即ち、高周波焼入れ後におけるねじり強度)を確保できる。C量は、好ましくは0.43%以上、より好ましく0.45%以上である。しかしC量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて靱性が劣化し、高周波焼入れ時に割れが発生する。また、切削加工時の被削性が劣化する。従ってC量は0.65%以下、好ましくは0.62%以下、より好ましくは0.60%以下とする。
Siは、固溶強化により高周波焼入れ後の鋼部品の強度を高める元素である。また、Siは、固溶Cがセメンタイトとして析出するのを抑制し、加工性を改善するのに作用する元素である。また、Siは脱酸元素としても作用する。こうした作用を発揮させるには、Si量は0.01%以上、好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上とする。しかしSi量が過剰になると、鋼が硬くなり過ぎて靱性が劣化する。従ってSi量は、2%以下、好ましくは1.7%以下、より好ましくは1.5%以下とする。
Mnは、焼入れ性を向上させる元素であり、高周波焼入れ後の鋼部品の強度と靱性を向上させるのに必要な元素である。また、不完全焼入れによる靱性の著しい低下を防ぐためにも一定以上の添加が必要である。従ってMn量は0.2%以上、好ましくは0.5%以上、より好ましくは0.6%以上、特に好ましくは0.7%以上とする。しかしMnが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎてマルテンサイトが生成し易くなり、靱性が低下する。また、硬くなり過ぎて加工性が劣化する。従ってMn量は2%以下、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.6%以下とする。
Pは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であり、P量が過剰になると加工時に割れが発生するのを助長するので、できるだけ低減する必要がある。従ってP量は0.03%以下、好ましくは0.02%以下、より好ましくは0.015%以下とする。なお、P量を0%とすることは工業的に困難である。
Sは、鋼に不可避的に含まれる不純物元素であるが、鋼中のMnと結合してMnS系介在物を形成し、鋼の被削性を向上させるのに有効に作用する元素である。従ってS量は0.002%以上、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.008%以上とする。しかしS量が過剰になると、MnS系介在物量が増大し、この介在物が加工時(例えば、熱間圧延や熱間鍛造など)に加工方向に伸展するため、加工方向に直角な方向の靱性(横目靱性)が劣化する原因となる。従ってS量は0.1%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下とする。
Crは、Mnと同様に焼入れ性を向上させてベイナイトとマルテンサイトの生成を促進し、高周波焼入れ後の鋼部品の強度と靱性を向上させるのに必要な元素である。こうした効果を発揮させるには、Cr量は0.05%以上、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.12%以上とする。しかしCr量が過剰になると粗大な炭化物が生成するか、或いはマルテンサイトが過剰に生成して靱性を却って劣化させるので、Cr量は0.3%以下、好ましく0.27%以下、より好ましくは0.25%以下とする。
Alは、鋼中に固溶状態で存在させることによって焼入れ性を向上させる元素であり、ベイナイトの生成を促進して高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度と靱性を向上させるのに有効に作用する元素である。またAlは、Nと結合してAlNを析出し、このAlNは、加工時に結晶粒が異常成長するのを防止する作用を有しているため、鋼部品の靱性を向上させることができる。またAlは、脱酸剤としても作用する。こうした効果を発揮させるには、Al量は0.06%以上、好ましくは0.07%以上、より好ましくは0.08%以上とする。しかしAlが過剰になると、焼入れ性が良好になり過ぎてマルテンサイトが過剰に生成し、ベイナイトの生成量を確保できず、靱性を却って劣化させる。従ってAl量は0.5%以下、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下とする。
Bは、焼入れ性を向上させてベイナイトとマルテンサイトの生成を促進し、高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度と靱性を向上させるのに必要な元素である。またBは、鋼中のNと結合してBNとして析出するため、鋼中のN量が減少し、AlがNと結合してAlNとして析出するのを防止する元素である。AlNの析出が抑制されることによって鋼中の固溶Al量を確保できるため、ベイナイトの生成が促進され、高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度および靱性を改善できる。こうした効果を発揮させるには、Bは0.0005%以上、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上とする。しかしBが過剰になると、焼入れ性が向上し過ぎてベイナイトが生成せず、マルテンサイトが過剰に生成する。そのため鋼が硬くなり過ぎて靱性が却って劣化するため、高周波焼入れ時に割れが発生する。従ってB量は0.010%以下、好ましくは0.008%以下、より好ましくは0.006%以下とする。
Nは、鋼中のAlと結合してAlNとして析出し、このAlNは、加工時に結晶粒が異常成長して強度を低下させるのを防止する作用を有している。また、AlNは、結晶粒度を適切に調整して靱性の向上にも寄与する。こうした作用を発揮させるには、N量は0.004%以上、好ましくは0.006%以上、より好ましくは0.008%以上とする。しかしNが過剰になると、AlNが多量に析出して加工性を低下させる。従ってN量は0.03%以下、好ましくは0.025%以下、より好ましくは0.020%以下とする。
Moは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れされていない組織が生成するのを抑制して高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度を高めるのに作用する元素である。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上、更に好ましくは0.15%以上である。しかしMoを過剰に含有すると、焼きならし後でも過冷組織が生成して鋼の被削性が低下するため、1%以下とすることが好ましい。Mo量は、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
Ti、Nb、Vは、熱間加工時に結晶粒が異常成長するのを防止し、鋼の靱性や疲労特性が低下するのを防止する作用を有する元素であり、少なくとも任意の1種以上の元素を含有することによってこうした作用が発揮される。こうした作用は、その含有量が増加するにつれて増大するが、Ti、Nb、Vは夫々好ましくは0.005%以上、より好ましく0.010%以上含有することが望ましい。しかしこれらの元素を過剰に含有すると、硬質の炭化物が多量に生成して鋼の被削性が低下するので、Ti、Nb、V量は夫々、0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましく0.10%以下とする。なお、Ti、Nb、およびVは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
CuとNiは、焼入れ性を向上させて高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした作用は、これらの元素の含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるには、Cu、Ni量は夫々好ましくは0.05%以上、より好ましく0.1%以上である。しかし過剰に含有させると過冷組織が生成し、靱性や延性が低下するので、Cu、Ni量は夫々3%以下とすることが好ましい。Cu、Niは、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下である。なお、CuおよびNiは、夫々、単独で含有させてもよいし、両方を含有させてもよい。また両方を含有させる場合の含有量は夫々上記範囲で任意の含有量でよい。
Ca、Mg、Li、およびREMは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の被削性を向上させるのに有効な元素である。こうした作用はその含有量が増加するにつれて増大するが、有効に発揮させるためには、CaとMg量は夫々好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0010%以上、LiとREM量は夫々好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0003%以上である。しかし過剰に含有させてもその効果は飽和し、含有量に見合う効果が期待できないので、CaとMg量は夫々好ましくは0.005%以下、より好ましくは0.0040%以下、更に好ましくは0.0030%以下、LiとREMは夫々好ましくは0.001%以下、より好ましくは0.0008%以下、更に好ましくは0.0005%以下である。なお、Ca、Mg、Li、およびREMは、単独で含有させてもよいし、任意に選ばれる2種以上を含有させてもよい。
Ms値=538−317×[C]−11×[Si]−33×[Mn]−28×[Cr]−11×[Mo]−17×[Ni]−11×[Cu]+6×[V]+10×[Al] ・・・(1)
Ms値を295以上、315未満の範囲に制御することによって、高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度および靱性を更に向上させることができる。即ち、Ms値は、高周波焼入れ後の鋼部品に含まれる残留オーステナイト量に影響を及ぼす因子であり、Ms値を適切な範囲に制御することによって、残留オーステナイトを所定量生成させることができる。Ms値が295未満では焼き割れが発生することがあるとともに、残留オーステナイトが多く生成し過ぎて強度が低下することがある。従ってMs値は295以上であることが好ましく、より好ましくは297以上、更に好ましくは300以上である。しかしMs値が315以上では残留オーステナイトが殆ど生成しなくなり、靱性が劣化する傾向がある。従ってMs値は315未満であることが好ましく、より好ましくは314以下、更に好ましくは313以下である。
熱間加工は、850〜1250℃の温度域で行う。この温度域で熱間加工することによって、低い変形抵抗下で鋼を加工できる。熱間加工温度が850℃未満では、鋼の変形抵抗が充分に低下していないため所望の加工が困難となる。熱間加工は、好ましくは875℃以上、より好ましく900℃以上で行う。熱間加工温度の上限は、変形抵抗の低減による加工性向上の観点からは特に限定されないが、温度が高くなり過ぎると、鋼端部にだれが生じて鋼の取扱い性が悪くなったり、変形抵抗が低くなり過ぎて過剰な加工が施されることがある。従って熱間加工は、1250℃以下、好ましくは1225℃以下、より好ましくは1200℃以下で行う。
上記温度域で熱間加工した後、冷却するが、本発明では、当該熱間加工温度から500℃までの温度範囲を5〜10℃/秒の平均冷却速度で冷却することが重要である。この温度範囲の平均冷却速度を制御することによって、全組織に対するベイナイトとマルテンサイトの面積率を本発明で規定する範囲に調整できる。平均冷却速度が5℃/秒未満では、ベイナイトとマルテンサイト以外の組織(例えば、フェライトやパーライトなど)が多く生成するため、高周波焼入れ後の鋼部品のねじり強度を高めることができない。従って平均冷却速度は5℃/秒以上、好ましくは5.5℃/秒以上、より好ましくは6℃/秒以上とする。しかし平均冷却速度が10℃/秒を超えるとマルテンサイトが過剰に生成し、ベイナイトの生成が阻害されるため、鋼が硬くなり過ぎて靱性が劣化する。従って平均冷却速度は10℃/秒以下、好ましくは9℃/秒以下、より好ましくは8℃/秒以下とする。
上記インゴットを1200℃に加熱後、熱間鍛造してビレット(155mm角)を得てから冷却した。続いてビレットを1200℃に加熱した後、熱間鍛造してφ45mmの丸棒とし、該熱間鍛造温度から500℃までの温度範囲を下記表2に示す平均冷却速度で冷却した後、約1℃/秒の平均冷却速度で室温まで冷却して試験片を作製した。
上記試験片を、鍛造方向に対して垂直に切断し、D/4位置(Dは直径)をナイタール腐食し、光学顕微鏡(観察倍率は400倍)で観察して画像(写真)を撮影した。観察視野1視野の大きさは、縦175μm×横225μm(面積は39375μm2)である。任意の10箇所で撮影した画像を分析し、各箇所のベイナイト、マルテンサイト、およびこれら以外の残留組織(フェライト、パーライト等)の組織の面積率を測定し、その平均値を求めた。ベイナイト(B)の面積率、マルテンサイトの面積率(M)、およびベイナイトとマルテンサイト(B+M)の合計面積率と、を下記表2に示す。
(a)上記試験片(丸棒)のD/4部(Dは直径)から切削加工によりシャルピー衝撃試験片を切り出した。この試験片に周波数40kHzの高周波焼入れを施した後、シャルピー衝撃試験を実施して衝撃値を測定した。測定結果を下記表2に示す。本実施例では、S55C相当鋼(No.21)の衝撃値よりも衝撃値が大きいもの(具体的には、衝撃値が17J/cm2超のもの)を合格とした。
上記試験片(丸棒)を切削加工して、図1に示すねじり試験片を作製した。この試験片に周波数40kHzの高周波焼入れを施した後、ねじり試験を実施してねじり強度(静的ねじり強度)を測定した。測定結果を下記表2に示す。本実施例では、No.21(S55C相当鋼)のねじり強度よりもねじり強度が高いもの(具体的には、ねじり強度が1591MPa超のもの)を合格とした。
Claims (6)
- C :0.4〜0.65%(質量%の意味。化学成分について以下同じ)、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.2〜2%、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.002〜0.1%、
Cr:0.05〜0.3%、
Al:0.06〜0.5%、
B :0.0005〜0.010%、
N :0.004〜0.03%を含有し、
残部は鉄および不可避不純物からなる鋼であり、
前記鋼の化学成分は、下記式(1)で表されるMs値が295以上、315未満を満足し、
該鋼の金属組織はベイナイトおよびマルテンサイトを有し、
全組織に対するベイナイトおよびマルテンサイトの合計面積率は70%以上であり、且つ
全組織に対するベイナイトの面積率は50%超であることを特徴とする高周波焼入れ後におけるねじり強度および靱性に優れた高周波焼入れ用鋼。
Ms値=538−317×[C]−11×[Si]−33×[Mn]−28×[Cr]−11×[Mo]−17×[Ni]−11×[Cu]+6×[V]+10×[Al]・・・(1)
[上記式(1)中、[ ]は各元素の含有量(質量%)を示している。] - 更に他の元素として、
Mo:1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
V :0.2%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するものである請求項1または2に記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Cu:3%以下(0%を含まない)、および/または
Ni:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 更に他の元素として、
Ca :0.005%以下(0%を含まない)、
Mg :0.005%以下(0%を含まない)、
Li :0.001%以下(0%を含まない)、および
REM:0.001%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高周波焼入れ用鋼。 - 請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を満足する鋼を、
850〜1250℃の温度域で熱間加工した後、
該熱間加工温度から500℃までの温度範囲を5.5〜10℃/秒の平均冷却速度で冷却し、
500℃まで冷却した後は、0.1〜5℃/秒の平均冷却速度で冷却することを特徴とする高周波焼入れ後におけるねじり強度および靱性に優れた高周波焼入れ用鋼の製造方法。
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