JP5607956B2 - 摩擦圧接に適した機械構造用鋼材および摩擦圧接部品 - Google Patents

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Description

本発明は、摩擦圧接される用途に適した機械構造用の鋼材および機械構造用の鋼材が他の鋼材と摩擦圧接されて複合鋼とされた摩擦圧接部品に関する。
例えば、自動車のエンジン、変速機、差動機などに用いられる減速ギア、デフギアなどの歯車、CVTプーリーなどの鋼製の機械構造部品は、多くの場合、表層部の硬さを高める必要があり、素材である機械構造用鋼材に、浸炭、窒化、浸炭窒化などの表面硬化処理を施す。また、これらの機械構造部品は、同時に、最終部品の形状精度を保証するために、精密な切削加工を要する部品でもある。
自動車などの車両に用いられるこれら機械構造部品は、近年、省エネルギー化による車体重量の軽量化に伴い、小型化が追求されている。そして、自動車などのエンジンの高出力化に伴い、前記小型化との相乗作用で、これら機械構造部品への負荷は増大しつつある。このため、これらの機械構造部品には、基本的な要求特性である強度、靭性に加えて、衝撃特性、曲げ疲労特性、面圧疲労特性といった各種特性の向上がより求められている。
通常、これら機械構造部品の素材である鋼材には、加工性に優れた低炭素鋼材(肌焼き鋼、フェライトとパーライトとの混合組織)が用いられる。この低炭素鋼材は、通常、熱間圧延や熱間鍛造による棒材や線材などへの加工後に、必要により、冷間鍛造などの冷間加工が施された上で、機械構造部品形状に精密な切削・仕上げ加工が行われている。
ここで、上記のように負荷増大に対応した機械構造部品の素材として、素材である機械構造用鋼材の強度、靭性を高くすると、前記冷間鍛造などの冷間加工や精密な切削加工が著しく困難となる。したがって、前記高強度、高靭性な部品特性と冷間加工性や被削性とを兼備した鋼材が求められるが、強度と冷間加工性や被削性とは相反する関係にあり、単一の機械構造用鋼材で、強度と冷間加工性や被削性とを両立させることは著しく困難である。
このため、前記高強度、高靭性な部品特性と冷間加工性や被削性とを両立させる方策の一つとして、強度、靭性などの前記部品特性が必要な部分に用いる鋼材と、冷間加工性や被削性が必要な部分に用いる鋼材とをそれぞれ別個に準備し、これら特性が各々異なる両鋼材を互いに接合することによって、複合鋼材あるいは複合鋼部品とし、前記部品特性と被削性を両方達成する方法がある。
このような複合鋼材を作成するための、互いの鋼材間あるいは鋼部材間の接合方法としては、大きく分けて溶融接合法と固相接合法に分類される。このうち溶融接合では、互いの鋼材の接合部分が融点以上の高温状態となるため、接合部位で結晶粒の粗大化、気泡の発生など接合欠陥が発生しやすい。また、熱影響部が大きくなり、母材と熱影響部の界面で割れが発生しやすい問題も生じる。
一方、固相接合は、互いの鋼材の接合面が固相面同士の溶接方法のことであり、溶加材を用いることなく、母材の融点以下の温度で接合することができる。代表的な固相接合法としては摩擦圧接法がある。この摩擦圧接法は、2つの鋼材同士(鋼部材同士)を加圧・回転させながら、接触面(当接面)に摩擦熱を発生させることで、互いの鋼材の接合部分(以下、接合部とも言う)を加熱、軟化した後、この接合部に対するアップセット力(圧接力)を作用させて接合(溶着)する方法である。
このような摩擦圧接法では、半溶融状態に加熱された部分がアップセット力の作用でバリとして接合面から排出されるため、清浄面同士が融点以下の温度で接合されることになる。このため、前記溶融接合法と比較して、接合部位で結晶粒の粗大化、気泡の発生、熱影響部の界面による割れなどが発生しにくい特徴がある。
このような鋼材同士の摩擦圧接方法自体は従来から公知であって、例えば、特許文献1などで、この摩擦圧接方法の改良技術が提案されている。即ち、特許文献1では、摩擦圧接方法における、投入エネルギーおよび素材の無駄遣いを抑え、製品の寸法精度、接合強度、機械的性質のばらつきを抑えることが可能であることが開示されている。ただし、この特許文献1には、摩擦圧接方法に適した、素材鋼材に関する具体的な記述はない。
一方、このような特徴を有する摩擦圧接法を鋼材同士の接合に適用した場合には、前記溶融接合法ほどではないにせよ、やはり、摩擦熱により熱影響を受ける部分(HAZ部)の強度低下や、逆に接合部分の強度増加が問題となる。この接合部分では、摩擦熱による加熱後、周りの母材によって急速に冷却されるため、マルテンサイト相となりやすく、強度が増加しやすいからである。そして、このような熱影響部の強度低下や接合部分の強度増加が大きいと、母材、前記熱影響部、前記接合部分の、摩擦圧接された複合鋼材(複合鋼部品)の部位による強度変動が大きく、疲労強度、衝撃強度などの部品特性を低下させることとなる。
このような課題に対して、前記熱影響部の強度低下だけ、あるいは前記接合部分の強度増加だけなど、個別の問題への対応でしかないが、従来から摩擦圧接用の素材鋼材側を改良した技術が種々提案されている。
例えば、特許文献2には、前記熱影響部の強度低下を抑制した、摩擦圧接用の高強度電縫鋼管の製造方法が提案されている。この特許文献2では、C:0.08〜0.23%、Si:0.5 %以下、Mn:1.8 %以下、Nb:0.01〜0.1 %、Mo:0.05〜0.60%を含有する鋼を、熱間圧延後、摩擦圧接時に析出するMo、Nbの炭窒化物を固溶状態に保つため、熱延鋼板の巻取り温度を450 ℃未満とする。そして、これら固溶状態としたNb、Moを摩擦圧接の際に、炭窒化物として析出させ、析出強化によって熱影響部の軟化を抑制している。
しかし、前記した析出強化は、単に熱影響部だけでなく、通常は互いの鋼材の接合部分にまで及ぶ。このような接合部分は、摩擦熱による加熱後、周りの母材によって急速に冷却されるため、マルテンサイト相となりやすく、元々強度が増加しやすい。そこへ、この析出強化も加わった場合、このような接合部分は、前記マルテンサイト相化との相乗効果によって、接合部分の強度は逆に顕著に増加してしまう。
このような接合部分の強度増加は、前記した衝撃、曲げ疲労、面圧疲労といった負荷が増大した機械構造部品では、使用中の接合部分の脆化を著しく促進させ、割れを発生しやすくする。このため、機械構造部品あるいは機械構造用鋼材としての信頼性を低下させる。
特許文献3には、このような摩擦圧接による接合部分の強度増加を、素材である高炭素熱延鋼材側で抑制する技術が開示されている。この特許文献3では、微量の固溶Nbを含有させることによって、摩擦圧接の高圧力下での急速加熱における、高炭素鋼材のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止し、接合部分の硬さ増加と脆化を抑制している。この場合、固溶Nbは、摩擦圧接後に、NbC として析出して結晶粒の粗大化防止に寄与している。
ただ、このような固溶Nbの利用は、摩擦接合のままで使用される鋼材あるいは鋼部品(焼戻し付与材)の場合には有効であるが、摩擦圧接後の鋼材あるいは鋼部品に浸炭処理などの表面硬化処理を施して、部品強度を更に向上させる場合には、意味が無くなる。即ち、このような表面硬化処理では、大抵鋼材あるいは鋼部品を高温に加熱するために、一旦析出したNbC がこの加熱によって再び分解し始める。このため、部分的な結晶粒の粗大化が発生しやすく、この表面硬化処理後の冷却によって、旧オーステナイト粒径のばらついたマルテンサイト相となる。このような結晶粒径のばらつきは、やはり疲労強度、衝撃強度などの部品特性を著しく低下させる。このため、前記した衝撃、曲げ疲労、面圧疲労といった負荷が増大した機械構造部品あるいは機械構造用鋼材としての信頼性を低下させる。
因みに、この他の技術として、特許文献4では、Cが0.1%以上の中高炭素鋼材について、摩擦圧接による接合部分(接合界面)に生じる硬化層(酸化物)をバリとして排出して、接合部分の曲げ延性を確保するために、素材鋼の組織を制御している。即ち、素材鋼の組織をフェライトとパーライトとを合わせた面積率を40%未満とした、ベイナイト組織またはベイナイトとマルテンサイトとの混合組織として、摩擦圧接時の加熱による軟化を遅らせて、前記硬化層をバリとして排出しやすくし、接合部分の曲げ延性を確保している。
また、特許文献5では、Cが0.1%以上の中高炭素鋼材について、摩擦圧接した複合鋼材接合部の表面を、超音波振動端子により打撃して、接合部の応力集中を緩和して、耐疲労強度を向上させている。
ただ、これら特許文献4、5は、いずれも中高炭素鋼材(ベイナイト組織またはベイナイトとマルテンサイトとの混合組織)を対象としており、通常の機械構造部品の素材である低炭素鋼材(フェライトとパーライトとの混合組織)の疲労強度、衝撃強度の向上には適用できない。
特開平11−47958号公報 特開平4−116123号公報 特開2002−294404号公報 特開2003−183768号公報 特開2006−297398号公報
前記特許文献2、3の、素材側鋼材のNb、Moなどを予め固溶させておいて、摩擦圧接の際の析出強化によって熱影響部の軟化を抑制する、従来の冶金的な手法には限界がある。したがって、低炭素鋼材には、これに代わる冶金的な手法を用いて、摩擦圧接による熱影響部の過度の強度低下や接合部分の過度の強度増加を抑制して摩擦圧接後の接合強度を向上させる手段が求められている。
また、低炭素鋼材には、摩擦圧接法によって複合鋼化(複合鋼部品)されるにしても、前記自動車などのエンジン部品用などの摩擦圧接部品として、前記した小型化、高出力化に伴う部品への、冷間鍛造などの冷間加工性や被削性の更なる向上も求められている。
ただ、これら摩擦圧接後の接合強度の向上と、冷間加工性や被削性の向上とは、低炭素鋼材にとって、互いに相矛盾する難しい技術課題となる。したがって、このような摩擦圧接用の低炭素鋼材の、冷間加工性や被削性の向上とともに、摩擦圧接後の接合強度を向上させるような冶金的な手法は、これまであまり提案されていない。
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、冷間加工性や被削性の向上とともに、疲労強度、衝撃強度などの部品特性を向上させた、摩擦圧接に適した機械構造用の低炭素鋼材および衝撃特性、曲げ疲労特性に優れた摩擦圧接部品を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための、本発明の摩擦圧接に適した機械構造用鋼材の要旨は、質量%で、C:0.08〜0.61%、Si:0.08〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、P:0.03%以下(但し0%を含まない)、S:0.005〜0.1%、Cr:0.4〜2%、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下(但し0%を含まない)を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、鋼中の化合物Nの含有量が0.006〜0.02%で、且つ、固溶N量が0.0015%以下(但し0%を含む)であり、最大長さが2μm以上のMnSが鋼中に1mm2 当たり100〜4000個存在し、これらMnSの平均アスペクト比が2以上であることとする。
また、上記目的を達成するための、本発明の曲げ疲労特性に優れた摩擦圧接部品の要旨は、質量%で、C:0.08〜0.61%、Si:0.08〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、P:0.03%以下(但し0%を含まない)、S:0.005〜0.1%、Cr:0.4〜2%、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下(但し0%を含まない)を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、鋼中の化合物Nの含有量が0.006〜0.02%で、且つ、固溶N量が0.0015%以下(但し0%を含む)であり、最大長さが2μm以上のMnSが鋼中に1mm2 当たり100〜4000個存在し、これらMnSの平均アスペクト比が2以上である機械構造用鋼材と、他の炭素鋼材あるいは合金鋼材とが、摩擦圧接によって接合されて所望の形状の複合鋼とされ、更に、表面硬化処理および焼戻し処理が施されてなる摩擦圧接部品であって、前記摩擦圧接によって形成された接合部から1mm幅の範囲の前記機械構造用鋼材側の熱影響部の鋼中における、アスペクト比が2以下で、且つ、最大長さが1μm以下のMnSを、1mm2 当たり25個以下(但し0個を含む)に規制したことである。
ここで、前記化合物N(化合物窒素)とは、鋼中の全N(全窒素)のうち、鋼マトリックスに固溶した固溶Nを除き、窒化物や炭窒化物などの、他の元素との化合物として(化合物を形成して)鋼中に存在するN(窒素)の総称である。
本発明者は、素材側低炭素鋼材の合金元素の予めの固溶と摩擦圧接の際の析出強化との関係(冶金的手法)について改めて検討した。この結果、摩擦圧接の前後で鋼中のNの存在形態を変化させることが、摩擦圧接後の接合強度の向上と、冷間加工性や被削性の向上という、低炭素鋼材にとって相矛盾する技術課題解決に有効であることを知見した。
また、摩擦圧接の前後で、このようにNの存在形態を変化させることによって、摩擦圧接の前後で、鋼中に存在するMnSの形状も変化させることができ、前記N制御との相乗効果で、摩擦圧接後の接合強度の向上と、冷間加工性や被削性の向上との相矛盾する技術課題解決に更に有効であることを知見した。
すなわち、摩擦圧接の前に、素材低炭素鋼材の鋼中のNを、化合物Nとして存在させるとともに、固溶Nとしての存在量を規制する。これによって、素材としての低炭素鋼材や摩擦圧接されて複合鋼としての低炭素鋼材の、冷間加工性や被削性を向上させる。同時に、素材低炭素鋼材にSを添加して(Sの含有量を増して)、鋼中に一定のサイズの伸長した形状のMnSを増加させることによって、被削性をより向上させる。
素材低炭素鋼材の組成や組織をこのように予め準備することによって、摩擦圧接の際の摩擦熱とひずみによって、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部の、鋼中の化合物Nを分解させ、固溶N量を増量させる。そして、この固溶Nによる動的ひずみ時効によって、前記熱影響部のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)を強化し、前記熱影響部の過度の強度低下や、接合部分の過度の強度増加を抑制して、摩擦圧接後の接合強度を向上させる。
同時に、前記固溶Nによる動的ひずみ時効に伴う、MnS周囲のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)の前記強化によって、摩擦圧接による強ひずみ加工とも相まって、予め存在する一定のサイズの伸長した形状のMnSを細かく分断して微細化させる。そして、このように微細化(分断、分解)されたMnSが、前記熱影響部のオーステナイト粒径の整粒化に寄与するようにして、摩擦圧接後の接合強度を向上させる。また、このようなMnSの微細化は、前記一定のサイズの伸長した形状のMnSの前記熱影響部の強度劣化への影響(寄与)をなくす効果もあり、やはり摩擦圧接後の接合強度を向上させる。
本発明によれば、機械構造用の低炭素鋼材(肌焼き鋼)につき、摩擦圧接の際の摩擦熱により熱影響を受ける部分(HAZ部)の強度低下や、互いの鋼材の接合部分の強度増加を、各々抑制できる。しかも、これらの効果は、続く浸炭、窒化、浸炭窒化などの表面硬化処理を施しても損なわれることがない。したがって、摩擦圧接による強度ばらつきを抑制した複合鋼部材とでき、更に、表面硬化処理や、その後の焼戻し熱処理を施すことによって、摩擦接合部品の欠点であった疲労強度、衝撃強度などの特性の低下を抑制した鋼部品とすることができる。また、面疲労特性、曲げ疲労特性、被削性が要求される部位に関しても、それぞれ特性を満足させることができる。
鋼材の組成:
まず、本発明鋼材の化学成分組成の限定理由について説明する。本発明機械構造用の低炭素鋼材(肌焼き鋼)の化学成分組成は、前記した自動車のエンジン部品などの機械構造部品に要求される強度や靭性特性、これに加えた衝撃特性、曲げ疲労特性、面圧疲労特性などの特性向上のためや、これらの特性向上のための前記本発明組織とするための前提条件となる。
このため、本発明鋼材は、質量%で、C:0.08〜0.61%、Si:0.08〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、P:0.03%以下(但し0%を含まない)、S:0.005〜0.1%、Cr:0.4〜2%、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下(但し0%を含まない)を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学成分組成とする。なお、以下の元素含有量の単位は全て質量%だが、単に%と表記する場合もある。
ここで、本発明鋼材は、種々の特性を向上させるために、前記特定の化学成分組成に加えて、選択的な添加元素として、更に、質量%で、Ti:0.2%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.2%以下(但し0%を含まない)、V:0.2%以下(但し0%を含まない)、B:0.01%以下(但し0%を含まない)、Mo:1%以下(但し0%を含まない)、Cu:1%以下(但し0%を含まない)、Ni:1%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有しても良い。また、これらに加えて、あるいはこれらの代わりに、Ca:0.02%以下(但し0%を含まない)、REM:0.02%以下(但し0%を含まない)、Li:0.02%以下(但し0%を含まない)、Mg:0.02%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有しても良い。
これら以外のその他の元素は、基本的には不純物であり、通常の、この種機械構造用の低炭素鋼材(肌焼き鋼)の不純物含有量 (許容量) レベルとする。
以下に、各主要元素の含有量と、その限定理由(意義)について説明する。
C:0.08〜0.61%
Cは、機械構造用部品としての必要強度を確保するための基本元素である。C含有量が少なすぎると、本発明が対象とする機械構造用部品に要求される強度を確保できない。しかし、Cを過剰に含有させると、延性を劣化させ、また鋼材が脆化し、衝撃特性が劣化する。このため、C含有量は0.08〜0.61%の範囲とし、下限値は好ましくは0.10%、より好ましくは0.13%とする。また、上限値は好ましくは0.58%、より好ましくは0.53%とする。
Si:0.08〜0.5%
Siは溶製中の鋼の脱酸作用に寄与する。また、固溶強化により母材強度を高める作用を有する。Si含有量が少なすぎると、脱酸が不十分となり、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。また、本発明が対象とする機械構造用部品に要求される強度も確保できない。しかし、Siを過剰に含有させると、変形抵抗の増大や変形能の低下を生じさせる。この傾向はSi含有量が0.5%を超えると顕著に見られはじめる。このため、Si含有量は0.08〜0.5%の範囲とし、下限値は好ましくは0.10%、より好ましくは0.15%とする。また、上限値は好ましくは0.5%、より好ましくは0.4%とする。
Mn:0.4〜1.5%
Mnは、溶製中の鋼の脱酸、脱硫元素として有効であり、また、鋼材への熱間加工時の加工性の劣化を抑制する効果を有する。更に、Sと結合することで鋼材の変形能を向上させることにも有効である。Mn含有量が少なすぎると、これらの効果が得られず、変形能が劣化し、割れが生じやすくなる。一方で、Mnを過剰に含有させると、固溶強化による変形抵抗の増加と変形能の低下をもたらす。また、Pの粒界への偏析を助長し、粒界強度の低下、疲労強度の低下を生じさせる。このため、Mn含有量は0.4〜1.5%の範囲とし、下限値は好ましくは0.45%、より好ましくは0.5%とする。また、上限値は好ましくは1.2%、より好ましくは1.0%とする。
P:0.03%以下(但し0%を含まない)
Pは不可避的に混入し、不純物として含有する元素であり、フェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。したがって、変形能の観点からPは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招く。したがって、P含有量は0.03%以下の低いほど良いが、0%とすることは製造上困難であるので、0.03%以下(但し0%を含まない)と規定する。上限値は好ましくは0.025%、より好ましくは0.02%とする。
S:0.005〜0.1%
Sは被削性の向上効果があり、S含有量が少ないと被削性を劣化させる。ただ、Sは、Feと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、変形能を劣化させる。このため、Sは全量をMnと結合させ、MnSとして無害に析出させる必要がある。ただし、このMnSの析出量が増えると、やはり変形能が劣化する。したがって、S含有量は、変形能と被削性のバランスを考慮した、0.005〜0.1%の範囲とし、下限値は好ましくは0.007%、より好ましくは0.01%とし、上限値は好ましくは0.08%、より好ましくは0.06%とする。
Cr:0.4〜2%
Crは、鋼材の焼入れ性を高め、浸炭、窒化、浸炭窒化などの表面硬化処理による硬化層深さや、必要な母材硬さを与えることによって、歯車などの機械構造用部品としての静的強度および疲労強度を確保する上で重要な元素である。Cr含有量が少なすぎるとこうした効果を発揮できない一方で、Cr含有量が過剰になっても、旧オーステナイト粒界に炭化物として偏析するため、疲労強度、衝撃強度低下の原因となる。したがって、Cr含有量は0.4〜2%の範囲とし、下限値は好ましくは0.5%、より好ましくは0.6%とし、上限値は好ましくは1.8%、より好ましくは1.5%とする。
Al:0.005〜0.1%
Alは溶製中の鋼の脱酸元素として有効である。Al含有量が少なすぎると、溶製中の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じやすくなるので、割れが生じやすくなる。一方、Al含有量が過剰になっても、酸化アルミ系の酸化物などの非金属介在物が生成し、冷間加工性や被削性を劣化させる。したがって、Al含有量は0.005〜0.1%の範囲とし、下限値は好ましくは0.008%、より好ましくは0.01%とし、上限値は好ましくは0.08%、より好ましくは0.06%とする。
N:0.02%以下(但し0%を含まない)
Nは、摩擦圧接中に動的ひずみ時効を生じ、MnSの分解させるために必要な元素である。ただし、固溶状態で存在すると、熱間延性の劣化、動的ひずみ時効による冷間加工性や被削性の低下を招くため、予めAlなどと結合させて、AlNとして析出させておく必要がある。したがって、N含有量は0.02%以下(但し0%を含まない)の範囲とするが、Nが0.006%以下となると、冷間加工性や被削性は改善できるものの、MnSによる接合部、および熱影響部の強度劣化を抑制できなくなる可能性があるので、下限は、好ましくは0.006%以上、より好ましくは0.0065%以上、更に好ましくは0.0070%以上含有させる。上限値は、好ましくは0.018%、より好ましくは0.015%とする(いずれも0%を含まない)。
Ti:0.2%以下(但し0%を含まない)
Tiは、炭化物、窒化物を形成して、特にNを固定し、固溶Nによる変形能の劣化を防止し、オーステナイト粒の微細化、整粒化に寄与する。また、本発明においては、固溶Tiが残存できるだけのTiを含有させる必要がある。この固溶Tiは、前記した通り、摩擦圧接中にTiCを形成する。このTiCはオーステナイト粒を微細化、整粒化させると共に、析出強化に寄与する。そのため、摩擦圧接後の、熱影響部における強度の低下を抑制することができる。
Ti含有量が少なすぎると、十分な量の固溶Tiを摩擦圧接時に作用させることができない。一方、Ti含有量が多すぎると、TiCが多量に生成するため、却って強度が低下する。したがって、Ti含有量は0.2%以下(但し0%を含まない)の範囲とし、下限値は好ましくは0.001%、より好ましくは0.01%、更に好ましくは0.015%とし、上限値は好ましくは0.15%、より好ましくは0.1%とする。
Nb、V、Mo、Cu、Niの1種又は2種以上
Nb、V、Mo、Cu、Niは、前記特許文献5でも同効元素として記載している通り、いずれも、靱性を損なうことなく、素材としての鋼材や摩擦圧接後の複合鋼材の強度を向上させるのに有効である。
Nb:0.2%以下(但し0%を含まない)、V:0.2%以下(但し0%を含まない):Nb、Vは、いずれも炭化物などを形成し、摩擦圧接後の熱影響部における強度低下を抑制し、実質的に強度を向上させることができる。そこで、必要に応じて、Nb:0.2%以下(但し0%を含まない)、V:0.2%以下(但し0%を含まない)を添加する。
選択的に添加する場合のNb含有量の下限は0.01%以上とすることが好ましく、0.015%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が多すぎるとNbCが多量に生成するため、逆に強度が低下する。したがって、Nb含有量の上限は0.15%以下とすることが好ましく、0.1%以下とすることがより好ましい。
選択的に添加する場合のV含有量の下限は0.01%以上とすることが好ましく、0.015%以上とすることがより好ましい。一方、V含有量が多すぎるとVCが多量に生成するため、逆に強度が低下する。したがって、V含有量の上限は0.15%以下とすることが好ましく、0.1%以下とすることがより好ましい。
B:0.01%以下(但し0%を含まない)
Bは、鋼材の焼入れ性を向上させることに加えて、結晶粒界強化によって衝撃強度を高める作用を有する。B含有量が不足すると、これらの効果が得られず、一方で、B含有量が過剰になると、逆に粒界強度が低下し始めるので、冷間および熱間加工性が劣化する。したがって、B含有量は0.01%以下(但し0%を含まない)の範囲とし、下限値は好ましくは0.0005%、より好ましくは0.008%とし、上限値は好ましくは0.008%、より好ましくは0.005%とする。
Mo:1%以下(但し0%を含まない)
Moは、鋼材の焼入れ性を確保して、不完全焼入れ組織の生成を抑制し、強度を向上させるのに有効な元素である。そこで、必要に応じて、Mo:1%以下(但し0%を含まない)を添加する。一方、Moの含有量が過剰になると、母材の硬度が必要以上に硬くなって靭性、衝撃特性が劣化するので、1%以下に限って、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下添加する。なお、Moによる前記効果を有効に発揮させるためには、0.06%以上の添加が好ましく、より好ましくは0.08%以上添加する。
Cu、Ni
Cu、Niはいずれも鋼材を固溶強化させ、母材や接合部分の強度を向上させるのに有効である。そこで、必要に応じて、Cu:1%以下(但し0%を含まない)、Ni:1%以下(但し0%を含まない)を添加する。一方、Cu、Niの含有量が過剰になると熱間延性が劣化するので、各々1%以下に限って、好ましくは各々0.8%以下、より好ましくは各々0.6%以下添加する。なお、Cu、Niによる前記効果を有効に発揮させるためには、0.2%以上の添加が好ましく、より好ましくは各々0.3%以上添加する。
Ca、REM、Li、Mgの1種又は2種以上
Ca、REM、Li、Mgは、共通して、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼材の変形能を高めると共に、冷間加工性や被削性向上に寄与する元素である。そこで、必要に応じて、Ca:0.02%以下(但し0%を含まない)、REM:0.02%以下(但し0%を含まない)、Li:0.005%以下(但し0%を含まない)、Mg:0.005%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を添加する。
前記効果を有効に発揮させるためには、Ca、REMは0.0005%以上の添加が好ましく、より好ましくは各々0.001%以上、更に好ましくは各々0.0015%以上添加する。同じく、Li、Mgは0.0001%以上の添加が好ましく、より好ましくは各々0.0002%以上、更に好ましくは各々0.0003%以上添加する。一方、これらを過剰に添加してもその効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。そのため、Ca、REMは各々0.01%以下の添加が好ましく、より好ましくは各々0.005%以下添加する。同じく、Li、Mgは各々0.0025%以下の添加が好ましく、より好ましくは各々0.001%以下添加する。
Nの存在形態制御
本発明では、摩擦圧接の前後で鋼中のNの存在形態を変化させ、摩擦圧接後の接合強度の向上と、冷間加工性や被削性の向上という、相矛盾する技術課題を解決する。すなわち、摩擦圧接の前に、素材低炭素鋼材の鋼中のNの多くを化合物Nとして存在させるとともに、固溶Nとしての存在量を規制する。これによって、素材としての低炭素鋼材や摩擦圧接されて複合鋼としての低炭素鋼材の冷間加工性や被削性を向上させる。
素材低炭素鋼材をこのように予め準備することによって、摩擦圧接の際の摩擦熱によって、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部の、鋼中の化合物Nを分解させ、固溶N量を増量させる。そして、この固溶Nによる動的ひずみ時効によって、前記熱影響部のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)を固溶強化し、前記熱影響部の過度の強度低下や、接合部分の過度の強度増加を抑制して、摩擦圧接後の接合強度を向上させる。
また、摩擦圧接の前後で、このようにNの存在形態を変化させることによって、摩擦圧接の前後で、鋼中に存在するMnSの形状も変化させることができ、N制御との相乗効果で、摩擦圧接後の接合強度の向上と、冷間加工性や被削性の向上を更に図ることができる。
化合物N
本発明では、前記した通り、摩擦圧接の前の低炭素鋼材における化合物N(化合物窒素)量を増加させる。素材低炭素鋼材の化合物N量が少なすぎれば、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部の鋼中の化合物Nの分解により生成する、固溶N量も少なくなる。この結果、固溶Nによる動的ひずみ時効によって、前記熱影響部のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)を固溶強化し、前記熱影響部の過度の強度低下や、接合部分の過度の強度増加を抑制する効果も弱まる。この結果、摩擦圧接後の接合強度を向上させることができなくなる。
また、素材低炭素鋼材の化合物N量が少なすぎれば、摩擦圧接後の、この固溶N量の減少に伴い、固溶Nによる動的ひずみ時効に伴う、MnS周囲のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)の前記固溶強化も弱まる。このため、予め存在する一定のサイズの伸長した形状のMnSを細かく分断して微細化させる効果も弱まる。この結果、微細化されたMnSによる、前記熱影響部のオーステナイト粒径の整粒効果や前記熱影響部の強度劣化への影響(寄与)をなくす効果も弱まる。
ただ、化合物N量があまり多すぎれば、却って、摩擦圧接後の接合強度が低下する。このため、鋼中の化合物Nの含有量は0.006〜0.02%の範囲とする。
素材低炭素鋼材をこのように予め準備することによって、摩擦圧接の際の摩擦熱によって、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部の、鋼中の化合物Nを分解させ、固溶N量を増量させる。そして、この固溶Nによる動的ひずみ時効によって、前記熱影響部のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)を固溶強化し、前記熱影響部の強度低下や、接合部分の過度の強度増加を抑制して、摩擦圧接後の接合強度を向上させる。
化合物N(化合物窒素)は、前記した通り、鋼中の全N(全窒素)のうち、固溶Nを除く、窒化物や炭窒化物などの化合物を形成して鋼中に存在するN(窒素)であり、後述するアンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法により、直接測定できる。
化合物N量の測定
前記化合物N量の測定は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法により行う。すなわち、鋼供試材から切り出したサンプル約0.5を、10%AA系電解液に定電流電解を行って溶解させ、生成する不溶解残渣(窒化化合物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。得られた不溶解残渣を、硫酸、硫酸カリウムおよび純銅製チップ中で加熱して分解し、分解物をろ液に合わせる。この溶液を、水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。更に、フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III )酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、吸光光度計を用いて吸光度を測定して、前記化合物量を求める。因みに、前記10%AA系電解液は、10%アセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部メタノールからなる非水溶媒系の電解液であり、鋼表面に不動態皮膜を生成させない溶液である。
固溶N
前記化合物Nに対して、本発明では、鋼中の固溶N量を十分に低減することで、素材としての低炭素鋼材や摩擦圧接されて複合鋼としての低炭素鋼材の冷間加工性や被削性を向上させる。このため、鋼中の固溶N量は0.0015%以下(但し0%を含む)に規制する。鋼中の固溶N量が0.0015%を超えた場合、低炭素鋼材の冷間加工性や被削性を向上できず、接合強度向上との兼備ができない。
このように、予め低炭素鋼材の固溶N量を低減しても、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部では、鋼中の化合物Nを分解させ、固溶N量を増量させることができ、摩擦圧接後の接合強度を向上させられることが、本発明の大きな特徴である。
この固溶Nの含有量は、JISG1228に準拠して、下記方法によって求められる全N量から、上記方法によって求められた全化合物N量を差し引いて、間接的に求めることができる。
前記全N量の測定は、不活性ガス融解法−熱伝導度法により、鋼供試材から切り出したサンプルをルツボに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、この抽出物を熱伝導度セルに搬送して、熱伝導度の変化を測定する。そして、予め求めておいた熱伝導度と全N量との関係から全N量を求める。
低炭素鋼材のMnS
本発明では、低炭素鋼材の被削性の向上のために、一定の大きなサイズの伸長したMnSを存在させる。すなわち、低炭素鋼材の鋼中に、最大長さが2μm以上のMnSを1mm2 当たり100〜4000個存在させ、かつ、これらのMnSの平均アスペクト比を2以上とする。ここで、アスペクト比とは、不定形のMnS粒子における、最大長さ(最も長い軸あるいは最も長い辺の軸長さ)と、最小長さ(最も短い軸あるいは最も短い辺の軸の長さ)との比、最大長さ/最小長さ、である。そして、アスペクト比が大きいほど、MnSは、アスペクト比が1の等軸ではなく、伸張した(偏平あるいは細長い)形状となる。
低炭素鋼材の被削性を向上させるためには、MnSの形状と含有量が重要となる。接合部および熱影響部の強度(靭性)を確保するためには、MnSの量を減らすことが有効であるが、MnS量を少なくすると、十分な被削性を得ることができない。
この点で、機械構造用の低炭素鋼材に、Sを添加して、一定の大きさ(長さ)以上で、形状的にも最大長さと最小長さとの比であるアスペクト比が大きな、伸張した形状のMnSを増加させれば、接合部および熱影響部の強度(靭性)を低下させることなく、被削性が向上する。一定の大きさ(長さ)以上で、アスペクト比が大きな伸張形状のMnSの増加は、切削中の切削抵抗を低減すると共に、切り屑分断性を向上させるため、被削性の向上に有効である。最大長さ(最も長い辺の長さ)が2μm以上のMnSの個数を1mm2 当たり100個以上、これら最大長さが2μm以上のMnSの平均アスペクト比を2以上、とすることで、切削中の切屑を容易に分断させることができるようになる。
アスペクト比が2未満、最大長さ(最も長い軸あるいは最も長い辺の軸長さ)が2μm未満のMnSの増加は、却って、切屑が分断しにくくなり、切削効率が劣化する。すなわち、微細でアスペクト比が小さなMnSの増加は、被削性の向上に効果がないどころか、却って被削性を低下させる。したがって、素材低炭素鋼材の鋼中で、摩擦圧接に先立って、予め増加させるMnSは、後述する倍率400倍の光学顕微鏡を用いた測定方法で観察される、不定形のMnS粒子において、最大長さが2μm以上である、伸張した形状の(偏平あるいは細長い)MnSで、且つ、平均アスペクト比が2以上のMnSとする。
なお、これらMnSの形状は、大きく伸張すれば、それだけ被削性が改善されるが、製造条件による最大長さの製造限界も当然あるので、最大長さの上限は好ましくは100μm以下、平均アスペクト比の上限は好ましくは10以下と各々する。
また、このような一定の大きさ(長さ)以上で、かつアスペクト比が大きなMnSであっても、多すぎると、鋼材を摩擦圧接した場合に、MnSは摩擦圧接中に鋼材がバリとして排出される過程において、圧接方向に対して垂直方向に偏向するようになる。このようなMnSは接合部、あるいは熱影響部における靭性を著しく劣化させる。したがって、本発明では、接合部および熱影響部の強度(靭性)を確保するために、また、鋼材の靭性の劣化や鋼材圧延時の割れを防止するため、アスペクト比が2以上の伸張した形状で、且つ、最大長さが2μm以上のMnSの鋼中に存在させる量(数)の上限を定める。すなわち、このようなMnSの鋼中に存在させる量(数)の上限は4000個/mm2 とする。
摩擦圧接部品のMnS
このように、素材(摩擦圧接前の)低炭素鋼材では伸長した形状のMnSを存在させるが、摩擦圧接部品では、前記熱影響部の強度劣化へ影響(寄与)するMnSを逆に規制することが、また本発明の特徴でもある。
具体的には、前記摩擦圧接によって形成された接合部から1mm幅の範囲の低炭素鋼材側の熱影響部の鋼中における、アスペクト比が2以下で、且つ、最大長さが1μm以下のMnSを、1mm2 当たり25個以下(但し0個を含む)に規制する。但し、このような微細なMnSであれば、後述する400倍の光学顕微鏡による測定では、当然測定限界はあるので、最大長さの下限は、この光学顕微鏡による測定で、長さが個数が測定可能な限界の長さとする。また、この光学顕微鏡で測定できないような微細なMnSであれば、前記熱影響部の強度劣化へ影響(寄与)しない。
そして、このような熱影響部のMnS規制は、前記した通り、素材(摩擦圧接前の)低炭素鋼材に予め化合物Nを含有させ、この化合物Nを、摩擦圧接の際の摩擦熱によって分解させて、摩擦圧接後の低炭素鋼材における熱影響部の固溶N量を増量させることによって可能である。前記最大長さが1μm以下のMnSとは、前記固溶Nによる動的ひずみ時効に伴う、MnS周囲のフェライトあるいはオーステナイト(セメンタイト)の前記強化によって、摩擦圧接による強ひずみ加工とも相まって、予め存在する一定のサイズの伸長した形状のMnSが細かく分断されたものである。
このように分断、分解されたMnSは、前記した通り、前記熱影響部のオーステナイト粒径の整粒化に寄与するが、あまり多すぎれば、却って、摩擦圧接後の接合強度が低下する。このため、前記規定通りに規制する。
なお、前記熱影響部の幅は、勿論、前記摩擦圧接の条件によって異なるが、通常の摩擦圧接の条件によれば、前記摩擦圧接の接合部から1mm以上の幅を通常は必ず、十分に有する。したがって、測定の再現性の点からも、前記摩擦圧接の接合部から1mm幅の範囲の低炭素鋼材側の熱影響部と規定した。
NやMnSの存在形態と特性との関係
ここで、改めてNやMnSの存在形態と特性との関係を説明する。本発明者らが、各種成分を調整した鋼材を用いて摩擦圧接実験を行った結果、摩擦圧接後の接合部付近(接合部から1mm幅の範囲)の固溶N量が高い鋼材は、接合部および熱影響部の強度(靭性)が十分確保されることが明らかとなった。
その組織は、接合部付近で初期のような伸張した形状のMnSが観察されず、また、結晶粒も整粒化していた。これは、摩擦圧接中に固溶NがMnSの分解に寄与していることによると考えることができた。但し、このような固溶N量の高い鋼材は、冷間加工性や被削性が劣化しており、冷間加工性や被削性と、接合部および熱影響部の強度とを両立させることが困難であった。
上記実験結果に基づき、摩擦圧接前後でNの存在形態を変化させることが有効であることを知見し、摩擦圧接前の鋼材成分と組織を、冷間加工性や被削性に優れるように調整し、且つ、勿論摩擦圧接条件を通常通り適正化することで、摩擦圧接中に固溶N量を増加させ、接合部、および熱影響部の強度を向上させることができた。
すなわち、摩擦圧接中に鋼材の接合部および熱影響部に十分に入熱される条件で摩擦圧接を行い、化合物N(N化合物)を分解させ、固溶N量を増量させる。そして、この固溶Nによる動的ひずみ時効によって、MnS周囲のフェライト、あるいはオーステナイト(セメンタイト)が強化され、摩擦圧接による強ひずみ加工に伴って、伸長したMnSも分断されやすくなることも知見した。このように十分に分解されたMnSは、オーステナイト粒径の整粒化に寄与し、且つ、強度劣化には影響(寄与)しなくなる効果を有する。
以上の通り摩擦圧接によって靭性の劣化を抑制した部材に、浸炭、焼戻し熱処理などを施すことによって、摩擦接合部品の欠点であった、曲げ特性、衝撃特性の低下を抑制した部品とすることができる。また、肌焼鋼としての面疲労特性、冷間加工性や被削性に関しても、それぞれ特性を満足させることができる。
鋼材の組織
本発明鋼材の組織は、摩擦圧接に適した組織とするために、また、摩擦接合部品としての特性を満たすために、フェライト粒とパーライト粒との混相からなるものとする。因みに、摩擦圧接による接合部の組織は、急速加熱と急速冷却によって、一部がベイナイトとなった、マルテンサイト相で構成される。このようなベイナイトは、前記マルテンサイトと比較して硬さが低いため、接合部の強度増加を抑制することができ、また、衝撃特性、疲労特性を向上させることができる。
鋼材の製造方法
なお、機械構造用低炭素鋼材自体は、フェライト粒とパーライト粒との混相組織も含めて、通常の前記自動車部品用の機械構造用鋼材の製造工程で製造できる。即ち、鋳造されたインゴット(鋳塊)をビレット(鋼片)に熱間鍛造後、熱間圧延あるいは熱間鍛造によって、線材や棒材(丸棒、角棒)などの鋼材に加工される。
但し、本発明鋼材は、これら熱間圧延上がり、あるいは熱間鍛造上がりの鋼材(熱間加工まま材)、あるいは更に冷間鍛造などによって部品形状に形成された鋼材、これらを更に精密な切削・仕上げ加工された機械構造部品(機械構造部品とされた鋼材)であっても良い。
ここで、本発明において規定した、鋼中の化合物Nの含有量を確保し、固溶N量、伸長したMnSの数とアスペクト比を制御するためには、成分を適正に調整し、且つ、前記ビレットの熱間圧延前の加熱温度と、線材や棒材への熱間圧延温度とを合わせて制御する。 すなわち、前記ビレットの加熱温度を1000〜1250℃の範囲で行うとともに、前記ビレットの圧延開始から線材や棒材への圧延終了までの熱間圧延の温度を800〜1000℃の範囲で行う。
前記ビレットの加熱温度や熱間圧延温度を適正に制御することで、伸長したMnSとなりやすく、伸長したMnSの数とアスペクト比を確保することができる。
ただし、上記のような高温加熱、高温圧延では、Nが全数固溶状態で存在するため、冷却後、被削性を劣化させる問題が生じる。そこで、冷却速度を適正に制御することで、冷却中に固溶NをAlと結合させ、AlNとして析出させることで、固溶Nを固定し、低減することができる。そのための冷却速度としては、上記熱間圧延や熱間鍛造終了後は、室温までの冷却速度を2.0℃/秒以下として冷却することが好ましい。この冷却速度で冷却することによって、冷却中に固溶NをAlと結合させ、AlNとして析出させることで、固溶Nを低減することができる。また、鋼材組織も、より切削に適したフェライト粒とパーライト粒との混相とすることができる。
この冷却速度があまり速くなり過ぎると、AlNが析出するための十分な時間を確保することができず、冷却後も固溶Nが多く残存するため、冷間加工性、被削性が劣化する。また、却って、ベイナイトやマルテンサイト等の硬質相の生成割合が増加することによって、鋼材の強度が上昇しすぎて、被削性が低下するので、好ましくは2.0℃/秒以下とする。一方、冷却速度は、遅ければ遅いほど、AlNが生成しやすくなるので、好ましいが、実操業のことを考えると、0.001℃/s以上が好ましい。
摩擦圧接
摩擦圧接自体は常法で良く、公知の条件範囲で良いが、前記した通り、素材低炭素鋼材や、複合鋼化する相手鋼材の組成に応じて、摩擦圧接中に化合物Nを分解して、固溶N量を増加させられるような摩擦熱(摩擦熱量)が得られるような条件にすることが好ましい。この点、素材低炭素鋼材の組成に応じて、摩擦圧力(MPa)、アップセット圧力(接合部への丸棒両端部からの加圧力、MPa)、摩擦時間(sec)、アップセット時間(接合部への加圧時間、sec)、回転数(rpm)などの主要な条件の最適値を、公知の条件範囲から選択する。
摩擦圧接による複合鋼材化
本発明が対象とする摩擦圧接による複合鋼材は、市販の摩擦圧接機により摩擦圧接が可能であれば、目的とする前記機械構造部品に応じて、本発明の低炭素鋼材に対して、種々の鋼種の相手鋼材が選択できる。また、本発明の低炭素鋼材形状や複合鋼材形状も、目的とする前記機械構造部品に応じて種々の形状が選択できる。例えば、本発明の低炭素鋼材同士を摩擦圧接しても良く、また、相手材をS45CやSCr420Hなどの機械構造用炭素鋼、合金鋼、V添加鋼、B添加鋼などとして、切削性や強度などの種々の特性を基準に選択して組み合わせても良い。また、形状も、摩擦圧接する鋼材同士の形状が異なっていても、同じあるいは類似であっても勿論良く、棒材同士の組み合わせ、頭部(円形材、角形材、傘状材、リング状材など)と軸となる棒材との組み合わせなど、自由に複合材形状が選択できる。
これら摩擦圧接による複合材は、主として、本発明の機械構造用鋼材側が浸炭、窒化、浸炭窒化などの表面硬化処理を施され、次いで、複合材全体あるいは本発明の機械構造用鋼材側だけが焼戻し処理されて、機械構造部品とされる。なお、機械構造部品としての用途に応じて、公知の防錆処理や防錆被覆などの適当な表面処理が施されても良い。
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
表1〜4に示す種々の成分組成の低炭素鋼を溶製後に、表5〜8に示す条件で熱間圧延あるいは熱間鍛造して、鋼中の化合物N、固溶N量、更にはMnSのアスペクト比と最大長さとを作り分けた、共通してφ80mmの丸棒(鋼材)を製造した。なお、表1〜4において、各元素が検出されない場合は空欄とし、下向きの矢印は上の欄の含有量と同じであることを示す。
そして、機械構造部品を模擬して、これら低炭素鋼材を、これら低炭素鋼材同士、および相手材をS45Cの鋼材として、各々摩擦圧接して複合鋼材とした。そして、表9〜12に示す通り、これら複合鋼材の衝撃特性、曲げ疲労特性を各々評価した。ここで、各表では同じ鋼種No.のものが同一の例を示しており、表1、表5、表9の各例が各々対応し、表2、表6、表10の各例が各々対応し、表3、表7、表11の各例が各々対応し、表4、表8、表12の各例が各々対応している。
低炭素鋼材の製造条件:
具体的には、本発明の鋼材組織を得るために、以下の製造工程を実施した。
溶解・鋳造:供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解し、上面:φ245mm×下面:φ210mm×長さ:480mmのインゴットに鋳造した。
ビレット鍛造:前記インゴットを1200℃に加熱して、ビレット(155mm角)に熱間鍛造し、冷却した。
ここで、表のうち、表5、6、7(表1、2、3)の鋼種1A〜2Zの低炭素鋼材は、熱間圧延により、下記の製造条件によって丸棒として製造した。
切断、溶接:この鍛造ビレットの端部を切断し、ダミービレット(155mm角×9〜10m長さ)を溶接した。
熱間圧延:このダミービレット溶接後のビレットを950〜1250℃の範囲で加熱後、750〜1050℃の範囲でΦ80mmの丸棒に熱間圧延し、圧延終了後、0.5〜2.0℃/sの冷却速度範囲で冷却した。
このうち、比較例である1C-5、1C-6、1C-9、1D-5の低炭素鋼材は、ビレット加熱温度、熱間圧延の温度、あるいは圧延終了後の冷却速度を、表5に示す通り、上記各好ましい条件から外して製造した。
また、表のうち、表8(表4)の鋼種3A〜3Mの低炭素鋼材は、熱間鍛造により、下記の製造条件によって丸棒として製造した。
熱間鍛造:前記鍛造ビレットを1200℃の範囲で加熱後、900℃でΦ80mmの丸棒に熱間鍛造し、鍛造終了後、1.0℃/sの冷却速度範囲で冷却した。
鋼組織
前記φ80の各丸棒(低炭素鋼材)は、組織観察の結果、発明例と1D-5以外の比較例のいずれも、フェライトとパーライトのみの2相が混在する混相であることを確認した。一方、圧延後の冷却速度が好ましい条件よりも速い1D-5は一部ベイナイトが生成していた。組織観察は、前記各丸棒を長手方向の中心で切断し、切断面(長手方向に対して90°方向の径方向断面)を樹脂に埋め込み、エメリー紙、ダイヤモンドバフで試料表面を鏡面研磨後、表面をナイタールでエッチングした。これを光学顕微鏡を用い、D/4位置を倍率400倍で観察した。
MnSの形状(アスペクト比、数)測定方法
前記φ80の各丸棒サンプルを圧延あるいは鍛造方向中心で切断し、樹脂に埋め込み、エメリー紙、ダイヤモンドバフで試料表面を鏡面研磨した。この研磨試料表面をナイタールでエッチング後、光学顕微鏡を用い、D/4 位置を倍率400 倍で観察し、5箇所写真撮影した。そして、最大長さが2μm 以上のMnS(硫化物系介在物)の個数を数えて5箇所の平均値を求め、このMnSの平均個数とした。また、これら最大長さが2μm 以上のMnSのアスペクト比を各々測定し、その平均値を、その鋼材におけるMnSのアスペクト比とした。なお、前記光学顕微鏡で観察される介在物のMnSか否かの確認、同定はX 線分光装置(EDX) により識別した。
鋼材の被削性測定方法
被削性は、前記φ80の各丸棒の旋削試験によって評価した。試験機として、NC旋盤を用い、被削性評価用試験片(φ80×350mmL)を旋盤加工した。この時用いた工具の逃げ面における工具摩耗量(Vb)の経時変化を測定し、以下の条件で3000m 削った後のVbを測定した。切削試験条件は以下のとおりである。
工具:TiAlN コーティングチップ
切削速度:200m/minで、周速一定
切削油:無し(乾式)
切り込み量:1.5mm
送り量:0.25mm/rev
そして、3000m 切削後のVb摩耗量が60μm 以下の鋼材を、被削性に優れるとして合格判定した。
冷鍛性評価方法
冷鍛性は、前記φ80の各丸棒の端面拘束圧縮試験によって評価した。試験機として、1600トンプレスを用い、冷鍛性評価用試験片(φ10×15mmL )を圧縮加工した。試験片は、圧延材のD/4 位置(D:直径)から切り出した。室温、ひずみ速度10/sで80%の圧縮加工を行った。圧縮後の試験片表面を倍率20倍の実体顕微鏡で観察し、割れの有無を確認した。割れのない鋼材を冷鍛性に優れるとして、合格判定した。
摩擦圧接試験
前記φ80の各丸棒の圧延あるいは鍛造方向に沿って、D/4位置からφ20mm×100mmLの棒材(試験片)を切出した。自動摩擦圧接機として日東制機(株)製の製品名FF−4511−Cを用い、ブレーキ法によって摩擦圧接した。即ち、前記切出した棒材同士(供試材同士の摩擦圧接鋼材)、および前記切出した棒材の相手材をS45Cの鋼材として(S45Cとの摩擦圧接鋼材)として、各々長手方向に端部同士を突き合わせた丸棒複合鋼材(鋼部品)として、各々摩擦圧接した。
摩擦圧接は、各例とも共通して以下の条件に従って行った。
摩擦圧力:100MPa
アップセット圧力(接合部への丸棒両端部からの加圧力):180MPa、
摩擦時間:10sec、
アップセット時間(接合部への加圧時間):10sec、
回転数:1600rpm、
全寄りしろ:8〜15mm(当初の丸棒長さからの縮み量)
摩擦圧接部品のMnSの形状(アスペクト比、数)測定方法
前記摩擦圧接によって形成された接合部から1mm幅の範囲の前記低炭素鋼材側の熱影響部の鋼中における、アスペクト比が2以下で、且つ、最大長さが1μm以下のMnSの個数を測定した。前記1mm幅の範囲内の前記低炭素鋼材側の熱影響部を任意の5箇所切断して、前記低炭素鋼材と同じ条件で処理して、光学顕微鏡を用い、D/4 位置を倍率400 倍で観察し、写真撮影した。そして、アスペクト比が2以下で、且つ、最大長さが1μm以下のMnSの個数を数えて5箇所の平均値を求めた。なお、前記光学顕微鏡で観察される介在物のMnSか否かの確認、同定はX 線分光装置(EDX) により識別した。
衝撃特性評価
Φ20mm×約200mmLの前記供試材同士の摩擦圧接鋼材およびS45Cとの摩擦圧接鋼材(丸棒複合鋼材)の中央位置から、接合部分がノッチ底となるように、1辺が10mmの正方形断面×55mmLのシャルピー試験片を作製した。なお、ノッチ形状は、R10(mm)とした。ノッチ導入面以外の3面にCuめっきを施した(TP加工)。そして、この作製試験片を930℃浸炭−油焼入れ(浸炭処理)した後、170℃で焼戻し処理を施した。
次いで、シャルピー衝撃試験機にて、前記焼戻し処理後の試験片の衝撃特性評価を行った。試験条件は、室温、負荷速度5m/sの条件で、5回シャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃値(吸収エネルギー)を測定した。そして、全ての接合部品で、吸収エネルギーが10J(ジュール)以上となる複合鋼材を合格とした。表9〜表12に記載したシャルピー値は、全て、この吸収エネルギーの値(単位:J)を示す。
疲労特性評価
Φ20mm×約200mmLの前記供試材同士の摩擦圧接鋼材およびS45Cとの摩擦圧接鋼材(丸棒複合鋼材)の中央位置から、接合部分がノッチ底となるように、1辺が13mmの正方形断面×100mmLの4点曲げ疲労試験片を作製した。なお、ノッチ形状は、R1.5(mm)とした。ノッチ導入面以外の3面にCuめっきを施した(TP加工)。そして、この作製試験片を930℃浸炭−油焼入れ(浸炭処理)した後、170℃で焼戻し処理を施した。
次いで、4点曲げ疲労試験機にて、前記試験片の疲労特性評価を行った。試験条件は、周波数20Hzで荷重4000N(応力609MPa)〜14000(応力2132MPa)の間で荷重を変化させた11水準で行い、2万回寿命に相当する応力(MPa)を求め、これを疲労強度の指標とした。本実施例では、疲労限応力が1000MPa以上となる試験片(複合鋼材)を合格とした。表9〜表12に記載した2万回寿命は、全て、この疲労限応力(単位:MPa)を示す。
表1から表12における、1A〜1Z、2A〜2J、3A〜3Mまでの発明例(但し、1C-5、1C-6、1C-9、1D-5は比較例であり除く)は、鋼成分組成や、鋼中の化合物Nの含有量、固溶N量で、かつ、最大長さが2μm以上のMnSの個数と平均アスペクト比が2以上で、本発明で規定する条件を満足する。
この結果、低炭素鋼材として、冷間鍛造などの冷間加工性や被削性が優れている。そして、前記摩擦圧接された摩擦圧接部品(複合鋼)としても、自動車のエンジン部品用途などとして、その接合強度が問われる(要求される)、衝撃特性、曲げ疲労特性が優れている。
これに対して、表1から表12における、1C-5、1C-6、1C-9、1D-5および2K〜2Zまでの比較例は、主要な元素の含有量が上下限を外れるか、鋼成分組成が本発明条件を満足するものの、製造条件が前記した好ましい範囲を外れる。この結果、これら比較例は、低炭素鋼材として、冷間鍛造などの冷間加工性や被削性が劣るか、前記摩擦圧接された摩擦圧接部品(複合鋼)としても、自動車のエンジン部品用途などとして、その接合強度が問われる(要求される)、衝撃特性、曲げ疲労特性が、前記発明例に比して、表9、表11の通り著しく劣っている。
表5に示す通り、比較例である1C-5、1C-6、1C-9、1D-5の低炭素鋼材は、ビレット加熱温度、熱間圧延の温度、あるいは圧延終了後の冷却速度を、上記各好ましい条件から外れて製造されている。
鋼種1C-5はビレット加熱温度が高すぎる。
鋼種1C-6は圧延温度が高すぎる。
鋼種1C-9は圧延温度が低すぎる。
鋼種1D-5は圧延終了後の冷却速度が速すぎる。
表1に示す通り、比較例である2K〜2Zの低炭素鋼材は、製法は好ましい条件範囲内であるが、主要な元素の含有量が上下限を外れている。
鋼種2K、2LはC含有量が上下限を各々外れている。
鋼種2M、2NはSi含有量が上下限を各々外れている。
鋼種2O、2PはMn含有量が上下限を各々外れている。
鋼種2QはP含有量が上限を外れている。
鋼種2R、2SはS含有量が上限を外れている。
鋼種2T、2UはCr含有量が上下限を各々外れている。
鋼種2V、2WはAl含有量が上下限を各々外れている。
鋼種2Xは化合物N含有量が下限を外れている。
鋼種2Yは全N含有量と固溶N量が上限を外れている。
鋼種2ZはP含有量が上限を外れている。
したがって、以上の実施例の結果から、本発明における鋼材の成分組成や組織、製法の、前記摩擦圧接された複合材として要求される衝撃特性、曲げ疲労特性を得るための臨界的な意義乃至効果が裏付けられる。
本発明によれば、疲労強度、衝撃強度などの部品特性を向上させた、摩擦圧接に適した機械構造用の低炭素鋼材および摩擦圧接部品を提供できる。このため、自動車のエンジン、変速機、差動機などに用いられる減速ギア、デフギアなど歯車、CVTプーリーなどの、摩擦圧接された機械構造部品として、好適に用いることができる。

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.08〜0.61%、Si:0.08〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、P:0.03%以下(但し0%を含まない)、S:0.005〜0.1%、Cr:0.4〜2%、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下(但し0%を含まない)を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、鋼中の化合物Nの含有量が0.006〜0.02%で、且つ、固溶N量が0.0015%以下(但し0%を含む)であり、最大長さが2μm以上のMnSが鋼中に1mm2 当たり100〜4000個存在し、これらMnSの平均アスペクト比が2以上であることを特徴とする摩擦圧接に適した機械構造用鋼材。
  2. 前記機械構造用鋼が、更に、質量%で、Ti:0.2%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.2%以下(但し0%を含まない)、V:0.2%以下(但し0%を含まない)、B:0.01%以下(但し0%を含まない)、Mo:1%以下(但し0%を含まない)、Cu:1%以下(但し0%を含まない)、Ni:1%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有する請求項1に記載の摩擦圧接に適した機械構造用鋼材。
  3. 前記機械構造用鋼が、更に、質量%で、Ca:0.02%以下(但し0%を含まない)、REM:0.02%以下(但し0%を含まない)、Li:0.005%以下(但し0%を含まない)、Mg:0.005%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有する請求項1または2に記載の摩擦圧接に適した機械構造用鋼材。
  4. 質量%で、C:0.08〜0.61%、Si:0.08〜0.5%、Mn:0.4〜1.5%、P:0.03%以下(但し0%を含まない)、S:0.005〜0.1%、Cr:0.4〜2%、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下(但し0%を含まない)を各々含み、残部Feおよび不可避的不純物からなるとともに、鋼中の化合物Nの含有量が0.006〜0.02%で、且つ、固溶N量が0.0015%以下(但し0%を含む)であり、最大長さが2μm以上のMnSが鋼中に1mm2 当たり100〜4000個存在し、これらMnSの平均アスペクト比が2以上である機械構造用鋼材と、他の炭素鋼材あるいは合金鋼材とが、摩擦圧接によって接合されて所望の形状の複合鋼とされ、更に、表面硬化処理および焼戻し処理が施されてなる摩擦圧接部品であって、前記摩擦圧接によって形成された接合部から1mm幅の範囲の前記機械構造用鋼材側の熱影響部の鋼中における、アスペクト比が2以下で、且つ、最大長さが1μm以下のMnSを、1mm2 当たり25個以下(但し0個を含む)に規制したことを特徴とする、衝撃特性、曲げ疲労特性に優れた摩擦圧接部品。
  5. 前記機械構造用鋼が、更に、質量%で、Ti:0.2%以下(但し0%を含まない)、Nb:0.2%以下(但し0%を含まない)、V:0.2%以下(但し0%を含まない)、B:0.01%以下(但し0%を含まない)、Mo:1%以下(但し0%を含まない)、Cu:1%以下(但し0%を含まない)、Ni:1%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有する請求項4に記載の衝撃特性、曲げ疲労特性に優れた摩擦圧接部品。
  6. 前記機械構造用鋼が、更に、質量%で、Ca:0.02%以下(但し0%を含まない)、REM:0.02%以下(但し0%を含まない)、Li:0.005%以下(但し0%を含まない)、Mg:0.005%以下(但し0%を含まない)の1種又は2種以上を含有する請求項4または5に記載の衝撃特性、曲げ疲労特性に優れた摩擦圧接部品。
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