JP7376784B2 - 熱間鍛造部品 - Google Patents

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Description

本開示は、熱間鍛造部品に関する。
ハブ等に代表される自動車部品には、鋼材を熱間鍛造して製造される熱間鍛造部品が主として使用されている。
熱間鍛造部品は通常、次の製造工程で製造される。素材に対して熱間鍛造を実施して、中間品を製造する。中間品に対して、焼入れ及び焼戻しを実施する。焼入れ及び焼戻しされた中間品に対して切削加工を実施して、最終製品形状に加工する。以上の工程により熱間鍛造部品が製造される。
熱間鍛造部品は、使用中において、繰り返しの圧縮荷重及び引張荷重を受ける。そのため、熱間鍛造部品には、優れた疲労強度が求められる。一方で、上述のとおり、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造を実施し、さらに、焼入れ及び焼戻しを実施した後、切削加工を実施して最終形状に加工される。そのため、熱間鍛造部品では、その製造工程において、優れた被削性も求められる。
被削性は鋼材の強度と負の相関がある。一方で、疲労強度は鋼材の強度と正の相関がある。そのため、疲労強度と被削性とは相反する特性である。一般的に、疲労強度を高めれば被削性が低下し、被削性を高めれば、疲労強度が低下する。したがって、熱間鍛造部品において、優れた疲労強度と優れた被削性との両立が求められている。
特開平6-306460号公報(特許文献1)は、疲労強度及び被削性に優れた熱間鍛造部品の製造方法を提案している。この文献では、質量%で、C:0.20~0.60%、Si:0.15~2.00%、Mn:0.55~2.00%、S:0.01~0.10%、P:0.035%以下、Al:0.015~0.05%、N:0.020%以下を含有し、さらに、V:0.03~0.70%、Ti:0.005~0.050%、Nb:0.005~0.20%のうち一種又は二種以上を含有し、残部が鉄及び不可避的不純物からなる成分の鋼材を用いて熱間鍛造を実施する。このとき、A)960~1350℃の加熱温度で鋼材を加熱し、B)加熱後の鋼材に対して、圧下率10~90%の鍛造を行い、直ちに20℃/秒以上の冷却速度で焼入れを行い、C)焼入れ後の鋼材に対して、400℃以上Ac1変態点未満の温度範囲で焼戻しを行う。これにより、優れた疲労強度が得られつつ、十分な被削性も得られる、と特許文献1には記載されている。
特開平6-306460号公報
しかしながら、特許文献1に記載の手段以外の他の手段により、高い被削性と高い疲労強度とを両立可能な熱間鍛造部品があってもよい。
本発明の目的は、高い被削性と高い疲労強度とを両立可能な熱間鍛造部品を提供することである。
本開示の熱間鍛造部品は、
表面から深さ3mm以上の内部における化学組成が、質量%で、
C:0.30~0.60%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.30~1.40%、
P:0.030%未満、
S:0.040~0.200%、
Cr:0.02~1.50%、
Al:0.010~0.100%、及び、
N:0.005~0.030%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、
前記熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の前記内部のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、
前記熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、縦50μm×横50μmの矩形の測定視野を表層部から5箇所、中心部から5箇所選定し、
前記各測定視野において、縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して区画された10×10個の微小領域の各々でナノインデンテーション硬さ(GPa)を測定し、
10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値Aveと定義し、
10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差σと定義し、
前記標準偏差σの前記算術平均値Aveに対する比を変動係数CVと定義したとき、
前記変動係数CVは、式(2)を満たす。
25≦7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])≦113 (1)
9.2≦CV≦13.0 (2)
ここで、式(1)中の[元素記号]には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本開示の熱間鍛造部品は、高い被削性と高い疲労強度とを両立可能である。
図1は、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面を示す図である。 図2は、図1中の表層部及び中心部から採取されたサンプルの測定視野の一例を示す図である。 図3は、本実施形態の熱間鍛造部品における、後述の疲労試験前の測定視野の一部の硬さ分布を示す図である。 図4は、本実施形態の熱間鍛造部品における、後述の疲労試験後の測定視野の一部の硬さ分布を示す図である。 図5は、行領域群R1~R10と、列領域群C1~C10とを説明するための、測定視野の一例を示す図である。 図6は、図5の測定視野中の行領域群R1の領域をハッチングで示した図である。 図7は、図5の測定視野中の行領域群R2の領域をハッチングで示した図である。 図8は、図5の測定視野中の列領域群C1の領域をハッチングで示した図である。 図9は、図5の測定視野中の列領域群C2の領域をハッチングで示した図である。 図10は、ミクロ組織におけるナノインデンテーション硬さの好ましい分布について説明するための図である。 図11は、図10と異なる、ミクロ組織におけるナノインデンテーション硬さの好ましい分布について説明するための図である。 図12は本実施形態の熱間鍛造部品の製造工程の一例を示すフロー図である。
本発明者らは、被削性と疲労強度という、相反する特性をともに高めることができる熱間鍛造部品について検討を行った。
初めに、本発明者らは、化学組成の観点から、高い被削性と高い疲労強度との両立を検討した。その結果、質量%で、C:0.30~0.60%、Si:0.01~0.50%、Mn:0.30~1.40%、P:0.030%未満、S:0.040~0.200%、Cr:0.02~1.50%、Al:0.010~0.100%、N:0.005~0.030%、Mo:0~0.20%、及び、残部がFe及び不純物からなる化学組成であれば、高い被削性及び高い疲労強度が得られる可能性があると考えた。
本発明者らは、化学組成の観点から、被削性及び疲労強度の両方を高める検討をさらに行った。その結果、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であって、かつ、次の式(1)を満たせば、被削性及び疲労強度がともに高まる可能性があることを見出した。
25≦7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])≦113 (1)
ここで、式(1)中の[元素記号]には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素含有量が化学分析において検出限界未満である場合、対応する元素記号には「0」を代入する。
次のとおり、F1を定義する。
F1=7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])
F1は、化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内である熱間鍛造部品の疲労強度及び被削性の指標である。F1が25未満である場合、熱間鍛造部品の疲労強度が十分に得られない。熱間鍛造部品の化学組成において、F1が25以上であれば、熱間鍛造部品の疲労強度が高まる。一方、F1が113を超えれば、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後、焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が十分に得られない。熱間鍛造部品の化学組成において、F1が113以下であれば、被削性を高めることができる。
本発明者らはさらに、上述の化学組成の観点だけでなく、ミクロ組織の観点から、熱間鍛造部品の被削性及び疲労強度の両方を高める検討を行った。その結果、化学組成の各元素含有量が上述の範囲内であって、かつ、F1が式(1)を満たす場合、ミクロ組織においてさらに、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であれば、高い被削性及び高い疲労強度の両立が可能であると考えた。
しかしながら、化学組成の各元素含有量が上述の範囲であって、F1が式(1)を満たし、さらに、ミクロ組織におけるマルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であっても、依然として、高い被削性及び高い疲労強度の両立が得られない場合があった。そこで、本発明者らは、ミクロ組織の観点から、高い被削性及び高い疲労強度の両立について、さらに検討を行った。
上述のとおり、被削性は、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造部品用の鋼材を熱間鍛造し、さらに、焼入れ及び焼戻しされた後の切削加工時に要求される特性である。つまり、被削性は、熱間鍛造部品の使用前に要求される特性である。一方、疲労強度は、熱間鍛造部品の使用中に要求される特性である。したがって、熱間鍛造部品において、使用前では被削性に優れ、使用中では疲労強度が高まるミクロ組織が、被削性と疲労強度との両立に極めて有効である。
そこで、本発明者らは、被削性と疲労強度とを両立させるために、ミクロ組織中のマルテンサイト及びベイナイトの総面積だけでなく、ミクロ組織中のマルテンサイト及びベイナイトの分布状態にも注目した。マルテンサイトの硬さはベイナイトの硬さよりも高い。したがって、熱間鍛造部品の使用前の被削性を考慮すれば、ミクロ組織中において、ある程度の量のベイナイトが分布していることが望ましい。一方、熱間鍛造部品の使用中の疲労強度を考慮すれば、ミクロ組織の硬さが高い方が好ましい。ミクロ組織の硬さは、疲労強度と正の相関を示すからである。
以上の検討の結果、使用前の熱間鍛造部品のミクロ組織では、ある程度の量のベイナイトが分布していることにより、被削性を高めることが有効である。一方、使用中の熱間鍛造部品のミクロ組織では、ミクロ組織中に分布しているベイナイトが、マルテンサイトに挟まれたり、囲まれたりしていることが、疲労強度を高めるのに有効である。ミクロ組織中に分布しているベイナイトが、マルテンサイトに挟まれたり、囲まれたりしていれば、使用中において、ベイナイトに応力が集中し、ベイナイトが加工硬化する。ベイナイトが加工硬化すれば、疲労強度を高めることができると考えられる。そこで、本発明者らは、被削性及び疲労強度の観点から、マルテンサイトとベイナイトとが適切な分布状態であるミクロ組織について検討を行った。
ミクロ組織中のマルテンサイトとベイナイトとを、光学顕微鏡観察によってコントラストにより区別することは極めて困難である。一方で、マルテンサイトとベイナイトとは硬さが異なる。そこで、本発明者らは、ミクロ組織を5μm×5μmの微小領域に区画して、各微小領域の硬さをナノインデンテーション法により求めることにより、ミクロ組織の硬さの分布を求め、得られた硬さの分布状態を、マルテンサイトとベイナイトとの分布状態に代替した。そして、ミクロ組織における硬さの分布状態と、被削性及び疲労強度との関係について、調査を行った。その結果、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、縦50μm×横50μmの矩形の測定視野を表層部から任意の5箇所、中心部から任意の5箇所選定し、各測定視野において、縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して区画された10×10個の微小領域の各々でナノインデンテーション硬さ(GPa)を測定し、10箇所の測定視野で測定された微小領域のナノインデンテーションの算術平均値を算術平均値Aveと定義し、10箇所の測定視野で測定された微小領域のナノインデンテーションの標準偏差を標準偏差σと定義し、標準偏差σの算術平均値Aveに対する比を変動係数CVと定義したとき、変動係数CVが式(2)を満たせば、優れた被削性と優れた疲労強度との両立が可能であることを見出した。
9.2≦CV≦13.0 (2)
以上の知見により完成した本実施形態の熱間鍛造部品は、次の構成を有する。
[1]
熱間鍛造部品であって、
表面から深さ3mm以上の内部における化学組成が、質量%で、
C:0.30~0.60%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:0.30~1.40%、
P:0.030%未満、
S:0.040~0.200%、
Cr:0.02~1.50%、
Al:0.010~0.100%、及び、
N:0.005~0.030%を含有し、
残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、
前記熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の前記内部のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、
前記熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、縦50μm×横50μmの矩形の測定視野を表層部から5箇所、中心部から5箇所選定し、
前記各測定視野において、縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して区画された10×10個の微小領域の各々でナノインデンテーション硬さ(GPa)を測定し、
10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値Aveと定義し、
10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差σと定義し、
前記標準偏差σの前記算術平均値Aveに対する比を変動係数CVと定義したとき、
前記変動係数CVは、式(2)を満たす、
熱間鍛造部品。
25≦7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])≦113 (1)
9.2≦CV≦13.0 (2)
ここで、式(1)中の[元素記号]には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
[2]
[1]に記載の熱間鍛造部品であって、
前記各測定視野の10×10個の前記微小領域において、
同じ行に配列されている10個の前記微小領域からなる領域群を行領域群R1~R10と定義し、
同じ列に配列されている10個の前記微小領域からなる領域群を列領域群C1~C10と定義し、
前記行領域群R1~R10の各々において、
前記行領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値RAveと定義し、
前記行領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Rσと定義し、
前記標準偏差Rσに対する前記算術平均値RAveの比を変動係数RCVと定義し、
隣り合う前記行領域群での前記変動係数RCVの差分の絶対値を差分値ΔRCVと定義し、
前記列領域群C1~C10の各々において、
前記列領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値CAveと定義し、
前記列領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Cσと定義し、
前記標準偏差Cσに対する前記算術平均値CAveの比を変動係数CCVと定義し、
隣り合う前記列領域群での前記変動係数CCVの差分の絶対値を差分値ΔCCVと定義したとき、
前記各測定視野において、前記差分値ΔRCVが1.0以下となる前記行領域群が連続して4個以下である、又は、
前記各測定視野において、前記差分値ΔCCVが1.0以下となる前記列領域群が連続して4個以下である、
熱間鍛造部品。
[3]
[1]又は[2]に記載の熱間鍛造部品であって、
前記化学組成がさらに、Feの一部に代えて、質量%で、
Mo:0.20%以下、
Ni:0.50%以下、
Cu:0.20%以下、
Ti:0.05%以下、及び、
Nb:0.100%以下、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
熱間鍛造部品。
[4]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱間鍛造部品であって、
前記化学組成がさらに、Feの一部に代えて、質量%で、
Ca:0.0050%以下、及び、
Pb:0.09%以下、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
熱間鍛造部品。
以下、本実施形態の熱間鍛造部品について詳しく説明する。各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
[化学組成]
本実施形態による熱間鍛造部品において、表面から3mm以上の内部における化学組成は、次の元素を含有する。表面から3mm以上の内部の化学組成を規定するのは、熱間鍛造部品が浸炭処理や窒化処理等の表面硬化処理を施されている場合、表面から深さ3mm以内の領域の化学組成は、表面から深さ3mm以上の内部の化学組成と異なる場合があるためである。
[必須元素について]
C:0.30~0.60%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性及び鋼材の硬さを高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。C含有量が0.30%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.60%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、熱間鍛造部品の被削性が低下する。したがって、C含有量は0.30~0.60%である。C含有量の好ましい下限は0.35%であり、さらに好ましくは0.38%であり、さらに好ましくは0.40%である。C含有量の好ましい上限は0.58%であり、さらに好ましくは0.56%であり、さらに好ましくは0.54%であり、さらに好ましくは0.50%である。
Si:0.01~0.50%
シリコン(Si)は、鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Si含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間鍛造性が低下する。したがって、Si含有量は0.01~0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.12%である。Si含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.47%であり、さらに好ましくは0.46%であり、さらに好ましくは0.45%である。
Mn:0.30~1.40%
マンガン(Mn)は鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Mn含有量が0.30%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が1.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、熱間鍛造部品の被削性が低下する。したがって、Mn含有量は0.30~1.40%である。Mn含有量の好ましい下限は0.40%であり、さらに好ましくは0.45%であり、さらに好ましくは0.50%であり、さらに好ましくは0.60%である。Mn含有量の好ましい上限は1.30%であり、さらに好ましくは1.20%であり、さらに好ましくは1.10%である。
P:0.030%未満
燐(P)は、不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは、粒界に偏析して熱間鍛造部品の強度を局所的に低下する。P含有量が0.030%以上であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、熱間鍛造部品の疲労強度が顕著に低下する。したがって、P含有量は0.030%未満である。P含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の過剰な低減は、製造コストを引き上げる。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。
S:0.040~0.200%
硫黄(S)は、主としてMnと結合して硫化物を形成し、熱間鍛造部品の被削性を高める。S含有量が0.040%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、S含有量が0.200%を超えれば、鋼材の熱間鍛造性が低下する。したがって、S含有量は0.040~0.200%である。S含有量の好ましい下限は0.050%であり、さらに好ましくは0.070%であり、さらに好ましくは0.080%である。S含有量の好ましい上限は0.180%であり、さらに好ましくは0.170%であり、さらに好ましくは0.160%であり、さらに好ましくは0.150%である。
Cr:0.02~1.50%
クロム(Cr)は鋼材の焼入れ性を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Cr含有量が0.02%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が1.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、熱間鍛造部品の被削性が低下する。したがって、Cr含有量は0.02~1.50%である。Cr含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.10%である。Cr含有量の好ましい上限は1.40%であり、さらに好ましくは1.35%であり、さらに好ましくは1.30%である。
Al:0.010~0.100%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Alはさらに、鋼中のNと結合してAlNを形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制する。そのため、熱間鍛造部品の疲労強度が高まる。Al含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、硬質な酸化物系介在物を形成して、熱間鍛造部品の熱間鍛造性が低下する。したがって、Al含有量は0.010~0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.030%である。Al含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.085%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.065%である。本実施形態の熱間鍛造部品において、Al含有量とは酸可溶Al(いわゆる「sol.Al」)を意味する。
N:0.005~0.030%
窒素(N)はAl、V及びNbと結合して窒化物又は炭窒化物を形成して、オーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、熱間鍛造部品の疲労強度が高まる。N含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.030%を超えれば、上記効果が飽和する。したがって、N含有量は0.005~0.030%である。N含有量の好ましい下限は0.008%であり、さらに好ましくは0.009%であり、さらに好ましくは0.010%である。N含有量の好ましい上限は0.025%であり、さらに好ましくは0.022%であり、さらに好ましくは0.020%である。
本実施の形態による熱間鍛造部品の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、熱間鍛造部品を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の熱間鍛造部品に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[任意元素について]
[第1の任意元素群]
本実施の形態による熱間鍛造部品の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Mo、Ni及びCuからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも、鋼材の焼入れ性を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。
Mo:0.20%以下
モリブデン(Mo)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。Moが含有される場合、Moは固溶強化により鋼材の強度を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間鍛造性が低下する。したがって、Mo含有量は0.20%以下である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Mo含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.15%である。
Ni:0.50%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。Niが含有される場合、Niは固溶強化により鋼材の強度を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間鍛造性が低下する。したがって、Ni含有量は0.50%以下である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Ni含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは、0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
Cu:0.20%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。含有される場合、Cuは固溶強化により鋼材の強度を高め、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間鍛造性が低下する。したがって、Cu含有量は0.20%以下である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cu含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.10%である。
[第2の任意元素群]
本実施の形態による熱間鍛造部品の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ti及びNbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも任意元素であり、いずれも、ピンニング効果により焼入れ処理時のオーステナイト粒の粗大化を抑制し、熱間鍛造部品の疲労強度を高める。
Ti:0.05%以下
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ti含有量は0%であってもよい。Tiが含有される場合、TiはC及び/又はNと結合して炭窒化物を形成し、ピンニング効果により、焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、熱間鍛造部品の疲労強度が高まる。Tiが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.05%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Ti炭窒化物が粗大化して、熱間鍛造部品の疲労強度が低下する。したがって、Ti含有量は0.05%以下である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Ti含有量の好ましい上限は0.04%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Nb:0.100%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。Nbが含有される場合、NbはC及び/又はNと結合して炭窒化物を形成し、ピンニング効果により、焼入れ時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する。これにより、熱間鍛造部品の疲労強度が高まる。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb炭窒化物が粗大化して、熱間鍛造部品の疲労強度が低下する。したがって、Nb含有量は0.100%以下である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.090%であり、さらに好ましくは0.080%であり、さらに好ましくは0.070%である。
[第3の任意元素群]
本実施の形態による熱間鍛造部品の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Ca及びPbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の被削性を高める。
Ca:0.0050%以下
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。Caが含有される場合、Caは、鋼材の切削加工中において、工具の刃先にベラーク(保護膜)を形成し、熱間鍛造部品の被削性を高める。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、上記効果が飽和し、製造コストが高くなる。したがって、Ca含有量は0.0050%以下である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0046%であり、さらに好ましくは0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。Pbが含有される場合、Pbは、熱間鍛造部品の被削性を高める。Pbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。しかしながら、Pb含有量が0.09%を超えれば、上記効果が飽和し、製造コストが高くなる。したがって、Pb含有量は0.09%以下である。Pb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.03%である。Pb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
[化学組成の分析方法ついて]
本実施形態の熱間鍛造部品の化学組成の分析は、周知の成分分析法により求めることができる。たとえば、本実施形態の熱間鍛造部品の化学組成を、次の方法で求める。熱間鍛造部品の表面の任意の位置から3mm以上の深さ位置から、サンプルを採取する。ドリルを用いてサンプルから切粉を生成し、その切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-OES(Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法により求める。具体的には、上記溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出して、C含有量及びS含有量を求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。
[式(1)について]
本実施形態の熱間鍛造部品の化学組成はさらに、式(1)を満たす。
25≦7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])≦113 (1)
ここで、式(1)中の[元素記号]には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。対応する元素含有量が化学分析において検出限界未満である場合、対応する元素記号には「0」を代入する。
次のとおり、F1を定義する。
F1=7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])
F1は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である熱間鍛造部品の焼入れ性及び被削性の指標である。F1が25未満である場合、熱間鍛造部品の疲労強度が十分に得られない。熱間鍛造部品の化学組成において、F1が25以上であれば、熱間鍛造部品の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、ミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、かつ、変動係数CVが後述の式(2)を満たすことを前提として、熱間鍛造部品の疲労強度が十分に高まる。
一方、F1が113を超えれば、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後、焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が十分に得られない。つまり、熱間鍛造部品の被削性が低い。熱間鍛造部品の化学組成において、F1が113以下であれば、熱間鍛造部品の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、ミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、かつ、変動係数CVが後述の式(2)を満たすことを前提として、熱間鍛造部品の製造工程中において、熱間鍛造後、焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が十分に高まる。
F1の好ましい下限は30であり、さらに好ましくは32であり、さらに好ましくは34であり、さらに好ましくは36である。F1の好ましい上限は110であり、さらに好ましくは105であり、さらに好ましくは104であり、さらに好ましくは100であり、さらに好ましくは95であり、さらに好ましくは90である。
[熱間鍛造部品のミクロ組織について]
本実施形態の熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の内部のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率は90%以上である。
本明細書でいう「マルテンサイト」は焼戻しマルテンサイトを含む。また、本明細書でいう「ベイナイト」は焼戻しベイナイトを含む。本実施形態の熱間鍛造部品のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイト以外の残部はフェライト及び/又はパーライトである。つまり、フェライト及びパーライトの総面積率は10%未満である。
なお、本実施形態の熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の内部のミクロ組織には、マルテンサイト、ベイナイト、フェライト及びパーライト以外に、炭化物、窒化物、炭窒化物等に代表される析出物や、介在物も存在する。しかしながら、これらの析出物及び介在物の総面積率は、マルテンサイト、ベイナイト、フェライト及びパーライトの面積率と比較して極めて小さく、無視できる。
なお、光学顕微鏡によるミクロ組織観察において、マルテンサイトとベイナイトとを区別することは極めて困難である。一方で、光学顕微鏡によるミクロ組織観察において、フェライトと、パーライトと、マルテンサイト及びベイナイトとは、コントラストにより極めて容易に区別できる。したがって、ミクロ組織観察において、フェライト及びパーライト以外の領域を、「マルテンサイト及びベイナイト」と認定する。
熱間鍛造部品において、ミクロ組織における各相(Phase)の面積率は、疲労強度に強く影響する。ミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%未満であれば、熱間鍛造部品の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F1が式(1)を満たしても、熱間鍛造部品において、十分な疲労強度が得られない。ミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であれば、熱間鍛造部品の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F1が式(1)を満たし、かつ、変動係数CVが後述の式(2)を満たすことを前提として、十分な被削性及び十分な疲労強度が得られる。
表面から深さ3mm以上の内部のミクロ組織中のマルテンサイト及びベイナイトの総面積率は、次の方法で測定できる。熱間鍛造部品の表面から3mm以上の深さ位置において、サンプルを採取する。観察視野(50μm×50μm)を確保できれば、サンプルの形状及びサイズは特に限定されない。サンプルの表面のうち、上記観察視野を含む観察面を鏡面研磨した後、ナイタル液に10秒程度浸漬してエッチングを実施し、組織を現出させる。エッチングにより組織が現出された観察視野を、1000倍の光学顕微鏡により観察する。観察視野の視野面積は2500μmとする。上述のとおり、観察視野中において、フェライトと、パーライトと、マルテンサイト及びベイナイトとは、コントラストに基づいて容易に区別できる。そこで、観察視野中のマルテンサイト及びベイナイトを特定して、特定されたマルテンサイト及びベイナイト領域の総面積を求める。求めたマルテンサイト及びベイナイト領域の総面積を、観察視野の総面積で除して、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)を求める。
[式(2)について]
本実施形態の熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、縦50μm×横50μmの矩形の測定視野を選定する。具体的には、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面が図1に示す円形状であり、半径をRと定義した場合、表面から3mm深さ~R/3深さまでの領域を、本明細書では「表層部」10Sと定義する。また、図1において、中心Cから径方向にR/3までの領域を、「中心部」10Cと定義する。表層部10Sからサンプルを採取し、さらに、中心部10Cからサンプルを採取する。サンプルの大きさは、上述の測定視野(50μm×50μm)を確保できれば、特に限定されない。なお、サンプルにおいて、測定視野を含む観察面は、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面と平行とする。
表層部10Sから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定する。同様に、中心部10Cから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定する。測定視野のサイズは、上述のとおり、50μm×50μmの矩形状とする。
図2は、図1中の表層部10S及び中心部10Cから採取されたサンプルの測定視野の一例を示す図である。図2を参照して、各測定視野50において、図中のV方向を縦方向と定義し、図中のH方向を横方向と定義する。測定視野50を縦方向に5μmピッチで10等分し、かつ、横方向に5μmピッチで10等分する。この場合、行列状に配置された10個×10個=100個の微小領域ARが区画される。
区画された各微小領域ARにおいて、ナノインデンテーション法による硬さ(GPa)を測定する。そして、10箇所の測定視野50で測定された全ての微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの算術平均値を、算術平均値Ave(GPa)と定義する。さらに、10箇所の測定視野50で測定された全ての微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの標準偏差を、標準偏差σと定義する。この場合、全ての微小領域ARでの変動係数CV(%)は次式で示される。
CV=σ/Ave×100
本実施形態の熱間鍛造部品では、ナノインデンテーション法により得られた微小領域ARの硬さの変動係数CV(%)が式(2)を満たす。
9.2≦CV≦13.0 (2)
マルテンサイトとベイナイトとは光学顕微鏡でのコントラストによる区別は困難である。しかしながら、マルテンサイトがベイナイトとは硬さが異なる。そこで、マルテンサイトとベイナイトとの分布状態を、硬さの分布状態に代替することは可能である。
しかしながら、硬さの分布状態をビッカース硬さ試験で実施しようとすれば、マルテンサイトとベイナイトとの分布状態を把握することは困難である。本実施形態の熱間鍛造部品では、マルテンサイトとベイナイトとがパケット単位で混在して分布している。ビッカース硬さ試験により硬さを測定する場合、使用される圧子の圧痕が100μm程度となる。これに対して、マルテンサイト及びベイナイトのパケットは数μmオーダーである。したがって、ビッカース硬さ試験による硬さ測定では、圧痕(100μm程度)がパケットのサイズ(数μm)よりもはるかに大きいため、マルテンサイトとベイナイトとの分布状況を把握することはできない。
そこで、本実施形態では、5μm×5μmの微小領域ARの硬さを、ナノインデンテーション法により求める。微小領域のサイズはパケットサイズに近いため、行列状に配置された微小領域AR(10行×10列)の硬さの分布は、マルテンサイトとベイナイトとの分布と相関する。
[変動係数CVについて]
微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの変動係数CVは、硬さばらつきの程度、つまり、ミクロ組織における、マルテンサイトとベイナイトとの分布状態を示す。
変動係数CVが9.2未満であれば、熱間鍛造部品における十分な疲労強度は得られるものの、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後に焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が低くなる。この場合、熱間鍛造部品のミクロ組織において、マルテンサイトの面積率が過剰に高く、ベイナイトの面積率が低いと考えられる。
一方、変動係数CVが13.0を超えれば、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後に焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性は十分であるが、疲労強度が低くなる。この場合、マルテンサイトの比率よりもベイナイトの比率が高くなっていると考えられる。
変動係数CVが9.2~13.0であれば、つまり、CVが式(2)を満たせば、熱間鍛造部品の化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F1が式(1)を満たし、かつ、ミクロ組織におけるマルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であることを前提として、ミクロ組織中に微小マルテンサイト領域と微小ベイナイト領域とが適量存在する。そのため、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後、焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が高まる。さらに、ミクロ組織中において、微小マルテンサイト領域に挟まれた微小ベイナイト領域、又は、微小マルテンサイト領域に囲まれた微小ベイナイト領域が適切に存在している。そのため、熱間鍛造部品の使用中において、外力が繰り返し付与された場合、ベイナイトはマルテンサイトよりも軟らかいため、微小マルテンサイト領域に挟まれた微小ベイナイト領域、及び、微小マルテンサイト領域に囲まれた微小ベイナイト領域にひずみが集中する。その結果、熱間鍛造部品の使用中において、ベイナイト領域で加工硬化が発生し、熱間鍛造部品において高い疲労強度が得られる。
図3は、本実施形態の熱間鍛造部品における、後述の疲労試験前の測定視野の一部の硬さ分布を示す図である。図4は、本実施形態の熱間鍛造部品における、後述の疲労試験後の測定視野の一部の硬さ分布を示す図である。
図3及び図4中において、明度が高い領域(つまり、白色領域)は硬さが低い領域を示し、明度が低い領域(つまり、黒色領域)は硬さが高い領域を示す。つまり、図3及び図4において、白色領域はベイナイト領域、黒色領域はマルテンサイト領域であることを示す。なお、図3及び図4の符号20は、ナノインデンテーション法による圧痕である。
図3及び図4を参照して、本実施形態の熱間鍛造部品では、疲労試験前(図3)と比較して、疲労試験後(図4)のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイト領域のうち、硬さが低い領域(明度が高い領域)が減少している。これは、疲労試験中において、微小マルテンサイト領域に挟まれた、又は、囲まれた微小ベイナイト領域に歪が集中し、ベイナイト領域が加工硬化したためと考えられる。
以上のとおり、本実施形態の熱間鍛造部品は、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であり、F1が式(1)を満たし、かつ、ミクロ組織におけるマルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの変動係数CVが9.2~13.0である。そのため、熱間鍛造部品の製造工程において、熱間鍛造後に焼入れ及び焼戻しされた鋼材の被削性が十分に高く、さらに、熱間鍛造部品の疲労強度も十分に高い。
[変動係数CVの測定方法]
ナノインデンテーション法による変動係数CVは次の方法により求めることができる。
熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面を観察面とする、サンプルを採取する。たとえば、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面が図1に示す円形状であり、半径をRと定義した場合、表面から3mm深さ~R/3深さまでの範囲の領域である表層部10S内において、サンプルを採取する。さらに、中心Cから径方向にR/3までの中心部10Cから、サンプルを採取する。各サンプルのサイズは、上述の測定視野を確保できれば、特に限定されない。測定視野を含む観察面は、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面と平行とする。
各サンプルの観察面に対して、コロイダルシリカを用いた鏡面研磨を実施する。鏡面研磨後、表層部10Sから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定する。測定視野のサイズは50μm×50μmとする。同様に、中心部10Cから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定する。測定視野のサイズは50μm×50μmとする。
各測定視野において、図2に示すとおり、測定視野50を縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して、10個×10個=100個の微小領域AR(5μm×5μm)を区画する。
各微小領域ARに対して、ナノインデンテーション法による硬さ(GPa)を測定する。具体的には、ナノインデンター装置を用いて、各微小領域ARの硬さを測定する。このとき、試験力(負荷荷重)を3000μNとする。
以上の方法により、10個の測定視野の各微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さ(GPa)を求める。
10個の測定視野において得られた、1000個(100個×10個)の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さを、硬さの高い順に並べた場合の最上位から5%(50個)、及び、最下位から5%(50個)のデータを対象外とする。これらのデータには測定誤差が含まれている可能性があるためである。そして、対象となる900個の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの算術平均値Aveを求める。さらに、対象となる900個の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さと、算術平均値Aveとを用いて、微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの標準偏差σを求める。さらに、得られた算術平均値Ave及び標準偏差σを用いて、次の式に基づいて、変動係数CVを求める。
CV=σ/Ave
[好ましいミクロ組織について]
上述の測定方法において選定された10個の測定視野50においてさらに、次のとおり、行領域群R1~R10と、列領域群C1~C10とを定義する。
図5は、行領域群R1~R10と、列領域群C1~C10とを説明するための、測定視野50の一例を示す図である。図5を参照して、上述のとおり、測定視野50は、縦方向に10個の微小領域ARで区分され、横方向に10個の微小領域ARで区分されている。つまり、測定視野50は、10×10=100個の微小領域ARで区分されている。
ここで、同じ行に配列されている10個の微小領域ARからなる領域群を縦方向順に(図5では縦方向の上から下に向かって順に)、行領域群R1~R10と定義する。同様に、同じ列に配列されている10個の微小領域ARからなる領域群を、横方向順に(図5では、横方向の左から右に向かって順に)、列領域群C1~C10と定義する。この場合、図6に示すハッチングされた領域が、行領域群R1に相当し、図7に示すハッチングされた領域が、行領域群R2に相当する。また、図8に示すハッチングされた領域が列領域群C1に相当し、図9に示すハッチングされた領域が列領域群C2に相当する。
[行領域群R1~R10での定義]
行領域群R1~R10の各々において、行領域群内の10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値RAveと定義する。さらに、行領域群内の10個の微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Rσと定義する。標準偏差Rσの算術平均値RAveに対する比を変動係数RCVと定義する。さらに、隣り合う行領域群での変動係数RCVの差分の絶対値を差分値ΔRCVと定義する。
たとえば、行領域群R1における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値RAveを「RAve」とし、標準偏差Rσを「Rσ」とし、変動係数RCVをRCVとする。行領域群R2における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値RAveを「RAve」とし、標準偏差Rσを「Rσ」とし、変動係数RCVをRCVとする。つまり、各行領域群Rn(n=1~10の整数)における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値RAveを「RAve」とし、標準偏差Rσを「Rσ」とし、変動係数RCVをRCVとする。この場合、隣り合う行領域群R1及びR2での変動係数RCVの差分値ΔR1~2CVは次の式で示される。
ΔR1~2CV=|RCV-RCV|
同様に、隣り合う行領域群R2及びR3での変動係数RCVの差分値ΔRC2~3Vは次の式で示される。
ΔR2~3CV=|RCV-RCV|
つまり、隣り合う行領域群Rk及びRk+1(k=1~9の整数)での変動係数RCV及びRk+1CVの差分値ΔRk~k+1CVは次の式で示される。
ΔRk~k+1CV=|RCV-Rk-1CV|
[列領域群C1~C10での定義]
列領域群C1~C10の各々において、列領域群内の10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値CAveと定義する。さらに、行領域群内の10個の微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Cσと定義する。標準偏差Cσに対する算術平均値CAveの比を変動係数CCVと定義する。さらに、隣り合う行領域群での変動係数CCVの差分の絶対値を差分値ΔCCVと定義する。
たとえば、列領域群C1における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値CAveを「CAve」とし、標準偏差Cσを「Cσ」とし、変動係数CCVをCCVとする。列領域群C2における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値CAveを「CAve」とし、標準偏差Cσを「Cσ」とし、変動係数CCVをCCVとする。つまり、各列領域群Cn(n=1~10の整数)における10個の微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値CAveを「CAve」とし、標準偏差Cσを「Cσ」とし、変動係数CCVをCCVとする。この場合、隣り合う列領域群C1及びC2での変動係数CCVの差分値ΔC1~2CVは次の式で示される。
ΔC1~2CV=|CCV-CCV|
同様に、隣り合う列領域群C2及びC3での変動係数CCVの差分値ΔCC2~3Vは次の式で示される。
ΔCCV=|CCV-CCV|
つまり、隣り合う列領域群Ck及びCk+1(k=1~9の整数)での変動係数CCV及びCk+1CVの差分値ΔCk~k+1CVは次の式で示される。
ΔCk~k+1CV=|CCV-Ck-1CV|
以上のとおり、行領域群R1~R10を定義し、列領域群C1~C10を定義する。このとき、本実施形態の熱間鍛造部品において、好ましくは、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群は連続して4個以下である、又は、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域は連続して4個以下である。以下、この点について説明する。
各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群が連続して4個以下であるとは、次の事項を意味する。たとえば、隣り合う行領域群R1及びR2の差分値ΔR1~2CVが1.0以下であり、隣り合う行領域群R2及びR3の差分値ΔR2~3CVが1.0以下であり、隣り合う行領域群R3及びR4の差分値ΔR3~4CVが1.0以下であり、隣り合う行領域群R4及びR5の差分値ΔR4~5CVが1.0超であると仮定する。この場合、差分値ΔRCVが1.0以下である行領域群は行領域群R1~R4である。つまり、差分値ΔRCVが1.0以下である行領域群は連続して4個以下となっている(この場合は連続して4個となっている)。この場合、図10に示すハッチングされた領域(行領域群R5~R10)では少なくとも、微小マルテンサイトと微小ベイナイトとがより適切に分布しており、より具体的には、微小マルテンサイト領域に挟まれた微小ベイナイト領域、又は、微小マルテンサイト領域に囲まれた微小ベイナイト領域がより適切に存在している。そのため、熱間鍛造部品の疲労強度がさらに高まる。
また、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域群が連続して4個以下であるとは、次の事項を意味する。たとえば、隣り合う列領域群C1及びC2の差分値ΔC1~2CVが1.0以下であり、隣り合う列領域群C2及びC3の差分値ΔC2~3CVが1.0以下であり、隣り合う列領域群C3及びC4の差分値ΔC3~4CVが1.0以下であり、隣り合う列領域群C4及びC5の差分値ΔC4~5CVが1.0超であると仮定する。この場合、差分値ΔCCVが1.0以下である列領域群は列領域群C1~C4である。つまり、差分値ΔCCVが1.0以下である列領域群は連続して4個以下となっている(この場合は連続して4個となっている)。この場合、図11に示すハッチングされた領域(列領域群C5~C10)では少なくとも、微小マルテンサイトと微小ベイナイトとがより適切に分布しており、より具体的には、微小マルテンサイト領域に挟まれた微小ベイナイト領域、又は、微小マルテンサイト領域に囲まれた微小ベイナイト領域がより適切に存在している。そのため、熱間鍛造部品の疲労強度がさらに高まる。
上述のとおり、好ましくは、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群は連続して4個以下である、又は、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域は連続して4個以下である。つまり、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群は連続して4個以下であり、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域群は連続して4個以下でなくてもよい。また、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群は連続して4個以下でなく、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域群は連続して4個以下であってもよい。さらに、各測定視野(合計10箇所)において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群は連続して4個以下であり、かつ、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域群は連続して4個以下であってもよい。
[ナノインデンテーション硬さの好ましい算術平均値Aveについて]
好ましくは、10箇所の測定視野で測定された微小領域ARのナノインデンテーション硬さの算術平均値Aveは1.90GPa以上であり、さらに好ましくは1.91GPa以上である。この場合、疲労強度がさらに高まる。
[熱間鍛造部品の最表層(表面から深さ3.0mm未満の領域)について]
本実施形態の熱間鍛造部品のうち、表面から深さ3.0mm未満の領域を、最表層と定義する。本実施形態の熱間鍛造部品の最表層は、表面硬化処理が施されていてもよいし、表面硬化処理が施されていなくてもよい。表面硬化処理はたとえば、浸炭処理、窒化処理(軟窒化処理も含む)、高周波焼入れ処理等である。表面硬化処理を施されていない場合、及び、高周波焼入れ処理を施した場合の最表層の化学組成は、表面から深さ3.0mm以上の内部の化学組成と同じである。一方、浸炭処理及び窒化処理が施された場合の最表層の化学組成が表面から深さ3.0mm以上の内部の化学組成と異なる化学組成となることは、当業者に極めて周知の事項である。
[製造方法]
本実施形態の熱間鍛造部品の製造方法の一例を説明する。以降に説明する製造方法は、本実施形態の熱間鍛造部品を製造するための一例である。したがって、本実施形態の熱間鍛造部品は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の熱間鍛造部品の製造方法の好ましい一例である。
図12は本実施形態の熱間鍛造部品の製造工程の一例を示すフロー図である。図12を参照して、本実施形態の熱間鍛造部品の製造工程は、素材準備工程(S1)と、熱間鍛造工程(S2)と、デスケーリング工程(S3)と、スケール薄膜形成工程(S4)と、焼入れ工程(S5)と、焼戻し工程(S6)と、切削工程(S7)とを含む。
従前の熱間鍛造部品の製造工程の場合、熱間鍛造工程(S2)後の中間品に対して、焼入れ工程(S5)を実施する。しかしながらこの場合、本実施形態の熱間鍛造部品のように、変動係数CVが式(2)を満たすようなマルテンサイト及びベイナイトの分布状態を有するミクロ組織が得られない。
そこで、本実施形態では、上述のミクロ組織を実現するために、熱間鍛造工程(S2)後であって焼入れ工程(S5)前に、デスケーリング工程(S3)及びスケール薄膜形成工程(S4)を実施する。これにより、焼入れ工程(S5)前の中間品の表面に、適度な量の酸化皮膜を形成することができる。そのため、焼入れ工程(S5)及び焼戻し工程(S6)後において、本実施形態のミクロ組織を実現できる。以下、各工程(S1~S7)について説明する。
[素材準備工程(S1)]
素材準備工程(S1)では、熱間鍛造部品の素材を準備する。素材は、第三者から供給されたものであってもよし、製造したものであってもよい。素材を製造する場合、たとえば、次の工程を実施して素材を製造する。
はじめに、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内であって、かつ、式(1)を満たす化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により鋳片(スラブ又はブルーム)を製造する。
鋳片に対して、熱間加工を実施して、棒鋼を製造する(熱間加工工程)。熱間加工工程はたとえば、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程とを含む。
粗圧延工程では、鋳片を熱間加工してビレットを製造する。熱間加工はたとえば、熱間圧延である。熱間圧延はたとえば、分塊圧延機、及び、複数のスタンドが一列に並び、各スタンドが複数のロールを有する連続圧延機を利用して実施する。熱間圧延されたビレットを冷却する。粗圧延工程での熱間圧延前の鋳片の加熱温度は、周知の温度で足り、たとえば、1000~1300℃である。
仕上げ圧延工程では、粗圧延工程後のビレットを用いて棒鋼を製造する。具体的には、仕上げ圧延機を用いて、加熱後のビレットを周知の方法で仕上げ圧延(熱間圧延)し、熱間鍛造部品の素材(本例では棒鋼)を製造する。仕上げ圧延機は、一列に並んだ複数の圧延スタンドを有する。各スタンドは、パスライン周りに配置された複数のロール(ロール群)を有する。各スタンドのロール群が孔型を形成し、ビレットが孔型を通過するときに圧下され、棒鋼が製造される。仕上げ圧延工程でのビレットの加熱温度は、周知の温度で足り、たとえば、900~1300℃である。
以上の製造工程により、熱間鍛造部品の素材(本例では棒鋼)が製造される。
[熱間鍛造工程(S2)]
熱間鍛造工程(S2)では、素材を熱間鍛造して、中間品を製造する。始めに、素材を高周波誘導加熱炉で加熱する。加熱温度は1000~1300℃であり、好ましくは、1100~1300℃である。高周波誘導加熱炉での加熱時間は特に限定されないが、好ましい加熱時間は1~15分である。加熱後の素材に対して熱間鍛造を実施して、熱間鍛造部品の最終形状に近い形状を有する中間品を製造する。熱間鍛造後の中間品は、常温まで放冷される。
[デスケーリング工程(S3)]
デスケーリング工程(S3)では、熱間鍛造工程(S2)後の中間品の表面に形成されているスケールを除去する。具体的には、デスケーリング装置を用いて、高圧の液体流体を中間品の表面に噴射して、中間品の表面に形成されているスケールを除去する。液体流体はたとえば水である。中間品の表面に形成されたスケールを除去できれば、デスケーリング装置の液体流体の噴射条件は特に制限されない。
[スケール薄膜形成工程(S4)]
スケール薄膜形成工程(S4)では、デスケーリング工程(S3)後の中間品の表面に適切な厚さの酸化皮膜を形成する。スケール薄膜形成工程(S4)を実施することにより、適切な量のスケールが中間品の表面に形成される。スケール薄膜形成工程(S4)により形成されたスケールの存在により、焼入れ工程(S5)及び焼戻し工程(S6)後の熱間鍛造部品のミクロ組織が、本実施形態のミクロ組織となる。
スケール薄膜形成工程(S4)では、条件1を満たし、好ましくは、条件1及び条件2を満たす。つまり、条件1は必須の条件であり、条件2は満たさなくてもよい。
条件1:900~1000℃の熱処理温度で20~60分保持する。
条件2:保持時間経過後の熱処理温度から200℃までの平均冷却速度CR1を1.0℃/秒以上とする。
[条件1について]
始めに、デスケーリング工程(S3)後の中間品を熱処理炉に挿入して、900~1000℃の熱処理温度で20~60分の保持時間を保持する。
900~1000℃の熱処理温度での保持時間が20分未満であれば、中間品の表面に十分な厚さのスケールが形成されない。この場合、次工程の焼入れ工程を実施すれば、熱間鍛造部品のミクロ組織において、ベイナイト比率に対してマルテンサイト比率が過剰に高くなる。その結果、変動係数CVが9.2未満になる。
一方、900~1000℃の熱処理温度での保持時間が60分を超えれば、中間品の表面に過剰に厚いスケールが形成されてしまう。この場合、次工程の焼入れ工程を実施すれば、熱間鍛造部品のミクロ組織において、ベイナイト比率がマルテンサイト比率に対して過剰に高くなる。その結果、変動係数CVが13.0を超えたりする。
900~1000℃の熱処理温度での保持時間が20~60分であれば、条件2を満たすことを前提として、中間品の表面に適切な厚さのスケールが形成される。そのため、次工程の焼入れ工程(S5)を実施すれば、熱間鍛造部品のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、かつ、適切な量のマルテンサイトと適切な量のベイナイトとが分布している状態となる。そのため、変動係数CVが式(2)を満たす。
[条件2について]
900~1000℃の熱処理温度で20~60分の保持時間を保持した後、中間品を熱処理炉から抽出して冷却する。このとき、冷却速度は特に限定されない。好ましくは、熱処理温度から200℃までの平均冷却速度CR1を1.0℃/秒以上である。
平均冷却速度が1.0℃/秒以上であれば、条件1を満たすことを前提として、中間品の表面に、さらに適切な厚さのスケールが形成される。そのため、次工程の焼入れ工程(S5)を実施すれば、熱間鍛造部品のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、かつ、適切な量のマルテンサイトと適切な量のベイナイトとが分布している状態となる。そのため、変動係数CVが式(2)を満たす。さらに、上述の各測定視野において、差分値ΔRCVが1.0以下となる行領域群が連続して4個以下となる、又は、差分値ΔCCVが1.0以下となる列領域が連続して4個以下となる。
[焼入れ工程(S5)]
焼入れ工程(S5)では、スケール薄膜形成工程(S4)後の中間品に対して焼入れを実施する。焼入れ条件は周知の条件で足りる。たとえば、中間品をAc3変態点以上で20~40分保持する。好ましくは、900~1150℃で20~40分保持する。保持後、水冷又は油冷する。
本実施形態では、上述のデスケーリング工程(S3)及びスケール薄膜形成工程(S4)により適切な量のスケールが形成されているため、焼入れ時の冷却速度が過剰に速くなるのを抑制することができる。そのため、熱間鍛造部品のミクロ組織がフルマルテンサイト組織とならず、変動係数CVが式(2)を満たすマルテンサイト及びベイナイトの混合組織となる。
[焼戻し工程(S6)]
焼戻し工程(S6)では、焼入れ工程(S5)後の中間品に対して、焼戻しを実施する。焼戻し条件は周知の条件で足りる。たとえば、中間品を500~Ac1変態点で、20~40分保持する。その後、中間品を冷却する。冷却条件は特に限定されないが、たとえば放冷である。
[切削工程(S7)]
切削工程(S7)では、焼戻し工程(S6)後の中間品に対して切削加工を実施して、最終製品の形状とし、熱間鍛造部品を製造する。本実施形態では、焼戻し工程(S6)後の中間品のミクロ組織(つまり、熱間鍛造部品のミクロ組織と同じ)において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、硬さの算術平均値Aveが19.0GPa以上となり、かつ、変動係数CVが式(2)を満たす。そのため、十分な被削性を有する。
以上の製造工程により、本実施形態の熱間鍛造部品が製造できる。なお、本実施形態の熱間鍛造部品は、上述の構成を備えれば、上記製造工程に限定されない。しかしながら、上述の製造方法は、本実施形態の熱間鍛造部品の製造方法の好適な一例である。
本実施形態の熱間鍛造部品は、熱間鍛造により製造される部品に広く適用可能である。熱間鍛造部品はたとえば、ハブやスピンドルに代表される自動車部品に適用可能である。
実施例により本実施形態の熱間鍛造部品の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の熱間鍛造部品の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の熱間鍛造部品はこの一条件例に限定されない。
[熱間鍛造部品の製造工程]
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。
Figure 0007376784000001
表1中のF1には、上述のF1値が記載されている。表1中の「-」は対応する元素含有量が検出限界未満であったことを示す。
表1の溶鋼を用いて、連続鋳造法により鋳片を製造した。鋳片を1250℃で加熱した。加熱後の鋳片に対して分塊圧延機、及び、分塊圧延機の下流に配置された連続圧延機を用いて熱間圧延(粗圧延)を実施して、ビレットを製造した。ビレットを1200℃に加熱した後、連続圧延機を用いて熱間圧延(仕上げ圧延)を実施して、直径50mmの棒鋼を製造した。
棒鋼に対して熱間鍛造を実施して、直径30mmの丸棒の中間品を製造した。具体的には、熱間鍛造前に、棒鋼を1200℃で加熱した。1200℃の棒鋼に対して熱間鍛造を実施して、中間品を製造した。熱間鍛造後、中間品を常温まで放冷した。
熱間鍛造工程後の丸棒に対して、デスケーリング工程を実施して、中間品の表面に形成されているスケールを除去した。なお、試験番号51の中間品については、デスケーリング工程を実施しなかった。
デスケーリング工程後(試験番号51は熱間鍛造工程後)、試験番号52以外の中間品に対してスケール薄膜形成工程を実施した。各試験番号でのスケール薄膜形成工程では、いずれも、熱処理温度を950℃とした。各試験番号のスケール薄膜形成工程での熱処理温度での保持時間(分)、及び、熱処理温度から200℃までの平均冷却速度(℃/秒)を表2に示す。なお、試験番号52の中間品に対しては、スケール薄膜形成工程を実施しなかった。
Figure 0007376784000002
スケール薄膜形成工程後(試験番号52はデスケーリング工程後)の中間品に対して、焼入れ工程を実施した。焼入れ温度はいずれも1100℃であり、焼入れ温度での保持時間は30分であった。保持時間経過後の中間品を水冷した。焼入れ工程後の中間品に対して、焼戻し工程を実施した。焼戻し温度は650℃であり、保持時間は30分であった。
以上の工程により、各試験番号の熱間鍛造部品を製造した。各試験番号の熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の内部の化学組成を、次の方法により測定した。熱間鍛造部品の表面の任意の位置で3.5mmの深さ位置から、サンプルを採取した。ドリルを用いてサンプルから切粉を生成し、その切粉を採取した。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得た。溶液に対して、ICP-OES(Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施した。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法により求めた。具体的には、上記溶液を酸素気流中で高周波加熱により燃焼して、発生した二酸化炭素、二酸化硫黄を検出して、C含有量及びS含有量を求めた。以上の方法により得られた各試験番号の熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の内部の化学組成は、表1と同じであった。
[評価試験]
[ミクロ組織観察試験]
各試験番号の熱間鍛造部品のR/2位置(熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、半径Rの中央位置)を含むサンプルを採取した。サンプル表面のうち、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面と平行な表面を観察面とした。観察面を鏡面研磨した後、ナイタル液に10秒浸漬してエッチングを実施して組織を現出させた。エッチングにより組織が現出された観察面のうち、任意の1視野(50μm×50μm)を、1000倍の光学顕微鏡により観察した。上述のとおり、観察視野中において、フェライトと、パーライトと、マルテンサイト及びベイナイトとは、コントラストに基づいて容易に区別できた。そこで、観察視野中のマルテンサイト及びベイナイトを特定して、マルテンサイト及びベイナイト領域の総面積を求めた。求めたマルテンサイト及びベイナイト領域の面積を、観察視野の総面積で除して、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)を求めた。求めたマルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)を表2に示す。
[ナノインデンテーション法による硬さ測定試験]
各試験番号の熱間鍛造部品において、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面を観察面とした、サンプルを採取した。具体的には、図1に示すとおり、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、表面から3.0mm深さ~R/3深さまでの表層部10S内において、サンプルを採取した。さらに、中心Cから径方向にR/3までの中心部10Cから、サンプルを採取した。測定視野を含む観察面は、熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面と平行とした。
各サンプルの観察面に対して、コロイダルシリカを用いた鏡面研磨を実施した。鏡面研磨後、表層部10Sから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定した。測定視野のサイズは50μm×50μmとした。同様に、中心部10Cから採取したサンプルの観察面から、任意の5箇所の測定視野を選定した。測定視野のサイズは50μm×50μmとした。
各測定視野において、図2に示すとおり、測定視野50を縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して、10個×10個=100個の微小領域AR(5μm×5μm)を区画した。
各微小領域ARに対して、ナノインデンテーション法による硬さ(GPa)を測定した。本実施例では、ナノインデンター装置として、BRUKER社製ナノインデンター、TrboIndenterを用いた。ナノインデンター装置を用いて、各微小領域ARの硬さを測定した。このとき、試験力(負荷荷重)を3000μNとした。
以上の方法により、10個の測定領域の各微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さ(GPa)を求めた。10個の測定視野において得られた、1000個(100個×10個)の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さのうち、最上位から5%(50個)、及び、最下位から5%(50個)のデータを対象外とした。そして、対象となる900個の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの算術平均値Aveを求めた。さらに、対象となる900個の微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さと、算術平均値Aveとを用いて、微小領域ARのナノインデンテーション法による硬さの標準偏差σを求めた。さらに、得られた算術平均値Ave及び標準偏差σを用いて、次の式に基づいて、変動係数CVを求めた。
CV=σ/Ave
得られた算術平均値Ave及び変動係数CVを表2に示す。
[行領域群連続個数及び列領域群連続個数測定試験]
上述の各測定視野(合計10箇所)の行領域群R1~R10の各々において、行領域群内の10個の微小領域ARのナノインデンテーションの算術平均値を算術平均値RAveと定義した。行領域群内の10個の微小領域のナノインデンテーションの標準偏差を標準偏差Rσと定義した。標準偏差Rσに対する算術平均値RAveの比を変動係数RCVと定義した。隣り合う行領域群での変動係数RCVの差分の絶対値をΔRCVと定義した。同様に、各測定視野50の列領域群C1~C10の各々において、列領域群内の10個の微小領域ARのナノインデンテーションの算術平均値を算術平均値CAveと定義した。行領域群内の10個の微小領域のナノインデンテーションの標準偏差を標準偏差Cσと定義した。標準偏差Cσに対する算術平均値CAveの比を変動係数CCVと定義した。隣り合う行領域群での変動係数CCVの差分の絶対値をΔCCVと定義した。
10個の測定視野において、ΔRCVが1.0以下となる行領域群の連続個数の最大値を求めた。求めた最大値を表2の「行領域群連続個数」欄に示す。さらに、ΔCCVが1.0以下となる列領域群の連続個数の最大値を求めた。求めた最大値を表2の「列領域群連続個数」欄に示す。
[被削性評価試験]
各試験番号の熱間鍛造部品から、直径30mm、長さ21mmの丸棒試験片を採取した。丸棒試験片の端面(円形の表面)に対して、ドリルを用いて穿孔試験を実施した。ドリルは、株式会社不二越製の型番SD3.0を用いた。穿孔試験でのドリルの1回転辺りの送り量を0.25mmとし、1孔の深さを9mmとした。いずれの試験番号の試験片に対しても、同じ水溶性切削油を用いて穿孔試験を実施した。各試験番号において、切削総長さが1000mmとなるまで切削可能な切削速度のうち、最大の切削速度VL1000(m/分)を求めた。
切削速度VL1000(m/分)が20.0m/分以上であれば、被削性に特に優れると判断した(表2中の被削性欄で「E」(Excellent)で表示)。切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分以上20.0m/分未満であれば、被削性に優れると判断した(表2中の被削性欄で「G」(Good)で表示)。切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であれば、被削性が低いと判断した(表2中の被削性欄で「B」(Bad)で表示)。
[疲労強度評価試験]
各試験番号の熱間鍛造部品から、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験片を採取した。小野式回転曲げ疲労試験片の中心軸は、熱間鍛造部品の中心軸と同軸であった。上記の小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、常温、大気雰囲気中にて、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験を実施した。回転数を3000rpmとし、応力負荷繰返し回数が10サイクル後において破断しなかった最大応力を疲労強度(MPa)とした。
疲労強度を次のとおり評価した。
E(Excellent):疲労強度が430MPa超
G(Good):疲労強度が410~430MPa
P(Passed):疲労強度が390~410MPa未満
B(Bad):疲労強度が390MPa未満
疲労強度が390MPa以上であれば(つまり、評価が「P」、「G」、又は、「E」であれば)、疲労強度に優れると判断した。
[評価結果]
評価結果を表2に示す。表1及び表2を参照して、試験番号1~38及び55では化学組成中の各元素含有量が適切であり、F1が式(1)を満たした。さらに、製造条件が適切であった。そのため、ミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率はいずれも90%以上であった。さらに、ミクロ組織において、ナノインデンテーション法による硬さの変動係数CVが9.2~13.0の範囲内であった。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分以上であり、被削性に優れた。さらに、疲労強度はいずれも390MPa以上であり、疲労強度に優れた。
なお、試験番号32では、Moが0.01%以上含有されており、試験番号33ではNiが0.01%以上含有されており、試験番号34では、Cuが0.01%以上含有されていた。試験番号35では、Tiが0.01%以上含有されており、試験番号36では、Nbが0.001%以上含有されていた。そのため、これらの試験番号では、疲労強度が430MPa超であり、非常に優れた疲労強度が得られた。
また、試験番号37では、Caが0.0003%以上含有されており、試験番号38では、Pb含有量が適量含有されていた。そのため、これらの試験番号では、被削性が顕著に優れた。
さらに、試験番号1~38では、各測定視野において、ΔRCVが1.0以下となる行領域群が連続して4個以下である、又は、ΔCCVが1.0以下となる列領域群が連続して4個以下であった。そのため、ΔRCVが1.0以下となる行領域群が連続して5個以上であり、かつ、ΔCCVが1.0以下となる列領域群が連続して5個以上であった試験番号55と比較して、試験番号1~38の熱間鍛造部品の疲労強度は高かった。
一方、試験番号39では、C含有量が高すぎた。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号40では、C含有量が低すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号41では、Mn含有量が高すぎた。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号42では、Mn含有量が低すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号43では、P含有量が高すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号44では、S含有量が低すぎた。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号45では、Cr含有量が高すぎた。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号46では、Cr含有量が低すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号47では、Al含有量が低すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号48では、N含有量が低すぎた。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号49では、F1が式(1)の上限を超えた。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号50では、F1が式(1)の下限未満であった。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号51では、化学組成中の各元素含有量が適切であり、F1が式(1)を満たした。しかしながら、デスケーリング工程を実施しなかった。そのため、変動係数CVが式(2)の下限未満であった。そのため、疲労強度が390MPa未満であり、疲労強度が低かった。
試験番号52では、化学組成中の各元素含有量が適切であり、F1が式(1)を満たした。しかしながら、スケール薄膜形成工程を実施しなかった。そのため、変動係数CVが式(2)の下限未満であった。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号53では、化学組成中の各元素含有量が適切であり、F1が式(1)を満たした。しかしながら、スケール薄膜形成工程において、熱処理温度(950℃)での保持時間が短すぎた。そのため、変動係数CVが式(2)の下限未満であった。そのため、切削速度VL1000(m/分)が15.0m/分未満であり、被削性が低かった。
試験番号54では、化学組成中の各元素含有量が適切であり、F1が式(1)を満たした。しかしながら、スケール薄膜形成工程において、熱処理温度(950℃)での保持時間が長すぎた。そのため、変動係数CVが式(2)の上限を超えた。そのため、疲労強度が400MPa未満であり、疲労強度が低かった。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 熱間鍛造部品であって、
    表面から深さ3mm以上の内部における化学組成が、質量%で、
    C:0.30~0.60%、
    Si:0.01~0.50%、
    Mn:0.30~1.40%、
    P:0.030%未満、
    S:0.040~0.200%、
    Cr:0.02~1.50%、
    Al:0.010~0.100%、及び、
    N:0.005~0.030%を含有し、
    残部がFe及び不純物からなり、式(1)を満たし、
    前記熱間鍛造部品の表面から深さ3mm以上の前記内部のミクロ組織において、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が90%以上であり、
    前記熱間鍛造部品の長手方向に垂直な断面において、縦50μm×横50μmの矩形の測定視野を表層部から5箇所、中心部から5箇所選定し、
    前記各測定視野において、縦方向に5μmピッチで10等分し、横方向に5μmピッチで10等分して区画された10×10個の微小領域の各々でナノインデンテーション硬さ(GPa)を測定し、
    10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値Aveと定義し、
    10箇所の前記測定視野で測定された前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差σと定義し、
    前記標準偏差σの前記算術平均値Aveに対する比を変動係数CVと定義したとき、
    前記変動係数CVは、式(2)を満たす、
    熱間鍛造部品。
    25≦7.8×[C]1/2×(1+9/13×[Si])×(1+21/5×[Mn])×(1-7/11×[S])×(1+5/2×[Cr])×(1+5/9×[Ni])×(1+11/4×[Mo])≦113 (1)
    9.2≦CV≦13.0 (2)
    ここで、式(1)中の[元素記号]には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
  2. 請求項1に記載の熱間鍛造部品であって、
    前記各測定視野の10×10個の前記微小領域において、
    同じ行に配列されている10個の前記微小領域からなる領域群を行領域群R1~R10と定義し、
    同じ列に配列されている10個の前記微小領域からなる領域群を列領域群C1~C10と定義し、
    前記行領域群R1~R10の各々において、
    前記行領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値RAveと定義し、
    前記行領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Rσと定義し、
    前記標準偏差Rσに対する前記算術平均値RAveの比を変動係数RCVと定義し、
    隣り合う前記行領域群での前記変動係数RCVの差分の絶対値を差分値ΔRCVと定義し、
    前記列領域群C1~C10の各々において、
    前記列領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの算術平均値を算術平均値CAveと定義し、
    前記列領域群内の10個の前記微小領域のナノインデンテーション硬さの標準偏差を標準偏差Cσと定義し、
    前記標準偏差Cσに対する前記算術平均値CAveの比を変動係数CCVと定義し、
    隣り合う前記列領域群での前記変動係数CCVの差分の絶対値を差分値ΔCCVと定義したとき、
    前記各測定視野において、前記差分値ΔRCVが1.0以下となる前記行領域群が連続して4個以下である、又は、
    前記各測定視野において、前記差分値ΔCCVが1.0以下となる前記列領域群が連続して4個以下である、
    熱間鍛造部品。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の熱間鍛造部品であって、
    前記化学組成がさらに、Feの一部に代えて、質量%で、
    Mo:0.20%以下、
    Ni:0.50%以下、
    Cu:0.20%以下、
    Ti:0.05%以下、及び、
    Nb:0.100%以下、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    熱間鍛造部品。
  4. 請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の熱間鍛造部品であって、
    前記化学組成がさらに、Feの一部に代えて、質量%で、
    Ca:0.0050%以下、及び、
    Pb:0.09%以下、からなる群から選択される1元素以上を含有する、
    熱間鍛造部品。
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