JP5742801B2 - 熱間圧延棒鋼または線材 - Google Patents

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Description

本発明は、熱間圧延棒鋼または線材に関する。詳しくは、本発明は、熱間圧延棒鋼または線材を球状化焼鈍した後、冷間鍛造および/または切削加工によって部品形状に成形し、次いで、その成形材の一部または全体に高周波焼入れを施し、さらに必要に応じて焼戻しを施す鋼製の部品、具体的には、自動車や産業機械などの部品である歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品、の素材として用いるのに好適な熱間圧延棒鋼または線材に関する。
従来、自動車や産業機械の歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品は、JIS規格のSCr420、SCM420やSNCM420などの機械構造用合金鋼の熱間圧延棒鋼または線材を素材として、次の工程を経て製造されている。
工程(i):熱間鍛造によって粗成形する、あるいは棒鋼または線材に球状化焼鈍を行った後、冷間鍛造によって粗成形する。
工程(ii):工程(i)で得た粗成形品を直接に、または、必要に応じて焼きならしを行ってから、切削加工を施す。
工程(iii):工程(ii)で得た切削加工品に、浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れの表面硬化処理を施し、その後、必要に応じて、200℃以下の温度で焼戻しを行う。
工程(iv):工程(iii)で得た表面硬化処理品または表面硬化処理後の焼戻し品に、必要に応じてショットピーニング処理を施す。
以上の製造工程により、面疲労強度や耐摩耗性など、それぞれの部品に要求される特性を確保することがなされている。
しかしながら、近年、環境対応およびコスト低減の観点から、熱処理時間が長くCO2の排出量が多い前記工程(iii)の浸炭焼入れまたは浸炭窒化焼入れを、高周波焼入れに変更したい、との要望が大きい。
また、部品の製造費用に占める切削加工コストの割合が大きい。このため、前記工程(i)において熱間鍛造で粗成形していた部品の場合には、コスト削減を目的に、粗成形工程として、より近い部品形状に成形することができる冷間鍛造を適用したい、との要望も強い。
従って、歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品の素材となり、球状化焼鈍後の冷間加工性に優れるとともに、冷間鍛造後に、その一部または全体を高周波焼入れし、さらに必要に応じて焼戻しを施す上記の部品に、良好な特性、なかでも優れた面疲労強度を具備させることができる、熱間圧延棒鋼または線材が求められている。
そのため、例えば、特許文献1に、C:0.60〜0.80%、Si:0.03〜0.20%、Mn:0.15〜0.80%など、特定の元素を含有するとともに、球状化焼きなまし前のミクロ組織中の初析フェライト面積率、球状化焼きなまし後のミクロ組織中の球状化炭化物比率などを規定する、「冷間加工性に優れた高周波焼入れ用鋼」が開示されている。
特開2007−131907号公報
特許文献1では、球状化焼きなまし前のミクロ組織について、初析フェライト面積率についてのみしか考慮していないため、安定して優れた冷間加工性が得らない。また、実施例に示されたものでは、冷間加工性が良好としているC量が0.80%以下では、Si、MnおよびCrの含有量が少ないため、面疲労強度も不十分である。
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、その目的は、歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品の素材となり、球状化焼鈍後の冷間加工性に優れるとともに、冷間鍛造後に、その一部または全体を高周波焼入れし、さらに必要に応じて焼戻しを施す上記の部品に、良好な特性、なかでも優れた面疲労強度を具備させることができる、熱間圧延棒鋼または線材を提供することである。
これまでに、特許文献1に開示されているように、球状化焼きなまし後の硬さを85HRB以下とし、球状化焼きなまし後のミクロ組織中の球状化炭化物(アスベクト比が2以下の炭化物)の比率を80%以上とすることで、冷間加工性に優れた鋼が得られることについては知られていた。
しかし、一般に相反する特性である冷間加工性と面疲労強度とを高いレベルで両立させることはできていなかった。
そこで、本発明者らは、冷間加工性と面疲労強度とを高いレベルで両立させることを目標に調査・研究を重ね、その結果、下記の知見を得た。
(a)高周波焼入れ部において、高い面疲労強度を得るためには、高い表面硬さを得るためにCの含有量を0.55%以上にするだけでなく、Si、MnおよびCrの含有量を多くする必要がある。なお、Si、MnおよびCrが面疲労強度を高める効果は、Siが最も大きく、次いでCr、Mnの順である。
(b)Si、MnおよびCrの含有量が多くなると、冷間加工性が低下するため、球状化焼鈍前の組織を最適化することによって、冷間加工性を向上させる必要がある。
(c)冷間加工性の向上、特に冷間鍛造時の割れ発生を安定して防止するためには、球状化焼鈍後の組織において、セメンタイト粒が比較的粗大で、かつ均一に分散している必要がある。そのためには、球状化焼鈍前の組織をパーライト主体の組織にする必要がある。球状化焼鈍前の組織がベイナイトやマルテンサイトであると、セメンタイト粒が微細になってしまう。また、球状化焼鈍前の組織が初析フェライトであると、その部分はセメンタイト粒が少なくなってしまうし、パーライト主体の組織であっても、パーライトラメラ間隔が微細であると、セメンタイト粒が相対的に小さくなってしまい、逆に、パーライトラメラ間隔が粗大すぎると、球状化焼鈍後のセメンタイト粒が大きくなりすぎ、さらに、パーライトラメラ間隔のばらつきが大きいと、セメンタイト粒の大きさが不均一になる。いずれの場合にも、冷間鍛造時に割れが発生しやすくなる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す熱間圧延棒鋼または線材にある。
(1)質量%で、
C:0.55〜0.75%、
Si:0.1〜1.0%、
Mn:0.3〜1.5%、
Cr:0.1〜2.0%、
S:0.002〜0.05%、
Al:0.01〜0.2%および
N:0.002〜0.01%
を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPおよびOがそれぞれ、
P:0.025%以下および
O:0.002%以下
で、さらに下記の[1]式で表されるFn1が2.5〜4.5である化学組成を有し、
組織が、
パーライト分率が90%以上、パーライトラメラの平均間隔が150〜300nmで、かつパーライトラメラ間隔の標準偏差が25nm以下である、
ことを特徴とする熱間圧延棒鋼または線材。

Fn1=3Si+Mn+1.5Cr・・・[1]
ただし、[1]式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、
Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Mo:0.1%以下、V:0.2%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上を含有する、
ことを特徴とする上記(1)に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
(3)Feの一部に代えて、質量%で、
Ti:0.05%以下およびNb:0.05%以下のうちの1種以上を含有する、
ことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
本発明の熱間圧延棒鋼または線材は、球状化焼鈍後の冷間加工性に優れ、この棒鋼または線材を素材にして冷間鍛造し、その一部または全体を高周波焼入れし、さらに必要に応じて焼戻しを施した部品は、良好な特性、なかでも優れた面疲労強度を具備する。このため、本発明の熱間圧延棒鋼または線材は、環境対応およびコスト低減の観点から、歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品の素材として好適である。
実施例において、走査型電子顕微鏡によってパーライトラメラ間隔を測定する際に、同一パーライトコロニー内で、5本のセメンタイトとフェライトに直交する線を引いた状況を模式的に説明する図である。 実施例で用いたローラーピッチング試験用小ローラー試験片の形状を説明する図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いたローラピッチング試験用大ローラの形状を説明する図である。図中の寸法の単位は「mm」である。 実施例で用いた冷間圧縮試験片の形状を説明する図である。図中の寸法の単位は「mm」である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成
C:0.55〜0.75%
Cは、高周波焼入れ部の面疲労強度を向上させるのに有効な元素である。しかし、Cの含有量が0.55%未満では、焼入れ部の硬さが低く、所望の面疲労強度が得られない。一方、Cの含有量が0.75%を超えると、冷間加工性が低下する。従って、Cの含有量を0.55〜0.75%とした。C含有量の好ましい下限は0.60%であり、好ましい上限は0.70%である。
Si:0.1〜1.0%
Siは、高周波焼入れ部の面疲労強度を向上させるのに有効な元素であるとともに、脱酸剤として必要な元素でもある。しかし、その含有量が0.1%未満ではこれらの効果が得られない。一方、Siの含有量が1.0%を超えると、冷間加工性が著しく低下する。従って、Siの含有量を0.1〜1.0%とした。Si含有量の好ましい下限は0.2%であり、好ましい上限は0.8%である。
Mn:0.3〜1.5%
Mnは、高周波焼入れ部の面疲労強度を向上させるのに有効な元素であるとともに、Sによる熱間脆性の防止に必要な元素である。これらの効果を発揮させるためには、Mnを0.3%以上含有させる必要がある。しかし、その含有量が1.5%を超えると冷間加工性が低下する。従って、Mnの含有量を0.3〜1.5%とした。Mn含有量の好ましい下限は0.6%であり、好ましい上限は1.0%である。
Cr:0.1〜2.0%
Crは、高周波焼入れ部の面疲労強度を向上させるのに有効な元素である。しかし、その含有量が0.1%未満ではこの効果が得られない。また、Crは炭化物に濃化しやすい元素であり、炭化物を安定化する。このため、その含有量が2.0%を超えると、高周波焼入れ部に炭化物が多量に残存して鋼の硬さが低下し、面疲労寿命が低下する。従って、Cr含有量を0.1〜2.0%とした。Cr含有量の好ましい下限は0.6%であり、好ましい上限は1.5%である。
S:0.002〜0.05%
Sは、Mnと結合してMnSを形成し、切削加工性を向上させる。しかし、その含有量が0.002%未満では、前記の効果が得難い。一方、その含有量が0.05%を超えると、粗大なMnSを生成し、面疲労強度を低下させたり、冷間加工性(変形能)を著しく低下させる傾向がある。従って、Sの含有量を0.002〜0.05%とした。S含有量の好ましい下限は0.01%であり、好ましい上限は0.04%である。
Al:0.01〜0.2%
Alは、脱酸作用を有するとともに、鋼中のNと結合し、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を防止し、曲げ疲労強度向上させる効果を有する。その効果を発揮させるには、0.01%以上のAl含有量が必要である。しかし、Alの含有量が0.2%を超えると、Alの大きな酸化物系介在物が残存し冷間加工時の割れ発生の原因となる。従って、Alの含有量を0.01〜0.2%とした。Al含有量の好ましい下限は0.02%であり、好ましい上限は0.05%である。
N:0.002〜0.01%
Nは、Alと結合して、窒化物を形成し、また、Cとともに、Nb、Tiと結合して、炭窒化物を形成し、これらの窒化物や炭窒化物のオーステナイト粒界のピンニング効果により、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化防止に有効である。その効果を発揮させるには、0.002%以上のN含有量が必要である。一方、Nがフェライト中に固溶した場合に歪時効を生じ、冷間加工性を低下させる。上記冷間加工性の低下は、Nの含有量が0.01%を超えると顕著になる。従って、Nの含有量を0.002〜0.01%とした。N含有量の好ましい上限は0.007%である。
本発明の熱間圧延棒鋼または線材は、上述の各元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、不純物中のPおよびOがそれぞれ、P:0.025%以下およびO:0.002%以下のものである。
なお、「不純物」とは、鋼の原料として使用される鉱石および/またはスクラップ、あるいは製造過程の環境などから混入する元素をいう。
以下、不純物中のPおよびOについて説明する。
P:0.025%以下
Pは、粒界偏析して粒界を脆化させやすい元素であり、0.025%を超えて含まれると、面疲労強度を低下させる。従って、Pの含有量を0.025%以下とした。P含有量の好ましい上限は0.020%である。
O(酸素):0.002%以下
Oは、Alと結合して硬質な酸化物系介在物を形成しやすく、面疲労強度を低下させてしまう。特に、Oの含有量が0.002%を超えると、面疲労強度の低下が著しくなる。従って、Oの含有量を0.002%以下とした。なお、不純物元素としてのOの含有量は0.001%以下にすることが好ましく、製鋼工程でのコスト上昇をきたさない範囲で、できる限り少なくすることがさらに望ましい。
本発明の熱間圧延棒鋼または線材には、上述のFeの一部に代えて、Cu、Ni、Mo、V、B、TiおよびNbから選択される1種以上の元素を含有させてもよい。
Cu:0.4%以下
Cuは、面疲労強度を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Cuの含有量が0.4%を超えると、上記の効果が飽和する。従って、Cuを含有させる場合には、その含有量を0.4%以下とした。Cu含有量の上限は、望ましくは0.3%である。
一方、前記したCuの面疲労強度向上させる効果は、その含有量が0.1%以上の場合に安定して得られる。Cu含有量の下限は、望ましくは0.2%である。
Ni:0.8%以下
Niは、面疲労強度を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Niの含有量が0.8%を超えると、上記の効果が飽和する。従って、Niを含有させる場合には、その含有量を0.8%以下とした。Ni含有量の上限は、望ましくは0.6%である。
一方、前記したNiの面疲労強度向上させる効果は、その含有量が0.1%以上の場合に安定して得られる。Ni含有量の下限は、望ましくは0.2%である。
Mo:0.1%以下
Moは、面疲労強度を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Moの含有量が0.1%を超えると、熱間圧延材のパーライト分率を90%以上にすることが困難になり、冷間加工性を低下させる。従って、Moを含有させる場合には、その含有量を0.1%以下とした。
一方、前記したMoの面疲労強度向上させる効果は、その含有量が0.03%以上の場合に安定して得られる。
V:0.2%以下
Vは、面疲労強度を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Vの含有量が0.2%を超えると、上記の効果が飽和する。従って、Vを含有させる場合には、その含有量を0.2%以下とした。V含有量の上限は、望ましくは0.1%である。
一方、前記したVの面疲労強度向上させる効果は、その含有量が0.05%以上の場合に安定して得られる。
B:0.003%以下
Bは、焼入れ性を高めて、面疲労強度を向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Bの含有量が0.003%を超えると、焼入れ性向上の効果が飽和する。従って、Bを含有させる場合には、その含有量を0.003%以下とした。
一方、前記したBの面疲労強度向上させる効果は、その含有量が0.0005%以上の場合に安定して得られる。
上記のCu、Ni、Mo、VおよびBは、上述の範囲で、そのうちのいずれか1種のみ、または、2種以上の複合、で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、1.50%以下であることが望ましい。
Ti:0.05%以下
Tiは、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を防止し、曲げ疲労強度向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Tiの含有量が0.05%を超えると、変形抵抗を増大させ、また、粗大な未固溶炭窒化物が残存して、冷間加工性の劣化を招くことがある。従って、Tiを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とした。Ti含有量の上限は、望ましくは0.04%である。
一方、前記したTiの効果は、その含有量が0.005%以上の場合に安定して得られる。Ti含有量の下限は、望ましくは0.01%である。
Nb:0.05%以下
Nbは、高周波焼入れ時の結晶粒の粗大化を防止し、曲げ疲労強度向上させる効果を有するので、必要に応じて含有させてもよい。しかしながら、Nbの含有量が0.05%を超えると、変形抵抗を増大させ、また、粗大な未固溶炭窒化物が残存して、冷間加工性の劣化を招くことがある。従って、Nbを含有させる場合には、その含有量を0.05%以下とした。Nb含有量の上限は、望ましくは0.04%である。
一方、前記したNbの効果は、その含有量が0.005%以上の場合に安定して得られる。Nb含有量の下限は、望ましくは0.01%である。
上記のTiおよびNbは、上述の範囲で、いずれか1種のみ、または、2種の複合、で含有させることができる。これらの元素を複合して含有させる場合の合計量は、0.1%以下であることが望ましい。
Fn1:2.5〜4.5
本発明の熱間圧延棒鋼または線材の化学組成は、さらに、
Fn1=3Si+Mn+1.5Cr・・・[1]
で表されるFn1が2.5〜4.5でなければならない。ただし、[1]式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
後述の実施例に示すように、各元素の含有量が上記した範囲にあって、しかも、Fn1が2.5以上である場合に、高周波焼入れ部において目標とする高い面疲労強度が得られ、また、Fn1が4.5を超えると、冷間加工性が低下して目標とする65%以上の高い限界圧縮率が得られないからである。Fn1の好ましい下限は3.0であり、好ましい上限は4.0である。
(B)組織
C含有量が0.55〜0.75%の熱間圧延材(熱間圧延まま材)の焼鈍は一般に、加熱温度を750〜780℃とし、その後、徐冷する方法で行われ、通常、球状化焼鈍と呼ばれる。この条件で焼鈍を行った後の組織は、焼鈍前の組織が、初析フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトのいずれかであるかによって、大きく異なる。そのため、焼鈍前の組織制御が重要である。
冷間加工性、特に冷間鍛造時の割れ発生を安定して抑制するためには、球状化焼鈍後の組織において、セメンタイト粒が比較的粗大で、かつ均一に分散している必要がある。
球状化焼鈍前の組織がパーライトであると、ベイナイトやマルテンサイトである場合に較べて、セメンタイト粒が粗大になる。また、球状化焼鈍前の組織が初析フェライトであると、その部分はセメンタイト粒が少なくなってしまい、セメンタイトの分散が不均一になるし、パーライト主体の組織であっても、パーライトラメラ間隔が微細であると、セメンタイト粒が相対的に小さくなってしまう。逆に、パーライトラメラ間隔が粗大すぎると、球状化焼鈍後のセメンタイト粒が大きくなりすぎる。さらに、パーライトラメラ間隔のばらつきが大きいと、セメンタイト粒の大きさが不均一になる。上記いずれの場合にも、冷間鍛造時に割れが発生しやすくなる。
このため、球状化焼鈍前の組織、つまり、熱間圧延材の組織を適正なものにする必要がある。
そして、熱間圧延棒鋼または線材の組織を、パーライト分率が90%以上、パーライトラメラの平均間隔が150〜300nmで、かつパーライトラメラ間隔の標準偏差が25nm以下とすることで、球状化焼鈍後の冷間加工性が優れた熱間圧延棒鋼または線材を得ることができる。
なお、「パーライト分率」とは、組織に占めるパーライトの面積割合を指す。
パーライト分率は、95%以上であることが好ましく、多ければ多いほどよい。パーライトラメラの平均間隔の好ましい下限は210nmであり、好ましい上限は260nmである。また、パーライトラメラ間隔の標準偏差は、20nm以下であることが好ましく、小さければ小さいほどよい。
以下に、本発明で規定する熱間圧延棒鋼または線材を得るための製造方法の一例について示す。なお、本発明の熱間圧延棒鋼または線材の製造方法は、これに限るものではないことはもちろんである。
[1]上記(A)項に規定の化学組成の鋼を溶製し、鋳片を製造する。このとき、凝固途中の鋳片に圧下を加える。
[2]製造された鋳片を分塊圧延し、鋼片を製造する。このとき、鋳片に加熱温度1230〜1280℃、かつ、加熱時間8時間以上の加熱を施してから分塊圧延し、一旦、100℃以下まで冷却して鋼片を得る。
[3]得られた鋼片を熱間圧延して、熱間圧延棒鋼または線材を製造する。このとき、鋼片の加熱温度:1150〜1250℃、かつ、加熱時間:2時間以上の加熱を施してから熱間圧延する。また、熱間圧延の仕上げ加工温度を850〜950℃、仕上げ加工での減面率を40%以上とし、かつ仕上げ加工圧延後の冷却速度について、850〜680℃の間の平均冷却速度を1.0〜0.6℃/秒、680〜550℃の間の平均冷却速度を0.4〜0.2℃/秒として、550℃以下まで冷却する。
なお、熱間圧延における仕上げ加工圧延後、550℃以下の温度に至った時点で放冷以下の冷却速度で室温まで冷却する必要はなく、空冷、ミスト冷却、水冷など、適宜の手段で冷却してもよい。
本明細書における加熱温度とは加熱炉の炉内温度の平均値、加熱時間とは在炉時間を意味する。また、熱間圧延の仕上げ加工温度とは、仕上げ加工圧延直後の棒鋼、線材の表面温度を指し、さらに、仕上げ加工圧延後の冷却速度も、棒鋼、線材の表面の冷却速度を指す。仕上げ加工での減面率とは、最終の圧延機群での断面減少率をいう。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
[実施例1]
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Vを70トン転炉で成分調整した後、連続鋳造を行って、400mm×300mm角の鋳片(ブルーム)を得て、600℃まで冷却した。なお、連続鋳造の凝固途中の段階で圧下を加えた。
表1中の鋼C、鋼D、鋼F、鋼I〜Kおよび鋼P〜Vはいずれも、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼である。一方、鋼A、鋼B、鋼E、鋼G、鋼Hおよび鋼L〜Oは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた比較例の鋼である。なお、鋼Aは、JIS規格SCr420Hの規格を満たす鋼である。
このようにして得た鋼A〜Vの鋳片を、各々1280℃で12時間加熱した後、分塊圧延にて180mm×180mm角の鋼片を作製し、室温まで冷却した。さらに、上記180mm×180mm角の鋼A〜Vの鋼片を各々1200℃で2.5時間加熱した後、熱間圧延を行って直径50mmの棒鋼を得た。
なお、全ての鋼について、熱間圧延の仕上げ加工温度は920℃、仕上げ加工での減面率は50%、仕上げ加工圧延後の850〜680℃の間の平均冷却速度は0.7℃/秒、680〜550℃の間の平均冷却速度は0.3℃/秒であった。なお、仕上げ加工圧延後の冷却は、550℃に至った時点で放冷とした。
上記の棒鋼の製造方法は、前述した、本発明で規定する熱間圧延棒鋼または線材を得るための製造方法の一例の範囲内である。
上記のようにして得た直径50mmの棒鋼を用いて、組織および面疲労強度の調査を行った。
[組織の調査]
直径50mmの各棒鋼について、長手方向に垂直、かつ、中心部を含む断面(横断面)を切り出した後、鏡面研磨してナイタールで腐食した試験片を、光学顕微鏡を用い倍率400倍で、表層の脱炭層を除いた領域から、ランダムに各15視野観察して組織調査を行った。なお、各視野の大きさは250μm×250μmである。各視野について通常の方法による画像解析によって、組織に占める各相の分率(面積割合)、具体的には、フェライト、パーライト、ベイナイトおよびマルテンサイトの分率を求めた。
また、同じ試験片を用いて、走査型電子顕微鏡によって倍率5000倍で、表層の脱炭層を除いた領域から、ランダムに組織調査を行った。なお、各視野の大きさは20μm×20μmである。各視野について、同一パーライトコロニー内で、図1に示すように、5本のセメンタイトとフェライトに直交する線を引き、図中の両端矢印の長さを5で割ったものを、パーライトラメラ間隔として、30箇所のパーライトラメラ間隔を測定した。なお、パーライト中のセメンタイト板の方向が、観察方向に対して傾いていると、パーライトラメラ間隔を過大に評価してしまうため、セメンタイト板の側面が観察できるパーライトコロニーについては、セメンタイト板の方向が、観察方向に対して傾いていると判断し、測定から除外した。上記のように測定した30箇所の平均値をパーライトラメラの平均間隔とし、その標準偏差をパーライトラメラ間隔の標準偏差とした。
[面疲労強度の調査]
図2に示す形状のローラーピッチング試験用小ローラー試験片と図3に示す形状のローラピッチング試験用大ローラーとの組み合わせで、表2に示す条件で、ローラーピッチング試験を行った。なお、潤滑油を上記の小ローラー試験片と大ローラーの接触部に噴出させて実施した。
表2における「すべり率」は、小ローラー試験片の周速をV1、大ローラーの周速をV2として、下記の式で計算される値を指す。

{(V1−V2)/V1}×100。
以下、ローラーピッチング試験について詳しく説明する。
熱間圧延して得た鋼Aの直径50mmの棒鋼は、920℃の大気炉中で30分保持後、炉外で放冷して、焼ならし処理した。
また、熱間圧延して得た鋼B〜Vの直径50mmの棒鋼は、770℃で3時間加熱後、770〜670℃の間の平均冷却速度を10℃/時間とし、670℃に至った時点で放冷して常温まで冷却した。
このようにして得た鋼A〜Vの各棒鋼から、図2に示すローラーピッチング試験用小ローラー試験片に加工した。
次いで、鋼Aの小ローラー試験片には、一般的な製造工程であるガス浸炭炉による共析浸炭焼入れおよび低温焼戻しを行った。上記の共析浸炭焼入れは、カーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中で、930℃で3時間保持した後、30分かけて860℃まで冷却し、860℃で20分保持した後、80℃の油を用いて、油冷した。また、低温焼き戻しは170℃の大気炉で90分保持後、炉外で放冷した。
一方、鋼B〜Vの小ローラー試験片には、最高加熱温度950〜1000℃、硬化層深さ約1.5mmとなる条件で高周波焼入れを施し、さらに、通常の熱処理炉を用いて160℃で1時間の焼戻しを行った。
ローラーピッチング試験用大ローラーは、JIS規格SCM420Hの規格を満たす鋼を用いて、一般的な製造工程によって作製した。具体的には、上述した鋼Aの小ローラー試験片に施したのと同様に、先ず、920℃の大気炉中で30分保持後、炉外で放冷して、焼ならし処理した。次いで、図3に示す形状の大ローラーに加工し、カーボンポテンシャル0.8%の雰囲気中で、930℃で5時間保持した後、30分かけて860℃まで冷却し、860℃で20分保持した後、80℃の油を用いて、油冷して共析浸炭焼入れした。その後さらに、170℃の大気炉で90分保持後、炉外で放冷して低温焼き戻しを行った。
各試験番号について、ローラーピッチング試験における試験数は6本とし、縦軸に面圧、横軸にピッチング発生までの繰り返し数をとったS−N線図を作成し、繰り返し数2.0×107回までピッチングが発生しなかったうち、最も高い面圧を「面疲労強度」とした。
なお、小ローラー試験片の試験部の表面が損傷している箇所のうち、最大のものの面積が1mm2以上になった場合をピッチング発生とした。
ローラーピッチング試験での面疲労強度の目標値は、汎用鋼種として一般的な、JIS規格SC420Hの規格を満たす鋼Aを浸炭した試験番号1の面疲労強度を100として規格化し、100を超えることとした。
表3に、上記の各試験結果をまとめて示す。
表3から明らかなように、本発明で規定する化学組成条件を満たさない鋼を用いた試験番号のうちで、鋼Bを用いた試験番号2、鋼Gを用いた試験番号7、鋼Hを用いた試験番号8および鋼Oを用いた試験番号15の場合には、目標とする面疲労強度が得られなかった。
[実施例2]
実施例1において、目標とする面疲労強度を満たした鋼C〜鋼F、鋼I〜鋼Nおよび鋼P〜鋼Vについて、さらに、別の180mm×180mm角の鋼片を用いて、表4に示す製造条件〈1〉〜〈7〉によって、熱間圧延を行って34種類の直径50mmの棒鋼を得た。
表4に、製造条件〈1〉〜〈7〉として、400mm×300mmの鋳片から直径50mmの棒鋼に仕上げるに際しての、鋳片の加熱条件および鋼片の加熱条件、ならびに、棒鋼圧延における仕上げ加工温度、仕上げ加工での減面率および仕上げ加工圧延後の冷却条件の詳細を示す。なお、仕上げ加工圧延後の冷却は、550℃に至った時点で放冷とした。なお、表4における製造条件〈2〉が、先の実施例1において直径50mmの棒鋼を製造した条件である。
上記のようにして得た34種類の直径50mmの棒鋼を用いて、組織および冷間加工性の調査を行った。
[組織の調査]
前述の実施例1と同様の方法で組織の調査を行い、組織に占める各相の分率、パーライトラメラの平均間隔およびパーライトラメラ間隔の標準偏差を求めた。
[冷間加工性の調査]
上記の熱間圧延で作製した34種類の直径50mmの棒鋼を、770℃で3時間加熱後、770〜670℃の間の平均冷却速度を10℃/時間とし、670℃に至った時点で放冷して常温まで冷却した。
次いで、上記のように得して得た各棒鋼の中心部から、図4に示す冷間圧縮試験片を10個作製した。
各試験番号について、10個の試験片を長手方向に冷間圧縮を実施し、倍率5倍の拡大鏡で観察して、割れが発生し始める圧縮率(長さ方向の減少率)を求め、その圧縮率のうちで最も低い圧縮率を「限界圧縮率」として冷間加工性を評価した。
上記限界圧縮率の目標値は、65%以上とした。
表5に、上記の各調査結果を、棒鋼の製造条件とともにまとめて示す。
表5から、本発明で規定する条件を満たす試験番号24、25、29、31、33、36、43、45、48、49、51、53および55の「本発明例」の場合には、目標とする冷間加工性が得られていることが明らかである。
これに対して、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼を用いても、組織が本発明で規定する条件から外れた「比較例」の試験番号23、26、30、32、34、35、44、46、47、50、52、54および56の場合には、目標とする冷間加工性が得られなかった。
また、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼を用いた「比較例」の試験番号7、28および37〜42の場合には、組織が本発明で規定する条件を満たす、満たさないに関係なく、目標とする冷間加工性が得られなかった。
本発明の熱間圧延棒鋼または線材は、球状化焼鈍後の冷間加工性に優れ、この棒鋼または線材を素材にして冷間鍛造し、その一部または全体を高周波焼入れし、さらに必要に応じて焼戻しを施した部品は、良好な特性、なかでも優れた面疲労強度を具備する。このため、本発明の熱間圧延棒鋼または線材は、環境対応およびコスト低減の観点から、歯車、シャフト、プーリーなど鋼製の部品の素材として好適である。




Claims (3)

  1. 質量%で、
    C:0.55〜0.75%、
    Si:0.1〜1.0%、
    Mn:0.3〜1.5%、
    Cr:0.1〜2.0%、
    S:0.002〜0.05%、
    Al:0.01〜0.2%および
    N:0.002〜0.01%
    を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、不純物中のPおよびOがそれぞれ、
    P:0.025%以下および
    O:0.002%以下
    で、さらに下記の[1]式で表されるFn1が2.5〜4.5である化学組成を有し、
    組織が、
    パーライト分率が90%以上、パーライトラメラの平均間隔が150〜300nmで、かつパーライトラメラ間隔の標準偏差が25nm以下である、
    ことを特徴とする熱間圧延棒鋼または線材。
    Fn1=3Si+Mn+1.5Cr・・・[1]
    ただし、[1]式中の元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、
    Cu:0.4%以下、Ni:0.8%以下、Mo:0.1%以下、V:0.2%以下およびB:0.003%以下のうちの1種以上を含有する、
    ことを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延棒鋼または線材。
  3. Feの一部に代えて、質量%で、
    Ti:0.05%以下およびNb:0.05%以下のうちの1種以上を含有する、
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の熱間圧延棒鋼または線材。




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