JP2012533552A - 第Xa因子インヒビターの解毒剤の単位用量処方物およびその使用方法 - Google Patents

第Xa因子インヒビターの解毒剤の単位用量処方物およびその使用方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、第Xa因子を標的とする抗凝血剤に対する解毒剤の単位用量処方物に関する。本明細書に開示されるのは、第Xa因子インヒビターを用いる抗凝固療法を現在受けている患者において出血を停止または予防する方法である。一実施形態では、本発明は、薬学的に許容されるキャリア、および配列番号13のアミノ酸配列を含む2本鎖のポリペプチド、または配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを約10ミリグラム〜約2グラムの量で含む、単位用量処方物に関する。

Description

関連出願への相互参照
この出願は、米国特許法§119(e)の下、2009年7月15日に出願された米国仮出願第61/225,887号(これは、その全体が参考として本明細書に援用される)の利益を主張する。
分野
本発明は、第Xa因子インヒビターを逆転および/または中和する解毒剤の単位用量処方物に関する。詳細には、この解毒剤は、内因性凝血促進活性(procoagulant activity)が低下しているかまたは欠いているが、また第Xa因子(fXa)インヒビターを結合および/または中和もし得、それによってfXaを標的する抗凝血剤に対する解毒剤として働く、第Xa因子(fXa)誘導体であり得る。本発明はまた、特定用量の解毒剤を使用する方法にも関する。
抗凝血剤は、不動期間または医療手術を受けている期間に限った、例えば凝固障害を有する患者などの血餅を形成する傾向のある患者における望ましくない血栓症の処置または予防に関する市場における要求に役立つ。しかし、抗凝固療法の主な制限の1つは、その処置に随伴する出血の危険性であり、および過剰投与の際にまたは緊急外科手術手技が求められる場合にその抗凝血活性(anticoagulant activity)を急速に逆転する能力に制限があることである。それ故、すべての形態の抗凝固療法に対して特異的で有効な解毒剤は、非常に望ましい。安全性を考慮して、新たな抗凝血薬の開発の中で凝血剤と解毒剤のペアを得ることも有利である。
過剰抗凝血(over−anticoagulation)に現在利用できる抗凝血剤−解毒剤ペアは、ヘパリン−プロタミンおよびワルファリン−ビタミンKである。大きな外傷または重篤な出血(hemorrhage)で苦しんでいる、低分子量ヘパリン処置を受けている患者には、非特異的解毒剤として、新鮮凍結血漿および組換え型第VIIa因子(rfVIIa)も使用されている。(非特許文献1)。ヘパリンまたは低分子量ヘパリン解毒剤としてプロタミンフラグメント(特許文献1)および小さな合成ペプチド(特許文献2);およびトロンビンインヒビターに対する解毒剤としてトロンビンムテイン(特許文献3)も報告されている。プロトロンビン中間体および誘導体がヒルジンおよび合成トロンビンインヒビターに対する解毒剤として報告されている(特許文献4および特許文献5)。
1つの有望な形態の抗凝固療法は、第Xa因子(fXa)をターゲットにするものであり、実際に幾つかの直接的なfXaインヒビターが、現在、抗凝固療法において使用するための様々な臨床開発段階にある。1つの直接的なfXaインヒビターXarelto(商標)(リバロキサバン)は、欧州連合およびカナダにおいて整形外科患者における静脈血栓塞栓症の予防のための臨床使用が認可されている。これらの多くが小分子である。これらの新たなfXaインヒビターは、処置に有望であると証明されているが、特異的で有効な解毒剤が依然として必要とされている。これらのfXaインヒビターで処置された患者において過剰抗凝血の際または外科手術が必要な際、投与したfXaインヒビター(単数または複数)を実質的に中和するおよび正常な止血を回復させるための薬剤が必要とされるだろう。
現在利用できる薬剤、例えば組換え型第VIIa因子(rfVIIa)、は、機構的制限があり、fXaインヒビターの逆転に特異的ではないので、臨床家にとって改善された選択肢は非常に望ましい。ヒトを対象とした試験において、rfVIIaは、間接的抗トロンビンIII依存性fXaインヒビター、例えばフォンダパリヌクス(fondaparinux)およびイドラパリヌクス(idraparinux)、の効果を逆転するために使用された(Bijsterveld,NRら、Circulation,2002,106:2550−2554;Bijsterveld,NRら,British J.of Haematology,2004(124):653−658)。第VIIa因子(fVIIa)の作用機構は、組織因子と共に作用して、血液循環中に存在する第X因子(fX)をfXaに変換して、患者における正常な止血を回復させるものである。この作用様式は、活性部位指向性fXaインヒビターを中和するために達成され得るfXaの最高潜在濃度がfXの循環血漿濃度によって制限されることを必然的に強いる。従って、直接的なfXaインヒビターの効果を逆転させるためにrfVIIaを使用する可能性は、機構的に制限される。fXの循環血漿濃度は、150ナノモル濃度(「nM」)であるので、この方式によって生成されるfXaの最大量は、150nMであろう。リバロキサバンなどの小分子fXaインヒビターについて報告されている治療濃度(おおよそ600nM、Kubitza D,ら、Eur.J.Clin.Pharmacol.,2005,61:873−880)のほうが、rfVIIaによって生成されるfXaの可能性のある量より高い。従って、fXaインヒビターによる治療または超治療(supratherapeutic)レベルの抗凝血を逆転するためのrfVIIaの使用は、不適切なレベルの効力をもたらすであろう。図4に示すように、rfVIIaの使用は、第Xa因子インヒビターベトリキサバン(下で説明する)の抗凝血活性を中和することにおいて制限された効果を有した。組換え型fVIIaは、50nMから100nMの用量応答性解毒剤活性を示したが、その効果は100nMから200nMの間で一定であった。これは、その解毒剤作用が、その濃度以外の要因によって制限されることを示している。試験したrfVIIa濃度のすべてにおいて、ベトリキサバンは、250nMの濃度で約75%まで、fXaに対する用量応答性阻害を尚、示した。この観察は、fVIIaの提案されている作用機構と一致する。これは、rfVIIa単独では、トロンビン生成およびプロトロンビン活性化のパラメータに対するフォンダパリヌクスの阻害効果を完全に逆転しなかったことを示す研究(Gerotiafas,GTら、Thrombosis & Haemostasis 2204(91):531−537)によっても裏付けられる。
外因性活性fXaをrfVIIaと同様の方法で被験体に直接投与することはできない。その補因子である組織因子がない状態では非常に低い凝血促進活性を有するrfVIIaとは異なり、天然fXaは、強力な酵素であり、および血栓症を引き起こす潜在的危険性を有する。このように、fXa抗凝固療法に対する解毒剤としてのrfVIIaまたは活性fXaのいずれかの使用には短所がある。
本発明の処方物および方法で使用される解毒剤は、米国特許出願公開第2009/0098119号に記載される。本公開、および本明細書に言及される任意の刊行物、特許、特許出願はその全体が参照によって本明細書に援用される。
以前に言及された出願における解毒剤の開示にかかわらず、解毒剤の投薬は、患者の安全性を保証するための重大な要素である。
米国特許第6,624,141号明細書 米国特許第6,200,955号明細書 米国特許第6,060,300号明細書 米国特許第5,817,309号明細書 米国特許第6,086,871号明細書
Lauritzen,B.ら、Blood(2005)607A〜608A
現在では、fXaタンパク質の修飾された誘導体を投与することが、特定の用量で提供される場合、fXaを標的とする抗凝血剤に対する解毒剤として有用であることが発見されている。fXaタンパク質の修飾された誘導体は、プロトロンビナーゼ複合体へアセンブリすることにおいてfXaと競合しないが、代わりに、fXaインヒビターなどの抗凝血剤と結合し、および/またはそれを実質的に中和する。解毒剤として有用な誘導体を、内因性の凝血促進活性および抗凝血活性が減少または除去される一方で、インヒビターと結合する能力を保持しているように修飾する。本発明の誘導体では、活性部位を修飾すること、あるいはGlaドメイン全体を変化させるかもしくはfXaから除去すること、またはその様々な組合せが含まれ得ることが企図される。さらに、活性部位が修飾された完全長fXaは抗凝血剤であることが公知であるため、Glaドメインの修飾は、正常な止血に対するfXa誘導体の抗凝血効果を減少または除去することが企図される。
一実施形態では、本発明は、薬学的に許容されるキャリア、および配列番号13のアミノ酸配列を含む2本鎖のポリペプチド、または配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを約10ミリグラム〜約2グラムの量で含む、単位用量処方物に関する。いくつかの実施形態では、上記量は、約100ミリグラム〜約1.5グラム、または約200ミリグラム〜約1グラム、または約400ミリグラム〜約900ミリグラムである。
特定の実施形態では、上記ポリペプチドの量は、第Xa因子インヒビターを約20%、50%、75%、90%、95%、99%または約100%まで中和するのに有効である。
別の実施形態では、本発明は、第Xa因子インヒビターでの抗凝固療法を受けている被験体に対する投与のための単位用量処方物であって、この処方物が、薬学的に許容されるキャリア、ならびに中和量の2本鎖のポリペプチドであって、配列番号13のアミノ酸配列を含むポリペプチド、または配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含み、その結果この中和量が、少なくとも約30分の期間にわたって少なくとも約1:1倍の(at least about a 1 :1 fold)モル比のポリペプチドの循環濃度/第Xa因子インヒビターの循環濃度である、単位用量処方物に関する。一実施形態では、このモル比は、ベトリキサバン誘発性の抗凝血に関する。他の実施形態では、このモル比は、約1:1または約2:1であり、さらに他の実施形態では、この比は、約4:1またはそれより高い。
いくつかの実施形態では、このキャリアは生理食塩水である。いくつかの実施形態では、このキャリアは、無菌の生理食塩水である。他の実施形態では、この処方物は、1ミリリットルの生理食塩水あたりに約0.2〜約10ミリグラムの濃度のポリペプチドを有する。他の実施形態では、この濃度は、1ミリリットルの生理食塩水あたりに約2〜約6ミリグラムのポリペプチドまたは1ミリリットルの生理食塩水あたりに約2ミリグラムのポリペプチドである。
特定の実施形態では、このポリペプチドは凍結乾燥される。
別の実施形態では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において外因性に投与された第Xa因子インヒビターを選択的に結合および阻害する方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。
さらに別の実施形態では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において出血を予防、軽減または停止する方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。
さらに別の実施形態では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている患者においてfXaインヒビター依存性の薬力学的マーカーまたは代用のマーカーを補正(correct)するための方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。
本発明の方法では、上記処方物は、ボーラスもしくはボーラスおよび注入の組み合わせによる静脈内投与を介して、または皮下投与によって、投与され得る。ヒト凝固因子の皮下投与は、文献に報告されている。McCarthy K.,ら、Thromb.Haemost.,2002,87(5):824−30;Gerrard AJ,ら、Br.J.Haematol.,1992,81(4):610−3;Miekka SIら、Haemophilia,1998,4(4),436−42を参照のこと。特定の実施形態では、約10〜約20%の処方物が、ボーラスとして投与され、残りの処方物が、出血が実質的に停止するまでの期間にわたって注入される。注入は、約6時間、または約6〜約12時間、または約12〜約24時間または48時間にわたって投与されてもよいことが企画される。
別の態様では、修飾された第Xa因子タンパク質は、第Xa因子誘導体の血漿半減期(または循環半減期)を延長し得る剤と共投与(co−administer)される。さらに別の態様では、解毒剤は、その血漿半減期を延長する部分と結合体化される。
別の態様では、本発明は、抗凝血剤用途のためのfXaインヒビター、およびfXaインヒビターの抗凝血活性の実質的な中和が必要な場合、使用するためのfXaインヒビター解毒剤(または第Xa因子誘導体)を備えるキットを提供する。解毒剤が凍結乾燥型で提供される場合、このキットは、必要に応じてさらに無菌の生理食塩水のバイアルを備える。
本明細書にさらに提供されるのは、ちょうど記載されたポリペプチドに対して共有結合されるか、または非共有結合されたキャリアを含むペプチド結合体である。このキャリアは、リポソーム、ミセル、薬学的に許容されるポリマー、または薬学的に許容されるキャリアであってもよい。
本明細書の残りの部分のいたるところで、本発明の追加の実施形態を見つけることができる。
図1は、Leytusら、Biochem.,1986,25,5098−5102に報告されているような表13に示すヒト第X因子(配列番号1)のドメイン構造を図示するものである。配列番号1は、先行技術分野において公知の表14に示すとおりのヒトfXのヌクレオチド配列(配列番号2)によってコードされたヒトfXのアミノ酸配列である。例えば、その翻訳アミノ酸配列は、Leytusら、Biochem.,1986,25,5098−5102に報告されており、および<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=89142731>におけるGenBank、「NM_000504」において見つけることができる。この配列におけるアミノ酸ナンバリングは、fX配列に基づく。ヒトfX前駆体(配列番号1)は、プレプロ−リーダー配列(配列番号1のアミノ酸1から40)、続いて、fX軽鎖(LC)に対応する配列(配列番号1のアミノ酸41から179)、fX分泌中に除去されるRKR(配列番号16)トリプレット(配列番号1のアミノ酸180から182)、そして活性化ペプチド(AP)(配列番号1の183から234)と触媒ドメイン(配列番号1のアミノ酸235から488)とを含有するfX重鎖(配列番号1のアミノ酸183から488)を含有する。 図2(配列番号3)は、成熟ヒト第X因子のアミノ酸配列を示すものである。この図におけるアミノ酸ナンバリングは、fX軽鎖のN末端から出発する成熟fX配列に基づく。第X因子は、ジスルフィド結合によって連結された二本鎖分子として血漿中で循環する。その軽鎖(LC)は、139アミノ酸(配列番号1のアミノ酸41から179まで)残基を有し、および短い芳香族スタック(AS)(配列番号3のアミノ酸40〜45)を含む多γ−カルボキシグルタミン酸(Gla)ドメイン(配列番号3のアミノ酸1〜45)、続いて、2つの上皮増殖因子(EGF)様ドメイン(EGF1:配列番号3のアミノ酸46〜84、EGF2:配列番号3のアミノ酸85〜128)を含有する。その重鎖(HC)は、306アミノ酸を有し、および52アミノ酸活性化ペプチド(AP:配列番号3のアミノ酸143〜194)、続いて、触媒ドメイン(配列番号3のアミノ酸195〜448)を含有する。キモトリプシンナンバリングの場合のH57−D102−S195の触媒トライアド等価物が、fX配列内のHis236、Asp282およびSer379に位置し、下線が引かれている(配列番号3のアミノ酸236、282および379)。 図3は、図2に示した成熟ヒト第X因子のドメイン構造を図示するものである。この図におけるアミノ酸ナンバリングは、成熟fX配列に基づく。Glaドメイン含有フラグメント(配列番号3のアミノ酸1〜44)を除去するキモトリプシン消化についての切断部位、および活性化ペプチドを除去するfX活性化についての切断部位が強調表示されている。fXaのキモトリプシン消化は、この1〜44アミノ酸残基を欠くGlaドメインなしfXa(配列番号4)をもたらす。 図4は、PPPを調製したサンプルを使用する(相対蛍光単位(RFU)として表示する)トロンビン生成アッセイ(実施例2において説明するとおり)における、fXaインヒビターベトリキサバン(下で説明する)の抗凝血活性に対する、組織因子の存在下での様々な濃度のrfVIIaの効果を示すものである。データは、rfVIIaと組織因子の組み合わせが、250nMまでの濃度で、fXaインヒビター、ベトリキサバン、の抗凝血活性を完全に中和できなかったことを示している。 図5は、そのGlaドメインが損なわれていないアンヒドロ−fXaが、活性fXaとベトリキサバンとを含有する精製された系でのベトリキサバンによってfXa阻害を逆転する(白丸)一方で、単独でのアンヒドロ−fXaが、活性fXaと比較して極わずかな凝血促進活性しか有さない(白三角)ことを示すものである。fXa発色活性が一切のインヒビター不在下で活性fXaに正規化された(白四角形)。実施例4においてより詳細にこのことを説明する。データは、アンヒドロ−fXaが、fXa基質に対して不活性であるが、fXaインヒビター結合能力を維持することを示している。 図6は、図5における損なわれていないGlaドメインを有するアンヒドロ−fXaが、PPPを調製したサンプルを使用する(相対蛍光単位(RFU)として表示する)血漿トロンビン生成アッセイ(実施例2において説明するとおり)において強力なインヒビターであることを示すものである。それは、約115nMでトロンビン生成を完全に阻害した。データは、Glaドメインの修飾を伴わないアンヒドロ−fXaが、fXaインヒビター解毒剤としての使用に適さないことを示している。 図7は、キモトリプシン消化前ならびにキモトリプシン消化の15分後および30分後の96ウエルプレート形式での活性fXaの凝固活性についての比較を示すものである。この図に示されているように、凝固時間(OD405の変化)は、fXaを15分間キモトリプシンで消化した後、有意に遅延され、およびfXaを30分間キモトリプシンで消化したときは20分までの間、凝固は観察されなかった。この結果を、アンヒドロ−fXaのキモトリプシン消化のための条件を確立するためにも用いた。それが、消化中にモニターすることができる活性を有さないからである。実施例1においてさらに詳細にこのことを説明する。 図8は、実施例4において説明するような第Xa因子インヒビターベトリキサバンに対するdes−Gla anhydro−fXaの結合親和性を示すものである。データは、Glaドメイン含有フラグメント(残基1〜44)を除去する、アンヒドロ−fXaのキモトリプシン消化によって調製された、des−Gla anhydro−fXaが、天然fXaと同様の親和性でベトリキサバンに結合できることを示している(fXa:Ki=0.12nM、des−Gla anhydro−fXa:Kd=0.32nM)。 図9は、PPPを調製したサンプルを使用する実施例2のトロンビン生成アッセイにおける680nMの濃度の解毒剤(des−Gla anhydro−fXa)の添加による様々な濃度のベトリキサバンの抗凝血活性の逆転を示すものである。680nMの濃度で、des−Gla anhydro−fXaは、fXa活性の実質的に完全な回復を生じさせることができた。 図10は、(実施例3において説明するような)96ウエルプレート形式でaPTT試薬を使用するPPPを調製したサンプルでの凝固延長アッセイにおける様々な濃度の解毒剤(des−Gla anhydro−fXa)による250nMのベトリキサバンの抗凝血活性の逆転を示すものである。データは、凝固時間が、約608nMのこの解毒剤を使用して250nMのfXaインヒビターベトリキサバンを中和したとき、対照乏血小板血漿のものに匹敵したことを示している。 図11は、正規化後の倍率変化として表示する、96ウエルプレート形式でaPTT試薬を使用するPPPを調製したサンプルでの凝固延長アッセイにおける563nMの解毒剤(des−Gla anhydro−fXa)によるエノキサパリン(0.3125〜1.25U/mL)の抗凝血活性に対する効果を示すものである。実施例3においてこのアッセイプロトコルを説明する。データは、563nMの解毒剤の添加が、低分子量ヘパリンエノキサパリンの活性を有意に中和したことを示している。 図12は、発色アッセイにおける、トロンビン(5nM)の活性に対する解毒剤、des−Gla anhydro−fXa、の効果、および50nMのアルガトロバン、特異的トロンビンインヒビター、によるその阻害を示すものである。予測されたように、このfXaインヒビターの解毒剤は、538nMまでの濃度で、トロンビン活性にも、特異的インヒビターアルガトロバンによるその阻害にも、検出可能な効果を及ぼさない。実施例14においてより詳細にこのことを説明する。 図13は、標準的な凝血時間測定器を使用するaPTTアッセイにおける、様々な濃度の解毒剤、des−Gla anhydro−fXa、による400nMベトリキサバンの抗凝血活性に対する効果を示すものである。実施例3においてこのアッセイプロトコルを説明する。データは、fXaインヒビターの解毒剤が、400nMのベトリキサバンによるfXaの阻害を実質的に逆転することを示している。この解毒剤のEC50は、400nMベトリキサバンで約656nMであると推定された。 図14は、CHO細胞におけるfXa三重変異体(配列番号12)の発現についてのDNA構築物のマップを示すものである。プラスミドDNAを線形化し、CHO dhfr(−)細胞にトランスフェクトした。テトラヒドロ葉酸塩(HT)欠失培地+メトトレキサート(MTX)を使用して、細胞を選択した。適するクローンをELISAによって高タンパク質発現についてスクリーニングした。fXa三重変異体を無血清培地において生産し、イオン交換カラムとアフィニティーカラムの併用によって精製した。このマップにおけるナンバリングは、ヒトfX配列番号1をコードするポリヌクレオチド配列に基づいた。例えば、活性部位S419(配列番号1)におけるアラニン変異は、本出願およびより詳細には実施例7を通して論ずる成熟ヒトfXのS379(配列番号3)での変異と等価である。 図15は、それぞれ、ヒトfX重鎖および軽鎖を認識するモノクローナル抗体を用いる精製されたr−解毒剤(r−Antidote)のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示す。図15Aは、イオン交換およびアフィニティー精製により精製されたr−解毒剤のウエスタンブロットを示すものである。軽鎖と重鎖を接続するジスルフィド結合の還元の際に、r−解毒剤重鎖は、血漿由来fXaのものに類似した予想分子量で移動する。fXa変異体のGlaドメインにおける6〜39aaの欠失は、結果として、正常なFXaと比較して低い分子量のr−解毒剤軽鎖バンドを生じさせる。 図15は、それぞれ、ヒトfX重鎖および軽鎖を認識するモノクローナル抗体を用いる精製されたr−解毒剤(r−解毒剤)のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示す。図15Bは、イオン交換およびアフィニティー精製、その後のサイズ排除クロマトグラフィーによる、精製されたr−解毒剤のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示すものである。 図15は、それぞれ、ヒトfX重鎖および軽鎖を認識するモノクローナル抗体を用いる精製されたr−解毒剤(r−Antidote)のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示す。図15Cは、イオン交換およびアフィニティー精製、その後のサイズ排除クロマトグラフィーによる、精製されたr−解毒剤のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示すものである。 図16は、ベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与のみの後の、またはベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与、その後の実施例1に従って調製した血漿由来解毒剤(pd−解毒剤)の静脈内注射(300μg、IV)後の、マウス(1群につきn=7〜10)におけるベトリキサバン血漿レベルを示すものである。pd−解毒剤を1.5時間の時点より5分前に投与し、マウス血液サンプル(0.5mL)をベトリキサバンの経口投与後1.5、2.0および4.0時間の時点で採取した。全血INR、ベトリキサバンおよび解毒剤血漿レベルを分析した。マウス血漿中のベトリキサバンレベル(平均±標準偏差)を、15mg/kg後のマウス(白四角)および15mg/kg、続いての解毒剤注射の後のマウス(白丸)について時間の関数としてプロットした。1.5時間の時点(解毒剤注射の5分後)の解毒剤処置群のPK−PD相関を表1にまとめた。この解毒剤の単回注射は、結果として、INR測定値に基づき機能性ベトリキサバンの>50%の減少を生じさせた。実施例8においてより詳細にこのことを説明する。 図17は、精製されたr−解毒剤でのマウス実験(1群につきn=4〜10)の結果を示すものである。マウス血清中(図17A)および全血INR(図17B)のベトリキサバンレベルを、ベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与のみの後、またはベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与、その後のr−解毒剤の静脈内注射(300μg)の後で比較した。それぞれの処置群についての平均値を示した。表2にまとめたように、r−解毒剤の単回IV注射は、エクスビボ全血INRの>50%の補正を結果としてもたらした。これは、単回もしくは多回注射または他のレジメ(regimes)によるこの解毒剤でのfXaインヒビターの有効な中和を証明する。これらの結果は、本発明のfXa変異体が、出血しているまたは他の医学的緊急事態の患者においてfXaインヒビターの抗凝血効果を逆転する万能解毒剤として作用する可能性があることを明示している。実施例8においてより詳細にこのことを説明する。 図18は、96ウエル濁度変化凝固アッセイにおけるエノキサパリンの阻害効果のr−解毒剤逆転を示すものである。結果は、pd−解毒剤(図11)と本質的に同様であり、これは、両方のfXa誘導体が匹敵する機能的解毒剤活性を有することを示している。508nM r−解毒剤は、1.25U/mL エノキサパリンの阻害効果を実質的に(>75%)補正した。このアッセイプロトコルを実施例11に提示する。 図19は、ヒト血漿凝固アッセイにおいて試験したときの低分子量ヘパリン(LMWH)の阻害効果のr−解毒剤逆転を示すものである。図18と19の両方を実施例11において論ずる。 図20は、リバロキサバンの抗凝血効果のr−解毒剤逆転を示すものである。実施例12においてより詳細にこのことを論ずる。 図21は、r−解毒剤のポリヌクレオチド配列と翻訳ポリペプチド配列のアラインメントを示すものである。 図22は、r−解毒剤の単回IV注射(1回注射)または二回注射(2回注射)でのマウス実験(1群につきn=5、312ug/200ul r−解毒剤)の結果を示すものである。血漿中のベトリキサバンレベル(図22A)を、ベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与、続いてビヒクルまたはr−解毒剤の静脈内注射の後に比較した(詳細については、実施例8を参照のこと)。図22Aに示すように、r−解毒剤の単回IV注射は、血漿中ベトリキサバンレベルを、ビヒクル対照(対照_1)と比較して8倍超増大させた。これは、インビボでベトリキサバンを有効に結合するこの解毒剤の能力を示している。さらに、この解毒剤の二回目の注射は、ベトリキサバンレベルを、単回注射と比較して2倍未満だけ増大させた。これは、マウス血液中のベトリキサバンの制限された量および解毒剤によるその抗凝血効果の逆転を示している。図22Bは、この解毒剤の単回および二重注射後、マウス血漿中の解毒剤/ベトリキサバン比が増加するにつれて、測定されたINRが減少することを明示している。 図23は、γ−解毒剤を用いる、リバロキサバン(A)、ベトリキサバン(B)およびアピキサバン(C)によるfXa阻害の逆転を示す。曲線適合およびデータ分析は、DynafitおよびGraphpad Prismソフトウェア(実施例15)を用いることによって行った。 図24は、ヒト血漿におけるリバロキサバンによるPTの延長のr−解毒剤逆転を示す(実施例16)。 図25は、アピキサバンによるPTの延長、およびr−解毒剤の添加による、その抗凝血効果の逆転を示す(実施例16)。 図26は、エノキサパリンの抗凝血効果のr−解毒剤による逆転を示す(実施例17)。 図27は、ラットにおけるr−解毒剤のIV投与によるリバロキサバン−誘発性の抗凝血の用量応答性の逆転を示す(実施例18)。 図28は、抗凝血処理したラットへのr−解毒剤の投薬の際のリバロキサバンの遊離(未結合)画分の用量応答性の減少を示す(実施例19)。 図29Aおよび図29Bは、全血のINRおよびPT比によって測定したラットにおけるr−解毒剤のIV投与によるリバロキサバン−誘発性の抗凝血の持続性の逆転を示す(実施例20)。 図29Aおよび図29Bは、全血のINRおよびPT比によって測定したラットにおけるr−解毒剤のIV投与によるリバロキサバン−誘発性の抗凝血の持続性の逆転を示す(実施例20)。 図30は、麻酔したラットにおけるエノキサパリンの用量決定試験を示す(実施例21)。 図31は、活性化部分トロンボプラスチン時間で測定した、ラットでのr−解毒剤および硫酸プロタミンのIV投与によるエノキサパリン−誘発性の抗凝血の持続性の逆転を示す(実施例21)。 図32は、r−解毒剤の投与によるベトリキサバン−誘発性の抗凝血の持続性の逆転を示す(実施例22)。 図33は、1mgの静脈内投与後のSprague−Dawleyラットにおけるr−解毒剤の血漿濃度−時間のプロフィールを示す(実施例23)。 図34は、10mgの静脈内投与後のアカゲザルにおけるr−解毒剤の血漿濃度−時間のプロフィールを示す(実施例24)。 図35Aおよび図35Bは、r−解毒剤の投与によるリバロキサバンの活性の中和のシミュレートされた時間経過のプロフィールを示す。図35Aでは、r−解毒剤について3時間というT1/2を仮定すると、20mgの用量のリバロキサバンは、400mgの用量のr−解毒剤(ボーラス投与)によって逆転される。図35Bでは、r−解毒剤について1時間というT1/2を仮定すると、20mg用量のリバロキサバンは、900mgの用量のr−解毒剤(ボーラスに加えて6時間の注入)を用いて逆転される(実施例25)。 図36Aおよび図36Bは、r−解毒剤によるベトリキサバン活性の中和のシミュレートされた時間経過プロフィールを示す。図36Aでは、r−解毒剤について3時間というT1/2を仮定すると、80mgの用量のベトリキサバンは、400mgの用量のr−解毒剤(ボーラス投与)によって逆転される。図36Bでは、r−解毒剤について1時間というT1/2を仮定すると、80mg用量のベトリキサバンは、900mgの用量のr−解毒剤(ボーラスに加えて6時間の注入)を用いて逆転される(実施例26)。 図37は、リバロキサバンによる抗凝血の逆転に対するr−解毒剤の効果を示す(実施例27)。 図38は、ラットにおけるr−解毒剤の投与によるエノキサパリン抗凝血に起因する失血の逆転を示す(実施例28)。各々の処置群における個々の動物についての失血は、図41に示した。 図39は、ラットにおけるr−解毒剤の投与によるフォンダパリヌクス抗凝血に起因する失血の逆転を示す(実施例28)。各々の処置群における個々の動物についての失血は、図43に示した。 図40は、r−解毒剤の投与によるエノキサパリン抗凝血に起因する抗凝血の逆転を示す。抗凝血は、血漿抗−fXa単位によって測定した(実施例29)。 図41は、ラットにおけるr−解毒剤の投与によるエノキサパリン抗凝血に起因する失血の用量応答性の緩和を示す(実施例28)。 図42は、ラット尾トランザクションモデルにおいて測定した失血(実施例28)および抗−fXa単位によって測定したエノキサパリン濃度(実施例29)の相関を示す。図42aは、抗−fXa単位アッセイによって測定した1.5U/mLより大きくまで増大したエノキサパリン濃度として、失血の大幅な増大を示す。 図42は、ラット尾トランザクションモデルにおいて測定した失血(実施例28)および抗−fXa単位によって測定したエノキサパリン濃度(実施例29)の相関を示す。図42bは、失血とr−解毒剤濃度との間の0.799というr値で相関分析を示す。 図42は、ラット尾トランザクションモデルにおいて測定した失血(実施例28)および抗−fXa単位によって測定したエノキサパリン濃度(実施例29)の相関を示す。図42cは、抗−fXa単位とr−解毒剤濃度との間の0.689というr値で相関分析を示す。 図43は、ラット尾トランザクションモデルにおける、フォンダパリヌクス抗凝血に起因する失血の逆転であって、これがr−解毒剤によるものではあるが、プロタミンによるものではないことを示す(実施例28)。 図44は、抗−fXa活性アッセイで測定した、フォンダパリヌクスに起因する抗凝血の逆転を示す。
I.定義
本発明の実施は、別の指示がない限り、当該技術分野の技術の範囲内である、従来の組織培養、免疫学、分子生物学、微生物学、細胞生物学および組換えDNAの技術を利用するであろう。例えば、Sambrook and Russell編(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版;the series Ausubelら編(2007)Current Protocols in Molecular Biology;the series Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);MacPhersonら(1991)PCR 1:A Practical Approach(IRL Press at Oxford University Press);MacPhersonら(1995)PCR 2:A Practical Approach;Harlow and Lane編(1999)Antibodies,A Laboratory Manual;Freshney(2005)Culture of Animal Cells:A Manual of Basic Technique、第5版;Gait編(1984)Oligonucleotide Synthesis;米国特許第4,683,195号;Hames and Higgins編(1984)Nucleic Acid Hybridization;Anderson(1999)Nucleic Acid Hybridization;Hames and Higgins編(1984)Transcription and Translation;Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press (1986));Perbal (1984)A Practical Guide to Molecular Cloning;Miller and Calos編(1987)Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(Cold Spring Harbor Laboratory);Makrides編(2003)Gene Transfer and Expression in Mammalian Cells; Mayer and Walker編(1987)Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology(Academic Press,London);Herzenbergら編(1996)Weir’s Handbook of Experimental Immunology;Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、第3版(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2002))参照。
範囲を含めて、すべての数値指定、例えばpH、温度、時間、濃度および分子量、は、0.1の増分で(+)または(−)変動のある近似値である。常に明確に述べているとは限らないが、すべての数値指定の前に用語「約」があるものと解さねばならない。本明細書に記載する試薬が単に例示的なものであること、およびそのようなものの等価物が当該技術分野において公知であることも、常に明確に述べているとは限らないが、理解されるはずである。
本明細書および特許請求の範囲において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、その文脈が明確に別様に指示していない限り、複数の指示対象を含む。例えば、用語「1つの(a)薬学的に許容されるキャリア」は、その混合物を含めて、複数の薬学的に許容されるキャリアを含む。
本明細書において場合、用語「含むこと」は、組成物および方法が、列挙されている要素を含み、他のものを排除しないことを意味する。組成物および方法を定義するために用いるときの「から本質的に成ること」は、所期の使用のための組み合わせにとって任意の本質的に重要な他の要素を排除することを意味するものとする。従って、本明細書において定義するような要素から本質的に成る組成物は、単離および精製方法からの微量混在物ならびに薬学的に許容されるキャリア、例えばリン酸緩衝食塩水、保存薬およびこれらに類するものを除外しないだろう。「から成ること」は、他の成分の微量元素および本発明の組成物を投与するための実質的方法の工程以上のものを除外することを意味するものとする。これらの変転用語のそれぞれによって定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
診断または処置の「被験体」は、細胞または哺乳動物(ヒトを含む)である。診断または処置に対する非ヒト動物被験体としては、例えば、ネズミ科の動物、例えばラット、マウス、イヌ科の動物、例えばイヌ、ウサギ科の動物、例えばウサギ、家畜、競技用動物、およびペットが挙げられる。
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は互換的に用いており、およびそれらの最も広い意味で、2つ以上のサブユニットアミノ酸、アミノ酸類似体またはペプチドミメティックの化合物を指す。前記サブユニットは、ペプチド結合によって連結されていることがある。もう1つの実施形態において、前記サブユニットは、他の結合、例えばエステル、エーテル、アミノなど、によって連結されていることがある。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含有しなければならず、また、タンパク質またはペプチドの配列を構成し得るアミノ酸の最大数に対してかけられる制限はない。本明細書において用いる場合、用語「アミノ酸」は、天然および/または非天然もしくは合成いずれかのアミノ酸(グリシンおよびDとL両方の光学異性体を含む)、アミノ酸類似体およびペプチドミメティックを指す。自然に存在するアミノ酸の1文字および3文字略語を下に列挙する。アミノ酸3個以上のペプチドは、そのペプチド鎖が短い場合、一般にオリゴペプチドと呼ばれる。ペプチド鎖が長い場合、そのペプチドは、一般にポリペプチドまたはタンパク質と呼ばれる。
「第Xa因子」または「fXa」または「fXaタンパク質」は、不活性第X因子(fX)から生産される、血液凝固経路におけるセリンプロテアーゼを指す。第Xa因子は、内因性Xaseとして公知の複合体での第IXa因子とその補因子、第XIIIa因子、または外因性Xaseとして公知の複合体での第VIIaとその補因子、組織因子、いずれかによって活性化される。fXaは、第Va因子と共に膜結合プロトロンビナーゼ複合体を形成し、また、プロトロンビンのトロンビンへの転化を触媒するプロトロンビナーゼ複合体内の活性成分である。トロンビンは、最終的に血餅形成に至る、フィブリノゲンのフィブリンへの転化を触媒する酵素である。従って、fXaの生物活性を本明細書では時として[凝血促進活性」と呼ぶ。
ヒト第X因子(「fX」)をコードするヌクレオチド配列を、<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/viewer.fcgi?db=nuccore&id=89142731>におけるGenBank、「NM_000504」において見つけることができ、ならびに図1bおよび配列番号2に列挙する。fXの対応するアミノ酸配列およびドメイン構造は、Leytusら、Biochemistry,1986,25:5098−5102に記載されている。成熟fXのドメイン構造がVenkateswarlu,D.ら、Biophysical Journal,2002,82:1190−1206にも記載されている。重鎖の最初の52残基(配列番号3のアミノ酸143から194)の触媒による切断の際に、fXは、fXa(配列番号6)に活性化される。FXaは、軽鎖(配列番号8)および重鎖(配列番号9)を含有する。軽鎖の最初の45アミノ酸残基(配列番号6の残基1〜45)は、11の翻訳後修飾γ−カルボキシグルタミン酸残基(Gla)を含有するため、Glaドメインと呼ばれる。それは、短い(6アミノ酸残基)芳香族スタック配列(配列番号6の残基40〜45)も含有する。キモトリプシン消化は、1〜44残基を選択的に除去し、結果としてGlaドメインのないfXa(配列番号4)を生じさせる。fXaのセリンプロテアーゼ触媒ドメインは、重鎖C末端に位置する。fXaの重鎖は、他のセリンプロテアーゼ、例えばトロンビン、トリプシンおよび活性化プロテインC、に高相同性である。
成熟第X因子のドメイン構造は、Venkateswarlu D.ら、Biophysical J.,2002,82,1190−1206(その全体が参照により本明細書に援用されている)において見つけることができる。この図におけるアミノ酸ナンバリングは、図3と同じである。軽鎖を活性化ペプチドに接続するArg140−Lys141−Arg142のトリペプチド(図1に示すようなRKR(配列番号16)トリプレット)は、このトリペプチドを欠く形態が循環血漿において支配的であるため、示さない。個々のドメインを箱の中に示す。これは、図2(配列番号3)におけるアミノ酸1〜45を含む。機能的に重要な触媒残基は丸で囲まれており、および「γ」はGla(γ−カルボキシグルタミン酸)残基を表す。
「天然fXa」または「野生型fXa」は、血漿中に自然に存在するまたはその原型、未修飾形態で単離されているfXaであって、プロトロンビンを活性化する、従って血餅の形成を促進する、生物活性を有するfXaを指す。この用語は、組織サンプルから単離された自然に存在するポリペプチド、ならびに組換生産されたfXaを含む。「活性fXa」は、プロトロンビンを活性化する生物活性を有するfXaを指す。「活性fXa」は、凝血促進活性を保持する、天然fXaまたは修飾fXaであり得る。
「fXa誘導体」または「修飾fXa」または「第Xa因子タンパク質の誘導体」は、第Xa因子インヒビターに直接的または間接的に結合するが集合してプロトロンビナーゼ複合体を構築しないように修飾されている、fXaタンパク質を指す。構造的に、前記誘導体は、凝血促進活性をもたらさないように、または低減された凝血促進活性をもたらすように修飾される。「凝血促進活性」は、本明細書では、血液凝固または凝血塊形成を生じさせる薬剤の能力のことをいう。低減された凝血促進活性は、凝血促進活性が、同じ時間期間の間に野生型fXaと比較して少なくとも約50%、または約90%より大きく、または約95%より大きく低減されたことを意味する。例えば、組換え型fX−S395Aは、fXa活性アッセイなどのインビトロアッセイによって測定された凝血促進活性を本質的に有さない。
前記誘導体は、修飾活性部位もしくは修飾Glaドメインまたは両方を有する。追加の修飾も考えられる。そのような修飾を次の方法の1つ以上で行うことができると考えられる:その配列からの1つ以上のアミノ酸の欠失、1つ以上のアミノ酸残基の1つ以上の異なるアミノ酸残基での置換、および/あるいは1つ以上のアミノ酸側鎖またはその「C」もしくは「N」末端の操作。
用語「活性部位」は、化学反応が発生する酵素または抗体の部分を指す。「修飾活性部位」は、増加されたまたは減少された化学反応性または化学的特異性をその活性部位に備えさせるように構造的に修飾された活性部位である。活性部位の例としては、235〜488アミノ酸残基を含むヒト第X因子の触媒ドメイン(図1)、および195〜448アミノ酸残基を含むヒト第Xa因子の触媒ドメイン(図2および3)が挙げられるが、それらに限定されない。修飾活性部位の例としては、位置Arg306、Glu310、Arg347、Lys351、Lys414またはArg424での少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、配列番号10、11、12、13または15における195〜448アミノ酸残基を含む、ヒト第Xa因子の触媒ドメインが挙げられるが、これに限定されない。
上で述べたように、本発明の誘導体は、修飾Glaドメインを有することがあり、または全Glaドメインが除去されていることがある。本発明の方法において解毒剤として適するfXa誘導体の例は、本明細書において詳細に説明するような、GlaドメインのないfXa(配列番号4または5)、Gla欠失fXa(本明細書に記載する修飾を有する配列番号7)、触媒部位での修飾を有するfXa(配列番号10または11)、およびfV/fVa相互作用またはfVIII/fVIIIa相互作用にとって重要であることが公知である部位での修飾を有するfXa(位置Arg306、Glu310、Arg347、Lys351、Lys414またはArg424での少なくとも1つのアミノ酸置換を有する、配列番号4、5、7、10または11)である。本発明によって考えられるfXa誘導体のさらなる例を下に提供する。
「GlaドメインのないfXa」または「des−Gla fXa」は、Glaドメインを有さないfXaを指し、およびGlaドメインの除去に加えて他の修飾(単数または複数)を有するfXa誘導体を包含する。本発明におけるGlaドメインのないfXaの例としては、配列番号3の1〜39アミノ酸残基を欠くfXa誘導体;より詳細に下で説明するCHO細胞において発現されるfXa変異体に対応する、配列番号3の6〜39アミノ酸残基を欠くfXa誘導体(配列番号12、表24);ヒトfXaのキモトリプシン消化後のdes−Gla fXaに対応する、配列番号3の1〜44アミノ酸残基を欠くfXa誘導体(配列番号4、図3);およびPadmanabhanら、Journal Mol.Biol.,1993,232:947−966に記載されているような配列番号3の全1〜45Glaドメイン残基を欠くfXa誘導体(配列番号5)が挙げられるが、それらに限定されない。他の例としては、des−Gla anhydro−fXa(配列番号10、表22)およびdes−Gla fXa−S379A(配列番号11、表23)が挙げられる。
一部の実施形態において、des−Gla fXaは、配列番号3のアミノ酸残基40から448またはその等価物を少なくとも含む。一部の実施形態において、des−Gla fXaは、配列番号3のアミノ酸残基45から488(配列番号4)もしくは46から488(配列番号5)またはその等価物を少なくとも含む。
一部の実施形態において、des−Gla fXaは、配列番号3のアミノ酸残基40から139および195から448またはその等価物を少なくとも含む。一部の実施形態において、des−Gla fXaは、配列番号3のアミノ酸残基45から139および195から448またはその等価物を少なくとも含む。もう1つの実施形態において、des−Gla fXaは、配列番号3のアミノ酸残基46から139および195から448またはその等価物を少なくとも含む。
「Gla欠失fXa」は、そのGlaドメイン内の遊離側鎖γ−カルボキシル基の数が低減されたfXaを指す。GlaドメインのないfXaと同様に、Gla欠失fXaは、他の修飾も含む場合がある。Gla欠失fXaは、未カルボキシル化(uncarboxylated)、低カルボキシル化、および脱カルボキシル化(decarboxylated)fXaを含む。「未カルボキシル化fXa」または「脱カルボキシル化fXa」は、Glaドメインのγ−カルボキシグルタミン酸残基のγ−カルボキシル基を有さないfXa誘導体、例えば、そのGlaドメインγ−カルボキシグルタミン酸のすべてが別のアミノ酸によって置換されているfXa、またはその側鎖γ−カルボキシルのすべてがアミノ化、エステル化などのような手段によって除去もしくはマスクされているfXaを指す。組換え発現されたタンパク質については、未カルボキシル化fXaを、時として、非カルボキシル化(non−carboxylated)fXa」とも呼ぶ。「低カルボキシル化fXa」は、Glaドメイン内のγ−カルボキシ基の数が野生型fXaと比較して低減されているfXa誘導体、例えば、そのGlaドメインγ−カルボキシグルタミン酸のすべてではないが1つ以上が1つ以上の別のアミノ酸によって置換されているfXa、またはその側鎖γ−カルボキシルのすべてではないが少なくとも1つがアミノ化およびエステル化などのような手段によって除去もしくはマスクされているfXaを指す。
ヒトGlaドメインのない第Xa因子のドメイン構造は、Padmanabhanら、J.Mol.Biol.,1993,232,947−966(その全体が参照により本明細書に援用されている)において見つけることができる。そのアミノ酸のナンバリングは、キモトリプシンとのトポロジー的等価性に基づき、この場合、例えば、Ser195は、ヒト成熟fXナンバリングを用いた場合の図2におけるSer379に対応する。挿入を文字で示し、欠失を2つの連続するナンバリングによって示す。軽鎖ナンバリングに300を加えて、重鎖ナンバリングと区別する。β363は、β−ヒドロキシアスパルタートである。スラッシュは、結晶材料において観察されたタンパク質分解性切断を示す。成熟fX(配列番号3)に基づき1〜45アミノ酸残基を欠く、GlaドメインのないfXaの配列を、配列番号5に列挙する。
1つの実施形態において、前記fXa誘導体は、重鎖内に存在するセリンプロテアーゼ触媒ドメインを依然として含有するが、fXaの軽鎖を欠くことがある。加えて、他のセリンプロテアーゼ触媒ドメインとのキメラを用いて、重鎖内での置換を行うことができる。
「pd−解毒剤」または「血漿由来解毒剤」は、des−Gla anhydro−fXa誘導体を指し、および配列番号10のアミノ酸残基を有する。
「r−解毒剤」または「組換え型解毒剤」は、CHO細胞において発現されるfXa変異体に対応する、およびより詳細に下で説明するリンカーの除去後の、配列番号3の6〜39アミノ酸残基を欠くfXa誘導体(配列番号13、表25)を指す。
「抗凝血性薬剤」または「抗凝血剤」は、血餅形成を阻害する薬剤である。抗凝血性薬剤の例としては、トロンビン、第IXa因子、第Xa因子、第XIa因子、第XIIa因子または第VIIa因子の特異的インヒビター、ヘパリンおよび誘導体、ビタミンKアンタゴニスト、ならびに抗組織因子抗体が挙げられるが、それらに限定されない。トロンビンの特異的インヒビターの例としては、ヒルジン、ビバリルジン(Angiomax(登録商標))、アルガトロバンおよびレピルジン(Refludan(登録商標))が挙げられる。ヘパリンおよび誘導体の例としては、未分画ヘパリン(UFH)、低分子量ヘパリン(LMWH)、例えば、エノキサパリン(エノキサパリン(enoxaparine)、Clexane(登録商標)、Lovenox(登録商標)など)、ダルテパリン(dalteparin)(Fragmin(登録商標))、ナドロパリン(nadroparin)(Fraxiparin、Fraxiparineなど)、チンザパリン(tinzaparin)(Innohep)、アルデパリン(ardeparin)(Normiflo)、セルトパリン(certoparin)(サンドパリン(sandoparin)、エンボレックス(embolex)など)、およびダナパロイド(danaparoid)(Orgaran(登録商標));ならびに合成五糖類、例えばフォンダパリヌクス(fondaparinux)(Arixtra(登録商標))、イドラパリヌクス(idraparinux)、イドラドビオタパリヌクス(idradbiotaparinux)およびビオチン化イドラパリヌクスが挙げられる。ビタミンKアンタゴニストの例としては、ワルファリン(Coumadin(登録商標))、フェノクマロール、アセノクマロール(Sintrom(登録商標))、クロリンジオン、ジクマロール、ジフェナジオン、エチルビスクマアセタート、フェンプロクモン、フェニンジオン、およびチオクロマロールが挙げられる。1つの実施形態において、抗凝血剤は、第Xa因子のインヒビターである。1つの実施形態において、抗凝血剤は、ベトリキサバンである。
「抗凝固療法」は、望ましくない血餅または血栓を予防するために患者に施与される治療レジメを指す。抗凝固療法は、2つ以上の抗凝血性薬剤または他の薬剤の1つまたは組み合わせを、患者における望ましくない血餅または血栓の処置または予防に適する投薬量およびスケジュールで投与することを含む。
用語「第Xa因子インヒビター」または「第Xa因子のインヒビター」は、インビトロおよび/またはインビボでのプロトロンビンのトロンビンへの転化を触媒する第Xa因子の凝血活性を直接または間接的に阻害することができる化合物を指す。公知のfXaインヒビターの例としては、限定ではないが、エドキサバン、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、ビオチン化イドラパリヌクス、エノキサパリン、フラグミン、NAP−5、rNAPc2、組織因子経路インヒビター、DX−9065a(例えば、Herbert,J.M.ら、J Pharmacol Exp Ther.1996 276(3):1030−8に記載されているようなもの)、YM−60828(例えば、Taniuchi,Y.ら、Thromb Haemost.1998 79(3):543−8に記載されているようなもの)、YM−150(例えば、Eriksson,B.I.ら、Blood 2005;106(11),Abstract 1865に記載されているようなもの)、アピキサバン、リバロキサバン、PD−348292(例えば、Pipeline Insight:Antithrombotics−Reaching the Untreated Prophylaxis Market,2007に記載されているようなもの)、オタミキサバン、ラザキサバン(DPC906)、BAY 59−7939(例えば、Turpie,A.G.ら、J.Thromb.Haemost.2005,3(11):2479−86に記載されているようなもの)、エドキサバン(例えば、Hylek EM,Curr Opin Invest Drugs 2007 8(9):778−783に記載されているようなもの)、LY517717(例えば、Agnelli,G.ら、J.Thromb.Haemost.2007 5(4):746−53に記載されているようなもの)、GSK913893、ベトリキサバン(下で説明するようなもの)およびそれらの誘導体が挙げられる。低分子量ヘパリン(「LMWH」)もまた、第Xa因子インヒビターであると考えられる。
1つの実施形態において、第Xa因子インヒビターは、ベトリキサバン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン、LMWH、およびそれらの組み合わせから選択される。
用語「ベトリキサバン」は、化合物「[2−({4−[(ジメチルアミノ)イミノメチル]フェニル}カルボニルアミノ)−5−メトキシフェニル]−N−(5−クロロ(2−ピリジル))カルボキサミド」またはその薬学的に許容される塩を指す。「[2−({4−[(ジメチルアミノ)イミノメチル]フェニル}カルボニルアミノ)−5−メトキシフェニル]−N−(5−クロロ(2−ピリジル))カルボキサミド」は、次の構造:
を有する化合物またはその互変異性体もしくは薬学的に許容される塩を指す。
ベトリキサバンは、米国特許第6,376,515号および同第6,835,739号ならびに同第7,598,276号に記載されており、これらの内容は、参照により本明細書に援用されている。ベトリキサバンが第Xa因子の特異的インヒビターであることは公知である。
本明細書において用いる場合、用語「解毒剤」または「第Xa因子インヒビターに対する解毒剤」は、活性fXaと競合して利用可能なfXaインヒビターと結合することによりfXaインヒビターの凝血阻害活性を実質的に中和または逆転できる、fXaの誘導体などの、分子を指す。本発明の解毒剤の例は、低減されたリン脂質膜結合を有するfXa誘導体、例えばdes−Gla fXaまたはGla欠失fXa、および低減された触媒活性を有するfXa誘導体、例えば活性部位修飾fXa誘導体、およびfV/Va、もしくはfVIII/fVIIIaとの低減された相互作用を有する誘導体である。低減された膜結合および低減された触媒活性を有する本発明の解毒剤の例としては、(実施例1に記載するような)アンヒドロ−fXaのキモトリプシン消化によるdes−Gla anhydro−fXa;(実施例6に記載するよう)変異誘発によるdes−Gla fXa−S379A(キモトリプシンナンバリングの場合のS195A)が挙げられるが、それらに限定されない。
本発明の解毒剤の他の例としては、fXa触媒ドメインへの十分な構造類似性を有し、従って小分子fXaインヒビターを結合することができる、セリンプロテアーゼ触媒ドメインを含有するタンパク質またはポリペプチドが挙げられる。例としては、fXaインヒビターGSK913893に結合するトロンビン(Young R.ら、Bioorg.Med.Chem.Lett.2007,17(10):2927−2930);fXaインヒビターアピキサバンに結合する血漿カリクレイン(Luettgen J.ら、Blood,2006,108(11)abstract 4130);およびサブモル濃度の親和性(Kd=500pM)でfXaインヒビターC921−78を結合するトリプシン(またはその細菌相同体・サブチリシン) (Betz A.ら、Biochem.,1999,38(44):14582−14591)が挙げられるが、それらに限定されない。
1つの実施形態において、本発明の誘導体は、第Xa因子インヒビターに直接または間接的に結合する。本明細書において用いる場合の用語「結合すること」、「結合する」、「認識」、または「認識する」は、例えばハイブリダイゼーションアッセイを用いて検出することができる、分子間の相互作用を含むものとする。これらの用語は、分子間の「結合」相互作用も含むものとする。相互作用は、例えば、現実には、タンパク質−タンパク質、タンパク質−核酸、タンパク質−小分子または小分子−核酸であるだろう。結合は、「直接的」である場合もあり、または「間接的」である場合もある。「直接」結合は、分子間の直接的な物理的接触を含む。分子間の「間接」結合は、同時に1つ以上の中間分子と直接的な物理的接触を有する分子を含む。例えば、本発明の誘導体は、低分子量ヘパリンおよび第Xa因子の他の間接的インヒビターを間接的に結合し、実質的に中和すると考えられる。この結合は、相互作用している分子を含む「複合体」の形成を生じさせる場合がある。「複合体」は、共有結合および/もしくは非共有結合、共有結合性および/もしくは非共有結合性相互作用ならびに/または共有結合および/もしくは非共有結合力によって一緒に保持された2つ以上の分子の結合を指す。
fXaのインヒビターの活性を「中和する」、「逆転する」、「補正する」もしくは「打ち消す」または同様のフレーズは、fXaインヒビターの第Xa因子阻害または抗凝血機能を阻害するまたは阻止することを指す。そのようなフレーズは、前記機能の部分的阻害または阻止、ならびにインビトロおよび/またはインビボでの、fXaインヒビターの大部分のまたはすべての活性の阻害または阻止を指す。これらの用語は、fXaインヒビター依存性薬力学的または代用マーカーの少なくとも約20%の補正も指す。マーカーの例としては、INR、PT、aPTT、ACT、抗fXa単位、トロンビン生成(Technothrombin TGA、トロンボエラストグラフィー、CAT(校正自動トロンボグラム)およびこれらに類するものが挙げられるが、それらに限定されない。
一定の実施形態において、第Xa因子インヒビターは、実質的に中和される(または今まさに説明したように「補正される」)。これは、第Xa因子を直接的にかまたは間接的に阻害するその能力が、少なくとも約5%、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%低減されることを意味する。
用語「リン脂質膜結合」は、Ca2+イオンの存在下で、負の電荷を有するリン脂質膜または他の細胞膜、例えば血小板、に結合する活性fXaの能力を指す。この結合は、fXaのGlaドメイン内のγ−カルボキシグルタミン酸残基によって媒介される。
用語「低減された相互作用」は、野生型fXaと通常結合または複合体化する、イオンまたは他の補因子と結合するまたは複合体を形成するfXa誘導体の減少された能力を指す。そのような相互作用の例としては、fXaのCa2+イオンおよびリン脂質膜との結合、fV/fVa、またはfVIII/fVIIIaとの相互作用などが挙げられるが、それらに限定されない。fXa誘導体と前記イオンまたは他の補因子との相互作用が野生型fXaのものの50%に低減されることが好ましい。さらに好ましくは、前記相互作用は、野生型fXaのものの10%、1%、および0.1%に低減される。これは、「集合してプロトロンビナーゼ複合体を構築する」前記誘導体の能力を指す。
「fXaインヒビター結合活性」は、fXaのインヒビターを結合する分子の能力を指す。本発明の解毒剤は、fXaインヒビター結合活性を、それが直接的であろうと、間接的であろうと、有する。
用語「循環半減期」または「血漿半減期」は、単回投与後にまたは注入の停止の後、血漿中を循環する解毒剤の血漿濃度がその初期濃度の半分に低減するために必要な時間を指す。
用語「結合体化される部分」は、そのfXa誘導体の残基と共有結合を形成することによりfXa誘導体に付加させることができる部分を指す。前記部分は、fXa誘導体の残基に直接結合することがあり、またはリンカーと共有結合を形成することがあり、そしてまたそのリンカーが、fXa誘導体の残基と共有結合を形成する。
本明細書において用いる場合、「抗体」は、全抗体およびその任意の抗原結合フラグメントまたは一本鎖を含む。従って、用語「抗体」は、免疫グロブリン分子の少なくとも一部分を含む分子を含有する任意のタンパク質またはペプチドを指す。そのようなものの例としては、重鎖もしくは軽鎖の相補性決定領域(CDR)またはそのリガンド結合部分、重鎖または軽鎖可変領域、重鎖または軽鎖定常領域、フレームワーク(FR)領域、またはそれらの任意の部分、または結合タンパク質の少なくとも一部分が挙げられるが、それらに限定されない。
抗体は、ポリクローナルである場合もありまたはモノクローナルである場合もあり、ならびに任意の適する生物源、例えばネズミ科の動物、ラット、ヒツジおよびイヌ科の動物、から抗体を単離することができる。
「組成物」とは、活性剤と、不活性な(例えば検出可能な薬剤もしくは標識)または活性な(例えばアジュバント)別の化合物または組成物との組合せを意味するものとする。
「薬学的組成物」とは、活性剤と、組成物をインビトロ、インビボまたはエキソビボでの診断的または治療的使用に適する組成物にさせる、不活性または活性なキャリアとの組合せを包含するものとする。
「有効量」とは、所望の生物学的および/または治療的結果を誘発するために十分な誘導体の量をいう。その結果は、疾患の徴候、症状、もしくは原因の緩和、または生物学的系の任意の他の所望の変更であり得る。本発明では、この結果は、典型的には、以下のうちの1つ以上を含む:患者に投与されたfXaインヒビターの中和、fXaインヒビターの抗凝血活性の逆転、fXaインヒビターの血漿からの除去、止血の回復、および出血の減少または休止。有効量は、使用する具体的な解毒剤、被験体が投与された特定のfXaインヒビター、fXaインヒビターの投薬レジメン、解毒剤の投与のタイミング、治療されている被験体および病状、被験体の重量および年齢、病状の重篤度、投与様式などに応じて変化し、これらはすべて当業者によって容易に決定することができる。生物学的または治療的な結果が達成されるか否かを決定する1方法は、患者において、fXaインヒビター依存性の薬力学的マーカーまたは代用のマーカーを測定することである。このマーカーは、限定するものではないが、INR、PT、aPTT、ACT、抗fXa単位、およびトロンビン生成(テクノトロンビン(Technothrombin)TGA、トロンボエラストグラフィー、CAT(自動較正トロンボグラム(calibrated automated thrombogram))が挙げられる。
「中和量」という用語は、「中和する」という用語が本明細書に規定されるとおりである場合、第Xa因子を中和できる量を指す。
本明細書において用いる場合、用語「処置すること」、「処置」およびこれらに類するものは、所望の薬理および/または生理効果を得ることを意味するために本明細書では用いる。この効果は、障害またはその兆候もしくは症状を完全にまたは一部予防するという点で予防的である場合もあり、ならびに/あるいは障害および/またはその障害に起因する有害作用についての一部または完全治癒という点で治療的である場合もある。
「処置すること」は、哺乳動物における障害のいかなる処置も包含し、および(a)障害の素因を有するだろうが、それを有するとまだ診断されていないことがある被験体における障害の発生の予防、例えば、抗凝血剤を過剰投与された患者における出血の予防;(b)障害の抑制、すなわち、その発現の阻止、例えば出血の抑制;または(c)障害の軽減または改善、例えば出血の低減、を含む。
本明細書において用いる場合、「処置する」ことは、その病態に随伴する症状の系統的改善および/または症状の発症の遅延をさらに含む。「処置」の臨床的および準臨床的証拠は、病態、個体および処置によって変わるであろう。
「投与」は、1用量で行われる場合があり、処置過程全体にわたって連続的にまたは間欠的に行われる場合もある。投与の最も有効な手段および投薬量を決定するための方法は、当業者に公知であり、ならびに治療に用いられる組成物、治療の目的、処置されるターゲット細胞、および処置される被験体によって変わるであろう。処置する医師によって選択される用量レベルおよびパターンによって、単回投与が行われる場合もあり、または多回投与が行われる場合もある。適する投薬製剤およびそれらの薬剤を投与する方法は、当該技術分野において公知である。
本発明の薬剤および組成物を、医薬品の製造に使用することができ、ならびに薬学的組成物中の活性成分のような従来の手順に従って投与することによりヒトおよび他の動物の処置に使用することができる。
本発明の薬剤を、任意の適する経路により、特に、非経口投与(皮下、筋肉内、静脈内および皮内投与を含む)により、治療のために投与することができる。好ましい経路が、レシピエントの状態および年齢、ならびに処置される疾病によって変わるであろうということも理解されるだろう。
上記方法、すなわち第Xa因子インヒビターの阻害または逆転、が達成されるかどうかを、多数のインビトロアッセイ、例えば、トロンビン生成アッセイおよび抗fXa単位、ならびに臨床的凝固アッセイ、例えばaPTT、PTおよびACT、によって決定することができる。
核酸、例えばDNAまたはRNA、に関して本明細書において用いる場合の用語「単離された」は、その高分子の天然源に存在する他のDNAまたはRNAからそれぞれ分離された分子を指す。用語「単離された核酸」は、フラグメントとして自然に存在しないおよび自然な状態では見つけられないであろう核酸フラグメントを含むものとする。用語「単離された」は、他の細胞タンパク質から単離されているポリペプチドおよびタンパク質を指すためにも本明細書では用いており、精製されたポリペプチドと組換えポリペプチドの両方を包含するものとする。他の実施形態において、用語「単離された」は、細胞、組織、ポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはそのフラグメント(単数もしくは複数)が自然界で通常会合している、細胞のまたは別の成分から分離されていることを意味する。例えば、単離された細胞は、異なる表現型または遺伝子型の組織または細胞から分離されている細胞である。当業者には明らかであるように、自然に存在しないポリヌクレオチド、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、抗体またはそのフラグメント(単数もしくは複数)は、それをその自然に存在する対応物と区別するために「単離」を必要としない。
本明細書において用いる場合、参照タンパク質、ポリペプチドまたは核酸を指すときの用語「その等価物」は、最小限の相同性を有し、その上、所望の官能性を依然として維持しているものを意味する。本明細書において述べる任意の修飾タンパク質が、その等価物も含むと考えられる。例えば、前記相同性は、参照ポリペプチドまたはタンパク質に対して少なくとも75%の相同性および代替え的に少なくとも80%、または代替的に少なくとも85%、代替的に少なくとも90%、または代替的に少なくとも95%、または代替的に少なくとも98%のパーセント相同性であり得、ならびに参照ポリペプチドまたはタンパク質と実質的に等価の生物活性を示すことができる。ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が、別の配列との一定の百分率(例えば、80%、85%、90%または95%)の「配列同一性」を有するということは、整列させたとき、それら2つの配列を比較して塩基(またはアミノ酸)の百分率が同じであることを意味する。fXa(または関連セリンプロテアーゼ)の重鎖のみを使用すると、全相同性は、75%より低い、例えば65%または50%などであるだろうが、所望の官能性はそのままであることに留意しなければならない。このアラインメントおよびパーセント相同性またはパーセント配列同一性は、当該技術分野において公知のソフトウェアプログラム、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY(F.M.Ausubelら編、1987)Supplement 30、セクション7.7.18、表7.7.1に記載されているもの、を使用して決定することができる。好ましくは、デフォルトパラメータをアラインメントに用いる。好ましいアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用するBLASTである。詳細には、好ましいプログラムは、次のデフォルトパラメータを用いる、BLASTNおよびBLASTPである:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;マトリクス=BLOSUM62;記述=50配列;ソート手段=HIGH SCORE;データベース=非冗長性、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、次のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/cgi−bin/BLASTで見つけることができる。
用語「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に用いており、ならびにデオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチドまたはそれらの類似体のいずれかの、任意の長さのヌクレオチドの重合形態を指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有することがあり、および公知のまたは未知の任意の機能を果たすことがある。次のものは、ポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子または遺伝子フラグメント(例えば、プローブ、プライマー、ESTまたはSAGEタグ)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離されたDNA、任意の配列の単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマー。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体、を含むことができる。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾を、ポリヌクレオチドの組み立て前にまたは後にもたらすことができる。ヌクレオチドの配列に非ヌクレオチド成分を割り込ませることができる。重合後、例えば標識成分との結合体化によって、ポリヌクレオチドをさらに修飾することができる。この用語は、二本鎖分子と一本鎖分子の両方も指す。別様に指定または要求されていない限り、ポリヌクレオチドである本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態と、二本鎖形態を構成することが公知のまたは二本鎖形態を構成すると予測される各々2本の相補的一本鎖形態の両方を包含する。
ポリヌクレオチドは、4つのヌクレオチド塩基:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);およびポリヌクレオチドがRNAであるときにはチミンの代わりにウラシル(U)、の特異的配列から成る。従って、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表示である。このアルファベット表示を、中央処理装置を有するコンピュータのデータベースにインプットし、そして機能性ゲノム解析および相同性検索などのバイオインフォマティクスアプリケーションに使用することができる。
「相同性」または「同一性」または「類似性」は、2ペプチド間または2核酸分子間の配列類似性を指す。相同性は、比較を目的として整列することができるそれぞれの配列内の位置を比較することによって決定することができる。比較配列内の位置を同じ塩基またはアミノ酸が占めているときには、それらの分子はその位置で相同である。配列間の相同性の程度は、それらの配列が共有するマッチング位置または相同位置の数の関数である。「無関係の」または「非相同」配列は、本発明の配列の1つと40%未満の同一性、または代替的に25%未満の同一性を共有する。
ポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド領域(またはポリペプチドもしくはポリペプチド領域)が、別の配列との一定の百分率(例えば、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%または99%)の「配列同一性」を有するということは、アラインしたとき、それら2つの配列を比較して同じである塩基(またはアミノ酸)の百分率を意味する。このアラインメントおよびパーセント相同性またはパーセント配列同一性は、当該技術分野において公知のソフトウェアプログラム、例えば、Ausubelら編(2007)Current Protocols in Molecular Biologyに記載されているもの、を使用して決定することができる。好ましくは、デフォルトパラメータをアラインメントに用いる。1つのアラインメントプログラムは、デフォルトパラメータを使用するBLASTである。詳細には、プログラムは、次のデフォルトパラメータを用いる、BLASTNおよびBLASTPである:遺伝子コード=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;マトリクス=BLOSUM62;記述=50配列;ソート手段=HIGH SCORE;データベース=非冗長性、GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS翻訳+SwissProtein+SPupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、次のインターネットアドレス:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/Blast.cgi(2007年11月26日に最終アクセス)で見つけることができる。生物学的に等価のポリヌクレオチドは、指定のパーセント相同性を有するもの、および同じまたは同様な生物活性を有するポリペプチドをコードするものである。
用語「核酸の相同体」は、その核酸のヌクレオチド配列またはその相補体(complement)との一定の相同性の程度を有するヌクレオチド配列を有する核酸を指す。二本鎖核酸の相同体は、その相補体との一定の相同性の程度を有するヌクレオチド配列を有するまたはその相補体を有する核酸を含むと意図される。1つの態様において、核酸の相同体は、核酸またはその相補体にハイブリダイズすることができる。
「遺伝子」は、転写または翻訳された後、特定のポリペプチドまたはタンパク質をコードすることができる少なくとも1つのオープン・リーディング・フレーム(ORF)を含有するポリヌクレオチドを指す。本明細書に記載するポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列のいずれかを使用して、それらが関係づけられる遺伝子のより大きなフラグメントまたは完全長コーディング配列を同定することができる。より大きなフラグメント配列を単離する方法は、当業者に公知である。
用語「発現する」は、遺伝子産物の産生を指す。
本明細書において用いる場合、「発現」は、ポリヌクレオチドがmRNAに転写されるプロセス、および/または転写されたmRNAが、その後、ペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質に翻訳されるプロセスを指す。ポリヌクレオチドがゲノムDNAに由来する場合、発現は、真核細胞におけるmRNAのスプライシングを含むことがある。
ポリヌクレオチドに適用される場合の用語「コードする」は、その本来の状態で、または当業者に周知の方法によって操作されたとき、ポリヌクレオチドを、ポリペプチドおよび/またはそのフラグメントのためのmRNAを生産するように転写および/または翻訳することができる場合、ポリペプチドを「コードする」と言われるポリヌクレオチドを指す。アンチセンス鎖は、そのような核酸の補体であり、およびコードする配列をそれらから導出することができる。
「ペプチド結合体」は、1つ以上のポリペプチドと別の化合的または生物学的化合物との共有結合または非共有結合による会合を指す。非限定的な例では、ポリペプチドと化学的化合物の「結合体化」は、結果として、その所期の目的のためにそのポリペプチドの安定性または効力改善をもたらす。1つの実施形態では、リポソーム、ミセルまたは薬学的に許容されるポリマーであるキャリアとペプチドを結合体化させる。
「リポソーム」は、同心脂質二重層から成る微視的小胞である。構造的に、リポソームは、サイズおよび形状の点で、数百オングストロームからミリメートルの何分の幾つかの寸法を有する長管から球形にわたる。小胞を形成する脂質は、外層の脂質組成をもたらす最終複合体の指定流動度または剛性度を達成するように選択される。これらは、中性(コレステロール)または二極性であり、ならびにリン脂質、例えばホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルイノシトール(PI)およびスフィンゴミエリン(SM)、ならびに14〜22の範囲の炭化水素鎖長を有し、および飽和されているか1つ以上の二重C=C結合を有する、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)をはじめとする(しかし、これらに限定されない)他のタイプの二極性脂質を含む。単独で、または他の脂質成分と併用で、安定なリポソームを生成することができる脂質の例は、リン脂質、例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、レシチン、ホスファチジルエタノールアミン、リゾレシチン、リゾホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、セファリン、カルジオリピン、ホスファチジン酸、セレブロシド、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン(POPC)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン(POPE)およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン4−(N−マレイミド−メチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート(DOPE−mal)である。リポソームに組み込まれた状態になることができる、追加の非リン含有脂質(non−phosphorous containing lipids)としては、ステアリルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、イソプロピルミリスタート、トリエタノールアミン−ラウリルスルファート、アルキル−アリールスルファート、アセチルパルミタート、グリセロールリシノレアート、ヘキサデシルステアラート、両性アクリルポリマー、ポリエチルオキシル化脂肪酸アミド、および上述のカチオン性脂質(DDAB、DODAC、DMRIE、DMTAP、DOGS、DOTAP(DOTMA)、DOSPA、DPTAP、DSTAP、DC−Chol)が挙げられる。負の電荷を有する脂質としては、小胞を形成することができる、ホスファチジン酸(PA)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)およびジセチルホスファートが挙げられる。代表的に、リポソームを、それらの全体的なサイズおよび層状構造の性質に基づいて、3つのカテゴリーに分けることができる。the New York Academy Sciences Meeting、「Liposomes and Their Use in Biology and Medicine」、December 1977によって詳しく説明されているようなこの3つの分類は、多重膜小胞(MLV)、小型単層小胞(SUV)および大型単層小胞(LUV)である。
「ミセル」は、液体コロイド中に分散された界面活性剤分子の凝集体である。水溶液中で典型的なミセルは凝集体を形成し、親水性「ヘッド」領域が周囲の溶媒と接触しており、疎水性テール領域がミセル中心部に隔離されている。このタイプのミセルは、順相ミセル(水中油型ミセル)として公知である。逆ミセルは、中心にヘッド基を有し、テールが外に伸びている(油中水型ミセル)。ミセルを使用して、本明細書に記載するポリヌクレオチド、ポリペプチド、抗体または組成物を付着させて、ターゲット細胞または組織への効率的送達を助長することができる。
「薬学的に許容されるポリマー」というフレーズは、本明細書に記載する1つ以上のポリペプチドに結合体化させることができる化合物の群を指す。ポリマーのポリペプチドへの結合体化は、インビボおよびインビトロでのそのポリペプチドの半減期を延長することができると考えられる。非限定的な例としては、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、糖、ポリオールおよびそれらの混合物が挙げられる。
「遺伝子送達ビヒクル」は、挿入されたポリヌクレオチドを宿主細胞に運ぶことができる任意の分子と定義する。遺伝子送達ビヒクルの例は、リポソーム、ミセル生体適合性ポリマー(天然ポリマーおよび合成ポリマーを含む);リポタンパク質;ポリペプチド;多糖類;リポ多糖類;人工ウイルスエンベロープ;金属粒子;ならびに細菌またはウイルス、例えばバキュロウイルス、アデノウイルスおよびレトロウイルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、ならびに当該技術分野において一般に使用されている他の組換えビヒクル(これらは、様々な真核および原核生物宿主における発現について記載されており、単純なタンパク質発現にばかりでなく遺伝子療法にも用いることができる)である。
本発明のポリヌクレオチドは、遺伝子送達ビヒクルを使用して細胞または組織に送達することができる。本明細書において用いる場合の「遺伝子送達」、「遺伝子導入」、「形質導入」およびこれらに類するものは、外因性ポリヌクレオチド(時として「トランスジーン」と呼ぶ)の宿主細胞への導入を、その導入に用いられる方法に関係なく、指す用語である。そのような方法としては、様々な周知の技術、例えば、ベクター媒介遺伝子導入(例えば、ウイルス感染/トランスフェクション、または様々な他のタンパク質に基づくもしくは脂質に基づく遺伝子送達複合体によるもの)、ならびに「裸の」ポリヌクレオチドの送達を助長する技術(例えば、エレクトロポレーション、「遺伝子銃」送達、およびポリヌクレオチドの導入に用いられる様々な他の技術)が挙げられる。導入されたポリヌクレオチドを宿主細胞内で安定的に維持することができ、または一時的に維持することができる。安定した維持には、代表的に、導入されたポリヌクレオチドが、宿主細胞と適合性の複製起点を含有すること、あるいは宿主細胞のレプリコン、例えば染色体外レプリコン(例えば、プラスミド)または核もしくはミトコンドリア染色体と一体化することが必要とされる。当該技術分野において公知であるように、および本明細書に記載するように、哺乳動物細胞への遺伝子の導入を媒介することができる多数のベクターが公知である。
「ウイルスベクター」は、インビボ、エクスビボまたはインビトロのいずれかで宿主細胞に送達されるポリヌクレオチドを含む、組換え生産ウイルスまたはウイルス粒子と定義する。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、アルファウイルスベクターおよびこれらに類するものが挙げられる。アルファウイルスベクター、例えばセムリキ森林ウイルス系ベクターおよびシンドビスウイルス系ベクター、は、遺伝子療法および免疫療法において使用するためにも開発されている。Schlesinger and Dubensky(1999)Curr.Opin.Biotechnol.5:434−439およびYingら(1999)Nat.Med.5(7):823−827参照。遺伝子導入がレトロウイルスベクターによって媒介される態様において、ベクター構築物は、レトロウイルスゲノムまたはその一部と治療用遺伝子とを含むポリヌクレオチドを指す。本明細書において用いる場合、「レトロウイルス媒介遺伝子導入」または「レトロウイルス形質導入」は、同じ意味を有するものであり、ならびに遺伝子または核酸配列が、宿主細胞に、該細胞に進入してそのゲノムをその宿主細胞ゲノムに組み込むウイルスによって、安定的に導入されるプロセスを指す。前記ウイルスは、その通常の感染機構によって宿主細胞に入ることができ、または前記ウイルスを、異なる宿主細胞表面受容体またはリガンドに結合して細胞に入るように修飾することができる。本明細書において用いる場合、レトロウイルスベクターは、ウイルスまたはウイルス様進入機構によって外因性核酸を細胞に導入することができるウイルス粒子を指す。
レトロウイルスは、RNAの形態でそれらの遺伝情報を運ぶが、このウイルスが細胞を感染させると、そのRNAは、逆転写されてDNA形態になり、それがその感染細胞のゲノムDNAに組み込まれる。この組み込まれたDNA形態をプロウイルスと呼ぶ。
遺伝子導入がDNAウイルスベクター、例えばアデノウイルス(Ad)またはアデノ関連ウイルス(AAV)、によって媒介される態様において、ベクター構築物は、ウイルスゲノムまたはその一部とトランスジーンとを含むポリヌクレオチドを指す。アデノウイルス(Ad)は、50を超える血清型を含む、比較的よく特性づけされている同種のウイルス群である。例えば、国際PCT出願番号WO 95/27071参照。Adは、宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。組換えAd由来のベクター、特に、野生型ウイルスの組換えおよび産生の可能性を低下させるもの、も構築されている。国際PCT出願番号WO 95/00655およびWO 95/11984参照。野生型AAVは、高い感染性および宿主細胞のゲノムに組み込まれる特異性を有する。Hermonat and Muzyczka(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6466−6470およびLebkowskiら(1988)Mol.Cell.Biol.8:3988−3996参照。
プロモーターとポリヌクレオチドを作動可能に連結させることができるクローニング部位とを両方とも含有するベクターは、当該技術分野において周知である。そのようなベクターは、インビトロまたはインビボでRNAを転写することができ、ならびにStratagene(カリフォルニア州、La Jolla)およびPromega Biotech(ウィスコンシン州、Madison)などの供給業者から市販されている。発現および/またはインビトロ転写を最適化するために、クローンの5’および/または3’非翻訳部分を除去、付加または改変して、余分な、潜在的に不適切な選択的翻訳開始コドン、または転写もしくは翻訳レベルいずれかで発現に干渉するまたは発現を低減することがある他の配列を排除することが必要である場合がある。あるいは、コンセンサスリボソーム結合部位を開始コドンのすぐ5’側に挿入して発現を増進させることができる。
遺伝子送達ビヒクルは、DNA/リポソーム複合体、ミセルおよびターゲッティングされたウイルスタンパク質−DNA複合体も含む。ターゲッティング抗体またはそのフラグメントも含むリポソームを本発明の方法に使用することができる。細胞への送達を増進するために、細胞表面抗原、例えば幹細胞または心筋細胞上で見つけることができる細胞表面マーカー、を結合する抗体またその結合フラグメントに本発明の核酸またはタンパク質を結合体化させることができる。細胞または細胞集団へのポリヌクレオチドの送達に加えて、非限定的なタンパク質トランスフェクション技術によって、本明細書に記載するタンパク質の細胞または細胞集団への直接導入を行うことができ、あるいは、本発明のタンパク質の発現を増進するおよび/または活性を促進することができる培養条件が、他の非限定的技術である。
「固体支持体」というフレーズは、非水性表面、例えば「培養プレート」、「遺伝子チップ」または「マイクロアレイ」を指す。そのような遺伝子チップまたはマイクロアレイを、当業者に公知の多数の技術により診断および治療目的で使用することができる。1つの技術では、米国特許第6,025,136号および同第6,018,041号に概説されているものなどのハイブリダイゼーションアプローチによってDNA配列を決定するためにオリゴヌクレオチドを遺伝子チップ上に整列させる。本発明のポリヌクレオチドを修飾してプローブにすることができ、そしてまたそのプローブを遺伝子配列の検出に使用することができる。そのような技術は、例えば米国特許第5,968,740号および同第5,858,659号に記載されている。Kayemらの米国特許第5,952,172号によりおよびKelleyら(1999)Nucleic Acids Res.27:4830−4837により説明されているものなどの核酸配列の電気化学的検出のために、プローブを電極表面に取り付けることができる。
様々な「遺伝子チップ」または「マイクロアレイ」および類似した技術が当該技術分野において公知である。そのようなものの例としては、LabCard(ACLARA Bio Sciences Inc.);GeneChip(Affymetric,Inc);LabChip(Caliper Technologies Corp);電気化学的感知を用いる低密度アレイ(Clinical Micro Sensors);LabCD System(Gamera Bioscience Corp.);Omni Grid (Gene Machines);Q Array(Genetix Ltd.);液相発現技術を用いるハイスループット自動質量分析システム(Gene Trace Systems, Inc.);サーマル・ジェット・スポッティング・システム(Hewlett Packard Company);Hyseq HyChip(Hyseq,Inc.);BeadArray(Illumina,Inc.);GEM(Incyte Microarray Systems);複数のスライドガラス上に12から64のスポットを分配することができるハイ・スループット・マイクロアレイイング(microarrying)システム(Intelligent Bio−Instruments);Molecular Biology WorkstationおよびNanoChip(Nanogen,Inc.);ミクロ流体ガラスチップ(Orchid biosciences,Inc.);4つのPiezoTip圧電ドロップ・オン・デマンド型チップを用いるBioChip Arrayer(Packard Instruments,Inc.);FlexJet(Rosetta Inpharmatic,Inc.);MALDI−TOF質量分析計(Sequnome);ChipMaker 2およびChipMaker 3(TeleChem International,Inc.);ならびにHeller(2002)Annu.Rev.Biomed.Eng.4:129−153において確認されるおよび説明されているようなGenoSensor(Vysis,Inc.)が挙げられるが、それらに限定されない。「遺伝子チップ」または「マクロアレイ」の例は、米国特許公開第2007−0111322号、同第2007−0099198号、同第2007−0084997号、同第2007−0059769号および同第2007−0059765号ならびに米国特許第7,138,506号、同第7,070,740号および同第6,989,267号にも記載されている。
1つの態様では、本明細書に記載するポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは抗体に相同なプローブまたはプライマーを含有する「遺伝子チップ」または「マイクロアレイ」を作製する。適するサンプルを患者から得、ゲノムDNA、RNA、タンパク質またはそれらの任意の組み合わせの抽出を行い、必要な場合には増幅する。そのサンプルを、遺伝子チップまたはマイクロアレイパネルに、該遺伝子チップまたはマイクロアレイ上に含めたプローブ(単数もしくは複数)またはプライマー(単数もしくは複数)への関心のある遺伝子(単数もしくは複数)または遺伝子産物(単数もしくは複数)のハイブリダイゼーションに適する条件下で接触させる。プローブまたはプライマーを検出可能に標識することができ、それによって関心のある遺伝子(単数または複数)を同定することができる。あるいは、関心のある遺伝子(単数または複数)のDNAまたはRNAとハイブリダイズさせたプローブまたはプライマーを同定するために化学反応または生物学的反応を用いることができる。その後、その患者の遺伝子型または表現型を、上述の装置および方法を利用して決定する。
固相支持体の他の非限定的例としては、硝子、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および改質セルロース、ポリアクリルアミド、斑糲岩、および磁鉄鉱が挙げられる。前記キャリアの性質は、ある程度可溶性である場合もあり、または不溶性である場合もある。前記支持体材料は、カップリングしている分子が、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは抗体に結合できるのであれば、事実上、いずれの可能な構造状の構成であってもよい。従って、前記支持体の構成は、ビーズの場合のように球形である場合もあり、または試験管の内面もしくはロッドの外面の場合のように円筒形である場合もある。あるいは、前記表面は、シート、試験ストリップなどのように平坦である場合もあり、または代替的にポリスチレンビーズである場合もある。当業者は、抗体もしくは抗原を結合するための他の適するキャリアを知っているであろう、または常例的実験を用いることによりそれらを突き止めることができるであろう。
「真核細胞」は、モネラを除く生物界のすべてを含む。それらは、膜に包まれた核によって容易に区別することができる。動物、植物、真菌および原生生物は、真核生物であり、または細胞が内膜および細胞骨格によって複雑な構造に構成されている生物である。最も特徴的な包膜構造は、その核である。例えば酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞をはじめとする真核生物宿主、または代替的に上で説明したような原核生物からのもの。非限定的な例としては、類人猿、ウシ属の動物、豚、ネズミ科の動物、ラット、鳥、爬虫類およびヒトが挙げられる。
「原核細胞」には、通常、核または一切の他の包膜細胞小器官がなく、2つのドメイン、細菌および古細菌、に分けられる。加えて、染色体DNAを有する代わりに、これらの細胞の遺伝情報は、プラスミドと呼ばれる環状ループ内にある。細菌細胞は、非常に小さく、おおよそ動物のミトコンドリアのサイズ(直径約1〜2μmおよび長さ10μm)である。原核細胞は、3つの主要形状を特徴とする:棒形状、球形、およびらせん形。真核生物のような精巧な複製過程を行うのではなく、細菌細胞は、2分裂より分裂する。例としては、baccilus菌、大腸菌(E.coli bacterium)、サルモネラ菌(Salmonella bacterium)が挙げられるが、それらに限定されない。
本明細書において用いる場合の用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図したものである。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダムもしくは部位特異的変異誘発によりまたはインビボでの体細胞変異により導入された変異)を含むことがある。しかし、本明細書において用いる場合の用語「ヒト抗体」は、マウスなどの別の哺乳動物種の生殖細胞系に由来するCDR配列がヒトフレームワーク配列にグラフトされた抗体を含むことを意図したものではない。従って、本明細書において用いる場合、用語「ヒト抗体」は、そのタンパク質の実質的にあらゆる部分(例えば、CDR、フレームワーク、C、Cドメイン(例えば、CH1、CH2、CH3)、ヒンジ、(VL、VH))が、ヒトにおいて実質的に非免疫原性であり、ほんの小さな配列変化または変異しか伴わない抗体を指す。同様に、霊長類(サル、ヒヒ、チンパンジーなど)、齧歯動物(マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、およびこれらに類するもの)ならびに他の哺乳動物に指定されている抗体は、そのような種、亜属、属、亜科、科特異的抗体を意味する。さらに、キメラ抗体は、上のものの任意の組み合わせを含む。そのような変化または変異は、非修飾抗体を基準にしてヒトまたは他の種における免疫原性を、場合によりおよび好ましくは維持または低減する。従って、ヒト抗体は、キメラ抗体またはヒト化抗体とは異なる。機能的に再配列されたヒト免疫グロブリン(例えば、重鎖および/または軽鎖)遺伝子を発現することができる非ヒト動物または原核もしくは真核細胞によってヒト抗体を生産できることが指摘される。さらに、ヒト抗体が一本鎖抗体であるとき、それは、天然ヒト抗体では見つけられないリンカーペプチドを含む場合がある。例えば、Fvは、重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域を接続するリンカーペプチド、2から約8のグリシンまたは他のアミノ酸残基、を含む場合がある。そのようなリンカーペプチドは、ヒト起源のものであると考えられる。
本明細書において用いる場合、ヒト抗体は、その抗体が、ヒト免疫グロブリン配列を用いて、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子を有するトランスジェニックマウスを免疫することによって、またはヒト免疫グロブリン遺伝子ライブラリーをスクリーニングすることによって、系から得られる場合、特定の生殖細胞系配列「に由来する」。ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列「に由来する」ヒト抗体は、ヒト抗体のアミノ酸配列とヒト生殖細胞系免疫グロブリンのアミノ酸配列とを比較することなどによって、同定することができる。選択されるヒト抗体は、代表的に、アミノ酸配列の点でヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列と少なくとも90%同一であり、および他の種の生殖細胞系免疫グロブリンアミノ酸配列(例えば、ネズミ科の動物の生殖細胞系配列)と比較したときにヒト抗体をヒトのものであると同定するアミノ酸残基を含有する。ある場合には、ヒト抗体は、アミノ酸配列の点で、生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列と少なくとも95%同一であることがあり、または少なくとも96%、97%、98%もしくは99%同一であることさえある。代表的に、特定のヒト生殖細胞系配列に由来するヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列とは、10個以下のアミノ酸の差異を示す。ある場合には、ヒト抗体は、生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子によってコードされたアミノ酸配列とは、5個以下、またはさらには4、3、2または1個以下のアミノ酸の差異を示し得る。
「ヒトモノクローナル抗体」は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する単一結合特異性を表示する抗体を指す。この用語は、組換えヒト抗体も指す。これらの抗体を作る方法を本明細書において説明する。
本明細書において用いる場合、用語「組換えヒト抗体」は、組換え手段によって調製、発現、産生または単離されるすべてのヒト抗体、例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックもしくは染色体導入性(transchromosomal)である動物(例えばマウス)またはそれらから調製されたハイブリドーマから単離された抗体;その抗体を発現するように形質転換された宿主細胞(例えばトランスフェクトーマ)から単離された抗体;組換え型、コンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体;ならびにヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを含む任意の他の手段によって調製、発現、産生または単離された抗体を含む。そのような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変および定常領域を有する。しかし、一定の実施形態において、そのような組換えヒト抗体をインビトロ変異誘発(または、ヒトIg配列に関してトランスジェニックな動物を用いるときには、インビボ体細胞変異誘発)に付すことができ、従って、その組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖細胞系VHおよびVL配列に由来するおよび関連しているが、インビボでヒト抗体生殖細胞系レパートリーの中に自然には存在し得ない配列である。これらの抗体を作る方法を本明細書において説明する。
本明細書において用いる場合、「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。
本明細書において用いる場合の用語「ポリクローナル抗体」または「ポリクローナル抗体組成物」は、異なるB細胞系に由来する抗体の調製物を指す。それらは、それぞれが異なるエピトープを認識する、特異的抗原に対して分泌された免疫グロブリン分子の混合物である。
本明細書において用いる場合の用語「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体組成物は、特定のエピトープに対して単一の結合特異性および親和性を表示する。
本明細書において用いる場合、用語「標識」は、「標識された」組成物を生成するために、検出すべき組成物、例えば、ポリヌクレオチドまたはタンパク質、例えば抗体、に直接または間接的に結合体化させる、直接または間接的に検出可能な化合物または組成物を意図する。この用語は、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびこれらに類するものなどの挿入された配列の発現に基づいてシグナルを生じさせるであろう、ポリヌクレオチドに結合体化させた配列も含む。標識は、それ自体が検出可能であることがあり(例えば、放射性同位体標識もしくは蛍光標識)、または、酵素的標識の場合には、検出可能である基質化合物もしくは組成物の化学的改変を触媒することができる。標識は、小規模検出に適する場合もあり、またはハイ・スループット・スクリーニングに、より適する場合もある。従って、適する標識としては、放射性同位体、蛍光色素、化学発光化合物、色素、およびタンパク質(酵素を含む)が挙げられるが、それらに限定されない。標識を簡単に検出することができ、またはそれを定量することができる。簡単に検出される応答は、その存在が確認されるだけの応答を一般に含み、これに対して定量される応答は、強度、分極および/または他の特性などの定量可能な(例えば、数値報告可能な)値を有する応答を一般に含む。発光または蛍光アッセイの場合、結合に実際に関与するアッセイ成分と会合している発色団もしくは蛍光団を使用して検出可能な応答を直接生じさせることができ、または別の(例えば、レポーターもしくは指示薬)成分と会合している発光団もしくは蛍光団を使用して検出可能な応答を間接的に生じさせることができる。
シグナルを生成する発光標識の例としては、生物発光および化学発光が挙げられるが、それらに限定されない。検出可能な発光応答は、発光シグナルの変化または発生を一般に含む。アッセイ成分に発光標識するための適する方法および発光団は、当該技術分野において公知であり、例えば、Haugland,Richard P.(1996)Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版)に記載されている。発光プローブの例としては、エクオリンおよびルシフェラーゼが挙げられるが、それらに限定されない。
適する蛍光標識の例としては、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル−クマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、Cascade Blue(商標)、およびテキサスレッドが挙げられるが、それらに限定されない。他の適する光学色素は、Haugland,Richard P.(1996)Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals(第6版)に記載されている。
もう1つの態様では、細胞または組織内またはそれらの表面上に存在する細胞成分、例えば細胞表面マーカー、への共有結合性付着を助長するように蛍光標識を官能化する。イソチオシアナート基、アミノ基、ハロアセチル基、マレイミド、スクシンイミジルエステルおよびハロゲン化スルホニルをはじめとする(しかし、これらに限定されない)適する官能基、これらのすべてを、蛍光標識を第二の分子に付けるために使用することができる。蛍光標識の官能基の選択は、リンカー、薬剤、マーカーまたは第二の標識剤のいずれかに対するその付着部位に依存するであろう。
III.単位用量処方物およびそれらの使用方法
本発明の一態様は、薬学的に許容されるキャリア、および配列番号13のアミノ酸配列(r−解毒剤)を含む2本鎖のポリペプチド、または配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを約10ミリグラム〜約2グラムの量で含む、単位用量処方物を提供する。本発明は、r−解毒剤が、種々の第Xa因子インヒビター、例えば、ベトリキサバン、リバロキサバン、低分子量ヘパリン、エノキサパリンおよびアピキサバンを、特定の用量でラットおよびサルにおいて中和し得るという驚くべき発見に基づく。次いで、このデータを、モデリングを用いて外挿して、下の実施例25および26に説明されるとおりインヒビターを中和し得るヒトについての用量に達する。
特定の態様では、この処方物は、約10ミリグラム(mg)〜約2グラム(g)の量で投与される。本発明によって企図される他の量としては、約100mg〜約1.5g;約200mg〜約1g;および約400mg〜約900mgが挙げられる。
別の実施形態では、この単位用量処方物は、少なくとも約30分の期間にわたって、少なくとも約1:1倍のモル比のポリペプチドの循環濃度/第Xa因子インヒビターの循環濃度である中和量で投与される。他の実施形態では、このモル比は約1:1または約2:1または約4:1である。
この処方物は、投与される場合、第Xa因子インヒビターを、少なくとも約20%まで、または少なくとも約50%まで、または少なくとも約75%まで、または少なくとも約90%まで、または少なくとも約95%まで中和する。
「薬学的に許容されるキャリア」とは、本発明の組成物中で用い得る任意の希釈剤、賦形剤、またはキャリアをいう。薬学的に許容されるキャリアとしては、生理食塩水、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩などの緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分的グリセリド混合物、水、塩または硫酸プロタミンなどの電解質、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、蝋、ポリエチレン−ポリオキシプロピレン−ブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂が挙げられる。適切な薬学的キャリアは、本分野の標準の参考教科書であるRemington’s Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Companyに記載されている。これらは、好ましくは、意図する投与形態、すなわち、経口錠剤、カプセル、エリキシル、シロップなどに関して選択され、従来の薬務と矛盾しない。
一実施形態では、この処方物は、生理食塩水を含み、かつこの解毒剤は、1ミリリットルの生理食塩水あたりに約0.2〜約10mgのポリペプチドの濃度で存在する。別の実施形態では、この濃度は、1ミリリットルの生理食塩水あたりに約2〜約6mgである。さらに別の実施形態では、この濃度は、1ミリリットルの生理食塩水あたりに約2mgである。
本発明の処方物は、とりわけ、従来の顆粒化、混合、溶解、カプセル封入(encapsulating)、凍結乾燥、または乳化プロセスなどの当該技術分野で周知の方法によって製造することができる。組成物は、顆粒、沈殿物、または粒子、粉末(散剤)、例としては、凍結乾燥、回転乾燥もしくは噴霧乾燥粉末、非晶質粉末、注射剤、乳濁液、エリキシル、懸濁液または液剤を含めた、様々な形態で生成され得る。処方物は、安定化剤、pH調節剤、界面活性剤、バイオアベイラビリティー調節剤およびこれらの組合せを必要に応じて含んでもよい。
一実施形態では、この解毒剤は、凍結乾燥される。ポリペプチドを凍結乾燥するための方法は当該技術分野で周知である。
医薬処方物は、油、水、アルコール、およびその組合せなどの無菌的な液体を用いた液体の懸濁液または溶液として調製してもよい。薬学的に適切な界面活性剤、懸濁剤または乳化剤を、経口または非経口投与のために添加してもよい。懸濁液には、ピーナッツ油、ゴマ油、綿実油、トウモロコシ油およびオリーブ油などの油が含まれ得る。懸濁液の調製物は、脂肪酸のエステル、例えば、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、脂肪酸グリセリドおよびアセチル化脂肪酸グリセリドも含有し得る。懸濁液の処方物には、エタノール、イソプロピルアルコール、ヘキサデシルアルコール、グリセロールおよびプロピレングリコールなどのアルコールが含まれ得る。ポリ(エチレングリコール)などのエーテル、鉱油およびペトロラタムなどの石油炭化水素、ならびに水も、懸濁液の処方物中で用いてもよい。
本発明の使用によって企図される一処方物は、市販の組み換えヒト凝固因子VIIa(rFVIIa)についての処方に基づいて予測される。この処方物は、凍結乾燥されたポリペプチドを使用して、以下の追加の成分を含む:
一態様では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において外因性に投与された第Xa因子インヒビターを選択的に結合および阻害する方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。
別の態様では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において出血を予防、軽減または停止する方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。
さらに別の態様では、本発明は、第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている患者においてfXaインヒビター依存性の薬力学的マーカーまたは代用のマーカーを補正するための方法であって、この被験体に対して本発明の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法に関する。この薬力学的マーカーまたは代用のマーカーは、INR、PT、aPTT、ACT、抗fXa単位、およびトロンビン生成(テクノトロンビン(Technothrombin)TGA、トロンボエラストグラフィー、CAT(自動較正トロンボグラム(calibrated automated thrombogram))からなる群より選択され得る。
この処方物は、哺乳動物、好ましくはヒトに投与するためのものである。本発明のこのような処方物は、種々の方法で、好ましくは非経口的に投与され得る。
緊急状態で患者の血漿中に存在するfXaインヒビターの抗凝血活性を素早く逆転させるために、本発明の解毒剤は、非経口投与によって全身循環に投与することが可能であるか、または投与されてもよいことが企図される。本明細書で用いる場合「非経口」という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑液包内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病巣内および頭蓋内の注射または注入技術を包含する。しかし、中和されるfXaインヒビターが長い血漿半減期を有する場合は、fXaインヒビターと結合し、それにより、fXaインヒビターの体内からのクリアランスの前に活性fXaを解放するために、持続注入または持続放出の処方物が必要な場合がある。従って、一態様では、この処方物は、被験体に対してボーラスとして投与される。別の態様では、この処方物は、注入によって投与される。別の態様では、この処方物は、ボーラスおよび注入の組み合わせによって投与される。
この処方物は、出血が実質的に停止するまで投与される。注入は、約6時間、または約6〜約12時間、または約12〜約24時間または48時間投与され得るということが企図される。
いくつかの実施形態では、総用量の約10%〜約20%およびその残りがちょうど言及された期間にわたって注入される。
本発明の組成物の無菌的な注射用形態は、水性または油性の懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、当該技術分野で公知の技術に従って、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁剤を用いて処方されてもよい。無菌的な注射用調製物は、無毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の、例えば1,3−ブタンジオール中の溶液としての、無菌的な注射用の液剤または懸濁液であってもよい。使用され得る許容されるビヒクルおよび溶媒は、とりわけ、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、無菌的な不揮発性油が、溶媒または懸濁媒(suspending medium)として慣用的に使用される。この目的で、合成モノ−またはジ−グリセリドを含めた任意の無刺激の不揮発性油を使用してもよい。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸が、注射剤の調製に有用であり、同様に、オリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油も、特にそのポリオキシエチル化形態で有用である。これらの油の液剤または懸濁液はまた、カルボキシメチルセルロースまたは乳濁液および懸濁液を含めた薬学的に許容される剤形の処方に一般的に使用される類似の分散剤などの、長鎖アルコール希釈剤または分散剤も含んでもよい。Tween、Spanおよび薬学的に許容される固体、液体、または他の剤形の製造に一般的に使用される他の乳化剤またはバイオアベイラビリティー向上剤などの、他の一般的に使用される界面活性剤も、処方の目的で用いてもよい。化合物は、ボーラス注射または持続注入などによる注射による非経口投与用に処方されてもよい。注射用の単位剤形は、アンプル中または複数用量の容器中であってもよい。
上述の剤形に加えて、薬学的に許容される賦形剤およびキャリアおよび剤形が一般に当業者に公知であり、本発明に含まれる。任意の特定の患者の具体的な投薬量および治療レジメンは、使用される具体的な解毒剤の活性、患者の年齢、体重、全体的な健康、性別および食事、腎臓および肝臓の機能、投与時間、排泄速度、薬物の組合せ、治療を行う医師または獣医師の判断、ならびに治療されている特定の疾患の重篤度を含めた、様々な要素に依存することが理解されるべきである。
IV.解毒剤
本発明の処方物および方法での使用について企図される追加の解毒剤は下に見出される。
第Xa因子誘導体
本発明の一態様は、凝固fXaのインヒビターの活性を実質的に中和して出血を予防または停止するための安全かつ有効な解毒剤としての、Gla−ドメイン欠損fXaまたはdes−Gla fXaなどのfXa誘導体の使用である。本発明の解毒剤は、fXaインヒビター、特に活性部位に指向される小分子インヒビターの抗凝血効果を逆転させるために有効であることが企図される。
fXaインヒビターに対する解毒剤は、低減された凝血促進活性を有するまたは凝血促進活性を有さないが、fXaインヒビターと結合することができると考えられる。そのような限定された活性が、循環野生型fXaより高いレベルでの解毒剤の投薬を可能にすると考えられる。一定のfXa誘導体、例えばdes−Gla fXaおよびGla欠失fXa、は本発明の適する解毒剤である。低減または減少された凝血促進活性を有することに加えて、本発明の解毒剤はまた、被験体に対して実質的に非免疫原性でなければならない。解毒剤は、2つ以上の上記変異および/または修飾の組み合わせを含有することがある。加えて、上記fXa誘導体のいずれかを単独で投与することができ、または互いに併用して投与することができる。
第Xa因子は、プロトロンビンをトロンビンに変換させる原因となる、血液凝固経路におけるセリンプロテアーゼである。それは、内因性Xase(第IXa因子とその補因子、第VIIIa因子、によって形成される複合体)または外因性Xase(第VIIa因子とその補因子、組織因子、によって形成される複合体)のいずれかによる活性化の際に不活性第X因子から生成される。活性化されたfX(fXa)は、さらに、その重鎖のC末端においてfXaαをサブフォームfXaβに変換させる自己触媒切断を受けるだろう(Jesty,Jら、J.Biol.Chem.1975,250(12):4497−4504)。fXaαとfXaβの両方が本発明の適する材料である。fXaそれ自体は、凝血を支持するには十分ではない遅い速度でプロトロンビンを変換する。補因子Ca2+、リン脂質および第Va因子、と共にプロトロンビナーゼ複合体を形成したときのみ、fXaは、凝血を支持するために十分速い速度でプロトロンビンを活性化することができる(Skogen,W.F.ら、J.Biol.Chem.1984,259(4):2306−10)。前記複合体は、負の電荷を有するリン脂質とfXaのGlaドメイン内のγ−カルボキシグルタミン酸残基の間のCa2+架橋による結合を必要とする。
従って、Glaドメインは、fXaの活性部位を含有しないが、γ−カルボキシグルタミン酸残基によりfXaがプロトロンビナーゼ複合体を形成できるようにする。これは、キモトリプシン消化によるfXa Glaドメインの選択的除去によって証明される(図7および実施例1参照)。キモトリプシン消化によるGlaドメインの切断の時間経過の間にfXaに関する凝固アッセイを行った。GlaドメインのないfXa、fVa、リン脂質およびカルシウムイオンからなる再構成されたプロトロンビナーゼ複合体が、有意に低減された率でトロンビンを生成する(天然fXaを含有する対照複合体と比較して生ずる生成物の0.5%)と報告されている(Skogenら、J.Biol.Chem.1984,259(4):2306−10)。図7に示すように、凝血塊形成に関するfXaの活性は、そのfXaをキモトリプシンによって15分間消化した後、ある程度低減され、30分の消化の後、その活性は完全に失われた。従って、カルシウムイオン依存性膜結合に必要とされる適切なガンマ−カルボキシグルタミン酸残基を欠く低カルボキシル化または脱カルボキシル化fXaは、膜依存性凝血複合体を構築できない、および血液凝固を支持しないことが判明した(Mann,KGら、Blood,1990,76:1−16)。
Glaドメイン欠失fXaが、fXaの活性部位指向性インヒビターを結合できないことも確証されている。(Brandstetter,Hら、J.Bio.Chem.,1996,271:29988−29992)。活性部位クレフトの構造の説明を提供する、des−GlaヒトfXaに結合した小分子fXaインヒビターの結晶学についての報告があった(Brandstetter,J.Bio.Chem.,1996,271:29988−29992およびRoehrig,J.Med.Chem.2005,48(19):5900−8)。図8は、des−Gla anhydro−fXaが、天然fXaのものに匹敵する、fXaインヒビターベトリキサバンとの0.319nMの結合親和性を呈示したことを示している。
des−Gla fXa、および低減された凝血促進活性を有するがfXaインヒビターに結合できる他のfXa誘導体を、fXaインヒビターに対する解毒剤として使用できることを今般発見した。図9に示すように、des−Gla anhydro−fXaは、680nMの濃度でベトリキサバンの抗凝血活性の完全な逆転を示した。実施例2において詳述するように、トロンビン生成は、TF含有試薬(Innovin)の添加によって開始され、従って、外因性凝血経路における凝固因子機能を示した。前記組換え型解毒剤が多種多様な抗凝血剤を逆転させるために有用であることも、実施例9〜13において確証された。
活性化部分トロンボプラスチン時間(aPTT)を用いた凝固延長アッセイにより、内因性凝血経路における凝固因子の機能を決定する試薬(Actin FS)も、des−Gla anhydro−fXaが解毒剤活性を有することを示す。図10は、600nMで完全に逆転する、250nMのベトリキサバンに対するdes−Gla anhydro−fXaの用量応答解毒剤効果を示している。図11は、des−Gla anhydro−fXaが、別のfXaインヒビター、エノキサパリン、の抗凝血活性も逆転できたことを示している。図12は、des−Gla anhydro−fXaが、直接トロンビンインヒビターアルガトロバンに対して有意な解毒剤活性を呈示しなかったことを示している。従って、des−Gla anhydro−fXaは、fXaインヒビターの選択的解毒剤であり、および外因性経路または内因性経路のいずれかによって開始されるfXa凝血促進活性も回復させることができる。
さらに、des−Gla anhydro−fXaの解毒剤活性が、従来の凝血測定器で測定したaPTT延長アッセイによって確証された。図13に示すように、des−Gla anhydro−fXaそれ自体は、試験した最高濃度(2576nM)で対照血漿のaPTTに対して効果がない。400nMのベトリキサバンは、aPTTを2倍を超えて延長した。ベトリキサバンのこの抗凝血効果は、des−Gla anhydro−fXaによって用量応答的に逆転され、1610nMより高い解毒剤濃度でaPTTは対照血漿の正常レベル付近に戻る。
fXa軽鎖でのさらなる末端切断、例えば、EGF1ドメイン、EGF1+EGF2ドメイン、またはそれらのフラグメントの追加の欠失、および重鎖しか有さない不活性fXaは、本発明の有用な解毒剤であると考えられる。
Glaドメイン欠失fXaは、生理的に適切な濃度より下では正常な凝血を支持しない。しかし、前記タンパク質は、多くの基質を切断するおよびより高い濃度で凝固を生じさせる能力を有する。例えば、Skogenら(Skogen,W.F.ら、J.Biol.Chem.1984,259(4):2306−10)は、ウシdes−Gla fXaが、野生型fXaを基準にして約0.5〜1.0%のプロトロンビナーゼ複合体活性を有することを明らかにした。従って、fXa誘導体の凝血促進活性をさらに低減するまたは完全に排除する修飾が本発明の方法によって考えられる。そのような修飾は、例えば、fXaの触媒ドメインにおけるものであり得る。
fXa重鎖内の触媒ドメインをその凝血促進活性を低減するように修飾する幾つかの方法が考えられる。例えば、(配列番号7に示すような)fXaの活性部位残基S379をデヒドロ−アラニン(実施例1参照)またはアラニン(実施例6参照)によって選択的に置換して、凝血促進活性を低減または排除することができる。fXaとfXaのエキソサイトをターゲットにする試薬との複合体形成により、fXaの高分子結合能力を阻止することができ、従って、活性部位での小分子結合能力を維持しながらその凝血促進活性を低減できることも公知である。このエキソサイトをターゲットにする試薬としては、限定ではないが、活性部位から除去される領域をターゲットにするモノクローナル抗体(Wilkens,M and Krishnaswamy,S,J.Bio.Chem.,2002,277(11),9366−9374)、またはα−2−マクログロブリンが挙げられる。α−2−マクログロブリン−セリンプロテアーゼ複合体、例えばトリプシン、トロンビンまたはfXaとのもの、が小分子基質を結合できることは、公知になっている(Kurolwa,K.ら、Clin.Chem.1989,35(11),2169−2172)。
その軽鎖を不変に保ちながら重鎖にのみ修飾を有する不活性fXaは、図6に示すように正常なfXaの凝血促進活性に干渉するので、プロトロンビナーゼインヒビターとして作用するであろうということも公知である(Hollenbach,S.ら、Thromb.Haemost.,1994,71(3),357−62)。従って、1つの実施形態において、fXa誘導体は、軽鎖と重鎖の両方に修飾を有する。これらの修飾が、fXa誘導体のインヒビター結合活性を維持しながら凝血促進活性と抗凝血活性の両方を低減または排除することを発見した。
Glaドメイン欠失fXa誘導体または本明細書に記載する他のfXa誘導体を生成するために幾つかの方法を用いることができる。例えば、Glaドメインをキモトリプシンによる切断によって完全に除去して、GlaドメインのないfXaを生成することができる。あるいは、GlaドメインのないfXを天然fXのキモトリプシンによる切断によって生成することができる。その後、fX活性化剤によってそのGlaのないfXをGlaドメインのないfXaに変換させることができる。fXは、治療すべき被験体と同じ種の血漿から単離される場合もあり、または異なる種の血漿から単離される場合もある。例えば、ウシfXはヒト血漿アッセイにおいて機能性であることが証明されている。fX活性化剤の例としては、限定ではないが、ヘビ毒、例えばラッセルクサリヘビ毒、およびfVIIa/組織因子もしくはfIXa/fVIIIaの複合体が挙げられる。そのような手段は当業者に公知である。例えば、Rudolph A.E.らは、グルタミンによるArg347の単一置換を有する組換え型第X因子(fX)(fXR347N)から生成された組換え型fXaを報告している(Biochem.2000,39(11):2861−2867)。1つの実施形態において、非ヒト源から生産されるfXa誘導体は、非免疫原性または実質的に非免疫原性である。実施例7も、配列番号12のアミノ酸配列を有する組換え型解毒剤の生産方法を提供するものである。
fXa誘導体をヒト血漿から精製することもでき、またはfXa誘導体のために適切な遺伝子が適する宿主生物において発現される組換えDNA法によって生産することもできる。組換え型fXaの発現および精製が幾つかのグループによって報告されている。例えば、組換え型fXの生産については、Larson,P.J.ら、Biochem.,1998,37:5029−5038、およびCamire,R.M.ら、Biochem.,2000,39,14322−14329;組換え型fXaの生産についてはWolf,D.L.ら、J.Bio.Chem.,1991,266(21):13726−13730を参照のこと。所望のfXa変異体をコードするヌクレオチド配列を有する遺伝的に修飾されたcDNAを使用してこれらの手順に従って修飾fXaを調製することができる。実施例6は、解毒剤としての機能活性を有する、GlaドメインのないfXa−S379変異体の直接発現についてのさらなる詳説を与えるものである。
Glaドメインが欠失した活性部位変異または修飾fXa、例えば低カルボキシル化fXa、もfXaインヒビター解毒剤として有用であるだろうと考えられる。低カルボキシル化fXaは、タンパク質発現中にビタミンK誘導体を使わせない組換え手段により(ビタミンK誘導体は、Gla残基を形成するための翻訳後修飾に必要とされる)、または組織培養中にワルファリンなどのビタミンKアンタゴニストを添加することにより、調製することができる。脱カルボキシル化fXaは、加熱により(Bajaj P.,J.Biol.Chem.,1982,257(7):3726−3731)、またはキモトリプシンによるタンパク質分解性消化により(MoritaT.ら、J.Biol.Chem.,1986,261(9):4015−4023)、調製することができる。原核生物系において解毒剤を産生させ、その後、fXaインヒビター結合部位のインビトロリフォールディングまたは構築を行うこともできる。
Gla残基を化学的に修飾して、カルシウムイオン依存性膜結合の原因となるカルボキシル基を除去することもできる。例えば、Gla残基上のカルボキシル基を、脱カルボキシル化条件下で選択的に除去することができ、または例えばエステル化もしくはアミノ化によって、キャッピングすることができる。そのようなエステル化またはアミノ化は、修飾されたfXaが、血栓症を生じさせることがある活性fXaに容易に変換されないように、インビボ加水分解に対して耐性であることが望ましい。
fXaの他の変異体または誘導体も本発明の有用な解毒剤である。1つの実施形態において、本発明は、Peter J.Larsonら、Biochem.,1998,37:5029−5038に記載されている変異体のfXaインヒビター解毒剤としての使用を包含する。
もう1つの実施形態において、本発明は、fXaインヒビター解毒剤を調製するための触媒不活性fXa変異体の使用を包含する。例えば、Sinha,U.ら、Protein Expression and Purif.,1992,3:518−524に記載されている変異体、rXai;Nogamiら、J.Biol.Chem.1999,274(43):31000−7に記載されているような、化学修飾を有する変異体、例えばデヒドロ−アラニン(アンヒドロfXa)。凝血促進活性が排除された、活性部位セリン(配列番号7に示すようなfXナンバリングの場合はSer379、およびキモトリプシンナンバリングの場合はSer195)がアラニンで置換されたfXa(fXナンバリングの場合はfXa−S379A、またはキモトリプシンナンバリングの場合はfXa−S195A)もfXaインヒビター解毒剤として使用することができる。本発明は、小分子インヒビターを依然として結合することができる不可逆的にアシル化された活性部位セリン残基を有するfXa誘導体も構想している。可逆的にアシル化された活性部位セリンを有するfXaは、Wolfら、Blood,1995,86(11):4153−7によって報告されている。しかし、そのような可逆的アシル化は、活性fXaの時間依存性生産が可能であり、時が経つにつれて過剰な活性fXaをもたらすことがある。この脱アシル化率は、Lin P.H.ら、Thrombosis Res.,1997,88(4),365−372に記載されているものに類似した戦略によって低下させることができる。例えば、4−メトキシベンジルおよび3−ブロモ−4−メトキシベンジル基によってアシル化されたSer379(キモトリプシンナンバリングの場合はSer195)を有するfXa分子は、pH7.5を有する緩衝液中、37℃で4時間インキュベートすると、それらの本来の活性の50%未満を回復する。
1つの実施形態は、補因子fV/fVaとのfXa相互作用にとって重要であることが公知であるfXa残基での変異を有するfXa誘導体の使用に関する。そのような残基としては、限定ではないが、Arg306、Glu310、Arg347、Lys351、またはLys414(配列番号3および7、これらのアミノ酸は、キモトリプシンナンバリングの場合のArg125、Glu129、Arg165、Lys169、Lys230に対応する)が挙げられる。そのような変異体の例は、Rudolph,A.E.ら、J.Bio.Chem.,2001,276:5123−5128に報告されている。加えて、fVIII/fVIIIa相互作用にとって重要であることが公知であるfXa残基、例えば、配列番号3および7におけるArg424(キモトリプシンナンバリングの場合はArg240)での変異も、fXaインヒビター解毒剤として使用することができる。そのような変異体の例は、Nogami,K.ら、J.Biol.Chem.,2004,279(32):33104−33113に記載されている。
fXaの活性残基またはセリンプロテアーゼ相互作用にとって重要であることが公知である残基の他の修飾、例えば、配列番号3および7におけるGlu216、Glu218およびArg332(キモトリプシンナンバリングの場合は、それぞれ、Glu37、Glu39、およびArg150)の他のアミノ酸残基での置換も、本発明の有用な解毒剤をもたらすことができる。
1つの実施形態において、アミド分解性基質切断アッセイによって評価したとき、解毒剤の残留凝血促進活性は、ヒト血漿由来天然fXaの<1%、好ましくは<0.1%、さらに好ましくは<0.05%である。例えば、活性部位Ser379(キモトリプシンナンバリングの場合のS195)をアラニン残基によって置換すると、凝固アッセイによって測定したとき、組換え型fXa−S379Aについて測定可能な凝血促進活性はない。
本発明は、上で説明したfXa誘導体をコードする核酸配列、特にDNA配列、にさらに関する。これらは、ポリペプチド配列を遺伝子コードに従って対応するDNA配列に戻すように翻訳することにより、容易に決定することができる。好ましく用いられるコドンは、必要な宿主生物における良好な発現をもたらすものである。天然fXa遺伝子配列から出発する部位特異的変異誘発によって、でなければ完全DNA合成によって、前記核酸配列を調製することができる。
本発明のポリペプチド
一定の態様において、本発明は、配列番号13または15のアミノ酸配列を含む、単離されたポリペプチドに関する。本発明は、配列番号13または15に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドも包含する。
本発明のアミノ酸配列を含むポリペプチドは、本発明のポリペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを適切な宿主細胞において発現させることによって調製することができる。これは、当業者に公知の組換えDNA技術の方法によって遂行することができる。従って、本発明は、真核または原核宿主細胞において本発明のポリペプチドを組換え生産するための方法も提供する。本発明のタンパク質およびポリペプチドは、市販の自動ペプチド合成装置、例えば、米国、カリフォルニア州、Foster CityのPerkin Elmer/Applied Biosystems,Inc、Model 430Aまたは431A、によって製造されているものを使用して化学合成によって得ることもできる。合成されたタンパク質またはポリペプチドを沈殿させ、例えば高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、さらに精製することができる。従って、本発明は、タンパク質の配列および試薬、例えばアミノ酸および酵素を提供すること、および前記アミノ酸を適正な配向および線形配列で互いに連結させることによる、本発明のタンパク質の化学合成プロセスも提供する。
任意のペプチドを、それに改変された特性を備えさせるように修飾できることは、当業者に公知である。本発明のポリペプチドを、非天然アミノ酸を含むように修飾することができる。例えば、それらのペプチドは、D−アミノ酸、D−アミノ酸とL−アミノ酸の組み合わせ、およびペプチドに特別な特性を伝える様々な「デザイナー」アミノ酸(例えば、β−メチルアミノ酸、C−α−メチルアミノ酸、およびN−α−メチルアミノ酸など)を含むことがある。加えて、特定のカップリング工程に特定のアミノ酸を指定することにより、α−ヘリックス、βターン、βシート、α−ターンを有するペプチド、および環状ペプチドを生じさせることができる。一般に、α−ヘリックス二次構造またはランダム二次構造が好ましいと考えられている。
さらなる実施形態において、有用な化学的および構造的特性を付与するポリペプチドのサブユニットを選択することとなる。例えば、D−アミノ酸を含むペプチドは、インビボでL−アミノ酸特異的プロテアーゼに対して耐性であるだろう。逆の順序で並べたアミノ酸を用いてD−アミノ酸を有する修飾化合物を合成して、retro−inverso型ペプチドとして本発明のペプチドを生成することができる。加えて、本発明は、よりよく定義された構造特性を有するペプチドの調製、ならびに新規特性を有するペプチドを調製するためのペプチドミメティック、およびペプチドミメティック結合、例えばエステル結合、の使用を構想している。もう1つの実施形態では、還元ペプチド結合、すなわち、R−CHNH−R(この式中のRおよびRは、アミノ酸残基または配列である)が組み込まれているペプチドを生じさせることができる。還元ペプチド結合をジペプチドサブユニットとして導入することができる。そのような分子は、ペプチド結合加水分解、例えばプロテアーゼ活性、に対して耐性であろう。そのような分子は、ユニークな機能および活性、例えば代謝分解またはプロテアーゼ活性に対する耐性のために延長されたインビボ半減期、を有するリガンドをもたらすであろう。さらに、一定の系において、拘束ペプチドが強化された機能活性を示すことは周知であり(Hruby(1982)Life Sciences 31:189−199およびHrubyら、(1990)Biochem J.268:249−262);本発明は、すべての他の位置にランダム配列が組み込まれている拘束ペプチドを生成する方法を提供する。
特定のコンフォメーションモチーフを導入するために、次の非古典的アミノ酸を本発明のペプチドに組み込むことができる:1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシラート(Kazrnierskiら(1991)J.Am.Chem.Soc.113:2275−2283);(2S,3S)−メチル−フェニルアラニン、(2S,3R)−メチル−フェニルアラニン、(2R,3S)−メチル−フェニルアラニンおよび(2R,3R)−メチル−フェニルアラニン(Kazmierski and Hruby(1991)Tetrahedron Lett.32(41):5769−5772);2−アミノテトラヒドロナフタレン−2−カルボン酸(Landis(1989)Ph.D.Thesis,University of Arizona);ヒドロキシ−1,2,3,4−テトラヒドロイソキノリン−3−カルボキシラート(Miyakeら(1989)J.Takeda Res.Labs.43:53−76)ヒスチジンイソキノリンカルボン酸(Zechelら(1991)Int.J.Pep.Protein Res.38(2):131−138);ならびにHIC(ヒスチジン環状尿素)、(Dharanipragadaら(1993)Int.J.Pep.Protein Res.42(1):68−77)および(Dharanipragadaら(1992)Acta.Crystallogr.C.48:1239−1241)。
特定の二次構造を誘導するために、または特定の二次構造に有利であるように、次のアミノ酸類似体およびペプチドミメティックをペプチドに組み込むことができる:LL−Acp(LL−3−アミノ−2−プロペニドン−6−カルボン酸)、β−ターン誘導性ジペプチド類似体(Kempら(1985)J.Org.Chem.50:5834−5838);β−シート誘導性類似体(Kempら(1988)Tetrahedron Lett.29:5081−5082);β−ターン誘導性類似体(Kempら(1988)Tetrahedron Lett.29:5057−5060);α−ヘリックス誘導性類似体(Kempら(1988)Tetrahedron Lett.29:4935−4938);α−ターン誘導性類似体(Kempら(1989)J.Org.Chem.54:109:115);次の参考文献によって提供されている類似体:Nagai and Sato(1985)Tetrahedron Lett.26:647−650;およびDiMaioら(1989)J.Chem.Soc.Perkin Trans.p.1687;Gly−Alaターン類似体(Kahnら(1989)Tetrahedron Lett.30:2317);アミド結合同配体(Clonesら(1988)Tetrahedron Lett.29:3853−3856);テトラゾール(Zabrockiら(1988)J.Am.Chem.Soc.110:5875−5880);DTC(Samanenら(1990)Int.J.Protein Pep.Res.35:501:509);ならびにOlsonら(1990)J.Am.Chem.Sci.112:323−333およびGarveyら(1990)J.Org.Chem.56:436に教示されている類似体。ベータターンおよびベータバルジのコンフォメーション制限ミメティック、ならびにそれらを含有するペプチドは、1995年8月8日にKahnに発行された米国特許第5,440,013号に記載されている。
任意のペプチドを、そのペプチドの生物学的機能を改変しない1つ以上の機能的に等価のアミノ酸で1つ以上のアミノ酸を置換することにより、修飾できることは、当業者に公知である。1つの態様では、アミノ酸を、類似した固有特性(疎水性、サイズまたは電荷を含むが、これらに限定されない)を有するアミノ酸によって置換する。置換される適切なアミノ酸を決定するために用いる方法およびそのためのアミノ酸は、当業者に公知である。非限定的な例としては、Dahoffら(1978)In Atlas of Protein Sequence and Structure Vol.5 suppl.2(編者M.O.Dayhoff)、345−352頁、National Biomedical Research Foundation,Washington DCによって説明されているような実験置換モデル;Dayhoffマトリクス(Dahoffら(1978)、上記)、またはJonesら(1992)Comput.Appl.Biosci.8:275−282およびGonnetら(1992)Science 256:1443−1145によって説明されているようなJTTマトリクスをはじめとする、PAMマトリクス;Adach and Hasegawa(1996)J.Mol.Evol.42:459−468によって説明されているような実験モデル;Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915−10919によって説明されているようなブロック置換マトリクス(BLOSUM);Nei(1987)Molecular Evolutionary Genetics.Columbia University Press,New York.によって説明されているようなポアソンモデル;ならびにMullerら(2002)Mol.Biol.Evol.19:8−13によって記載されているような最尤(ML)法が挙げられる。
IV.ポリペプチド結合体
本発明のポリペプチドおよびポリペプチド複合体を、所期の使用に依存して変わるだろう様々な処方物で使用することができる。例えば、1つ以上のものを、種々の他の分子(その性質は、特定の目的に依存して変わるだろう)と共有結合によりまたは非共有結合により連結させる(複合体化する)ことができる。例えば、天然および合成ポリマー、タンパク質、多糖類、ポリペプチド(アミノ酸)、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよび脂質をはじめとする(しかし、これらに限定されない)高分子キャリアと本発明のペプチドを共有結合によりまたは非共有結合により複合体化することができる。リポソームに導入するためにポリペプチドを脂肪酸に結合体化させることができる、例えば、米国特許第5,837,249号参照。本発明のペプチドを固体支持体と共有結合によりまたは非共有結合により複合体化することができ、様々な固体支持体が当該技術分野において公知であり、本明細書に記載されている。本発明の抗原性ペプチドエピトープを、共刺激分子を伴うまたは伴わないMHC複合体などの抗原提示マトリックスと会合させることができる。
タンパク質キャリアの例としては、超抗原、血清アルブミン、破傷風トキソイド、オボアルブミン、サイログロブリン、ミオグロブリン、および免疫グロブリンが挙げられるが、それらに限定されない。
カルボジイミドなどの従来の架橋剤を使用して、ペプチド−タンパク質キャリアポリマーを形成することができる。カルボジイミドの例は、1−シクロヘキシル−3−(2−モルホリニル−(4−エチル)カルボジイミド(CMC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)および1−エチル−3−(4−アゾニア−44−ジメチルペンチル)カルボジイミドである。
他の適する架橋剤の例は、臭化シアン、グルタルアルデヒドおよび無水コハク酸である。一般に、ホモ二官能性アルデヒド、ホモ二官能性エポキシド、ホモ二官能性イミド−エステル、ホモ二官能性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル、ホモ二官能性マレイミド、ホモ二官能性アルキルハリド、ホモ二官能性ピリジルジスルフィド、ホモ二官能性アリールハリド、ホモ二官能性ヒドラジド、ホモ二官能性ジアゾニウム誘導体およびホモ二官能性光反応性化合物をはじめとする、多数のホモ二官能性薬剤のいずれを使用してもよい。ヘテロ二官能性化合物、例えば、アミン反応性およびスルフヒドリル反応性の基を有する化合物、アミン反応性および光反応性の基を有する化合物、ならびにカルボニル反応性およびスルフヒドリル反応性の基を有する化合物も含む。
そのようなホモ二官能性架橋剤の具体的な例としては、二官能性N−ヒドロキシスクシンイミドエステル:ジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)、ジスクシンイミジルスベラート、およびジスクシンイミジルタータラート;二官能性イミド−エステル:ジメチルアジピミダート、ジメチルピメリミダート、およびジメチルスベリミダート;二官能性スルフヒドリル反応性架橋剤:1,4−ジ−[3’−(2’−ピリジルジチオ)プロピオンアミド]ブタン、ビスマレイミドヘキサン、およびビス−N−マレイミド−1,8−オクタン;二官能性アリールハリド:1,5−ジフルオロ−2,4−ジニトロベンゼンおよび4,4’−ジフルオロ−3,3’−ジニトロフェニルスルホン;二官能性光反応性薬剤、例えばビス−[b−(4−アジドサリチルアミド)エチル]ジスルフィド;二官能性アルデヒド:ホルムアルデヒド、マロンジアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒドおよびアジポアルデヒド;二官能性エポキシド、例えば1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル;二官能性ヒドラジド:アジピン酸ジヒドラジド、カルボヒドラジドおよびコハク酸ジヒドラジド;二官能性ジアゾニウム:o−トリジン、ジアゾ化およびビスジアゾ化ベンジジン;二官能性アルキルハリド:N1N’−エチレン−ビス(ヨードアセトアミド)、N1N’−ヘキサメチレン−ビス(ヨードアセトアミド)、N1N’−ウンデカメチレン−ビス(ヨードアセトアミド)、ならびにベンジルハリドおよびハロマスタード、例えば、それぞれ、a1a’−ジヨード−p−キシレンスルホン酸およびトリ(2−クロロエチル)アミンが挙げられる。
タンパク質とペプチドの結合体化を果たすために使用することができる一般的なヘテロ二官能性架橋剤の例としては、SMCC(スクシンイミジル−4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシラート)、MBS(m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)、SIAB(N−スクシンイミジル(4−ヨードアセチル)アミノベンゾアート)、SMPB(スクシンイミジル−4−(p−マレイミドフェニル)ブチラート)、GMBS(N−(γ−マレイミドブチリルオキシ)スクシンイミドエステル)、MPBH(4−(4−N−マレイミドフェニル(maleimidopohenyl))酪酸ヒドラジド)、M2C2H(4−(N−マレイミドメチル)シクロヘキサン−1−カルボキシル−ヒドラジド)、SMPT(スクシンイミジルオキシカルボニル−α−メチル−α−(2−ピリジルジチオ)トルエン)、およびSPDP(N−スクシンイミジル3−(2−ピリジルジチオ)プロピオナート)が挙げられるが、それらに限定されない。
還元アミノ化によってカルボニル基をアミン基にまたはヒドラジド基にカップリングさせることにより、架橋を果たすことができる。
本発明のポリペプチドを、イオン性、吸着性または生体特異的相互作用によりモノマーの非共有結合性付着物として処方することもできる。ペプチドと高い正または負電荷を有する分子との複合体化を、低イオン強度環境下での、例えば脱イオン水中での、塩架橋形成によって行うことができる。多くの負および正電荷をそれぞれ含有するポリ−(L−グルタミン酸)またはポリ−(L−リシン)などの荷電ポリマーを使用して、大きな複合体を作ることができる。微粒子ラテックスビーズなどの表面への、または他の疎水性ポリマーへのペプチドの吸着を行って、架橋されたまたは化学的に重合されたタンパク質を有効に模倣する非共有結合により会合しているペプチド−超抗原複合体を形成することができる。最後に、ペプチドを、他の分子間の生体特異的相互作用の使用によって、非共有結合により連結させることができる。例えば、アビジンもしくはストレプトアビジンまたはそれらの誘導体などのタンパク質に対するビオチンの強い親和性の利用を、ペプチド複合体を形成するために用いることができよう。これらのビオチン結合タンパク質は、溶液中でビオチンと相互作用することができる、または別の分子に共有結合により付けることができる、4つの結合部位を含有する。(Wilchek(1988)Anal.Biochem.171:1−32参照)。タンパク質上の利用可能なアミン基と反応する一般的なビオチン化試薬、例えばD−ビオチンのN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル(NHS−ビオチン)、を使用して、ビオチン基を有するようにペプチドを修飾することができる。その後、ビオチン化ペプチドをアビジンまたはストレプトアビジンと共にインキュベートして、大きな複合体を作ることができる。ビオチン化ペプチドのアビジンまたはストレプトアビジンに対するモル比の注意深い制御によって、そのようなポリマーの分子量を調節することができる。
本出願は、診断法において使用するために、標識、例えば蛍光または生物発光標識、に結合体化させた本明細書に記載するペプチドおよびポリペプチドも提供する。例えば、検出可能に標識したペプチドおよびポリペプチドをカラムに結合させ、抗体の検出または精製のために使用することができる。適する蛍光標識としては、フルオレセイン、ローダミン、テトラメチルローダミン、エオシン、エリスロシン、クマリン、メチル−クマリン、ピレン、マラカイトグリーン、スチルベン、ルシファーイエロー、Cascade Blue(商標)、およびテキサスレッドが挙げられるが、それらに限定されない。他の適する光学色素は、Haugland,Richard P.(1996)Molecular Probes Handbookに記載されている。
本発明のポリペプチドを様々な液相キャリア、例えば滅菌溶液または水溶液、薬学的に許容されるキャリア、懸濁液およびエマルジョン、と組み合わせることもできる。非水性溶媒の例としては、プロピルエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよび植物油が挙げられる。抗体の調製に用いるとき、キャリアは、特異的免疫応答を非特異的に増加させるために有用であるアジュバントを含む場合もある。当業者は、アジュバントが必要であるかどうかを容易に決めることができ、アジュバントを選択することができる。しかし、例証のみを目的として、適するアジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、および無機塩が挙げられるが、それらに限定されない。
宿主細胞
また、本発明のポリペプチドのうちの1つ以上を含む宿主細胞も提供される。一態様では、ポリペプチドが発現されて、細胞表面上(細胞外)に存在している。本発明のポリペプチドを含有する適切な細胞としては、原核生物細胞および真核生物細胞が挙げられ、これには、限定するものではないが、細菌細胞、酵母細胞、昆虫細胞、動物細胞、哺乳動物細胞、マウス細胞、ラット細胞、ヒツジ細胞、サル細胞およびヒト細胞が挙げられる。細菌細胞の例としては、Escherichia coli、Salmonella entericaおよびStreptococcus gordoniiが挙げられる。細胞は、American Type Culture Collection(ATCC、米国メリーランド州ロックビル)などの商業販売者から購入してもよいし、または当該技術分野で公知の方法を用いて単離物から培養してもよい。適切な真核細胞の例としては、限定するものではないが、293T HEK細胞、およびハムスター細胞株のCHO、BHK−21;NIH3T3、NS0、C127と呼ばれるマウスの細胞株、サル細胞株のCOS、Vero;ならびにヒト細胞株HeLa、PER.C6(Crucellから市販)U−937およびHep G2が挙げられる。昆虫細胞の非限定的な例としては、Spodoptera frugiperdaが挙げられる。発現に有用な酵母の例としては、限定するものではないが、Saccharomyces、Schizosaccharomyces、Hansenula、Candida、Torulopsis、Yarrowia、またはPichiaが含まれる。例えば、米国特許第4,812,405号;同第4,818,700号;同第4,929,555号;同第5,736,383号;同第5,955,349号;同第5,888,768号および同第6,258,559号を参照のこと。
種特異性に加えて、細胞は、任意の特定の組織型、例えば、神経細胞(neuronal cell)または神経細胞に分化することができるかもしくはできない幹細胞などの体性もしくは胚性の幹細胞、例えば、胚性幹細胞、脂肪幹細胞、神経幹細胞および造血幹細胞であってもよい。幹細胞は、ヒト起源または哺乳動物などの動物起源であってもよい。
単離したポリヌクレオチドおよび組成物
本発明はまた、上記同定した配列またはその相補体に対する相補的ポリヌクレオチドも提供する。相補性は、中等度または高ストリンジェンシーの条件下において従来のハイブリダイゼーションを用いて決定することができる。本明細書で用いる場合、ポリヌクレオチドという用語は、DNAおよびRNA、ならびに修飾されたヌクレオチドを意図する。例えば、本発明はまた、アンチセンスポリヌクレオチド鎖、例えば、これらの配列またはその相補体に対するアンチセンスRNAも提供する。
また、本発明のポリペプチドおよびポリペプチド複合体と実質的に相同および生物学的に等価なポリペプチドをコードしているポリヌクレオチドも提供される。実質的に相同および生物学的に等価とは、上記定義したように少なくとも65%相同、あるいは少なくとも70%相同、あるいは少なくとも75%相同、あるいは少なくとも80%相同、あるいは少なくとも85%相同、あるいは少なくとも90%相同、あるいは少なくとも95%相同、あるいは少なくとも97%相同などの種々の程度の相同性を有し、かつ第Xa因子インヒビターと結合する生物活性を有するポリペプチドをコードし、本発明に記載のようなプロトロンビナーゼ複合体にアセンブルしないものを意図する。必ずしも明確に記述していないが、実質的に相同的なポリペプチドおよびポリヌクレオチドに関する実施形態は、本発明のそれぞれの態様、例えば、ポリペプチド、ポリヌクレオチドおよび抗体を意図することが理解されるべきである。
本発明のポリヌクレオチドは、従来の組換え技術を用いて複製することができる。あるいは、ポリヌクレオチドは、PCR技術を用いて複製することができる。PCRは、米国特許第4,683,195号;第4,800,159号;第4,754,065号;および第4,683,202号の主題であり、かつPCR:The Polymerase Chain Reaction(Mullisら編、Birkhauser Press、Boston(1994))およびその中で引用される参考文献に記載されている。さらに、当業者は、本明細書に提供される配列および市販のDNA合成機を用いてDNAを複製することができる。従って、本発明はまた、ポリヌクレオチドの直鎖状の配列、適切なプライマー分子、酵素などの化学物質、およびそれらを複製し、ヌクレオチドを化学的に複製または適切な方向に連結してポリヌクレオチドを得るための指示書を提供することによる、本発明のポリヌクレオチドを得るための方法も提供する。別の実施形態では、これらのポリヌクレオチドをさらに単離する。さらに、当業者は、ポリヌクレオチドを、宿主細胞中でのそれらの発現のための調節配列と、作動可能に連結することができる。複製および増幅のために、ポリヌクレオチドおよび調節配列を宿主細胞(原核または真核)内に挿入する。そのように増幅したDNAは、当業者に周知の方法によって細胞から単離することができる。この方法によってポリヌクレオチドを得るための方法およびそのようにして得たポリヌクレオチドが、本明細書にさらに示される。
RNAは、最初に、DNAポリヌクレオチドを適切な原核または真核宿主細胞内に挿入することによって得ることができる。DNAは、任意の適切な方法によって、例えば、適切な遺伝子送達ビヒクル(例えば、リポソーム、プラスミドもしくはベクター)の使用によって、またはエレクトロポレーションによって挿入することができる。細胞複製物およびDNAがRNA内に転写される場合、次いで、RNAを、当業者に周知の方法を用いて、例えば、Sambrook and Russell(2001)(上記)に記載のとおり単離することができる。例えば、mRNAは、様々な溶解酵素もしくは化学溶液を用い、Sambrook and Russell(2001)(上記)に記載の手順に従って単離してもよいし、または核酸結合樹脂によって、製造者によって提供される添付指示書に従って抽出してもよい。
一態様では、RNAは、siRNAとしても知られる低分子干渉RNA(short interfering RNA)である。干渉RNAを調製およびスクリーニングする方法、ならびにポリヌクレオチド発現をブロックする能力について選択する方法は、当該技術分野で公知であり、その非限定的な例を以下に示す。これらの干渉RNAは、本発明によって提供される。
siRNA配列は、標的mRNA配列を得て、適切なsiRNA相補配列を決定することによって、設計することができる。本発明のsiRNAは、標的配列と相互作用するように設計されており、このことは、これらが、標的配列とハイブリダイズするために十分にその配列に対して相補的であることを意味する。siRNAは、標的配列と100%同一であり得る。しかし、siRNA配列の標的配列との相同性は、siRNAが標的配列とハイブリダイズできる限りは、100%未満であってもよい。従って、例えば、siRNA分子は、標的配列または標的配列の相補体と少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であり得る。従って、標的と比較して挿入、欠失または単一の点変異を有するsiRNA分子も用いてもよい。1つの標的mRNAあたりに、いくつかの異なるsiRNA配列を作製することが、最適な標的配列のスクリーニングを可能にするために推奨される。siRNA配列がどの既知の哺乳動物遺伝子とも相同性を有していないことを確実にするために、BLAST検索などの相同性検索を行うべきである。
一般に、標的配列がAUG開始コドンから少なくとも100〜200ヌクレオチドに位置し、標的mRNAの終止コドンから少なくとも50〜100ヌクレオチド離れていることが好ましい(Duxbury(2004)J.Surgical Res.,117:339〜344)。
研究者らにより、その標的遺伝子を有効にサイレンシングするsiRNA分子において、特定の特徴が共通していることが確認されている(Duxbury(2004)J.Surgical Res.,117:339〜344;Ui−Teiら(2004)Nucl.Acids Res.,32:936〜48)。一般的な指針として、以下の条件のうちの1つ以上を含むsiRNAが、哺乳動物細胞における遺伝子サイレンシングに特に有用である:45〜55%のGC比、一続きになった9個を超えるG/C残基は存在しない、センス鎖の5’末端のG/C;アンチセンス鎖の5’末端のA/U;およびアンチセンス鎖の5’末端の最初の7個の塩基中の少なくとも5個のA/U残基。
siRNAとは、一般に、約10〜約30ヌクレオチドの長さである。例えば、siRNAは、10〜30ヌクレオチドの長さ、12〜28ヌクレオチドの長さ、15〜25ヌクレオチドの長さ、19〜23ヌクレオチドの長さ、または21〜23ヌクレオチドの長さであってもよい。siRNAが異なる長さの2本の鎖を含有する場合、鎖のうちの長い方がsiRNAの長さを示す。この状況では、長い方の鎖の対合していないヌクレオチドがオーバーハングを形成するであろう。
用語siRNAには、短いヘアピンRNA(shRNA)が含まれる。shRNAは、ステム−ループ構造を形成する一本鎖のRNAを含み、ここでステムは二本鎖siRNAを含む相補的なセンスおよびアンチセンス鎖からなり、ループは様々な大きさのリンカーである。shRNAのステム構造は、一般に、約10〜約30ヌクレオチドの長さである。例えば、ステムは、10〜30ヌクレオチドの長さ、12〜28ヌクレオチドの長さ、15〜25ヌクレオチドの長さ、19〜23ヌクレオチドの長さ、または21〜23ヌクレオチドの長さであってもよい。
siRNA設計を支援するツールは、公的に容易に利用可能である。例えば、コンピュータに基づいたsiRNA設計ツールが、インターネット上で、2007年11月26日に最終アクセスされたwww.dharmacon.comから利用可能である。
dsRNAおよびsiRNAの合成
dsRNAおよびsiRNAは、Micura(2002)Agnes Chem.Int.Ed.Emgl.,41:2265〜2269;Betz(2003)Promega Notes、85:15〜18;ならびにPaddisonおよびHannon(2002)Cancer Cell.,2:17〜23に記載のように、化学的または酵素的にインビトロで合成することができる。化学合成は、Micura(2002)、(上記)に記載されているように、どちらも当該技術分野で周知の手動または自動の方法によって行うことができる。また、siRNAは、細胞の内部でshRNAの形態で、Yuら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、99:6047〜6052;およびMcManusら(2002)RNA、8:842〜850に記載のように内因性に発現させることもできる。内因性の発現は、プラスミドに基づいた発現系を用いて、核内低分子RNAプロモーター、例えば、RNAポリメラーゼIII U6もしくはH1、またはRNAポリメラーゼII U1を用いて、Brummelkampら(2002)Science、296:550〜553(2002);およびNovarinoら(2004)J.Neurosci.,24:5322〜5330に記載のように達成されている。
インビトロの酵素dsRNAおよびsiRNA合成を、Fireら(1998)Nature、391:806〜811;DonzeおよびPicard(2002)Nucl.Acids Res.,30(10):e46;Yuら(2002);およびShimら(2002)J.Biol.Chem.,277:30413〜30416に記載のように、RNAポリメラーゼ媒介性のプロセスを用いて行って、選択した細胞内に送達する前にインビトロでアニーリングした個々のセンスおよびアンチセンス鎖を生成することができる。いくつかの製造者(Promega、Ambion、New England Biolabs、およびStragene)が、インビトロ合成を行うために有用な転写キットを製造している。
siRNAのインビトロ合成は、例えば、センスおよびアンチセンスRNA配列の上流にT7RNAポリメラーゼプロモーターを含む一対の短い二重鎖オリゴヌクレオチドをDNAテンプレートとして用いることによって、達成することができる。二重鎖のそれぞれのオリゴヌクレオチドが、siRNAの1本の鎖を合成するための別々のテンプレートである。次いで、Protocols and Applications,第2章:RNA interference、Promega Corporation、(2005)に記載のように、合成される別々の短いRNA鎖をアニーリングさせて、siRNAを形成する。
dsRNAのインビトロ合成は、例えば、どちらのDNA標的配列鎖の5’末端にもT7RNAポリメラーゼプロモーターを用いることによって、達成することができる。これは、それぞれが標的配列をT7プロモーターに対して異なる方向で含み、2つの別々の反応で転写される、別々のDNAテンプレートを用いることによって達成される。生じる転写物を転写後に混合してアニーリングさせる。この反応で用いるDNAテンプレートは、PCRによって、または、それぞれがT7ポリメラーゼプロモーターを標的配列の異なる末端に含有する2本の直鎖状にしたプラスミドテンプレートを用いることによって、作成することができる。Protocols and Applications,第2章:RNA interference、Promega Corporation、(2005)。
本明細書に記載のタンパク質を発現させるために、目的の遺伝子をコードしている核酸配列の送達は、いくつかの技術によって送達することができる。その例としては、本明細書に記載のように、ウイルス技術(例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、アルファウイルスベクターなど)ならびに非ウイルス技術(例えば、DNA/リポソーム複合体、ミセルおよび標的化ウイルスタンパク質−DNA複合体)が挙げられる。一旦、目的の細胞の内部に入れば、導入遺伝子の発現は、遍在性プロモーター(例えばEF−1α)または組織特異的プロモーター(例えばカルシウムカルモジュリンキナーゼ2(CaMKI)プロモーター、NSEプロモーターおよびヒトThy−1プロモーター)の制御下であり得る。あるいは、発現レベルは、Wiznerowiczら(2005)Stem Cells、77:8957〜8961に記載の誘導性プロモーター系(例えばTetオン/オフプロモーター)の使用によって制御され得る。
プロモーターの非限定的な例としては、限定するものではないが、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Kaplittら(1994)Nat.Genet.,8:148〜154)、CMV/ヒトβ3−グロビンプロモーター(Mandelら(1998)J.Neurosci.,18:4271〜4284)、NCX1プロモーター、αMHCプロモーター、MLC2vプロモーター、GFAPプロモーター(Xuら(2001)Gene Ther.,8:1323〜1332)、1.8kbのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Kleinら(1998)Exp.Neurol.,150:183〜194)、ニワトリβアクチン(CBA)プロモーター(Miyazaki(1989)Gene、79:269〜277)およびβ−グルクロニダーゼ(GUSB)プロモーター(Shipleyら(1991)Genetics、10:1009〜1018)、ヒト血清アルブミンプロモーター、α−1−抗トリプシンプロモーターが挙げられる。発現を改善するために、他の調節エレメントを、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス調節後エレメント(Woodchuck Hepatitis Virus Post−Regulatory Element)(WPRE)(Donelloら(1998)J.Virol.,72:5085〜5092)またはウシ成長ホルモン(BGH)ポリアデニル化部位などの導入遺伝子に、追加して作動可能に連結させてもよい。
また、本明細書では、配列番号12〜15またはそれらの相補体をコードしている、少なくとも10、もしくは少なくとも17、もしくは少なくとも20、もしくは少なくとも50、もしくは少なくとも75個のポリヌクレオチド、または少なくとも100個のポリヌクレオチドを含む、ポリヌクレオチドプローブまたはプライマーも提供される。適切なプローブおよびプライマーは上述している。「完全にマッチした」プローブは、特異的ハイブリダイゼーションに必要ないことが、当該技術分野で公知である。少数の塩基の置換、欠失または挿入によって達成されるプローブ配列のわずかな変化は、ハイブリダイゼーションの特異性に影響を与えない。一般に、20%程度の塩基対のミスマッチ(最適に整列した場合)が許容され得る。前述のmRNAの検出に有用なプローブは、既に特徴づけた本発明のポリヌクレオチドに対応する、既に同定した配列(上記で同定)中に含有される、比較可能な大きさの相同的な領域と少なくとも約80%同一である。あるいは、プローブは、相同領域のアラインメント後に対応する遺伝子配列と85%同一であり、さらに、これは、90%の同一性、さらには少なくとも95%の同一性を示す。
これらのプローブは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの発現を検出またはモニターするための放射性アッセイ(例えば、サザンおよびノーザンブロット分析)で使用することができる。また、プローブを、本発明の1つ以上のポリヌクレオチド(単数または複数)に対応する遺伝子の発現を検出するためのハイスループットスクリーニングアッセイにおける使用のためのチップなどの固体支持体またはアレイに付着させることもできる。
本発明のポリヌクレオチドおよびポリヌクレオチドのフラグメントはまた、例えば、宿主細胞へのポリヌクレオチドの形質導入を確認するために、神経細胞中で発現される遺伝子または遺伝子転写物を検出するためのプライマーとしても役割を果たし得る。この状況では、増幅とは、標的配列を合理的な忠実度で複製することができるプライマー依存性ポリメラーゼを使用する任意の方法を意味する。増幅は、T7 DNAポリメラーゼ、E.coli(大腸菌)DNAポリメラーゼのクレノウフラグメント、および逆転写酵素などの天然または組換えDNAポリメラーゼによって行ってもよい。プライマーの長さは、上記プローブで同定したものと同じである。
本発明は、RNA転写のプロモーター、ならびにDNAまたはRNAの複製および/または一過性もしくは安定な発現のための他の調節配列と作動可能に連結した、本発明の単離したポリヌクレオチドをさらに提供する。本明細書において用いる場合、「作動可能に連結した」という用語は、プロモーターがDNA分子からのRNAの転写を指示するような様式に位置することを意味する。そのようなプロモーターの例は、SP6、T4およびT7である。特定の実施形態では、細胞特異的なプロモーターを、挿入したポリヌクレオチドの細胞特異的な発現に用いる。プロモーターまたはプロモーター/エンハンサーと、終止コドンおよび選択マーカー配列、ならびに挿入したDNA片をそのプロモーターと作動可能に連結することができるクローニング部位とを含むベクターは、当該技術分野で周知であり、かつ市販されている。一般的な方法およびクローニング戦略については、Gene Expression Technology(Goeddel編、Academic Press,Inc.(1991))およびその中で引用される参考文献、ならびに、マップ、機能的特性、商業的供給者および様々な適切なベクターのGenEMBL受託番号の参照を含むVectors:Essential Data Series(GacesaおよびRamji編、John Wiley & Sons、N.Y.(1994))を参照のこと。好ましくは、これらのベクターは、RNAをインビトロまたはインビボで転写し得る。
これらの核酸を含有する発現ベクターは、タンパク質およびポリペプチドを産生するための宿主ベクター系を得るために有用である。これらの発現ベクターは、エピソームとしてまたは染色体DNAに組み込まれた部分として、宿主生物内で複製可能でなければならないことが暗示される。適切な発現ベクターとしては、プラスミド、ウイルスベクター、例としては、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、コスミドなどが挙げられる。アデノウイルスベクターは、インビトロおよびインビボのどちらにおいてもその発現レベルが高く、かつ細胞の形質転換が効率的であるため、遺伝子を組織内にインビボで導入するために特に有用である。核酸を適切な宿主細胞、例えば、原核または真核細胞内に挿入し、宿主細胞を複製する場合、タンパク質を組換えによって産生することができる。適切な宿主細胞はベクターに依存し、これには、上述のように哺乳動物細胞、動物細胞、ヒト細胞、サル細胞、昆虫細胞、酵母細胞、および細菌細胞を挙げることが可能で、周知の方法を用いて構築される。SambrookおよびRussell(2001)、(上記)を参照のこと。外因性核酸を細胞内に挿入するためにウイルスベクターを使用することに加えて、核酸は、細菌細胞については形質転換;哺乳動物細胞についてはリン酸カルシウム沈殿を用いたトランスフェクション;DEAE−デキストラン;エレクトロポレーション;または微量注入などの、当該技術分野で周知の方法によって宿主細胞内に挿入することができる。この方法については、SambrookおよびRussell(2001)(上記)を参照のこと。
本発明はまた、本発明のポリヌクレオチドを細胞内に送達するために適した送達ビヒクルも提供する(インビボ、エキソビボ、またはインビトロにかかわらず)。本発明のポリヌクレオチドは、遺伝子送達ビヒクル、クローニングベクターまたは発現ベクター内に含まれてもよい。これらのベクター(特に発現ベクター)を次に例えば、細胞内への送達および/または侵入を容易にし得る、任意の多数の形態をとるように操作してもよい。
本発明のポリヌクレオチドを含有するこれらの単離した宿主細胞は、ポリヌクレオチドの組換え複製およびペプチドの組換え産生およびハイスループットスクリーニングに有用である。
本発明のポリヌクレオチドは、検出可能な標識と結合体化させるか、または、固体支持体もしくは薬学的に許容されるキャリアなどのキャリアと組み合わせることができる。適切な固体支持体は、上述されており、同様に適切な標識を有する。標識をポリヌクレオチドに付着させる方法は、当業者に公知である。Sambrook and Russell(2001)(上記)を参照のこと。
治療用抗体組成物
本発明はまた、本発明の治療方法において有用な、本発明のタンパク質またはポリペプチドと複合体を特異的に形成することができる抗体も提供する。「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、抗体フラグメント、ならびにそれらの誘導体(上述)を包含する。抗体としては、限定するものではないが、マウス、ラット、およびウサギまたはヒトの抗体が挙げられる。抗体は、細胞培養物中、ファージ中、または、限定するものではないが、ウシ、ウサギ、ヤギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヒツジ、イヌ、ネコ、サル、チンパンジー、類人猿などを含めた様々な動物中で産生され得る。また、抗体は、治療ポリペプチドの同定および精製にも有用である。
本発明はまた、上述の抗体およびその抗体と特異的に結合するポリペプチドを含む、抗体−ペプチド複合体も提供する。一態様では、ポリペプチドは、それに対する抗体が産生されたポリペプチドである。一態様では、抗体−ペプチド複合体は、単離された複合体である。さらなる態様では、複合体の抗体は、限定するものではないが、本明細書に記載のポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体または抗体誘導体である。抗体−ペプチド複合体の抗体またはペプチドの一方または両方を、検出可能に標識することができる。一態様では、本発明の抗体−ペプチド複合体を、診断またはスクリーニングアッセイにおける対照または参照サンプルとして用いてもよい。
本発明のポリクローナル抗体は、当該技術分野で公知であり、かつ文献中に十分に記載されている従来の技術を用いて生成することができる。ポリクローナル抗体を産生するためのいくつかの方法が存在する。例えば、ポリクローナル抗体は、典型的には、限定するものではないが、ニワトリ、ヤギ、モルモット、ハムスター、ウマ、マウス、ラット、およびウサギなどの適切な哺乳動物の免疫化によって産生する。抗原を哺乳動物内に注射し、これにより、Bリンパ球の抗原に特異的なIgG免疫グロブリンの産生を誘発する。このIgGを哺乳動物の血清から精製する。この方法の変形としては、最適な産生および動物の人道的な処置のための、アジュバント、投与の経路および部位、部位あたりの注射容積および動物あたりの部位数の変更が挙げられる。例えば、アジュバントは、典型的には、抗原に対する免疫応答を改善または増強するために使用する。ほとんどのアジュバントは、注射部位に抗原(antiben)デポーをもたらし、これによって流入リンパ節内への抗原の徐放が可能になる。他のアジュバントには、広い表面積にわたるタンパク質抗原分子および免疫刺激性分子の濃縮を促進する界面活性剤が挙げられる。ポリクローナル抗体を産生するためのアジュバントの非限定的な例としては、フロイントアジュバント、Ribiアジュバント系、およびTitermaxが挙げられる。ポリクローナル抗体は、米国特許第7,279,559号;同第7,119,179号;同第7,060,800号;同第6,709,659号;同第6,656,746号;同第6,322,788号;同第5,686,073号;および同第5,670,153号に記載の方法を用いて生成することができる。
本発明のモノクローナル抗体は、当該技術分野で公知であり、文献中に十分に記載されている従来のハイブリドーマ技術を用いて生成され得る。例えば、ハイブリドーマは、適切な不死細胞株(例えば、骨髄腫細胞株、例えば、限定するものではないが、Sp2/0、Sp2/0−AG14、NSO、NS1、NS2、AE−1、L.5、>243、P3X63Ag8.653、Sp2SA3、Sp2MAI、Sp2SS1、Sp2SA5、U397、MLA144、ACT IV、MOLT4、DA−1、JURKAT、WEHI、K−562、COS、RAJI、NIH 3T3、HL−60、MLA144、NAMAIWA、NEURO 2A、CHO、PerC.6、YB2/O)など、もしくは異種骨髄腫、その融合産物、またはそれらに由来する任意の細胞もしくは融合細胞、あるいは当該技術分野で公知の任意の他の適切な細胞株(例えば、2007年11月26日に最終アクセスされたwww.atcc.org、www.lifetech.com.などを参照)を、抗体産生細胞、例えば、限定するものではないが、単離もしくはクローニングした脾臓、末梢血、リンパ、扁桃腺、もしくは他の免疫もしくはB細胞含有細胞、または、重鎖もしくは軽鎖の定常もしくは可変もしくはフレームワークもしくはCDR配列を、内因性もしくは異種の核酸として、組換えもしくは内因性の、ウイルス、細菌、藻類、原核、両生類、昆虫、爬虫類、魚、哺乳動物、げっ歯類、ウマ科動物、ヒツジ、ヤギ、ヒツジ、霊長類、真核、ゲノムのDNA、cDNA、rDNA、ミトコンドリアDNAもしくはRNA、葉緑体DNAもしくはRNA、hnRNA、mRNA、tRNA、単鎖、二重鎖もしくは三重鎖、ハイブリダイズしたものなどとして発現する任意の他の細胞、あるいはその任意の組合せと融合させることによって、作製される。抗体産生細胞はまた、目的の抗原で免疫化したヒトまたは他の適切な動物の末梢血、または好ましくは脾臓もしくはリンパ節から得ることもできる。任意の他の適切な宿主細胞はまた、本発明の抗体、その指定したフラグメントまたは改変体をコードしている異種または内因性の核酸を発現するために用いてもよい。融合細胞(ハイブリドーマ)または組換え細胞は、選択的培養条件または他の適切な公知の方法を用いて単離し、限界希釈もしくは細胞分取、または他の公知の方法によってクローニングすることができる。
一実施形態では、本明細書に記載の抗体は、マルチ抗原性ペプチド(Multiple Antigenic Peptide)(MAP)システムを用いて産生することができる。MAPシステムでは、3または7個の放射状に分枝したリシン残基のペプチジル核を利用し、その上に標準の固相化学を用いて目的の抗原ペプチドを構築することができる。リシン核は、一般に全分子量の10%未満を占める内核に依存して、約4〜8コピーのペプチドエピトープを保有するMAPを生じる。MAPシステムは、結合体化にキャリアタンパク質を必要としない。複数コピーの抗原エピトープのMAP内における高いモル比および高密度のパッキングは、強力な免疫原性応答を生じることが示されている。この方法は米国特許第5,229,490号に記載されており、その全体が本明細書に参考として組み込まれている。
必須の特異性を有する抗体を産生または単離する他の適切な方法を用いてもよく、これには、限定するものではないが、ペプチドまたはタンパク質のライブラリー(例えば、限定するものではないが、バクテリオファージ、リボソーム、オリゴヌクレオチド、RNA、cDNAなど)、ディスプレイライブラリー(例えば、Cambridge Antibody Technologies(Cambridgeshire,UK)、MorphoSys(Martinsreid/Planegg,Del.)、Biovation(Aberdeen、Scotland,UK)BioInvent(Lund,Sweden)などの様々な商業販売者から入手可能)から、当該技術分野で公知の方法を用いて、組換え抗体を選択する方法が挙げられる。米国特許第4,704,692号;同第5,723,323号;同第5,763,192号;同第5,814,476号;同第5,817,483号;同第5,824,514号;同第5,976,862号を参照のこと。代替方法は、当該技術分野で公知のおよび/または本明細書に記載のようにヒト抗体のレパートリーを生成することができる、トランスジェニック動物(例えば、SCIDマウス、Nguyenら(1977)Microbiol.Immunol.,41:901〜907(1997);Sandhuら(1996)Crit.Rev.Biotechnol.,16:95〜118;Erenら(1998)Immunol.,93:154〜161)の免疫化に依存する。そのような技術としては、限定するものではないが、リボソームディスプレイ(Hanesら(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、94:4937〜4942;Hanesら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、95:14130〜14135);単一細胞抗体産生技術(例えば、選択リンパ球抗体方法(「SLAM」)(米国特許第5,627,052号、Wenら(1987)J.Immunol.,17:887〜892;Babcookら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1996)、93:7843〜7848));ゲル微小液滴およびフローサイトメトリー(Powellら(1990)Biotechnol.,8:333〜337);One Cell Systems、(Cambridge,Mass).;Grayら(1995)J.Imm.Meth.,182:155〜163;およびKennyら(1995)Bio.Technol.,13:787〜790;B細胞選択(Steenbakkersら(1994)Molec.Biol.Reports、19:125〜134)が挙げられる。
本発明の抗体誘導体はまた、本発明の抗体をコードしているポリヌクレオチドを、適切な宿主に送達して、そのような抗体をその乳中に産生するトランスジェニック動物または哺乳動物、例えばヤギ、ウシ、ウマ、ヒツジなどを得ることによっても調製することができる。これらの方法は当該技術分野で公知であり、例えば、米国特許第5,827,690号;同第5,849,992号;同第4,873,316号;同第5,849,992号;同第5,994,616号;同第5,565,362号;および同第5,304,489号に記載されている。
「抗体誘導体」という用語は、抗体またはフラグメントの直鎖状ポリペプチド配列への翻訳後修飾を包含する。例えば、米国特許第6,602,684(B1)号は、免疫グロブリンのFc領域に等価な領域を含み、Fc媒介性の細胞毒性が増強した、抗体分子全体、抗体フラグメント、または融合タンパク質を含めた、抗体の修飾されたグリコール形態の産生方法、およびそのように産生された糖タンパク質を記載している。
抗体誘導体はまた、本発明のポリヌクレオチドを送達して、そのような抗体、指定した部分または改変体を、植物部分またはそれから培養した細胞中に産生するトランスジェニック植物および培養植物細胞(例えば、限定するものではないが、タバコ、トウモロコシ、およびウキクサ)を提供することによっても、調製することができる。例えば、Cramerら(1999)Curr.Top.Microbol.Immunol.,240:95〜118およびその中で引用される参考文献は、例えば誘導性プロモーターを用いた、大量の組換えタンパク質を発現するトランスジェニックタバコの葉の産生を記載している。トランスジェニックトウモロコシが、他の組換え系中で産生したもの、または天然源から精製したものと同等の生物活性を有する哺乳動物タンパク質を、商業的生産レベルで発現させるために用いられている。例えば、Hoodら(1999)Adv.Exp.Med.Biol.,464:127〜147およびその中で引用される参考文献を参照のこと。単鎖抗体(scFv)などの抗体フラグメントを含めた抗体誘導体も、タバコ種およびポテト塊茎を含めたトランスジェニック植物種から大量に産生されている。例えば、Conradら(1998)Plant Mol.Biol.,38:101〜109およびその中で引用される参考文献を参照のこと。従って、本発明の抗体は、公知の方法に従って、トランスジェニック植物を用いて産生することもできる。
抗体誘導体はまた、例えば、外因性配列を付加して、免疫原性を変更するか、または、結合、親和性、会合速度、解離速度、結合力、特異性、半減期、もしくは任意の他の適切な特徴を減少、増強、もしくは変更することによっても、産生することができる。一般に、非ヒトまたはヒトのCDR配列の一部または全部を維持し、一方で可変および定常領域の非ヒト配列をヒトまたは他のアミノ酸で置き換える。
一般に、CDR残基は、抗原結合に影響を与えることに直接かつ最も実質的に関与している。本発明の抗体のヒト化または操作は、限定するものではないが、米国特許第5,723,323号;同第5,976,862号;同第5,824,514号;同第5,817,483号;同第5,814,476号;同第5,763,192号;同第5,723,323号;同第5,766,886号;同第5,714,352号;同第6,204,023号;同第6,180,370号;同第5,693,762号;同第5,530,101号;同第5,585,089号;同第5,225,539号;および同第4,816,567号に記載の方法などの、任意の公知の方法を用いて行ってもよい。
部分的または完全にヒトの抗体を作製する技術は当該技術分野で公知であり、任意のそのような技術を用いてもよい。一実施形態によれば、完全ヒトの抗体配列を、ヒトの重鎖および軽鎖の抗体遺伝子を発現するように操作したトランスジェニックマウス中で作製する。種々のクラスの抗体を産生することができるそのようなトランスジェニックマウスは複数株作製されている。望ましい抗体を産生するトランスジェニックマウス由来のB細胞を融合して、所望の抗体を連続的に産生するハイブリドーマ細胞株を作製することができる。(例えば、Russelら(2000)Infection and Immunity、2000年4月:1820〜1826;Galloら(2000)European J.of Immun.,30:534〜540;Green(1999)J.of Immun.Methods、231:11〜23;Yangら(1999A)J.of Leukocyte Biology、66:401〜410;Yang(1999B)Cancer Research、59(6):1236〜1243;Jakobovits.(1998)Advanced Drug Delivery Reviews、31:33〜42;GreenおよびJakobovits(1998)J.Exp.Med.,188(3):483〜495;Jakobovits(1998)Exp.Opin.Invest.Drugs、7(4):607〜614;Tsudaら(1997)Genomics、42:413〜421;Sherman−Gold(1997)Genetic Engineering News 17(14);Mendezら(1997)Nature Genetics、15:146〜156;Jakobovits(1996)Weir’s Handbook of Experimental Immunology、The Integrated Immune System 第IV巻、194.1〜194.7;Jakobovits(1995)Current Opinion in Biotechnology、6:561〜566;Mendezら(1995)Genomics、26:294〜307;Jakobovits(1994)Current Biology、4(8):761〜763;Arbonesら(1994)Immunity、1(4):247〜260;Jakobovits(1993)Nature、362(6417):255〜258;Jakobovitsら(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90(6):2551〜2555;および米国特許第6,075,181号を参照のこと)。
また、本発明の抗体を修飾してキメラ抗体を作製することもできる。キメラ抗体とは、抗体の重鎖および軽鎖の様々なドメインが、複数種由来のDNAによってコードされている抗体である。例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと。
あるいは、本発明の抗体を修飾して、ベニヤ化(veneered)抗体を作製することもできる。ベニヤ化抗体とは、ある種の抗体の外側アミノ酸残基が、第2の種のもので適切に置き換えられるかまたは「ベニヤ化」して、その結果、第1の種の抗体が第2の種中で免疫原性とならず、それによって抗体の免疫原性が減少した抗体である。タンパク質の抗原性は主に、その表面の性質に依存するため、別の哺乳動物種の抗体中に通常見つかるものとは異なる、露出した残基を置き換えることによって、抗体の免疫原性を減少することができる。この外側残基の適切な置き換えは、内側のドメインまたはドメイン間の接触にほとんど影響を与えないか、または全く影響を与えないはずである。従って、リガンド結合特性は、可変領域フレームワーク残基に限定される変更の結果として、影響を受けないはずである。このプロセスは、抗体の外部表面または皮(skin)のみを変更し、支持残基は乱されないままであるため、「ベニヤ化」と呼ばれる。
「ベニヤ化」の手順では、Kabatら(1987)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第4版、Bethesda,Md.,National Institutes of Healthによって編集されたヒト抗体可変ドメインの利用可能な配列データ、このデータベースの更新、ならびに他のアクセス可能な米国および外国のデータベース(核酸およびタンパク質の両方)を利用する。ベニヤ化抗体を生成するために用いられる方法の非限定的な例としては、欧州特許第519596号;米国特許第6,797,492号;ならびにPadlanら(1991)Mol.Immunol.28(4−5):489〜498頁に記載のものが含まれる。
「抗体誘導体」という用語はまた「二重特異性抗体(diabodies)」も包含し、これは、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体フラグメントであり、フラグメントは、同じポリペプチド鎖中で軽鎖可変ドメイン(VL)と接続した重鎖可変ドメイン(VH)を含む(例えば、欧州特許第404,097号;WO93/11161号;およびHollingerら、(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444〜6448を参照のこと)。同じ鎖上の2つのドメイン間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを用いることによって、このドメインは、別の鎖の相補的ドメインと対合して2つの抗原結合部位を生成することを余儀なくされる(1つ以上のアミノ酸が親抗体の超可変領域内に挿入されており、抗原に対する親抗体の結合親和性よりも少なくとも約2倍強力な、標的抗原に対する結合親和性を有する、抗体改変体を開示している、Chenらの米国特許第6,632,926号も参照のこと)。
「抗体誘導体」という用語はさらに、「直鎖状抗体」を包含する。直鎖状抗体を作製する手順は当該技術分野で公知であり、Zapataら(1995)Protein Eng.,8(10):1057〜1062に記載されている。要するに、これらの抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対の直列型のFdセグメント(V−C1−VH−C1)を含む。直鎖状抗体は二重特異性であっても、または単一特異性であってもよい。
本発明の抗体は、組換え細胞培養物から、限定するものではないが、タンパク質A精製、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法によって、収集および精製することができる。高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)も精製に使用することができる。
本発明の抗体としては、上記のように、天然の精製した産物、化学的合成手順の産物、ならびに組換え技術によって、例えば、酵母、高等植物、昆虫および哺乳動物細胞を含めた真核宿主から、または原核細胞から産生した産物が挙げられる。
試験されているモノクローナル抗体がタンパク質またはポリペプチドと結合するならば、その試験されている抗体および本発明のハイブリドーマによって提供される抗体は等価である。また、必要以上の実験を行わずに、試験されている抗体が、本発明のモノクローナル抗体と、そのモノクローナル抗体が通常反応性を有するタンパク質またはポリペプチドとの結合を防止するか否かを決定することによって、抗体が本発明のモノクローナル抗体と同じ特異性を有するか否かを決定することも可能である。試験されている抗体が、本発明のモノクローナル抗体による結合の減少によって示されるように、本発明のモノクローナル抗体と競合するならば、この2つの抗体は同じかまたは密接に関連するエピトープと結合する可能性が高い。あるいは、本発明のモノクローナル抗体を、それが通常反応性を有するタンパク質と共にプレインキュベートし、試験されているモノクローナル抗体の、抗原と結合するその能力が阻害されているか否かを決定することができる。試験されているモノクローナル抗体が阻害されているならば、恐らく、これは、本発明のモノクローナル抗体と同じかまたは密接に関連するエピトープ特異性を有する。
「抗体」という用語はまた、すべてのアイソタイプの抗体を包含するものとする。モノクローナル抗体の特定のアイソタイプは、最初の融合物から選択することによって直接調製してもよいし、または、異なるアイソタイプのモノクローナル抗体を分泌する親ハイブリドーマから、Steplewskiら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、82:8653またはSpiraら(1984)J.Immunol.Methods、74:307に記載の手順を用いたクラススイッチ改変体を単離するためのsib選択技術を用いることによって、二次的に調製してもよい。
本発明のモノクローナル抗体の特異性を有するモノクローナル抗体を分泌する他のハイブリドーマの単離はまた、当業者によって、抗イディオタイプ抗体を産生することによっても達成し得る。Herlynら(1986)Science、232:100。抗イディオタイプ抗体とは、目的のハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体上に存在する特有の決定基を認識する抗体である。
2つのハイブリドーマのモノクローナル抗体の間のイディオタイプ同一性によって、2つのモノクローナル抗体が、同じエピトープ決定基のその認識に関して同じであることが実証される。従って、モノクローナル抗体上のエピトープ決定基に対する抗体を用いることによって、同じエピトープ特異性のモノクローナル抗体を発現する他のハイブリドーマを同定することが可能である。
抗イディオタイプ技術を用いてエピトープを模倣するモノクローナル抗体を産生することもまた可能である。例えば、第1のモノクローナル抗体に対して作製した抗イディオタイプモノクローナル抗体は、第1のモノクローナル抗体によって結合されるエピトープの鏡像である、超可変領域中の結合ドメインを有する。従って、この場合、抗イディオタイプモノクローナル抗体を、これらの抗体を産生するための免疫化に用いてもよい。
本発明の一部の態様では、抗体を検出可能にまたは治療的に標識することが有用である。適切な標識は上記されている。抗体をこれらの因子と結合体化させる方法は、当該技術分野で公知である。例示の目的にすぎないが、抗体を、放射性原子、発色団、フルオロフォアなどの検出可能な部分で標識してもよい。そのような標識した抗体を、診断技術のために、インビボで、または単離した試験サンプル中で用いてもよい。
抗体と低分子量ハプテンとのカップリングは、アッセイにおける抗体の感度を増加させることができる。次いで、第2の反応によってハプテンが特異的に検出され得る。例えば、アビジンと反応するビオチン、または特異的抗ハプテン抗体と反応することができるジニトロフェノール、ピリドキサル、およびフルオレセインなどのハプテンを用いることが、一般的である。HarlowおよびLane(1988)(上記)を参照のこと。
抗体は、放射性原子、発色団、フルオロフォアなどの検出可能な部分で標識することができる。そのような標識した抗体は、診断技術のために、インビボで、または単離した試験サンプル中で用いてもよい。また、抗体は、例えば、化学療法薬または毒素などの薬学的薬剤と結合体化させてもよい。これらは、サイトカイン、リガンド、別の抗体と連結させてもよい。抗体とカップリングさせて抗腫瘍効果を達成するために適切な因子としては、インターロイキン2(IL−2)および腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカイン;アルミニウム(III)フタロシアニンテトラスルホネート、ヘマトポルフィリン、およびフタロシアニンを含めた、光線力学的治療で用いるための光増感剤;ヨウ素−131(131I)、イットリウム−90(90Y)、ビスマス−212(212Bi)、ビスマス−213(213Bi)、テクネチウム−99m(99mTc)、レニウム−186(186Re)、およびレニウム−188(188Re)などの放射性核種;ドキソルビシン、アドリアマイシン、ダウノルビシン、メトトレキサート、ダウノマイシン、ネオカルジノスタチン、およびカルボプラチンなどの抗生物質;ジフテリア毒素、緑膿菌外毒素A、ブドウ球菌エンテロトキシンA、アブリン−A毒素、リシンA(脱グリコシル化リシンAおよび天然リシンA)、TGF−α毒素、中国コブラ由来の細胞毒素(naja naja atra)、およびゲロニン(植物毒素)などの、細菌、植物、および他の毒素;レストリクトシン(Aspergillus restrictusによって産生されるリボソーム不活性化タンパク質)、サポリン(Saponaria officinalis由来のリボソーム不活性化タンパク質)、およびRNaseなどの、植物、細菌および真菌由来のリボソーム不活性化タンパク質;チロシンキナーゼインヒビター;ly207702(ジフッ化プリンヌクレオシド);抗嚢胞剤(anti cystic agent)を含有するリポソーム(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、毒素をコードしているプラスミド、メトトレキサートなど);ならびに他の抗体およびF(ab)などの抗体フラグメントが挙げられる。
本発明の抗体はまた、多くの異なるキャリアと結合されてもよい。従って、本発明はまた、抗体および活性または不活性の別の物質を含有する組成物も提供する。周知のキャリアの例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然および修飾されたセルロース、ポリアクリルアミド、アガロースならびにマグネタイトが挙げられる。キャリアの性質は、本発明の目的では可溶性または不溶性のいずれであってもよい。当業者は、モノクローナル抗体を結合するための他の適切なキャリアを承知しているか、または慣用的な実験を用いてそれを解明することができる。
V.本発明の別の解毒剤および方法
上記の単位用量処方物は、配列番号13のポリペプチドに加えて解毒剤に有用かつ効果的であると考えられる。
本発明の一態様は、有効量の第Xa因子タンパク質誘導体を被験体に投与することによる、抗凝固療法を受けている被験体において出血を防止または減少する方法に関する。一実施形態では、誘導体は修飾された活性部位および/または修飾されたGla−ドメインを有しており、従って、凝血促進活性が減少しているか、または凝血促進活性を全く有さない。誘導体は解毒剤として作用し、インヒビターの抗凝血活性または効果を実質的に中和する。一実施形態では、誘導体は、Gla欠損またはGla−ドメインなし(Gla−domainless)のどちらかである。被験体は、哺乳動物、またはより詳細にはヒトであってもよい。
別の実施形態では、本発明は、被験体において外因性に投与された第Xa因子インヒビターと選択的に結合してそれを阻害する方法に関する。この方法は、患者に、有効量の上記した第Xa因子誘導体の誘導体を投与することを包含する。この被験体は、細胞、またはヒトなどの哺乳動物であってもよい。
この治療に適した患者は、以前に抗凝固療法を受けており、例えば、第Xa因子のインヒビターなどの抗凝血剤のうちの1つ以上を投与されている。第Xa因子インヒビターである抗凝血剤の例としては、限定するものではないが、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、ビオチニル化イドラパリヌクス、エノキサパリン、フラグミン、NAP−5、rNAPc2、組織因子経路インヒビター、DX−9065a、YM−60828、YM−150、アピキサバン、リバロキサバン、PD−348292、オタミキサバン、エンドキサバン、LY517717、GSK913893、低分子量ヘパリン、およびベトリキサバン、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。様々な抗凝血剤の供給源は、本明細書の全体にわたって見出される。
一態様では、誘導体は、修飾された活性部位および/または修飾もしくは除去されたGlaドメインを有する。一態様では、第Xa因子誘導体は、凝血促進活性を有しないか、またはそれを示さない。この態様では、誘導体は、配列番号3の少なくともアミノ酸残基40〜448、45〜448もしくは46〜448またはその等価物を含む。別の態様では、この誘導体は、配列番号3の少なくともアミノ酸残基45〜139および195〜448もしくは46〜139および195〜448またはその等価物を含む。
本発明の別の態様では、fXa誘導体は、fXaタンパク質の活性部位の三次元構造を保持する。des−Gla fXaの三次元構造に関する情報は、Brandstetter,Hら、J.Bio.Chem.,1996、271:29988〜29992の中に見出し得る。
本発明の別の態様では、fXa誘導体は、Glaドメインおよび2つのEGFドメインのどちらか一方を欠いてもよい。本発明の別の態様では、fXa誘導体は、軽鎖を完全に欠く。重鎖の他の修飾は、インヒビターと結合することができる関連するセリンプロテアーゼの触媒ドメインを含んでもよい。関連するセリンプロテアーゼは、fXa触媒ドメインと十分な構造的類似性を保有し、従って、小分子fXaインヒビターと結合し得る触媒ドメインを有する。関連するセリンプロテアーゼの例としては、限定するものではないが、血漿カリクレイン、トロンビンおよびトリプシンなどの哺乳動物プロテアーゼまたは細菌プロテアーゼのサブチリシンが挙げられる。これらの誘導体はさらに、本明細書に記載の活性部位セリン(SER379)またはアスパラギン酸(ASP282)残基に等価であるアミノ酸残基での修飾を含む。
いくつかの実施形態では、凝血促進活性が減少した第Xa因子タンパク質は、修飾された軽鎖を含み、この修飾とは、fXaのリン脂質膜結合を減少させるための、Gla−ドメインの置換、付加または欠失である。いくつかの実施形態では、fXaの主要なアミノ酸配列は変化していないが、特定のアミノ酸の側鎖が変化している。fXaのリン脂質膜結合を減少させる、修飾されたGla−ドメインの例は、少なくとも1つのアミノ酸が、野生型ヒト第Xa因子タンパク質のGla−ドメインと比較して置換、付加、または欠失している配列番号3の一次アミノ酸配列を有するポリペプチドもしくはタンパク質またはその等価物を含む。いくつかの実施形態では、置換または欠失する少なくとも1つのアミノ酸は、γ−カルボキシグルタミン酸(Gla)である。Gla残基は、配列番号3中でアミノ酸位置6、7、14、16、19、20、25、26、29、32、および39に示される。いくつかの実施形態では、解毒剤の一次アミノ酸配列は、配列番号3またはその等価物と同一であるが、未カルボキシル化、低カルボキシル化または脱カルボキシル化した第Xa因子タンパク質である。いくつかの実施形態では、解毒剤はdes−Gla anhydro−fXaまたはdes−Gla fX−S379Aである。いくつかの実施形態では、リン脂質膜結合が減少した第Xa因子タンパク質は、EGF1および/もしくはEGF2(図3中にそれぞれアミノ酸46〜84および85〜128として示す)またはEGF1および/もしくはEGF2ドメインの一部、すなわちフラグメントの修飾もしくは欠失をさらに含む。いくつかの実施形態では、軽鎖全体または軽鎖の実質的に全体が、修飾または除去されている。例えば、リン脂質膜結合が減少した、修飾されたfXaタンパク質は、重鎖のみを含有してもよいし、または、修飾されたfXaは、重鎖と、配列番号3中の重鎖のCys302と単一のジスルフィド結合を形成するアミノ酸残基であるCys132を含む軽鎖のフラグメントとを含んでもよい。いくつかの実施形態では、誘導体は配列番号10または配列番号11のアミノ酸配列を含む。いくつかの実施形態では、この誘導体は、配列番号13を含む二本鎖ポリペプチドである。他の実施形態では、この誘導体は配列番号15のポリペプチドである。
いくつかの実施形態では、第Xa因子タンパク質誘導体は、前記第Xa因子タンパク質の触媒ドメインを含む、修飾された重鎖を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、配列番号3および配列番号7の中のGlu216、Glu218、Arg332、Arg347、Lys351、およびSer379(キモトリプシンのナンバリングでそれぞれGlu37、Glu39、Arg150、Arg165、Lys169、およびSer195)からなる群より選択される、fXaの1つ以上のアミノ酸位置に存在する。いくつかの実施形態では、解毒剤は、活性部位セリン(配列番号3および7中のSer379、キモトリプシンのナンバリングでSer195)残基がデヒドロ−アラニンまたはアラニンへと修飾された、第Xa因子タンパク質である。そのような修飾は、野生型fXaタンパク質に対して、または上述の修飾されたfXaタンパク質もしくはフラグメントのうちの任意のものに対して行ってもよい。例えば、実施例1に記載した、活性部位セリン残基がデヒドロ−アラニンによって置き換えられたdes−Gla anhydro−fXaは、解毒活性を示した。
他の実施形態では、誘導体は、野生型または天然に存在する第Xa因子と比較して、ATIII、補因子fV/fVaおよびfVIII/fVIIIaとの相互作用が減少している。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換は、配列番号3および配列番号7中のアミノ酸位置Arg306、Glu310、Arg347、Lys351、Lys414またはArg424(キモトリプシンのナンバリングでそれぞれArg125、Glu129、Arg165、Lys169、Lys230またはArg240)に存在する。そのような修飾を、野生型fXaタンパク質または上述の修飾されたfXaタンパク質もしくはフラグメントのうちの任意のものに行ってもよい。
他の実施形態では、解毒剤は、fXa重鎖のインヒビター結合能力を模倣し得るセリンプロテアーゼ触媒ドメインのアミノ酸配列を含むタンパク質である。そのようなタンパク質としては、タンパク質基質を切断し得るセリンプロテアーゼ活性を欠くが、それでも活性部位間隙(cleft)の構造的特徴を保有するように、組換えによって修飾された、血漿カリクレイン、トロンビン、トリプシン(またはその細菌相同体のサブチリシン)などの哺乳動物プロテアーゼを挙げることができる。
また、本発明では、修飾された第Xa因子誘導体のうちの1つ以上と薬学的に許容されるキャリアとを含有する薬学的組成物も提供される。この組成物は、それを必要としている被験体に、所望の利点、すなわち出血の減少または停止をもたらす量で投与される。この組成物は、第Xa因子誘導体の活性を補完または増強する任意の適切な薬剤または治療と共投与されてもよい。そのようなものの例は、解毒剤の血漿半減期を延長し得る第2の薬剤である。適切な第2の薬剤の例としては、限定するものではないが、fXa重鎖のエキソサイトを認識する抗−fXa抗体またはα−2−マクログロブリン結合fXa誘導体が挙げられる。fXa誘導体と第2の薬剤(エキソサイト抗体またはα−2−マクログロブリン)との間の複合体の形成は、巨大分子の相互作用を遮断するが、活性部位依存性のインヒビター結合の能力は保持される。共投与に適した抗−fXa抗体の例としては、限定するものではないが、Yang Y.H.ら、J.Immunol.,2006、1;177(11):8219〜25、Wilkens,MおよびKrishnaswamy,S.,J.Bio.Chem.,2002、277(11)、9366〜9374、およびChurch WRら、Blood、1988、72(6)、1911〜1921に記載されているものが挙げられる。
いくつかの実施形態では、第Xa因子タンパク質は、化学的、酵素的または組換え手段によって修飾される。例えば、実施例1に記載のように、活性部位Ser379をデヒドロアラニンへと化学修飾しても、Glaドメインをキモトリプシン消化によって酵素的に除去してもよい。本明細書に記載の修飾されたfXaはまた、実施例7にさらに詳細に記載される、組換え解毒剤(r−解毒剤)を直接発現するための、野生型fXをコードしているcDNAの配列(配列番号2)を修飾することによる組換え手段によって産生してもよいし、あるいは、所望の修飾を有するfXタンパク質を組換え手段によって産生し、続いてヘビ毒、例えばラッセルマムシ毒、およびfVIIa/組織因子またはfIXa/fVIIIaの複合体などの活性化因子によって、修飾されたfXaへと活性化してもよい。
本明細書に記載の組成物の投与および付随する方法により利点を得る被験体としては、臨床的な大量出血事象または臨床的に重大な非大量出血事象を起こしている、またはそれを起こしやすい被験体が挙げられる。臨床的な大量出血事象の例は、出血、重要臓器内への出血、再手術または新しい治療手順を要する出血、および明白な出血を伴う2.0以上の出血指数からなる群より選択される(Turpie AGGら、NEJM、2001、344:619〜625)。さらに、被験体は、持続性もしくは再発性かつ相当な量であるか、または介入なしでは停止しない鼻出血、治療手順を要するレベルまで上昇しない直腸または尿路の出血、自発性または小さな外傷に伴って発生する、注射部位または他の箇所における実質的な血腫、ドレナージを必要としない外科的処置に通常関連しているものよりも多い、実質的な失血、および予定外の輸血を要する出血からなる群より選択される非大量出血事象を起こしている場合もあるし、またはそれらを起こしやすい場合もある。
いくつかの実施形態では、解毒剤は、過量のfXaインヒビターを投与した後、または被験体を出血の危険性に曝露する場合がある計画された待機手術の前に投与する。
本明細書に記載の任意の方法において、必ずしも明確に記述していない場合でも、有効量の誘導体が被験体に投与されることを理解すべきである。この量は、治療を行っている医師によって経験的に決定することができ、被験体の年齢、性別、体重および健康に伴って変動する。治療を行っている医師が考慮すべきさらなる要素としては、限定するものではないが、投与されたであろう第Xa因子インヒビターの正体および/または量、解毒剤を被験体に投与する方法または様式、解毒剤の処方、ならびに患者の治療的終点が挙げられる。これらの変数を考慮して、当業者は、治療上有効な量を処置すべき被験体に投与する。さらに別の態様では、本発明は、第Xa因子インヒビターに対する有効量の解毒剤および薬学的に許容されるキャリアを投与することを包含する、被験体に投与した第Xa因子インヒビターの抗凝血活性を逆転または中和するための薬学的組成物に関するが、ただし、解毒剤は、血漿由来の第VIIa因子、組換え第VIIa因子、新鮮凍結血漿、プロトロンビン複合体濃縮物および全血ではない。
いくつかの実施形態では、解毒剤は、上記の解毒剤のうちの任意の1つである。いくつかの実施形態では、解毒剤は、解毒剤の循環半減期を延長し得る部分と結合体化されている。いくつかの実施形態では、この部分は、ポリエチレングリコール、アシル基、リポソーム、キャリアタンパク質、人工リン脂質膜、およびナノ粒子からなる群より選択される。例えば、本明細書に記載のfXa誘導体の不活性部位リシンまたはシステイン残基を化学修飾して、ポリエチレングリコール分子に付着させてもよい。Werle,M.& Bernkop−Schnuerch,A.Strategies to Improve Plasma Half Life Time of Peptide and Protein Drugs、Amino Acids、2006年、30(4):351〜367中に提供される他の方法を用いて、本発明の解毒剤の血漿半減期を延長してもよい。
本発明の他の実施形態では、fXa誘導体の半減期は、Fcキャリアドメインに対して解毒剤をカップリングさせることによって改善される。一実施形態では、解毒剤を、免疫グロブリンペプチド部分またはIgG1フラグメントなどのFcフラグメントとカップリングさせる。一実施形態では、fXa誘導体および免疫グロブリンペプチド部分を含むキメラタンパク質が企図される。さらに別の実施形態では、fXa誘導体および免疫グロブリンペプチドは、ヒトIgGの重鎖およびκ軽鎖定常領域を用いたジスルフィド結合などの化学反応によってカップリングされる。
いくつかの実施形態では、薬学的組成物は、解毒剤の血漿半減期を延長し得る薬剤をさらに含む。別の態様では、薬学的組成物は、解毒剤の血漿半減期を延長し得る薬剤と共処方されている。いくつかの実施形態では、共投与または共処方した薬剤は、fXaのエキソサイトを認識する抗−fXa抗体またはα−2−マクログロブリン結合fXa誘導体である。
VI.治療(療法)
本発明は、抗凝固療法を受けている被験体において出血を防止または減少する治療方法に関する。本発明の解毒剤または誘導体は、有害な血行動態の副作用または傷害に対する増殖性の血管応答の再燃を引き起こすことなく、fXaインヒビターの通常の抗凝血特性を安全かつ特異的に中和し得る、待機的または緊急の状況で用いるべき短期間薬であり得るということが企図される。
一実施形態では、治療上有効な量の解毒剤は高い治療指数を示す。治療指数とは、毒性効果と治療効果の間の用量比であり、LD50とED50の間の比として表すことができる。LD50とは、集団の50%に致死的な用量であり、ED50とは、集団の50%に治療上有効な用量である。LD50およびED50は、動物細胞培養物または実験動物における標準の薬学的手順によって決定される。本発明の解毒剤または誘導体は、被験体の血漿中に存在するfXaインヒビターの効果の中和が必要な場合に、1回投与されてもよいし、または数回投与されてもよい。好ましくは、本発明の解毒剤は、単一用量で投与した場合に十分である。
本発明の解毒剤の典型的な用量は、実際の臨床的状況および血漿中のインヒビター濃度に依存することが企図される。インビトロアッセイ、例えば、トロンビン生成、aPTT、PTおよびACTなどの臨床的凝固アッセイにおいて、治療上有効な量の解毒剤は、10%以上のエキソビボ凝固活性の補正を生じるということが期待される。インビトロアッセイにより、1.0より高い解毒剤/インヒビターの比が逆転効果を示すはずであることが示されている。解毒剤の最大血漿濃度は、マイクロモル範囲、恐らくは10マイクロモル以下の間にあると予測される。
臨床設定で、解毒剤の有効性を決定する基準の1つは、出血の実際の測定値の何らかの変化をそれが生じさせることである。臨床試験において、大出血のカテゴリーは、致命的出血(hemorrhage)、生命維持に必要不可欠な器官への(頭蓋内、眼内、後腹膜、脊髄、心膜)出血、再手術または新たな治療手技(例えば、手術した膝の吸引、血胸のための開胸チューブ挿入、内視鏡的電気凝固術など)を必要とする任意の出血、または顕性出血を伴う場合には≧2.0の出血指数を含む。前記出血指数は、出血エピソード前のヘモグロビン値を加え、出血が安定した後のヘモグロビン値を引いた、(デシリットルあたりのグラム数での)輸血した濃縮赤血球または全血の単位数と定義される。
臨床設定での解毒剤効力についてのもう1つの基準は、それが臨床的に有意な非大出血を低減することである。出血(hemorrhage)のこのカテゴリーは、持続性または再発性である、および実質的な量である、または介入なしでは停止しないであろう鼻出血;治療手技(例えば、Foleyカテーテルの新たな挿入または膀胱鏡検査)を必要とするレベルまで行かない直腸出血または尿路出血、特発的であるまたは些細な外傷で発生する、注射部位または他の箇所での実質的血腫;実質的失血;ならびに予定外の輸血を必要とする出血をはじめとする、大きくないが通常よりは多いおよび臨床的注意を正当とする出血を含む。本明細書において用いる場合、「実質的失血」は、外科手術手順に通常付随する量より多い失血量を指す。実質的失血は、腫脹をもたらし、これは、ドレナージを必要とするほどではないので、保存的に管理される。
1つの実施形態において、本発明の誘導体は、血漿中に存在するfXaインヒビターを実質的に中和するための十分な血漿循環半減期を有する。活性化されたfXaは、ATIII、TFPIおよび他の血漿インヒビターによって有効に阻害されるので、ヒトにおける循環半減期を本質的に有さない(Fuchs,H.E.and Pizzo,S.V.,J.Clin.Invest.,1983,72:2041−2049)。不活性なfXaは、ヒトにおいて2〜3時間の循環半減期を有することが示されている。ヒヒモデルにおいて、DEGR([5−(ジメチルアミノ)1−ナフタレンスルホニル]−グルタミルグリシルアルギニルクロロメチルケトン)によって活性部位において阻止されるfXaの半減期は、同位体または酵素結合イムノソルベントアッセイによって決定したとき、それぞれ、おおよそ10時間または2時間であった(Taylor,F.B.ら、Blood,1991,78(2):364−368)。
解毒剤fXa誘導体の半減期を24〜48時間に延長することが、望ましいことがある。以下の部分のうちの1つ以上の結合体化または付加は解毒剤の血漿半減期を増加させるであろうと考えられる:
a)ポリエチレングリコール;
b)アシル基;
c)リポソームおよびカプセル化剤;
d)キャリアタンパク質;
e)人工リン脂質膜;
f)免疫グロブリン;および
g)ナノ粒子。
結合体化部位は、結合体化が解毒剤のインヒビター結合部位(単数または複数)をマスクしない限り、特定の鎖または残基に限定されないだろう。本明細書に記載する解毒剤は、上で説明した化合物のうちのいずれか1つまたは1つより多くと併用で投与することができる。
一般に、投与される抗体は、循環血液凝固タンパク質よりはるかに長い半減期を有する。Glaドメイン欠失fXaとfXaのエキソサイトに結合した抗体とから成る複合体を、延長された循環半減期を有する解毒剤として使用することができる。fXaとそのエキソサイトをターゲットにする抗体との複合体の形成は、該複合体が小分子インヒビターに対する活性部位に結合する解毒剤として作用ために、活性部位クレフトを乱さないままでGlaドメイン欠失fXaと高分子基質およびインヒビター、例えばプロトロンビンおよびアンチトロンビンIII、との相互作用を低減することができる。α−2−マクログロブリン−fXa複合体の形成も、fXa小分子インヒビターに対する解毒剤として有用である場合がある。
当業者は、fXaインヒビターの抗凝血活性の逆転における前記解毒剤の効力ならびにその凝血促進活性を、インビトロアッセイおよび動物モデルによって決定することができる。インビトロアッセイの例は、トロンビン生成、臨床的凝固アッセイ、例えばaPTT、PTおよびACTである。本発明の解毒剤は、エクスビボ凝固活性の10%以上の補正を生じさせることができると考えられる。例えばマウスなどの齧歯動物、イヌ、およびサルなどの霊長類における出血時間および/または失血の幾つかのインビボ動物モデルを使用して、効力を測定することができる。
VII.キット
本発明は、キットまたはパッケージをさらに提供する。いくつかの実施形態では、本発明のキットは:(a)血栓症を処置するための定期投与のためのfXaインヒビターを含有する第1の容器と、(b)(a)中に過量のfXaインヒビターが存在する場合、または出血を停止もしくは予防するために正常な止血を回復させる必要がある場合に用いる、本発明の解毒剤を含有する第2の容器とを備える。他の実施形態では、このキットは、これら(a)および(b)中の2つの薬剤をどのような場合に使用すべきかを説明するラベルをさらに備える。
前記第一および第二の容器は、ボトル、びん、バイアル、フラスコ、注射器、チューブ、バッグ、または医薬品の製造、保管もしくは分配に用いられる任意の他の容器であり得る。添付文書は、そのキットの薬学的組成物に関係がある情報を列挙するラベル、タグ、マーカーまたはこれらに類するものであり得る。列挙される情報は、その薬学的組成物を販売することとなる地域を管理する監督機関、例えば米国食品医薬品局(United States Food and Drug Administration)、によって、通常、決定されるであろう。好ましくは、添付文書には、その薬学的組成物が認可されている適応症が具体的に列挙される。添付文書は、その中のまたはその上の情報を人が読むことができるいずれの材料で作られていてもよい。好ましくは、添付文書は、所望の情報が印刷されたまたは塗布された印刷可能な材料、例えば、紙、裏紙に接着剤の付いた厚紙、ホイルまたはプラスチックおよびこれらに類するものである。
本発明は、本発明を単に例示するためのものである以下の実施例を参照することによってさらに理解される。本発明は、単に本発明の単一の態様の例証と解釈されるこれらの例示する実施形態によって範囲を限定されない。機能的に等価であるいずれの方法も本発明の範囲内である。本明細書に記載するものに加えて、本発明の様々な変形が、上述の説明および添付の図から当業者には明らかになるであろう。そのような変形は、添付の特許請求の範囲の範囲内に入る。
別様に述べていない限り、すべての温度は、摂氏度でのものである。また、これらの実施例および他の箇所における略語は、以下の意味を有する:
実施例1.キモトリプシン消化によるdes−Gla anhydro−fXaの調製
デヒドロアラニンが活性部位セリンを置換しているアンヒドロ−fXaとキモトリプシンとをpH7.5の0.05M Tris−HCl、0.1M NaCl中、22℃で60分間インキュベートすることにより、Morita,T.ら、J.Bio.Chem.,1986,261(9):4015−4023の手順に従って、des−Gla anhydro−fXaを調製した。代表的な実験設定では、0.5ミリグラム/ミリリットル(mg/mL)アンヒドロ−fXaを5単位/ミリリットル(U/mL)α−キモトリプシン−アガロースビーズと共に穏やかに攪拌しながらインキュベートした。反応終了時、α−キモトリプシン−アガロースビーズを遠心分離または濾過によって除去した。この後、過剰量のインヒビター4−アミジノ−フェニル−メタン−スルホニルフルオリド(APMSF)、トシル−L−リシンクロロメチルケトン(TLCK)、およびトシル−L−フェニルアラニンクロロメチルケトン(TPCK)と共にインキュベートして、残留fXa活性、またはビーズから浸出したと思われるキモトリプシンの一切の活性を失活させた。Glaドメインフラグメントおよびインヒビターを、最終生成物、des−Gla anhydro−fXa、から、Amicon Ultra Centrifugal filter device(YM10膜)により、または従来の透析により除去した。必要な場合には、濃縮または緩衝液交換も同時に実行した。Glaドメイン含有アンヒドロ−fXaを、Nogamiら、J. Biol. Chem. 1999, 274(43):31000−7によって報告された手順に従って調製した。
Nogamiら、J.Biol.Chem.,1999,274(43):31000−7によって報告された手順に従ってGla含有アンヒドロ−fXaを調製した。図5に示すように、Gla含有アンヒドロ−fXaは、減少された酵素活性を有するが、ベトリキサバンなどのfXaインヒビターを結合することができる。このことを実施例4において詳細に説明する。
α−キモトリプシン−アガロースビーズは、Sigmaから購入したものであり、比活性(U/mL)は、用いた特定のロット番号についての製造業者のデータに準拠した。
APMSFを使用せずに上の手順に従って活性fXaのキモトリプシン消化を行うことができる。下の実施例3において説明する手順に従って、活性fXaの凝固活性を、キモトリプシン消化前、ならびに15、30および60分のキモトリプシン消化の後に決定した。図7は、30分のキモトリプシン消化後、凝固活性の完全喪失を示している。Glaドメインの完全除去を確実にするためにインキュベーション時間を60分に延長した。
実施例2.乏血小板血漿(PPP)または多血小板血漿(PRP)におけるトロンビン生成アッセイ
この実施例では、ヒトの乏血小板血漿サンプルまたは多血小板血漿サンプルを、0.32%クエン酸塩の中に取った健常ドナーの血液から調製した。抗凝血処理した(anticoagulated)血液を室温でそれぞれ約100X重力または1000X重力で20分間回転させることによって、PRPおよびPPPを調製した。75〜100マイクロリットル(uL)血漿をCaClおよびZ−Gly−Gly−Arg−アミノメチルクマリン(Z−GGR−AMC、トロンビン蛍光原基質)と混合した。組織因子(Innovin、Dade Behring)を添加して、トロンビンの生成を開始させた。代表的な実験についての反応混合物は、15ミリモル濃度(mM)Ca2+、100マイクロモル濃度(μM)Z−GGR−AMC、および0.1ナノモル濃度(nM)組織因子(TF)(Innovin)を含有した。蛍光プレートリーダー(Molecular Devices)により相対蛍光単位(RFU)を測定しながら37℃で継続的にトロンビン形成をモニターした。存在する場合にはインヒビターおよび解毒剤を血漿と共に20分間、室温でプレインキュベートし、その後、トロンビン生成を開始させた。
このアッセイを用いる様々な実験の結果を図4、6および9において見つけることができる。
実施例3.凝固延長アッセイ
2つの凝固アッセイ形式を用いて、第Xa因子インヒビターおよび解毒剤の凝固延長に対する効果を検査した。第一の形式では、96ウエルプレートを使用して多数のサンプルを同時に測定した。第二のアッセイ形式では、aPTTを従来の凝血計測器(MLA Electra 800自動凝血時間測定器)で測定した。
96ウエルプレート形式の方法では、実施例2における手順と同様にヒトの乏血小板血漿または多血小板血漿を調製した。75〜100μL血漿にCaClでカルシウム再添加を施し、それを37℃で3分間インキュベートし、組織因子(Innovin、Dade Behring)またはaPTT試薬(Actin FS、Dade Behring)の添加により凝血塊形成を開始させた。OD405の変化をプレートリーダー(Molecular Devices)によって継続的にモニターした。凝固時間を、吸光度(OD405nm)変化の半最大値に達したときの時間(秒)と定義した。存在する場合には第Xa因子インヒビターおよび解毒剤を血漿と共に室温で20分間プレインキュベートし、その後、反応を開始させた。
図7に示すように活性fXaをその凝固活性について試験したとき、75〜100uL fX欠失血漿(George King Bio−Medical,Inc.)にCaClでカルシウム再添加を施し、それを37℃で3分間インキュベートし、キモトリプシン消化後のfXa産物をその血漿に添加して凝血塊形成を開始させた。前に説明したようにプレートリーダーによってOD405の変化を継続的にモニターした。
図13では、健常ヒト血漿のaPTT延長に対する400nM ベトリキサバンの効果および解毒剤des−Gla anhydro−fXaによるベトリキサバン阻害効果の逆転を、MLA Electra 800 Automatic凝血時間測定器で測定した。100μLのプールされたヒト血漿を400nM ベトリキサバンおよび異なる濃度の解毒剤と混合した。凝固時間の測定についての製造業者の説示に従ってaPTT試薬(Actin FS、Dade Behring)およびCaClを添加した。
このアッセイを用いる追加の実験の結果を図10および11において見つけることができる。
実施例4.ベトリキサバンによるfXaの阻害のアンヒドロ−fXaまたはdes−Gla anhydro−fXaによる逆転
ベトリキサバンによるfXa活性の阻害およびその阻害効果の逆転を測定するために、精製された活性fXa、異なる濃度のベトリキサバンおよびアンヒドロ−fXaまたはdes−Gla anhydro−fXaを、20mM Tris、150mM NaCl、5mM Ca2+および0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)に添加した。室温で20分間のインキュベーションの後、100μM Spectrozyme−fXa(第Xa因子発色基質、Chromogenix)をその混合物に添加し、基質切断速度をプレートリーダーにより405ナノメートル(nm)で5分間、継続的にモニターした。図5において、発色活性は、一切のインヒビターがない場合の活性fXaに正規化された。インヒビターおよび解毒剤濃度の関数として生成物形成の初期速度を非線形回帰により解析して、解毒剤に対するベトリキサバンの親和性を推定した(図8)。
発色基質S2288(200μM)に向けてのトロンビン活性に対する解毒剤des−Gla anhydro−fXaの効果を、Argatroban、特異的小分子IIaインヒビター、を用いてまたは用いずに、前と同様に測定した。予想通り、解毒剤(538nM)は、IIa(5nM)のアミド分解活性または50nM Argatrobanによるその阻害に対して影響を及ぼさない。
実施例5.脱カルボキシル化γ−カルボキシグルタミン酸残基を有するfXaの調製
例えば、Bajajら、J.Biol.Chem.,1982,257(7):3726−3731によって報告された手順に基づいて、fXaタンパク質を処理することにより、脱カルボキシル化γ−カルボキシグルタミン酸残基を有するfXa誘導体を調製することができる。pH8.0で2mLの0.1モル濃度の重炭酸アンモニウム中の2から5mgの精製されたまたは組換え型fXaを凍結乾燥させる。得られた粉末を20μm未満の真空下で密封し、様々な期間にわたって110℃で加熱して脱カルボキシル化fXaを得る。
実施例6.組換え型des−Gla fXa−S379Aの調製
変異誘発および分子生物学の一般的な手順に従って適する宿主生物においてfX(配列番号1、3)またはfXa誘導体(配列番号4、5、9および11)を発現させるためにfX cDNA(配列番号2)に基づく以下の手順のうちの1つを用いて組換えDNA法によりfXa誘導体を生成することができる。
組換え型fXおよびfX誘導体を、Larson,P.J.ら、Biochem.,1998,37:5029−5038、およびCamire,R.M.ら、Biochem.,2000,39,14322−14329に記載されている手順に基づいて、例えばヒト胚性腎細胞HEK293において発現させることができる。組換え型fXを第X因子活性化剤ラッセルクサリヘビ毒(Russell’s Viper Venom:RVV)によってrfXaに活性化することができる。実施例1において説明した手順に基づいてrfXaをさらに処理してdes−Gla anhydro−fXaにすることができる。
活性部位セリン残基がアラニンにより置換されている組換え型fX−S379A(キモトリプシンナンバリングの場合はS195A)、および好ましくは活性化fXa変異体、rfXa−S379A、を、Sinhaら、Protein Expression and Purif.1992,3:518−524;Wolf,D.L.ら、J.Biol.Chem.,1991,266(21):13726−13730によって記載された手順に基づいて、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において発現させることができる。
実施例1において説明した手順に従ってfXa−S379Aのキモトリプシン消化によりdes−Gla fXa−S379Aを調製することができる。
さらに好ましくは、des−Gla fXa−S379Aを、変異誘発手順によるGlaドメインフラグメントの欠失を伴う以前の手順に従って、直接発現させることができる。例えば、組換えタンパク質発現を用いて、配列番号3のGlaドメインフラグメント1〜39の除去後にdes−Gla(1〜39)−fXa−S379Aを;デヒドロ−アラニンがアラニンによって置換されている配列番号10と等価のdes−Gla(1〜44)−fXa−S379Aを;および全Glaドメインが除去されているdes−Gla(1〜45)−fXa−S379A(配列番号11)を、発現させることができる。
EGF1またはEGF1+EGF2ドメインでのさらなる末端切断(図2)を行って、des(1〜84)−fXa−S379Aまたはdes(1〜128)−fXa−S379A誘導体を発現させることもできる。
実施例7.CHO細胞における組換え型fXa変異体の発現
この実施例は、GlaドメインのないfXa−S379A(キモトリプシンナンバリングの場合はS195A)変異体の直接発現のための組換えタンパク質発現構築物および細胞系を説明するものである。この組換え型解毒剤は、pd−解毒剤を生成するために必要な活性化または化学修飾工程を必要とせず、ならびに本明細書において論じるインビトロアッセイにおいて血漿由来タンパク質に匹敵する親和性を有する。
この実施例において、fXa変異体(配列番号13、表25)をCHO細胞において直接発現させ(発現ベクターについては図14を参照のこと)、下で説明するような馴化培地から機能性タンパク質を精製した。組換え型解毒剤(r−解毒剤)機能活性をインビトロでおよび動物モデルにおいて試験した(実施例8)。
PCRを用いて、fXのcDNA配列(配列番号2)を3領域で変異させた。第一の変異は、FXのGlaドメインにおける6〜39aaの欠失であった(配列番号3、図3)。第二の変異は、活性化ペプチド配列143〜194aaの−RKR−(配列番号16)での置換であった。これは、軽鎖と重鎖を接続する−RKRRKR−(配列番号17)リンカーを生成した。分泌により、CHOにおいてこのリンカーが除去されて、二本鎖fXa分子を生じさせる。第三の変異は、活性部位残基S379のAla残基への変異である。
今まさに説明したcDNA(配列番号16)によって生成されたポリペプチドを表24(配列番号12)に記載する。前記cDNAと前記ポリペプチドのアラインメントを図29に示す。分泌後に生成された二本鎖fXa分子は、表26に記載する軽鎖フラグメント(配列番号14)および表27に記載する重鎖フラグメント(配列番号15)である。
fX配列内の最初の1〜5aaを保存し、fXa変異体のポリペプチドとfXのプレプロペプチド(配列番号1、図1)を接続するために使用して、fXa変異体におけるプロプロペプチドの適正なプロセッシングを確実にした。
上に記載したfXa変異体のポリペプチドをコードするDNA配列をシークエンシングし、図14に示す発現ベクターに挿入した。この発現ベクターのポリヌクレオチドを配列番号18に示す。プラスミドDNAを線形化し、CHO dhfr(−)細胞にトランスフェクトした。テトラヒドロ葉酸塩(HT)欠失培地+メトトレキサート(MTX)を使用して細胞を選択した。fX ELISAキット(Enzyme Research Laboratories、カタログ番号FX−EIA)を使用して高タンパク質発現について安定なクローンをスクリーニングした。FXa変異体タンパク質を無血清培地において発現させ、馴化培地を回収し、精製のために処理した。
馴化培地中のターゲットタンパク質をイオン交換クロマトグラフィーによって単離し、その後、一工程アフィニティークロマトグラフィー(例えば、マトリックスにカップリングさせた抗fXa抗体)によってまたは幾つかのクロマトグラフィー工程の組み合わせ、例えば疎水性およびサイズ排除マトリックス、によって精製することができる。前記アフィニティー精製は、fXa活性部位クレフトに選択的に結合するクロマトグラフ材料、例えばベンズアミジン−セファロースまたは大豆トリプシンインヒビター−アガロース(STI−Agarose)を含むことがある。
図15Aは、fX重鎖およびfX軽鎖をそれぞれ認識するモノクローナル抗体(Enzyme Research Laboratories、FX−EIA)を使用するアフィニティー(STI−Agarose、Sigma Catalog ♯ T0637)精製fXa変異体のウエスタンブロットを示すものである。軽鎖と重鎖を接続するジスルフィド結合の還元により、r−解毒剤は、このウエスタンブロットにおいて(血漿由来fXaに類似した)予想された移動度の重鎖バンドを示す。fXa変異体のGlaドメインにおけるアミノ酸残基(6から39の番号が付いているもの)の欠失は、r−解毒剤の軽鎖についての、血漿由来fXaと比較して低い分子量のバンドを生じさせる結果となる。このブロット上で分子量マーカーの位置も見ることができる。
図15Bおよび15Cは、イオン交換およびアフィニティー精製、続いてSuperdex 75 10/300 GLカラム(GE Healthcare,Cat♯ 17−5174−01)を使用するサイズ排除クロマトグラフィーによる、精製されたr−解毒剤のSDS−PAGEおよびウエスタンブロットを示す図である。
実施例8.インビボ・マウス・モデル
解毒剤の投与を伴うまたは伴わないオスC57Bl/6マウスにおけるベトリキサバンの薬物動態および薬力学的(PK−PD)プロフィールを検査した。ベトリキサバンの単回経口投与を対照群に対して0、15、25および75mg/kgで施した。解毒剤処置群には15mg/kgを使用した。1.5時間の時点の5分前に、解毒剤(300ug/200μL)またはビヒクル(ノーマルセーライン、200μL)の単回静脈内(IV)注射を施した。
ベトリキサバンの経口投与後1.5、2.0および4.0時間の時点で、マウスをケタミンカクテル(SC)で麻酔し、心臓穿刺により瀉血した。50μLクエン酸三ナトリウム中から血液サンプル(0.5mL)を得た。Hemochron Jr.カートリッジ(International Technidyne Corporation)をその製造業者の説示に従って使用して、全血INRを測定した。ベトリキサバンおよび解毒剤(ELISA)血漿濃度決定のために遠心分離によってマウス乏血小板血漿を調製した。
組換え型解毒剤(r−解毒剤)実験について、対照群にはベトリキサバンを0、15、25および75mg/kgでマウスに経口投与した。解毒剤(300μg/200μL)処置群には15mg/kgを使用した。ベトリキサバンの経口投与後1.5時間(解毒剤注射後5分)の時点でサンプルを採取した。
図16および17ならびに表1および2に示すように、ベトリキサバンの投与(15mg/kg、PO)後のマウスへの血漿由来解毒剤(pd−解毒剤)または組換え型fXa変異体(r−解毒剤)の単回注射(300μg、IV)は、インビボで該インヒビターを有効に捕捉した。全血INRおよび解毒剤血漿濃度のPK−PD補正(表1および2)は、INR測定に基づき機能性ベトリキサバンの>50%低減を示し、多回注射または他のレジメによる解毒剤でのfXaインヒビターの有効な中和を証明した。これらの結果は、本発明のfXa誘導体が、出血しているまたは他の医学的緊急事態の患者においてfXaインヒビターの抗凝血効果を逆転する万能解毒剤として作用する可能性を有することを明示していると考えられる。
図22は、ベトリキサバン(15mg/kg)の経口投与後のr−解毒剤(1群あたりn=5、312ug/200ul r−解毒剤)の単回IV注射(1回注射)または二回注射(2回注射)でのマウス実験を示すものである。単回注射群については、マウス血液サンプルを、ベトリキサバンの経口投与後1時間の時点で採取した。ビヒクル(対照_1)またはr−解毒剤(1回注射)を1時間の時点の5分前に投与した。二重注射群については、ビヒクルまたはr−解毒剤を、ベトリキサバンの経口投与後55分の時点で注射し、115分の時点で繰り返した。ビヒクル(対照_2)およびr−解毒剤(2回注射)処置マウスについては、2時間の時点でマウス血液サンプルを採取した。測定したINRを、解毒剤の単回または二重注射後のマウス血漿中の解毒剤/ベトリキサバン比の関数として、図22Bに示した。
実施例9.解毒剤によるリバロキサバンおよびアピキサバンのインビトロ逆転
予想通り、本発明により考えられる解毒剤は、他の活性部位に指向されたfXaインヒビターも結合し、中和することができた。表3および4は、pd−解毒剤およびr−解毒剤によるベトリキサバン、リバロキサバンおよびアピキサバンによる阻害のインビトロ補正を示すものである。精製されたfXa(3.0nM)、インヒビター(7.5nM)、および異なる濃度の解毒剤を、20mM Tris、150mM NaCl、0.1%BSA、pH7.4を有する緩衝液中で10分間、22℃でインキュベートした。実施例4と同様にfXa活性をアッセイした。
表3に示すように、204nM pd−解毒剤は、試験したインヒビターの阻害効果の少なくとも60%補正を生じさせた一方で、表4では、r−解毒剤(186nM)によりベトリキサバンおよびリバロキサバンについて阻害の>95%補正、およびアピキサバンの>70%逆転を達成した。
実施例10.r−解毒剤によるベトリキサバンのインビトロ逆転
表5では、ベトリキサバンによる抗凝血の逆転に対する組換え型解毒剤タンパク質の効果をヒト血漿凝固アッセイで試験した。血漿のaPTT延長に対する300nMおよび400nM ベトリキサバンの効果、ならびに阻害効果の逆転を、MLA Electra 800 Automatic凝血時間測定器によって測定した。100μLのプールされたクエン酸塩凝血剤処理ヒト血漿を300nMまたは400nM ベトリキサバンおよび異なる濃度の解毒剤と混合した。製造業者の説示に従ってaPTT試薬(Actin FS、Dade Behring)およびCaClを添加した。
実施例11.r−解毒剤による低分子量ヘパリン(「LMWH」)のインビトロ逆転
図18では、LMWHエノキサパリン(Sanofi−Aventis)の阻害効果を逆転させるr−解毒剤の効果を、ヒト血漿中の濁度変化によって試験した。エノキサパリン(0〜1.25U/mL)を22℃で20分間、508nM r−解毒剤と共にまたは伴わずにインキュベートした。濁度変化は、実施例3において説明した手順に従って測定した。508nM r−解毒剤は、0.3125〜1.25U/mL エノキサパリンの阻害効果を実質的に(>75%)補正した。
図19では、低分子量ヘパリン(LMWHエノキサパリン、Sanofi−Aventis)による抗凝血の逆転に対するr−解毒剤の効果をヒト血漿凝固アッセイにおいて試験した。血漿のaPTT延長に対する1抗Xa単位/mL LMWHの効果および阻害効果の逆転を、MLA Electra 800 Automatic凝血時間測定器によって測定した。100μLのプールされたクエン酸塩凝血剤処理ヒト血漿をエノキサパリンおよび異なる濃度の解毒剤と混合した。凝固時間の測定前に、製造業者の説示に従ってaPTT試薬(Actin FS、Dade Behring)およびCaClを添加した。1.14μM 組換え型解毒剤の添加は、1単位/mLエノキサパリンによって生じた抗凝血の52%補正を生じさせた。
実施例12.r−解毒剤によるリバロキサバンのインビトロ逆転
図20では、小分子第Xa因子インヒビター(リバロキサバン、Bay 59−7939)による抗凝血の逆転に対する組換え型解毒剤タンパク質の効果をヒト血漿凝固アッセイにおいて試験した。Perzbornら、J.Thromb.Haemost.3:514−521,2005によって報告されているように、プロトロンビン時間測定は、リバロキサバンの抗凝血効果を評価するための的確な方法である。プールされたヒト血漿のプロトロンビン時間(PT)延長に対する1μM リバロキサバンの効果および阻害効果の逆転を、MLA Electra 800 Automatic凝血時間測定器によって測定した。100μLのプールされたクエン酸塩凝血剤処理ヒト血漿をリバロキサバンおよび異なる濃度の解毒剤と混合した。凝固時間の測定前に、製造業者の説示に従ってウサギ脳Thromboplastin C Plus試薬(Dade Behring)を血漿サンプルに添加した。1.9μM 組換え型解毒剤の添加は、1μM リバロキサバンによって生じた抗凝血の100%補正を生じさせた。
実施例13.r−解毒剤によるアピキサバンのインビトロ逆転
表6では、アピキサバンによる抗凝血の逆転に対する組換え型解毒剤タンパク質の効果をヒト血漿凝固アッセイにおいて試験した。Pintoら、J.Med.Chem.55(22):5339−5356,2007によって報告されているように、プロトロンビン時間(PT)測定は、アピキサバンのエクスビボ抗凝血効果を評価するための的確な方法である。プールされたヒト血漿のプロトロンビン時間(PT)延長に対する1μMおよび1.5μM アピキサバンの効果ならびに阻害効果の逆転を、MLA Electra 800 Automatic凝血時間測定器によって測定した。100μLのプールされたクエン酸塩凝血剤処理ヒト血漿をアピキサバンおよび異なる濃度の解毒剤と混合した。凝固時間の測定前に、製造業者の説示に従ってウサギ脳Thromboplastin C Plus試薬(Dade Behring)を血漿サンプルに添加した。1.9μM 組換え型解毒剤の添加は、1.5μM アピキサバンによって生じた抗凝血の97%補正を生じさせた。
実施例14.des−Gla anhydro−fXaによるアルガトロバンのインビトロ阻害
アルガトロバンによるトロンビン活性の阻害およびその阻害効果の逆転を測定するために、精製されたヒトトロンビン(5nM)、アルガトロバン(50nM)および異なる濃度の解毒剤des−Gla anhydro−fXaを、20mM Tris、0.15M NaCl、5mM 塩化カルシウム、0.1%ウシ血清アルブミン、pH7.4を含有する緩衝液に添加した。室温での20分間のインキュベーションの後、アミド分解性基質S2288(200uM)をその混合物に添加し、p−ニトロアニリド基質切断速度を405nmの吸光度によってモニターした。結果を図12に提示する。
実施例15.r−解毒剤による直接のfXaインヒビターの活性の逆転
低分子fXaインヒビターによるfXa活性の阻害およびその阻害性効果の逆転を測定するために、精製された活性ヒト血漿由来のfXa(3nM)、種々の濃度のインヒビター(0、2.5、5.0、7.5nM)およびr−解毒剤(0−125nM)を、20mMのTris、150mMのNaCl、5mMのCa2+、および0.1%のウシ血清アルブミン(BSA)を含有する緩衝液中に96ウェルのプレート中で添加した。室温で20分間のインキュベーション後、100μMのスペクトロザイム−fXa(第Xa因子発色性基質,American Diagnostica)をこの混合物に添加して、基質切断の速度を連続して5分間405ナノメートル(nm)で、プレートリーダー(Molecular Devices)によってモニターした。試験は、総容積200μlで行った。インヒビターおよび解毒剤濃度の関数として基質切断の初期速度を非線形回帰で分析して、インヒビターについての解毒剤の親和性を見積もった。データ分析のためにはDynafitソフトウェアを用いた。
図23は、以下によるfXa活性に対する阻害性効果のr−解毒剤逆転を示す:リバロキサバン(A)、ベトリキサバン(B)およびアピキサバン(C)。曲線適合は、表7に示すとおり、各々のインヒビターについてのr−解毒剤の推定の親和性(Kd)およびヒト血漿fXaの報告されたKiを用いて描いた。阻害定数(Ki)は、以下の引用文献で報告されている:リバロキサバン(Perzborn E,Strassburger J,Wilmen A、Pohlmann J,Roehrig S,Schlemmer KH,Straub A.J Thromb Haemost.2005年3月;3(3):514−21)、ベトリキサバン(Sinha U,Edwards ST、Wong PW,ら、Antithrombotic activity of PRT54021,a potent oral direct factor Xa inhibitor,can be monitored using a novel prothrombinase inhibition bioassay.Blood 2006年;108:Abstract 907)、およびアピキサバン(Pinto DJ,Orwat MJ,Koch S,Rossi KA,Alexander RS,Smallwood A,Wong PC,Rendina AR,Luettgen JM,Knabb RM,He K,Xin B,Wexler RR,Lam PY.J Med Chem.2007年11月1日;50(22):5339−56.Epub 2007年10月3日)。
図23および表7に示す結果によって、r−解毒剤が、これらの直接のfXaインヒビターと、高い親和性で結合し得、ヒトfXaに対するそれらの阻害性効果を用量依存性に逆転し得ることが示される。
実施例16.r−解毒剤による直接のfXaインヒビターのエキソビボ抗凝血活性の逆転
リバロキサバン(Xarelto(商標),Bay59−7939)は、整形外科手術を受けている患者における静脈血栓塞栓症の予防について示される直接のfXaインヒビターである。Perzbornら、J.Thromb.Haemost.3:514−521,2005によって報告されるとおり;プロトロンビン時間(PT)測定は、リバロキサバンの抗凝血効果を評価するための正確な方法である。臨床的に有効な量のリバロキサバンは、318ng/ml程度の高さのピーク血漿濃度を生じる(730nM,Kubitzaら,Eur.J.Clin.Pharmacol.61:873−880,2005)。超治療濃度の抗凝血効果を模倣するために、臨床上顕著な出血のシナリオに関与すると思われるレベルで、730nMより高いリバロキサバンの逆転濃度の実現可能性を試験した。
プールしたヒト血漿(Sinha U、Lin PH、Edwards ST、Wong PW、Zhu B、Scarborough RM、Su T、Jia ZJ、Song Y、Zhang P、Clizbe L、Park G、Reed A、Hollenbach SJ、Malinowski J、Arfsten AE.Arterioscler Thromb Vasc Biol.2003年 Jun 1;23(6):1098−104.Epub 2003年5月15日に報告のとおり調製)のプロトロンビン時間(PT)延長に対する1μMのリバロキサバンの効果を、MLA Electra 800自動凝固時間測定器(Automatic coagulation timer)で測定した。8例の健常ボランティアドナーからのクエン酸で抗凝血処理した血漿の組み合わせを実験に用いた。凝固時間を測定するために、ウサギ脳トロンボプラスチンCプラス(Thromboplastin C Plus)試薬(Dade Behring)を、製造業者の指示に従い血漿サンプル(100uL)に添加した。
図24に示すとおり、ベースラインのPT(14.1秒)は、1μMのリバロキサバンの添加の際に23.4秒に延長された。リバロキサバンの抗凝血効果は、用量依存性であり、r−解毒剤の添加によって完全に逆転されたが、1.9μMのr−解毒剤だけを添加したところPTに対する顕著な効果は生じなかった(14.2秒)。
アピキサバン(BMS−562247)は、心房性細動患者における血栓塞栓性事象の予防について、および整形外科手術を受けている患者における静脈血栓塞栓症の予防について試験されている直接fXaインヒビターである(Lassen MR、Davidson BL、Gallus A、Pineo G、Ansell J、Deitchman D.J Thromb Haemost.2007 Dec;5(12):2368−75.Epub 2007年9月15日)。Luettgenら、Blood 108(11)要約4130,2006年に報告のとおり、PT測定は、アピキサバンの抗凝血効果を評価するための正確な方法である。
図25は、アピキサバンによるPTの延長およびr−解毒剤の添加によるその効果の逆転を示す。
実施例17.r−解毒剤による間接的fXaインヒビターの阻害の逆転
濁度アッセイを用いて、凝固時間の延長に対するfXaインヒビターおよびr−解毒剤の影響を試験した。この方式では、96ウェルのプレートを用いて、複数のサンプルを同時に測定した。ヒトの乏血小板血漿を、実施例2のとおり調製した。75−100μLの血漿にCaClでカルシウム再添加して、37℃で3分間インキュベートし、血餅の形成は、組織因子(Innovin,Dade Behring)または活性化部分トロンボプラスチン時間試薬(aPTT、Actin FS,Dade Behring)の添加によって開始した。OD405の変化は、プレートリーダー(Molecular Devices)によって連続的にモニターした。凝固時間は、吸光度(OD405nm)の変化について最大半値に達する時間(秒)と定義した。FXaインヒビター(低分子量ヘパリン、例えば、エノキサパリン,Aventis Pharma)およびr−解毒剤は、存在する場合、反応開始の前に20分間、室温で血漿とプレインキュベートした。
図26は、1U/mlの低分子量ヘパリン(エノキサパリン,Lovenox)をヒト乏血小板血漿に添加し、続いて種々の量のr−解毒剤を添加した場合の凝固パラメーター(倍)の変化を示す。濁度の変化がaPTT試薬の添加後に測定された場合、1U/mlのエノキサパリンは、対照の血漿に比較して凝固時間の5倍を超える延長を生じた。急性冠症候群患者におけるエノキサパリンの所定の用量(1mg/kgの皮下投与)は、約1U/mLに相当する。この薬力学的マーカー(抗−fXa単位)は特に、LMWHについて開発されて、臨床上の有効性および安全性と相関している(Montalescot G、Collet JP、Tanguy ML、Ankri A、Payot L、Dumaine R、Choussat R、Beygui F、Gallois V、Thomas D.Circulation.2004 Jul 27;110(4):392〜8.Epub 2004年7月12日)。患者の抗凝血状態が、緊急手術のために逆転される必要がある場合に関係する可能性が高い抗凝血効果を模倣するために、本発明者らは、エノキサパリンの治療濃度を逆転する実現可能性を試験した。図26に示すとおり、r−解毒剤は、エノキサパリン(1fXa単位/ml)の抗凝血効果を用量依存性に逆転し、ここで4uMのr−解毒剤を添加した際にaPTTのほぼ完全な補正が、得られた。
実施例18.ラットにおけるr−解毒剤の静脈内投与によるリバロキサバン誘発性の抗凝血の逆転
ラットを、ケタミンカクテルの腹腔内投与で麻酔して、リバロキサバンおよび解毒剤の頸静脈投与のために迅速にカテーテル挿入し、大腿静脈からの連続血液サンプリングのために第二のカテーテルを挿入した。血液サンプリングカテーテルの開存性は、サンプルの間に生理食塩水を緩徐に注入することによって維持した。ラットには、リバロキサバンを0.25mg/kg/hr(IV)またはビヒクル(50%ポリエチレングリコールが水に含有される)を30分間(5.24mL/kg/hr)投与した。30分で、リバロキサバン注入を中断して、r−解毒剤を、1.0mgまたは3.4mgでIV(2ml)でボーラスとして5分にわたって投与した。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、全血のINR、リバロキサバン血漿濃度および解毒剤濃度の測定のために、0、30分(リバロキサバン注入が終わる前)、35分(ボーラス処置の投与の終わり)、60、90および120分で得た。全血のINRおよびPTの測定は、クエン酸処理PTカートリッジを用いて、Hemochron Jrで測定した。全血のINRおよびPTは、ワルファリン抗凝血下で患者をモニタリングするために用いられ、抗凝血の程度を評価するための確認法と報告されている。血漿サンプルは、タンデム質量分析を備える高速液体クロマトグラフィーを用いてリバロキサバン濃度について分析した。定量は、加重最小二乗回帰分析から作製した較正標準曲線を用いて行った。r−解毒剤濃度は、実施例23に記載のとおりELISAで決定した。図27は、r−解毒剤の投与後のリバロキサバンの効果の用量応答性の逆転を示す。投与されたラットの抗凝血状態は、ケア凝固アッセイ(全血のINR)の時点で定量した。リバロキサバン処理群とr−解毒剤投与群との間の全血INRにおける相違は、スチューデントのT検定(対応のない両側検定)で、統計学的に有意であった(1mgの用量についてp≦0.004、および3.4mgの用量についてp≦0.001)。
実施例19.r−解毒剤の投薬の際のリバロキサバンの未結合の血漿濃度の減少の測定
ラットをケタミンカクテルの腹腔内投与で麻酔して、リバロキサバンおよび解毒剤の頸静脈投与のために迅速にカテーテル挿入し、大腿静脈からの連続血液サンプリングのために第二のカテーテルを挿入した。血液サンプリングカテーテルの開存性は、サンプルの間に生理食塩水を緩徐に注入することによって維持した。ラットには、リバロキサバン0.25mg/kg/hr(IV)またはビヒクル(50%ポリエチレングリコールが水に含有される)を30分間(5.24mL/kg/hr)投与した。30分で、リバロキサバン注入を停止して、r−解毒剤を、1.0mgまたは3.4mgでIV(2ml)でボーラスとして5分にわたって投与した。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、全血のINR、リバロキサバン血漿濃度(全濃度および未結合の濃度)および解毒剤濃度の測定のために、0、30分(リバロキサバン注入が終わる前)、35分(ボーラス処置投与の終わり)、60、90および120分で得た。ラット血漿タンパク質および/またはr−解毒剤タンパク質に結合していないリバロキサバンの画分は、Microconデバイスを用いて限外濾過法によって決定した。血漿サンプルは、タンデム質量分析を備える高速液体クロマトグラフィーを用いてリバロキサバン濃度について分析した。定量は、加重最小二乗回帰分析から作製した較正標準曲線を用いて行った。結果を図28に示す。
実施例20.ラットにおけるr−解毒剤投薬後のリバロキサバン活性の持続的な逆転
ラットを実施例18に記載のように麻酔して、カテーテル挿入した。ラットにリバロキサバンまたはビヒクルを、0.25mg/kg/hrで、静脈内投与した(ビヒクル=50%ポリエチレングリコールが水の中に含有され、速度は5.24mL/kg/hr)。30分で、リバロキサバン注入を停止して、r−解毒剤を4mgでIVボーラスとして5分にわたって投与し、続いて研究の残りの期間、4mg/hrの注入を維持した(さらに55分)。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、全血のINR、リバロキサバン血漿濃度(全濃度および未結合の血漿濃度)およびr−解毒剤血漿濃度の測定のために、0、30分(リバロキサバン注入が終わる前)、35分(ボーラス処置投与の終わり)、60、90分で得た。全血のINR/PTを、実施例18に記載のように測定した。r−解毒剤濃度は、実施例23に記載のようにELISAによって測定した。血漿のサンプルは、タンデム質量分析を備える高速液体クロマトグラフィーを用いてリバロキサバン濃度について分析した。定量は、加重最小二乗回帰分析から作製した較正標準曲線を用いて行った。ラット血漿タンパク質および/またはr−解毒剤タンパク質に結合していないリバロキサバンの画分を、Microconデバイスを用いて限外濾過法によって測定した。
図29Aおよび図29Bは、全血INRおよびPTの比によって測定した、ラットにおけるr−解毒剤のIV投与によるリバロキサバン−誘発性の抗凝血の持続性の逆転を示す。ビヒクル処理群とr−解毒剤投与群との間の全血INRにおける相違(パネルA)は、スチューデントのT検定(対応のない両側検定)によって35分および60分で統計学的に有意であった(p≦0.001)。ビヒクル処理群とr−解毒剤投与群との間のPT比における相違(パネルB)は、スチューデントのT検定(対応のない両側検定)によって35分および60分で統計学的に有意であった(p≦0.01)。実施例19に示すとおり、遊離(未結合の)リバロキサバンの濃度は、r−解毒剤の投与の際に大きく低下した。
実施例21.r−解毒剤によるLMWヘパリンエノキサパリンの活性の逆転
ラットを、ケタミンカクテルの腹腔内投与によって麻酔して、エノキサパリンの投与のために迅速にカテーテル挿入し(頸静脈)、連続血液サンプリングのために第二のカテーテルを挿入した(大腿静脈)。血液サンプリングカテーテルの開存性は、サンプルの間に生理食塩水を緩徐に注入することによって維持した。ラットには、生理食塩水で希釈したエノキサパリン(Aventis Pharma,100mg/ml)を、6、3、または1mg/kgでIVボーラス注射として投与した(1mL)。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、全血のINRの測定のために、エノキサパリン注射の0、2、15、30、60、90および120分後に得た。INR測定は、ケア試験デバイス(care testing device)のHemochron Jrポイントを用いて測定した。
図30に示すとおり、試験した3つの用量(1、3および6mg/kgのエノキサパリン)で、全血のINRにおいて用量に比例する伸長が生じた。ラット血漿における抗fXa単位(Coatest LMWヘパリンアッセイで測定)の評価によって、ピークの抗凝血は、3mg/kg用量について4抗fXaU/ml、および1mg/kg用量について1抗fXaU/mlに相当することが示された。実施例17に考察されるとおり、抗fXaU/ml=1は、抗凝血のヒト治療レベルに相当する。
LMWヘパリンに利用可能な特異的な逆転剤はない。従って、冠動脈バイパスグラフト手術などの手順の間の未分画のヘパリンの活性の逆転のために開発された薬剤である硫酸プロタミンをこの目的に用いる。エノキサパリンについては、処方情報では、活性の最大60%までの中和が硫酸プロタミンの緩徐な静脈内注入によって得られる場合があるということを記載している。しかし、逆転の不完全な程度を考慮し、血行動態およびアナフィラキシーの副作用の可能性と組み合わせれば(WeissおよびAdkinson,Clin Rev Allergy,1991;9:339)、この様式の逆転は、エノキサパリン処置患者では最初の作用方式としてはほとんど用いられない。
r−解毒剤がエノキサパリン誘発性の抗凝血を逆転する能力を試験し、プロタミン逆転の程度に対して結果を比較するために、本発明者らは、以下のレジメンでこの薬剤を試験した:ラットに、生理食塩水中に希釈したエノキサパリンを3.0mg/kgで、またはビヒクル(生理食塩水)を、静脈内ボーラス注射(1mL)としてt=0で投与した。エノキサパリン注射の10分後、ビヒクル、解毒剤(5mg)または硫酸プロタミン(0.9mg,Sigma)を、5分のボーラス注射として静脈内投与した。これに続いて、研究の残りの期間は維持注入を続けた(さらに45分、r−解毒剤については5mg/hおよびプロタミンについては生理食塩水)。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、血漿のaPTTおよび解毒剤の濃度の測定のために、0、5、15分(ボーラス処理投与の終わり)、30分および60分で得た。血漿aPTT測定は、MLA Electra 800自動凝固時間測定器(Automatic coagulation timer)を用いて測定した。塩化カルシウムおよびアクチンFS PTT試薬(Dade Behring)を、製造業者の指示に従い、血漿サンプル(100uL)に対して自動的に分注した。
図31は、r−解毒剤およびプロタミンの投与の際のエノキサパリン−誘発性の抗凝血の持続的な逆転を示す。ビヒクル処理した群とr−解毒剤またはプロタミン処理した群との間のaPTTにおける相違は、スチューデントのT検定(対応のない両側の検定)によって、15分、30分および60分で統計学的に有意であった(p≦0.04)。r−解毒剤またはプロタミン群によるaPPTの補正の間に統計学的に有意な相違はなかった(p=0.27)。従って、この系列のラットの研究では、r−解毒剤は、LMWヘパリンについて現在利用可能な解毒剤(硫酸プロタミン)の抗凝血逆転能力に匹敵し得る。
実施例22.全血のINRによって測定したr−解毒剤のIV投与によるベトリキサバン誘発性の抗凝血の持続的な逆転
ラットを、実施例18に記載のとおり麻酔して、カテーテル挿入した。ラットに、ベトリキサバンを1.0mg/kg/hr(IV)で、またはビヒクル(水の中に50%ポリエチレングリコールを含有)を30分間(4.0mL/kg/hr)投与した。30分で、ベトリキサバン注入を中断して、解毒剤を5mgで、IVボーラスとして、5分にわたって投与し、続いて研究の残りの期間5mg/hrの維持注入(さらに55分)を続けた。3.2%のクエン酸ナトリウム(1:10希釈)で抗凝血処理した連続の血液サンプルを、全血のINR、ベトリキサバン濃度および解毒剤濃度の測定のために、0、30分(ベトリキサバン注入が終わる前)、35分(ボーラス処置投与の終わり)、60、90分で得た。全血のINR測定値は、クエン酸処理PTカートリッジを用いてHemochron Jrデバイスで決定した。血漿のサンプルは、タンデム質量分析を備える高速液体クロマトグラフィーを用いてベトリキサバン濃度について分析した。定量は、加重最小二乗回帰分析から作製した較正標準曲線を用いて行った。r−解毒剤濃度は、実施例23に記載のとおりELISAによって決定した。
図32は、r−解毒剤の投与の際のベトリキサバン活性の逆転の程度を示す。ビヒクル処理群とr−解毒剤投与群との間の全血INRにおける相違は、60分で(p≦0.05)、ならびに35分および90分で(p≦0.01)統計学的に有意であった。統計学的分析は、スチューデントのT検定(対応のない両側検定)によって行った。表8は、ラットにおける抗凝血の持続的な補正に必要なr−解毒剤対ベトリキサバンの比を示す。ラットにおける抗凝血の持続的な逆転には、ベトリキサバンに対してr−解毒剤の2倍の比が必要であった。
実施例23.ラットにおけるr−解毒剤の薬物動態
1mgの解毒剤を、4匹のSprague−Dawleyラットに対して5分間にわたって短時間の静脈内注入として投与した。連続の血漿サンプルを、収集して、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA,Enzyme Research Laboratory,Cat♯:FX−EIA)を用いて解毒剤濃度について分析した。解毒剤の血漿濃度−時間のプロフィールは、2コンパートメントモデルで記述された。解毒剤の全身的クリアランスは、低く(1.65mL/分/kg)、分布の容積は小さい(0.27L/kg)。分布半減期は、19分であり、続いて10時間というかなり長い終末半減期が続く。抗凝血の即時的かつほぼ完全な逆転が患者で達成されなければならない場合、ラットの実験に基づいて(実施例18、19、20および22)、循環中のfXaインヒビター濃度に対するr−解毒剤濃度の比は、ほぼ2を標的とすべきと予想される。従って、fXaインヒビターの血漿濃度を超える解毒剤の血漿濃度を直ちに維持するためには、分布半減期は、過剰投与処置の間のヒトの用量選択に対して、終末半減期よりもかなり大きい影響を有すると予想される。
図33は、Sprague−Dawleyラットにおけるr−解毒剤の血漿濃度−時間のプロフィールを示す。
実施例24.アカゲザルにおけるr−解毒剤の薬物動態
2匹の動物に各々、10分間にわたって静脈内投与によって、10mgの解毒剤を投与した。T1/2の決定のためのクエン酸抗凝血処理血漿サンプルの分析は、クエン酸バリウム吸収で血漿サンプルを前処理して内因性のサルfXを除去した以外は、ラットの研究(実施例23)の方式と同様の方式で行った。クリアランスの血漿半減期(T1/2)は、約30分であった(図34、平均血漿解毒剤濃度)。
ELISA測定への干渉を減じるため、サル血漿から内因性のfXを除去するために、サル血漿サンプル(50uL)を、3.2%のクエン酸ナトリウム(5uL)と混合し、続いて1M BaCl2(5uL)を添加した。この混合物を、氷上で60分間保持し、微小遠心分離によって15分間13000rpmでの遠心分離によって清澄にした。上清(30uL)を20uLのTBS/EDTA緩衝液(20mMのTris/150mMのNaCl/50mMのEDTA、pH7.4)と混合した。これによって、出発血漿サンプルの1:2希釈で50μLの最終混合物を生じた。次いで、解毒剤濃度は、ラットの血漿についてと同じELISA手順で決定した(実施例23)。
図34は、アカゲザルにおけるr−解毒剤の血漿濃度−時間のプロフィールを示す。
実施例25.fXaインヒビターのr−解毒剤逆転についての予測されるヒト用量のモデリング
r−解毒剤のヒト治療用量を予測するために、WinNonlinソフトウェアプログラム,バージョン5.2を用いて一連のシミュレーションを行った。このシミュレーションに関連する前提は以下のとおりであった:
1.r−解毒剤の循環の予測半減期(1〜3時間)は、Sprague−Dawleyラットにおける薬物動態に基づいた(分布の容積、Vc=13ml(ラットで)、非比例的スケーリングによって、3033ml(ヒトで))(実施例23)。
2.20mgの投与後のリバロキサバンの血漿濃度を、文献の報告から外挿した(健康な高齢のボランティアにおける30mg用量,Kubitza D,Becka M,Roth A,Mueck W.Curr Med Res Opin.2008 Oct;24(10):2757−65.Epub 2008年8月19日)。リバロキサバン処置患者における過剰−抗凝血をシミュレートするために、r−解毒剤による逆転のため、2倍高い濃度を標的とした。
3.40mgおよび80mgの投与後のリバロキサバンの血漿濃度を、WO2008/073670(その全体が参照によって本明細書に援用される)およびTurpieら、Thromb Haemost.2009 Jan;101(1):68−76から外挿した。ベトリキサバン処置患者における過剰−抗凝血をシミュレートするために、r−解毒剤による逆転のために、5倍高い濃度を標的とした。
4.r−解毒剤は、リバロキサバンまたはベトリキサバンの最大血漿濃度(Cmax)で投与した。
5.r−解毒剤のレベルは、fXaインヒビターの濃度よりも1〜2倍高いモル濃度で短期間(1時間)または長期間(6時間)維持した。これは、fXaインヒビター抗凝血活性のほぼ完全な逆転を確実にするためであった。
6.r−解毒剤の薬物動態は、1コンパートメントオープンモデルに従った。
図35Aおよび図35Bは、r−解毒剤の投与によるリバロキサバン活性の中和のシミュレートされた時間経過プロフィールを示す。図35Aでは、20mgの用量のリバロキサバンは、400mgの用量のr−解毒剤(ボーラス投与)によって逆転されるが、一方で、r−解毒剤については3時間というT1/2が推測される。図35Bでは、20mgの用量のリバロキサバンは、900mgの用量のr−解毒剤(ボーラスに加えて6時間の注入)を用いて逆転されるが、一方で、r−解毒剤については1時間というT1/2が推測される。
表9〜12は、上述の予測に基づいた予測用量を示す。
実施例26.LMWヘパリンのr−解毒剤逆転についての予測されるヒト用量のモデリング
r−解毒剤のヒト治療用量を予測するために、以下の前提を用いて一連のシミュレーションを行った。
1.エノキサパリン処方情報によれば、皮下投与による1mg/kgのエノキサパリンで処置した不安定狭心症患者でのピーク抗fXa活性は、1.1U/mlに相当する。抗凝血の超治療(supratherapeutic)レベルを模倣するために、2〜4U/mlの範囲という循環中の抗fXa単位を逆転のため標的とした。
2.皮下投与によるエノキサパリンの平均の絶対バイオアベイラビリティーは、健常なヒトボランティアでは92%である。従って、ラット静脈内投与研究からの結果は、皮下投与によって得た結果と等価であると推測された。
3.LMWヘパリンの抗凝血効果を逆転するための予測ヒト用量は、ラットにおける有効用量から算出し、種の間の血液容積の相違について補正することによってヒトに対して拡大した(B.DaviesおよびT Morris、Pharm Res,10(7)、1993,1093〜1095頁)。
4.ラット血漿におけるLMWヘパリンについての抗−fXa単位の測定値は、ヒト血漿で測定されたものと等価であるとみなされた。
5.fXa阻害性活性の中和および止血能力の回復のためには、薬力学的マーカー(aPTTまたは抗fXa単位)の完全な逆転(すなわち、抗凝血の完全な逆転)が必要であった。
シミュレーションの結果、以下が示された:
A)エノキサパリンの治療レベルの活性の逆転のためのr−解毒剤の総用量は、500mg〜1gであった。
B)エノキサパリンの超治療(supratherapeutic)レベルの活性の逆転のためのr−解毒剤の総用量は、500mg〜2gであった。
図36Aおよび図36Bは、r−解毒剤によるベトリキサバン活性の中和のシミュレートされた時間経過のプロフィールを示す。図36Aでは、80mgの用量のベトリキサバンは、400mgの用量のr−解毒剤(ボーラス投与)によって逆転されるが、一方で、r−解毒剤については3時間というT1/2が推測される。図36Bでは、80mgの用量のベトリキサバンは、900mgの用量のr−解毒剤(ボーラスに加えて6時間の注入)を用いて逆転されるが、一方で、r−解毒剤については1時間というT1/2が推測される。
実施例27.r−解毒剤によるアカゲザルにおけるリバロキサバンの逆転
図37では、リバロキサバンによる抗凝血の逆転のr−解毒剤の効果は、4匹のアカゲザルからのクエン酸抗凝血処理した血漿中での試験に基づいて得られる。プロトロンビン時間は、実施例12のとおり測定した。リバロキサバンの添加(250nMまたは1uM)は、個々のサルのベースラインの凝固時間を超えるプロトロンビン時間(PT)の用量応答性の延長を生じた。250nMのリバロキサバンの追加によって、17.5±1.6秒というベースライン値から32.3±6.1秒(平均±標準偏差)までの延長が生じた。リバロキサバン処理した血漿サンプルに対するr−解毒剤の添加は、抗凝血効果を逆転し、ここでは244nMがPTを25±7秒に補正し、488nMがPTを19.9±1.9秒に補正した。ベースラインの血漿に対するr−解毒剤単独での添加は、PTを変化させなかった(17.7秒)。
実施例28.r−解毒剤によるラットにおけるエノキサパリンおよびフォンダパリヌクスに起因する失血の逆転
エノキサパリン抗凝血に起因する失血の逆転に対するr−解毒剤の効果を、Sprague−Dawleyラットで試験した。詳細には、止血の回復のためのラット尾切除失血モデルを使用した。エノキサパリンをIVボーラスで投与した(4.5mg/kg)。r−解毒剤は、2つの用量として投与した:1)2ミリグラムのボーラス、次いで2mg/時間の速度で、全部で15分間注入;および2)4ミリグラムのボーラス、次いで4mg/時間の速度で、全部で15分間注入。失血の逆転はまた、ビヒクルを用いて試験した。r−解毒剤のボーラス注射が完了した直後に、注入を開始して、ラットの尾の先端を手術用メスの刃で切除して、37℃の生理食塩水を含むバイアルに入れた。この尾を15分間放血させた。得られた血液の容積を、赤血球の溶解によって決定し、ヘモグロビン濃度を分光光度的に測定し、標準曲線に対する比較によって血液容積を見積もった。失血の減少は、r−解毒剤の血漿濃度(r=0.80)および抗−fXa単位の減少(r=0.89)の両方と相関していた。その結果を図38に示す(ADは、r−解毒剤を指す)。
同じモデルで、r−解毒剤は、フォンダパリヌクス(25mg/kg)投与に起因する失血の増大を完全に補正した。プロタミン(0.9mgのIVボーラスとして提供)は、補正活性を示すことはできなかった。r−解毒剤は、6mgのボーラスとして提供され、次いでさらに6g/hrが15分間、注入として与えられた。その結果を図39に示す。
図38および図39からわかるとおり、これらの結果によって、直接fXaインヒビターを中和することに加えて、r−解毒剤はまた、間接的fXaインヒビターも中和し得、両方の分類の薬物によって媒介される抗凝血の逆転により止血を回復する能力を有することが示される。
同じモデルで、エノキサパリンに起因する失血(4.5mg/kgのIVボーラスとして投与)は、r−解毒剤投与の2mgボーラス、続いて、2mg/hrの注入で42%まで軽減され、そしてr−解毒剤投与の4mgのボーラス、続いて4mg/hrの注入で完全に逆転された。これらの結果を図41に示す。
同じモデルでは、フォンダパリヌクス(25mg/kgのIVボーラスとして提供)に起因する失血は、r−解毒剤の投与の6mgのボーラス、続いて6mg/hrの注入によって完全に逆転された。対照的に、0.9mgのボーラスとして投与されたプロタミンは、失血を逆転しなかった。これらの結果を図43に示す。このデータは、ラットではヒトのほぼ200倍重量という前提に基づいて、ここで特許請求される本発明と一致する。
実施例29.血漿抗−fXa単位によって測定したボーラスのr−解毒剤投与後のエノキサパリンおよびフォンダパリヌクス誘発性の抗凝血の逆転
抗−fXa活性は、LMWH処理で得られ、臨床の結果と相関する抗凝血レベルを測定するために臨床で用いられている(Montalescotら、Circulation,2004,110(4):392−8)。
エノキサパリン−誘発性の抗凝血に対するr−解毒剤の効果を、血漿の抗−fXa活性のアッセイによって測定した。抗−fXa活性のアッセイは、抗fXa単位に関してLMWHの抗凝血活性を示す、修飾されたLMWHアッセイキット(Coamatic LMWH)に基づく。抗−fXa単位アッセイによって、fXa色素生産性基質(S2732)を用いて、血漿中の残留fXa(ウシfXa)活性を測定する。既知濃度のエノキサパリン標準(U/ml)を用いて、未知のサンプルにおける抗−fXa単位(U/ml)の測定のための標準曲線を作成した。
r−解毒剤は、1mg、2mgまたは4mgの用量でボーラスとして投与された。これらの結果を図40に示す。理解されるとおり、解毒剤は、エノキサパリン−誘発性の抗凝血を用量応答性の方式で逆転した。
同じモデルで、フォンダパリヌクスを、1mg/kgの用量(IVボーラス)で投与し、r−解毒剤(5分で4mgのボーラスで開始+4mg/hrの注入を実験の期間中)が続いた。図44に示すとおり、フォンダパリヌクスに起因する抗−fXa活性の増大は、r−解毒剤の投与によって急速にかつ実質的に逆転された。
フォンダパリヌクスの抗−fXa活性は、標準として既知濃度のフォンダパリヌクスを用いることによってμg/mlとして表された。標準としてエノキサパリンを用いて測定した場合、1μg/mlのフォンダパリヌクスは、ラット血漿における0.66U/mlのエノキサパリン、またはヒト血漿における0.80U/mlのエノキサパリンと等価であった。
実施例30.ラット尾切除モデルにおける失血、抗−fXa単位およびrfXa解毒剤の濃度の相関
図42a、図42b、および図42cは、ラット尾切除モデルにおける失血と抗fXa単位によって測定したエノキサパリン濃度との間の相関を示す(r=0.887)。抗−fXa単位およびrfXa解毒剤濃度は、15分の時点(尾の切除のすぐ前)で得られたレベルを示す。この結果によって、エノキサパリン濃度が1.5抗−fXa単位/mlを超えて増大するにつれ、失血の急な増大が示され、このモデルで達成される最大失血のプラトーは、正常なラット血液容積の約5%(15分という収集時間にわたって失われる)に相当している。より高用量のエノキサパリンを、最初のモデル開発実験の間に試験したが、より大きい失血は示されなかった。さらなる相関分析によって、失血とrfXa解毒剤濃度との間でr=0.887、および抗−fXa単位とrfXa解毒剤濃度との間でr=0.689が示された。
本発明を上記実施形態と併せて記載してきたが、前述の説明および実施例は、例示を意図するものであり、本発明の範囲を限定しないことが理解されるべきである。本発明の範囲内にある他の態様、利点および変更は、本発明が関連する当該技術分野の技術者に明らかであろう。

Claims (31)

  1. 薬学的に許容されるキャリア、および約10ミリグラム〜約2グラムの配列番号13のアミノ酸配列を含む2本鎖のポリペプチドまたは配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含む、単位用量処方物。
  2. 約100ミリグラム〜約1.5グラムの前記ポリペプチドを有する、請求項1に記載の単位用量処方物。
  3. 約200ミリグラム〜約1グラムの前記ポリペプチドを有する、請求項2に記載の単位用量処方物。
  4. 約400ミリグラム〜約900ミリグラムの前記ポリペプチドを有する、請求項3に記載の単位用量処方物。
  5. 前記ポリペプチドが、第Xa因子インヒビターを少なくとも約20%中和するのに有効である、前述の請求項のいずれかに記載の単位用量処方物。
  6. 前記インヒビターが、少なくとも約50%中和される、請求項5に記載の単位用量処方物。
  7. 前記インヒビターが、少なくとも約75%中和される、請求項6に記載の単位用量処方物。
  8. 前記インヒビターが、少なくとも約90%中和される、請求項7に記載の単位用量処方物。
  9. 前記インヒビターが、少なくとも約95%中和される、請求項8に記載の単位用量処方物。
  10. 前記第Xa因子インヒビターが、フォンダパリヌクス、イドラパリヌクス、ビオチン化イドラパリヌクス、エノキサパリン、フラグミン、NAP−5、rNAPc2、組織因子経路インヒビター、DX−9065a、YM−60828、YM−150、アピキサバン、リバロキサバン、TAK−442、PD−348292、オタミキサバン、エドキサバン、LY517717、GSK913893、ラザキサバン、低分子量ヘパリン、ベトリキサバンまたはそれらの薬学的に許容される塩、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項5に記載の単位用量処方物。
  11. 前記第Xa因子インヒビターが、ベトリキサバン、リバロキサバン、アピキサバン、低分子量ヘパリン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項10に記載の単位用量処方物。
  12. 前記第Xa因子インヒビターが、ベトリキサバン、リバロキサバン、アピキサバン、および低分子量ヘパリンからなる群より選択される、請求項11に記載の単位用量処方物。
  13. 第Xa因子インヒビターでの抗凝固療法を受けている被験体に対する投与のための単位用量処方物であって、該処方物は、薬学的に許容されるキャリア、および中和量の配列番号13のアミノ酸配列を含む2本鎖のポリペプチドまたは配列番号13に対して少なくとも80%の相同性を有するポリペプチドを含み、ここで、該中和量は、少なくとも約30分の期間にわたってポリペプチドの循環濃度/該第Xa因子インヒビターの循環濃度が少なくとも約1:1のモル比となる量である、単位用量処方物。
  14. 前記モル比が約1:1または約2:1または約4:1である、請求項13に記載の単位用量処方物。
  15. 前記キャリアが生理食塩水である、前述の請求項のいずれかに記載の単位用量処方物。
  16. 前記処方物が、1ミリリットルの生理食塩水あたり約0.2〜約10ミリグラムの濃度のポリペプチドを有する、請求項15に記載の単位用量処方物。
  17. 前記処方物が、1ミリリットルの生理食塩水あたり約2〜約6ミリグラムの濃度のポリペプチドを有する、請求項16に記載の単位用量処方物。
  18. 前記処方物が、1ミリリットルの生理食塩水あたり約2ミリグラムの濃度のポリペプチドを有する、請求項17に記載の単位用量処方物。
  19. 前記ポリペプチドが凍結乾燥されている、前述の請求項のいずれかに記載の単位用量処方物。
  20. 第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において外因性に投与された第Xa因子インヒビターを選択的に結合および阻害する方法であって、該被験体に対して請求項1〜19のいずれかに記載の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法。
  21. 第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている被験体において出血を予防、軽減または停止する方法であって、該被験体に対して請求項1〜19のいずれかに記載の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法。
  22. 第Xa因子インヒビターを用いた抗凝固療法を受けている患者においてfXaインヒビター依存性の薬力学的マーカーまたは代用のマーカーを補正するための方法であって、該被験体に対して請求項1〜19のいずれかに記載の単位用量処方物を投与する工程を包含する、方法。
  23. 前記薬力学的マーカーまたは代用のマーカーが、INR、PT、aPTT、ACT、抗fXa単位、およびトロンビン生成からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
  24. 前記補正が、少なくとも約20%または約50%または約75%または約90%または約95%である、請求項22または23に記載の方法。
  25. 前記単位用量処方物が、ボーラスによって静脈内に投与される、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
  26. 前記単位用量処方物が、注入として、またはボーラスに加えて注入の組み合わせとして投与される、請求項20〜24のいずれか1項に記載の方法。
  27. 前記処方物の約10〜約20%が、ボーラスとして投与され、かつ残りの処方物が、出血が実質的に停止されるまでの期間にわたって注入される、請求項26に記載の方法。
  28. 前記処方物が約6時間投与される、請求項26または27に記載の方法。
  29. 前記処方物が約6時間〜約12時間投与される、請求項26または27に記載の方法。
  30. 前記処方物が約12時間〜約24時間投与される、請求項26または27に記載の方法。
  31. 前記処方物が最大約48時間投与される、請求項26または27に記載の方法。
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